判例全文 line
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【事件名】広告文言の著作物性事件
【年月日】平成22年12月10日
 東京地裁 平成20年(ワ)第27432号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年9月29日)

判決
原告 オーインクメディアサービス株式会社
同訴訟代理人弁護士 鈴木仁志
被告 ロジテック株式会社
同訴訟代理人弁護士 小倉秀夫


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、1650万3562円及びこれに対する平成19年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、URLを「URL〈省略〉」とするウェブサイト上に、別紙謝罪広告目録記載の体裁及び内容の謝罪広告を本判決確定の日の翌日から90日間掲載せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被告の行為は、主位的に、@原告が創作し、そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって、原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権、二次的著作物に係る利用権)及び著作者人格権(氏名表示権、著作権法113条6項のみなし侵害)を侵害する不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権(民法709条、710条、著作権法114条2項、3項)に基づき損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求め、予備的に、A一般不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権(民法709条、710条)に基づき上記@と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条に基づき謝罪広告の掲載を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、コンピュータの保守、管理、コンピュータにおけるデータ復旧サービス(バックアップされていないデータがコンピュータ上で出力できなくなった場合などに、当該データをコンピュータ等から取り出して復元する等のサービス)の請負等を目的とする株式会社である。(甲1の1)
 被告は、コンピュータ関連機器の開発、製造、販売等を目的とする株式会社である。(甲2の1)
(2) 原告によるデータ復旧サービスに関するウェブページの掲載
 原告は、平成18年10月から12月にかけて、データ復旧サービスを一般に周知し顧客を誘引するためのウェブページを創作し、これを自社のウェブサイトに「データSOS」のタイトルで掲載し、その後、推敲、改良を重ね、遅くとも平成19年4月28日の時点で、データ復旧サービスに関するウェブページ(甲3の1の3枚目から5枚目のウェブページに表示されたコンテンツ全体〔以下「本件コンテンツ」という。〕。本件コンテンツのうち言語による説明の部分〔別紙原告文章目録記載のとおり〕を「原告文章」という。)を完成させ、ウェブサイトに掲載した。
(3) 被告によるデータ復旧サービスに関する文章の掲載
 被告は、平成19年6月、データ復旧サービス業務を開始し、遅くとも同年7月1日ころまでに、被告の業務内容を紹介するウェブサイトに、データ復旧サービスに関する文章(甲4の1及び2、6の2に記載された別紙文章対比表の被告文章欄記載の文章。以下「被告文章」という。)を掲載したが、平成20年10月初旬、被告文章の掲載を停止した。
3 争点
(1) 著作権侵害の成否(争点1)
(2) 著作者人格権侵害の成否(争点2)
(3) 一般不法行為の成否(争点3)
(4) 原告の損害額(争点4)
(5) 謝罪広告の必要性(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 被告は、平成19年7月1日ころから平成20年10月初旬までの間、被告の業務内容を紹介するウェブサイトに、別紙文章対比表のとおり、本件コンテンツ又は原告文章をデッドコピーした文章及びごくわずかな改変を行っただけの文章である被告文章を掲載し、原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権、二次的著作物に係る公衆送信権)を侵害した。
(2) 本件コンテンツは、IT書籍のライターでもある原告代表者により、ITに詳しくない一般ユーザーにも理解できるよう平易な表現が使用され、小見出しごとの文章の配置、全体のボリュームの選択等が行われているのみならず、ウェブページとして視覚的にも操作性の面でも分かりやすくなるよう「サービスメニュー」ボタンが設けられ、その配置、分類及び表現(「HDD」、「サーバ/RAID」、「デジカメ/フラッシュメモリ」、「FD/MO/CD/DVD」)にも配慮がなされ、タブメニューも設置された上、その構成、分類及び表現(「ホーム」→「データSOS とは」→「サービスの流れ」→「よくある質問」)にも配慮がなされている。
 したがって、本件コンテンツは、言語による説明部分とこれらの設置、配置、構造等とがあいまって一つの個性的表現である「パンフレット」として成立しているものであるから、精神活動の所産たる創作的表現にほかならず、本件コンテンツ自体が全体として一つの著作物である。
 また、原告文章は、テクニカルライターとしてIT関連の複数の書籍を執筆し、コンピュータ雑誌、ビジネス雑誌などへの寄稿も行っている原告代表者が、ライターとしての経験を生かし、ITに詳しくない一般ユーザーにも理解できる平易な表現を取捨選択した上で、工夫と推敲を重ねて創作したものである。具体的には、原告文章においては、初心者でも容易に理解することができるよう、文章全体のボリュームを一覧可能なコンパクトなレベルに抑えた上、読者の疑問に沿う形の構成を採用し、平易な疑問文及びクエスチョンマーク等を使用した見出しを付して解説へと導き、具体的な利用事例を端的に指摘した後、「データ復旧」の本質を浮かび上がらせるべく「修理」との対比を用いて平易な表現を選択して解説する等、随所にライターである原告の創意工夫による個性が発揮されている。
 したがって、原告文章は精神活動の所産たる創作的表現物にほかならず、著作物であることは明らかである。
 原告は、主位的には本件コンテンツに係る著作権侵害を主張するが、被告による著作権侵害行為はその大部分が言語表現部分に関するものであるから、原告文章に係る著作権侵害を予備的に主張する。
(3) 被告文章により原告の本件コンテンツ又は原告文章に係る著作権(複製権)が侵害された部分は、別紙文章対比表の原告文章欄記載の文章のうち下線を付した部分(以下「原告下線部分」という。)である。
 表現上の制約がある中で、一定以上のまとまりを持って、記述の順序を含め具体的表現(構成、記載順序、配列、接続、小見出し、言い回し、語句・単語等の選択)において同一である場合には、複製権侵害に当たると解すべきである。すなわち、創作性の幅が小さい場合であっても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には複製権侵害に当たる。
 原告下線部分について、記述の順序を含め、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、別紙文章対比表記載のとおり、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたっているのであるから、被告文章は複製に当たる。
(4) このように、被告文章は本件コンテンツ又は原告文章と実質的に同一のものであり本件コンテンツ又は原告文章の複製物に当たるため、被告文章を作成しウェブサイトに掲載した被告の行為は原告の複製権及び公衆送信権を侵害する。仮に実質的同一性の範囲を超えており複製物には当たらないとしても、被告は、本件コンテンツ又は原告文章の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が本件コンテンツ又は原告文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物である被告文章を創作したものであるから、被告の行為は原告の翻案権を侵害する。そして、翻案によりできた著作物である被告文章は原著作物である本件コンテンツ又は原告文章の二次的著作物となり、原著作者である原告は当該二次的著作物についてその著作者(被告)と同一の権利を専有することとなるから(著作権法28条)、原告の許諾なく被告文章をウェブサイトに掲載した被告の行為は、原告の二次的著作物に係る公衆送信権を侵害する。
(5) 被告は、原告下線部分には表現上の創作性がないため、当該部分において被告文章が本件コンテンツ及び原告文章と共通していても複製及び翻案には当たらないと主張するが、以下の各要素を有する原告下線部分には個性の発揮があり、表現上の創作性があることは明らかである。
@ 原告下線部分は、見出しを含めると18もの文から成る大きなまとまりであり、無限に近い極めて広汎な幅がある中で選択された一塊の文章表現であること。
A 原告下線部分は、一般に馴染みの薄いITサービスについて、平易な構成、配列、表現等の特色を出して他社との差別化を図り、もって顧客の誘引を図ることを目的とする広告表現物であり、その性質上、各社において特徴的な表現を工夫しアピールするものであって、誰が書いても表現が同じになるような性質のものではないこと。
B 原告下線部分は、テクニカルライターである原告代表者によって、難解な技術分野につき、ITに詳しくない一般ユーザーにも理解することができる平易かつ簡潔な表現によって記述されたものであること。
C データ復旧サービスが一般に十分認知されていなかった時期において、故障したハードディスクからデータを取り出すことの困難性や、ハードディスクを破壊してでもデータを守ることの重要性を、一部の顧客には理解してもらえなかった経験から、ハードディスクを破壊してでもデータを守るサービスであることを一般ユーザーに納得してもらえるよう、ハードディスクの物理的な修理とデータ復旧との差異を中心に説明を展開していること。
D 難解な技術分野について、初心者でも容易に理解することができるよう、文章全体のボリュームを一覧可能なコンパクトなレベルに抑えていること(難解な技術サービスの全体像を短文で簡潔に表現することは容易ではない。)。
E 読者の疑問に沿う形の構成を採用し、クエスチョンマークを用いて読者の興味を惹くような平易な疑問文を用いていること。
F 「┃」の記号を使用した見出しを付し、「データ復旧って何?」→「どんなときに利用されるの?」→「修理と何が違うの」との構成、流れ及び特徴的な小見出しを採用することにより、説明の中心部分である修理との差異へと読者を自然に誘導していること。
G 「┃」の記号の小見出しの下部階層において「・」の記号を冒頭に付し、利用の具体例を端的に指摘していること。
H 「┃」の記号の小見出しの下部階層において「パソコン修理」と「データ復旧」とのサブ小見出しを設けることにより、「データ復旧」の本質を浮かび上がらせるべく修理との対比を行い、この点を重点的に説明していること。
(6) 本件コンテンツ又は原告文章と被告文章の記述を比べると、別紙文章対比表記載のように、その構成及び表現に多数の同一性及び類似性が見られる。このような同一性及び類似性は、本件コンテンツ及び原告文章が原告のウェブサイトにおいて先に公開されている以上、被告が本件コンテンツ又は原告文章に依拠して被告文章を作成しない限り起こり得ないものである。
 したがって、被告が本件コンテンツ又は原告文章に依拠して被告文章を作成したことは明らかである。
〔被告の主張〕
(1) 別紙文章対比表に記載された原告文章及び被告文章とを対比すると、表現が共通する部分の方が少ないくらいであって全く類似しておらず、その共通部分の表現は、データ復旧サービスについての説明を行うという目的からは他に選択の余地がないか又は乏しいもので表現が共通となることは避け難いもの、又はありふれた表現であって、被告文章は本件コンテンツ及び原告文章の表現上の創作性のない部分で共通・類似するにすぎず、複製にも翻案にも当たらない。
(2) 本件コンテンツに、「サービスメニュー」ボタンが設けられ、「HDD」、「サーバ/RAID」、「デジカメ/フラッシュメモリ」、「FD/MO/CD/DVD」との表現がされているとの点は否認する。これらが表示された「対応機器・サービスメニュー」は、甲3の1の1枚目及び2枚目のウェブページに表示されたものである。本件コンテンツにタブメニューが設置されていることも否認する。
 原告が主張する「サービスメニュー」における「HDD」、「サーバ/RAID」、「デジカメ/フラッシュメモリ」、「FD/MO/CD/DVD」の分類、配置及び表現は、データ復旧サービスの対象の分類等としてはごくありふれたものであり、作成者の個性が現れているとはいえない。また、原告が主張するタブメニューの構成、分類及び表現は、「データSOS」との名称でデータ復旧サービスを行う事業者がその広告用ウェブページに用いるタブメニューの標題及び並び順としてごくありふれたものであるから、作成者の個性が現れているとはいえない。さらに、広告用文章において、表現を平易とすること、文章が長すぎないようにすること、適宜小見出しを付けることなどは広く行われていることであり、作成者の個性を見出すことはできない。したがって、本件コンテンツが全体として一つの著作物であるということはできない。
(3) 原告が被告文章により著作権を侵害されたと主張する原告下線部分について、その特徴的部分であると主張する点は、具体的な表現自体の特徴ではないもの、表現ではなく著作権法による保護の対象外であるアイディアに属するもの、ありふれた表現であるもの、被告文章において直接看取できないものであって、本件コンテンツ及び原告文章の表現の特徴的部分が被告文章において再製されたということはできないから、被告ウェブサイトにおける被告文章の掲載が本件コンテンツ及び原告文章に係る原告の複製権及び翻案権を侵害することはない。
(4) 被告文章を作成したA(以下「A」という。)は、本件コンテンツ及び原告文章に全く依拠することなく、被告文章を作成した。
 本件コンテンツ及び原告文章と被告文章で具体的な表現が共通している部分はごくわずかであり、かつ、それはありふれたテクニカルタームとそれに親和性の高い言い回しに限定されているが、原告ウェブページも被告ウェブページもデータ復旧サービスに関するウェブページであるから、上記のような表現で共通すること自体は自然である。本件コンテンツ及び原告文章には特段文学的な創作性の高い表現は含まれておらず、比較的ありふれたものであるから、本件コンテンツ及び原告文章を意識することなく作成された文章において同一又は類似の表現が偶然含まれていたとしても何ら不思議なことではない。ハードディスク等の周辺機器メーカーであり、その製品について修理サービスを行っていた被告においては、基本的に無償で行ってきた修理サービスと、有償で行うデータ復旧サービスとを対比して説明するというアイディアは、当然にわき上がるものであった。被告が本件コンテンツ及び原告文章の言い回しを意図的に模倣するメリットはない。
 また、原告ウェブページと被告ウェブページとの間にはエラーデータの共通はなく、本件コンテンツ及び原告文章と被告文章には依拠がなければ共通することがあり得ない表現といえるほどの表現の共通性がないなど、依拠を推認させる事実もない。
2 争点2(著作者人格権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 前記1の〔原告の主張〕のとおり、被告は、本件コンテンツ又は原告文章を複製又は翻案して被告のウェブサイトに掲載し公衆へ提供又は提示しているにもかかわらず、当該ウェブサイトにおいて「Copyright (C) Logitec Corp. All rights reserved.」と表示しており、原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害する。
 また、被告はコンピュータの周辺機器メーカーとして国内有数の著名な大手企業であり、原告は小規模企業である。そのため、同一サービスについて原告と被告が全く同一の広告文をアップロードしていれば、ユーザーとしては、よもや国内有数の有名企業である被告が盗用しているとは考えず、知名度のない新興企業である原告が盗用したとの印象を抱くものであるから、被告の行為は、原告が「いかがわしい企業」であるとの印象を閲覧者に与え、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。したがって、データ復旧サービスという同一のサービスについて被告が本件コンテンツ又は原告文章を盗用する行為は、原告の名誉及び声望をいずれも害する方法による本件コンテンツ又は原告文章の利用に当たり、原告の著作者人格権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条6項)。
〔被告の主張〕
 前記1の〔被告の主張〕のとおり、被告文章は、本件コンテンツ及び原告文章の複製物ないし二次的著作物ではないのであるから、その著作者又は原著作物の著作者として原告の氏名を表示しないことは当然であるから、氏名表示権を侵害することはなく、著作権法113条6項にも該当しない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
〔原告の主張〕
 先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社オリジナルの広告文につき、同一サービスに新規参入する(業務経験のない)大手のライバル企業によって盗用されない利益は、法的保護に値するものであるから、先行する競合企業(原告)の広告文言を盗用した被告の行為は、原告の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成する。
 知名度の低い中小企業にとって、経験値を活かした広告宣伝は市場競争において大きな価値を有するものであるが、同一サービスにつき全く業務経験のない大手企業によってこれがデッドコピーないしほぼそれに等しい態様で盗用されたのでは、公正な競争は成立し得ない。さらに、著名企業である被告の広告をあたかも知名度の低い原告が盗用したかのごとき外観が作出されること自体、原告の信用にとって重大な脅威となる。
 しかも、被告は、営利目的で故意に盗用を行いながら、あたかも自らの著作物であるかのようにこれを表示し、15か月もの長期間にわたり侵害行為を継続していたものである。
 このように、新規サービスに参入するに際し、競合企業の広告を盗用して一般ユーザーへの告知を開始し、これを15か月にわたって継続した被告の行為は、社会的相当性を逸脱したものである。
〔被告の主張〕
 原告が主張する被告の行為が一般不法行為に該当することはない。
 著作権侵害が成立しない態様での先行作品の全部又は一部の利用について一般不法行為の成立が認められるのは、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害する場合に限られる。具体的には、先行作品を作り上げるに当たって相当の労力及び費用を掛けたこと、先行作品の販売地域と競合する地域で無償又は廉価で頒布することなどにより、先行作品の頒布等を通じて投下資本を回収する機会を害したことなどが要素となり、そのような要素を具備しない場合には一般不法行為の成立は認められない。
 そして、@原告ウェブページの作成にはそれほどの労力及び費用が掛かっていないこと、A原告は、原告ウェブページの配信を通じて対価を得て、原告ウェブサイトの構築のために投下した資本の回収を図っているわけではないこと、B被告ウェブページを閲覧した人は原告ウェブページを閲覧しない等の競合関係に立っていないこと、C被告ウェブページは、原告ウェブページのデッドコピー又はこれに類するものではないこと、D原告ウェブページに掲載されている語句又は言い回しと同一又は類似する語句又は言い回しが被告ウェブページにあるということは、被告ウェブページの閲覧者が原告ウェブページを閲覧しない理由とならないこと、E原告ウェブページ自体無償で公衆の閲覧に供しており、被告ウェブページが同じく無償で閲覧に供していたとしても、不公正な競争を仕掛けたことになり得ないことなどの点にかんがみると、被告文章を被告ウェブページにおいて公衆の閲覧に供したことが、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて、原告が原告ウェブサイトの構築に投下した資本を回収する機会を損ねたということはできず、原告主張の一般不法行為が成立しないことは明らかである。
4 争点4(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 財産的損害
ア 民法709条に基づく損害額
 原告の平成18年7月から平成19年6月までのデータ復旧業務にかかる1年間の営業利益は2150万3273円であったところ、被告による著作権侵害行為が行われた平成19年7月以降の同業務に係る1年間の営業利益は1190万0682円に落ち込んでおり、侵害行為の開始後1年間の営業利益は、960万2591円減少している。したがって、この金額が被告の侵害行為による原告の1年間の逸失利益(損害)である。
 被告は、平成20年10月初めに被告文章の使用を停止したため、侵害を開始した平成19年7月から平成20年9月までの期間における原告の逸失利益は、960万2591円÷12か月×15か月=1200万3239円である。
イ 著作権法114条2項に基づく損害額
 被告は、平成19年7月1日ころ、本件コンテンツ又は原告文章を盗用した被告文章を用いてデータ復旧サービスの広告を開始したが、広告文の魅力、顧客誘引力は、ユーザーが発注するかどうかの決断において重要な判断要素となるものであるから、被告の侵害行為が被告のデータ復旧サービスの売上げに一定の寄与をしたことは明らかである。侵害行為により被告が受けた利益の額は、上記アの1200万3239円を下回ることはないから、同金額が被告の侵害行為によって原告が受けた損害の額と推定される。
ウ 著作権法114条3項に基づく損害額
 本件は、先行する小規模企業が苦心して創作した本件コンテンツ又は原告文章を、その強力なライバルである後行の大企業である被告が無断利用した事案である。かかる本件の特殊性にかんがみれば、仮に、中小の先行企業が大手の強力なライバル企業に対し先行経験に基づいて確立した効果的な宣伝文言の利用を許諾する場合、当該中小企業としてはこれによって自社が喪失するであろう利益を補填することができる条件で契約を締結することが通常である。このような状況において本件コンテンツ又は原告文章の利用を許諾する場合の通常の使用料は、上記アの侵害行為後1年間の逸失利益960万2591円を12で割った月額80万0215円を下らない。
 したがって、侵害を開始した平成19年7月から平成20年9月までの期間において、本件コンテンツ又は原告文章に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額である1200万3239円(960万2591円÷12か月×15か月)が、原告が受けた損害の額となる。そうでないとしても、本件コンテンツ又は原告文章に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は300万円を下ることはない。
 なお、本件においては、特許法114条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たり、原告と被告の関係、本件コンテンツ又は原告文章の性質・内容、被告の侵害行為の性質・内容(被告の使用態様、ウェブページの掲載期) 間、取引の実情、被告が侵害行為により得た利益の額等を参酌して算定すべきである。
(2) 無形損害、著作者人格権侵害による慰謝料(民法710条に基づく損害)
 本件は、被告において、ライバル関係にある先行企業である原告の広告につき、サービス開始から15か月間にわたり、故意に、営利目的で、自らの著作物と表示して使用し、あたかも著名企業である被告の広告を知名度の低い原告が盗用したかのごとき外観を作出するなどして、原告の信用を毀損した極めて悪質な事案であることに照らすと、原告が受けるべき社会的評価の低下(信用毀損)による無形損害、著作者人格権侵害に基づく慰謝料の額は、300万円を下らない。
(3) 弁護士費用
 本件は、著作権及び著作者人格権侵害に基づく不法行為訴訟であり、高度の専門性が要求されるものであるから、弁護士に訴訟を委任しなければ原告は法的救済を受けることの困難な事案である。
 被告の不法行為によって原告が支出を余儀なくされた弁護士費用であって被告の不法行為と相当因果関係を有する損害は、上記(1)及び(2)の合計損害額1500万3239円の1割に相当する150万0323円を下らない。
(4) 合計
 以上より、原告が被った損害の額は合計1650万3562円となる。
〔被告の主張〕
 原告の主張は否認ないし争う。本件コンテンツ及び原告文章の言い回しと共通又は類似する言い回しが被告文章に存していたことにより原告は何らの損害も被っていない。
(1) 原告と被告とは、同じデータ復旧サービスを営んでいるが、集客方法等のビジネスモデルは全く異なっており、市場において競合していない。
 被告は、当初、被告製品のユーザーを主たる顧客として想定しており、そもそも「データ復旧」などのキーワードでウェブ検索をするようなユーザーを顧客として想定していなかった。被告は、その後も、親会社であるエレコム株式会社の営業部隊を使って販売代理店に働き掛けをしたり、被告が直接パソコンショップ等にアプローチをして代理店契約を結んだりする拡販手法を採用してきた。これに対し、原告は、インターネットの広告がほとんどの顧客のコンタクト窓口という販売手法を続けていた。したがって、原告と被告とでは、そもそも「顧客の導線」が異なるため、被告の顧客・売上げの増加と原告の顧客・売上げの減少との間に相当因果関係を認めることはできない。
(2) また、被告ウェブサイトにお ける被告文章の公開と原告ウェブサイトの検索順位の低下、原告の売上げの下落との間にも相当因果関係はない。
 原告は、複数のデータ復旧業者について順位を付けたり点数を付けたりするウェブサービスから取り上げられることもなく、パソコンメーカーや周辺機器メーカーと提携することもなく、大手量販店と提携することもなかったのであるから、データ復旧業者が次々と参入し、また、パソコンメーカーや大手量販店等と提携して顧客の囲い込みを図るデータ復旧業者が現れるようになれば、原告の売上げが減少していくのは当然のことといわざるを得ない。
(3) 被告は、ハードディスク等の周辺機器のメーカーとして定評のある会社であり、被告製品に関するデータ復旧を中心にデータ復旧業務の開始当初から強い顧客吸引力を有していた。また、被告は、その親会社であるエレコム株式会社を通じて、法人等を中心に直接的な営業活動を行い、これが功を奏していた。他方、データ復旧サービスを必要とする顧客において、その業者のウェブページにおける文章上の創意工夫に着目してどこの会社のサービスを選択するかを決定することがないことは経験則上明らかである。各会社の技術力に対する信用度、実績、価格、納期、手続の簡便さなどが通常選択の際に考慮される事項である。したがって、原告が主張する被告の侵害行為と、被告のデータ復旧サービスによる売上げ又は利益との間に相当因果関係はない。
(4) 仮に原告主張の著作権侵害が認められたとしても、原告には損害が発生しない。著作権法第114条3項は、損害が生じるときにその額を擬制する規定であって、損害が生じたことを擬制する規定ではない。したがって、本件では、同項は適用されず、損害賠償請求は棄却されるべきである。
 仮に使用料相当金を損害額として認定する場合には、原告自身は第三者から委託を受けてウェブサイトを構築したり、広告用の文章を考案したりということを業として行っていないのであるから、そのような業務を行っている通常の業者が、本件で著作権侵害と認定された言い回しを被告のために考案するとした場合の料金が使用料相当損害金となるにすぎない。
(5) 被告が被告文章を被告のウェ ブページに掲載したことによって、原告の名誉、社会的評価が低下したことを裏付ける証拠はなく、一定の慰謝料等を支払わなければ回復しがたい精神的損害が原告に生じていないことは明らかである。
5 争点5(謝罪広告の必要性)について
〔原告の主張〕
 被告の著作権及び著作者人格権の侵害行為により、原告はインターネットを利用する顧客からの社会的評価を破壊されたのみならず、原告のウェブサイトに対する検索システム上の信用(評価)も破壊された(インターネット検索エンジンにおいて、被告のウェブサイトが信頼性の高いオリジナルと判定されるのに対し、原告のウェブサイトはコピー又はスパムと判定され、原告ウェブサイトの検索順位が下落した。)。
 これを回復するためには、被告が本件コンテンツ又は原告文章の盗用を行ったウェブサイトのトップページ上において、少なくとも90日間にわたってその盗用を謝罪し、本件コンテンツ及び原告文章がオリジナルであることをユーザーに告知する内容の謝罪広告をすることが不可欠であり、謝罪広告の必要性がある。
〔被告の主張〕
 仮に被告文章の掲載が原告の著作権及び著作者人格権を侵害すると認められたとしても、原告には被告が謝罪広告を掲載しなければ回復し難いほどの社会的評価の低下、検索システム上の信用の低下という損害は生じていないため、名誉回復措置の必要性はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 原告は、本件コンテンツに係る著作権の侵害を主張するが、被告による著作権侵害はその大部分が言語表現である原告文章に関するものであるとして、原告文章に係る著作権の被侵害部分のほかに、被告が本件コンテンツに係るどの部分の著作権を侵害したのかを具体的に主張しないから、本件コンテンツに係る著作権侵害の成否を判断することはできない。
 なお付言するに、原告は、本件コンテンツは、ウェブページとして視覚的にも操作性の面でも分かりやすくなるよう「サービスメニュー」ボタンが設けられ、その配置、分類及び表現(「HDD」、「サーバ/RAID」、「デジカメ/フラッシュメモリ」、「FD/MO/CD/DVD」)にも配慮がなされ、タブメニューも設置された上、その構成、分類及び表現(「ホーム」→「データSOS とは」→「サービスの流れ」→「よくある質問」)にも配慮がなされていると主張するが、原告が本件コンテンツとして特定したウェブページ、すなわち、甲3の1の3枚目から5枚目には、「サービスメニュー」ボタン、及び「HDD」、「サーバ/RAID」、「デジカメ/フラッシュメモリ」、「FD/MO/CD/DVD」との表現は存在しない。仮に、これらが本件コンテンツに含まれるとしても、これらの分類、配置及び表現は、ごくありふれたものであり、作成者の個性が現れているとはいえないから、これらを著作物と認めることはできない。したがって、この点においても、原告の本件コンテンツに係る著作権侵害の主張は失当というほかない。
 そこで、以下、原告文章に係る著作権侵害の主張について検討する。
(2) 原告は、別紙文章対比表の被告文章欄記載の各下線部分は、対応する同表の原告文章欄記載の各下線部分と表現上の同一性又は類似性を有し、しかも、被告文章は原告文章に依拠して作成されたものであるから、上記被告文章の各下線部分は、上記原告文章の各下線部分を複製又は翻案したものであると主張する。
 著作物の複製(著作権法2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製することをいい、再製とは、既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきである。また、言語の著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
 しかし、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 したがって、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。そして、「創作的に」表現されたというためには、作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが、文章がごく短いものであったり、表現形式に制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合は、作成者の個性が現れているとはいえないため、創作的な表現ということはできない。
 このような観点から、原告が複製又は翻案に当たると主張する別紙文章対比表の原告文章欄記載の各下線部分とこれに対応する同表の被告文章欄記載の各下線部分との表現上の同一性を有する部分について、創作的な表現といえるか否かを判断する。
ア 構成や記述順序について
 原告は、別紙文章対比表の原告文章欄記載の下線部分を一まとまりとした全体的な構成、記載順序、配列、小見出し等の具体的な表現において、被告文章は原告文章と表現上の同一性を有しており複製に当たると主張する。
 確かに、原告文章と被告文章とは、別紙文章対比表のとおり、全体的な構成、記載の順序、小見出しを有することにおいて共通するといえる。
 しかし、別紙文章対比表の原告文章欄記載の各下線部分は、当時、広く一般的には知られていなかったデータ復旧サービスについての一般消費者向けの広告用文章として、データ復旧サービスの基本的な内容を説明するものである。このような一般消費者向けの広告用文章においては、広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため、平易で簡潔な表現を用いることや、各項目ごとに端的な小見出しを付すること、説明の対象となるサービスとはどのようなものか、どのような場合に利用するものなのか、異なる商品やサービスとの相違点は何かをこのような構成、順序で記載することなどは、広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法といえ、原告主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、原告文章と被告文章は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
イ 別紙文章対比表のbPについて
 原告は、別紙文章対比表のbPの被告文章欄記載の下線部分(以下、同表のw搭L載の数字により「被告文章1」などという。)は、対応する原告文章欄記載の下線部分(以下、同表のw搭L載の数字により「原告文章1」などという。)の複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章1「┃ データ復旧って何?」と被告文章1「┃ データ復旧技術サービスとは?」は、原告及び被告が業として行っているデータ復旧サービスの内容を説明する文章の見出しとして、データ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文である点で共通するものといえるが、原告文章1は、文章自体がごく短いものであり、また、データ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものといえるから、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、原告文章1と被告文章1は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
ウ 別紙文章対比表のbQ@について
 原告は、被告文章2@は、対応する原告文章2@の複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章2@「┃ どんな時に利用されるの?」と被告文章2@「┃ どのようなときに利用するサービスなのか?」は、データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを説明する文章の見出しとして、どのような時に利用するかを問う疑問文である点で共通するものといえるが、原告文章2@は、文章自体がごく短いものであり、また、どのような時に利用するかを問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものといえるから、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、原告文章2@と被告文章2@は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
エ 別紙文章対比表のbQAについて
 原告は、被告文章2Aは、対応する原告文章2Aの複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章2A「・バックアップを取っていない」、「・バックアップを戻せない」と被告文章2A「・バックアップを取っていない」、「・バックアップからシステムを復帰できない」は、データ復旧サービスを利用すべき場合の具体例として、バックアップを取っていない場合を記載する点で共通するものといえるが、原告文章2Aは、文章自体がごく短いものであり、また、バックアップを取っていないことの表現として平凡かつありふれたものであるから、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、原告文章2Aと被告文章2Aは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
オ 別紙文章対比表のbQBについて
 原告は、被告文章2Bは、対応する原告文章2Bの複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章2B「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして、データ復旧サービスの利用を検討します。」と被告文章2B「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして、データ復旧技術サービスの利用をご検討ください。」は、その前の部分で挙げた非常事態に遭遇した場合に、有効な回復策の一つとしてデータ復旧サービスの利用を検討することを記載した点で共通するものといえるが、原告文章2Bは、文章自体がごく短いものであり、また、問題が生じた場合にその対応策を検討することを一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものにすぎず、表現上の格別な工夫があるということはできないため、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
 したがって、原告文章2Bと被告文章2Bは、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
カ 別紙文章対比表のbR@について
 原告は、被告文章3@は、対応する原告文章3@の複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章3@「┃ 修理と何が違うの」と被告文章3@「┃ データ復旧と修理サービスとの違いは?」は、データ復旧サービスとパソコン等の修理との相違を説明する文章の見出しとして、修理とは何が違うのかを問う疑問文である点で共通するものといえるが、原告文章3@は、文章自体がごく短いものであり、また、相違点を問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものといえるから、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。また、別紙文章対比表のbRの原告文章欄記載の文章は、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明する内容の文章であるが、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護されるものではない。
 したがって、原告文章3@と被告文章3@は、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
キ 別紙文章対比表のbRAについて
 原告は、被告文章3Aは、対応する原告文章3Aの複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章3A「パソコン修理/=パソコンの機能を取り戻すことに主眼を置きます。/たとえばハードディスクが故障した場合、新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし、新しいものに交換すれば当然データは戻りません。/データは消えてもパソコンは直る。これが修理の基本的なスタンスです。」(判決注:/は改行を示すため、判決において付加した。以下同様。)と被告文章3A「1.パソコン・機器等の修理/パソコンの動作的な機能を取り戻すことに主眼を置きます。/例えばハードディスクが故障した場合、新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし、新しいものに交換すれば当然データは戻りません。/データは消えてもパソコン・機器は元に戻ります。これが修理サービスの基本的な考え方です。」は、パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと、ハードディスクが故障した場合に新しいものに交換すればパソコンは機能を取り戻すが当然データは戻らないという具体例を挙げて、データは消えてもパソコンは直るということがパソコン修理の基本的な立場であることをこの順序で記載する点で共通するものといえる。
 しかし、データ復旧と比較してパソコンの修理を説明する場合には、データが保存されているハードディスクの故障を具体例として挙げること自体は当然のことというべきであり、また、ハードディスクを交換すればパソコンの機能は回復するが保存されていたデータが喪失することも当然の事実であって、その表現形式は制約が大きいと認められ、原告文章3Aは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと、ハードディスクが故障した場合に交換すればパソコンは機能を取り戻すがデータは戻らないこと、データは消えてもパソコンは直ることがパソコン修理の基本であることについて、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものというほかなく、表現上の格別な工夫があるということはできないから、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。また、上記カで説示したように、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護されるものではない。
 したがって、原告文章3Aと被告文章3Aは、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
ク 別紙文章対比表のbRBについて
 原告は、被告文章3Bは、対応する原告文章3Bの複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章3B「データ復旧/=データを取り戻すことに主眼を置きます。/データを取り戻すためなら、分解や破壊といった修理とはむしろ逆になることも行います。たとえるなら」と被告文章3B「2.データ復旧技術サービスの場合/データを取り戻すことに主眼を置きます。/データを取り戻すためなら、分解や破壊といった修理とは逆行為になることも行います。/例えば」は、データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置き、データを取り戻すためなら分解や破壊といった修理とは逆のことも行うことをこの順序で記載する点で共通するものといえるが、原告文章3Bは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、データ復旧ではデータを取り戻すことに主眼を置くこと、修理とは異なり分解や破壊をすることもあることについて、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものにすぎず、表現上の格別な工夫があるということはできず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。また、上記カで説示したように、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護されるものでなない。
 したがって、原告文章3Bと被告文章3Bは、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
ケ 別紙文章対比表のbRCについて
 原告は、被告文章3Cは、対応する原告文章3Cの複製又は翻案に当たると主張する。
 原告文章3C「パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし、パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増しています。/パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのか、データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」と被告文章3C「パソコン・機器そのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし、パソコンに保存されているデータは」、「一段と重要性を増しています。/パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのか、データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」は、パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなったが、パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増していること、パソコンに事故が起こった場合には、パソコンが大切なのかデータが大切なのかをよく見極めることが大切であることをこの順序で記載する点で共通するものといえるが、原告文章3Cは、内容、表現、記述の順序のいずれにおいても、パソコンはそれほど高価なものではなくなりパソコンに保存されたデータの重要性が増加していること、パソコンに問題が生じた場合にパソコンと保存されたデータのどちらが大切なのかを見極めることが大切であることについて、一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものであって、表現上の格別な工夫があるということはできず、当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。また、上記カで説示したように、データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護されるものではない。
 したがって、原告文章3Cと被告文章3Cは、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、上記共通点をもって複製又は翻案に該当するということはできない。
コ 以上のとおり、原告主張の複製権侵害及び翻案権侵害はいずれもこれを認めることはできない。また、これを前提とする原告主張の公衆送信権侵害、二次的著作物に係る公衆送信権侵害も認めることはできない。
(3) 以上検討したところによれば 、原告の著作権侵害の不法行為に基づく請求は、いずれも理由がない。
2 争点2(著作者人格権侵害の成否)について
 上記1で説示したように、被告文章は、本件コンテンツ及び原告文章に係る原告の複製権又は翻案権を侵害するものとは認められないから、被告が、原告の氏名を表示することなく被告文章を被告のウェブサイトに掲載したことが、原告の本件コンテンツ及び原告文章に係る氏名表示権を侵害するということはできない。
 また、原告は、被告が本件コンテンツ又は原告文章を盗用する行為が著作権法113条6項所定の行為に該当すると主張するが、被告文章は本件コンテンツ及び原告文章を複製又は翻案するものとは認められないから、被告が被告文章を被告のウェブサイトに掲載する行為は、本件コンテンツ及び原告文章を「利用」するものということはできず、被告の行為が同条のみなし侵害行為に該当するということはできない。
 したがって、原告の著作者人格権侵害の不法行為に基づく請求は、いずれも理由がない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
(1) 原告は、先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナルの広告文につき、同一サービスに新規参入する業務経験のない大手のライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから、先行する競合企業である原告の広告文言を盗用した被告の行為は、社会的相当性を逸脱し原告の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成すると主張する。
(2) 別紙文章対比表の原告文章欄及び被告文章欄記載の各下線部分の表現は、記載順序や構成、用語や言い回しなどがほぼ共通していること、被告文章の作成担当者であるAは、被告文章を作成するに当たりデータ復旧サービスを行っている100〜200社のウェブサイトを閲覧し参考にしており(乙11、18、証人A)、原告文章が掲載された原告のウェブサイトを閲覧しこれを参考にした可能性があること、Aが被告文章における表現をどのように推敲し、どのような理由から採用したのかなど被告文章の具体的な作成経緯が主張、立証されていないことなどからすると、被告文章は、原告文章に依拠して作成されたことがうかがわれる。
 しかしながら、@別紙文章対比表のとおり、同表の被告文章欄記載の文章のうち、原告文章の表現と類似しているのは下線が付されている部分のみであり、全体の2分の1以上を占めるその他の部分は原告文章の表現と類似していないこと、A原告文章と被告文章の表現が類似している部分は、上記1で説示したように、データ復旧サービスの内容を一般消費者向けに説明する際に広く用いられている一般的なもので普通に考えられる工夫であること、B被告文章は広告用の文章であって被告は被告文章の出版、ウェブサイトへの掲載等により直接利益を得ているわけではないこと、C広告用文章を閲覧した者が当該サービスを利用するか否かは、その広告用文章の表現内容のみではなく、当該サービス自体の内容や価格、その実績等によるところが大きいことなどからすると、被告文章が原告文章に依拠して作成されたものであったとしても、被告が被告文章を被告ウェブサイトへ掲載した行為が、公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱した不正な競争行為として不法行為を構成すると認めることはできない。
 したがって、原告主張の一般不法行為を認めることはできず、原告の一般不法行為に基づく請求も理由がない。
4 結論
 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 坂本康博
 裁判官 寺田利彦
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