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【事件名】“私的録画補償金”不払い事件
【年月日】平成22年12月27日
 東京地裁 平成21年(ワ)第40387号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年10月12日)

判決
原告 社団法人私的録画補償金管理協会
訴訟代理人弁護士 久保利英明
同 西本強
被告 株式会社東芝
訴訟代理人弁護士 田中昌利
同 三村量一
同 平津慎副
同 渡邉瑞


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、1億4688万5550円及び内金3264万5550円に対する平成21年10月1日から、内金1億1424万円に対する平成22年4月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、著作権法30条2項の補償金(以下「私的録音録画補償金」という。)のうち私的使用を目的として行われる「録画」に係るもの(以下「私的録画補償金」という。)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体である原告が、別紙製品目録1ないし5記載の各DVD録画機器(以下、それぞれを「被告製品1」、「被告製品2」などといい、これらを総称して「被告各製品」という。)を製造、販売する被告に対し、被告各製品は同法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(以下「特定機器」という。)に該当するため、被告は、同法104条の5の規定する製造業者等の協力義務として、被告各製品を販売するに当たって、その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるのにこれを履行していないなどと主張し、上記協力義務の履行として、又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として、被告各製品に係る私的録画補償金相当額1億4688万5550円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 私的録音録画補償金制度に関する法令の概要等
 私的録音録画補償金制度は、平成5年6月1日に施行された著作権法の一部を改正する法律(平成4年法律第106号)(以下「平成4年改正法」といい、この改正を「平成4年法改正」という。)によって設けられたものであり、本件に関係する私的録音録画補償金制度に係る著作権法(以下、単に「法」という場合がある。)及び著作権法施行令(以下、単に「施行令」という場合がある。)の規定の内容は、次のとおりである。
(1) 私的使用のための複製(法30条)
 法30条1項は、著作権の目的となっている著作物は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは」、同項1号ないし3号に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる旨規定し、私的使用の目的で著作物を複製することを認めている。
 法30条2項は、「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」と規定し、私的使用を目的とする場合であっても、同項の規定する「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」であって同項の政令で定める機器(特定機器)により同項の政令で定める記録媒体(以下「特定記録媒体」という。)に録音又は録画を行う場合には、これを行う者が著作権者に対し相当な額の補償金(私的録音録画補償金)を支払わなければならない旨規定している。
 また、法102条1項は、法30条2項の規定を著作隣接権の目的となっている実演又はレコードの利用について準用している。
(2) 特定機器(施行令1条)
ア 施行令1条は、法30条2項の政令で定める機器(特定機器)について、次のとおり規定している。
 「第一条 著作権法(以下「法」という。)第三十条第二項(法第百二条第一項において準用する場合を含む。以下この条及び次条において同じ。)の政令で定める機器のうち録音の機能を有するものは、次に掲げる機器(他の機器との間の音の信号に係る接続の方法で法第三十条第二項の特別の性能を有する機器に用いるものとして文部科学省令で定めるものを用いる機器を除く。)であつて主として録音の用に供するもの(次項に規定するものを除く。)とする。
 一 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、三十二キロヘルツ、四十四・一キロヘルツ又は四十八キロヘルツの標本化周波数(アナログ信号をデジタル信号に変換する一秒当たりの回数をいう。以下この条において同じ。)でアナログデジタル変換(アナログ信号をデジタル信号に変換することをいう。以下この条において同じ。)が行われた音を幅が三・八一ミリメートルの磁気テープに固定する機能を有する機器
 二、三(略)
 四 光学的方法により、四十四・一キロヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音を直径が八十ミリメートル又は百二十ミリメートルの光ディスク(一枚の基板からなるものに限る。)に固定する機能を有する機器
 2 法第三十条第二項の政令で定める機器のうち録画の機能を有するものは、次に掲げる機器(ビデオカメラとしての機能を併せ有するものを除く。)であつて主として録画の用に供するもの(デジタル方式の録音の機能を併せ有するものを含む。)とする。
 一 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、その輝度については十三・五メガヘルツの標本化周波数で、その色相及び彩度については三・三七五メガヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像を、幅が六・三五ミリメートルの磁気テープ(幅、奥行及び高さが百二十五ミリメートル、七十八ミリメートル及び十四・六ミリメートルのカセットに収容されているものに限る。)に連続して固定する機能を有する機器
 二 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、いずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、幅が十二・六五ミリメートルの磁気テープに連続して固定する機能を有する機器
 三 光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するものに連続して固定する機能を有する機器
 イ 記録層の渦巻状の溝がうねつておらず、かつ、連続していないもの
 ロ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの
 ハ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続していないもの
 四 光学的方法(波長が四百五ナノメートルのレーザー光を用いることその他の文部科学省令で定める基準に従うものに限る。)により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・一ミリメートルのものに限る。)であつて前号ロに該当するものに連続して固定する機能を有する機器」
イ(ア) 施行令1条2項1号、2号は、著作権法施行令の一部を改正する政令(平成11年政令第210号)(以下「平成11年改正政令」という。)により施行令に追加された規定であり、磁気テープの記録媒体に録画するDVCR(Digital Video Cassette Recorder)及びD−VHS(Data Video Home System)方式の録画機器を特定機器として定めたものであり、平成11年改正政令は、平成11年6月25日に公布され、同年7月1日に施行された(甲96)。
 DVC(Digital Video Cassette)は、デジタル方式で映像と音声を記録する家庭用ビデオテープの規格の一つであり、D−VHSは、家庭用ビデオデッキとして業界標準となったVHS方式をベースとし、デジタル放送の映像と音声をデジタル方式で記録する規格である。
(イ) 施行令1条2項3号は、著作権法施行令の一部を改正する政令(平成12年政令第382号)(以下「平成12年改正政令」という。)により施行令に追加された規定であり、MVdisc(Multimedia Video Disc)及びDVD(Digital Versatile Disc)と呼ばれるデジタルデータの記録媒体(光ディスク)に録画する録画機器を特定機器として定めたものであり、平成12年改正政令は、平成12年7月14日に公布され、同月21日に施行された(甲97)。
 施行令1条2項3号の規定のうち、「直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)」との部分並びにロ及びハの「記録層の渦巻状の溝がうねっており」との部分は、いずれも、DVDに共通する特徴を述べたものである(甲8ないし11)。
 また、施行令1条2項3号ロ及びハのうち、上記「記録層の渦巻状の溝」について、ロにおいては「連続しているもの」、ハにおいては「連続していないもの」との部分は、複数の規格があるDVDにおいて、二つに大別されるディスク構造の特徴をそれぞれ述べたものであり、具体的には、DVDの規格のうち、DVD−R、DVD−RW、DVD+R及びDVD+RWに係る特徴が上記ロ、DVD−RAMに係る特徴が上記ハである(甲8ないし11)。
(ウ) 施行令1条2項4号は、著作権法施行令の一部を改正する政令(平成21年政令第137号)(以下「平成21年改正政令」という。)により施行令に追加された規定であり、一般に、ブルーレイディスク(Blue Ray Disc)と呼ばれるデジタルデータの記録媒体に録画するブルーレイディスク録画機器を特定機器として定めたものであり、平成21年改正政令は、平成21年5月22日に施行された。
(3) 特定記録媒体(施行令1条の2)
 施行令1条の2は、法30条2項の政令で定める記録媒体(特定記録媒体)について、次のとおり規定している。
 「第一条の二 法第三十条第二項の政令で定める記録媒体のうち録音の用に供されるものは、前条第一項に規定する機器によるデジタル方式の録音の用に供される同項各号に規定する磁気テープ、光磁気ディスク又は光ディスク(小売に供された後最初に購入する時に録音されていないものに限る。)とする。
 2 法第三十条第二項の政令で定める記録媒体のうち録画の用に供されるものは、前条第二項に規定する機器によるデジタル方式の録画(デジタル方式の録音及び録画を含む。)の用に供される同項各号に規定する磁気テープ又は光ディスク(小売に供された後最初に購入する時に録画されていないものに限る。)とする。」
(4) 私的録音録画補償金を受ける権利の行使(法104条の2)
 法104条の2第1項は、次のとおり、私的録音録画補償金を受ける権利は、指定管理団体があるときは、当該指定管理団体によってのみ行使することができる旨規定している。
 「第百四条の二第三十条第二項(第百二条第一項において準用する場合を含む。以下この章において同じ。)の補償金(以下この章において「私的録音録画補償金」という。)を受ける権利は、私的録音録画補償金を受ける権利を有する者(以下この章において「権利者」という。)のためにその権利を行使することを目的とする団体であつて、次に掲げる私的録音録画補償金の区分ごとに全国を通じて一個に限りその同意を得て文化庁長官が指定するもの(以下この章において「指定管理団体」という。)があるときは、それぞれ当該指定管理団体によつてのみ行使することができる。
 一 私的使用を目的として行われる録音(専ら録画とともに行われるものを除く。以下この章において「私的録音」という。)に係る私的録音録画補償金
 二 私的使用を目的として行われる録画(専ら録音とともに行われるものを含む。以下この章において「私的録画」という。)に係る私的録音録画補償金」
(5) 私的録音録画補償金の支払の特例(法104条の4)
 法104条の4第1項は、「第三十条第二項の政令で定める機器(以下この章において「特定機器」という。)又は記録媒体(以下この章において「特定記録媒体」という。)を購入する者(当該特定機器又は特定記録媒体が小売に供された後最初に購入するものに限る。)は、その購入に当たり、指定管理団体から、当該特定機器又は特定記録媒体を用いて行う私的録音又は私的録画に係る私的録音録画補償金の一括の支払として、第百四条の六第一項の規定により当該特定機器又は特定記録媒体について定められた額の私的録音録画補償金の支払の請求があつた場合には、当該私的録音録画補償金を支払わなければならない。」と規定している。
(6) 製造業者等の協力義務(法104条の5)
 法104条の5は、「前条第一項の規定により指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者(次条第三項において「製造業者等」という。)は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。」と規定している。
(7) 私的録音録画補償金の額(法104条の6)
 法104条の6は、指定管理団体が私的録音録画補償金を受ける権利を行使する場合における私的録音録画補償金の額について、次のとおり規定している。
 「第百四条の六 第百四条の二第一項の規定により指定管理団体が私的録音録画補償金を受ける権利を行使する場合には、指定管理団体は、私的録音録画補償金の額を定め、文化庁長官の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
 2 前項の認可があつたときは、私的録音録画補償金の額は、第三十条第二項の規定にかかわらず、その認可を受けた額とする。
 3 指定管理団体は、第百四条の四第一項の規定により支払の請求をする私的録音録画補償金に係る第一項の認可の申請に際し、あらかじめ、製造業者等の団体で製造業者等の意見を代表すると認められるものの意見を聴かなければならない。
 4 文化庁長官は、第一項の認可の申請に係る私的録音録画補償金の額が、第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)及び第百四条の四第一項の規定の趣旨、録音又は録画に係る通常の使用料の額その他の事情を考慮した適正な額であると認めるときでなければ、その認可をしてはならない。
 5  文化庁長官は、第一項の認可をしようとするときは、文化審議会に諮問しなければならない。」
 (以下、上記法令の規定で定義された略語を同様の意味で用いる場合がある。)
3 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、平成11年3月26日に設立認可された、著作権者、実演家及びレコード製作者のために、私的録音録画補償金のうち私的録画補償金を受ける権利を行使し、著作権者等の権利者に分配するとともに、著作権及び著作隣接権の保護に関する事業等を実施し、もって文化の発展に寄与することを目的とする社団法人であり、同月30日、著作権法104条の2第1項に基づき、文化庁長官から同項2号の私的録画補償金を受ける団体として指定を受けた唯一の指定管理団体である。
イ 被告は、電子機械器具製造業、計量器、医療機械器具その他機械器具の製造業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告が定めた私的録画補償金の額
 原告が定め、文化庁長官の認可を受けた「私的録画補償金規程」(甲19、51、53)によれば、法104条の4第1項の規定に基づき特定機器の購入時に支払われる特定機器1台当たりの私的録画補償金の額は、平成14年4月1日以降、「当該特定機器の基準価格(製造業者又は輸入業者が国内において最初に流通に供した際の価格に相当する額をいう。以下、同じ。)に1%を乗じて得た額又はデジタル録画機能1個を内蔵する機器にあっては、1000円のいずれか少ない額」とされている。
(3) 原告による私的録画補償金の徴収及び分配の実情
 原告による特定機器に係る私的録画補償金の徴収及び分配は、平成11年7月1日以来、おおむね次のような方法により行われている(別紙「原告の補償金の徴収とその分配」参照)。
ア 特定機器の製造業者は、特定機器を出荷するに際し、私的録画補償金の額に相当する金額(私的録画補償金相当額)を出荷価格に上乗せして、流通業者に販売し、流通業者は、上記私的録画補償金相当額が上乗せされた特定機器の仕入価格(出荷価格)を支払う(別紙「原告の補償金の徴収とその分配」の@、A)。
イ 流通業者は、特定機器を販売するに際し、前記アの私的録画補償金相当額を販売価格に上乗せして、利用者に販売し、利用者は、その購入に当たり、流通業者に対し、上記私的録画補償金相当額が上乗せされた特定機器の販売価格を支払う(別紙「原告の補償金の徴収とその分配」のB、C)。
ウ(ア) 原告は、平成11年7月1日、電子機器及び電子部品産業に関する業界団体である社団法人日本電子機械工業会(平成12年11月1日に、社団法人日本電子工業振興協会と合併し、統合されて社団法人電子情報技術産業協会(略称・JEITA)となった。以下、上記合併の前後を問わず、「JEITA」という。)との間で、@原告が、JEITAに対し、JEITAの会員企業のうち、著作権法104条の5の規定に基づく協力義務の履行として特定機器の購入者から受領して原告に「納入」すべき私的録画補償金相当額をJEITAを経由して原告に「納入」することを希望する者については、その請求及び受領に関する一切の業務を委任すること、AJEITAは、所定の計算期間(「前期計算期間」・当年4月1日から9月末日まで、「後期計算期間」・当年10月1日から翌年3月末日まで)ごとに、上記会員企業のうちの希望者から上記私的録画補償金相当額を受領し、各計算期間終了後6か月以内に、これを原告に支払うことなどを内容とする協定(乙6の1。以下「原告・JEITA間協定」という。)を締結した。
(イ) 原告は、原告・JEITA間協定に基づき、JEITAを通じて、上記(ア)のJEITAの会員企業のうちの希望者である特定機器の製造業者に対し、私的録画補償金相当額の支払を請求し、当該特定機器の製造業者は、JEITAを通じて、原告に対し、特定機器の出荷台数に応じた私的録画補償金相当額を納付(「納入」)する(別紙「原告の補償金の徴収とその分配」のD、E)。
エ 原告は、前記ウ(イ)のとおり支払を受けた私的録画補償金相当額の金銭を、各権利者団体を通じて著作権者等に分配する(別紙「原告の補償金の徴収とその分配」のF)。
(4) 被告による被告各製品の販売等
ア 被告が製造する被告各製品は、別紙製品目録1ないし5記載のとおり、いずれも、地上デジタル放送用、BSデジタル放送用及び110度CSデジタル放送用のチューナー(以下「デジタルチューナー」という。)を搭載するのみで、アナログ放送用のチューナー(以下「アナログチューナー」という。)を搭載していないDVD録画機器(以下「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」という。)であり、また、被告各製品が録画において対応するDVDの規格は、DVD−RAM、DVD−R及びDVD−RWである(甲7、40)。
イ(ア) 被告は、JEITAの会員企業である。
(イ) 被告は、平成21年2月から3月にかけて、被告製品1ないし3を、私的録画補償金相当額をその販売価格に上乗せすることなく販売し、原告・JEITA間協定における支払期限(前記(3)ウ(ア))である同年9月30日までに当該私的録画補償金相当額を原告に支払わず、現在もこれを支払っていない。
(ウ) 被告は、平成21年4月から9月にかけて、被告各製品を、私的録画補償金相当額をその販売価格に上乗せすることなく販売し、原告・JEITA間協定における支払期限(前記(3)ウ(ア))である平成22年3月31日までに当該私的録画補償金相当額を原告に支払わず、現在もこれを支払っていない。
(5) 我が国のデジタル放送の経緯の概要とデジタルコピー制御技術等
ア 平成8年10月1日、我が国のテレビ放送で初めてのデジタル放送として、通信衛星(CS)を利用したデジタル放送(以下「CSデジタル放送」という。)を有料で提供する放送サービス「パーフェクTV!」が開始された。
 上記放送サービスに係るCSデジタル放送においては、有料放送の加入者のみが視聴可能となるよう加入者管理を目的とした限定受信方式を用いたスクランブル放送が行われたが、デジタルコピー制御は運用されなかった。
イ 平成9年7月11日、当時の通商産業大臣は、「民生用デジタルビデオレコーダのコピー世代コントロールシステム」についての「標準情報(TR)」として、CGMS(Copy Generation Management System)と呼ばれるデジタルコピー制御技術を公表した(甲85、88)。
ウ 平成10年10月26日、「地上デジタル放送懇談会」(平成9年6月に当時の郵政省によって地上デジタル放送の円滑な導入の在り方を検討するため設けられた組織)が発表した最終報告書(甲74)において、「アナログ放送からデジタル放送への全面移行を早期に実現することなどを基本的考え方として、デジタル放送を導入する」との方針が示された。
エ 平成12年12月1日、BSデジタル放送が開始された。
 その開始当時、BSデジタル放送のうちの無料放送では、スクランブル放送は行われておらず、デジタルコピー制御も運用されなかった。
 他方、BSデジタル放送のうちの有料放送では、スクランブル放送が行われ、その受信に際して有料放送の加入者のみが視聴可能となるよう加入者管理を目的とした限定受信方式(B−CAS方式)が用いられた。これらの有料放送においては、一定のデジタルコピー制御が運用された。
 このB−CAS方式とは、株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズが提供する限定受信システムであり、同方式においては、デジタル放送が暗号化されて送信され、これを視聴する側は、B−CASカードに格納されている暗号鍵を用いて放送信号を復号化することによって、当該デジタル放送の視聴や録画が可能となる。
オ 平成13年7月25日、電波法の一部を改正する法律(平成13年法律第48号)が施行された。上記法律による改正後の電波法71条の2及び関係省令により、アナログ放送の終了日(アナログ停波の日)、すなわち、地上波放送がデジタル放送に全面移行する日が平成23年7月24日とされた。
カ 平成14年3月1日、110度CSデジタル放送の有料サービスが開始された。その開始当時、110度CSデジタル放送の有料サービスでは、上記エのBSデジタル放送のうちの有料放送と同様にスクランブル放送が行われ、B−CAS方式が用いられるとともに、一定のデジタルコピー制御が運用された。
キ 平成14年6月26日、電波法38条に基づき定められた「標準テレビジョン放送のうちデジタル放送に関する送信の標準方式」(平成11年郵政省令第102号)の一部を改正する省令(平成14年総務省令第68号)が施行された。上記省令改正により、それまで認められていなかった無料放送におけるスクランブル放送の実施が可能となった。
ク 平成15年12月1日、地上デジタル放送が開始された。
 開始当初の地上デジタル放送では、スクランブル放送は行われておらず、かつ、デジタルコピー制御も運用されていなかった。
ケ 平成16年4月5日、地上デジタル放送において、スクランブル放送とともに、B−CAS方式及び「コピー・ワンス」によるデジタルコピー制御の運用が開始された。
 このコピー・ワンスとは、録画機器に内蔵のハードディスクドライブ(以下「HDD」という。)にデジタル方式で録画された放送影像を、HDDに録画データを残したままで他の録画媒体に複製(コピー)することはできず、HDD内の録画データを削除すると同時に他の録画媒体に移動(ムーブ)することのみが可能とされたデジタルコピー制御技術である。
コ 平成20年7月4日、地上デジタル放送におけるデジタルコピー制御技術として、それまでのコピー・ワンスに替わり、「ダビング10」の運用が開始された。
 このダビング10とは、録画機器に内蔵のHDDにデジタル方式で録画された放送影像を、9回までHDDに録画データを残したままで他の録画媒体に複製(コピー)することができ、その後は1回だけHDD内の録画データを削除すると同時に他の録画媒体に移動(ムーブ)することが可能とされたデジタルコピー制御技術である。
4 争点
 本件の争点は、@アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品が施行令1条2項3号の規定する特定機器に該当するか(争点1)、A被告が、原告に対し、法104条の5の協力義務として、被告が販売した被告各製品に係る私的録画補償金相当額を支払うべき法律上の義務を負うか(争点2)、B原告主張の被告による不法行為が成立するか(争点3)、C被告各製品による録画について著作権者等の許諾があるものといえるか(争点4)、D原告が、被告に対し、法104条の5の協力義務の履行として、又は不法行為による損害賠償として、支払を請求し得る被告各製品に係る私的録画補償金相当額又は損害額(争点5)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について
(1) 原告の主張
 被告各製品は、以下のとおり、施行令1条2項3号ロ及びハに掲げる機器であって主として録画の用に供するものであるから、私的録画補償金の対象となるデジタル方式の録画の機能を有する特定機器(法30条2項の政令で定める機器のうち録画の機能を有するもの)に該当する。
ア 施行令1条2項3号ロ及びハが規定する要件
(ア) 施行令1条2項は、同項各号の要件を充足する機器であって、主として録画の用に供するものを特定機器と定めているが、本件で問題となる同項3号ロ及びハが規定する要件は、以下のaないしcの各部分から成り立っている。
a 「デジタル影像の録画機器」であることを規定した部分
 施行令1条2項3号のうち、「光学的方法により」、「アナログデジタル変換が行われた影像を」、「連続して固定する機能を有する機器」とされている部分は、アナログ影像から変換されたデジタル影像を光学的方法により録画する機能を有する機器、すなわち「デジタル影像の録画機器」であることを意味している。
b 録画する「記録媒体」を特定した部分
 施行令1条2項3号ロ及びハのうち、「直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するもの」、「ロ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの」、「ハ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続していないもの」とされている部分は、デジタル影像を記録する対象である「記録媒体」を特定した部分である。
 そして、前記第2の2(2)イ(イ)記載のとおり、施行令1条2項3号ロが特定する「記録媒体」は、DVD−R、DVD−RW、DVD+R及びDVD+RWの各仕様に係るDVDであり、同号ハが特定する「記録媒体」は、DVD−RAMの仕様に係るDVDである。
c 「標本化周波数」に関する要件
 施行令1条2項3号のうち、「特定の標本化周波数で」、「いずれの標本化周波数によるものであるかを問わず」とされている部分は、「標本化周波数」、すなわち、音声や影像等のアナログ波形をデジタルデータに変換するために必要な処理である標本化(サンプリング)において、単位時間当たりに標本を採る頻度について規定した部分である。
 しかし、施行令1条2項3号は、この「標本化周波数」に関して、「特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像」としており、結局のところ、アナログ影像から変換されたデジタル影像は、その変換に当たっての「標本化周波数」のいかんに関わらず、すべて含まれるように規定している。
 したがって、施行令1条2項3号本文の「標本化周波数」に関する要件は、特定機器への該当性において、実質的な意味を持たないものといえる。
(イ) 要件のまとめ
 以上によれば、施行令1条2項3号ロは、「アナログ影像から変換されたデジタル影像を、@DVD−R、ADVD−RW、BDVD+R又はCDVD+RWに録画することを主たる目的とした機器」を、同号ハは、「アナログ影像から変換されたデジタル影像を、DVD-RAMに録画することを主たる目的とした機器」を、それぞれ特定機器として規定したものである。
イ 被告各製品の施行令1条2項3号の該当性
 被告各製品は、いずれも、「アナログ影像から変換されたデジタル影像を、DVD−R、DVD−RW及びDVD−RAMに録画することを主たる目的とする機器」である。
 したがって、被告各製品は、いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当する。
ウ 被告の主張に対する反論
(ア) 施行令1条の2の条文を根拠とする被告の主張が失当であること
 被告は、後記(2)エのとおり、施行令1条2項3号が、施行令1条の2において用いられている「デジタル方式」との文言を用いずに、「アナログデジタル変換が行われた影像」を「連続して固定する機能を有する機器」としていることをもって、「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、当該機器内においてアナログデジタル変換(アナログ信号をデジタル信号に変換すること。以下「AD変換」という場合がある。)が行われた影像に限られるものとし、アナログチューナーの搭載が特定機器の要件である旨主張する。
 しかし、被告のかかる主張は、次のとおり失当である。
a まず、「アナログチューナーが搭載されているか否か」という事情は、製造業者ごとの創意工夫により多種多様に異なる「録画機器の仕様」の一種にすぎず、上記のとおり「記録媒体」の技術的仕様を中心とした客観的要件を充足するか否かという極めて客観的な判断である特定機器への該当性の判断に影響を及ぼすものではない。
b また、被告が問題視する「アナログデジタル変換が行われた影像」という文言は、施行令1条1項1号により明確に定義されているところ、この要件にアナログデジタル変換が行われる「場所の限定」は含まれていない。
 すなわち、「アナログデジタル変換」という文言は、録音に関する特定機器を規定した施行令1条1項1号において「アナログ信号をデジタル信号に変換すること」であると明確に定義され、かつ、同条において同じ意味を有するとされているところ、この定義上、「録画機器内において」という変換の場所を限定する要件は含まれていない。
c さらに、被告は、何ら理由を述べることなく、「特定記録媒体」を規定した施行令1条の2の文言と「特定機器」を規定した施行令1条2項3号の文言とを比較して、上記の主張をするが、録画に係る「特定機器」に関する規定の内容を検討するのであれば、まずもって比較すべきは、録音に係る「特定機器」を規定した施行令1条1項各号のはずである。
 そして、施行令1条1項各号においては、「アナログデジタル変換が行われた音」を録音する機器が「特定機器」に指定されているところ、そもそも録音機器にアナログチューナーが搭載されることはないから、「アナログチューナーの搭載」が特定機器の要件とされていないことは明らかである。すなわち、録音機器においては、録音機器の外においてアナログデジタル変換が行われた音を録音する機器であっても、「記録媒体」の技術的仕様の要件を充足すれば、特定機器に該当するものとされているのである。
 してみると、施行令1条1項各号と同様に「アナログデジタル変換が行われた」影像との文言が使用されている施行令1条2項3号についてのみ、文言にはない「アナログチューナーの搭載」を要件とする被告の主張は失当である。
(イ) 著作権保護技術の存在は特定機器該当性の判断に影響を及ぼさないこと
 被告は、後記(2)アのとおり、「ダビング10」という著作権保護技術がデジタル放送に導入されていることを理由として、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は特定機器に該当しない旨主張する。
 しかし、被告のかかる主張は、次のとおり失当である。
a 特定機器への該当性の判断は、施行令1条2項3号の定める「記録媒体」の技術的仕様を中心とした客観的要件を充足するか否かという極めて客観的な判断であり、「ダビング10」という著作権保護技術の有無については、施行令のどこにも要件として規定されておらず、上記判断とは無関係である。
b 法30条2項の下では、利用者の私的録音録画補償金支払義務は、私的録音又は私的録画を行う都度発生するのであり、利用者は、一度しか私的録画を行わない場合でも、当該一回の私的録画についての補償金を支払わなければならない。
 しかるところ、ダビング10の下では、利用者は、9回のコピーと1回のムーブにより10回の私的録画を行うことが可能なのであるから、少なくとも10回を限度として実際に行った私的録画に関する補償金を支払わなければならない。
 してみると、現行の法30条2項を改正しない限り、ダビング10が導入されているからという理由に基づき、私的録画補償金の支払が不要であるという結論を導くことは理論的に不可能というべきである。
c 被告は、施行令1条2項3号が制定された平成12年7月当時には、地上デジタル放送への著作権保護技術の導入は想定されていなかった旨主張するが、以下のとおり、それは誤りである。
(a) まず、現行の私的録音録画補償金制度は、平成4年の導入当時から、著作権保護技術の存在を前提とした制度である。このことは、平成4年法改正の基礎となった「著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書」(以下「第10小委員会報告書」という。)に、「(2) 技術的制限について」として、「SCMS方式のような複製についての技術的制限は著作権等との関連はあるものの報酬請求権制度とは別に議論すべき問題であると考えられる。」(甲44・4490頁)と記載されていることなどから明らかである。
 なお、SCMS(Serial Copy Management System)とは、DAT(Digital Audio Tape)、MD、CDレコーダーなどのデジタル録音機器に付加されているコピー制御技術である。
(b) また、施行令1条2項3号が制定される前の平成9年5月には、デジタル録画機器に搭載されるべきコピー制御について、機器の製造業者と著作権者等との間で合意がされ、以来、DVD録画機器を含むすべてのデジタル録画機器にコピー制御が搭載されてきた。
 すなわち、デジタル録画機器の製造業者と著作権者等の団体は、平成9年5月30日、共同して「標準情報提案書」(甲85)を当時の通商産業大臣に提出しているが、その中で、デジタル録画機器にコピー制御を標準的に搭載することが必要であるとの認識の下、デジタル録画機器に搭載すべきコピー制御技術として、CGMS(Copy Generation Management System)と呼ばれるコピー制御技術に関する情報を、「標準情報(TR)」として公表することを提案している。
 その後、上記コピー制御技術(CGMS)は、平成9年7月1日に「標準情報」として公表されたが(甲88)、それ以降現在に至るまで、ほぼすべてのデジタル録画機器(平成8、9年に発売が開始されたDVC録画機器、D−VHS録画機器、平成11年12月に発売が開始されたDVD録画機器を含む。)にこのコピー制御技術(CGMS)が搭載されている(甲89の1ないし11)。
(c) さらに、被告は、施行令1条2項3号が制定された平成12年7月当時、地上デジタル放送に対してダビング10のような著作権保護技術を導入することは法令上不可能であった旨を主張するが、これは誤りである。
 すなわち、平成12年7月当時、導入することが法令上不可能であったのは、「無料デジタル放送におけるスクランブル」であって、コピー制御自体は、無料デジタル放送についても法令上実施することが可能であった。そもそも当時、法令上不可能であった「スクランブル」とは、「影像や音声信号をエンコーダと呼ばれる特殊な装置で一定の番号化法則に基づいて攪乱すること」であり、放送に対するアクセスをコントロールするために用いられるものであって、コピーをコントロールするために用いられるコピー制御とは全く異質のものである。
 したがって、「スクランブル」が法令上不可能であったことを根拠として、地上デジタル放送に対してダビング10のような著作権保護技術を導入することが法令上不可能であったとするのは誤りである。
(ウ) 特定機器の要件と「関係者の合意」は無関係であること
 被告は、後記(2)イのとおり、私的録音録画補償金制度制度は当事者間の合意の上に成り立っている制度であり、当事者の合意が崩れれば砕け散る制度であるなどとして、実質的には、関係者の合意があることが特定機器に該当するための要件である旨を主張する。
 しかし、被告のかかる主張は、次のとおり失当である。
a まず、「関係者の合意」などという要件は、施行令1条2項3号には規定されておらず、また、そもそも被告のいう「関係者」の範囲も不明確であって、このような不明確な要件で客観的な「特定機器」の範囲を画すことなど不可能であるから、被告のいう「関係者の合意」は、およそ法律上の要件とはなり得ない。
b また、被告は、私的録音録画補償金制度が「当事者間の合意の上に成り立っている制度」であり、「当事者の合意が崩れれば砕け散る制度である」ことをその主張の根拠とする。
 しかしながら、私的録音録画補償金制度は、いやしくも法第5章及び施行令という法律及び政令により規定された法制度である。そして、立法過程において、関係省庁が利害関係者の意見を徴したり、利害の調整を行うといったことは、ごく一般的に行われていることであり、ある法制度を創設する立法過程において利害関係者の意見調整等が行われたからといって、その法制度が「当事者の合意が崩れれば砕け散る制度である」ことにはならない。立法過程において様々な議論がなされたにせよ、法案が国会において審議され、可決されて法律として成立すれば、当該法制度は、当然、遵守されなければならない。法律が成立した後に、ある関係者が「自分はやはりこの制度を遵守したくない」と言い出したからといって、当該法制度が「砕け散る」などということはあり得ない。
 この理は当然、私的録音録画補償金制度についても妥当するものであり、いったん著作権法を改正する法律が成立し、法制度として私的録音録画補償金制度が確立された以上、その制度をもって「当事者の合意が崩れれば砕け散る制度である」と決めつける被告の主張は失当である。
c さらに、被告は、平成12年7月の施行令1条2項3号制定当時には、アナログチューナー非搭載DVD録画機器が全く想定されていなかった旨主張する。
 しかしながら、平成12年7月当時には、既に地上デジタル放送への完全移行の方針は決まっていたのであり(甲74)、完全移行されれば録画機器にアナログチューナーが不要となることは明らかであるから、デジタル放送専用のアナログチューナー非搭載DVD録画機器が出現することは、当然想定されていた。
(エ) 被告の「二重の負担」論、「二重の利得」論が誤りであること被告は、後記(2)ウ(ア)のとおり、ダビング10が導入されている中で私的録画補償金が課せられれば、消費者は「二重の負担」を強いられることになる一方で、権利者は「二重の利得」を得ることになって妥当でない旨を主張する。
 しかしながら、ダビング10の下では、利用者は、録画機器1台につき、あらゆるコンテンツをそれぞれ10回コピーすることが可能なのであるから、ごく一般的に想定される私的録画は自由に行い得るし、実際にも録画を何ら支障なく行っている。他方で、法30条2項によれば、利用者は、1回でも私的録画を行えば、当該録画につき補償金を支払わなければならないのであるから、上記のようなダビング10の下で私的録画補償金を支払ったとしても、「二重の負担」を課せられたことにはならない。
 また、ダビング10の下においても、録画機器1台当たり10回の録画が行われ得ることからすれば、ダビング10によるコピー制限が行われたからといって権利者が特に利益を得るわけではなく、むしろ、一般的に想定される私的複製が行われている以上、複製権が制限されることの代償たる補償金の必要性は厳然と存在するのであるから、ダビング10の下で権利者が私的録画補償金を受け取ったとしても、「二重の利得」を得るという事態にはならない。
 したがって、被告の「二重の負担」及び「二重の利得」に関する上記主張が失当であることは明らかである。
エ 小括
 以上のとおり、被告各製品が施行令1条2項3号の特定機器に該当することは明らかである。
(2) 被告の主張
 以下に述べるとおり、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は、施行令1条2項3号の特定機器に含まれないと解すべきであるから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品は、同号の特定機器に当たらない。
ア 法30条2項及び施行令1条2項3号の趣旨からする特定機器非該当
(著作権保護技術関係)
 私的録音録画補償金制度の趣旨、すなわち、法30条2項及びその委任を受けた施行令1条2項3号の趣旨からすれば、特定機器がアナログチューナー非搭載DVD録画機器を含むものと解することはできない。
(ア) 法30条2項が定める私的録音録画補償金制度は、平成4年法改正により創設されたが、これに先立つ平成3年12月に「第10小委員会報告書」(乙1)が文化庁から公表されており、平成4年法改正は、上記報告書を受けて行われたものである。
 しかるところ、第10小委員会報告書は、@著作権法「30条が私的録音・録画は自由かつ無償であることを規定した背景としては、立法当時において、私的録音・録画は著作物等の利用に関して零細なものであると予想されており」という認識の下に、A「現在では、私的録音・録画は著作物等の有力な利用形態として、広範に、かつ、大量に行われており、さらに、今後のデジタル技術の発達普及によって質的にも市販のCDやビデオと同等の高品質の複製物が作成されうる状況となりつつある。」と現状を分析し、B「これらの実態を踏まえれば、私的録音・録画は、総体として、その量的な側面からも、質的な側面からも、立法当時予定していたような実態を超えて」いるものととらえ、C「現行法立法当時には予測できなかった不利益から著作者等の利益を保護する必要が生じている」として、制度導入の必要性を述べ、D「私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行法第30条の規定は維持)としつつも、私的録音・録画を自由とする代償、つまり一種の補償措置として報酬請求権制度を導入する。」という提言をしている。
 これによれば、法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨としては、「私的録音・録画は従来どおり自由とすること」を前提として、私的録音・録画が従来のように「零細なもの」であれば補償金制度は不要であったところ、私的録音・録画が「広範かつ大量、さらに高品質の複製」としてされ得る状況となりつつあったことが、著作権者等への代償措置である私的録音録画補償金制度導入の主たる根拠となっていることは、明らかである。
 平成12年7月14日、平成12年改正政令により、政令1条2項3号に特定機器としてMVdisc、DVD−RW、DVD−RAMが追加指定されたが、上記で述べた私的録音録画補償金制度の趣旨に変わりはないはずである。
 しかるところ、デジタル放送においては、著作権保護技術、とりわけ技術的保護手段に該当する技術によって、複製を制限することが可能であるから、上記のように「広範かつ大量に」複製が行われることは想定されない。現に、平成15年12月1日に開始された地上デジタル放送においては、平成16年4月5日からコピー・ワンスという第1世代のみの録画が可能となるように制御する著作権保護技術を用いた放送が行われ、その後平成20年7月4日からは、このコピー・ワンスによるコピー世代管理手段を前提に、ダビング10という方式に拡張運用され、著作権保護技術が用いられている。
 このような著作権保護技術の下では、「広範かつ大量に」、また「高品質の」「複製」はされ得ないことになるから、かかる著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画することが可能な「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」には、前記のような法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しない。
 したがって、「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」は、法30条2項の「録画の機能を有する機器」には含まれず、また、そうである以上、法30条2項から委任を受けた政令である施行令1条2項3号の特定機器にも含まれないものと解すべきである。
(イ)a 施行令1条2項3号の規定が制定された平成12年7月14日当時は、CSデジタル放送以外の無料放送について著作権を保護するためにスクランブル放送を送信することは、法令上不可能だったのであり、その後、平成14年6月26日総務省令第68号によって、無料放送でのスクランブル送信が初めて可能となり、更にその後、平成15年12月1日に地上デジタル放送が開始され、平成16年4月5日からコピー・ワンスの運用が開始されるに至ったのである。
 以上の経緯からすれば、施行令1条2項3号が制定された平成12年7月当時には、地上デジタル放送への著作権保護技術の導入は、そもそも法令上不可能であり、施行令1条2項3号の前提として想定されていなかったことが明らかである。
b この点について原告は、平成12年7月当時、法令上不可能であったのは、「無料デジタル放送におけるスクランブル」であって、コピー制御自体は、無料デジタル放送についても法令上実施することが可能であった旨主張するが、コピー制御技術は、スクランブルという暗号技術による強制手段と組み合わせて初めて実効性を有するものであるから、両者を切り離して論じる原告の主張は失当である。
c そうすると、施行令1条2項3号制定当時には、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器は、全く想定されていなかったのであり、このことは、上記当時、そもそもアナログチューナー非搭載DVD録画機器が、実際に存在していなかったことからも明らかである。
 したがって、施行令1条2項3号制定時の内閣の意思としても、アナログチューナー非搭載DVD録画機器を特定機器に指定する趣旨ではなかったというべきである。
イ 関係者の合意ないしコンセンサスを形成する必要性及びその不存在
 以下に述べるとおり、私的録音録画補償金制度の特異な性質及びその法的な仕組み等に照らせば、特定機器の範囲は、関係者の合意ないしコンセンサスを得て決められるべきものであるところ、施行令1条2項3号制定当時において、アナログチューナー非搭載DVD録画機器が特定機器に含まれることについては、購入者(消費者)や製造業者等の理解が得られていなかったから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は、施行令1条2項3号の特定機器には含まれないというべきである。
(ア) 私的録音録画補償金制度については、平成4年の導入時から、「メーカーや権利者など関係者間で必要な協議を行い、速やかに立法措置を講ずることが適切であ」り、「もとより、著作権制度は国民の広範な支持の上に成り立つものであり、この制度の円滑な導入のためには、この制度も含めて著作権等の保護について、ユーザーの理解を深めることに配慮する必要がある」ということが指摘されていた(第10小委員会報告書・乙1)。
 これに加え、中山信弘東京大学名誉教授は、その意見書(乙23。以下「中山意見書」という。)において、私的録音録画補償金制度の本質、特異性について、「この制度は当事者間の合意の上に成り立っている制度」であり、「当事者の合意が崩れれば砕け散る制度である」という意味において、「極めてもろいガラス細工の制度」であると評し、「その基盤は極めて脆弱であり、制度としては極めてもろいものであって、当事者の不断の努力の上に、始めて成立するという特異な制度である。」と指摘している(乙23・2頁)。
 このような私的録音録画補償金制度が根本的に有する特異な性質からすれば、同制度に関する問題の解決には、関係者間の意思を調整し、その合意を形成することが必要不可欠であることは明らかであり、このことは、私的録音録画補償金制度の導入時には想定されていなかった機器が出現した場合に、これを同制度の対象となる特定機器に含めるか否かという問題を解決するに当たっても妥当するものである。
(イ) また、私的録音録画補償金は、本来、個々の録音又は録画ごとに支払われるべきものであり、著作権者等から消費者(利用者)に対して直接請求がされ、消費者(利用者)から著作権者等に直接支払われるべきものであって、法30条2項はまさにその旨を規定している。その上で、法は、補償金支払の特例として、指定管理団体から補償金の支払請求を受けた購入者(消費者)は、特定機器を購入する際に一括して補償金を支払い(法104条の4第1項)、特定機器の製造業者等は当該補償金の請求及び受領に協力する(法104条の5)ものとしている。
 すなわち、法は、請求及び受領のための手間に対する便宜という、私的録音録画補償金の本質とは関係のない技術的な理由により、特例として、購入者(消費者)が特定機器を購入する際に一括して補償金を支払い、特定機器の製造業者等が当該補償金の請求及び受領に協力するという複雑な仕組みを採用しているのである。
 このような法的な仕組みを前提とすれば、私的録音録画補償金制度は、購入者(消費者)や製造業者等の理解の下に協力を得ることで初めて成り立ち得るものであって、これらの者を含めた関係者間の合意の下に進めていくべきものであるというのが、法の趣旨と考えられる。
 このことは、新たな技術による機器が登場するたびに、個別の機器を逐一細かく検討し、関係者間の合意ないしコンセンサスを得た上で、施行令に追加するという事実が積み重ねられてきた私的録音録画補償金制度の実際の運用からも裏付けられる。
(ウ) 以上のような法の趣旨を踏まえれば、購入者(消費者)や製造業者等の理解やコンセンサスを得た上で録音録画機器を特定機器に指定するのが、法30条2項に基づいて特定機器を指定する施行令を制定する内閣の制定意思であると考えられるから、当該施行令の規定の解釈に当たっても、かかる内閣の意思に照らし、特定機器の範囲を、施行令制定時において購入者(消費者)や製造業者等の理解が得られていた範囲に限定する厳格な解釈を行うべきである。
 そして、平成12年7月の施行令1条2項3号制定当時には、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器が全く想定されていなかったのであり(前記ア(イ))、そうである以上、その当時において、アナログチューナー非搭載DVD録画機器が特定機器に含まれることについて、購入者(消費者)や製造業者等の理解やコンセンサスが得られていなかったことは明らかである。
 したがって、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は、施行令1条2項3号の特定機器に該当しない。
ウ 特定機器該当性を否定すべきその他の実質的理由
(ア) 「二重の負担」・「二重の利得」
a 地上デジタル放送においては、平成16年4月5日からはコピー・ワンス、平成20年7月4日からはダビング10という著作権保護技術が採用されていることから、地上デジタル放送に対応した録画機器については、このような著作権保護技術に対応した部品及びプログラムを組み込むという措置が講じられ、当該措置のために必要となるコストは、録画機器の販売価格に上乗せされる形で最終的には消費者が負担している。
 このような状況の下で、地上デジタル放送に対応した録画機器に私的録画補償金が課されることになれば、購入者(消費者)は、著作権保護技術の対応コストと私的録画補償金という二重の負担を負うこととなるのであり、とりわけ、「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」においては、著作権保護技術が用いられていないアナログ放送のデジタル録画を行うことはできず、デジタル放送のデジタル録画という同一の録画行為について、かかる二重の負担を負わされることとなるから、その不合理性は明らかである。
b 他方、著作権者等は、地上デジタル放送に関して、著作権保護技術を使用して権利を行使する際に、放送許諾料の受領その他により、適切に利益を得ることができる(少なくとも、著作権保護技術により、消費者による私的複製の範囲をコントロールできるから、私的複製による経済的損失の範囲を受忍し得る限度内にとどめることができる。)。そして、地上デジタル放送においては、ダビング10という著作権保護技術が一律に講じられているから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器については、すべての録画が著作権保護技術に服する放送の録画であるということになる。
 このような状況の下で、アナログチューナー非搭載DVD録画機器に私的録画補償金が課されることになれば、著作権保護技術を用いて私的複製を制限し、それによって既に私的複製の制限の下において適切な利益を得ている著作権者等に対して、更に私的録画補償金請求権という二重の利得を認めることになる。
c 以上のとおり、アナログチューナー非搭載DVD録画機器について、消費者に二重の負担を負わせたり、著作権者等に二重の利得を認めたりすることは、利用者と著作権者等との利益調整を図ったものとされる法30条2項の趣旨に反するのであって、アナログチューナー非搭載DVD録画機器については、私的録音録画補償金制度の趣旨が妥当しないというべきである。
(イ) 一般的・類型的に補償金の対象となる私的録画に使用される可能性がない録画機器であること
 そもそも、一般的・類型的に補償金の対象となる私的録画に使用される可能性がない録画機器は、特定機器には該当しないと解すべきである。
 この観点から、アナログチューナー非搭載DVD録画機器をみると、後記4(1)で述べるとおり、アナログチューナー非搭載DVD録画機器による録画については、著作権者等の許諾があるものと評価される。
 そして、著作権者等の許諾のある私的録画については、法30条2項等の私的録画補償金に関する規定の適用はないというべきであるから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は、一般的・類型的に補償金の対象となる私的録画に使用される可能性がない録画機器ということができ、特定機器には該当しないものである。
エ 施行令1条2項3号の文言
 以下に述べるとおり、施行令2条1項3号柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、デジタル方式の録画の機能を有する機器の内部でAD変換が行われた影像に限られるものと解すべきであるから、アナログチューナーを搭載していないため当該機器内においてAD変換が行われることがないアナログチューナー非搭載DVD録画機器は、「アナログデジタル変換が行われた影像」を固定する機能を有する機器とはいえず、施行令1条2項3号の特定機器には該当しない。
(ア) 施行令1条の2第1項は録音の用に供される記録媒体を、同条2項は録画の用に供される記録媒体を、それぞれ私的録音録画補償金の対象となる「特定記録媒体」として規定しているが、これらの規定では、いずれも「デジタル方式」との文言が用いられいる。
 してみると、施行令1条2項3号においても、AD変換が行われる場所のいかんを問わずに特定機器として指定するのであれば、施行令1条の2と同様に、「デジタル方式」との文言を用いて、「デジタル方式で、影像を連続して固定する機能を有する機器」と規定するはずである。
 それにもかかわらず、施行令1条2項3号においては、あえて「アナログデジタル変換が行われた影像を…連続して固定する機能を有する機器」という文言が用いられているのであり、このことは、同号が、影像をDVDに記録する方式がデジタルであるというだけではなく、機器の中でAD変換が行われることを前提にしているからにほかならない。
(イ) 法30条2項は、「機器」を定めることを政令に委任していること、施行令1条2項柱書に「次に掲げる機器」と明記されていること、施行令1条に「特定機器」という条見出しが付されていることなどからすれば、法及び施行令が機器の性質に着目して特定機器を指定していることは明らかである。
 そうすると、施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、機器の外で変換が行われたものではなく、機器内で変換が行われたものに限られると解すべきである。
オ 小括
 以上によれば、アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品は、施行令1条2項3号の特定機器に該当しないというべきである。
2 争点2(法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無)について
(1) 原告の主張
ア 法104条の5の協力義務の法的性質及び具体的内容
(ア) 協力義務の法的性質
 前記1(1)のとおり、被告各製品はいずれも法30条2項の私的録画補償金の対象となる特定機器に該当するから、指定管理団体である原告は、被告各製品の購入者に対し、法104条の4第1項に基づき、その購入に当たり、被告各製品を用いて行う私的録画に係る私的録画補償金の一括の支払として、法104条の6第1項の規定により当該特定機器について定められた額の私的録画補償金の支払を請求することができる。
 被告各製品の製造業者である被告は、法104条の5に基づき、指定管理団体である原告に対し、上記私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力義務を負っている。
 このように特定機器の製造業者等に対し協力義務を課した法104条の5は、単なる訓示規定ではなく、法的に強制される具体的な義務を規定した効力規定であると解すべきである。
(イ) 協力義務の具体的内容
a 法104条の5が規定する製造業者等の「協力」とは、特定機器の製造業者等が、特定機器の販売価格に補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、指定管理団体に対し、当該補償金相当額の金銭を支払うことを意味するから、私的録画に係る特定機器の製造業者は、同条の協力義務として、利用者との関係では、特定機器の出荷価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収する義務(以下「補償金徴収義務」という。)を負い、指定管理団体である原告との関係では、自らが出荷する特定機器に係る私的録画補償金相当額の金銭を支払う義務(以下「補償金相当額支払義務」という。)を負っている。
 このように法104条の5に基づき私的録画に係る特定機器の製造業者が負う協力義務の具体的な内容は、補償金徴収義務及び補償金相当額支払義務からなる法的義務である。この補償金徴収義務と補償金相当額支払義務は、それぞれ別個の義務であって、仮に製造業者が利用者との関係で補償金徴収義務を履行しない場合でも、原告との関係で補償金相当額支払義務は履行しなければならない。
b また、私的録音録画補償金制度の仕組み(前記第2の2)からすれば、私的録画に係る特定機器の製造業者には、およそ当該特定機器を出荷するに際して、私的録画補償金相当額を出荷価格に上乗せして流通業者に出荷しなければならない法的義務がある以上、製造業者が特定機器を出荷した場合、法的にみれば、出荷した時点で私的録画補償金相当額を回収したとみなされるものといえる。
 このような観点からみると、法104条の5に基づき私的録画に係る特定機器の製造業者が負う協力義務の具体的内容は、上記補償金徴収義務及び補償金相当額支払義務と構成するほかに、「出荷時点で回収したと評価される特定機器に係る私的録画補償金相当額を原告に対して支払う義務」と構成することも可能である。
イ 解釈の根拠
 次の(ア)ないし(キ)の諸点を総合すれば、法104条の5の協力義務の法的性質及び内容は、前記アのとおりに解釈すべきである。
(ア) 法第5章が規定する私的録音録画補償金制度の仕組みないし制度設計それ自体
a 従来、個人的に又は家庭内において行われる複製行為は、量的にも零細であり、著作権者等の権利を不当に害するものではないという考えに基づき、著作権者等の権利が及ばないこととされていた。
 しかしながら、複製技術、とりわけデジタル技術の発達普及により、個人や家庭においても、質的に市販のCDやビデオと同等の高品質の複製物を大量かつ容易に作成することが可能となり、実際にも私的使用目的の複製が劇的に増加した。
 このような状況下においては、私的な領域内といえども、もはや閉鎖的な範囲内における零細な利用とみることはできず、またオリジナル品の中古品市場への流出などにより、全体としてみれば、著作権者等の利益に与える影響も深刻なものになる。
 さらに、国際的にみても、ドイツやフランスをはじめとするヨーロッパ諸国を中心に権利者に対する一定の補償措置を導入する国が増加する傾向にあり、さらに、アメリカにおいても平成4年にデジタル方式の録音について補償金制度を導入する法律が成立した。
 上記のような国民生活における録音録画機器の利用の拡大や国際的な動向を受け、平成4年の著作権法改正により法30条2項及び法第5章が追加され、私的使用を目的としてデジタル方式の機器を用いて行った録音・録画について、著作権者等に補償金(私的録音録画補償金)の支払を受ける権利が認められるに至った。
 すなわち、著作権法30条1項は、著作権の制限条項の一つとして、著作権の目的となっている著作物について、私的使用を目的とする場合には、原則として自由に複製し得る旨規定しているが、他方で、同条2項は、私的使用を目的とする場合であっても、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する一定の機器を用いて録音又は録画を行う場合については、著作権者等に対して相当の補償金を支払わなければならない旨規定している。
 つまり、複製権たる録音・録画権の制限に対する「代償措置」として、著作権者等には、補償金の支払を受ける権利が認められている。
 このように著作権者等は、私的使用目的でデジタル録音・録画する者に補償金を請求できるが、私的使用においては、使用者が大量かつ広範囲に及ぶことから、著作権者等が、個々の録音・録画の実態を把握して補償金請求権を行使することは事実上不可能である。他方で、使用者も、私的録音・録画の都度、個々の権利者に対して補償金を支払うことは、非現実的である。
 そこで、著作権法は、法第5章(法104条の2から104条の10)において、私的録音録画補償金制度の実効性を確保するための制度を用意している。
 具体的には、著作権法は、上記のような補償金の徴収・支払のコストを低減すべく、「集中管理方式」を採用し、個々の著作権者等に補償金請求権の行使を認めず、文化庁長官が指定する指定管理団体によってのみ権利行使をさせることとしている(著作権法104条の2第1項)。私的録画に関しては、原告のみがこの指定管理団体として文化庁長官により指定されている。
b 前記aのとおり、法30条2項に規定された私的録画補償金を受ける権利は、指定管理団体たる原告のみが行使することができ、個々の権利者が行使することはできない(著作権法104条の2第1項)。
 ところが、原告が、大量かつ日本全国に及ぶ利用者の特定機器による私的録画の実態を把握し、個々の利用者が特定機器を利用して私的録画をするごとに、個々の利用者に対して法30条2項の「相当の額」を請求し、徴収することは、非現実的であり、不可能といえる。他方で、一般の利用者の立場からすれば、特定機器の購入時に私的録画補償金を支払わないとなれば、法律上課せられた私的録画補償金支払義務を履行することができない事態となる。
 そこで、法104条の4第1項は、私的録画補償金の支払に要するコストを低く抑えつつ、権利者と利用者の間の私的録画補償金のやり取りを実現可能なものとするために、製造業者等による特定機器の「販売行為」をとらえ、原告からの請求があった場合には、特定機器の利用者が、その購入に当たり、私的録画補償金を一括して支払うものとし、さらに、法104条の5は、私的録画補償金の「支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。」として、特定機器の製造業者等に協力義務を課している。そして、利用者は、特定機器の購入時に私的録画補償金を一括して支払えば、法30条2項に関わらず、「私的録画を行うに当たり、私的録音録画補償金を支払うことを要しない」とされているのである(著作権法104条の4第3項)。
 このように私的録画補償金制度が制度設計されている以上、製造業者等が、特定機器の出荷価格に私的録画補償金に相当する額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収し、原告に対して当該補償金相当額の金銭を納付しなければ、現在運用されている私的録画補償金制度自体が機能しなくなり、実効性を欠いた制度となってしまう。
 そうである以上、製造業者等が行うべき私的録画補償金の「支払の請求及びその受領」に関する「協力」とは、特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額の金銭を支払うことであると解釈するほかない。
 そして、製造業者等に対し協力義務を課した法104条の5が、私的録音録画補償金制度のまさに「核」、すなわち同条が機能しなければ制度自体が機能しないものとして規定された条文であることからすれば、同条は、訓示規定などではなく、法的に強制される義務を規定した効力規定にほかならないと解すべきである。
(イ) 法104条の5の文言
 法104条の5は「私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関する協力」を特定機器の製造業者に対して義務づけている。
 この「支払の請求及びその受領」とは、指定管理団体である原告が特定機器の各購入者に対して行う私的録画補償金の一括支払の請求及び各購入者が原告に対して支払う私的録画補償金の受領であるところ、かかる請求及び受領に関して製造業者が「協力」するとなれば、特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売し、各購入者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付すること以外には考えられない。
 すなわち、法104条の5の文言からしても、製造業者が行うべき「協力」とは、特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付することであると解するほかない。
(ウ) 立法者等の意思
 法104条の5が、単なる訓示規定ではなく、法的に強制される具体的な義務を規定した効力規定であることは、以下のとおり、私的録音録画補償金制度を導入した平成4年改正法の法案を可決した第125回国会(以下「第125回国会」という。)の審議における政府委員等の発言や当該改正の基礎となった第10小委員会報告書の記載に示された立法者ないし法案立案者の意思からも根拠づけられる。
a 第125回国会の衆議院及び参議院の各文教委員会の議事録中の政府委員や参考人等の発言(甲42・3頁第4段、8頁第4段〜9頁第2段、12頁第4段、甲43・15頁第1段、17頁第1〜2段、22頁第3段)及び第10小委員会報告書の記載(甲44・4480〜4481頁)においては、私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領において製造業者等が行う協力の内容として、機器の販売に際して、その価格に補償金相当額を上乗せして徴収し、これを権利者に還元する方法が想定されていたことが示されている。
b 第125回国会の衆議院文教委員会議録(甲42・13頁第1段及び第2段)によれば、「この製造業者がもしもずるをしまして、数字を間違えて、本当は一万台売ったのに、出したのに、八千台と出したときに、一体そのあたりの不正に対してはどういう罰則というのか、どういう追及の手段があり得るのか、そのあたりちょっと教えてください。」との委員の質問に対し、政府委員として出席した佐藤禎一文化庁次長は、「最後にお尋ねのように、何らかの形でその義務が履行されないという場合にどうなるかということでございますけれども、これは基本的には私権同士のことでございますので、罰則をもって強制するということではなく、義務違反があれば通常の民事上の手続によってその実現を求めるということになるのでございます。」と答弁している。
c 第10小委員会報告書(甲44・4489〜4490頁)には、「(1) 救済措置について」との項目において、「メーカー等の義務が履行されない場合は、民事上の請求権の実現の例にならって、メーカー等の協力の実現を裁判によって求めることができる。」と記載されている。
 なお、平成4年改正法の法案を文化庁が立案した当時の文化庁著作権課法規係長田口重憲氏が同法の成立直後に公表した論考(甲45・6頁)には、「製造業者等の協力義務について著作権法上の罰則はないが、仮に、製造業者等の義務が履行されない場合には、民事上の手続によってその権利の実現を求めていくことになる。」と記載されている。
(エ) 法104条の6第3項の規定
 法104条の6第3項は、原告が、法104条の4第1項の規定により支払の請求をする私的録画補償金の額を定め、文化庁長官に認可の申請をするに際し、あらかじめ、製造業者等の団体で製造業者等の意見を代表すると認められるものの意見を聴かなければならないことを規定する。
 そして、このような規定が設けられたのは、私的録画補償金制度において、製造業者が特定機器の出荷価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売することが予定されているからにほかならない。つまり、私的録画補償金の額が高額になれば、特定機器の出荷価格もそれだけ高額となり、製造業者の事業活動に大きなインパクトを与えることになるので、わざわざ補償金の額を決めるに際して、製造業者側の事前の意見聴取を要件としているのである。仮に、製造業者に補償金の額について直接的な利害関係がないのであれば、わざわざこれを決める前に製造業者の意見を徴する必要などないのである。
 以上のとおり、法104条の6第3項が存在することからしても、法104条の5に基づく製造業者の「協力」の内容として、特定機器の販売価格に補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付することが前提とされているのは明白である。
(オ) 10年以上にわたる私的録画補償金制度の運用
 私的録音録画補償金制度は、録音機器については平成5年から、録画機器については平成11年からそれぞれ補償金の徴収が開始されたが、被告を含む録画機器の各製造業者は、当初から一貫して、著作権法104条の5に基づいて製造業者が行うべき「協力」とは、「特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付すること」であるとの理解の下、実際に10年以上このような取扱いを行ってきた。
 このような長年に及ぶ私的録音録画補償金制度の運用の事実からしても、製造業者が行うべき「協力」とは、特定機器の販売価格に補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付することであると解するのが相当である。
(カ) 原告・JEITA間協定の存在
 原告は、電気機器等に関する業界団体であるJEITAとの間で、原告・JEITA間協定(前記第2の3(3)ウ(ア))を締結しているところ、その協定書第1条においても、法104条の5の規定に基づく協力義務の履行として、特定機器の製造業者であるJEITAの会員企業が、特定機器の購入者から私的録画補償金相当額を受領し、JEITAを経由して原告にこれを「納入」することが明記されている(甲6の1)。
 このように、被告を中心的な構成員とする業界団体であるJEITAが、法104条の5の規定に基づく製造業者の協力義務の内容を上記のとおりに解釈しているという事実は、原告の前記アの解釈の正当性を基礎づける事実であるといえる。
(キ) 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)との整合性
 ベルヌ条約9条2項においては、複製権の及ばない私的複製などの特別な利用行為を同盟国の立法措置により規定することが可能とされているが、そのただし書では、「そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。」と規定されている。
 そして、私的録音録画補償金制度の中核を占める著作権法104条の5が訓示規定であり、当該制度が実質的に機能しない制度であるということになれば、我が国における私的録音・録画の実態は、ベルヌ条約9条2項の「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件を満たさないこととなり、同条項に抵触する事態となり得る。
 しかし、このような事態は、国際的潮流に逆行するばかりか、国際的な問題をも生起せしめるものであって、ベルヌ条約上も許される事態ではない。
 したがって、著作権法104条の5は、ベルヌ条約との整合性の観点からも、法的に強制される具体的な義務を規定した効力規定であると解すべきである。
ウ 小括
 以上によれば、被告は、原告に対し、法104条の5の協力義務として、被告が販売した被告各製品に係る私的録画補償金相当額(被告各製品の販売数量に、前記第2の3(2)記載の金額を乗じた額)の金銭を支払うべき法律上の義務を負うというべきである。
(2) 被告の主張
ア 法104条の5の協力義務の法的性質
 法104条の5は、特定機器の製造業者等に対し、「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない」ということを抽象的に定めたにすぎない規定であり、典型的な訓示規定である。すなわち、法104条の5は、訓示規定として、一般的な責務を規定するものにとどまり、指定管理団体である原告に特定の権利を付与したり、製造業者である被告に個別の義務を課すという、具体的な法的効力を直接有する規定ではなく、せいぜい、製造業者等に対し、精神的義務を課し、又は望ましい指針を示すにすぎない規定である。
イ 原告の主張に対する反論
 原告は、法104条の5の協力義務の内容として、特定機器の製造業者である被告は、指定管理団体である原告に対し、@特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して(補償金徴収義務)、原告に対し当該補償金相当額の金銭を支払う義務(補償金相当額支払義務)、又は、A出荷時点で回収したと評価される特定機器に係る私的録画補償金相当額を支払う義務を負う旨主張するが、かかる主張は、著作権法の規定上全く根拠を欠くものであるばかりか、私的録音録画補償金制度の立法趣旨にも反する独自の見解であって、採用の余地はない。
 上記解釈の根拠に関する原告の主張(前記(1)イ)は、以下のとおり理由がない。
(ア) 私的録音録画補償金制度の仕組みないし制度設計それ自体の主張に対し
 原告は、法第5章が規定する私的録音録画補償金制度の仕組みないし制度設計それ自体をもって、特定機器の製造業者等が、法104条の5に基づいて「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」を負うことの根拠とする。
 しかし、法の私的録音録画補償金に関する規定の構成からしても、法104条の5が特定機器の製造業者等の「補償金相当額支払義務」の根拠となることはあり得ない。
a 私的録音録画補償金に関する規定の構成をみれば明らかなとおり、補償金の支払に関する原則である法30条2項の場合(ただし、権利の行使主体につき同法104条の2による修正がある。)と特例である法104条の4第1項の場合とでは、補償金の支払義務者と補償金を受ける権利を有する者という根幹部分に実質的な違いはなく、権利行使の方法と時期に特例が設けられているにすぎない。いずれにしても、補償金の支払義務者は、利用者であることが明記されており、指定管理団体は、利用者又は消費者に対して、補償金支払請求権を権利者(著作権者等)のために行使する(補償金の支払の請求をする)という基本構成となっている。
 そして、特定機器の製造業者等は、特例の場合においてのみ、しかも、指定管理団体が特定機器等の購入者に対して補償金の支払を請求する場合に、支払の請求及びその受領に関し協力しなければならないとされているのみである。
 以上のような私的録音録画補償金に関する各規定の構成からすれば、製造業者等において「協力しなければならない」とされているものが、製造業者自身の補償金支払義務を意味するものでないことは明白である上、何らかの金員の支払義務を意味しているとも到底解されない。
 しかも、原告の主張によれば、指定管理団体は、利用者に対する「補償金支払請求権」と製造業者等に対する「補償金相当額請求権」の両債権を有することとなるが、両債権が成立する根拠が全くないし、著作権法には、両債権が存在することを前提に両者の法的関係を定める規定も存在しない。
b さらに、原告は、法104条の5が私的録音録画補償金制度の「核」であることから、同条が訓示規定ではない旨主張するが、そもそも、原告のいう「核」が何を意味するのかが明らかではないし、また、仮に同条が原告のいう私的録音録画補償金制度の「核」であるとしても、なにゆえそれが同条が訓示規定ではないことの根拠となるのかが明らかではないから、原告の上記主張は失当である。
(イ) 法104条の5の文言の主張に対し
 法104条の5は、製造業者等が「私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。」と規定するだけであり、具体的な協力義務の内容はもちろん、原告の主張するような「補償金徴収義務」や「補償金相当額支払義務」については一切規定していない。
 また、著作権法の他の条文にも「補償金徴収義務」や「補償金相当額支払義務」については定めがなく、著作権法が政令に委任し、政令で規定されているということもない。
 原告が主張するような負担を製造業者等に新たに課すのであれば、法律としては、当然に「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」を明記するはずであり、それを規定するについて法制上の支障は存在しない。しかるに、実際には、そのような規定とはされず、「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。」と規定されているにとどまるのである。
 したがって、法104条の5は、その規定の文言又は規定ぶり自体からして、製造業者等に法律上の具体的な義務として「補償金徴収義務」や「補償金相当額支払義務」を課すものとは到底解されない。
 さらに、法104条の5が単なる訓示規定であることは、法制実務において、「協力しなければならない」という用語による規定が訓示規定の典型例とされていることからも明らかである。
(ウ) 立法者等の意思の主張に対し
 原告は、私的録音録画補償金制度を導入した平成4年法改正に係る法案を可決した第125回国会の審議における政府委員等の発言などをその主張の根拠とする。
 しかしながら、上記法改正に係る立法の経緯に照らしても、法104条の5が訓示規定であることは明らかであり、原告の上記主張は失当である。
a 第125回国会の衆議院文教委員会議録(甲42)及び参議院文教委員会会議録(甲43)をみると、次のような政府委員及び参考人の答弁がされており、立法趣旨としても、製造業者等に対し、法律で直接に「補償金相当額支払義務」を課したものでないことは明らかである。
(a) 「メーカー等、製造者等の協力義務でございますが、固有の義務としないで協力義務とした点、これもやはり特殊な規定の仕方であろうかと存じます。」(X1参考人・筑波大学教授・著作権審議会委員、甲42・11頁1段)
 上記答弁は、協力義務が固有の義務ではないこと、すなわち、権利者から製造業者等への直接の金員支払請求権は存在しないことを明らかにした答弁である。
(b) 「補償金関係業務、すなわち補償金の受領に関して協力をしてくださる各メーカー等との契約事務でありますとか、…そういった仕事が…必要になるわけでございますが、これは補償金関係業務の経費として、受領した補償金の中から…控除をしていく」(佐藤禎一政府委員・文化庁次長・、甲42・20頁3段)
 原告の主張のように、製造業者等に対し法律で金員の支払義務を課したということであれば、「協力をしてくださる」という評価にはならないはずであるし、「契約」の問題も生じないはずである。
 したがって、政府委員の上記のような答弁は、製造業者等の協力が任意で行われる事実上の協力行為にすぎないという前提での答弁であるとしか理解できない。
(c) 「実際にこの制度を円滑に実施をしていかなければならないわけで、本来直ちに義務を負うわけではないメーカー等に対しても協力義務等を課していくわけでございますので、そういった関係者の理解や協力を得て円滑に導入をするということ」(佐藤禎一政府委員・文化庁次長、甲42・27頁2段)
 政府委員の上記答弁は、製造業者等の協力義務につき、本来直ちに負うわけではないと表明しており、また、その「協力」も、円滑な制度導入のための「理解」と同列のものとして説明されている。すなわち、上記答弁は、製造業者等の協力が任意で行われる事実上の協力行為にすぎないという立法趣旨を説明するものであり、少なくとも、原告主張のように、製造業者等に対し法律で金員の支払義務を課す法案として説明するものではない。
(d) 「もともと製造業者はその直接の権利義務のいずれにも立たないわけでございます。利用をしている人が義務者でありますし、著作権者が権利者でございますので、メーカーはその間に入っているわけでありますけれども、この全体のシステムをうまく利用してうまく動かしていくためにはメーカーの協力が不可欠であろうということで、特にこの法律によって協力義務を課し、全体としてスムーズな運営ができるようにしているわけでございます。」(佐藤禎一政府委員・文化庁次長、甲43・17頁1段)
 政府委員の上記答弁は、製造業者には直接の権利義務はないことを明らかにし、また、あくまで利用者が義務者であることを確認している。そして、全体のシステムをうまく動かすとか、スムーズに運営していくために製造業者に協力義務を課す必要があったという立法趣旨を説明している。すなわち、上記答弁は、製造業者の協力義務が、直接の権利義務というものではなく、システムのスムーズな運営のための協力であり、まさに、製造業者の協力が任意で行われる事実上の協力行為にすぎないという立法趣旨を説明するものであって、少なくとも、原告主張のように、製造業者等に対し法律で金員の支払義務を課す法案として説明するものではない。
b また、原告は、第125国会の衆議院文教委員会議録(甲42)中の佐藤禎一政府委員(文化庁次長)の「義務違反があれば通常の民事上の手続によってその実現を求めるということになる」との発言及び第10小委員会報告書(甲44)中の同趣旨の記載をその主張の根拠とする。
 しかしながら、佐藤禎一政府委員の上記発言は、単に、裁判上の請求が可能であると述べるのみであり、具体的な裁判手続を念頭に置いた発言でもない上、法制用語上の意義とは全く異なって強制可能な裁判規範であるというのであれば、少なくとも特別な理由を説明しなければ法的に意味を成さないのに、そのような説明はないのであって、いかに善解しても、文化庁担当者の希望的観測を述べたものにすぎないというほかない。
 また、同様に、第10小委員会報告書中の同趣旨の記載についても、法104条の5の文言からは、同条が訓示規定であり、かつ、具体的な請求権を基礎づける裁判規範ではないことが明らかであるにもかかわらず、なぜ同条から裁判上の具体的な請求権が導かれるのかについて理論的な説明がされておらず、法理論を厳密に追究する司法の場では到底受け入れられないものである。
(エ) 法104条の6第3項の規定の主張に対し
 原告は、法104条の6第3項において、原告が、法104条の4第1項の規定により支払の請求をする私的録画補償金の額を定め、文化庁長官に認可の申請をするに際し、あらかじめ、製造業者等の団体で製造業者等の意見を代表すると認められるものの意見を聴かなければならないと規定していることをもって、法104条の5の協力義務が、「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」を意味することの根拠となる旨主張する。
 しかしながら、製造業者等に私的録画補償金の額について意見を聴くとされているというだけで、製造業者等に「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」が課されているものと解すべき道理はく、原告の上記主張は失当である。
(オ) 10年以上にわたる私的録画補償金制度の運用の主張に対し
 原告は、被告を含む特定機器の各製造業者が、特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして販売し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額を納付するという運用を10年以上続けてきたことをもって、法104条の5の協力義務が、「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」を意味することの根拠となる旨主張する。
 しかしながら、被告は、法104条の5が規定する協力義務を、「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」であると解釈したことはなく、当然そうした解釈に基づいて上記運用をしていたのではない。被告が上記運用をしていたのは、複数あり得る協力の具体的方法のうちの一つとして、任意に利用者に代わって補償金を支払う方法を選択していたにすぎない。
 そもそも、上記運用は単なる事実行為にすぎないところ、事実行為が一定期間継続したからといって法的請求権に昇華することはなく、必ずしもその事実行為が法の解釈の正当性を基礎づけることにはならない。
 したがって、原告の上記主張は失当である。
(カ) 原告・JEITA間協定の主張に対し
 原告は、原告・JEITA間協定の内容からうかがえる被告を含む製造業者の意思をもって、協力義務の内容に関する原告の主張の根拠とする。
 しかしながら、被告がJEITAの会員企業であるからといって、JEITAと被告とが同一人格になるわけではなく、原告・JEITA間協定の内容から被告の意思がうかがえるわけではない。
 したがって、JEITAという被告とは別人格の主体から被告の意思がうかがえるとした上で、かかる「被告の意思」を根拠として、法104条の5の協力義務が、「補償金徴収義務」及び「補償金相当額支払義務」であるとする原告の主張は失当である。
(キ) ベルヌ条約との整合性の主張に対し
 原告は、私的録音録画補償金制度の中核を占める法104条の5が訓示規定であり、当該制度は実質的に機能しない制度であるということになれば、我が国における私的複製の実態は、ベルヌ条約9条2項の「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件を満たさないこととなり、同条項に抵触する事態となり得る旨主張する。
 しかしながら、法104条の5が訓示規定であることにより、私的録音録画補償金制度が実質的に機能しない制度となるとしても、そのことにより、なにゆえベルヌ条約9条2項違反となるのかについては、原告の主張によっても不明である。
 仮に、法104条の5が訓示規定であることにより、私的録音録画補償金制度が実質的に機能しない制度となるとしても、そのことは、同制度が「当事者の合意と協力の上に成り立っているものであり、それなしには崩壊するという宿命を負った制度」(中山意見書、乙23・2頁)である以上、やむを得ないことである。平成4年法改正に係る立法過程においては、ベルヌ条約9条2項ただし書の「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件をも踏まえ、私的録音録画補償金制度が上記の宿命を負った制度であることを前提とした上で、同制度に関する規定が設けられたのであるから、ベルヌ条約9条2項ただし書を理由に法104条の5が具体的義務を規定したものと解釈することはできない。
 したがって、ベルヌ条約9条2項ただし書に基づく原告の上記主張は失当である。
ウ 小括
 以上のとおり、法104条の5は、特定機器の製造業者等に個別の義務を課すという、具体的な法的効力を直接有するものではないから、被告が原告に対し、法104条の5の協力義務として、被告が販売した被告各製品に係る私的録画補償金相当額の金銭を支払う義務を負うことはない。
3 争点3(被告による不法行為の成否)について
(1) 原告の主張
ア 被告による権利侵害行為
 被告は、原告に対し、次の2つの権利侵害行為を行っている。
(ア) 協力義務違反による原告の補償金請求権の侵害
a 前記2(1)で述べたとおり、被告は、原告に対し、法104条の5の協力義務として、特定機器である被告各製品について補償金徴収義務及び補償金相当額支払義務を負っているにもかかわらず、被告は、上記義務に違反し、被告各製品に私的録画補償金相当額を上乗せせずに販売し、原告に対し当該補償金相当額を支払わなかった。
 他方、原告において、被告が販売した被告各製品を購入した個別の購入者を探し出し、当該購入者が被告各製品を用いて私的録画を行うたびごとにこれを把握して、私的録画補償金を請求することは不可能であるから、原告は、被告の上記協力義務違反行為により、原告の利用者(上記購入者)に対する私的録画補償金請求権が侵害され、受領することができた私的録画補償金相当額を受領することができないという損害を被った。
b また、法104条の5の協力義務の内容が上記補償金徴収義務及び補償金相当額支払義務以外のものであったとしても、同条は、製造業者等に対して法的義務たる協力義務を課した効力規定であると解すべきであるから、被告は、特定機器である被告各製品に関し、私的録画補償金の支払の「請求及びその受領に関し協力」すべき法的義務を行っているところ、被告は被告各製品の販売に関し何らの「請求及びその受領に関し協力」を行っていない。
 原告は、被告のかかる不作為によって、原告の利用者(上記購入者)に対する私的録画補償金請求権を侵害され、受領することができた私的録画補償金相当額を受領することができないという損害を被った。
c さらに、仮に法104条の5が訓示規定であると解された場合であっても、被告各製品は特定機器に該当することから、被告は、被告各製品に関し同条に基づく協力義務を負っている。
 しかるに、前記bのとおり、被告は、被告各製品の販売に関し何らの「請求及びその受領に関し協力」を行っていないから、上記協力義務に違反した。
 この協力義務違反は、不法行為法における違法性を基礎づけるに十分なものである。このように解さなければ、被告の協力義務違反により損害を被った原告は、その損害を回復する手段がないという不合理な事態となるし、製造業者に何らかの「義務違反があれば通常の民事上の手続によってその実現を求めることになる」とする国会の意思に反することになるからである。
(イ) 被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害
 特定機器を購入した利用者は、原告から私的録画補償金の一括支払の請求を受けた場合、特定機器の購入時に当該補償金を一括して支払う義務を負っており(法104条の4第1項)、かかる請求がない場合には、特定機器を用いて私的録画を行うたびに、原告に対して私的録画補償金を支払わなければならない(法30条2項)。
 しかしながら、特定機器の製造業者が、私的録画補償金を販売価格に上乗せして特定機器を販売しない限り、利用者は、事実上、当該補償金を支払うことはしないし、そもそもできない。他方で、利用者は、デジタル放送をDVDに録画するために特定機器を購入するのであり、実際にもデジタル放送を録画する。
 すなわち、製造業者による私的録画補償金を上乗せしない特定機器の販売行為は、利用者の原告に対する補償金支払義務違反(補償金を支払わずに行う私的録画)を惹起するものにほかならない。
 したがって、私的録画補償金相当額を上乗せせずに被告各製品を販売した被告の行為は、原告の利用者に対する補償金請求権を侵害するものとして権利侵害行為を構成し、これにより、原告は、受領することができた私的録画補償金相当額を受領することができないという損害を被った。
イ 故意又は重過失
 被告は、原告の利用者に対する補償金請求権が侵害され、原告に損害が生じることを認識しながら、あえて上記アの各権利侵害行為を行ったものであるから、被告には、上記アの各権利侵害行為を行うについての故意が認められる。
 また、仮に故意が認められないとしても、被告は、少なくとも被告各製品が特定機器に該当する可能性が高いことを明確に認識していたから、上記アの各権利侵害行為を行うについての重過失が認められる。
ウ 小括
 以上によれば、被告の前記アの行為は、原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(2) 被告の主張
ア 前記1(2)で述べたとおり、被告各製品は特定機器に該当しないから、原告が主張する権利侵害行為を観念することはできない。
 また、そもそも、法104条の5は訓示規定であるから、被告が同条により私的録画補償金相当額の支払義務を負うことを前提として、被告による不法行為が成立するとする原告の主張は失当である。
 さらに、被告各製品については、原告から購入者(利用者)に対する「請求」(法104条の4第1項)が存在しないから、原告と購入者との関係において、補償金請求権が発生する余地はない。
 また、被告各製品による録画には、後記4(1)のとおり、著作権者等の許諾があると評価されるから、この点からも、原告と機器購入者との間で補償金請求権が発生する余地はない。
 したがって、原告の被告各製品の購入者(利用者)に対する補償金請求権の存在を前提とする原告の不法行為に関する主張は失当である。
イ 加えて、仮に、機器購入者との関係で原告の補償金請求権が発生するとしても、原告は、原則どおり、法30条2項に基づき、機器購入者に対し補償金を請求し得たのであり、かつ、現在も請求し得るのであるから、結局のところ、被告の行為は何らの権利侵害行為も構成せず、原告の損害も発生していない。
 また、原告が補償金を受領できなかったのは、原告が機器購入者に補償金を請求しなかったことによるものであるから、被告の行為とは何らの因果関係も存在しない。
 しかも、本件において、被告が被告各製品の販売価格に補償金を上乗せしないで販売したからといって、被告には、原告の権利を侵害することについての故意、過失は存在しないというべきである。
4 争点4(著作権者等の許諾の有無)について
(1) 被告の主張
ア 著作権者又は著作隣接権者によって著作物や著作隣接権の目的となっている実演又はレコード(以下「著作物等」という。)の利用についての許諾(法63条1項、103条)がされた場合、許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物等を利用することができる。
 他方、私的録音録画補償金制度は、私的使用のための複製として著作権等の効力が制限され、著作権者等の許諾を伴わない行為であることを前提に、一定の場合において複製者から著作権者等に補償をさせようというものである。
 したがって、著作権者等が著作物等の録画について法63条1項の許諾をした場合には、当然ながら私的録画補償金の支払義務の問題は生じないのであって、法30条2項等の規定の適用はない。
イ 地上デジタル放送については、平成16年4月5日からコピー・ワンス、平成20年7月4日からはダビング10という著作権保護技術を用いた放送が行われ、具体的には、B−CAS方式により暗号化された影像データが放送され、B−CASカードによって著作権保護技術が正しく機能する機器でのみ暗号が解除されて、視聴、録画が可能となるという運用がされている。そして、著作権者等は、地上デジタル放送の視聴・録画につき、上記のような運用がされている状況下において、自己の判断により地上デジタル放送に自己の著作物等を提供しているのである。
 したがって、著作権者等は、遅くとも平成20年7月4日以降は、自己の著作物等を地上デジタル放送に提供した時点で、単独行為により、地上デジタル放送を通して自己の著作物等が上記暗号技術と著作権保護技術の制限内で録画されることを許諾しているものと評価される。
ウ 被告各製品は、ダビング10の運用が開始された平成20年7月4日以降に製造、販売された「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」であり、著作権保護技術が用いられていないアナログ放送は受信せず、専ら著作権保護技術が有効に機能し得るデジタル放送のみを受信して録画することができる機器、すなわち、ダビング10の技術的保護手段が付された機器であるから、被告各製品による録画行為は、上記イの著作権者等による許諾の範囲内の行為といえる。
 したがって、被告各製品による録画行為については、法30条2項の私的録画補償金請求権が発生しないから、同請求権が発生することを前提とする原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
(2) 原告の主張
 著作物等の私的利用に関しては、法30条1項及び102条1項により著作権等の制限が課され、利用者は、もともと著作権者等の許諾を得ることなく私的録画を行うことが可能なのであるから、「許諾」無しで行うことが可能な私的録画について、「許諾」がされたと「評価」されると主張したところで法的には無意味な主張にすぎない。
 また、ダビング10は、著作権者等の要請に基づいて導入されたものではなく(乙10・142頁)、著作権者等においてダビング10が導入されていることを認識しつつ、コンテンツを地上デジタル放送に提供したとしても、それは10回を限度とする私的録画を「無償で」行うことまで認めるものではない(乙18・114頁参照)。
 さらに、著作権者等の許諾があったものと「評価」されるためには、著作権者等が10回を限度とする私的録画に関して対価に相応する何らかの利益を得た事実が必要というべきところ、そのような事実はない。単にダビング10が導入されていることを認識してコンテンツを提供したという事実のみをもって、著作権者等による「許諾」という重大な効果を生じさせるものと解することはできない。
 したがって、著作権者等の許諾に関する被告の主張は失当である。
5 争点5(原告が被告に対し請求し得る私的録画補償金相当額又は損害額)
(1) 原告の主張
 原告が、被告に対し、法104条の5の協力義務の履行として、又は、不法行為による損害賠償として、支払を請求し得る被告各製品に係る私的録画補償金相当額は、次のとおりである。
ア 前記第2の3(2)のとおり、平成14年4月1日以降において、法104条の4第1項の規定に基づき特定機器の購入時に支払われる特定機器1台当たりの私的録画補償金の額は、@当該特定機器の出荷価格の1%に相当する金額、A1000円のいずれか少ない金額である。
イ 平成21年2月及び3月に被告が販売した被告製品1ないし3の販売台数は、合計3万1091台である。
 他方、被告製品1ないし3の出荷価格については、原告には把握するすべがないから、1台当たりの私的録画補償金の額は、上記アAの1000円と解するほかない。
 したがって、平成21年2月及び3月に被告が販売した被告製品1ないし3に関し、被告が原告に対して納付すべき私的録画補償金相当額は、上記販売台数3万1091台に1台当たり1000円を乗じた3109万1000円に消費税相当額を加えた3264万5550円となる。
ウ また、平成21年4月から同年9月にかけて被告が販売した被告各製品の販売台数は、合計10万8800台である。
 被告各製品1台当たりの私的録画補償金の額については、上記イのとおり1000円と解するほかない。
 したがって、平成21年4月から同年9月にかけて被告が販売した被告各製品に関し、被告が原告に対して納付すべき私的録画補償金相当額は、上記販売台数10万8800台に1台当たり1000円を乗じた1億0880万円に消費税相当額を加えた1億1424万円となる。
エ よって、原告は、被告に対し、法104条の5の協力義務の履行として、又は、不法行為による損害賠償として、上記イ及びウの合計金1億4688万5550円及び内金3264万5550円に対する平成21年10月1日(前記第2の3(3)ウ(ア)記載のとおり、原告・JEITA間協定に基づき、JEITAが、その会員である特定機器製造業者から平成20年10月1日から平成21年3月31日までの期間に受領した私的録画補償金相当額を、原告に支払うべき期限である同年9月30日の翌日)から、内金1億1424万円に対する平成22年4月1日(前記第2の3(3)ウ(ア)記載のとおり、原告・JEITA間協定に基づき、JEITAが、その会員である特定機器製造業者から平成21年4月1日から平成21年9月30日までの期間に受領した私的録画補償金相当額を、原告に支払うべき期限である平成22年3月31日の翌日)から各支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張
 原告の上記主張のうち、アは認め、その余は否認する。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について
(1) 施行令1条2項3号の特定機器
 原告は、被告各製品は、施行令1条2項3号ロ及びハに掲げる機器であって主として録画の用に供するものであるから、私的録画補償金の対象となるデジタル方式の録画の機能を有する特定機器(法30条2項の政令で定める機器のうち録画の機能を有するもの)に該当する旨主張する。これに対し被告は、地上デジタル放送について「ダビング10」という方式の著作権保護技術が導入されている下において、法30条2項及び施行令1条2項3号の趣旨などからすると、アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品は、施行令1条2項3号の特定機器に該当せず、また、同号柱書きの「光学的方法により…アナログデジタル変換が行われた影像を…連続して固定する機能を有する機器」の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、デジタル方式の録画の機能を有する機器の内部でアナログデジタル変換(AD変換)が行われた影像に限定されるから、アナログチューナーを搭載していないためアナログ信号を受信せず、その機器内部においてAD変換が行われない被告各製品は、「アナログデジタル変換が行われた影像」を固定する機能を有する機器とはいえないので、同号の特定機器に該当しないなどと主張して争っている。
 そこで、以下においては、まず、施行令1条2項3号柱書きの「光学的方法により…アナログデジタル変換が行われた影像を…連続して固定する機能を有する機器」の「アナログデジタル変換が行われた影像」の文言の意義について検討し、その上で、被告製品が施行令1条2項3号の特定機器に該当するかどうかを判断することとする。
(2) 施行令1条2項3号柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義
ア 法30条2項は、「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」と規定し、私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」は、「政令で定めるもの」として、その具体的な機器の指定を政令への委任事項としている。
 このように法30条2項が私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」の具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨は、私的録音録画補償金を支払うべき機器の範囲を明確にするためには、機器に係る録音又は録画の方法、標本化周波数、記録媒体の技術仕様等の客観的・一義的な技術的事項により特定することが相当であり、しかも、デジタル方式の録音又は録画に係る技術分野においては技術開発により新たな機能、技術仕様等を備えた機器が現れ、普及することが想定され、このような機器を私的録音録画補償金の対象とするかどうかを適時に決める必要があること、逆に、私的録音録画補償金の対象とする必要性や妥当性がなくなった機器については適時に除外する必要があることなどを考慮し、具体的な特定機器の指定については、法律で定める事項とするよりも、政令への委任事項とした方がより迅速な対応が可能となるものと考えられたことによるものと解される。
 このような法30条2項の趣旨に照らすならば、法30条2項の委任に基づいて制定された「政令」で定める特定機器の解釈に当たっては、当該政令の文言に忠実な文理解釈によるのが相当であると解される。
イ 以上を前提に検討するに、法30条2項の委任に基づいて制定された施行令1条は、「(特定機器)」の見出しの下に、1項で、「政令で定める機器」のうち「録音」の機能を有するものについて、2項で、「政令で定める機器」のうち「録画」の機能を有するものについて規定している。
 そして、本件で問題となっている施行令1条2項3号柱書きは、「光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するものに連続して固定する機能を有する機器」を特定機器として定めている。
 施行令1条2項3号は、上記のとおり、同号に係る特定機器において固定される対象について、「アナログデジタル変換が行われた影像」と規定するのみであり、特に「アナログデジタル変換」が行われる場所についての文言上の限定はない。他方で、施行令1条1項1号は、「回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、三十二キロヘルツ、四十四・一キロヘルツ又は四十八キロヘルツの標本化周波数(アナログ信号をデジタル信号に変換する一秒当たりの回数をいう。以下この条において同じ。)でアナログデジタル変換(アナログ信号をデジタル信号に変換することをいう。以下この条において同じ。)が行われた音を幅が三・八一ミリメートルの磁気テープに固定する機能を有する機器」と規定し、「アナログデジタル変換」は、「アナログ信号をデジタル信号に変換すること」をいうと定義し、かつ、この定義が「以下この条において同じ。」と定めているから、施行令1条2項3号にいう「アナログデジタル変換」は、「アナログ信号をデジタル信号に変換すること」を意味するものである。
 このように施行令1条の文言においては、同条2項3号の特定機器において固定される対象について、「アナログデジタル変換」すなわち「アナログ信号をデジタル信号に変換する」処理が行われた「影像」であることが規定されるのみであり、当該変換処理が行われる場所的要素、すなわち、当該変換処理が当該機器内で行われたものか、それ以外の場所で行われたものかについては、何ら規定されていない。
 そして、政令への委任規定である法30条2項をみても、特定機器に関しては、上記のとおり、「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるもの」と規定されるのみであって、特定機器において固定される「影像」についてのアナログデジタル変換が行われる場所について、何ら規定されていない。
 してみると、特定機器に関する法30条2項及び施行令1条の各文言によれば、施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、変換処理が行われる場所のいかんに関わらず、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。
(3) 被告の主張に対する判断
ア(ア) これに対し被告は、施行令1条の2第1項及び第2項が、「特定記録媒体」について、「デジタル方式」の文言を用いて録音の用に供される記録媒体又は録画の用に供される記録媒体を規定していることと比較し、施行令1条2項3号においても、アナログチューナー搭載、非搭載を問わずに特定機器として指定するのであれば、@「デジタル方式で、影像を連続して固定する機能を有する機器」と規定するはずであるのに、あえてA「アナログデジタル変換が行われた影像を…連続して固定する機能を有する機器」という文言が用いられているのは、同号が当該機器内で影像のAD変換が行われることを前提にしているからである旨主張する。
 しかしながら、施行令1条2項3号が、上記@の文言ではなく、上記Aの文言を用いていることが、直ちに、同号が当該機器内で影像のAD変換が行われることを前提にしていることに結びつくとはいえず、被告の上記主張には論理の飛躍がある。
 すなわち、施行令1条2項3号が、同号に係る特定機器において固定される「影像」について上記Aの文言を用いた理由については、証拠上必ずしも明確ではないものの、例えば、専ら「アナログデジタル変換が行われないデジタル影像」をデジタル方式で録画する機器(例えば、当初からデジタル影像として構成されるコンピュータグラフィックスの影像を作成・記録するためのDVD録画機能を備えた画像処理用コンピュータなど)を特定機器から除外する趣旨であったとも考え得るところであり、少なくとも、上記Aの文言を用いたことをもって、直ちに、当該機器内で影像のAD変換が行われることを前提にしているなどと断じることはできない。
 かえって、施行令1条2項3号が、同号に係る特定機器において固定される「影像」を、当該機器内でAD変換が行われた影像に限定するのであれば、「当該機器内においてアナログデジタル変換が行われた影像」などといった明確な限定文言を規定するのが適切であることは明らかであり、施行令1条2項3号を追加した平成12年改正政令が制定された当時において、そのような限定文言を規定することについて立法技術上の支障や困難があったことをうかがうことはできない。そのような限定文言が規定されていないのは、施行令1条2項3号がそのような限定を前提としていないからであるといわざるを得ない。
 したがって、被告の上記主張は、前記(2)イで述べた、施行令1条2項3号柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の解釈を左右するものではない。
(イ) また、被告は、法30条2項及び施行令1条が機器の性質に着目して特定機器を指定していることから、施行令1条2項3号柱書きのの「アナログデジタル変換が行われた影像」とは、機器内で変換が行われたものに限られると解すべき旨主張する。
 しかし、法30条2項及び施行令1条が機器の性質に着目して特定機器を指定していることと、施行令1条2項3号が影像のAD変換が行われる場所を限定しているか否かの解釈とが論理的に結びつく理由はないから、被告の上記主張は失当である。
イ 次に、被告は、@法30条2項及び施行令1条2項3号の趣旨、A関係者の合意ないしコンセンサスの不存在、B録画機器の購入者(消費者)の「二重の負担」、著作権者等の「二重の利益」などの諸事情を根拠として、施行令1条2項3号の規定する特定機器には、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は含まれないと解すべきである旨主張する。
 しかし、被告の主張は、以下のとおり理由がない。
(ア) 法30条2項及び施行令1条2項3号の趣旨を根拠とする主張について
a 被告は、法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨について、私的録音・録画が、従来のように「零細なもの」であれば補償金制度は不要であったのに、デジタル技術の発達普及等によって、「広範かつ大量、さらに高品質の複製」としてされ得る状況となりつつあったことが、著作権者等への代償措置として私的録音録画補償金制度が導入された主たる根拠であるとの前提に立った上で、デジタル放送においては、著作権保護技術によって複製を制限することが可能であり、現に、地上デジタル放送においては、平成16年4月5日からコピー・ワンス、さらに平成20年7月4日からダビング10による複製の制限が行われており、このような著作権保護技術の下では、広範かつ大量に高品質の複製は行われ得ないことになるのであるから、かかる著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画することが可能な「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」には、前記のような私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しないとし、この点を、アナログチューナー非搭載DVD録画機器が特定機器に含まれないことの根拠として主張する。
 しかしながら、被告の上記主張は、以下のとおり採用することができない。
(a) まず、被告の上記主張が、著作権保護技術によって複製が制限された状況下における私的録音又は私的録画の場合には、およそ法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨が妥当しないことを前提とするものであるとすれば、以下に述べるとおり、私的録音録画補償金制度が導入された平成4年法改正に係る経過に照らし、そのような前提自体が誤りといわざるを得ない。
@ 平成4年法改正(平成4年12月16日公布)当時においては、既に、DAT(Digital Audio Tape)、MD等のデジタル録音機器にSCMS(Serial Copy Management System)というコピー制御技術が導入されていた(甲55、甲56・54頁)。
A 平成4年法改正における私的録音録画補償金制度導入に当たっての前提となる議論が行われた「著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)」の最終報告書(第10小委員会報告書。甲44、乙1)の「第4章 報酬請求権制度の在り方」の「11 その他」の項目には、「(2) 技術的制限」についての論述として、「SCMS方式のような複製についての技術的制限は著作権等との関連はあるものの報酬請求権制度とは別に議論すべき問題であると考えられる。」と記載されている(甲44・4490頁)。
B 「著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)」の主査であったX1筑波大学教授は、平成4年法改正に係る法案の審議が行われた第125回国会の衆議院文教委員会及び参議院文教委員会にそれぞれ参考人として出席し、いずれにおいても、同法案について、デジタル複製を一世代に限るとする技術的制限を前提にしている旨の説明をしている(甲42・4頁第1段、甲43・3頁第3段)。
C 以上のような平成4年法改正に係る経過からすれば、同改正においては、少なくともデジタル録音機器に関しては、既に著作権保護技術によって複製の制限が行われているという実態を踏まえ、これと両立する制度として私的録音録画補償金制度が導入されたものと認められる。
 したがって、著作権保護技術によって複製が制限された状況下における私的録音又は私的録画の場合には、およそ法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨が妥当しないとはいえない。
(b) また、被告の上記主張が、地上デジタル放送において著作権保護技術(平成20年7月4日以降はダビング10)による複製の制限が行われている現状を前提に、そのような現状の下におけるデジタル放送のみを録画することが可能なアナログチューナー非搭載DVD録画機器には、私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しないから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は法30条2項及び施行令1条2項3号の特定機器には含まれない旨を述べるものであるとすれば、そのような主張は、法令解釈の枠を超えたものというほかない。
 すなわち、施行令1条2項3号が規定する特定機器の範囲は、同号を施行令に追加した平成12年改正政令が公布された平成12年7月14日の時点において客観的に定まっていなければならないのであり、同号は、このように特定機器の範囲を客観的に特定するための要件を、当該機器に係る録画の方法、標本化周波数、記録媒体の技術仕様等の技術的事項によって規定していることは明らかである。
 ところが、被告の上記主張は、平成15年12月1日に地上デジタル放送が開始され、その中で、地上デジタル放送について平成16年4月5日からはコピー・ワンス、平成20年7月4日からはダビング10による複製の制限が行われているという事実、すなわち、施行令1条2項3号制定後に生じた事実状態のいかんによって、同号が規定する特定機器の範囲が定まるとするものにほかならないものであり、結局のところ、被告の上記主張の実質は、施行令1条2項3号が規定する特定機器の要件(上記技術的事項)に該当するものであっても、同号制定後の地上デジタル放送における著作権保護技術の運用の実態の下では、私的録画補償金の対象とすべき根拠を失うに至ったから、同号の特定機器からこれを除外するような法又は施行令の改正をすべきである旨の立法論を述べるものにすぎないといわざるを得ない。
 もとより、ダビング10の方式によるコピー制御が行われている地上デジタル放送について私的録画を行う場合に、私的録画補償金を支払うものとするのが妥当かどうか、そもそも著作権保護技術が用いられた地上デジタル放送について私的録画補償金の対象とすべきかどうか、あるいは著作権保護技術によるコピー制御の規制の度合いによって私的録画補償金の対象とすべき範囲又は補償金の金額に差異を設けるべきかどうかなどの事項については、私的録画が行われている社会的実情、コピー制御技術の内容及び効果、私的録画を自由とする代償措置の必要性等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべき事柄であって、法30条2項や施行令1条2項3号の各規定の文言やその趣旨を手掛かりに一義的に決し得るものではなく、法令解釈の枠を超えたものというほかない。
(c) 以上のとおり、私的録音録画補償金制度の趣旨を根拠とする被告の上記主張は、採用することができない。
b 被告は、施行令1条2項3号が制定された平成12年7月当時には、地上デジタル放送への著作権保護技術の導入は、そもそも法令上不可能であり、施行令1条2項3号の前提として想定されていなかったから、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器も全く想定されていなかったのであり、そうである以上、施行令1条2項3号制定時の内閣の意思としても、アナログチューナー非搭載DVD録画機器を特定機器に指定する趣旨ではなかった旨主張する。
 しかしながら、被告の上記主張も、以下のとおり採用することができない。
(a) まず、被告の上記主張は、施行令1条2項3号が制定された平成12年7月当時には、地上デジタル放送への著作権保護技術の導入が想定されていなかったことをその前提とするが、そのような前提自体が誤りである。
 すなわち、前記第2の3(5)の事実と証拠(甲74、85ないし88)及び弁論の全趣旨を総合すれば、@平成9年5月30日に、被告を含む我が国の主要電気機器メーカー及び複数の著作権者等の団体は、共同して「民生用デジタルビデオレコーダのコピー世代コントロールシステム」についての「標準情報提案書」を当時の通商産業大臣に提出し、同提案書においては、民生用デジタル録画機器が準拠すべきコピー制御のレベルについて、メーカーと著作権者等の権利者との間で合意に至ることが必要であるとの認識の下で検討が進められた結果に基づき、デジタル録画機器に搭載すべきコピー制御技術について、CGMS(Copy Generation Management System)と呼ばれるコピー制御技術に関する情報を、「標準情報(TR)」として公表することが提案されたこと(甲85)、A上記提案を受けた当時の通商産業大臣は、平成9年7月11日、「民生用デジタルビデオレコーダのコピー世代コントロールシステム」についての「標準情報」として、CGMSに関する情報を公表していること、B平成10年10月26日に公表された「地上デジタル放送懇談会」の最終報告書(甲74)において、アナログ放送からデジタル放送への全面移行を早期に実現する旨の方針が示されていることが認められるところ、これらの事実からすれば、平成12年7月当時においては、既に、地上波におけるアナログ放送が将来的にはデジタル放送に全面移行することが予定されており、また、デジタル録画機器におけるコピー制御技術も存在し、関係者らの間で広く認識されていたものと認められる。
 そして、上記認定事実を前提とすれば、平成12年7月当時においては、将来予定される地上デジタル放送における著作権保護技術の導入についても、具体的な検討や議論がされるにまでは至っていなかったとしても、少なくとも将来的に地上デジタル放送が開始された際にはこれが導入されるであろうことも十分想定し得る状況にあったものということができるのであり、その当時、地上デジタル放送への著作権保護技術の導入がおよそ想定されていなかったということはできない。
(b) また、被告は、平成12年7月当時には、コピー制御と組み合わせて運用されるべきスクランブル放送を無料放送において行うことが法令上不可能であった旨を上記主張の根拠とする。
 しかしながら、そのような法令上の制限は、地上デジタル放送が開始される以前、すなわち、無料デジタル放送がBSデジタル放送のうちの無料放送に限られていた当時の郵政省令に基づく制限にすぎないものであるから、将来的に地上デジタル放送が開始され、無料デジタル放送が広く行われる事態となってもなお維持されるとは限らないものであることは、容易に推察し得ることというべきであり(現に、当該省令上の制限は、地上デジタル放送が開始される前の平成14年6月26日の省令改正によって廃止されていることは、前記第2の3(5)キのとおりである。)、平成12年7月当時においても、当該省令上の制限があったからといって、将来の地上デジタル放送において著作権保護技術が導入されることが想定できなかったなどとはいえない。
(c) さらに、被告は、施行令1条2項3号の制定当時、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器は想定されていなかったから、その当時の内閣の意思としても、アナログチューナー非搭載DVD録画機器を特定機器に指定する趣旨ではなかったとして、アナログチューナー非搭載DVD録画機器が特定機器に含まれないことの根拠として主張する。
 しかし、被告が指摘する施行令1条2項3号制定当時の内閣の意思を問題とするのであれば、そのような意思は、現に制定された同号の規定文言に最も端的に現れているはずであるところ、同号の文言をみても、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器を除外する趣旨の規定はないのであるから、そのような機器であるか否かに関わりなく、同号の文言に当てはまる機器であれば、私的録画補償金の対象となる特定機器に指定するというのが同号制定時の内閣の意思であるとみるべきである。また、アナログチューナーとともに、デジタルチューナーが搭載された録画機器とアナログチューナー非搭載録画機器との間には、「アナログ変換が行われた影像」を連続して記録媒体に固定する録画の方法自体において差異はなく、録画された影像の複製の性能等の点においても、アナログチューナーが搭載されているかどうかは直接関係するものではない。
 さらに、前記aで認定したとおり、同号が制定された平成12年7月当時においても、将来予定される地上デジタル放送における著作権保護技術の導入について想定し得る状況にあったことからすれば、内閣としても、そのような想定の下で、著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画の対象とするアナログチューナー非搭載DVD録画機器を除外する規定とすることも不可能ではなかったものというべきであるから、それにもかかわらず、そのような規定としなかったということは、アナログチューナー非搭載DVD録画機器を特定機器から除外する意思などなかったことの証左ということができる。
(d) 以上のとおり、政令制定時の内閣の意思を根拠とする被告の主張は理由がない。
(イ) 関係者の合意ないしコンセンサスの不存在を根拠とする主張について
 被告は、私的録音録画補償金制度が「当事者間の合意の上に成り立っている制度」であるという特異な性質を有すること、同制度はその法的な仕組みからして購入者(消費者)や製造業者等の理解の下に協力を得ることで始めて成り立ち得るものであることから、特定機器の範囲は、関係者の合意ないしコンセンサスを得て決められるべきものであるとし、これを根拠として、施行令1条2項3号制定当時に、特定機器に該当することにつき関係者間の合意ないしコンセンサスが得られていたことが、同号の規定する特定機器に該当するための要件であるかのごとく主張する。
 しかしながら、被告の上記主張は、法30条2項及び施行令1条2項3号が規定する「特定機器」の要件に関する法令解釈の根拠を述べるものとはいえない。
 すなわち、被告が上記主張の根拠とする「特定機器の範囲を決めるに当たっての関係者間の合意ないしコンセンサス」の必要性なるものは、特定機器を定める立法(具体的には、内閣による施行令1条の制定)の過程において一般的に行われる意見調整等の必要性を述べているものにすぎず、このようなことが、現に制定されている施行令1条2項3号の規定を解釈するに当たっての根拠となるものではない。特定機器の範囲については、関係者間の意見調整等をも含む必要な立法過程を経た上で、内閣が施行令1条の規定においてこれを定めたのであるから、以後は、同条の規定文言に当てはまるか否かによって特定機器の範囲が決められるのであって、同条の規定文言を離れ、関係者間の合意の有無によって特定機器の範囲が決められるなどと解することは困難である。
 被告の上記主張は、結局のところ、アナログチューナー非搭載DVD録画機器について、施行令1条2項3号制定後の地上デジタル放送における著作権保護技術の運用の実態の下では、私的録画補償金の対象とすることについて関係者間に意見の対立があるから、同号の特定機器から除外するような法又は施行令の改正をすべきである旨の立法政策ないし立法論を述べるものにすぎないといわざるを得ない。
 したがって、関係者の合意ないしコンセンサスの不存在を根拠とする被告の主張は、採用することができない。
(ウ) その他の根拠による主張について
 被告は、@アナログチューナー非搭載DVD録画機器に私的録画補償金が課されることになれば、購入者(消費者)は、著作権保護技術の対応コストと私的録画補償金という「二重の負担」を負うこととなり、他方、著作権者等は、著作権保護技術を用いて私的複製を制限することによる利益と私的録画補償金という「二重の利得」を得ることとなって、利用者と著作権者等との利益調整を図ったものとされる法30条2項の趣旨に反すること、Aアナログチューナー非搭載DVD録画機器による録画は、著作権者等の許諾があるものと評価されるから、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は一般的・類型的に補償金の対象となる私的録画に使用される可能性がない録画機器といえることを根拠として、アナログチューナー非搭載DVD録画機器は特定機器に該当しない旨主張する。
 しかしながら、まず、上記@の点は、地上デジタル放送における著作権保護技術の運用という、法30条2項及び施行令1条2項3号の制定後に生じた事実状態の下でアナログチューナー非搭載DVD録画機器を私的録画補償金の対象とすると、購入者(消費者)の利益と著作権者等の利益との間で不均衡が生ずるとの事情を述べているにすぎず、具体的な事情の変化に応じて法及び施行令の改正をすべきである旨の主張としては意味があり得るとしても、そのような事情が直ちに、法30条2項又は施行令1条2項3号の解釈に結びつくものとはいえない。
 また、法30条2項及び施行令1条2項3号は、機器に係る機能や技術仕様等の技術的事項によって特定機器の要件を定めているところ、上記Aの点は、著作権者等の許諾があるか否かという、上記技術的事項とは異なる問題を特定機器の要件に持ち込むものであって失当である。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
ウ 小括
 以上のとおり、施行令1条2項柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義については、被告主張のように「当該機器内でアナログデジタル変換が行われた影像」に限定して解釈すべき理由はなく、変換処理が行われる場所のいかんに関わらず、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。
(4) 被告各製品の施行令1条2項3号の特定機器該当性
ア 前記第2の3(4)アの事実及び証拠(甲7、40)によれば、被告各製品が、施行令1条2項3号の特定機器の要件のうち、「主として録画の用に供するものであること」及び「ビデオカメラとしての機能を併せ有するものではないこと」(同項柱書き)、「影像が固定される媒体(記録媒体)が、DVDであること」(前記第2の2(2)イ(イ))の各要件を満たすことは明らかである(被告各製品が録画において対応するDVDの規格は、DVD−RAM、DVD−R及びDVD−RWであるから、施行令1条2項3号ロ及びハのいずれにも該当する。)。
イ 前記第2の3(4)アのとおり、被告各製品は、いずれもデジタルチューナーを搭載しており、地上デジタル放送、BSデジタル放送及び110度CSデジタル放送の各デジタル放送を受信し、その影像をDVDに録画する機能を有する機器である。
 他方、デジタル放送においてデジタル信号として送信される影像の大部分は、もともとアナログ信号であったものについて、撮影から放送に至るいずれかの過程においてデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる(デジタルビデオカメラで撮影された影像の場合には、当該デジタルビデオカメラ内において、アナログビデオカメラで撮影された影像の場合には、放送局内の設備において、アナログ信号からデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる。)。
 したがって、被告各製品は、「光学的方法により、アナログデジタル変換が行われた影像を、連続して固定する機能を有する機器であること」(施行令1条2項3号柱書き)の要件を満たすものといえる。
ウ 以上によれば、被告各製品は、いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当するものと認められる。
2 争点2(法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無)について
(1) 法104条の5の協力義務の法的性質
 原告は、被告は、法104条の5の製造業者等の協力義務として、被告が販売した被告各製品に係る私的録画補償金相当額を原告に支払うべき具体的な法律上の義務を負う旨主張する。これに対し被告は、法104条の5の規定は、訓示規定であって、製造業者等に対し具体的な法的義務を課したものではない旨主張して争っている。
 そこで、以下において、法104条の5の協力義務の法的性質について検討する。
ア 法104条の5は、「前条第一項の規定により指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者(次条第三項において「製造業者等」という。)は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。」と規定している。
 法104条の5が、特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとして規定しているのは、指定管理団体が行う法104条の4第1項の規定により特定機器の購入者に対する私的録音録画補償金の支払を請求する場合における当該支払の請求及びその受領に関する「協力」である。
 しかるところ、「協力」という用語は、一般に、「ある目的のために心を合わせて努力すること。」(広辞苑第六版)などを意味するものであり、抽象的で、広範な内容を包含し得る用語であって、当該用語自体から、特定の具体的な行為を想定することができるものとはいえない。
 また、法104条の5においては、「協力」の文言について、「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」との限定が付されてはいるものの、「協力」という用語自体が抽象的であることから、上記の限定によっても、「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」てしなければならない「協力」の具体的な行為ないし内容が文言上特定されているものとはいえない。
 さらに、法104条の5と関連する法第5章のその他の規定をみても、法104条の5の「協力」の内容を具体的に特定する旨の規定は見当たらない。
 このように、法104条の5においては、特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとされる行為が、具的的に特定して規定されていないのであるから、同条の規定をもって、特定機器の製造業者等に対し、原告が主張するような具体的な行為(すなわち、特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である。
 そして、このような解釈は、法104条の5の文言において、あえて「協力」という抽象的な文言を用いることとした立法者の意思にも適合するものといえる。
 すなわち、仮に立法者において原告が主張するように特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、指定管理団体に対し、当該補償金相当額の金銭を納付することを特定機器の製造業者等に法律上義務づける意思があったのであれば、そのような具体的な作為義務の内容を特定して規定すれば足りたのであり、かつ、そのような規定とすることが立法技術上困難であるともいえないのに、そのような規定とすることなく、あえて「協力」という抽象的な文言を用いるにとどまったということは、特段の事情がない限り、立法者には、上記のような法律上の具体的な作為義務を課す意思がなかったことを示すものということができる。
イ 以上のとおり、法104条の5が規定する特定機器の製造業者等の協力義務は、原告が主張するような法律上の具体的な義務と解することはできないものというべきである。
(2) 原告の主張に対する判断
 これに対し原告は、@私的録画補償金制度の仕組みないし制度設計それ自体、A法104条の5の文言、B立法者等の意思、C法104条の6第3項の規定、D10年以上にわたる私的録画補償金制度の運用、E原告・JEITA間協定の存在、Fベルヌ条約との整合性を根拠として、法104条の5が規定する製造業者等の協力義務は、上乗せ徴収・納付を内容とする法律上の具体的な義務と解される旨主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり理由がない。
ア 私的録画補償金制度の仕組み、立法者等の意思及び同制度の運用の実態を根拠(前記@、B、D)とする主張について
(ア) 原告は、私的録画補償金制度においては、法第5章が規定する制度の仕組みないし制度設計それ自体、平成4年法改正の立法経過に示された立法者ないし法案担当者の意思、10年以上にわたる制度の実際の運用実態(前記第2の3(3))からみて、特定機器の製造業者等が行うべき「協力」の内容が、上乗せ徴収・納付であることは、立法当初から予定されており、これが行われなければ、現在まで10年以上にわたり運用されている私的録画補償金制度自体が機能しなくなり、実効性を欠いた制度となってしまうことを根拠として、法104条の5の協力義務が上乗せ徴収・納付を内容とする法律上の具体的な義務である旨を主張する。
a 証拠(甲42ないし44)及び弁論の全趣旨によれば、平成4年法改正の経過等に関し、次のような事実が認められる。
(a) 平成4年法改正の前提となった第10小委員会報告書の「第4章報酬請求権制度の在り方」の「3 報酬取得の実現」の項目には、次のような記載がある(甲44・4480、4481頁)
 「ユーザーによる録音・録画機器又は機材の購入に際して包括的な一回限りの報酬支払方法をとる場合、ユーザーが理念上報酬を支払うべきであると考えるとしても、ユーザーと権利者との間には直接の接点はないため、ユーザーから個別に徴収することは、徴収のための組織や仕組みについての社会的コストやその実効性などの点から困難である。この観点から、ユーザーと権利者の間に立って、両者の利益調整を図り、権利者の報酬取得の実現に協力する者の存在が制度の実現には不可欠となる。
 この協力する者については、ユーザーによる録音・録画機器又は機材の購入と関係付けて報酬を徴収するという考え方に立って、録音・録画機器又は機材の提供者であるメーカー等が、録音・録画機器又は機材の販売に際して、その価格に報酬相当額を上乗せして徴収し、権利者へ還元するという方法で協力することが可能であり、社会的コストや実効性などの点からも適切であり、かつ、国際的な流れにも適合するものであると考えられる。
 また、メーカー等に協力を求める背景として、録音・録画機器又は機材の発達普及に伴って、ユーザーが著作物等を享受する機会が増大し、社会全体として著作物等の利用が促進されてきたということがある反面、録音・録画機器又は機材の発達普及が私的録音・録画を増大せしめる結果をもたらしており、その結果、権利の保護と著作物の利用との間の調整の必要が生じてくることから、これらの録音・録画機器又は機材の提供を行っているメーカー等は、公平の観念上、この問題解決のため、権利者の報酬取得の実現について協力することが要請されていると考えられる。」
(b) 第125回国会の衆議院文教委員会議録(甲42)及び参議院文教委員会会議録(甲43)によれば、これらの委員会での平成4年法改正に係る法案の審議において、次のような質疑が行われた。
@ 衆議院文教委員会において、政府委員として出席した佐藤禎一文化庁次長は、委員からの「委託を受けた指定管理団体が要するに機器・機材のメーカーなどから蔵出しで徴収をするのでしょうか、どうでしょうか。」との質問に対し、「お尋ねの実際の取り方のルールというのは、これから細部は詰めなければいけませんけれども、私どもの理解といたしましては、仰せのように、蔵出しのところでそれを押さえていくということで確実であろうというふうに考えているところでございます。」と答弁している(甲42・12頁第4段)。
A 衆議院文教委員会において、著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)の主査であったX1筑波大学教授は、参考人として出席し、私的録音・録画問題についての自らの意見を述べる中で、「機器それから記録媒体のメーカーに協力義務を課しまして一括処理する、一括補償金を徴収する、こういう仕組みにいたしているようでございます。」と述べている(甲42・3頁第4段)
B 参議院文教委員会において、政府委員として出席した佐藤禎一文化庁次長は、委員からの補償金にかかる消費税ついての質問に対し、「今回の補償金は蔵出しのときに、つまり製造業者が卸売業者に卸す時点でかけるわけでございます。したがって、そのかけた金額全体が消費税の課税対象になる、こういう構造になろうかと思っています。」と答弁している(甲43・15頁第1段)。
b 上記aで認定した事実のほか、原告が指摘する法第5章が規定する私的録音録画制度の仕組み及び平成11年7月1日に私的録画に係る特定機器を定めた施行令1条2項が施行されて以来、10年以上にわたって、原告による私的録画補償金の徴収が前記第2の3(3)のとおりの方法により現に行われてきた事実があることなどを考慮すれば、平成4年法改正の当初から現在に至るまで、特定機器の製造業者等による法104条の5に基づく「協力」の内容として、法案担当者や特定機器の製造業者を含む関係者らの間で具体的に想定され、かつ、現に実践されていた行為が、「特定機器の出荷価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること」(上乗せ徴収・納付)であったことは否定できないところといえる。
 しかしながら、法案担当者や特定機器の製造業者を含む関係者らが製造業者等の「協力」の内容として上乗せ徴収・納付を具体的に想定し、現にこれを実践してきたという事実が認められるからといって、そのことから直ちに、法104条の5の規定が特定機器の製造業者等に上記行為をなすべき法律上の具体的な義務を課したものであるとの解釈が導き出されるものではない。
 すなわち、立法者としては、私的録音録画補償金制度の実際の運用において、特定機器の製造業者等に上乗せ徴収・納付を行わせるという仕組みを想定するにしても、そのために行う具体的な立法に当たっては、製造業者等に法律上の具体的な作為義務を課すという方法を採ることもあれば、そこまでの義務を課すことはせずに、法的強制力の伴わない抽象的な義務としての協力義務を負わせるにとどめ、製造業者等による任意の履行に委ねるという方法を採ることもあり得るのであって、この点は、立法者がいかなる立法政策を採用するかによって定まる問題である。
 そして、本件において論じられるべきは、法104条の5の規定内容等に照らし、上記のうちのいずれの立法政策が採られたものと解されるのかということにほかならない。
 しかるところ、前記(1)で述べたとおり、法104条の5の規定が、具体的な作為義務の内容を特定して規定することなく、あえて「協力」という抽象的な文言を用いるにとどまっていることからすれば、立法者としては、法104条の5において、製造業者等に上乗せ徴収・納付を行うべき法律上の具体的な義務を課すことまではせずに、法的強制力の伴わない抽象的な義務としての協力義務を負わせるにとどめるという立法政策を採用したものと解するのが相当というべきである。
c また、原告は、法104条の5が法的に強制される具体的な義務を規定した効力規定であることの根拠として、同条は、それが機能しなければ私的録画補償金制度自体が機能しなくなる、制度の「核」となる規定であることを強調する。
 しかしながら、原告の上記主張は、要するに、特定機器の製造業者等の協力義務を法的に強制される具体的な義務と解した方が私的録画補償金制度のより実効的な運用が担保されるという、制度としての望ましい在り方を述べているにすぎず、法104条の5の規定の解釈を根拠づける事情を述べているものとはいえないから、前記bで示した法104条の5の解釈を左右するものではない。
d 以上のとおり、原告の上記主張は、法104条の5の協力義務が法律上の具体的な義務であることを基礎づけるものではない。
(イ) さらに、原告は、@第10小委員会報告書中に、「メーカー等の義務が履行されない場合は、民事上の請求権の実現の例にならって、メーカー等の協力の実現を裁判によって求めることができる。」(甲44・4490頁)との記載があること、A第125回国会の衆議院文教委員会に政府委員として出席した佐藤禎一文化庁次長が、製造業者等の協力義務が履行されない場合の措置に関し、「義務違反があれば通常の民事上の手続によってその実現を求めるということになる」(甲42・13頁第2段)との発言をしていることを挙げ、これらに示された立法者ないし法案立案者の意思からすれば、法104条の5は、法的に強制される具体的な義務を規定したものと解される旨主張する。
 しかしながら、上記のような第10小委員会報告書の記載及び佐藤禎一政府委員の答弁は、平成4年法改正に係る立法に至る過程の一場面における断片的な報告書上の記載や国会答弁にすぎず、そこで示された見解に至る議論の過程が証拠上何ら明らかではない。
 しかも、これらの記載や答弁の内容をみても、単に製造業者等が協力義務を履行しない場合には裁判ないし民事上の手続によってその実現を求め得る旨が述べられているのみで、協力義務の法的性質やその具体的な内容についての説明は何らされていない。また、民事上の手続には、民事訴訟のみならず、民事調停等の訴訟以外の手続も含まれるものであり、民事上の手続であるからといって、当然に法的強制力を伴うものとはいえない。
 このように断片的で、かつ、その内容も具体性を欠く面のある報告書上の記載や国会答弁をもって、法104条の5の解釈の根拠となる立法者等の意思であるものということはできず、少なくとも、前述のとおり、法104条の5の文言自体に最も端的に示されているというべき立法者の意思を覆すような事情たり得ないといわざるを得ない。
(ウ) 以上によれば、私的録画補償金制度の仕組み、立法者等の意思及び同制度の運用の実態を根拠として、法104条の5の協力義務が上乗せ徴収・納付を内容とする法律上の具体的な義務であるとする原告の主張は失当である。
イ 法104条の5の文言(前記A)を根拠とする主張について
 原告は、法104条の5の文言は、「私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関する協力」とされているところ、私的録画補償金の「支払の請求及びその受領」に関して製造業者が「協力」するとなれば、上乗せ徴収・納付以外には考えられないから、法104条の5の文言からしても、製造業者等が行うべき「協力」とは上乗せ徴収・納付であると解するほかない旨主張する。
 しかしながら、法104条の5の「協力」という用語自体から具体的な行為を特定することはできず、このことは、当該「協力」が私的録画補償金の「支払の請求及びその受領」に関するものであるとの限定が付されていても同様であることは、前記アで述べたとおりであり、法104条の5の文言自体を根拠として、製造業者等が行うべき「協力」が上乗せ徴収・納付に特定されるものとする原告の主張は、文理からかけ離れた解釈といわざるを得ない。
 原告の上記主張は、平成4年法改正の当初から現在に至るまで、特定機器の製造業者等による法104条の5に基づく「協力」の内容として、法案担当者や特定機器の製造業者を含む関係者らの間で具体的に想定され、現に実践されてきた行為が上乗せ徴収・納付であるという事実から、製造業者等による「協力」の内容としては上乗せ徴収・納付以外には考えられないとして、これを法104条の5の規定の解釈に結びつけようとするものと思われるが、かかる事実が法104条の5の規定の解釈の根拠とならないことは、前記ア(ア)bで述べたとおりである。
 したがって、法104条の5の文言を根拠とする原告の上記主張も失当である。
ウ 法104条の6第3項の規定を根拠(前記C)とする主張について原告は、法104条の6第3項が、指定管理団体が法104条の4第1項の規定により支払の請求をする私的録画補償金の額を定め、文化庁長官に認可の申請をするに際し、あらかじめ製造業者等の団体で製造業者等の意見を代表すると認められるものの意見を聴かなければならないと規定しているのは、私的録画補償金の額について、製造業者等が直接の利害関係を有するからであり、そうである以上、法104条の5の協力義務の内容としては、上乗せ徴収・納付を行うことが前提とされている旨主張する。
 しかしながら、法104条の5の協力義務が、法的強制力を伴わない抽象的な義務であるとする解釈を前提としたとしても、そのような義務が法律によって特定機器の製造業者等に課されるものである以上、これらの製造業者等としては、指定管理団体が特定機器の購入者に私的録画補償金の支払を請求する場合に、その「支払の請求及びその受領」に関して何らかの協力をすべきことが要請されるのであり、たとえそれが法的強制力の伴わないものであるとしても、これら製造業者等には、当該私的補償金の額についての一定の利害があるものと評価することは何ら不合理なことではない。そして、そうである以上、指定管理団体が私的録画補償金の額を定めるに当たって、製造業者等の団体の意見を聴取する手続規定が設けられたとしても、格別不自然なこととはいえない。
 このように、法104条の6第3項の規定は、法104条の5の協力義務の内容が法的強制力を伴わない抽象的な義務にすぎないとの解釈を前提としても、その存在意義が説明できないものではないから、法104条の6第3項の規定の存在が、法104条の5の協力義務の内容が上乗せ徴収・納付を行うという法律上の具体的な義務であることを根拠づけるものとはいえない。
 したがって、法104条の6第3項の規定を根拠とする原告の上記主張も失当である。
エ 原告・JEITA間協定の存在を根拠(前記E)とする主張について
 原告は、原告・JEITA間協定に係る協定書第1条(甲6の1)において、法104条の5の規定に基づく協力義務の履行として、特定機器の製造業者であるJEITAの会員企業が、特定機器の購入者から私的録画補償金相当額を受領し、JEITAを経由して原告にこれを納入することが明記されていることを挙げ、被告を中心的な構成員とする業界団体であるJEITAが、法104条の5の規定に基づく製造業者の協力義務の内容を上記のとおりに解釈しているという事実は、法104条の5の協力義務の内容が上乗せ徴収・納付を行うという法律上の具体的な義務であるとの解釈の正当性を基礎づける旨主張する。
 しかしながら、まず、そもそも電気機器等に関する業界団体であるJEITAによる法104条の5の解釈が、直ちに同条についての正当な法律解釈であると断ずべき理由はない。
 しかも、原告・JEITA間協定に係る協定書第1条の規定をみても、ここでは、原告がJEITAに対し、JEITAの会員企業のうち、法104条の5の規定に基づく協力義務の履行として特定機器の購入者から受領して原告に納付すべき私的録画補償金相当額をJEITAを経由して原告に納入することを希望する者については、その請求及び受領に関する一切の業務を委任することが規定されているにすぎず、法104条の5の規定に基づく協力義務が、法的強制力を伴わない抽象的な義務ではなく、上乗せ徴収・納付を行うという法律上の具体的な義務であるとの解釈が示されているわけではない。
 したがって、原告・JEITA間協定の存在を根拠とする原告の上記主張は、理由がない。
オ ベルヌ条約との整合性を根拠(前記F)とする主張について
 原告は、私的録音録画補償金制度の中核を占める著作権法104条の5が訓示規定であるということになれば、我が国における私的録音・録画の実態は、ベルヌ条約9条2項の「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件を満たさないこととなるから、そのような解釈は許されない旨主張する。
 しかしながら、著作権法104条の5の協力義務が、法的強制力の伴わない抽象的な義務であり、製造業者等による任意の協力の履行に委ねた規定であると解したからといって、直ちにベルヌ条約9条2項の「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件を満たさないこととなると断ずべき根拠はないから、原告の上記主張は失当である。
カ 小括
 以上のとおり、原告の前記@ないしFの諸点からの主張を検討しても、法104条の5の協力義務の法的性質が原告主張のとおりのものであることが根拠づけられるとはいえない。
(3) 被告の私的録画補償金相当額支払義務の有無
 以上によれば、法104条の5が規定する特定機器の製造業者等が負う協力義務は、原告の主張するような法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務である解される。
 したがって、被告が、原告に対し、法104条の5の協力義務として、被告各製品に係る私的録画補償金相当額の金銭を支払う義務を負うものと認めることはできない。
3 争点3(被告による不法行為の成否)について
(1) 協力義務違反による原告の利用者に対する補償金請求権の侵害の有無
ア 原告は、被告が原告に対し、法104条の5の協力義務として、特定機器である被告各製品の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額の金銭を支払う法律上の義務を負っていることを前提とした上で、被告がかかる義務に違反したことが、原告の利用者に対する補償金請求権を侵害する不法行為に当たる旨主張する。
 しかしながら、前記2(1)で述べたとおり、法104条の5が規定する特定機器の製造業者等の協力義務は、原告が主張するような内容の法律上の具体的な義務ではないと解されるから、原告の上記主張は、その前提において理由のないことが明らかである。
イ また、原告は、法104条の5の協力義務の内容が上記ア以外のものであったとしても、被告が被告各製品の販売に関し、何らの「請求及びその受領に関し協力」を行っていない以上、被告の協力義務違反は原告に対する権利侵害行為となる旨主張する。
 しかしながら、前記2(1)で述べたとおり、法104条の5が規定する特定機器の製造業者等の協力義務は、法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務にすぎないものと解されるのであるから、被告がかかる協力義務を履行しなかったからといって、法的責任を問われるべき理由はなく、当該義務の不履行について、不法行為としての違法性を有するものと認めることはできない。
ウ さらに、原告は、法104条の5が訓示規定であることを前提としても、被告による協力義務違反は、不法行為としての違法性を基礎づけるに十分であるとも主張するが、上記イで述べたとおり、法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を履行しなかったことについて、不法行為としての違法性が認められるとはいえず、そのほかに、被告の行為につき、不法行為としての違法性を基礎づけるに足りる事実も認められない。
エ 以上のとおり、被告の行為について、協力義務違反による原告の補償金請求権侵害の不法行為が成立する旨の原告の主張は理由がない。
(2) 被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害
 原告は、製造業者等による私的録画補償金を上乗せしない特定機器の販売行為は、利用者の原告に対する補償金支払義務違反を惹起するものであるから、私的録画補償金相当額を上乗せせずに被告各製品を販売した被告の行為は、原告の利用者に対する補償金請求権を侵害する不法行為に当たる旨主張する。
 しかしながら、私的録画補償金相当額を上乗せせずに被告各製品を販売した被告の行為が、不法行為としての違法性を有するものと評価されるためには、少なくとも、被告に、被告各製品を販売するに当たって私的録画補償金相当額を上乗せして販売しなければならない法的な作為義務があることが前提とされなければならない。
 しかるところ、前記2(1)で述べた法104条の5の協力義務の法的性質からすれば、同条の協力義務が、被告の法的な作為義務の根拠とならないことは明らかであり、また、そのほかに、かかる作為義務が生ずべき法律上の根拠も認められない。
 したがって、被告各製品の販売による原告の補償金請求権侵害の不法行為が成立する旨の原告の主張も理由がない。
(3) 以上によれば、原告が主張する被告の不法行為は、いずれもその成立が認められない。
4 結論
 以上によれば、被告各製品は、原告が主張するように、いずれも施行令1条2項3号の規定する特定機器に該当するものであるが、法104条の5の協力義務は、原告が主張するような法律上の具体的な義務とはいえないから、被告に対し、当該協力義務の履行として、被告各製品に係る私的録画補償金相当額の金銭の支払を求める原告の請求は理由がない。
 また、上記協力義務が法律上の具体的な義務とはいえない以上、原告が主張する被告による不法行為の成立も認められないから、被告に対し、不法行為による損害賠償を求める原告の請求も理由がない。
 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 大西勝滋
 裁判官 石神有吾


別紙 製品目録
1 DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
 製品名 VARDIA(ヴァルディア)RD−E303
 記録媒体 内蔵ハードディスク(容量:500GB),DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW
 録画方式 MPEG2−PS、MPEG2−TS
 録音方式 ドルビーデジタル(M1モード:転送レート192kbps、2ch/M2モード:転送レート384kbps、2ch)
        リニアPCM(48kHz/16bit、2ch)
        AAC(ストリーム記録、デジタル放送のTSモード録画時)
 搭載チューナー 地上デジタル放送、BSデジタル放送、110度CSデジタル放送(アナログ放送対応チューナーなし)
2 DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
 製品名 VARDIA(ヴァルディア)RD−G503(K)
 記録媒体 内蔵ハードディスク(容量:320GB),DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW
 録画方式 MPEG2−PS、MPEG2−TS
 録音方式 ドルビーデジタル(M1モード:転送レート192kbps、2ch/M2モード:転送レート384kbps、2ch)
        リニアPCM(48kHz/16bit、2ch)
        AAC(ストリーム記録、デジタル放送のTSモード録画時)
 搭載チューナー 地上デジタル放送、BSデジタル放送、110度CSデジタル放送(アナログ放送対応チューナーなし)
3 DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
 製品名 VARDIA(ヴァルディア)RD−G503(W)
 記録媒体 内蔵ハードディスク(容量:320GB),DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW
 録画方式 MPEG2−PS、MPEG2−TS
 録音方式 ドルビーデジタル(M1モード:転送レート192kbps、2ch/M2モード:転送レート384kbps、2ch)
        リニアPCM(48kHz/16bit、2ch)
        AAC(ストリーム記録、デジタル放送のTSモード録画時)
 搭載チューナー 地上デジタル放送、BSデジタル放送、110度CSデジタル放送(アナログ放送対応チューナーなし)
4 DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
 製品名 VARDIA(ヴァルディア)RD−E304K
 記録媒体 内蔵ハードディスク(容量:320GB),DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW
 録画方式 MPEG2−PS
 録音方式 ドルビーデジタル(M1モード:転送レート192kbps、2ch/M2モード:転送レート384kbps、2ch)
        リニアPCM(48kHz/16bit、2ch)
        AAC(ストリーム記録、デジタル放送のTSモード録画時)
 搭載チューナー 地上デジタル放送、BSデジタル放送、110度CSデジタル放送(アナログ放送対応チューナーなし)
5 DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)
 製品名 VARDIA(ヴァルディア)RD−E1004K
 記録媒体 内蔵ハードディスク(容量:1000GB),DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW
 録画方式 MPEG2−PS
 録音方式 ドルビーデジタル(M1モード:転送レート192kbps、2ch/M2モード:転送レート384kbps、2ch)
        リニアPCM(48kHz/16bit、2ch)
        AAC(ストリーム記録、デジタル放送のTSモード録画時)
 搭載チューナー 地上デジタル放送、BSデジタル放送、110度CSデジタル放送(アナログ放送対応チューナーなし)
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