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【事件名】商標“天使のチョコリング”侵害事件(2)
【年月日】平成23年3月17日
 知財高裁 平成22年(行ケ)第10335号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年2月24日)

判決
原告 株式会社CLUB ANTIQUE
同訴訟代理人弁護士 川上明彦
同 川上敦子
同 原武之
同 松井隆
被告 森永製菓株式会社
同訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
同 関真也
同弁理士 小林彰治
同 阪田至彦


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2010−890032号事件について平成22年9月29日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、原告の下記1の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める被告の下記2の本件審判請求について、特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には、下記4のとおりの取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。
1 本件商標(乙1、2、48)
 本件商標は、「天使のチョコリング」の文字を横書きにし、指定商品を第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」とする登録第5266577号商標(平成20年11月7日登録出願、同21年8月5日登録査定)である。
2 特許庁における手続の経緯
 被告は、被告が有する別紙引用商標目録記載1、2の商標等を引用して、商標法4条1項11号に該当し、又は被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあって同項15号に該当することを理由に、無効審判を請求した。
 これに対し、特許庁は、被告の請求を無効2010−890032号事件として審理し、平成22年9月29日に「登録第5266577号の登録を無効とする。」とする本件審決をし、同年10月7日、その謄本は原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由は、要するに、本件商標と上記引用商標目録1及び2記載の商標(以下「引用商標1」及び「引用商標2」といい、併せて「本件引用商標」という。)とは、その構成中の「天使」との部分において、外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一とする類似のものということができるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものであって、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすべきである、というものである。
4 取消事由
(1) 本件商標の構成に係る判断の誤り(取消事由1)
(2) 出所の混同を生ずるおそれがあるとした判断の誤り(取消事由2)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件商標の構成に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は、本件商標の構成中の「天使」の文字部分だけを、本件引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるとし、また、「天使」の文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えると説示した。
(2) しかしながら、「天使」という名称は、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教において神の使いとして旧来から使用されていた名称であり、我が国では、キリスト教が禁教であった関係で、明治時代になるまで広く普及してこなかった一般名称であって、例えていうならば、精霊や妖精、妖怪などと同じような不可思議な神聖なものに付与される名称又は形容詞にすぎない言葉である。
 また、「天使」との語は、既に一般名称に近い存在となっており、「神の使者として派遣され、神意を人間に伝え、人間を守護するというもの」という観念よりも、むしろ、美男・美女などを天使で比喩することがあるなど、「天使」という文字を比喩として利用されることが多いくらいとなっている。
(3) 被告は、天使のマークを企業シンボルとして利用しているが、被告の創業者自身が「エンゼルマーク」を採用したのも、「天使・エンゼル=天使」というイメージから、「子どもたちのためにお菓子を」ということを表現するためであった。
 そして、「天使」という名称から被告を識別できるわけではなく、あくまで「エンゼルマーク」ということで被告を識別できるにすぎない。
 そうであるからこそ、被告が現在販売しているチョコ菓子の中で、唯一「エンゼルパイ」が存在しているだけであって、その他、「天使」という名称を利用している主力商品は存在せず、「天使」イコール被告とのイメージはなく、テレビCMなども「エンゼルマークの森永」として広告されている。
(4) さらに、「天使」という名称が一般名称化していることから、「天使のお菓子」や「天使のたまごロール」、「天使の鈴」、「天使のクリーミープリン」など多数の商品が第三者によって販売されているとの現状がある。
(5) 以上のとおり、「天使」との文字には出所識別標識として強く支配的な印象が与えられるものではない。
(6) 原告は、平成14年7月に愛知県知多郡東浦町で「ANTIQUE」との店舗を開店したことから始まり、徐々に、事業及び店舗を拡大し、その後に法人化したパン類等の製造販売会社である。
 そして、原告が経営する店舗(フランチャイズ店舗を含む)において販売している多数のベーカリー商品の中で、トップ3に入る原告の主力商品となっているのが「天使のチョコリング」との名称で販売しているドーナツ形状のデニッシュパンである。
 原告は、当初から、「天使のチョコリング」という名称で当該商品を販売しており、当該商品が原告の代名詞といわれるほどの人気を博している。原告は、「天使のチョコリング」を一体の名称のものとして扱っており、顧客に配布する商品チラシや「ANTIQUE通信」という商品情報を提供するチラシ、地域紙や情報誌における紹介においても、「天使のチョコリング」として掲載しており、一体として扱われていないものは存在しない。
 このように、原告は、「天使のチョコリング」という名称を一体として使用しており、「天使」という名称を単独で使用することはないものであるから、その取引状況をも考慮して、「天使のチョコリング」を一体のものとして判断すべきである。
(7) したがって、本件商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他の商標と比較して商標の類否判断をすることは許されない。
〔被告の主張〕
(1) 結合商標において、ある文字や語が商標の要部となり得るか否かは、当該商標を使用する商品又は役務との関係において決せられるべきものである。
 しかるところ、本件商標のうちの「天使」とは、「神の使者として派遣され、神意を人間に伝え、人間を守護するというもの」(乙11)との意味合いを有するもので、本件商標の指定商品が分類される食料品とは関連性のない語である。これに対し、本件商標のうちの「チョコリング」の部分は、チョコレート菓子の略称である「チョコ」と、輪という形状を表す「リング」を結合した複合語であり、菓子を含む食料品の分野では、「チョコレートを使用したリング状の食品」や「リング状(輪状)のチョコレート菓子」といった程度の意味で広く一般に用いられているものであって(乙14〜49)、指定商品との関係では、商品の内容そのものを表す形容詞的部分に当たる。
(2) ところで、結合商標の類否については、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、1個の商標から2個以上の称呼、観念の生ずることがある…。一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一又は類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。」(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)とされる。
(3) 本件商標は、互いに何ら観念的な結び付きを有しない「天使」と「チョコリング」とを格助詞の「の」で単純に結合させただけのものであり、また、「チョコリング」は指定商品そのものを表す付記又は付飾部分に当たるもので、本件商標のうち「天使」の部分が、本件商標の指定商品との関係において、強い識別力を発揮する部分であって、本件商標の要部は「天使」である。
(4) したがって、本件商標のうち「天使」部分を取り出し、これと本件引用商標との類否判断を行った本件審決に誤りはない。
2 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがあるとした判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 前記1の〔原告の主張〕の(3)のとおり、被告は、天使のマークを企業シンボルとして利用しているが、「天使」という名称から被告を識別できるわけではなく、あくまで「エンゼルマーク」ということで被告を識別できるにすぎない。
(2) また、前記1の〔原告の主張〕の(4)のとおり、「天使」という名称が一般名称化していることから、「天使のお菓子」、「天使のたまごロール」、「天使の鈴」、「天使のクリーミープリン」など多数の商品が第三者によって販売されているとの現状があり、その点からも、「天使」という名称から被告の指定商品を識別できないことが明らかである。
(3) 前記1の〔原告の主張〕の(6)のとおり、原告は、販売の当初から「天使のチョコリング」という名称で当該商品を販売しており、同商品が原告の代名詞といわれるほどの人気を博しているものであって、その取引状況を考慮すると、本件商標は一体のものとして類否が判断されるべきものである。
(4) 以上によると、本件商標の構成である「天使のチョコリング」との名称を使用することによって、原告のチョコリングが被告の商品と誤認混同されることはない。
〔被告の主張〕
(1) 本件引用商標は、「天使」の漢字、「てんし」の平仮名文字又は「テンシ」の片仮名文字からなり、第30類「菓子及びパン」を指定商品に含むものであって、被告が保有する商標として、平成21年8月5日の本件商標の登録査定時において有効に存続しているものである(乙3、4、9、10)。
(2) 本件商標に係る指定商品の第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」は、本件引用商標の指定商品「菓子及びパン」とは、その原材料(チョコレート)及び形状(リング状)を特定している点を除けば、商品(菓子及びパン)として同一であり、生産部門、販売部門、原材料及び品質、用途(食用)並びに需要者(一般消費者)が共通するため、互いに類似する商品である。
(3) 前記1の〔被告の主張〕のとおり、本件商標のうち「天使」の部分は、本件商標の指定商品との関係において強い識別力を発揮する部分であって、本件商標の要部は「天使」である。
(4) 本件商標の要部である「天使」を本件引用商標と対比すると、両商標からは、いずれも「テンシ」との同一称呼及び「神の御使い」との同一観念が生じるから、本件商標は、引用商標とは要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標である。
(5) そして、本件引用商標は、被告に係る著名商標である「エンゼルマーク」及び企業シンボルに関わるものであるところ、被告が長年にわたって商品に付したり、広告において使用したりした結果、「森永といえば天使(エンゼル)」、「天使(エンゼル)といえば森永」との認識が広く世間一般に確立しているものであって、本件商標の登録査定時において、「天使(エンゼル)」は、被告及びその関連会社に係る商品や業務を指称する著名な企業シンボルとして、取引者及び需要者の間に広く知られているものである。
(6) 以上によると、本件商標は、本件引用商標との関係において、商標法4条1項11号に違反して登録された、その登録を無効とすべきものであるということができる。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の構成に係る判断の誤り)について
(1) 商標の類否判断の対象
ア 本件商標は、「天使のチョコリング」の文字を標準文字で横書きにし、指定商品を第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」とするものであって、漢字による「天使」と片仮名による「チョコリング」とが格助詞「の」で結び付けられている結合商標である。
イ ところで、商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されないが、他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2) 本件商標に係る語句の意味
 そこで、本件商標の構成についてみると、その構成のうち「天使」の語は、「天使の使。勅使」、「神の使者として派遣され、神意を人間に伝え、人間を守護するというもの。セラピム(熾天使)・ケルビム(智天使)など。エンゼル。エンジェル」、「比喩的に、やさしく清らかな人」との意味(乙11。「広辞苑第6版」平成20年1月株式会社岩波書店発行)、「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などで、神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。ペルシャに由来する思想とされる。エンジェル」、「やさしい心で、人をいたわる人。女性についていうことが多い」、「天子の使者。勅使」との意味(「大辞林第3版」平成18年10月株式会社三省堂発行)とされている。
 また、本件商標の構成のうち「チョコ」の語は、「チョコレートの略」との意味(上記「広辞苑第6版」及び「大辞林第3版」)とされている。
 さらに、本件商標の構成のうち「リング」の語は、「輪。環」、「指輪」、「ボクシングやプロレスの試合を行う方形の台」との意味(上記「広辞苑第6版」)、「輪。輪状のもの」、「指輪」、「ボクシングやプロレスなどの試合場」の意味(上記「大辞林第3版」)とされている。
 さらにまた、上記によると、「チョコリング」の語は、「チョコレートの輪、環」の意味となる。
(3) 本件商標から生ずる観念及び称呼
ア 本件商標の指定商品は「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」であるところ、上記(2)に照らすと、「チョコリング」については、チョコレート成分含有又はチョコレート味という原材料や品質で、かつ、輪状という形状の菓子又はパンであることを普通に用いられる方法で一般的に表示したものということができるのであって、このような菓子又はパンの品質、原材料及び形状を普通に用いられる方法で一般的な文字で表示した本件商標中の「チョコリング」の部分からは、商品の出所識別標識としての称呼、観念は生じない。
 他方、「天使」との語は、上記(2)のとおりの意味を有するものであって、本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく、本件商標の指定商品との関係では商品の出所識別標識としての機能を発揮し得るものである。また、本件商標の「天使」との部分は、「チョコリング」との部分と何ら観念的な結び付きも有しないものである。
 以上によると、本件商標については、「天使のチョコリング」全体のほかに、「天使」の部分についての観念及び称呼が生じるものということができる。
イ したがって、本件商標からは、「天使のチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」、「天使のようなチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」のほかに「天使」という観念が生じ、また、「テンシノチョコリング」のほかに「テンシ」との称呼も生じる。
(4) 原告の主張の当否
 原告は、「天使」という名称は一般名詞化しており、「天使」との文字が出所識別標識として強く支配的な印象が与えられるものではないこと、原告は、「天使のチョコリング」という名称を一体として使用していることから、「天使のチョコリング」を一体のものとして判断すべきであることなどを主張する。
 しかしながら、上記説示のとおり、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるところ、これを本件商標についてみると、「天使」との語は、本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく、本件商標の指定商品との関係では自他商品の識別標識としての機能を十分に発揮し得るものであるのに対し、「チョコリング」との語は、本願商品の指定商品の品質、原材料及び形状を普通に用いられる方法で一般的な文字で表示したものにすぎず、自他商品の識別力を有しないものであるから、本件商標は、「天使のチョコリング」という一連の称呼及び観念が生じるとしても、さらにまた、その構成中の「天使」の部分としての称呼及び観念が生じることも否定することができない。そして、このことは、原告が、製造販売する商品に「天使のチョコリング」との名称を使用しているということのみをもって影響されるものではない。
(5) 小括
 以上によると、本件商標と本件引用商標との類否判断の前提として、本件商標のうち「天使」の文字部分のみを抽出することができ、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
 したがって、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがあるとした判断の誤り)について
(1) 商標の類否判断
 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2) 本件商標と本件引用商標との類否
ア 前記1のとおり、本件商標のうち「天使」の文字部分を取り出すことができ、本件商標からは、「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものである。
イ 引用商標1は、別紙引用商標目録記載1の商標の構成のとおりのものであって、漢字による「天使」の文字を横書きした構成からなるものであり、引用商標1からは、「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであって、本件商標と引用商標1とは、同一の観念及び称呼を有するものである。
ウ 引用商標2は、同目録記載2の商標の構成のとおりのものであって、平仮名による「てんし」の文字、漢字による「天使」の文字及び片仮名による「テンシ」の文字を上下3段に横書きした構成からなるものである。そして、その中段の「天使」の文字部分は、その上下の「てんし」及び「テンシ」の各文字部分と比較して格段に大きく書かれていることからすると、上下の「てんし」及び「テンシ」の記載は、中段の「天使」の記載の読みを記載したものであって、引用商標2の構成中の「天使」の文字部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができ、引用商標2からは、「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであって、本件商標と引用商標2とは、同一の観念及び称呼を有するものである。
エ また、本件引用商標は、いずれも、その指定商品に第30類「菓子及びパン」を含むものであって、その指定商品は、本件商標の「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」との指定商品を含むものである。
オ そして、本件引用商標の商標権者である被告は、日本有数の菓子・食品の製造・販売等の会社であるところ、被告の商品には、「エンゼルパイ」との菓子がある(甲1、乙178〜180)ほか、これまでにも、「エンゼルスイーツ」(平成13年ころ。乙199)、「エンゼルレリーフ」(平成8年ころ。乙200)、「エンゼルパティシエ」(平成7年ころ。乙201)などの菓子類を販売してきたこと、被告は、明治38年以降、被告の商品に天使(エンゼル)の図柄を採用して付記し始め、時代の変遷とともに態様を少しずつ変遷させながら、本件商標の登録査定時に至るまで、同社のロゴマークに「エンゼルマーク」と呼ぶ天使(エンゼル)を象形化した図柄を採用するとともに、多くの自社商品のパッケージに同図柄を付記し続けてきたこと(甲1、乙62、63、65〜69)、被告は、この「エンゼルマーク」に係る多数の商標出願を行って、その保護に努めてきたこと(乙73〜153)、以上の事実が認められるところ、前記1(2)のとおり、「天使」には「エンゼル」の意味があり、「エンゼル」が「天使」の意味を有することは、我が国における一般的な外来語や英語の理解能力を前提にすると、指定商品の取引者や需要者のみならず、一般人においても容易に認識し得る程度のものである。
カ そうすると、本件商標と本件引用商標とは、いずれも同一の称呼及び観念を生じるものであって、さらに、日本有数の菓子・食品の製造・販売等の会社である本件引用商標の商標権者である被告が、上記のとおり、本件商標の登録査定時に至るまで、長年にわたり、自社のロゴマークに「天使(エンゼル)」を使用し、自社の商品のパッケージに「エンゼルマーク」を付記してきたことなどの実情をも加え、取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、本件商標を、本件引用商標が指定商品として含む「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」に使用した場合に、商品の出所につき誤認混同されるおそれがあるということができる。
(3) 小括
 以上によると、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものということができ、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
 したがって、取消事由2は理由がない。
3 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 本多知成
 裁判官 荒井章光


(別紙)引用商標目録
1 商標登録番号:第1457789号(乙3、4)
 商標権者:被告
 商標の構成:(省略)
 指定商品:第30類「菓子及びパン」(ただし、平成13年5月23日書換登録後)
 出願日:昭和41年4月8日
 設定登録日:昭和56年3月31日
2 商標登録番号:第5033542号(乙9、10)
 商標権者:被告
 商標の構成:(省略)
 指定商品:第30類「茶、コーヒー及びココア、氷、菓子及びパン、コーヒー豆、穀物の加工品、アーモンドペースト、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、イーストパウダー、こうじ、酵母、ベーキングパウダー、即席菓子のもと、酒かす、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物(豆を除く。)を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状の加工食品」
 出願日:平成18年4月13日
 設定登録日:平成19年3月16日
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