判例全文 | ||
【事件名】商標“出版大学”審決取消事件(2) 【年月日】平成23年5月17日 知財高裁 平成23年(行ケ)第10003号 審決取消請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年4月12日) 判決 原告 株式会社天才工場 訴訟代理人弁理士 大谷寛 被告 特許庁長官 指定代理人 田中亨子 同 大橋良成 同 小林和男 同 田村正明 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた判決 特許庁が不服2009−26081号事件について平成22年11月25日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、商標出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は、本願商標が公序良俗を害するおそれの有無である(商標法4条1項7号)。 1 原告は、平成20年6月3日、下記指定役務の本願商標につき、商標登録出願(商願2008−046875号)をしたが、拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は、同請求を不服2009−26081号事件として審理した上、平成22年11月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年12月7日原告に送達された。 【本願商標】 (商標イメージ省略) 【指定役務】 第41類:技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び記録の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運営又は開催(映画・演劇・園芸・音楽・演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、通訳、翻訳 2 審決の理由の要点 本願商標はその構成中に「大学」の文字を含むものであるところ、「大学」の名称は学校教育法に基づき文部科学大臣が定める設備、編制その他に関する設置基準に従って設置された教育施設以外の教育施設は用いてはならない名称であるから、同法に基づく正規の手続によって「大学」の設置の認可を受けているものとは認め難い請求人が「大学」の文字を含む本願商標を使用する場合においては、あたかも学校教育法により設置の認可を受けている教育施設であるかの如き印象を抱かせるものであり、一般世人をして誤信せしめ、他の教育施設等の社会的信頼を失わせることにもなり、ひいては社会公共の利益に反するおそれがあり、本願商標を商標法4条1項7号に該当するとした原査定は妥当である。 第3 原告主張の取消事由(商標法4条1項7号該当性判断の誤り) 1 学校教育法135条1項は同条に掲げる学校の名称又は大学院の名称を用いてはならないことを定めているが、その名宛人は「専修学校、各種学校その他第1条に掲げるもの以外」の教育施設である。「専修学校、各種学校その他第1条に掲げるもの以外の教育施設」とは、職業能力開発促進法に基づく公共職業能力開発施設、児童福祉法に基づく保育所、防衛省設置法に基づく防衛大学校のように、当該教育を行うにつき学校教育法以外に特別の規定があるものや企業内における従業員教育施設あるいは私塾などのことをいい、「教育施設」でないものが「大学」という名称を用いることは上記条項違反に当たらない。原告は「教育施設」ではないから、学校教育法上「大学」を用いることを禁止されているわけではない。 2 仮に、学校教育法1条に定める学校において、「出版学部」又は「出版学科」などと称する学部又は学科が存在するのであれば、「出版大学」なる文字の使用が「学校教育法により設置の認可を受けている教育施設」であるかのごとき印象を抱かせることがないとまではいえないかもしれない。 しかし、学校教育法83条所定の「大学」又は同法97条所定の「大学院」において、「出版学部」、「出版学科」などと称する学部、学科等は存在していない。このことは、「学術の中心として、広く、知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」(学校教育法83条)という大学の目的としての教授研究としての対象に「出版」は馴染まないことの表れであり、「出版大学」の名称は「あたかも学校教育法により設置の認可を受けている教育施設であるかの如き印象」を抱かせるものではない。 3 原告は、平成11年に設立されて以来、一貫して、書籍・雑誌・新聞・ウェブ上の原稿(コンテンツ)やイラスト・写真を企画又は制作している編集プロダクションであり、経営者や個人の自費での書籍の出版を大手出版会社に企画・提案するなどのコンサルティングが主な業務内容である。 コンサルティング業務の際には、通常、その役務の提供時に、本願商標の指定役務である「知識の教授」がなされるのが通常であり、「教育施設」以外の法人及び団体が「知識の教授」を業務としていることが、経験則上、一般人においても認識されている。したがって、本願商標を「知識の教授」に商標的に使用したからといって、一般人をして、あたかも学校教育法により設置の認可を受けている教育施設であるかのごとき印象を抱かせて誤信させるものではない。 4 学校教育法に基づき設置された実在の「大学」の名称を一覧し比較すると、本願商標のように教育内容を直接表記したものであっても、「東京国際大学」、「東京歯科大学」、「東京電機大学」、「千葉工業大学」、「埼玉医科大学」、「東京音楽大学」、「横浜商科大学」、「小樽商科大学」のように、「国際」や地名と結合しているものが圧倒的に多く、「出版」のようなサービスの内容を示す文字のみで大学名を表記している学校教育法上の大学はほとんど存在しない。 5 よって、原告が本件商標を使用しても、あたかも学校教育法により設置の認可を受けている教育施設であるかの如き印象を抱かせて一般世人をして誤信せしめ、他の教育施設等の社会的信頼を失わせ、ひいては社会公共の利益に反するおそれはない。 第4 被告の主張 1 本願商標について (1) 学校教育法に基づいて設置された既存の大学の名称についてみてみると、「青森大学」「宇都宮大学」「信州大学」「東京大学」及び「北海道大学」等の「地名+『大学』」といった組合せからなる大学名や、「岩手医科大学」「関西福祉科学大学」「千葉工業大学」「東京農業大学」及び「徳島文理大学」等の「地名+教育内容を想起させる語+『大学』」といった組合せからなる大学名が傾向としては多いものの、中には、「健康科学大学」「産業医科大学」「電気通信大学」「人間環境大学」「人間総合科学大学」「ビジネス・ブレークスルー大学」「佛教大学」及び「流通経済大学」等のように「教育内容を想起させる語+『大学』」といった組合せのみからなる大学名も存在する。そうすると、本願商標を構成する「出版大学」の文字部分も、「『出版』+『大学』」の態様からなるものであるから、形式上、学校教育法に基づいて設置された大学の名称を表示したものであるかのように看取され得るものである。 (2) 本願商標を構成する「出版」の文字は、「文書・図画を印刷してこれを発売・頒布すること。」(乙2)を意味する語として、一般によく親しまれている。また、「日本出版学会」のウェブサイトに、「出版学・編集学を大学でどう教えるか/猪口教行(2006年3月27日)」として、「■出版学/『第1講 言葉と人間』/『第2講 編集とは何か』/『第3講 中国の文字と紙』/『第4講 日本の文字と世界最古の印刷物』/『第5講 日本の印刷と活字』/『第6講 西洋における出版の歴史』」についての記載がある(乙6)こと、「龍谷大学」のウェブサイトにおいて、「文学部・文学研究科」の「コース紹介」に、「情報出版学コース/言語・記号やイメージ(画像・映像)による情報と、それを生み出した社会や文化について研究します。出版文化から電子出版まで/情報出版学は、情報化社会のニーズから生まれ、社会とともに発展する学問分野です。本学は、全国唯一情報出版学が学べる大学です。文献がどのように創出され、受け継がれ、伝えられ、出版の際にどのような工夫がなされてきたかを、歴史・背景をふまえながら学びます。」との記載があること(乙8)などからすれば(乙6〜16)、「出版」に関する学術の研究等が存在し、「大学」の学科又はコースとして実在し教授されていること、さらに、「出版」に関連する知識は、「大学」以外の教育施設においても教授されていることが窺われる。 (3) 本願商標を構成する図形部分は、概略、地球儀をデザインした図案を中心とした図形からなるものであるが、本願商標を構成する「出版大学」の文字、とりわけ「出版」の文字を意識しつつ図形部分を子細に見てみると、その地球儀をデザインした図案部分は、虫眼鏡を通して、開いた書籍(出版物)に描かれている地球儀を拡大して見ているかのように表現されているものであり、その下部に重なるようにして黒塗りで帯状に表された長方形の中に、「出版大学」の漢字を白抜きで大きく表し、上部にも当該「出版大学」の読みをローマ字で綴った「SHUPPAN DAIGAKU」の文字を配した構成からなるものであるから、当該図形部分があることによって、当該「出版大学」が学校教育法に基づいて設置された大学とは到底思えないということもなく、むしろ、当該図形部分は、「出版大学」という大学のロゴマークを表したものであろうとの印象を看者に与えるものといえる。 (4) @本願商標を構成する「出版大学」の文字部分は、その構成中に「大学」の文字を含み、かつ、その態様も「『出版』+『大学』」すなわち「○○+大学」との構成からなるものであるから、形式上、学校教育法に基づいて設置された大学の名称(「出版大学」)を表示したものであるかのように看取され得るものであるし、A本願商標を構成する図形部分も、「出版大学」という大学のロゴマークを表示したものであるとの印象を与えることから、商標全体としても、「出版大学」(SHUPPAN DAIGAKU)という大学の名称とそのロゴマークからなる標章と理解され得るものであることに加え、B「出版」に関しては、その学術の研究等が存在し、「大学」の学科又はコースとして実在し教授されていること、また、「出版」に関連する知識は、「大学」以外の教育施設においても教授されている事実があることをも併せ考慮すると、かかる構成からなる本願商標は、出版に関連した分野を主に学問の対象とする大学として、学校教育法に基づいて設置された正規の大学の名称とそのロゴマークからなる標章であるかのように誤認されるおそれが十分にあるというべきである。 2 本願商標の指定役務について 本願商標の指定役務中の「技芸・スポーツ又は知識の教授」についてみるに、この概念には、教養、趣味、遊芸、スポーツ、学習等の指導を行う教授所、学校教育法で定める学校及び自動車教習所、理容学校、洋裁学校等の各種学校が教授し又は教育する役務が含まれるものであって(乙18)、商標法施行規則第6条別表(乙19)においても、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」に含まれる役務の例示として、「大学における教授、高等学校における教育、中学校における教育、小学校における教育、学習塾における教授、語学の教授」等が記載されている。このように、「技芸・スポーツ又は知識の教授」には、学校等の教育施設が教授し又は教育する役務が多数含まれている。 「技芸・スポーツ又は知識の教授」以外の指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び記録の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運営又は開催(映画・演劇・園芸・音楽・演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、通訳、翻訳」についてみると、これらの役務は、大学自体によっても直接提供されることのある役務や、大学において役務の提供者(「通訳」における通訳者、「翻訳」における翻訳者)を養成することが行われているものであるから、いずれも「大学」とは密接な関係がある役務といえる。 3 本願商標の商標法4条1項7号該当性 (1) 本願商標をその指定役務中の「技芸・スポーツ又は知識の教授」に使用する場合 前記のとおり、本願商標の指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授」には、教養、趣味、遊芸、スポーツ、学習等の指導を行う教授所、学校教育法で定める学校及び自動車教習所、理容学校、洋裁学校等の各種学校といった教育施設が教授し又は教育する役務が多数含まれている。 そうすると、学校教育法に基づいて設置された正規の大学の名称(出版大学)とそのロゴマークからなる標章であるかのように誤認されるおそれのある本願商標を上記役務に使用するときは、これに接する一般需要者に対し、当該役務の提供主体が、あたかも正規の大学であるかのように誤認を生じさせるおそれは極めて高い。 (2) 本願商標をその指定役務中の「技芸・スポーツ又は知識の教授」以外の役務に使用する場合 前記のとおり、本願商標の指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授」以外の指定役務は、大学自体によっても直接提供されることのある役務や、大学において役務提供者(「通訳」における通訳者、「翻訳」における翻訳者)を養成することが行われているものであるから、いずれも「大学」とは密接な関係がある役務といえる。 そうすると、学校教育法に基づいて設置された正規の大学の名称(出版大学)とそのロゴマークからなる標章であるかのように誤認されるおそれのある本願商標を上記役務に使用するときも、これに接する一般需要者に対し、当該役務の提供主体が、あたかも正規の大学であるかのように誤認を生じさせるおそれが十分にある。 (3) 小括 前記のとおり、本願商標をその指定役務について使用することは、これに接する一般需要者に対し、当該役務の提供主体が、あたかも正規の大学であるかのように誤認を生じさせるおそれがある。そして、そのような事態を招くことは、学校教育法135条1項が定める「学校名称の専用」の趣旨に照らし望ましからざることであり、かつ、正規の教育施設である「学校」を法定したうえで、この正規の「学校」にのみその基本的性格を表示する学校の名称を使用させることによって一般国民に対し学校教育制度についての信頼をもたせようとする公共的要請にも悖り、ひいては学校教育法が保護し、一般世人の共通の意識ともなっている学校教育制度に対する社会的信頼を害することになるというべきであるから、本願商標は、社会公共の利益に反するおそれがある商標である。 したがって、本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定、判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 原告は、原告が本願商標を使用しても、あたかも学校教育法により設置の認可を受けている教育施設であるかの如き印象を抱かせて一般世人をして誤信せしめ、他の教育施設等の社会的信頼を失わせ、ひいては社会公共の利益に反するおそれはなく、審決が本願商標は商標法4条1項7号に該当すると判断したのは誤りであると主張するので、以下その当否について検討する。 1 本願商標 本願商標は、頭の部分に「SHUPPAN DAIGAKU」の欧文字を配し、その下に、地球儀をデザインした図案を中心とした図形を表し(地球儀をデザインした図案部分は、虫眼鏡を通して開いた書籍に描かれている地球儀を拡大して見ているかのように表現されたものであることが看て取れる。)、虫眼鏡の取っ手部分を中心にして、黒塗りで弓なりの帯状に表された形状の中に、「出版大学」の漢字を白抜きで印象付けて表して成るものである。 このような文字と図形から成る本願商標からは、「しゅっぱんだいがく」の称呼を生じさせることは明らかであって、後記学校教育法の規定を念頭に置くまでもなく、「出版大学」の文字から、最高学府に位置し、「出版」について教授し研究する教育機関との観念を生じさせることも明らかである。 2 「出版」に関する学術研究等の存在について (1) 証拠(乙6〜10、13)よれば、以下の事実を認めることができる。 ア 「日本出版学会」という名称の学会が存在し、この学会には、学術出版研究部会、出版技術研究部会、出版著作権研究部会、出版法制研究部会等の部会が設けられている。平成18年(2006年)3月には、この学会の関西部会において、「出版学・編集学を大学でどう教えるか」との演題で講義が行われた。 イ 清水英夫著「出版学と出版の自由〜出版学論文選」(平成7年5月初版、日本エディタースクール出版部)には、「出版学は、一言で言えば、社会現象としての“出版”を科学的に研究し、これを一個の独自な学問として体系化することである。」との記載がある。 ウ 龍谷大学文学部日本語日本文学学科には、学問分野で区分した4つのコースがあり、その中の1つとして情報出版学コースが設けられている。同大学のホームページでは、情報出版学コースの紹介欄において、同コースにつき、「言語・記号やイメージ(画像・映像)による情報と、それを生み出した社会や文化について研究します。」と、情報出版学につき、「情報出版学は、情報化社会のニーズから生まれ、社会とともに発展する学問分野です。・・・文献がどのように創出され、受け継がれ、出版の際にどのような工夫がなされてきたかを、歴史・背景をふまえながら学びます。」と説明している。 エ 東北芸術工科大学文芸学科には編集コースが設けられ、大阪芸術大学文芸学科では出版・編集がカリキュラムとして組み込まれ、実践女子短期大学の日本語コミュニケーション学科には出版編集コースが設けられている。 (2) 上記事実によれば、日本においては学問分野の1つとして「出版学」と称される学問領域が存在し、出版に関する学術研究等がされ、大学における教授の対象となっていることが認められる。 3 大学の名称について 学校教育法に基づいて設置された既存の大学として、「健康科学大学」、「サイバー大学」、「産業医科大学」、「電気通信大学」、「人間環境大学」、「人間総合科学大学」、「ビジネス・ブレークスルー大学」、「佛教大学」、「保健医療大学」、「流通科学大学」及び「流通経済大学」といった大学が存在することが認められ(乙5)、これらの大学の名称からすれば、「教育内容を想起させる語+『大学』」という組合せのみからなる名称の大学が少なからず存在する。 4 商標法4条1項7号該当性について このように、日本においては学問ないし学術分野として「出版学」と称して、出版に関する学術の研究等がなされ、大学における教授の対象となっていること、「教育内容を想起させる語+『大学』」という組合せからなる名称の大学が少なからず存在することからすれば、本願商標を構成する「出版大学」の文字部分は、学校教育法に基づいて設置された大学の名称を表示したものであるかのように看取され観念される可能性が高いというべきである。 そして、本願商標の指定役務には「技芸・スポーツ又は知識の教授」があり、この中には、学校教育法で定める学校において知識等を教授し又は教育する役務が含まれるところ、学校教育法に基づいて設置された大学の名称(出版大学)と看取される可能性の高い文字部分を含む本願商標を上記役務に使用するときには、これに接する一般需要者に対し、当該役務の提供主体が、あたかも学校教育法に基づいて設置された大学であるかのような誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。 学校教育法は、1条で「この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。」、3条で「学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。」、135条1項で「専修学校、各種学校その他第1条に掲げるもの以外の教育施設は、同条に掲げる学校の名称又は大学院の名称を用いてはならない。」と規定しているところ、これは、一定の教育又は研究上の設置目的を有し、法令に定める設置基準等の条件を具備する同法1条に定める学校の教育を公認するとともに、1条に掲げる学校以外の教育施設が1条掲記の「学校の名称」を用いることによって、これに接した者が当該教育施設の基本的性格について誤った認識を持ち、不利益を被らないようにするためのものと解される。 このような学校教育法の規定からすると、「大学」との名称を用いる教育施設は、学校教育法所定の最高学府であると一般に認識されるものであるから、本願商標によって生じる前記のような観念からすると、本願商標が使用される役務次第では、このような意味を持つ「出版」という学問、研究分野についての大学に関連する商標との認識が持たれることになりかねない。 原告が主張するところによっても、原告は教育施設を擁するものではないから、「大学」という名称を用いても直ちに学校教育法135条1項の規定に違反するとはいえないかもしれない。しかしそうだとしても、学校教育法に基づいて設置された大学を表示するものと誤認されるおそれのある本願商標をその指定役務に含まれる「技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務に使用することになれば、これに接した需要者に対し、役務の提供主体があたかも学校教育法に基づいて設置された大学であるかのように誤認を生じさせることになり、教育施設である「学校」の設置基準を法定した上で、この基準を満たした教育施設にのみその基本的性格を表示する学校の名称を使用させることによって、学校教育制度についての信頼を維持しようとする学校教育法135条1項の趣旨ないし公的要請に反し、学校教育制度に対する社会的信頼を害することになるというべきである。 したがって、本願商標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり、本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定、判断に誤りはない。 第6 結論 以上より、原告の主張する取消事由は理由がない。 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉 実 |
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