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【事件名】折り紙の“折り図”HP掲載事件 【年月日】平成23年5月20日 東京地裁 平成22年(ワ)第18968号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年3月22日) 判決 原告 A 訴訟代理人弁護士 谷口隆良 同 青木亜也 同 眞木康州 同 細貝惟大 同 谷口優子 同 高橋暁子 被告 株式会社TBSテレビ 訴訟代理人弁護士 岡崎洋 同 大橋正春 同 前田俊房 同 渡邊賢作 同 村尾治亮 同 新間祐一郎 同 木嶋望 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 (1) 被告は、原告に対し、285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日から、内金25万円に対する平成22年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は、被告の運営するホームページ(略)上に別紙謝罪文目録1記載の謝罪文を判決確定日の翌日から1か月間掲載せよ。 2 予備的請求 (1) 被告は、原告に対し、285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日から、内金25万円に対する平成22年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は、被告の運営するホームページ(略)上に別紙謝罪文目録2記載の謝罪文を判決確定日の翌日から1か月間掲載せよ。 第2 事案の概要 本件は、折り紙作家である原告が、テレビドラマの番組ホームページに別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図(説明文を含む。以下「被告折り図」という。)を掲載した被告に対し、主位的に、被告折り図は、「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」と題する書籍(著者・原告、発行日・平成20年2月20日、発行所・株式会社誠文堂新光社。以下「原告書籍」という。)に掲載された別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図(説明文を含む。以下「本件折り図」という。)を複製又は翻案したものであり、被告による被告折り図の作成及び番組ホームページへの掲載行為は原告の著作物である本件折り図についての著作権(複製権ないし翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し、著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条に基づき被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求め、予備的に、仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても、原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し、上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払と民法723条に基づき上記ホームページに別紙謝罪文目録2記載の謝罪文の掲載を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は、動物などをモチーフにした創作折り紙を発表している折り紙作家であり、日本折紙協会及び日本折紙学会の各会員である。 イ 被告は、放送法による一般放送事業、放送番組の企画、製作及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告による本件折り図の発表 原告は、「へんしんふきごま」という名称の折り紙作品を創作し、その折り方を説明した本件折り図を原告書籍に掲載して発表した。 「へんしんふきごま」は、紙の中心を支点として、羽の面に人が吹き付ける息を受けることで、「こま」のように回転するように構成された折り紙である。本件折り図は、別紙1記載のとおり、「へんしんふきごま」の折り方について、図面、文章及び写真によって説明したものである。 (3) 被告折り図の番組ホームページにおける掲載 被告は、平成21年6月28日から同年7月7日にかけて、被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」(以下「本件ドラマ」という。)の番組ホームページ(略)(以下「本件ホームページ」という。)において、本件ドラマで用いられた「吹きゴマ」の折り紙の折り方を説明した被告折り図を掲載した。 「吹きゴマ」は、「へんしんふきごま」と同じ構成の折り紙である。被告折り図は、別紙2記載のとおり、「吹きゴマ」の折り方について、図面及び文章によって説明したものである。 2 争点 本件の主位的請求の争点は、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為が、本件折り図についての著作権侵害(複製権侵害ないし翻案権侵害、公衆送信権侵害)に当たるか(争点1)、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為が、本件折り図についての著作者人格権侵害(同一性保持権侵害、氏名表示権侵害)に当たるか(争点2)、著作権侵害及び著作者人格権侵害による原告の損害額(争点3)、原告の著作権法115条に基づく謝罪文掲載請求の可否(争点4)であり、本件の予備的請求の争点は、被告の上記行為が、原告の法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為を構成するか(争点5−1)、上記利益の侵害による原告の損害額(争点5−2)、原告の民法723条に基づく謝罪文掲載請求の可否(争点6)である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(著作権侵害の有無)について (1) 原告の主張 ア 本件折り図の著作物性 (ア) 「へんしんふきごま」は、原告が創作した折り紙作品であり、美術の著作物である。 本件折り図は、原告が作成した「へんしんふきごま」の折り方を示した折り図であって、原告の独自の学術的思想を創作的に表現した学術的な性質を有する図面であるから、著作物(著作権法2条1項1号、10条1項6号)に該当する。 (イ) 本件折り図における創作的な表現部分は、以下のとおりである。 a 説明図の選択、組合せ及び配置 「へんしんふきごま」の折り方を示す折り図においては、その折り手順のどの工程を図面(説明図)として選択して組み合わせるかによって、無限の表現方法が存在する。 本件折り図においては、「へんしんふきごま」の32の折り工程を手順1ないし10に分解した説明図と完成形を示す説明図とを選択して組み合わせている。 また、本件折り図においては、折り紙の向きを固定して表現し、読み手に完成形を意識させながら折り進めてもらうことを可能にする技法を駆使している。 さらに、大部分の説明図において複数の折り手順をまとめて表現し、紙面のスペースを効率的に利用することも考慮に入れて表現している。 b 折り筋を付ける手順 折り筋を付ける手順については、折り紙を折りたたみながら折り筋を表記したり、表記を細分化することが考えられるが、本件折り図においては、折り紙を拡げたままの状態で折り筋を付ける形で工夫して表現している。 c 手順6の説明図 本件折り図の手順6の説明図では、「○ぶぶんにかどをあわせおりすじをつける」との説明文とともに、折り紙を示す図の中央に折り筋を付ける部分を正方形の点線で表し、四隅の角を合わせる部分を○で表現して、一つの角から矢印で折り手順を表記している。 この説明文及び説明図は、手順9において折り紙を折りたたむ際に使用する折り筋を作成する重要な一工程である。原告は、折り筋の付け方に関する説明を、過去の経験や試行錯誤の結果得られた知識に基づいて、読み手に容易に伝わるように工夫し表現している。 d 手順8の説明図 本件折り図の手順8の説明図では、折り筋を付ける部分を点線で示し、四つのポイントから矢印を配置することで折り方を表している。 この手順で付ける折り筋も、手順9において折り紙を折りたたむ際に使用するものであるが、折り筋を付ける部分に点線を配置し、4点から矢印を引くことで分かりやすく表現している。 e 手順9の説明図 「へんしんふきごま」は、吹いた息を受ける羽を螺旋状に作り、息を受けたときに回転しやすいようにしなければならないため、1枚の紙を、後の工程において羽となる部分を意識して、螺旋状に2分の1の大きさに折りたたむことが不可欠である。この1枚の折り紙を2分の1の大きさに螺旋状に折りたたむ工程は、難所である。 本件折り図の手順9の説明図では、折りたたむのに使用する折り線を谷折り線、山折り線に分けて表記し、「4つの○からつまんでおりすじたたむ」として折り込む際に指でつまむ部分を○で表し、四つの部分が折りたたんだ際にどのように移動するかを示す螺旋状の矢印を配置し、複雑な折り手順を見る者に非常に分かりやすく表現している。 f 手順10の説明図 本件折り図の手順10の説明図では、「あいだにおりこむ」との説明文とともに、折り込む部分がどのように移動するかを示す矢印を配置し、間に折り込まれる部分は点線の矢印で表現している。また、間に入れることを示すために白抜きの矢印を紙の間に差し込む様な形で配置している。 g 完成形を示す説明図 原告は、効果的に「へんしんふきごま」を回転させるために試行錯誤を繰り返し、折り紙の中心にセロハンテープを貼ることで回転が安定することを発見した。 本件折り図の完成形を示す説明図において、その旨を「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」と表示した。 このように、単に創作折り紙の完成形を示すだけでなく、完成した折り紙を回して遊ぶという機能面に着目した説明文を付加するという表現は、折り紙で楽しく遊ぶことを常に考えている創作折り紙作家の原告であるからこそ考えつくものである。 h 工夫の呼びかけ 本件折り図では、左上に「工夫のヒント」とする一連の文面を挿入して、読み手に息を受ける面を意識して羽を調整することにより回転しやすくなる旨を伝え、読み手独自の工夫を呼びかけている。 i 小括 以上のとおり、本件折り図は、原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙作品について、羽の形状などを反映して、1枚の折り紙を2分の1の大きさに螺旋状に折り込むという複雑な折り手順(折り方)を見る者に分かりやすく、紙面の効率性や時には折る者の感動なども考慮して具体的に表現したものであり、他者が容易に作成できるものではない。そして、本件折り図の各説明図における矢印、折り線等の各種表現の取捨選択、配列及びその表示方法、説明文の内容・配置、それらの説明図と説明文を結合してみたときの選択・組合せ、折り紙の向きの決定等において、創作折り紙作家としての原告の技能・知識が駆使されており、本件折り図には、創作性が認められる。 イ 複製ないし翻案 (ア) 表現上の本質的な特徴の直接感得 a 別紙3は、本件折り図と被告折り図を対比した対比表である。 本件折り図と被告折り図は、いずれも完成形の折り方を表現するものであり、手順1ないし10の説明図と完成形を示した説明図の選択及び組合せはすべて類似している。また、選択したそれぞれの説明図においては、折り筋・折り目、矢印の配置が些末な点を除いて同一であり、しかも、折り紙の向きがすべて同じであり、重要な説明文においても同様の表現が用いられている。 具体的には、以下のとおりである。 (a) 被告折り図の6番目の説明図では、「四つ角をそれぞれ黒点まで折る。図にある所をよく折り目をつける。」として、四隅を合わせる箇所に黒点を配置し、その部分に向けて矢印を配置し、中央に点線の正方形で折り筋を表しているが、これは、本件折り図の手順6の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである。 (b) 被告折り図の8番目の説明図では、「4つのポイントそれぞれを矢印の方向へ折り目をつける」として折り筋を付ける部分を点線で示すなど、本件折り図の手順8の説明図の複雑な折り筋・折り目の配置、矢印の配置といった表現上の本質的な部分がそのまま再現されている。 (c) 被告折り図の9番目の説明図では、「【難所】4つのポイントをつまんで中心に折る感じで」としており、本件折り図の手順9の説明図における「4つの○からつまんでおりすじたたむ」とした部分、これに付されたつまむ四つのポイント、折り筋や矢印など、手順9の説明図の表現上の本質的な部分が完全に再現されている。もっとも、本件折り図と被告折り図との間には、@本件折り図の表現は、「4つの○」、「おりすじたたむ」などとしているのに対し、被告折り図の表現は、「4つのポイント」、「中心に折る感じで」としている点、A被告折り図の表現には説明図に黒い点が12個付加されている点、B四方の角を折り込んだ角度が若干異なる点においてわずかな違いがあるが、その他は全く同一であるから、このような違いがあっても、類似性判断に影響を及ぼす程度のものではない。 (d) 被告折り図の10番目の説明図では、「羽を間に折り込む」としており、本件折り図の手順10の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである。 (e) 被告折り図の11番目の完成形を示した説明図には、「…中心や羽にセロハンテープを貼り、補強することで回りやすくなります。」との説明文を付しており、本件折り図の完成形を示した説明図において「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」との説明文を付けるという表現上の本質的な部分が再現されている。 b このように被告折り図における説明図の選択及び組合せ、折り紙の向き、それぞれの説明図の折り筋・折り目、矢印の配置等は、本件折り図とほぼ同一であって、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものであり、被告折り図は本件折り図に類似している。なお、本件折り図の創作性については、全体としてみたときに、折り紙作家として技能・知識が駆使されているか否かという観点から判断すべきであるから、本件折り図と被告折り図の類似性についても、細部まで分解して判断するのではなく、全体を観察して判断すべきである。 (イ) 依拠 a 原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙作品の完成図だけを見ても、その折り工程を具体的に表現した本件折り図を見なければ、その折り方を独自に表現することはおよそ不可能であり、被告は、本件折り図に依拠して、被告折り図を作成したというべきである。 b 別紙3に示す手順7で四隅を折る際、本件折り図では、手順5で付けた折り目に合わせて折るのに対し、被告折り図の7番目の説明図では、小さな二つの正方形を並べた対角を結ぶ形で折り込んでいる。しかし、被告折り図の7番目の説明図のように四隅を折り込むと、10番目の説明図から11番目の完成形を示す説明図のようにはならない。被告折り図の完成形を示す説明図は、本件折り図に従った折り方をしないと現れない形状である。また、被告折り図の7番目の説明図のように四隅を折り込むのであれば、5番目の説明図で付けた折り筋は利用しないのであるから、5番目の説明図は不要なはずであるのに、これが被告折り図に存在する。 これらは、被告が深く考えずに本件折り図に依拠してこれを引き写すことによって被告折り図を作成したことの証左である。 (ウ) 小括 以上のとおり、被告は、本件折り図に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる被告折り図を作成することによって本件折り図を複製ないし翻案したものである。 ウ まとめ 被告は、平成21年6月28日から同年7月7日にかけて、原告の許諾を得ることなく、本件ホームページに本件折り図の複製物ないし翻案物である被告折り図を掲載したのであるから、被告の上記行為は、複製権侵害ないし翻案権侵害及び公衆送信権侵害に該当する。 (2) 被告の主張 ア 複製ないし翻案に該当しないこと 著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)を保護するものであって、アイディアそれ自体を保護するものではないところ、折り紙の折り方それ自体はアイディアに属するものである。 そして、本件折り図に著作物性が認められるか否かにかかわらず、本件折り図と被告折り図を比較すれば、両者が表現として全く異なるものであることは一見して明らかであり、また、原告が被告折り図と類似していると主張する本件折り図における創作的な表現部分は、いずれも事実又はアイディアそのものと不可分な部分であるか、ありふれた表現であって、著作権法の保護の対象とはならないから、被告折り図は、本件折り図の複製物でも翻案物でもない。 (ア) 説明図の選択、組合せ及び配置等について 折り図の性質上、最終の図が完成形となることは当然である。 折り紙の向きは、初めの手順において、長方形である折り図の各辺に正方形である折り紙の各辺が平行に配置されるようにすることで規定され、その後の手順における折り紙の向きは、この向きに基づいて規定されているものにすぎず、創作的な表現ということはできない。 (イ) 手順6の説明図について a 本件折り図の手順6の説明図の説明文は、「○ぶぶんにかどをあわせおりすじをつける」であるのに対し、これに対応する被告折り図の6番目の説明図の説明文は、「四つ角をそれぞれ黒点まで折る。図にある所をよく折り目をつける。」であり、表現が全く異なる。 b 被告折り図の6番目の説明図において、折り筋を付ける部分が正方形になるのは、説明文にあるとおり、その部分にのみ「よく折り目をつける」必要があるからであって、事実ないしアイディアそのものである。この折り筋は、9番目の説明図から10番目の説明図に移った際に、10番目の説明図で表現された折り紙の四辺になるものであり、このようにせずに、6番目の説明図において「折り紙の左の辺及び下の辺までつく」ように紙を折ると、9番目の説明図から10番目の説明図への折り込みが難しくなる。 また、付ける折り筋を点線で表現するのは、ありふれており、創作的な表現とはいえない(乙1ないし5)。 c 四隅の角を合わせる部分のマークについて、角を合わせる四隅にマークを付けること自体は、折り紙の折り方に規定された事実ないしアイディアそのものである。また、四つのマークの具体的表現は、本件折り図と被告折り図とで異なっている。 d 折り順を示す矢印について、本件折り図及び被告折り図で表現された矢印は、形も向きも色も太さも全く違う。類似しているのは、折り方を矢印という表現で説明するということであるが、これはアイディアにすぎない。 (ウ) 手順8の説明図について a 折り筋を付ける部分を点線で表現することは、ありふれており、創作的な表現とはいえない。 b 手順8に至るまでの手順で付けた折り目を図の中で表現することはアイディアであるし、その折り目を表現する線が実際の折り目に従っているのは事実によるものであり、その折り目を線で表現するのは、ありふれている(乙1ないし5)。 c 本件折り図及び被告折り図で表現された矢印は、形も向きも色も太さも全く違う。類似しているのは、折り方を矢印という表現で説明するということであるが、これはアイディアにすぎない。 (エ) 手順9の説明図について a 本件折り図の手順9の説明図の説明文は、「4つの○からつまんでおりすじたたむ」であるのに対し、被告折り図の9番目の説明文は、「【難所】4つのポイントをつまんで中心に折る感じで」であり、両者の表現は全く異なる。 b つまむ点を折り図に表現しようとすることはアイディアであり、四つの点を該当箇所に表現したのは実際の折り方に基づくものであるから事実である。そして、つまむ四つの点の具体的な表現は、本件折り図においては大きな白抜きの丸(「○」)であるのに対し、被告折り図においては黒点(「●」)であるから異なっている。 c 手順9に至るまでに付けた折り目を図の中で表現するということはアイディアであり、その折り目を表現する線が実際の折り目に従っているのは事実によるものであり、折り目を線で表現するのは、ありふれている(乙1ないし5)。 また、矢印の表現も、ありふれている(乙1ないし5)。 (オ) 手順10の説明図について 4箇所を間に折り込むことを端的な説明文で表現しようとした場合、「間に折り込む」との表現又はこれに類似した表現を使用せざるを得ない。 したがって、本件折り図の手順10の説明図の説明文は事実そのものと不可分な表現であるか、ありふれた表現であり、表現の創作性は認められず、被告折り図との類似性は問題とならない。 (カ) 完成形を示す説明図について 本件折り図の完成形を示す説明図の説明文は、「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」であるのに対し、被告折り図の完成形を示す説明図の説明文は、「平面図ではわかりにくいですが、この段階で羽を立たせて全体的にふくらませるようにすれば完成!独楽の底に画鋲などで穴を開けたり、中心や羽にセロハンテープを貼り、補強することで回りやすくなります。後は自分で応用していくのみ!」である。本件折り図の説明文においては、回転を安定させるために中心にセロハンテープを貼ることが記載されているが、被告折り図の説明文においては、完成方法、回りやすくするためにセロハンテープを貼る場所として、こまの中心だけでなく、羽も適切であること、こまの底に画鋲などで穴を開けても回りやすくなること、作成者による応用を促すこと等も記載されるなど、表現もアイディアも異なる。仮に「…中心や羽にセロハンテープを貼り、補強することで回りやすくなります。」との箇所だけを切り取って検討するとしても、中心にセロハンテープを貼ると回転が安定することは事実であり、本件折り図の説明文は事実と不可分であるか、ありふれた表現である。 また、原告は、機能面に着目した説明文を付加するという表現が独創的なものであるかのような主張をするが、折り紙は、必ずしも観賞目的には限られず、しばしば完成作品で遊ぶ目的でも作成され、折り図に機能面に着目した説明文を付加することはありふれている(乙1、2)。 イ 依拠の不存在 被告の番組制作スタッフは、本件折り図を基に「へんしんふきごま」を折ろうとしたが、なかなか折れず、折ることができるまでに数日を要したため、実際に折った作品を基に、より分かりやすい折り図となるよう工夫して被告折り図を作成した。 すなわち、被告折り図は、被告の番組制作スタッフが実際に折った作品を基に手書きで折り図を描き、被告のコンピュータ・イラストレーターがこの手書きの折り図をパソコンで作図したものであり、本件折り図に依拠して作成したものではない。被告折り図には、完成図に至るまでの過程の7、8番目の説明図において誤記がある。これは、被告の番組制作スタッフが7番目の説明図で折り線を間違えて記載し、コンピュータ・イラストレーターがこれを基に7、8番目の説明図を作成したために生じたものである。仮に被告の番組制作スタッフが本件折り図を見ながら被告折り図を作図したとすれば、折り線という重要な線をわざわざ違えて作図することはあり得ず、むしろ、この間違いの存在は、被告折り図が本件折り図に依拠していないことの証左である。 ウ まとめ 以上のとおり、被告折り図は、本件折り図の複製物でも翻案物でもなく、被告が被告折り図を作成し、本件ホームページに掲載した行為は、本件折り図の複製権ないし翻案権及び公衆送信権を侵害するものではない。 2 争点2(著作者人格権侵害の有無)について (1) 原告の主張 ア 被告折り図は、本件折り図を誤って引き写したため、完成形を示す11番目の説明図のように折ることは不可能であり、しかも、被告折り図は、折り手順として無意味な5番目の説明図を掲載したり、折り紙を示す図が正方形ですらないなど本件折り図と比べて粗雑なものとなっているから、被告による被告折り図の作成は、原告の意に反する本件折り図の改変に当たる。 イ また、被告は、被告折り図を本件ホームページに掲載するに当たって、原告の氏名を一切表示していない。 ウ したがって、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は、原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権の侵害に当たる。 (2) 被告の主張 前述のとおり、被告折り図は、本件折り図と全く異なるものであり、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。 したがって、被告が被告折り図を作成し、これを本件ホームページに掲載して公表するに当たり、本件折り図の著作者名を表示しなかったことが、原告の主張する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権の侵害を構成するものではない。 3 争点3(著作権侵害及び著作者人格権侵害による原告の損害額)について (1) 原告の主張 ア 著作権侵害による損害 原告の本件折り図の著作権の行使について受けるべき金銭の額に相当する額(使用料相当額)は、10万円を下らない。 したがって、被告による前記著作権侵害行為によって原告が被った使用料相当額の損害は10万円を下らない。 イ 著作者人格権侵害による損害 (ア) 原告は、原告の氏名が表示されないまま、本件折り図を無断改変した被告折り図が、本件ドラマの放映直後の最もアクセスの集中する時期にアクセス数の極めて多い本件ホームページ上にダウンロードできる形で公開され、10日間も放置されたことにより、本件折り図が自らの創作に係るものであることを多数の本件ドラマの視聴者に認識されず、多大なる精神的苦痛を被った。 また、被告折り図は、前述のとおり、完成形を折れない不完全かつ粗悪な折り図であるため、多くの視聴者が「やっぱり難しくて折れない」、「うまく回らない」などと思って原告が創作した「へんしんふきごま」を折るのを断念してしまう、あるいは、「へんしんふきごま」は面白くないと失望してしまうことは容易に想像できることであり、これによって原告は、多大な精神的苦痛を被った。 さらに、原告が被告折り図の無断掲載を指摘したことに対する被告の一連の対応は悪質かつ不快なものであり、このような被告の不誠実な対応によって、原告の精神的苦痛は増大した。 (イ) 原告の被った精神的損害を金銭に換算すると、氏名表示権侵害によって被った損害は50万円、同一性保持権侵害によって被った損害は200万円を下らない。 ウ 弁護士費用相当額 被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損害は、25万円を下らない。 エ 小括 したがって、原告は、被告に対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日(不法行為の日)から、内金25万円に対する平成22年6月9日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 4 争点4(著作権法115条に基づく謝罪文掲載請求の可否)について (1) 原告の主張 ア 被告折り図は、前述のとおり、完成形を折れない不完全かつ粗悪な折り図であって、本件折り図についての同一性保持権を侵害するものであるところ、本件ドラマの番組ホームページである本件ホームページ上にダウンロードできる形で公開され、10日間も放置されたことにより、これを閲覧して興味を持った多数の視聴者が被告折り図に従って折り紙作品の作成を試すという事態が生じた。同時に、インターネット上で本件ドラマに登場した「へんしんふきごま」の折り図の制作者として原告が紹介されたこと(甲7の1、2)に鑑みれば、本件ドラマに登場した折り紙作品の折り方を検索した一般視聴者が、不完全かつ粗悪な被告折り図の作成者を原告と混同することは十分考えられる。 これにより、日本折紙協会及び日本折紙学会の各会員の折り紙作家として著書を発売し、展覧会を開き、講演を行うなどして築き上げてきた原告の社会的地位は失墜したから、原告の名誉・声望を回復するための措置を講じる必要がある。 イ したがって、原告は、著作権法115条に基づき、名誉回復のための適当な措置として、被告に対し、被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求めることができる。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 そもそも被告は、本件ホームページに被告折り図を掲載した際に原告の氏名を表示していないし、原告が指摘するインターネットのウェブサイト(甲7の1、2)において、原告が被告折り図を作成したとの表示があるものとは認められないから、それらのウェブサイトを見た者が、原告が被告折り図を作成したとの認識は持ちようがない。 5 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係) (1) 原告の主張 ア 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為(争点5−1) 被告は、本件折り図と同一又は酷似した被告折り図を、本件ドラマの番組宣伝活動の一環として原告に無断で本件ホームページ上に掲載して利用した。このような被告の行為は、創作折り紙作家である原告が長年の研究・試行錯誤・努力の結果、最終成果物として作成した本件折り図を、何らの対価も支払わず、かつ、折り図を作成するまでの人的資源、時間等の負担を全く負わず、原告の努力の成果をかすめ取るものである。 そして、被告は、原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙を、無断で本件ドラマで使用し、被告折り図を本件ホームページに掲載することによって、ドラマの視聴率を高め、ひいては広告収入等の増加という効果を得ている。 現代においてウェブページの持つ影響力は計り知れないのであって、それが一般放送事業者の管理するウェブサイトともなればなおさらである。 このように原告が研究・工夫して作製した「へんしんふきごま」とその折り図に視聴者・読者の誘引力が認められる以上、それらの管理及び利用について許諾を与えることによって得られる利益は法的保護に値するのであって、この利益を蔑ろにして収益を上げた被告の行為は違法性が高いというべきである。 一般に他者の出版物の無断転用は禁じられているというのが出版業界及び放送事業界で確立された商慣習であって、被告の行為はこのような商慣習を全く無視する、いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」行為にほかならない。社会に多大な影響力を有するメディアの一社として知的財産権等の保護に努めるべき社会的責任を負う被告が、かえって他者の権利侵害を助長する行為に及んだという点からも、一層違法性が高いといわざるを得ない。 そうすると、被告が被告折り図を作成し、これを本件ホームページに原告に無断で掲載した行為は、公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものであって、前記の原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。 イ 原告の損害額(争点5−2) 被告による前記アの不法行為により原告が被った損害額は、前記3(1)の損害額と同額(財産的損害10万円、無形的損害250万円、弁護士費用相当額の損害25万円の合計285万円)である。 ウ 小括 したがって、原告は、被告に対し、法的保護に値する利益の侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日(不法行為の日)から、内金25万円に対する平成22年6月9日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 著作権法が、表現者に独占を認めている表現は、創作性のある表現であり、創作性の認められない表現は自由に利用できるのが原則である。創作性が認められない表現を利用する行為は、それがデッド・コピーに当たるなど自由競争の範囲を逸脱したと認められる特段の事情がある場合を除き、何ら違法性を帯びるものではない。 被告折り図は、被告の番組制作スタッフの独自創作によるものであり、本件折り図とは表現が全く異なり、デッド・コピーではなく、被告による被告折り図の利用に違法性はない。 6 争点6(民法723条に基づく謝罪文掲載請求の可否)について(予備的請求関係) (1) 原告の主張 前記4(1)と同旨 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(著作権侵害の有無)について (1) 本件折り図の著作物性 ア 前提事実 前記争いのない事実等と証拠(甲8、9の1、15)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 (ア) 原告は、「へんしんふきごま」という名称の折り紙作品を創作し、その折り方を説明した本件折り図(別紙1記載のもの)を作成し、これを平成20年2月20日に発行された原告書籍(甲8)の34頁に掲載して発表した。 (イ) 「へんしんふきごま」の折り方は、32の折り工程からなるところ、本件折り図は、この折り方について、1ないし10の手順に分解し、折り筋等を示した図面(説明図)、文章(説明文)、完成形を示した図面(説明図)及び写真等によって説明したものである。 各説明図においては、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、紙の表と裏を色分け(赤色と無色)し、折り筋を付ける手順を示す矢印、折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線)、付けられた折り筋を示す実線、折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を説明している。 そして、手順6の説明図には「○ぶぶんにかどをあわせおりすじをつける」との説明文が、手順9の説明図には「4つの○からつまんでおりすじたたむ」との説明文が、手順10の説明図には「あいだにおりこむ」との説明文が、完成形を示した説明図には「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」(判決注・原文の「かいてが」は「かいてんが」の誤記と認める。以下同じ。)との説明文がそれぞれ付され、手順9と手順10との間の途中図及び完成形を示した説明図にはそれぞれに対応する写真が示されている。 また、本件折り図には、「へんしんふきごま」の折り方の説明とともに、「工夫のヒント」の見出しの下に「紙の中心に回転させる1点をとれば簡単に回転させることができます。吹いた息を受ける羽の面を、調整すると簡単に回転するので、息を受ける面を意識してカッコよい形を考えてみよう。金・銀などのホイル紙を使うと形が整えやすく保たれます。」との記載がある。 イ 検討 (ア) 以上を前提に、本件折り図の著作物性について判断する。 折り紙作品の折り図は、当該折り紙作品の折り方を示した図面であるが、その作図自体に作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該折り図は、著作物に該当するものと解される。 もっとも、折り方そのものは、紙に折り筋を付けるなどして、その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり、紙の形、折り筋を付ける箇所、折り筋に従って折る方向、折り手順は所与のものであること、折り図は、折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること、折り筋の表現方法としては、点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば、その作図における表現の幅は、必ずしも大きいものとはいい難い。また、折り図の著作物性を決するのは、あくまで作図における創作的表現の有無であり、折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。 (イ) そこで検討するに、@「へんしんふきごま」の折り方は、32の折り工程からなるところ、本件折り図は、この折り方について、1ないし10の手順に分解した説明図及び完成形を示した説明図を基に説明したものであるが、32の折り工程のうち、どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめて何個の説明図を用いて説明するかについては選択の幅があること(甲13の1、2)、A本件折り図は、別紙1のとおり、最初の折り工程から完成形に至るまでの折り工程について、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、紙の表と裏を色分け(赤色と無色)した各説明図において、折り筋を付ける手順を示す矢印、折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線)、付けられた折り筋を示す実線、折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし、これらの折り工程のうち矢印、点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明したものであること、B本件折り図に従えば、「へんしんふきごま」の折り紙作品を特段の支障なく作成できることによれば、本件折り図を全体としてみた場合、上記説明図の選択・配置、矢印、点線等と説明文及び写真の組合せ等によって、「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく、分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるから、本件折り図は、著作物に当たるものと認められる。 (2) 複製ないし翻案の成否 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照)、著作物の再製は、当該著作物に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することを意味するものと解され、また、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 以上を前提とすると、被告折り図が本件折り図の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては、被告折り図において、本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。 ア 被告折り図の内容 (ア) 被告折り図は、別紙2のとおり、32の折り工程からなる「吹きゴマ」(へんしんふきごま)の折り方について、10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)と文章(説明文)によって説明したものである(甲2の1ないし4)。 (イ) 各説明図においては、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、折り工程の順番を丸付き数字(@ないし<32>)で示し、折り筋を付ける箇所を示す点線、付けられた折り筋を示す実線、折り筋を付ける手順を示す矢印、各折り工程の折り手順を記述した説明文によって説明している。 その説明文は、32の折り工程のうち、@ないしO、<21>ないし<24>、<26>ないし<31>について、「(1)(2)三角形に折り、開いてまた折る」、 「(3)(4) 開いて今度は縦に半分に折る。開いて横も折る。」、「(5)(6)開いて縦に半分の半分に折る」、「(7)(8)開いて横も半分の半分に折る」、「(9)〜(12)四つ角を中心に向かって折る」、「(13)〜(16)四つ角をそれぞれ黒点まで折る。図にある所をよく折り目をつける。」、「(21)〜(24)4つのポイントそれぞれを矢印の方向へ折り目をつける」、「(26)〜(28)【難所】4つのポイントをつまんで中心に折る感じで」、「(29)〜(31)羽を間に折り込む」と説明したものであり((1)は@の工程、(2)はAの工程というように、括弧付き数字は同じ番号の丸付き数字の折り工程に対応している。)、また、紙を裏返す箇所については、「裏返す」と文章で表現している。 (ウ) 被告折り図には、前記説明文のほかに、「完成!」の見出しの下に「平面図ではわかりにくいですが、この段階で羽を立たせて全体的にふくらませるようにすれば完成!独楽の底に画鋲などで穴を開けたり、中心や羽にセロハンテープを貼り、補強することで回りやすくなります。後は自分で応用していくのみ!」との記載がある。 (エ) なお、被告折り図の7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が、本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため、被告折り図に従って折り進めても、完成形に至ることはできない(弁論の全趣旨)。 イ 被告折り図と本件折り図の対比 (ア) 被告折り図と本件折り図は、別紙3のとおり、@32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について、10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点、A各説明図でまとめて選択した折り工程の内容、B各説明図は、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、折り筋を付ける箇所を点線で、付けられた折り筋を実線で、折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通している。 (イ) しかし、他方で、本件折り図は、別紙1のとおり、折り筋を付ける手順を示す矢印、折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線)、付けられた折り筋を示す実線、折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし、これらの折り工程のうち矢印、点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し、被告折り図は、別紙2のとおり、折り工程の順番を丸付き数字(@ないし<32>)で示した上で、折り工程の大部分(@ないしO、<21>ないし<24>、<26>ないし<31>)について説明文を付したものであって、説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく、読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線、実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点で相違している。 このような相違点に加えて、本件折り図では、写真を用いた説明箇所があるのに対し、被告折り図では、写真を用いていない点、本件折り図では、紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し、被告折り図では、色分けをしていない点、本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が全く異なる点、被告折り図の7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が、本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため、被告折り図に従って折り進めても、完成形に至ることはできない点において相違する。 (ウ) 以上のとおり、被告折り図と本件折り図は、前記(イ)の相違点が存在することから、折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるものであって、前記(ア)の共通点を最大限勘案してもなお、被告折り図から、「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく、分かりやすく表現した本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものとは認められない。 したがって、被告折り図は、本件折り図の複製物又は翻案物のいずれにも当たらないというべきである。 ウ 原告の主張について 原告は、本件折り図と被告折り図は、いずれも完成形の折り方を表現するものであり、手順1ないし10の説明図と完成形を示した説明図の選択及び組合せはすべて類似し、また、選択したそれぞれの説明図においては、折り筋・折り目、矢印の配置が些末な点を除いて同一であり、しかも、折り紙の向きがすべて同じであり、重要な説明文においても同様の表現が用いられているから、被告折り図から、本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができる旨主張する。 しかしながら、原告の主張は、以下のとおり理由がない。 (ア) 原告は、本件折り図と被告折り図は、手順1ないし10の説明図と完成形を示した説明図の選択及び組合せはすべて類似し、また、選択したそれぞれの説明図においては、折り筋・折り目、矢印の配置が些末な点を除いて同一であり、しかも、折り紙の向きがすべて同じである旨主張する。 確かに、原告が主張するように、本件折り図と被告折り図は、32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について、10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明し、各説明図でまとめて選択した折り工程の内容及び紙の上下左右の向きを一定方向に固定している点で共通し、また、折り筋・折り目、矢印の配置についても、大部分が共通しているといえる。 しかし、「へんしんふきごま」の折り方そのものは、所与のものであることから、折り筋を付ける箇所、折り筋に従って折る方向を示す矢印の配置が共通することは避けられないことである。 また、32の折り工程のうち、どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめて何個の説明図を用いて説明するかについては選択の幅があるが、本件折り図のように、各折り工程を1ないし10の手順にまとめて10個の図面(説明図)を用いた構成とすること自体はアイディアであり、著作権法によって保護される表現とはいえない。 さらに、本件折り図に示すような向きに紙の向きを固定した上で、各折り工程を説明することは、ありふれた表現である(乙1ないし5)。 したがって、上記の共通点は、本件折り図の表現上の本質的特徴を示したものということはできないから、上記の共通点が存在するからといって、被告折り図から、本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものではない。 (イ) 原告は、被告折り図の6番目の説明図では、「四つ角をそれぞれ黒点まで折る。図にある所をよく折り目をつける。」として、四隅を合わせる箇所に黒点を配置し、その部分に向けて矢印を配置し、中央に点線の正方形で折り筋を表しているが、これは、本件折り図の手順6の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである旨主張する。 しかし、折り筋を点線で表すことは一般的な表現方法であって、ありふれたものであり、角を合わせる位置を表現するために黒点を用いたり、折る方向を示すのに矢印を用いることもありふれたものである(乙1ないし5)。 また、紙の中央に折り筋を付ける部分を正方形の点線で表しているのは、ここで付けた正方形の折り筋に従って後の折り工程(手順9)において折りたたむ必要があるためであって、折り筋を正方形で表現することは避けられないことである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) 原告は、被告折り図の8番目の説明図では、「4つのポイントそれぞれを矢印の方向へ折り目をつける」として折り筋を点線で配置しているが、これは本件折り図の手順8の説明図の複雑な折り筋・折り目の配置、矢印の配置といった表現上の本質的な部分をそのまま再現したものである旨主張する。 しかし、前述のとおり、折り筋を点線で表したり、折る方向を示すのに矢印を用いることはありふれたものであり、また、折り筋を付ける箇所、折り筋に従って折る方向等は所与のものであって、「へんしんふきごま」の折り図において共通にならざるを得ない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (エ) 原告は、被告折り図の9番目の説明図では、「【難所】4つのポイントをつまんで中心に折る感じで」としており、本件折り図の手順9の説明図における「4つの○からつまんでおりすじたたむ」とした部分、これに付されたつまむ四つのポイント、折り筋や矢印など、手順9の説明図の表現上の本質的な部分が完全に再現されている旨主張する。 しかし、折り筋を点線で表したり、折る方向を示すのに矢印を用いることはありふれたものであり、また、折り筋を付ける箇所、折り筋に従って折る方向等は所与のものであって、「へんしんふきごま」の折り図において共通にならざるを得ないことは、前述のとおりである。 また、四つの箇所をつまんで折りたたむことは、所与のものであり、その箇所を「○」で示すことはありふれたものである。 さらに、四つの箇所をつまんで折りたたむことを示した説明文の表現内容は、原告の引用からも明らかなように異なるものである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (オ) 原告は、被告折り図の10番目の説明図では、「羽を間に折り込む」としており、本件折り図の手順10の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである旨主張する。 しかしながら、四つの箇所を紙の間に折り込んで「へんしんふきごま」の羽の部分を形成することは所与のものであり、また、これを本件折り図のように「あいだにおりこむ」と表現することはありふれたものである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (カ) 原告は、被告折り図の11番目の完成形を示した説明図には、「…中心や羽にセロハンテープを貼り、補強することで回りやすくなります。」との説明文を付しており、本件折り図の完成形を示した説明図において「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」との説明文を付けるという表現上の本質的な部分が再現されている旨主張する。 しかしながら、中心にセロハンテープを貼ると回転が安定することは事実であり、その事実の表現として「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」とするのはありふれたものであり、また、このような機能面に着目した説明をすること自体はアイディアであって、著作権法によって保護される表現とはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (キ) 原告は、本件折り図の創作性については、全体としてみたときに、折り紙作家として技能・知識が駆使されているか否かという観点から判断すべきであるから、本件折り図と被告折り図の類似性についても、細部まで分解して判断するのではなく、全体を観察して判断すべきである旨主張する。 しかしながら、前記(1)イ(イ)のとおり、本件折り図を全体としてみた場合に、説明図の選択・配置、矢印、点線等と説明文及び写真の組合せ等によって、「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく、分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるが、被告折り図においては、前記イ(イ)の相違点が存在することから、折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるため、被告折り図から、本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないというべきである。 (3) 小括 以上のとおり、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないから、その余の点について判断するまでもなく、被告折り図は本件折り図を複製ないし翻案したものとは認められない。 したがって、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は、原告の複製権ないし翻案権及び公衆送信権のいずれの侵害にも当たらない。 2 争点2(著作者人格権侵害の有無)について (1) 原告は、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は、原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権の侵害に当たる旨主張する。 しかし、前記1(3)のとおり、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないのであるから、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は、同一性保持権及び氏名表示権のいずれの侵害にも当たらない。 (2) 上記(1)及び前記1(3)のとおり、被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は、原告主張の本件折り図の著作権及び著作者人格権を侵害するものではないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主位的請求は、いずれも理由がない。 3 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係) (1) 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否(争点5−1) 原告は、@被告が、本件折り図と同一又は酷似した被告折り図を、本件ドラマの番組宣伝活動の一環として原告に無断で本件ホームページ上に掲載して利用した行為は、創作折り紙作家である原告が長年の研究・試行錯誤・努力の結果、最終成果物として作成した本件折り図を、何らの対価も支払わず、かつ、折り図を作成するまでの人的資源、時間等の負担を全く負わず、原告の努力の成果をかすめ取るものである、A被告は、原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙を、無断で本件ドラマで使用し、被告折り図を本件ホームページに掲載することによって、ドラマの視聴率を高め、ひいては広告収入等の増加という効果を得ており、このように原告が研究・工夫して作製した「へんしんふきごま」とその折り図に視聴者・読者の誘引力が認められる以上、それらの管理及び利用について許諾を与えることによって得られる利益は法的保護に値するのであって、この利益を蔑ろにして収益を上げた被告の行為は違法性が高い、B一般に他者の出版物の無断転用は禁じられているというのが出版業界及び放送事業界で確立された商慣習であって、被告の行為はこのような商慣習を全く無視する、いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」行為にほかならず、社会に多大な影響力を有するメディアの一社として知的財産権等の保護に努めるべき社会的責任を負う被告が、かえって他者の権利侵害を助長する行為に及んだという点からも、一層違法性が高いなどとして、被告が被告折り図を作成し、これを本件ホームページに原告に無断で掲載した行為は、公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものであって、原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成する旨主張する。 しかしながら、原告の主張は、以下のとおり理由がない。 ア 前記1(3)のとおり、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないのであるから、被告が被告折り図を本件ホームページに掲載して利用したことは、原告が本件折り図の利用に関して保有する法的利益を侵害したものとは認められない。 また、原告が、原告書籍に本件折り図を掲載して「へんしんふきごま」の折り方を公表したのは、「へんしんふきごま」の折り紙作品を普及させることを前提とするものであって、誰もが「へんしんふきごま」の折り紙作品を作成することを認めたものというべきであるから、被告が原告の許諾を得ずに本件ドラマで「へんしんふきごま」の折り紙作品を用いたことが違法な行為に当たるということもできない。 イ なお、前記1(2)ア(エ)のとおり、被告折り図は、7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が、本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため、被告折り図に従って折り進めても、完成形に至ることはできないものであるが、このような不完全な被告折り図を本件ホームページに掲載したことによって原告の法的利益が具体的に侵害されたことを認めるに足りる証拠はない。 かえって、@被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと、A本件ドラマの視聴者と思われる者が、インターネットの質問投稿サイトで、本件ドラマで用いられた「へんしんふきごま」の折り紙作品について質問をしたのに対して、原告書籍の出版社のホームページを紹介する回答が寄せられていること(甲7の1、8)、B本件ドラマの視聴者と思われる者が、自身のブログで、原告書籍を紹介していること(甲7の2)、C被告は、平成21年7月2日、原告から、本件ホームページから被告折り図を削除するようメールで抗議を受けた後、同月7日に本件ホームページに被告折り図を掲載することを止めて、その代わりに、「へんしんふきごま」の「正しい折り方」として、原告について紹介し、原告のホームページへのリンクを貼っていること(甲3、4、弁論の全趣旨)からすると、本件ドラマの視聴者など本件ホームページの閲覧者において被告折り図と本件折り図を誤認混同したり、原告が被告折り図を作成したかのような誤解が生じることはなかったというべきである。 ウ 以上を総合すれば、被告が平成21年6月28日に本件ホームページに被告折り図を掲載し、原告からの抗議を受けた後も5日間にわたって本件ホームページに被告折り図を掲載したままにしておいたという事実を踏まえたとしても、原告が主張する被告の一連の行為が原告の法的保護に値する利益を侵害する違法なものとして不法行為を構成するものと認めることはできない。 (2) 小括 以上によれば、原告主張の法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成立は認められないから、その余の点について判断するまでもなく、 原告の予備的請求は、いずれも理由がない。 4 結論 以上によれば、原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 上田真史 (別紙) 謝罪文目録1 謝罪文 当社は、平成21年6月28日から10日間にわたり当社制作にかかる番組、日曜劇場「ぼくの妹」の中で登場した「吹きゴマ」の折り方を示した折り図を同番組のホームページ上に掲載しました。 これは、日本折紙協会・折紙学会会員の創作折紙作家であるA氏の著作「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」(誠文堂新光社)34頁〜35頁に依拠して、当社が同人に無断で改変した上、同人に無断で掲載したものです。 上記の当社の行為はA氏の著作者人格権を侵害するものでありました。 このことについてA氏に対して深く陳謝するとともに、当社が無断改変した不正確な「吹きゴマ」の折り方をご覧になった視聴者の方々におかれましては上記のA氏の著書ないし同人作成にかかるホームページ(略)をご覧頂きますようご案内申し上げます。 (別紙) 謝罪文目録2 謝罪文 当社は、平成21年6月28日から10日間にわたり当社制作にかかる番組、日曜劇場「ぼくの妹」の中で登場した「吹きゴマ」の折り方を示した折り図を同番組のホームページ上に掲載しました。 これは、日本折紙協会・折紙学会会員の創作折紙作家であるA氏の著作「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」(誠文堂新光社)34頁〜35頁に掲載されている折り図を、当社が同人に無断で改変した上、同人に無断で掲載したものです。 当社の掲載した折り図は「吹きゴマ」の完成に至らない不正確なものであり、視聴者の方々にA氏がこのような折り図を作製したかのような誤解を与え、A氏の名誉・信用を傷つけるものでありました。 このことについてA氏に対して深く陳謝するとともに、当社が無断改変した不正確な「吹きゴマ」の折り方をご覧になった視聴者の方々におかれましては上記のA氏の著書ないし同人作成にかかるホームページ(略)をご覧頂きますようご案内申し上げます。 |
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