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【事件名】ナビシステムの特許事件
【年月日】平成22年12月6日
 東京地裁 平成21年(ワ)第35184号 特許権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年9月6日)

判決
原告 パイオニア株式会社
同訴訟代理人弁護士 佐長功
同 服部誠
同 江幡奈歩
同訴訟代理人弁理士 加藤志麻子
被告 株式会社ナビタイムジャパン
同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 渡辺光
同 木内加奈子
同 小林正和
同訴訟代理人弁理士 近藤直樹
同 越柴絵里
同補佐人弁理士 鈴木信彦


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙物件目録記載1のナビゲーション装置に含まれるサーバーを使用してはならない。
2 被告は、別紙物件目録記載2のプログラムを譲渡等(譲渡、貸渡し、電気通信回線を通じた提供をいう。)し、譲渡等の申出をしてはならない。
3 被告は、別紙物件目録記載3のプログラムを抹消せよ。
4 被告は、原告に対し、金10億円及びこれに対する平成21年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、発明の名称を「車載ナビゲーション装置」とする特許発明に係る特許権2件を有する原告が、被告が提供するナビゲーションサービスは当該各特許発明の構成要件を充足し、被告がユーザーに当該サービスを使用させ、又は当該サービスに供する装置を生産することによって原告の各特許発明を実施して当該各特許権を侵害し、かつ、当該サービスに供する携帯端末用のプログラムを譲渡等する行為は当該各特許権の間接侵害に該当するとして、@前記使用による特許発明の実施(特許権侵害)を理由とする別紙物件目録記載1のナビゲーション装置に含まれるサーバーの使用の差止め(特許法100条1項)及び別紙物件目録記載3のプログラムの廃棄(同条2項)を、A前記生産による特許発明の実施(特許権侵害)又は前記間接侵害を理由とする別紙物件目録記載2の携帯端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出等の差止め(同条1項)をそれぞれ求めるとともに、B前記ナビゲーションサービスの使用による侵害に基づくロイヤリティ相当額の損害賠償金4億3200万円(民法709条、特許法102条3項)のうち2億円及び前記携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害に基づくロイヤリティ相当額の損害賠償金16億5000万円(民法709条、特許法102条3項)のうち8億円の合計10億円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は、ホームエレクトロニクス製品及びカーナビゲーションシステム等のカーエレクトロニクス製品等の製造、販売を行う会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、ナビゲーションコンテンツサービスの提供、ナビゲーションエンジンの開発及びライセンス等を行う会社である。
(2) 原告の特許権
ア 原告は、次の特許権(以下、(ア)の特許権を「本件特許権1」、(イ)の特許権を「本件特許権2」といい、併せて「本件各特許権」といい、本件各特許権に係る特許をそれぞれ「本件特許1」、「本件特許2」といい、併せて「本件各特許」という。)を有している(甲1の1及び2、2の1及び2)。
(ア) 本件特許権1(以下、本件特許権1の請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、本件特許1に係る明細書を「本件明細書1」という。)
 特許番号 第2891794号
 発明の名称 車載ナビゲーション装置
 出願日 平成3年4月12日
 登録日 平成11年2月26日
特許請求の範囲
【請求項1】目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標データ及び車両の現在地を示す現在地座標データに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲーション装置であって、目的地座標データを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標データを読み出す読出し手段と、読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲーション装置。
(イ) 本件特許権2(以下、本件特許権2の請求項1に係る発明を「本件特許発明2」といい、本件特許発明1と併せて「本件各特許発明」といい、本件特許2に係る明細書を「本件明細書2」という。)
 特許番号 第2891795号
 発明の名称 車載ナビゲーション装置
 出願日 平成3年4月12日
 登録日 平成11年2月26日
特許請求の範囲
【請求項1】地図を表示器に表示する車載ナビゲーション装置であって、複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段と、前記第1記憶手段から前記表示データを読み出してその前記表示データに応じて前記複数のサービス施設を前記表示器に表示させる手段と、前記表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標データを記憶する第2記憶手段と、前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲーション装置。
イ 本件各特許発明の構成要件
(ア) 本件特許発明1の構成要件
 本件特許発明1の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下「構成要件1−A」等という。)。
1−A 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標データ及び車両の現在地を示す現在地座標データに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲーション装置であって、
1−B 目的地座標データを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、
1−C 目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、
1−D 目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標データを読み出す読出し手段と、
1−E 読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする
1−F 車載ナビゲーション装置。
(イ) 本件特許発明2の構成要件
 本件特許発明2の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下「構成要件2−A」等という。)。
2−A 地図を表示器に表示する車載ナビゲーション装置であって、
2−B 複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段と、
2−C 前記第1記憶手段から前記表示データを読み出してその前記表示データに応じて前記複数のサービス施設を前記表示器に表示させる手段と、
2−D  前記表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段と、
2−E 指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段と、
2−F 読み出された地点座標データを記憶する第2記憶手段と、
2−G 前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする
2−H 車載ナビゲーション装置。
(3) 被告の行為
 被告は、平成17年9月8日(以下「被告サービス開始日」という。)から、業として、別紙被告装置説明書記載第2の携帯端末(以下「本件携帯端末」という。)のユーザーに対し、「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービス(以下「被告サービス」という。)を提供している。被告サービスの提供に当たって、被告は、別紙被告装置説明書第2記載のサーバー(以下「被告サーバー」という。)を運営管理しており、同サーバーは、ユーザーの保有する本件携帯端末との間でデータ通信を行う(以下、被告サーバー及び本件携帯端末を含む、別紙物件目録記載1のナビゲーション装置を「被告装置」と総称する。)。
 そして、平成19年6月以降に発売された本件携帯端末には、被告サービスを利用するための本件携帯端末用のアプリケーション・プログラムである別紙物件目録記載2のプログラム(以下「本件携帯端末用プログラム」という。)があらかじめインストール(プリインストール)されている(本件携帯端末用プログラムがプリインストールされた本件携帯端末の発売開始時期につき、原告は、後記21「原告の損害」欄のとおり、平成18年9月と主張するが、弁論の全趣旨により前記のとおりと認める。)。なお、本件携帯端末のうち平成19年6月以前に発売されたものについては、本件携帯端末のユーザーが、通信網を通じて、本件携帯端末用プログラムをダウンロードすることができる。
 ユーザーが被告サービスを利用するためには、KDDIに対し月額315円(税込)又は24時間157円(税込)の利用料を支払う必要がある。そして、被告は、KDDIよりこれら利用料の一部について支払を受けている。
2 争点
(1) 被告装置が本件特許発明1の技術的範囲に属するか。
ア 構成要件1−A及び1−Fの充足性(被告装置は「車載ナビゲーション装置」か。)
イ 構成要件1−B及び1−Cの充足性(被告装置が「目的地が設定される毎に」「目的地座標データ」を記憶しているか。)
ウ 構成要件1−Dの充足性(被告装置が「目的地座標データ」を読み出しているか。)
エ 構成要件1−Eの充足性(被告装置において「目的地座標データ」が「選択」されているか。)
オ 本件特許発明1と被告装置との課題解決方法及び作用効果の相違
(2) 被告装置が本件特許発明2の技術的範囲に属するか。
ア 構成要件2−A及び2−Hの充足性(被告装置は「車載ナビゲーション装置」か。)
イ 構成要件2−B及び2−Cの充足性(被告装置は「複数のサービス施設を示す表示データ」を「予め記憶した第1記憶手段」を有するか。)
ウ 構成要件2−D及び2−Eの充足性(被告装置は「表示された複数のサービス施設」から「1のサービス施設を…指定」しているか。)
エ 構成要件2−F及び2−Gの充足性(被告装置は「所定のパターン」を表示させる手段を有するか。)
オ 本件特許発明2と被告装置との作用効果の相違
(3) 被告装置の使用による本件各特許発明の実施の有無
(4) 被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害の成否
(5) 本件携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害の成否
(6) 本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか否か。
ア 特開昭60−230685号公報(以下「乙1文献」という。)に基づく進歩性の欠如の有無
イ 特開平2−187898号公報(以下「乙4文献」という。)及び特開平1−223865号公報(以下「乙5文献」という。)に基づく進歩性の欠如の有無
(7) 本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか否か。
ア 特開昭62−51000号公報(以下「乙6文献」という。)に基づく新規性又は進歩性の欠如の有無
イ 特開平1−284889号公報(以下「乙8文献」という。)に基づく新規性の欠如又は乙8文献及び特開平1−162111号公報(以下「乙9文献」という。)に基づく進歩性の欠如の有無
ウ 特開平2−217886号公報(以下「乙10文献」という。)に基づく新規性又は進歩性の欠如の有無
(8) 差止めの必要性及びその対象
(9) 原告の損害
第3 争点についての当事者の主張
1 争点(1)ア(構成要件1−A及び1−Fの充足性(被告装置は「車載ナビゲーション装置」か。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成
 被告装置は、被告サーバー及び本件携帯端末を含んで構成される車両用のナビゲーション装置である。被告装置においては、本件携帯端末のGPS受信部によるGPS信号の受信により車両の現在地情報を取得することができ、また、本件携帯端末におけるキー操作により目的地を入力することができる。これらの現在地情報及び目的地に関する情報は、被告サーバーに転送され、被告サーバーのCPUでは、転送された情報と記憶手段に記憶されたデータを用いた処理が行われ、目的地としての設定がされる。そして、当該目的地情報とサーバー内の検索エンジン及び道路網データに基づいて、現在地から目的地に至る航行情報が作成される。当該航行情報は、被告サーバーにおいて地図描画又は表示のためのデータに変換される。そして、当該地図描画又は表示のためのデータは、本件携帯端末に転送され、画像データに変換され、本件携帯端末のディスプレイ上に表示される。
 したがって、被告装置は、目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地情報と、GPS信号の受信により把握される車両の現在地を示す現在地情報に基づいて、現在地から目的地までのルートに関する情報を表示する車両用ナビゲーション装置(以下「構成1−a」といい、このうち、「車両用ナビゲーション装置」を「構成1−f」という。)である。
(2) 被告装置の構成要件1−A及び1−Fの充足性
 被告装置にいう「目的地情報」は、目的地の経度・緯度、すなわち、目的地の座標を含むものであるから、「目的地座標データ」に該当する。また、構成要件1−A及び1−Fの「車載ナビゲーション装置」とは、車両用のナビゲーション装置のことであるから、車両用ナビゲーション装置である被告装置は、「車載ナビゲーション装置」に該当する。
 したがって、被告装置は、構成要件1−A及び1−Fを充足する。
(3) 被告の主張について
ア 「ナビゲーション装置」について
 被告は、被告が運用しているのは被告サーバーであって、被告サーバー単体でナビゲーション機能を有するものではないから、被告が「ナビゲーション装置」を使用していることもないと主張する。
 しかしながら、被告装置は、本件携帯端末用プログラムがインストールされた本件携帯端末及び被告サーバーにより構成されるものであって、被告が運用しているのが被告サーバーであることは、被告装置が本件特許発明1の構成要件を充足するか否かとは関係ない。
イ 「車載」について
(ア) 被告は、本件特許発明1における「車載ナビゲーション装置」とは、@ナビゲーション装置の構成のすべてが車両に搭載されており、A車両に物理的に固定されており、かつ、B車両から取り外して持ち出すことができないという要件をすべて満たすものであると主張する。
(イ) 構成のすべてが車両に搭載されている必要はないこと。
 「車載」の通常の意味(「車に別の物を載せる」等(甲23ないし25))、本件明細書1における「車載ナビゲーション装置」に関する記載(段落【0002】)、本件特許発明1の技術的特徴及び作用・効果は、データのメモリへの記憶とデータの呼出しに関するものであり、ナビゲーション装置の構造等の機械的特徴及びそれに関する作用効果とは無関係であることに照らせば、本件特許発明1における「車載ナビゲーション装置」とは、「車両に対する経路案内を実現する機能を備えた車両用のナビゲーション装置であって、このような機能を実現するために少なくともディスプレイ、現在地を認識するためのセンサ(装置)、操作のためのキー等を車両に載せて使用するナビゲーション装置」を意味し、その構成の一部を車両に載せた状態にする必要はあるが、その構成のすべてを車両に載せることまでは要求していないと解すべきである。
 そして、被告装置は、少なくともディスプレイ、車両の現在位置を認識するGPS受信部及び情報入力を行うキーが設けられた本件携帯端末を車に載せるから、「車載」ナビゲーション装置である。
(ウ) 車両に物理的に固定されている必要はないこと。
 「車載」という言葉の通常の意味には、車とこれに載せる対象物との機械的関係を限定する意味は含まれていない。また、本件明細書1の記載からしても、本件特許発明1における「車載」の意義について、「車両に物理的に固定されている」と限定解釈すべき理由はない。
(エ) 車両から取り外すことができないとする必要はないこと。
 前記(ウ)のとおり、本件特許発明1における「車載」には「物理的に固定されている」との意味は含まれていないから、「車載」の意義を「車両から取り外して持ち出すことができない」と限定解釈することはできない。
ウ 被告装置について
 以上のとおりであるから、ナビゲーションの対象とする移動体を車両とする車両用のナビゲーション装置であって、車両に対する経路案内を行う際には、車両の現在地周辺の地図や自車位置を表示するディスプレイ、車両の現在位置を認識するGPS受信部、情報入力を行うキーが設けられた本件携帯端末を車に載せる被告装置は、「車載ナビゲーション装置」に該当し、構成要件1−A及び1−Fを充足する。
(被告の主張)
(1) 「ナビゲーション装置」について
 被告が運用しているのは被告サーバーである。本件携帯端末はユーザーが所持し、ユーザーがこれを操作して被告サーバーに指示し、カーナビゲーションとして利用している。
 そこで、被告サーバーにつき構成要件1−A及び1−Fの充足性を判断すると、被告サーバーは単体でナビゲーション機能を有するものではなく、被告が「ナビゲーション装置」を使用していることもない。
(2) 「車載」について
ア 原告は、被告装置が「車両用」ナビゲーション装置であることをもって、「車載」ナビゲーション装置であると主張する。
 しかしながら、「車両用」とは、「車両のために用いられる」との意味であり、用途を表現するものであるところ、「車載」とは、「車両に搭載されている」との意味であり、使用態様又は使用状況を表現するものであって、両者は全く別の概念である。
 したがって、「車両用」であることをもって「車載」であるとする原告の主張は、失当である。
イ また、被告サーバー及び本件携帯端末を一体として見ても、「車載」の装置ではない。
(ア) 本件特許発明1の「車載ナビゲーション装置」は、構成要件記載のすべての手段を含む装置であるから、すべての構成要件要素が「車載」、すなわち、車両に搭載されていなければならない。
 しかしながら、被告サーバーが車両に搭載されないことは自明である。
(イ) また、本件携帯端末は、ユーザーが携帯電話端末として車両内に持ち込んで操作することが可能な装置であるが、携帯端末を車両内に持ち込むことをもって「車載」と解することはできない。すなわち、「車載」とは車両に搭載されているとの意味であり、車両外で使用していた物を車両内で使用するために持ち込んだとしても、当該物が「車載」となるわけではない。そして、本件携帯端末のナビゲーション機能を車両内で使用するか否かは、本件携帯端末を携帯する人の意思によって決定されることからすれば、本件携帯端末を「車載」と解することはできない。
(ウ) 加えて、本件明細書1の記載においては、「車載」とは、車両に物理的に固定されていることを意味することが示唆されている(段落【0003】、【0007】、【0010】)のに対し、本件特許発明1の車載ナビゲーション装置につき、その一部を車両外に設けることや、装置を車外に持ち出して使用できることを示唆する記載はない。
 また、本件特許1の出願時において、当業者は、車両から取り外して持ち出すことができる装置を「車載」装置とは呼んでおらず(乙11ないし14参照)、現時点においても同様である。
(エ) したがって、「車載ナビゲーション装置」とは、ナビゲーション装置の構成のすべてが車両に搭載されており、当該装置を車両に固定して使用することを予定しており、車両から取り外して車両外で使用することを予定していないものを意味すると解すべきである。
(3) 被告サーバー又は被告サービスについて
ア 被告サーバーは「車載」されておらず、また、それ自体「ナビゲーション装置」でもないから、「車載ナビゲーション装置」の要件を満たさない。
 したがって、被告装置は、「ナビゲーション装置の構成のすべてが車両に搭載されていること」という「車載」の重要な要件を満たさない。
 また、本件携帯端末が車両内で使用されるとしても、本件携帯端末は、携帯電話であるから、車両に固定して使用することを予定しておらず、むしろ一般には車両外で使用することを予定するものであるから、「車載」ナビゲーション装置ではない。
イ 被告サービスは、カーナビゲーション装置ではなく、カーナビゲーション装置が提供する情報と同種の情報を提供するサービスである。そして、同種の情報を提供することが直ちに装置においても同一であるものではなく、同一の情報を異なった構成で提供することは可能であり、まして、「車載ナビゲーション装置」と被告サービスとでは、ユーザーに提供する情報の内容が異なっている。
ウ よって、被告サーバー及び本件携帯端末は、「車載ナビゲーション装置」に該当しないから、構成要件1−A及び1−Fを充足しない。
2 争点(1)イ(構成要件1−B及び1−Cの充足性(被告装置が「目的地が設定される毎に」「目的地座標データ」を記憶しているか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成
 本件携帯端末のディスプレイにおいては、キーを用いて目的地設定のための情報を入力することができる。そして、本件携帯端末において入力された目的地設定のための情報は、被告サーバーに転送され、被告サーバーのCPUで転送された情報と記憶手段に記憶されたデータを用いた処理が行われ、目的地として設定することが可能となっている。
 また、1つの目的地を検索・入力した後に、ディスプレイに表示された目的地設定を示す画面において、キー操作に基づき「地図(確認/修正)」が選択されると、ディスプレイに当該目的地付近の地図が表示され、キー操作によって表示された地図で十字カーソルを移動することにより、地図上の任意の地点を目的地とすることもできる。
 このようにして設定された目的地の目的地情報は、本件携帯端末のディスプレイに表示された画面において後から参照することができる(目的地履歴による目的地の参照)。具体的には、ディスプレイに表示された「EZ助手席ナビ」トップ画面において、キー操作に基づき「目的地を検索する」を選択し、次に現れる目的地検索画面において「カテゴリ別検索履歴」を選択し、次に現れるカテゴリ選択画面から、該当するカテゴリを選択すると、当該カテゴリに属する以前設定された目的地の履歴が表示されたリストが表示される。さらに、キー操作に基づき、当該リストの中から、1つの目的地を選択し、さらに「地図(確認/修正)」を選択すると、ディスプレイに当該目的地の地点が地図上に表示される。
 このような表示が可能であることからすると、被告装置においては、目的地が設定されると、設定された目的地に関する目的地情報が記憶されているということができる。また、被告サーバーの前記記憶手段に新規の目的地の設定により書き込まれる目的地情報の記憶位置は、少なくとも前回書き込まれた目的地情報の記憶位置とは異なっている。
 したがって、被告装置(「カテゴリ別検索履歴」、すなわち、ナビログデータベース(以下データベースを「DB」という。))は、目的地情報を記憶するための記憶位置を複数有する記憶手段を有しており(以下「構成1−b」という。)、かつ、目的地が設定されるたびに、その目的地を示す目的地情報を前記記憶手段の少なくとも前回の目的地情報の記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段を有している(以下「構成1−c」という。)。
(2) 被告装置の構成要件1−B及び1−Cの充足性
ア 前記(1)のとおり、被告装置は、以前設定された目的地の地点を地図上に表示することができることからも明らかなとおり、記憶手段に記憶されている目的地情報は、目的地の座標を含むものであるから、目的地座標データに該当する。
 したがって、被告装置は、構成要件1−Bを充足する。
イ また、前記(1)のとおり、被告装置は、目的地が設定されるたびに、その目的地を示す目的地情報を、記憶手段の少なくとも前回の目的地情報の記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段(構成1−c)を有しており、構成要件1−Cを充足する。
(3) 被告の主張について
ア 目的地の「設定」及び「目的地座標データ」について
 本件特許発明1における「目的地の設定」については、ナビゲーション装置における一般的な「目的地の設定」の技術的意義から解釈すべきである。そして、ナビゲーション装置における目的地の設定の目的は、装置に対して、目的地を入力することである。したがって、ナビゲーション装置における「目的地の設定」とは、「ナビゲーション装置に対して、航行情報を得る契機となり得る目的地の情報を与えるべく、画面等の表示・指示に基づいて、地点、施設等の入力又は選択等を行うこと」を意味すると解すべきである。
 被告は、「目的地の設定」が、目的地として希望する地点の座標データを、目的地としてメモリ(RAM9)に書き込むことであるかのように主張するが、特許請求の範囲の記載(構成要件1−C)や、本件明細書1の記載(段落【0013】)からすれば、目的地が設定されることと、当該目的地を示す目的地座標データがメモリに書き込まれることとは、別異の工程であることは明らかである。
 そして、この「目的地の設定」の意義からすれば、「目的地座標データ」とは、目的地となる地点の座標データを意味し、何らそれ以上の条件(例えば、目的地として記憶されたこと等)が求められるものではない。
イ 被告装置について
(ア) 被告は、別紙被告装置説明書の「第1 被告装置の使用態様」中の画面1−C(以下、同別紙に記載された本件携帯端末の画面を「画面1−C」等という。)に示される表示画面の段階では目的地として設定されておらず、「今すぐ出発」を操作した段階で、初めて目的地が設定されるとし、被告装置においては、目的地を設定する前の検索段階において表示された地点を検索履歴として保存するから、当該地点情報を履歴として保存するナビログDBは、「目的地が設定される毎に」、「目的地座標データ」を記憶するものではないと主張する。
 しかしながら、画面1−Cの段階で目的地が設定されていることは、画面1−Cの上部に「目的地」との記載があり、地点名の横に目的地を意味する「Goal」の頭文字である「G」と表示されていること等の本件携帯端末のディスプレイに表示される画面から、明らかである。
 そして、被告サーバーのナビログDBでは、当該目的地に係る座標データを含む目的地の情報を記憶している。また、ナビログDBについては、設定された目的地全件が記憶されるから、「目的地が設定される毎に」、「目的地座標データ」が書き込まれている。
(イ) また、被告は、ナビログDBには、目的地として検索(設定)された地点だけでなく、出発地や経由地として検索(設定)された地点も、目的地として検索された地点とは区別されずに記憶されることをもって、被告装置が構成要件1−B及び1−Cを充足しないと主張する。
 しかしながら、ナビログDBに目的地の座標データのみならずこれ以外の情報も記憶されていることは、被告装置が構成要件1−B及び1−Cを充足しないことの理由とはならない。また、ナビログDBには、目的地として設定された地点と出発地又は経由地として設定された地点とが区別されずに記憶されるとしても、ナビログDBが目的地の座標データを記憶していることに変わりはなく、座標データが「目的地であるとの属性が付されていなければならない。」とする理由もないから、被告装置の構成要件1−B及び1−Cの充足性に影響を与えない。
(被告の主張)
(1) 目的地の「設定」及び「目的地座標データ」の意義
 本件特許1の特許請求の範囲には、「目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標データ」と記載されているから、「目的地座標データ」とは、目的地として「設定」された座標データを意味するものである。
 そして、ここでいう「設定」とは、本件明細書1の記載(段落【0003】、【0012】、【0013】、【0016】、【0018】)にかんがみれば、ユーザーが目的地として希望する地点の座標データを、目的地としてメモリ(RAM9)(又はメモリ内の目的地座標データを格納すべき領域)に書き込むことを意味すると解すべきである。また、このようにして目的地として記憶された「緯度及び経度データ(x、y)」(段落【0013】)が「目的地座標データ」である。
(2) 被告装置について
ア 被告装置においては、地点情報を表示(例えば、画面1−C)するだけでは、当該地点が目的地として「設定」又は記憶されておらず、当該地点は、検索履歴として、出発地、経由地等の検索記録とともに、これらが区別されることなくナビログDB(ユーザーが検索した地点を全件記憶しておくDBであって、同DBに記憶されている検索履歴は「カテゴリ別検索履歴」から検索することができる。)及びスポットデータDB(同一ユーザーIDに対して20件までの検索履歴を記憶し、この検索履歴は、プルダウンメニュー方式で表示され、その中から地点を選択できる。)の二つのDB(以下、併せて「検索履歴DB」という。)に記憶される。
イ(ア) すなわち、検索履歴DBは、検索により抽出された地点の情報が表示(画面1−C)される際に、当該地点が目的地として決定されたか否かとは関係なく、当該地点情報を自動的に検索履歴として保存するものである。この地点情報の表示(画面1−C)は、当該地点を目的地に決定したことを表示する画面ではなく、当該地点を目的地にしてよいかの確認をユーザーに求める画面である。このことは、当該画面において、電話発信その他の様々なサービスを利用することが可能であることから明らかである。そして、被告サービスにおける目的地の「設定」に相当する操作は、例えば、画面1−Cにおいて、「今すぐ出発」を選択することであって、それまで目的地は決定されない。
 原告は、画面1−C中の表示等を根拠に、同画面の段階で目的地が設定されていると主張するが、原告がその主張の根拠とする表示は、被告サーバーの構成とは無関係に、ユーザーインターフェイスという目的から決定される表示内容であり、このような表示に基づいて装置の構成又は仕様が決定されるものではない。
 したがって、検索履歴DBへの地点の書き込みは、目的地が決定される前において、単なる検索履歴として検索した地点を書き込むものであって、「目的地が設定される毎に」、「目的地座標データ」を書き込むものではない。
(イ) また、検索履歴DBには、目的地を選定する過程で検索された地点だけではなく、出発地や経由地を検索する過程で検索された地点も記憶され、当該地点が、目的地として検索されたのか、出発地として検索されたのか、経由地として検索されたのかを区分して記憶されていない。そのため、検索履歴DBに記憶されている地点が、目的地、出発地又は経由地のいずれとして検索されたのかは不明である。
 したがって、この意味でも、「目的地座標データ」が書き込まれることはない。
(ウ) 原告が目的地の履歴のリストの表示であるとする「カテゴリ別検索履歴」(画面2−J)は、その名称のとおり、地点検索を行った地点の履歴(検索履歴)であって、目的地として「設定」された地点の履歴(目的地履歴)ではない。
ウ 以上のとおり、検索履歴DBは、「目的地座標データ」を記憶していないから、「目的地座標データ」を記憶するメモリではない。
 よって、本件携帯端末にはもちろん、被告サーバーにも、「目的地座標データを記憶するための記録位置を複数有するメモリ」は存在せず、また、被告装置は「目的地が設定される毎に」「目的地座標データ」が書き込まれることもないから、構成要件1−B及び1−Cを充足しない。
3 争点(1)ウ(構成要件1−Dの充足性(被告装置が「目的地座標データ」を読み出しているか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成
 被告装置において、以前設定した目的地に向けて再度走行するために目的地を設定する場合には、まず、ディスプレイの「EZ助手席ナビ」トップ画面において、本件携帯端末におけるキー操作により「目的地を検索する」を選択し、次に現れる目的地検索画面において、キー操作により「カテゴリ別検索履歴」を選択し、次いで現れるカテゴリ選択画面から、キー操作により当該目的地に該当するカテゴリを選択する。このカテゴリ選択情報が被告サーバーに転送されると、被告サーバーのCPUが、転送された情報と記憶手段に記憶されたデータを用いて検索を行い、当該カテゴリに該当する目的地を選び出す。この情報は、本件携帯端末に転送され、当該目的地を示す目的地名が、当該カテゴリに属する他の以前に設定した目的地を示す目的地名とともに、本件携帯端末のディスプレイにリストとして表示される。
 そして、前記2(原告の主張)(1)のとおり、被告装置においては、当該目的地に関する目的地情報は、被告サーバーの記憶手段に記憶されているから、ディスプレイ上の目的地の履歴のリストの表示に当たっては、被告サーバーのCPUが、被告サーバーの当該記憶手段から以前設定された目的地の目的地情報を読み出していると解される。
 したがって、被告装置は、目的地を設定する際に、前記記憶手段に記憶された目的地情報を読み出す読出手段を有する(以下「構成1−d」という)。
(2) 被告装置の構成要件1−Dの充足性
 前記(1)のとおり、本件携帯端末のディスプレイに目的地名が表示されるということは、目的地情報が読み出された上で表示されているということである。そして、前記2(原告の主張)(2)のとおり、目的地情報には目的地を示す座標が含まれるから、目的地情報は「目的地座標データ」に該当する。また、被告装置のように目的地を示す座標以外に目的地名等をも含むデータを作成して、そのうち目的地名を表示することも、目的地座標データの読出しに含まれる(本件明細書1の段落【0019】参照)。
 したがって、被告装置は、構成要件1−Dを充足する。
(3) 被告の主張について
 被告は、被告サーバーには目的地座標データは記憶されていないと主張するが、これが記憶されていることは、前記2(原告の主張)のとおりである。
(被告の主張)
(1) 前記2(被告の主張)のとおり、被告サーバーの検索履歴DBには検索履歴のみが記憶されており、また、記憶されている検索履歴は、目的地、出発地、経由地のいずれを選定するために検索されたのかの属性も付されていないから、目的地座標データは記憶されていない。そうすると、検索履歴DBから目的地座標データを読み出すことはない。
(2) したがって、被告サーバーは、構成要件1−Dを満たさない。
4 争点(1)エ(構成要件1−Eの充足性(被告装置において「目的地座標データ」が「選択」されているか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成及び構成要件1−Eの充足性
 前記3(原告の主張)(1)のディスプレイに表示されたカテゴリ別の目的地名の履歴のリストのうちから、キー操作に基づき特定の目的地名が選択されると、選択された目的地名が示す目的地に係る地点が地図上に新たな目的地として設定される。
 したがって、被告装置は、構成1−dにより読み出された目的地情報のうちから1の目的地情報を操作に応じて選択し、当該目的地情報を選択することによって目的地を設定する手段を有する(以下「構成1−e」という。)。
 よって、被告装置は、構成要件1−Eを充足する。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、「目的地座標データ」から「目的地名」は意識的に除外されていると主張する。
 しかしながら、構成要件1−Eにおいては、読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択することによって、目的地を設定することが記載されているが、当該記載において目的地座標データの選択手段に関する限定は一切ない。
 また、本件明細書1の段落【0016】、【0019】の記載からすれば、登録データテーブルに、目的地を示すデータとして、当該目的地に係る同じアドレス位置に、当該目的地の目的地座標データとともに当該目的地の目的地名のデータを書き込み、当該目的地名のデータに基づいてディスプレイに複数の目的地名を表示させて、その表示された目的地名のうちから1の目的地を選び、それによって当該目的地の目的地座標データが選択され、当該目的地座標データが示す地点が目的地に設定されるという手段による目的地座標データの選択及びそれによる目的地設定も当然に予定しているということができる。
 以上のような本件明細書1の記載にかんがみれば、構成要件1−Eの「読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択」するとは、ディスプレイに目的地座標データが示す経度及び緯度を表示させることによって、当該経度及び緯度に係る目的地座標データを選択することに限定されるものではなく、目的地名と座標データの併記表示又は目的地名のみの表示等の表示された項目に従って、ユーザーがメモリ内の目的地座標データの選択、設定を行うことができ、これに基づいて、再度目的地座標データが利用できるのであれば十分である。
 このように解することは、目的地が設定されるごとに目的地座標データをメモリの異なる記憶位置に書き込んでおき、目的地設定の際に当該メモリに記憶された目的地座標データを読み出し、その1つを選択することによって目的地を設定するという本件特許発明1の技術的特徴にかんがみても、合理的である。また、表示された目的地名を選択することにより「目的地座標データ」を選択することによっても、「過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な選択操作だけで済むので、目的地を容易に設定することができる。」という本件特許発明1の効果を達成することができる。
イ 被告装置について
(ア) 被告装置についてみると、まず、被告サーバーのナビログDBのデータテーブルには、目的地が設定されるたびに、当該目的地にかかる座標、名称等のデータが記憶される。そして、ナビログDBのデータテーブルに目的地の座標データとともに記憶されている目的地名のデータが読み出された上で、これに基づき、本件携帯端末のディスプレイに目的地名が複数表示される。また、その目的地名により表示された目的地の中から本件携帯端末の操作によって1つの目的地を選択し、これによって、当該目的地名が示す目的地に係る座標データも選択されることとなる。
 このような目的地に係る座標データの選択は、本件明細書1の段落【0019】に示された実施例の態様そのものである。
 したがって、被告装置は、「読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択」する手段を有する。
(イ) 被告装置では、目的地の選択に際して、ディスプレイに目的地名のみが表示されているが、このような表示を行うに当たっては、目的地名のデータのみならず目的地の座標データも読み出されていると考えられる(被告サービスと同様に、被告が運営するサーバーにより、被告がKDDIと共同で提供するPC版のナビゲーションサービスである「PC版EZナビウォーク/EZ助手席ナビ」につき、甲27ないし30)。
 これに対し、被告は、本件携帯端末に送信されるカテゴリ別検索履歴の一覧のソースコード(乙16の1及び2)に基づいて、検索履歴一覧(画面2−L)が表示されている状態においては、検索地点の緯度経度情報が本件携帯端末に送信されていないと主張する。
 しかしながら、被告装置においては、ディスプレイに表示された目的地名に係る目的地の1つを本件携帯端末の操作により選択すると(画面2−L)、目的地に設定したことを示す画面(画面2−O)が表示されることからすれば、仮に、目的地名とともに目的地座標データが送られていないとしても、これらのデータに何らかの紐付けがされていることにより、読み出された目的地座標データのうちからの1の目的地座標データの選択と目的地の設定が可能になっている。
 したがって、被告装置においても、目的地名によって1つの目的地を選ぶと、当該目的地に係る座標データが選択されると考えられるから、被告装置は、いずれにしても「読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択」する手段を有する。
(被告の主張)
(1) 前記2及び3の各(被告の主張)のとおり、被告サーバーは目的地座標データを保管していないから、「読み出された目的地座標データ」なるものはなく、これを選択することはできない。
(2) 「目的地座標データ」について
ア 被告サーバーは、検索履歴から目的地を選択する際に、検索履歴DBから目的地名を読み出し、本件携帯端末に送信し、目的地名をユーザーに選択させるものであって、目的地の座標データを選択することはしていないから、被告サービスでは「目的地座標データ」を選択することもない。
 原告は、目的地名は目的地情報の一部であって、目的地情報には目的地を示す座標が含まれるから、「目的地座標データ」に該当すると主張する。
 しかしながら、この主張は、「目的地情報」には「目的地座標データ」と「目的地名」が含まれるから、「目的地名」は「目的地情報」に該当するというものであり、論理性を欠く。そして、「目的地情報」なる用語は、本件明細書1にはなく、むしろ、本件明細書1には、目的地の座標である「目的地座標データ」と目的地の地名である「目的地名」とを異なるものとして明確に区別した(段落【0019】)上で、あえて特許請求の範囲に「目的地座標データ」を読み出し(構成要件1−D)、「目的地座標データ」を選択する(構成要件1−E)と記載したのであって、「目的地座標データ」から「目的地名」は意識的に除外されている。
イ これに対し、原告は、ディスプレイに目的地座標データが示す経度及び緯度を表示させることによって、当該経度及び緯度に係る目的地座標データを選択することに限定されるものではないと主張する。
 しかしながら、過去に設定した目的地と同一の目的地を簡単な操作だけで設定することができるようにするためには、目的地座標データを、しかも複数、あらかじめ読み出す必要はないにもかかわらず、本件特許発明1が、あえて複数の目的地座標データを読み出し、そのうちから「1の目的地座標データ」を選択することとしたのは、これをユーザーに提示し、選択させることを目的とするからである。
 また、「目的地座標データ」を選択するためには、これ自体が表示されていることが必要である。
 したがって、構成要件1−Eは、その記載上、ディスプレイに目的地座標データが示す経度及び緯度を表示させることによって、当該経度及び緯度に係る目的地座標データをユーザーに選択させる構成を規定するものである。
ウ 原告は、被告装置において、実際には、目的地名のデータのみならず目的地の座標データも読み出されていると主張する。
 しかしながら、実際に本件携帯端末に送信されるナビログDBに係る検索履歴一覧のソースコードをみても、検索地点の緯度経度情報は含まれていない(乙16の1、2)。なお、「PC版EZナビウォーク/EZ助手席ナビ」の画面(甲27ないし30)は、スポットデータDBに関するものであって、ナビログDBに関するものではなく、また、当該サービスは、平成22年3月に新しく始めたサービスであって、その設計いかんが、被告サービスの設計に関係することはない。
(3) 「選択」について
ア 本件特許発明1における「1の目的地座標データを操作に応じて選択」する「手段」とは、「設定キー」(本件明細書1の段落【0015】)のような手段をいい、これを操作して「選択」するものであるところ、被告サービスにおける同等の操作は、本件携帯端末において「今すぐ出発」を選択することであり、「設定キー」のような手段は被告サーバーにはない。
 したがって、被告サーバーは、「1の目的地座標データを操作に応じて選択」する「手段」を具備しない。
イ また、構成要件1−Eは、「前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する」というのであるから、「1の目的地座標データの選択」をすることが、「目的地を設定する」ことであると解される。すなわち、本件特許発明1において、目的地座標データが画面に表示されている状態でユーザーが「設定キー」を操作すると、当該座標データが新たな目的地座標データとしてメモリ(RAM9)に記憶される(本件明細書1の段落【0015】、図4参照)。また、発明の効果として、選択操作だけで目的地が設定できることが明らかにされている(同段落【0020】)。
 そうすると、構成要件1−Eは、ユーザーによる目的地座標データの選択行為が目的地の設定行為そのものであることを要件とするものである。
 これに対し、被告サーバーは、検索履歴として表示された複数の地名の中からユーザーが1つを選択しても、確認画面に移行し、当該地点の情報を表示する(画面2−O、Q)だけであり、当該地点の座標が目的地の座標として記憶されることはなく、目的地の決定のためには、改めて「今すぐ出発」を選択しなければならない。
 したがって、被告サーバーは「前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する」構成を有しない。
(4) 以上のとおり、被告サーバーは構成要件1−Eを充足しない。
5 争点(1)オ(本件特許発明1と被告装置との課題解決方法及び作用効果の相違)について
(原告の主張)
 被告は、本件特許発明1では目的地の座標データを残しておくのに対し、被告装置では被告サーバーのDBに検索履歴を残しておくものであるから、本件特許発明1と被告装置とでは課題解決方法が異なり、そのため作用効果も異なると主張する。
 しかしながら、被告が検索履歴と主張するものは、実際には目的地の履歴である。そして、被告装置は、過去に設定された目的地の座標や名称等の情報を履歴として残しておくことにより、簡単な操作で同一の目的地を設定することができるから、本件特許発明1と同じ課題解決方法を用いることによって、同じ作用効果を奏している。
 したがって、被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1) 本件特許発明1は、車載ナビゲーション装置において車両が目的地に到達すると目的地座標データがメモリから自動的に消去される点に従来技術の問題があったことに気付き、過去に設定した目的地の座標データを残しておくこと(本件明細書1の段落【0003】)によって課題を解決した。このような課題解決方法は、カーナビケーションに固有の方法である。
(2) これに対し、被告サーバーでは、ユーザーがナビゲーションを終了させると目的地座標データがメモリから消去される構成を有している点において、従来技術と変わらない。しかしながら、被告サーバーは、DBが検索履歴を残しておくことで、次に同じ情報を検索する際に当該検索履歴から容易に目的とする情報を得られるという従来から使用されているDBに関する履歴検索技術を応用したものであって、カーナビゲーション固有の解決方法を採用した本件特許発明1とは解決方法が全く異なる。
 また、被告サーバーでは、このような解決手段を採用した結果、ユーザーが「過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合」には、本件特許発明1ほど簡単な操作で目的地を設定することはできない。しかしながら、被告サービスでは、過去の検索結果を容易に参照できるというDB本来の機能を応用することで、DBとして使い勝手がよいものとしている。その結果、被告サービスは、検索した目的が何であるか(目的地、経由地、出発地、電話帳、地図参照等)を問わず、検索した地点のすべての履歴を呼び出すことができ、その中から目的地を選択決定することも比較的容易となっている。
(3) よって、被告サーバーは、本件特許発明1とは異なる課題解決方法を採用し、本件特許発明1とは異なる作用効果を奏する。
6 争点(2)ア(構成要件2−A及び2−Hの充足性(被告装置は「車載ナビゲーション装置」か。))について
(原告の主張)
 前記1(原告の主張)(1)のとおり、被告装置は、被告サーバーで作成した地図描画データを本件携帯端末に転送し、本件携帯端末のディスプレイに表示させるように構成されている、車両用のナビゲーション装置である。
 したがって、被告装置は、地図をディスプレイに表示する車両用ナビゲーション装置である(以下「構成2−a」といい、このうち、「車両用ナビゲーション装置」を「構成2−h」という。)。
 そして、車両用ナビゲーション装置とは、車載ナビゲーション装置であることは、前記1(原告の主張)(2)のとおりであるから、被告装置は、構成要件2−A及び2−Hを充足する。
(被告の主張)
 前記1(被告の主張)のとおり、被告サーバーは「車載」ナビゲーション装置ではなく、「ナビゲーション装置」でもないから、構成要件2−A及び2−Hを充足しない。
7 争点(2)イ(構成要件2−B及び2−Cの充足性(被告装置は「複数のサービス施設を示す表示データ」を「予め記憶した第1記憶手段」を有するか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成並びに構成要件2−B及び2−Cの充足性
ア 被告装置においては、サービス施設等を目的地として設定する場合には、まず、ホテル、レストラン等のサービス施設等のカテゴリを本件携帯端末のキー操作により選択する。このカテゴリ選択情報が、被告サーバーに転送されると、被告サーバーのCPUが、転送された情報と記憶手段に記憶されたデータを用いて検索し、当該カテゴリに該当する目的地を選び出す。この結果は、本件携帯端末に転送され、目的地として表示される。さらに、本件携帯端末のキー操作により、それらの施設から1つの施設を選択すると、本件携帯端末のディスプレイにおいて、目的地設定を示す画面(画面3−J)に当該施設の名称、住所、電話番号等が表示される。
 このように、被告装置において、カテゴリ別の施設検索を利用した目的地の設定及び当該目的地の名称、住所、電話番号等や地図上の所在位置の本件携帯端末のディスプレイ上での表示が可能となっているのは、複数のサービス施設を示すデータ(名称、住所、電話番号等)及び各サービス施設の存在地点(経度・緯度)を示す座標データが被告サーバーの記憶手段にあらかじめ記憶されているからである(甲8)。
 したがって、被告装置は、複数のサービス施設を示すデータ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データをあらかじめ記憶した記憶手段(以下「構成2−b」という)を有しており、構成要件2−Bを充足する。
イ そして、被告装置において、前記アのとおり、複数のサービス施設の名称等が本件携帯端末のディスプレイにリスト表示されるのは、本件携帯端末からカテゴリ選択情報が転送されると、被告サーバーのCPUで転送された情報に基づいて記憶手段に記憶された複数のサービス施設を示すデータが読み出され、そのデータを本件携帯端末に転送することによって、複数のサービス施設の名称を本件携帯端末のディスプレイに表示させる手段(以下「構成2−c」という)を有しているからである。
 したがって、被告装置は、構成要件2−Cを充足する。
(2) 被告の主張について
ア 「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義について
 被告は、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータをいうと主張する。
 しかしながら、まず、構成要件2−Bを文言どおり素直に読めば、「複数のサービス施設」とは、1つではなく複数のサービス施設のことであり、「表示データ」とは、このようなサービス施設を示すデータであって、ディスプレイへの表示のための各種情報のデータであると理解される。
 そして、構成要件2−Bの第1記憶手段には「複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データ」があらかじめ記憶されている。この第1記憶手段にあらかじめ記憶されるデータに関し、本件明細書2の実施例の記載(段落【0010】)からすれば、「地点座標データ」とは、経度及び緯度データであり、「表示データ」とは、サービス施設を示すその他の表示のためのデータ(前記の実施例にいうサービスリスト表示データや詳細表示データ)であって、その具体的な表示形式を限定しなければならない理由はない。
 また、本件明細書2の実施例に関する記載(段落【0014】、【0015】)によれば、実施例のCD−ROMには、経度及び緯度データの他に、サービスリスト表示データや詳細表示データが記憶されており、サービスリスト表示データは、サービス施設の名称をリスト表示するためのデータであって、詳細表示データは、各サービス施設の場所、電話番号等の詳細情報を表示するためのデータであることが理解される。
 さらに、「リスト」には、「書き出されたもの」という概念が含まれているから、「複数のサービス施設」自体が、「サービスリスト」であると解することはできない。
 加えて、被告は、構成要件2−Bは、「複数のサービス施設」に対して1個の表示データが存在することが明らかにされていると主張する。しかしながら、「サービス施設」をホテルやレストラン等のサービス施設そのものと理解するのであれば、「複数のサービス施設」も、当然、複数のホテルやレストラン等のサービス施設そのものと理解される。そうすると、「複数のサービス施設」が「複数のホテルやレストラン等のサービス施設」そのものである以上、「複数のサービス施設を示す表示データ」は、複数のホテルやレストラン等を示す表示データにすぎないと解され、何ら「1個の表示データ」という解釈は導かれない。
 以上のことを考慮して構成要件2−Bの記載を読めば、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、複数のサービス施設に関し、各サービス施設の名称、住所、電話番号等の各種の情報を表示するためのデータであって、例えば、実施例における「サービスリスト表示データ」と「詳細表示データ」のいずれをも含む(ただし、これらの実施態様に限定されない。)ものであって、被告が主張するように「地域毎のレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータ」であると解釈されるものではない。
イ 被告サーバーについて
 前記アのとおり、被告が前提とする構成要件2−Bの解釈は誤りであるから、このような解釈を前提として、被告装置は構成要件2−Bを充足しないとする被告の主張も、また誤りである。
(被告の主張)
(1) 構成要件2−Bの解釈
ア 「複数のサービス施設」の意義
 「複数のサービス施設」についての特許請求の範囲の記載にかんがみれば、「複数のサービス施設」とは、表示器に表示される複数のサービス施設である。
 そして、「複数のサービス施設」の意義につき、本件明細書2の記載(段落【0014】)にかんがみれば、「表示器」であるディスプレイに表示させるのは、「サービスリスト」であり、「サービスリスト」とは、「地域毎のレストランやホテルのリスト」、「例えば、レストランならば、町や市単位で和食、洋食、中華及びその他のレストランの店名」を意味するものである。
 したがって、「表示器に表示される複数のサービス施設」とは、ディスプレイに表示される地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名リストをいい、「複数のサービス施設」とは、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストをいう。
イ 「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義
(ア) 「複数のサービス施設を示す表示データ」についての特許請求の範囲の記載にかんがみれば、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、@複数のサービス施設を示すデータであり、かつ、A第1記憶手段にあらかじめ記憶され、当該記憶手段から読み出され、表示器に表示されるデータであると解される。
 そして、「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義につき、本件明細書2の記載(段落【0010】、【0014】)にかんがみれば、「表示」及び「データ」に関するものとして、「サービスリスト表示データ」、「詳細表示データ」及び「地点座標データ」があるところ、このうち、@「複数のサービス施設を示す表示データ」にいう「複数のサービス施設」とは、前記アのとおり、サービスリストを意味するから、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、「サービスリスト表示データ」をいう(「詳細表示データ」は含まれない。)と解される。また、A第1記憶手段にあらかじめ記憶され、当該記憶手段から読み出され、表示器に表示されるデータとは、CD−ROMにあらかじめ記憶された「サービスリスト表示データ」(段落【0010】)が読み出されて、ディスプレイ17上にサービスリストが表示される(段落【0014】)ことからすれば、「サービスリスト表示データ」がこれに該当する。したがって、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、「サービスリスト表示データ」をいうと解される。
 さらに、前記アの「サービスリスト」の意義に照らして、「サービスリスト表示データ」とは、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータであるということができる。
 したがって、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータをいう。
(イ) また、構成要件2−Bでは、地点座標データに関しては、「各サービス施設」と記載し、サービス施設ごとにその地点座標が地点座標データとして記憶されていることが明記されている。これに対し、表示データに関しては、「各」の語が付されていないのみならず、「複数の」の文言が付されており、「複数のサービス施設」に対して1個の表示データが存在することが明らかにされている。
 このような構成要件2−Bの記載からすれば、「複数のサービス施設を示す表示データ」には、サービス施設ごとに1個存在する「詳細表示データ」は含まれないものと解さざるを得ない。
(ウ) さらに、特許請求の範囲には「サービス施設データ」ではなく「表示データ」と記載されていることや、本件明細書2の記載(段落【0014】)からすれば、「表示データ」とは、サービス施設に関する情報それ自体(サービス施設の名称、住所、電話番号等)ではなく、店名や施設名を画面に表示するための映像として構成済みのデータであると解される。
 したがって、「複数のサービス施設を示す表示データ」は、当該「表示データ」において複数のサービス施設を含むものでなければならない。これに対し、「詳細表示データ」は、個々のサービス施設についての表示データにすぎず、複数のサービス施設を示すものではないから、「複数のサービス施設を示す表示データ」ではない。
(2) 被告サーバーの構成要件2−B及び2−Cの充足性について
 前記(1)のとおり、本件特許発明2は、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータをあらかじめ記憶した第1記憶手段を有する。
 これに対し、被告サービスにおいては、被告サーバーが本件携帯端末にカテゴリ別にサービス施設のリストを送信し、これを本件携帯端末が表示するものの、当該表示は、本件携帯端末から要求があるごとに、その要求に従ってデータベースを検索した結果であって、あらかじめ記憶しておいた地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストを表示するものではない。
 したがって、被告サーバーは、「複数のサービス施設を示す表示データ…を予め記憶した第1記憶手段」(構成要件2−B)という要件を充足しない。
 そして、そうである以上、被告サーバーは、「前記第1記憶手段」もなく、「前記第1記憶手段から前記表示データを読み出」すこともないから、「前記第1記憶手段から前記表示データを読み出して」これを表示器に表示させる手段(構成要件2−C)という要件を充足しない。
8 争点(2)ウ(構成要件2−D及び2−Eの充足性(被告装置は「表示された複数のサービス施設」から「1のサービス施設を…指定」しているか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成並びに構成要件2−D及び2−Eの充足性
 被告装置において、選択したサービス施設の所在位置を本件携帯端末のディスプレイに表示された地図上に示すことができるのは、複数のサービス施設の名称のリストから目的地となる特定のサービス施設を本件携帯端末のキー操作により選択し、その選択情報を被告サーバーに転送し、CPUが転送された情報に基づいて当該特定のサービス施設を検索対象とする旨の指定を行い、記憶手段から地点座標データを読み出し、地図描画データを作成して、当該データを本件携帯端末に転送し、目的地としてディスプレイに表示させているからである。
 したがって、被告装置は、本件携帯端末のディスプレイに表示された複数のサービス施設のうち1つのサービス施設を本件携帯端末の操作に応じて指定する手段(以下「構成2−d」という)を有しており、また、指定された当該サービス施設の経度・緯度を示す座標データを前記記憶手段から読み出す手段(以下「構成2−e」という)を備えているといえる。
 よって、被告装置は、構成要件2−D及び2−Eをそれぞれ充足する。
(2) 被告の主張について
 被告は、被告サーバーには、「指定する手段」がないと主張する。
 しかしながら、被告装置は、被告サーバーのみならず本件携帯端末も含むものであり、本件携帯端末が当該手段を有している。さらに、本件携帯端末を操作することにより「My地点に登録」を選択し、本件携帯端末から送信される選択情報に基づき被告サーバーにおいて「1のサービス施設を…指定する」ことができる以上、被告装置は、構成要件2−Dの「前記表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」を有する。
(被告の主張)
(1) 構成要件2−Dについて
ア 構成要件2−Dの「1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」とは、「地点登録キー」(本件明細書2の段落【0015】)のような手段をいい、同キーを操作して「指定」を行う。これに対し、被告サービスにおける同等の操作は、本件携帯端末において「My地点に登録」を選択することであり、このような手段は被告サーバーにはない。
 したがって、被告サーバーは、「1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」(構成要件2−D)という要件を充足しない。
イ また、前記7(被告の主張)のとおり、被告サービスは、そもそも「複数のサービス施設を示す表示データ」を有していない以上、これに対応して表示される「複数のサービス施設」の中から「1のサービス施設」を指定することはできない。
 したがって、この点においても、被告サービスは、構成要件2−Dを充足しない。
(2) 構成要件2−Eについて
 前記7(被告の主張)のとおり、被告サーバーは、「複数のサービス施設を示す表示データ」を「予め記憶した第1記憶手段」(構成要件2−B)を備えるものではない以上、「前記第1記憶手段」(構成要件2−E)もなく、「前記第1記憶手段から読み出す手段」も備えていない。
 また、前記(1)のとおり、被告サービスは、「複数のサービス施設」から「1のサービス施設」を指定することはできないから、「指定された1のサービス施設に対応する地点座標データ」を読み出すことはない。
 したがって、被告装置は、「地点座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段」(構成要件2−E)という要件を充足しない。
9 争点(2)エ(構成要件2−F及び2−Gの充足性(被告装置は「所定のパターン」を表示させる手段を有するか。))について
(原告の主張)
(1) 被告装置の構成並びに構成要件2−F及び2−Gの充足性
 被告装置においては、特定のサービス施設を指定して目的地として設定した後、当該サービス施設を「My地点」として登録することができる。アイコンについては、「My地点」登録画面に示されるアイコンの選択肢の中から適宜のものを選択することもできるが、特に選択しない場合には、ピンク色の星印のアイコンが設定される。「My地点」として登録すると、当該サービス施設の地点を含む範囲の地図を本件携帯端末のディスプレイに表示させた場合に、当該サービス施設の地点が登録時に設定されたアイコンにより地図に重畳して表示される。
 このように、「My地点」が登録でき、また、当該登録後において、アイコンの表示形式によってサービス施設の地点が表示されるようになるのは、被告サーバーにおいて、記憶手段から読み出された当該サービス施設の経度・緯度を示す座標データを、「My地点」の登録により、携帯端末ごとの情報として別の記憶手段に記憶し、また、被告サーバーにおいて、当該別の記憶手段から「My地点」として登録された施設の座標データを読み出して、当該座標データが示す地図上の地点をアイコンで表示する地図描画データを作成して、当該データを本件携帯端末に転送しているからである。
 したがって、被告装置は、読み出された地点座標データを記憶する、構成2−b等の記憶手段とは別の記憶手段を有する(以下「構成2−f」という)とともに、本件携帯端末のディスプレイに地図が表示されているとき、当該記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のアイコンによって表示することにより地図に重畳してディスプレイに表示させる手段を有する(以下「構成2−g」という)。
 よって、被告装置は、構成要件2−F及び2−Gを充足する。
(2) 被告の主張について
ア 構成要件2−Gの「所定のパターン」の意義について
 被告は、「所定のパターン」とは、あらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに定められた文字又は記号の類型をいうと主張する。
 しかしながら、「パターン」という用語は、「図案」、「模様」といった意味も有するところ(甲31、32)、構成要件2−Gに係る特許請求の範囲の記載の文脈に照らせば、ここでいう「パターン」とは、地点を表示する図や模様のことをいうことは明らかであるから、「所定のパターン」とは、「あらかじめ定まった図や模様」をいうものと解される。
 そして、本件明細書2の記載(段落【0015】、【0017】)は、実施態様について述べたものにすぎず、何らこのような実施態様に限定されるものではない。また、本件明細書2には、サービス施設の表示パターンをユーザーが選択できることが明示的に記載されている(段落【0003】)。さらに、本件特許発明2は、「ユーザ各々で必要なものの存在地点を地図上にパターン表示するユーザ地点登録機能」に係る発明であり、ここでパターン表示する対象とされているのは、「ユーザ各々で必要なもの」であるから、個々のユーザーにとって必要な施設のパターン表示ができればよく、それ以上に詳細な情報(例えば、サービスの種類)を必ず付す必要はない。
 したがって、本件特許発明2の「所定のパターン」が、被告が主張するように、あらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに1対1の関係で定められた文字又は記号の類型をいうと解することはできない。
イ 被告装置の構成要件2−Gの充足性について
 被告は、被告サービスでは、地点登録をする際に地図に表示させる記号はあらかじめ定められておらず、ユーザーが任意にアイコンを選択することにより、当該アイコンが表示されるから、構成要件2−Gを充足しないと主張する。
 しかしながら、前記アのとおり、「所定のパターン」とは、「あらかじめ定まった図や模様」をいうところ、被告装置の「My地点」登録画面(画面3−O)のアイコンは、特に選択しない場合のピンク色の星印も、その他のマークも、いずれもあらかじめ定まった図・模様であり、「所定のパターン」である(画面3−O)。そして、被告装置においては、「My地点」登録をする際にアイコンは1つに決められることになるため、「My地点」登録がされた地点が地図に表示される際に表示されるアイコンは、あらかじめ定まった図・模様であり、「所定のパターン」である。
 したがって、被告装置は、ユーザーがアイコンを選択することができるとしても、構成要件2−Gを充足する。
(被告の主張)
(1) 構成要件2−Gの「所定のパターン」の意義
 特許請求の範囲中の「所定」という用語は、「定まっていること。定めてあること。」(広辞苑第5版)という意義を一般に有するものである。また、「パターン」という用語は、「型。類型。様式。」(広辞苑第5版)という意義を一般に有するものである。このような用語の通常の意義にかんがみれば、「所定のパターン」とは、あらかじめ定められた類型をいう。
 そして、「所定のパターン」の意義につき、本件明細書2の記載(段落【0015】、【0017】)にかんがみれば、1つの施設に対してそれぞれ1つの経度及び緯度データと地点表示パターンデータがあらかじめ組になって記憶されていることは明らかであるから、「所定」のパターンとは、あらかじめ施設ごとに定められた地図表示パターンをいうと解される。また、所定の「パターン」とは、「地点表示パターンデータDn が示す表示パターン」をいい、「例えば、レストランならば、表示パターン「R」が、ホテルならば表示パターン「H」」を意味すること(段落【0017】)から、施設の属性に応じた文字又は記号の類型をいうと解される。
 したがって、「所定のパターン」とは、あらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに1対1に定められた文字又は記号の類型をいうと解される。なお、本件明細書2には、表示パターンにつき、ユーザーが表示パターンを任意に選択することに関する記載はないこと及び「必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」という本件特許発明2の効果からも、前記要件をこのように解釈することは相当である。
(2) 被告サーバーの構成要件2−Gの充足性
 これに対して、被告サービスでは、地点登録をする際に地図に表示させる記号はあらかじめ定められておらず、ユーザーが任意にアイコンを選択することにより、当該アイコンが表示され、地図上の地点をあらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに定められた文字又は記号の類型により地図に重畳して前記表示器に表示させるものではない。ピンクの星印も、画面3−Oにおいて、選択可能な複数のアイコンの中から「★(設定しない)」のアイコンをユーザーが選択することにより表示されるアイコンである。
 よって、被告サーバーは、地図上の地点を「所定のパターンにより」地図に重畳して前記表示器に表示させる(構成要件2−G)という要件を充足しない。
10 争点(2)オ(本件特許発明2と被告装置との作用効果の相違)について
(原告の主張)
 本件明細書2の従来技術に関する記載(段落【0004】)、発明の目的に関する記載(段落【0005】)及び発明の効果に関する記載(段落【0019】)からすれば、本件特許発明2は、従来技術のように、ユーザ地点登録の際に、いちいちサービス施設の地図上の位置を覚えておいて、その地図上の位置を探し出して指定するという非常に面倒な操作を行う必要がなく、サービス施設に関する座標データや表示データを第1記憶手段に記憶しておき、そのうち1つのサービス施設についてユーザ地点登録をするように指定をすると、当該サービス施設の地点の座標データを第1記憶手段から読み出して第2記憶手段に記憶するので、簡単な操作でユーザ地点登録を行うことができるというものである。
 そして、被告装置でも全く同じ作用効果が達成されている。
(被告の主張)
(1) 本件明細書2の記載(段落【0003】、【0019】)によれば、本件特許発明2は、ユーザーが施設を地点登録する際に表示パターンを選択しなくても、当該施設は、施設の属性に応じた文字又は記号が地図に重畳して表示器に表示されるというものであり、これにより「簡単な操作でユーザ地点登録をすることができ」、かつ、「表示された地図上においてレストランやホテル等のユーザ各々で必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」という作用効果を奏するというものである。
 原告は、本件明細書2中の本件特許発明2の目的の記載を挙げるが、目的と効果とは異なり、目的いかんにかかわらず、本件特許発明2は、その作用効果を実現することができる構成となっているはずである。
(2) これに対し、被告サービスにおいては、あらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに定められたアイコンはなく、施設を地点登録する際にユーザーが表示パターンを選択することが求められる。このようにしてユーザーにより任意に選択されたアイコンは、必ずしも施設の属性に対応するわけではない。特に、ユーザーが「設定をしない」を選択した場合にピンク色の星印が表示され、このような表示が地図上にされていても、ユーザーは地図上から必要なサービス施設を確認することができない。
 したがって、被告サービスは、本件特許発明2の作用効果を奏しない。
11 本件特許発明1及び2の構成要件充足性についての小括
(原告の主張)
 以上のとおり、被告装置は、構成要件1−Aないし1−F及び2−Aないし2−Hのすべてを充足するから、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
(1) 被告サーバーは、構成要件1−Aないし1−Fのすべてを充足せず、また本件特許発明1の作用効果を奏しないから、本件特許発明1の技術的範囲に属さない。なお、被告サーバーと本件携帯端末とを合わせても、すべての構成要件を充足しない。
 よって、被告による被告サービスの提供は、本件特許権1を侵害しない。
(2) また、被告サーバーは、構成要件2−Aないし2−E、2−G及び2−Hを充足せず、また本件特許発明2の作用効果を奏しないことから、本件特許発明2の技術的範囲に属さない。なお、被告サーバーと本件携帯端末とを合わせても、少なくとも構成要件2−Aないし2−C、2−E、2−G及び2−Hを充足しない。
 よって、被告による被告サービスの提供は、本件特許権2を侵害しない。
12 争点(3)(被告装置の使用による本件各特許発明の実施の有無)について
(原告の主張)
(1) 被告による被告装置の使用
 被告は、以下に述べるとおり、被告サービスの利用者である本件携帯端末のユーザーに、本件携帯端末を操作させることにより、被告装置を使用して、本件各特許発明を実施し、本件各特許権を侵害している。
ア(ア) 被告及びKDDIによる被告サービスの提供及びユーザーによる被告サービスの利用は、被告が開発したサーバー用プログラムを含む被告が管理・運営する被告サーバーに依存しており、被告サーバーによる情報処理及びデータ送受信によって、初めて被告サービスの提供及び利用が可能となる。
 そして、被告サーバーは、カーナビ用経路探索を行う経路探索エンジン、道路網データ、地図描画データ等を有しており、被告サーバー側で作成された地図描画データ等が本件携帯端末に転送される。また、本件携帯端末には、被告が開発して譲渡等している本件携帯端末用プログラムがインストールされている。この本件携帯端末用プログラムは、被告サーバーで作成された地図描画データを本件携帯端末のディスプレイに表示するための地図レンダリングエンジンを含むアプリケーションであり、被告装置に係るシステムの一部として機能する。
 被告サーバーから転送されたルート探索情報や地図描画データ等は本件携帯端末用プログラムによりディスプレイに表示され、被告サービスを利用するユーザーによる本件携帯端末の操作は、すべて、このような表示に基づく所定の指示及び手順に従って行われる。ユーザーは、このような指示及び手順に従って表示された選択肢のうちから選択入力を行っているにすぎない。
(イ) これを本件特許発明1の構成要件に即していえば、被告装置のうち、構成1−b、1−c、1−d、1−eは、いずれも被告サーバーに存在し、被告がこれを管理運用している。他方で、本件携帯端末に存在するのは、構成1−a、「車両の現在地を示す現在地座標データ」(構成1−a)を被告サーバーにおいて作成する前提として必要となる車両の現在地を把握するためのGPS受信部並びに構成1−c、1−d及び1−eの各手段が実施される前提としての情報入力を行うための操作キーのみである。
 また、本件特許発明2の構成要件に即していえば、被告装置のうち、構成2−b、2−e、2−fは、いずれも被告サーバーに存在し、被告がこれを管理運営している。他方で、本件携帯端末に存在するのは、構成2−c及び構成2−gに用いられるディスプレイ並びに構成2−cにおけるカテゴリ選択情報の入力に用いられるとともに、構成2−dに用いられる操作キーのみである。
イ 特許法上、「使用」(2条3項1号)とは、発明の目的を達するような方法で当該物を用いることを指すところ、前記アのとおり、被告は、被告サービスの提供に当たり、被告装置の主要部分である被告サーバーを、本件各特許発明の目的を達するような方法で用いているから、被告は、被告装置の主要部分を使用しているということができる。しかも、被告は、被告サーバーによる情報処理と、被告サーバーから送信される表示データ及び本件携帯端末用プログラムとの協働によって、ユーザーをして本件携帯端末を操作させている。これらのことからすれば、被告が使用するサーバー及び被告がユーザーに操作させている本件携帯端末を含む被告装置は、実質的にみれば、被告が業としてこれを使用しているものである。
 したがって、被告が被告装置を使用する行為は、本件各特許発明を実施するものであり、本件各特許権の侵害にあたる。
 この結論は、後記(2)のとおり、理論的にも首肯することができる。
(2) 支配管理型の特許権侵害の成立について
ア 侵害を認めるべき理由及びその要件
(ア) 特許法上の侵害行為者が誰であるかは、規範的、実質的にみて、法律上の侵害者として責任を負うべき主体と評価すべき者が誰であるかという法的観点から決するべきである。また、規範的、実質的にみれば、発明の実施が行われているにもかかわらず、実施行為の一部が他人により行われていることをもって特許権の侵害が認められなくなるのでは、容易に特許権の侵害の責任を回避することができることになり、特許権の保護を骨抜きにすることになる。
 このような観点からすれば、被疑侵害物件の一部が他人によって操作されている場合、少なくとも、(a)当該行為全体を支配管理する立場、すなわち、(a-1)当該他人による行為が行われることが確実であることを予見し得るとともに、(a-2)自らそれを停止させることができる立場にあり、かつ、(b)当該他人による行為によって営業上の利益を得ている者については、当該他人による行為を自己の行為と評価することができるというべきである。
(イ) また、前記(ア)の規範のほか、次のような規範も成り立つ。
 すなわち、手足として他人を利用しているといえるためには、まず、手足となる者を支配・管理していることが必要であり、また、手足とされる者の行為により、支配している者に何らかの営業上の利益が発生することが必要となる。どのような場合に支配・管理が認められるかについては、誰を法的に当該行為の主体とみることが妥当かという問題であり、具体的ケースごとに判断せざるを得ない。一般的にいえば、支配されている人の行為を事実上コントロールしていることが必要であり、そのメルクマールとしては、支配している者がいつでも遮断又は回収できるということ、結果回避可能性・侵害阻止可能性があるということ、ユーザーの行為が当初から予定されている一定の範囲内であること、装置等の提供者とユーザーの行為とが一体となって初めて完結するものであること等を挙げることができる。
(ウ) 被告は、規範的評価・解釈は、極めて例外的な場合にのみ許容される手法であると主張する。
 しかしながら、社会・経済情勢が刻々と変化する中、すべての事象をあらかじめ想定して法律に規定することは不可能であり、個別のケースにおける具体的結果の妥当性を確保するために、裁判所による規範的な判断が行われて然るべきである。そして、特許法においては、侵害行為が単独でなされなければならないとは規定されていないことからしても、「実施」の解釈を規範的に行うことが許容されるべきである。
イ 被告装置について
(ア) 前記ア(ア)の規範について
 本件において、(a-1) 被告は、被告サービス専用の被告サーバーを開発・製造するとともに、同サービス専用の本件携帯端末用プログラムを開発し、KDDIに同プログラムを譲渡等し、同プログラムがインストールされた本件携帯端末をユーザーに操作させることにより、ユーザーに被告サービスを提供している。
 そして、前記(1)アのとおり、被告は、自らが開発・製造した被告サービス専用の本件サーバーと、被告サービス専用の本件携帯端末用プログラムとを協働させることによって、ユーザーが本件携帯端末をナビゲーション装置として操作することができるようにしている。このようなユーザーによる本件携帯端末の操作は、まさに、被告が開発・製造した被告サービスが予定するところであり、被告が被告サービスの提供を開始した時点において、被告は、このようなユーザーの行為が行われることが確実であることを予見し得たといえる。
 また、(a-2) 被告が被告サーバーを停止するか、又は、本件携帯端末からの被告サーバーへの接続を禁止することで、このようなユーザーの行為を停止させることができる。
 したがって、被告は、ユーザーによる本件携帯端末の操作を支配管理する立場にあると評価することができる。
 さらに、(b)被告は、ユーザーが本件携帯端末を操作して被告サービスの提供を受けることによって、営業上の利益(ユーザーがKDDIに支払う利用料の一部の支払を受けること)を得ている。
(イ) 前記ア(イ)の規範について
 被告は、被告サービスのプログラムを開発し、被告サービスの管理運営をしており、ユーザーから入力があれば当該装置を使用することができるという状況にある。被告は、ユーザーに対して細かな指示は出しておらず、ユーザーは自己の意思で行く先を決めてその旨の入力をして検索している。しかしながら、被告装置は、ユーザーが本件携帯端末を購入しただけでは何の意味もなく、被告による情報処理とデータの送受信があって初めて稼働する。そして、システム全体からみれば、ユーザーの行為は当然に予定されている行為にすぎず、しかもユーザーの検索行為は常に被告の運営している被告サーバーと協働して当該装置の予定している結果を出すことができ、被告が被告サーバーを停止すれば、ユーザーの行為はいつでも遮断される。その上、ユーザーの行為は、システム全体からみれば、本件携帯端末を操作するというごく些細な一部にすぎず、被告装置の大半は被告が運営しているのであるから、システムを実質的に支配しているのは被告であるということができる。
 したがって、システム全体からみれば、被告はユーザーを手足として利用しているとみることができ、被告装置を運営している被告の行為と評価することができる。
 また、本件では、被告に営業上の利益が生じている。
(ウ) 以上のとおり、ユーザーによる本件携帯端末の操作は、法的には、被告による使用と評価することができる。そして、被告は、被告装置の主要部分である被告サーバーを自ら使用しており、これらの行為があいまって、被告が被告装置を使用しているということができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本件各特許発明は、車両に搭載する一体的な装置に関する発明であり、同一時には一人が使用することが予定されており、複数の当事者が使用に関与することを予定した発明ではないと主張する。
 しかしながら、本件各特許発明は、単一の物でなければならないことも、単一の主体によって使用されなければならないことも、要求していないから、被告が主張する限定解釈を行う理由はない。また、本件各特許発明の出願日時点において、カーナビゲーション装置は、GPSに用いられる衛星に代表されるような外部のリソースを利用する装置であることが知られており、当該時点における技術水準を前提とした場合、当業者からすれば、カーナビゲーション装置が複数の物に分けられることは周知であった。
イ 被告は、多数のユーザーは、自らの意思で本件携帯端末を操作する等して、本件携帯端末にデータを表示させていると主張する。
 しかしながら、前記?のとおり、「支配管理」しているというために、「意思的に支配すること」は必要でないことから、ユーザーが被告サービスを利用することを欲し、自らの意思で本件携帯端末を操作しても、特許法上は、当該操作をもって被告の使用と評価することができる。
ウ また、被告は、被告装置のユーザーが当該装置に用意された操作しかできないことはいかなる装置でも同じであり、これをもって、被告がユーザーの行為を支配管理しているということはできないと主張する。
 しかしながら、本件において、ユーザーが購入する本件携帯端末は、被告装置の一部を構成するにすぎず、被告が被告装置の主要部分を構成する被告サーバーを使用することによって、初めて本件携帯端末への表示情報の提供が可能になるのであるから、被告が被告サーバーの使用を停止し、又は、本件携帯端末から被告サーバーへの接続を禁止することによって、侵害行為を直ちに停止することができる。
 したがって、被告の前記主張は、本件における被告装置の構成とその利用主体を無視したものである。
エ さらに、被告は、物の発明において、独立する複数の物を一体として1つの物(装置)と評価して、その技術的範囲に属すると判断することは、原則として許されない等と主張する。
 しかしながら、発明の対象である「物」が特許請求の範囲において単一の物として規定されていない限り、独立する複数の物から成り、かつ、そのうちの一部が別人に帰属するとしても、それら複数の物が一体の装置として機能する以上、装置全体を1つの被疑侵害物件とみなすことができるのは当然の理であるから、被告の前記主張は、理由がない。
オ 被告は、被告サービスが、車載ナビゲーション装置の機能をサーバーと携帯端末に適当に割り振り、別々の管理下に置いたというものとは全く異なる等と主張するが、本件各特許発明との対比における被告システムの特徴と、本件各特許発明を離れた製品市場における被告サービスの特徴とを混同した主張である。
(被告の主張)
(1) 本件各特許発明は、いずれも「車載ナビゲーション装置」に関する発明であり、その特許請求の範囲及び明細書の記載からも、車両に搭載する一体的な装置に関する発明であって、また、その装置の使用も同一時には一人が使用することが予定されており、複数の当事者が使用に関与することを予定した発明ではないことは明らかである。
 これに対し、本件携帯端末は、通常の携帯電話端末器であり、極めて多数のユーザーが所有又は所持しこれを操作するものであり、被告が所有、管理、運営するものではない。また、本件携帯端末は、被告サーバーとは異なる場所に所在し、被告サーバーとデータをやりとりするだけのものであって、被告サーバーに対し百万個レベルの携帯電話端末がアクセス可能である。このような事実関係の下において、多数の本件携帯端末と被告サーバーとを併せて「被告装置」とし、全体として1個の「ナビゲーション装置」であるとすることは、妥当性を欠く。
(2) 原告は、被告とユーザーという複数の関与者全員の行為を、被告がサーバーを物理的に管理支配しているから被告の行為であると評価し、被告による直接侵害が成立すると主張する。
ア しかしながら、規範的評価・解釈は、形式的には、当該権利保護のための要件を充足しないが、当該権利の根拠となる法規・規定の立法目的を考慮して、明らかな潜脱的な行為から権利者を保護するものであるから、立法的救済を待つことができない場合等の極めて例外的場合にのみ許される裁判所の評価・解釈の手法であって、当該法規の立法目的等を検討して、また、個別・具体的に妥当性を検討しなればならないものである。
 そして、特許権の侵害の有無の判断における規範的評価・解釈とは、間接侵害にも該当せず、かつ、当該個別・具体的事例において、例外的に特許請求の範囲の記載からの乖離及び実施概念からの乖離を認めることが法目的に合致すると評価するものであり、極めて例外的な法的評価・解釈を意味するものである。したがって、直接侵害の判断基準のみならず、間接侵害による救済も法に明記されている特許権侵害の判断における規範的評価・解釈は、当該特許発明の特許請求の範囲の記載等の発明の内容によって、個別・具体的に、かつ、慎重に判断されるべきものである。
イ これに対し、原告の主張は、被告の履行補助者でもない独立した複数関与者の行為につき、被告サーバーの使用を停止すれば本件携帯端末が使用できなくなるという物理的な関係から、被告がすべての行為要素を管理支配していると主張するものであって、法律上の根拠も合理性もない。
 そして、本件各特許発明は「車載ナビゲーション装置」であり、その使用は運転者等の乗車者が行うものであって、その使用について製造者を含む複数の関与者の行為を予定していないものであるから、複数関与者の行為の管理支配という議論をすること自体が許されない。また、仮に、発明自体が複数関与者の行為分担を予定している事例においても、「サーバーを停止すれば携帯端末が使用できない」という物理的な関係でのみ管理支配があるという法的な評価が認められるものでもない。
ウ 従来の裁判例においても、他人の行為を支配・監督する者であるとして権利の直接侵害であると肯定されたのは、「請負」又は「下請」関係にある場合に限られており、他人の行為を支配・監督者の一機関又は手足にすぎないと評価するための条件は極めて慎重に検討されてきた(最高裁判所昭和49年12月24日判決、同昭和50年1月28日判決)。また、構成要件の記載を離れて支払管理型の直接侵害を認めた裁判例もない。
 本件においても、多数のユーザーは、自らの意思で本件携帯端末を操作し、被告サーバーに指示してデータを送信させ、本件携帯端末にデータを表示させるのであり、被告が、ユーザーに本件携帯端末を操作させているものではない。また、装置のユーザーが装置に用意された操作しかできないことは、いかなる装置でも同じであるから、被告サービスのユーザーによる本件携帯端末の操作がディスプレイの表示に基づく所定の指示及び手順に従って行われるものであるとしても、そのことによって、被告がユーザー又はユーザーの行為を支配し、管理しているということはできない。
(3)ア そもそも、物の発明において、独立する複数の物を一体として1つの物(装置)と評価してその技術的範囲に属すると判断することは、原則として許されない。特に、構成要件の一部が第三者の所有・使用に係る物において具備されていると主張しつつ、当該第三者の所有・使用に係る物と他の者の使用に係る物を合わせて1個の物と評価して特許権の侵害であると主張することは、当該第三者が履行補助者と評価される場合又は特許請求の範囲に複数の主体が関与することを前提とする明確な記載がある場合を除き、許されない。仮に、原告の主張のように、第三者の所有・使用に係る物を被告の使用に係る物と合わせて物の特許権の侵害が認められることになれば、特許発明の技術的範囲が際限なく拡張するおそれがある。また、そのように拡大解釈が許されるとすれば、発明の特定、クレームの役割、実施概念、間接侵害の概念が無意味になるおそれが極めて大きい。
イ また、装置のような物の発明における「使用」の概念(特許法2条3項1号)には、複数人による使用が並存することは考えられない。すなわち、物の発明の場合には、当該物の製造及び譲渡により当該特許からのコストの回収と利益の取得が完了し、その後の物の使用は、譲渡により所有権を取得した者がその権限内で行うものであって、当初の譲渡により特許権が消尽しており、特許権侵害は問題となり得ない。また、物の使用と占有は同一人によってなされ、複数主体が同一時に同一物を使用することは、物の発明の実施の法的な概念からも、社会通念からも、考えられない。
 したがって、物の発明については、物を製造する方法の発明や複数主体を予定したシステムの発明について議論されている管理支配型の直接侵害、共同直接侵害、間接侵害を適用することができないものである。
ウ 原告の主張は、特許請求の範囲の記載を無視して、本件各特許発明がサーバーとクライアントを構成要件にしたネットワーク利用の発明であるかのように主張し、また、特許発明の構成要件該当性を検討する前に、被告サーバーの保有者である被告と本件携帯端末のユーザーとの間に支配管理関係があるということのみで、被告の行為を本件各特許権の直接侵害と主張しているものであり、論理を逆転させたものである。
(4) 被告が被告サービスを提供するに当たり、CPU、記憶装置並びにこれに記憶される各種プログラム及びデータを被告サーバーに設けたのは、これらを被告の管理下に置くことにより、車載カーナビゲーション装置にはない多大なメリット・利点があるからであって、単に、車載ナビゲーション装置の機能を分離し、サーバーと携帯端末に機能を適当に割り振り、これらを別々の管理下に置いたというものとは全く異なる。
 このような被告サービスを一個の独立型車載ナビゲーション装置のカテゴリーと同等のものと解することは、被告サービスの本質を看過するものである。仮に、原告の主張のように、被告サーバーと本件携帯端末を一体として車載ナビゲーション装置と解するのであれば、むしろ、車載ナビゲーション装置と同様、車上において、本件携帯端末を操作し、被告サーバーに指示を与え、ナビゲーション機能を利用するユーザーが使用者とされるべきである。
13 争点(4)(被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害の成否)について
(原告の主張)
 被告、KDDI及び本件携帯端末の製造業者は、共同して、被告装置を生産しており、被告装置の生産につき本件各特許権の共同直接侵害が成立する。
(1) 共同直接侵害が認められる理由及びその要件
ア 一人一人の行為が特許発明の構成要件全部を実施するわけではないが、全員の行為を併せると全部を実施することになる場合において、各行為者が主観的に共同しており、かつ、客観的に行為を分担している場合は、共同で特許権を侵害していると評価することができる(共同直接侵害。大阪地判昭和36年5月4日下民集12巻5号937頁等)。
 また、単独の行為者による特許権侵害の場合には、差止請求については特許権の存在又はその侵害を認識している必要はなく、また、損害賠償請求についても過失が推定される(特許法103条)から、共同直接侵害においても、実施行為に相当する行為全体についての認識があれば足り、特許権の存在又はその侵害を認識している必要はないと解すべきである。
イ また、前記アの規範のほか、次のような規範も成り立つ。
 共同直接侵害が成立するためには、主観的に共同してある1つの侵害行為を行うことが必要と考えられるが、そのためには、共同して生産する意思(当該発明を実施しているという認識)があり、結果として特許権侵害が生じれば十分である。
(2) 本件における生産による共同直接侵害の成立について
ア 前記(1)アの規範について
(ア) 被告は、被告サーバーを開発・製造した上で、同サーバーを運営管理しており、同サーバーは、ユーザーの保有する本件携帯端末に対して被告サービスを行うための情報を提供している。また、被告は、KDDIに対し、本件携帯端末用プログラムを提供し、KDDIは、本件携帯端末の製造業者に同プログラムを提供している。本件携帯端末の製造業者は、同プログラムを本件携帯端末にプリインストールし、本件携帯端末を製造している。さらに、本件携帯端末の製造業者は、当該携帯端末をKDDIに販売し、KDDIは、これを販売店等を通じてユーザーに販売している。被告及びKDDIは、被告サービスを自己のサービスとしてユーザーに提供し(甲3の1、2)、ユーザーは本件携帯端末を操作して被告サービスの提供を受けることができる。
 以上のことからすれば、被告、KDDI及び本件携帯端末の製造業者は、被告サーバー及び本件携帯端末用プログラムがインストールされた本件携帯端末から成る被告装置を共同して生産しているということができる(客観的な行為の分担)。
(イ) また、被告及びKDDIは、被告サービスの実施を企図し、本件携帯端末の製造業者をして本件携帯端末用プログラムがインストールされた本件携帯端末を製造させており、また、当該製造業者は、同プログラムと被告サーバーとが協働することにより被告サービスの提供が可能となることを了知した上で、本件携帯端末を製造しているから、被告、KDDI及び当該製造業者は、いずれも被告装置の生産に係る行為全体についての認識を有しているということができる(主観的な共同)。
イ 前記(1)イの規範について
 被告、KDDI及び本件携帯端末の製造業者は、いずれも被告サービスにおいて機能させることを前提に、被告においては被告サーバー及び本件携帯端末用プログラムの開発・製造並びに同プログラムのKDDIへの提供を、KDDIにおいては同プログラムの当該製造業者への提供を、当該製造業者においては同プログラムの複製及び本件携帯端末へのインストール並びに本件携帯端末の製造等を、それぞれ行っているから、被告らには、被告装置を共同して生産する意思があるものと認められる。
ウ 以上のとおりであるから、被告装置が本件各特許発明の技術的範囲に属する場合には、被告らは、被告装置の生産について、本件各特許権の共同直接侵害の責めを負う。
(被告の主張)
 原告は、被告単独の直接侵害及び間接侵害に加えて、共同直接侵害が成立すると主張するが、被告の同一の行為を3種類の侵害態様として主張すること自体、矛盾した主張である。そもそも、被告とKDDI又はユーザーの行為を併せても、本件各特許発明の構成要件を具備するに至らないから、共同直接侵害に関する原告の主張も根拠を有しない。
14 争点(5)(本件携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害の成否)について
(原告の主張)
(1) 被告は、本件携帯端末のメーカーに対し、本件携帯端末用プログラムを譲渡等しているところ、本件携帯端末用プログラムは、被告装置の生産にのみ使用するものである。また、本件携帯端末用プログラムは、被告装置の課題の解決に不可欠なものであり、被告は、本件携帯端末用プログラムが被告装置の生産に用いられること及び本件各特許権が存在することを知っている。
 そして、被告は、自ら被告装置を使用し、又はKDDI及び本件携帯端末の製造業者と共同して被告装置を生産して、本件各特許権の直接侵害を行っていることは、前記12及び13のとおりであるから、被告が、本件携帯端末のメーカーに対し、本件携帯端末用プログラムを譲渡、提供する行為は、本件各特許権の間接侵害に当たる(特許法101条1号、2号)。
(2)ア 仮に、被告が本件携帯端末用プログラムを無償で提供しているとしても、これを譲渡等していることに変わりはない。また、被告は、KDDIから本件携帯端末のメーカーに同プログラムが提供されることを前提に、これをKDDIに譲渡等している以上、被告は、KDDIと共同で、本件携帯端末のメーカーに対して、同プログラムを譲渡等しているといえる。
イ また、仮に、被告ではなくユーザーが被告装置を使用していると解釈したとしても、直接侵害に相当する行為が業として行われていなくても間接侵害の成立は否定されないというべきであるから、被告が本件携帯端末用プログラムを譲渡等する行為は、間接侵害を構成する。
(被告の主張)
(1) 被告は、KDDIに対して、プリインストール用の本件携帯端末用プログラムを無償で提供しているにとどまり、本件携帯端末のメーカーに同プログラムを譲渡していない。
(2) 原告は、本件携帯端末用プログラムを譲渡する行為は、譲渡先が端末機器メーカーであれKDDIであれ、特許法101条1号及び2号の間接侵害に該当すると主張して、その譲渡等の禁止等を請求している。
 しかしながら、本件において直接侵害を観念することができないことは、前記のとおりであるから、本件携帯端末用プログラムのみを取り上げて間接侵害を主張することも、また許されない。
(3) また、原告は、直接侵害に相当する行為が業として行われていなくても間接侵害の成立は否定されないと主張するが、本件においては、ユーザーが業として特許発明を実施していないのではなく、被告の行為とユーザーの行為とを組み合わせても、本件各特許発明の構成要件を具備するに至らないから、間接侵害を構成しない。
(4) よって、原告の間接侵害の主張は、理由がない。
15 争点(6)ア(乙1文献に基づく本件特許発明1の進歩性の欠如の有無)について
(被告の主張)
(1) 乙1文献に開示されている発明
ア 本件特許1の出願日前に頒布された刊行物である乙1文献(昭和60年11月16日公開)には、以下の発明(以下「乙1発明」という。)が記載されている。
a 目的地を設定しその設定した目的地及び車両の現在位置をそれぞれ対応するマークで表示するようにした車載ナビゲーション装置であって、
b 地点設定手段にて設定された目的地点を複数記憶する設定地点記憶手段と、
c 「設定」キーの操作により目的地を設定するごとに、前記設定地点記憶手段の指定されたメモリー位置に座標を含む目的地の地点情報を書き込む手段と、
d 目的地を設定する際に、「選択」、「1」、「セット」等のキー操作により前記設定地点記憶手段に記憶された目的地の座標データを読み出す手段と、
e 記憶された目的地の座標のうちから、前記操作により1の目的地の座標データを操作に応じて選択し、目的地を設定する手段を有することを特徴とする
f 車載ナビゲーションシステム。
イ 乙1発明の内容についての原告の主張について
(ア) 原告は、乙1発明は、「過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる」ようにするという課題を解決する本件特許発明1とは全く異なると主張する。
 しかしながら、乙1文献には、目的地点(及び出発地点)として「複数設定して記憶」したものから、「各地点の地名をその都度入力」することなく「番号を数字キーで入力するだけ」という簡単な操作で目的地点と出発地点を設定し、ナビゲーションを開始することが明示されている(乙1、7頁左上欄12行〜19行)。したがって、原告が主張する本件特許発明1の課題に直接的に対応する効果が明確に記載されている。
(イ) 乙1発明の構成d及びeについて
a 原告は、構成要件1−Dにいう「目的地の設定」と構成要件1−Cにいう「目的地が設定」とは同じ操作を指すものでなければならないとの解釈を前提として、乙1発明には、構成要件1−D及び1−Eに対応する構成d及びeが開示されていないと主張する。
 しかしながら、構成要件1−C及び1−Dには、どのような操作によって目的地の設定がされるのかについての記載はない。また、原告が主張する本件特許発明1の課題を解決する上でも、操作が同じかどうかということは何ら関係がない。
 したがって、構成要件1−Cの「目的地が設定」と構成要件1−Dの「目的地の設定」が、同じ操作で行われる必要はない。
b また、原告は、乙1発明の構成dにおける「「選択」、「1」、「セット」等のキー操作」は、構成cにおける「「設定」キーの操作」とは異なると主張する。
 しかしながら、「「選択」、「1」、「セット」等のキー操作」で目的地の情報の読出しと設定が行われるのであるから、乙1文献には、構成要件1−Dに対応する構成dが明確に記載されている。
 なお、本件特許発明1は「目的地」の座標データに関するものであるのに対し、乙1発明は「目的地点」と「出発地点」の地点情報を組として記憶するものであるが、乙1発明における「目的地点」と「出発地点」の組という概念は、「目的地点」という概念に対して「出発地点」という概念を組み合わせたものであって、「目的地点」の下位概念に相当する。したがって、乙1発明の構成を「目的地点」の地点情報を記憶するものという上位概念で特定することができる。
c さらに、原告は、構成要件1−Eにいう「目的地を設定」、「目的地座標データ」及び「読み出された目的地座標データ」は、それぞれ構成要件1−Cにいう「目的地が設定」、「目的地座標データ」、構成要件1−Dで読み出された目的地座標データでなければならないとの解釈を前提として、乙1文献には、構成要件1−Dの読出手段が記載されていないから、構成要件1−Eも記載されていないと主張する。
 しかしながら、構成要件1−Dの読出手段が記載されていることは、前記bのとおりであるから、乙1文献には、構成要件1−Eに対応する構成eが記載されている。
(2) 本件特許発明1と乙1発明との対比
ア 一致点
 乙1発明の構成a、b、d及びfは、それぞれ、本件特許発明1の構成要件1−A、1−B、1−D及び1−Fに相当する。
 乙1発明の構成cは、本件特許発明1の構成要件1−Cと、「目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの1つの記憶位置に書き込む手段」を有する点において一致する。
 また、乙1発明の構成eは、本件特許発明1の構成要件1−Eのうち、「目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段」を有する点において一致する。
イ 相違点
 本件特許発明1と乙1発明は、以下の点で相違する。
 相違点1:本件特許発明1の構成要件1−Cは、「前記メモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置」に書き込むのに対し、乙1発明の構成cは、ユーザーの選択した記憶位置に書き込む点。
 相違点2:本件特許発明1の構成要件1−Eは、「読み出された目的地座標データのうちから」1の目的地座標データを選択するのに対し、乙1発明の構成eは、目的地を記憶したメモリ位置を指定することにより目的地座標データを選択する点。
ウ 作用効果について
 本件特許発明1及び乙1発明は、いずれも、過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作だけで済むので、目的地を容易に設定することができるという作用効果を奏する。
(3) 相違点についての容易想到性
ア 相違点1について
(ア) 複数の記憶位置を有するメモリに複数のデータを順次記憶させるときに、ユーザーが指定した記憶位置に記憶させるか、少なくとも前回の記憶位置とは異なる位置に自動的に記憶させるかは、当業者がデータを記憶させる際に適宜設定し得る設計事項又は周知技術である(例えば、特開平2−61767号公報(乙2。以下「乙2文献」という。))。
 したがって、相違点1は、周知技術等から当業者が容易に想到できる事項にすぎない。
(イ) 原告の主張について
a 原告は、構成要件1−Cと構成要件1−D及び1−Eとは密接に関係するから、構成要件1−D及び1−Eを欠く乙1発明において、構成要件1−Cを容易に想到し得るということはできないと主張する。しかしながら、乙1発明が構成要件1−D及び1−Eに対応する構成d及びeを有することは、前記(1)のとおりである。
b また、原告は、乙1発明においては、過去の出発地及び目的地の座標情報を再度利用できるように記憶させておく必要はないと主張する。
 しかしながら、乙1文献には、その効果である「番号を数字キーで入力するだけ」で目的地点と出発地点を設定することができるようにするため、出発地点と目的地点の組として入力された地点情報を記憶することが記載されている。
c さらに、原告は、乙2文献には、検索履歴情報につき、最も古い情報に上書きされることが記載されているだけであると主張する。
 しかしながら、乙2文献には、10文書については、少なくとも前回の記憶位置とは異なる位置に検索履歴情報を記憶させることが記載されている。
イ 相違点2について
(ア) 記憶された複数のデータの中から1つのデータをユーザーに選択させるに当たり、記憶されている内容をいったん読み出し、その中からユーザーに選択させることは、当業者がデータを読み出させる際に適宜設定し得る設計事項又は周知技術である(例えば、特開昭62−293117号公報(乙3。以下「乙3文献」という。))。
 したがって、相違点2は、当業者が目的に応じて適宜設定し得る設計事項又は周知技術等から容易に想到できる事項にすぎない。
(イ) 原告の主張について
 原告は、乙3文献には、目的地として設定した情報を呼び出し、再度目的地として設定することについての記載はされていないと主張する。
 しかしながら、このような構成は、乙1発明の構成d及びeとして乙1文献に開示されている。そして、乙1文献の開示を補完するために必要とされる「周知技術」とは、前記(ア)の内容であり、乙3文献には、出発地又は目的地を設定するに当たり、当該地点座標を読み出し、これを画面に表示し、ユーザーがその地点を確認した後に「入力」キーを押すことにより、当該地点を出発地又は目的地として選択し、設定することが記載されている(乙3、4頁右上欄15行〜左下欄末行、第10図)。
 したがって、原告の主張は、理由がない。
(4) 小括
 よって、本件特許発明1は乙1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであり、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、本件特許権1に基づく権利行使は許されない。
(原告の主張)
(1) 乙1文献に開示されている内容について
ア 乙1発明は、記憶容量を減らすために、出発地点と目的地点に関する最小限の情報のみを記憶手段に記憶させてこれを表示手段にマーク表示させるという発明でしかなく(乙1、2頁左上欄6行〜右上欄5行及び同欄7行〜15行)、「過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる」ようにするという課題を解決する本件特許発明1とは全く異なる発明である。
 また、乙1発明においては、出発地点と目的地点の組の設定は、その都度、逐一入力、設定しなければならないようになっており(乙1、4頁右上欄17行〜5頁右上欄8行)、いったん入力、設定した出発地点と目的地点の組の情報を利用して出発地点と目的地点の組の入力、設定を行うことはできない。
 このような乙1発明の内容からすると、乙1発明と本件特許発明1とは、全く異なる発明であるが、あえて本件特許発明1になぞらえて、乙1発明を記載すると以下のとおりとなる。
a 出発地点と目的地点の組を設定し、その設定した出発地点と目的地点の地点情報と車両の現在位置の情報に基づいて、出発地点、目的地点、車両の現在位置のマークを表示画面に示すようにした、車載ナビゲーション装置であって、
b 出発地点と目的地点の組の地点情報を記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、
c 出発地点と目的地点の組を設定する際に、出発地点と目的地点の地点情報を前記メモリに書き込む手段を含む
f 車載ナビゲーション装置。
イ 被告が主張する乙1発明の構成d及びeについて
(ア) 構成要件1−Dにいう「目的地の設定」及び「前記メモリに記憶された目的地座標データ」とは、いずれも構成要件1−Cにいう「目的地が設定」及び「目的地座標データ」でなければならず、両者における「目的地の設定」は同じ操作を指すものでなければならない。
 これに対し、被告は、「「選択」、「1」、「セット」等のキー操作」が「目的地の設定」に該当するとするが、これらの操作は、設定した出発地点と目的地点の組を呼び出して単に表示する処理における読出しでしかなく、被告が構成cにおいて「目的地が設定」に対応するとした「「設定」キーの操作」とは異なっている。
 したがって、乙1文献には、構成要件1−Dに対応する構成は記載されてない。
(イ) また、構成要件1−Eにいう「目的地を設定」、「目的地座標データ」及び「読み出された目的地座標データ」は、それぞれ構成要件1−Cにいう「目的地が設定」、「目的地座標データ」、構成要件1−Dで読み出された目的地座標データでなくてはならない。そして、乙1文献には、構成要件1−Dの読出手段が記載されていないから、構成要件1−Eも記載されていないことになる。
(2) 本件特許発明1と乙1発明との相違点
 以上のことからすれば、本件特許発明1と乙1発明とは、以下の点で相違する。
 相違点1:本件特許発明1の書込手段及びメモリは、目的地が設定されるごとにその目的地を示す目的地座標データを記憶するためのメモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込み、記憶するのに対し、乙1発明の書込手段は、出発地点と目的地点の地点情報をメモリの指定された領域に書き込み記憶するだけである点(構成要件1−B及び1−Cに関係)。
 相違点2:本件特許発明1は、目的地の設定の際に、目的地座標データを記憶するためのメモリに記憶された目的地座標データを読み出す読出手段及び読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し、当該選択によって目的地を設定する手段を有するのに対し、乙1発明には、このような読出手段及び目的地設定手段が設けられていない点(構成要件1−D及び1−Eに関係)。
(3) 相違点についての非容易想到性
ア 相違点2について
(ア) 乙1文献には、既に入力、設定した出発地点と目的地点の組の情報を読み出して、過去の目的地の目的地座標データを利用して再度目的地の設定を行うことについては、何ら記載も示唆もされていない。乙1発明は、記憶容量を小さくする発明であり、出発地点と目的地点の基礎となる情報及び入力情報自体非常に小さくなっているから、出発地点と目的地点の組についてはその都度入力、設定することで十分足りている。
 このような乙1発明の前提からすると、そもそも相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たとすべき理由はない。
(イ) また、相違点2の構成について記載されている文献もない。
 なお、被告は、構成要件1−Eに関する相違点につき設計事項又は周知技術であると主張する。しかしながら、被告が主張する相違点自体が誤っている。また、被告が周知技術が記載されているとする乙3文献にも、目的地として設定した情報を呼び出し、再度目的地として設定することについての記載はされていない。
(ウ) したがって、相違点2は、当業者が容易に想到し得るものではない。
イ 相違点1について
(ア) 相違点1に係る構成要件1−Cは、記憶されていた過去の目的地の目的地座標データを選択して目的地を設定した場合であっても、その記憶位置とは異なる記憶位置に目的座標データを書き込む(構成要件1−D、1−E)ものであって、構成要件1−Cと構成要件1−D及び1−Eとは密接に関係するから、構成要件1−D及び1−Eを欠く乙1発明において、構成要件1−Cを容易に想到し得るということはできない。
(イ) 被告は、相違点1につき周知技術等から当業者が容易に想到できると主張する。しかしながら、乙1発明においては、そもそも、過去の出発地及び目的地の座標情報を再度利用できるように記憶させておく必要はないから、乙1発明において、相違点1を克服すべき理由はない。
 また、乙2文献にも、検索履歴情報につき、最大10文書の検索履歴情報を書き込むことができ、10文書を超える検索を行う場合には最も古い情報に上書きされることが記載されているだけであって、相違点1についての記載はない。
(ウ) したがって、相違点1は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(4) 小括
 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、乙1文献に基づき当業者が容易に想到し得たものということはできない。
16 争点(6)イ(乙4文献及び乙5文献に基づく本件特許発明1の進歩性の欠如の有無)について
(被告の主張)
(1) 乙4文献に開示されている発明
ア 本件特許1の出願日より前に頒布された刊行物である乙4文献(平成2年7月24日公開)には、以下の発明(以下「乙4発明」という。)が開示されている。
a 指定された出発地と目的地を基に走行ルートを設定し、走行案内を行うナビゲーション装置であって、
b 目的地を指定するデータとしての電話番号を記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、
c 短縮番号として目的地を指定するデータとして電話番号が設定されるごとにその電話番号を前記メモリのいずれかの記憶位置に書き込む手段と、
d 目的地の設定の際に前記メモリに記憶された電話番号を読み出す読出手段と、
e 記憶された電話番号のうちから1の電話番号を短縮番号により選択し前記1の電話番号の選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする
f 車載ナビゲーション装置。
イ 原告の主張について
(ア) 構成cについて
a 原告は、乙4文献には、前記アの構成cについては一切記載されておらず、また、乙4発明のナビゲーション装置の記憶部においては、電話番号の書込みはされていないと主張する。
 しかしながら、乙4文献には、目的地を特定するためのデータとして複数の地点の電話番号を登録できるのであるから、そのような電話番号を書き込むことのできる複数の領域を有するメモリ(構成b)を有することが記載されている。そして、技術常識を参酌すれば、ユーザーが電話番号で目的地を特定して短縮番号として登録する際に、そのような複数の領域のいずれかに電話番号が書き込まれることは当然であるから、乙4文献には前記アの構成cが記載されている。
 そもそも、原告は、本件特許発明1の「メモリ」と乙4文献における「一時的に記憶する記憶部」とを対比しているが、対比すべきは、乙4文献における短縮番号に対応する電話番号を記憶するための複数の記憶位置を有するメモリである。
b また、原告は、前記アの構成cは、目的地座標データに関する書込みとは何の関係もないと主張する。
 しかしながら、乙4発明は、目的地座標データを指定するための電話番号を短縮番号とともに記憶するものであるから、電話番号は目的地座標データを別の形式で表現したものにすぎない。
 なお、原告は、乙4発明において「目的地座標データ」に最も近い構成は「目的地の位置情報」であると主張するが、乙4発明は、電話番号により目的地を指定するものであって、電話番号は目的地座標データと等価なものであること等から、本件特許発明1の「目的地座標データ」に対応する乙4発明の構成は、「電話番号」である。
(イ) 構成eについて
 原告は、前記アの構成eは、メモリから読み出した過去の目的地の目的地座標データを選択することとは関係のない構成であると主張する。
 しかしながら、乙4発明においても、座標データと等価の電話番号を、複数の記憶位置を有するメモリから読み出し、選択することのできる構成を有する。
(2) 本件特許発明1と乙4発明との対比
ア 一致点
 乙4発明の構成a及びfは、本件特許発明1の構成要件1−A及び1−Fと一致する。
 乙4発明の構成bは、目的地を示す情報を記憶するための記憶位置を複数有するメモリを有する点において、構成要件1−Bと一致する。
 乙4発明の構成cは、目的地を示すデータをメモリの1つの記憶位置に書き込む手段を有する点において、構成要件1−Cと一致する。
 乙4発明の構成dは、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地を示すデータを読み出す読出手段を有する点において、構成要件1−Dと一致する。
 乙4発明の構成eは、記憶された目的地を示すデータのうちから1の目的地を示すデータを選択し前記1の目的地を示すデータの選択によって目的地を設定する手段を有する点において、構成要件1−Eと一致する。
イ 相違点
 本件特許発明1と乙4発明とは、以下の点で相違する。
 相違点1:メモリに記憶し、読み出すデータが、本件特許発明1においては目的地座標データ(構成要件1−B、1−C、1−D)であるのに対し、乙4発明では目的地を指定するデータとしての電話番号である点。
 相違点2:目的地を示すデータをメモリの1つの記憶位置に書き込むタイミング及び書込位置が、本件特許発明1においては、目的地が設定されるごとに、前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む(構成要件1−C)のに対し、乙4発明においては、短縮番号が設定されるごとに書き込み、また、記憶位置については記載がない点。
 相違点3:ユーザーに目的地を選択させるに当たり、本件特許発明1においては、読み出されたデータの中から選択させる(構成要件1−E)のに対し、乙4発明においては、短縮番号の中から選択させる点。
(3) 相違点についての容易想到性
ア 相違点1について
 メモリに記憶し、読み出すデータが、目的地を示す座標データそのものであるか目的地を指定するデータとしての電話番号であるかは、設計事項であり、又は周知技術から当業者が容易に想到し得る事項である。
 すなわち、乙4発明では、短縮番号が入力されると、当該短縮番号に設定されている電話番号をメモリから読み出し、位置データの格納情報と電話番号とを対応させるリストを用いて位置データの格納情報を取得し、当該格納情報に基づいて位置データを得る。このような処理は、短縮番号を登録するためのメモリ容量が少なくて済む反面、処理手順が多くなる。そこで、短縮番号に記憶させる情報として、電話番号ではなく、位置データを直接記憶させることは、当業者が適宜設定し得る設計事項である(例えば、乙1文献5頁左上欄8行〜11行)。
 したがって、相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得る事項である。
イ 相違点2及び3について
(ア) 乙5文献に記載されている発明について
a 本件特許1の出願日より前に頒布された刊行物である乙5文献(平成1年9月6日公開)には、以下の発明(以下「乙5発明」という。)が開示されている。
b’ 電話番号を複数記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、
c’ 架電ごとにその架電先を示す電話番号を前記メモリの少なくとも前回の電話番号の記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、
d’ 架電の際に前記メモリに記憶された電話番号を読み出す読出手段と、
e’ 読み出された電話番号のうちから1の電話番号を操作に応じて選択し前記1の電話番号の選択によって架電する手段とを含むことを特徴とする
f’ ディスプレイ付き電話機
b 原告の主張について
 原告は、乙5文献には、メモリの少なくとも前回の記憶位置とは異なる記憶位置に書き込むことに係る構成の記載はないと主張する。
 しかしながら、乙5発明は、複数の通話記録データを記録するものであるから、架電ごとに、電話番号がメモリの異なる記憶位置に記憶されること、毎回の通話記録データを前回の記憶位置とは異なる記憶位置に書き込むことは明らかである。
 したがって、乙5文献には、メモリの少なくとも前回の記憶位置とは異なる記憶位置に電話番号を書き込む構成が記載されている。
(イ) 乙4発明に乙5発明を組み合わせることによる容易想到性
 乙5文献には、「目的地座標データ」が「電話番号」である点を除き、構成要件1−Bないし1−Eのすべてが開示されている。
 そして、乙4発明においては、電話番号の入力は、目的地を指定するために行われるものであるから、乙4発明に乙5発明を組み合わせることにより、「電話番号で(目的地を)入力するに際し、過去に(目的地を入力するために)用いた電話番号を利用できる」ことになる。また、乙5発明においては、架電に用いた電話番号は、前回の架電に用いた電話番号の記憶位置とは異なる位置に記憶されているのであるから、これを乙4発明に組み合わせれば、当然に、目的地を設定するために用いた電話番号は、前回目的地を設定するために用いた電話番号の記憶位置とは異なる位置に記憶される構成となる。
 さらに、前記アのとおり、乙4発明において、メモリに記憶させるデータとして目的地座標データを記憶させるか、目的地を指定するデータとしての電話番号を記憶させるかは、設計事項であるから、乙5発明を乙4発明と組み合わせることにより、ナビゲーション装置において、目的地を設定するごとにその目的地を示すデータを前記メモリの少なくとも前回の目的地データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む構成及び当該メモリから読み出された目的地データのうちから1の目的地データを操作に応じて選択し前記1の目的地データの選択によって目的地を選択する構成を、当業者は容易に想到することができる。
 したがって、相違点2及び3に係る構成は、当業者が乙4発明に乙5発明を組み合わせることにより容易に想到し得る事項である。
(ウ) 乙4発明と乙5発明とを組み合わせることの動機付け
a 課題及び目的の共通性
 乙4発明と乙5発明は、いずれも目的とする地点又は目的とする相手方電話番号の入力を簡便な操作で完了させることを目的とする点において共通する(乙4の2頁右下欄18行〜3頁左上欄1行及び乙5の2頁左上欄5行〜12行参照)。
b 構成の共通性
 乙4発明と乙5発明は、目的とする地点又は相手先を特定するために電話番号を用い、かつ、当該電話番号を短縮番号として登録し、その中から選択することで、簡便に目的地又は相手先を選択できるという構成において共通する。
c 組み合わせることの示唆の存在
 乙4発明は、カーナビゲーション装置でありながら、電話番号又は電話機における電話番号の入力方法を強く意識し、その構成を一部取り入れた構成となっているから、乙4文献は、そこに開示されている乙4発明を、電話機における電話番号の入力方法に関する構成と組み合わせることを強く示唆している。
d よって、乙4発明に乙5発明を組み合わせる動機付けがある。
ウ 原告の相違点1に係る構成の容易想到性に関する主張について
(ア) 原告は、乙4発明においては、「電話番号」の利用により、目的地の設定は既に簡便化されているから、当該相違点1に関する構成を採用する必要性はないと主張する。
 しかしながら、乙4発明においては、目的地の設定を簡便化する方法として電話番号を用い、これをより簡便化する方法として短縮番号を用いており、電話番号の入力が目的地設定のための最も簡便化された形態ではないことは明らかであって、他の簡便化した目的地の設定方法があれば、乙4発明において当然に採用すべきことが示されている。
(イ) また、原告は、乙4発明の記憶部には、「電話番号リスト及び位置データ」の双方が格納され、これにより電話番号と位置データのマッチングを行うことを乙4発明の前提としているのであるから、当該電話番号を位置データに変更するはずがないと主張する。
 しかしながら、乙4発明は、ユーザーが目的地を指定する方法として電話番号によることを許容した点に特徴があり、入力された電話番号と位置データのマッチングを行い、電話番号を位置データに変換した上でナビゲーションを行っているから、原告の主張は、理由がない。
(4) 作用効果の非顕著性
 乙4発明と乙5発明とを組み合わせることにより、過去に設定した目的地を再度設定する場合に、目的地の設定履歴の中から選択することにより、簡単な操作で目的地を設定することができるから、本件特許発明1の作用効果は、何ら顕著性を有するものではない。
(5) 小括
 以上のとおり、本件特許発明1は乙4発明及び乙5発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、本件特許権1に基づく権利行使は許されない。
(原告の主張)
(1) 乙4文献に開示されている発明
ア 乙4発明は、各回のルート探索に先立つ位置情報の一時的な記憶であって、これを積極的に残して、再度の目的地の設定に用いるようなものではなく、本件特許発明1とは全く異なる発明であるが、あえて本件特許発明1になぞらえて乙4発明を記載すれば、以下のとおりである。
a 出発地及び目的地を電話番号の入力により設定し、その設定した出発地と目的地の位置情報に基づいて、現在地から目的地に至るルートを表示する車載ナビゲーション装置であって、
b 出発地と目的地の位置情報をこれに続くルート探索に用いることができるように一時的に記憶する記憶部と、
c 出発地及び目的地を設定すると、これに続くルート探索のために出発地と目的地の位置情報を記憶部に書き込む手段と、
d 目的地を電話番号によって設定する際に前記記憶部に記憶された位置情報を読み込む手段とを備える、
f 車載ナビゲーション装置。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、乙4文献には、「短縮番号として目的地を指定するデータとして電話番号が設定されるごとにその電話番号を前記メモリのいずれかの記憶装置に書き込む手段」(構成c)が開示されていると主張する。
 しかしながら、乙4文献には、このような構成は一切記載されていない。被告がいう技術常識を参酌しても、乙4文献からは、短縮番号が記憶され、もとの電話番号との対応付けがされるという程度の内容が読み取れるだけであって、短縮番号ともとの電話番号とを対応付ける方法や記憶のさせ方には様々な方法が考えられるから、乙4文献には、被告が主張する乙4発明の構成cが記載されているということはできない。
 また、乙4発明のナビゲーション装置の記憶部には、電話番号リスト及び位置データがあらかじめ格納されているだけであり、電話番号の書込みはしていない(乙4、3頁右下欄1行〜2行)。さらに、構成要件1−Cは、目的地座標データに関する書込手段について規定するものであるが、被告が挙げる前記構成cは、目的地座標データに関する書込みとは何の関係もない。このような構成cを構成要件1−Cと対応付けられるとするのは、事後分析的な観点(後知恵)によるものである。
(イ) 構成要件1−Eは、メモリから読み出した過去の目的地の目的地座標データを選択して再度目的地の設定に利用するものである。しかしながら、被告が構成要件1−Eに対応するものとする乙4発明の構成eは、メモリから読み出した過去の目的地の目的地座標データを選択することとは一切関係のない構成であるから、乙4発明には、構成要件1−Eに相当する構成は存在しない。
(ウ) そもそも、被告の主張は、乙4発明の「電話番号」を本件特許発明1における「目的地座標データ」に当てはめようとしているが、乙4発明においては、「電話番号」だけでなく、目的地の位置情報である「位置データ」を記憶させており、「目的地座標データ」と対応させるべきは、この「位置データ」であるから、被告の主張は、失当である。
(2) 本件特許発明1と乙4発明との相違点について
 乙4発明の構成は、前記(1)のとおりであり、また、構成要件1−Bにおける目的地座標データの「記憶」、構成要件1−Cにおける目的地座標データの「書き込」みは、記憶又は書き込みがされた目的地座標データを後に読み出して目的地の設定に用いることができるような記憶、書き込みを意味する。そうすると、本件特許発明1と乙4発明との相違点は以下のとおりとなる。
 相違点1:本件特許発明1のメモリは、目的地座標データを再度読み出して目的地設定に使用できるように記憶する記憶位置を複数有するのに対し、乙4発明の記憶部は、設定した出発地と目的地の位置情報をこれに続くルート探索に用いることができるように一時的に記憶するにすぎず、しかも記憶位置の数も不明である点(構成要件1−Bに関係)。
 相違点2:本件特許発明1は、目的地が設定されるごとにその目的地を示す目的地座標データを記憶するためのメモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む書込手段を備えるのに対し、乙4発明の書込手段は、設定した出発地と目的地の位置情報をこれに続くルート探索に用いることができるように一時的に書き込むにすぎない点(構成要件1−Cに関係)。
 相違点3:本件特許発明1は、目的地の設定の際に、目的地座標データを記憶するためのメモリに記憶された目的地座標データを読み出す読出手段及び当該読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し前記1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段を有するのに対し、乙4発明には、このような読出手段及び目的地の設定手段が設けられていない点(構成要件1−D、1−Eに関係)。
(3) 相違点の非容易想到性
ア 相違点1の非容易想到性
(ア) 乙4発明においては、「電話番号」の利用により目的地の設定は既に簡便化されているから、相違点1に係る構成を採用する必要性はない。
 このことからすると、乙4発明を基礎として、「目的地座標データを再度読み出して目的地設定に使用できるように記憶する記憶位置を複数有するメモリを設けること」は、当業者が容易に想到し得るということはできない。
(イ) 被告は、相違点1が、乙5発明から容易に想到し得ると主張する。
 しかしながら、被告の主張は、前提として、構成要件1−Bに対応する乙4発明の構成bの認定が誤っている。
 また、乙5発明は「電話機」に関する発明であって、そもそもナビゲーション装置に係る発明ではなく、また、乙5文献には、「目的地座標データを再度読み出して目的地設定に使用できるように記憶する記憶位置を複数有するメモリを設けること」については一切記載されていない。
 さらに、乙4発明の記憶部には「電話番号リスト及び位置データ」の双方が格納され、これにより電話番号と位置データのマッチングを行うことを乙4発明の前提としているから、当該電話番号を位置データに変更するはずがない。
イ 相違点2及び3の非容易想到性
(ア) 乙4発明には、一度設定した目的地の目的地座標データを記憶させて次回の目的地設定に利用するという発想が全くないから、乙4発明において、相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得るとはいえない。
(イ) 被告は、相違点2が、乙5発明から容易に想到し得ると主張する。
a しかしながら、そもそも、相違点2の認定が誤っている。
b そして、乙4発明は「ナビゲーション装置」に関するものであるが、乙5発明は「電話機」に関するものであって、両者を組み合わせる理由がない。乙4発明自体にも、相違点2を克服すべき理由がない。また、乙5文献には、相違点2に係る構成に関して、一切記載されていない。
 被告の主張自体、乙5発明と設計事項との二段構えの論理に基づくものであって、いわゆる「容易の容易」の主張である。また、乙4発明において電話番号を位置データに変更するはずがないことは前記ア(イ)のとおりであるから、メモリに記憶させるデータにつき、座標データとするか電話番号とするかは設計事項であるということはできない。
c 仮に、乙4発明と乙5発明とを組み合わせることができたとしても、その結果到達できるのは、乙4発明において、電話番号で入力するに際し、過去に用いた電話番号を利用できるというにとどまり、相違点2に対応する構成に到達することはできない。
ウ 相違点3の非容易想到性
(ア) 乙4発明には、一度設定した目的地の目的地座標データを記憶させて次回の目的地設定に利用するという発想が全くないから、乙4発明において、相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得るとは言えない。
(イ) 被告は、相違点3が乙5発明から容易に想到し得ると主張する。
 しかしながら、乙4発明は「ナビゲーション装置」に関するものであるが、乙5発明は「電話機」に関する発明であって、両者を組み合わせる理由がないことは、前記イのとおりであり、また、乙5文献には、相違点3に係る構成に関して、一切記載されていない。
 そのほか、乙4発明と乙5発明とを組み合わせることができないことは、前記イのとおりである。
(4) 小括
 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、乙4文献及び乙5文献に基づき当業者が容易に想到し得たものということはできない。
17 争点?ア(乙6文献に基づく本件特許発明2の新規性又は進歩性の欠如の有無)について
(被告の主張)
(1) 乙6文献に開示された発明
 本件特許2の出願日より前に頒布された刊行物である乙6文献(昭和62年3月5日公開)には、以下の発明(以下「乙6発明」という。)が開示されている。
a VDT(Visual Display Terminal)9に写し出された道路地図上で経路案内を行なう車両用経路案内装置であって、
b 外部メモリ12は、各地域名称情報記憶領域を含み、さらに、レジャー施設名、駅名、病院名、ゴルフ場名、遊園地名等の目的地の地点名称と当該目的地の地点座標とを関連付けて記憶したテーブルを記憶し、
c 外部メモリ12内の地域名称情報記憶領域から目的地の地点名称を読み出して、VDT9の画面上に地点名称リストを表示し、
d 目的地点に相当する名称が表示された透明操作パネル10上の部位が押圧されると、当該押圧部位を検出し、
e 前記目的地の地点名称と当該目的地の地点座標とを関連付けて記憶した前記テーブルを参照して、押圧部位に該当する地点座標を読み出し、
f 前記読み出した地点座標を目的地座標(Xs、Ys)としてワーキングエリアのRAM3に記憶し、
g 前記VDT9に地図が表示されているとき目的地座標をワーキングエリアのRAM3から読み出して、VDT9に表示された地図上で白丸(○)によって目的地として表し、当該目的地に至るまでの走行経路を案内することを特徴とする、
h 車両用経路案内装置。
(2) 本件特許発明2と乙6発明との対比
ア 本件特許発明2と乙6発明とを対比すると、乙6発明の@「車両用経路案内装置」、A「レジャー施設名、駅名、病院名、ゴルフ場名、遊園地名等」、B「地点名称」、C「地点座標」、D「外部メモリ」、E「VDT」、F「透明操作パネル10上の部位が押圧されると、当該押圧部位を検出」、G「白丸(○)」及びH「ワーキングエリアのRAM3」は、それぞれ、本件特許発明2の@「車載ナビゲーション装置」、A「サービス施設」、B「表示データ」、C「地点座標データ」、D「第1記憶手段」、E「表示器」、F「サービス施設を操作に応じて指定する手段」、G「所定のパターン」及びH「第2記憶手段」に相当する。
イ 一致点
(ア) 乙6発明の構成aないしhは、それぞれ、本件特許発明2の構成要件2−Aないし2−Hに相当し、両発明間には相違点が存在しない。
 したがって、乙6文献には、本件特許発明2のすべての構成要件が記載されている。
(イ) 原告の主張について
 原告は、本件特許発明2は「ユーザ地点登録機能」を特徴とする発明であって、特許請求の範囲の構成要件2−Fの「第2記憶手段」とは、「ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができる」第2記憶手段をいうとの理解を前提に、本件特許発明2と乙6発明とは全く関係がないと主張する。
 しかしながら、特許請求の範囲には、第2記憶手段につき原告が主張するような限定が規定されているわけではない。また、発明の詳細な説明においても、経度及び緯度データを記憶する「メモリ(第2記憶手段)」のデータ揮発性について何らの制限もされていない。また、ユーザーが選択する「所望の地点」に出発地又は目的地が含まれないとの限定もない。
 したがって、乙6発明も、「ユーザ地点登録機能」を有しているということができる。
 また、乙6発明においては、今回設定した目的地を示す○印が目的地に到達した時点で消えるような印であるという開示は全く存在しない。むしろ、クリアキーの操作がされて「出発地、目的地の特定処理」に戻らない限り、第2記憶手段に記憶された出発地座標及び目的地座標の情報はそのまま残っていると考えるのが合理的である。
ウ 相違点及びそれについての容易想到性
(ア) 構成要件2−F及び2−Gの「第2記憶手段」について
a 仮に、乙6発明が、構成要件2−F及び2−Gの「第2記憶手段」につき本件特許発明2と相違するとしても、複数のサービス施設のうちから指定した1のサービス施設の地点座標データを「第1記憶手段」から読み出し、それを後から利用するために他の記憶手段(「第2記憶手段」)に記憶することは、目的に応じて当業者が適宜選択し得る設計事項又は周知技術にすぎない(例えば、特開昭59−204081号公報(乙7。以下「乙7文献」という。)、乙9文献)。
 したがって、乙6発明において、構成要件2−F及び2−Gに対応する構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
b 原告は、乙6発明は、「ユーザ地点登録」とは全く関係のない発明であり、乙6発明に基づき、構成要件2−Fを容易に想到することはできないと主張するが、その主張の前提である構成要件2−Fの「第2記憶手段」の理解が誤りであることは、前記イのとおりである。
 また、原告は、乙6発明には、地点座標情報を後から利用するという発想は全くないと主張するが、そもそも、本件明細書2には、「地点座標情報を後から利用する」との記載はない。
 さらに、原告は、乙7文献に記載された発明(以下「乙7発明」という。)及び乙9文献に記載された発明(以下「乙9発明」という。)は、乙6発明の装置とは目的、機能が異なり、乙6発明にこれらの発明の記憶手段を適用することはできないと主張する。しかしながら、乙7発明及び乙9発明と乙6発明とは技術分野が共通し、ユーザーが任意の位置を登録できる点において機能・作用が共通するから、乙6発明に、乙7発明及び乙9発明を組み合わせることができる。
(イ) 構成要件2−Gの「所定のパターン」について
 構成要件2−Gの「所定のパターン」に関し、レストラン等の施設を「所定のパターン」で表示することも従来技術を超えるものではなく、乙8文献及び乙9文献においても、各種記号等のシンボル又はマークを地図上に表示させることが開示されている。
 したがって、地点座標データが示す地図上の地点を「所定のパターン」により地図に重畳して表示させる構成を採用することは、乙6発明の白丸(○)印として開示されており、又は、少なくとも当業者にとって周知技術若しくは設計事項にすぎない。
エ 作用効果について
(ア) 本件特許発明2は、「表示器に地図が表示されているときユーザ地点登録された地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させることができる。」(本件明細書2の段落【0007】)との作用を有するところ、乙6発明においても、「VDT9に地図が表示されているとき目的地座標を…読み出して、VDT9に表示された地図上で白丸(○)によって目的地として表」(構成g)すという同じ作用を有する。
 また、本件特許発明2は、「簡単な操作でユーザ地点登録をすることができ、これにより表示された地図上においてレストランやホテル等のユーザ各々で必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」(本件明細書2の段落【0019】)との効果を有するところ、乙6発明においても、「地理不案内な者等であっても、当該地点の名称をたよりに出発地、目的地等の教示を簡単に行なうことができ、この種装置の使い勝手を一段と向上させることができる。」(乙6、5頁左下欄9行〜12行)との効果を有しており、地点名称を頼りに任意の表示パターンを用いて目的地等の教示を簡単に行なうことができるという同じ効果が得られる。
 したがって、本件特許発明2及び乙6発明は、作用効果においても一致する。
(イ) 原告の主張について
 原告は、本件特許発明2の作用効果は、登録解除に該当する操作がされない限り、当該登録した地点を地図上で容易に確認できるというものであると主張する。
 しかしながら、「登録解除に該当する操作がされない限り」という点については、本件明細書2には、記載も示唆もないから、前記(ア)のとおり、本件特許発明2と乙6発明とは、同一の作用効果を有するということができる。
(3) 小括
 以上のとおり、本件特許発明2は、乙6文献に記載されているものであり、又は、これに開示されていない構成があるとしても、それは設計事項にすぎず、少なくとも乙6発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
 したがって、本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、本件特許権2に基づく権利行使は許されない。
(原告の主張)
(1) 乙6発明の内容について
 乙6発明は、経路設定に先立つ目的地等の地点設定を簡単にしたという発明でしかなく、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決する本件特許発明2とは全く異なる発明であるが、あえて本件特許発明2になぞらえて乙6発明を記載すれば、以下のとおりである。
a 地図を画面に表示する車両用経路案内装置であって、
b 複数の行楽地等の目的地の名称情報と当該目的地の地図座標情報をあらかじめ記憶した外部メモリと、
c 前記外部メモリから前記名称リストのデータを読み出して地点名称リストを画面に表示させる手段と、
d 前記画面に表示された名称リストのうちの1の地点名称を操作に応じて指定する手段と、
e 指定された地点名称に対応する地点座標を外部メモリから読み出す手段と、
f 読み出された地点座標情報を、案内表示処理等のために一時的に記憶するRAMと、
g 前記地点座標に基づいて案内を行う案内表示処理Vのモードにおいて地図が表示されている場合に、RAMから地点座標情報を呼び出して地点座標情報が示す地図上の目的地を○印にて地図に重畳して画面に表示させる手段を含む
h 車両用経路案内装置。
(2) 本件特許発明2と乙6発明との対比
ア 本件特許発明2は、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決するものであるから、構成要件2−Fの「第2記憶手段」は、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶するものでなければならず、また、構成要件2−Gは、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、地図が表示されているときに第2記憶手段から登録した地点の座標データを読み出してその座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段を意味する。
 これを前提に、本件特許発明2と乙6発明とを対比すれば、相違点は、以下のとおりである。
 相違点1:本件特許発明2の第2記憶手段は、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶するのに対し、乙6発明のRAMは、外部メモリから読み出された地点座標情報を、案内表示処理等のために一時的に記憶するにすぎない点(構成2−Fに関係)。
 相違点2:本件特許発明2においては、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、地図が表示されているときに第2記憶手段から当該登録した地点の座標データを読み出してその座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段を有するのに対し、乙6発明においては、地点座標に基づいて案内を行う案内表示処理Vのモードにおいて地図が表示されている場合に、RAMから地点座標情報を呼び出して地点座標情報が示す地図上の目的地を○印にて地図に重畳して画面に表示させる手段を有するにすぎない点(構成2−Gに関係)。
イ 被告の主張について
 被告は、その主張の前提として、構成要件2−Fの「第2記憶手段」とは、「ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がなされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができる」第2記憶手段と限定すべき理由はないと主張する。
 しかしながら、本件特許発明2における構成要件2−Fがユーザ地点登録機能を反映した構成であること及びナビゲーション装置等の電子機器におけるデータ登録とは、登録対象となるデータを必要なときにいつでも読み出せるようにしておくことを意味することからすれば、被告の主張は、失当である。
(3) 相違点の非容易想到性
ア 相違点1について
(ア) 乙6発明のRAMは、読み出された地点座標情報を、案内表示処理等のために一時的に記憶するにすぎないから、乙6発明のRAMは、本件特許発明2の第2記憶手段とは、その役割及び機能が全く異なっている。また、乙6発明は、経路設定に先立つ目的地等の地点設定を簡単にした発明であって、「ユーザ地点登録」とは全く関係のない発明であるから、乙6発明において、本件特許発明2の特徴である「ユーザ地点登録」と密接に関係する前記相違点1(構成要件2−F)を容易に想到することができるということはできない。
(イ) 被告は、相違点1に関し、設計事項又は周知技術にすぎないと主張する。
 しかしながら、乙6発明には、地点座標情報を後から利用するという発想は全くなく、その技術的内容を前提とすれば、構成要件2−Fを容易に想到することができない。
 そして、ナビゲーション装置において、どのようなデータをどのように記憶させるかは、それぞれの装置のニーズに応じて決まるものであって、他の装置と同じ構成を直ちに採用できることにはならないから、周知技術を理由として、相違点1の構成が容易想到であるということはできない。
 また、乙7発明は、車載用地図表示装置において、ユーザー個人が自分に適合した特異地点を地図上から選択登録するものであり、乙9発明は、自動車用地図表示装置において、ユーザーが地図上の任意の位置に所定のマークを登録し得るようにするものであって、いずれも、乙6発明の装置とは目的、機能が異なっているから、乙6発明の記憶手段として、これらの発明の記憶手段を適用し得るということはできない。
イ 相違点2について
(ア) 乙6発明における画面の地図上の○印は、各回ごとに設定される目的地を表示するものであって、前に設定された目的地に対応した○印を地図が表示されるときに表示することなどあり得ないから、乙6発明に基づき、相違点2の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ) そして、そもそも相違点1を克服すべき理由がない乙6発明においては、乙8文献又は乙9文献にどのような記載があっても、相違点2を克服することはできない。
ウ 作用効果について
 本件特許発明2の作用効果は、登録解除に該当する操作がされない限り、当該登録した地点を地図上で容易に確認できるというものである。
 これに対し、乙6発明は、目的地を白丸(○)で表示し、これにより目的地が確認できるという作用効果を有するだけであり、登録した地点を地図上で容易に確認できるという効果は何ら奏さない。
(4) 小括
 以上のとおり、本件特許発明2は、乙6文献に記載された発明ではなく、また、これに基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
18 争点(7)イ(乙8文献に基づく本件特許発明2の新規性の欠如又は乙8文献及び乙9文献に基づく本件特許発明2の進歩性の欠如の有無)について
(被告の主張)
(1) 乙8文献に開示された発明
ア 本件特許2の出願日より前に頒布された刊行物である乙8文献(平成1年11月16日公開)には、以下の発明(以下「乙8発明」という。)が開示されている。
a 情報を画面に表示するディスプレイ4を備えた車載用情報表示装置であって、
b 地図情報に含まれる表示対象施設に関連する詳細な関連情報を記憶する関連情報記憶手段M6は、当該表示対象施設の名称及び所在地を記憶し、
c 関連情報記憶手段M6から読み出した表示対象施設をディスプレイ4に表示させ、
d 操作者がカーソルキー及びセットスイッチ(検索手段M5)を操作することにより、特定の表示対象施設が決定され、
e 決定された表示対象施設の詳細な関連情報を、関連情報記憶手段M6から読み出し、
f 読み出された表示対象施設の詳細な関連情報を記憶するRAMと、
g ディスプレイ4に地図が表示されているとき前記詳細な関連情報に含まれる表示対象施設の所在地が示す位置をRAMから読み出して、それが示す地図上の地点をあらかじめ定められたシンボルを使用して表示された地図上に重畳させることを特徴とする、
h 車載用情報表示装置。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、乙8発明は、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決する本件特許発明2とは全く異なる発明であると主張する。
 しかしながら、乙8発明は、「ユーザ地点登録機能」のために、ユーザーが任意に選択した表示情報階層に基づいて決定される表示対象施設の地図上の地点に、シンボルを表示させる処理が行われる構成になっているから、原告の前記主張は、失当である。
(イ) 原告の主張は、本件特許発明2にいう「サービス施設」が具体的に1つに特定された施設を意味するとの理解を前提とするところ、当該「サービス施設」とは、施設の種類を意味する場合と、当該種類に含まれる施設中の特定の施設を意味する場合の双方を含むと解すべきである。そして、乙8発明は、そのいずれの場合であっても、指定したサービス施設の地点座標データを関連情報記憶手段から読み出し、ディスプレイにシンボルを表示することを開示している。
(2) 本件特許発明2と乙8発明との対比
ア 本件特許発明2と乙8発明とを対比すると、乙8発明の@「車載用情報表示装置」、A「表示対象施設」、B「表示対象施設の名称」、C「表示対象施設の所在地」、D「関連情報記憶手段」、E「ディスプレイ」、F「検索手段M5」、G「あらかじめ定められたシンボル」及びH「RAM」は、それぞれ、本件特許発明2の@「車載ナビゲーション装置」、A「サービス施設」、B「表示データ」、C「地点座標データ」、D「第1記憶手段」、E「表示器」、F「サービス施設を操作に応じて指定する手段」、G「所定のパターン」及びH「第2記憶手段」に相当する。
イ 一致点
 乙8発明の構成aないしhは、それぞれ、本件特許発明2の構成要件2−Aないし2−Hに相当し、両発明間には相違点が存在しない。
 したがって、乙8文献は、本件特許発明2の構成要件のすべてを開示している。
ウ 乙8発明の作用効果について
 本件特許発明2は、「表示器に地図が表示されているときユーザ地点登録された地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させることができる。」(本件明細書2の段落【0007】)との作用を有するところ、乙8発明においても、ディスプレイ4に地図が表示されているとき前記詳細な関連情報に含まれる表示対象施設の所在地が示す位置をRAMから読み出して、それが示す地図上の地点をあらかじめ定められたシンボルを使用して表示された地図上に重畳させる(構成g)という同じ作用を有する。
 また、本件特許発明2は、「簡単な操作でユーザ地点登録をすることができ、これにより表示された地図上においてレストランやホテル等のユーザ各々で必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」(同段落【0019】)との効果を有するところ、乙8発明においても、「操作者が対象施設に関する情報の種類や階層を選択すると、操作者の意図に応じた情報を表示できるため、操作者の要求に適合した情報提供が可能になるので、装置の操作性・機能性も向上する。」(乙8、7頁右下欄10行〜14行)との効果を有しており、同じ効果が得られる。
 したがって、本件特許発明2と乙8発明は、作用効果においても一致する。
(3) 乙8発明と乙9発明に基づく本件特許発明2の進歩性の欠如について
 仮に、本件特許発明2と乙8発明とが構成要件2−F及び2−Gの第2記憶手段に関し相違するとしても、表示対象施設の詳細な関連情報を関連情報記憶手段M6から読み出し、それを後から利用するためにRAM等の何らかの記憶手段に記憶させることは、本件特許2の出願日より前に頒布された刊行物である乙9文献(平成1年6月26日公開)に開示されており、本件特許発明2は、乙8発明及び乙9発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもある。
ア 構成要件2−Fについて
 乙9発明は、「ユーザが地図上の任意の位置を登録でき、対応の位置に所定のマークを表示し得るような自動車用地図表示装置を提供することを目的とする」(乙9、2頁左上欄13行〜16行)発明であるところ、指定手段(マーク設定スイッチ9e)を操作することにより地図上の登録したい位置を指定すると、「選択されたマークが表示されるとともに、そのマークが表示されている地図上の座標位置が制御装置2内の前記記憶手段に記憶される」(乙9、3頁左下欄13行〜16行)。これは、複数のサービス施設のうちから指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを記憶媒体に記憶することに相当するから、乙9文献には、構成要件2−Fに相当する構成が開示されている。
イ 構成要件2−Gについて
 乙9文献には、表示手段に表示中の地図のエリア内に設定記憶手段に記憶された位置が存在する場合は該当の位置に所定のマークを表示させる構成が開示されている(乙9、2頁右上欄1行〜8行)。
 また、乙9文献には、複数のサービス施設のうちから指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを記憶媒体に記憶し(乙9、3頁左下欄13行〜16行)、表示モードにおいては、登録モードにおいてマークが登録されていると判断される(ステップS22)と、次に、その登録マークの座標位置が表示中の地図エリアに存在するか否かが判断さる(ステップS23)という構成が開示されていることからすれば、登録マークを地図上に表示する判断のために、「制御装置2内の前記記憶手段」から登録マークの地図上の座標位置を読み出しているということができる。これは、本件特許発明2における、複数のサービス施設のうちから指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを記憶した記憶媒体から、当該地点座標データを読み出すことに相当する。したがって、乙9文献には、構成要件2−Gの「前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標データを読み出して」に相当する構成が開示されている。
ウ 乙9発明の作用効果について
 乙9発明は、「表示制御手段に指示データを与えて表示手段の画面上で地図上の任意の位置を指定」させ、「設定記憶手段」に「指定された位置を設定記憶」し、「表示手段に表示中の地図のエリア内に設定記憶手段に記憶された位置が存在する場合は該当の位置に所定のマークを表示させる」(乙9、2頁右上欄1行〜8行)という、本件特許発明2と同じ作用効果を奏するものでもある。
エ 乙8発明と乙9発明との組合せの容易性
 乙8発明及び乙9発明ともに、車載用ナビゲーション装置等の車載用情報表示装置に表示される地図上に任意の施設を表示させるという共通の技術分野に属し、しかも、操作者が複数の施設の中から決定した施設を、地図上の対応位置に所定のマークで表示させるという同一の機能を有していることからすれば、乙8発明に記載された車載用情報表示装置に、乙9文献に開示された所望の施設の位置を登録する機能を適用することは、本件特許2の出願時における当業者であれば容易になし得たものである。
 原告は、乙8発明と乙9発明とは、技術分野を同じくするとはいえないと主張するが、乙9発明も、マークを登録することにより、対応の位置に所定のマークを表示し得ることになるから、いずれもナビゲーション装置における情報の表示に係る発明である。
(4) 原告が主張する相違点について
ア 原告が主張する相違点1について
 乙8発明においては、指定された表示情報階層に該当する表示対象施設の情報が、関連情報記憶手段(「第1記憶手段」に相当)から読み出されて、ディスプレイ(「表示器」に相当)に表示されるのであるから、原告が主張する相違点1は存在しない。
イ 原告が主張する相違点2について
(ア) 乙8発明は、ディスプレイ上に座標位置を含まずに文字表示された複数の表示対象施設のうちの1の表示対象施設を操作に応じて指定する操作手段M3を有し、指定された1の表示対象施設の地図上における地理的位置にシンボルを重畳できるよう表示対象施設の位置データを関連情報記憶手段から読み出す表示制御手段M4を有する。また、地図上に表示対象施設をシンボル表示するため、読み出された位置データを記憶するRAM5C等の記憶手段を有しており、表示対象施設を画面上に表示する際には当該記憶手段から位置データを読み出している。なお、前記17(被告の主張)(2)イのとおり、「ユーザ地点登録した後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶する」との構成は、本件特許発明2の構成でない。
 したがって、原告が主張する相違点2は、存在しない。
(イ) また、原告は、乙8発明においては、一方の記憶手段(地図情報記憶手段M1)から読み出したデータを他方の記憶手段(関連情報記憶手段M6)に記憶させるなどということは行われていないことを根拠に、原告が主張する相違点2につき、非容易想到であると主張する。
 しかしながら、乙8発明の「関連情報記憶手段M6」又はこれと「地図情報記憶手段M1」を記憶したCDが、本件特許発明2の「第1記憶手段」に相当し、これから読み出された情報がRAMに記憶されるというべきであるから、原告の主張は、失当である。
ウ 原告が主張する相違点3について
 乙8発明は、指定した表示情報階層に基づいて表示対象施設が決定されると、地図情報記憶手段M1から地図データを読み出し、この地図が表示されているときに、関連情報記憶手段から表示対象施設の位置データを読み出してその位置データが示す地図上の地点をシンボルで地図に重畳してディスプレイに表示させる表示制御手段M4を有する。なお、「特に登録解除に該当する操作がされない限り」との限定が本件特許発明2の構成でないことは、前記17(被告の主張)(2)イのとおりである。
 したがって、原告が主張する相違点3は存在しない。
(5) 小括
 以上のとおり、乙8文献は、本件特許発明2の構成要件2−Aないし2−Hのすべてを開示している。また、本件特許発明2は、少なくとも乙8発明及び乙9文献に記載された技術に基づいて出願前に当業者が容易に想到することができたものである。
 したがって、本件特許2は、特許無効審判により無効にされるべきものであるから、本件特許権2に基づく権利行使は許されない。
(原告の主張)
(1) 乙8発明の内容について
ア 乙8発明は、選択した種類や階層に合致した関連施設の情報を好適に表示可能にするという発明でしかなく、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決する本件特許発明2とは全く異なる発明であるが、あえて本件特許発明2になぞらえて乙8発明を記載すれば、以下のとおりである。
a 地図を表示手段M2に表示する車載用情報表示装置であって、
b 関連する詳細情報をあらかじめ記録した関連情報記憶手段M6と、
c 地図上である施設が点滅している際に、関連情報記憶手段から当該点滅している施設の詳細情報を読み出して、当該特定の施設に関する情報を表示手段M2に表示させる選択表示手段M7と
f 地図データを記憶する地図情報記憶手段M1と、
g 特定の種類の施設(公園等)が選択された場合に、地図情報記憶手段M1から地図データを読み出して、画面上に表示されている当該特定の種類の施設に該当するすべての施設をシンボルで地図に重畳して表示手段M2に表示する表示制御手段M4とを含む、
h 車載用情報表示装置。
イ 被告の主張について
 被告は、本件特許発明2にいう「サービス施設」とは、施設の種類を意味する場合と、当該種類に含まれる施設中の特定の施設を意味する場合の双方を含むと解すべきであると主張する。
 しかしながら、構成要件2−D及び2−Eには「1のサービス施設」とあること、本件特許発明2のユーザ地点登録とは、ユーザーに必要な個々の施設を登録するものであることから、「サービス施設」とは具体的な1の施設をいうと解すべきである。
 また、被告は、乙8文献には、本件特許発明2の要件すべてが記載されているなどと主張するが、乙8発明は、@まず、表示情報階層を確定して表示対象施設を決定し、A地図上で、対象施設のシンボルを表示させ、Bそのうちの1つのシンボルを選択するようにし、Cさらに、その選んだシンボルについて詳細情報表示ができるようにするという発明でしかなく、「ユーザ地点登録機能」とは全く関係のない発明である。
(2) 本件特許発明2と乙8発明との対比
 本件特許発明2と乙8発明とを対比すれば、相違点は以下のとおりとなる。
 相違点1:本件特許発明2には、第1記憶手段から表示データを読み出して当該表示データに応じて複数のサービス施設を表示器に表示させる手段が備えられているのに対し、乙8発明においては、地図上で点滅している1つの施設に関する詳細情報を、関連情報記憶手段から読み出して表示させる表示手段M2が備えられているにすぎない点(構成要件2−Cに関係)。
 相違点2:本件特許発明2は、位置座標を含まない文字等により表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段、指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段及びユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶する第2記憶手段とを備えるのに対し、乙8発明には、このような指定する手段、読み出す手段及び記憶手段が設けられていない点(構成要件2−D、2−E、2−Fに関係)。
 相違点3:本件特許発明2は、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、地図が表示されているときに第2記憶手段から当該登録した地点の座標データを読み出してその座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段を有するのに対し、乙8発明は、特定の施設の種類(公園等)が選択された場合に、地図情報記憶手段M1から地図データを読み出して、画面上に表示されている地図に位置する当該特定の施設の種類に該当するすべての施設をシンボルで地図に重畳して表示手段M2に表示する表示制御手段M4を有するにすぎない点(構成要件2−Gに関係)。
 したがって、相違点はないとの被告の主張は、誤りである。
(3) 相違点の非容易想到性
ア 相違点1について
 乙8発明は、地図上で点滅している1つの施設に関する詳細情報を関連情報記憶手段から読み出して表示させるものであるから、このような乙8発明につき、そもそも関連情報記憶手段から表示データを読み出して複数のサービス施設を表示器に表示させることはできないし、そのような構成にする必要もない。
 また、被告が、構成要件2−F及び2−Gとの関連で挙げる乙9文献を見ても、相違点1に係る構成の記載はない。
 したがって、乙8発明を基礎としては、前記相違点1につき当業者が容易に想到することはできない。
イ 相違点2について
(ア)a 乙8発明においては、地図情報記憶手段M1及び関連情報記憶手段M6という2つの記憶手段が用いられているが、この2つの記憶手段からは別々に情報が読み出されているだけであり、一方の記憶手段から読み出したデータを他方の記憶手段に記憶させることは行われていない。また、乙8発明においては、複数のサービス施設を位置座標を含まない文字等によって表示し、そこから1つの施設を指定することは行われていない。さらに、乙8発明においては、選択した特定の種類の施設に該当する画面上のすべての施設の位置をシンボルで地図に重畳して表示するとともに、点滅表示させたシンボルに係る施設の詳細情報を表示させることによって、従来技術の課題を解決したものであるが、このような表示の実現のためには、2つの記憶手段からは別々に情報が読み出されていればよく、一方の記憶手段から読み出したデータを他方の記憶手段に記憶させる必要はない。
 以上のような乙8発明の技術的前提に立てば、乙8発明に基づき、相違点2に係る構成を設けることを、当業者が容易に想到し得るということはできない。
b なお、被告は、乙8発明の関連情報記憶手段M6又はこれと地図情報記憶手段M1を記憶したCDが、本件特許発明2の「第1記憶手段」に相当すると主張する。
 しかしながら、このような主張は、関連情報記憶手段M6が「第1記憶手段」に該当するとしている被告が主張する乙8発明の構成bと齟齬している。
(イ) 被告は、構成要件2−Fにつき、乙9文献に記載されていると主張する。
 しかしながら、仮に、乙9文献に相違点に相当する構成の記載があったとしても、主引用発明である乙8発明に当該相違点に相当する構成を採用すべき理由がないのであれば、当該相違点を克服することはできない。そして、乙8発明においては、前記(ア)のとおり、一方の記憶手段から読み出したデータを他方の記憶手段に記憶させることは必要ない。
 また、乙8発明は、車載用情報表示装置における地図上の目的地や、施設等に関する詳細な関連情報の具体的表示のさせ方に関する発明であるのに対し、乙9発明は、自動車用地図表示装置において、ユーザーが地図上の任意の位置に所定のマークを登録できるようにするという発明であるから、技術分野が同じということもできない。
 したがって、第1記憶手段から読み出したデータを記憶する第2記憶手段を設けることは、乙8発明と乙9発明とを組み合わせて当業者が容易に想到し得るということはできない。
ウ 相違点3について
(ア) 乙8発明においては、特定の種類の施設(公園等)が選択された場合に、地図情報記憶手段M1から地図データを読み出して、画面上に表示されている当該特定の種類の施設に該当するすべての施設をシンボルで地図に重畳して表示をするようになっているが、このような表示が可能であるのは、特定の種類の施設が選択された場合であって、現在「公園」の選択により「公園」に相当する施設がシンボルで地図に重畳して表示されているとしても、次に「美術館」を選択すれば、以前「公園」として地図に重畳して表示されていたものは消える。そうしなければ、「公園」のシンボルと「美術館」のシンボルとが区別できなくなり、乙8発明で実現しようとする施設情報の案内表示ができなくなってしまう。
 そうすると、乙8発明において、これらのシンボルに該当する地点につき、ユーザ地点登録をした後は、登録解除に該当する操作等がされない限り、地図が表示されているときに第2記憶手段から当該登録した地点の座標データを読み出してその座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示させるようにすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。しかも、前記イのとおり、乙8発明においては、「第2記憶手段」を設けることすら容易になし得ないのであるから、地点座標データを第2記憶手段から読み出すことを構成として含む相違点3に係る構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(イ) 被告は、構成要件2−Gに係る構成につき、乙9発明に基づいて当業者が容易に想到し得ると主張する。
 しかしながら、そもそも相違点3(構成要件2−G)を克服すべき理由がない乙8発明においては、乙9文献にいかなる記載があろうとも、当該相違点を克服することはできない。
 また、乙8発明は、車載用情報表示装置における地図上の目的地や施設等に関する詳細な関連情報の具体的表示のさせ方に関する発明であるのに対し、乙9発明は、自動車用地図表示装置において、ユーザーが地図上の任意の位置に所定のマークを登録できるようにするものであって、発明の解決すべき課題及び構成が全く異なる発明であるから、それぞれの発明の構成を都合良く分割して、組み合わせることはできない。
エ 作用効果について
 本件特許発明2の作用効果は、登録解除に該当する操作がされない限り、当該登録した地点を地図上で容易に確認できるというものである。
 これに対し、乙8発明の作用効果は、特定の種類の施設(例えば公園)が選択された状態にある場合に、表示されている地図に存在する当該特定の種類に該当する施設をすべて表示するというものであって、本件特許発明2の効果は何ら奏さない。
(4) 小括
 以上のとおり、本件特許発明2は、乙8文献に記載された発明ではなく、また、乙8文献及び9文献の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るということはできない。
19 争点(7)ウ(乙10文献に基づく本件特許発明2の新規性又は進歩性の欠如の有無)について
(被告の主張)
(1) 乙10文献に開示された発明
ア 本件特許2の出願日より前に頒布された刊行物である乙10文献(平成2年8月30日公開)には、以下の発明(以下「乙10発明」という。)が開示されている。
a 現在地から目的地までの道路交通情報を表示部に表示する地図提供システムで用いられる車載ナビゲーション装置であって、
b 学校や遊園地等を目的地として、当該目的地の名称データ及び座標データをディスクに記憶し、
c ディスクから目的地の名称データを読み出し、目的地の名称及びその名称番号を表示部の画面に表示し、
d 利用者は、操作釦の操作により、目的地位置名称に対応する名称データ番号を地図提供システムに入力し、
e ディスク記録再生部は、ディスク内の管理情報を基に、利用者によって選択された目的地の座標データを含むデータブロックをディスクから再生し、
f 前記目的地の座標データを含むデータブロックは、地図提供システム内のRAMに記憶され、
g 前記表示部に地図が表示されているとき、前記RAMに記憶された目的地の座標データを、表示部に表示された地図における座標位置に変換し、当該地図上で黒丸で目印することを特徴とする、
h 車載ナビゲーション装置。
イ 原告の主張について
 原告は、乙10発明は、副情報を容易に記憶、再生できるようにした発明でしかなく、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決する本件特許発明2とは全く異なる発明であると主張する。
 しかしながら、乙10発明は、本件特許発明2におけるユーザ地点登録機能と同様、ユーザーが任意に決定したサービス施設の地図上の地点にシンボルを表示させる処理が行われるようになっている。
(2) 本件特許発明2と乙10発明との対比
ア 本件特許発明2と乙10発明とを対比すると、乙10発明の@「学校や遊園地等」、A「名称データ」、B「座標データ」、C「ディスク」、D「表示部」、E「操作釦」、F「RAM」及びG「黒丸」は、それぞれ、本件特許発明2の@「サービス施設」、A「表示データ」、B「地点座標データ」、C「第1記憶手段」、D「表示器」、E「サービス施設を操作に応じて指定する手段」、F「第2記憶手段」及びG「所定のパターン」に相当する。
 また、乙10文献は、目的地の各データの読出しと、地図データの読出しが一連の処理によって実行される構成を開示している(乙10、6頁左上欄17行〜右上欄6行)から、乙10文献は、「前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標データを読み出して」に相当する構成を開示している。
イ 一致点
 乙10発明の構成aないしhは、それぞれ、本件特許発明2の構成要件2−Aないし2−Hに相当し、両発明間には相違点が存在しない。
 よって、乙10文献には、本件特許発明2のすべての構成要件が記載されている。
ウ 相違点及びそれについての容易想到性
 仮に、構成要件2−Gに係る「所定のパターン」と乙10発明における「黒丸」とが相違するとしても、乙10発明における「黒丸」以外に、本件特許発明2で説明されるような「例えば、レストランならば、表示パターン「R」が、ホテルならば表示パターン「H」がその存在する地図上の位置に表示される」(本件明細書2の段落【0017】)構成にすることは、当業者に周知な事項であり、また、目的に応じて当業者が適宜選択し得る設計事項といえる(乙8、乙9)。
 したがって、地点座標データが示す地図上の地点を「所定のパターン」により地図に重畳して表示させる構成を採用することは、当業者にとって周知技術又は設計事項にすぎないから、少なくとも、本件特許発明2は、当業者が乙10発明に基づいて容易に発明することができたものである。
エ 作用効果について
(ア) 本件特許発明2は、「表示器に地図が表示されているときユーザ地点登録された地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させることができる。」(本件明細書2の段落【0007】)との作用を有するところ、乙10発明においても、「前記表示部に地図が表示されているとき、前記RAMに記憶された目的地の座標データを、表示部に表示された地図における座標位置に変換し、当該地図上で黒丸で目印する」(構成g)という同じ作用を有する。
 また、本件特許発明2は、「簡単な操作でユーザ地点登録をすることができ、これにより表示された地図上においてレストランやホテル等のユーザ各々で必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」(本件明細書2の段落【0019】)との効果を有するところ、乙10発明も、「あらかじめ地図情報が記録されているROM部を有するディスクに、更にユーザにより追記が可能な追記部を配したので、ディスクをユーザによる追記によって、ユーザ固有の使い勝手のよいディスクとすることができ、ディスクの利用価値を更に広げることができる。」(乙10、9頁右上欄5行〜11行)という同じ効果を有する。
(イ) 本件特許発明2と乙10発明の作用効果が異なるとする原告の主張は、本件特許発明2の作用効果として、「登録解除に該当する操作がされない限り」という本件明細書2に記載も示唆もない限定を加えたものであって、理由がない。
(ウ) よって、本件特許発明2及び乙10発明は、作用効果においても一致する。
(3) 原告が主張する相違点及びその非容易想到性について
ア 原告が主張する相違点1及び2について
 原告の相違点の主張は、いずれも、本件特許発明2の第2記憶手段が、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶するものであることを前提とするところ、そのように解すべき理由がないことは、前記17(被告の主張)(2)イのとおりであるから、原告が主張する相違点は存在しない。
イ 原告が主張する相違点1の非容易想到性について
 原告が相違点1につき非容易想到であると主張する根拠は、乙10発明のRAMが、本件特許発明2の「第2記憶手段」とはその役割及び機能が全く異なっていること及び乙10発明が「ユーザ地点登録」とは全く関係のない発明であるということに基づくものであるが、これらがいずれも理由がないことは、前記(2)のとおりである。
ウ 原告が主張する相違点2の非容易想到性について
 原告は、乙10発明には、相違点2(構成要件2−G)を克服すべき理由がないと主張する。
 しかしながら、乙10発明につき、今回設定する目的地の表示のために、前回設定された目的地の位置に示されたシンボルを必ず消去しなければならないと限定的に解釈する理由はないから、乙10発明が相違点2(構成要件2−G)を克服すべき理由がないとする原告の主張も、理由がない。
(4) 小括
 以上のとおり、本件特許発明2は、乙10文献に記載されているか、又は少なくとも乙10発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであって、特許無効審判により無効にされるべきものであるから、本件特許権2に基づく権利行使は許されない。
(原告の主張)
(1) 乙10発明の内容
 乙10発明は、地図情報のほかに副情報を記録するには、地図情報の記録媒体とは別途の記録媒体に記録しなければならなかったという従来技術における課題を解決するために、副情報を容易に記憶、再生できるようにした発明であって、ユーザ地点登録機能に関する課題を解決する本件特許発明2とは全く異なる発明であるが、あえて本件特許発明2になぞらえて乙10発明を記載すれば、以下のとおりである。
a 車載用ナビゲーションシステムとしても用いることが可能な地図情報の記録再生システムであって、
b 複数の施設等の名称情報とその座標データをあらかじめPROMに記憶したディスクと、
c 前記ディスクのEPROM部から目的地が含まれる施設の名称と名称データ番号を読み出してこれを表示させる手段と、
d 前記画面に表示された名称データ番号のうちの1つを釦の操作に応じて指定する手段と
e 指定された名称データ番号に対応する座標データ等をディスクのPROM部から読み出す手段と、
f 読み出された座標データ等を、表示処理等のために一時的に記憶する当該システムに備えられたRAMと、
g 前記目的地と現在地が含まれる地図を表示する際に、RAMから座標データ等を呼び出して、目的地の位置を黒丸で地図上に重畳して画面に表示させる手段を含む、
h 地図情報の記録再生システム装置。
(2) 本件特許発明2と乙10発明との相違点
 本件特許発明2と乙10発明とを対比すれば、相違点は次のとおりである。
 相違点1:本件特許発明2の第2記憶手段は、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、登録した地点の座標データを常時読み出すことができるように記憶するのに対し、乙10発明のRAMは、ディスクから読み出された座標データ等を、表示処理等のために一時的に記憶するにすぎない点(構成要件2−Fに関係)。
 相違点2:本件特許発明2においては、ユーザ地点登録をした後は、特に登録解除に該当する操作等がされない限り、地図が表示されているときに第2記憶手段から当該登録した地点の座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示させる手段を有するのに対し、乙10発明においては、目的地と現在地が含まれる地図を表示する際に、RAMから座標データ等を呼び出して、目的地の位置を黒丸で地図上に重畳して画面に表示させる手段を有するにすぎない点(構成要件2−Gに関係)。
(3) 相違点の非容易想到性
ア 相違点1の非容易想到性
 本件特許発明2の第2記憶手段と乙10発明のRAMとは、前記(2)のとおり、その役割及び機能が全く異なっている。また、乙10発明は、ディスクを用いて目的地と現在地の間の地図を追加情報付きで表示するための装置に関する発明であり、「ユーザ地点登録」とは全く関係のない発明であるから、乙10発明において、本件特許発明2の特徴である「ユーザ地点登録」と密接に関係する相違点1に係る構成(構成要件2−F)を容易に想到し得たということはできない。
イ 相違点2の非容易想到性
(ア) 乙10発明における地図上の黒丸は、各回ごとに設定される目的地及び現在地に対応したものであって、次の目的地が設定されれば、今回の目的地に対応する黒丸は表示されなくなるから、今回の表示における黒丸を次回に地図が表示されるときに表示することはあり得ない。したがって、当業者が相違点2に係る構成を容易に想到し得たということはできない。
 これに対し、被告は、乙10発明につき、今回設定する目的地の表示のために、前回設定された目的地の位置に示されたシンボルを必ず消去しなければならないと限定的に解釈する理由はないと主張する。しかしながら、前記(1)の乙10発明の内容に照らして、RAMに対する情報の記憶は、各回の利用において地図表示をさせるに当たっての記憶であり、次回の利用に当たってはその情報は消えると解するのが自然である。また、前回設定された目的地のシンボルが消えないと、目的地設定回数が増えるにつれて多数のシンボルが表示され、見にくくなることから、シンボルが消えないと解するのは不自然である。
(イ) 被告は、「黒丸」と「所定のパターン」が相違するとしても、乙8発明や乙9発明によって当業者が容易に想到し得ると主張する。
 しかしながら、そもそも相違点2を克服すべき理由がない乙10発明においては、乙8文献及び乙9文献にどのような記載があっても、当該相違点を克服することはできないから、これらの記載をもって、当業者が相違点2に係る構成を容易に想到し得たということはできない。
ウ 作用効果について
 本件特許発明2の効果は、登録解除に該当する操作等がされない限り、当該登録した地点を地図上で容易に確認できるというものである。これに対し、乙10発明は、ディスクに追記部を配したことにより追加情報が記録できるという作用効果を奏する発明であって、本件特許発明2のように登録した地点を地図上で容易に確認できるという効果は何ら奏さない。
(4) 小括
 以上のとおり、本件特許発明2は、乙10文献に記載された発明ではなく、また、本件特許発明2は、乙10発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。
20 争点(8)(差止めの必要性及びその対象)について
(原告の主張)
(1) 被告サーバーの使用の差止めについて
 別紙物件目録記載1の「「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスにかかるナビゲーション装置」(被告装置)とは、被告サービスに係るサーバー(被告サーバー)及び携帯端末(本件携帯端末)を含むものである。
 そして、被告装置のうち、被告が物理的に管理支配しているのは、被告サーバーであり、被告が被告サーバーの使用を止めて被告サービスの提供を中止すれば、本件携帯端末は、被告装置を構成する携帯端末ではなくなる。すなわち、被告による被告サーバーの使用を差し止めることにより、被告による被告装置の使用という直接侵害行為が停止することとなる。
 したがって、前記12の被告装置の使用による直接侵害行為を停止するために、被告サーバーの使用の差止めを求める。
(2) 別紙物件目録記載3のサーバー用プログラムの抹消について
 被告装置の使用に際し用いられる別紙物件目録記載3のサーバー用プログラムは、前記12の被告装置の使用による直接侵害行為に供した設備(特許法100条2項)に該当する。
(3) 本件携帯端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出の差止めについて
 被告が行う本件携帯端末用プログラムのKDDIへの譲渡等の差止めは、前記13の被告装置の生産による直接侵害行為の予防に必要な行為(特許法100条2項)として、認められるべきである。
 また、被告が行う本件携帯端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出は、前記14のとおり、被告装置の使用又は被告装置の生産を直接侵害行為とする間接侵害行為であるから、差止めの対象となる(特許法100条1項)。
(4) 小括
 以上のとおり、@被告による被告装置の使用による直接侵害に基づき、被告サーバーの使用の差止め(特許法100条1項)及び当該直接侵害行為に供した設備に該当する別紙物件目録記載3のサーバー用プログラムの抹消を求める(同条2項)とともに、A被告装置の使用を直接侵害行為とする間接侵害、被告ら三者による被告装置の生産による共同直接侵害又は被告装置の生産を直接侵害行為とする間接侵害に基づき、本件携帯端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出の差止め(同条1項)を、それぞれ求める。
(被告の主張)
 否認又は争う。
21 争点(9)(原告の損害)について
(原告の主張)
(1) 被告サービスの提供を受けることを希望する本件携帯端末のユーザーは、会員登録を行って、KDDIに対して、利用料月額315円(税込)を支払うか、24時間157円(税込)を支払う。被告サービス開始日以降、被告サービスの利用に対してKDDIに支払われた金額は、累計で54億円を下らないところ、そのうちKDDIより被告に支払われた金額は、その8割相当額である43億2000万円を下らない。
 そして、本件各特許発明についての特許法102条3項のロイヤリティ相当額は、被告装置の使用により得られた額の10%を下らない。
 したがって、原告は、被告に対し、同項に基づき、少なくとも4億3200万円の損害賠償請求権を有する。
(2) また、前記14のとおり、本件携帯端末用プログラムの譲渡等の行為は、本件各特許権の間接侵害に該当するところ、本件携帯端末用プログラムがプリインストールされた本件携帯端末につき、その販売開始時である平成18年9月から平成21年9月までに販売された台数は、3300万台を超える。
 そして、本件各特許発明についての特許法102条3項のロイヤリティ相当額は、少なくとも1台当たり50円を超えるから、合計で16億5000万円を下らない。
 したがって、原告は、同項の類推適用に基づき、被告に対し、少なくとも16億5000万円の損害賠償請求権を有する。
(3) 以上より、原告は、被告に対し、特許法102条3項に基づき、少なくとも前記(1)及び(2)の各損害額の合計である20億8200万円の損害賠償請求権を有する。
 そして、被告は、前記(1)の損害賠償請求権のうちの一部として2億円を、前記(2)の損害賠償請求権のうちの一部として8億円を請求する。
(被告の主張)
 否認又は争う。なお、被告は、本件携帯端末用プログラムをKDDIに提供するに当たり、同社からライセンス料その他一切の対価を受領していない。
第4 当裁判所の判断
1 被告装置の構成要件1−A及び1−F並びに構成要件2−A及び2−Hの充足性(被告装置は「車載ナビゲーション装置」か。)(争点(1)ア及び(2)ア)
(1) 問題の所在(被告装置の構成と本件各特許発明の技術的範囲との関係)
ア 本件各特許発明は、いずれも、その特許請求の範囲の記載に照らして、それぞれ構成要件1−Aないし1−E及び2−Aないし2−Gの構成を有する「車載ナビゲーション装置」であることが、特許発明の技術的範囲であると解される。
イ 被告装置の構成
 他方で、証拠(甲3の1、5、6、9)及び弁論の全趣旨によれば、被告装置の構成は、以下のとおりであると認められる。
(ア) 被告装置は、被告が管理・運営し、車両には搭載されていない被告サーバーと、ユーザーにおいて保持する本件携帯端末等から構成される(争いのない事実)。
(イ) 被告サーバーは、CPU、記憶手段、データ送受信部を含んで構成されている。そして、当該記憶手段には、経路探索を行う探索エンジン、道路網データ及び地図描画データが記憶されており、被告サーバーは、ルート探索結果に基づき、地図描画データを作成することができる。また、本件携帯端末ごとの固有の情報を記憶する記憶手段が設けられている(争いのない事実)。
(ウ) 本件携帯端末は、CPU、記憶手段、データ送受信部、GPS受信部、ディスプレイ、入力のためのキーを含んで構成されている。そして、当該記憶手段は、被告サーバーで作成された地図描画データを表示するための地図レンダリングエンジンを含むアプリケーションが搭載されている(争いのない事実)。
(エ) 以上のような被告サーバー及び本件携帯端末の構成からすれば、被告装置においては、現在地及び目的地を入力・設定して、経路探索を行い、その結果をディスプレイに表示してユーザーに伝達するために、被告サーバーと本件携帯端末が、それぞれ次の機能を分担しているものと認められる。
a 本件携帯端末のGPS受信部によってGPS信号を受信することにより本件携帯端末の所在地である現在地情報を取得し、また、本件携帯端末におけるキー操作に基づき目的地の入力(なお、どのような操作を行った段階で目的地が設定されるかについては、後記のとおりである。)を行う。
b これらの現在地情報及び目的地に関する情報は、被告サーバーに転送され、被告サーバーにおいては、これらの情報に基づき、現在地から目的地に至るルートを探索し、探索結果に基づき、地図描画データが作成される。
c 当該地図描画データは、本件携帯端末に転送され、本件携帯端末のディスプレイの画面上にルートの探索結果が表示される。
ウ 以上のとおり、被告装置は、被告サーバーと本件携帯端末とによって構成され、両者がそれぞれ機能を分担してナビゲーション機能を果たしていることから、このような被告装置が「車載ナビゲーション装置」ということができるか否か、すなわち、本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」が、複数の機器に機能が分担され、かつ、その機器の一部が車両に搭載されていないものを含むか否かが問題となる。
(2) 本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」の意義
ア 特許請求の範囲の記載について
 本件各特許の特許請求の範囲の記載は、前記争いのない事実等(2)ア記載のとおりであり、これには、「車載ナビゲーション装置」を構成する機器の一部を車両外に設けることができることをうかがわせる記載はない。他方で、機器の一部を車両外に設けてはならないことをうかがわせる記載もない。
イ 本件各明細書の記載について
 本件各明細書には、「車載ナビゲーション装置」の意義・構成に関して、次のような記載がある(甲2の1及び2)。
(ア) 本件明細書1の記載
 「【0002】
 【背景技術】地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを含む地図データをCD−ROM等の記憶媒体に記憶しておき、車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置は例えば、特開昭63−12096号公報に開示され既に公知である。」
 「【0003】かかる車載ナビゲーション装置においては、現在地から目的地に至る航行情報としての方位及び距離を方位センサ及び距離センサ等のセンサの出力に応じて算出してディスプレイ上に表示することも行なわれている。目的地は運転者等のユーザのキー操作によりデータ入力されてメモリに目的地座標データとして記憶される。」
 「【0005】
 【発明の構成】本発明の車載ナビゲーション装置は、目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標データ及び車両の現在地を示す現在地座標データに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲーション装置であって、目的地座標データを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座標データを読み出す手段と、読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴としている。」
 「【0007】
 【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を示すブロック図である。本ナビゲーション装置において、方位センサ1は車両の走行方位を検出し、角速度センサ2は車両の角速度を検出し、距離センサ3は車両の走行距離を検出するためのものであり、GPS(Global Positioning System) 装置4は経度及び緯度情報等から車両の絶対的な位置を検出するためのものであり、これら各センサ(装置)の検出出力はシステムコントローラ5に供給される。方位センサ1としては、例えば地磁気(地球磁界)によって車両の走行方位を検出する地磁気センサが用いられる。また、距離センサ3は車両のドライブシャフト(図示せず)の所定角度の回転毎にパルスを発生するパルス発生器からなる。」
 「【0008】システムコントローラ5は各センサ(装置)1〜4の検出出力を入力としA/D(アナログ/ディジタル)変換等の処理を行なうインターフェース6と、種々の画像データ処理を行なうとともにインターフェース6から順次送られてくる各センサ(装置)1〜4の出力データに基づいて車両の走行距離、走行方位及び現在地座標(経度、緯度)等の演算を行なうCPU(中央処理回路)7と、このCPU7の各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれたROM(リード・オンリ・メモリ)8と、プログラムを実行する上で必要な情報の書込み及び読出しが行なわれるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)9とから構成されている。RAM9は本ナビゲーション装置の電源断時にもバッテリー(図示せず)の出力電圧を安定化した電圧が供給されて後述する目的地座標データ、目的地記憶フラグ等のデータが消滅しないようにバックアップされる。」
 「【0009】外部記憶媒体として、読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例えばCD−ROMが用いられる。(中略)CD−ROMには、地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図データが予め記憶されている。このCD−ROMはCD−ROMドライバー10によって記憶情報の読取りがなされる。CD−ROMドライバー10の読取出力はCD−ROMデコーダ11でデコードされてバスラインLに送出される。」
 「【0010】車両のいわゆるアクセサリスイッチ12を経たバッテリーからの車両電源電圧がレギュレータ13で安定化されて装置各部の電源として供給されるようになっている。なお、上記したRAM9への供給電源はアクセサリスイッチ12を介さずにレギュレータ13とは別の図示しないレギュレータで安定化される。CPU7は、車両の走行時には、タイマー割込みにより所定周期で方位センサ1の出力データに基づいて車両の走行方位を計算し、かつ距離センサ3の出力データに基づく一定距離走行毎の割込みにより走行距離及び走行方位から車両の現在地の座標データである経度及び緯度データを求め、その現在地点座標を含む一定範囲の地域の地図データをCD−ROMから収集し、この収集したデータをRAM9に一時的に蓄えるとともに表示装置16に供給する。」
 「【0011】表示装置16は、CRT等のディスプレイ17と、V(Video)−RAM等からなるグラフィックメモリ18と、システムコントローラ5から送られてくる地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像データを出力するグラフィックコントローラ19と、このグラフィックコントローラ19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべく制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21はキーボード等からなり、使用者によるキー操作により各種の指令等をシステムコントローラ5に対して発する。そのキーとして目的地を設定するための設定キー、ディスプレイ17上に示された事項の選択用の数字キー及び過去に設定した目的地を呼び出すための目的地復帰キー(共に図示せず)等のキーが設けられている。」
(イ) 本件明細書2の記載
 「【0002】
 【背景技術】地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを含む地図データをCD−ROM等の記憶媒体に記憶しておき、車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置は例えば、特開昭63−12096号公報に開示され既に公知である。」
 「【0006】
 【発明の構成】本発明の車載ナビゲーション装置は、地図を表示器に表示する車載ナビゲーション装置であって、複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段と、該第1記憶手段から表示データを読み出してその表示データに応じて複数のサービス施設を表示器に表示させる手段と、表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標データを記憶する第2記憶手段と、表示器に地図が表示されているとき第2記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とを特徴としている。」
 「【0008】
 【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を示すブロック図である。本ナビゲーション装置において、方位センサ1は車両の走行方位を検出し、角速度センサ2は車両の角速度を検出し、距離センサ3は車両の走行距離を検出するためのものであり、GPS(Global Positioning System) 装置4は緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するためのものであり、これら各センサ(装置)の検出出力はシステムコントローラ5に供給される。方位センサ1としては、例えば地磁気(地球磁界)によって車両の走行方位を検出する地磁気センサが用いられる。また、距離センサ3は車両のドライブシャフト(図示せず)の所定角度の回転毎にパルスを発生するパルス発生器からなる。」
 「【0009】システムコントローラ5は各センサ(装置)1〜4の検出出力を入力としA/D(アナログ/ディジタル)変換等の処理を行なうインターフェース6と、種々の画像データ処理を行なうとともにインターフェース6から順次送られてくる各センサ(装置)1〜4の出力データに基づいて車両の走行距離、走行方位及び現在地座標(経度、緯度)等の演算を行なうCPU(中央処理回路)7と、このCPU7の各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれたROM(リード・オンリ・メモリ)8と、プログラムを実行する上で必要な情報の書込み及び読出しが行なわれるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)9とから構成されている。RAM9は本ナビゲーション装置の電源断時にもバッテリー(図示せず)の出力電圧を安定化した電圧が供給されて後述する経度及び緯度データ、地点表示パターンデータ、地点登録フラグ等のデータが消滅しないようにバックアップされる。」
 「【0010】外部記憶媒体として、読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例えばCD−ROMが用いられる。(中略)CD−ROMには、地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図データの他に後述するサービスリスト表示データ、詳細表示データ、地点座標データとしての経度及び緯度データ並びに地点表示パターンデータが予め記憶されている。このCD−ROMはCD−ROMドライバー10によって記憶情報の読取りがなされる。CD−ROMドライバー10の読取出力はCD−ROMデコーダ11でデコードされてバスラインLに送出される。」
 「【0011】車両のいわゆるアクセサリスイッチ12を経たバッテリーからの車両電源電圧がレギュレータ13で安定化されて装置各部の電源として供給されるようになっている。なお、上記したRAM9への供給電源はアクセサリスイッチ12を介さずにレギュレータ13とは別の図示しないレギュレータで安定化される。CPU7は、車両の走行時には、タイマー割込みにより所定周期で方位センサ1の出力データに基づいて車両の走行方位を計算し、かつ距離センサ3の出力データに基づく一定距離走行毎の割込みにより走行距離及び走行方位から車両の現在地の座標データである経度及び緯度データを求め、その現在地点座標を含む一定範囲の地域の地図データをCD−ROMから収集し、この収集したデータをRAM9に一時的に蓄えるとともに表示装置16に供給する。」
 「【0012】表示装置16は、CRT等のディスプレイ17と、V(Video)−RAM等からなるグラフィックメモリ18と、システムコントローラ5から送られてくる地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像データを出力するグラフィックコントローラ19と、このグラフィックコントローラ19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべく制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21はキーボード等からなり、使用者によるキー操作により各種の指令等をシステムコントローラ5に対して発する。そのキーとしてディスプレイ17上に示された事項の選択用の選択キー、ディスプレイ17の表示内容を切換えるための取消しキー及びRAM9にデータを記憶させるための地点登録キー(共に図示せず)等のキーが設けられている。」
(ウ) 本件各明細書が開示する「車載ナビゲーション装置」について
 以上のとおり、本件各明細書の実施例においては、@方位センサ、角速度センサ、距離センサ及びGPS装置等の各センサ、Aインターフェース、CPU、ROM及びRAMから構成されるシステムコントローラ、B外部記憶媒体(例えば、CD−ROM)から地図データを読み取る読取手段、Cディスプレイ、グラフィックメモリ、グラフィックコントローラ及び表示コントローラから構成される表示装置、D入力装置の各構成要素から成る一体の機器としての「車載ナビゲーション装置」が開示されている。
 他方で、これらの構成要素である一部の機器を車両外に設置し、車両内に搭載された機器と車両外の機器との間で情報を交信その他の手段によって交換することによって、1つの「車載ナビゲーション装置」を構成することは開示されていない。
ウ 「車載」及び「装置」の一般的な意義
 証拠(甲22ないし25)によれば、「車載」という語の一般的な意義は、「車に積みのせること」をいうと認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、「装置」という語の一般的な意義は、「ある目的のために機械・道具等を取り付けること。そのしかけ。」をいい、一定の機能を持ったひとまとまりの機器をいうと認められる。
エ 検討
(ア) 前記ウの「車載」及び「装置」という語の一般的な意義からすれば、「車載ナビゲーション装置」とは、車両に載せられたナビゲーションのための装置(ひとまとまりの機器)をいい、ひとまとまりの機器としてのナビゲーション装置が車両に載せられていることを意味すると解するのが、自然である。そして、本件各特許の特許請求の範囲の記載のように、A、B、C、Dとの「手段を含むことを特徴とする車載ナビゲーション装置」というとき、「ナビゲーション装置」がA、B、C、Dという手段を備えるとともに、そのような手段を備えたナビゲーション装置が「車載」、すなわち、車に載せられていることが必要であると解するのが、その文言上、自然である。
 また、本件各明細書に開示されている「車載ナビゲーション装置」の構成は、前記イのとおり、各構成要素から成る一体の機器としての「車載ナビゲーション装置」であって、被告装置における被告サーバーと本件携帯端末のように、車両内の機器と車両外の機器にナビゲーション装置の機能を分担させ、両者間の交信その他の手段によって情報の交換を行い、全体として「ナビゲーション装置」と同一の機能を持たせることは開示されていない。したがって、各機器をどのように構成し、また、各機器にどのように機能を分担するか、各機器間の情報の交換をどのような手段によって行うかについても、本件各明細書には何らの開示もされていない。
 さらに、本件各特許発明はナビゲーション「装置」に関する特許発明であるから、「装置」の構成が特許請求の範囲に記載された構成と同一であるか否かが問題となるのであって、同一の機能、作用効果を有するからといって、構成が異なるものをもって、本件各特許発明の技術的範囲に属するということはできないことはいうまでもない。
 以上のことからすれば、本件各特許発明にいう「車載ナビゲーション装置」とは、一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられていることが必要であり、車両に載せられていない機器は、「車載ナビゲーション装置」を構成するものではないと解される。
(イ) 原告の主張について
 原告は、「車載」の通常の意義、本件明細書1の段落【0002】の記載及び本件特許発明1の作用効果等に照らして、その構成の一部を車両に載せた状態にする必要はあるが、その構成のすべてを車両に載せることまでは要求していないと解すべきであると主張する。
 しかしながら、原告は、その前提として「車両用ナビゲーション装置」と「車載ナビゲーション装置」とを同一のものとしているが、「車両用」のナビゲーション装置と「車載」されたナビゲーション装置とは必ずしも同義ではない(例えば、車両外にナビゲーション装置を設置し、その経路探索結果や進路等をドライバー等に連絡する等、車両用のナビゲーション装置であっても、車載されないものもあり得る。)。
 また、特許請求の範囲の記載や本件各明細書の記載に照らして、その構成のすべてが車両に載せられた状態にある必要があること、作用効果又は機能が同一であれば、機器の全部が「車載」されている必要はないということはできないことは、前記(ア)のとおりである。
 したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
(3) 被告装置への当てはめ
 前記(1)のとおり、被告装置は、被告サーバーと本件携帯端末とから成り、それぞれが機能を分担し、両者の間でデータ通信を行うことによってナビゲーション機能を果たすものであって、一体の機器である「ナビゲーション装置」ではなく、むしろ、「ナビゲーション装置」を含み、かつ、「ナビゲーション装置」より広い概念である「ナビゲーションシステム」というべきものである。そして、被告装置を構成する被告サーバーは、車両に積み載せられておらず、かつ、被告サーバーがなければ、被告装置はナビゲーションシステムとしての機能を果たさないものである。以上のことからすれば、被告サーバーと本件携帯端末とから成る被告装置は、一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられているということはできない。
 よって、被告装置は、「車載ナビゲーション装置」であると認めることはできず、構成要件1−A及び1−F並びに2−A及び2−Hのいずれも充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件各特許発明の技術的範囲に属するとは認められない。
 以上のとおりであって、原告の請求は理由がないことに帰するが、事案にかんがみ、仮に被告装置が「車載ナビゲーション装置」の要件を満たすとした場合の、構成要件1−A及び2−A中の「車載ナビゲーション装置」以外の要件部分の充足性並びに構成要件1−Bないし1−E及び構成要件2−Bないし2−Gの各構成要件の充足性について、以下、判断する。
2 被告装置の構成要件1−Aないし1−E中の「目的地座標データ」の要件の充足性(争点(1)イないしエ)
 本件特許発明1の構成要件1−Aないし1−Eにおいては、いずれも「目的地座標データ」がその要件の一部とされており、それらはいずれも同一の技術的意義を有するものと解されるので、以下、この点について検討する。
(1) 「目的地座標データ」の意義
ア 本件明細書1には、「目的地座標データ」の意義に関して、次の記載がある(甲2の1)。
 「【0003】かかる車載ナビゲーション装置においては、現在地から目的地に至る航行情報としての方位及び距離を方位センサ及び距離センサ等のセンサの出力に応じて算出してディスプレイ上に表示することも行なわれている。目的地は運転者等のユーザのキー操作によりデータ入力されてメモリに目的地座標データとして記憶される。メモリに目的地座標データが記憶されている限り、その目的地座標データに基づいて現在地から目的地に至る方位及び距離が算出されてディスプレイ上に表示されるが、車両の走行時に現在地から目的地までの距離が所定値以下になったとき車両が目的地に到着したとして目的地座標データがメモリから自動的に消去されて方位及び距離が表示されなくなる。従って、従来の装置においては、前回と同一の目的地を新たな目的地として設定する場合であっても複雑なキー操作により設定する必要があった。」
 「【0004】
 【発明の目的】本発明の目的は、過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる車載ナビゲーション装置を提供することである。」
 「【0006】
 【発明の作用】本発明の車載ナビゲーション装置においては、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データをメモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込んで過去に設定した目的地の座標データを記憶して置き、目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座標データを読み出し、読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定することが行なわれる。」
 「【0012】次に、CPU7によって実行される目的地座標データのRAM9への書き込みについて図3及び図4にフローチャートとして示した目的地設定ルーチンに従って説明する。この設定ルーチンは、(略)車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ17上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を表示させる処理等をなすメインルーチン(図示せず)の実行中において、入力装置21におけるユーザによるキー操作によって設定メニューが選択されたときに呼び出されて実行されるものとする。」
 「【0013】目的地設定ルーチンにおいて、CPU7は先ず、目的地設定方法の選択要求を行なう(ステップS1)。これは例えば、ディスプレイ17上に「1.登録選択設定2.新規設定」の如く表示させて入力装置21によるキー操作によりいずれか一方を選択させることにより行なわれる。そして、選択のためにキー操作されたか否かを判別し(ステップS2)、キー操作されたならば選択結果が目的地の新規設定であるか否かを判別する(ステップS3)。入力装置21の例えば、設定キー或いは数字の「2」キーが操作されて新規設定が選択された場合には目的地の指定要求を行なう(ステップS4)。これはディスプレイ17上に地図を表示させて目的地を入力装置21によるキー操作により地図上にカーソルで指定するメッセージをその地図と共に表示させることにより行なわれる。そして、指定入力があったか否かを判別し(ステップS5)、指定入力があった場合にはその指定入力された地点の経度及び緯度データ(x、y)を地図データから得て目的地座標データDESTとしてRAM9に記憶させる(ステップS6)。」
 「【0014】次いで、目的地記憶フラグFに1をセットし(ステップS7)、目的地座標データが設定されてRAM9へ書き込まれたことを記憶させて置く。そして、ポインタPに1を加算し(ステップS8)、ポインタPがRAM9の登録データテーブルの最大アドレスAmaxより大であるか否かを判別する(ステップS9)。ポインタPはRAM9の登録データテーブルに現段階で最後に書き込まれた目的地座標データの記憶位置のアドレスを示しており、RAM9への電源投入直後におけるその初期値は例えば、最大アドレスAmaxにされている。P≦Amaxならば、目的地座標データDESTを登録データテーブルのポインタPで指定されるアドレス位置に書き込む(ステップS10)。P>Amaxならば、ポインタPを登録データテーブルの最小アドレスA1に等しくさせ(ステップS11)、その後、ステップS10に移行して目的地座標データDESTを登録データテーブルに書き込む。」
 「【0015】入力装置21の例えば、目的地復帰キー或いは数字の「1」キーが操作されてステップS3において登録選択設定と判別した場合にはアドレスAwをポインタPに等しくさせ(ステップS12)、アドレスAwが登録データテーブルの最小アドレスA1より小であるか否かを判別する(ステップS13)。Aw≧A1ならば、そのアドレスAwで指定される登録データテーブルの記憶位置からデータを読み出す(ステップS14)。Aw<A1ならば、アドレスAwを登録データテーブルの最大アドレスAmax に等しくさせ(ステップS15)、その後、ステップS14に移行する。ステップS14の実行後、読み出したデータが目的地座標データであるか否かを判別する(ステップS16)。(略)読み出したデータが目的地座標データである場合には、読み出した目的地座標データが示す目的地を表示させるべくディスプレイ17上に表示すべく目的地座標データをグラフィックコントローラ19に供給する(ステップS17)。これにより例えば、ディスプレイ17上に「目的地:139°30′00″E、36°00′00″N」の如く目的地の経度及び緯度が表示される。次いで、入力装置21の設定キーが操作されたか否かを判別する(ステップS18)。
 (略)設定キーが操作されたならば、読み出した目的地座標データを目的地座標データDESTとしてRAM9に記憶させ(ステップS21)、ステップS7に進む。」
 「【0016】従って、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データがRAM9の登録データテーブルに記憶される。その記憶はアドレスA1からAmaxまでにおいてアドレス順に繰り返し行なわれ、最新の目的地座標データの記録位置のアドレスはポインタPによって示される。また、アドレスAmaxの次にはアドレスA1が指定され、いわゆるエンドレスで目的地座標データが記憶される。すなわち、登録データテーブルには設定が新しい目的地座標データがポインタPで示されるアドレスから順にアドレス数だけ記憶され得る。登録選択設定が選択された場合には先ず、ポインタPによって示されるアドレスAwに記憶された前回の目的地座標データが読み出され、その目的地座標データが示す経度及び緯度がディスプレイ17上に表示される。次いで、入力装置21の目的地復帰キーが操作されたならば、アドレスAwが1だけ減ぜられて前前回の目的地座標データが読み出され、その前前回の目的地座標データが示す経度及び緯度がディスプレイ17上に表示される。よって、目的地復帰キーが操作される毎に現在表示されている目的地より1だけ前に設定された目的地の経度及び緯度がディスプレイ17上に表示される。目的地の経度及び緯度がディスプレイ17上に表示されている状態で設定キーが操作されると、表示されている目的地の経度及び緯度データが目的地座標データDESTとしてRAM9に記憶され、ポインタPが1だけ加算されて、目的地座標データDESTが登録データテーブルのポインタPで指定されるアドレス位置に書き込まれる。」
 「【0018】次いで、CPU7によって実行される現在地から目的地への距離及び方位を算出する動作について図5にフローチャートとして示した距離及び方位算出ルーチンに従って説明する。(略)距離及び方位算出ルーチンにおいて、CPU7は先ず、目的地記憶フラグFが1であるか否かを判別する(ステップS31)。(略)F=1ならば、目的地座標データDESTがRAM9へ書き込まれているので、目的地座標データDESTをRAM9から読み出し(ステップS32)、センサ1及び3の各出力データに基づいて車両の現在地を示す経度及び緯度データからなる現在地座標データを求める(ステップS33)。(略)ステップS33の実行後、目的地座標データ及び現在地座標データに基づいて現在地から目的地への距離D及び方位θを算出し(ステップS34)、算出した距離D及び方位θをディスプレイ17上に所定期間だけ表示すべく距離D及び方位θを示すデータをグラフィックコントローラ19に供給する(ステップS35)。(略)」
 「【0019】なお、上記した実施例においては、目的地を示すデータとして目的地座標データだけを登録データテーブルに書き込んでいるが、目的地座標だけでなく目的地名をも含むデータを書き込み、目的地名をディスプレイ17に表示させても良い。また、ディスプレイ17上に一度に複数の目的地名や目的地の経度及び緯度を表示させてその表示させた複数の目的地のうちからキー操作により1の目的地を選択させるようにしても良い。」
 「【0020】
 【発明の効果】本発明の車載ナビゲーション装置においては、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データをメモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込んで過去に設定した目的地の座標データを記憶して置き、目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座標データを読み出し、読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定することが行なわれる。よって、過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な選択操作だけで済むので、目的地を容易に設定することができる。」
イ 検討
(ア) 以上のような本件明細書1の記載によれば、本件特許発明1の「目的地座標データ」は、従来技術のように目的地に到着すればそのデータがメモリから自動的に消去されるものではなく、記憶手段にこれを記憶しておくことによって、過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合に、簡単な操作で目的地を設定することができるという本件特許発明1の目的を達成するものであると認められる。
 このように、過去に設定した目的地の座標データを記憶するとともに、過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する際に、記憶した目的地の座標データを読み出すことができるようにする点に本件特許発明1の目的が存するところ、そのような発明の目的を達成するためには、目的地を設定したことと記憶される目的地座標データとが関連付けられている必要があると解される。
 すなわち、「目的地座標データ」とは、ユーザーによって目的地と設定された地点の経度及び緯度データ(x、y)をいい(特許請求の範囲、段落【0013】)、また、「目的地座標データ」が、それに基づき現在地から目的地に至る方位θ及び距離Dが算出され、算出した方位及び距離をディスプレイに表示するものであること(段落【0003】、【0018】)からすれば、単に検索された地点ではなく、目的地として設定された地点の座標データをいうと解される。そして、本件特許発明1が、過去に設定した目的地の「目的地座標データ」を読み出して(構成要件1−D参照)、そのうちの1つを選択して目的地を設定する(構成要件1−E)ことによって、簡単な操作で過去に設定した目的地と同一の目的地を設定することができるという本件特許発明1の目的を達成していることからすれば、読み出される「目的地座標データ」自体、目的地として設定された地点の座標データであるとの属性を付与されたものであることが必要であると解される。
 さらに、「目的地座標データ」に目的地として設定された地点の座標データであるとの属性を付与するためには、目的地座標データを記憶する際にも、過去に目的地として設定されたことのあるデータとして記憶され、具体的には、例えば、目的地として設定されたことのあるデータとして、当該データと他のデータとを判別することができる形式で、RAM9の登録データテーブルに書き込まれる(段落【0015】参照)等の手段により、目的地として設定されたことのあるデータとそうではない他のデータとを判別することができるように記憶されるものであると解される。
(イ) このように、「目的地座標データ」とは、目的地の設定と関連付けられ、過去に目的地として設定された地点の座標データであるとの属性が付与された座標データであると解される。
(2) 被告装置の構成について
ア 証拠(甲6、7)及び弁論の全趣旨によれば、被告サービスの説明においては、「最近探した地点(検索履歴)」から目的地を設定することが可能である旨説明されていること、本件携帯端末の画面上において過去の履歴を表示する際には、「検索履歴」として表示されていること(画面2−JないしL)、「検索履歴」のリストでは、目的地として設定されたか否かにかかわらず、検索された地点が表示されること、検索した地点を表示した段階(画面1−C)では、現在地を出発地としてルート検索を選択するのみならず、検索された地点の地図を確認又は修正すること、経由地を設定すること、検索した地点をMy地点に登録すること等のルート検索以外の様々な処理を選択することが可能であること、検索された地点を表示した画面(画面1−C)において、「今すぐ出発」を選択することによってGPS信号が受信され、現在地から目的地までのルートが探索されたことを示す画面が表示されること(画面1−G)が認められる。
 以上のことからすれば、被告装置においては、検索地点を表示した段階(画面1−C)で、当該地点が目的地として設定されていると認めることはできず、また、目的地として設定されたか否かにかかわらず、ユーザーが検索した地点を表示した段階で、検索された地点を記憶手段に記憶しているものと認められ、目的地として設定された段階で、目的地として設定された地点であるとの属性を持たせて設定された地点の座標データを記憶しているものとは認められない。
 そうすると、被告装置において記憶される座標データは目的地として設定された地点の座標データではなく、また、読み出される座標データは目的地として設定された地点の座標データとして読み出されるものでもないから、被告装置は、本件特許発明1にいう「目的地座標データ」を記憶し、これを読み出しているものと認めることはできない。したがって、被告装置は、構成要件1−Aないし1−Eのいずれも充足するとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、画面1−Cに「目的地」と表示されていることや選択された地点について「goal」を意味する「G」と表示されていること等をもって、検索した地点を選択した段階で目的地が設定されていると主張する。
 しかしながら、前記アで述べたところに照らして、画面1−Cの表示のみをもって、この段階で目的地として設定されたと認めることはできず、他に、この段階で目的地として設定されていると認めるに足る証拠もない。
 したがって、原告の前記主張は、理由がない。
(イ) また、原告は、構成要件1−Cに関し、被告装置においては、設定された目的地全件が記憶されているから、構成要件1−Cを充足すると主張する。
 しかしながら、前記アのとおり、本件特許発明1における「目的地座標データ」とは、目的地として設定したことと関連付けられ、目的地として設定された座標データであるとの属性が付与されたものをいうと解されるから、目的地として設定したことと関連なく座標データが記憶されているとしても、そのことをもって「目的地座標データ」が記憶されているということはできない。そして、被告装置においては、目的地として設定したこととは無関係に、検索するごとに検索した地点を記憶しているのであるから、メモリに記憶されている地点に目的地として設定された地点全件が含まれているとしても、それは目的地としての属性を有しないものであり、そのことによって構成要件1−Cを充足すると認められるものではない。
 したがって、原告の前記主張は、理由がない。
(3) 小括
 以上のとおり、被告装置は、構成要件1−Aないし1−Eのいずれも充足するとは認められない。
3 被告装置の構成要件1−C中の「目的地が設定される毎に」の要件の充足性(争点(1)イ)
 前記2のとおり、被告装置は、「目的地座標データ」を記憶するものではないから、構成要件1−Cを充足するとは認められないが、念のため、「目的地が設定される毎に」の要件についても判断する。
 前記2(1)の「目的地座標データ」の意義及び本件明細書1の記載(特許請求の範囲、段落【0003】、【0013】ないし【0016】)に照らして、「目的地が設定される毎に」目的地座標データをメモリに記憶するとは、ユーザーが目的地を設定した時点で、かつ、設定するたびに、地図データ又は既登録の目的地座標データ等から得られた、設定された目的地点の経度及び緯度データ(x、y)を、目的地座標データDESTとしてメモリに記憶することをいうと解される。これに対し、前記2(2)のとおり、被告装置においては、検索地点を表示した段階(画面1−C)で、当該地点が目的地として設定されていると認めることはできず、また、目的地として設定されたか否かにかかわらず、ユーザーが検索した地点を表示した段階で、検索された地点を記憶手段に記憶しているものと認められ、目的地として設定された段階で、目的地としての属性を持たせて設定された地点の座標データを記憶しているものとは認められない。
 したがって、被告装置は、構成要件1−C中の「目的地が設定される毎に」の要件も充足しているとは認められない。
4 被告装置の構成要件2−A中の「地図を表示器に表示する」の要件の充足性について
 被告装置において、本件携帯端末の画面に地図が表示されること(画面1−H、1−K、3−Qほか。争いのない事実。)から、被告装置は、構成要件2−A中の「地図を表示器に表示する」の要件を充足する。
5 被告装置の構成要件2−B及び2−Cの充足性(被告装置は「複数のサービス施設を示す表示データ」を「予め記憶した第1の記憶手段」を有するか。)
(争点(2)イ)
(1) 「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義
ア 本件明細書2の記載
 「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義に関して、本件明細書2には、次の記載がある(甲2の2)。
 「【0003】かかる車載ナビゲーション装置においては、車両の現在地周辺の地図を表示するだけでなく、地図に示された地域に存在するレストランやホテル等のサービス施設のうちユーザ各々で必要なものの存在地点を地図上にパターンで表示するユーザ地点登録機能が備えられている。このユーザ地点登録機能は、所望の地点を地図上にユーザにキー操作により指定させ、指定された地点の経度及び緯度データを地図データから得ると共にその地点の表示パターンをユーザに選択させ、その経度及び緯度データと表示パターンデータとをメモリに記憶させておき、ディスプレイ上に地図が表示されたときその地図の範囲内に存在する経度及び緯度データと表示パターンデータをメモリから読み出してその経度及び緯度データが示す位置にレストラン等を示す表示パターンを表示するものである。」
 「【0004】しかしながら、従来の車載ナビゲーション装置においては、ユーザ地点登録機能を利用するためにはユーザはサービスモードを起動させてそのサービスモードでディスプレイ上に表示されるサービス施設から必要なものを選び出し、その地図上の位置を覚えておいてサービスモードを終了した後、その位置をナビーゲーションの地図上から検索して指定しなければ登録できず、非常に面倒な操作を必要とした。」
 「【0005】
 【発明の目的】本発明の目的は、面倒な操作をすることなくユーザ地点登録をすることができる車載ナビゲーション装置を提供することである。」
 「【0007】
 【発明の作用】本発明の車載ナビゲーション装置においては、複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データが予め第1記憶手段に記憶され、表示器に表示された複数のサービス施設のうちから1のサービス施設を操作によって指定すれば、その1のサービス施設に対応する地点座標データを第1記憶手段から読み出して第2記憶手段にユーザ地点登録をするので、表示器に地図が表示されているときユーザ地点登録された地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させることができる。」
 「【0008】
 【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を示すブロック図である。(略)」
 「【0010】外部記憶媒体として、読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例えばCD−ROMが用いられる。なお、外部記憶媒体としては、CD−ROMに限らず、DATやICカード等の不揮発性記憶媒体を用いることも可能である。CD−ROMには、地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図データの他に後述するサービスリスト表示データ、詳細表示データ、地点座標データとしての経度及び緯度データ並びに地点表示パターンデータが予め記憶されている。このCD−ROMはCD−ROMドライバー10によって記憶情報の読取りがなされる。CD−ROMドライバー10の読取出力はCD−ROMデコーダ11でデコードされてバスラインLに送出される。」
 「【0013】次に、CPU7によって実行されるユーザ地点登録動作について図3にフローチャートとして示したサービス表示ルーチンに従って説明する。このサービス表示ルーチンは、センサ1及び3の各出力データに基づいて車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群をCD−ROMから読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ17上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を表示させる処理等をなすメインルーチン(図示せず)の実行中において、入力装置21におけるユーザによるキー操作によってサービス表示メニューが選択されたときに呼び出されて実行されるものとする。
 「【0014】サービス表示ルーチンにおいて、CPU7は先ず、サービスリストをディスプレイ17上に表示させる(ステップS1)。サービスリストは地域毎のレストランやホテルのリストであり、CPU7はCD−ROMに記録されたサービスリスト表示データを読み出してグラフィックコントローラ19に供給してグラフィックメモリ18の内容を書き換えさせる。これにより、ディスプレイ17上にサービスリストが表示される。例えば、レストランならば、町や市単位で和食、洋食、中華及びその他のレストランの店名が表示される。従って、ユーザは更に詳細情報(レストランならば場所、電話番号、メニュー、値段など)を得たい場合には入力装置21によるキー操作によりカーソルを移動させて選択キーを操作することになる。CPU7はステップS1の実行後、選択キーの操作があったか否かを判別し(ステップS2)、選択キーの操作があった場合には操作されたときのカーソル位置に応じて詳細表示データをCD−ROMから読み出すべくCD−ROMドライバー10に指令を与える(ステップS3)。例えば、サービスリストから選択されたレストランについての詳細表示データがCD−ROMから読み出される。CPU7は読み出した詳細表示データをグラフィックコントローラ19に供給し(ステップS4)、これにより選択されたレストラン又はホテルの詳細情報がディスプレイ17上に表示される。(略)」
イ 検討
(ア) 以上のとおり、本件明細書2には、構成要件2−Bの「複数のサービス施設を示す表示データ」の意義を直接明らかにした記載はない。
 ところで、本件明細書2中の本件特許発明2の目的についての記載をみると、本件特許発明2の目的は、従来技術における「面倒な操作をすることなくユーザ地点登録をすることができる車載ナビゲーション装置を提供すること」にある(段落【0005】)。ここで「面倒な操作」を要するとされた従来技術の問題点は、「従来の車載ナビゲーション装置においては、ユーザ地点登録機能を利用するためにはユーザはサービスモードを起動させてそのサービスモードでディスプレイ上に表示されるサービス施設から必要なものを選び出し、その地図上の位置を覚えておいてサービスモードを終了した後、その位置をナビーゲーションの地図上から検索して指定しなければ登録できす、非常に面倒な操作を必要とした」点にあるとされている(段落【0004】)。
 このように、従来技術においては、ユーザーがサービスモードにおいてディスプレイ上に表示された複数のサービス施設から必要なものを選び出し、その地図上の位置を覚えておいて、サービスモードを終了した後、その位置をナビゲーションの地図上から検索して指定するという操作が必要であったところ、本件特許発明2では、ユーザーが複数の施設から1つの施設を指定すると、その地点の地点座標データが第1記憶手段から読み出されて第2記憶手段に記憶されることから、選択したサービス施設の地図上の位置を覚えておいて、ナビゲーションの地図上でその位置を指定するという面倒な操作をすることなくユーザ地点登録をすることができるというものであって(構成要件2−Bないし2−F)、この点に本件特許発明2の技術的意義があると認められる。
 このような本件特許発明2の技術的意義に照らせば、本件特許発明2における「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、複数のサービス施設に関する情報(施設名等)が表示され、その1つを選択・指定することによって当該サービス施設の地点座標データが読み出されるものをいい、そのためには、「複数のサービス施設を示す表示データ」がサービス施設の存在地点を示す地点座標データと連結されていることが必要であるが、それ以上に、「複数のサービス施設を示す表示データ」の内容に何らかの限定を加えて解釈する理由はないと認められ、このことは、本件明細書2に接した当業者であれば、容易に理解することができるということができる。
(イ) 被告の主張について
 被告は、本件明細書2の段落【0010】や同【0014】の記載から、「複数のサービス施設」とは、ディスプレイに表示される地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストをいい、「複数のサービス施設を示す表示データ」とは、サービスリスト表示データであり、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータであって、また、複数のサービス施設に対して1個の表示データとして存在するものであると主張する。
 確かに、被告が主張するように、本件明細書2の段落【0014】には、「サービスリストをディスプレイ17に表示させる(ステップS1)」、「サービスリストは地域毎のレストランやホテルのリストであり」といった記載があり、本件明細書2には、他の実施例の態様は示されていない。
 しかしながら、本件明細書2には、本件特許発明2の技術的範囲が当該実施例に限定される旨の記載はないし(ちなみに、本件明細書2の段落【0016】では、ユーザ地点登録の時期についてではあるが、「なお、上記したユーザ地点登録動作においては、ディスプレイ17上に詳細表示がされた段階で地点登録キーが操作されると、ユーザ地点登録が行なわれるが、ディスプレイ17上にサービスリストが表示された段階で地点登録キーを操作すると、カーソル位置のレストラン等のサービス施設に対するユーザ地点登録が行なわれるようにしても良い。」として、他の実施態様が記載されている。)、前記(ア)の本件特許発明2における「複数のサービス施設を示す表示データ」の技術的意義に照らせば、これを本件明細書2に記載された実施態様に限定して理解するのは相当でない。また、前記(ア)の本件特許発明2の技術的意義に照らして、複数のサービス施設に対して1個の表示データとして存在するものに限定する理由もない。
 したがって、「複数のサービス施設」が地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストである必要はなく、また、第1記憶手段に記憶される「複数のサービス施設を示す表示データ」の内容も、地域ごとのレストランやホテルの店名や施設名のリストのデータに限定されるものではなく、名称等の複数のサービス施設に関するデータが第1記憶手段に記憶されていれば足りるものと解すべきである。
(2) 被告装置の構成要件2−Bの充足性
ア 被告装置においては、被告サーバーが本件携帯端末にカテゴリ別にサービス施設のリストを送信し、これを本件携帯端末が表示することは被告の自認するところである。
 そして、被告装置においては、例えば、ファミリーレストランを検索する場合には、@目的地を検索する(画面3−@)→Aカテゴリの中からファミレスを選択する(画面3−Aないし3−C)→B所在地域を選択する(画面3−Eないし3−H)という操作を経ることにより、選択した地域に存在する複数のファミリーレストランが本件携帯端末のディスプレイに表示され(画面3−I)、そこで、1つのファミリーレストランを選択し、「地図(確認/修正)」を選択すると、地図上に選択されたファミリーレストランの位置が表示される(画面3−Iないし3−K)ことが認められる(争いのない事実)。
 以上によれば、被告装置においては、被告サーバーの記憶手段に複数のサービス施設が記憶されており、併せて各サービス地点の位置を地図上に表示できるように、各サービス施設の存在地点を示す地点座標データも記憶されていると認められる。
イ このような被告装置の構成によれば、被告装置は、複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データをあらかじめ記憶した第1記憶手段を有しており、構成要件2−Bを充足すると認められる。
(3) 被告装置の構成要件2−Cの充足性について
 前記(2)で認定したところによれば、被告装置は、被告サーバーに記憶された複数のサービス施設を示すデータが、本件携帯端末を操作することによって本件携帯端末に読み出され、本件携帯端末の画面に表示されるものであり、第1記憶手段から複数のサービス施設の表示データを読み出してその表示データに応じて複数のサービス施設を表示器に表示させる手段を有するから、構成要件2−Cを充足すると認められる。
6 被告装置の構成要件2−D及び2−Eの充足性(被告装置は「表示された複数のサービス施設」から「1のサービス施設を…指定」しているか。)(争点(2)ウ)
(1) 被告装置の構成
 前記5(2)のとおり、被告装置においては、本件携帯端末の複数のサービス施設が表示された画面(画面3−I)から1つの施設を選択すると、選択された1つのサービス施設名が表示された画面(画面3−J)が現れ、同画面において、「地図(確認/修正)」を選択すると、選択されたサービス施設の所在位置が、地図上に表示される(画面B−K)。
(2) 被告装置の構成要件2−Dの充足性
ア 前記5(3)のとおり、被告装置においては、複数のサービス施設を示す表示データを第1記憶手段から読み出して、複数のサービス施設を表示器に表示させる手段を有している(構成要件2−C)と認められるから、前記(1)の本件携帯端末の画面における複数のサービス施設の表示(画面3−I)が、構成要件2−Dの「表示器に表示された複数のサービス施設」に該当する。また、前記(1)のとおり、本件携帯端末を操作して、本件携帯端末の画面に表示された複数のサービス施設から1つのサービス施設を選択することができることからすれば、本件携帯端末には「表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」があると認められる。
 したがって、被告装置は、表示器である本件携帯端末の画面に表示された複数のサービス施設のうちの1つのサービス施設を操作に応じて指定する手段を有するから、構成要件2−Dを充足すると認められる。
イ 被告の主張について
 被告は、被告サービスは、そもそも「複数のサービス施設を示す表示データ」を有していない以上、これに対応して表示される「複数のサービス施設」の中から「1のサービス施設」を指定することはできないと主張するが、被告装置が「複数のサービス施設を示す表示データ」を有することは前記5のとおりであるから、被告の当該主張は理由がない。
 また、被告は、被告サーバーには、「1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」がないと主張する。しかしながら、前記アのとおり、本件携帯端末に「1のサービス施設を操作に応じて指定する手段」があると認められるから、仮に、被告装置が「車載ナビゲーション装置」との要件を満たす場合には、被告サーバーにこの「指定する手段」がないことをもって、被告装置が構成要件2−Dを充足しないことになるものではない。
(3) 被告装置の構成要件2−Eの充足性
ア 前記(1)のとおり、指定されたサービス施設の所在位置が地図上に表示されるということは、被告装置においては、複数のサービス施設の存在地点を示す地点座標データをあらかじめ記憶した第1記憶手段(前記5参照)から、指定されたサービス施設の地点座標データが読み出されていると認められる。
 したがって、被告装置は、指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを第1記憶手段から読み出す手段を有するものであり、構成要件2−Eを充足すると認められる。
イ 被告の主張について
 被告は、この点についても、被告サーバーは、「複数のサービス施設を示す表示データ」を「予め記憶した第1記憶手段」を有しない(構成要件2−B)以上、構成要件2−E中の「第1記憶手段」もないと主張するが、この点に理由がないことは前記5のとおりである。
 また、被告は、被告装置には構成要件2−Dを充足する指定手段がないから、「指定された1のサービス施設に対応する地点座標データ」を読み出すことはできないと主張するが、被告装置には、当該指定手段が存することは前記(2)のとおりであるから、被告の当該主張には理由がない。
7 被告装置の構成要件2−Fの充足性
 被告装置においては、選択された1つのサービス施設名が表示された画面(画面3−J、3−L)において、「スポット情報を保存」を選択し、次の画面(画面3−M)で「My地点へ保存」を選択し(機種によっては、画面3−N(画面3−Jと同じ段階の画面)で「My地点に登録」を選択し)、さらに、次の画面(画面3−O)で「登録」を選択すると、選択された1つの当該サービス施設が「My地点」として登録され、本件携帯端末の画面上に地図が表示される際に、「My地点」として登録された施設の所在地が地図上に表示される(画面3−Q)(争いのない事実)。
 以上のことからすれば、地図が表示される際に、「My地点」として登録された地点の地点座標データが呼び出されていると認められるところ、この呼び出された地点座標データは、複数のサービス施設の存在地点を示す地点座標データが記憶された被告サーバーの記憶手段(構成要件2−Bの「第1記憶手段」)とは別個の記憶手段に記憶されるものであることは、被告もこれを争わず、被告装置は、このような構成を備えていると認められる。
 したがって、被告装置は、構成要件2−Fを充足すると認められる。
8 被告装置の構成要件2−Gの充足性(被告装置は「所定のパターン」を表示させる手段を有するか。)(争点(2)エ)
(1) 構成要件2−Gの解釈
ア 構成要件2−Gの「所定のパターン」の意義に関して、本件明細書2には、次の記載がある(甲2の2)。
 「【0015】(略)地点登録キーが操作されたならば、読み出した詳細表示データと1つの組になっている経度及び緯度データと地点表示パターンデータとをCD−ROMから読み出すべくCD−ROMドライバー10に指令を与える(ステップS8)。そして、最後に書き込まれたアドレスを示すポインタPに1を加算し(ステップS9)、読み出した経度及び緯度データと地点表示パターンデータとを一対のデータとしてRAM9の地点登録データテーブルのポインタPで指定される記憶位置に書き込み(ステップS10)、地点登録フラグFに1をセットする(ステップS11)。ポインタPはRAM9の地点登録データテーブルに現段階で最後に書き込まれた経度及び緯度データと地点表示パターンデータとの記憶位置のアドレスを示しており、RAM9への電源投入直後におけるその初期値は例えば、A1にされている。」
 「【0017】(略)現在表示中の地図の範囲内の経度及び緯度データ(xn、yn)ならば、地点登録データテーブルのアドレスAnの記憶位置から地点表示パターンデータDnを読み出し(ステップS25)、経度及び緯度データ(xn、yn)と地点表示パターンデータDnとをグラフィックコントローラ19に供給する(ステップS26)。これにより、ディスプレイ7において経度及び緯度データ(xn、yn)が示す地図上の位置に地点表示パターンデータDnが示す表示パターンが表示される。例えば、レストランならば、表示パターン「R」が、ホテルならば表示パターン「H」がその存在する地図上の位置に表示される。」
 「【0019】
 【発明の効果】本発明の車載ナビゲーション装置においては、複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データが予め第1記憶手段に記憶され、表示器に表示された複数のサービス施設のうちから1のサービス施設を操作によって指定すれば、その1のサービス施設に対応する地点座標データを第1記憶手段から読み出して第2記憶手段にユーザ地点登録をするので、表示器に地図が表示されているときユーザ地点登録された地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させることができる。よって、簡単な操作でユーザ地点登録をすることができ、これにより表示された地図上においてレストランやホテル等のユーザ各々で必要なサービス施設の地点を容易に確認することができる。」
イ 前記アの本件明細書2の記載からは、構成要件2−Gの「所定のパターン」の意義は必ずしも明らかではないが、発明の効果についての記載において、地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示することにより、地図上においてレストランやホテル等のサービス施設の地点を容易に確認することができるとされていることからすれば、地図上に所定のパターンが表示されることにより、ユーザーがサービス施設の地点を容易に確認することができるようなパターンであれば、その態様が限定されるものではないと考えられる。
 被告は、実施例における「レストランならば、表示のパターン「R」が、ホテルならば表示パターン「H」がその存在する地図上の位置に表示される。」等の記載から、「所定のパターン」とは、あらかじめ施設の属性に応じて施設ごとに1対1に定められた文字又は記号の類型をいうと主張する。確かに、施設の属性ごとに1対1に対応する文字又は記号の類型を用いれば、ユーザーがサービス施設の地点のみならずその属性(種類)をも容易に確認することが可能になるが、そのように1対1に対応するパターンではなくても、画面上に特定のパターンが表示されれば、サービス施設の地点の確認は容易になること、本件明細書2には、前記の実施例の記載のほかに「所定のパターン」の意義を限定して解釈すべきことをうかがわせる記載はなく、他にこれを限定して解釈すべきことをうかがわせる証拠もないことからすれば、構成要件2−Gの「所定のパターン」の意義を被告が主張するように限定して解するのは相当でない。
 したがって、「所定のパターン」とは、あらかじめ定められた何らかの表示であって、それによってサービス施設の地点の確認が容易になるものであれば足りるものと解される。
(2) 被告装置の構成要件2−Gの充足性
ア 被告装置においては、「My地点」に登録する際に、ユーザーはその登録地点について、あらかじめ決められた複数のアイコンから1つのアイコン(例えば、ナイフとフォークのマークのアイコン)を選択することができ、これを選択しない場合には、ピンク色の星印のアイコンが自動的に設定されることになる(画面3−O)。そして、設定されたアイコンは、地図上に表示され、当該施設の名称を表示させることもできる(画面3−Q)(争いのない事実)。
 そうすると、被告装置においては、「My地点」に登録されたサービス施設の地点の地点座標データを、これが記憶された記憶手段から読み出してその地点を地図上に表示する場合には、当該地点は、ユーザーにより選択されたアイコン(選択されない場合にはピンク色の星印のアイコン)によって表示されるものと認められる。
 以上によれば、被告装置は、表示器が地図に表示されているとき、第2の記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させるものであり、構成要件2−Gを充足すると認められる。
イ 被告の主張について
 被告は、被告装置においては、表示されるアイコンをユーザーが任意に選択していることをもって、被告装置におけるアイコンは、「所定のパターン」には該当しないと主張する。
 しかしながら、ユーザーによる表示されるアイコンの選択も、あらかじめ定められた複数の表示の中から1つの表示を選択するものであって、これもあらかじめ定められた表示に該当すると認められる。仮に、被告が主張するように、ユーザーによって選択されたアイコンがあらかじめ定められた表示に該当しないと解するとしても、前記アのとおり、被告装置においては、ユーザーが選択をしなければ、ピンク色の星印のアイコンが自動的に設定されるのであるから、このピンク色の星印のアイコンは、あらかじめ定められた表示に該当し、被告装置は、これを変更することができる構成を付加したにすぎないものということができる。したがって、いずれにせよ、ユーザーが表示されるアイコンを選択することができることをもって、被告装置が「所定のパターン」を表示するものではないということはできないから、被告の前記主張は、理由がない。
9 被告装置の使用による本件各特許発明の実施の有無(争点(3))、被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害の成否(争点(4))及び本件携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害の成否(争点(5))について
 原告は、@被告が、本件携帯端末をユーザーに操作させることによって被告装置を使用して本件各特許発明を実施しており、また、被告の行為には支配管理型の特許権侵害が成立する、A被告がKDDI及び本件携帯端末の製造業者と共同して被告装置を生産したことをもって、被告装置の生産による本件各特許権の共同直接侵害が成立する、B被告が本件携帯端末用プログラムを譲渡等する行為は、被告装置の使用又は生産を本件各特許権の直接侵害とする間接侵害に該当すると主張する。
 しかしながら、「物」の「使用」による特許発明の実施又は「物」の「生産」による特許発明の実施といえるためには、使用又は生産された物である被告装置が、本件各特許発明の構成要件を充足し、本件各特許発明の技術的範囲に属する「物」と認められることが必要であるところ、被告装置が、本件各特許発明の構成要件を充足せず、その技術的範囲に属すると認められないことは、前記1ないし3のとおりであるから、原告の前記主張@及びAは、いずれも理由がない。
 また、「物」の発明について間接侵害が認められるためには、被告が譲渡等した物(本件携帯端末用プログラム)を用いて生産される物(被告装置)が、本件各特許発明の構成要件を充足し、本件各特許発明の技術的範囲に属する「物」と認められることが必要であるところ、被告装置が、本件各特許発明の構成要件を充足せず、その技術的範囲に属すると認められないことは、前記1ないし3のとおりであるから、被告が本件携帯端末用プログラムを譲渡等する行為が間接侵害に該当すると認めることはできず、原告の前記主張Bも理由がない。
10 結論
 以上のとおり、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 岩崎慎


(別紙)物件目録
1 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係るナビゲーション装置
2 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係る携帯端末用プログラム
3 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係るサーバー用プログラム
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日本ユニ著作権センター
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