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【事件名】商標“塾なのに家庭教師”侵害事件
【年月日】平成22年11月25日
 東京地裁 平成20年(ワ)第34852号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年9月14日)

判決
原告 株式会社名学館
訟代理人弁護士 伊神喜弘
訴訟代理人弁理士 守田賢一
被告 株式会社東京個別指導学院
訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 小林英了
補佐人弁理士 中村仁
同 大橋啓輔


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(1) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して配布してはならない。
(2) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等のウェブサイト上の広告に別紙被告標章目録5記載の標章を付して提供してはならない。
(3) 被告は、原告に対し、1億7100万円及びこれに対する平成21年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(1) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して配布するときは、「本標章と名学館の登録商標(登録番号第4684359号)とは全く関係がありません。」との表示をせよ。
(2) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等のウェブサイト上の広告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して提供するときは、「本標章と名学館の登録商標(登録番号第4684359号)とは全く関係がありません。」との表示をせよ。
第2 事案の概要
 本件は、後記の登録商標の商標権者である原告が、被告が自ら経営する学習塾の生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告及びウェブサイト上の広告に使用している別紙被告標章目録1ないし5記載の各標章(以下「被告各標章」といい、同目録1記載の標章を「被告標章1」、同目録2記載の標章を「被告標章2」などという。)は、原告の登録商標と同一又は類似の商標であって、被告による被告各標章を付した新聞折り込み広告の配布行為及び同ウェブサイト上の広告の提供行為は原告の商標権を侵害する旨主張して、被告に対し、主位的に、商標法36条1項に基づき、被告各標章を付した新聞折り込み広告の配布行為等の差止めを求めるとともに、商標権侵害の不法行為による損害賠償を求め、予備的に、仮に被告が被告標章1ないし4について先使用権を有するとした場合、同法32条2項に基づき、被告標章1ないし4の使用時に原告の登録商標との混同を防ぐための表示を付すことを求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア(ア) 原告は、学習塾の経営並びにこれに関するノウハウの販売、経営指導及び業務受託等を目的とする株式会社である。
(イ) 原告は、「名学館」の名称の学習塾を直営するとともに、同学習塾のフランチャイズ事業を全国展開している。
 平成20年10月末日時点における「名学館」の校舎数は、原告の直営校が15、原告とフランチャイズ契約を締結した加盟店のフランチャイズ校が142の合計157(開校準備中の7校舎を含む。)である(甲24)。
イ(ア) 被告は、学習塾及び文化教室の経営並びにこれに関するノウハウの販売、経営指導及び業務受託等を目的とする株式会社である。
(イ) 被告は、「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」、「京都個別指導学院」、「東京個別指導学院名古屋校」などの名称の学習塾を直営している。
 平成20年2月29日時点における校舎数(直営教室)は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に144、関西地区(兵庫県、大阪府、京都府)に36、東海地区(愛知県)に7、九州地区(福岡県)に5の合計192である(甲25)。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)の商標権者である。
 登録番号 第4684359号
 出願日 平成14年4月9日
 設定登録日 平成15年6月20日
 指定役務 第41類 「学習塾における教授」
 登録商標 別紙原告登録商標目録記載のとおり
(3) 被告による被告各標章の使用
ア 被告標章1の使用
 被告は、平成16年1月から平成18年7月21日までの間に、被告標章1(別紙被告標章目録1記載の標章)を付した「東京個別指導学院名古屋校」、「東京個別指導学院」又は「関西個別指導学院」のチラシ(甲17ないし19)を新聞折り込み広告として配布した。
イ 被告標章2の使用
 被告は、平成16年11月9日から平成20年4月7日までの間に、被告標章2(別紙被告標章目録2記載の標章)を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(甲20、23)を新聞折り込み広告として配布した(ただし、同目録2記載の標章中の「な」の文字の字体は、厳密には、甲20、23のチラシ中の同標章に対応する標章の「な」の文字の字体とわずかに異なるが、以下においては、上記チラシと同一の字体のものとして取り扱う。)。
ウ 被告標章3の使用
 被告は、平成20年7月22日、被告標章3(別紙被告標章目録3記載の標章)を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(甲21)を新聞折り込み広告として配布した。
エ 被告標章4の使用
 被告は、平成16年2月27日から同年6月までの間に、被告標章4(別紙被告標章目録4記載の標章)を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(甲22)を新聞折り込み広告として配布した。
オ 被告標章5の使用
 被告は、遅くとも平成20年8月ころ以降、被告が運営するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)上の「東京個別指導学院」の広告(甲23、64)に被告標章5(別紙被告標章目録5記載の標章)を掲載している。
(4) 被告の広告の内容
 前記(3)アないしエの各チラシ(以下「被告チラシ」という。)及び同オの被告ウェブサイト上の広告は、被告が経営する学習塾の指導方法、指導内容、生徒募集等に関するものであって、本件商標権の指定役務である「学習塾における教授」に関する広告に該当する。
2 争点
 本件の争点は、@被告による被告各標章の使用が、本件登録商標と同一又は類似の商標の使用として本件商標権の侵害行為又は侵害とみなす行為(商標法37条1号)に該当するか(争点1)、具体的には、被告各標章は本件登録商標と同一又は類似の商標に該当するか(争点1−1)、被告各標章が被告チラシ及び被告ウェブサイトにおいて「商標的使用」がされているか(争点1−2)、A本件商標権の効力が商標法26条1項3号により被告各標章に及ばないか(争点2)、B本件登録商標の商標登録に無効理由があり、原告の本件商標権の行使が商標法39条において準用する特許法104条の3第1項により制限されるか(争点3)、C権利濫用の成否(争点4)、D先使用権(商標法32条1項)の成否(争点5)、EDの先使用権が成立するとされた場合、原告は、商標法32条2項に基づき、被告標章1ないし4の使用時に出所混同防止のための適当な表示を付すことを請求できるか(争点6)、F被告が賠償すべき原告の損害額(争点7)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商標権の侵害行為の有無)
(1) 原告の主張
ア 被告各標章の類似性(争点1−1)
(ア) 本件登録商標と被告標章1との対比
 本件登録商標は、別紙原告登録商標目録記載のとおりの構成からなる商標であるのに対し、被告標章1は、別紙被告標章目録1記載のとおり、「塾なのに家庭教師」の文字を本件登録商標とほぼ同一の字体で横書きしてなる標章である。
 しかるところ、被告標章1は、@その文字の色彩が青色である点、A青い縁取りがない点、B感嘆符がない点、C「なのに」の文字が「塾」及び「家庭教師」の各文字に比して2分の1以下の大きさで「下半」に位置する点において、本件登録商標と異なっている。
 しかし、@の点については、文字の色彩の相違は標章の同一性に影響を及ぼさないこと(商標法70条1項)、A及びBの点については、本件登録商標においては、「塾なのに家庭教師」の文字部分が自他役務識別力を有する要部であって、青い縁取り及び感嘆符は、要部ではなく、付随的装飾であること、Cの点については、文字の大きさの相違は、「塾なのに家庭教師」との文字の結合をいささかも損なわず、取引において本件登録商標と社会通念上同一のものとして使用される程度であることからすると、被告標章1は、本件登録商標と実質的に同一のものといえる。
 また、仮に被告標章1が本件登録商標と実質的に同一のものといえないとしても、被告標章1と本件登録商標とは、「ジュクナノニカテイキョウシ」という同一の称呼が生じ、これにより同一の観念が生じること、外観においても「塾」及び「家庭教師」の漢字の間に平仮名の「なのに」を置く特徴的な文字配列は保たれていることからすると、被告標章1が本件商標権の指定役務の「学習塾における教授」に関して使用されたときは、需要者である生徒の親等において、その出所に誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであるから、被告標章1は、本件登録商標に類似する。
(イ) 本件登録商標と被告標章2との対比
 被告標章2は、別紙被告標章目録2記載のとおり、「塾なのに家庭教師」の文字を本件登録商標とほぼ同一の字体で横書きしてなる標章であり、「なのに」の文字が「塾」及び「家庭教師」の各文字に比して2分の1以下の大きさで「上半」に位置する点を除いては被告標章1と同一である。
 したがって、前記(ア)と同様の理由により、被告標章2は、本件登録商標と実質的に同一のものといえる。
 また、仮に被告標章2が本件登録商標と実質的に同一のものといえないとしても、前記(ア)と同様の理由により、被告標章2は、本件登録商標に類似する。
(ウ) 本件登録商標と被告標章3との対比
 被告標章3は、別紙被告標章目録3記載のとおり、本件登録商標よりやや角張った字体で「塾なのに家庭教師」の文字を青色の背景に白抜きで横書きしてなる標章である。
 しかるところ、被告標章3は、@その文字の色彩が白色である点、A青い縁取りがない点、B感嘆符がない点において、本件登録商標と異なっている。
 しかし、@ないしBの点は前記(ア)@ないしBと同様の相違点であるので、前記(ア)で述べたのと同様の理由により、被告標章3は、本件登録商標と実質的に同一のものといえる。
 また、仮に被告標章3が本件登録商標と実質的に同一のものといえないとしても、前記(ア)で述べたのと同様の理由により、被告標章3は、本件登録商標に類似する。
(エ) 本件登録商標と被告標章4との対比
 被告標章4は、別紙被告標章目録4記載のとおり、「塾」、「なのに」及び「家庭教師」の明朝体の各文字が行を変えて配列されている標章である。
 しかるところ、被告標章4は、@上記各文字の配列の点、A「なのに」の文字が「塾」及び「家庭教師」の各文字に比して2分の1以下の大きさである点、B文字の色彩が黒色ないし白色である点、C青い縁取りがない点、D感嘆符がない点において、本件登録商標と異なっている。
 しかし、@及びAの点については、意味のある一連の文字列を、看者の注意を引く等のために行を変えて表示することは慣用的な手法であるとともに、字体の相違や文字の大きさの相違は、「塾なのに家庭教師」との文字の結合をいささかも損なわず、取引において本件登録商標と社会通念上同一のものとして使用される程度であること、BないしDの点については、前記(ア)@ないしBと同様の相違点であるので、前記(ア)で述べたのと同様の理由が当てはまることからすると、被告標章4は、本件登録商標と実質的に同一のものといえる。
 また、仮に被告標章4が本件登録商標と実質的に同一のものといえないとしても、前記(ア)で述べたのと同様の理由により、被告標章4は、本件登録商標に類似する。
(オ) 本件登録商標と被告標章5との対比
 被告標章5は、別紙被告標章目録5記載のとおり、「塾なのに家庭教師」の文字を本件登録商標とほぼ同一の字体で横書きしてなる標章である。
 しかるところ、被告標章5は、@文字の色彩が灰色である点、A青い縁取りがない点、B感嘆符がない点において本件登録商標と異なっている。
 しかし、@ないしBの点は前記(ア)@ないしBと同様の相違点であるので、前記(ア)で述べたのと同様の理由により、被告標章5は、本件登録商標と実質的に同一のものといえる。
 また、仮に被告標章5が本件登録商標と実質的に同一のものといえないとしても、前記(ア)で述べたのと同様の理由により、被告標章5は、本件登録商標に類似する。
(カ) 小括
 以上のとおり、被告各標章は、本件登録商標と同一又は類似の商標である。
イ 商標的使用(争点1−2)
 被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、以下のとおり、被告の提供する役務である「学習塾における教授」について自他役務識別機能ないし出所表示機能を有する態様での使用に当たり、「商標的使用」に該当する。
(ア) 被告各標章を構成する「塾なのに家庭教師」の語は、被告の提供する役務である「学習塾における教授」の内容を直接的に表現するものではなく、役務の性質を巧妙に暗示する造語である。
 すなわち、「塾なのに家庭教師」の語は、「塾」と「家庭教師」という、一方は多人数を相手とする講義形式の授業形態を連想させ、他方はマンツーマンの個人的指導を連想させる互いに対立的な語を、軽快な俗語的語感の「なのに」で結ぶのに加えて、全体を体言止めとする奇抜な表現によって、これを見聞きするものに一見意味不明でいて、しかもその内容をより詳細に知りたくなるような関心を呼び起こすものとなっている。このように「塾なのに家庭教師」の語は、「塾であるにもかかわらず、家庭教師のように個別対応の懇切丁寧な教授を行うこと」を暗示する造語であって、役務の性質を、日常的には使用されることのないインパクトのある言葉で表現したものであり、被告の提供する役務の自他識別標識として機能するものである。
(イ) 以下に述べるとおり、学習塾における個別対応の教授内容を直接的に表示する語としては、「個別指導塾」という語が一般的に使用されており、「塾なのに家庭教師」の語は一般的に使用されているものではない。また、「塾なのに家庭教師」の語は、個別指導塾の特徴を端的に示す語として需要者に認識されるようになったことはない。
a インターネットの検索エンジン(「YAHOO!」、「Google」)による用語検索の結果(甲43ないし46)は、塾業界においては、「個別指導塾」の語が圧倒的に多く使用されており、「塾なのに家庭教師」の語は一般的に使用されているものでないことを示している。例えば、検索エンジン「YAHOO!」で、「個別指導塾」の語を検索すると約157万件がヒットするのに対し、「塾なのに家庭教師」の語を検索するとわずかに約3430件がヒットするに過ぎない。そして、検索結果のうち最初の100件を分析してみると、「個別指導塾」の語は一定の学習塾のウェブページ上の使用に偏ることなく、多数の塾のウェブページ上で使用されているのに対し、「塾なのに家庭教師」の語は、原告に関する67件のウェブページ上で、被告に関する13件のウェブページ上で、その他の20件のウェブページ上でそれぞれ使用されているに過ぎない。
b(a) 被告は、後記(2)イ(ア)のとおり、被告の使用する「塾なのに家庭教師」のフレーズは、非日常的な独特な表現を案出することを職業とするコピーライターが発想したものである。被告各標章の付された被告チラシには、「塾なのに家庭教師」のフレーズに添えてその下側に「塾なのに、自分で選んだ家庭教師と学習できる。」との説明文がほとんどの場合付されて使用されているなどと主張するが、これらの主張を前提としても、「塾なのに家庭教師」の語は、一般的には使用されることのない表現であることは明らかである。
(b) 被告は、後記(2)イ(ウ)aのとおり、被告が「塾なのに家庭教師」の語を使用した新聞折り込みチラシを大量配布していることなどから、「塾なのに家庭教師」の語が学習塾の業界において、個別指導塾の特徴を端的に表す表現として広く使用されている旨主張するが、被告主張のチラシの配布はいずれも一時的なものか、間隔が開いた散発的なものであり、かかるチラシの配布によって「塾なのに家庭教師」の語が学習塾の業界において広く使用されているとはいえない。
(c) 被告は、後記(2)イ(ウ)aのとおり、平成9年3月に「月刊私塾界」(乙13)において、「『塾なのに家庭教師』で急成長したTKG(東京個別学院、本部=東京・中央区)」と紹介された旨主張する。
 しかし、「塾なのに家庭教師」の語が学習塾の業界で広く使用されているならば、わざわざ「『塾なのに家庭教師』で急成長した」と冠されることはないのであり、むしろ、上記のような紹介がされたことは、「塾なのに家庭教師」の語が学習塾の業界で広く使用されていないことの証左である。
(d) 被告は、後記(2)イ(ウ)aのとおり、平成12年2月ころから、「塾なのに家庭教師」の語を使用した新聞折り込みチラシを頒布するとともに、路線バスにおいて「塾なのに家庭教師、先生を自由に選べる東京個別指導学院」などの車内放送を継続的に流してきた旨主張するが、その範囲頻度は不明であり、これによって「塾なのに家庭教師」の語が学習塾の業界で広く使用されていることを証するものとはいえない。
c 被告は、後記(2)イ(ウ)bのとおり、10校を超える他の学習塾における「塾なのに家庭教師」の語の使用例を挙げるが、学習塾の総数は全国で事業所数だけでも5万を超えることに照らすならば、10校を超える他の学習塾で「塾なのに家庭教師」の語が使用されていても、これによって「塾なのに家庭教師」の語が個別指導塾の特徴を端的に表すフレーズとして需要者の間で広く認識されていることを証するものとはいえない。
(ウ) 被告各標章の使用態様は、次のとおりである。
a 被告標章1及び2は、いずれも被告チラシ(甲17ないし20、23)の広告面左上部のほぼ定められた位置に他の記事とは明確に区別できる態様で、広告面下部の「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」の文字と呼応するように記載されている。
b 被告標章3は、甲21の被告チラシの広告面上部に他の記事とは明確に区別できる態様で、中央に目立つように記載され、「TKG」の標章がその右端部に記載されている。
c 被告標章4は、甲22の被告チラシの広告面中央部に他の記事とは明確に区別できる態様で、広告面下部の「東京個別指導学院」の文字と呼応するように記載されている。
d 被告標章5は、被告ウェブサイト(甲23、64)のいずれのページにおいても、左上部のほぼ定められた位置に他の記事とは明確に区別できる態様で、「TKG」の標章と並べて表示されている。
e 被告チラシに記載された「東京個別指導学院」又は「関西個別指導学院」の各標章は、東京や大阪に所在する個別指導塾であることを直接的に表現したものであり、また、被告チラシ及び被告ウェブサイトに記載又は表示された「TKG」の標章もアルファベット3文字の特徴のない略称である。このように「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」及び「TKG」の各標章は、いずれも出所を識別する表示であるとは認識されにくい表示であり、「東京個別指導学院」の標章が被告の学習塾を表示する標章として周知又は著名であるとはいえないし、同様に、「TKG」の標章が「東京個別指導学院」の略称として、周知又は著名であるとはいえない。
 一方で、「塾なのに家庭教師」の語は、前記(ア)のとおり、普通には使用されることのない特異な表現であることから看者の注意を引くものである。
 しかるところ、上記aないしdのとおり、被告各標章の「塾なのに家庭教師」の語が、他の記事と明確に区別できる態様で、「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」の語とチラシの上下位置で対になるように使用され、あるいは「TKG」の語と並べて使用されることによって、需要者は「塾なのに家庭教師」の語を「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」又は「TKG」の語と結びつけて記憶するようになるのであり、「塾なのに家庭教師」の語は、これに接した需要者が即座に一定の出所を想起するように使用されていることは明らかである。
 したがって、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、自他役務識別機能ないし出所表示機能を有する態様での使用であるから、「商標的使用」に該当する。
ウ まとめ
 以上によれば、被告による被告標章1ないし4を付した被告チラシ(新聞折り込み広告)の配布行為及び被告ウェブサイト上の被告標章5を付した広告の提供行為は、本件登録商標と同一又は類似の商標の使用として、本件商標権の侵害行為又は侵害行為とみなす行為(商標法37条1号)に該当するというべきである。
(2) 被告の主張
ア 被告各標章の類似性の主張に対し(争点1−1)
 本件登録商標は、別紙原告登録商標目録記載のとおり、「塾なのに家庭教師」の文字列と二つの感嘆符とを黄色に着色し、これに青色の縁取りが施された標章である。
 本件登録商標のうち、「塾なのに家庭教師」のフレーズ自体は、「塾であるにもかかわらず、家庭において受けるのと同等の個人的な教育を受けることができる」という、個別指導方式の学習塾で提供される役務内容を端的に示すスローガン、キャッチフレーズに過ぎない。
 また、被告によって「塾なのに家庭教師」の標章が付された新聞折り込みチラシが大量に頒布されており、原告及び被告を除く、多数の個別指導塾においても、「塾なのに家庭教師」の標章が広く用いられた結果、「塾なのに家庭教師」の標章については、自他役務識別力を有していない。
 これに対して、本件登録商標のうち、黄色の文字列と青色の縁取りとの組合せは独特であり、看者に強い印象を与えるものである。また、感嘆符は「感嘆や強調を表す符号」(広辞苑第六版・640頁)であり、それ自体が看者に強い印象を与えるものであるのみならず、感嘆符が二つ連続して使用する態様は、「塾なのに家庭教師」というフレーズを使用している他の塾では見られない極めて特異な態様であり、特に強い印象を看者に与えるものである。
 したがって、本件登録商標においては、黄色の文字列と青色の縁取りの組合せ及び文字列の後部に付された二つの感嘆符が識別力を発揮する部分であり、本件登録商標の要部といえる。
 しかるところ、被告各標章は、黄色の文字列と青色の縁取りの組合せ及び文字列の後部に付された二つの感嘆符を備えていないから、本件登録商標と類似していない。
イ 商標的使用の主張に対し(争点1−2)
(ア)a 「塾なのに家庭教師」というフレーズは、もともと、被告が「集団指導塾」に対する「個別指導塾」の特徴を端的に表すためのスローガン、キャッチフレーズとして、被告が依頼したコピーライターがその当時は珍しかった個別指導塾の指導方法から自然と思いついたものであり、平成5年ころから、被告が他の塾に先駆けて使用し始めたものである。
 それ以降、被告は、集団指導塾に対する個別指導塾の特徴を端的に表すためのスローガン、キャッチフレーズとして、「塾なのに家庭教師」というフレーズを継続して使用している。
b 「なのに」とは「前文をうけ、逆接の意で下へ続ける」(乙74)を意味するところ、「塾なのに家庭教師」は、字義どおり、「塾であるけれども、家庭教師のような個別対応のサービス」を意味していることは容易に理解することができる。「塾なのに家庭教師」は、まさに被告の提供する個別指導塾の役務の性質、種類を端的に表現したフレーズであり、集団指導塾に対する個別指導塾の役務の内容を端的に示すスローガン、キャッチフレーズと認識されることは明らかである。
 加えて、被告各標章の付された被告チラシには、「塾なのに家庭教師」のスローガン、キャッチフレーズの下側に、「塾なのに、自分で選んだ家庭教師と学習できる。」との説明文がほとんどの場合に付されている。
 したがって、被告各標章の文字部分の「塾なのに家庭教師」が被告の提供する役務の内容を端的に説明するスローガン、キャッチフレーズであることは、誰がみても容易に理解できるような使用態様となっている。
(イ) 被告各標章が付された被告チラシには、単に「塾なのに家庭教師」というスローガン、キャッチフレーズだけではなく、被告の出所を表示する標章として著名な「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」又は「TKG」という標章が大きく描かれており、出所表示機能はこれらの著名な標章が果たしており、「塾なのに家庭教師」というフレーズは、単に被告の提供する個別指導塾のサービスの内容を端的に示すものに過ぎない。
 同様に、被告が被告ウェブサイト上で「塾なのに家庭教師」というフレーズを使用するに際しても、常に、「東京個別指導学院」の略称である「TKG」という被告の出所を表示する著名な標章を付して使用している。
(ウ) 「塾なのに家庭教師」というフレーズは、以下のとおり、学習塾の業界で広く使用されている。
a 被告の経営する学習塾による使用
 被告の経営する学習塾では、平成5年から、「塾なのに家庭教師」のスローガン、キャッチフレーズが付された新聞折り込みチラシを大量に頒布してきた。
 そして、乙13(「月刊私塾界」17巻3号26頁〜30頁、全国私塾情報センター、平成9年3月1日発行)において、被告について、「『塾なのに家庭教師』で急成長したTKG(東京個別指導学院、本部=東京・中央区)」と紹介されるに至っている。
 このように「塾なのに家庭教師」は、平成9年3月の時点において、学習塾の業界において、個別指導塾の特徴を端的に表すスローガン、キャッチフレーズとして広く知られていたものである。
 また、被告が頒布した「塾なのに家庭教師」のスローガン、キャッチフレーズが付されたチラシの枚数は、平成10年2月から本件登録商標について登録査定がされた平成15年5月28日までの間に限っても、少なくとも、関東圏において合計約2億6629万枚、関西圏(京都市を除く。)において合計約3849万枚、名古屋市において約318万枚、京都市において約441万枚にのぼっている。なお、被告は、同年6月以降も、「塾なのに家庭教師」のスローガン、キャッチフレーズが付された新聞折り込みチラシを大量に頒布している。
 さらに、被告は、上記新聞新聞折り込みチラシを大量に頒布するとともに、平成12年2月ころから、小田急バス、神奈川中央交通バス、国際興業バス、都営バス、川崎市バス、東急バス及び西武バスにおいて、「塾なのに家庭教師、先生を自由に選べる東京個別指導学院」との車内放送を継続的に流してきた(乙12、14、40、41)。
b 他の学習塾による使用
(a) 早稲田育英ゼミナール月島リバーシティ教室では、その入口付近に、「塾なのに家庭教師」のスローガンが付された橙色の紙が貼られている(乙15)。また、早稲田育英ゼミナール姫路南教室では、「塾なのに家庭教師」のスローガンが付されたジャストメール(携帯用メール)を配信している(乙16)。
(b) 「宮城の新聞」のウェブサイトには、「2004年10月泉中央(仙台市泉区)に開校し、仙台市内に2教室を構える早稲田育英ゼミナール。『塾なのに家庭教師』をキャッチフレーズに、学習塾と家庭教師、双方のメリットを生かした指導が特徴だ。」と表示されている(乙17)。
(c) 札幌ワンゼミ、茨進グループ、個別指導MAX、藤原英数国塾、米川塾、深学塾及びSANSTEP進学ゼミにおいて、「塾なのに家庭教師」が個別指導塾の特徴を表すスローガンとして用いられている(乙18ないし24)。
(d) 原告は、自己のウェブサイトにおいて、「『塾なのに家庭教師』をキャッチフレーズに1000校舎体制に向け成長中」と表示しており、「塾なのに家庭教師」がスローガン、キャッチフレーズであることを自ら認めている(乙25)。
(エ) 小括
 以上によれば、「塾なのに家庭教師」というフレーズは、個別指導塾の特徴を端的に表す表現として広く使用されており、需要者である生徒及びその保護者にとって、上記フレーズが特定の出所を表す標識と認識されるものではないから、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、商標的使用に該当しない。
ウ まとめ
 以上のとおり、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用が本件商標権侵害を構成するとの原告の主張は、理由がない。
2 争点2(商標法26条1項3号該当性)
(1) 被告の主張
 前記1(2)イで述べたとおり、「塾なのに家庭教師」というフレーズは、被告が提供する役務である個別指導塾のサービスの特徴を端的に表したものであり、被告各標章は、被告の学習塾において提供される役務の内容を表す標章のみから構成されるものである。
 また、被告チラシ及び被告ウェブサイト上の広告に掲載された被告各標章の「塾なのに家庭教師」の文字は、特殊な書体や装飾が施されているわけではないから、「普通に用いられる方法で表示」するものである。
 したがって、被告が被告各標章を被告チラシ及び被告ウェブサイト上の広告に使用する行為は、被告の学習塾で提供される役務の内容を「普通に用いられる方法で表示」するものといえるから、商標法26条1項3号により、本件商標権の効力は被告各標章に及ばない。
(2) 原告の主張
 被告の主張は争う。
 前記1(1)イで述べたとおり、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、商標的使用に該当し、また、被告の学習塾で提供される役務の内容を「普通に用いられる方法」で表示するものともいえないから、商標法26条1項3号は適用されず、本件商標権の効力は被告各標章に及ぶというべきである。
3 争点3(権利行使制限の抗弁の成否)について
(1) 被告の主張
 本件登録商標の商標登録には、以下のとおりの無効理由(無効理由1ないし5)があり、商標登録無効審判により無効とされるべきものであるから、商標法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定により、原告は、被告に対し、本件商標権を行使することができない。
ア 無効理由1(商標法4条1項19号違反)
(ア) 被告各標章は、原告による本件登録商標の商標登録出願日である平成14年4月9日より前から、被告の経営する学習塾のチラシに付され、新聞折り込み広告として配布されていたから、被告の経営する学習塾の「業務に係る役務を表示する商標」に該当する。
 また、前記1(2)イ(ウ)aの事情に照らすならば、「塾なのに家庭教師」のフレーズは、遅くとも上記商標登録出願日には、本件登録商標の指定役務である「学習塾における教授」の需要者である生徒及びその保護者の間において、被告の経営する学習塾を示すものとして全国的に広く認識されていた。
 さらに、原告が主張するように被告各標章の「塾なのに家庭教師」の文字部分が自他役務識別力を備え、本件登録商標の要部であると仮定した場合には、被告各標章は、本件登録商標と類似する。
(イ)a 被告各標章の「塾なのに家庭教師」の文字部分は、平成9年3月の時点で、被告の経営する学習塾の「業務に係る役務を表示する」ものとして、学習塾の業界では全国的に広く知られていた。特に名古屋市においては、被告は、平成14年から、学習塾の展開を開始し、同年2月に、「東京個別指導学院名古屋校」の名称で「藤が丘教室」を開校した。その際、被告は、藤が丘教室での生徒募集のため、「塾なのに家庭教師」の標章を付した新聞折り込みチラシを名古屋市内で配布した。
 原告による本件登録商標の商標登録出願は、「塾なのに家庭教師」のフレーズで学習塾の業界に広く知られていた被告が名古屋市での事業展開を開始した直後である同年4月9日にされたものである。
 以上の事実と原告が本件登録商標の上記商標登録出願前から「名学館」の登録商標(登録番号第4547792号)で学習塾を展開し、本件登録商標につき商標登録出願をする必要性に乏しかったことによれば、原告は、被告が「塾なのに家庭教師」のフレーズを使用していることを熟知し、被告がこのフレーズに関して商標登録出願をしていないことを奇貨として、この使用を妨害する意図で、本件登録商標の商標登録出願をしたというべきである。
b したがって、原告は、被告各標章と類似の商標である本件登録商標について、被告に対する加害目的ないし被告から不正の利益を得る目的で、その商標登録出願をしたものといえる。
(ウ) 以上によれば、本件登録商標は、被告の経営する学習塾の「業務に係る役務を表示する」ものとして、日本国内における需要者である生徒及びその保護者の間において広く認識されていた被告各標章と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものに該当するから、本件登録商標の商標登録には、商標法4条1項19号に違反する無効理由(同法46条1項1号)がある。
イ 無効理由2(商標法4条1項7号違反)
 前記ア(イ)で述べたように、原告は、被告各標章が商標登録されていないのを奇貨として、個別指導塾の最大手である被告の事業展開を妨害し、ライセンス料名下の対価を得る目的で、本件登録商標の商標登録出願をしたのであるから、その商標登録出願は、公正な競争秩序を害するものである。
 したがって、本件登録商標は公序良俗を害するおそれがある商標に該当するから、本件登録商標の商標登録には、商標法4条1項7号に違反する無効理由(同法46条1項1号)がある。
ウ 無効理由3(商標法4条1項10号違反)
(ア) 被告各標章は、本件登録商標の商標登録出願前の平成9年3月の時点で、需要者である生徒及びその保護者の間において、被告の経営する学習塾の「業務に係る役務を表示する」ものとして広く認識されていた。
 そして、本件登録商標は、このような被告各標章と類似の商標であって、被告各標章と同一の役務について使用をするものであるから、本件登録商標の商標登録には、商標法4条1項10号に違反する無効理由(同法46条1項1号)がある。
(イ) 本件登録商標の商標登録は、商標法47条1項括弧書きの「不正競争の目的で商標登録を受けた場合」に該当するから(前記イ)、前記(ア)の無効理由による商標登録無効審判請求について同項の除斥期間(商標権の設定登録の日から5年)の制限を受けない。
 また、仮に商標法47条1項括弧書きの事由が認められず、同項の除斥期間が経過しているとしても、同法4条1項10号違反の無効理由が存在するときは、同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定により、原告の本件商標権の行使は制限されるべきである。
エ 無効理由4(商標法3条1項3号)
(ア) 本件登録商標は、個別指導塾の役務の特徴を端的に表現するものであり、指定役務の内容を表示する標章のみからなる商標に該当するから、本件登録商標の商標登録には、商標法3条1項3号に違反する無効理由(同法46条1項1号)がある。
(イ) 前記(ア)の無効理由による商標登録無効審判請求について商標法47条1項の除斥期間が経過した場合であっても、同法3条1項3号違反の無効理由が存在するときは、同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定により、原告の本件商標権の行使は制限されるべきである。
オ 無効理由5(商標法3条1項6号)
(ア) 「塾なのに家庭教師」というフレーズは、本件登録商標の商標登録出願時には既に、学習塾の業界において広く用いられており、個別指導塾の役務の内容を端的に表現するものとして広く認識されていたものであり、本件登録商標は「需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標」に該当するから、本件登録商標の商標登録には、商標法3条1項6号に違反する無効理由(同法46条1項1号)がある。
(イ) 前記(ア)の無効理由による商標登録無効審判請求について商標法47条1項の除斥期間が経過した場合であっても、同法3条1項6号違反の無効理由が存在するときは、同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定により、原告の本件商標権の行使は制限されるべきである。
(2) 原告の主張
ア 無効理由1に対し
 原告代表者は、昭和63年3月、名古屋市内において個人の学習塾を開業し、平成2年10月、これを法人化して有限会社藤総合学園(以下「藤総合学園」という。)を設立した。
 その後、平成10年10月20日、藤総合学園を株式会社へ組織変更して原告(株式会社名学館)が設立された。
 原告は、平成11年、フランチャイズ方式の学習塾の事業展開及び事業内容の拡大に着手した。
 この間、原告代表者は、「塾なのに家庭教師」の語につき、平成3年ころに着想を得て、平成4年には「名学館」の前身である藤総合学園の学習塾の看板に「塾なのに家庭教師」の商標を記して使用していた。
 その後も、「塾なのに家庭教師」の商標は、原告の直営校ないしフランチャイズ校の塾の看板に「名学館」と併記して一貫して使用し、需要者をして「塾なのに家庭教師」の語を「名学館」の語と結びつけて記憶させるようにし、「塾なのに家庭教師」の語に接した需要者が即座に一定の出所を想起するように使用していた。
 上記看板の使用範囲は、被告が名古屋市内に藤が丘校を開設した平成14年2月の段階で、59校(原告の直営校14校、フランチャイズ校45校)に及んでいた。
 原告が平成14年4月9日に本件登録商標の商標登録出願をしたのは、それまでに広く使用していた「塾なのに家庭教師」の商標が他人によって出願されて使用できなくなることを避けるためと、フランチャイズ方式による学習塾の全国展開を図る上で、「塾なのに家庭教師」の商標を登録して、当該商標への全国的な信用の化体を確保することを意図したからであって、被告が主張するような「不正の目的」をもって上記商標登録出願をしたものではない。
 したがって、被告主張の無効理由1は理由がない。
イ 無効理由2に対し
 前記アのとおり、本件登録商標の出願経緯に社会的妥当性を欠くところはなく、本件登録商標の商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反することはない。
 したがって、被告主張の無効理由2は理由がない。
ウ 無効理由3に対し
 前記1(1)イ(イ)b(b)及び(c)で述べたように、被告による新聞折り込みチラシによる広告や「月刊私塾界」誌上での被告の紹介は、いずれも一回限りか散発的なものであって、本件登録商標の商標登録出願前に、被告各標章が被告の経営する学習塾の「業務に係る役務を表示する」ものとして需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。
 また、本件商標権の設定登録日である平成15年6月20日から商標法47条1項で定める5年の除斥期間が経過し、同項括弧書きの事由も存在しないから、同法4条1項10号違反を理由に本件商標権について商標登録無効審判を請求することはできず、無効理由3に基づく被告の主張は、そもそも主張自体失当である。
 したがって、被告主張の無効理由3は理由がない。
エ 無効理由4に対し
 本件登録商標は、個別指導塾の内容を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものではないから、商標法3条1項3号の商標に該当しない。
 また、前記ウで述べたように、本件商標権については商標法47条1項で定める5年の除斥期間が経過し、同法3条1項3号違反を理由に本件商標権について商標登録無効審判を請求することはできないから、無効理由4に基づく被告の主張は、そもそも主張自体失当である。
 したがって、被告主張の無効理由4は理由がない。
オ 無効理由5に対し
 本件登録商標のうち、「塾なのに家庭教師」の語は自他役務識別力を有しているから、商標法3条1項6号の商標に該当しない。
 また、前記ウで述べたように、本件商標権については商標法47条1項で定める5年の除斥期間が経過し、同法3条1項6号違反を理由に本件商標権について商標登録無効審判を請求することはできないから、無効理由5に基づく被告の主張は、そもそも主張自体失当である。
 したがって、被告主張の無効理由5は理由がない。
4 争点4(権利濫用の成否)について
(1) 被告の主張
 商標法47条1項で定める5年の除斥期間が経過しているため、商標登録無効審判請求ができない場合であっても、商標登録に無効理由が存在することが明らかな場合には、当該商標登録に係る商標権に基づく請求は、公平に反し、権利の濫用として許されないと解すべきである。
 しかるところ、仮に本件登録商標について商標法47条1項で定める5年の除斥期間が経過しているため、前記3(1)ウないしオの無効理由(無効理由3ないし5)による権利行使制限の抗弁が認められないとしても、本件登録商標に無効理由3ないし5が存在することは明らかであるから、原告の被告に対する本件請求は、権利の濫用に当たり、許されない。
(2) 原告の主張
 被告の主張は争う。
5 争点5(先使用権の成否)について
(1) 被告の主張(前記1ないし4に係る予備的主張)
ア(ア) 被告は、本件登録商標の商標登録出願前である平成5年ころから、被告各標章が付された新聞折り込みチラシを、被告の学習塾の広告として、日本国内において大量に頒布し、本件商標権の指定役務である「学習塾における教授」について被告各標章を使用していた。
(イ) 被告は、前記(ア)の新聞折り込みチラシを、被告の学習塾における生徒勧誘用の広告として本件登録商標の商標登録出願前から継続して頒布してきたものであるから、被告に不正競争の目的がないことは明らかである。
(ウ) 被告が前記(ア)のとおり被告各標章を使用した結果、本件登録商標の商標登録出願の際、被告各標章は、需要者である生徒及びその保護者の間で被告の経営する学習塾を示すものとして全国的に広く認識されていた。
(エ) 被告は、本件登録商標の商標登録出願がされた後も、前記(ア)の新聞折り込みチラシ(被告チラシ)を、被告の経営する学習塾の広告として継続して頒布し、被告各標章を使用している。
イ 以上によれば、被告は、商標法32条1項に基づき、被告各標章を使用する権利(先使用権)を有するというべきである。
(2) 原告の主張
 被告の主張は争う。
6 争点6(出所混同防止のための適当な表示の付加請求の可否)について
(1) 原告の主張(前記5に係る予備的主張)
 仮に被告が主張する前記5(1)の先使用権が成立する場合には、原告は、商標法32条2項に基づき、被告に対し、被告が被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告に被告標章1ないし4を付して配布するとき又は被告ウェブサイト上の広告に被告標章1ないし4を付して提供するときは、被告の業務に係る役務と原告の業務に係る役務との混同を防ぐのに適当な表示として、「本標章と名学館の登録商標(登録番号第4684359号)とは全く関係がありません。」との表示をすることを求めることができるというべきである。
(2) 被告の主張
 原告の主張は争う。
7 争点7(原告の損害額)
(1) 原告の主張
ア 前記1(1)のとおり、被告による被告標章1ないし4を付した被告チラシの配布行為及び被告ウェブサイト上の被告標章5を付した広告の提供行為は、本件登録商標と同一又は類似の商標の使用として、本件商標権の侵害行為又は侵害行為とみなす行為(商標法37条1号)に該当する。
 原告が被告の本件商標権侵害行為により被った損害は、次の(ア)ないし(ウ)の合計額である1億7100万円を下らない。
(ア) 本件登録商標の使用料相当額 1億5000万円
 上記損害額は、本件訴えの提起の日(平成20年11月29日)から遡ること3年分(5000万円×3)の本件登録商標の「使用に対して受けるべき金銭の額に相当する額」(商標法38条3項)である。
(イ) 弁護士費用相当額 1050万円
(ウ) 弁理士費用相当額 1050万円
イ 以上によれば、原告は、被告に対し、本件商標権侵害の不法行為による損害賠償として1億7100万円及びこれに対する不法行為の後である平成21年1月13日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張
 原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件商標権の侵害行為の有無)について
 商標の本質は、当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項)として機能すること、すなわち、商品又は役務の出所を表示し、識別する標識として機能することにあると解されるから、商標がこのような出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているといえない場合には、形式的には同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても、当該行為は、商標の「使用」に当たらないと解するのが相当である。
 そこで、本件の事案にかんがみ、まず、被告各標章が被告の役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているか、すなわち、本来の商標としての「使用」(商標的使用)がされているかどうか(争点1−2)について判断することとする。
(1) 被告各標章の構成等
ア(ア) 被告標章1は、別紙被告標章目録1記載のとおり、「塾」、「なのに」、「家庭教師」というゴシック体の青色の各文字が横書きされた構成からなる標章である。「なのに」を構成する平仮名各文字の大きさは、「塾」及び「家庭教師」を構成する漢字各文字の約4分の1であるが、各文字の「下端」が揃い、文字間隔がほぼ同一であること、各文字の文字色が同一であることから、「塾」、「なのに」及び「家庭教師」の各文字は一体的に認識され、被告標章1全体から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
(イ) 被告標章2は、別紙被告標章目録2記載のとおり、「塾」、「なのに」、「家庭教師」というゴシック体の青色の各文字が横書きされた構成からなる標章である。「なのに」を構成する平仮名各文字の大きさは、「塾」及び「家庭教師」を構成する漢字各文字の約4分の1であるが、各文字の「上端」が揃い、文字間隔がほぼ同一であること、各文字の文字色が同一であることから、「塾」、「なのに」及び「家庭教師」の各文字は一体的に認識され、被告標章2全体から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
(ウ) 被告標章3は、別紙被告標章目録3記載のとおり、青色の長方形の枠内に「塾なのに家庭教師」というゴシック斜体の白抜き文字が横書きされた構成からなる標章である。被告標章3から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
(エ) 被告標章4は、別紙被告標章目録4記載のとおり、「塾」という明朝体の黒色の漢字1文字と、横書きされた「なのに」という明朝体の黒色の平仮名3文字、横書きされた「家庭教師」という明朝体の黒色の漢字4文字が、上中下の三段に分けて、上段から下段にかけて各段の左端が右方にずれて配置された構成からなる標章である。「なのに」を構成する平仮名各文字の大きさは、「塾」及び「家庭教師」を構成する漢字各文字の約4分の1であり、また、各文字は行を変えて3段に分けて配置されているが、各文字の位置関係が上記のとおりであることから、「塾」、「なのに」及び「家庭教師」の各文字は一連のものとして認識され、被告標章4全体から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
(オ) 被告標章5は、別紙被告標章目録5記載のとおり、「塾なのに家庭教師」というゴシック体の黒色の文字が横書きされた構成からなる標章である。被告標章5から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
イ 前記アのとおり、被告各標章においては、@「塾」という名詞、A「なのに」という「・・・にもかかもらず。・・・だけれども。」の意味を持つ連語(乙74、75)、B「家庭教師」という名詞が一体的に又は一連のものとして認識され、「塾なのに家庭教師」という一つの語のまとまりとして認識され、被告各標章から自然に「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼が生じるものと認められる。
 この「塾なのに家庭教師」の語は、造語であって、一般の辞書にその語義や用例は掲載されていないが(弁論の全趣旨)、上記@ないしBによれば、「塾であるにもかかわらず家庭教師」のようであることを示す語であると理解することができる。もっとも、「塾であるにもかかわらず家庭教師」のようであると言っても、その具体的な態様ないし内容については様々なものを想起し得るといえるから、「塾なのに家庭教師」の語それ自体から直ちに一義的な特定の観念が生じるということはできない。
(2) 被告の事業内容及び提供する役務の内容等
ア 前記争いのない事実等と証拠(甲17ないし23、25、乙1ないし13、37、39、42、43、54ないし68、70(以上、枝番のあるものは枝番を含む。)、証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、平成10年9月1日に株式会社日本教育研究会(以下「日本教育研究会」という。)を吸収合併した後、平成11年12月15日に現商号の「株式会社東京個別指導学院」に商号変更をした。
 日本教育研究会は、平成6年5月17日、有限会社日本教育研究会(昭和60年8月3日設立)が株式会社へ組織変更して設立されたものである。
 日本教育研究会の前身の有限会社日本教育研究会は、昭和63年9月ころ、東京都内に、「東京個別指導学院」の名称の学習塾を開校した。
 「東京個別指導学院」は、従来、多くの学習塾で行われていた、1名の講師が大教室で数十名単位の生徒に対し同時に学習指導を行う集団指導方式ではなく、1名の講師が1名から2名の生徒に対して個別に学習指導を行う個別指導方式を採用した。
 その後、日本教育研究会は、平成6年以降、個別指導方式の学習塾(「個別指導塾」ないし「個別指導学習塾」)の事業を積極的に展開し、平成10年2月には「関西個別指導学院」の名称の学習塾を開校し、さらに、日本教育研究会を吸収合併した被告は、平成14年2月に、名古屋市内に、「東京個別指導学院名古屋校」の名称の学習塾を開校するなど、その事業を全国的に拡大していった。
 その結果、被告は、首都圏では「東京個別指導学院」、関西地区では「関西個別指導学院」及び「京都個別指導学院」、東海地区では「東京個別指導学院名古屋校」、九州地区では「東京個別指導学院福岡校」の名称の学習塾を直営するようになり、平成20年2月29日時点における校舎数(直営教室)は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に144、関西地区(兵庫県、大阪府、京都府)に36、東海地区(愛知県)に7、九州地区(福岡県)に5の合計192となった。
(イ) 乙9(B作成の「DIRアナリスト情報」平成12年3月7日)には、被告について、「個別指導学習塾の中で規模的には第2位」との見出しの下に、「個別指導学習塾の中で規模的には明光ネットワークジャパンに次ぐ第2位。ただし、明光がフランチャイズ教室中心であるのに対して同社は98教室全て直営のため、売上高で比較すると首位である。」と紹介され、その売上高が、1996年(平成8年)8月決算期が32億1000万円、1997年(平成9年)8月決算期が47億7600万円、1998年(平成10年)8月決算期が58億4600万円、1999年(平成11年)8月決算期が66億8000万円であったことが記載されている。
 また、甲25(被告作成の平成20年5月29日付け有価証券報告書)には、被告の売上高について、平成15年8月決算期(第20期)が120億1964万2000円、平成16年5月決算期(第21期)が86億0846万5000円、平成17年5月決算期(第22期)が140億7708万8000円、平成18年5月決算期(第23期)が160億7244万1000円、平成19年5月決算期(第24期)が163億1841万7000円、平成20年2月決算期(第25期)が122億5983万2000円と記載されている。
(ウ) 日本教育研究会は、平成5年3月ころから、「塾なのに家庭教師」の標章を付した「東京個別指導学院」の新聞折り込みチラシの配布を開始し、その後、日本教育研究会を吸収合併した被告は、平成11年から、「塾なのに家庭教師」の標章を付した「東京個別指導学院」及び「関西個別指導学院」の新聞折り込みチラシの配布を行い、さらに、平成14年から、「塾なのに家庭教師」の標章を付した「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」、「東京個別指導学院名古屋校」及び「京都個別指導学院」の新聞折り込みチラシの配布を行い、以後も、同様に、「塾なのに家庭教師」の標章を付した新聞折り込みチラシ(被告各標章を付した被告チラシを含む。)の配布を行っている。
 平成10年2月から平成15年5月28日(本件商標権の設定登録日)までの間の上記新聞折り込みチラシの配布枚数は、3億枚以上に及んでいる(乙12の資料1、乙70の資料1)。
 上記新聞折り込みチラシには、「塾なのに家庭教師」の標章のほかに、日本教育研究会又は被告の経営する学習塾の名称である「東京個別指導学院」の標章、その略称である「TKG」の標章などが付されていた。
イ 前記アの認定事実を総合すれば、遅くとも平成15年5月当時には、学習塾の業界関係者、生徒及びその保護者の間において、「東京個別指導学院」の標章は、被告が経営する個別指導方式の学習塾を表示するものとして著名なものとなっており、「TKG」の標章は、「東京個別指導学院」の略称として広く認識され、周知なものとなっていたことが認められる。
 これに反する原告の主張は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。
(3) 被告各標章の使用態様とその商標的使用該当性
ア 被告標章1について
(ア) 被告チラシのうち、被告標章1を付したチラシ(甲17ないし19。以下「被告チラシ1」という。)は、平成16年1月から平成18年7月21日までの間に配布された新聞折り込み広告である。
 被告チラシ1には、複数の種類があり、表現振り、記載事項等が一部異なるものがあるが、以下の点において、おおむね共通する(別紙1は、被告チラシ1の例(甲17の「資料1表」)である。)。
a 別紙1のとおり、被告標章1が、被告チラシ1の上部にチラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで、チラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている。
 被告標章1の左下に、被告標章1に比して小さな文字で、「塾なのに、自分で選んだ家庭教師と学習できる。」との文章及び「それが、東京個別指導学院です。」との文章が2段に分けて記載されている。
 被告チラシ1の中央部には、@「集団塾と家庭教師。どっちがいいんだろう?」との表示を取り囲むように、集団塾の長所(「集団塾のいいところって、何だろう。」)、集団塾の短所(「集団塾の困るところって、何だろう。」)、家庭教師の長所(「家庭教師のいいところって、何だろう。」)及び家庭教師の短所(「家庭教師の困るところって、何だろう。」)についてそれぞれ四角で囲った枠に箇条書きで記載され、A集団塾の長所に係る枠内には、「進学・受験のノウハウがある」、「通塾するため、学習習慣を身につけられる」、「自分のレベルがわかる」、「学習環境が整っている」との記載がされ、B集団塾の短所に係る枠内には、「自分のペースにあわない」、「みんなの前では質問しにくい」、「休むと授業に遅れてしまう」、「時間の自由がきかない」、「子どもに目が行きとどかない」との記載がされ、C家庭教師の長所に係る枠内には、「自分のレベルやペースにあわせた授業をしてくれる」、「きめこまかな授業をしてくれる」、「時間に融通がきく」、「子どもの相談相手になれる」との記載がされ、D家庭教師の短所に係る枠内には、「自宅に先生を呼ぶのは面倒」、「授業料が高い」、「相性が悪くても先生をかえにくい」、「自宅では学習意欲が起こりにくい」、「科目ごとに先生を変えられない」との記載がされ、EAないしDの下に、「そこで塾と家庭教師。そのいいところをくっつけました。」との記載がされている。
b 別紙1のとおり、被告チラシ1の右上部から右下部にかけて、「東京個別指導学院の特色」として、「1 東京個別は先生1人対生徒2人まで!」、「2 自分にピッタリの先生が選べる「講師指名制度」」、「3 1人ひとりの性格・学力・目的にあわせた「目標達成カリキュラム」」、「4 部活との両立もカンタン自由に選べる「時間・曜日・回数」」、「5 定期テスト前には「無料補講」」、「6 休んでも授業におくれない「振替授業」」の項目を掲げ、各項目を説明する文章が記載されている。
c 別紙1のとおり、被告チラシ1の下部に、赤色の「TKG」の文字と鳥のイラスト図形からなる標章と、チラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで、青地に白抜き文字で記載された「東京個別指導学院名古屋校」の標章(「名古屋校」の文字部分は「東京個別指導学院」の文字部分に比して文字が小さい。)が表示されている。
d なお、上記cの「東京個別指導学院名古屋校」の標章は、関東圏における被告チラシ1(甲18)では「東京個別個別指導学院」の標章に、関西圏における被告チラシ1(甲19)では「関西個別指導学院」の標章にそれぞれ置き換えられている。
(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば、被告チラシ1に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章1の「塾なのに家庭教師」の語は、チラシ中央部の集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)a)や、チラシ右側の「東京個別指導学院の特徴」の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど、集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」、「東京個別個別指導学院」又は「関西個別指導学院」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c、d)から想起し、「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 そうすると、被告標章1が被告チラシ1において役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告チラシ1における被告標章1の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
イ 被告標章2について
(ア) 被告チラシのうち、被告標章2を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(甲20、23。以下「被告チラシ2」という。)は、平成16年11月9日から平成20年4月7日までの間に配布された新聞折り込み広告である。、
 被告チラシ2には、複数の種類があり、表現振り、記載事項等が一部異なるものがあるが、以下の点において、おおむね共通する(別紙2は、被告チラシ2の例(甲20の「資料1表」)である。)
a 別紙2のとおり、被告チラシ2の最上部に、赤地に白抜き文字の「個別指導塾No.1」の標章が表示されている。
 「個別指導塾No.1」の標章の下に、被告標章2が、被告チラシ2の上部にチラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで、チラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている(ただし、被告チラシ2のうち縦長のもの(甲20の「資料6表」)については、チラシ全体の横幅すべてを占める長さで被告標章2が表示されている。)。
 被告標章2の左下に、被告標章2に比して小さな文字で、「塾なのに、自分で選んだ家庭教師と学習できる。」との文章及び「それが、東京個別指導学院です。」との文章が2段に分けて記載されている。
 被告チラシ2の中央部には、@「?集団塾と家庭教師。どっちがいいんだろう?」との表示の下に、集団塾の長所(「集団塾のいいところ」)、集団塾の短所(「集団塾の困るところ」)、家庭教師の長所(「家庭教師のいいところ」)及び家庭教師の短所(「家庭教師の困るところ」)についてそれぞれ四角で囲った枠に箇条書きで記載され、A集団塾の長所に係る枠内には、「進学・受験のノウハウがある」、「科目ごとに適した先生に習うことができる」、「学習環境が整っている」、「通塾するため学習習慣を身につけられる」との記載がされ、B集団塾の短所に係る枠内には、「目的にあった授業をしてくれない」、「休むと授業に遅れてしまう」、「塾の時間表にあわせなければいけない」、「みんなの前では質問しにくい」との記載がされ、C家庭教師の長所に係る枠内には、「目的や学力にあわせた学習ができる」、「自分のペースにあった授業をしてくれる」、「時間や曜日に融通がきく」、「子どもの相談相手になれる」との記載がされ、D家庭教師の短所に係る枠内には、「授業料が高い」、「自分の学力やレベルがわかりにくい」、「相性が悪くても先生をかえにくい」、「自宅では学習意欲が起こりにくい」との記載がされ、EAないしDの表示に取り囲まれるように、「TKGは塾と家庭教師、そのいいところをくっつけました。」との記載がされている。
b 別紙2のとおり、被告チラシ2の右上部から右下部にかけて(ただし、被告チラシ2のうち縦長のものについては、右中部において)、青地に白抜き文字で記載された「進学塾のノウハウと家庭教師のきめ細かさ」及び「これがTKGの個別指導です。」の2段の文字部分の下に、「最適の先生が選べる「講師指名制度」」、「目標達成できる「オーダーメイドカリキュラム」」、「希望にあわせて選べる「受講科目・内容」」、「自由に選べる「曜日、時間、回数」」、「いつでも使える「自習スペース」」の項目を掲げ、各項目を説明する文章が記載されている。
c 別紙2のとおり、被告チラシ2の下部に、赤色の「TKG」の文字と鳥のイラスト図形からなる標章と、チラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで(ただし、被告チラシ2のうち縦長のものについては、チラシの全体の横幅すべてを占める長さで)、青地に白抜き文字で記載された「東京個別指導学院名古屋校」の標章(「名古屋校」の文字部分は「東京個別指導学院」の文字部分に比して文字が小さい。)が表示されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば、被告チラシ2に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章2の「塾なのに家庭教師」の語は、チラシ中央部の集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)a)や、チラシ右側の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような「きめ細かな」個別指導が受けられるなど、集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c)から想起し、「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 そうすると、被告標章2が被告チラシ2において役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告チラシ2における被告標章2の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
ウ 被告標章3について
(ア) 被告チラシのうち、被告標章3を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(以下「被告チラシ3」という。)には、別紙3のとおり、次のような表示がされている(甲21)。
a 別紙3のとおり、被告チラシ3の最上部の青地の長方形の枠内に、左側に、赤色の「TKG」の文字と鳥のイラスト図形からなる標章、中央部に被告標章3、右側に、被告標章3に比してやや大きい白抜き文字の「TKG」標章及びその下に被告標章3に比して小さい白抜き文字の「東京個別指導学院名古屋校」の標章(「名古屋校」の部分は「東京個別指導学院」の部分に比してさらに文字が小さい。)が表示されている。
 被告チラシ3の上部に、チラシ全体の中で最も大きな文字で、「きめ細やかさは、」、「「勉強の教え方」だけでは」、「ありません。」という3段に分けられた明朝体で白色の文字からなる文章が表示されている。
b 別紙3のとおり、被告チラシ3の中央下部に、青地に白抜き文字で記載された「お子さまの心もいっしょにフォローします!」の文章の下に、「お子さまがしっかりと理解できるまで“きめ細やか”に指導するのは当たり前。TKGでは、勉強中の様子や体調・心情までチェックして、効率的に学習が行なえるようにしっかりフォローいたします。」等の説明文が、また、被告チラシ3の右下部に、青地に白抜き文字で記載された「東京個別指導学院がNo.1な理由」の見出しの下に、 「1 対 2 or 1 対 1 の「完全個別指導」」、「指名後の変更も可能「講師指名制度」」、「1人ひとりのレベルにあわせた「オーダーメイドカリキュラム」」、「希望にあわせて選べる科目・曜日・時間帯」との項目を掲げ、被告チラシ3の裏面にそれぞれの項目に関する詳しい説明が記載されている(甲21)。
(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば、被告チラシ3に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章3の「塾なのに家庭教師」の語は、チラシ上部の「きめ細やかさは、「勉強の教え方」だけではありません。」の文章(前記(ア)a)、チラシ右側に「東京個別指導学院がNo.1な理由」として掲げられた「1対2or1対1の「完全個別指導」」、「指名後の変更も可能「講師指名制度」」等の各項目(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、講師から家庭教師のような「きめ細やかな」個別指導が受けられるなどの学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、チラシ最上部に付された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し、「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 そうすると、被告標章3が被告チラシ3において役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告チラシ3における被告標章3の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
エ 被告標章4について
(ア) 被告チラシのうち、被告標章4を付した「東京個別指導学院名古屋校」のチラシ(甲22。以下「被告チラシ4」という。)は、平成16年2月27日から同年6月頃までの間に配布された新聞折り込み広告である。
 被告チラシ4には、複数の種類があり、表現振り、記載事項等が一部異なるものがあるが、以下の点において、おおむね共通する(別紙4は、被告チラシ4の例(甲22の「資料2表」)である。
a 別紙4のとおり、被告標章4が、被告チラシ4の中央部にチラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている。
 被告チラシ4の上部に、被告標章4に比して小さな文字で、「進学塾の情報力・指導ノウハウと家庭教師のきめ細かさ。」との文章及び「その両方を備えているのが東京個別指導学院です。」との文章が2段に分けて記載されている。
b 別紙4のとおり、被告チラシ4の右上部にから右下部にかけて、青地に白抜き文字で記載された「進学塾のノウハウと家庭教師のきめ細かさ」及び「これがTKGの個別指導です。」の2段の文字部分の下に、「ピッタリの先生が選べる「講師指名制度」」、「目標を達成できる「オーダーメイドカリキュラム」」、「自由に選べる「曜日・時間・回数」」等の項目を掲げ、各項目を説明する文章が記載されている。
c 別紙4のとおり、被告チラシ4の下部に、赤色の「TKG」の文字と鳥のイラスト図形からなる標章と、チラシ全体の横幅の2分の1程度を占める長さで、青地に白抜き文字で記載された「東京個別指導学院名古屋校」の標章(「名古屋校」の文字部分は「東京個別指導学院」の文字部分に比して文字が小さい。)が表示されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば、被告チラシ4に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章4の「塾なのに家庭教師」の語は、チラシ上部の「進学塾の情報力・指導ノウハウと家庭教師のきめ細かさ。」との文章(前記(ア)a)、チラシ右側の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような「きめ細かな」個別指導が受けられるなどの学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c)から想起し、「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 そうすると、被告標章4が被告チラシ4において役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告チラシ4における被告標章4の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
オ 被告標章5について
(ア) 被告ウェブサイトには、次のような表示がされている(甲23、64。なお、別紙5は、被告ウェブサイトの表示例(甲64の1枚目)である。)。
a 別紙5のように、被告ウェブサイトには、画面左上部に、紺色の「TKG」の標章、同標章に比して小さな文字で同標章と横並びになった被告標章5が表示され、画面右上部に被告標章5に比してやや大きな青地に白抜き文字の「東京個別指導学院」の標章が表示されている。このような態様で「TKG」の標章、被告標章5及び「東京個別指導学院」の標章とが表示されたウェブページが、被告ウェブサイト上に合計26か所ある。
b 別紙5のウェブページには、「TKGの特色」という青色の文字の標章と、その下に、同標章に比して小さな黒色の文字で「塾なのに家庭教師、それがTKG」の標章が表示されている。
 同ウェブページには、@「TKGだからできた!集団塾と家庭教師のイイとこどり!」との表示の下に、集団塾の長所(「○集団塾のイイところ」)、集団塾の短所(「×集団塾の困るところ」)、家庭教師の長所(「○家庭教師のイイところ」)及び家庭教師の短所(「×家庭教師の困るところ」)についてそれぞれ箇条書きで記載され、A集団塾の長所として、「進学・受験のノウハウがある」、「通塾するため、学習習慣を身につけられる」、「自分のレベルがわかる」、「学習環境が整っている」との記載がされ、B集団塾の短所として、「自分のペースにあわない」、「みんなの前では質問しにくい」、「休むと授業に遅れてしまう」、「時間の自由がきかない」、「子どもに目が行きとどかない」との記載がされ、C家庭教師の長所として、「自分のレベルやペースにあわせた授業をしてくれる」、「きめ細やかな授業をしてくれる」、「時間に融通がきく」、「子どもの相談相手になってくれる」との記載がされ、D家庭教師の短所として、「自宅に先生を呼ぶのは面倒」、「授業料が高い」、「相性が悪くても先生をかえにくい」、「自宅では学習意欲が起こりにくい」、「科目ごとに先生をかえられない」との記載がされ、EAないしDの下に、「進学塾のノウハウと家庭教師のきめ細かさ。これがTKGの個別指導です。」との記載がされている。
 別紙5以外の被告標章5が表示された他のウェブページには、「安全・安心への取り組み」、「教育理念・指導方針」、「講師について」等の項目の説明などが掲載されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実と前記(1)及び(2)イの認定事実を総合すれば、被告チラシ5に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章5の「塾なのに家庭教師」の語は、別紙5のウェブページにおける「TKGの特色」の標章及びその下の「塾なのに家庭教師、それがTKG」の標章、集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど、集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、画面左上部に表示された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し、「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。また、被告ウェブサイトのうち、「安全・安心への取り組み」、「教育理念・指導方針」、「講師について」等の項目の説明などが掲載された他のウェブページは、別紙5のウェブページに続く、同ウェブページに関連する事項を掲載したものといえるから、上記需要者においては、上記他のウェブページに表示された被告標章5の「塾なのに家庭教師」についても、別紙5のウェブページに表示されたものと同様に認識するものと認められる。
 そうすると、被告標章5が被告ウェブサイトにおいて役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告ウェブサイトにおける被告標章5の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
カ 原告の主張に対する判断
(ア) これに対し原告は、被告各標章を構成する「塾なのに家庭教師」の語は、「塾であるにもかかわらず、家庭教師のように個別対応の懇切丁寧な教授を行うこと」を暗示する造語であって、役務の性質を、日常的には使用されることのないインパクトのある言葉で表現したものであり、被告の提供する役務の自他識別標識として機能するものであるから、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、商標的使用に当たる旨主張する。
 しかしながら、「塾なのに家庭教師」の語は造語であるが、前記(1)イ認定のとおり、「塾であるにもかかわらず家庭教師」のようであることを示す語であるというにとどまり、「塾なのに家庭教師」の語それ自体から直ちに一義的な特定の観念が生じるものとはいえない。
 そして、ある標章の使用が商標的使用に当たるかどうかは、その具体的使用態様にかんがみて判断すべきであるところ、前記アないしオで認定したとおり、被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の具体的な使用態様に照らすならば、被告各標章は、被告の提供する「学習塾の教授」の役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
(イ) 次に、原告は、「塾なのに家庭教師」の語が、被告チラシにおいて、他の記述と区別された態様で「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」の語と被告チラシの上下位置で対になるように使用され、あるいは、被告ウェブサイトにおいて、他の記述と区別された態様で「TKG」の語と並べて使用されることによって、需要者は、「塾なのに家庭教師」の語を「東京個別指導学院」、「関西個別指導学院」あるいは「TKG」の語と結びつけて記憶するようになるのであり、「塾なのに家庭教師」の語は、これに接した需要者が即座に一定の出所を想起するように使用されていることは明らかである旨主張する。
 しかしながら、被告標章1ないし被告標章4は、前記アないしエのとおり、被告チラシにおいて、「東京個別指導学院名古屋校」の標章等及び「TKG」の標章とは別の位置にそれぞれ離れて記載され、また、被告標章5は、前記オのとおり、被告ウェブサイトにおいて、「TKG」の標章と並記されて表示されているものの、同標章と文字色と大きさも異なるのであるから、需要者において、必ずしも「東京個別指導学院名古屋校」等の標章又は「TKG」の標章と「塾なのに家庭教師」の語を結びつけて記憶するのが自然であるとまではいえない。また、前記(2)イのとおり、学習塾の業界関係者、生徒及びその保護者の間においては、「東京個別指導学院」の標章は、被告が経営する個別指導方式の学習塾を表示するものとして著名なものとなっており、「TKG」の標章は、「東京個別指導学院」の略称として広く認識され、周知なものとなっていたことに照らすならば、むしろ、需要者は、「東京個別指導学院」や「TKG」の文字に着目して、役務の出所が被告であると認識すると解するのが自然である。
 さらに、仮にこれらの語を結びつけて認識したとしても、前記アないしオのとおり、需要者は、被告チラシや被告ウェブサイトにおける他の記載部分と相俟って、「塾なのに家庭教師」の語は、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなどの学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、その役務の出所については「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
(4) まとめ
 以上のとおり、被告による被告チラシ及び被告ウェブサイトにおける被告各標章の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないから、その余の点について判断するまでもなく、本件商標権の侵害行為又は侵害行為とみなす行為のいずれにも該当しないというべきである。
2 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 大西勝滋
 裁判官 上田真史
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