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【事件名】“取扱説明文”の著作物性事件 【年月日】平成23年4月27日 東京地裁 平成22年(ワ)第35800号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年3月23日) 判決 原告 × 被告 アーネスト株式会社 同訴訟代理人弁護士 永野周志 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、300万円を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告の商品台紙(乙1の1、2。以下「本件台紙」という。)の裏面に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載1。以下「被告説明1」という。)並びに同商品のリーフレット(乙2の1、2。以下「本件リーフレット」といい、本件台紙と併せて「本件台紙等」という。)に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載2〜5。以下「被告説明2〜5」という。)は、いずれも原告の著作物である「手続補正書」(甲6の2。原告が実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した同庁昭和57年1月7日受付の手続補正書。以下「本件手続補正書」といい、このうち明細書部分を「本件明細書」、図面部分を「本件図面」といい、その写しを別紙2として添付する。)を複製又は翻案したものであり、被告の上記各掲載行為は、原告の有する本件手続補正書の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、公表権、同一性保持権)を侵害すると主張して、被告に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円、合計300万円の損害賠償の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等を掲記したもののほかは当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、昭和56年1月5日、特許庁長官に対し、考案の名称を「模様入りおにぎり具」とする考案について実用新案登録出願(実願昭56−823。以下「本件出願」という。)をした。(甲6の1、3) 原告は、平成18年5月29日付けで、文化庁長官に対し、本件出願に係る願書(甲6の1。以下「本件願書」という。)について、著作物の題号を「模様入りごはん」、著作物の種類を「編集著作物」、著作物の内容又は体様を「ごはんの上に型当て板をのせ、ふりかけ、桜でんぶ等の具でごはんに模様を入れる料理法の説明文、及び図面。」として、第一発行年月日を「昭和56年1月5日」とする第一発行年月日登録を申請し、平成18年7月5日付けで登録がされた。(甲7。以下「本件登録」という。) イ 被告は、日用品雑貨の販売等を業とする株式会社であり、「ふりかけフレーム ポポロ」という名称の商品(以下「被告商品」という。)を製造販売している。(乙1の1、2、乙2の1、2、弁論の全趣旨) (2) 本件手続補正書作成の経緯等 原告は、昭和57年1月頃、本件願書に添付した明細書及び図面を補正する本件手続補正書(別紙2)を作成し、同月7日受付をもって特許庁長官に提出した。 昭和57年7月12日、本件出願は公開された。 なお、本件出願は、請求期間内(平成5年法律第26号による改正前の実用新案法10条の3により出願の日から4年以内)に出願審査の請求がなかったため、同期間の経過により取り下げたものとみなされた。 (甲6の1〜3、弁論の全趣旨) (3) 被告商品と本件台紙等 被告商品は、ポリスチレン製の本体フレームとカバーから成る製品であり、これを使用して御飯の上に熊の顔の輪郭を形成でき、裏返して同輪郭の「抜き型」としても使用することができる。 本件台紙等は、いずれも被告商品に添付するものとして平成20年頃に被告が作成したものであり、本件台紙には、被告商品について使用上の注意や手入れ方法等が、本件リーフレットには、使用方法やレシピ等がそれぞれ記載されている。 本件台紙の裏面には被告説明1が、本件リーフレットの見開き部分には被告説明2〜5がそれぞれ掲載されている(各記載内容は、別紙1被告説明目録1〜5のとおりである。)。 (乙1の1、2、乙2の1、2、弁論の全趣旨) 3 争点 (1) 本件手続補正書の著作物性 ア 編集著作物としての著作物性 イ 言語の著作物としての創作性 ウ 著作権法75条3項の推定 (2) 著作権(複製権、翻案権)侵害の成否 (3) 著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)侵害の成否 (4) 損害及びその額 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件手続補正書の著作物性)について (原告の主張) ア 編集著作物としての著作物性 本件手続補正書は、「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり、その選択及び配列に創作性が認められる。 すなわち、「ごはん」に「型当て板」を当て、「ふりかけ」をかけて「ごはん」に模様を入れる料理法は、本件出願当時、どの料理雑誌にも載っていない初めての料理法であり、当然同料理法の説明書もなかったものである。したがって、その素材である「ごはん」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の取捨選択にも個性が表れているし、この料理を作る順序による素材の配列にも個性、独自性が現れており、新しい料理法(思想)の説明書(表現)は個性、独自性のある表現である。 イ 言語の著作物としての創作性 仮に本件手続補正書が編集著作物とは認められないとしても、本件手続補正書のうち次の部分(被告により複製権又は翻案権が侵害された部分)は、それぞれ原告の個性、独自性が創作的に表現されているから、言語の著作物としての創作性が認められる。 (ア) 本件明細書の「3 考案の詳細な説明」の「例T おにぎり(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ、ごま、桜でんぶ、青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をとりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。」とある部分(明細書3頁9行目から14行目。以下「A部分」という。) A部分は、原告が独自に考え思い付いたものを説明したものであって、言語による表現で何らかの個性、独自性があり、他人の真似、模倣でないものが言語で表現されている創作的部分である。 (イ) 本件明細書の「4.図面の簡単な説明」の「1:型当て板」、「5:ごはん」、「6:具」とある部分(明細書5頁。以下「B部分」という。)B部分における用語の選択は、原告の考えによるもので、個性、独自性がある。 (ウ) 本件図面のうち第5図〜第7図の部分(以下「C部分」という。)第5図のごはんの上に型当て板を載せた用語の配列、第6図及び第7図のおにぎりの上にふりかけの具による模様入りの配列図に原告の考えによる個性、独自性があり、創作的部分である。 ウ 著作権法75条3項の推定 著作権法75条3項には、「……著作物の著作者と推定する」とあるところ、本件願書は現に「著作物」として文化庁に登録(本件登録)されているから、同項により著作物と推定される(仮に著作物として認められないのであれば、却下理由になるはずである。)。 原告は、本件手続補正書についても文化庁に登録を申請したところ、重複登録であるとして登録を拒絶されたことから、本件手続補正書は本件願書と実質的に同一の著作物といえる。 したがって、本件手続補正書は、本件願書と同様、同項により著作物と推定される。 (被告の主張) ア 編集著作物としての著作物性の主張に対し 編集著作物とは、「編集物(データベースに該当するものを除く。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」(著作権法12条1項)をいう。 そして、「編集」には、「一定の方針に従って資料を整理し、新聞・雑誌・書物などにまとめること」(国語辞典「大辞泉」)、あるいは「書物(書籍や雑誌)・文章・映画、などの知的集積の制作過程の一部。すでにある程度出来上がっている素材を、取捨選択、構成、配置、関連づけ、調整、などすること」(フリー百科事典「ウィキペディア」)との国語的意味がある。 したがって、原告が著作物と主張する本件手続補正書が編集著作物であるといえるためには、その記載内容が「資料」(国語辞典「大辞泉」)又は「すでにある程度出来上がっている素材」(フリー百科事典「ウィキペディア」)を取捨選択又は配列したものであって、かつ、素材の選択又は配列に個性の表れがあることを要する。 しかるところ、本件手続補正書は、「考案の詳細な説明」との見出し中の「説明」との文言が端的に意味しているとおり、「模様入りおにぎり具」の考案についての技術的内容を説明したものであって、何ら「資料」あるいは「すでにある程度出来上がっている素材」を編集した(「整理してまとめた」あるいは「取捨選択、構成、配置、関連づけ、調整した」)ものではないから、そもそも編集物に当たらない。 原告の主張は、著作権法12条1項所定の「素材の選択又は配列」が編集方針に基づく「素材の選択又は配列」であるにもかかわらず、特定の技術的思想の着想(アイデア)であると誤解又は曲解して、本件手続補正書が編集著作物であると主張するものであって、主張自体失当である。 イ 言語の著作物としての創作性の主張に対し (ア) A部分につき A部分は、考案の技術的構成や作用効果等を記述したものであり、誰がそれを記述しても同一の記述にならざるを得ないものであって自由度がないから、創作的表現ではない。 (イ) B部分につき B部分は、「1:型当て板」等の各単語を羅列したものであって、ひとつのまとまりのある文章ではない。したがって、当該記述は、「ひとつのまとまりの文章」という言語の著作物の前提条件を欠いている。さらに、当該部分は、図面の簡単な説明であって、誰が記述しても同一の記述とならざるを得ないものであり、自由度がないから、創作的表現ではない。 なお、用語の選択は、ある記述が言語の著作物であることの要件ではないから、用語の選択に個性、独自性があることは、上記記述が言語の著作物としての創作性があることの根拠とはならない。原告の主張は、言語の著作物における創作的表現と、編集著作物における創作的表現とを混同した主張である。 (ウ) C部分につき C部分は、そもそも図であって言語の著作物ではない。 また、第5図は実施例の側面透視図であり、第6図は模様入りおにぎりの正面図であり、第7図は模様入りおにぎりの側面図であって、第5図〜第7図の各図は考案の技術的内容ないしは意義を説明したものである。 したがって、誰が考案の技術的内容ないしは意義を図示しても同じ結果とならざるを得ず、選択の余地はないから、第5図〜第7図の各図の記載内容には著作物性がない。 ウ 著作権法75条3項の推定の主張に対し 著作権法75条3項は、実名登録がされているものが著作物である場合に、実名の登録がされている者を当該著作物の著作者と推定することを定めたにとどまり、実名登録がされている対象が当然に著作物であるとみなしているわけでもないし、実名登録されている対象が著作物として推定される旨を規定しているものでもない。 そして、同法施行令23条は、実名の登録申請に係る対象が著作物ではないことを実名の登録申請の却下事由として定めてはいない。したがって、著作物として認められなければ却下理由になるとの原告の主張は、理由がない。 しかも、本件登録をもって登録されているのは、同法75条所定の実名の登録ではなく、同法76条所定の第一発行年月日の登録であるから、この点においても原告の主張は失当である。 (2) 争点(2)(著作権〔複製権、翻案権〕侵害の成否)について (原告の主張) 被告は、次のとおり、本件手続補正書に依拠して、本件手続補正書と基本的部分を同じくする本件台紙等を作成することによって、本件手続補正書を複製、翻案しており、かかる被告の行為は、原告が有する本件手続補正書の著作権(複製権、翻案権)を侵害する。 ア 複製権侵害 (ア) 素材(用語)の選択の同一 a 本件手続補正書(A部分、B部分) 「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」 b 被告説明1 「ご飯」、「具」、「ふりかけ」、「本体フレーム」 (イ) 作り方の順序の同一 a 本件手続補正書(A部分) @おにぎりの上へ、A型当て板を当てる、B上から具をふりかけ、C型当て板を取る、Dおにぎりの上に模様が入っている、の順序 b 被告説明1 @ご飯の上へ、A本体フレームを乗せる、Ba、b(被告説明1の枠1)に具をふりかける、C本体、カバーを外す、Dご飯の上に模様が入っている、の順序 (ウ) 素材(用語)の配列の同一 a 本件手続補正書(A部分) @おにぎり、A型当て板、B具、Cふりかけ、D型当て板、E模様入りおにぎり、の配列 b 被告説明1 @ご飯、A本体フレーム、B具、Cふりかけ、D本体、E模様入りご飯、の配列 (エ) 図面、写真による素材(用語)の配列の同一 a 本件手続補正書(C部分) 第5図(ごはんの上に型当て板)、第6、7図(おにぎりの上にふりかけの具による模様)の配列 b 被告説明1の写真部分 被告説明1における枠1の写真(ご飯の上に本体フレーム)、枠2、3の写真(ご飯の上にふりかけ具による模様)の配列 イ 翻案権侵害 本件台紙等の写真部分は、本件手続補正書の第5図〜第7図(C部分)を、その表現形式を変えて再現したものである。 (被告の主張) ア 原告が著作物であると主張する本件手続補正書における各記述は、創作的表現でもなければ、編集著作物でもないから、そもそも原告の主張はその前提を欠いている。 イ 原告が主張する「素材(用語)の選択」、「作り方の順序」、「素材(用語)の配列」、「図面、写真による素材(用語)の配列」の同一性、本件台紙等の写真部分が本件手続補正書の第5図〜第7図(C部分)の再現であることは、いずれも否認ないし争う。本件台紙等は本件手続補正書の複製物でも翻案物でもない。 (3) 争点(3)(著作者人格権〔公表権、氏名表示権、同一性保持権〕侵害の成否)について (原告の主張) ア 公表権侵害 本件台紙等は、本件手続補正書の複製物ないし翻案物であり、原告の有する公表権を侵害する。 イ 氏名表示権侵害 本件台紙等においては、原告の氏名は何ら表示されておらず、原告の有する氏名表示権を侵害する。 ウ 同一性保持権侵害 本件台紙等においては、本件手続補正書における「型当て板」の素材(用語)を「本件フレーム」に変更し、素材の「ふりかけ」に「そぼろ」を加え、図の表現形式を写真に変更するなど、無断で改変が加えられており、原告の有する同一性保持権が侵害されている。 (被告の主張) 本件出願は、昭和57年7月12日に公開実用新案公報(甲6の3)をもって公開されており、本件手続補正書は閲覧可能となっているから、その記載内容は公表されている。したがって、本件台紙等が原告の有する本件手続補正書の公表権を侵害するとの主張は失当である。 また、本件台紙等は、本件手続補正書の複製物でも翻案物でもないから、本件台紙等が原告の有する氏名表示権、同一性保持権を侵害するとの主張も理由がない。 (4) 争点(4)(損害及びその額)について (原告の主張) ア 被告は、原告が有する本件手続補正書の著作権(複製権、翻案権)を侵害することにより200万円の利益を上げているから、同額が原告の損害額(逸失利益の額)と推定される(著作権法114条2項)。 イ 原告が本件手続補正書の著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を侵害されたことで被った精神的苦痛に対する慰謝料としては100万円が相当である。 (被告の主張) 原告の主張はいずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件手続補正書の著作物性)について (1) 編集著作物としての著作物性 原告は、本件手続補正書は、「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり、その選択及び配列に創作性が認められると主張する。 しかしながら、編集著作物とは、編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの(著作権法12条1項)をいうところ、本件手続補正書は、本件願書に添付した明細書及び図面を補正するために作成されたものであって、「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の各用語も、本件明細書の本文中において、使用する器具又は具材を示すものとして通常の意味、方法で用いられているにすぎず、それ以上に、何らかの編集方針に基づいて、上記各用語が編集の対象である素材として選択され又は配列されているとは認められない。したがって、本件手続補正書は編集著作物とは認められない。 原告は、「ごはん」に「型当て板」を当て、「ふりかけ」をかけて「ごはん」に模様を入れる料理法は、本件出願当時、どの料理雑誌にも載っていない初めての料理法であり、当然同料理法の説明書もなかったものであるから、その素材である「ごはん」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の取捨選択にも個性が表れているし、この料理を作る順序による素材の配列にも個性、独自性が現れているとして、新しい料理法(思想)の説明書(表現)は個性、独自性のある表現であると主張する。 しかし、著作権法上の保護を受ける著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、アイデアや着想がそれ自体として著作権法の保護の対象となるものではなく、この理は編集著作物においても同様である。これを本件についてみると、上記料理法は、御飯に模様を入れる料理法というアイデアそのものであるから、それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とはならない。したがって、原告の上記主張は失当というほかない。 以上によれば、本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めることはできない。 (2) 言語の著作物としての創作性 ア A部分につき A部分は、本件明細書の「3 考案の詳細な説明」の「例T おにぎり(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ、ごま、桜でんぶ、青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をとりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。」とある部分である。 原告は、A部分は、原告が独自に考え思い付いたものを説明したものであって、言語による表現で何らかの個性、独自性があり、他人の真似、模倣でないものが言語で表現されている創作的部分である旨主張する。 しかし、A部分は、実施例についての記述であり、実施例に表れた技術的思想や実施例に示された実施方法それ自体は、アイデアであって表現ではないから、それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とならないことは上記(1)に説示したところと同様である。 そして、A部分の具体的表現も、@おにぎりの上に型当て板を当て、A上から、ふりかけ、ごま、桜でんぶ、青のり等の粒状の具をくり抜き部に埋め込んで、B型当て板を取り除くと、Cおにぎりに花や動物等の絵、模様や、字が描き出されて、D美しいおにぎりができあがるということを、一般に使用されるありふれた用語で表現したものにすぎず、表現上の創作性を認めることはできない。 したがって、A部分に言語の著作物としての創作性を認めることはできない。 イ B部分につき B部分は、本件明細書の「4.図面の簡単な説明」の「1:型当て板」、「5:ごはん」、「6:具」とある部分である。 原告は、B部分における用語の選択は、原告の考えによるもので、個性、独自性がある旨主張する。 しかし、B部分は、明細書中の図面の簡単な説明の部分であって、願書に添付した図面に図示された符号の説明を記載したものにすぎず、その具体的表現にも創作性を認めることはできない。 したがって、B部分に言語の著作物としての創作性を認めることはできない。 ウ C部分につき C部分は、本件図面のうち第5図〜第7図の部分である。 原告は、C部分について、第5図のごはんの上に型当て板を載せた用語の配列、第6図及び第7図のおにぎりの上にふりかけの具による模様入りの配列図に原告の考えによる個性、独自性があり、創作的部分である旨主張する。 しかし、C部分のうち図自体は、言語若しくはそれに類する表現手段による表現がなされているものではないから、そもそも言語の著作物には当たらない。 また、C部分の図について美術又は図形としての著作物性をみても、第5図は「模様を入れている側面透視図」、第6図は「模様入りおにぎりの正面図」、第7図は「模様入りおにぎりの側面図」であって、いずれもおにぎりの上に型当て板が載っている様子又はおにぎりの上に具が載っている様子を正面ないし側面から極めてありふれた手法で図示したにすぎず、何ら個性のある表現とはいえないから、創作性を認めることはできない。 C部分のうち、日本語で「第5図」、「第6図」及び「第7図」と記載されている部分は、単に図の番号を記載したものにすぎず、創作性を認めることはできない。 エ 以上によれば、本件手続補正書のうち原告が言語の著作物として創作性を主張するA部分〜C部分は、いずれも創作性を認めることはできず、著作物であると認めることはできない。 (3) 著作権法75条3項の推定 原告は、本件手続補正書は、本件願書と実質的に同一の著作物であるところ、本件願書は著作物として登録がされているから、著作権法75条3項により著作物と推定されると主張する。 しかし、本件願書について登録がされているのは、著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって、同法75条の登録(実名の登録)ではない。 また、著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作者であること、同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって、登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるのではない。 原告は、著作物として認められないのであれば却下理由になるはずであると主張するが、著作権に関する登録は、いわゆる形式審査により行われ、法令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないかどうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から、著作権に関する登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解することもできない。 したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。そして、本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めることはできず、また、原告が言語の著作物として創作性を主張するA部分〜C部分についても著作物性を認めることができないことは、前示のとおりである。 2 結論 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 鈴木和典 裁判官 寺田利彦 |
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