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【事件名】測量ソフト「おまかせ君プロ」事件 【年月日】平成23年5月26日 東京地裁 平成19年(ワ)第24698号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年2月25日) 判決 原告 株式会社シーエスエス技術開発 同訴訟代理人弁護士 島村和也 被告 株式会社YKSC 被告 株式会社ワイケイズコーポレーション 被告 A 上記被告3名訴訟代理人弁護士 大西洋一 同 村上雅彦 同 野中英樹 同訴訟復代理人弁護士 青山照雄 同 高田英治 同 久保和之 被告 B 主文 1 被告株式会社YKSC及び被告株式会社ワイケイズコーポレーションは、別紙被告製品目録記載のプログラムを製造し、使用し、又は譲渡してはならない。 2 被告株式会社YKSCは、別紙被告製品目録記載のプログラムの複製物(同プログラムを格納したCD−ROM等の記録媒体を含む。)を廃棄せよ。 3 被告株式会社YKSC、被告株式会社ワイケイズコーポレーション、被告A及び被告Bは、原告に対し、連帯して、3227万3664円及び内金983万3716円に対する平成19年10月6日から、内金998万3927円に対する平成21年3月7日から、内金509万2587円に対する平成21年8月31日から、内金736万3434円に対する平成23年2月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理 由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 被告株式会社YKSC(以下「被告YKSC社」という。)及び被告株式会社ワイケイズコーポレーション(以下「被告ワイケイズ社」という。)は、別紙被告製品目録記載のプログラムの複製物(同プログラムを格納したCD−ROM等の記録媒体を含む。)を廃棄せよ。 3 被告YKSC社、被告ワイケイズ社、被告A(以下「被告A」という。)及び被告B(以下「被告B」という。また、被告4名を総称して「被告ら」という。)は、原告に対し、連帯して、6000万円及び内金3000万円に対する平成19年10月6日から、内金3000万円に対する平成21年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、「おまかせ君プロVer.2.5」という名称の測量業務用のソフトウェア(以下「原告ソフト」という。)を製造し、これを使用して測量業務等を行っている原告が、別紙被告製品目録記載のソフトウェア(以下「被告ソフト」という。)を製造し、これを使用して測量業務等を行っている被告YKSC社、同社の関連会社である被告ワイケイズ社、被告YKSC社の代表取締役である被告A、及び原告の元従業員で被告YKSC社の従業員である被告Bに対し、被告ソフトに係るプログラム(以下「被告プログラム」という。)は、原告ソフトに係るプログラム(以下「原告プログラム」という。)の著作物を複製又は翻案したものであるから、共同して被告ソフトを製造し、これを複製、使用、譲渡する被告らの行為は原告の原告プログラムについての著作権(複製権又は翻案権)を侵害する旨主張し、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社に対し、著作権法112条1項に基づく被告プログラムの製造等の差止め及び同条2項に基づく被告プログラムの複製物等の廃棄を求めるとともに、被告らに対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として、6000万円及び内金3000万円に対する平成19年10月6日(訴状送達の日の翌日)から、内金3000万円に対する平成21年3月7日(訴え変更の申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いのない事実である。) (1) 当事者 ア 原告 原告は、昭和61年1月25日に設立された、測量ソフトウェアの販売及び賃貸、測量請負、測量機器販売、測量機器の賃貸等を行う会社である。 イ 被告ら (ア) 被告YKSC社は、平成18年3月24日に有限会社YKSCとして設立され、同年7月18日に現商号に商号変更された、測量業等を目的とする会社である。 (イ) 被告ワイケイズ社は、平成5年12月9日に設立された、土木、建築工事の請負等を行う会社である。 (ウ) 被告Aは、被告YKSC社の代表取締役及び被告ワイケイズ社の取締役である。また、被告Aは、平成15年9月30日以前から平成20年6月1日までの間は、被告ワイケイズ社の代表取締役を務めていた(甲5、弁論の全趣旨)。 (エ) 被告Bは、原告の元従業員であり、平成12年4月1日に原告に入社し、平成17年5月31日に原告を退職した。被告Bは、平成18年4月1日、被告YKSC社に入社した(乙7)。 (2) 原告ソフトの製造及び使用 原告は、平成17年5月ころから、原告において製造した原告ソフトの販売を開始した。また、原告は、原告ソフトを使用して測量業務を行ったり、原告ソフトをインストールした測量用機器を賃貸するなどの業務を行っている(甲9、31)。 (3) 被告ソフトの製造及び使用 被告YKSC社は、平成18年3月24日に同社が設立された当初から、同社において製造した被告ソフトを使用した測量業務や、被告ソフトのリース業務等を行った。 2 争点 (1) 原告プログラムは、創作性を有するか(争点1) (2) 原告プログラムは職務著作か(争点2) (3) 被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものか(争点3) (4) 被告らの共同不法行為の成否(争点4) (5) 原告の損害(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(原告プログラムは、創作性を有するか)について [原告の主張] ア 原告ソフトを利用して行う測量業務の基本構造 (ア) 光波及びプリズムを利用した測量 測量は、X軸、Y軸、Z軸から構成される立体空間内に、X、Y、Zの値から構成される座標を設定し、その座標相互の関係を、現場から設計図や現況図等の図面へと反映させる、又は、設計図や現況図等の図面から現場へと反映させる作業である。 実際の測量に当たっては、基本的な機器として、「光波」という機器及び「プリズム」という機器が使用される。すなわち、まず、測量現場に光波を設置した上で、基準点(通常は、工事期間中に変動しない位置が基準点として設定される。)を設定して固定し、現場の座標空間を確定させる。その上で、移動することが可能なプリズムを使用し、光波からプリズムへ発せられる光が戻ってくるまでの時間等を計測することにより、光波からプリズムまでの水平角、高度角、距離を計算する。そして、光波とプリズムとの位置関係を水平角、高度角、距離によって表現した情報をパソコン等に取り込んで、座標情報に変換する。その上で、実際に工事を行うに当たっては、プリズムを移動させながら光波との位置関係を座標情報として把握しつつ、工事を行うために必要な地点に目印(丁張や杭)を設置していく。 もっとも、設計図には座標情報が記載されているわけではなく、道路、構築物、建物等を構成する直線・曲線の情報が把握できるだけである。そのため、工事に当たっては、設計図から読み取ることのできる3次元の直線ないし曲線を現場に反映させるために必要な点の座標の測量や、計算を行う必要がある。 (イ) 原告ソフトを利用した場合の基本的な測量業務の構造 原告ソフトを利用する場合、まず、原告ソフトを使用して、工事期間中に移動しない構造物等に基づき2つの基準点を設定し、現場の座標空間を設定する。その上で、光波を設置した場所についても、座標情報として把握する。そのため、光波を任意の位置に設置することができ、光波を随時移動させながら測量することが可能となる。 さらに、現場に設置された座標空間内に、設計図に記載された直線や曲線を設置するための工事の目印となる点の座標を算出するとともに、設計図にない部分についても、既知の座標情報から必要な計算を行うことで、工事を行うために必要な座標情報を算出することができる。 加えて、作業員が所持するプリズムと光波との水平角、高度角、距離に基づいて、プリズム(作業員の現在地)の座標情報を取得する。原告ソフトは、この作業員の現在地の座標情報と工事のための目印を設置すべき座標情報を一致させるために、どのように作業員が移動すればよいかを表示し、誘導する。 (ウ) 以上のとおり、原告ソフトは、現場に座標空間を設定した後は、光波の座標情報の取得、プリズムの座標情報の取得、工事において目印となる点を設置すべき座標情報の測量と計算、取得された座標情報に基づく作業員に対する現在地から目的地への移動指示等を主要な要素として機能する。 イ 原告プログラムの全体像 (ア) 原告プログラムは、別紙「原告プログラムのソースコード一覧表」(以下「原告プログラム一覧表」という。)記載のとおり、合計39個のソースコード(ソースファイル。以下、上記一覧表記載の「No.」に従い、「原告ファイル1」などという。)から構成されている。 これらのファイルは、原告プログラム一覧表の「概要」欄に記載のとおり、そのソースコードの性質に応じて、【設定管理】、【移動指示】、【データ管理】、【測量及び座標計算】、【共通処理】、【不使用】の6種類に分類され、【測量及び座標計算】に分類されるファイルは、さらに、【座標取得】、【測量計算】、【座標計算】の3種類に分類される。 これらの分類項目の具体的な内容は、次のとおりである。 【設定管理】 メインメニューの表示・管理や、原告ソフトと光波などの機器の接続・設定等の機能を管理するためのソースコード 【移動指示】 取得された座標情報や現在地から目的地までの座標の差異の情報を、作業員に理解しやすい情報に変換し、誘導するためのソースコード 【データ管理】 データベースに記録された座標情報や測量情報の編集・管理を行うソースコード 【測量及び座標計算】 測量や計算により座標情報を取得したり、座標情報に基づき計算をしたりするためのソースコード 【座標取得】 【測量及び座標計算】のうち、光波やプリズムといった機器の位置を測量し、その座標情報を取得するためのソースコード 【測量計算】 【測量及び座標計算】のうち、設計図を工事現場に反映させるために必要な点の座標を計算するとともに、現在地と目的地の座標の差異情報を計算し、設計図を工事現場に反映させるための目印を設置すべき場所を確定させる位置出しのための機能を有するソースコード(工事の際に実際に位置出しを行う頻度が高いものについて、同時にプリズムの現在地の座標を取得して、目的地との座標情報の差異を取得する機能を付加している。) 【座標計算】 【測量及び座標計算】のうち、既知の座標情報等に基づき、新たな座標情報等の計算を行うためのソースコード 【共通処理】 すべての個別ソースコードに対し、共通に使用される部分をサブルーチン化したソースコード 【不使用】 ファイル自体は存在するが、開発中又はテスト用のもの、製品化の段階で除外されたものなど、実際には使用していないソースコード (イ) 原告プログラム一覧表記記載の39個のファイルのうち、原告プログラムにおいて実際に使用されているものは、原告ファイル34ないし37(同表の「概要」欄に【不使用】と記載されたもの)を除く35個のファイルである。 原告プログラムにおいて現に使用されているファイルの全体像を概念図で示すと、別紙「原告プログラムの概念図」(以下「原告プログラム概念図」という。)のとおりとなる。 ウ 原告プログラムの創作性 原告プログラムは、上記イのとおり、合計39個のファイルから構成され、そのうち35個のファイルが実際に使用されている。そして、これら35個のファイルは、後記(3)[原告の主張]のとおり、被告プログラムにおいて、原告プログラムと実質的同一性ないし類似性を有する形式で利用されている。 これら35個のファイルによって構成される原告プログラムには、創作性が認められ、著作権法上の著作物に該当する。その理由は、次のとおりである。 (ア) ソフトウェアのプログラムが、著作物として著作権法上の保護を受けるためには、そのプログラムの具体的表現において作成者の個性が表現されていることが必要である。 (イ) 原告プログラムは、上記イのとおり、測量業務を実際に行う際に必要かつ便宜な機能を抽出・分類し、これらを、個別処理用のソースコードとして、ファイル形式で区分して集約し、各ファイルを相互に関連付けることによって作成されたものである。 測量業務を行うためのソフトウェアのプログラムを作成するという命題が与えられた場合、測量業務に必要かつ便宜な機能を具体的にどのようにして抽出・分類し、それをどのように相互に組み合わせるかということは、極めて広い選択の幅の中で、プログラムの作成者の判断による取捨選択を経て行われるものである。 したがって、この点について、原告プログラムの作成者の個性が表現されている。 (ウ) 原告プログラムは、測量業務に必要かつ便宜な機能を抽出・分類し、これらをファイル形式で区分して集約して、相互に組み合わせただけではなく、個別のファイルに含まれる機能の中から、共通化できる部分を抽出・分類し、これをサブルーチン化して、共通処理のためのソースコード(原告ファイル33)を作成している。 測量用のプログラムという機能を達成するためには、単純に、機能ごとに処理式を表現すれば足りるにもかかわらず、原告プログラムは、上記のとおり、共通化することができる部分を選択し、これらを抽出して1つのファイルにまとめている。 何を共通化して表現するかということは、プログラムの作成者により差異が生じる部分であるから、この点にも、原告プログラムの作成者の個性が表現されている。 (エ) 原告プログラムにおいて実際に使用されている35個のファイルの中には、合計で数百個を超えるブロックが設けられ、これらのブロックの中には、合計で数千行を超えるプログラムのソースコードが含まれている。 しかしながら、上記の各ファイルに求められる機能を有するプログラムを作成する場合に、常に原告プログラムのようなブロックや行の組合せとなるわけではない。 したがって、各ファイルの中にどのようなブロックを設け、プログラム内のソースコードをどのように記載するか、また、各ブロックをどのように組み合わせるか、という点にも、原告プログラムの作成者の個性が表れている。 [被告らの主張] ア 被告Bは、原告プログラムを作成するに当たって、「ル・クローンmobile」(以下「ル・クローン」という。)という業務アプリケーション開発ソフトを利用した。 ル・クローンは、携帯端末用のアプリケーション開発を行うソフトであり、画面の指示に従ってフォームの設定を行いながら、必要に応じてコードの記述を追加することによってプログラムを作成していくものである。 そのため、ソフトウェア作成に関する一般的な事項については、あらかじめル・クローンに設定されている定型的なプログラムが自動的に記述される。また、ル・クローンでは、ルクローン言語と呼ばれるプログラム言語が使用されるところ、ルクローン言語は、C言語を簡略化したプログラム言語であり、複雑な記述にはなりにくい。 さらに、原告プログラムは、測量ソフトのプログラムであり、測量とは、その手法がほぼ確立されており、一定の順序で一定の公式に数値を代入することにより計算されるものである(甲12、13)。そのため、測量ソフトのプログラムは、ゲームソフトなどとは異なり、プログラム内の公式の表現やその記載順序などの具体的記述は、より制限される性質のものであり、誰が作っても似通った表現になる。原告プログラムは、被告Bが、「測量計算の基礎演習」(乙12)という本を参考にしながら、測量の基礎的な計算を元に、現実の丁張作業の手順に沿って公式の組み合わせを記述したものであり、上記制約を超えて個性的な記述をしたものではない。 原告プログラムは、以上のとおり、多くの制約がある中で記述され、作成者である被告Bの個性が表現される余地はなかったものである。したがって、原告プログラムに創作性はない。 イ 原告は、原告プログラムにおいて、測量業務を実際に行う際に必要かつ便宜な機能を抽出・分類し、個別処理用のソースコードとしてファイル形式で区分して集約し、これを相互に関連付けた点や、個別処理用のソースコードの共通部分を抽出し、サブルーチン化して共通処理用のファイルにまとめた点などに、作成者の個性が表現されていると主張する。しかしながら、これらは、具体的な表現の前提となるアイデアの部分であるから、「解法」(著作権法10条3項3号)に当たり、著作権法上保護されるものではない。 また、原告プログラム中の各ファイルに設けられたブロック内の記述も、記述の内容を個別にみると、その大半は、プログラムの文法上の制約によりそのような記述とせざるを得ないもの、ないし一般的、基本的な記述であり、記述の流れ(処理の流れ)も、単純なものであって、創作性は認められない。 (2) 争点2(原告プログラムは職務著作か)について [原告の主張] ア 原告プログラムは、次のとおり、法人である原告の発意に基づき、当時原告の従業員としてソフトウェアのプログラムの開発業務に従事していた被告Bが、その職務として作成したものである。 (ア) 原告プログラムは、原告が以前に開発、製造した、「おまかせ君」、「べんり屋さん」、「スーパーおまかせ君プロ」などの測量業務用ソフトウェアのバージョンアップ版であり、原告が昭和61年にはその機能の大部分を完成させていたものである。 (イ) 被告Bは、平成12年4月1日、原告に入社し、教育研修を受けながら測量業務を行うとともに、原告の内勤担当業務として、ソフトウェアのプログラムのチェック・修正業務、顧客相談窓口業務、ソフトウェアのプログラム作成業務などを担当し、平成14年10月31日以降は、原告のソフト開発部長として、ソフトウェア開発業務に従事した。 (ウ) 原告は、平成15年7月以降、被告Bに対し、その職務として、原告ソフトの前バージョンである「おまかせ君プロVer.2.0」(以下「旧原告ソフト」という。)の開発業務を行わせ、平成16年6月以降は、原告ソフトの開発を行わせた。 (エ) 被告Bは、平成17年5月ころ、原告ソフトを完成した。 イ 原告は、原告プログラムが作成された当時、原告の職務上作成されるプログラムの著作物に関し、契約や就業規則上、別段の定めを設けていなかった。 ウ したがって、原告プログラムは、原告の職務著作物(著作権法15条2項)である。 [被告らの主張] 被告Bは、同人が原告に在職していた間に、原告ソフト及び旧原告ソフトを開発した。 しかしながら、これらのソフトは、次のとおり、被告Bが原告の業務に従事する者として職務上作成したものではない。これらのソフトに係るプログラムの著作者は、被告Bである。 ア 被告Bは、ソフトウェアの開発担当者として原告に雇用されたものではなく、原告に入社後も、ソフトウェアの開発担当者としての特殊な教育を受けてはいない。ソフトウェアの開発に必要な技術は、被告Bが独学で習得したものである。 イ 被告Bは、原告ソフト及び旧原告ソフトの開発を行っていた当時、原告において、測量業務や顧客サポート業務に専従していた。これらのソフトウェアの開発業務は、被告Bが、深夜や休日など、通常業務の枠を超えた時間で行ったものである。 ウ 被告Bは、上記のような経緯で同人が原告ソフト及び旧原告ソフトを開発したため、これらのソフトウェアの著作権は当然に被告Bに帰属するものと考えていた。そこで、被告Bは、原告ソフトのソースコードに、「制作/著作 B おまかせ君プロVer2.0〜」と記載したほか(甲28の17・2頁)、原告ソフトの利用者が同ソフトのメイン画面の下部の「CSS OmakasekunProVer2.50」という表示部分に触れると、「おまかせ君プロVer2.0〜制作/著作 B」という表示がされるようにした(乙5)。原告は、これらの事実を認識していたにもかかわらず、上記記載を削除していない。 また、被告Bは、原告から、給料の他に、原告ソフトの売上げ個数に応じた金員を半年に一度受領していた。 これらの事実は、原告が原告ソフトの著作権は被告Bに帰属すると認めていたことを裏付けるものである。 [被告らの主張に対する原告の反論] ア 被告Bは、原告の職務として原告ソフトを作成したものであること被告Bは、原告の通常業務時間内に、原告の職務として、原告ソフト及び旧原告ソフトの開発業務を行っていたものであり、これらのソフトの開発は、原告の計画及び管理の下に実施されていた。 このことは、これらのソフトウェアの設計計画書(甲41、45)の記載内容や、被告Bの業務日報(甲36)上、同人が旧原告ソフトの開発に従事するようになった平成15年7月以後、測量現場業務が激減し、「担当の仕事」(原告のソフトウェアのプログラムのチェック・修正作業、顧客相談窓口業務、原告のソフトウェアのプログラムの作成業務)が激増していることなどから、明らかである。 イ 原告は、原告プログラムに「制作/著作 B おまかせ君プロ Ver2.0〜」という記載がされたことを認識していなかったこと 原告は、被告Bが原告ソフト及び旧原告ソフトの開発に当たっていた当時、ソフトウェアの開発の実務を被告Bに任せており、被告Bがプログラムした内容を他の従業員が詳細に再チェックすることはなかった。被告Bは、原告に無断で、原告ソフトの画面の一部の文字に触れると「制作・著作/B」という文字が表示されるようにプログラムを作成したものであり、原告がこれを承認した事実はない。 被告Bは、原告ソフトの著作権が被告Bに帰属することを原告が承認するはずがないと考えていたからこそ、原告に気付かれにくいよう、測量業務の際に全く触れる必要がなく、外見上も利用者が触れることが予定されていない、「CSS Omakasekun Pro Ver 2.50」という部分に、そこに触れると、「制作/著作 B」という文字が表示されるようにプログラムしたものである。 ウ 原告が被告Bに対して半年に一度支給していた金員は、従業員に対する賞与であること 原告は、従業員に対する報酬として、実績に連動した年俸制的な考え方を採用し、月額の給与及び固定賞与に加え、実績に連動した年俸見込額との差額を特別賞与として支給している。そして、測量現場で実際に測量業務を行う従業員に対しては、現場1件当たりの成果報酬的な考え方に基づき実績を算定している。 他方、被告Bは、ソフトウェアの開発を担当しており、特に、同人が本格的にソフトウェアの開発業務に従事するようになって以後は、現場1件当たりの成果報酬的な基準だけでは、業績評価として公平といえなくなりつつあった。 そこで、原告は、被告Bについては、現場1件当たりの成果報酬的な基準に代え、原告のソフトウェアをインストールした機器の販売台数等に連動する成果報酬的な基準で実績を算定し、これに基づき、「ソフト営業販売」、「特別賞与」等の名称を用いて、賞与を支給した(甲47の1〜8)。 以上のとおり、これらの金員は、被告Bの従業員としての業績評価に基づき、原告から被告Bに対して支給された賞与である。 (3) 争点3(被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものか)について [原告の主張] ア 原告プログラムは、前記(1)[原告の主張]のとおり、原告プログラム一覧表記載の合計39個のファイルから構成され、そのうち35個のファイル(原告ファイル1〜33、38、39)が実際に使用されている。 イ これに対し、被告プログラムは、別紙「原告プログラム・被告プログラム対比表」(以下「両プログラム対比表」という。)記載のとおり、合計38個のファイル(以下、上記対比表記載の「被告プログラムのソースコード」欄記載の「No.」に従い、「被告ファイル1」などという。)から構成されている。 ウ これら38個のファイルのうち、被告ファイル37及び38を除く合計36個のファイルは、両プログラム対比表記載のとおり、原告プログラムにおいて実際に使用されている35個のファイルと、ほぼ1対1で対応している。したがって、被告プログラムのソースコードは、プログラムの構成、内容、機能の組合せという基本的構造において、原告プログラムのソースコードと実質的に同一ないし類似している。なお、被告ファイル37及び38は、原告プログラムにおいて実際に使用されているソースコードと対応していない。しかしながら、被告ファイル37は、原告ソフトにおいて手動で調整して使用していた部分をプログラム化したものであり、被告ファイル38は、原告ソフトにおいて使用頻度が低いために不使用とされたファイル(原告ファイル35)に手を加えて使用しているものにすぎない。 また、上記36個の被告ファイル(被告ファイル1〜36)のソースコードと、上記35個の原告ファイル(原告ファイル1〜33、38、39)のソースコードは、プログラムのブロック、メインルーチン、サブルーチン、文法単位で、ほぼ1対1の対応関係が認められ、プログラムの具体的記述の表現のほぼすべてにおいて、実質的同一性ないし類似性が認められる(甲54、甲55の1〜33、甲56の1〜33、甲67、甲68の1〜3、甲69の1〜3、甲72)。すなわち、原告ファイルとそれに対応する被告ファイルとを比較すると、ソースコードの記載が全く同一であるもの(甲55号証、56号証、68号証及び69号証(いずれも、枝番号を含む。)中の黄色のマーカーが塗られた部分。以下「黄色マーカー部分」という。)、又は、実質的に同一であるもの(会社名の置換え、変数名、フォーム名等、プログラムとして機能する上で、その名称の違いに意味のない違いであり、これらの違いがプログラムの表現として実質的な意味を持たないもの。甲55号証、56号証、68号証及び69号証(いずれも、枝番号を含む。)中の緑色のマーカーが塗られた部分。以下「緑色マーカー部分」という。)が大半を占めており、その割合は、全体の90%を下ることはない。 エ 以上のとおり、被告プログラムと原告プログラムは、原告プログラムの作成者の個性が表現された部分について、実質的同一性ないし類似性が認められる。 また、被告ソフトの開発者である被告Bは、原告において原告ソフトの開発業務に従事していた者であり、原告を退職する際、原告プログラムを複製して持ち出し、これを使用して被告プログラムを開発した。 したがって、被告プログラムは、原告プログラムに依拠して、「その内容及び形態を覚知させるに足りるものを再製した」(複製)、又は、「その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作した」(翻案)ものである。 [被告らの主張] ア 原告プログラム及び被告プログラムにおいて黄色マーカー部分が同一の記載であることは、認める。 しかしながら、黄色マーカー部分は、同一の記載であるといっても、ブロック内の一部であるし、後記ウのとおり、それぞれの記述は、プログラム内での位置も異なる。また、その表現も、当該記述自体が細分化されすぎていたり、単純な記述であったり、文法上の制約があったりなどするため、創作性を有する個性的なものではない。 したがって、同一の部分があるといっても、そのことに特別の意味はない。 イ 原告プログラム及び被告プログラムにおいて緑色マーカー部分が実質的に同一であるとの主張は、否認する。 両プログラムにおいて緑色マーカー部分が同一の働きをするものだとしても、プログラム作成者が変数名やフォーム名等に異なった表現を用いている以上、それは異なる表現であるとすべきである。 ウ 被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したものであるとの主張は、否認ないし争う。その理由は、次のとおりである。 (ア) 記載順序、構成の相違 両プログラム対比表記載の各ファイル内におけるブロックの記載順序及び各ブロック中の記述の順序を比較すると、両者の記載は、同一ではない。著作権法は表現を保護するものであるから、同一性の対比も、あくまで表現レベルで行うべきであり、実際に同じ役割を果たす部分であっても、記載順序を無視して検討すべきではない。 また、被告ファイルにのみ存在するブロックや、原告ファイルにのみ存在するブロックも、複数存在する。 したがって、原告プログラムと被告プログラムを全体として比較すると、両者に同一性を認めることはできない。 (イ) ソースコード内のコメントの存在 被告プログラムには、原告プログラムには存在しないコメント(注釈文)が多数存在する(例えば、甲55号証の1のAの「//msgbox(“とりあえずできてるよ”、”該KSC“、0)」など)。 上記コメントは、この記述の前後の処理がうまく実行できないために、一時的にメッセージボックスを表示してプログラムのテストを行い、正常な動作が確認できた後に、行頭に「//」を入れることで実行されないようにした痕跡である。被告プログラムの開発当時、この部分が正常に動作しない時期があったために、テストを行うために発生した記述である。このようなコメントの部分は、プログラムの技術的性格とは無関係な部分であり、この部分にこそ、試行錯誤を繰り返した痕跡等、プログラムを記述した当時の開発者の特性が表れる。 これらの記述は、プログラムの動作には関連しない記述であるものの、 著作権法が表現を保護するものである以上、このような記述であっても、プログラムの中に記述され表現されているものとして、それらも含めて対比を行うべきである。 (ウ) 被告プログラムは、原告プログラムに依拠していないこと 被告プログラムと原告プログラムを比較すると、上記(ア)、(イ)及びイのとおり、コメントの有無、ブロックないしブロック内の記述の記載順序、変数名、フォーム名等について、多数の相違箇所がある。被告プログラムが原告プログラムに依拠しているのであれば、このような箇所で相違が発生するはずはない。 したがって、上記事実は、被告プログラムが原告プログラムに依拠していないことを示すものである。 [被告らの主張に対する原告の反論] ア 記載順序、構成の相違について プログラムのソースコードの記述は、小説などのように人間が冒頭から読むためのものではなく、あくまで、電子計算機が必要な機能を呼び出すためのものであり、記述の順序が異なることは、電子計算機によるプログラムの呼出し処理に影響を与えるものではない(例えば、機能A、B、C、D、Eがあるとして、その記述の順番が、@A、AB、BC、CD、DEであろうが、@B、AD、BA、CE、DCであろうが、Eのプログラムを呼び出すという指令を出せば、記述の順序にかかわらずEが呼び出される。)。 プログラムのソースコードの上記のような特性からすれば、記述の実質的同一性の判断を行う際には、記述の順序を考慮する必要はなく、同じ機能を有するブロックごとに対比して判断すべきである。 イ ソースコード内のコメントについて ソースコード内のコメントは、プログラムの動作に影響を与えない部分であり、プログラムのソースコードの実質的同一性の判断に当たって過度に重視すべきではない。仮に、このようなコメント部分を相違点として認めた場合、他のプログラムを複製した上で、プログラムに影響のないコメントを多量に記入するという無意味な作業を加えることで、プログラムの同一性が失われることになりかねず、失当である。 実質的同一性は、プログラムのソースコードのうち、プログラムに対する指令として意味のある部分を基準として判断されるべきである。 ウ 被告プログラムは、原告プログラムに依拠していること 著作権侵害の有無は、電磁的なコピー処理を経て作成されたか否かという問題ではない。電磁的なコピー処理を経ない場合でも、閲覧、参照又は記憶によってアクセスしたものに依拠して、実質的同一性の認められるものを作成すれば、「複製」に当たり、それに創意工夫を加えても、元のものを覚知させるものであれば、「翻案」に当たる。 被告プログラムが、原告プログラムの作成者の個性が表現された部分について、原告プログラムとの間に実質的同一性ないし類似性が認められ、原告プログラムの「複製」ないし「翻案」に当たることについては、前記[原告の主張]のとおりである。 (4) 争点4(被告らの共同不法行為の成否)について [原告の主張] ア 被告ソフトが開発されるまでの経緯 (ア) 被告ワイケイズ社は、平成13年から平成16年ころまでの間、原告から、原告のソフトウェアをインストールした機器の貸与を受けていた。 (イ) 被告ワイケイズ社及び当時の同社の代表取締役であった被告Aは、平成16年の秋ころ、当時、原告におけるソフトウェアの開発担当者であり、ソフトウェアの使用方法等の相談窓口の担当者でもあった被告Bを通して、原告に対し、九州地区において原告のフランチャイズに加盟したい旨を申し出た。 被告ワイケイズ社及び被告Aは、上記交渉の過程で、原告に対し、原告に対して支払うロイヤリティーの減額や、原告のソフトウェアの買取りを求めるなどした。 しかしながら、原告は、これらの申出に応じず、原告と被告ワイケイズ社との交渉は、平成17年4月以後、途絶した。 (ウ) 被告Bは、平成17年4月30日、原告に対して退職を申し出、同年5月31日付けで原告を退職するとともに、原告プログラムを複製して持ち出し、同プログラムを被告ワイケイズ社及び被告Aに開示した。 (エ) 被告ワイケイズ社は、被告Bの参加を受けて、被告ソフトを製造するとともに、平成17年6月に測量業務を開始し、同年7月1日には測量解析部を発足させ、さらに、平成18年3月24日、測量解析部門を分社化し、被告YKSC社を設立した。 (オ) 被告Bは、被告YKSC社に就職し、被告YKSC社に対しても、被告ワイケイズ社を通して、又は自ら原告プログラムを開示し、同プログラムを複製させた。 (カ) 被告ワイケイズ社は、その後も、被告ソフトを使用して測量業務を実施し、被告YKSC社と一体となってワイケイズグループとして活動し、被告ソフトを使用して測量業務を実施した。 イ 被告らの共同不法行為 上記事実関係によれば、被告ワイケイズ社及び被告YKSC社が、被告Bと通謀して原告プログラムを不正に取得、複製し、被告プログラムとして流用するなどして使用したことは明らかである。 また、被告Aは、被告ワイケイズ社の代表者として、被告Bから開示を受けた原告プログラムを不正に複製し使用するなどの被告ワイケイズ社の行為を代表者として行い、さらに、被告YKSC社を設立した上で、被告YKSC社の代表者として、被告YKSC社をして被告ソフトを製造、使用させ、原告プログラムに係る原告の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害した。被告ワイケイズ社及び被告YKSC社の上記行為は、法人としての行為であると同時に、その代表者である被告Aの行為でもある。被告Aは、上記アのとおり、個人として主体的に、被告Bと意思を通じて、原告プログラムの著作権の侵害に関わっている。 したがって、原告に対する不法行為について、被告ワイケイズ社、被告YKSC社、被告B及び被告Aとの間に、連帯関係が認られる。 [被告らの主張] 原告の主張を否認ないし争う。 被告ソフトは、被告Bが、平成17年9月ころ、被告Aのアイデアなどを取り入れながら個人で開発したものである。 また、仮に、被告YKSC社において被告ソフトを使用することが原告プログラムに係る原告の著作権を侵害するものだとしても、被告ワイケイズ社、被告A及び被告Bが、被告YKSC社と共同で不法行為責任を負う根拠はない。 (5) 争点5(原告の損害)について [原告の主張] ア 被告YKSC社の利益について 被告YKSC社は、平成17年7月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時(平成23年2月25日)までの間に、被告ソフトを使用することにより、次のとおり、少なくとも3億7459万2516円の利益を得た。したがって、被告YKSC社が被告ソフトを使用することによって原告の被った損害額は、上記金額を下回らないと推定される(著作権法114条2項)。 (ア) 被告YKSC社の設立から平成21年8月31日までの被告YKSC社の利益 被告YKSC社は、被告ワイケイズ社の測量解析部を分社化することにより設立された、被告ソフトを使用する測量サービス業務を行うための会社である。したがって、被告YKSC社の売上高は、すべて被告ソフトを使用した測量サービス業務の売上げによるものであり、同社の設立(平成18年3月24日)から平成21年8月31日までの利益は、以下のとおり、合計2億8531万2676円を下らない。 a 第1期(平成18年8月31日終了事業年度)の利益 被告YKSC社の決算書(乙11の1)によれば、同社の第1期の売上高は、2013万8050円である。これに対し、変動経費として売上高合計から控除すべき費用は、材料費合計155万0200円、製造経費のうちの外注加工費106万7746円及び旅費交通費4万6950円であり、その合計額は266万4896円である。 したがって、同期における被告YKSC社の限界利益は、1747万3154円である。 b 第2期(平成19年8月31日終了事業年度)の利益 被告YKSC社の決算書(乙11の4)によれば、同社の第2期の売上高は、1億2148万4073円である。これに対し、変動経費として売上高合計から控除すべき費用は、材料費合計930万8791円、製造経費のうちの外注加工費3194万0067円及び旅費交通費241万0843円であり、その合計額は4365万9701円である。 したがって、同期における被告YKSC社の限界利益は、7782万4372円である。 c 第3期(平成20年8月31日終了事業年度)の利益 被告YKSC社の決算書(乙11の3)によれば、同社の第3期の売上高は、1億3788万5662円である。これに対し、変動経費として売上高合計から控除すべき費用は、材料費合計457万6697円、製造経費のうちの外注加工費4177万6380円及び旅費交通費271万9479円であり、その合計額は4907万2556円である。 したがって、同期における被告YKSC社の限界利益は、8881万3106円である。 d 第4期(平成21年8月31日終了事業年度)の利益 被告YKSC社の決算書(乙11の5)によれば、同社の第4期の売上高は、1億4192万3599円である。これに対し、変動経費として売上高合計から控除すべき費用は、材料費合計1820万9643円、製造経費のうちの外注加工費1930万8519円及び旅費交通費320万3393円であり、その合計額は4072万1555円である。 したがって、同期における被告YKSC社の限界利益は、1億0120万2044円である。 (イ) 被告YKSC社の平成21年9月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時までの利益 上記(ア)bないしdのとおり、被告YKSC社における平成18年9月1日から平成21年8月31日までの3年間の売上高は、合計4億0129万3334円であり(乙11の3〜5)、1年当たりの平均売上高は、1億3376万4444円である。また、同期間における被告YKSC社の限界利益は、合計2億6783万9522円であり、1年当たりの平均限界利益は、8927万9840円である。 したがって、被告YKSC社が、平成21年9月1日から本件口頭弁論終結時(平成23年2月25日)までの間に被告ソフトを使用して得た利益は、上記期間における同社の限界利益の平均額である8927万9840円を下らない。 イ 被告ワイケイズ社の利益について 被告ワイケイズ社は、平成17年7月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時までの間に、被告ソフトを使用することにより、次のとおり、少なくとも8154万3827円の利益を得た。したがって、被告ワイケイズ社が被告ソフトを使用することによって原告の被った損害額は、上記金額を下回らないと推定される。 (ア) 平成17年7月1日から平成21年6月30日までの被告ワイケイズ社の利益 被告ワイケイズ社は、同社に測量解析部を発足させた平成17年7月1日から平成21年6月30日までの間に、合計21億7451万0824円の工事売上げがあった(乙10の5〜8)。 これらの工事は、被告ワイケイズ社が、被告YKSC社と連携して、専ら被告ソフトを利用して行ったものであり、被告ワイケイズ社は、被告ソフトを使用することによって、上記工事について3%ないし5%のコストダウンを実現した。 したがって、被告ワイケイズ社は、同社の工事業務において、被告ソフトを使用することによって利益を得たことが明らかであり、その利益額は、上記の工事売上高の3%に相当する6523万5324円を下らない。 (イ) 平成21年7月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時までの被告ワイケイズ社の利益 被告ワイケイズ社の平成18年7月1日から平成21年6月30日までの3年間の売上高は、合計16億3085万0321円であり(乙10の6〜8)、1年当たりの平均売上高は、5億4361万6773円である。 したがって、平成21年7月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時までの被告ワイケイズ社の売上高は、過去3年の売上高の平均値である5億4361万6773円を下回ることはなく、被告ワイケイズ社が上記期間に被告ソフトを使用して得た利益は、上記売上高の3%(1630万8503円)を下らない。 ウ 調査費用について (ア) 原告は、東京経済株式会社(以下「東京経済社」という。)に対し、被告らによる原告の著作権侵害等に関する活動状況の調査を依頼し、同社から、被告ワイケイズ社に関する調査報告書(甲61、63)及び被告YKSC社に関する調査報告書(甲60、64)を入手した。 上記調査報告書は、5通分で12万6000円の調査会費が必要となることから、上記4通の調査報告書相当額として10万0800円が発生している。 (イ) また、原告は、上記(ア)以外に、東京経済社に対し、次のとおり、調査実費として合計4万3930円を支払った。 @ 平成17年1月5日付け 8526円(甲65の4) A 平成18年10月3日付け 6751円(甲65の5) B 同年12月27日付け 1万0951円(甲65の6) C 平成21年2月10日付け 6751円(甲65の7) D 同年3月11日付け 1万0951円(甲65の8) 合計 4万3930円 (ウ) 以上のとおり、被告らの侵害行為の調査のために原告において必要となった費用の合計額は、14万4730円を下らない。 エ 弁護士費用 原告は、被告らによる著作権侵害を差し止め、被告らの行為による原告の損害を回復するための弁護士費用相当額として、960万円(本件訴え提起時の差止請求の評価額である3600万円と、損害賠償請求額6000万円の合計額の、10%相当額)の損害が発生した。 オ 小括 上記アないしエの損害(合計4億6588万1073円)は、被告らによる共同不法行為としての、被告プログラムによる原告プログラムの著作権の侵害により生じたものである。 よって、原告は、被告らに対し、上記損害の一部である6000万円を連帯して支払うよう求める。 [被告らの主張] ア 被告YKSC社の利益について (ア) 被告ソフトを使用したサービスによる売上げは、被告YKSC社の売上げの一部にすぎないこと 被告YKSC社は、測量と土木とを融合させることを主眼として設立された会社であり、測量業だけでなく、土木・建築・管工事業や土木工事・外構工事の設計、建設コンサルタント業も行っている。 また、被告ソフトは、測量作業の一部である丁張作業を便利にするためのソフトウェアとして開発されたものであり、被告YKSC社において被告ソフトを使用する業務は、丁張業務の一部と被告ソフトのリース業務だけである。 被告YKSC社の事業内容及び各事業における被告ソフトの使用の有無は、次のとおりである。 a 測量業務(一般測量業務) 測量業務は、一般測量業務(現況測量、縦横断測量、水準測量等を行う業務)と丁張業務とに分けられる。 一般測量業務は、通常の測量業務であり、被告ソフトを使用することはない。被告ソフトは、従来の測量用のソフトウェアが、幅広い測量作業(基準点測量、現況測量、縦横断測量、座標計算、位置出しなど)に活用できるように多様な機能が搭載されているため、操作が複雑化し、丁張作業の中の位置出しのためにソフトウェアを利用する工事現場のユーザーにとって、使いこなすのが難しいものであったことから、工事現場の位置出し(従来から行われている簡単な座標計算)に必要な機能に絞り、簡単な操作で丁張作業に利用することのできるソフトウェアとして開発されたものである。 このように、被告ソフトは、複雑な丁張測量を効率的に行うという、明確な目的を持ったソフトウェアであり、それ以外の測量業務(一般測量業務)に使用することは目的としておらず、制作に当たっても念頭に置かれていない。そのため、被告ソフトは、丁張測量以外の業務では使い勝手が悪く、かえって手間がかかるため、使用されない。 一般測量に被告ソフトを使用しない具体的理由の一部を挙げると、次のようなものがある。 (a) 被告YKSC社の行っている一般測量の中で最も多いものは、道路の縦横断測量(道路の断面図を作成するための測量)である。縦横断測量は、高さと距離を測定することにより簡単に行うことができるので、被告ソフトを用いるまでもなく、巻尺とオートレベル(高さを測る機器)を使用して行っている。また、計測値の計算もExcel等の汎用ソフトウェアで簡単に行うことができ、被告ソフトを使用する必要はない。 (b) 一般測量(特に基準点や境界点の測量)を行う場合、計測結果を記載した資料を作成し、提出する必要がある。その場合、座標値だけではなく、光波(トータルステーション)を置いた地点から当該座標までの距離と角度を記載しなければならないことが多い。また、受注時に書面の指定がなくても、測量作業後に、顧客から、距離と角度の記載のある書面の作成を要求される場合もある。そのため、現場で測量した際、トータルステーションを置いた地点からの距離と角度をすべて記憶しておき、それを基に資料を作成する必要があり、一般的な測量用ソフトは、計測時の座標値を記憶する機能に加えて、角度と距離を記憶する機能も有している。 しかしながら、被告ソフトは、このような機能を有しておらず、座標値を記憶しておくことしかできない。仮に、被告ソフトで一般測量を行う場合、座標値から角度と距離をすべて計算しなおす必要があり、あまりにも煩雑であって現実的でない。 (c) トータルステーションの内部には、測量用のソフトウェアが、あらかじめインストールされている。 被告YKSC社は、このような測量用のソフトウェアを使用して測量作業を行い、測量結果のデータを、市販の測量計算のソフトウェアを使って処理し、資料化している。なお、一般的な測量用のソフトウェアは、パソコン上の測量計算用ソフトウェアと連携が可能であり、書面の作成を効率的に行うことができるが、被告ソフトはそれができない。 b 測量業務(丁張業務) 丁張業務においても、次のとおり、被告ソフトを使用する現場と、使用しない現場とがあり、被告ソフトを使用する現場でも、すべての工程において被告ソフトを使用するわけではない。 (a) 被告ソフトを使用する現場 被告ソフトは、地形が複雑で、設置する丁張の数も多いなど、巻尺やオートレベルで一つ一つ位置出しをしていては手間がかかりすぎる現場において、丁張を効率よく行うためのソフトウェアである。また、被告ソフトは、現地を測量し、データを被告ソフトに保存した上でなければ、現場で使用することができず、被告ソフトを使用するには複雑な工程を経なければならない。 そのため、上記のような現場でなければ、わざわざ現況測量やデータ入力などの前提作業を行ってまで被告ソフトを使用する意味はなく、その必要性もない。丁張の設置位置が単純な現場(例えば、道路工事のように、直線上に丁張を設置すればよい場合)であれば、わざわざ現地を測量した上でデータを入力するよりも、その場で巻尺やオートレベル等を使用して作業をしてしまった方が、時間も費用も節約になる。 平成22年4月における被告YKSC社の丁張業務の状況をみると、同社において同月に丁張業務を行った日数(合計18日)のうち、被告ソフトのリース先において作業を行ったのは合計13日であるから(乙19)、この程度の割合が、被告YKSC社において丁張業務を行ったもののうち被告ソフトを使用する可能性のある現場に関する売上げである。 (b) 被告ソフトを使用する工程 丁張業務は、@テープ・巻尺とスプレー等を用いて概略の位置を出す、A杭を配置する、B杭の打ち込みをして、釘を杭の頭に打つ、Cレベルを用いて高さを出す(このとき、高さの計算を行う)、D貫を設置する、E光波等を用いて、正確な位置を貫の上に出す、F水糸を張る、という複数の作業工程から成り立っている。 これらの工程のうち、被告ソフトを実際に使用する可能性があるのは、丁張の設置場所についての位置出しを行う場合と、釘打ち(水平貫きに通りを出す作業。水平貫き上の、後に建設する構造物のラインとの交点に釘を打つこと。)をする場合の、2つの工程にすぎない(乙19)。そして、被告YKSC社において、丁張作業における通常の1日の総作業時間(9時間5分)のうち、被告ソフトを使用する可能性のある上記作業に当てられる時間の合計は1時間であり(乙19)、これは、総作業時間の11%にすぎない。また、上記(a)と同様の理由から、被告ソフトを使用する可能性のある作業のうち、実際に被告ソフトを使って作業をする割合は、50%程度である。 c リース業務 被告YKSC社は、リース業務として、被告ソフトのリースと、被告ソフト以外の製品(測量機器等)のリースを行っている。 被告ソフト以外の製品をリースする業務は、被告ソフトの使用や貸出の有無とは無関係に行われるものであるから、これらの製品のリースによる売上げは、被告ソフトを使用したサービスによる売上げには当たらない。 d 成果業務 被告YKSC社は、同社において現況測量を始めとする一般測量を行った結果を基に、各種図面やデータの作成等を行っている。 しかしながら、被告ソフトは、上記aのとおり、座標値のみを保存・記憶できるものであって、その他の数値(距離や角度)を記憶する機能を有していないため、同ソフトを使用して現況測量を行うことはない。 したがって、被告YKSC社において、被告ソフトにより一般測量を行った結果を基に各種図面やデータの作成を行うことはない。 e 工事業務 被告YKSC社は、土木工事等の各種工事業務を行っている。 しかしながら、被告ソフトは、上記aのとおり、丁張測量用のソフトウェアであるにすぎないから、土木工事自体には使用されない。また、丁張とは、土木工事の目印を設置するものにすぎないため、丁張作業が完了し、土木工事をする段階に至れば、その丁張が被告ソフトを使用したものであるか否かによって、土木工事自体が変わるものではない。 f 施工管理業務 被告YKSC社は、工事現場の全体的な補助を行う作業員(現場監督)を派遣する業務を行っている。被告YKSC社から派遣された現場監督が行う業務は、全体的な作業の指示や材料の受注、安全点検など、現場業務の多岐にわたるが、現場監督として派遣される者は、同社の従業員の中でも土木部門の者であって、測量部門の従業員ではなく、これらの施工管理業務において被告ソフトを使用することはない。 また、既に被告ソフトをリースしている現場であっても、被告YKSC社から現場監督として派遣された者は、被告ソフトの使用について指導や監督をするものではない(被告ソフトは、被告YKSC社からの指導者が必要なほど使用が困難な製品ではない。)。 (イ) 売上高から控除されるべき費用 被告YKSC社の行う事業のうち被告ソフトを使用しているものは、上記のとおり、丁張業務の一部と被告ソフトのリース業務に限られる。 したがって、被告らの著作権侵害行為による損害額の算定は、丁張業務と被告ソフトのリース業務の売上げを基礎として行われるべきである。 a 丁張業務のうち、被告ソフトを使用した作業を行ったことによる売上げ 丁張業務において被告ソフトを使用する場面は限られており、ごく一部の複雑な丁張業務で被告ソフトを使用しているにすぎないことについては、上記(ア)bのとおりである。 また、丁張業務においては、測量技士らの人件費、測量手元、車や燃料代、雑代等の費用がかかる。被告YKSC社は、被告ソフトを使用する場合の丁張業務については1件5万円で請け負い、そのうち、丁張業務に直接必要な上記の経費を3万9000円と設定している。 したがって、被告YKSC社の利益を算定するに当たって、上記経費及び一般管理費のうち相当額については、丁張業務に直接必要な経費として売上げから控除されるべきである。 b 被告ソフトのリースによる売上げ 被告YKSC社の利益を算定するに当たって、そのリース料金の全額を利益とするのは相当でない。以下の経費については、リース業務に直接必要な経費として、売上高から控除されるべきである。 (a) 原材料費 被告YKSC社は、被告ソフトをPDA(携帯情報端末、ハード部分)にインストールした状態でリースしている。 したがって、被告ソフトをインストールして使用するためのPDAや、PDAをトータルステーションに接続するためのケーブルその他付属品の購入費用は、リース業務にとって直接必要な費用であり、変動経費として認められるものであるから、売上高から控除されるべきである。 (b) 管理費用等 被告ソフトは、貸し出された後、実際の作業現場で使用され、返却されると、被告YKSC社において、製品の内部を掃除した上、不具合がないか点検する。また、被告ソフトは、作業現場において使用中に、風雨にさらされたり、粉塵などの影響を受けたり、落下したりすることにより、壊れることがしばしばあり、廃棄率も高い。その場合、被告YKSC社において、新しい製品を作業現場まで届ける必要があり、そのための人件費や交通費等の費用もかかる。 これらの場合にかかる人件費等の費用は、リース業務に直接必要なものであり、変動利益として売上高から控除すべきものである。 (c) その他 その他、被告ソフトのリース業務にとって直接経費といえるものも、控除する必要がある。 (ウ) 被告ソフトの使用によって被告YKSC社が得た利益に対する、被告ソフトの寄与度 a 丁張作業について 丁張作業によって被告YKSC社が得ている利益は、主として、作業行為という労務提供に対する対価であり、被告ソフトが利益獲得に寄与した割合は、ほとんどない。また、被告ソフトを用いることによって丁張業務の作業の効率が3%ないし5%程度上がるにすぎないこと(甲16、27、60)からしても、丁張業務における売上げについて被告ソフトが寄与しているのは、せいぜい3%ないし5%程度である。 さらに、被告ソフトは、上記(イ)のとおり、ハード部分がなければ作業ができないものである上、被告ソフトのハード部分は、精密機器であって、その価値も高いのに対し、被告ソフトは、単純な計算を行う機能があるにすぎない。 したがって、ハード部分が利益の創出に寄与した割合は、被告ソフトの寄与分よりも相当大きく、その割合は、70%を下らない。 b 被告ソフトのリース業務について 被告ソフト以外のハード部分をリースする行為は、原告プログラムに係る原告の著作権を侵害するものではない。また、上記aのとおり、被告ソフトのハード部分がリース業務の利益に占める割合は、ソフト部分よりも相当程度大きく、その割合は70%を下らない。 (エ) 被告ソフトには、原告ソフトにない性能及び機能が含まれており、これらの部分も売上げに寄与していること a 被告ソフトにおける原告ソフトにない性能 被告ソフトは、次のとおり、原告ソフトにない性能を有しており、これにより、格段に効率が上がり、使いやすくなっている。 (a) 原告ソフトは、半角文字に加え、全角文字、漢字、ひらがななど、すべての文字が入力可能となっている。これに対し、被告ソフトは、半角英数字のみを使用しており、よりシンプルな操作により使いやすくなっている。 (b) 被告ソフトは、画面内の画素数を最小限にし、重要な要素を大きなフォントで表示することにより、屋外で作業をする場合に小さな画面を見やすくしている。 (c) 被告ソフトは、器械高(測量器械を設置した際の設置した高さ)を自動的に計算する機能を有する。これに対し、原告ソフトは、手入力をしなければならない。 b 原告ソフトにない機能 被告ソフトは、24種類の主要な機能を有するが、次の2種類の機能は、原告ソフトにない機能である。 (a) 直線分割機能 道路工事においては、センターライン上の点とは無関係のある地点の場所を特定する必要がある場合がある(例えば、センターラインとは無関係の地点に植栽地を作ったり、道路の勾配が始まる場合等が考えられる。)。この場合、設計図上は、センターライン上の地点からの距離のみが示されており、座標は示されていない。 このようなときに、被告ソフトを使用すれば、センターライン上の地点の座標だけを計算しておけば、そこからの距離を入力することにより、センターライン上の地点と無関係の地点の場所を特定することができ、作業が効率化される。 これに対し、原告ソフトを使用する場合は、必要な地点の座標計算を逐一行った上で、その数値を入力して場所を特定する必要があり、必要な計算の量が増加する上、間違いのリスクもある。 (b) 法丁張機能 斜面を削る場合に、一度斜面を削ってしまって、その後で土を盛ると強度が弱くなってしまうので、何度も修正することはせず、一度で斜面を定めなければならない。また、逆に斜面上に土を盛っていく場合も、土の盛りすぎ等によるロスが出ないようにする必要がある。 被告ソフトを使用した場合は、斜面の勾配(設計図上に記載されている。)と、斜面の始点と終点の座標(設計図上に記載されている場合もあるが、座標の記載がなければ別途計算する。)が分かれば、ある地点において、あとどの程度の距離の土を削ったり盛ったりすれば計画上の斜面に辿り着くかの数値を簡単に求めることができ、作業の効率化につながる。 原告ソフトは、このような機能を有しないため、スラントという、勾配を測る器具を使う必要がある。しかしながら、スラントは、最初から使用できるわけではなく目的の高さにある程度近づいてからでないと使用できない。そのため、目的の高さに近づくまでは手計算で斜面上までの距離を求めながら作業を進めていく必要があり、手間がかかって作業に時間を要することが多い。 c 被告ソフトにおける上記a及びbの性能ないし機能が被告YKSC社の得た利益に寄与した割合は、20%を下らない。 イ 被告ワイケイズ社の利益について 被告ワイケイズ社は、専ら土木工事業務を行う会社であり、測量業務としての売上げはない。また、被告ソフトは丁張測量用のソフトウェアであるにすぎず、土木工事自体に使用されることがないことについては、上記ア(ア)eのとおりである。 したがって、被告ワイケイズ社は、被告ソフトを使用することによって利益を得たものではない。 ウ 調査費用について 上記[原告の主張]ウの調査は、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社の対外的な関係(支払の遅れの有無等)を調べたものであり、本件損害賠償請求とは直接関係がない。また、被告らは、本件訴訟において、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社の財務状況に関する資料を任意に提出しているから、原告において上記調査をする必要性はなかったものといえる。 [被告らの主張に対する原告の反論] ア 被告YKSC社は、丁張業務の一部及び被告ソフトのリース業務以外にも、被告ソフトを使用して利益を得ていること、及び同利益に対する被告ソフトの寄与度 (ア) 一般測量業務について a 原告ソフトは、現況測量、縦横断測量等の、現場の状態を設計図に反映させる測量にも対応しており、かつ、原告ソフトを使用することによって、通常よりも効率的に測量することができる。具体的には、現場の状態を測量する現況測量、縦横断測量等の機能は、原告ソフトの電子野帳機能であり、座標取得のためのソースコードである原告ファイル3及び9などが使用される。被告ソフトにおいてこれに対応するソースコードは、被告ファイル3及び9である。したがって、被告ソフトの具体的機能をみても、被告ソフトにより一般測量を効率的に実施できることが明らかである。 b 原告が原告ソフトを使用して提供している解析測量サービスは、原告ソフトを使用した設計図面の検討から始まり、原告ソフトを使用した現況測量を行い、原告ソフトを使用した丁張測量業務が可能になるようにデータの入力・作成を行う一連のサービスである(甲2、9)。被告YKSC社が被告ソフトを使用して提供している「『位置郎』解析サービス」も、被告ソフトを使用した現況測量、設計と現況の比較・検証から始まり、被告ソフトを使用した丁張測量業務が可能になるようにデータの入力・作成を行う一連のサービスである(甲16)。 被告らが一般測量の例として挙げる縦横断測量も、原告においては、原告ソフトの電子野帳機能を使用してデータ入力及びデータ作成を行う業務であり、別途図面化する場合にCADソフトウェアを使用することがあるにすぎない(甲2)。被告YKSC社が縦横断測量においても被告ソフトを使用していることは、同社の会社案内(甲16)に、被告ソフトを使用して縦横断測量を行った結果としての縦断図面のデータを利用して建設現場で丁張業務を行い、高さの位置出しを行う旨が記載されていることからも明らかである。工事業者は、被告ソフトを使用すれば縦横断測量を極めて効率的に実施できるからこそ、自ら巻尺とオートレベルで縦横断測量を実施することなく、被告YKSC社に対して測量業務を依頼するのである。 c 補正計算を伴う基準点測量や境界測量は、パソコンを使用して原告ソフト及び被告ソフトの機能を補完する例外的な業務であり、原告においても、境界測量サービスの際に、原告ソフトを使用した測量業務を行う前提業務として、パソコンを使用して行うものである。 しかしながら、パソコンを使用した補正計算と補正計算書の作成が必要になる境界測量は、一般測量の中でもごく一部である上、境界測量においても、補正計算を行った上で、原告ソフト及び被告ソフトを使用して境界測量を行うことは、他の一般測量、丁張測量と同様である。一般測量サービスの大部分を占める現況図作成サービス(現況測量)、出来形測量サービス(出来形測量)、縦横断測量サービス(縦横断測量)の場合は、補正計算及び補正計算書の作成は不要である。 被告らは、被告ソフトでは一般測量における資料作成の必要性に対応し得ないかのように主張するが、原告ソフトが資料作成の必要性に対応するものであることは、原告の営業案内における一般測量サービスの記載からも明らかであり(甲2)、被告ソフトが原告ソフトの機能とほぼ1対1で対応し、同様の機能があることからすれば、被告ソフトで資料作成の必要性に対応し得ないということはあり得ない。 d 原告ソフトは、トータルステーションに内蔵された測量用のソフトウェアが使い勝手が悪く、効率的な測量ができないという問題意識を出発点として開発されたものである。 このような開発経緯からすると、被告ソフトを使用せずに、トータルステーションにあらかじめインストールされた測量用のソフトウェアを使用するということは、あり得ない。仮に、そのような方法によって一般測量を行うことが可能であるとしても、そのような方法では、非効率的すぎて、被告YKSC社のような高い収益を獲得できるはずはない。同社の決算書(乙11の3〜5)によれば、平成18年9月1日から平成21年8月31日までの間における同社の売上総利益率は31.50%ないし41.35%であり、限界利益率は64.06%ないし71.30%であって、ほぼ同時期における被告ワイケイズ社の売上総利益率(−5.37%〜7.13%)及び限界利益率(7.02%〜24.12%)を大きく上回っている。 e 一般測量を行う場合、被告ソフトを使用すれば、現況測量等の結果をデータとして取得でき、特に追加作業を行わずとも測量業務として完結する。このことに照らせば、一般測量の場合の被告ソフトの売上高に対する貢献率は、80%に相当する。 (イ) 丁張業務について a 被告らの提供する「『位置郎』解析サービス」は、丁張測量業務の一部についてのみ被告ソフトを使用するものではない。同サービスは、被告ソフトを全面的に使用することが前提となっている(甲16)。 被告ソフトを使用する丁張測量が不要な現場であれば、わざわざ被告YKSC社に測量業務を依頼する必要はない。巻尺やオートレベルを使用した作業では、上記(ア)のとおり、効率が悪すぎて、測量業務を請け負うことは困難である。また、仮に、被告ソフトを使用しない作業が存在するとしても、そのような作業工程は、誰でもできる作業であり、利益への貢献も低いから、被告YKSC社の収益に対する被告ソフトの貢献に影響はない。 b 以上のとおり、被告YKSC社における丁張測量業務では、被告ソフトが全面的に使用されており、かつ、最大限の貢献が認められる。 また、被告ソフトは、丁張測量のために開発され、かつ、難易度の高い丁張測量でその機能が最大限生かされること、丁張測量結果に従い丁張の器具を設置するなどの付随作業があるとしても、その変動費用は専ら被告ソフトの貢献しない売上高部分で回収されるべきものであることなどからすると、被告YKSC社における丁張測量の売上高における被告ソフトの貢献率は、80%に相当する。 なお、被告らは、被告ソフトには原告ソフトにない性能及び機能が含まれており、これらの部分も売上げに寄与していると主張するが、これらの機能は、不要ないし業務上支障がなかった機能であり、被告ソフトは原告ソフトとほぼ同様の機能を有していることなどからすると、上記性能及び機能による寄与分は、皆無に等しい。 (ウ) リース業務について a 被告ソフトによる侵害行為によって算出される原告の損害は、原告が獲得し得る限界利益に基づき算出されるべきものである。 そうすると、ソフトウェアのリース売上げの場合、変動経費とすべきものは存在しないので、被告ソフトのリースについては、売上高の全額が被告らの利益となる。なお、被告らの従業員の作業のための給料等は、固定費であり、限界利益の算定上は考慮されない。仮に、外注費用が発生しても、それは、機材等の整備費用であるため、ソフトウェアである被告ソフトのリースの変動経費に算入されず、その貢献度に影響を与えない。 b 被告ソフトをインストールした機器や、被告ソフトを使用した測量業務に付随する機材のリースは、通常のリース会社が機器を購入してこれをリースする場合とは全く異なる。顧客は、被告ソフトを使用するために、通常の機器のリースを受ける場合よりも高額のリース料を支払うものである。 原告においても、原告ソフトをインストールした機器を貸与して使用料を取得しており、被告らが被告ソフトによる著作権侵害を行った結果として、原告が上記使用料を取得する機会を失い、損害を被ったことは明らかである。 したがって、被告ソフト以外のリースについても、被告ソフトの貢献を認めるべきであり、機器のリースに当たって整備等が必要になることなどを勘案しても、その売上高の20%は被告ソフトの貢献によるものである。 (エ) 成果業務について a 原告ソフト及び被告ソフトは、単なる測量用のソフトウェアではなく、各種図面やデータの作成のための情報を取得するためのソフトウェアである。原告ソフトは、一般測量のためのソースコードである原告ファイル3及び9などにより、現地の状況を測量すると同時に、そのデータを取得してデータベースに保存し、被告ソフトにおいても、被告ファイル3及び9によって同様の作業が行われる。そして、原告ソフトは、取得された座標データをデータベースで管理し、測量計算や座標計算を行ってデータ作成を行い、かつ、座標データベースによって効率的なデータ管理を可能にする機能を備えている。 原告における成果業務においても、データの取得・管理・作成は原告ソフトにより行われる作業であり、これらの点は、ほぼ同様の機能を有する被告ソフトでも同じである。 b 被告らの主張する「データ作成」とは、原告における「現況図作成サービス」、「出来形測量サービス」、「設計図作成サポートサービス」などに対応するものであり、いずれも、原告ソフトに基づき現況測量等を行った上で、取得したデータに基づきデータ作成を行うサービスであって、必要に応じて、CADソフトウェアを使用して図面にするものにすぎない。また、実際に図面化する際には、原告においても、「らくらくメニュー」という別のCADソフトウェアを使用している(甲2)。 しかしながら、この場合でも、原告ソフトで取得・作成されたデータを図面化するものであって、原告ソフトによるデータ取得とデータ作成がなければ、有効に機能しない。被告ソフトにおいても、CAD図の作成のためのデータの取得、データの作成は、被告ソフトにより行われていることが明らかである(甲16)。 c 以上のとおり、被告YKSC社の売上高のうち被告ソフトにより取得・作成された成果物そのものである「データ作成」については、被告ソフトの貢献度は80%に相当する。また、「図面・その他成果」については、CAD図の作成に当たってCADソフトウェアなど他のソフトウェアが貢献することを考慮しても、被告ソフトにより取得・作成されたデータに基づき図面が作成されるものであることからすれば、被告ソフトの貢献度は40%に相当する。 (オ) 工事業務について 土木工事においては、現況測量により工事のための設計図等の図面の正確さを確認しなければ、工事着手後に問題が生じることが多く、さらに、丁張測量により図面を現場に実際に反映させるための目印となる丁張りを設置し、どの地点でどのような工事を行うかを計算し確定させなければならない。また、工事測量を適切に行うことができない業者は、難易度が高く工事金額が高額な工事を受注することができない。被告ソフトは、土木工事に必要な丁張測量を容易にし、又は被告ソフトを使用して丁張測量業務を請け負うことによって土木工事のコストダウンを実現するものである。 このように、被告YKSC社は、被告ソフトを自らの工事業務で使用して効率化することで利益を得ると同時に、被告ソフトを使用することで難易度が高く工事金額が高額な工事業務を受注できたものである。また、これにより獲得される利益が工事売上げの3%ないし5%に相当することは、被告YKSC社自身が、被告ソフト及び被告ソフトを使用したサービスの宣伝として、明らかにしている(甲16、27)。 したがって、工事業務に関する被告ソフトの貢献度は、少なくとも3%以上である。 (カ) 施工管理業務について 施工管理業務とは、現場において工事業務の進行を補助する業務であり、土木工事の具体的な作業場所を測量用ソフトウェアにより特定して、指示を出す作業である。すなわち、被告ソフトによる測量結果を利用して具体的な工事を仕切る作業であり、現地において被告ソフトを使用して、どこに何を設置するかを把握できるからこそ、的確な指示が可能になるのであり、被告ソフトを使用した結果に基づく業務といえる。 被告らは、施工管理業務において被告ソフトを使用していないと主張するが、被告YKSC社の作成した請求書の具体的項目を確認すれば、ほとんどの場合には「測量及び施工管理費」と記載されており(乙26の2・9月分の請求書(6枚目)の「真如苑他測量及び施工管理費」など)、同社において丁張測量業務を全般的に請け負った場合に補助的に監督補助業務を行うという業務であることが明らかである。仮に、被告ソフトを使用しない管理業務があるとしても、被告ソフトがあるからこその業務であり、施工管理業務は、あくまで補助的サービスとしての位置付けである。 このように、施工管理業務に測量以外の様々な付随業務が含まれるとしても、測量業務が主要な業務であることが請求書の記載から明らかであり、かつ、被告ソフトを使用するからこそ施工管理のための指示が出せることに鑑みれば、被告ソフトの貢献度は60%を下らない。 イ 被告YKSC社が測量業務以外の業務を行っているとしても、原告の損害額は原告の請求額を超えること 仮に、被告YKSC社が測量業務以外の業務を行っているとしても、被告YKSC社が行っている測量業務、リース業務、成果業務、工事業務及び施工管理業務のそれぞれに被告ソフトの貢献度が認められることについては、上記アのとおりである。 また、被告らが証拠として提出した請求書(乙26の1〜4。以下「本件請求書」という。)に依拠し、被告らの分類と評価を前提に被告らに有利に原告の損害額を算定したとしても、次のとおり、原告の損害額は、本件訴訟における原告の請求額(6000万円)を超えるものである。 (ア) 被告ソフトを使用したサービスであるか否かについて、単純な記載の請求書1枚だけからは判別し難いとしても、同じ現場又は同じ受注単位ごとに請求書を分類し、現場や相手先等と関連づけて時系列的に精査すれば、どのような活動の結果であり、被告ソフトを使用したサービスであったか否かを判断することができる。 具体的には、本件請求書において「位置郎リース」(被告ソフトのリース)の項目に売上げが計上されている現場と同じ現場で計上される、「一般測量」、「丁張測量」、「他リース」、「成果」、「施工管理」等の売上げは、上記アのとおり被告ソフトを利用した測量サービスであるといえる。 (イ) 原告は、上記のような観点から、本件請求書を現場単位で再集計し、上記基準に従い色分けし、別紙被告YKSC社の売上集計表(以下「別紙売上集計表」という。)記載のとおり、被告ソフトを使用したサービスにかかる売上げであることが判明する「位置郎リース」ないし「データ作成」が計上されている現場の売上項目には黄色を付した(以下「黄色シート部分」という。)。 また、「図面・他成果」については、その前提となるデータの取得に被告ソフトを使用しなければならないことが明らかであるから、これには緑色を付し(以下「緑色シート部分」という。)、工事売上げについては、原則として工事測量が伴うことから、青色を付した。 (ウ) 上記集計に基づき、被告ソフトを使用した被告YKSC社の売上高の合計を求め、これに上記アの被告ソフトの貢献度を乗じたものが、被告ソフトを使用することにより被告YKSC社が得た利益となる。その金額は、次のとおりである。
第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告プログラムは、創作性を有するか)について (1) 証拠(甲14、甲28の1〜37、甲29、53、甲56の1〜33、甲58の1・2、甲59、72)及び弁論の全趣旨によれば、原告プログラムの構成は、次のとおりであると認められる。 ア 原告プログラムは、原告プログラム一覧表記載のとおり、合計39個のソースコード(原告ファイル1〜39)から構成されている。 これらのファイルは、原告プログラム一覧表の「概要」欄に記載のとおり、そのソースコードの性質に応じて、【設定管理】、【移動指示】、【データ管理】、【測量及び座標計算】、【共通処理】、【不使用】の6種類に分類され、【測量及び座標計算】に分類されるファイルは、さらに、【座標取得】、【測量計算】、【座標計算】の3種類に分類される。 これらの分類項目の具体的な内容は、次のとおりである。 【設定管理】 メインメニューの表示・管理や、原告ソフトと光波などの機器の接続・設定等の機能を管理するためのソースコード 【移動指示】 取得された座標情報や現在地から目的地までの座標の差異の情報を、作業員に理解しやすい情報に変換し、誘導するためのソースコード 【データ管理】 データベースに記録された座標情報や測量情報の編集・管理を行うソースコード 【測量及び座標計算】 測量や計算により座標情報を取得したり、座標情報に基づき計算をしたりするためのソースコード 【座標取得】 【測量及び座標計算】のうち、光波やプリズムといった機器の位置を測量し、その座標情報を取得するためのソースコード 【測量計算】 【測量及び座標計算】のうち、設計図を工事現場に反映させるために必要な点の座標を計算するとともに、現在地と目的地の座標の差異情報を計算し、設計図を工事現場に反映させるための目印を設置すべき場所を確定させる位置出しのための機能を有するソースコード(工事の際に実際に位置出しを行う頻度が高いものについて、同時にプリズムの現在地の座標を取得して、目的地との座標情報の差異を取得する機能を付加している。) 【座標計算】 【測量及び座標計算】のうち、既知の座標情報等に基づき、新たな座標情報等の計算を行うためのソースコード 【共通処理】 すべての個別ソースコードに対し、共通に使用される部分をサブルーチン化したソースコード 【不使用】 ファイル自体は存在するが、開発中又はテスト用のもの、製品化の段階で除外されたものなど、実際には使用していないソースコード イ 原告プログラム一覧表記載の39個のファイルのうち、原告プログラムにおいて実際に使用されているものは、原告ファイル34ないし37(同表の「概要」欄に【不使用】と記載されたもの)を除く35個のファイルである。 上記35個のファイルの中には、合計で数百個を超えるブロックが設けられ、これらのブロックの中には、合計で数千行を超えるプログラムのソースコードが含まれている。 原告プログラムにおいて現に使用されているファイルの全体像を概念図で示すと、原告プログラム概念図のとおりとなる。 (2) プログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、これが著作物として保護されるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることが必要である。 一般に、ある表現物について、著作物としての創作性が認められるためには、当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し、かつそれで足りるものと解される。この点は、プログラム著作物の場合であっても同様である。 (3) これを原告プログラムについてみるに、原告プログラムは、測量業務を行うためのソフトウェアに係るプログラムであり、上記(1)で認定したとおり、プログラムの作成者において、測量業務に必要かつ便宜であると判断した機能を抽出・分類し、これらを40個近くのファイル形式で区分して集約し、相互に組み合わせたもので、膨大な量のソースコードから成り、そこに含まれる関数も多数に上るものであって、これにより、測量のための多様な機能を実現している。 また、原告プログラムは、個別のファイルに含まれる機能の中から、共通化できる部分を抽出・分類し、これをサブルーチン化して、共通処理のためのソースコード(原告ファイル33)を作成しており、この共通処理のファイルの中だけでも、60個以上のブロックが設けられ、1000行を超えるプログラムのソースコードが含まれている(甲28の37、甲55の33)。 このように、原告プログラムは、これを全体としてみれば、そこに含まれる指令の組合せには多様な選択の幅があり得るはずであるにもかかわらず、上記のようなファイル形式に区分し、これらを相互に関連付けることによって作成されたものであり、プログラム作成者の個性が表れているといえる。 また、測量用のプログラムという機能を達成するためには、単純に、機能ごとに処理式を表現すれば足りるにもかかわらず、原告プログラムは、上記のとおり、共通化できる部分を選択し、これらを抽出して1つのファイルにまとめている。これらのサブルーチンを各ファイル中のどの処理ステップ部分から切り出してサブルーチン化するのか、その際に、引数として、どのような型の変数をいくつ用いるか、あるいは、いずれかのシステム変数で値を引き渡すのか、などの選択には、多様な選択肢があり得るはずであるから、この点にも、プログラム作成者の個性が表れているといえる。さらに、各ファイル内のブロック群で受け渡しされるどのデータをデータベースに構造化して格納するか、システム変数を用いて受け渡すのかという点にも、プログラム作成者の個性が表れているといえる。 これらの事実に鑑みると、原告プログラムは、全体として創作性を有するものということができ、プログラム著作物であると認められる。 (4) これに対し、被告らは、原告プログラムは多くの制約がある中で記述され、作成者である被告Bの個性が表現される余地はなかったものであって、創作性を有するものではない、原告が原告プログラムにおいてプログラムの作成者の個性が表現されていると主張する部分は、「解法」(著作権法10条3項3号)に当たり、著作権法上保護されるものではない、と主張する。 しかしながら、原告プログラムにおいて作成者の個性が表現される余地がなかったとの主張については、これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また、原告プログラムにおけるファイル形式の区分の仕方や、各ファイルを相互に関連付ける方法、サブルーチン群の取りまとめ方などは、「解法」に当たるものではない。 したがって、被告らの上記主張は理由がないというべきである。 2 争点2(原告プログラムは職務著作か)について (1) 前記当事者間に争いのない事実等に加え、証拠(甲2、9〜11、30〜33、36、37、39、甲40の1〜3、甲41〜46、48、甲49の1〜5)及び弁論の全趣旨によれば、原告プログラムの開発に至る経緯について、次の事実が認められる。 ア 原告は、測量ソフトウェアの販売及び賃貸、測量請負、測量機器販売、測量機器の賃貸等を行う会社である。 イ 原告は、昭和61年ころまでに、「おまかせ君」、「べんり屋さん」、「らくらくさん」などの名称の測量業務用ソフトウェアを制作し、これらのソフトウェアを販売ないしリースしたり、同ソフトウェアを用いて測量業務を行ったりしていた。原告は、その後も、「おまかせ君プロ」の改良版である「スーパーおまかせ君プロ」を制作するなどし、これらのソフトウェアを用いた測量業務、同ソフトウェアの販売、リースなどの業務を続けた。 ウ 被告Bは、平成12年4月1日、原告に入社し、測量業務に従事するとともに、ソフトウェアのプログラムのチェック・修正業務、顧客相談窓口業務、ソフトウェアのプログラム作成業務などを担当した。 被告Bは、平成14年10月ころ以降は、原告のソフト開発部長として、ソフトウェア開発業務に従事した。 エ 原告は、平成15年7月ころ以降、被告Bに対し、その職務として、上記「おまかせ君プロ」のバージョンアップ版である「おまかせ君プロVer2.0」(旧原告ソフト)の開発業務を行わせ、被告Bは、平成16年4月ころ、同ソフトを完成し、これを原告に提出した。 さらに、原告は、被告Bに対し、平成16年6月ころ以降、その職務として、旧原告ソフトのバージョンアップ版である原告ソフトの開発を行わせ、被告Bは、平成17年5月ころ、同ソフトを完成し、これを原告に提出した。 被告Bは、上記ソフトウェアの開発業務に従事するため、平成15年7月以後は、測量現場の業務に従事する機会が大きく減少し、多くの時間を上記ソフトウェアの開発業務に費やした。 また、被告Bは、旧原告ソフト及び原告ソフトの開発に当たり、原告に対し、各ソフトのテーマ、開発日程表、ソフトの機能一覧表等を記載した設計計画書(甲41、45)を提出して原告代表者の承認を得たほか、原告の社内会議等において、上記ソフトウェアの開発の進行状況について随時報告するなどした。 オ 原告は、旧原告ソフト及び原告ソフトが完成すると、原告においてこれらのソフトウェアを新たに制作したものであるとして、その事実を顧客に宣伝し、これらのソフトウェアを販売ないしリースするなどした。 (2) これに対し、被告らは、原告ソフト及び旧原告ソフトの開発業務は、被告Bが、深夜や休日など、通常業務の枠を超えた時間で行ったものであるから、これらのソフトウェアのプログラムは被告Bが職務上作成したものではなく、個人的に作成したものであり、原告も同プログラムの著作権が被告Bに帰属することを認めていた旨主張する。 しかしながら、被告Bが原告ソフトの開発業務のすべて、ないし大部分を勤務時間外に行ったことを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。仮に、被告Bが原告ソフト等の開発業務の一部を勤務時間外に行ったことがあったとしても、前掲(1)の証拠に照らすならば、そのことをもって原告ソフト等を被告Bが個人的に作成したものと認めることはできない。なお、証拠(甲28の17・2頁、乙5)によれば、被告Bは、原告ソフトのソースコードに「制作/著作 B おまかせ君プロVer2.0〜」と記載したほか、原告ソフトの利用者が同ソフトのメイン画面の下部の「CSS OmakasekunProVer2.50」という表示部分に触れると、「おまかせ君プロ Ver2.0〜制作/著作 B」という表示がされるように原告ソフトを作成したことが認められるが、上記認定の事実経過に加え、これらの記載や表示は、原告ソフトの利用者等において外見上容易に認識することができるものではないことなどを考慮すると、このような事実があることをもって、原告において上記記載等の存在を認識し、被告Bに原告プログラムの著作権が帰属することを承諾していたと認めることはできない。 (3) 上記事実関係によれば、原告プログラムは、法人である原告の発意に基づき、当時原告の従業員としてソフトウェアのプログラムの開発業務に従事していた被告Bが、その職務として作成したものであるといえる。 また、原告プログラムが作成された当時、原告において、契約、勤務規則その他に、著作権法15条2項の適用を排して従業員個人をプログラムの著作者とする旨の定めがあったことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告プログラムは、著作権法15条2項の各要件を満たすものであり、その著作者は原告であると認められる。 3 争点3(被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものか)について (1) 証拠(甲54、甲55の1〜33、甲56の1〜33、甲67、甲68の1〜3、甲69の1〜3、甲72、乙4の1、乙4の2の1〜38)及び弁論の全趣旨によれば、被告プログラムの構成及び同構成と原告プログラムの構成との関係は、次のとおりであると認められる。 ア 被告プログラムは、両プログラム対比表記載のとおり、合計38個のファイル(被告ファイル1〜38)から構成されている。 これら38個のファイルのうち、被告ファイル37及び38を除く合計36個のファイルは、両プログラム対比表記載のとおり、原告プログラムにおいて実際に使用されている35個のファイル(原告ファイル1〜33、38、39)と、ほぼ1対1で対応している。 イ 上記35個の原告ファイルとそれに対応する上記36個の被告ファイルとを比較すると、甲55号証、56号証、68号証及び69号証(いずれも、枝番号を含む。)中の黄色のマーカーが塗られた部分(黄色マーカー部分)は、ソースコードの記載が全く同一である。また、上記各号証中の緑色のマーカーが塗られた部分(緑色マーカー部分)は、会社名の置換え、変数名、フォーム名等に違いはあるものの、プログラムとして機能する上で、その名称の違いに意味のないものであり、実質的には同一のソースコードであるといえる。 これらの黄色マーカー部分及び緑色マーカー部分は、上記原告ファイル及び被告ファイルの大半を占めており、その割合は、全体の90%を下らない。 (2) 上記事実関係によれば、原告プログラムと被告プログラムとは、そのソースコードの記述内容の大部分を共通にするものであり、両者の間には、プログラムとしての表現において、実質的な同一性ないし類似性が認められるものといえる。 また、上記のとおり被告プログラムはその記述内容の大部分が原告プログラムと同一ないし実質的に同一であることに加え、被告ソフトの開発者である被告Bは、原告において原告ソフトの開発に従事していたものであり、後記4(1)のとおり、原告を退職した後、ごく短期間で膨大なソースコードより成る被告プログラムを開発していることなどに鑑みると、被告Bは、原告プログラムの内容を認識した上で、これに依拠して被告プログラムを作成したものであると認められる。 したがって、被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものであると認められる。 (3) これに対し、被告らは、両プログラム対比表記載の各ファイル内におけるブロックの記載順序及び各ブロック中の記述の順序が異なることや、被告プログラムには原告プログラムにないコメントが多数存在することなどを挙げ、被告プログラムは原告プログラムと表現を異にするものであり、原告プログラムを複製ないし翻案したものには当たらないと主張する。 しかしながら、プログラムのソースコードの記述は、電子計算機が必要な機能を呼び出すためのものであり、本件における原告プログラム及び被告プログラムのソースコードについては、その記述の順序が異なることは電子計算機によるプログラムの呼出し処理に影響を与えるものではない。また、ソースコード内のコメントは、プログラムの動作に影響を与えるものではない。そうすると、被告らの主張するような事情をプログラムのソースコードの実質的同一性の判断に当たって考慮すること自体は否定されないとしても、これを重視するべきではなく、本件のように両プログラムの記述内容の大部分が同一ないし実質的に同一であるというべき事案においては、両プログラムの同一性ないし実質的同一性を認めるのが相当である。 4 争点4(被告らの共同不法行為の成否)について (1) 認定事実 証拠(甲15〜17、21、23〜25、35、甲75の1〜4、乙6、7)及び弁論の全趣旨によれば、被告プログラムが開発されるまでの経過について、次の事実が認められる。 ア 被告ワイケイズ社は、平成13年から平成16年ころまでの間、原告から、原告のソフトウェアをインストールした機器の貸与を受けるなど、原告との間に取引関係を有していた。 イ 被告ワイケイズ社及び平成16年当時の同社の代表取締役であった被告Aは、同年秋ころ、当時、原告におけるソフトウェアの開発担当者であり、ソフトウェアの使用方法等の相談窓口の担当者でもあった被告Bを通して、原告に対し、九州地区において原告のフランチャイズに加盟したい旨を申し出た。 被告ワイケイズ社は、上記交渉の過程で、原告に対し、原告に対して支払うロイヤリティーの減額や原告のソフトウェアの買取りを求めるなどしたが、原告は、これらの申出に応じず、上記交渉は、平成17年4月以後、途絶した。 ウ 被告Bは、平成17年5月31日付けで原告を退職し、そのころ、被告Aを通して被告ワイケイズ社の依頼を受け、測量業務用のソフトウェアの開発に着手し、遅くとも同年末ころには、被告ソフトを完成し、これを被告ワイケイズ社に提出した。なお、被告ワイケイズ社は、同年7月1日、測量解析部を発足させた。 エ 被告YKSC社は、平成18年3月24日、被告Aを代表取締役とする有限会社として、被告ワイケイズ社から分社化される形で設立された、同社の関連会社である。被告YKSC社は、その設立当初から、同社において被告ソフトを製造し、同ソフトを使用した測量業務や、同ソフトのリース業務等を行った。 (2) 被告らの共同不法行為の成否 上記事実関係によれば、被告ワイケイズ社及び同社の代表取締役であった被告Aが、被告Bに依頼して、原告プログラムに依拠して、これと同一ないし実質的に同一である被告プログラムを制作させたこと、被告YKSC社及び同社の代表取締役である被告Aは、被告Bから提供を受けた被告プログラムを基に被告ソフトを製造し、これを使用して測量業務等を行っていることが認められ、被告らは、これらの行為により、原告プログラムに係る原告の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したものと認められる。また、被告Aが行った上記著作権侵害行為は、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社の代表者としての行為であるとともに、被告A個人としての行為でもあると評価することができる。 したがって、原告に対する不法行為について、被告ワイケイズ社、被告YKSC社、被告B及び被告Aは、共同不法行為責任を負うというべきである。 (3) 差止請求等の可否 以上を前提に、原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の可否について検討する。 ア 差止請求について 上記のとおり、被告YKSC社は、被告ソフトを製造し、これを使用しており、これらの行為は、原告プログラムに係る原告の著作権を侵害するものであると認められる。 また、被告YKSC社は、原告から平成19年に本件訴えが提起された後も、少なくとも、平成22年9月ころまでの間は、被告ソフトの製造、使用を継続し、本件訴訟においても、原告ソフトは創作性がないなどと主張して、著作権侵害の有無を争っていることが認められる。 そうすると、被告らにおいて、被告YKSC社は本件訴訟と並行して被告ソフトの新製品の開発を行ってきた結果、平成22年9月中には被告ソフトから上記新製品への切替えを終えており、新製品は原告ソフトに係る原告の著作権を侵害するものではないと主張していること、などの事情を考慮したとしても、被告YKSC社において、今後も、被告ソフトを製造、使用するおそれがあると認められる。また、本件証拠上、被告YKSC社において被告ソフトを譲渡した事実や、被告ワイケイズ社において被告ソフトを製造、使用又は譲渡した事実を認めるに足りる証拠はないものの、上記認定の被告ソフトの開発経緯や、被告ワイケイズ社と被告YKSC社との関係等を考慮すると、被告YKSC社において被告ソフトを譲渡するおそれや、被告ワイケイズ社において被告ソフトを製造、使用又は譲渡するおそれがあるものと認められる。 したがって、原告は、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社に対し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの製造、使用又は譲渡の差止めを求めることができる。 イ 廃棄請求について 被告YKSC社が被告プログラムの複製物を何らかの記録媒体に収納して、これを現に保有していることについては、当事者間に争いがなく、前記のとおり被告プログラムが原告プログラムの複製物又は翻案物と認められることからすると、上記複製物ないし記録媒体は、原告の原告プログラムに係る複製権又は翻案権の侵害行為によって作成された物といえる。したがって、原告は、被告YKSC社に対し、著作権法112条2項に基づき、被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めることができる。 他方、本件証拠を精査しても、被告ワイケイズ社において被告プログラムの複製物ないし同プログラムを格納した記録媒体を保有していることを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告ワイケイズ社に対して被告プログラムの廃棄を求める原告の主張は理由がない。 5 争点5(原告の損害)について (1) 被告ソフトの使用による被告YKSC社の利益について(著作権法114条2項) ア 被告YKSC社の売上高は、すべて測量サービス業務によるものか原告は、被告YKSC社は被告ワイケイズ社の測量解析部を分社化することにより設立された被告ソフトを使用する測量サービス業務を行うための会社であり、被告YKSC社の売上高はすべて被告ソフトを使用した測量サービス業務の売上げによるものであると主張する。 しかしながら、原告の主張を裏付けるに足りる客観的な証拠はなく、かえって、証拠(乙26の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、被告YKSC社は、測量業務の他にも、土木工事、施工管理等の業務を行い、収入を得ていることが認められる。 したがって、被告YKSC社の売上高のすべてが被告ソフトを使用した測量サービス業務の売上げによるものであるとは認めることはできない。 イ 被告YKSC社の業務内容及び各業務における被告ソフトの使用の有無 証拠(甲76、甲77の1・2、甲78、79、乙26の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、被告YKSC社における平成18年8月31日終了事業年度(1期)から平成21年8月31日終了事業年度(4期)までの売上高を、その業務の項目別に分類すると、別紙売上集計表記載のとおりであると認められる。 そこで、上記分類結果を前提として、被告ソフトの使用により被告YKSC社が得た利益の有無等について、検討する。 (ア) 測量業務について a 一般測量業務について (a) 原告は、原告ソフトは現況測量、縦横断測量等の現場の状態を設計図に反映させる測量にも対応し、原告ソフトを使用することによって通常よりも効率的に測量することができるものであり、被告ソフトは原告ソフトと同様のプログラムの構成ないし機能を有するものであるから、被告YKSC社は一般測量においても被告ソフトを使用しているはずであり、一般測量の場合の被告ソフトの売上高に対する貢献率は80%であると主張する。 (b) これに対し、被告らは、被告ソフトは複雑な丁張測量を効率的に行うためのソフトウェアであるから、丁張測量以外の業務では使い勝手が悪く、かえって手間がかかるため、被告YKSC社では一般測量に被告ソフトを使用することはなく、巻尺とオートレベルを用いたり、トータルステーションにあらかじめインストールされている測量用のソフトウェアを用いたりしていると主張する。 (c) そこで検討するに、証拠(甲2、9、16、27、甲75の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、一般測量自体は、必ずしも被告ソフトを用いなくとも、簡単な現場であれば巻尺やオートレベルを用いたり、トータルステーションに内蔵された測量用ソフトウェアを用いたりすることによって行うことも可能であることが認められる。これに加えて、本件では、別紙売上集計表の「一般測量」の項目に記載されたものについて、被告YKSC社が現に行った測量業務の具体的な内容が必ずしも明らかでないことを併せ考えると、「一般測量」のすべてにおいて被告ソフトが使用されたと認めることはできない。 他方、上掲証拠によれば、原告が原告ソフトを使用して提供している解析測量サービス(甲9)は、原告ソフトを使用した設計図面の検討から始まり、原告ソフトを使用した現況測量を行い、原告ソフトを使用した丁張測量業務が可能になるようにデータの入力・作成を行う一連のサービスであること、被告YKSC社が被告ソフトを使用して提供している「『位置郎』解析サービス」(甲16)も、被告ソフトを使用した現況測量、設計と現況の比較・検証から始まり、被告ソフトを使用した丁張測量業務が可能になるようにデータの入力・作成を行う一連のサービスであり、必ずしも丁張業務に特化したサービスではないこと、が認められる。また、前記3のとおり、被告ソフトにおけるプログラムの内容は、原告ソフトとほぼ同じであり、被告ソフトは原告ソフトと同様の機能を有することが認められる。 そうすると、被告YKSC社が実施した「一般測量」において、被告ソフトが全く使用されなかったとは考え難く、少なくとも、被告ソフトのリースがされるなどして被告ソフトが使用された現場では、一部において、一般測量の際に被告ソフトを用いたことがあったものと認めるのが相当であり、上記事情を考慮すると、その割合は、少なくとも20%を下るものではないと認められる。 これに対し、被告ソフトのリースなどがされていない現場については、被告ソフトを使用して一般測量がされたことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の一般測量業務による売上高は、別紙売上集計表における黄色シート部分の一般測量欄記載の合計金額の20 % である656万0430円(32,802,150 円×0.2=6,560,430 円)を下らないものと認められる。 b 丁張業務について (a) 原告は、被告らの提供する「『位置郎』解析サービス」は丁張測量業務の一部についてのみ被告ソフトを使用するものではなく、被告ソフトを全面的に使用することが前提となっており、被告ソフトを使用する丁張測量が不要な現場であれば、わざわざ被告YKSC社に測量業務を依頼する必要はないから、被告YKSC社における丁張測量業務では被告ソフトが全面的に使用されていると主張する。 (b) これに対し、被告らは、被告ソフトは地形が複雑で、設置する丁張の数も多いなど、巻尺やオートレベルで一つ一つ位置出しをしていては手間がかかりすぎる現場において、丁張を効率よく行うためのソフトウェアであるから、丁張業務においても、被告ソフトを使用する現場と、使用しない現場とがあり、被告ソフトを使用する現場でも、すべての工程において被告ソフトを使用するわけではないと主張する。 (c) そこで検討するに、上記a認定の「『位置郎』解析サービス」の概要や、被告YKSC社による同サービスの宣伝において、同サービスは地形が複雑で、設置する丁張の数も多い現場に特有のサービスであるなどの説明は特段されていないことなどを考慮すると、少なくとも、被告ソフトのリースがされるなどして被告ソフトが使用された現場では、大部分の丁張業務において被告ソフトが使用されたと認めるのが相当であって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の丁張業務による売上高は、少なくとも別紙売上集計表における黄色シート部分の丁張測量欄記載の合計金額の80%である1794万2240円(22,427,800円×0.8=17,942,240円)を下らないものと認められる。 (イ) リース業務について a 被告ソフトのリースについて 被告ソフトのリースによる売上高の合計金額は、別紙売上集計表における黄色シート部分の位置郎リース欄記載のとおり、707万0900円であるが、このリースは、被告ソフトのみをリースするのではなく、PDAのリースを含むものである。 本件では、被告YKSC社が原告の著作権を侵害した部分は被告ソフトに係る部分のみであるから、その損害額も、それに対応した売上額を基準として算定するのが相当であり、被告ソフトとPDAは、両者が一体となってその機能を発揮させるものであることに照らせば、被告ソフトが占める価値は、少なくとも、上記リースの売上高の50%を下らないものと認められる。 したがって、被告YKSC社が被告ソフトをリースしたことによる売上高は、353万5450円(7,070,900円×0.5=3,535,450円)であると認められる。 b その他の機器のリースについて 原告は、被告ソフトをインストールした機器や、被告ソフトを使用した測量業務に付随する機材のリースは、通常のリース会社が機器を購入してこれをリースする場合とは異なり、顧客は被告ソフトを使用するために通常の機器のリースを受ける場合よりも高額のリース料を支払うものであるから、被告ソフト以外のリースについても被告ソフトの貢献を認めるべきであると主張する。 しかしながら、証拠(乙26の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、被告YKSC社の顧客は、同社から被告ソフトのリースを受ける際に被告ソフト以外の機器のリースも受けなければならないものではなく、被告ソフトのみのリースを受けることも、被告ソフト以外の機器のみのリースを受けることもできると認められる。 そうすると、被告YKSC社が被告ソフト以外の機器をリースすることによって得た利益については、原告ソフトに係るプログラム著作権の侵害により被告YKSC社が受けた利益であると認めることはできず、原告の主張は理由がない。 (ウ) 成果業務について a 原告は、原告ソフト及び被告ソフトは単なる測量用ソフトウェアではなく、取得した座標データをデータベースで管理し、測量計算や座標計算を行ってデータ作成を行い、かつ、座標データベースによって効率的なデータ管理を可能にする機能を備えているものであり、さらに、必要に応じてCADソフトウェアを使用して図面化することもできるものであるから、別紙売上集計表記載の「データ作成」及び「図面・他成果」についても被告ソフトが使用されていると主張する。 b これに対し、被告らは、被告YKSC社は、同社において現況測量を始めとする一般測量を行った結果を基に各種図面やデータの作成等を行っているものの、被告ソフトにより一般測量を行った結果を基に各種図面やデータの作成を行うことはない、と主張する。 c しかしながら、上記(ア)a認定の「『位置郎』解析サービス」の内容や、被告ソフトの構成、機能等に鑑みると、被告YKSC社において上記成果業務を行う際に被告ソフトが全く使用されなかったとは認め難く、少なくとも、被告ソフトのリースがされるなどして被告ソフトが使用された現場では、成果業務を行うに当たっても、一部被告ソフトを用いたことがあったものと認めるのが相当であり、上記諸事情を考慮すると、その割合は、少なくとも20%を下るものではないと認められる。 d したがって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の成果業務(データ作成)による売上高は、黄色シート部分のデータ作成欄記載の合計金額の20%である231万9200円(11,596,000円×0.2=2,319,200円)を下らないものと認められる。 また、被告ソフトを使用した被告YKSC社の成果業務(図面・他成果)による売上高は、黄色シート部分の図面・他成果欄記載の合計金額の20%(19,936,300円×0.2=3,987,260円)を下らないものと認められるものの、この業務は、被告ソフトのみによって行われるものではなく、CADソフトウェアなどの他の機器により行われる作業を含んでいるものであり、上記売上高に被告ソフトが貢献した割合は、50%を下らないものと認められるから、被告ソフトによる売上高は、199万3630円(3,987,260円×0.5=1,993,630円)であると認められる。 (エ) 工事業務について 原告は、被告ソフトは土木工事に必要な丁張測量を容易にし、又は被告ソフトを使用して丁張測量業務を請け負うことによって土木工事のコストダウンを実現するものであり、被告YKSC社は被告ソフトを自らの工事業務で使用して効率化することで利益を得ると同時に、被告ソフトを使用することで難易度が高く工事金額が高額な工事業務を受注することができたものであると主張する。 しかしながら、本件請求書に記載された工事の具体的内容や、工事施工の際の被告ソフトの使用の有無、被告YKSC社がこれらの工事を受注した経緯等については、証拠上明らかではなく、原告の主張を裏付けるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。 (オ) 施工管理業務について 原告は、施工管理業務とは土木工事の具体的な作業場所を測量用ソフトウェアにより特定して指示を出す作業であり、現地において被告ソフトを使用して、どこに何を設置するかを把握できるからこそ、的確な指示が可能になるものであるから、施工管理業務は被告ソフトを使用した結果に基づく業務であると主張する。 しかしながら、施工管理業務の一般的な内容や被告YKSC社が現に行った施工管理業務の内容が原告の主張どおりであることについては、これを認めるに足りる証拠はない。また、被告YKSC社が発行した請求書の中には、「品名及び工事内容」の欄に「測量及び施工管理費」と記載されているものもあるものの(乙26の2・9月分の請求書(6枚目)等)、単に「測量」と記載されているというだけでは、被告YKSC社が被告ソフトを使用して施工管理業務を行ったことを裏付けるに足りない。 したがって、原告の主張は理由がない。 (カ) 限界利益について 著作権を侵害した者が「その侵害の行為により」受けた「利益」(著作権法114条2項)とは、いわゆる限界利益であると解される。 証拠(乙11の1、3〜5)及び弁論の全趣旨によれば、平成18年8月31日終了事業年度(1期)から平成21年8月31日終了事業年度(4期)までの間における、被告YKSC社の売上高の合計額は4億2143万1384円(20,138,050+121,484,073+137,885,662+141,923,599=421,431,384 円)であり、変動経費として売上高から控除すべき費用(材料費、外注加工費、旅費交通費)の合計額は1億3611万8708円(2,664,896+43,659,701+49,072,556+40,721,555=13,618,708 円)であると認められるから、上記期間における被告YKSC社の限界利益の合計額は2億8531万2676円であり、売上高に占める変動経費の比率は約32%であると認められる。 本件では、上記のとおり、別紙売上集計表記載の一般測量、丁張測量、位置郎リース、成果(データ作成、図面・他成果)業務の売上高の一部について、被告ソフトを使用したことによる売上高であると認められるところ、上記認定に係るこれらの業務の性質や、被告YKSC社の業務のうち被告ソフトを使用したものと認められなかった業務の性質等を考慮すると、上記限界利益を算定するに当たって売上高から控除すべき変動経費は、売上高の30%と認めるのが相当である。 したがって、上記(ア)a、b、同(イ)a、同(ウ)認定の売上高の合計額から30%を控除した2264万5665円({6,560,430+17,942,240+3,535,450+2,319,200+1,993,630}円×0.7=22,645,665円)が、被告YKSC社が被告ソフトを使用したことによる利益であると認められる。 (キ) 平成21年9月1日以後の被告YKSC社の利益 平成21年9月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時までの損害額については、上記の1期ないし4期における被告YKSC社の利益(2264万5665円。ただし、被告YKSC社が設立したのは平成18年4月であるため、1期については、5か月間の利益となる。)の1年当たりの平均額である662万7999円(22,645,665÷41×12=6,627,999円)を下らないものと認められる。 (ク) 小括 よって、被告YKSC社の利益の合計額は、2927万3664円となる。 (2) 被告ソフトの使用による被告ワイケイズ社の利益について 原告は、被告ワイケイズ社が行った工事は同社が被告YKSC社と連携して専ら被告ソフトを利用して行ったものであり、被告ワイケイズ社は被告ソフトを使用することによって上記工事について3%ないし5%のコストダウンを実現したものであるから、同社は被告ソフトを使用することによって工事の売上高の3%に相当する利益を得たと主張する。 しかしながら、被告ワイケイズ社において工事を施工するに当たり、同社が自ら被告ソフトを使用して測量等を行い、収入を得ていたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲75の2、乙26の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、被告ワイケイズ社は、同社で施工する土木工事における測量作業については、被告YKSC社に委託し、報酬を支払っていたことがうかがえる。仮に、被告ワイケイズ社が、測量業務を被告YKSC社に委託することによって工事のコストダウンを実現することができたとしても、このような利益は、被告ワイケイズ社が被告ソフトを使用することによって受けたものとはいえない。 したがって、原告の主張は理由がない。 (3) 調査費用について 原告は、被告らによる原告プログラムの著作権侵害等に関する活動状況の調査を東京経済社に依頼し、同社に対して調査費用等として14万4730円を支払ったと主張し、同額の損害賠償を求めている。 しかしながら、証拠(甲60、61、63、64、甲65の4〜8)及び弁論の全趣旨によれば、上記調査は、被告プログラムが原告プログラムを複製ないし翻案したものであるかといった、著作権侵害に当たる行為の有無を調査したものではなく、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社の財務状況や、対外的な関係(支払の遅れの有無等)を調べたものにすぎないこと、被告らは、本件訴訟において、被告YKSC社及び被告ワイケイズ社の財務状況に関する資料を任意に提出していることが認められる。 そうすると、これらの調査に要した費用は、被告らによる上記著作権侵害行為との間に相当因果関係がある損害とは認めることができず、原告の主張は理由がない。 (4) 弁護士費用について 原告は、弁護士を選任して本件訴訟を追行しており、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると、上記著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、300万円と認められる。 (5) 小括 したがって、被告らは、原告に対し、上記(1)及び(4)の合計額である3227万3664円及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払う義務がある。 また、遅延損害金の起算日については、次のとおり認めるのが相当である。 ア 平成19年10月6日(訴状送達の日の翌日)を起算日とするもの983万3716円(算定根拠については、別紙損害額算定表記載のとおり。以下同じ。) イ 平成21年3月7日(訴え変更申立書の送達の日の翌日)を起算日とするもの 998万3927円 ウ 平成21年8月31日を起算日とするもの 509万2587円 エ 平成23年2月25日(本件訴訟の口頭弁論終結日)を起算日とするもの 736万3434円 6 よって、原告の請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれもないからこれを棄却し、仮執行宣言については、主文第1 項及び第2項については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 山門優 裁判官 柵木澄子は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 阿部正幸 (別紙のうち、「被告YKSC社の売上集計表」と「損害額算定表」は省略) 別紙 被告製品目録 製品名「位置郎」として製造、使用されているソフトウェア 以上 |
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