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【事件名】広告文言の著作物性事件(2)
【年月日】平成23年5月26日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10006号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成20年(ワ)第27432号)
 (口頭弁論終結日 平成23年4月28日)

判決
控訴人 オーインクメディア サービス株式会社
同訴訟代理人弁護士 鈴木仁志
同 望月しのぶ
被控訴人 ロジテック株式会社
同訴訟代理人弁護士 小倉秀夫


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、1650万3562円及びこれに対する平成19年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、URLを「http://www.logitec.co.jp/data_recovery/index.html」とするウェブサイト上に、原判決別紙謝罪広告目録記載の体裁及び内容の謝罪広告を本判決確定の日の翌日から90日間掲載せよ。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本判決の略称は、当事者の呼称を含め、審級に応じた読替えをするほか、原判決に倣う。
1 本件は、控訴人が、インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被控訴人の行為は、主位的に、@控訴人が創作し、そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって、控訴人の著作権(複製権、翻案権、二次的著作物に係る公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、又は、著作権法113条6項のみなし侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、当該不法行為に基づき、著作権法114条2項、3項の規定による損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載を求め、予備的に、A被控訴人の上記行為は、著作権侵害の不法行為に当たらないとしても、一般不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、当該不法行為に基づき、上記@と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条に基づく謝罪広告の掲載を求める事案である。
 原判決は、控訴人は、ウェブサイト掲載の本件コンテンツに係る著作権の侵害を主張するが、同コンテンツに係るどの部分の著作権を侵害したのかを具体的に主張しないから、同コンテンツに係る著作権侵害の成否を判断することはできず、また、ウェブサイト掲載の広告である控訴人文章と被控訴人文章とは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、共通点が存することをもって、複製又は翻案に該当するということはできない等として、著作権及び著作者人格権侵害を否定して、主位的請求を棄却し、一般不法行為についても、被控訴人文章が控訴人文章に依拠して作成されたものであったとしても、被控訴人が被控訴人文章をそのウェブサイトへ掲載した行為が、公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱して不法行為を構成すると認めることはできないとして、予備的請求を棄却したため、控訴人が、これを不服として控訴に及んだ。
2 前提となる事実
 控訴人の請求について判断する前提となる事実は、原判決2頁15行目から3頁10行目までに摘示のとおりであるから、これを引用する。
3 本件訴訟の争点
(1) 著作権侵害の成否(争点1)
(2) 著作者人格権侵害の成否(争点2)
(3) 一般不法行為の成否(争点3)
(4) 控訴人の損害額(争点4)
(5) 謝罪広告の必要性(争点5)
第3 当事者の主張
1 原審における主張
 当事者の原審における主張は、原判決3頁18行目から17頁6行目までに摘示のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における争点1(著作権侵害の成否)についての補充主張
〔控訴人の主張〕
(1) 原判決の判断基準について
ア 原判決は、「創作的に」表現されたというためには、作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが、@文章がごく短いものであったり、A表現形式に制約があるため他の表現が想定できない場合や、B表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が現れているとはいえず、創作的な表現ということはできないとする。
 しかしながら、文章がごく短くても、俳句のように「何らかの個性」が認められる場合があることはいうまでもない。
 また、「選択の幅」がない表現は存在しないから、創作性の要件の判断基準としては、表現過程において個性が発揮されているか否か、すなわち、よく知られた表現を模倣・盗用したか否かについて判断すれば足りるというべきであり、「平凡かつありふれた表現」などという不明確な下位概念は不要である。
 したがって、上記@ないしBは、「何らの個性もない」と判断されることが比較的多いケースを例示したものにすぎず、これらの1つにでも該当すれば、創作性が必ず否定されるというものではない。
 表現が「平凡かつありふれたもの」であったとしても、新しい知見に基づく表現である場合や、表現の際、複雑な事項を一般人が理解しやすいように論理を整理し、取り上げるべき事項を取捨選択し、一定の観点から配列し、平易な言葉を選択し、表現するという一連の作業がされている場合には、その作業の過程において作者の相当の精神的活動が行われているのであるから、その表現に「個性」が発揮されていることは明らかである。
 そして、創作性とは、作者独自の精神活動の成果として新たな価値を伴う表現物が創作されていると認められるか否かにより判断されるべきものであるから、「新しい知見に基づく表現物」や「従前に同様のものが存しておらず、一定の創意工夫の下に表現されたものと評価し得るもの」には創作性が認められるべきである。
 そうすると、控訴人文章のように、当時、広く一般的には知られていなかったデータ復旧サービスについて、控訴人の創意工夫のもとに表現されたものについては、創作性が明らかに認められるものである。
 原判決の判断基準によると、通常は使用されない「特殊」な言葉を用いて「特別の工夫」を凝らした文章だけを「著作物」とするものに等しく、明らかに誤りであるのみならず、@著作権法は「表現」を保護するものであって、「認識」や「アイデア」を保護するものではなく、A表現行為のうち、単に「記述順序のみ」が同一という場合には、その記述順序自体が独創的でなければ表現上の創作性は認め難いと判示し、「平凡かつありふれた表現」か否かという不明確な規範を排除した江差追分事件最高裁判決(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)にも反するものである。
イ 原判決は、被控訴人文章に係る著作権侵害の成否を判断する際、控訴人文章及び被控訴人文章を、「構成や記述順序」「原判決別紙文章対比表記載のNo1ないしNo3C」にそれぞれ分解し、別個独立に創作性の有無を判断する。
 しかしながら、「創作性」とは、「ありふれた表現」の「選択」と「組合せ」に存在するものであるから、著作物を殊更細分化した上で、各要素ないし表現について別個独立にそれぞれ創作性を判断すると、個々の表現が「ありふれたもの」となることは必然である。
 したがって、創作性の有無は、表現過程と表現自体において個性が発揮されているか否かによって判断されるべきであって、原判決の判断手法は誤りである。
(2) 原判決の認定の誤りについて
 原判決第3の1〔原告の主張〕(5)@ないしHの各事情のほか、I同業他社(グーグルにおいて検索上位に表示される各データ復旧業者)のウェブ広告は、同一サービスの広告でありながら、そのレイアウト、構成、言い回し等はそれぞれ独自の個性によって工夫されていること、J被控訴人に対し、ウェブサイト閲覧者にデータ復旧サービスと修理との違いを理解してもらうために例えを用いて説明するようにアドバイスしたという株式会社ワイ・イー・データ(以下「ワイ・イー・データ」という。)のウェブ広告も、控訴人文章と類似するものではなく、「修理」との対比に重点が置かれた表現なども存在しないことを考慮すると、控訴人文章には、全体として「何らかの個性」が発揮されていることは明らかである。
 しかも、控訴人がデータ復旧サービスを開始した当時、このようなサービスは広く一般的には知られていなかったのであるから、控訴人文章が「ありふれた表現」であったはずがない。原判決は、データ復旧サービスが当時広く一般的には知られていなかったことを認定しながらも、新しいサービスに関する控訴人文章の表現を「ありふれた」ものとしており、明らかに誤りである。
 また、仮に表現上の制約があり、表現の選択の幅が小さい場合であっても、他に異なる表現があるにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には、複製権侵害に当たるというべきである。
 したがって、一般に周知されていない内容に関する文章を含むウェブページのうち、18文にも及ぶ文章、その構成、記載順序、記号、疑問文等の表現上の特徴のいずれもが全て一致ないし酷似している本件において、「同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる」ことは明らかである。
(3) 小括
 以上からすると、被控訴人文章は、控訴人文章の著作権(複製権又は翻案権)を侵害するものであるというべきであって、原判決の認定は誤りである。
〔被控訴人の主張〕
(1) 原判決の判断基準について
ア 平凡かつありふれた表現には、そもそも表現者の「個性」すなわち「その個人にしかない性格や性質」などは全く発揮されていないから、創作性が認められないことは当然である。むしろ、表現に「個性」が発揮されているといえるためには、その表現が平凡なものではないことが必要であり、表現上の格別な工夫があるとはいえない部分には、表現者の個性が発揮されているということはできない。
 控訴人が主張する「表現に作成者の何らかの個性が発揮されているか否か」という基準よりも、「文章がごく短いものであるか否か」「表現形式に制約があるため他の表現が想定できないか否か」「表現が平凡かつありふれたものであるか否か」という原判決の基準の方が具体的で明確である。著作権法が保護の対象とするのは表現された結果としての「著作物」に限定されること、表現過程は第三者が容易に知り得ないことからすると、創作性の有無の判断においては、表現過程を斟酌することは適切ではない。
 「よく知られた表現を模倣したり盗用したりした」のでなければ「平凡かつありふれた表現」であっても「創作性」が認められるとすると、格別に工夫された「表現」ではなく、特定の「思想又は感情」あるいは事実を表現すること自体を先行表現者に独占させることになりかねず、不当である。
イ 原判決は、控訴人の選択に基づき、原判決別紙文章対比表記載のとおり、各まとまりごとに検討を加えたものであって、特に恣意的に各文章表現を細分化したわけではない。控訴人は、ごく短い表現となるまで細分化すると、ありふれた表現になることは明らかであるなどと主張するが、そもそも控訴人文章と被控訴人文章との共通点は、その程度のものにすぎない。
 また、創作性の判断において、「構成や記述順序」の創作性と個々の文章の創作性とを総合して考察することは、相当ではない。
 しかも、文章を全体として考察し、創作性を認めることができれば、個々の文章等にありふれた文章があっても全体としての著作物性は否定されないが、全体としての創作性が認められたからといって、共通部分がありふれたものであれば、複製権侵害又は翻案権侵害が認められるわけでもない。本件で著作権侵害が否定されたのは、控訴人文章と被控訴人文章との共通部分がありふれた表現にすぎなかったからにほかならない。
(2) 原判決の認定の誤りについて
 控訴人指摘の各事情は、いずれも控訴人文章に創作性が認められることを裏付けるものではない。
 また、控訴人は、控訴人文章と被控訴人文章とは、18文にも及ぶ文章、構成等の表現上の特徴について、いずれも全て一致ないし酷似しているとするが、原判決別紙文章対比表記載のとおり、当該18文が一塊になっているわけではない。しかも、個々の文章についても、表現としては全く似ていないものである。
 したがって、控訴人文章と被控訴人文章とは、一定以上のまとまりを有し、記述の順序を含めた具体的表現において同一であるということもできない。
(3) 小括
 以上からすると、被控訴人文章は、控訴人文章の著作権(複製権又は翻案権)を侵害するものではないから、原判決の認定に誤りはない。
3 当審における争点3(一般不法行為の成否)についての補充主張
〔控訴人の主張〕
(1) 原判決は、本来、被控訴人文章について認められるべき著作権侵害を否定したのみならず、一般不法行為の成立までも否定している。
 しかしながら、@他人の文章に依拠して別の文章を執筆し、ウェブサイトに公表する行為が、A営利目的によるものであり、B文章自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は、著作権侵害の不法行為に当たらない場合であっても、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして、一般不法行為を構成するというべきである。
(2) 被控訴人が、控訴人文章に依拠して被控訴人文章を作成したことは、原判決が認定したとおりである。
 また、被控訴人が営利目的で行っているデータ復旧サービスに関する業務内容を紹介するウェブサイトに被控訴人文章が掲載されていたのであるから、被控訴人文章の作成及び掲載は、営利目的によるものであることは明らかである。
(3) 以下の各事情からすると、全体的印象に照らし、他人の成果物を不正に利用して利益を得たものと認められることは明らかである。
ア 他人の成果物の不正利用
 控訴人文章と被控訴人文章とが、その@全体的構成、A記載の順序、B小見出しを有する点、C用語、D言い回しにおいて共通することは、原判決が認定したとおりであるし、デッドコピーと同視できる箇所もある。
イ 利益の享受
(ア) 控訴人文章は、控訴人において、世間一般に知られていなかったサービスにつき、顧客から誤解に基づくクレームを受けた等の業務経験に鑑み、試行錯誤を行いながら、構成、記載順序、重点配分、見出し、文章の平易さ、分量、記号、例示、その他の選択及び配列において工夫を行い、控訴人代表者が、テクニカルライターとしての経験を活用して書き上げたものである。
 したがって、被控訴人は、このような先行企業による成果物に無断で「ただ乗り」し、未経験業務の広告を自社ウェブサイトという重要な媒体において公表することに成功しているのであるから、被控訴人が他人の成果物を不正に利用してビジネス上の利益を享受していることは明らかである。
(イ) 被控訴人は、サービス開始当初から本件訴訟が提起されるまでの約16か月間にわたり、被控訴人文章を唯一の広告手段として顧客獲得において活用し続けていたものであるから、被控訴人が被控訴人文章により利益を得ていたことは明らかである。
(ウ) 被控訴人は、主としてインターネット受注により顧客を獲得しており、別ルート(サポート窓口経由)の受注は、極めて少なかったものである。
 被控訴人は、データ復旧サービス開始2年後には、売上げ4億円、利益1億円という目標を掲げていたが、サポート窓口からは月に20件程度の受注しか見込めなかったのであるから、当初からインターネット広告によるウェブ受注が中心となることが想定されていた。
 したがって、このような巨額のプロジェクトにおいて、定評のあった先行企業の広告を盗用し、その顧客誘引力を奪った被控訴人の行為は、極めて違法性の高い不公正な競争行為にほかならない。
 この点について、原判決は、被控訴人文章の掲載等により被控訴人は直接利益を得ているわけではないなどとするが、企業の利益には、顧客勧誘による売上げの増加、平易な解説によるイメージの向上、クレーム防止の工夫の凝らされた説明による不要なトラブルの回避、盗用による作成担当従業員の作業(労力)及び人件費の節減、広告文の外注費発生回避等の様々な利益が含まれるものであって、直接の利益に限られるものではない。先行のライバル企業の広告文を盗用することにより、被控訴人が有形無形・直接間接の利益を享受していたことは明らかであり、その文章を販売しない限り「公正な競争行為」であるとする原判決の判断は誤りである。
(エ) データ復旧サービスの利用者が、「広告文の表現内容のみ」で当該サービスを利用するか否かを判断するものではないことは当然であって、そのことをもって、控訴人文章が無価値であるとか、被控訴人が利益を享受していないなどとすることは誤りである。
(オ) 原判決は、被控訴人文章が、全体の2分の1以上を占めるその他の部分が控訴人文章の表現とは類似していないことを理由として、被控訴人の行為は「公正な競争行為」といえるとする。
 しかしながら、全体の2分の1に近い部分を盗用してもなお「公正な競争行為」であるとするのは、明らかに誤りである。
(4) 小括
 以上からすると、被控訴人が控訴人文章に依拠して被控訴人文章を作成したことは、到底「公正な競争行為」に該当するということはできず、少なくとも一般不法行為に該当するものといわなければならない。
 実質的にも、競業他社の企業広告を盗用して広告を作成した場合において、「一般的に使用される言葉」を用い、「広告用文章で広く用いられる一般的な表現手法」によって表現された広告であれば、それが精選された言葉によってサービスを平易かつ簡明にユーザーに訴求する文章について18文にもわたって同業者に盗用されたとしても、何ら違法ではないとされるのであれば、広告にふさわしい最適の言葉と手法で表現すればするほど、「一般的」で「ありふれた」ものとされ、広告文の著作物性が認められなくなるという健全な常識に反する結果となるものである。原判決の判断は明らかに誤りである。
〔被控訴人の主張〕
(1) 著作物性がない表現やアイデア等は何人も自由に使用し得ることが原則であり、著作物性のない表現の利用が一般不法行為を構成するのはあくまでも例外にすぎない。著作権法等の保護の対象外である以上、原則として当該情報は自由利用の領域に属し、その情報を使用して自由に競争し得ることを意味するから、先行作品と後発作品との間で同一性がある部分に創作性が認められないにもかかわらず、後発作品について一般不法行為が成立する要件としては、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害する場合に限られる。
(2) 控訴人文章と被控訴人文章との間には共通する部分はあるが、その部分は著作物性がないのみならず、控訴人の知的成果物とすらいえないものである。
 原判決は、被控訴人文章は、控訴人文章に依拠して作成されたことがうかがわれると指摘するにとどまり、依拠の事実を認定したわけではないし、被控訴人が控訴人文章の全体の2分の1に近い部分を盗用したなどと認定しているものでもない。
 しかも、原判決は、A が被控訴人文章を作成するだいぶ前に、インターネットにおける検索上位100番から200番くらいを見ていた中に控訴人文章も含まれていたかもしれないという程度の理由を指摘しているにすぎず、依拠がうかがわれるとした原判決の認定自体がむしろ不当である。
(3) 先行作品に含まれる創作性のない表現を組み入れた表現を後発作品に用いることによって直接又は間接の利益を得たからといって、公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱して不法行為を構成するものではないから、被控訴人文章が被控訴人のデータ復旧サービスの広告として用いられ、その結果、同サービスの顧客増に貢献する等の間接的な利益をもたらしたとしても、控訴人が被控訴人より先に使用していた、著作物性がなく原則としてだれでも使用可能な文章を用いたことをもって、一般不法行為が成立するものではないことは明らかである。
 また、被控訴人は、ウェブサイトのほかに、親会社による営業やサービスセンターにおける説明などを通じてデータ復旧サービスを広報していたものであり、被控訴人文章は、顧客を誘引する目的というよりも、被控訴人がデータ復旧サービスを開始したことを告知する目的で作成し、公開したものにすぎない。
 したがって、被控訴人は、控訴人文章にも使用されている言い回しを使用することによって特段のビジネス上の利益を享受したわけではない。控訴人は、控訴人文章と被控訴人文章とを細分化して何らかの共通点を有する部分をまとめ上げた上で、その共通する表現部分に創作性があろうとなかろうと、その表現を用いることによって何らかの利益を直接又は間接に被控訴人が享受すれば、一般不法行為が成立すると主張するにすぎない。
 なお、新規サービスを開始する際、高い売上げ目標を設定することは珍しいことではない。仮に控訴人が主張するとおり、被控訴人がインターネット広告を重視し、被控訴人文章の言い回し等により顧客の誘因を意図していたのであれば、被控訴人文章公開後、売上げが当初の目標を大きく下回りながらも、本訴提起に至るまでの16か月間、被控訴人文章に何らの改善を加えることなく放置しているはずがない。控訴人の主張は誤りである。
(4) 控訴人文章がウェブページに公開された当時ですら、データ復旧サービスはそれなりに広く知られていたものであり、控訴人の主張はその前提自体が誤りである。また、文章の構成、配列、表現等が「平易」であること、小見出しに疑問文を用いたこと、「・」や「?」等の記号を用いたことをもって、一般不法行為が成立する理由とすることは、明らかに不当である。控訴人の主張は、「データ復旧」等の技術用語や一般的な言い回し、表現テクニック、基本的な論述順序、「データ復旧サービス」についてそれとは似て非なる概念である「修理」との対比で説明するというアイデアの使用を禁止することにより、後発業者に競争上の不利益を課すことを要求しているものにすぎず、実質的にもむしろ不当である。
(5) 小括
 以上からすると、一般不法行為も成立しないとした原判決の判断に何らの誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 複製権又は翻案権侵害の判断について
ア 著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。ここで、再製とは、既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであるが、同一性の程度については、完全に同一である場合のみではなく、多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない、すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
 しかるところ、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないものと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(同法2条1項1号)。
 そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
イ この点について、控訴人は、表現が「平凡かつありふれたもの」であったとしても、新しい知見に基づく表現である場合や、表現に際し、複雑な事項を一般人が理解しやすいように論理を整理し、取り上げるべき事項を取捨選択し、一定の観点から配列し、平易な言葉を選択し、表現するという一連の作業がされている場合には、その作業の過程において作者の相当の精神的活動が行われているのであるから、控訴人文章のように、当時、広く一般的には知られていなかったデータ復旧サービスについて、控訴人の創意工夫のもとに表現されたものについては、創作性が認められると主張する。
 しかしながら、著作権法は、あくまで表現をその保護の対象とするものであるから、「新しい知見」であるか否かを問わず、単なる事実や思想、アイデアを保護するものではない。データ復旧サービスに関する知見が「新しい知見」であったとしても、当該知見に関する単なる事実や思想等について、ありふれた表現で表現するにすぎない場合や、一般的に使用されるありふれた言葉を選択し、組み合わせたにすぎない場合には、その「選択」と「組合せ」に創作性を認めることはできない。
 そして、控訴人代表者が控訴人文章を作成する際、取り上げるべき事項を取捨選択し、一定の観点から配列するなどの創意工夫を行ったとしても、編集著作物の要件を満たす場合は格別として、そのような作業過程を経たことをもって、その成果物について、直ちに創作性を認めることができないことも明らかである。
ウ したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 本件コンテンツについて
ア 控訴人は、本件コンテンツに係る著作権の侵害を主張するところ、甲3の1の3枚目から5枚目のウェブページに表示されたコンテンツ全体が本件コンテンツであるというのである。
イ しかしながら、控訴人が本件コンテンツについて主張する、ウェブページとして視覚的にも操作性の面でも分かりやすくなるように「サービスメニュー」ボタンが設けられ、その配置、分類及び表現(「HDD/ハードディスク」「サーバ/RAID」「デジカメ/フラッシュメモリ」「FD/MO/CD/DVD」)にも配慮し、タブメニューも設置の上、その構成、分類及び表現(「ホーム」→「データSOS とは」→「サービスの流れ」→「よくある質問」)にも配慮がされているとする部分は、甲3の1の1枚目及び2枚目に表示されているものである。
 この点はともかく、甲3の1枚目及び2枚目が本件コンテンツに含まれるものと解するとしても、上記ウェブページの「サービスメニュー」における「HDD/ハードディスク」「サーバ/RAID 」「デジカメ/ フラッシュメモリ」「FD/MO/CD/DVD」の各記載は、データ復旧サービスの対象となる保存媒体を示す語にすぎない。
 また、「ホーム」は、ウェブページを閲覧する場合に最初に表示される画面を、「データSOS とは」「サービスの流れ」は、提供するサービスの概要を、「よくある質問」は、提供するサービスに関する主な質問とその回答を表示することにより当該サービスに対する情報を提供するタブメニューであって、ウェブページによる広告においてはありふれた表現手法にすぎない。
 そして、その余の分類、配置及び表現も、控訴人文章について後に詳述するとおり、ごくありふれたものであり、作成者の個性が現れているとはいえない。
ウ したがって、控訴人の本件コンテンツに係る著作権侵害の主張は失当というほかない。
(3) 控訴人文章全体の構成及び記述順序について
ア 控訴人は、控訴人文章に係る著作権侵害について、まず、原判決別紙文章対比表の控訴人文章欄記載の各下線部分を1つのまとまりとした全体的な構成、記載順序、配列、小見出し等の具体的な表現につき、被控訴人文章は控訴人文章と表現上の同一性を有しており、複製に当たると主張する。
イ 前記各下線部分は、本判決別紙控訴人・被控訴人各文章対比表記載のとおりであって、確かに、控訴人文章と被控訴人文章とは、データ復旧サービスの概要について、その概念、利用が検討される状況、修理との相違、データ復旧の重要性の順序に従って、いわゆるQ&A方式で解説を加えるもので、その全体的な構成、記載の順序、小見出しを有する点について共通する。
 しかしながら、控訴人文章は、データ復旧サービスについての一般消費者向けの広告用文章として、データ復旧サービスの基本的な内容を説明するものであるから、このような一般消費者向けの広告用文章においては、広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため、平易で簡潔な表現を用いること、各項目ごとに端的な小見出しを付すこと、説明の対象となるサービスとはどのようなものか、どのような場合に利用するものなのか、異なる商品やサービスとの相違点は何かについて、上記各構成、順序で記載することなどは、広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法にとどまり、控訴人主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているとまでいうことはできない。
ウ したがって、控訴人文章と被控訴人文章との間に、表現上の創作性がない部分にすぎない上記各構成及び順序が共通することをもって、複製又は翻案に該当するということはできないから、この点において、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 個別の文章に係る複製権又は翻案権侵害について
ア 控訴人は、次に、本判決別紙控訴人・被控訴人各文章対比表の被控訴人文章欄記載の各文章(以下、w搭L載の数字により「被控訴人文章1」などという。)について、それぞれ対応する同別表控訴人文章欄記載の各文章(以下、同様に、「控訴人文章1」などという。)の複製又は翻案に当たると主張する。
イ そこで、以下、個別に検討する。
(ア) 控訴人文章1について
 控訴人文章1(「|データ復旧って何?」)と被控訴人文章1(「|データ復旧サービスとは?」)とでは、控訴人及び被控訴人が業として行っているデータ復旧サービスの内容を説明する文章の見出しとして、データ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文である点で共通している。
 しかしながら、控訴人文章1は、文章自体がごく短いものであり、また、Q&A方式の文章において、「データ復旧」というサービスを示す単語に「何?」という疑問を表すごくありふれた言葉を使ってデータ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文として表現したものであって、平凡かつありふれたものというほかなく、創作的な表現とはいえない。
 したがって、控訴人文章1と被控訴人文章1とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(イ) 控訴人文章2@について
 控訴人文章2@(「|どんな時に利用されるの?」と被控訴人文章2@(「|どのようなときに利用するサービスなのか?」)とでは、データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを説明する文章の見出しとして、データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを問う疑問文である点で共通している。
 しかしながら、控訴人文章2@は、文章自体がごく短いものであり、また、Q&A方式の文章において、データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものにとどまり、創作的な表現とはいえない。
 したがって、控訴人文章2@と被訴人文章2@とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(ウ) 控訴人文章2Aについて
 控訴人文章2A(「・バックアップを取っていない」「・バックアップを戻せない」)と被控訴人文章2A(「・バックアップを取っていない」「・バックアップからシステムを復帰できない」)とでは、データ復旧サービスを利用すべき場合の具体例として、バックアップを取っていない場合又はバックアップからシステムを復旧することができなかった場合を指摘する点で共通している。
 しかしながら、控訴人文章2Aは、いずれも文章自体がごく短いものであり、また、「バックアップを取っていない」とは、「バックアップ」と「取っていない」というごくありふれた言葉を組み合わせた平凡かつありふれた表現であって、創作的な表現とはいえないことは明らかである。
 同様に、「バックアップを戻せない」についても、バックアップからシステムを復旧できないことの表現として、「バックアップ」と「戻せない」というごくありふれた言葉を組み合わせた平凡かつありふれた表現であって、創作的な表現とはいえないことは明らかである。
 したがって、控訴人文章2Aと被控訴人文章2Aとは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(エ) 控訴人文章2Bについて
 控訴人文章2B(「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして、データ復旧サービスの利用を検討します。」)と被控訴人文章2B(「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして、データ復旧技術サービスの利用をご検討ください。」)とでは、その前の説明で指摘した非常事態に遭遇した場合に、有効な回復策の一つとしてデータ復旧サービスの利用を検討することを記述している点で共通する。
 しかしながら、先に具体例として指摘した非常事態が発生した場合に、データ復旧サービスを検討することになる点は、事実にすぎずない。
 しかも、控訴人文章2Bは、文章自体がごく短いものであり、また、問題が生じた場合にその対応策を検討することを一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、表現上の格別な工夫があるとも認められず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、控訴人文章2Bと被控訴人文章2Bとは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において共通性を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(オ) 控訴人文章3@について
 控訴人文章3@「|修理と何が違うの」と、被控訴人文章3@「|データ復旧と修理サービスとの違いは?」とでは、データ復旧サービスとパソコン等の修理との相違を説明する文章の見出しとして、修理とは何が違うのかを問う疑問文である点で共通する。
 しかしながら、控訴人文章3@は、文章自体がごく短いものであり、また、Q&A方式の文章において、修理との相違点を問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものであって、創作的な表現とはいえない。
 したがって、控訴人文章3@と被控訴人文章3@とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(カ) 控訴人文章3Aについて
 控訴人文章3A(「パソコン修理=パソコンの機能を取り戻すことに主眼を置きます。」「たとえばハードディスクが故障した場合、新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし、新しいものに交換すれば当然データは戻りません。」「データは消えてもパソコンは直る。これが修理の基本的なスタンスです。」)と被控訴人文章3A(「1.パソコン・機器等の修理 パソコンの動作的な機能を取り戻すことに主眼を置きます。」「例えばハードディスクが故障した場合、新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし、新しいものに交換すれば当然データは戻りません。」「データは消えてもパソコン・機器は元に戻ります。これが修理サービスの基本的な考え方です。」)とでは、パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと、ハードディスクが故障した場合に新しいものに交換すればパソコンは機能を取り戻すが、当然データは戻らないという具体例を挙げて、データは消えてもパソコンは直るということがパソコン修理の基本的な立場であることを上記各順序で記述する点で共通している。
 しかしながら、パソコンの修理が、保存されているデータを保護することよりもパソコンの動作の回復を主眼とするものであること、ハードディスクを交換した場合にはデータが戻らないことは、事実にすぎない。
 しかも、データ復旧と比較してパソコンの修理を説明する場合、データが保存されているハードディスクの故障を具体例として挙げること自体は当然のことというべきであり、また、ハードディスクを交換すればパソコンの機能は回復するが保存されていたデータが喪失することも当然の事実であって、その表現形式は制約が大きいと認められ、控訴人文章3Aは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと、ハードディスクが故障した場合に交換すればパソコンは機能を取り戻すがデータは戻らないこと、データは消えてもパソコンは直ることがパソコン修理の基本であることについて、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものというほかなく、表現上の格別な工夫があるということはできず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 また、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護される表現には当たらない。
 したがって、控訴人文章3Aと被控訴人文章3Aとは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(キ) 控訴人文章3Bについて
 控訴人文章3B(「データ復旧=データを取り戻すことに主眼を置きます。」「データを取り戻すためなら、分解や破壊といった修理とはむしろ逆になることも行います。たとえるなら」)と被控訴人文章3B(「2.データ復旧技術サービスの場合 データを取り戻すことに主眼を置きます。」「データを取り戻すためなら、分解や破壊といった修理とは逆行為になることも行います。例えば」)とでは、データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと、データを取り戻すためなら分解や破壊といった修理とは逆のことも行うことを上記各順序で記述する点で共通している。
 しかしながら、データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと、保存されているデータを取り出すためには、パソコンの分解や破壊という修理とは逆の行為を行うこともあることは、事実にすぎない。
 しかも、控訴人文章3Aにおいて、データ復旧と比較してパソコンの修理を説明するに当たり、パソコンを修理するためにはデータ自体が失われる可能性を説明したことに続いて、パソコンの修理と比較してデータ復旧を説明する場合に、データを保護するためにはパソコン自体を破壊するような行為を行うことを具体例として挙げることも珍しいことではなく、その表現形式は制約が大きいと認められ、具体的な表現についても自ずと限定されるものということができる。
 控訴人文章3Bは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと、保存されているデータを取り出すためにはパソコンの分解や破壊という修理とは逆の行為を行うこともあることを、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものというほかなく、表現上の格別な工夫があるということはできず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 また、先に述べたとおり、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護される表現には当たらない。
 したがって、控訴人文章3Bと被控訴人文章3Bとは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(ク) 控訴人文章3Cについて
 控訴人文章3C(「パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし、パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増しています。」「パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのか、データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」)と被控訴人文章3C(「パソコン・機器そのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし、パソコンに保存されているデータは…一段と重要性を増しています。」「パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのか、データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」)とでは、パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなったが、パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増していること、パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのかデータが大切なのかをよく見極めることが大切であることを上記各順序で記述する点で共通している。
 しかしながら、パソコンはそれほど高価なものではなくなったが、パソコンに保存されたデータの重要性が増加していること、パソコンに問題が生じた場合にパソコンと保存されたデータのいずれかが大切なのかを見極めることが大切であることは、事実にすぎない。
 しかも、控訴人文章3Cは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、パソコンはそれほど高価なものではなくなったが、パソコンに保存されたデータの重要性が増加していること、パソコンに問題が生じた場合にパソコンと保存されたデータのどちらが大切なのかを見極めることが大切であることについて、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、表現上の格別な工夫があるということはできず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、控訴人文章3Cと被控訴人文章3Cとは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
ウ 小括
(ア) 以上からすると、被控訴人文章1ないし3Cが、控訴人文章1ないし3Cの複製又は翻案に当たるものということはできない。
(イ) この点について、控訴人は、「創作性」とは、「ありふれた表現」の「選択」と「組合せ」であるから、著作物を殊更細分化した上で、各要素ないし表現について別個独立にそれぞれ創作性を判断すると、個々の表現が「ありふれたもの」となることは必然であると主張する。
 しかしながら、著作物全体について創作性が認められる場合であっても、その中の「ありふれた表現」についてのみ共通する場合においては、複製権侵害又は翻案権侵害を認めることはできない。本件においては、控訴人自らが、原判決別紙文章対比表記載のとおり、控訴人文章と被控訴人文章について、複製権又は翻案権を侵害すると主張する箇所を特定したものであるところ、前記(4)のとおり、これらには表現上の格別な工夫がされているわけではなく、控訴人文章と被控訴人文章とは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、複製又は翻案に当たるものではない。
(ウ) また、控訴人は、仮に表現上の制約があり、表現に選択の幅が小さい場合であっても、他に異なる表現があるにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には、複製権侵害に当たるというべきであるとも主張する。
 しかしながら、控訴人文章と被控訴人文章との間には、前記(4)のとおり、見出しなどのごく短い文章やありふれた表現が一致する文章が18文程度散在するにすぎず、控訴人主張のように同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合とはいえないから、控訴人文章と被控訴人文章とが、実質的に同一であるということはできないことは明らかである。
(エ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(5) 著作権侵害の成否について
 以上のとおり、控訴人主張の本件コンテンツ及び控訴人文章の複製権侵害及び翻案権侵害はいずれもこれを認めることはできない。
 また、被控訴人文章が控訴人文章の翻案物とは認められない以上、控訴人主張の二次的著作物に係る公衆送信権侵害も認めることはできない。
2 争点2(著作者人格権侵害の成否)について
 上記1において説示したとおり、被控訴人文章は、本件コンテンツ及び控訴人文章に係る控訴人の複製権又は翻案権を侵害するものとは認められないから、被控訴人が、控訴人の氏名を表示することなく被控訴人文章を被控訴人のウェブサイトに掲載したことが、控訴人の本件コンテンツ及び控訴人文章に係る氏名表示権を侵害するということはできない。
 また、被控訴人は、被控訴人文章を被控訴人のウェブサイトに以上に検討したとおりの態様で掲載したにすぎないのであって、これを控訴人の名誉又は声望を害する方法によって本件コンテンツ又は控訴人文章を利用したもの(著作権法113条6項)ということができないことは明らかである。
 したがって、控訴人主張の著作者人格権侵害はこれを認めることができない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
(1) 控訴人は、先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナル広告文につき、同一サービスに新規参入する業務経験のない大手ライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから、先行競合企業である控訴人の広告文言を盗用した被控訴人の行為は、社会的相当性を逸脱し控訴人の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成すると主張する。
(2) 控訴人文章1ないし3Cと被控訴人文章1ないし3Cの各表現は、記載順序や構成、用語や言い回しなどがほぼ共通していること、被控訴人文章の作成担当者であるA は、被控訴人文章を作成するに当たりデータ復旧サービスを行っている100ないし200社のウェブサイトを閲覧して参考にしており(乙11、18、原審における証人A)、控訴人文章が掲載された控訴人のウェブサイトを閲覧し、これを参考にした可能性があること、被控訴人文章は、控訴人文章以外の広告文章とは共通性がないことなどからすると、被控訴人文章は、控訴人文章に依拠して作成されたものと推認せざるを得ない。
 この点について、A は、同業他社のウェブサイト閲覧は、サービス内容や価格などに着目して行ったものであり、サービスの説明方法等には関心を有していなかった、当時保存した他社情報の中には控訴人のウェブサイトはなく、控訴人のウェブサイトは閲覧していないか、閲覧したとしても参考になるものではないと判断し、流し読みした程度にすぎない、データ復旧サービスの内容を説明する文章を作成する際、同じような表現を使用してしまうことは、控訴人のウェブサイトを特に意識しなくても生じ得ることである、被控訴人文章におけるデータ復旧サービスの説明や修理サービスとの違いなどに関する部分は、被控訴人の修理サービスにおいて既に説明していたし、むしろワイ・イー・データの担当者等から聴取した内容(データ復旧と修理との作業や金額の違いについては、顧客に正しく理解してもらわないとクレームが生じるおそれがあること、クレームを避けるために説明すべき具体的事項、シュレッダーに関する例えや「逆行為」という言い回し等)に基づいて作成したなどとする(乙11、18、原審における証人A)。
 しかしながら、仮にA の説明のとおり、被控訴人文章作成の際、控訴人文章を全く参照しなかったのであるならば、控訴人文章と被控訴人文章とが、記載順序や構成がほぼ共通しているほか、データ復旧が必要となる状態を「非常事態」とした上で、データ復旧サービスを「有効な回復策の一つとして」「データ復旧サービスの利用を検討する」という具体的表現(控訴人文章2B)や、パソコン修理及びデータ復旧について「主眼を置く」点を明らかにした上で、「例えを用いて説明する」具体的表現(控訴人文章3A・B)のみならず、パソコンの低価格化とデータの重要性向上について説明した上で、パソコンに事故が起こった場合に、パソコンが大切なのか、データが大切なのかをよく見極めることが大切であると結論付ける具体的表現(控訴人文章3C)についてもほぼ一致していることは、それらがありふれた表現であることを考慮しても、不自然であるというほかない。しかも、A が被控訴人文章作成に関して情報を得たとするワイ・イー・データや他社においても被控訴人文章と同様の広告がされているわけではない(甲19、21(枝番省略。以下同じ。)、乙12〜15)。特に、A は、ワイ・イー・データの担当者から、データ復旧と修理との作業や金額の違いについては、顧客に正しく理解してもらわないとクレームが生じるおそれがあると聞いたことを強調するが、ワイ・イー・データのウェブサイトには、「データ復旧サービスは、障害を起した媒体を修理しお返しするものではありません。障害を起した媒体に処置を施し、内部のデータを回収します。そして論理的な処理によって内部に存在するデータをファイルの形にまとめ上げてから、別の記憶媒体に書き込んでお返しするサービスです。」(甲19)との記載があるのみで、「データ復旧と修理との作業や金額の違い」の詳細が記載されているものではない。被控訴人のウェブサイト(甲4)も同様である。
 したがって、控訴人がA の説明に疑問を抱き、著作権侵害が認められないとしても、なお被控訴人の行為を強く非難することは、それ自体無理からぬところである。
(3) しかるところ、控訴人は、@他人の文章に依拠して別の文章を執筆し、ウェブサイトに公表する行為が、営利目的によるものであり、文章自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである、A控訴人文章は、控訴人において、世間一般に知られていなかったサービスにつき、顧客から誤解に基づくクレームを受けた等の業務経験に鑑み、試行錯誤を行いながら、控訴人代表者が、テクニカルライターとしての経験を活用して書き上げたものであり、被控訴人は、このような先行企業による成果物に無断で「ただ乗り」し、他人の成果物を不正に利用してビジネス上の利益を享受していることは明らかである、B保護されるべき企業の利益は、直接的なものに限られるものではないなどと主張する。
(4) しかしながら、控訴人主張の「オリジナル広告文」が法的保護に値するか否かは、正に著作権法が規定するところであって、当該広告が著作権法によって保護される表現に当たらず、その意味で、ありふれた表現にとどまる以上、これを「オリジナル広告」として、控訴人が独占的、排他的に使用し得るわけではない。
 したがって、被控訴人が控訴人のそのような広告と同一ないし類似の広告をしたからといって、被控訴人の広告について著作権侵害が成立しない本件において、著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上、不法行為が成立する余地はない。
 そして、控訴人文章の作成について、いかに控訴人代表者が創意工夫をこらしたとしても、それが著作権法の保護に値せず、そのほか著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益の侵害が認められない以上、一般不法行為を理由に、法的保護を受けることができないことはいうまでもない。著作権法の保護の対象とされない表現物については、原則として自由に利用し得るものであり、前記説示のとおり、控訴人文章と被控訴人文章とは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない以上、被控訴人文章をウェブサイトに公開したことをもって、公正な競争として社会的に許容される限度を超えたものということはできない。
 さらに、被控訴人が、被控訴人文章をウェブサイトに公開したことをもって、被控訴人に控訴人指摘の何らかの利益が生じたとしても、その点について控訴人が法的保護に値する立場にない本件においては、これをもって公正な競争として社会的に許容される限度を超えたなどといい得る前提があるものではない。
(5) したがって、控訴人の主張は失当というほかない。
4 結論
 以上の次第であるから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 部眞規子
 裁判官 荒井章光

(別紙)控訴人・被控訴人各文章対比表
控訴人文章 被控訴人文章
  |データ復旧って何? |データ復旧技術サービスとは?
@ |どんな時に利用されるの? |どのようなときに利用するサービスなのか?
A ・バックアップを取っていない
・バックアップを戻せない
・バックアップを取っていない
・バックアップからシステムを復帰できない
B このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧サービスの利用を検討します。 このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧技術サービスの利用をご検討ください。
@ |修理と何が違うの |データ復旧と修理サービスとの違いは?
A パソコン修理
=パソコンの機能を取り戻すことに主眼を置きます。
たとえばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。
しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。
データは消えてもパソコンは直る。これが修理の基本的なスタンスです。
1.パソコン・機器等の修理
パソコンの動作的な機能を取り戻すことに主眼を置きます。

例えばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。

しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。

データは消えてもパソコン・機器は元に戻ります。これが修理サービスの基本的な考え方です。
B データ復旧
=データを取り戻すことに主眼を置きます。
データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とはむしろ逆になることも行います。
たとえるなら
2.データ復旧技術サービスの場合
データを取り戻すことに主眼を置きます。
データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とは逆行為になることも行います。
例えば,
C パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増しています。

パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。
パソコン・機器そのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは文書のデジタル化や利便性を追求していく現代では,一段と重要性を増しています。

パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。
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