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【事件名】「アルゼ王国の闇」不競法違反事件(2) 【年月日】平成23年3月8日 知財高裁 平成21年(ネ)第10043号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地裁平成19年(ワ)第19202号) (口頭弁論終結日 平成22年12月15日) 判決 控訴人(原告) 株式会社ユニバーサルエンターテインメント(旧商号:アルゼ株式会社) 訴訟代理人弁護士 若槻哲太郎 同 松宮浩典 同 足立高志 被控訴人(被告) 株式会社SNKプレイモア(判決中では「被控訴人SNK」と表記) 訴訟代理人弁護士 原良扶 同 清水正憲 同 宮下尚幸 同 木村真也 同 坂井慶 被控訴人(被告) サミー株式会社(判決中では「被控訴人サミー」と表記) 訴訟代理人弁護士 浅岡輝彦 同 鯉沼希朱 同 上床竜司 同 山崎純 同 牧義行 同 緒方泉 同 内藤寿彦 主文 1 原判決中被控訴人SNKに関する部分を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人SNKは、控訴人に対し、200万円及びこれに対する平成17年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人の同被控訴人に対するその余の請求を棄却する。 2 被控訴人サミーに対する本件控訴を棄却する。 3 控訴人の当審における予備的請求を棄却する。 4 控訴人と被控訴人SNKとの間に生じた訴訟費用中訴え提起及び控訴提起の手数料の2000分の1を被控訴人SNKの負担、その余は第1、2審とも各自の負担とし、控訴人と被控訴人サミーとの間に生じた当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。 5 この判決の第1項の(1)は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2(主位的請求) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金20億円及びこれに対する平成17年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (予備的請求) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金10億8625万3200円及びこれに対する平成15年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3(1) 被控訴人SNKは、控訴人に対し、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、讀賣新聞及び産経新聞の各朝刊全国版社会面広告欄並びに株式会社アド・サークル発行の月刊誌「グリーンべると」、株式会社遊技通信社発行の月刊誌「遊技通信」及び株式会社アミューズメントプレスジャパン発行の月刊誌「月刊アミューズメントジャパン」の各誌上に、原判決別紙2謝罪広告目録1記載の謝罪広告を同目録記載の条件で1回掲載せよ。 (2) 被控訴人サミーは、控訴人に対し、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、讀賣新聞及び産経新聞の各朝刊全国版社会面広告欄並びに株式会社アド・サークル発行の月刊誌「グリーンべると」、株式会社遊技通信社発行の月刊誌「遊技通信」及び株式会社アミューズメントプレスジャパン発行の月刊誌「月刊アミューズメントジャパン」の各誌上に、原判決別紙3謝罪広告目録2記載の謝罪広告を同目録記載の条件で1回掲載せよ。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要 1(1) 控訴人は、遊戯機器、遊戯機器及びその関連機器の試験研究、企画、開発、販売、リース、レンタル及び輸出入等を目的とする株式会社である。控訴人は、原判決後の平成21年11月1日、商号をアルゼ株式会社から現商号に変更した。 (2) 被控訴人SNKは、平成13年8月1日に設立された遊戯機器の開発、製造、賃貸及び輸出入等を目的とする株式会社である。被控訴人SNKが平成15年7月7日に変更する前の商号は株式会社プレイモアであった。 (3) 被控訴人サミーは、パチンコ遊技機、回胴式遊技機、アレンジボール遊技機、雀球遊技機及び関連機器の製造販売を目的とする株式会社である。 (4) Aは、控訴人の創業者であり代表取締役であったが、平成16年6月に代表権のない取締役会長となった。その後、平成18年1月18日に代表取締役に就任し、同年6月29日に退任した。(甲5の16頁、弁論の全趣旨)。 (5) 後記本件各書籍の出版当時、Bは被控訴人SNKの取締役会長であり、Cは被控訴人サミーの代表取締役社長であった。 (6) 株式会社鹿砦社は出版物の編集・発行・販売等を目的とする株式会社であり、Dは平成63年2月から同社の代表取締役兼編集長であった。(甲5の7頁) (7) 株式会社鹿砦社は、「アルゼ王国の闇 巨大アミューズメント業界の裏側」(本件書籍1)を平成15年4月10日に、「アルゼ王国はスキャンダルの総合商社 続アルゼ王国の闇」(本件書籍2)を平成15年9月10日に、「アルゼ王国の崩壊 アルゼ王国の闇3」(本件書籍3)を平成16年3月1日に、「アルゼ王国地獄への道 アルゼ王国の闇4」(本件書籍4)を平成17年3月25日に、それぞれ出版した(以下、これらの書籍をまとめて「本件各書籍」という。)。 (8) 本件各書籍には、それぞれ別紙4−1ないし4−4虚偽事実一覧表の各記載内容欄の記載(本件各文章)がある。 また、本件書籍1ないし3には、それぞれ次のようなあとがき記載がある。 ・本件書籍1の「あとがきにかえて」(181頁以下) 「第二弾では是非ともそこまで突っ込んでいただきたい。その意味では、本書ほんの序章≠ノすぎない。第二弾のために(中略)どんどん情報を寄せていただきたい。」 ・本件書籍2の「エピローグ」(221頁以下) 「本書の更なる続編の課題も出来た。(中略)「アルゼ王国」の<闇>を抉るわれわれの取材活動、出版活動は、本書をバネにこれからも持続してゆくことに変わりはない。」 ・本件書籍3の「エピローグ」(219頁) 「これからも第四弾、第五弾・・・・・・と出していく決意だ。」 2 控訴人は、被控訴人らが、鹿砦社と共謀して、同社に控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を記載した本件各書籍を出版させ、それを多数買い上げて全国のパチンコホール、警察署、業界団体、関係者に広く頒布したことは、不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為であって、鹿砦社との共同不法行為に該当すると主張して、被控訴人ら各自に対し、主位的には本件各書籍による売上げの減少又は信用毀損に基づく損害賠償金20億円と遅延損害金の支払を、予備的には本件書籍1及び2の出版・頒布による売上げの減少に基づく損害賠償金10億8625万3200円と遅延損害金の支払を求めるとともに、不競法14条に基づく謝罪広告を求めた。 3 原審は、本件各書籍の出版行為の主体は鹿砦社であり、被控訴人らが自ら出版行為を行ったと評価することはできず、被控訴人らの行為は鹿砦社の出版行為を幇助したにすぎないところ(被控訴人サミーについては本件書籍1の出版行為のみを幇助したにとどまる)、共同不法行為が成立するには、各行為者の行為が当該不法行為の成立要件を満たしていることが必要であり(最高裁昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集22巻4号964頁参照)、出版行為の主体である鹿砦社は控訴人と競争関係にはなく同社に不競法違反が成立しない以上、被控訴人らは不競法違反とはならない鹿砦社の出版行為の共同行為者とみなされるにすぎないから、不競法違反の共同不法行為は成立しない、本件各書籍の頒布行為は被控訴人ら及び鹿砦社が共同して行ったものであるが(被控訴人サミーについては本件書籍1の頒布行為を行ったにとどまる)、実際に頒布行為を行った鹿砦社に不競法違反を理由とする不法行為が成立しない以上、被控訴人らが鹿砦社の頒布行為に加担しこれを共同して行ったとしても、不競法違反とはならない行為を共同して行ったにすぎず、不競法違反を理由とする共同不法行為は成立しないなどとして、控訴人の請求を棄却した。 争点及び当事者双方の原審主張は、原判決「事実及び理由中」の「第2 事案の概要」の1〜3に記載のとおりである。なお、控訴人は当審において、民法上の共同不法行為に基づく請求を予備的に追加した。 第3 当審における控訴人の主張 1 被控訴人らの加害行為 (1) 被控訴人らは、本件各書籍という一連のシリーズを通じて控訴人に対する加害行為を行っているが、これを項目ごとに整理して主張すると、以下のとおりである。 @ 出版要請 被控訴人SNKは、控訴人を誹謗中傷した書籍を広く流布させて控訴人に打撃を与えるため、自ら鹿砦社及びDに対し、本件書籍1の出版を強く要請した。 A 情報提供及び内容確認 被控訴人SNKは、本件書籍1を作成・出版するため、鹿砦社のDと何度も面談し、控訴人との訴訟やこれまでの経緯などの全情報を鹿砦社に提供した。また、鹿砦社から本件書籍1の原稿を受け取った被控訴人SNKは、原稿の全面改訂ともいえる改訂を行い、これにより本件書籍1の出版時期の見直しが行われた。そして、被控訴人SNKが修正後の原稿を再度確認し出版を許可したことによって本件書籍1が出版されるに至った。 このような被控訴人SNKによる情報提供は、本件各書籍出版の不可欠の前提であり、被控訴人SNKの関与なくして一連の出版はあり得なかった。 B 被控訴人SNKによる被控訴人サミーの勧誘 被控訴人SNKは、本件書籍1等の問題を自己の問題にとどめず、被控訴人サミーを勧誘した。 C 全体構想の構築等 被控訴人SNKから勧誘を受けた被控訴人サミーは、その場で「サミーで5000冊買い取る。」、「全国のパチンコホールに配ろう。」、「名簿を送るからそこに配ってくれ。」などと述べ、強い意気込みをみせるとともに、被控訴人らが買い取った各書籍を全国のパチンコホールにばら撒くという全体の構想や、その送付先を被控訴人サミーが提供するという具体的手段を提案した。 D 購入約束 本件書籍1の出版につき、被控訴人SNKは3000冊を、被控訴人サミーは5000冊の買取を約束した。そして、被控訴人らによるこれらの購入約束があり、採算の裏付けがなされたことで、鹿砦社はより活発に本件各書籍の出版行為に突き進んだ。 E 送付先名簿の提供 被控訴人サミーは、前記Cの構想を実際に実現すべく、平成15年3月ころ、全国のパチンコホールの名称や住所、各都道府県警の生活安全関係部署の住所など合計4419か所の送付先を記載した名簿を提供した。 F 書籍の買取り及び無償交付 被控訴人らは、鹿砦社を通じて全国のパチンコホール等に本件各書籍を送付するため、次のとおり買い取るとともに、鹿砦社に対し、本件名簿の送付先にこれらを無償で送付するよう指示した。
G 隠蔽行為 被控訴人らは、本件各書籍の買取りを行うにあたり、わざわざ別名目の費用に上乗せをして支払をしたり(例えば本件書籍1に関する被控訴人サミーから被控訴人SNKへの支払)、被控訴人SNKの関連会社から取引先である株式会社ラブロス経由によって鹿砦社への支払を行うなどして(例えば、同書籍に対する被控訴人SNKから鹿砦社への支払)、不正行為の隠蔽を図った。 H ラブロス手数料相当額の追加支払 被控訴人SNKは、単に本件各書籍の買い取りを行うだけではなく、鹿砦社がラブロスに中間搾取された手数料相当額を追加で支払った。被控訴人SNKは、かかるイレギュラーな金銭支出までして鹿砦社を支援し、本件各書籍のばら撒きを行いたかったということであり、被控訴人SNKによる積極的加害意思は甚だしい。 I 鹿砦社の弁護士費用の負担 被控訴人SNKは、控訴人の鹿砦社に対する本件書籍2に関する民事訴訟(別件名誉毀損訴訟)の弁護士費用(合計1925万円)を負担した。すなわち、控訴人が鹿砦社らに対して別件名誉毀損訴訟を提起したのは平成15年9月2日であるが、第3弾の本件書籍3が企画されたのは平成15年9月ころ、第4弾の本件書籍4が出版されたのは平成16年3月であり、鹿砦社としては、控訴人から民事訴訟を提起されながら、あえて第3弾である本件書籍3、第4弾である本件書籍4を出版した。そして、鹿砦社が本件書籍3、本件書籍4にて意図的な加害行為に及んだのは、被控訴人SNKが合計1925万円にものぼる鹿砦社の弁護士費用を負担し、続編の出版を実質的に唆したことに起因する。通常、外部第三者の弁護士費用を負担することはあり得ず、かかる行為は、被控訴人SNKが鹿砦社と強い共同不法行為関係にあったことを裏付ける事実である。 (2) 以上のとおり、被控訴人らは、いわば鹿砦社のスポンサーとして、また、単なるスポンサーとしての金銭的支援を遥かに超える多数の重大な役割を果たし、本件書籍1から本件書籍4の一連のシリーズを通じて控訴人に損害を与えた。 2 被控訴人らには不競法違反が成立する 原判決は、「本件書籍1の頒布行為は、被控訴人ら及び鹿砦社が客観的に関連し共同して行ったものと認められる」(39頁)として、被控訴人らと鹿砦社の客観的関連性を認定しながら、他方で「鹿砦社は、控訴人と競争関係にあるものではない(当事者間に争いはない。)から、同社に不競法違反が成立しないことは明らかである」(36頁)、「出版行為の主体である鹿砦社に不競法違反が成立しない以上、被控訴人らは、不競法違反とはならない鹿砦社の出版行為の共同行為者とみなされるにすぎないから、不競法違反の共同不法行為が成立すると認めることはできない」(37頁)として、被控訴人ら及び鹿砦社との不競法違反の共同不法行為の成立を否定している。 しかし、原判決によれば、他人と競争関係にある者が競争関係のない第三者を利用して他人の営業上の信用を害する虚偽事実の告知等を行った場合、不競法違反の責任を免れることになるが、これは明らかに不合理である。 本件において、本件各書籍を出版し、全国のパチンコホール等に直接頒布したのは鹿砦社である。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、いわば鹿砦社のスポンサーとして、また、単なるスポンサーとしての金銭的支援を遥かに超える多数の重大な役割を果たして、本件書籍1〜4の一連のシリーズを通じて控訴人に損害を与えたものである。よって、本件においては、被控訴人らの行為は単なる幇助にとどまるものではなく、刑法的にいえば「共同正犯」に相当する関係にあるというべきである。 3 不法行為の個数 本件では、平成15年4月に第1弾である本件書籍1が出版され、その続編として同年9月10日に第2弾である本件書籍2、平成16年3月1日に第3弾である本件書籍3、平成17年3月25日に第4弾である本件書籍4が出版されているが、第2弾ないし第4弾に「続アルゼ王国の闇」「アルゼ王国の闇3」「アルゼ王国の闇4」との副題が付されていること、書籍の内容、外観及び形状から、これらの書籍が一連のシリーズ出版であることは明白である。 そして、これらのシリーズ出版は、@いずれも控訴人に対する加害意思のもとに出版、配布がなされていること、Aいずれも被控訴人サミーが提供した名簿に基づく流通経路に沿って、同一の送付先に頒布されていること、B1冊1400円ほどの価値を有しながら、いずれも無償交付されていること、Cいずれも被控訴人らによる買取りが行われていること、Dほぼ同様の代金支払経路による支払がなされていること、E関係当事者がいずれも同一であること、F被控訴人SNKが、控訴人の鹿砦社に対する民事訴訟における鹿砦社の弁護士費用まで肩代わりし、訴訟提起後に企画出版された、本件書籍3、本件書籍4の出版を支援、助長していること、Gこれらを総合するに、第1弾の「アルゼ王国の闇」で確立された諸体制が利用され、これを基盤とし、当初形成された流れにのって各続編が出版、流通したこと、などからすれば、本件書籍1〜4の各出版を巡る不法行為は、一連の不法行為とみるべきである。 4 民法719条に基づく不法行為 共同不法行為が成立するためには、権利侵害が客観的に関連し共同してなされれば足りるところ(最高裁昭和32年3月26日第三小法廷判決・民集11巻3号543頁)、前記の事実経緯に照らせば、少なくとも本件において鹿砦社及び被控訴人らの間にかかる関連性が認められることは明らかであり、原審判決も、本件書籍1は「被告ら及び鹿砦社が客観的に関連し共同して行ったものと認められる」と判断している(39頁)。したがって、被控訴人らには、少なくとも、民法第719条に基づく共同不法行為が成立する。 なお、上記主張は、不競法違反の主張との関係では予備的請求の根拠とする。 5 消滅時効は成立しない (1) 被控訴人SNKの平成15年7月を起算点とする消滅時効の主張に対し本件で権利行使が可能となったのは、平成18年10月2日、控訴人がDに関する刑事事件記録の謄写を申請し、これを控訴人が受領した日以降であって、被控訴人らに対する不法行為の消滅時効は同時点から進行する。よって上記告訴状作成時(平成15年7月)を起算点とする消滅時効は成立していない。 (2) 民法上の不法行為責任に関する消滅時効の主張(平成18年8月起算の消滅時効)に対し 本件において、不競法に基づく損害賠償請求と民法に基づく損害賠償請求の両請求は、ともに本件各書籍の出版及びこれに対する被控訴人らの関与という全く同一の事実を原因として請求を行うものであるから、基本的な請求原因事実は同一であり、また、控訴人が被った損害を請求するという点で経済的にも同一の給付を目的とする関係にある。そして、民法に基づく損害賠償請請求権は、不競法に基づく損害賠償請求を求める訴えの提起により、同訴訟の係属中は、民法に基づく損害賠償請求を求める権利行使の意思が継続的に表示されているものといえ、同損害賠償請求権につき催告が継続していたのであり、控訴人が本件口頭弁論期日において、民法に基づく損害賠償請求を追加したことにより、右請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものといえる。 よって、民法に基づく損害賠償請請求権は時効消滅していない。 第4 当審における被控訴人SNKの主張 1 「被控訴人らの加害行為」に対し (1) 鹿砦社が本件書籍1を企画・出版するにつき、被控訴人SNKの関係者(B、E)が鹿砦社からの取材を受け、その後、原稿段階で取材を受けた事項に関する記載内容の正確性について確認する程度のことは行ったが、被控訴人SNK及びその関係者が、それ以上、本件各書籍の企画・出版に関わったことはない。 控訴人は、被控訴人SNKが鹿砦社のDに本件各書籍の出版を強く要請したかのように主張するが、そのような事実はない。本件各書籍の企画・出版行為は、出版社である鹿砦社自らの責任と判断の下で行われたものである。 (2) 被控訴人SNKは、鹿砦社が出版した本件各書籍をそれぞれ買い取って業界の監督官庁である各都道府県警察本部の生活安全部署やパチンコホール等へ送付し(出版社から直接送付させ)たことはある。しかし、本件各書籍は、控訴人について強い関心を持つようになった鹿砦社のDが独自の調査ないし取材を重ねて作成されたもので、鹿砦社の責任において出版され、単行本として一般の書店の店頭に並べられ市販された書物である。被控訴人SNKは、本件各書籍がこのような趣旨の一般刊行物であるとの認識の下で、本件各書籍の発行部数の一部を購入し、これらを関係先に送付することを鹿砦社に依頼したものにすぎない。被控訴人SNKが本件各書籍を関係先に送付したのは、株式会社エス・エヌ・ケイ(旧SNK)が民事再生申立てから破産により消滅するに至るまでの控訴人やAの不公正な行為を広く関係者に知らせて被控訴人SNKをはじめとする旧SNKの従業員その他関係者の名誉を回復するためと(上記のような経緯に加えて、当時、業界において、被控訴人SNKが旧SNKを計画倒産させてその資金を流用して会社を立ち上げ、また旧SNK破産管財人と共謀して不正に知的財産権を取得したという噂が流布されていたうえ、本件書籍1が出版されたころには、控訴人が被控訴人SNKの役員等に対して旧SNKを計画倒産させたとして50億円の損害賠償請求並びに被控訴人SNK及び旧SNK破産管財人に対して不正に知的財産権が譲渡されたとして4億円の損害賠償請求の各訴えを提起していたため、これらが事実でないことを明らかにして、パチンコ・パチスロ業界での事業展開を準備していた被控訴人SNKをはじめとする旧SNKの従業員その他関係者の名誉を回復する必要があった。)、これら控訴人やAの行為が上場企業ないしその経営者の行為として社会的に断じて許されないことを広く訴えるためであった。その際、被控訴人SNKは、本件各書籍の記載事実は、当然真実であると考えていた。それは、本件書籍1の出版に際しての鹿砦社の被控訴人SNKに対する入念な取材に照らせばそう考えてしかるべきであったからである。 (3) 以上より、控訴人が主張するような、被控訴人SNKが「鹿砦社のスポンサーとしての役割を担う」とか「(鹿砦社に)多額の資金を拠出することを約束する」などの事実はない。 (4) なお、控訴人は、被控訴人SNKによる本件書籍1の原稿訂正が全面に及んでいたと主張するが、被控訴人SNKの総務部長Eが本件書籍1の原稿に目を通したのは、EがDの取材に応じて話した内容が正確に書かれているかどうかをチェックするためであり、訂正を加えた箇所もEがDに話した内容に関連する部分に限定されていたのであって、本件書籍1のうち被控訴人SNKに関係しない事実関係については一切手を加えていないし、被控訴人が経験していない情報を修正することなどそもそもできない。Eによる原稿のチェックと訂正は、本件書籍1の内容のうち被控訴人SNKに関連する部分につき取材を受けた者の立場からDの依頼を受けて行ったものにすぎず、そのこと自体書籍の編集過程におけるごく一般的な作業である。 また、控訴人は支払方法に関連して被控訴人SNKが買取りの事実を隠蔽したなどと主張するが、これらの被控訴人SNKの行為は経理処理上の都合によるところが大きい(支払先がラブロスやファミネットとなっている部分があるのは鹿砦社がそのように指定したからである。)。関連する会社が複数ある場合にその経理の状況に応じて経費の支出元を適宜選択することは、通常行われていることであって、特別視しなければならないものではない。 さらに、控訴人は、被控訴人SNKがラブロス手数料相当額の追加支払や弁護士費用を支払っていることに関し、被控訴人SNKが本件各書籍をばら撒きたかったからであるとか、鹿砦社に対する大口スポンサーであったためなどと主張するが、当時の被控訴人SNKの売上規模等からすれば、これらの支出は、被控訴人SNKをはじめとする旧SNKの従業員その他関係者の名誉回復等に少しは寄与する結果となった出版社に対する付き合い程度のものであって、「大口スポンサー」等という評価は誤りである。 (5) そもそも、本件各書籍は鹿砦社が独自の取材に基づきその責任と判断に基づいて発行しかつ市販されたものであり、このような出版物を購入の上配布することは不競法2条1項14号所定の「事実を告知し、又は流布する」行為には該当しないというべきである。 2 被控訴人SNKは共同不正競争行為者としての責任を負わない (1) 共同不正競争行為の成立には、各行為者に「競争関係」等の基本的な不正競争行為の要件が備わっていることを要する 不正競争行為が複数人によりなされた場合の責任については、民法719条が適用される。そして、同条の解釈として、共同不法行為の成立のためには、共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加え、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えることを要するとするのが確固たる判例、通説である(最高裁昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集第22巻4号964頁)。したがって、不正競争行為の共同不法行為が成立するには、各自の行為がそれぞれ独立に不正競争行為の要件を備えることを要する。近時の共同不法行為の成立要件についての学説として、関連共同性の要件、因果関係の要件を緩和する見解等が有力に主張されているところであるが、かかる有力説も不法行為のその他の要件を緩和するものではなく、たとえば不正競争行為が共同してなされる場合において、「競争関係にあること」といった固有の基本的な要件について、一部の行為者に備わっていなくてもよいなどとするものではない。 本件において、本件各書籍の企画・出版を含めた行為は全て、鹿砦社が出版社としての責任の下で行ったものであり、被控訴人SNKは鹿砦社に取材源として協力し、本件各書籍の一部を買い取って配布したにとどまる。被控訴人SNKが「共同正犯」であるとの前提自体、事実に反しており、控訴人の主張には理由がない。また、鹿砦社は、不正競争行為の要件を欠くのであるから、鹿砦社との間で何らかの「共同行為」があったとしても、鹿砦社と被控訴人SNKの共同不正競争行為が成立しうるものではない。 (2) 不正競争行為の幇助の成立にも、行為者に「競争関係」等の基本的な不正競争行為の要件が備わっていることを要する 民法719条2項に「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。」と定められる趣旨は、行為者並びに教唆者及び幇助者についてもそれぞれ不法行為の要件が備わっていることを前提として、行為者と連帯して賠償責任を負うことを示すものであって、それ以上に共同不法行為の成立要件を緩和するものではない。とりわけ、行為者自身に不法行為の要件が備わっていることを要することは当然である。よって、不正競争行為に幇助者等としての責任が成立するためには、少なくとも行為者について「競争関係」等の基本的な不正競争行為の要件が備わることを要するというべきである。 被控訴人SNKは鹿砦社の行為を「幇助した」との点を争うが、仮にそのような事実を前提としても、鹿砦社は控訴人との「競争関係」がないから鹿砦社の行為が不正競争行為に該当する余地はなく、鹿砦社の行為が不正競争行為に該当しない以上、鹿砦社の行為(不正競争行為に該当しない行為)を「幇助」する行為が不正競争行為となるものではない。 3 不正競争行為に基づく損害賠償請求の平成15年7月を起算点とする消滅時効について 本件書籍1の出版・頒布といった損害の原因となりうる事実の発生については、そもそも控訴人がそれを知ったことが本件告訴のきっかけとなっているのであるから、控訴人が告訴の時点において、被控訴人SNKの関与を明確に認識していたことは明らかで、平成15年7月の時点で、すでに「損害賠償請求することが可能な程度に関与のあることを知っていた」ものと解すべきである。 4 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効 (1) 平成15年7月起算の消滅時効 前記のとおり、控訴人は、平成15年7月には被控訴人SNKが本件書籍1の出版・頒布に関し一定の関与をした事実等を認識しており、「損害及び加害者を知った」ものであるから、その後3年の経過により、不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅した。 (2) 平成18年8月起算の消滅時効 控訴人は、遅くとも平成18年8月2日にはDに対する名誉棄損刑事第1審判決(甲5)を入手していた。そして、この判決においては、Bらが鹿砦社の取材に応じたこと、被控訴人SNKが本件各書籍の一部を買い取って配布したことその他の事実関係について判示がなされているのであるから、遅くとも、控訴人は、平成18年8月2日には、「損害及び加害者を知った」ものであり、その後3年の経過により、不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅した。 第5 当審における被控訴人サミーの主張 1 「被控訴人らの加害行為」に対し (1) 被控訴人サミーの行為は、本件書籍1について、5000部を買い取ったこと、各都道府県の警察の生活安全関係部署の住所などを記載したもの、その他公開されている市販の名簿を被控訴人SNKに提供したことにとどまり、本件書籍2〜4についてはこうした関与もない。そして、本件書籍1は一見して明らかに虚偽の事実が記載されているものであったり、控訴人の名誉を毀損するものと思われるような内容ではなく、被控訴人サミーは、本件書籍1に特段の問題があると認識することなく、取引先である被控訴人SNKに対して本件書籍1の買取の約束をしたにとどまる。そもそも、独立した既成の出版社が自ら企画し、出版を予定した書籍は、その内容の吟味は出版社自身が担保していると信頼されるのであり、その信頼に立って、本件書籍1の具体的内容を正確に把握することがないまま、出版前に出版されたら買取りをする旨約束すること、また手持ちの名簿(いずれも市販されているものであり、秘密にすべきもの、あるいは高価なものではない)を送付することは、何ら不当なことではない。被控訴人サミーが送付した名簿中に各都道府県の警察の生活安全関係部署のものがあったということ自体、被控訴人サミーとして、自らの行為が何ら不当なものではないと認識していたことの証左であるし、実際に送付を受けた各都道府県の警察の生活安全関係部署のどこからも本件書籍1の配布が問題視されなかったことは、本件書籍1が特段問題となるようなものではなかったことを裏付けるものである。 なお、控訴人は、被控訴人サミーから被控訴人SNKへの本件書籍1の購入代金の支払が書籍購入代金ではなく、被控訴人SNKが作成したゲームソフトの使用許諾料に上乗せして支払われたことを「関与を隠蔽するため」であるなどと主張して、被控訴人サミーが何らかの問題性を認識していたかのように主張するが、支払名目をそのようにしたのは税務上の考慮から当時の当事者間の使用許諾取引の対価に含めて処理したにすぎず、それ以上の意味はない。 (2) 本件書籍1については、被控訴人SNKが3000部を買い取り、被控訴人サミーが5000部を買い取ったが、被控訴人らが買取りを決めた先後関係は、まず被控訴人SNKが3000部を買い取ることを決め、その後被控訴人サミーが5000部の買取りを了承したものである。 (3) そもそも、他人により出版された書籍を他社に配布すること、すなわち自らの表現が皆無で自らの認識を他者に伝えるものでない行為については、不競法2条1項14号の「告知・流布」にはあたらないというべきである。 仮に出版された書籍を他者に配布することが「告知・流布」にあたるとしても、本件各書籍を配布したのは鹿砦社であり、被控訴人サミーは何ら本件各書籍の配布行為を行っていない。被控訴人サミーは、本件書籍1を被控訴人SNKから買い取り、市販の名簿を被控訴人SNKに送付したという限度で本件書籍1にかかわったにすぎず、これが配布行為でないことは明白である。 2 被控訴人サミーは共同不正競争行為者としての責任を負わない 控訴人は、不競法2条1項14号の「競争関係」とは一種の身分であると主張するが、「身分」とは刑法上の概念であり、民法あるいは不競法上、「身分」という概念はなく、単に要件の一つにすぎない。。控訴人の主張は不競法2条1項14号の「競争関係」を刑法で例えれば「身分」のようなものであるという比喩にすぎず、法的な主張とはいえない。 そして、刑法上は、刑法65条1項という明文の規定があるために、身分者が非身分者に対して加功する場合にも身分者と非身分者の共犯が成立する。これに対し、民法上は、719条に定める共同不法行為の成立要件として、共同行為者の1人1人について、責任能力、故意・過失、違法性などの不法行為の一般的成立要件を充足する必要があると解されている。刑法と民法・不競法とが異なる法体系である以上、その解釈において異なるところがあるのは当然のことであり、民法の条文に刑法65条1項と同様の規定がなく、かつ、上記のとおり共同不法行為が成立するには共同行為者の1人1人について不法行為の一般的成立要件を充足する必要があると解されている以上、民法上は不法行為の一般的成立要件を充足しない者と不法行為の一般的成立要件を充足する者とが共同で行為を行ったとしても、共同不法行為が成立しないことは明らかである。不競法は民法上の不法行為法の特則であるから、不正競争行為を共同で行った場合にも、同様に共同行為者の1人1人について不正競争行為の一般的成立要件を充足していなければ、共同の不正競争行為は成立しない。 3 時効の援用 控訴人は、Dについての別件名誉毀損訴訟について平成18年7月4日の判決日当日に判決内容を把握し、平成18年8月2日には同判決文を入手していたことからすれば、遅くとも、控訴人は、平成18年8月2日には「損害及び加害者を知った」ものである。 控訴人は、平成21年8月24日提出の控訴理由書において民法上の不法行為の主張を追加するに至ったが、その時点では既に3年の時効期間を経過しており、不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅した。 4 加害行為者の時効完成による幇助者の責任消滅 本件各書籍の出版頒布の行為者は鹿砦社ないしDであるところ、控訴人は、鹿砦社ないしDに対する損害賠償責任追及としては別件名誉毀損訴訟以外にはしていない。したがって、本件各書籍について、鹿砦社ないしDに別件民事訴訟で認められた以外の損害賠償義務が存在するとしても、すでにその時効は完成している。 ところで、被控訴人サミーの責任が問題となる場面は本件書籍1についてのみであり、しかも幇助概念を極めて広く捉えた場合の幇助となるかどうかという場面のみであると考えられる。そして、民法719条2項の幇助により共同行為者とみなされる場合にあっては、同条1項の共同不法行為者同士の債務が不真正連帯債務とされるのとは異なって、連帯債務における原則に従い民法439条を適用し、本来の行為者について時効が完成したときは、幇助者においてもその義務を免れると解すべきであるため、被控訴人サミーは、本件書籍1に関しても控訴人への損害賠償義務を負うことはないというべきである。 第5 当裁判所の判断 1 前提となる事実経過 本件各書籍の出版・頒布の事実経過、当該出版・頒布にあたっての被控訴人らの関与等は、次のとおり訂正付加するほか、原判決32頁9行〜35頁1行に記載のとおりである。 (1) 原判決32頁6行目〜7行目の「証拠(甲10ないし19)」を証拠(証拠(甲5、6、10ないし19、55、56、64、乙11)と改める。 (2) 原判決32頁10行〜33頁15行を次のとおり改める。 「ア 株式会社エス・エヌ・ケイ(旧SNK)は昭和53年7月に設立された株式会社である。Bはその創業者であり、平成12年3月31日まで旧SNKの代表取締役の地位にあった。旧SNKは業務用(ゲームセンター向け)ビデオゲーム機及びソフトの開発を主な業務としてきたが、平成6年に業務用ゲーム機とほぼ性能の変わらない家庭用ゲーム機「プレイステーション」が発売されて以降、ゲームセンターの営業が急速に減退するのに伴い、旧SNKの業績も下降していった。 イ かかる状況の中、控訴人が株式の第三者割当により旧SNKの過半数の株式を取得して経営支援を行うことになり、旧SNKは控訴人の指示によりパチンコ・パチスロ機用のソフトを開発するなどしてパチンコ・パチスロ業界へ参入するとともに、ゲーム開発事業は中止ないし縮小した。 ウ 旧SNKは、平成13年3月30日に手形不渡りを出し、同年4月2日に大阪地方裁判に対し民事再生手続きの開始を申し立てたが、再生計画案の提出期限である同年9月28日までに再生計画案を提出しなかったため、大阪地方裁判所は同年10月1日、民事再生廃止決定をして管理命令を発令した上、同月30日、旧SNKに対する破産宣告をした。 エ 平成13年8月1日、Bが中心となって被控訴人SNK(当時の商号は株式会社プレイモア)が設立された。これは、パチスロ事業を継続するにあたって、民事再生手続中の旧SNKの名義では公安委員会からの許認可が下りないため、別法人である被控訴人SNKを設立して、同被控訴人においてパチスロ事業を行おうとしたためであり、Bは、旧SNKの民事再生廃止決定後は被控訴人SNKにおいて再起を図ろうと考え、旧SNKの所有していた商標や著作権、特許といったすべての知的財産権を被控訴人SNKが2億1000万円で取得し、旧SNKの従業員約35名ほどを移籍させて事業を開始した。 オ Bは、控訴人あるいはその代表取締役であったAにより自らが創業した旧SNKを破綻させられたとして、強い怒りや憤りを抱いていた。 カ 出版社である鹿砦社の代表取締役兼編集長のDは、平成14年後半ころ、被控訴人SNKの取引先である株式会社ラブロスの代表取締役であったFの紹介で、Bに対し、被控訴人SNKと控訴人の関係や経緯について取材をしたが、その取材をもとにした記事は週刊誌などに掲載されなかった。BがFに対し、せっかくDの取材に応じたのに記事として掲載されていないのはなぜかと述べ、FがDを連れてBを訪ねたことから、DからBに対して、被控訴人SNKと控訴人との関係の話を単行本として出版する旨の申入れがあった。Bは、単行本の出版となると膨大な資料と取材が必要と考え、当時被控訴人SNKの総務部長であり、控訴人と被控訴人SNKとの間の経緯を詳細に知っていたEにDの取材に対応するように指示し、主として、EがDからの取材に応じた。 キ 平成15年初めころ、Dは、Eに対し、本件書籍1の原稿の内容の確認を依頼した。Eは、当該原稿を確認して訂正を加え、Bの目も通させてその了承を得た上、訂正を加えた原稿をDに渡し、約1週間後に再度原稿を確認したところ、訂正部分がすべて書き換えられていたので、Dにその内容で出版してかまわない旨を伝えた。 ケ 被控訴人サミーもパチンコ・パチスロ業者であって、Bは、同被控訴人の代表取締役であったCとは個人的にも親しくしていたところ、Cは控訴人と対立していた同被控訴人として、控訴人を批判する書籍に関心を有しているであろうと考え、平成15年2月又は3月ころ、本件書籍1の原稿をCに渡した。Cは「これは面白い。」と言って興味を示し、被控訴人サミーが本件書籍1を5000冊買い取ること、被控訴人サミーから全国のパチンコホールの名簿を送るのでそれに記載されたあて先に本件書籍1を頒布するよう述べた。 コ Bは、本件書籍1を被控訴人SNKが3000部、被控訴人サミーが5000部買い取ることになったことをEに伝え、被控訴人サミーから送られた全国のパチンコホールの名称及び住所、各都道府県警の生活安全部署の住所等が書かれた本件名簿を渡してそれに記載されたあて先に本件書籍1を頒布するように指示し、この指示を受けて、Eは、Dに対し、本件名簿を渡して、そのあて先に本件書籍1を頒布するように伝えた。 サ 鹿砦社は、平成15年4月10日、初版部数を1万2000部ないし1万3000部として本件書籍1を出版し、前記指示に基づき、本件名簿に記載されたあて先に前記買取りに係る本件書籍1を送付した。 シ 被控訴人SNKは、被控訴人サミーの分も含めて、株式会社サン・アミューズメント名義で、株式会社ラブロスを通じて、鹿砦社に対して、本件書籍1の買取代金及び発送費用として、1352万5675円を支払った。 被控訴人サミーから被控訴人SNKに対する買取代金については、被控訴人サミーが被控訴人SNKに支払うゲームソフトの使用許諾料に当該買取代金を上乗せすることとして、支払がなされた。 ス 被控訴人SNKは、Dが本件書籍1の買取代金のうちの多くを株式会社ラブロスに手数料名目で取られたと言ってきたことから、平成17年7月、ファミネットという別会社を介し、鹿砦社に対し、株式会社サン・アミューズメント名義で1000万円を追加で支払った。 セ このように、Dは、本件書籍1の出版当時、被控訴人SNKが出版の大口スポンサーであると認識し、同被控訴人から被控訴人サミーの拠出分も含めて資金援助を受けた。」 (3) 原判決35頁1行の次に改行して次のとおり加える。 「(5) 被控訴人SNKは、平成15年12月から平成16年にかけて、Dに対し、A及びGと鹿砦社及びDとの間の別件名誉毀損訴訟の弁護士費用として1925万円を支払った。」 2 行為の個数及び消滅時効について 不法行為の個数については、原判決35頁2行〜36頁4行に記載のとおりである。後記7で判断するとおり、控訴人が主張する本件各書籍の記述中、不競法上の虚偽事実の記載があると認められるのは本件書籍4の記載のみであるから、それ以外の本件各書籍に関する流布によって生じた不競法上の損害賠償請求権に関する消滅時効の援用については判断するまでもないことになる。 被控訴人SNKは、本件書籍4について不競法上の損害賠償責任を負う以上、また、そこで肯定する虚偽事実以外には、不法行為該当性についてみても流布された虚偽事実が認められないから、予備的請求である民法上の共同不法行為責任の存否について判断する必要はないし、共同不法行為の成立を認めることもできない。被控訴人サミーについては、本件書籍4について事実を告知し又は流布する行為が認められず、主張に係る他の虚偽事実についても虚偽のものとは認められない以上、かかる事実のあることを前提として控訴人が主張する民法上の共同不法行為も成立しない。したがって、これらの共同不法行為責任の消滅時効についても判断するまでもない。 3 控訴人と被控訴人SNKとの競争関係が生じた時期について 不競法2条1項14号の「競争関係」とは、現実に競争関係にある場合に限られず、将来現実化する関係で足りると解されるところ、前記前提となる事実経過記載の事実によれば、被控訴人SNKは平成13年8月1日以降、パチスロに関する事業を行っていたと認めることができるし、また、被控訴人SNK自身、本件書籍1の出版当時、パチンコ・パチスロ業界での事業展開を準備していたと主張している。そうすると、本件書籍1及び2が出版された平成15年4月10日及び同年9月10日当時において、被控訴人SNKがパチスロ遊技機の販売を行っていなかったとしても、競争関係が将来現実化する関係があったと認められるから、パチスロ遊技機の製造販売を業とする控訴人と競争関係にあったと認めるのが相当である。 4 告知流布行為の有無について (1) 本件書籍1について 本件各書籍の出版・頒布に係る経緯は前記のとおりである。そして、本件書籍1の出版を企画し、取材及び編集を行ったのは鹿砦社であるが、本件書籍1の内容が競争関係にある控訴人を批判するものであることを認識しながら、予め被控訴人SNKは3000部、被控訴人サミーは5000部という大部の買い取りを約束し、その買取部数は発行部数(1万数千部と推認される)の半数前後を占める大きなものである上、本件名簿により送付先を控訴人の業務に深く関係するパチンコホール等に指定し、これに基づき鹿砦社が本件書籍1をパチンコホール等に送付したものであるから、被控訴人らは本件書籍1を自らパチンコホール等に配布したものと容易に推認することができる。この行為は、被控訴人らの本件書籍1の出版・頒布への関与が書籍店のように単に他人により出版された書籍を取り次ぎとして他者に配布するという関与を超えて、競争関係にある控訴人の信用毀損を図る意図のもとに、鹿砦社による本件書籍1の出版を利用ないしこれに乗じたものと認められることからすれば、自ら控訴人に関する事実を流布したものにほかならない。 なお、被控訴人らは、他人により出版された書籍を他者に配布すること、すなわち自らの表現が皆無で自らの認識を他者に伝えるものでない行為については、不競法2条1項14号の「事実を告知し、又は流布する」行為には該当しないというべきであるとか、被控訴人らの行為は鹿砦社の出版・頒布行為に対する幇助にとどまるものであるなどと主張する。 しかし、前記の認定事実によれば、控訴人の社会的信用を毀損するような虚偽の事実が含まれていることを期待しつつ、被控訴人らは入手した書籍を業務関係者に配布したということができるのであるから、書籍の表現を自ら記載したのでないことをもって、被控訴人らの行為が不競法所定の上記行為に該当しないとすることはできないし、幇助にとどまるとすることもできない。 (2) 本件書籍2〜4について 被控訴人SNKについては、本件書籍1と同様の理由により、本件書籍2〜4に記載された競争関係にある控訴人に関する事実を流布したと認めるのことができる。 しかし、被控訴人サミーについては、本件書籍2〜4についての関与があったとは認められないから、同被控訴人に不競法2条1項14号の「事実を告知し、又は流布する」行為があったということはできない。 控訴人は、被控訴人サミーが本件名簿の回収をしなかったこと等を捉えて、被控訴人サミーに本件書籍2〜4についても不競法2条1項14号違反の行為が成立すると主張する。しかし、前記のとおり、本件書籍1が出版された段階では本件書籍2〜4の出版予定があったとは認められないから、被控訴人サミーが本件書籍1が出版された段階で本件書籍2〜4が出版・頒布されることを予見することができたとは認められないし、その他、被控訴人サミーが本件名簿を回収したり、被控訴人SNK及び鹿砦社による本件書籍2〜4の出版・頒布を中止させる法的義務が発生することを根拠づける事実も見当たらず、控訴人の上記主張は採用することができない。 5 被控訴人らと鹿砦社による外形的共同不法行為の成否について(被控訴人ら及び控訴人との間に競争関係のない鹿砦社を共同不法行為者として、不競法2条1項14号違反の共同不法行為が成立するか) 前記のとおり、被控訴人らは本件書籍1に記載された事実を流布し、被控訴人SNKは本件書籍2〜4に記載された事実を流布したものである。 そして、鹿砦社は出版社であり控訴人とは競争関係にはないが、被控訴人SNKと控訴人が競争関係にあることは前記のとおりであり、被控訴人サミーと控訴人が競争関係にあることは当事者間に争いがない以上、鹿砦社に不競法違反が成立しなくとも、虚偽か否かは後記で判断するところではあるが、外形行為の観点からみれば、被控訴人ら各自の行為において不競法2条1項14号該当要件を満たす以上、この点においては所定の「不正競争」に該当し、他の要件を充足する場合には同法4条による損害賠償義務の成立は免れないものというべきである。被控訴人ら指摘の最高昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集第22巻4号964頁は、共同行為者の加害行為について不法行為者が賠償の責めに任ずべき損害の範囲について判断しているものであって、本件に適切でない。 6 本件各文章は被控訴人の信用を害するものであるかについて (1) 控訴人は、別紙4−1〜4虚偽事実一覧表(原判決の別紙4−1〜4に通し番号を付して再掲)記載の各事実は控訴人の営業上の信用を低下させるものであると主張するのに対し、被控訴人らはこれを争うので、以下検討する。なお、「虚偽の事実」か否かの認定に際しては、記載の文章における事実記載の具体性、記載事実内容の反社会性の程度を軸にし、被控訴人らは書籍を配布したとはいえ自らが記載し出版したものではないことも踏まえて判断するものである。 まず、別紙虚偽事実一覧表記載の各事実は、次のとおりである。 @ 控訴人と被控訴人SNKの間の経緯に関するもの(控訴人は旧SNKへの資金援助を申し出ていながら、旧SNKの価値ある部分のみを取得して旧SNKを倒産させたこと等):別紙虚偽事実一覧表番号1〜8、23、34、35、36 A 控訴人の製造販売にかかる遊技機に関するもの a パチスロ機「ミリオンゴッド」に関するもの(「ミリオンゴッド」の射倖性の高さ、検定における申告や自主回収における不誠実さないし不適切さ等):別紙虚偽事実一覧表番号25、26 b パチスロ機「ゴールドX」の不具合(バグ)に対する対応に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号27、38、39、40 c パチスロ機「コンチネンタル」に関するもの(「コンチネンタル」の射倖性の高さ、不適切なプログラムの変更等):別紙虚偽事実一覧表番号30、31 d パチスロ機「HANABI」にいわゆる裏ロムが取り付けられていたことに関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号9、28、29 B 控訴人の経営に関するもの 控訴人の米国ラスベガスでのカジノホテル共同経営状態:別紙虚偽事実一覧表番号37 C 上記以外の控訴人に関する事実 a 40億円の所得隠しの発覚:別紙虚偽事実一覧表番号16 b 国税局と東京地検が控訴人を捜査対象としようとしていることとこれに関連する事実:別紙虚偽事実一覧表番号33 c 元警察官僚や警察出身政治家を利用して捜査機関やその他の公的機関へ影響力を及ぼしていること:別紙虚偽事実一覧表番号11,14,15,45,47 d 株取引に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号PQR e 鹿砦社との裁判における控訴人の行動に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号41 f 控訴人が違法行為、不法行為を野放しにしていること:別紙虚偽事実一覧表番号42 D Aに関する事実 a Aがギャンブルマシン(違法賭博用マシン)を製作していたこと等:別紙虚偽事実一覧表番号12 b パチンコ・パチスロホールに設置された両替機において偽造紙幣が使用されたことについてのAの関与:別紙虚偽事実一覧表番号43 c Aが米国でカジノ・ライセンスを取得する際の偽証に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号44、46 d Aと殺人を犯した者との個人的な交際に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号13 e 女性関係に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号10,20〜22、 f 前科前歴に関するもの:別紙虚偽事実一覧表番号32 E その他 パチスロ業界内では控訴人出身で逮捕される者が多いこと等:別紙虚偽事実一覧表番号24、48 (2) 上記@については次の7で判断するが、Aはパチスロ機の販売に直結するものであるし、@、B、Cは営業を含む企業経営における法令遵守や行動の適正さに関するものであり、控訴人の社会的信頼(営業上の信用)に影響を及ぼす事実である。DはA個人に関する事実ではあるが、Aは控訴人の創業者でありその経営に大きな影響力を有しているところ、上記文章がAの経営者としての資質や控訴人が株式上場企業でありながら公私混同した人事や経営が行われていることを批判する趣旨が含まれていると解されることからすれば、控訴人の営業上の信用にかかわる事実であると認めることができる。さらに、Eも、控訴人の退職者に関する事実によって控訴人の営業手法や経営体質を批判する趣旨が含まれていると解されるから、控訴人の営業上の信用にかかわる事実であると認めるのが相当である。 被控訴人らは、パチスロ機の売上げは遊技機そのものが持つ特性(ゲーム性、射倖性など)、ホールでの稼働状況(人気度など)ないしその顧客吸引力等に大きく左右されるものであり、パチスロ機の製造業者ないしその代表者如何によってその売上げが実質的な影響を受けるとは考えがたいところ、控訴人が虚偽事実と主張するものは、いずれも控訴人のパチスロ機の性能や顧客吸引力等とは関わりのない事実であるとか、控訴人が虚偽事実と主張するものはパチスロ業界内の周知事実であるから営業上の信用を害するものではなく、控訴人の売上げが減少していないことからしてもパチスロ機の取引が停止される具体的なおそれがあるものではないなどと主張する。 しかし、営業上の信用を害する事実は製品やサービスの性能・顧客吸引力に関するものに限られるとは考えられないし、本件各文章に記載された事実がパチスロ業界内の周知事実と認めるに足りる証拠もない。また、控訴人の主張する事実が取引が停止される具体的なおそれがない事実ということもできない。被控訴人らの上記主張は採用することができない。 7 本件各文章は虚偽の内容であるかについて (1) 控訴人と被控訴人SNKの間の経緯に関する文章(別紙虚偽事実一覧表番号1〜8、23、34、35、36〔前記6の@〕)について 前記「1 前提となる事実経過」のとおり、本件各文章のうち控訴人と被控訴人SNKの間の経緯に関する部分は、鹿砦社が被控訴人SNKの取締役会長であるBや総務部長であるEに対してした取材に基づくものであるところ、証拠(甲1〜4)によれば、上記文章部分は、全体として、控訴人は旧SNKへの資金援助を申し出ていながら、旧SNKの価値ある部分のみを取得して旧SNKを倒産させたとの論調を基調として記載されていると認められる。 Aは陳述書(甲49、64)及び当審における証人尋問において、控訴人の主張に沿う証言をするが、その内容が具体的に裏付けられているとはいい難く、上記文章部分が虚偽であると認めるには足りない。 かえって、証拠(乙9)によれば、旧SNKの民事再生手続の監督委員である弁護士が、裁判所に対し、民事再生手続き開始の可否につき、「旧SNKの再生の見込みは控訴人の業務支援にほとんど依存しているが、控訴人が再生債権である自己の売掛金及び代行店の手数料が全額返済されない限り業務支援はしないとの姿勢を崩さなかったところ、かかる要求が債権者平等(民事再生法155条)に反し、他の一般再生債権者の同意を得られるはずもないこと、旧SNKは控訴人の支援なしでの再生を探っているが、控訴人代表取締役が旧SNK会長取締役を辞任したと言明していることから、今後人材引抜きも予想される等、一転して控訴人が旧SNKの自力再生の最大の壁になりかねない状況である」旨を報告していることが認められる。そして、上記事実によれば、旧SNKの民事再生のためには旧SNKの経営支援を行っている控訴人の協力が必須であったにもかかわらず、控訴人は再生債権者間において不平等となることが明らかな条件を提示して民事再生手続続行の障害となる対応をしていたことが認められるところ、かかる控訴人の対応は、旧SNKの創業者であるBらの立場からすれば、旧SNKに対する経営支援を行っていた者として信義誠実を欠くものと受け取られてもやむを得ないものがあると解される。また、証拠(乙11)によれば、控訴人は旧SNKの平成13年6月の株主総会において特に協議を行うこともなく議案をすべて否決するなどしていたことが別件判決で認定されているところ、このような控訴人の対応も、Bらからすれば、旧SNKの再建の障害となるような対応であると受け取られてもやむを得ないもとがあると解される。そして、旧SNKの経営再建における控訴人のかかる対応からすれば、上記文章部分が虚偽であるとまで認めることはできない。 (2) 控訴人の製造販売にかかる遊技機に関する文章について(別紙虚偽事実一覧表番号9、25、26、27、28、29、30、31、38、39、40〔前記6のA〕) ア 本件各文章のうち、控訴人の製造販売にかかる遊技機に関する文章は、概ね、(ア) 控訴人が極めて射倖性の高いパチスロ機「ミリオンゴッド」を販売していたこと、その検定に際し控訴人が不適切な申告の仕方をしていたこと、「ミリオンゴッド」の自主回収に関する発表は表向きの態度であり、かつ被控訴人サミーへの牽制策であること、(イ) 控訴人が販売していたパチスロ機「ゴールドX」の不具合(バグ)に対する対応が不誠実でサブ基盤の交換という法令違反となる行為があったこと、(ウ) 控訴人が極めて射倖性の高いパチスロ機「コンチネンタル」を販売したこと、それに対して不適切なプログラムの変更をしていたこと、(エ) 控訴人製造のパチスロ機「HANABI」にいわゆる裏ロムが取り付けられていたことに関する控訴人の対応や、1998年製裏ロムが取り付けられていたことを日本電動式遊技機工業協同組合(日電協)に報告しなかったこと、控訴人が裏ロムを取り付けたとか政治家が陰で動いたという噂があることが記載されていると認められる。 Aは陳述書(甲49、64)及び当審における証人尋問において、控訴人の主張に沿う陳述をするが、その内容が具体的に裏付けられているとはいい難く、上記文章部分が虚偽であると認めるには足りない。 かえって、「ミリオンゴッド」が極めて射倖性の高いパチスロ機であること、控訴人がこれを自主回収するに至っていること、「ゴールドX」に不具合が生じたことは控訴人も争っていない。 また、証拠(乙2の5・6、乙3、4)によれば、 控訴人は、「ゴールドX」の不具合につき、「ゴールドX」を設置しているパチンコホールに対し「ホール従業員が遊技客に対して押し順を告知する。」、「ホール従業員がゴールドXを監視して遊技客に特定の打ち方をさせない。」、「液晶画面にシールを貼ってセット打法をできなくする。」という対応策を提案したところ、ホール側から、かかる対策では、遊技客に不快感を与えたり困惑させたりし、あるいは遊技客との間で無用の摩擦を招くおそれがある、押し順そのものを物理的に制約することはできないためホール従業員が遊技客に押し順を告知するという方法は特定遊技方法を防止する対策としては不十分である、液晶画面へシールを貼付すると映像を隠すことになるので遊技の面白みや娯楽性を大幅に減殺させることになるといった不満が出され、控訴人に対する訴訟が提起されるに至り、判決で控訴人の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償義務が認められたこと、全日本遊技事業協同組合連合会は、控訴人が関係方面の了承のない中で「ゴールドX」のサブ基盤の交換を行おうとしたが、かかる行為は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風適法)違反の無承認変更となるものであるとして、平成15年7月中旬、控訴人に対する中止要請の連絡と傘下の組合に対し注意喚起の連絡をしたことが認められる。 以上のとおり、控訴人はパチスロ機に不具合が生じた際にホールに対して適切さを欠く対応をしており、全日本遊技事業協同組合連合会から法令違反となるパチスロ機の改造行為を行おうとしていると指摘されていたところ、このような控訴人の行動や第三者からの指摘からすると、上記ア(イの「ゴールドX」に関する文章が虚偽であると認めることができないことはもとより、上記ア(ア(ウの「ミリオンゴッド」、「コンチネンタル」に関する文章が虚偽であると認めることもできない。 イ 控訴人が扱う「HANABI」に関する別紙虚偽事実一覧表番号9の文章につき、控訴人は控訴人自身が裏ロムが仕組まれた出来事に関与しているかのように述べている点で虚偽事実であると主張している。しかし、上記9のこの部分に関しては、裏ロム設置に関し運送業者を告訴した控訴人の対応についての文章であり、控訴人自身が裏ロムが仕組まれた出来事に関与しているとの事実が記載されているとはいえないから、控訴人の主張する上記虚偽事実が記載されているとは認められない。 上記文章には、「HANABI」に裏ロムを取り付けた「犯人」が控訴人の指定登録運送会社であるとして、控訴人が警察に告訴したとの記載がある。しかし、告訴したこと自体は事実であり(甲42)、この辺りの表現ぶりは噂を含めた情緒的なものにとどまり、故意に無実と思っていた運送会社を貶めた事実までが記載されているとは認められず、虚偽の事実と認めることはできない。 別紙虚偽事実一覧表番号28の文章には、控訴人が「HANABI」に1998年製裏ロムが取り付けられていたことを日電協に報告しなかったことが記載されているが、かかる事実が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 別紙虚偽事実一覧表番号29の文章については、控訴人は、控訴人が裏ロムを仕込んだかのように述べている点、政治家の圧力を利用したかのように述べている点で虚偽の事実を摘示していると主張するが、上記文章を前後の文章と併せて読めば「HANABI」に裏ロムが設置されていたことにつき真相が判明していない中で様々な噂が流れたこと中の一つとして記載されたものであることが認められ、控訴人主張の虚偽事実が記載されていると認めることはできない。 (3) 控訴人の経営に関する文章について(別紙虚偽事実一覧表番号37〔前記6のB〕) 別紙虚偽事実一覧表番号37の文章には、控訴人の米国ラスベガスでのカジノホテルの経営が思わしくない旨が記載されているが、かかる記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 また、上記文章には、控訴人のゲーミング・ライセンスが不安定な要素をはらんでいると記載されている。この点につき、控訴人は、控訴人及びAはラスベガスのゲーミング当局にAが法人税法違反で有罪判決を受けたことを含め真実を告げ、その結果ライセンスが付与されたものであって、上記記載は虚偽であると主張する。しかし、本件書籍3の109頁〜124頁には、控訴人及びAは米国の当局にAが法人税法違反で有罪判決を受けたことは申告していたが、Aの代理人が「懲役刑は下ったが、それは延期(執行猶予)されており、つまり犯罪的な行為がなかったということだ」と主張したこと対し疑問を呈する旨の記載がなされていると認められる。そして、控訴人は本件書籍3の109頁〜124頁の記載が虚偽である旨の主張はしていないし、控訴人が米国当局に提出した文書(甲48の1)には「It is important to once again identify differences between the American and Japanese systems.Many tax issues and violations, such as occurred here, would be settled by payment of additional tax assessments or treated as civil matters in the United States. In Japan, although the penalties sometimes appear criminal in nature, the guilty party is not really consideres criminal. In this case, even though Mr. A was placed on probation, his probation is not supervised. He is under no restrictions during the probationary period. Mr. A was never arrested or placed under any physical restraint because of his involvement as managing director. The basis for this treatment is the determination by the Courts that Mr. A motives were not criminal in nature and that there were no strong indications of anti-social or anti-moral behavior.(原告訳:もう一度いうが、米国のシステムと日本のシステムの間の差異を認識することは重要である。本件で起きたような数々の税務問題や違反は、米国では、追加課税査定額の支払で和解するか、民事事件として取り扱われるものである。日本では、しばしば処罰が本来の刑事罰のように見えるが、有罪とされた当事者は実際に犯罪者であるとは見なされないのである。本件でA氏は執行猶予となったが、保護観察下には置かれず、執行猶予期間中何らの制限を受けなかった。A氏は、代表者として巻き込まれたことを理由に、逮捕されたり身柄の拘束を受けたことは一切なかった。この扱いの基礎となったのは、A氏が取った行動の理由には本質的に犯罪性がなく、反社会的又は反道徳的行為ではなかったと裁判所が決定したことであった。」との記載がされているところ、Aの代理人の主張に対する鹿砦社の上記疑問が不適切なものであるとまではいえず、ひいては「控訴人のゲーミング・ライセンスが不安定な要素をはらんでいる。」旨の記載が虚偽であるということもできない。 (4) 上記以外の控訴人に関する文章について ア 別紙虚偽事実一覧表番号16の文章には控訴人の40億円の所得隠しが発覚したとの事実が記載されているが、控訴人が取消訴訟が控訴審係属中であり、税務当局によって更正処分を受けたことは争っていないことからすると、上記文章が虚偽であるとまでいうことはできない。 イ 別紙虚偽事実一覧表番号33の文章には、国税局と東京地検が控訴人を捜査対象としようとしており、それが原因で控訴人の顧問だった元警視総監が辞任したことが記載されているが、かかる事実が虚偽であること認めるに足りる証拠はない。 ウ 別紙虚偽事実一覧表番号11,14,15,45,47の文章には、控訴人が元警察官僚や警察出身政治家を利用して捜査機関やその他の公的機関へ影響力を及ぼしていることが記載されているが、かかる事実が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 エ 別紙虚偽事実一覧表番号17〜19の文章には、株価操作やインサイダー取引が噂される人物を顧問にしたり、インサイダー取引が噂される団体の交流会に参加していたことなどが記載されているが、かかる事実が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 オ 別紙虚偽事実一覧表番号41の文章には、控訴人・鹿砦社間の裁判において鹿砦社提出にかかる鑑定意見書を作成した大学助教授に対し、控訴人関係者と思われる人物が電話をして手を引くように述べたことが記載されているが、かかる事実が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 カ 別紙虚偽事実一覧表番号42の文章には、控訴人が違法行為、不法行為を野放しにしている旨が記載されいるが、かかる記載はそもそも具体性を欠く上、虚偽であることを認めるに足りる証拠もない。 (5) Aに関する文章について ア 別紙虚偽事実一覧表番号12の文章には、Aがバーリー社製のギャンブルマシンをフルコピーして製作していたことが記載されているが、かかる記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 イ 別紙虚偽事実一覧表番号43の文章には、パチンコ・パチスロホールに設置された両替機において偽造紙幣が使用されたことについてのAの指示があった旨が記載されているところ、紙幣(通貨)の偽造は極めて反社会性の高い犯罪行為であり、企業を経営する者がこのような行為を行うということはほとんど考えられないことからすれば、特定の人物が紙幣を偽造ないし使用したりそれを指示したとの事実を流布することについては、ごくまれな特段の事情のない限り、虚偽の事実を流布したと強く推認するのが相当である。本件においては、Aが偽造紙幣の使用を指示したことを裏付ける主張及び立証は全くなされておらず、上記の特段の事情は認められないから、別紙虚偽事実一覧表番号43の文章には虚偽の事実が記載されていると認めるべきである。 ウ 別紙虚偽事実一覧表番号44、46の文章には、Aが米国でカジノ・ライセンスを取得する際に三百代言的に偽証した旨の記載があるところ、前記(3)記載の経過からすると、上記記載が虚偽であるとまでいうことはできない。 エ 別紙虚偽事実一覧表番号13の文章には、Aと殺人を犯した者と個人的な交際があったことが記載されているが、かかる記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 オ 別紙虚偽事実一覧表番号10,20〜22の文章には、Aの女性関係や愛人とされる女性が控訴人社内において大きな影響力を有していることが記載されている。証拠(甲40、41)によれば、株式会社光文社が同社発行にかかる発行にかかる週刊誌「FLASH」に「パチスロ富豪『アルゼ』社長が“愛人”を役員に」と題する記事を掲載したことにつき、「お詫び本誌平成11年7月20日号に掲載したアルゼ株式会社及び同社取締役に関する記事は、取材手続が十分でなかったため、誤解を与える内容となってしまいました。その結果、同社及び同社取締役の方にご迷惑をおかけしました。本誌面においてお詫び申し上げます。」との謝罪広告を上記週刊誌に掲載する旨の裁判上の和解が成立し、FLASH誌上において同旨の謝罪広告がなされたことが認められるが、訴訟の内容等が明らかではないことなどからすれば、上記和解の成立とその和解内容が実施されたことをもって、上記記載が虚偽であると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 カ 別紙虚偽事実一覧表番号32の文章には、Aが愛人と口論となり、その自宅に乗り込んだ結果、強盗傷害、住居侵入で逮捕された話があった旨が記載されているが、かかる記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。 (6) その他に関する文章について 別紙虚偽事実一覧表番号24、48の文章には、パチスロ業界内では控訴人出身で逮捕される者が多いことや控訴人の元従業員がいわゆる裏ロムの販売で逮捕されたことが記載されているが、かかる記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。また、控訴人が基盤の無断交換などを日常的に行っていることも記載されているが、前記(2)ウの事実からすると、上記文章が虚偽であるとまで認めることはできない。 8 被控訴人SNKの損害賠償責任 上記のとおり、本件書籍4中の別紙虚偽事実一覧表番号43の文章には虚偽の事実が含まれていると認められる。同被控訴人は不競法4条の要件を充足する限りにおいて同条に基づき損害賠償義務があるが、被控訴人サミーについては本件書籍4に関する同法1条14号該当行為がないから(前記4(2))、控訴人主張の損害賠償義務はない。そして、前記1の「前提となる前提となる事実経過」の認定事実によれば、被控訴人SNKは別紙虚偽事実一覧表番号43の文章を含む本件書籍4が控訴人の営業上の信用を害するものであることを十分認識しながら、その真偽につき何らの調査や確認をしないままこれを流布したものである。すなわち、本件書籍1の配布段階ですらその記述内容が控訴人の信用を毀損することを期待していたのであるから、その2年後に刊行され配布された本件書籍4についてはその期待は更に高まっていたものと推測される。本件書籍4のプロローグ(4頁以下)には、控訴人とAが「巨悪」だとか、「アルゼが違法行為、不法行為を野放しにしているといっても過言ではない。セタの偽造紙幣事件では既に逮捕者が出ており」との記述があり、本件書籍4の本文をつぶさに熟読しなくとも同書籍中に控訴人の信用を毀損しようとする意図の記述があるとはおよそ理解できるものである。このようなことを踏まえると、被控訴人SNKにおいて会長として支配権を有していたBは、本件書籍の記述中に控訴人ないしAが犯罪行為に荷担したことの記述があることを認識しながらそれが真実か否かの確認をあえてしないままにこれを流布したものというべきである。したがって、被控訴人SNKの本件書籍4配布行為は不競法2条1項14号に該当するものであり、被控訴人SNKには虚偽の事実を流布するにつき故意があったというべきである。 被控訴人SNKは、本件書籍4は鹿砦社の取材結果に基づくものであって真実であると認識していたとか、本件書籍4の具体的内容を細部まで把握することがないまま買取りを決断したなどと主張するが、かかる事情が故意を否定するものではない。 したがって、控訴人SNKは本件書籍4の流布によって控訴人に生じた損害を賠償する義務がある。 9 控訴人が被った損害 (1)ア 控訴人の決算短信(丙1の1〜11)によれば、控訴人のパチスロ機売上台数は以下のとおりである。 平成15年3月期(平成14年4月1日〜平成15年3月31日) 29万6481台 平成16年3月期(平成15年4月1日〜平成16年3月31日) 25万0559台 平成17年3月期(平成16年4月1日〜平成17年3月31日) 約7万8000台 平成18年3月期(平成17年4月1日〜平成18年3月31日) 約6万台 平成19年3月期(平成18年4月1日〜平成19年3月31日) 約6万0700台 イ 控訴人作成の「販売台数及び売上高一覧」(甲65)によれば、控訴人のパチスロ機売上台数は以下のとおりである。 平成11年度 37万8827台 平成12年度 41万1077台 平成13年度 20万8643台 平成14年度 29万6570台 平成15年度 20万3700台 平成16年度 7万8003台 平成17年度 4万0530台 (2) 控訴人のパチスロ機売上台数は、控訴人の決算短信と控訴人作成の「販売台数及び売上高一覧」で異なる部分があるが、平成16年3月期(平成15年度)以降、売上台数が減少していることが認められる。 しかし、証拠(丙1の1〜11)によれば、控訴人の決算短信には、平成16年3月期(平成15年4月1日〜平成16年3月31日)以降のパチスロ事業不振の原因として、平成15年6月から7月にかけて販売した「ゴールドX」にプログラム上の不具合が発覚し、同製品の販売停止や返品処理が行われたこと、「ゴールドX」の不具合を修正した代替製品である「ゴールドXR」は変則押しに対する過度のペナルティー機能が製品本来の特性を発揮することを阻害し、市場の評価を獲得できず、それ以降の控訴人の製品販売に悪影響を与えたこと、平成17年3月期(平成16年4月1日〜平成17年3月31日)においては、開発を進めていた新機種の申請が全て許可されなかったことにより、旧基準機のみの販売となったことから、販売するものが少なく、競争力を発揮することができなかったこと、平成18年度3月期(平成17年7月1日〜平成18年3月31日)は、新基準機による認可取得が9月末までにずれ込んだことが挙げられているが、本件各書籍の出版・頒布がパチスロ機の販売減少やパチスロ事業の不振の原因である旨の記載は見当たらない。 かえって、証拠(丙1の2)によれば、控訴人の平成16年度3月期中間決算短信(平成15年4月1日〜平成15年9月30日)には、「パチスロ・パチンコ事業」として、「当中間期のパチスロ事業は今年6月から7月にかけて販売した『ゴールドX』のデータ上の不具合から、当社は一時『ゴールドX』の機械販売を停止し、対応に追われましたが・・・事態収拾のために約2ヶ月もの期間的な損失があったにもかかわらず、営業本部による精力的な営業活動を行った結果、計画販売台数の17万台を大きく上回る230、105台を販売いたしました。」との記載があり、本件書籍1が出版・頒布された平成15年4月以降の一時期、控訴人がパチスロ機の売上げを伸ばしていたことが認められる。 そうすると、平成16年3月期(平成15年度)以降のパチスロ機の売上台数の減少は本件各書籍の出版・頒布により控訴人の信用が毀損されたことが原因であると認めることはできない。また、パチスロ機市場における控訴人のシェアが低下しているとしても、上記と同様の理由により、その原因を本件各書籍の出版・頒布により控訴人の信用が毀損されたことが原因であると認めることもできない。 なお、Aは、陳述書(甲28、64)及び当審における証人尋問において、控訴人の主張に沿う陳述をし、控訴人従業員の陳述書(甲25〜27)にも同旨の記載があるが、パチスロ事業不振の原因が本件各書籍の出版・頒布にあることを認識しながら投資家向けの資料である決算短信にそれを記載しないとは考えられず、採用することはできない。 以上より、パチスロ機の売上減少ないしシェアの低下を理由とする損害を認めることはできない。 (3) しかしながら、別紙虚偽事実一覧表43の文章の記載内容からして、企業の社会的名声、信用が一定程度毀損されていることを優に認めることができ、控訴人の営業規模、本件書籍4の配布規模、記載内容を総合勘案すると、信用毀損による損害額は200万円と認めるのが相当である。 10 謝罪広告の要否 本件書籍4のうち虚偽の事実が含まれていると認められるのはごく一部分であること、本件書籍4の出版頒布によって控訴人の売上げが減少したとは認められないこと等に照らすと、控訴人の営業上の信用を回復する措置として謝罪広告が必要であるとまでいうことはできない。 第6 結論 以上より、控訴人の本訴請求は、被控訴人SNKが本件書籍4の別紙虚偽事実一覧表番号43の文章を流布したことにより営業上の信用を毀損されたことによる損害200万円及びこれに対する不法行為後である平成17年3月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は被控訴人サミーに対するものも含めて理由がないので棄却すべきものである。そうすると、控訴人の請求を全部棄却した原判決は、被控訴人SNKとの関係では一部不当であるから主文第1項のとおり変更し、被控訴人サミーとの関係では相当であるから本件控訴を棄却し、当審の予備的請求も棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉実 以下別紙省略 |
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