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【事件名】データベースソフトの著作権確認事件(2)
【年月日】平成23年3月15日
 知財高裁 平成20年(ネ)第10064号 著作権確認等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成19年(ワ)第11502号)
 (口頭弁論終結日 平成22年12月22日)

判決
控訴人(原告) X
訴訟代理人弁護士 尾崎幸廣
被控訴人(被告) 中国塗料株式会社
訴訟代理人弁護士 小山雅男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における控訴人の予備的請求を棄却する。
3 当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)控訴人が、原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」について、著作権を有することを確認する。
3 (予備的請求)控訴人が、前項の「船舶情報管理システム」について、被控訴人又は信友株式会社及び中国塗料技研株式会社との共同著作権を有することを確認する。
4 第2項の「船舶情報管理システム」に対する控訴人の開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める。
第2 事案の概要
1 原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」(本件システム)を開発作成し、その著作権を有すると主張する控訴人(原告)は、元の勤務先である被控訴人(被告)が同システムを使用しているとして、被控訴人に対し、@本件システムについて、控訴人が著作権を有することの確認を求めるとともに、A控訴人による開発寄与分の確認を求めた。
2 原判決は、本件システムはプログラムの著作物であるが、仮に同システムが控訴人の著作に係るものと認めるとしても、著作権法15条2項の職務著作に該当するとして、その著作権を有することの確認請求を棄却するとともに、本件システムについての開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める請求については、訴えの利益がないとして、その訴えを却下した。
 控訴審では、@の請求については、控訴人が単独で著作権を有することの確認を主位的請求とし、予備的に、被控訴人又は信友株式会社(信友)及び中国塗料技研株式会社(中国塗料技研)と共同で著作権を有することの確認を請求した。
第3 当事者の主張
 当事者の主張は、次のとおり当審における主張を補充するほか、原判決2頁2行目以下の「第2 当事者の主張」記載のとおりである。
1 控訴人の当審主張
(1) 被控訴人が使用している船舶情報管理システムについて
 被控訴人は、以下に述べるとおり、控訴人が開発した本件システムを、現在も船舶情報管理システムとして使用している。裁判所は、この点について判断を示すべきである。
ア 控訴人が開発した船舶情報管理システムは、世界のどこの造船所で建造される船のどの部分にどのメーカーのどんな塗料が塗られることに決まったか、まだ決まっていないか、現在どのような受注作業を行っているか、その成果はどうか、また、現在動いている船に塗られている塗料はどのメーカーのどんな塗料か、その成績はどうか、次回いつ塗り替えられるかなど、船舶塗料に関するすべての情報が他社を含め瞬時にわかるようにした船舶塗料基幹システムであり、プログラムマスター類を含め、膨大なものである。
 この点について、被控訴人は、平成8年9月、日本電気株式会社(NEC)に1982万6985円(消費税込み)で船舶情報管理システムを発注し、平成9年3月と6月に同社により検収を経て納品されたものを使用していると主張するが、上記のような膨大なシステムが、たった2000万円足らずでできるものでないことは、システムに携わった者であれば、瞬時にわかるものである。すなわち、上記のような、会社のニーズに合わせたシステムの開発においては、パッケージシステムなどと違って、技術者1人当たり1月いくらで請け負うという場合が多いところ、その請負契約の相場は100万円〜200万円/人月(1人当たり1月100万円〜200万円)であり、この相場に従うならば、2000万円のシステム開発ではシステムエンジニア2〜4人で5か月程度でシステムができあがってしまう計算になるが、証拠上明らかなシステムの規模からいってあまりに乖離がある。
 仮に、被控訴人が、NECが作成したものを現在使用していたとしても、それは、本件システムを他のコンピューターに移し替えたり、ささいな仕様変更をしたりした程度であり、現在被控訴人が使用しているシステムが、控訴人作成にかかる船舶情報管理システムであることに何ら変わりはない。なぜなら、控訴人が開発したシステムのうち、マスター類、船舶基本情報、塗装実績、塗装仕様発行システム、新造船受注システムなどは、昭和61年末には一応完成し、入力・出力を行っていたもので、控訴人が退職する平成5年1月末までには膨大なデータ量になっていた上、同期日までに控訴人が開発した成績管理システム、修繕船管理システム、店所別、造船所別入渠予定、建造予定線表などにも、被控訴人は、毎日膨大な船舶塗料に関するデータを入力・出力していたはずであり、蓄積されたデータを被控訴人が廃棄することはあり得ないからである。
イ 控訴人が作成した本件システムは、IBM製オフコンの仕様からNECによるパソコンの仕様に変わり、画像処理などは大幅に追加されているだろうが、基本システムは変わっていないはずである。すなわち、現在、被控訴人において稼働している船舶情報を管理するシステムは、本件システムを移植したものにすぎず、実質的に同一のものであるから、控訴人の著作物であり、また、新たな創作性の付与がないから、二次的著作物(著作権法27条)にも該当しない。
 被控訴人は、NECソフトウェア中国に対して外注した「船舶情報管理システム」のプログラム仕様書(乙27)を提出するところ、船舶情報管理システムのプログラムは、まずマスタプログラム類、入力プログラム類が外注・納入された後、必要な加工・活用プログラム類が外注・納入されるものであるにもかかわらず、上記システムの発注は加工・活用プログラム類から行われている。これは、控訴人が作成したIBM製の本件システムから切り替えたためと推認できる。
(2) 原判決における「法人等の発意」の事実誤認等について
 原判決は、「被控訴人は、控訴人に同業他社(インターナショナルペイント)のシステムと同等のシステムを開発するよう命じた。実際、控訴人が開発したのは、インターナショナルペイントと同等品である。したがって、被控訴人の明示の「法人等の発意」は存在した。一方、実際、開発業務を行ったのは、信友及中国塗料技研であるが、両社の明示の「法人等の発意」はなかった。しかし、被控訴人と信友及び中国塗料技研は子会社であって、被控訴人と信友及び中国塗料技研は、業務運営上あるいは経済上ほぼ一体の関係に立つ。そして、控訴人は、業務内容を信友及び中国塗料技研に頻繁に報告し、指示を仰いでいた。したがって、信友及び中国塗料技研には、黙示の「法人等の発意」があった。したがって、本件システムは、職務著作物であり、その著作権は信友ないし中国塗料技研にある。」とするが、これには、以下に述べるとおり、重大な事実誤認及び判断の誤りがある。
ア まず、被控訴人の当時の代表取締役Bが自宅で3時間かけて控訴人を説得したのは、インターナショナルペイントで使用しているシステムと同等のものを開発することについてであった(甲4)が、控訴人がこのインターナショナルペイントのシステムを検討した結果、このシステムは成績管理システムで、同等のものを作っても被控訴人が使いこなせないし、効果がないと確信した。そこで、控訴人は、インターナショナルペイントのシステムとは全く別個のものを作ることとし、Bに提案し、オリジナルなシステムを構築した。それが本件システムである。したがって、本件システムは、インターナショナルペイントの成績管理システムとは類似のところが全くないシステムである。
 また、昭和60年から控訴人が退職する平成5年1月末まで、被控訴人は、控訴人に対して、本件システムについて、何らの開発指示・命令を行うことがなく、同システムは、控訴人が一人で考え、アイデアを具現化し、控訴人一任の状態で作られたものである。Bが控訴人に開発要請をした後、被控訴人は、コンピュータ機器も控訴人が決めたIBM製の購入を認め、信友に機器リース料を支払い、プログラム作成料も控訴人が外注先として選定した田中電機工業株式会社(田中電機)に支払っていたものである。例えば、控訴人は、田中電機に外注を行うに当たり、コンピュータ画面設計から情報の出し入れ、カーソル操作、ファンクションキーらの設定、入力方法など、控訴人が構築しようとするシステムについて、詳細な指示を行っていたのである。以上のとおり、法人の発意は最初の控訴人への開発要請だけであり、その後は発意といえるものは一切なかった。
 さらに、控訴人は、自分で作ったデータベースを運用せねばならない責務があり、作成したままにして運用しなければ何の役にも立たないと考えていたので、被控訴人の担当部署に出向いては開発したシステムを検証し、更に良いシステムを目指し、改善を重ねていったものである。これらの点に関し、Bにも常に報告を行い、円滑な運営に苦労を重ねていたのであるが、その報告は控訴人からBに対して一方的に行ったものであり、Bその他被控訴人関係者からこのようにして欲しいと要望、命令されることは一切なかった。
 そもそも、「法人等の発意」とは、雇用者の被雇用者に対する命令であり、雇用者は、命令が忠実に実行されているか確認を常に怠ってはならない。しかし、上述のとおり、被控訴人は、本件システムについて、一切の命令もせず、控訴人に任せきりにしていたことをみても、被控訴人の明示の「法人等の発意」が存在したとはいえない。
 なお、職務著作による著作権の取得について、斎藤博著「著作権法」(甲74)は、まず「被用者にいったん発生した著作権を被用者から雇用者に法的に移転する、いわゆる法定譲渡の仕組みである」とし、著作権の原始取得者は被用者であるとしており、被用者が作成したものは被用者こそが著作者である。
イ 原判決は、控訴人が頻繁に信友及び中国塗料技研に報告し、その指示を仰いでいるとするが、控訴人は、本件システムの開発のために信友及び中国塗料技研に移っており、同システムの開発に関しては、控訴人自身が信友及び中国塗料技研そのものであり、両社への報告、両社からの指示などというものはナンセンスというほかない。したがって、信友ないし中国塗料技研の黙示の「法人等の発意」などあろうはずがない。
 本件システムは、控訴人がすべて発案し、基本機能や機能追加をすべて控訴人の意思によって開発されたものであり、これを「法人等の発意」の下に職務著作とし、著作権をすべて会社に帰属させるようなことになると、システム開発を個人にすべて丸投げして報告のみ受けるような会社に所属する開発者の開発意欲を著しくそぐ結果となり、ひいては社会にとっても大きな損失となるものである。よって、このような経緯で開発された状態では、明示にも黙示にも「法人等の発意」は存在したとはいえず、本件システムの著作権者は、控訴人とされるべきであり、原判決の事実認定及び著作権者の判断は誤っている。
(3) 控訴の趣旨第3項について
 控訴人は、訴状に記載していた控訴の趣旨第3項と同旨の申立てを削除するよう原審裁判長より命じられ、訴えの変更申立てを行ったが、原判決は、「本件システムについて一定割合の著作権の共有持分を有することを確認する旨の判決をすることは何ら妨げられない」としており、予備的に、控訴の趣旨第3項を追加する。
 本件システムを控訴人が開発稼働させるについて、控訴人は、「企画、調査、立案、仕様書作成、外注、検証、被控訴人納入、担当部署稼働状況確認、改善変更」というサイクルを被控訴人とともに行ったものであるから、主位的には本件システムの著作権が控訴人にあると主張するものであるが、被控訴人の本件システムの開発における関与につき否定するものではなく、その限りにおいて予備的に被控訴人が本件システムにつき一定の割合の著作権の共有持分を有することを否定するものではない。
2 被控訴人の当審主張
 船舶情報管理システムとは、被控訴人の顧客が使用している船舶塗料に関する履歴であって、船舶毎にいつどのような塗料をどの程度塗ったかを明らかにするものであるところ、被控訴人は、その100%子会社である信友に対して、被控訴人の費用負担において船舶情報管理システムの開発についての業務委託をした。これを受けた信友は、田中電機に同システムに係るプログラムの作成を注文し、田中電機は、受注に係るプログラムを完成し、これを信友に引き渡した。その後、上記システムは、平成2年に一応の完成を見て、信友から被控訴人に対してリースされたが、この過程における控訴人の関与の有無・程度については、被控訴人の知るところではない。
 ただし、信友への業務委託により一応の完成を見て使用を開始した上記システムは、開始当初より完全なものとはいい難く、また、その後の被控訴人の営業規模の拡大に対応しきれなくなるとともに、システムとしても陳腐化するに至ったため、被控訴人は、これらの問題点を解消する船舶情報管理システムを整備する必要にせまられて、新規にNECに対してこれの発注を行ったものである。具体的には、平成8年9月、被控訴人においてNECに1982万6985円(消費税込み)で発注し、平成9年3月と6月に同社により検収を経て納品された船舶情報管理システムを使用しており、平成10年7月には、田中電機に対してIBM機器の保守点検契約を打ち切った。
 上記のとおりであるので、控訴人が開発・制作又は運営したと主張する本件システムと、被控訴人において現在稼動しているシステムとの対応関係はなく、控訴人が開発したと主張する「船舶情報管理システム」なるものは、被控訴人内には存在しない。
 なお、控訴人の主張によれば、控訴人は、信友在籍中に船舶情報管理システムの開発を命じられてその業務に従事したとのことであるから、仮に、控訴人主張の船舶情報管理システムなる著作物が存在するとしても、その著作権者は著作権法15条により信友となる。したがって、控訴人がその主張に係る著作物についての著作権確認を被控訴人に求める訴えは、確認の利益を欠き、不適法にて却下を免れない。
 また、控訴人の主張からすると、現在、被控訴人内で稼働している船舶情報管理システムは別物であるが実質的に同一であるというのであるから、著作権法112条に基づく同システム使用の差止請求等が考えられるべきもので、同システムについての著作権確認ではないはずである。
第4 当裁判所の判断
1 控訴人が本件システムについてその著作権の確認を求める請求に関する判断は、次のとおり加えるほかは、原判決28頁22行目以下の「2 本件システムの著作物性について」及び30頁9行目以下の「3 本件システムは職務著作に係る著作物であるかについて」記載のとおり(ただし、原判決30頁15行目冒頭の「の」は、「ある」と訂正する。)であり、本件システムは、職務著作(著作権法15条2項)に該当し、その著作者は信友又は中国塗料技研であると認められるから、控訴人が作成した部分があるとしても、その著作権を有するものではない。
(1) 控訴人は、昭和60年から控訴人が退職する平成5年1月末まで、被控訴人が控訴人に対して、本件システムについて何らの開発指示・命令を行うことなく、同システムは、控訴人が一人で考えてアイデアを具現化して作られたものであるから、「法人等の発意」はなかった旨主張する。
 そこで検討するに、証拠(甲135、136、153、乙4〜6。枝番号の書証を含む。証人A、控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被控訴人においては、昭和61年2月に、信友に出向中の控訴人が起案した「海運をとりまく環境が悪化しておりますが、限られた船舶用塗料を1隻でも多く獲注するため、就航中の船舶を徹底的にフォローし、船舶情報をコンピューターに入力して、当社及び他社の使用状況、塗装仕様及び実績、次回入渠成績予定などを把握して営業戦略の一助とすべく情報管理システムを計画しております。本システム業務を下記要領にて信友(株)に一括委託いたしたく稟請申しあげます。」との稟議書に基づいて稟議がなされ、信友との間で5年間にわたる総額4575万円のリース契約を締結し、信友に対して当該リース物件購入のための金員3500万円を貸し付けることを含めて、代表取締役Bの決裁により、上記船舶情報管理システム業務を信友に委託することが承認された。
イ その後、信友では、昭和61年8月に「新造船受注情報システム計画案」が策定され、昭和61年9月には、プログラム作成の外注先として選定された田中電機の見積りに基づいて、上記船舶情報管理システムのプログラムの追加が同様に稟議され、信友との間で5年間にわたる総額165万6000円のリース契約の締結が決裁された。さらに、昭和63年6月に、上記田中電機の見積りに基づいて、上記船舶情報管理システムの端末機1台及びソフトの追加が同様に稟議され、信友との間で5年間にわたる総額146万1000円のリース契約の締結が決裁された。
ウ 田中電機に対する本件システムのプログラム作成等の費用は、昭和60年以降、控訴人の信友在職中は同社から、平成4年6月に控訴人が中国塗料技研に代表取締役として出向してからは同社から、それぞれ支払われており、田中電機ではそれに基づいて本件システムに係るプログラム作成等が進められた。
(2) 以上の認定事実及び原判決の認定事実(原判決30頁14行目〜32頁6行目)によれば、船舶情報管理システムである本件システムは、被控訴人の社内稟議を経ての代表者の決裁という明確な発意に基づいて開発が開始され、被控訴人が全額出資する完全子会社である信友に対して、当該開発業務の委託と必要に応じての資金援助が行われるとともに、追加のプログラムのリース契約等も締結されたものであり、信友においても、「新造船受注情報システム」が会社としての事業計画とされていたのであるから、本件システムの作成は、法人としての信友の発意に基づくものであると認められる。また、信友と同様に被控訴人が全額出資する完全子会社である中国塗料技研についても、被控訴人と業務運営上一体的な立場に立つ法人であって、平成4年6月に本件システムの開発に従事していた控訴人が同社に代表取締役として出向した際も、船舶情報管理システムの開発業務が同社に移管され、田中電機に対して本件システムのプログラム作成のための支払を行っているのであるから、その後の本件システムの作成は、法人としての中国塗料技研の発意に基づくものと認められる。
 以上のとおり、本件システムの開発が、控訴人が在籍中の出向元である被控訴人の指示により開始され、被控訴人の完全子会社である信友及び中国塗料技研がその意向を受けて法人として本件システムの開発を発意しているのであるから、両社において当該開発業務に従事する控訴人が、その職務上作成した本件システムのプログラムの著作者は、その作成時における契約や勤務規則等の別段の定めがない限り、法人である信友又は中国塗料技研となるものと認められ(著作権法15条2項)、上記別段の定めについての主張立証はないのであるから、結局、本件システムのプログラムの著作者は、信友又は中国塗料技研、あるいはその双方であると認めるべきである。
(3) 控訴人は、本件システムを一人で考えてアイデアを具現化して作成したから著作者であると主張し、田中電機に外注を行うに当たり、コンピュータ画面設計やカーソル操作、ファンクションキーらの設定、入力方法などについて、詳細な指示を行っていた旨を強調する。
 しかし、そのような事実が認められるとしても、控訴人による上記の指示が、信友又は中国塗料技研の業務に従事する者の立場で(控訴人が、本件システムのプログラムの開発中、被控訴人から出向して信友又は中国塗料技研の業務に従事し、給与の支払を受けていたことは、当事者間に争いがない。)、職務上行われたものである以上、控訴人が個人として当該システムのプログラムの著作物の著作者となるものでないことは、条文上明らかであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
 また、控訴人は、「法人等の発意」というためには、雇用者の被雇用者に対する命令でなければならず、雇用者は命令が忠実に実行されているか確認を常に怠っていてはならないにもかかわらず、被控訴人は、本件システムについて一切の命令もせず、控訴人に任せきりにしていたから、被控訴人の「法人等の発意」が存在したとはいえないと主張する。
 しかし、前示のとおり、本件システムの開発が被控訴人の指示により開始され、被控訴人の完全子会社である信友及び中国塗料技研がその意向を受けて同システムの開発を発意している以上、その後の開発過程において、被控訴人や信友又は中国塗料技研からプログラム作成についての具体的な指示等がなされなかったとしても、また、控訴人主張の確認が継続していなかったとしても、当該各法人による発意の存在が左右されるものではない(なお、被控訴人から信友に対して、本件システムのプログラム作成のための資金援助がなされたこと、信友及び中国塗料技研が田中電機に本件システムのプログラム作成のための支払を行い、これに基づいて本件システムのプログラム開発が進められたことは、前記認定び原判決認定(31頁12行目〜15行目)のとおりである。)。したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上のとおり、本件システムについては、控訴人が作成した部分があるとしても職務著作が成立し、控訴人が共同著作権も含め著作権を有するものではないから、その著作権の確認を求める請求は、主位的請求及び予備的請求のいずれについても理由がないものといわなければならない。
2 なお、本件システムと、被控訴人において稼動していた「船舶情報管理システム」との関係について判断する。
(1) 控訴人は、現在、被控訴人において稼働している船舶情報を管理する船舶情報管理システムについての判断を求める。その趣旨は、同システムが、本件システムを移植したものであって、実質的に同一のものであるから、控訴人の著作物であるというものである。
 そこで検討するに、証拠(甲16、23〜37、132、133、136、138、143〜145、153、乙5〜34。枝番号の書証を含む。証人A)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 船舶情報管理のための本件システムは、昭和60年から平成5年にかけて、控訴人が作成したシステム仕様書や画面仕様書などの発注仕様書に基づいて、IBMの代理店である田中電機においてそのプログラムの開発作業が進められて作成されたものであり、一応完成された部分についても、被控訴人に納品されて稼働確認等がなされ、その結果に応じてプログラムの修正が行われた。本件システムは、控訴人の退職後に完成され、信友からのリースを受ける形態により被控訴人において使用され、その間、新造船又は修繕船の履歴に関するデータが集積された。
 本件システムのプログラムは、その構成内容が明らかでなく、サーバ側のプログラムと端末側のプログラムの切り分けやプログラム言語もほとんど不明であるが、IBM社のオフィスコンピュータS/36 又はAS/400 専用に開発されたものであり、同社製のコンピュータ上で動作するデータベース管理プログラムであるQuery/36が用いられている。
イ 被控訴人は、営業規模の拡大などに対応するため、新たな船舶情報管理システムの開発を企画し、平成8年9月、NECに1982万6985円で同システムの開発を発注し、平成9年3月と6月に同社又はNECソフトウェア中国により船舶情報管理システム(NECシステム)が納品され、それ以降、NECシステムを使用していた。NECシステムの作成に際しては、本件システムが参考とされ、集積された新造船又は修繕船の履歴に関するデータが移管された。また、被控訴人は、平成10年7月、田中電機との間で締結していた本件システムの稼働のためのIBM機器の保守点検契約を終了した。
 NECシステムのプログラムは、オペレーティングシステム(OS)であるマイクロソフトのWindows95 及びその上で動作するデータベース管理プログラムであるマイクロソフトのAccessを用いることを前提として、Visual Basic 又はVisual Basic for Application を用いて作成されたものである。
ウ NECシステムは、OS等が旧式化して使用上の不都合が増大したため、被控訴人の内部においても徐々に利用されなくなり、被控訴人は、新たにウェブ配下で稼働する船舶情報管理システムの作成を富士通株式会社に依頼し、そのシステムが完成、稼働したことから、平成22年8月に、NECシステムを廃棄した。
(2) 以上の認定事実及び原判決の認定事実(原判決28頁24行目〜30頁8行目)によれば、本件システムとNECシステムとは、ともに新造船又は修繕船の履歴に関する情報管理システムであり、当該情報の入力及び出力の機能等に共通する点があるとしても、例えば、NECシステムが、Visual Basic又はVisual Basic for Application により、表示された船舶画面上でマウスによるカーソル移動によって指示を受けて塗装部位等に関する情報を入力させるような画面を提供するのに対し、本件システムで用いられるデータベース管理プログラムであるQuery/36に対してそのような画面入力を行うことは困難であるから、プログラムの表現において両者が異なることは当然であり、両者がプログラム著作物として同一又は実質的に同一といえないことは明らかである(なお、控訴人は、NECシステムが本件システムを翻案(著作権法27条)した著作物である旨を主張立証するものでないことを明言している。)。
(3) 控訴人は、本件システムのうち、マスター類、船舶基本情報、塗装実績、塗装仕様発行システム、新造船受注システムなどは、控訴人が退職する平成5年1月末までには膨大なデータ量になっていた上、同期日までに控訴人が開発した成績管理システム、修繕船管理システム、店所別、造船所別入渠予定、建造予定線表などにも、毎日膨大な船舶塗料に関するデータが入力・出力されたはずであり、蓄積されたデータを被控訴人が廃棄することはあり得ないことを根拠に、NECシステムが本件システムと実質的に同一であると主張する。
 確かに、前記認定のとおり、本件システムは、被控訴人において使用され、その間、新造船又は修繕船の履歴に関するデータが集積されており、当該データはNECシステムの作成に際して同システムに移管されたものと認められる。また、NECシステムの作成に際して、本件システムの機能や構成等が参考とされたものと推測するのが自然である。しかし、新造船又は修繕船の履歴に関して集積されたデータが移管されたり、システムの機能や構成等が参考とされたことと、プログラム著作物としての表現自体の同一性とは別問題であり、プログラム著作物としての表現が同一又は実質的に同一といえないことは、前記説示のとおりであるから、控訴人の主張を採用することはできない(なお、控訴人は、本件システムがデータベースの著作物(著作権法12条の2)である旨を主張立証するものではない。)。
(4) 以上のとおりであるから、被控訴人において使用されていたNECシステムについて、本件システムと著作物として同一又は実質的に同一であることを根拠に、本件システムと一体のものとしてその著作権を有することの確認を求める請求は、その前提において理由がないものといわなければならない。
3 控訴人が本件システムに対する開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める訴えについて判断するに、この割合自体が現在の権利又は法律関係となるものではなく、単なる事実関係の範疇に属するものであり、その事実関係から直截に現在の権利又は法律関係が導かれ、紛争を抜本的に解決するような事実関係ということもできないので、この訴えは、確認の利益を欠くものといわなければならない。
 よって、上記訴えは、不適法であって却下を免れない。
第5 結論
 以上によれば、控訴人の著作権の確認を求める主位的請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、また、本件システムについての開発寄与分の割合の確認を求める請求は訴えの利益がなく、これを却下した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がないのでこれを棄却する。併せて、当審における予備的請求も理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 塩月秀平
 裁判官 清水節
 裁判官 古谷健二郎
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