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【事件名】都議選候補の写真無断転用事件
【年月日】平成23年2月9日
 東京地裁 平成21年(ワ)第25767号 損害賠償等請求事件(本訴)、平成21年(ワ)第36771号損害賠償請求事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 平成22年11月17日)

判決
原告・反訴被告(以下「原告」という。) X
同訴訟代理人弁護士 外立憲和
同 若井広光
同 中條秀和
同 甲斐伸明
被告・反訴原告(以下「被告」という。) Y


主 文
1(1) 被告は、別紙被告写真目録1記載の写真を掲載したビラを自己又は第三者をして頒布してはならない。
(2) 被告は、上記ビラを廃棄せよ。
2(1) 被告は、別紙被告写真目録2記載の写真を掲載したビラを自己又は第三者をして頒布してはならない。
(2) 被告は、上記ビラを廃棄せよ。
3(1) 被告は、別紙被告写真目録3記載の写真を掲載したビラを自己又は第三者をして頒布してはならない。
(2) 被告は、上記ビラを廃棄せよ。
4 被告は、別紙被告写真目録4記載の写真をインターネット上のウェブサイトにおいて送信可能化してはならない。
5 被告は、原告に対し、78万5000円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを10分し、その7を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
8 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
(本訴)
1 主文第1項ないし第4項に同じ。
2 被告は、原告に対し、400万円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴)
 原告は、被告に対し、100万円及びこれに対する平成21年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告は、職業写真家であり、別紙原告写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を撮影した者である。被告は、「A調査会」ないし「A1調査会」の名称で政治活動を行っている者である。
 本訴は、原告が、被告に対し、公明党所属のB都議会議員(以下「B議員」という。)のウェブサイト(以下「本件サイト」という。)から本件写真の電子データ(以下「本件画像データ」という。)をダウンロードし、これを利用して別紙被告写真目録1の写真(以下「被告写真1」という。被告写真1は縦横の比率が変更され、かつ、色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲3のビラ(以下「本件ビラ1」という。)に、同目録2の写真(以下「被告写真2」という。)を甲4のビラ(以下「本件ビラ2」という。)に、同目録3の写真(以下「被告写真3」という。被告写真3は色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲5のビラ(以下「本件ビラ3」といい、「本件ビラ1」〜「本件ビラ3」を総称して「本件各ビラ」という。)に掲載して街頭で通行人に頒布し、同目録4の写真(以下「被告写真4」という。)を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして自己のブログ( 以下「本件ブログ」という。)に掲載し、同目録5の写真(以下「被告写真5」といい、「被告写真1」〜「被告写真5」を総称して「被告各写真」という。被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されている。)を街宣車(登録番号「<省略>」。以下「本件街宣車」という。)の車体上部に設置された看板(以下「本件看板」という。)に掲載した被告の行為は、原告の有する本件写真の著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権〔送信可能化権〕)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して、著作権法112条に基づき、@本件写真を掲載したビラの頒布の差止めと廃棄、A被告写真4をインターネット上のウェブサイトで送信可能化することの差止めを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、B損害賠償金400万円(著作権侵害による財産的損害200万円、著作者人格権侵害による精神的損害150万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する平成21年8月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴は、被告が、原告に対し、原告による刑事告訴及び本訴提起が不法行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、刑事告訴による慰謝料100万円及び本訴提起による逸失利益500万円の合計600万円の内金100万円及びこれに対する平成21年10月17日(反訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げたもののほかは、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、昭和63年3月に多摩芸術学園写真学科を卒業し、写真関係の会社に勤務した後、平成6年から職業写真家として活動している。(甲10、原告本人)
イ 被告は、中古自動車の輸出、販売等を業とする株式会社の代表取締役を務める傍ら、「A調査会」ないし「A1調査会」の名称で政治活動を行っており、 自らが管理するインターネット上のウェブサイトにブログを公開している。
(2) 本件写真について
ア 原告は、平成20年6月、リーフレット等のデザイン制作会社を通じて、B議員のイメージ写真の撮影を依頼され、同月24日、東京都渋谷区内のスタジオで、本件写真を撮影した。(甲1、10、原告本人)
イ 本件写真は、B議員の政治活動に伴う広報活動用として、同議員のリーフレットやホームページ等で使用されることを予定して撮影されたものであり、平成21年5月の連休明けに本件サイトに掲載された。(甲2、原告本人、弁論の全趣旨)
(3) 被告各写真について
ア 本件各ビラ、本件看板及び本件ブログ(以下、総称して「本件各ビラ等」という。)に掲載された被告各写真は、いずれも本件画像データをダウンロードして利用し作成された。
イ 被告各写真と本件写真とを対比すると、被告写真1及び同2は、縦横の比率が変更されており(本件写真が約1.5対1であるのに対し、被告写真1及び同2は約1.3対1となっている。)、被告写真1及び同3は、色調がカラーからモノクロに変更されており、被告写真5は、被写体であるB議員の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されている。被告写真4は、縦横の比率及び色調とも本件写真と同一である。(甲1、3〜8、弁論の全趣旨)
(4) 被告の行為
 被告は、平成21年6月頃、同年7月に行われる東京都議会議員選挙(以下「都議選」という。)に立候補していた公明党所属のB議員について、同議員が平成17年7月の都議選の際、公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し、東京都から公費をだまし取っていた事実があると考え、これを有権者に訴えようと協力者らと共に街宣活動等を行った。
 本件各ビラ等は、いずれもこれに関連して作成されたものである。
ア 本件ビラ1(被告写真1)関係
 被告は、平成21年6月17日頃及び同月22日頃、それぞれ被告写真1を掲載した本件ビラ1を作成し、両日、JR中野駅北口ロータリー付近において、協力者らと共にこれを通行人に頒布した。
イ 本件ビラ2(被告写真2)関係
 被告は、平成21年6月17日、西武新宿線野方駅前付近において、協力者らと共に街頭演説等を行った。その際、通行人に被告写真2が掲載された本件ビラ2が頒布された。
ウ 本件ビラ3(被告写真3)関係
 被告は、平成21年6月26日頃、被告写真3を掲載した本件ビラ3を作成し、同日、東京地方裁判所正門前付近において、協力者らと共にこれを通行人に頒布した。
エ 本件ブログ(被告写真4)関係
 被告は、平成21年6月21日頃、インターネット上のウェブサイトに被告写真4をアップロードして、これを本件ブログに掲載した。
オ 本件看板(被告写真5)関係
 被告は、平成21年6月中旬頃、被告写真5を掲載した本件看板を作成し、これを本件街宣車の車体上部に設置して街宣活動を行った。
 被告は、同月末ないし同年7月初め頃、本件看板の写真部分のうち、被写体であるB議員の両目部分に目隠し様の白いテープを貼付した。
(被告本人)
(5) 原告による仮処分の申立てと仮処分決定等
ア 原告は、平成21年6月19日、被告に対し、本件ビラ1の頒布差止め等を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て(当庁平成21年(ヨ)第22039号。以下「本件仮処分事件」という。)、同月29日、同裁判所はこれを差し止める決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。
イ B議員は、同月19日、被告に対し、街宣活動の禁止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て(当庁平成21年(ヨ)第2368号)、同月26日、同裁判所はこれを禁止する決定をした。
(顕著な事実)
(6) 原告による刑事告訴及び本訴提起
ア 原告は、平成21年6月24日、次のとおり、被告を著作権法違反の罪で警視庁に告訴をした(以下「本件告訴」という。)。(甲18、弁論の全趣旨)
(ア) 告訴事実
 「被告訴人(判決注:被告)は、
1 平成21年6月ころ、『公明党・創価学会の犯罪者詐欺師B都議会議員』などと記載した街宣活動用の看板(判決注: 本件看板)を、同人が運転するワンボックスカーの上に設置し、上記看板に、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けていないのに、告訴人が著作権を有する別紙写真目録記載の写真(判決注:本件写真)を掲示して複製し、もって、告訴人の著作権を侵害し
2 同月ころ、『公明党B都議会議員の犯罪=こんな人物がまた、都議会選挙に立候補=』などの大見出しを付したビラ多数枚を作成し、これに、 法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けていないのに、告訴人が著作権を有する別紙写真目録記載の写真(判決注:本件写真)を掲載して複製し、もって、告訴人の著作権を侵害し
3 同月17日午後4時頃から5時頃までの間、東京都中野区中野5丁目63番所在のJR中野駅北口ロータリーにおいて、氏名不詳者複数人と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けていないのに、別紙写真目録記載の写真(判決注:本件写真)を掲載したビラ多数枚を公衆に無差別頒布して譲渡し、もって、告訴人の著作権を侵害したものである。」
(イ) 適用罰条
 著作権法119条1項、21条、26条の2第1項
イ 原告は、同年7月24日、本件訴え(本訴)を提起した。(顕著な事実)
3 争点
(1) 本件写真の著作物性及び著作権の帰属
(2) 著作権侵害の成否
ア 複製権、譲渡権侵害の有無
イ 公衆送信権(送信可能化権)侵害の有無
ウ 著作権法32条1項の「引用」に当たるか
(3) 著作者人格権(同一性保持権)侵害の成否(著作権法20条2項4号所定の除外事由該当性)
(4) 差止め、廃棄の必要性
(5) 損害の発生及びその額
(6) 反訴請求に係る不法行為の成否及び損害額
ア 本訴の提起は違法か
イ 本件告訴は違法か
ウ 損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件写真の著作物性及び著作権の帰属
(原告の主張)
ア 本件写真の著作物性
 原告は、本件写真の撮影に当たり、B議員の精悍さや実直な人柄、都政にかける情熱を表現するために、いろいろな角度からの撮影を心がけ、様々なポーズを要求したり、背広やネクタイの色合いを考えて組合せを変えたりしながら、本件写真を撮影した。ライティングは大型ストロボを8台使用し、ディフューザー(撮影時にフラッシュの光を拡散し被写体の陰影をなくすための器具)を用いて光を柔らかくしながらも、ストロボ光の光量やストロボ光の当たる角度を調整しながら光が柔らかくなりすぎないようにしてキレを出し、柔らかさの中にも爽やかさが醸し出されるように創意工夫を凝らした。本件写真は、こうした創意工夫の下で撮影されたものであり、職業写真家である原告の思想、感情が創作的に表現された著作権法上の著作物であることは明白である。
イ 著作権の帰属
 原告は、本件写真の撮影者であり、かつ、その著作権を他人に譲渡するなどの処分をしたことはない。よって、本件写真の著作権は原告に帰属する。
(被告の主張)
ア 本件写真の著作物性について
 本件写真は、何らの芸術性も伴わないスナップ写真にすぎず、原告の思想、感情が創作的に表現された著作権法上の著作物に該当しない。
イ 著作権の帰属について
 本件写真が誰の著作物であるかは知らない。
 原告が本件写真の著作権者であることは、本件サイトのいかなる部分を見ても明記されていない。よって、何人たりともこれを原告の著作物であると判断することは不可能である。
(2) 著作権侵害の成否
ア 複製権、譲渡権侵害の有無
(原告の主張)
 被告は、本件サイトからダウンロードした本件画像データを利用して、原告の許諾を得ることなく、本件写真を本件各ビラ及び本件街宣車の車体上部に取り付けられた本件看板上にそれぞれ複製したほか、本件各ビラを街頭で多数人に頒布して譲渡した。被告のこれらの行為が複製権侵害及び譲渡権侵害に当たることは明らかである。
 被告は、本件ビラ2の作成、頒布に関与していない旨主張するが、仮に同ビラを印刷した者が被告自身でなかったとしても、同ビラは本件ビラ1と比較すれば明らかなように、印刷がカラーかモノクロかの違いのほかは、文面や写真の掲載位置や大きさなど、内容及び体裁がほぼ同じであり、同一のデータが用いられたことは明白である。つまり、被告による元データの提供なくして本件ビラ2が作成されることはあり得ないのであり、現に被告は本件仮処分事件の審尋期日で本件ビラ2の元データを自ら第三者に提供した旨述べていた。したがって、被告が同ビラの作成、頒布に関与していることは疑いがない。被告も「反訴原告は野方駅前では演説に携わっていたので、ビラ配布は行っていない」と述べるにすぎず、被告の協力者らによる同ビラの頒布自体は認めているのであり、これが被告の意に反していたなどの事情がない限り、協力者らと意を通じて頒布したと評価するに十分であって、被告が責任を免れる理由はない。
(被告の主張)
 本件各ビラの写真(被告写真1〜3)及び本件看板上の写真(被告写真5)がいずれも本件写真の複製物であること、本件ビラ1及び同3を被告が作成、頒布し、本件看板を被告が作成した事実は認めるが、本件ビラ2を被告が作成、頒布した事実は否認する。被告は、本件ビラ2の作成、頒布には関与していない。
 本件写真は、一般に公開されているホームページ(本件サイト)に掲載されたものであり、これを使用しても著作権を侵害するものとはいえない。仮に本件写真の著作権が原告に帰属するとしても、ホームページ上にその旨が明記されていないため、被告としてはこれを知る由もなく、被告に原告の著作権を侵害する意図はなかった。また、本件看板における本件写真の使用については、本件仮処分事件でも問題にされておらず、何ら違法性はない。
イ 公衆送信権(送信可能化権)侵害の有無
(原告の主張)
 被告は、原告の許諾を得ることなく、本件写真の複製物である被告写真4を、自らが管理するインターネット上のウェブページ(本件ブログ)に掲載できるようウェブサーバーにアップロードし、インターネットを通じて不特定多数の者がアクセスして閲覧することが可能な状態にした。
(被告の主張)
 事実関係は認める。しかし、本件ブログに本件写真を転載したことについては、本件仮処分事件でも問題にされておらず、何ら違法性はない。
ウ 著作権法32条1項の「引用」に当たるか
(被告の主張)
 被告は、B議員が平成17年7月の都議選に立候補した際、 公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し、東京都から公費をだまし取っていた事実を公表するため、本件各ビラ等を作成した。その際、被告は、本件各ビラ等においてB議員という人物を特定し、有権者が同議員をイメージする目的で、たまたま同議員が本件サイトに自ら掲載していた本件写真を転載したにすぎない。
 これは、公表された写真を報道、広報目的で引用するものであるから、著作権法32条1項で保護されるべき適法な引用に当たる。
(原告の主張)
 本件各ビラ等は、いずれも本件写真について一切言及しておらず、本件写真によって各記載内容が補足される等の関係性や関連性は全くない。また、本件各ビラ等が、いずれもB議員の実名や公明党都議会議員との肩書きまで記載して対象人物を特定していることからすれば、本件写真を引用しなくても各記載内容は読み手に十分伝えられるのであって、本件写真を用いる必要性ないし必然性も全くない。
 また、本件写真は、本件各ビラ等において、いずれも冒頭その他の主要な目立つ部分に、相当程度のスペースを占める大きさで用いられている。しかも、各記載内容はいずれも本件写真に言及しておらず、本件写真は単に人目を引くためだけに用いられているのであって、主従関係を認め得ない。
 以上のとおり、被告による本件写真の転載は、「公正な慣行に合致」するものでも、「引用の目的上正当な範囲内」のものでもないから、著作権法32条1項による適法な引用とは認められない。
(3) 著作者人格権(同一性保持権)侵害の成否(著作権法20条2項4号所定の除外事由該当性)
(原告の主張)
ア 被告は、本件ビラ1及び同3を作成する際、本件写真をモノクロにする改変をした。
イ 被告は、本件ビラ1を作成する際、本件写真の縦横の比率を変え、本件写真が横伸びしたような状態にした。
ウ 被告は、本件看板上に掲載した写真の被写体であるB議員の両目部分に目隠し様の白いテープを貼り付け、本件写真を改変した。
(被告の主張)
ア 本件ビラ1及び同3につき、本件写真をモノクロにしてビラを作成したのは、費用を抑えることが目的である。
イ 本件ビラ1につき、本件写真の縦横の比率が原画と異なり、横に広がったことは、被告がパソコンの操作に不慣れなことが原因であり、故意に太った印象を与えること(イメージダウン)が目的ではない。
ウ 本件看板上の写真については、仮処分の対象になっておらず、被告は何ら使用を制約される立場になかったが、自発的に気を遣って当該写真そのものを衆人の目にさらすことを控え、原告の主張する著作権に配慮した結果、目線を入れたにすぎない。
(4) 差止め、廃棄の必要性
(原告の主張)
 本件各ビラについては、既に多数枚が頒布されており、今後も頒布され続ける蓋然性が高い。したがって、その頒布を差し止め、差止請求に付帯して既に作成されたビラを廃棄させる必要がある。
 また、被告が今後も政治活動を続ける際に、インターネット上のウェブサイトを利用し、そこに本件写真の複製物を用いる蓋然性は高い(現に、被告は、平成22年2月4日にも、自己の管理するブログにおいて本件訴訟についての記事を書き、 本件写真を原告に無断で利用している。)。したがって、その送信可能化を差し止める必要性がある。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。
 仮処分命令が申し立てられた平成21年6月19日以降、被告は、本件ビラ1及び同3を頒布しておらず、いずれのビラも既に被告の手元には存在しない。
 本件ビラ2については、被告が作成したものではなく、被告は作成にも頒布にも関与していない。また、被告の支配下に存在しないことから頒布も廃棄も不可能である。
(5) 損害の発生及びその額
(原告の主張)
ア 著作権侵害による損害(200万円)
 著作権法114条3項の「使用料相当額」として、次のとおり、495万円のうち200万円を請求する(一部請求)。原告の職業写真家としての実績、本件写真が原告の制作意図に反して使用されたこと、無断使用の場合には許諾がある場合の10倍ないしそれ以上の使用料が定められているケースが多いことを考慮すれば、被告が支払うべき使用料相当額は許諾を得て使用する場合よりも相当高額であってしかるべきである。
(ア) 本件各ビラの作成、頒布による損害額(120万円)
a 作成、頒布枚数
 被告が作成、頒布し、又は作成、頒布させた本件各ビラの合計枚数は少なくとも1万枚を下らない。
b 損害額の算定
 写真貸出業者であるNature Productionの写真国内使用標準料金表(甲12の1、2。以下「甲12の料金表」という。)では、チラシやDMハガキに半面以下の大きさで貸出写真を掲載する場合には4万円と定められており、同じく写真貸出業者である宝泉堂の料金表(甲13。以下「甲13 の料金表」という。)でも、カタログ、ちらし、 パンフレット等について同様に4万円と定められている。これに上記の諸事情を考慮すると、本件各ビラについては、それぞれ上記各料金表が定める利用料金の10倍を下ることはなく、本件各ビラの使用料相当損害金は120万円(4万円×10倍×3枚)となる。
(イ) 本件ブログに被告写真4を掲載したことによる損害(175万円)
a 掲載期間
 被告は、本件口頭弁論終結時まで約1年半にわたり、本件ブログに本件写真を掲載し続けている。
b 損害額の算定
 甲12の料金表によれば、インターネットへの写真掲載は、トップページ(1年以内)で10万円、中ページで7万円と定められており、甲13の料金表でも、1年以内で7万円と定められている。したがって、本件ブログへの掲載についての使用料は少なくとも17万5000円となるところ、175万円が損害として認められるべきである。
(ウ) 本件看板(街宣車)に掲載したことによる損害(200万円)
a 本件看板への掲載期間等
 被告は、遅くとも平成21年6月17日には本件看板を設置した本件街宣車を使用して街宣活動を開始しており、その後本件看板は廃棄した旨供述するものの、その時期を明らかにしていない。都議選の告示日(同年7月3日)から投票日(同月12日)までの間はともかく、B議員を執拗に誹謗中傷する街宣活動を行っていた被告が、同選挙後は本件看板を使用する街宣活動を一切行っていないとは考えられず、被告は、上記投票日後も本件看板を使用している可能性は高い。仮にそうでないとしても、被告は、上記告示日までの半月余りの間、駅前等における街宣活動のほかに、本件看板を設置した本件街宣車を運転し、スピーカーで街宣テープを流しながら、中野区内を連日のように走行していたのであり、その間、本件看板は多くの中野区民の目にさらされていたのであるから、本件写真の複製物が本件看板に掲載されたことによる原告の損害は、掲載期間に比較して甚大である。
b 損害額の算定
 甲12の料金表によれば、B3版以上の大きさのポスターは、駅、街頭用のもので25万円、店頭、車内吊り、車額用で20万円である。また、甲13の料金表では、B3版1枚もので15万円、それを超える大きさになると22万5000円ないしそれ以上と定められている。
 しかるところ、前述した諸事情に鑑みると、本件写真を本件看板に掲載したことによる使用料相当額の損害は、 上記各料金表が定める各利用料金の約10倍である20 0万円を下ることはない。
(エ) まとめ
 以上を合算すると、損害額は495万円(120万円+175万円+200万円=495万円)を下らないことになる。原告は、このうち200万円を著作権法114条3項に基づく使用料相当額の損害として請求する。
イ 著作者人格権侵害による損害(150万円)
 加害行為の態様及び被告の主観的事情が悪質であることに加え、侵害行為後の態度も不誠実であることを考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料として150万円が認められるべきである。
ウ 弁護士費用(50万円)
 原告が、本訴を提起することによって生じた弁護士費用は、少なくとも50万円の範囲で被告の不法行為と相当因果関係のある損害として評価すべきである。
エ 合計(400万円)
 アないしウの損害額を合計すると400万円(200万円+150万円+50万円=400万円)になる。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。
 財産的損害は根拠がなく、精神的損害はそもそも発生していない。
 被告が頒布したビラの枚数はせいぜい500枚くらいである。
(6) 反訴請求に係る不法行為の成否及び損害額
ア 本訴の提起は違法か
(被告の主張)
 原告は、本訴において、本件写真の著作権が侵害されたことを理由に損害賠償等を請求しているが、これは単なる名目であり、実体は創価学会、公明党の意向に沿って被告の言論活動を弾圧することを目的とした威圧行為で違法であり、本訴の提起は不法行為を構成する。
(原告の主張)
 争う。本訴の提起は、事実及び法律に照らし正当な根拠がある。
イ 本件告訴は違法か
(被告の主張)
 原告は、被告が報道、広報のために行った写真転用が犯罪行為には該当しないと分かっていながら、被告の広報宣伝活動を封殺、妨害する目的で、被告を犯罪者として本件告訴を行ったもので違法であり、本件告訴は不法行為を構成する。
(原告の主張)
 争う。本件告訴は、事実及び法律に照らし正当な根拠がある。
 すなわち、告訴人が、社会通念上相当な理由に基づいて被告訴人を犯人であると信じて告訴に及んだのであれば、当該告訴につき不法行為が成立することはない。しかるに、本件告訴の対象となった本件看板は、被告の運転する本件街宣車の車体上部に設置され、現に街宣活動に利用されていた。また、本件ビラ1の末尾には、発行者の住所として被告の連絡先住所が記載されている。さらに、同ビラの無差別頒布は、被告がJR中野駅北口ロータリーで行った街宣活動中に現に行われていた。
 したがって、被告を被告訴人としたのは、客観的事実に基づくものであり、理由がある。
 そして、本件看板及び本件ビラ1に本件写真を使用することや、同ビラを無差別頒布することについて、原告が被告に許諾を与えた事実はない。また、被告には、本件看板及び本件ビラ1による著作権侵害について、引用その他著作権の保護を制限すべき正当な理由が存在しない。さらに、被告は、本件写真に依拠したことを認めているほか、本件写真が他人の撮影した写真であることや、当該撮影者から本件写真の使用について許諾を得ていないことについても当然認識しているほか、犯罪構成要件を充足する事実の認識に欠けるところがない。著作権の侵害に当たり、当該著作物の著作権者は具体的に誰かとの認識までは必要ない。
 これらの事情を踏まえ、原告は、被告に著作権侵害の罪が成立すると判断し、被告を被告訴人として告訴に及んだものである。
 よって、本件告訴には合理的根拠があり、被告を犯人として処罰を求めることについて社会通念に照らし相当な理由があることは明らかであるから、原告に不法行為が成立する余地はない。
ウ 損害額
(被告の主張)
(ア) 原告の違法な本件告訴により、被告は精神的な苦痛を受け、その慰謝料は100万円を下らない。
(イ) 原告の違法な本訴提起により、被告はその対応のため本来の業務を行うことができず、その逸失利益は500万円を下らない。
(原告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件写真の著作物性及び著作権の帰属)について
(1) 前記前提事実(第2の2)並びに証拠(甲1、2、10、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真の制作等に関する事実は、次のとおりであると認められる。
ア 本件写真は、縦長のカラー写真であり、白色ないしこれに近い淡色の無地を背景に、ネクタイ及びスーツを着用し、ほぼ中央に身体を左斜め前に向け、語りかけるような表情で右手を挙げたポーズのB議員の胸より上の部分を、ほぼ正面から撮影した肖像写真である。(甲1)
イ 原告は、昭和63年3月に多摩芸術学園写真学科を卒業し、写真関係の会社に勤務した後、平成6年から職業写真家として活動しており、主にグラビア(人物)や書籍、CDジャケットの撮影を手がけるほか、政治家の撮影もこれまで20件ほど依頼を受けた経験を有している。(甲10、原告本人)
ウ 原告は、平成20年6月、リーフレット等のデザイン制作会社を通じて、B議員のイメージ写真の撮影を依頼され、同月24日、東京都渋谷区内のスタジオで、本件写真を撮影した。(甲1、10、原告本人)
エ 原告は、本件写真の撮影に当たり、B議員の精悍さや実直な人柄、都政にかける情熱を表現するために、いろいろな角度から撮影し、様々なポーズを要求したり、スーツやネクタイの色合いを考えて組合せを替えたりした。特に、ポスターや写真を見たときに見下ろしているようなイメージを持たれないよう、カメラの位置を変えたり、語りかけるようなイメージを想定したりしながら本件写真を撮影した。その際、ライティングは大型ストロボを8台使用し、ディフューザーを用いて光を柔らかくしながら、ストロボ光の光量や当たる角度を調整し、光が柔らかくなりすぎないようにしてキレを出し、柔らかさの中にも爽やかさが醸し出されるようにした。(甲10、原告本人)
オ 本件写真は、B議員の政治活動に伴う広報活動用として、同議員のリーフレットやホームページ等で使用されることを予定して撮影されたものであり、平成21年5月の連休明けに本件サイトに掲載された。(甲2、原告本人、弁論の全趣旨)
(2) 以上によれば、原告は、本件写真の撮影に当たり、撮影の趣旨、目的を踏まえて、照明、撮影の角度、ポーズ、服装等に創意工夫を凝らして撮影したことが認められ、本件写真には、原告の思想、感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって、本件写真について、著作物性を肯定することができる。
(3) これに対し、被告は、本件写真は何らの芸術性も伴わないスナップ写真にすぎず著作物に該当しないと主張するが、本件写真には原告の思想、感情が創作的に表現されており、その著作物性を肯定できることは上記(2)のとおりであり、採用することができない。また、被告は、本件サイト上に原告が著作権者であると表示されておらず、何人もこれを原告の著作物であると判断することはできないなどと主張するが、著作権が成立するためには、いかなる方式の履行も必要ではなく(著作権法17条2項)、著作権者であることを表示する必要はないから、原告の主張は失当である。なお、本件サイト上には原告が著作権者である旨の表示はないが、被告に本件写真の著作権侵害につき少なくとも過失を認め得ることは、後記2のとおりである。
 よって、被告の上記主張は、いずれも採用できない。
(4) そして、本件写真は、原告が被写体のポーズ、カメラのアングル、ライティング、構図等を選択し、創意工夫を凝らして撮影し、原告の思想、感情が創作的に表現されたものであることは、上記(1)、(2)のとおりであり、原告が、本件写真を創作したもので、その著作者であると認められる。
 したがって、本件写真の著作権は原告に帰属する。
2 争点(2)(著作権侵害の成否)について
(1) 複製権、譲渡権侵害の有無
ア 本件ビラ1、同3及び本件看板について
(ア) 被告が、本件ビラ1及び同3を作成、頒布した事実並びに本件看板を作成した事実は、いずれも当事者間に争いがない。
 上記各ビラ及び看板に掲載された被告写真1、同3及び同5は、いずれも本件画像データをダウンロードして利用し作成されたものであるから、本件写真に依拠したものである。また、本件写真と上記各被告写真とを対比すると、被告写真1は縦横の比率が若干横伸びしたように変更されており、被告写真1及び同3は色調がカラーからモノクロに変更されており、被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されているが、いずれも本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており、その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ、状態で、ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ、他方、被告による上記変更には、創作性があるとは認められない。したがって、被告写真1、同3及び同5は、いずれも本件写真の複製物である。
 そして、被告は、本件サイト上から本件写真の画像データをダウンロードし、これを上記各ビラ及び看板に掲載した上、同ビラを頒布したのであるから、被告による上記各掲載は、本件写真の複製権を、被告による上記各頒布は、本件写真の譲渡権を、それぞれ侵害するものと認められる。
(イ) これに対し、被告は、@本件写真は、一般に公開されているホームページ(本件サイト)に掲載されたものであり、これを使用しても著作権を侵害することはない、A仮に本件写真の著作権が原告に帰属するとしても、ホームページ上その旨が明記されていないため、被告としてはこれを知る由もなく、原告の著作権を侵害する意図はなかった、B本件看板における本件写真の使用については、 本件仮処分事件でも問題にされておらず、何ら違法性はないと主張する。
 しかし、@本件写真が一般に公開されているホームページ上に掲載されたからといって、これを著作権者に無断で使用できることになるわけではない。Aまた、本件サイト上には原告が著作権者である旨の表示はないが、被告は、本件写真が自分以外の者によって撮影されたものであることを認識しながら、その著作権の帰属について何ら調査することなく、無断でその画像データをダウンロードし、これを上記各ビラ及び看板に掲載したのであるから、上記(ア)の著作権(複製権、譲渡権)侵害について、少なくとも過失を認めることができる。さらに、B本件仮処分事件において、本件看板上に本件写真の複製物を掲載することが差止めの対象になっていなかったからといって、本件看板上に本件写真の複製物を掲載することが適法になるわけではなく、また、同事件において原告が被告に対し本件看板における本件写真の使用を許諾した事実も認められない。
 よって、被告の上記@〜Bの主張はいずれも失当であり、採用することができない。
イ 本件ビラ2について
(ア) 本件ビラ2に掲載されている被告写真2は、本件画像データを利用して作成されたものであり、かつ、これと本件写真とを対比すると、縦横の比率が若干横伸びしたように変更されているが、本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており、その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ、状態で、ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ、他方、上記変更には、創作性があるとは認められない。したがって、被告写真2は、本件写真の複製物である。
(イ) 被告は、自身が本件ビラ2の作成、頒布に関与した事実を否認するので、この点について検討する。
 前記前提事実(第2の2)並びに証拠(甲3、4、14、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、@本件ビラ2は、被告が代表を務める政治団体が平成21年6月17日に西武新宿線野方駅前付近等で街宣活動を行った際に、被告の協力者らによって通行人に頒布されたものであること、A被告は、当該街宣活動の前日、自ら本件ビラ2の元となる電子データを作成し、そのコピーをメールに添付して複数の協力者に対し送信したこと、B被告は、前記街宣活動の当日、自ら現場に赴いて街宣活動に参加し、その際、協力者らによって本件ビラ2が通行人に頒布されているのを認識していたが、これを容認していたこと(被告は、本人尋問の際、本件ビラ2について、「こういうものを作ろうと思うんだけどということで、賛同者の何人かにパソコンの添付ファイルでお送りしたもんで、それを受け取った人が、気をきかせて(中略)作ってきてくださった」、「街頭演説をやってる最中に、同じ、カラーのビラが私の車の中に入っていたんで、だれか、それをプリントして持ってきてくれた人がいたんだなというふうに感じた」などと、本件ビラ2の頒布について、一貫してこれを肯定的に認識していた旨を供述し、協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡はない。これらの事情からすれば、被告が本件ビラ2の作成、頒布を認識し、これを容認していたことは明らかである。)が認められる。
 これらの事実を総合すれば、本件ビラ2を印刷し、これを通行人に頒布したのが、被告ではなくその協力者らであったとしても、被告は、当該協力者らの行為を自らの行為として利用することにより、本件ビラ2を作成、頒布したものと評価するのが相当である。
 したがって、被告は、本件ビラ2についても、本件写真の複製権及び譲渡権を侵害したものと認められる。
(ウ) なお、その余の被告の主張が採用できないことは、上記アで説示したとおりである。
(2) 公衆送信権(送信可能化権)侵害の有無
ア 被告は、平成21年6月21日頃、本件サイトから本件画像データをダウンロードして利用し、本件写真と同一であると認められる被告写真4を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして本件ブログに掲載した。(被告本人)
イ 以上によれば、被告は、本件写真の複製物である被告写真4を本件ブログのウェブサーバーにアップロードして送信可能化し、自動公衆送信を行ったものと認められる。
 したがって、被告は、上記アの行為により、本件写真の公衆送信権及び送信可能化権を侵害したものと認められる。
ウ 被告は、本件写真を本件ブログに掲載したことについて、本件仮処分事件でも問題にされておらず、何ら違法性はないと主張する。
 しかし、本件仮処分事件において問題とされなかったからといって、被告の上記行為が適法になるわけではなく、また、同事件において原告が被告に対し本件ブログにおける本件写真の使用を許諾した事実も認められないから、被告の上記主張は失当であり、採用することができない。
(3) 著作権法32条1項の「引用」に当たるか
ア 被告は、本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことにつき、公表された写真を報道、広報目的で引用するものであるから、著作権法32条1項で保護されるべき適法な引用に当たると主張する。
イ 前記前提事実(第2の2)並びに証拠(甲3〜8、14〜16、24、25、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、「A調査会」ないし「A1調査会」という名称で創価学会や公明党を批判する活動を行っていた。
 被告は、平成21年6月頃、同年7月に行われる都議選に立候補していた公明党所属のB議員について、同議員が平成17年7月の都議選の際、公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し、東京都から公費をだまし取っていた事実があると考え、これを有権者に訴えようと協力者らと共に街宣活動等を行った。
(イ) 本件各ビラ及び本件看板は、いずれもB議員に上記不正があったとの主張及び同議員が都議会議員としての適格を欠くとの主張を宣伝広報する目的で作成されたものであり、上記不正があった旨及びB議員が公明党、創価学会の犯罪者である旨が記載されている。また、本件ビラ3には、上記各主張と併せて、B議員が被告を名誉毀損で告訴したこと及び被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことに対する批判が記載されている。
 本件ブログは、B議員が同仮処分を申し立てたことを批判するために作成されたものであり、仮処分申立書に記載されたB議員側の主張に対する批判が記載されている。
 被告は、B議員を特定し、本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で、たまたま本件サイトで見付けた本件写真の本件画像データをダウンロードして本件各ビラ等に転載したものであるが、被告自身、本人尋問において、本件各ビラ等に掲載するB議員の写真は、特に本件写真でなければならない理由はなく、本件仮処分決定がされた後は、本件写真とは別の写真を掲載したビラを作成した旨を供述している。また、本件各ビラ等には、本件写真そのものについての言及はない。
(ウ) 本件各ビラ等には、本件写真の出所や権利者について一切表示されていない。
ウ 公表された著作物は、引用して利用することができるが、その引用は、「公正な慣行」に合致するものでなければならず、また、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
 これを本件についてみるに、本件各ビラ等は、要するに、都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し、あるいはB議員が被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことを批判するためのものであって、本件写真それ自体や、本件写真に写った被写体の姿態、行動を報道したり批評したりするものではない。被告は、B議員を特定し、本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが、特定のためであれば、同議員の所属、氏名を明示すれば足りることであるし、イメージのためであれば、B議員の他の写真によって代替することも可能であり、本件写真でなければならない理由はない。また、本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが、身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。さらに、著作物の引用に当たっては、その出所を、その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならないが(著作権法48条1項1号)、本件各ビラ等においては、本件写真の出所が一切明示されておらず、これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない。
 このように、そもそも、本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと、本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと、本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば、本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても、これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが、「公正な慣行」に合致するものということはできず、また、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
 したがって、本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法32条1項の「引用」に当たるということはできない。
 よって、被告の主張は採用できない。
(4) 以上によれば、@本件各ビラ及び本件看板上に被告写真1〜3及び同5を掲載した被告の行為は、原告の有する本件写真の複製権を侵害するものであり、A本件各ビラを通行人に頒布した被告の行為は、原告の有する本件写真の譲渡権を侵害するものであり、B本件ブログに被告写真4をアップロードして掲載した被告の行為は、原告の有する本件写真の公衆送信権及び送信可能化権を侵害するものである。
3 争点(3)(著作者人格権侵害の成否)について
(1) 同一性保持権侵害の成否
 被告は、本件写真から被告各写真を作成するに際し、@被告写真1及び同3については、色調をカラーからモノクロに変更したこと、A被告写真1については、更に縦横の比率も変更されていること、B被告写真5については、後に被写体であるB議員の両目部分に目隠し様の白いテープを貼り付けたことをいずれも認めており、これらは著作者である原告の意に反する改変であると認められる。
(2) 著作権法20条2項4号所定の除外事由該当性
 被告は、上記(1)@については、費用を抑えることが目的である、Aについては、被告がパソコンの操作に不慣れなことが原因であり、故意に太った印象を与えること(イメージダウン)が目的ではない、Bについては、仮処分の対象になっておらず、被告は何ら使用を制約される立場になかったが、当該写真そのものを衆人の目にさらすことを控え、原告の主張する著作権に配慮した結果、目線を入れたにすぎないとして、これらが著作権法20条2項4号所定の除外事由に該当すると主張する。
 しかし、同号は、たとえ著作者の意に反する改変であったとしても、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変は例外的に同一性保持権侵害に当たらない旨を規定したものと解されるところ、上記(1)@〜Bの改変は、いずれも著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変であるとは認められない。
(3) よって、上記(1)@〜Bの改変は、いずれも原告が有する本件写真の同一性保持権を侵害するものと認められる。
4 争点(4)(差止め、廃棄の必要性)について
(1) 差止め請求について
 本件においては、原告が主張する被告の侵害行為自体が認められることに加え、被告が現在もなお被告写真1〜4の画像データを有している可能性を否定できず、現に、本件訴訟係属後の平成22年2月4日には、インターネット上の被告のウェブサイト(ブログ)に本件写真の複製物と認められる写真が掲載されていること(甲19)等の事情を考慮すれば、被告が今後も被告写真1〜3を掲載したビラを作成して頒布し、被告写真4をインターネット上の自己のウェブサイトにアップロードするおそれがあると認められる。
 よって、原告の著作権法112条1項に基づく@本件写真を掲載したビラの頒布差止請求及びA被告写真4をインターネット上のウェブサイトで送信可能化することの差止請求は、いずれも理由がある。
(2) 廃棄請求について
 被告は、本件各ビラは既に残存していないと供述するが、本件各ビラには本件写真の複製物が掲載されており、かつ、被告が本件各ビラを全部廃棄したと認めるに足りる証拠はないから、被告に対し、本件各ビラの廃棄を命じる必要が認められる。
 よって、原告の著作権法112条2項に基づく本件写真を掲載したビラの廃棄請求は、理由がある。
5 争点(5)(損害の発生及びその額)について
(1) 著作権侵害による損害額
ア 本件各ビラによる損害(18万円)
 原告は、約15年の経験を有する職業写真家であるが、原告が撮影した写真の使用料については、特に基準は設けておらず、その都度、交渉によって決定している。(原告本人)
 そこで、本件各ビラの使用料相当額を認定するに当たっては、他の写真貸出業者の基準を参照することとする。甲12の料金表によれば、チラシ半面(1年間)の使用料は4万円であるから、本件各ビラの使用料相当額は各4万円、合計12万円となる。そして、本件各ビラにおける本件写真の使用態様が原告の意に反することが明らかであること等、本件において認められる諸般の事情を考慮すれば、本件各ビラにおける本件写真の使用料相当額は、上記12万円の1.5倍である18万円と認めるのが相当である。
 原告は、@写真の無断使用については許諾がある場合の10倍ないしそれ以上の使用料が定められていることが多いこと、A被告が作成、頒布し、又は作成、頒布させた本件各ビラの合計枚数は少なくとも1万枚を下らないこと等を指摘して、本件各ビラの使用料相当額は写真貸出業者が定める通常の使用料の10倍を下らないと主張する。しかし、@については、仮にそのような使用料を定める例が存在したとしても、本件においてはそのような合意が存在しない以上、これを使用料相当額の基準とすることは相当でない。また、Aについては、そもそもこれを認めるに足りる証拠がない(被告の供述によっても、本件ビラ1の作成枚数は500枚程度、本件ビラ3の作成枚数は400枚程度であり、本件ビラ2の作成枚数は不明であるが、仮に本件ビラ1又は同3と同程度作成されたものとしても、本件各ビラの作成枚数はせいぜい1300〜1400枚程度にしかならない。そして、これを上回る枚数のビラが作成された事実を認めるに足りる証拠はない。)。
 よって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
イ 本件ブログによる損害(10万5000円)
 甲12の料金表によれば、インターネットにおける使用料(1年間)は、トップページで10万円、中ページで7万円であり、本件ブログが1年間以上インターネット上で公開された事実及び本件ブログがトップページである事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、本件ブログにおける本件写真の使用料相当額は、上記7万円の1.5倍である10万5000円と認めるのが相当である。
ウ 本件看板による損害(30万円)
 甲12の料金表によれば、「駅・街頭(1年間)」における使用料(B3)は25万円、「店頭・車内吊り・車額」における使用料(B3)は20万円であり、これによれば、本件看板における本件写真の使用料相当額は、20万円の1.5倍である30万円と認めるのが相当である。
エ したがって、著作権侵害による損害額は、上記ア〜ウの合計58万5000円となる。
(2) 著作者人格権侵害による損害額
 前記3(1)の改変の態様は、それぞれ、@色調をカラーからモノクロに変更(被告写真1及び同3)、A縦横の比率を変更(被告写真1)、B被写体(人物)の両目部分に目隠し様の白いテープを貼付(被告写真5)というものであるが、いずれも悪質性が特に顕著であるとまではいえず、これに、本件写真が商業用に撮影されたものではなく、被告もこれを商業的に利用したわけではないこと、その他諸般の事情を考慮すれば、同一性保持権侵害による慰謝料は10万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
 本件訴訟の難易、請求の内容及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告の上記著作権侵害及び著作者人格権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は、10万円と認めるのが相当である。
(4) 以上によれば、原告の損害額は合計78万5000円となる。
6 争点(6)(反訴請求に係る不法行為の成否)について
(1) 本訴の提起は違法か
 訴えの提起が相手方に対する違法な行為(いわゆる不当提訴)となるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるというべきである(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
 これを本件についてみるに、本訴において原告の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものでないことは、前記1〜5において検討したとおりである。他方、本訴の提起が被告の言論活動を弾圧することを目的とした威圧行為であると認めるべき的確な証拠は存在しない。
 よって、本訴の提起が違法であるとする被告の主張は理由がない。
(2) 本件告訴は違法か
 一般に、告訴、告発をする者は、犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認すべき注意義務を負っており、かかる注意を怠って告訴、告発を行えば不法行為になるというべきである。
 これを本件についてみるに、そもそも、本件告訴に係る告訴事実が認められることは、前記1〜5において検討したとおりであるから、原告が上記注意義務に違反して本件告訴を行ったと認めることはできない。
 よって、本件告訴が違法であるとする被告の主張は理由がない。
(3) 以上によれば、被告の反訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がない。
7 結論
 以上の次第であるから、本訴請求は主文掲記の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、反訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 鈴木和典
 裁判官 寺田利彦
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