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【事件名】“売上高データ”の著作物性事件C(2) 【年月日】平成23年3月22日 知財高裁 平成22年(ネ)第10059号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第27691号) (口頭弁論終結日 平成22年11月24日) 判決 控訴人(原告) 宏文出版株式会社 訴訟代理人弁護士 川村武郎 被控訴人(被告) Y 訴訟代理人弁護士 松村幸生 主 文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、500万円及びこれに対する平成21年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は著作権侵害及び名誉・信用毀損等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟である。 1 本件の外形的事実関係は次のとおりである。 (1) 控訴人は、ネット販売についての業界専門紙誌、一般雑誌、書籍の発行等を業とする株式会社であり、月刊誌である「月刊ネット販売」を刊行している。 通信販売業界についての新聞、雑誌、書籍の発行等を業とする株式会社通販新聞社は、控訴人と同一系列に属する会社であり(同社の代表取締役は、控訴人の代表取締役のAである。)、「週刊通販新聞」と題する新聞を刊行している。 (2) 被控訴人は、平成5年ころに通販新聞社に入社し、その後、記者、編集次長を経て、平成18年に同社の執行役編集長に任命され、「週刊通販新聞」の編集業務に従事するとともに、控訴人の刊行する「月刊ネット販売」の編集人にも任命され、同誌の編集業務に携わっていた者である。 被控訴人は、平成20年7月、通販新聞社から懲戒解雇する旨の意思表示を受け、かつ、その効力を争っている。 (3) 原判決別紙対照表記載の原告図表1〜9(以下、まとめて「各原告図表」という。)が、「月刊ネット販売」2007年(平成19年)9月号に掲載された。 (4) 被控訴人は、原判決別紙書籍目録記載の書籍(本件書籍)を執筆し、本件書籍中に原判決別紙対照表記載の被告図表1〜9(以下、まとめて「各被告図表」という。)を掲載した。本件書籍は、平成20年6月ころ、出版・配本された。 2 控訴人は、次の@、Aのとおり主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として500万円及び遅延損害金の支払を求めた。 @ 本件書籍中に掲載された各被告図表は各原告図表の複製物に当たり、被控訴人が本件書籍中に各被告図表を掲載した行為は、各原告図表に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害する行為であるか、仮に、各原告図表が著作物であると認められないとしても、原告の財産権を侵害する行為であり、被控訴人には不法行為に基づく損害賠償として250万円の支払義務がある。 A 被控訴人が、本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用し、かつ、その著者の肩書きとして「株式会社通販新聞社、通販新聞・執行役編集長、月刊ネット販売・編集人」と、その経歴として「通販新聞社に入社し、記者を経て3年前から現職」と表記したことにより、控訴人の名誉・信用が毀損されたものであり、被控訴人には不法行為による損害賠償として250万円の支払義務がある。 3 原審は、@ 各原告図表は素材の選択又は配列によって創作性を有するものではないから編集著作物に該当しないし、データベースにも該当しない(争点1)、A 各原告図表は著作物として保護されるものではなく、控訴人において各原告図表の素材や配列方法を独占しうるものではないし、また、各被告図表は「月刊ネット販売」を出典元として明記した上で本件書籍に掲載されており、各原告図表の利用方法としても相当性を欠くものではなく、被控訴人が本件書籍に各被告図表を掲載した行為が違法な行為であるということはできない(争点2)、B 一般読者は本件書籍表題における「カラクリ」という言葉は「しかけ」といった意味で理解するものと認められ、「他者を欺く計略や謀略」といった悪印象を与える意味に理解するとは認めることができず、控訴人の信用を毀損し、その社会的評価を低下させるものであるとはいえない(争点3)として、控訴人の請求を棄却した。 第3 当事者の主張 本件の争点及び当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の2」及び「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。 1 控訴人の補充主張 (1) 各原告図表の著作物性について(争点1−a) ア 原告図表1につき 原告図表1の特徴は、「PC+携帯売上高(百万円)」という独自の項目を立て、さらにこの独自の項目を詳細に分析しうるように「増減率(%)」、「携帯売上高(百万円)」、「月刊アクセス数(PV:万)」、「累積会員数」、「決算期」、「主要商材」の各素材を選択し、横列に一目でそのつながりが判明するように並べて図表1を作成しているところにある。この項目の選定及び並べ方は、どのメディアも採用していない控訴人独自の項目の選定であり、配列(横列)の順序もより容易に理解が可能なように独自の工夫によるものである。すならち、通信販売中、パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として、横列を有機的に結び付けた図表は類例がなく、控訴人の創作性の表れである。 イ 原告図表2につき 原判決の意味するところが同一の商品ジャンル毎に分類するという方法自体が「ありふれている」というのであれば、それはそのとおりであろう。 しかし、独自性が表れるのは、通信販売業界という特定の業法を共通とする業界において、具体的な分類そのものに意味があり、かつ独自性、創作性が認められるか否かである。このような前提に立った場合、控訴人の分類、すなわち「総合」、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「食品」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」、「通教」、「家具」に分類することが控訴人は業界の現状を理解するにもっともふさわしいと考え、原告図表1を発展させ、原告図表2を作成したものである。各メディアの各図表は各特徴を有しているところ、それらの図表は控訴人の分類とは異なっており、この特徴こそが各作成者の創作性である。 ウ 原告図表3、4につき 原告図表3、4は、経済産業省のデータを利用して棒グラフ(原告図表3)あるいは円グラフ(原告図表4)としたものであり、1つの素材をより分かりやすくする目的で控訴人が作成したものである。原判決は、素材が共通であり、棒あるいは円グラフ化することは一般的に行われているありふれたものとしたが、より分かりやすくするという工夫をもって目的別にグラフ化を異とするのは創意性の表れである。 エ 原告図表5、6につき 原判決は、モバイル通販と携帯とが異なる概念であることを看過しているだけでなく、カタログ通販事業者及び主要ネット通販専業者の売上中の携帯通販の売上げが占める「携帯通販占有率」をも項目として選定し、カタログ通販事業者の総売上中の携帯電話による売上げ率を対比し理解しうる構成を採っていることも看過している。カタログ通販事業者あるいはネット販売専業者の販売実績中の携帯電話による売上げを取り上げた項目選定は他に類例がなく、ありふれていない。 オ 原告図表7につき 原判決は、モバイル通販と携帯とが異なる概念であることを看過している。また、モバイル通販専業者という分野に限って図表としていることは他に類例がなく控訴人独自の判断によるもので、創作性が認められてしかるべきである。 カ 原告図表8につき 原判決は、衣料品・雑貨のように特定のジャンルの売上高及び増減率という素材を選択し、それを売上高の大きいものから順に並べることは、一般的に行われていることであり、ありふれたものと認定した。 ジャンル別の分類そのものは多くの分析で使用されている方法であり、ありふれていることに異議はない。しかし、ネット販売業界の分類として「衣料品・雑貨」という分類をなすことは控訴人独自の分類であり、控訴人の創意によるものである。 キ 原告図表9につき 控訴人は、原告図表9において、電子取引を行っている総合通信業者の携帯を含めたモバイルの方法による売上高を総売上高と対比して図表化している。このような横列の図表は他に例がなく、携帯を含めたモバイルを手段とした売上げの趨勢は、原告図表9のみによって理解しうるものであり、他に類例がない以上、控訴人の創意によるものというべきである。 (2) 財産権侵害について(争点2) 各原告図表は、控訴人が兄弟会社である通販新聞社と共同で長年蓄積した信用ではじめて可能となり、かつ膨大な費用をかけて集積したアンケート結果に基づくデータを元に作成したものである。仮に各原告図表に著作物性が認められないとしても、このように費用をかけ形あるものとした独自性のあるものについては、その財産性が認められるべきであるし、一定の場合についてのみ許諾を必要とする法の趣旨は満たされる。 被控訴人は、本件書籍において出典は明記しているものの、本文との関連で主従関係がなく、また視覚的にも並列的な構成を取っているという点で著作権法32条で定める引用の要件を満たしていないことは明らかである。 (3) 「カラクリ」の意味について(争点3) 原判決は、「『カラクリ』という言葉は、『しかけ』といった意味として理解するものと認められ、原告が主張するように『カラクリ』という言葉を、ことさらに『他者を欺く計略や謀略』といった悪印象を与える意味に理解するとは認めることができない。」とした。 しかし、原判決は「カラクリ」という言葉の一般的な意味を誤って理解しているのみならず、通販業界という一定の閉鎖された世界で受ける印象とを混同している。 控訴人は、本件書籍に関して通信販売業界の大手業者や業界団体からきつく叱られたり、不適切さを指摘されたが、控訴人が全面的に関与して執筆していると一般人に誤解されるとともに、「カラクリ」という言葉から受ける理解を憂えるからこそこのような抗議が寄せられたのである。原判決のいう「悪い印象をもたない」というのは単なる希望的観測である。 また、対外的な反応に基づく自衛的な措置を取らざるを得なかった本件のような場合に、事後的に裁判官の自由な心証に基づく読み方を前提とした判断が許されるかについても強い疑問がある。本件書籍の表題を見たのみならず、さらに購入し中身まで読了して本件書籍の趣旨を正確に理解する者は、本件書籍を書店で見たり、新聞の広告欄やホームページで見たりする者のうちのごく一部であり、関係部門からの反応を優先的にあるいは最大限に考慮して判断すべきであるからである。 (6) 許諾の有無について(争点1−c) 原判決は許諾の有無について判断していないが、本件書籍は控訴人の許諾を得ないで執筆されたものである。 2 被控訴人の補充主張 (1) 各原告図表の著作物性につき(争点1−a) 控訴人の主張は、実質的には原審の主張の繰り返しであり、その主張内容も独自の見解にすぎず、判例、学説及び実務に根差すものではない。 (2) 財産権侵害につき(争点2) 本件書籍は出典として控訴人を明記している上、本件書籍における引用は控訴人の販促的効果をもたらすものであり、財産性はもとより財産侵害をいう主張も当たらない。 本件書籍の引用における主従関係は明白であり、控訴人の主張は独自の意見にすぎない。 (3) 「カラクリ」の意味につき(争点3) 本件書籍のタイトルとしての「カラクリ」の文言は控訴人の主張するような問題を孕んだものではない。そもそも、「カラクリ」というタイトル中の文言は、出版社である株式会社秀和システムが決定したものであり、被控訴人の責任に帰すべき問題ではない。業者らからクレーム等があったと認めることもできない。 (4) 許諾の有無につき(争点1−c) 控訴人は、被控訴人が本件書籍を執筆するに当たって、各原告図表を利用することを許諾した。 第4 当裁判所の判断 当裁判所も、各原告図表は編集著作物(著作権法12条1項)に該当するとは認められないから、本件書籍中に各被告図表を掲載した行為は各原告図表に係る控訴人の著作権(複製権)の侵害行為は当たらず、また、原告の財産を侵害する違法な行為であるということもできないし、さらに、被控訴人が本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉を使用したことが、控訴人の信用を毀損し、あるいは控訴人の社会的評価を低下させるものであるとはいえないと判断する。この点に関する当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、下記のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」記載のとおりである。 1 各原告図表の著作物性について(争点1−a) (1) 原告図表1 原判決11頁10行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお、控訴人は、通信販売中、パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として、横列(「増減率(%)」、「携帯売上高(百万円)」、「月刊アクセス数(PV:万)」、「累積会員数」、「決算期」、「主要商材」)を有機的に結び付けた図表は類例がなく、控訴人の創作性の表れであると主張する。 しかし、通信販売中、パソコン及び携帯とに限定した項目を中心とした図表がこれまで存在しなかったとしても、インターネットによる通信販売を実施する企業において、「PC+携帯」の売上高(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)が基本的な営業情報であることに照らせば、「PC+携帯」(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)という項目を図表の中心として選定することは、特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきであって、創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。」 (2) 原告図表2 原判決12頁10行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお、控訴人は、各メディアの各図表は各特徴を有しているところ、それらの図表は控訴人の分類とは異なっており、この特徴こそが各作成者の創作性であるなどと主張する。 しかし、控訴人作成に係る原告図表2と同一の分類が存在しなかったとしても、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」のように、通信販売の対象商品を上記のように分類することはありふれた発想であり、創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。」 (3) 原告図表5 原判決15頁8行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお、カタログ通販事業者あるいはネット販売専業者の販売実績中の携帯電話による売上げを取り上げた項目選定は他に類例がないとしても、携帯電話がインターネットを利用する際に用いる主要な道具であり、通信販売を実施する企業において、携帯電話を経由した売上高、あるいはそれの電子商取引における割合(携帯通販占有率)が基本的な営業情報であることに照らせば、これらの項目を取り上げることは、特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想というべきであって、創作性があるとは認めがたい。」 (4) 原告図表6 原判決15頁16行の「前記(5)イで認定したとおり、」を「前記(5)イ、ウで認定したとおり、」と改める。 (5) 原告図表7 原判決15頁26行目の「(携帯電話通販販売高)」を削る。 原判決16頁5行〜8行を、「イ 前記(5)イで認定したとおり、「モバイル通販専業者」を素材として選択することはありふれたものであったと認められるし、通信販売、通信教育、訪問販売等の商取引を実施する企業のモバイルを経由した売上高、増収率などを素材として選択することも、特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきである。」と改める。 (6) 原告図表8 原判決17頁2行〜3行を「「衣料品・雑貨」という分類を用いることは、特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想というべきである。」と改める。 (7) 原告図表9 原判決17頁24行〜18頁1行を「また、通信販売を実施する企業において、モバイルを経由した売上高が電子商取引の売上高のうちどの程度の割合を占めているのかということを素材として選択することは、特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものと認められる。」に改め、18頁5行目「したがって、」の次に「モバイルによる売上高を項目として選択した図表がこれまでになかったとしても、」を加える。 2 被告が、本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用したこと等が、原告の名誉・信用を毀損する不法行為であるといえるかについて(争点3)原判決19頁7行〜20頁3行を次のとおりに改める。 「(2)表題を含め書籍の表紙の記述の意味内容が他人の客観的な信用や社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記述についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断すべきである。 証拠(甲32〜36)によれば、「からくり」とは、「@糸のしかけであやつって動かすこと。また、その装置。転じて、一般に、しかけ。Aしくんだこと。計略。たくらみ。B絡繰人形に同じ。C絡操眼鏡の略。Dやりくり算段。」(広辞苑第6版、甲34)、「@糸・ぜんまい・水などの動力を利用して、人形や器物を動かす仕掛け。また、その仕掛けを使った見せ物。A機械などの動く原理。また、仕組み。仕掛け。B計略。たくらみ。」(大辞林第3版、甲33)、「@ちょっと見には分からない複雑な仕掛けによって内部から動きを操作する装置、A普通では不可能と思われる事をなんとかごまかしてつじつまだけはうまく合わせておくやり方。」(新明解国語辞典第5版、甲35)といった意味を有することが認められる。 また、本件書籍の表紙カバーの表面上部には、「図解入門業界研究」、「最新通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」と、表面下部には、「業界人、就職、転職に役立つ情報満載」、「発展を続ける通販業界がわかる最新トピック満載!」、「急成長を遂げるネット通販の戦略とは!」、「カタログ・TVなど広告媒体がわかる!」、「アマゾンなどの最新ビジネスモデル紹介!」、「健康食品・化粧品通販、成長の秘訣とは!」、「通販に関わる法規制強化の最新事情解説!」と、表面の下端部には、「渡辺友絵 著」と、それぞれ記載されており、カバー背表紙には、「図解入門業界研究」、「最新通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」と記載されている(乙1)。 そして本件書籍では、「カラクリ」という言葉は、「通販業界の動向」という言葉と一緒になって表題となっている上、カバーにおいて「図解入門業界研究」、「業界人、就職、転職に役立つ情報満載」、「発展を続ける通販業界がわかる最新トピック満載!」、「通販に関わる法規制強化の最新事情解説!」というように、通販業界について解説・情報提供することを意味する文言と並んで使われていることからすれば、一般読者は、「カラクリ」という言葉を、一般人には知られていない「しかけ、仕組み」といった意味で理解した上、本件書籍は通販業界の最新の動向やしかけ・仕組みについて、業界人でのみ知られている情報を提供し解説することを内容とするものと受け止めると認めることができる。 この点、控訴人は、「カラクリ」という言葉は「他者をあざむく計略や謀略」といった悪印象を与える意味に理解される旨主張するところ、例えば証拠(週刊現代2010年10月9日号、甲29の2)の表紙及び62頁〜63頁に「買ってはいけない人気テレビショッピングの『からくり』」等と記載されているように、「買ってはいけない」というテレビショッピングに対する否定的な文言と共に、そのような趣旨の文脈の中で使用されるような場合には、控訴人の主張するような悪印象を与えるものとして使用される場合もある。しかし、本件書籍の表紙の上記認定の記載からすれば、「カラクリ」という言葉が通販業界に対する否定的な文脈の中で使用されているとは認められないのであって、「からくり」という言葉が、場合によっては上記雑誌のように一般読者(ないし視聴者)に否定的な意味を与えるものとして理解される場合があるからといって、本件書籍における「カラクリ」という言葉が控訴人の主張するような悪印象を与えるものと一般読者が受け止めると認めることはできない。 また、本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉が使用されていることにつき、通信販売業界の業者らに不快と感じたり不適切であると考える者がいるとしても、それは、自身だけが不快と感じている実態を踏まえてのうがった印象にすぎず、一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断した場合には、本件書籍の表題が控訴人の主張するような悪印象を与えるものと認められないことは前記のとおりである。 したがって、控訴人が、その執筆した本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉を使用したことが、控訴人の信用を毀損し、あるいは控訴人の社会的評価を低下させる不法行為であると認めることはできない。」 第5 結論 以上より、その余の補充主張について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉実 |
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