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【事件名】相場チャート「NEW増田足」の著作権侵害事件 【年月日】平成23年1月28日 東京地裁 平成20年(ワ)第11762号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成22年10月18日) 判決 原告 有限会社増田経済研究所 訴訟代理人弁護士 近藤剛史 同 吉田昌史 訴訟復代理人弁護士 武田大輔 被告 有限会社アルス・ノーヴァ 被告 A1 被告ら訴訟代理人弁護士 伊東大祐 主文 1 被告らは、別紙ソフト目録記載のソフトウェアのプログラムを複製(同プログラムをフロッピーディスク、CD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体に収納することを含む。)してはならない。 2 被告らは、別紙ソフト目録記載のソフトウェアのプログラムの複製物を譲渡してはならない。 3 被告らは、別紙ホームページ目録記載のホームページ上において、別紙ソフト目録記載のソフトウェアのプログラムを公衆送信してはならない。 4 被告らは、別紙ソフト目録記載のソフトウェアのプログラムを収納したフロッピーディスク、CD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。 5 被告らは、原告に対し、連帯して220万円及びこれに対する平成20年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は、これを10分し、その7を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。 8 この判決の第1項ないし第5項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項ないし第4項と同旨 2 被告らは、別紙ソフト目録記載のソフトウェアのプログラムを翻案してはならない。 3 被告らは、原告に対し、連帯して530万円及びこれに対する平成20年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告らは、原告に対し、別紙ホームページ目録記載のホームページ上に、別紙謝罪広告目録記載の体裁及び内容の謝罪広告を1回掲載せよ。 第2 事案の概要 本件は、「NEW増田足」という名称の株価チャートを作成、分析するためのソフトウェア(以下「原告ソフト」という。)を顧客に提供する事業を行っている原告が、別紙ソフト目録記載のソフトウェア(以下「被告ソフト」という。)を制作し、これを複製した上で、自己のホームページ上において顧客への公衆送信を行っている被告有限会社アルス・ノーヴァ(以下「被告会社」という。)及びその唯一の取締役である被告A1(以下「被告A1」という。)に対し、被告ソフトに係るプログラム(以下「被告プログラム」という。)及びこれにより表示される画面(以下「被告ソフト表示画面」という。)は、それぞれ原告ソフトに係るプログラム(以下「原告プログラム」という。)及びこれにより表示される画面(以下「原告ソフト表示画面」という。)の著作物を複製又は翻案したものであるから、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の原告プログラム及び原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害する旨主張し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの複製、翻案、公衆送信、その複製物の譲渡の各差止めを、同条2項に基づき、被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき、著作権侵害の不法行為による損害賠償として530万円及び遅延損害金の支払を、著作権法115条又は民法723条に基づき、原告の名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は、投資顧問業、コンピュータソフトウェアの開発及び販売、株式投資のコンサルタント等を目的とする特例有限会社である。 イ(ア) 被告会社は、情報処理に関するソフトウェア及びハードウェアの開発・研究並びに販売等を目的とする特例有限会社である。 (イ) 被告A1は、被告会社の唯一の株主であるとともに、唯一の取締役であり、同社の業務は専ら同人が単独で行っている。 また、被告A1は、平成14年10月5日、原告に、広告物やホームページなどの制作を行う技術者として雇用され、広告、営業、ソフトウェアの開発等の業務に従事したが、平成18年9月30日ころ、原告を退社した。 (2) 株価チャート「増田足」 原告の取締役であり、かつ、原告の業務全般を掌理する者であるA2(以下「A2」という。)は、「増田足」と呼ばれる株価チャートを考案した(甲1、12、15ないし19、証人A3、証人A2)。 一般的に知られた「ローソク足」と呼ばれる株価チャートでは、一定期間(日足であれば1日間、週足であれば1週間、月足であれば1か月間)の値動き(始値、終値、高値、安値)が1本の足(棒状の図形)で描かれるのに対し、増田足では、例えば日足であれば、当日を含めた一定期間の終値の平均値と前日までの同一期間の終値の平均値を用いて1本の足が描かれる。一定期間の終値の平均値をグラフ化したものとしては、いわゆる「グランヒルの移動平均線」が一般的に知られているが、増田足は、これに色と足をつけた点に特徴がある。すなわち、増田足においては、前日までの終値の平均値に比べて、当日までの終値の平均値が高ければピンク、低ければブルーの足が描かれることとなり、その結果、全体のチャートが簡潔で、株価のトレンドをより簡易に把握し得るという特徴を有するものといえる(甲12)。 (3) 原告による原告ソフトの顧客への提供等 ア 原告は、A2の考案に係る増田足による株価チャートを作成、表示し、これを分析することなどを行う「増田足」という名称のソフトウェア(以下「原告旧ソフト」という。)を開発し、平成13年から、これを顧客に提供して使用させ、一定の使用料を徴収する事業を行うようになった(甲6、7、15ないし19、21、証人A3、証人A2)。 イ その後、原告は、平成16年11月ころから、原告旧ソフトに替わり、増田足による株価チャートを作成、表示し、これを分析することなどを行う「NEW増田足」という名称のソフトウェア(原告ソフト)を顧客に提供して使用させるようになった。 ウ 原告ソフトは、下記の各ファイルに格納された実行プログラム等から構成されている(甲4・7頁)。 記
また、原告プログラムのソースコードは、Microsoft社の「Visual Studio.net」という開発ツールを使用し、「C#」というプログラミング言語で作成されたものである。 オ 原告ソフトは、その時々の株価データ等に基づいて、前記(2)のような増田足による株価チャートを作成、表示することのほか、例えば、次のような特徴的な機能を有している(甲12、検甲1)。 (ア) 増田影足 原告ソフトには、増田足の上下に、「増田影足」と呼ばれる矢印を描く機能がある。 増田影足とは、増田足の当日の値(当日を含めた一定期間の終値の平均値)と当日の終値とを矢印で結び、その矢印が上向きならピンク、下向きならブルーで表示するものである。 増田影足は、その長さ、向き、過去の増田影足との組合せによって、株価のトレンドを分かりやすく表現するものである。 (イ) 6色パターン分類 原告ソフトには、株価のトレンドを6色の変化で表す「6色パターン分類」の機能がある。 増田足の株価チャートは、日足、週足、月足の3種から構成され、それぞれについて短期足、中期足、長期足(日足でいえば、終値の平均値をとる期間を、それぞれ3日間、25日間、75日間としたもの)の3本のチャートから成り立っているが、6色パターン分類とは、短期足、中期足、長期足の位置関係やチャートの波形の型によって、株価のトレンドをAないしFの六つのパターンに分類し、それぞれに特定の色を付けて、株価チャート上に「6色帯」と呼ばれる色の変化の帯を表示するものである。 6色パターン分類は、6色の色分けによって、個別株の株価チャートの波動のトレンドを分かりやすく表現するものである。 (ウ) 6色分布図 原告ソフトには、上記「6色パターン分類」に基づき、相場全体の動向を6色の分布図で表す「6色分布図」を表示する機能がある。 6色分布図とは、日経平均株価を構成する日経225銘柄や東証株価指数(TOPIX)を構成する東証一部の全銘柄を個別に分析し、それらの銘柄における6色パターンの割合を時系列で表示するものである。 6色分布図においては、そこに示された上昇波動を表す色の割合と下降波動を表す色の割合を比べることにより、株式相場全体の動向を知ることができる。 (エ) 増田レシオ 原告ソフトには、「増田レシオ」と呼ばれる数値をグラフ化して表示する機能がある。 増田レシオとは、6色分布図に示された日経225銘柄や東証一部の全銘柄の動きの中から、最強の上昇波動を示すパターンと最弱の下降波動を示すパターンの銘柄数の変化を計算し、それをレシオ化した数値である。 増田レシオは、株式市場全体のセンチメント(市場心理)を指数化して表現したものである。 (4) 被告らによる被告ソフトの顧客への提供等 ア 被告A1は、被告会社の業務として、被告ソフトを制作した上で、平成19年1月ころから、被告ソフトを複製し、被告会社が運営する別紙ホームページ目録記載のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)上において、会員となった顧客に対し、被告ソフトの公衆送信を行い、同ソフトを使用させている(乙13、17)。 イ 被告ソフトは、下記の各ファイルに格納された実行プログラム等から構成されている(甲4・8頁)。 記
また、被告プログラムのソースコードは、原告プログラムと同様に、Microsoft社の「Visual Studio.net」という開発ツールを使用し、「C#」というプログラミング言語で作成されたものである。 2 争点 本件の争点は、次のとおりである。 (1) 被告ソフトを制作し、顧客に提供するなどの被告らの行為が、原告が原告プログラムについて有する著作権及び著作者人格権を侵害するか(争点1)。 ア 原告プログラムの著作物性 イ 原告は、原告プラグラムの著作者か(職務著作の成否)。 ウ 被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものか。 (2) 被告ソフトを制作し、顧客に提供するなどの被告らの行為が、原告が原告ソフト表示画面について有する著作権及び著作者人格権を侵害するか(争点2)。 ア 原告ソフト表示画面の著作物性 イ 原告は、原告ソフト表示画面の著作者か(職務著作の成否)。 ウ 被告ソフト表示画面は、原告ソフト表示画面を複製又は翻案したものか。 (3) 被告らが賠償すべき原告の損害額(争点3) (4) 原告の被告らに対する謝罪広告請求の可否(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告プログラムについての著作権及び著作者人格権侵害の有無)について (1) 原告の主張 ア 原告プログラムの著作物性 原告プログラムは、A2の創意・工夫に基づき考案された増田足による株価チャートを作成、表示し、これを分析することなどを行う原告ソフトのプログラムであり、前記第2の1(3)オのとおり、増田足による株価チャートを作成、表示するほかにも様々な機能を実現するとともに、ユーザーが使いやすいように、画面表示、ウィンド表示、レイアウト、メニュー表示、ボタン表示等においても様々な工夫を実現するものである。 したがって、原告プログラムは、創作性を有し、著作権法10条1項9号の「プログラムの著作物」に該当する。 イ 原告プログラムの著作者 原告プログラムは、法人である原告が、平成15年7月ころにその制作を発意、企画し、その後、原告の指示、監督等に基づき、被告A1を含む原告の従業員らが、原告の業務として、その職務時間内にプログラミング作業を行って完成させたものである。 また、原告においては、原告プログラムが作成された当時、原告の職務上作成されるプログラムの著作物の著作者に関し、契約や勤務規則などに特段の定めはなかった。 したがって、原告プログラムは、著作権法15条2項の職務著作の要件を満たすものであるから、その著作者は原告であり、原告プログラムについての著作権及び著作者人格権は、すべて原告に帰属する。 ウ 複製又は翻案 以下に述べるとおり、被告プログラムは、原告プログラムと同一又は類似するものであり、かつ、被告らは原告プログラムに依拠して被告プログラムを作成したものであるから、被告プログラムは原告プログラムを複製又は翻案したものである。 (ア) 原告プログラムと被告プログラムの同一性又は類似性 a ソースコードの同一性又は類似性 (a) 「MainForm.cs」に格納されたソースコードについて 原告プログラムのソースコードのうち、別紙1のNo.25の「MainForm.cs」という名称のソースファイルに格納されたソースコード(甲13。以下「MainForm.csの原告ソースコード」という。)と、被告プログラムのソースコードのうち、別紙2の「MainForm.cs」という名称のソースファイルに格納されたソースコード(乙4。以下「MainForm.csの被告ソースコード」という。)とを、そこに含まれる関数(コンピュータプログラムにおいて、プログラム中で意味や内容がまとまっている処理を一つの手続として記述したもの。「サブルーチン」ともいう。以下、同じ。)ごとに比較した結果は、別紙3のとおりである。ただし、これらのソースコードのうち、MainForm.csの被告ソースコードで言えば、乙4の1頁1行目から188頁29行目までの部分は、プログラムを動かすための各種変数の定義、画面構成のレイアウト定義を行うためのごく一般的なソースコードであり、原告プログラム及び被告プログラムの制作に用いられたMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分であって、作成者の思想又は感情が創作的に表現された著作物とはいえないことが明らかな部分であることから、比較の対象からは除外した。 すなわち、別紙3の「類似度合」欄に◎の印が記載された部分は、原告プログラムと被告プログラムとで、全く同一の記述内容となっている部分である。 また、同欄に○や□の印が記載された部分は、原告プログラムと被告プログラムとで、関数等の名称に相違が見られるものの、各関数内に記述された処理手順は同一といえる部分である。 さらに、同欄に◇の印が記載された部分は、原告プログラムと被告プログラムとで、ソースコードの記述に一部相違は見られるものの、当該ソースコードが有する処理手順等が大きく異なるものではなく、同じ思想に基づいた同じ機能や同じ処理手順を有するものといえる部分である。 他方、同欄に×の印が記載された部分は、原告プログラムと被告プログラムとで、異なる表現といえる部分であるが、比較の対象とされたプログラム全体の中では、約5%程度のわずかな部分にとどまるものである。 以上のとおり、MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードを比較すると、ほとんどの部分が同一又は類似した表現となっており、相違が認められる部分は些細なものにすぎないから、両者が同一又は類似していることは明らかである。 (b) それ以外のソースコードについて 上記(a)以外のソースコードについて、原告プログラムと被告プログラムとを、別紙1及び2の各ソースファイルに格納されたソースコードごとに比較した結果は、別紙4(「類似度合」欄記載の印の意味は、別紙3と同様である。)のとおりであり、いずれのソースファイルに格納されたソースコードについても、原告プログラムと被告プログラムとで、関数等の名称に相違が見られるものの、各関数内に記述された処理手順は同一のものである。 したがって、原告プログラムと被告プログラムは、上記(a)以外のソースコードにおいても、同一又は類似しているものといえる。 b 実行プログラム等を格納するファイル構成等の同一性 また、原告プログラムと被告プログラムの各実行プログラム等を格納するファイル(前記第2の1(3)ウ及び(4)イ)を比較すると、「Config.ini」、「dotnetfx.exe」、「langpack.exe」及び「Setup.exe」という名称の各ファイルの更新日時及びサイズが全く同一であり、また、Windowsインストール用ファイル(原告プログラムでは「newMasudaasi_Setup.msi」、被告プログラムでは「VectorChart_Setup.msi」という名称のファイル)及びセッティングに関するファイル(「Settings.ini」という名称の各ファイル)についても、サイズがほぼ同一であることからすると、原告プログラムと被告プログラムがその内容においても同一であることは明らかである。 c 表示画面の同一性又は類似性 さらに、原告プログラムによって表示される画面と被告プログラムによって表示される画面とを比較すると、上下の位置関係等が異なっている程度にすぎず、両者が類似していることは明らかである(甲3)。 d 以上によれば、原告プログラムと被告プログラムが、同一又は類似していることは明らかである。 (イ) 依拠性 a 被告A1は、もともと原告の従業員として原告ソフトの制作に関与した者であるから、原告プログラムにアクセスし、これを入手することは極めて容易であった。 他方、被告会社は、被告A1が平成18年9月末に原告を退社した後、間もなくして被告ソフトの販売に着手しているものであり、原告ソフトに依拠せずに、独自に被告ソフトの開発を行ったものとは到底考えられない。 b さらに、被告プログラムが原告プログラムのデータをそのまま利用し、これに改変を加えて作成されたものであることは、次のように、被告プログラムが原告プログラムをコピーしてこれを改変したものであることを示す痕跡が存在することからも明らかである。 (a) 増田レシオの機能(前記第2の1(3)オ(エ))は、原告ソフトにはあるが、被告ソフトにはない機能である。 そこで、MainForm.csの被告ソースコードの指標選択コンボボックスに登録するものの名前の記載(乙4・85頁10〜17行目)をみると、MainForm.csの原告ソースコード(甲13・356頁)には存在する「増田225レシオ」、「増田TOPIXレシオ」の記載が存在せず、合計8個を登録するものとされている。 ところが、MainForm.csの被告ソースコード(乙4)の333頁18行目を見ると、「IndexChartCombo1.SelectedIndex!=9」と記載されており、本来の登録数(8個)より多い数値がプログラムとして残っている。 これは、被告らが、原告プログラムをコピーしてこれを改変した際に、一部を削除し忘れたことを示す証拠である。 (b) また、6色パターン分類の機能(前記第2の1(3)オ(イ))も、原告ソフトにはあるが、被告ソフトにはない機能である。 ところが、MainForm.csの被告ソースコードの「TrendTypeComboJOB」という名称の関数についての記載(乙4・412頁)をみると、13〜30行目に、原告ソフトに固有の機能である6色パターン分類に関する処理手順が見られる。 これは、被告らが、原告プログラムをコピーしてこれを改変した際に、一部を削除し忘れたことを示す証拠である。 c したがって、被告らが、原告プログラムに依拠して被告プログラムを作成したことは明らかである。 エ まとめ 以上によれば、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の原告プログラムについての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を侵害する。 また、被告らは、原告プログラムに一部改変を加えて被告プログラムを制作したものであり、また、原告プログラムを複製又は翻案して作成した被告ソフトを販売、公衆送信するに当たり、原告プログラムの著作者である原告の名称を表示していないから、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害する。 (2) 被告らの主張 ア 原告プログラムの著作物性 原告プログラムは、Microsoft社の「Visual Studio.net」を使用して制作されたものであるところ、画面上の構成要素を画面に貼り付け、ボタン等を配置するために必要なプログラムなど、「Visual Studio.net」によって自動生成される部分が相当の分量に及んでおり、これらの部分は、創作性を有するものとはいえない。 そこで、別紙3に示されたMainForm.csの原告ソースコードについて、各関数ごとに創作性の程度を分析すると、別紙5記載のとおりである。 すなわち、別紙5の「創作性の程度」欄に記載した印が、MainForm.csの原告ソースコードの各関数ごとの創作性の程度を示すものであり、それぞれの印の意味は、次のとおりである。 ☆・・・7割以上が自動生成コードか、ダイアログによるコード生成によるもので、極めて汎用的なプログラムといえるもの ○・・・5割以上が自動生成コードか、ダイアログによるコード生成によるもので、極めて汎用的なプログラムといえるもの □・・・1割程度が自動生成コードか、ダイアログによるコード生成によるものであるが、汎用的プログラムの組合せといえるもの △・・・汎用的ではないコード 以上のとおり、MainForm.csの原告ソースコードにおける約300の関数のうち、別紙5において△の印を記載した10の関数以外については、創作性が認められるものとはいえない。 イ 原告プログラムの著作者 原告プログラムを実際に作成したのは、被告A1であるところ、被告A1は、自らの発意により原告の業務外で原告プログラムを作成したものであり、原告プログラムについては、著作権法15条2項の職務著作の要件を満たすものではないから、原告が著作者であるとはいえない。 (ア) 「法人等の発意」によるものではないこと 原告プログラムが作成された当時、原告においては、原告旧ソフトの不具合によるクレームが大きな問題となっていた。 その解決のため、原告において原告旧ソフトを改良することが試みられ、原告従業員のA4(以下「A4」という。)が中心となり、被告A1もこれをサポートしていたが、被告A1は、原告旧ソフトを改良するだけでは問題は解決できないと考えるようになった。 そこで、被告A1は、原告の勤務時間外に、自宅で独自に原告旧ソフトに替わるソフトのプログラムを制作し、その採用をA2に訴えたが、当該ソフトの内容についてA2との間で意見の対立があり、A2から採用を頑強に反対された。しかし、その後、被告A1が作成したソフトの優位性を認めた原告従業員一同がA2に談判した結果、A2が被告A1が作成したソフトを受け入れて、原告ソフトとしてリリースされることとなった。 職務著作の発意要件についてはある程度緩やかに解されているとはいえ、本件においては、上記のとおり、原告内部で事実上の最高権限を有するA2が明確に被告A1が作成したソフトの採用に反対していた経過がある以上、結果的に、原告ソフトとしてリリースされたからといって、創作の時点では、原告の発意で作成されたものとはいえない。 (イ) 「職務上作成」したものではないこと 原告プログラムは、被告A1が、原告旧ソフトを改良する作業とは別に、勤務時間外に自宅で独自に制作したものであるから、原告の従業員がその職務上作成したものとはいえない。 そして、被告A1が原告プログラムを原告の職務として制作したものでないことは、次のような事実からも明らかである。 a 本件においては、原告ソフトの開発当時から、被告A1しか原告プログラムのソースコードにアクセスできないようにされていた事実が認められる。 一般に、会社が業務としてプログラムの開発を行う場合には、このようなことはあり得ないのであって、このことは、原告プログラムが原告の職務として作成されたものでないことを示している。 b また、原告は、被告A1に対し、平成18年2月から同年9月までの間、月額基本給75万円に加えて、特別賞与として月額75万円を支払うとともに、特別報奨金として300万円、原告ソフトについての設計書、仕様書の作成料として200万円をそれぞれ支払う旨を提案し、現にこれらの金銭を被告A1に支払っている。 このように、原告は、被告A1に対し、一従業員に対する報酬としてはおよそ考え難いような経済的利益を与えているのであり、これらの金銭は、原告プログラムの著作権が被告A1に帰属することを前提として、その使用許諾料を支払うものにほかならないというべきである。 c 被告A1は、原告プログラムを制作する際、原告旧ソフトにおける「キュービック」と呼ばれる検索機能についての条件設定方法の考え方を根本的に改めた。 ところが、A3(以下「A3」という。)及びA2の各証人尋問における供述によれば、同人らは、原告ソフトにおけるこの点の改良の事実について全く理解しておらず、原告旧ソフトにおけるものと基本的に同じであると理解している。 このことは、原告プログラムがA2の指示の下に制作されたものではなく、被告A1が独自に制作したものであることの現れである。 ウ 複製又は翻案 (ア) MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコード及びそれ以外の原告プログラムのソースコードと被告プログラムのソースコードとの間に、それぞれ、前記(1)ウ(ア)aのとおり、原告が別紙3及び4に基づいて主張する程度の類似性があることはおおむね認める。 (イ) 本件の原告プログラムと被告プログラムのように、同一の開発者によって作成されたプログラムの場合、開発者は、先のプログラムの作成において獲得した経験を当然記憶している。 したがって、同一の開発者が後に類似の目的のプログラムを作成した場合には、当該記憶によって、全く同じコードを記述したり、極めて類似したコードを記述することもあり得るのであって、このような場合には、新たな記憶の中にあるアイデアレベルのイメージによっているものにすぎず、先行する著作物に依拠しているとはいえない。 被告プログラムは、被告A1が、原告プログラムを開発した経験を参考にして開発したものであり、同一人が開発していることから両プログラムに類似する点があることは事実であるものの、被告プログラムが原告プログラムに依拠して作成されたものであるとはいえない。 2 争点2(原告ソフト表示画面についての著作権及び著作者人格権侵害の有無)について (1) 原告の主張 ア 原告ソフト表示画面の著作物性 原告ソフトにおいて表示される画面は、増田足の描き方を含めた全体画面の表示方法、様々な機能を有する各個別画面の選択及びこれらの表示画面の配列に関し、一覧性、視認性、操作性、検索の容易さ等について創意工夫が加えられ、さらに、株価分析のために必要とされるデータの素材の選択や体系的な構成においても、原告独自の創作性が認められるものである。特に、原告ソフト表示画面は、@株価チャートにおける株価上昇エネルギーがピンクで、下降エネルギーがブルーで表示される点、A株価チャートに「増田影足」と呼ばれる、すだれのような表示がされる点、B白、黄、緑、赤、青、グレーの6色パターン分類に基づき、個別株の波動の形状や市場全体の強弱を表す6色帯及び6色分布図が表示される点において、従来の株価チャートの表示にはない原告独自の創作性が認められる。 したがって、原告ソフト表示画面は、学術的な性質を有する図面、図表としての図形の著作物(著作権法10条1項6号)、素材の選択及び配列につき創作性を有する編集著作物(著作権法12条)又は情報の選択及びその体系的な構成において創作性を有するデータベースの著作物(著作権法12条の2)に該当するものである。 イ 原告ソフト表示画面の著作者 原告ソフト表示画面は、原告プログラムと同様に、法人である原告が、平成15年7月ころにその制作を発意、企画し、その後、原告の指示、監督等に基づき、被告A1を含む原告の従業員らが、原告の業務として、その職務時間内に制作作業を行って完成させたものである。 また、原告ソフトは、原告の著作の名義の下に公表されたものである。 さらに、原告においては、原告ソフトが作成された当時、原告の職務上作成される著作物の著作者に関し、契約や勤務規則などに特段の定めはなかった。 したがって、原告ソフト表示画面は、著作権法15条2項の職務著作の要件を満たすものであるから、その著作者は原告であり、原告ソフト表示画面についての著作権及び著作者人格権は、すべて原告に帰属する。 ウ 複製又は翻案 原告ソフト表示画面と被告ソフト表示画面が、ほとんど同一又は類似していることは、「NEW増田足とベクターチャートの表示画面比較表」(甲3)から一目瞭然である。 また、前記1(1)ウ(イ)で述べたところからすれば、被告らが、原告ソフト表示画面に依拠して被告ソフト表示画面を作成したことは明らかである。 したがって、被告ソフト表示画面が原告ソフト表示画面を複製又は翻案したものであることは明らかである。 エ まとめ 以上によれば、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を侵害する。 また、被告らは、原告ソフト表示画面に一部改変を加えて被告ソフト表示画面を制作したものであり、また、原告ソフト表示画面を複製又は翻案して作成した画面を表示する被告ソフトを販売、公衆送信するに当たり、原告ソフト表示画面の著作者である原告の名称を表示していないから、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信する被告らの行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害する。 (2) 被告らの主張 ア 原告ソフト表示画面の著作物性 原告は、原告ソフト表示画面の表示要素について、A2の理論に基づく独自の工夫が存在するなどと主張するが、それらはすべてアイデアにすぎず、著作権の対象となる表現ではない。 また、原告が独自性を主張する増田足なるチャートは、当日の株価ではなく、株価の各種移動平均値の前日比を、ローソク足などでも広く用いられている陰線・陽線に替えて、異なる色を付した矩形で表現しただけのものにすぎず、同様の表現をする他のソフトも存在する。 さらに、原告ソフト表示画面において、各種チャートを同時に表示するとか、各種操作に必要なボタンを配置するとかいったレベルの表現上の工夫も、到底著作権の対象となる表現としての創作性を有することの根拠となるものとはいい難い。 したがって、原告ソフト表示画面自体は、創作性が認められず、著作権法上の著作物には該当しない。 イ 原告ソフト表示画面の著作者 原告ソフト表示画面は、前記1(2)イで述べた原告プログラムの場合と同様に、被告A1が、自らの発意により原告の業務外で作成したものであり、著作権法15条2項の職務著作の要件を満たすものではないから、原告が著作者であるとはいえない。 ウ 複製又は翻案 原告が、原告ソフト表示画面と被告ソフト表示画面が類似するものとして主張する点は、いずれも著作権の対象となる表現としての創作性が認められる部分とはいえないから、被告ソフト表示画面は原告ソフト表示画面を複製又は翻案したものとはいえない。 3 争点3(原告の損害額)について (1) 原告の主張 ア 前記1(1)及び2(1)のとおり、被告らが、被告ソフトを制作し、これを複製、公衆送信した行為は、故意又は過失により、原告の原告プログラム及び原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)を侵害する不法行為に該当するから、被告らは原告に対し、連帯して、原告が受けた損害を賠償する義務がある。 イ 原告の損害額 (ア) 著作権法114条に基づいて算定される損害額 a 著作権法114条1項による損害額 (a) 被告らは、上記侵害行為を組成する被告ソフトの公衆送信を行っているから、著作権法114条1項により、その公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物の複製物の数量に、上記侵害行為がなければ原告において販売することができた原告ソフトの単位数量当たりの利益の額を乗じた額が、原告が受けた損害の額となる。 (b) 被告会社の業態においては、一定の会費を支払って被告会社の会員となった者に、被告ソフトの公衆送信を行ってこれを使用させているところ、平成19年1月19日から平成20年3月31日までの437日間に、被告会社に会費が支払われた件数は176件であるから、被告会社はこれと同数の会員に対し被告ソフトの公衆送信を行い、これを受信した会員のもとで被告ソフトの複製物が作成されたものと考えられ、その本数は1日当たり約0.4本(176本÷437日)となる。 しかるところ、平成19年1月19日から本件訴訟の口頭弁論終結日である平成22年10月18日までに、800日以上が経過していることは明らかであるから、この間に、被告会社が会員に対し被告ソフトの公衆送信を行い、その会員のもとで作成された被告ソフトの複製物の数量は、320本(0.4本×800日)を下らないものと認められる。 (c) 他方、被告らの侵害行為がなければ原告において顧客に提供することができた原告ソフトの単位数量当たりの利益額は、原告ソフトの月額使用料1万3000円の6か月分である7万8000円に約20パーセントの利益率を乗じた1万5000円を下らない。 (d) したがって、著作権法114条1項によって算定される原告の損害額は、480万円(1万5000円×320本)である。 b 著作権法114条2項による損害額 被告らの主張によると、被告らが得た平成19年1月から平成20年3月までの被告ソフトに関する会費収入は697万2000円であり、他方、被告らが被告ソフトを会員に提供するにつき要した変動経費は、大きく見積もっても上記会費収入の30パーセントを超えるものではないから、上記侵害行為によって被告らが得た限界利益は480万円を下らない。 したがって、著作権法114条2項によって算定される原告の損害額は、480万円である。 c 著作権法114条3項による損害額 (a) 被告らの主張によると、被告らの平成19年1月から平成20年3月までの15か月間における被告ソフトに関する会費収入は697万2000円であるから、これを基に、平成19年1月から平成22年8月末までの44か月間における被告ソフトに関する会費収入を推計すると、2045万1200円(697万2000円÷15か月×44か月)となる。 (b) 他方、原告プログラム及び原告ソフト画面表示についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額(使用料相当額)は、上記会費収入の25パーセントと認めるのが相当である。 (c) したがって、原告が被告らに対し、著作権法114条3項に基づいて賠償を請求し得る損害の額は、511万2800円(2045万1200円×25パーセント)となり、480万円を下らない。 d 以上のとおり、著作権法114条1項ないし3項のいずれの規定によっても、被告らの侵害行為によって受けた原告の損害の額は、480万円を下回らないものと算定されるから、同金額をもって原告の損害額と認定すべきである。 (イ) 弁護士費用相当額 被告らの前記著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、上記(ア)の480万円の約1割の50万円である。 (ウ) よって、原告は、被告らに対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償として530万円及びこれに対する平成20年5月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 (2) 被告らの主張 ア 著作権法114条1項による損害額 (ア) 被告ソフトの複製物の数量について a 原告の主張のうち、平成19年1月19日から平成22年10月18日までに被告会社の会員のもとで作成された被告ソフトの複製物の数量が320本であることは否認する。 b 被告会社の業態においては、一定の会費を支払って被告会社の会員となった者が、被告ソフトの利用を開始する際に、被告ソフトをダウンロードし、これを自己のパソコンにインストール(複製)するものであるから、被告会社の会員のもとで作成される被告ソフトの複製物の数量は、被告会社の会員数に等しくなる。 しかるところ、平成22年8月23日時点における被告会社の会員数は、6か月会員が47名、1年会員が43名、それ以外の会員が17名の合計107名であるから(乙19ないし21)、平成19年1月から平成22年8月23日までの間に、被告会社の会員のもとで作成された被告ソフトの複製物の数量は、107本である。 (イ) 原告ソフトの単位数量当たりの利益額 a 原告の主張のうち、被告らの侵害行為がなければ原告において顧客に提供することができた原告ソフトの単位数量当たりの利益額が1万5000円を下らないことは否認する。 b 原告ソフトの月額使用料1万3000円の6か月分である7万8000円をもって、原告ソフトの対価となることを前提とする原告の計算には根拠がない。 (ウ) 著作権法114条1項によって算定される原告の損害額が480万円であるとの原告の主張は争う。 イ 著作権法114条2項による損害額について (ア) 原告の主張のうち、被告会社における平成19年1月から平成20年3月までの被告ソフトに関する会費収入の合計が697万2000円であることは認め、被告らが被告ソフトを会員に提供するにつき要した変動経費がその30パーセントを超えないこと及び被告らが得た利益が480万円を下らないことは否認する。 (イ) まず、上記会費収入合計697万2000円は、そのすべてが被告ソフトの使用対価ではなく、株価データを使用する対価や被告会社が会員に対して電子メールで取引に関するアドバイスを送付するメールサービスの対価も含まれている。 具体的には、被告会社の6か月会員の会費月額5000円のうち、2000円が株価データ使用の対価、2000円が上記メールサービスの対価で、残りの1000円(すなわち、会費の5分の1)が被告ソフトの使用の対価とみるのが相当である。 したがって、上記(ア)の会費収入のうち、被告ソフトによる売上部分は、139万4400円(697万2000円×1/5)にすぎない。 (ウ) 他方、被告会社において、被告ソフトを会員に提供する業務につき要した平成19年1月から平成20年3月までの経費は、次のとおりである。 a 宣伝費合計211万2850円 b 固定経費合計376万0500円 (a) 野村総合研究所へのデータ使用料月額10万5000円 (b) UCOMへの回線使用料月額3万5700円 (c) 電気代月額3万円 (d) 自宅兼事務所の賃料月額8万円 自宅兼事務所のうち、約3分の1のスペースを被告ソフトの提供に係る事業に使用しているので、月額賃料24万円の3分の1に当たる8万円が経費となる。 (e) 以上を合計すると、月額25万0700円となり、15か月間の合計で376万0500円となる。 c サーバー機材費100万円 d 合計687万3350円 (エ) 以上によれば、被告会社における被告ソフトを会員に提供する業務に係る平成19年1月から平成20年3月までの損益は、次のとおり赤字である。 被告ソフトによる売上げ139万4400円−経費合計687万3350円=−547万8950円 また、前記(ア)の被告ソフトに関する会費収入合計697万2000円を売上げとした場合でも、被告会社の利益は、9万8650円にすぎない。 ウ 著作権法114条3項による損害額 (ア) 原告の主張のうち、被告会社における平成19年1月から平成20年3月までの被告ソフトに関する会費収入の合計が697万2000円であることは認め、平成19年1月から平成22年8月末までにおける被告ソフトに関する会費収入が2045万1200円と推計されること及び原告プログラム及び原告ソフト画面表示についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額(使用料相当額)が上記会費収入の25パーセントであることは争う。 (イ) 前記イ(イ)のとおり、被告会社の会費収入には、被告ソフトの使用の対価のみならず、株価データを使用する対価や被告会社が会員に対して行うメールサービスの対価が含まれているから、被告会社の会費収入の全額に基づいて使用料相当額を算定する原告の主張は失当である。 4 争点4(謝罪広告請求の可否)について (1) 原告の主張 前記1(1)及び2(1)のとおり、被告らが、被告ソフトを制作し、これを複製、販売、公衆送信した行為は、故意又は過失により、原告の原告プログラム及び原告ソフトの表示画面についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を侵害するものであり、これによって原告は、営業上の信用を毀損された。すなわち、原告は、その顧客に対して、原告ソフトの独自性や優位性をアピールしながら、各種の営業活動を行い、現行の価格にて顧客に提供してきたものであるところ、被告らが、被告ソフトを廉価で顧客に提供することによって、原告の顧客から、原告ソフトと同じものが廉価にて販売されているなどの苦情や問い合わせが寄せられるようになるなど、原告ソフトの独自性等に関する原告の営業上の信用が大きく損なわれた。 また、被告らの上記行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)をも侵害するものであり、これによって原告は、その名誉、声望を毀損された。 このような原告の営業上の信用及び名誉、声望を回復するためには、金銭賠償だけでは足りず、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告が被告ホームページ上に掲載される必要がある。 したがって、原告は、被告らに対し、著作権法115条又は民法723条に基づき、被告ホームページ上に、別紙謝罪広告目録記載のとおりの体裁及び内容の謝罪広告を掲載するよう求めることができる。 (2) 被告らの主張 原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(原告プログラムについての著作権及び著作者人格権侵害の有無)について (1) 原告プログラムの著作物性について ア プログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、これが著作物として保護されるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であること、すなわち、創作性を有することが必要とされる。 前記第2の1の「争いのない事実等」と証拠(甲13、15ないし17、乙11、12、証人A3、証人A2、被告A1)及び弁論の全趣旨によれば、@原告プログラムは、Microsoft社の「Visual Studio.net」という開発ツールを使用し、「C#」というプログラミング言語によって書かれたソースコードからなるものであること、Aこれらのソースコードは、別紙1記載の37のソースファイルに格納されており、すべてをA4サイズに印字すると、約1000頁余りの分量に及ぶこと、B原告プログラムのうち、MainForm.csの原告ソースコードは、原告プログラム全体の約4割のサイズを占め、原告ソフトで表示されるメイン画面における処理全般を行うプログラムであるところ、その中には、別紙3記載のとおりの298の関数(321の関数中、「対照なし」のものを除いた分)が含まれていること、C原告プログラムは、パソコンを機能させて、その画面上に、その時々の株価データ等に基づいて、増田足と呼ばれる株価チャート(前記第2の1(2))を作成、表示するほか、増田影足、6色帯、6色分布図及び増田レシオと呼ばれるグラフ等(前記第2の1(3)オ(ア)ないし(エ))を作成、表示するなどの多様な機能を実現する株価チャート分析のためのプログラムであることが認められる。 イ そこで、原告プログラムにおける創作性の有無について検討するに、一般に、ある表現物について、著作物としての創作性が認められるためには、当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し、かつそれで足りるものと解されるところ、この点は、プログラム著作物の場合であっても特段異なるものではないというべきであるから、プログラムの具体的記述が、誰が作成してもほぼ同一になるもの、簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又はごくありふれたものである場合には、作成者の個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるべきであるが、これらの場合には当たらず、作成者の何らかの個性が発揮されているものといえる場合には、創作性が認められるべきである。 しかるところ、原告プログラムは、上記アのとおり、株価チャート分析のための多様な機能を実現するものであり、膨大な量のソースコードからなり、そこに含まれる関数も多数にのぼるものであって、原告プログラムを全体としてみれば、そこに含まれる指令の組合せには多様な可能性があり得るはずであるから、特段の事情がない限りは、原告プログラムにおける具体的記述をもって、誰が作成しても同一になるものであるとか、あるいは、ごくありふれたものであるなどとして、作成者の個性が発揮されていないものと断ずることは困難ということができる。 ウ これに対し、被告らは、原告プログラムにおいては、画面上の構成要素を貼り付け、ボタン等を配置するために必要なプログラムなど、開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり、これらの部分には創作性がないとした上で、原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると、別紙5において☆、○又は□の印を記載したものについては、自動生成コードが相当割合を占めることから、創作性が認められない旨を主張する。 しかしながら、MainForm.csの原告ソースコードについては、そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても、少なくとも別紙5において△の印が記載された合計10の関数については、被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており、創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。 また、別紙5において□の印が記載された合計164の関数についても、被告らは、自動生成コードの割合が1割程度にすぎないこと、すなわち、9割程度が自動生成コードではないことを認めているのであり、これらの関数については、少なくとも自動生成コードが相当割合を占めることを理由として創作性を否定することはできないというべきである。この点、被告らは、これらの関数について、汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが、汎用的プログラムの組合せであったとしても、それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上、このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから、被告らの上記主張は採用できない。 してみると、被告らの上記主張を前提としても、MainForm.csの原告ソースコードについては、そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において、自動生成コードが1割以下にとどまっており、それ以外のコードは、その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから、プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる。 エ さらに、後記(2)イで認定するとおり、原告プログラムは、主として被告A1がその開発及びプログラミング作業を行ったものであるから、原告プログラムの内容等を最も知悉する者は被告A1にほかならないところ、それにもかかわらず、被告らは、原告プログラムの一部であるMainForm.csの原告ソースコードについて、別紙5に記載した印に基づいて前記第3の1(2)ア記載の程度の概括的な主張をしてその創作性を争うにとどまっており、それ以外の原告プログラムの創作性については、具体的理由に基づいてこれを争う旨の主張は行っていない。 しかも、被告A1は、その本人尋問において、自らが行った原告プログラムにおけるソースコードの記述方法について、様々な創意工夫がされていることを自認する供述もしている。 前記イ及びウで述べたことに加え、上記のような被告らの訴訟対応や被告A1の本人尋問における供述をも総合すれば、原告プログラムが、全体として創作性の認められるプログラム著作物であることは、優にこれを認めることができる。 (2) 原告プログラムの著作者(職務著作の成否)について ア 原告プログラムについて、法人である原告がその著作者と認められるためには、原告プログラムが、@原告の発意に基づき、A原告の業務に従事する者が職務上作成したものであって、Bその作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないことが必要となる(著作権法15条2項)。 イ 前記第2の1の「争いのない事実等」のほか、証拠(甲6ないし8、12、15ないし19、20の1ないし17、21、乙1、2の1及び2、3、11、12、証人A3、証人A2、被告A1)及び弁論の全趣旨によれば、原告プログラムが作成された経過等に関し、次の事実が認められる。 (ア) 原告は、平成13年から、原告旧ソフトを顧客に提供して使用させ、一定の使用料を徴収する事業を行っていたところ、原告旧ソフトにおいては、株価チャートの作成、分析に用いられる株価等のデータについて、ユーザーが必要に応じて原告のサーバーから随時取得するというシステムではなく、ユーザーのパソコンにおいて1日ごとに決められた時間に原告のサーバーから受信したデータをその日1日使用するというシステムがとられていた。また、原告旧ソフトは、ウェブアプリケーション等への対応が困難な、Microsoft社の「Visual Basic」という旧来型の開発環境に基づいて開発されたソフトであった。 そのため、平成15年ころの原告社内においては、原告旧ソフトについて、その当時急速に普及し始めていたADSL回線を利用した、いわゆるブロードバンド環境にそぐわないなどの問題が認識されるようになった。 (イ) 原告においては、上記(ア)のような問題認識の下、遅くとも平成15年12月ころまでには、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトを開発、導入することが、当面の重点項目又は課題とされ、そのための取組みが開始された。 (ウ) その後、主として被告A1によって、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトの開発及びプログラミング作業が継続して行われ、平成16年11月ころまでに完成した。 原告においては、定期的に、A2及び原告の全従業員が参加する社内会議が行われていたところ、平成15年12月から平成16年7月ころまでの社内会議においては、たびたび原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトの開発への取組みが議題として取り上げられ、被告A1などから、その時々の開発の進捗状況が報告された。 (エ) 原告は、平成16年11月ころから、上記(ウ)のとおりにして完成したソフトを原告ソフトとして、原告旧ソフトに替わって顧客に提供するようになった。 (オ) 被告A1は、平成14年10月5日、広告物やホームページ等の制作を行う技術者として原告に雇用され、平成18年9月30日ころに原告を退社するまで、原告の従業員として、広告、営業、ソフトウェアの開発等の業務に従事した。 被告A1は、上記(ウ)のとおり、平成15年12月ころから平成16年11月ころにかけて、原告ソフトの開発及びプログラミング作業を行ったが、その当時の被告A1の原告における勤務時間は、午前7時から8時ころに出勤し、午後10時から10時半ころに退社するというのが通常であった。 (カ) 原告は、被告A1に対し、平成17年10月から、基本給として月額75万円を支給していたところ、平成18年2月ころには、原告と被告A1の間に、雇用条件等をめぐる対立が生じるようになった。 そこで、原告は、平成18年2月ころ、同年2月から同年9月までの被告A1の雇用条件等について、@月額基本給75万円に加えて、特別賞与として月額75万円を支払うこと、A本事業年度が終了した時点で、特別報奨金300万円を支払うこと、B被告A1が原告ソフトに係る設計書、仕様書を原告に提出することと引き替えに、200万円を支払うことなどを内容とする合意書(乙1)を作成し、これに基づく契約を締結することを被告A1に提案した。 原告と被告A1の間で、上記合意書が正式に取り交わされるには至らなかったが、原告は、被告A1に対し、平成18年2月から同年9月までの間、月額基本給75万円に加えて月額75万円の特別手当を支払ったほか、被告A1が同年9月30日ころに原告を退社した後、被告A1からの求めに応じて、500万円を退職功労金の名目で支払った。 ウ 以上の認定事実を前提に、原告プログラムについて、前記アの各要件が満たされるか否かについて検討する。 (ア) 原告の発意に基づくこと a 「法人等の発意」の要件については、法人等が著作物の作成を企画、構想し、その業務に従事する者に具体的に作成を命じる場合、あるいは、その業務に従事する者が法人等の承諾を得て著作物を作成する場合はもちろんのこと、法人等とその業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、その業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」の要件を満たすものと解するのが相当である。 b そこで、検討するに、本件においては、前記イの認定事実のとおり、@平成15年12月ころの時点において、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトを開発、導入することは、原告の業務計画の一つとなっていたこと、Aその後、原告に雇用された従業員である被告A1が、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトの開発及びプログラミング作業を行い、これを完成させていること、Bこのようにして完成されたソフトは、完成後直ちに、原告ソフトとして、原告からその顧客に提供されていること、C被告A1は、広告物やホームページ等の制作を行う技術者として原告に雇用された者であり、原告の商品となるソフトウェアの開発及びプログラミング作業もその職務の範囲に含まれるものといえること、D被告A1は、上記ソフトの開発期間中に行われた原告の社内会議において、A2らに対し、同ソフト開発の進捗状況をたびたび報告していることが認められる。 そして、これらの事実を総合すれば、被告A1による原告ソフトに係るプログラム(原告プログラム)の作成は、少なくとも、原告の業務計画に従ったものであり、原告の従業員である被告A1が自己の職務範囲に属する事務を遂行したといえるものであって、しかも、その職務の遂行上、当該プログラムの作成が予定又は予期される状況にあったことは、明らかである。 したがって、被告A1による原告プログラムの作成は、原告の発意に基づくものと評価することができる。 c これに対し、被告らは、原告において事実上の最高権限を有するA2が被告A1の作成した原告ソフトの採用に反対していた経過がある以上、原告プログラムの作成が原告の発意によるものとはいえない旨主張する。 しかしながら、仮に、被告らが主張するように、被告A1と原告の実質的な経営者といえるA2との間にソフトの内容についての意見の対立があり、A2が被告A1の作成した原告ソフトの採用に反対していた事実があったとしても、そのような経過は、原告において、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトとして原告ソフトを導入するに至る過程の中での一時的な経過にすぎず、最終的には、A2の了解の下で原告ソフトの導入に至ったものであることは明らかである。そして、前記bのとおり、被告A1による原告ソフトの作成が、原告旧ソフト替わる新たな株価チャートソフトを開発、導入するするという原告の業務計画に沿って行われたものであることは、A2が一時期原告ソフトの採用に反対していた事実があるからといって、何ら左右されるものではないから、被告ら主張の事実は、原告プログラムの作成が原告の発意によるものであることを否定する理由となるようなものではない。 したがって、被告らの上記主張は採用できない。 (イ) 職務上作成されたものであること a 前記(ア)bで述べたとおり、@被告A1は、原告に雇用され、原告の業務に従事する者であること、A原告ソフトを作成することは、原告旧ソフトに替わる新たな株価チャートソフトを開発、導入するという原告の業務計画に沿うものであること、Bソフトウェアの開発及びプログラミング作業は、被告A1の原告における職務の範囲に含まれるものといえること、C被告A1は、上記ソフトの開発期間中に行われた原告の社内会議において、A2らに対し、同ソフト開発の進捗状況をたびたび報告していることなどからすれば、被告A1による原告プログラムの作成が、原告の業務に従事する者によって「職務上作成されたもの」に当たることは、明らかである。 b これに対し、被告らは、被告A1による原告プログラムの作成は、勤務時間外に自宅で独自に行われたものであるから、職務上の作成には当たらない旨を主張し、さらに、職務上の作成ではないことを示す事情として、@原告ソフトの開発当時から、被告A1しか原告ソフトのソースコードにアクセスできないようにされていたこと、A原告が被告A1に対し、特別賞与月額75万円のほか、特別報奨金等として500万円という、一従業員に対する報酬としては考え難い多額の金銭を支払っていること、B原告従業員であるA3及びA2の証人尋問における供述によれば、同人らは、原告ソフトにおける原告旧ソフトの改良点についての理解を欠いていることを指摘する。 しかしながら、まず、原告プログラムは、株価チャート分析のための多様な機能を実現するための膨大な量のソースコードからなるものであって(前記1(1)ア)、これらをすべて単独で作成するには、膨大な時間と労力を要することが明らかであるところ、被告A1が原告プログラムを作成したとされる平成15年12月ころから平成16年11月ころまでの被告A1の原告における勤務時間は、早朝から夜遅くまでの長時間に及ぶのが通常であったこと(前記イ(オ))からすれば、原告プログラムの作成をすべて勤務時間外に自宅で行ったとする被告らの主張及びこれに沿う被告A1の供述は、不自然というほかなく、にわかに措信することができない。 また、仮に、被告A1が勤務時間外に自宅で原告プログラムの作成を行った事実があり、それが原告プログラムの相当部分に及ぶものであったとしても、そのことによって当然に、原告プログラムの作成が原告の職務として行われたことが否定されることにはならず、むしろ、前記aの各事情に照らせば、なお原告プログラムが職務上作成されたものであることが左右されるものではないというべきである。 そして、被告らが指摘する前記@ないしBの各事情のうち、@については、前記イ(ウ)のとおり、原告ソフトの開発及びプログラミング作業が主として被告A1によって行われていた実情からすれば、原告において、被告A1しか原告ソフトのソースコードにアクセスできないような態勢になっていたとしても、必ずしも不自然なこととはいえず、このことが直ちに、被告A1による原告プログラムの作成が原告の職務と無関係に行われたことを示すものとはいえない。 また、前記Aについては、上記のとおり、原告の重要な商品である原告ソフトの開発及びプログラミング作業が主として被告A1によって行われたという事実に照らせば、原告から被告A1に対し、原告の業務に多大な貢献をしたことに報いる趣旨で前記A程度の金額が支払われることもあながち不自然なこととはいえないから、かかる金銭の支払をもって、原告プログラムの著作権が被告A1にあることを前提として、その使用許諾料を支払うものにほかならないとする被告らの主張は、直ちに首肯することはできない。 さらに、前記Bについては、原告従業員のA3やA2が原告ソフトの機能の一部について十分に理解していないことを根拠に、被告A1による原告プログラムの作成がA2の具体的な指示に基づくものではないことを指摘しているにすぎず、そもそもA2からのソフトの内容に及ぶ具体的指示があったことが職務上作成されたものであることの要件となるものではないから、この点も、原告プログラムの作成が職務上のものであることを否定する理由とはならない。 したがって、被告らの前記各主張はいずれも採用できない。 (ウ) 別段の定めがないこと 平成15年12月ころから平成16年11月ころの原告において、原告の職務上作成されるプログラムなどの著作物の著作者を作成者個人とする旨の契約、勤務規則その他の定めがあったことを認めるに足りる証拠はない。 (エ) 以上によれば、原告プログラムは、著作権法15条2項の各要件を満たすものであるから、その著作者は原告であると認められる。 (3) 複製又は翻案の成否について ア 原告プログラムと被告プログラムの対比について (ア) 原告プログラムと被告プログラムのうち、MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとの間に、原告が別紙3に基づいて主張する程度の類似性があること(前記第3の1(1)ウ(ア)a(a))は、当事者間に争いがない。 すなわち、これを前提とすれば、MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとは、開発ツールによって自動生成されたことが明らかな部分(MainForm.csの被告ソースコードでいえば、乙4の1頁1行目から188頁29行目までの部分)を除いた約300に及ぶ関数(被告ソースコードでは321、原告ソースコードでは298)のうち、103の関数(別紙3の「類似度合」欄に◎の印が付されたもの)においては全く同一の記述内容であり、148の関数(別紙3の「類似度合」欄に○又は□の印が付されたもの)においては関数等の名称に相違が見られるものの、当該関数内に記述された処理手順は同一であり、47の関数(別紙3の「類似度合」欄に◇の印が付されたもの)においてはソースコードの記述に一部相違が見られるものの、処理手順等に大きな相違はないのであって、他方、両者で全く異なる表現といえる部分が、23の関数(別紙3の「類似度合」欄に×の印が付されたもの)において見られるが、その量的な割合は、約300の関数に係るソースコードのうちの約5パーセントにとどまるものということができる。 (イ) さらに、上記(ア)以外の原告プログラムのソースコードと被告プログラムのソースコードとの間についても、原告が別紙4に基づいて主張する程度の類似性があること、すなわち、関数等の名称に相違が見られるものの、当該関数内に記述された処理手順は同一であること(前記第3の1(1)ウ(ア)a(b))は、当事者間に争いがない。 (ウ) 以上によれば、原告プログラムと被告プログラムとは、そのソースコードの記述内容の大部分を共通にするものであり、両者の間には、プログラムとしての表現において、実質的な同一性ないし類似性が認められるものといえる。 イ 依拠性について (ア) 被告らは、「被告プログラムは、被告A1が、原告プログラムを開発した経験を参考にして開発したものであり、同一人が開発していることから両プログラムに類似する点があることは事実であるものの、被告プログラムが原告プログラムに依拠して作成されたものであるとはいえない」として、被告A1による被告プログラムの作成が、原告プログラムのソースコードのデータを基にして、これに改変を加えたものではなく、被告A1の経験に基づいて新たに作成されたものである旨を主張し、被告A1の供述中にも、これに沿う趣旨の供述部分がある。 (イ) しかしながら、被告A1の供述によれば、被告A1は、平成18年9月末に原告を退社した後も、原告プログラムのソースコードのデータを保有していたことが認められるところ、このように原告プログラムのソースコードのデータを現に保有しており、しかも、原告プログラムが自己の著作物であるとの認識を有している被告A1が、原告プログラムと類似する被告プログラムを作成するのであれば、原告プログラムのソースコードのデータをそのまま使用してこれに改変を加えていくという簡略な方法をとるのが通常であって、ことさら一からプログラムを作成する方法をとるのは、不自然なことというほかない。 また、被告会社が被告ソフトを会員となった顧客に提供して使用させる業務を開始したのは、平成19年1月ころからであり(前記第2の1(4)ア)、被告A1が原告を退社してから数か月しか経っていない時期であること及び被告プログラムが格納された各ソースファイル(別紙2、乙5及び6)の更新日時をみると、被告A1が原告を退社して間もない平成18年10月から12月にかけてのものが多数含まれることからすれば、被告A1は、原告を退社してから数か月程度の間に被告プログラムを完成させたものと考えられるが、このような短期間のうちに膨大な量に及ぶ被告プログラムを原告プログラムのソースコードのデータをコピーして用いることなく完成させることは、通常では考え難いことである。 しかも、上記アで述べたとおり、原告プログラムと被告プログラムとは、その記述内容の大部分が共通していることが認められるところ、いかに作成者が同一人であるとはいえ、原告プログラムのソースコードのデータをコピーすることなく、ここまで共通するプログラムを作成することは、考え難いことといえる。 更に言えば、MainForm.csの原告ソースコード(甲13)とMainForm.csの被告ソースコード(乙4)をつぶさに対比すると、原告が前記第3の1(1)ウ(イ)b(a)及び(b)において指摘するとおり、MainForm.csの被告ソースコードには、明らかにMainForm.csの原告ソースコードをコピーして改変したことをうかがわせる痕跡が認められる。 (ウ) 以上を総合すれば、被告A1の上記供述は、措信し難いものというべきであり、被告A1が、原告プログラムのソースコードのデータを基として、これに改変を加えることによって被告プログラムを作成したことは、優にこれを認めることができる。 ウ 以上によれば、被告A1は、原告プログラムに依拠して被告プログラムを作成したものであり、かつ、プログラムとしての表現において、原告プログラムと被告プログラムとは実質的に同一ないし類似するといえるものであるから、被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものであると認められる。 (4) まとめ ア 以上の検討結果を総合すると、原告は、原告プログラムの著作者であり、これについての著作権及び著作者人格権を有するところ、被告会社の業務として、被告ソフトを制作し、これを複製して、被告会社のホームページ上において公衆送信する被告A1の行為は、原告が原告プログラムについて有する著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)を侵害するものといえる。そして、被告A1が、被告会社の唯一の株主であるとともに、唯一の取締役であり、同社の業務は専ら同人が単独で行っていること(前記第2の1(1)イ(イ))からすれば、被告A1が行った上記著作権侵害行為は、被告会社の代表者としての行為(すなわち、被告会社の行為)であるとともに、被告A1個人としての行為でもあると評価することができる(以下においては、被告A1が被告会社の業務として行った行為であって、被告会社の行為であるとともに、被告A1個人の行為でもあると評価されるものを、「被告らの行為」として記述する場合がある。)。 次に、被告らは、被告ソフトの制作に当たって、原告プログラムの一部に改変を加えており、また、原告プログラムの複製物又は翻案物である被告ソフトを公衆送信するに当たって、原告プログラムの著作者である原告の名称を表示していないところ、被告らのこれらの行為は、原告が原告プログラムについて有する著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するものといえる。 イ 原告の差止請求等の可否 以上を前提に、原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の可否について検討する。 (ア) 被告プログラムの複製の差止請求 被告らは、被告プログラムについて、記憶媒体に収納するなどの複製行為を行っているところ、原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを複製する行為は、原告の原告プログラムに係る複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)を侵害するものといえる。 したがって、原告は、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの複製(被告プログラムを記憶媒体に収納することを含む。)の差止めを求めることができる。 (イ) 被告プログラムの複製物の譲渡の差止め 被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して、これを現に保有していることは明らかであるから、被告らは、今後、被告プログラムの複製物を公衆に譲渡するおそれがあるものと認められる。 被告らが被告プログラムの複製物を譲渡する行為は、原告の原告プログラムに係る譲渡権(著作権法26条の2)を侵害する。 したがって、原告は、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの複製物の譲渡の差止めを求めることができる。 (ウ) 被告プログラムの公衆送信の差止め 被告らは、被告プログラムの公衆送信行為を行っているところ、原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを公衆送信する行為は、原告の原告プログラムに係る公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものといえる。 したがって、原告は、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの公衆送信の差止めを求めることができる。 (エ) 被告プログラムの翻案の差止め 原告は、被告らに対し、原告プログラムに係る翻案権に基づき、被告プログラムの翻案の差止めを求めている。 そこで、被告らが、被告プログラムの翻案行為を現に行い、又は、これを行うおそれがあると認められるか否かにつき検討するに、まず、被告らが、被告プログラムを改変する行為を現に行っているとの事実を認めるに足りる証拠はない。 また、被告プログラムを翻案する行為には、広範かつ多様な態様があり得るものと考えられる。ところが、原告の上記請求は、差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく、上記のとおり広範かつ多様な態様を含み得る「翻案」に当たる行為のすべてを差止めの対象とするものであるところ、このように無限定な内容の行為について、被告らがこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めることはできないというべきである。 したがって、被告らに対し、原告プログラムに係る翻案権に基づいて被告プログラムの翻案の差止めを求める原告の請求は理由がない。 (オ) 被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄 被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して、これを現に保有していることは明らかであるところ、被告プログラムが原告プログラムの複製物又は翻案物と認められることからすると、被告プログラムを収納する記憶媒体は、原告の原告プログラムに係る複製権又は翻案権の侵害行為によって作成された物といえる。 したがって、原告は、被告らに対し、著作権法112条2項に基づいて、被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めることができる。 (カ) 以上によれば、原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求は、上記(ア)ないし(ウ)及び(オ)の請求については理由があるが、上記(エ)の被告プログラムの翻案の差止めを求める請求については理由がない。 なお、本件において、原告は、原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についても主張するが、原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の内容は、いずれも被告ソフト表示画面についてのものではなく、被告プログラムについてのものであるから、原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についての原告の主張は、上記差止請求及び廃棄請求の請求原因として述べるものではないものと理解される。 2 争点3(原告の損害額)について (1) 前記1(4)アで述べたとおり、被告A1は、被告会社の業務として、被告ソフトを制作し、これを複製して、被告会社のホームページ上において公衆送信したことにより、原告の原告プログラムに係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)を侵害したものであり、また、上記侵害について被告A1に故意又は過失があったことは明らかであるところ、前記1(4)アで述べたとおり、被告A1が行った上記著作権侵害行為は、被告会社の代表者としての行為であるとともに、被告A1個人としての行為でもあると評価することができるから、被告らによる共同不法行為に該当するものと解される。 したがって、被告らは、民法709条及び719条により、原告に対し、連帯して、原告が上記侵害行為によって受けた損害を賠償する義務がある。 (2) そこで、被告らの著作権侵害行為によって原告が受けた損害の額について検討するに、原告は、著作権法114条1項ないし3項の規定に基づいて算定される額をもって原告の損害額とすべき旨を主張するので、以下、これらの規定に基づいて認定することができる原告の損害額について判断する。 ア 著作権法114条1項による損害額について 原告は、平成19年1月19日から平成22年10月18日までの期間において、@被告らによる被告ソフトの公衆送信が受信されることにより作成された著作物の本数が320本であること、A被告らの侵害行為がなければ原告において顧客に提供することができた原告ソフトの単位数量当たりの利益額が、原告ソフトの月額使用料1万3000円の6か月分である7万8000円に約20パーセントの利益率を乗じた1万5000円であることを前提として、著作権法114条1項によって算定される原告の損害額は480万円である旨を主張する。 しかしながら、原告は、上記算定の基礎となる原告ソフトの単位数量当たりの利益額について、原告の会員となって原告ソフトの提供を受けるために必要な月額の利用料金が1万3000円であることを示す原告のホームページの記載(甲22)を証拠として提出するものの、原告ソフトを提供する業務に係る原告の利益率を示す証拠を何ら提出しておらず、これを認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の著作権法114条1項に基づく損害額についての主張は、その基礎となる原告ソフトの単位数量当たりの利益額についての立証がないから、これを認めることはできない。 イ 著作権法114条2項による損害額について 被告会社が、平成19年1月から平成20年3月までの間に、被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計が697万2000円であることは、当事者間に争いがない。 また、被告会社において、上記業務のために平成19年1月から平成20年3月までの間に要した経費については、被告らの主張によると、@宣伝費211万2850円、A固定経費合計376万0500円(データ使用料月額10万5000円、回線使用料月額3万5700円、電気代月額3万円、自宅兼事務所の賃料のうちの事務所相当分月額8万円)及びBサーバー機材費100万円の合計687万3350円とされるところ、このうち、上記@及びAの各経費に係る主張については、いずれも上記業務の内容に照らし経費として特に不合理な費目とはいえず、また、それらの金額についても、その支出等を裏付ける証拠(乙14、15、16の1ないし14、17、18)が存在することからすれば、これを認めることができるというべきであり、その認定を覆すに足りる証拠もない。 そうすると、上記Bの経費が認められるか否かにかかわらず、被告会社が、平成19年1月から平成20年3月までの間に、被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た利益の額は、会費収入の合計額697万2000円から、上記@及びAの各経費の合計額587万3350円を控除した109万8650円を上回らないものといえる。 そうすると、著作権法114条2項によって推定することができる原告の損害額は、後記ウで述べるとおり、同法114条3項の使用料相当額として認められる金額を上回らないことが明らかであるから、原告の著作権法114条2項に基づく損害額の主張は、採用の限りではない。 ウ 著作権法114条3項による損害額 (ア) 被告会社が、平成19年1月から平成20年3月までの間に、被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計が697万2000円であることは、当事者間に争いがない。 原告は、上記のとおり、被告会社の平成19年1月から平成20年3月までの15か月間における会費収入が697万2000円であることから、697万円2000円を15で除した46万4800円を1か月当たりの会費収入と捉え、これに、平成19年1月から平成22年8月までの月数である44か月を乗じた2045万1200円をもって、同期間における被告会社の会費収入と推計される旨を主張する。 しかるところ、原告が主張する上記推計方法は、被告会社の平成20年4月以降の会費収入に関する証拠が被告らから提出されない現状の下においては、やむを得ない推計の方法であって、一応の合理性が認められるものということができる。しかも、証拠(乙13、17、19ないし21)によれば、平成22年8月23日時点における被告会社の会員数は、6か月会員が47名、1年会員が43名、それ以上の長期会員が17名の合計107名であること、6か月会員の会費は3万円(月額換算で5000円)、1年会員の会費は5万円(月額換算で4167円)であることが認められるところ、これを前提とすれば、被告会社における平成22年8月当時の1か月当たりの会費収入は、上記推計に用いられた1か月当たりの会費収入46万4800円を上回ることとなる(仮に、長期会員17名の月額換算の会費を3500円とすれば、上記107名の会員から得られる1か月当たりの会費収入は47万3681円となる。)から、この点からも上記推計方法の合理性が裏付けられる。 したがって、被告会社が、平成19年1月から平成22年8月までの間に、被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計は、原告が主張するように、2045万1200円と認められる。 (イ) そこで、上記会費収入を前提として、原告が原告プログラムについての著作権の行使につき受けるべき金銭の額(使用料相当額)を算定するに、@社団法人発明協会発行の「実施料率【第5版】」(甲24)に記載されたソフトウェアを含む「電子計算機・その他の電子応用装置」の技術分野における外国技術導入契約において定められた実施料率に関する統計データによれば、平成4年度から平成10年度までのイニシャル・ペイメント条件がない契約における実施料率の平均は33.2パーセントとされ、特にソフトウェアにおいて高率契約の割合が高いとされていること、A原告プログラムは、原告において、多大な時間と労力をかけて開発されたものであり、かつ、原告の業務の中核となる重要な知的財産であって、競業他社にその使用を許諾することは、通常考え難いものであること、B他方、証拠(乙13、被告A1)によれば、被告会社においては、その会員に対し、被告ソフトを公衆送信して使用させることのみならず、被告会社が野村総研から購入した株価や銘柄に関するデータに種々の処理を施したものを提供するサービスや会員に対して電子メールで種々のアドバイスを送信するメールサービスも行っていることから、会員から得られる会費の中には、これらのサービスに対する対価に相当する部分も含まれており、本来、上記会費収入の全額が実施料率算定の基礎となるものではないことといった事情のほか、原告ソフト及び被告ソフトの内容、被告らによる侵害行為の態様及びそれに至る経緯、原告と被告らとの関係など本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、被告らによる平成19年1月から平成22年8月までの著作権侵害について、原告が受けるべき使用料相当額は、上記(ア)の会費収入合計額2045万1200円の約10パーセントに当たる200万円と認めるのが相当である(なお、被告らによる著作権侵害について、原告が受けるべき使用料相当額は、原告の原告ソフトの表示画面に係る著作権侵害の主張が認められる場合でも、上記金額を超えるものとはいえない。)。 (3) 弁護士費用 被告らの前記(1)の著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、前記(2)ウで認定した200万円の10パーセントに当たる20万円と認められる。 (4) 以上によれば、原告は、被告らに対し、被告らの著作権侵害行為によって受けた損害の賠償として、前記(2)ウ及び(3)の合計額である220万円及びこれに対する被告らに訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな平成20年5月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 3 争点4(謝罪広告請求の可否)について 原告は、被告らによる著作権侵害によって原告の営業上の信用が毀損された旨及び著作者人格権侵害によって原告の名誉、声望が毀損された旨を主張し、これらの回復のためには、被告らによる謝罪広告が必要であるとして、被告らに対し、著作権法115条又は民法723条に基づく謝罪広告の請求をする。 しかしながら、まず、原告が、被告らによる被告ソフトの制作及びその公衆送信等によって原告の営業上の信用が毀損されたことを示す具体的な事実として主張するのは、原告の顧客から、原告ソフトと同じものが廉価にて販売されているなどの苦情や問い合わせが寄せられるようになったとの事実であるところ、この点については、原告の従業員であるA3が、「どちらが本物なのかという問い合わせが本当に多くありました」などと抽象的に述べるのみであり(尋問調書8頁、甲16・3頁)、どのような内容の苦情等が、どの程度の期間にわたって、どの程度の頻度であったのかなどの具体的な状況が明らかではなく、結局のところ、原告に現実にどの程度の信用毀損の被害が生じたのかについては、証拠上これを明確に認定することはできない。 また、原告は、被告らの著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の侵害によって原告の名誉、声望が毀損された旨も主張するが、いかなる内容の名誉、声望が、どのように、どの程度侵害されたのかについては、明確な主張も立証もない。 以上を前提とすれば、本件においては、原告が主張する営業上の信用あるいは名誉、声望を回復するために、金銭賠償だけでは足りず、被告らによる謝罪広告までもが必要であることについて、十分な主張、立証があるとはいえず、謝罪広告を命ずべき必要性を認めることはできない。 したがって、被告らに対し、著作権法115条又は民法723条に基づいて謝罪広告を求める原告の請求は理由がない。 4 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求のうち、著作権法112条に基づく差止請求及び廃棄請求は、主文第1項ないし第4項の限度で理由があるが、被告プログラムの翻案の差止めを求める請求は理由がなく、また、民法709条に基づく損害賠償の請求は、220万円及びこれに対する平成20年5月11日(被告らに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がなく、さらに、著作権法115条又は民法723条に基づく謝罪広告の請求は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 石神有吾 (別紙)ソフト目録 商品名 「ベクター・チャート2007」v1.4 概要 高機能株価分析チャートソフト (別紙)ホームページ目録 「http://www(略)」のドメイン名及びそのサブドメイン名に表示されるホームページ (別紙)謝罪広告目録 当社らは、貴社の著作物である「NEW増田足」を貴社に無断で複製、翻案し、あらたに「ベクターチャート」の名称を付して当社のオリジナルソフトウェアであるかのごとき表示を打って販売、頒布し、貴社の著作権、著作者人格権を侵害し、貴社に多大な御迷惑をお掛けしたことを、ここに謝罪し、あわせて今後再びこのような行為を行わないことを誓います。 平成 年 月 日 神奈川県川崎市 [以下略] 有限会社アルス・ノーヴァ 上記同所 A1 有限会社増田経済研究所殿 |
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