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【事件名】JASRAC vs KTJAPAN事件
【年月日】平成22年11月24日
 東京地裁 平成22年(ワ)第17479号 著作物使用料等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年10月18日)

判決
原告 一般社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 山川博光
同 川添大資
被告 株式会社KT JAPAN
被告 A


主文
1 被告株式会社KT JAPANは、原告に対し、金123万5133円及び内金102万9278円に対する平成22年5月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社KT JAPANは、原告に対し、金187万5813円及び内金119万4095円に対する平成17年7月1日から、内金68万1718円に対する平成17年10月1日から、それぞれ支払済みまで年2割の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1と被告株式会社KT JAPANに生じた費用を被告株式会社KT JAPANの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告Aに生じた費用を原告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 別紙の「第1 請求の趣旨」記載のとおり。なお、請求の趣旨1項及び2項は、主文1項及び2項と同旨である。また、被告Aについての訴状送達の日の翌日は、平成22年5月21日である。
第2 事案の概要
 本件は、著作権等管理事業法に基づいて登録を受けた著作権等管理事業者である原告が、@被告株式会社KT JAPANに対し、録音利用許諾契約に基づく原告の管理著作物の使用料、違約金及び当該使用料に対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びにインタラクティブ配信利用許諾契約に基づく原告の管理著作物の使用料及びこれに対する約定の遅延損害金の支払を、A被告株式会社KT JAPANの代表者である被告Aに対し、会社法429条1項に基づく前記各使用料相当額の損害賠償金及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。
1 原告の主張
(1) (2)に記載するほかは、別紙の「第2 請求の原因」記載のとおりである。
(2) 被告Aは、Bが株式会社サニックス(以下「サニックス」という。)に移籍すれば、原告への著作物使用料の支払業務を担当する者が被告株式会社KT JAPAN(以下「被告会社」という。)にいなくなるにもかかわらず、Bが平成17年4月ころにサニックスに移籍した後は、サニックスが原告に対する著作物使用料債務を負い、被告会社は同債務を免れるものと軽信し、少なくとも、原告に対する当該債務の負担又は履行を誰がするかにつき、サニックスとの間で取り決めることを怠った(甲21)。
 以上のような状況にありながら、被告Aは、Bが、サニックスに移籍する直前の平成17年3月14日及び4月14日の2回にわたって、録音利用申込みを行い、平成16年12月から平成17年4月までの間、原告の管理著作物をダウンロードにより利用することを放置し、漫然と弁済の見込みのない著作物使用料債務を発生させた。
 したがって、被告Aは、Bがサニックスに移籍することが予定された状況下で、漫然と録音利用申込み及び著作物の利用を行って弁済の見込みのない著作物使用料を発生させ、原告に著作物使用料の回収を困難にさせ、損害を発生させたものであるから、著作物使用料相当額の損害金についても責任を負うというべきである。
2 被告らの主張
(1) 被告会社は、原告に対し、平成17年4月27日に「基本契約解約・許諾番号廃止申込書」(甲17。以下「インタラクティブ配信契約解約申込書」という。)及び同月28日に「録音契約に対する解約申込書」(甲16。以下「録音契約解約申込書」という。)を提出しており、これにより被告会社の責任はなくなっている。
(2)ア (1)のとおりであるから、被告Aが、Bのサニックスへの移籍により原告への著作物使用料債務を免れるものと軽信していたことはない。被告らは、前記(1)による解約後、原告から何の連絡もなかったことから、著作物使用料については、支払済みと思っていた。
イ Bのサニックスへの移籍は、平成17年4月23日における株式会社コリテックからの指令によるものであって、被告Aは、Bのサニックスへの移籍が予定された状況下で、漫然と弁済の見込みのない著作物使用料を発生させたものではない。
第3 当裁判所の判断
1 原告の被告会社に対する請求について
(1) 証拠(甲1ないし15、22ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「第2 請求原因」1ないし3記載の各事実が認められる。
 また、遅延損害金の起算日である被告会社についての訴状送達の日の翌日が、平成22年5月21日であることは、当裁判所に顕著である。
(2) 被告らは、被告会社が、本件録音利用許諾契約につき録音契約解約申込書(甲16)を、本件インタラクティブ配信利用許諾契約につきインタラクティブ配信契約解約申込書(甲17)を、それぞれ提出したことにより、その債務を免れていると主張する。
 しかしながら、本件録音利用許諾契約及び本件インタラクティブ配信利用許諾契約(以下、両契約を併せて「本件各契約」という。)につき解約がされたからといって、それによって、本件各契約が継続している間に発生した使用料債務が、当然に消滅するものではない。
 また、被告らの主張は、当該使用料債務につき、サニックス又は被告会社からサニックスに移籍したBによる債務引受がされた旨の主張であるとも解されるところ、証拠(甲16)によれば、被告会社は、原告に対し、録音契約解約申込書を提出し、平成17年4月末日をもって本件録音利用許諾契約を解約し、同契約に基づく使用料の請求書の送り先をサニックス(担当B)とするように申し入れていることが認められる。しかしながら、他方で、録音契約解約申込書には、同日までの著作物使用料については、被告会社が支払うことが明記されていること(甲16)からすれば、録音契約解約申込書の提出によって、被告会社が、原告に対し、被告会社からサニックス又はBに対する当該使用料債務についての免責的な債務引受その他の債務の承継についての承諾を求めたものと認めることはできない。また、インタラクティブ配信契約解約申込書(甲17)には、そもそも、請求書の送付先をサニックス又はBとするよう求める等の使用料債務の承継又は支払に関する記載はない。
 そして、他に、サニックス又はBが、本件各契約に基づく被告会社の著作物使用料債務(以下「本件使用料債務」という。)につき債務引受をし、原告がそれを承諾したことその他の原因によって、被告会社が本件使用料債務を免れたと認めるに足る証拠はない。
 したがって、被告らの前記主張は、理由がない。
(3) 以上のとおりであるから、被告会社は、原告に対し、@本件録音利用許諾契約に基づき、未払使用料及び違約金の合計123万5133円及び未払使用料である内金102万9278円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務を、A本件インタラクティブ配信利用許諾契約に基づき、未払使用料の合計187万5813円及び内金119万4095円に対する支払期限の翌日である平成17年7月1日から、内金68万1718円に対する支払期限の翌日である平成17年10月1日から、それぞれ支払済みまで年2割の割合による約定の遅延損害金の支払義務を負う。
2 原告の被告Aに対する請求について
(1) 原告の被告Aに対する請求は、@被告Aが、Bに対して本件各契約に係る事務を一任し、被告会社を本件使用料債務の債務不履行に陥らせたことを理由とする取締役の任務懈怠、A本件使用料債務の支払についての意図的な遅滞を理由とする取締役の任務懈怠、BBのサニックスへの移籍が予定された状況下で、漫然と録音利用申込み及び著作物の利用を行って弁済の見込みのない著作物使用料を発生させ、原告に著作物使用料の回収を困難にさせたことを理由とする取締役の任務懈怠に基づき、本件使用料債務相当額の損害賠償を求めるものである。
 このうち、@及びAは、いずれも被告会社が履行を遅滞していることについての被告Aの取締役としての任務懈怠を主張するものであると解されるところ、仮に、被告Aの任務懈怠行為が認められ、被告会社による債務の履行が遅滞した事実があったとしても、当該任務懈怠行為と相当因果関係がある損害は、履行を遅滞していることによって生ずる損害であって、原告の主張する本件使用料債務相当額が、当然に履行を遅滞していることによって原告に生じた損害となるものではない。そして、原告は、履行を遅滞していることによって、原告に本件使用料債務相当額の損害が発生したことを基礎付ける事情について、何ら主張していないから、原告の主張は、失当である(なお、原告は、本件使用料債務の履行を遅滞していること自体を理由とする損害については、何ら主張していない。)。
 また、Bの弁済の見込みのない著作物使用料債務を発生させたことについての任務懈怠については、被告会社が、原告に対し、原告の管理著作物の録音利用申込みをし、又は当該著作物の利用を行った段階で、当該著作物の利用に伴う著作物使用料につき、支払の見込みがなかったと認めるに足る証拠はないから、原告の当該主張は、理由がない。
(2) 以上のとおりであるから、原告の被告Aに対する請求は、理由がない。
3 よって、原告の請求は、被告会社に対し、@本件録音利用許諾契約に基づき、123万5133円及び内金102万9278円に対する平成22年5月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払、並びに、A本件インタラクティブ配信利用許諾契約に基づき、187万5813円及び内金119万4095円に対する平成17年7月1日から、内金68万1718円に対する平成17年10月1日から、それぞれ支払済みまで年2割の割合による約定の遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 菊池絵理
 裁判官 坂本三郎
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