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【事件名】“住宅ローン金利比較表”の著作物性事件
【年月日】平成22年12月21日
 東京地裁 平成22年(ワ)第12322号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年11月4日)

判決
原告 A
被告 財団法人住宅金融普及協会
訴訟代理人弁護士 山本昌平


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、被告のホームページ((略)がURL上に含まれる全てのページ)のうちの「住宅ローン商品金利情報」((略)がURL上に含まれる全てのページ)を閉鎖せよ。
2 被告は、原告に対し、706万4000円を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告がその開設するウェブサイト上に掲載している「住宅ローン商品金利情報」((略)がURL上に含まれる全てのページ。以下同じ。)のうちの図表(「別紙A」で示した範囲の図表の部分に相当する各図表。以下「被告図表」という。)は、原告の著作物である「図表」(「別紙B」で示した範囲の図表の部分に相当する各図表。以下「本件図表」という。)を複製したものであり、被告の上記掲載行為は原告の保有する本件図表の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害する旨主張し、被告に対し、著作権法112条1項に基づく差止請求として被告のウェブサイト上の「住宅ローン商品金利情報」が掲載されたウェブページの閉鎖と、著作権侵害の不法行為による損害賠償の一部請求として706万4000円の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 原告は、平成20年4月から、原告が開設した「銀行商品コム」という名称のウェブサイト((略)。以下「原告ウェブサイト」という。)上に、住宅ローン金利の比較表(以下「本件金利比較表」という場合がある。)を掲載している(甲4、5)。
 本件図表は、本件金利比較表のうちの図表部分である(甲6の1、2、8の1、2、10の1、2)。本件図表に記載された金利情報は、随時更新されており、「別紙B」記載の図表は、「最終更新日」を「平成22年5月11日」とするものである。
(2)ア 被告は、住宅金融等に関する総合的な調査研究及び情報提供並びに住宅の審査等を実施するとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の業務に協力し、住生活の向上及び住宅問題の解決に寄与することを目的とする財団法人である。
イ 被告は、平成20年9月から、被告が運営する「住まいのポータルサイト」という名称のウェブサイト((略)。以下「被告ウェブサイト」という。)上に、「住宅ローン商品金利情報」を掲載している。
 被告図表は、「住宅ローン商品金利情報」のうちの図表部分である(甲7の2、9の2、11の2)。被告図表に記載された金利情報は、随時更新されており、「別紙A」記載の図表は、「最終更新日」を「平成22年5月11日」とするものである。
3 当事者の主張
(1) 請求原因
ア 本件図表の著作物性
 本件図表は、次の(ア)ないし(ウ)のとおり、「図面、図表、模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)、「編集著作物」(同法12条1項)又は「データベースの著作物」(同法12条の2第1項)である。
(ア) 「図形の著作物」であること
a 本件図表は、次の(a)ないし(d)の特徴を有する点で、従来からある「静的な図表」とは全く異なる、ウェブ時代における新しい概念の「動的な図表」として創作性を有するものであって、「図面、図表、模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に該当する。
(a) 全国の金融機関(具体的には、都市銀行、第一地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、外国銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、ネット専用銀行及びノンバンク等の住宅ローンを取り扱っている金融機関をいう。)の住宅ローンを掲載していること。
(b) 前記(a)の住宅ローンの商品名や金利情報その他の必要事項をデータベース化していること。
(c) 前記(b)によってデータベース化された住宅ローンについて、各都道府県ごとや各地域ごとに住所あるいは居所、勤務地、事業所等を有する者が利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを抽出する機能を備えていること。
(d) 前記(c)によって抽出された各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンについて、その住宅ローンの金利を変動金利と固定金利に区分し、固定金利については、各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年に区分し、「変動金利又は固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年」のうちの「利用者が希望する箇所」をクリックすることにより、その希望する箇所の金利について、順次、昇順(低金利の順)に並び替える動作機能を備えていること。この金利の昇順による並び替え後の「動的な特定の図表」の配列は、左から、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の順に表示されるように確定していること。
b 本件図表が創作性を有することは、平成22年10月6日の時点においてもなお、前記a(a)ないし(d)の特徴を備えた「動的な図表」が他に存在しないことから明らかである。
 被告は、後記のとおり、多様化する住宅ローンの金利を比較するウェブサイトは、既に数多く存在している旨主張し、その根拠として乙1ないし6の2のウェブサイトに掲載された図表を挙げる。
 しかし、これらの図表は、上記特徴を備えた図表ではなく、また、被告が主張するように住宅ローンの金利を比較するウェブサイトは無数にあるが、上記特徴を備えた図表を掲載したウェブサイトは、原告ウェブサイトのほかに存在しないから、被告の上記主張によって本件図表に創作性があることを否定することはできない。
(イ) 「編集著作物」であること
a 本件図表は、以下のとおり、素材である「全国の金融機関の住宅ローン金利」の選択又は配列によって創作性を有する「編集著作物」(著作権法12条1項)である。
 本件図表は、@原告独自の各都道府県ごとや各地域ごと又は全国で利用できる住宅ローンを、A変動金利と固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の各区分ごとに、B利用者が希望する各区分項目ごとに、順次、低金利の順に並び替えて見られるようにするという原告の目的と方針に従って、各項目ごとに低金利の順での並び替えをし、Cその並び替え後の配列は、左から、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の順に配列を確定しているという点で、住宅ローン金利の素材の選択及び配列によって創作性を有するものである。
b 本件図表が編集著作物としての創作性を有することは、前記(ア)bで述べたように、原告ウェブサイトのほかには、本件図表と同じか、又はこれに似通った編集著作物が掲載されたウェブサイトが存在しないことから明らかである。
(ウ) 「データベースの著作物」であること
a 本件図表は、@全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報の集合物であって、A電子計算機を用いて、各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを選択抽出及び検索をして、Bその選択抽出及び検索をした住宅ローンの金利情報等を、変動金利と固定金利に、固定金利については、さらにその各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の各項目ごとに電子計算機が選択区分をし、C利用者がこれらの区分された各項目をクリックすることによって、電子計算機がその各項目ごとの金利について、順次、低金利の順に並び替え、Dこの並び替え後の図形は、左から、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の順に配列を確定し、その各項目ごとに金利を低金利の順に並び替えて見られるという体系的な構成がされたデータベースであって、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものであるから、「データベースの著作物」(著作権法12条の2第1項)である。
b 本件図表がデータベースの著作物としての創作性を有することは、前記(ア)bで述べたように、原告ウェブサイトのほかには、本件図表と同じか、又はこれに似通った図表が掲載されたウェブサイトが存在しないことから明らかである。
イ 被告による複製権及び公衆送信権の侵害
 被告は、以下のとおり、本件図表に依拠して、本件図表と同一の特徴等を備えた被告図表を作成することによって本件図表を複製し、被告図表を被告ウェブサイトに掲載しているのであるから、被告の上記行為は、原告が保有する本件図表の複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものである。
(ア) 被告図表は、本件図表と同一の特徴等(前記ア(ア)a(a)ないし(d)、(イ)a@ないしC及び(ウ)a@ないしD)を備えるものである。
 被告は、後記のとおり、本件図表と被告図表の相違点(原告ウェブサイトと被告ウェブサイトとの相違点を含む。)を指摘するが、いずれも重要でない相違点であって、被告図表が備える上記特徴等に全く影響を与えるものではないから、上記相違点によって被告図表が本件図表の複製物であることを否定することはできない。
(イ) @「Yahoo!Japan」や「Google」等の検索サイトで、「住宅ローン比較」や「住宅ローン金利比較」等のキーワードで検索すると、本件図表を掲載した原告ウェブサイトが上位に表示されること、A被告図表は、本件図表と同一の特徴等(前記ア(ア)a(a)ないし(d)、(イ)a@ないしC及び(ウ)a@ないしD)を備えた図表であること、B上記特徴等を備えた図表は、本件図表以外に存在せず、また、このような図表を掲載したウェブサイトは原告ウェブサイトのほかに存在しないことからすると、被告は、本件図表に依拠して、被告図表を複製したことは明らかである。
ウ 原告の損害
 原告は、被告による前記イの複製権及び公衆送信権の侵害行為により、次のとおりの損害を被った。
(ア) バナー広告料収入相当額の損害 570万円
 平成20年9月から平成22年3月までの19か月分(30万円×19か月=570万円)
(イ) 有料会員の会員料金相当額の損害 136万4000円
 原告が有料制度に移行した平成21年12月から平成22年3月までの4か月分
(ウ) 合計706万4000円
エ まとめ
 よって、原告は、被告に対し、著作権法112条1項に基づく差止請求として被告ウェブサイト上の「住宅ローン商品金利情報」が掲載されたウェブページの閉鎖と、著作権侵害の不法行為による損害賠償の一部請求として706万4000円の支払を求める。
(2) 被告の主張
ア 本件図表の著作物性の主張に対し
(ア) 本件図表は、公表されている金融機関の各住宅ローンを、金融機関名、金融機関の商品名、金利の内容を区別して並べたに過ぎないものであり、そもそも「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえないから、著作物に当たらない。
 また、多様化する住宅ローンの金利を比較するウェブサイトは、すでに数多く存在し、日本地図を使用して絞り込むウェブサイトは、極めてありふれている上、住宅ローンの金利を比較して紹介するために、原告ウェブサイト上の本件金利比較表のように、金融機関名、住宅ローンの商品名、変動金利型、固定金利期間選択型・固定金利型の各区別、無数にある住宅ローンの金利を借り易いように金利の低い順に並び替えることは、誰でも考え付く、ごくありふれたものである。例えば、乙1のウェブサイトでは、金融機関名、商品の種類、変動金利、固定金利選択型の順に分類されている上、期間も「1年」から「30年」までの欄があり、また、乙2のウェブサイトでは、やはり、金融機関名、商品の種類、変動、固定の順に分類されている上、期間も「1年」から「35年」に分類されている。乙3のウェブサイトでも、金融機関名、固定期間選択型、変動型とに区別され、固定期間選択型では、期間が「1年」から「30年」に分類されている。さらに、乙4のウェブサイトでも、金融機関名、変動、固定期間の順に分類されている上、固定期間も「1年」から「35年」と原告ウェブサイトと同様に分類されており、しかも、乙4のウェブサイトでは、金利を低い順に並び替えることができるようになっている。乙5のウェブサイトでも、金融機関名、住宅ローン商品名、金利の種類、融資限度額、変動金利型、固定金利選択型等に分類された上で、固定期間選択型の期間も「2年」から「35年」に分類されている。さらに、乙6の1、2のウェブサイトでは、金利欄の横の▼印をクリックすると、金利の低い順に並び替えることもできるのである。
 したがって、この点においても、本件金利比較表のうちの本件図表は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえないから、著作物に当たらない。
(イ) また、原告が主張する本件図表の特徴(前記(1)ア(ア)a(a)ないし(d))は、画面に表示された「図表」の創作性とコンピュータの機能面での特徴を混在化したもので、失当であるといわざるを得ない。
イ 被告による複製権及び公衆送信権の侵害の主張に対し
(ア) 被告は、独自に被告ウェブサイトにおける被告図表を作成したものであり、本件図表に依拠して、被告図表を作成したものではない。
 また、被告ウェブサイトの画面表示と原告ウェブサイトの画面表示は、色やデザイン、検索方法、掲載されている金融機関の商品や順番が異なるなど、一見して明らかに異なり、また、両者の表示には、別紙「相違表」のとおり59箇所の相違点がある。
(イ) 被告ウェブサイトにおける被告図表の各項目の並び替え機能は、ごく一般的に普及している「MySQL」というオープンソースのアプリケーションソフト(乙12)によるものであり、その機能と、その機能を行使した結果表示される画面は、一般的にありふれたもので、何ら原告の模倣ではない。
 また、被告ウェブサイトで日本地図をクリックすることによる地域検索の機能は、「JavaScript」という言語(乙13)によるもので、これも多くのウェブサイトで利用されており、そのような検索機能と、その機能を行使した結果表示される画面は、一般的にありふれたもので、何ら原告の模倣ではない。
(ウ) したがって、被告図表は、本件図表の複製物に該当しないから、被告による被告図表の作成及び被告ウェブサイトにおける被告図表の掲載は、原告主張の本件図表の複製権侵害及び公衆送信権侵害に当たらない。
ウ 原告の損害の主張に対し
 原告主張の損害は争う。
 住宅ローンの金利を比較できる無料のウェブサイトは、乙1ないし6の2のように無数にあり、原告が主張する損害と被告ウェブサイトにおける被告図表の掲載との間には何らの因果関係もない。
第3 当裁判所の判断
1 本件図表の著作物性(請求原因ア)について
(1) 前提事実
 前記争いのない事実等と証拠(甲6の1、2、8の1、2、10の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件図表は、住宅ローン金利の比較表であり、別紙B記載のように、左から順に、「通し番号」欄、「金融機関名(店舗情報へリンク)」欄、「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」欄、「変動金利型年金利(%) ▲ 」欄、「固定金利型固定期間別年金利(%)」欄を設け、更に、「固定金利型固定期間別年金利(%)」欄は、固定期間に応じて、「1年▲ 」欄、「2年▲ 」欄、「3年▲ 」、「5年▲ 」欄、「7年▲ 」欄、「10年▲ 」欄、「15年▲ 」欄、「20年▲ 」欄、「25年▲ 」欄、「30年▲ 」欄及び「35年▲ 」欄に細分化されている。
 本件図表は、全国の金融機関を対象とした図表、都道府県等の各地域別の金融機関を対象とした図表などから構成されている。
イ 原告は、原告ウェブサイト(「銀行商品コム」という名称のウェブサイト)上に本件図表を掲載し、本件図表に表示する各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報(変動金利の利率、固定金利の利率等)を随時更新している。
 本件図表が掲載された原告ウェブサイトのページには、別紙B記載のように、「日本地図」の図形が表示されており、閲覧者の端末のディスプレイ画面から、「日本地図」の表示部分のクリック操作を行うことにより、各地域別の金融機関の住宅ローン商品の図表を検索し、これを画面表示することができる。
 また、本件図表の「変動金利型年金利(%) ▲ 」欄の「▲ 」の部分又は「固定金利型固定期間別年金利(%)」欄の各固定期間の「▲」の部分のクリック操作を行うことより、金利の低い順に(昇降順に)項目の並べ替えをすることができ、この並べ替えた図表を画面表示することができる。
(2) 「図形の著作物」としての著作物性の有無(請求原因ア(ア))
ア 原告は、本件図表が「図面、図表、模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、本件図表は、各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について、全国又は各地域別の金融機関ごとに、その商品名、変動金利の数値、固定金利(1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり、金利情報をこのような項目に分類して対比した図表及び金利の低い順に昇降順に並べて対比した表は、他に多く存在し(乙1ないし5、6の1、2、弁論の全趣旨)、ありふれたものであって、思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。
 したがって、本件図表が図形の著作物に当たるものと認めることはできず、原告の上記主張は理由がない。
イ これに対し原告は、本件図表は、@全国の金融機関の住宅ローンを掲載していること、A住宅ローンの商品名や金利情報その他の必要事項をデータベース化していること、Bデータベース化された住宅ローンについて、各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを抽出する機能を備えていること、Cその住宅ローンの金利を変動金利と固定金利に区分し、固定金利については、各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年に区分し、「変動金利又は固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年」のうちの「利用者が希望する箇所」をクリックすることにより、その希望する箇所の金利について、順次、昇順(低金利の順)に並び替える動作機能を備えていることの特徴を有するものであり、ウェブ時代における新しい概念の「動的な図表」として創作性を有する旨主張する。
 しかし、上記AないしCの機能等は、本件図表に表示されるデータの管理方法あるいは原告ウェブサイトの機能であって、本件図表を構成する各図表そのものの表現に相当するものではなく、上記機能等から本件図表が図形の著作物としての創作性を有することを基礎づけることはできない。
 また、全国の金融機関の住宅ローン商品を対象に、それらの変動金利及び固定金利を図表の形式で表示すること(上記@)や各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列して表示すること(上記C)は、いずれもありふれた表現であって、表現上の創作性を認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 「編集著作物」としての著作物性の有無(請求原因ア(イ))
ア 原告は、本件図表は、素材である「全国の金融機関の住宅ローン金利」の選択又は配列によって創作性を有する「編集著作物」(著作権法12条1項)である旨主張する。
 そこで検討するに、本件図表は、各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について、全国又は各地域別の金融機関ごとに、その商品名、変動金利の数値、固定金利(1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり(前記(2)ア)、全国の金融機関の全てを対象に、その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり、そのような選択はありふれたものであるから、素材の選択によって創作性を認めることはできない。
 また、本件図表における素材の配列は、別紙B記載のように、左から、「金融機関名(店舗情報へリンク)」、「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」、「変動金利型年金利(%)」及び「固定金利型固定期間別年金利(%)」(1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の固定期間別)の順に配列したものであり、この種の住宅ローン金利の対比表に多くみられたありふれた配列であり、また、本件図表を構成する図表の中には、各地域ごとの各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列したものがあるが、このように金利の低い順に住宅ローン商品を配列することもありふれたものであるから、素材の配列によっても創作性を認めることはできない。
 したがって、本件図表が編集著作物に当たるとの原告の主張は、理由がない。
イ これに対し原告は、本件図表は、@原告独自の各都道府県ごとや各地域ごと又は全国で利用できる住宅ローンを、A変動金利と固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の各区分ごとに、B利用者が希望する各区分項目ごとに、順次、低金利の順に並び替えて見られるようにするという原告の目的と方針に従って、各項目ごとに低金利の順での並び替えをし、Cその並び替え後の配列は、左から、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の順に配列を確定しているという点で、住宅ローン金利の素材の選択及び配列によって創作性を有するものである旨主張する。
 しかし、前記アで認定したとおり、全国の金融機関の住宅ローン商品について、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間(1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年)の順に配列することはありふれたものであって、表現上の創作性を認めることはできない。また、原告のいう「並び替え」は、原告ウェブサイトの機能であって、本件図表を構成する各図表そのものの表現に相当するものではないから、本件図表が編集著作物としての創作性を有することを基礎づけることはできない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(4) 「データベースの著作物」としての著作物性の有無(請求原因ア(ウ))
 原告は、本件図表は、@全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報の集合物であって、A電子計算機を用いて、各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを選択抽出及び検索をして、Bその選択抽出及び検索をした住宅ローンの金利情報等を、変動金利と固定金利に、固定金利については、さらにその各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の各項目ごとに電子計算機が選択区分をし、C利用者がこれらの区分された各項目をクリックすることによって、電子計算機が各項目ごとの金利について、順次、低金利の順に並び替え、Dこの並び替え後の図形は、左から、金融機関名、商品名、変動金利、固定金利の各固定期間である1年、2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年、35年の順に配列を確定し、その各項目ごとに金利を低金利の順に並び替えて見られるという体系的な構成がされたデータベースであって、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものであるから、「データベースの著作物」(著作権法12条の2第1項)である旨主張する。
 そこで検討するに、原告ウェブサイトにおいては、本件図表を構成する各図表の「変動金利」及び「固定金利」の数値を金利の低い順に並べ替えて、表示することができることからすれば、本件図表を構成する各図表に表示される情報については、何らかのデータベースが存在することがうかがわれるが、そのデータ構造についての主張立証はない。もっとも、原告は、本件図表を構成する各図表の複製物(甲6の1、2、8の1、2、10の1、2等)を証拠として提出しているが、上記各図表の記載事項から本件図表に係るデータベースのデータ構造そのものを把握することはできない。そうすると、原告の主張の前提となる本件図表のデータベースがいかなるものであるのか不明であるから、情報の体系的な構成によって創作性を有するものと認めることはできない。
 また、原告が主張する本件図表のデータベースにおいて選択された情報は、「全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報」であって、全国の金融機関の全てを対象に、その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり、そのような選択はありふれたものであるから、情報の選択によって創作性を有するものと認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(5) まとめ
 以上のとおり、本件図表が「図形の著作物」、「編集著作物」又は「データベースの著作物」であること(請求原因ア(ア)ないし(ウ))を認めることはできない。
2 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 大西勝滋
 裁判官 上田真史
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