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【事件名】立体商標“ゴルチエ・ルマル”事件(2)
【年月日】平成23年4月21日
 知財高裁 平成22年(行ケ)第10406号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年4月14日)

判決
原告 ボーテプレスティージュ アンテルナショナル
同訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 特許庁長官
同指定代理人 橋謙司
同 野口美代子
同 板谷玲子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2008−650020号事件について平成22年8月20日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、下記1の商標登録出願に対する下記2のとおりの手続において、原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には、下記4のとおりの取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。
1 本願商標(甲1、乙1の1)
 国際商標登録出願日(事後指定日):平成18年(2006年)4月28日
 出願番号:国際登録第652943号(マドリッド議定書による基礎登録:平成7年(1995年)9月7日、フランス)
 商標:別紙の立体商標
 指定商品:第3類「Bleaching preparations and other substances for laundry use; cleaning, polishing, scouring and abrasive preparations; soaps; perfumery goods, essential oils, cosmetics, hair lotions; dentifrices.」(洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄剤、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤、美容製品、せっけん、香料類及び香水類、精油、化粧品、ヘアーローション、歯磨き)
2 特許庁における手続の経緯
(1) 拒絶査定及び審判請求
 拒絶査定日:平成19年11月8日付け(乙1の4)
 審判請求日:平成20年2月19日(不服2008−650020号事件。乙1の5)
(2) 審決
 審決日:平成22年8月20日
 審決の結論:本件審判の請求は、成り立たない
 審決謄本送達日:平成22年9月1日
3 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由は、要するに、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、同条2項の要件を具備していないとして、拒絶すべきである、というものである。
4 取消事由
 商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 商標法3条1項3号の解釈
ア 商品の形状は、取引者・需要者の視覚に直接訴えるものであり、需要者は、多くの場合、まず当該商品の形状を見て商品を選択し、選別することは経験則上明らかである。商品の製造販売業者においては、当該商品の機能等から生ずる制約の中で、美感等の向上を図ると同時に、その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結びつける自他商品識別力を有するものとするべく商品形状に創意工夫を凝らしていることも周知である。一律に「容器の形状であるから、自他商品を識別する標識として採択されるものではない」とはいえない。本願の指定商品である化粧品等のような商品においては、商品の容器の形状に創意工夫を凝らすことにより他の商品との差別化を図り、需要者による再度の購入の動機付けをするために、容器の形状自体に出所識別機能を持たせることが意図されている。
 よって、「商品の包装の形状は、本来的(第一義的)には、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として採択されるのではない」とした本件審決は、誤りである。
イ 商品の容器の形状に施された特徴的な変更、装飾等は、容器の機能又は美感を発揮させるのみならず、自他商品識別力を持たせるように意図されて付されているのであり、自他商品識別標識としても採択される。したがって、これに接する取引者・需要者は、単に当該商品の容器の形状を表示したものと認識するのではなく、出所識別標識として認識するのである。
ウ 容器の機能は、物を収納することであるから、容器には、商品を入れるための部分と入れた容器が漏れないようにするための蓋の部分とがある。そして、商品を入れるための部分の形状及び蓋の形状は、デザインを施すことにより、様々な形状をとり得る。
 よって、「容器等の形状は、同種の商品等にあってはその機能を果たすために原則的に同様の形状にならざるを得ない」とした本件審決は、デザインを施した特定の形状について論ずべきであるのに、敢えて、過度に一般化し、抽象的な容器の形状そのものにすり替えて論ずるものであり、誤りである。
エ 商品は売るためのものであり、商品の容器の形状のデザインは、機能を害さずかつ美感を生じ需要者に再購入の動機付けをし、出所識別機能を果たすために行うものであり、機能や美感と関係のない形状は、商品の容器についてはあり得ない。現代美術などで、容器を奇妙にデザインしたようなものが出展されたりするが、それは、商品を収納し販売するための容器としての機能や美感と無関係に、美術品としてデザインしているのであり、商品の容器の形状ではない。
 よって、「商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、…商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として登録を受けることができない」とした本件審決は、およそ商品の容器の形状は立体商標として登録を認めないというに等しく、誤りである。
(2) 本願商標と独占不適商標
 商標法3条1項3号に該当する商標の類型の1つは、取引に際し必要適切な表示として何人も使用を欲するもので、特定人による独占使用を認めるのを公益上適当としないもの(独占不適商標)であるが、本願商標は、以下のとおり、独占不適商標に該当するものでない。
ア 本願商標は、筋肉質で頑丈な運動選手のような体つきの男性の、腿の付根部分から首の付根部分までの腕のない胴体の形状と、顔に当たる部分の円柱状の形状とからなり、当該胴体の形状の臍の辺りの部分から下の部分と濃目の鮮やかな空色に着色し、腕の付根の部分を鮮やかな空色に着色し、臍の辺りの部分から胸の上端肩甲骨の部分まで白地に鮮やかな空色に着色した横縞の模様を配し、首の部分にやや太めの鮮やかな空色に着色した横縞の模様を配し、首部に続く、頭に当たる部分の円柱状の形状は、金属からなり、金属製の光沢を有し、頂部に向かうにつれて少しずつ径が小さくなる円板を重ねたような模様を有する形状をしている、という立体的形状及び模様並びにこれらと色彩との結合から構成されるものである。
イ 原告は、日本の資生堂のグループ会社であり、「JEAN PAUL GAULTIER」及び「ISSEY MIYAKE」の2つのブランドを有し、フランスに本社を置き、日本、ドイツ、スペイン、イタリア、ベルギー、オーストリア、オランダ、米国(マイアミ)、シンガポールに子会社を有している(甲2〜4)。
ウ 原告のJEAN PAUL GAULTIERブランドの化粧品の中で、平成7年に世に出、日本では平成8年4月より販売された本願に係る商標(容器)に入れて販売されたのが、JEAN PAUL GAULTIER“Le M ale”(ジャンポール・ゴルチエ「ルマル」(又はFlacon Le M ale(フラコンルマル))の香水であり、その独特なデザインにより一大センセーションを巻き起こして、大人気の商品となった。
エ 本願商標に係る香水は、世界的に著名なファッションデザイナーである ジャン・ポール・ゴルチェの香水として「ル・マル」と通称され、その独創性から発売と同時に話題となり、人気を博し、現在もその売れ行きは衰えない。
オ 本願商標は、原告において、著名なデザイナーであるジャン・ポール・ゴルチエを起用し、開発したのであり、ジャン・ポール・ゴルチエの創作に係るものである。そして、本願商標は、それまで何人も考えなかった立体的形状及び模様並びにこれらと色彩との結合から構成されるものであり、空前絶後であり、まさに独創的なものである。
 したがって、本願商標は、独占不適商標に該当するものでないことは明白である。
(3) 本願商標の自他商品識別力
 商標法3条1項3号に該当する商標の類型の他の1つは、一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるが、本願商標は、以下のとおり、自他商品識別力を有する商標である。
ア 商標法3条1項3号との関係では、同号の「普通に用いられる方法で表示する標章」は、一般的に使用される標章であるか否かを判断すべきであり、具体的な形体として表わされた本願商標それ自体について見なければならないものであり、本願商標の指定商品の属する取引分野の取引の実情に基づいて判断すべきものである。
イ 本願商標は、上記Bアのとおりの立体的形状及び模様並びにこれらと色彩との結合から構成されるものである。
 香水や化粧品やせっけん等の容器として普通に用いられる形状は、円筒、直方体、楕円柱状、水筒状の図形のものが多いのは、このような形状のものの方が慣れ親しんでおり、違和感がないからであるばかりでなく、製造も容易であるからである。本願商標のような、筋肉質で頑丈な運動選手のような体の男性の腕と首の無い胴体の形状と頭部に相当する何段かに重ねたような円柱状の形状と該胴体に施した濃い青及び薄い青の横縞の色彩付きの模様は、ジャン・ポール・ゴルチエのような天才的なデザイナーにして初めて着想し得たものであり、だれも思いつかなかったものである。
ウ 本願商標は、当代随一のデザイナーであるジャン・ポール・ゴルチエであるからこそ創作出来たものであり、それまで何人も着想しなかったものである。したがって、本願商標の形状は、十分デザイン化が施されており、新規であり、十分特徴的であり、十分特異性のあるものであり、通常採用し得る範囲を超えているものであり、一般的に使用される標章では全くないのである。
エ 容器の形状は、取引者・需要者の視覚に直接訴えるものであり、需要者は、多くの場合、まず当該容器の形状模様色彩を見て商品の選択・選別を開始するのであり、商品の製造・販売業者においては、当該商品の機能等から生ずる制約の中で、美感等の向上を図ると同時に、その採用した形状模様色彩を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく商品形体や模様や色彩に創意工夫を凝らしていることもまた周知のところであるから、一概に容器の形状模様色彩であるがゆえに自他商品識別力がないと断ずることは誤りである。これをオードトワレや香水等についてみると、選別においては、多くの場合、まず容器の形状模様色彩が需要者の注目を引くものであるからこそ、オードトワレや香水や化粧品のメーカーは、自社の製品の容器のデザインに工夫を凝らし、多大の投資をしているのである。であるからこそ、オードトワレや香水や化粧品の広告宣伝において、容器の形状模様色彩のデザインの新規性、特異性に重点を置いているのである。ここにおいてオードトワレや香水や化粧品の容器の外形、すなわち形状模様色彩が、美感等の向上という第一次的要求とともに、再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っていのである。即ち、本願の指定商品の需要者は、本願商標の形状模様色彩によっても本願商標を使用した商品の購買の動機付けをされるのであり、次回以降の購入時における商品選択の基準とすることができるし、現にそのようにしているのである。
オ 本件審決は、商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状に限って自他商品識別力を有するものとすることを前提とするものであるが、そもそも容器の本来的価値が機能性を維持しつつ美感をもって需要者に訴えることにあるのであるから、このような基準を満たし得る商品の形状模様色彩を想定することは不可能であり、このような考え方は立体商標制度の存在意義をほとんど無に帰するものであって、誤りである。
カ したがって、本願商標は、自他商品識別力を有する商標であり、自他商品識別力欠如商標ではない。
(4) 小括
 よって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する商標ではないから、本願商標を同号に該当するとした被告の本件審決における認定判断は誤りであり、本件審決は、これを取り消し、本願を登録すべきものである。
 なお、本願に係る立体商標(立体的形状、模様及び色彩)は、フランスを始めとする複数の国で登録されている(甲32〜41)。
〔被告の主張〕
(1) 本願商標の構成
 本願商標は、男性の胴体部分を思わせるような形状と、その上部に金属の蓋のような形状が一体となった立体的形状からなるものである。
 そして、本願商標を子細に見れば、その構成上部に金属製の蓋(兼噴霧器)とその下に男性の胴体部分をモチーフにデザイン化した形状からなるもので、これを斜め横からみると、胴体部分は、男性の首から腹部に該当する部分にかけて青と白の縞模様で描かれ、腹部に該当する部分にかけてくびれを有し、臀部に該当する部分にかけては、張り出した曲面からなるものである。
 また、男性の胴体部分をモチーフにデザイン化したと思われる形状をした部分は、その下部の一部磨りガラス風の半透明となった青色の部分が存在することも考慮すれば、ガラス瓶の一形態と看取し得ることから、本願商標を構成全体としてみた場合、ガラス瓶すなわち物品の容器として認識されるものであり、かつ、その上部に蓋(兼噴霧器)が存在することから、液状の物品を収納する容器と認識されるものである。
(2) 本願商標の指定商品中の液状の物品の存在
 本願商標の指定商品中には、液状の商品、例えば「香水」や「化粧水」等の液体化粧品が含まれるものである。
(3) 本願商標の識別性
 本願商標は、その上部に蓋兼噴霧器を有するガラス瓶の一形態であり、液体等の内容物を収納する容器であると容易に理解させるものである。
(4) 本願商標とその指定商品との関係
ア 本願商標の立体形状における特徴点は、容器の形状が男性の胴体部分をモチーフとした形状からなることにある。
イ 香水に関する業界においては、香水の容器について、洗練されたデザインからなる多種多様な形状が、採択・使用され(甲5、6、8、乙2、3)、ボトルの形状が男性等をモチーフとした容器も存在している(乙4)。
ウ また、商品「香水」は、一般の取引において、女性向けの商品と男性向け商品とが存在するところ、本願商標のような男性の胴体部分をモチーフにした香水瓶は、当該商品が、男性向け香水であることを表示している。
エ 上記のように、商品「香水」の容器の形状は、種々多様なものが採択・使用されている事実があり、また、本願商標の立体形状における特徴は、その採択の意図が、自他商品の識別のために施されたものであるとしても、これに接する取引者・需要者は、それが、商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものと理解し、当該商品等の形状を表示したものであると認識するに止まる。
 よって、本願商標の立体的形状は、本件審決時を基準として、客観的にみれば、本願商標の立体形状が、多少特異なものであっても、いまだ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないものであり、香水の容器の形状として、需要者において予測可能な範囲内のものというべきである。
 したがって、本願商標の立体形状は、自他商品の出所を表示する識別標識として機能しているものとはいえず、その立体商標の形状の全体を観察しても出所表示としての立体商標の識別力を有するものとは認められない。
(5) 小括
 以上からすると、本願商標は、これをその指定商品中「香水、化粧水」に使用しても、単に商品や商品の容器の形状を普通に用いられる方法で表した標章のみからなる商標にすぎないものであるから、商標法3条1項3項に該当する。
(6) 商標法3条2項について
 なお、本願商標が、香水の容器のデザインという理解を超えて、商品の出所を表示し、自他商品の識別標識として認識されるとはいい難いものであり、使用により出所表示としての立体商標の自他商品識別力を有するに至っているとはいえないこと、また、本願商標の指定商品は、使用に係る商標の商品と同一であるとはいえないから、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備するものといえず、使用により識別力を有するに至った商標ではない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由(商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り)について
(1) 商標法3条と立体商標における商品等の形状
ア 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定し、同条2項は、「前項3号から5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」旨を規定している。その趣旨は、同条1項3号に該当する商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものとして、商標登録の要件を欠くが、使用をされた結果、自他商品識別力を有するに至った場合に商標登録を認めることとしたものである。
 商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項、5条2項)、同法4条1項18号において、「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は、同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと、商品及び商品の包装の立体的形状のうち、その機能を確保するために不可欠な立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。
イ 商品及び商品の包装の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって、直ちに商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって、商品等の出所を表示し、自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
 そうすると、客観的に見て、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当することになる。
 また、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは、公益上適当でない。
 よって、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、同号に該当するものというべきである。
ウ なお、商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない立体的形状については、それが商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美感を追求する目的により選択される形状であったとしても、商品等の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられ、又は使用をされた結果、その形状が自他商品識別力を獲得した場合には、商標登録を受けることができるものとされている(商標法3条2項)。
(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標の構成
 本願商標は、別紙のとおりの構成からなるものである。そして、商標に関する記述(Description of the mark)として、「3/4 view of bottle, resembling a male body in translucent blue, the torso having white stripes; silver upper part.」(ボトルの3/4の外観は青い半透明の男性の身体に似ている。胴の部分は白のストライプがある。先端部は銀になっている。)との記載があり、色彩に関する記述として、「Silver、white and blue」(銀、白及び青)との記載がある(甲1、乙1の1)。
 これによれば、本願商標は、指定商品である香水等の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり、その形状は、その構成上部に蓋兼噴霧器を有し、その下に男性の胴体部分をモチーフにデザイン化したボトルからなる。蓋兼噴霧器は、銀色の円筒状であり、ボトル部分はなだらかな曲面の途中にくびれがあり、くびれの上部は青と白のストライプ模様であり、くびれの下側は青色である。あたかも四肢のない男性の胴体の形状に、ストライプ模様のセーラーTシャツに青色の短パンを着用したかのような印象を与える。
イ 本願商標の創作
 本願商標の形状は、デザイナーであるジャン・ポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)が香水の容器として、男性の身体のラインをイメージしてデザインしたものである。
ウ 香水の容器の形状
 本願の指定商品の1つである香水等の容器には、洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ、上部に蓋兼噴霧器を有するものが多い。また、その下の容器部分の形状が、くびれを有するなだらかな曲面からなる立体形状からなるものもあり、人間の身体をモチーフとした容器として、原告の販売に係るJEAN PAUL GAULTIER CLASSICのほか、ロッキーマン EDP・SP、ジュット デ スキャパレリ EDP・SP、ダリフローレ EDT・SP、エビータ EDP・SP、サイレン EDP・SP、ドーリーガール ボンジュール ラムール EDT・SP等が存在する(乙4の1〜7)。
 また、青色を基調とした香水の容器も、複数存在する(甲8、20、23、乙4の2)。
 もっとも、人間の身体をモチーフとした香水の容器の中でも、本願商標のような、男性の胴体がストライプ模様のセーラーTシャツと青色の短パンを着用したような容器の形状を有するものは、他に見当たらない。
エ 前記アないしウによれば、本願商標の立体的形状のうち、上部の蓋部兼噴霧器部分は、液体である香水を収納し、これを取り出すという容器の基本的な形状であって、スプレーという機能をより効果的に発揮させるものであり、その下の容器部分の形状は、容器の輪郭の美感をより優れたものにするためのものであることが認められる。なお、本願商標に係る立体的形状は、一定の特徴を有するものではあるが、人間の身体をモチーフした香水の容器や青色を基調とした香水の容器は、他にもあり、香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるものとまでは認められない。
 そうすると、本願商標の立体的形状は、本件審決時を基準として客観的に見れば、香水の容器について、機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ、また、香水の容器の形状として、需要者において、機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
(3) 原告の主張について
 原告は、本願商標のような形状は、それまで何人も着想しなかったものであり、また、製造する上での困難性を伴うから、一般的に使用されるものではなく、自他商品識別力を有すると主張する。
 しかし、原告の主観的な意図が、本願商標の形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであったとしても、そのことにより、本願商標の立体的形状が有する客観的な性質に関する判断が左右されるものではない。また、製造上の困難性を認めるに足りる証拠はない上、前記(2)のとおり、本件審決の時点で、現に、人間の身体等をモチーフとした香水が他にも相当数存在することに照らすと、本願商標の形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。
(4) 小括
 以上のとおり、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
 なお、本件審決は、同条2項の要件を具備しない旨判断し、被告も、本訴においてその旨の主張をしているにもかかわらず、原告は、同条2項について何らの主張をしない。そして、本件全証拠によっても、本願商標が「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄剤、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤」等の商品を含む指定商品に使用された場合、原告の販売に係る商品であることを認識することができると認めるに足りない。
 よって、本願商標についてその商標登録を拒絶すべきであるとした本件審決に違法はない。
2 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 部眞規子
 裁判官 井上泰人


(別紙)本願商標 商標イメージ省略
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