判例全文 | ||
【事件名】“住宅ローン金利比較表”の著作物性事件(2) 【年月日】平成23年4月19日 知財高裁 平成23年(ネ)第10005号 損害賠償等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成22年(ワ)第12322号) (口頭弁論終結日 平成23年3月17日) 判決 控訴人(原告) 銀行商品コムことX 訴訟代理人弁護士 参田 敦 被控訴人(被告) 財団法人住宅金融普及協会 訴訟代理人弁護士 山本昌平 主 文 本件控訴を棄却する。 控訴人が当審において追加した請求を棄却する。 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、被控訴人のホームページ(「http://www.sumai-info.com/」がURL上に含まれる全てのページ)のうちの「住宅ローン商品 金利情報」(「http://www.sumai-web.tv/loan_kinri/」がURL上に含まれる全てのページ)を閉鎖せよ。 3 被控訴人は、控訴人に対し、706万4000円を支払え。 第2 事案の概要 1 被控訴人(被告)は自ら開設するウェブサイト上に「住宅ローン商品 金利情報」を掲載しているが、控訴人(原告)は、そのうちの、全国の金融機関の金利情報を整理した被告図表(原判決別紙Aにおいて示された図表部分)が、控訴人の著作物(図形、編集著作物又はデータベースの著作物)である本件図表(原判決別紙Bにおいて示された図表部分)を複製したものであり、被控訴人の上記掲載行為は控訴人の有する本件図表の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害する旨主張し、被控訴人に対し、著作権法112条1項に基づく差止請求として上記「住宅ローン商品 金利情報」が掲載されたウェブページの閉鎖と、著作権侵害の不法行為による損害賠償の一部請求として706万4000円の支払を求めた。 2 原判決は、本件図表の著作物性(図形、編集著作物又はデータベースの著作物)を否定し、控訴人の請求をいずれも棄却した。 3 控訴人は、当審において、本件図表が著作物に当たらないとしても、被控訴人が本件図表の複製と同視し得る被告図表を掲載したウェブサイトの運営を行うことは、本件図表を掲載したウェブサイトの運営による控訴人の営業活動に対する侵害行為であり、かつ、公益法人による民業圧迫であるから、法的保護に値する利益の侵害による不法行為に当たると主張し、この不法行為に基づく請求を追加した。 4 争いのない事実等は、原判決2頁9行目以下の「2 争いのない事実等」記載のとおりである。 第3 当事者の主張 1 原審における主張 原審における当事者の主張は、原判決3頁5行目以下の「3 当事者の主張」記載のとおりである。 2 当審における主張 (1) 控訴人 ア 控訴人の法的保護に値する利益 東京地方裁判所平成13年5月25日中間判決(判時1774号132頁)は、他人のデータベースを複製して販売した行為について、「民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が費用や労力をかけて情報を収集し整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成する」と判示しているところ、データベースそのものの複製ではないとしても、被告図表については、保護に値する商品(本件図表)の複製として同様に考えられる。 控訴人は、膨大な数の住宅ローンについて、各都道府県、各地域によって利用できる住宅ローンが異なることに着目し、平成9年5月ころから10年以上もの長い間、各都道府県や各地域で利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンについて、それらを変動金利と固定金利ごとに、固定金利についてはさらに各固定期間ごとに、順次、昇順(低金利順)に並び替えて比較するサイトの有無を調査した。その結果、「@全国の金融機関の住宅ローンを掲載していること、Aその商品情報等をデータベース化していること、B各都道府県や各地域において利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを抽出する機能を備えていること、C各都道府県や各地域において利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンについて、変動金利と固定金利の固定期間ごとに順次、昇順に並び替える動作機能を備えていること」といった特徴を有する図表のウェブサイトが全くなかったことから、上記@〜Cの特徴を有する本件図表を全国で初めて創作したのである。また、このような特徴を有する図表は、現時点でも本件図表と被告図表以外に存在しない。 控訴人は、本件図表を掲載したウェブサイトの運営により、著作権侵害の項で主張したような合計706万4000円の営業収入を得る予定であった。また、これを運営するために数人の従業員を雇用するなどし、その準備段階から営業開始まで、そして現在に至るまで多額の費用を投入している(平成20年末で2154万0769円の赤字、平成22年12月末で4580万3965円の赤字となっている。)。 したがって、このような控訴人の営業活動は、重要な営業活動であり、法的保護に値する利益である。 イ 被控訴人の侵害行為 被控訴人は、本件図表と同一の特徴を備える被告図表を掲載したウェブサイトを作成し運営している。本件図表以外には上記のような特徴を備えた図表は存在せず、また、「Yahoo!Japan」や「Google」等の最も利用されている検索サイト等で「住宅ローン比較」等でキーワード検索すれば本件図表のサイトが上位に表示されることからすると、被控訴人が本件図表を知って被告図表を作成したことは明らかである。そうすると、被控訴人は、本件図表の存在を知りつつあえて複製(完全コピーとはいえなくてもコピーと同視できるものを作成)したというべきである。 また、公益法人である被控訴人は、国民の経済活動に対して中立的であるべきところ、控訴人のような民間業者が営利目的でしている活動と同じ活動をすることは民業潰しになり、国民の経済活動を阻害することになるのであるから、そのような活動は行ってはならない立場にあるというべきである。これに加えて、被告図表のような住宅ローンの金利情報を提供することは、被控訴人の法人の目的から直接導かれない上に、被控訴人は、金利情報を平成5年度から平成20年度までの間全く提供しておらず、平成4年までに提供した金利情報も、銀行金利と住宅公庫金利との比較表であって、本件図表とは全く性質が異なるものであるから、金利情報の提供が被控訴人にとって重要なものではないことを被控訴人自身認識していた。しかるに、被控訴人は、平成20年9月になって、突然、控訴人と同じ業務を行い始めたのである。 ウ 小括 以上のように、控訴人の被侵害利益は重要な営業活動として保護されるべき重大な利益であり、これに対する被控訴人による侵害行為は、その目的、態様等からして不法性が大きく、違法性があるから、本件については、不法行為が成立する。 (2) 被控訴人 ア 控訴人の法的保護に値する利益に対して 控訴人の引用する裁判例は、データベースをそのまま複製している事実を前提としているものである。控訴人も「データベースそのものの複製ではない」と認めるように、本件では全く事実関係が異なっており、上記裁判例は参考にならない。 イ 被控訴人の侵害行為に対して 被告図表は、被控訴人の判断において選択した金融機関につき、金融機関が公表している金利を基に表示しているものであり、原判決(別紙)相違表のとおり、本件図表とは59箇所もの違いがある。また、被告図表を掲載したウェブサイトの形式・態様(情報の並べ方、並び替え機能等)は、住宅ローンの金利情報を比較するサイトで通常使用されている形式・形態であり、かつ、インターネットの画面上、数字を一定の法則に従い並び替えることができる極めてありふれた機能・表示を用いて作成したものである。このように、被告図表は、本件図表の複製やデッドコピーとはいい難く、不法行為が成立する場合には該当しない。 被控訴人の目的に「住宅金融等に関する…情報提供並びに…」と記載されるとおり(乙7)、住宅金融に関して最も重要な要素である金利情報を提供することは、被控訴人の本来的な業務のひとつである。また、被控訴人は、昭和61年創刊の「ポケット住宅データ」において一般向けの金利情報の提供を開始し、平成5年4月に創刊した「住宅問題調査会」の会員向けのデータ集「月刊ハウジングデータ」や、平成18年5月に創刊した住宅ローンアドバイザー向けの機関誌「住宅ローンアドバイザー通信」を通じて、平成5年度から平成20年度までの間も金利情報を提供してきた。そして、現在では、インターネットの普及に伴い、全国の金融機関の金利がネット上で公表されており、また、住宅ローンの多様化・複雑化に伴い、ネット上で金利情報を比較するサイトも多数存在している中、被控訴人の正当な業務として、平成20年9月から、被告図表を掲載したウェブサイトにおいて、住宅ローンの金利情報の提供を無償にて開始したものである。 第4 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の本訴請求は当審において追加された請求を含めて棄却すべきものと判断する。原審から請求されている著作権侵害に係る請求が理由のないことは、原判決10頁10行目以下の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであり、当審での追加請求に理由のないことは、次に示すとおりである。 控訴人は、追加請求の原因として、被告図表の特徴が本件図表のそれと同一であり、本件図表の複製と同視し得るので、被告図表を掲載したウェブサイトの運営を行うことは、本件図表を掲載したウェブサイトの運営による控訴人の営業活動に対する侵害行為であり、かつ、公益法人による民業圧迫であるから、不法行為に当たる旨主張する。 しかしながら、被告図表は、控訴人も認めるように、本件図表それ自体を用いて作成されたもの(いわゆるデッドコピー)ではない。また、本件図表の特徴とされる、全国の金融機関の住宅ローン商品について、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間の順に配列することや、これらの情報をデータベース化し、抽出し、並び替えるといった機能自体は、公表されたデータで、しかも全国の金融機関といっても数が限られたものを整理するにとどまるものであって、ありふれたものであるから、これらの配列や機能に被告図表と共通する部分があるからといって、そのこと自体において、被告図表が本件図表の複製と同視し得るものとは認められず、被告図表を掲載したウェブサイトの運営が控訴人に対する不法行為に当たるとはいえない。また、民業圧迫の点についても、証拠(乙7)によれば、被控訴人の法人の目的として、「住宅金融等に関する…情報提供…」と記載されていることが認められ、被告図表の作成等により住宅ローンの金利情報を提供することは上記目的に含まれると解されるところ、そのような目的・行為は公益に合致するものであるから、被控訴人が被告図表を掲載したウェブサイトの運営を行うことと控訴人の業務との間に競合する部分があるとしても、被控訴人の上記行為が違法であるとはいえない。 他に控訴人主張の事実関係を最大限考慮に入れたとしても、本件において法的保護に値する利益の侵害に当たる事実があるものとは認められず、そのことの不法行為に基づく控訴人の請求も理由がない。 第5 結論 よって、本件控訴は理由がなく、また、当審において追加された請求も理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 清水節 裁判官 古谷健二郎 |
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