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【事件名】類似“子供椅子”事件
【年月日】平成22年11月18日
 東京地裁 平成21年(ワ)第1193号 著作権侵害行為差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年8月27日)

判決
原告 ピーター・オプスヴィック・エイエス
原告 ストッケ・エイエス
上記2名訴訟代理人弁護士 武藤佳昭
同 達野大輔
同 松平浩一
被告 アップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社
同訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 若林元伸
同 竹平征吾
同 吉村幸祐
同 補佐人弁理士原謙三
同 福井清
同 祐末輝秀
同 田中陽介


主文
1 被告は、別紙被告製品目録1記載の製品を製造し、販売し又は販売のために展示してはならない。
2 被告は、別紙被告製品目録1記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告ストッケ・エイエスに対し、244万5333円及びこれに対する平成21年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告ストッケ・エイエスのその余の請求を棄却する。
5 原告ピーター・オプスヴィック・エイエスの請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、原告ピーター・オプスヴィック・エイエスに生じた費用と被告に生じた費用の4分の1を原告ピーター・オプスヴィック・エイエスの負担とし、原告ストッケ・エイエスに生じた費用の4分の3と被告に生じた費用の4分の1を原告ストッケ・エイエスの負担とし、原告ストッケ・エイエスに生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
7 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
8 本件につき原告らに対する控訴に伴う付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 主文1、2項と同旨
2 被告は、原告ピーター・オプスヴィック・エイエス(以下「原告オプスヴィック社」という。)に対し、3437万2800円及びこれに対する平成21年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告ストッケ・エイエス(以下「原告ストッケ社」という。)に対し、2億2342万3200円及びこれに対する平成21年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告オプスヴィック社及び原告ストッケ社に対し、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領で同目録記載の新聞に掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、被告が、いずれも、いすである別紙被告製品目録1及び2記載の製品(以下、同目録1記載の製品を「被告製品1」、同目録2記載の製品を「被告製品2」といい、被告製品1と被告製品2とを総称して「被告製品」という。)を製造、販売する行為につき、@ 原告オプスヴィック社が有する別紙原告製品目録記載のいす(以下「原告製品」という。)のデザインに係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとして、原告オプスヴィック社が被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき被告製品1の製造、販売等の差止め及び廃棄(なお、原告らは、被告製品2については差止めの対象としていない。以下のA、Bにおいても同じ。)を求めるとともに、民法709条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求め、A 原告ストッケ社の原告製品に係る著作権の独占的利用権を侵害するとして、原告ストッケ社が被告に対し、同利用権及び民法709条に基づき被告製品1の製造、販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求め、B 原告らの周知な商品等表示である原告製品の形態を使用する不正競争行為に該当するとして、原告らが被告に対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号、3条1項、2項に基づき被告製品1の製造、販売等の差止め及び廃棄並びに同法4条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求めるとともに、不競法14条に基づき謝罪文の掲載を求め、C 原告らの営業上の利益を侵害する一般不法行為に該当するとして、原告らが被告に対し、民法709条に基づく損害賠償を求める事案である。
1 前提事実(証拠を記載したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) Aは、ノルウェー出身の工芸デザイナーであり、原告製品のデザインは、その代表的なデザインの一つである(甲1ないし11)。
 原告オプスヴィック社は、ノルウェー法に基づき設立された会社であり、Aの作品に係る権利を承継し、保有している(甲14、弁論の全趣旨)。
 原告ストッケ社は、家具の製造、販売、輸出等を業とする会社であり、原告製品を製造し、販売している(甲1、3ないし5)。
(2) 被告は、育児用品・子供用乗り物・家庭用品の開発、企画、設計、製造及び販売を業とする株式会社である。
 被告は、現在、被告製品1を製造、販売しており、また、被告製品2を販売している(乙36)。
(3) 被告は、平成20年4月1日、アップリカ育児研究会アップリカ葛西株式会社(以下「旧アップリカ社」という。)から事業譲渡を受け、同社の債務について免責の登記(会社法22条2項参照)をしている。
2 本件の争点
(1) 被告が被告製品を製造、販売する行為が、原告製品に係るデザインの著作権や著作権の独占的利用権の侵害に当たるか(争点1)
(2) 被告が被告製品を製造、販売する行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか(争点2)
ア 原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当するか(争点2−1)
イ 原告製品の形態と被告製品の形態が類似するか(争点2−2)
ウ 混同のおそれの有無(争点2−3)
(3) 被告が被告製品を製造、販売する行為が原告らの営業上の利益を侵害する一般不法行為に該当するか(争点3)
(4) 被告は、旧アップリカ社が平成20年3月31日以前に被告製品を製造、販売したことについて責任を負うか(争点4)
(5) 原告らの損害ないし損失(争点5)
3 当事者の主張
(1) 被告が被告製品を製造、販売する行為が、原告製品に係るデザインの著作権や著作権の独占的利用権の侵害に当たるか(争点1)
(原告らの主張)
ア 原告製品に係るデザインの著作権について
(ア) Aにより創作された原告製品のデザイン(以下「本件デザイン」という。)は、著作物である。
(イ) 本件デザインは、もともとAが自分の子供のために創作したものであり、創作の時点において、応用美術ではなく、創作性を備えているから、通常の著作物として保護される。原告製品がその後量産されるに至ったとしても、その著作物性は影響を受けない。
イ 仮に、本件デザインが応用美術の範疇に属するとしても、以下のとおり、著作権法による保護は否定されない。
(ア) 著作権法上は、純粋美術であるか応用美術であるかを問わず、その著作物が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、・・・美術・・・の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であれば、著作物として保護されるべきである。
(イ) 応用美術に関する著作権の保護を否定し又は限定的に解釈することは以下のとおり不合理であり、かかる解釈を維持することはできない。
a 一般的な著作物については、創作性の解釈について緩やかな基準が採られているのに対して、応用美術の場合に純粋美術としての性質をも有するといった極めて高度な創作性を要求することは、不合理なダブルスタンダードの解釈であり、著作権法上このような差異を設ける根拠も存在しない。
 また、応用美術、すなわち、実用に供され、あるいは、産業上利用される美的な創作物という概念は極めてあいまいであり、解釈基準として妥当ではない。
b 産業の発達は、現代の日本の著作権法の目的として重要な課題となっており、応用美術に対する著作権の保護の欠落や不充分さは、我が国の産業に悪影響を及ぼすことになる。
(ウ) 本件デザインは、その芸術的フォルム、審美的創作性から「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、・・・美術・・・の範囲に属するもの」といえるから、著作物として保護される。
(エ) 仮に、応用美術の保護につき、裁判例の判断枠組みを維持するとしても、本件デザインは、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視しうる程度の美的創作性を具備しているから、著作物性が認められる。
(オ) なお、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン及びスイスの各裁判所において、本件デザインは著作物であることが確認されている。
 また、本件デザインは、ノルウェーにおいて創作された著作物であり、日本及びノルウェーは、ベルヌ条約に加盟しており、同条約加盟国では応用美術が保護されるから、日本の著作権法によっても保護の対象となるものである(著作権法6条3号)
ウ 本件デザインの著作権に係る契約関係
 Aは、本件デザインを創作した著作者であり、本件デザインの著作権を原告オプスヴィック社に譲渡した。そして、原告オプスヴィック社は、原告ストッケ社に対し、本件デザインの著作権について独占的利用を許諾している。
エ 原告製品と被告製品の類似について
(ア) 原告製品と被告製品の形態を詳細に比較すると、別紙「原告製品形態及び被告製品形態の詳細比較表(原告ら)」のとおりである。
(イ) 被告製品は、原告製品の特徴をすべて備え、外観的にはほぼ同一であることから、本件デザインの内容及び形式を覚知させるに足りるものである。したがって、被告による被告製品の製造は、本件デザインの複製又は翻案に当たる。
 原告製品は、昭和49年から日本に輸入され、各種媒体で宣伝広告され、広く全国で販売されていたから、被告は、被告製品を製造、販売した時点において、原告製品の存在を了知していたといえる。加えて、原告製品と被告製品が極めて類似していることは、被告が被告製品の製造に当たり、原告製品に依拠していたことの証左であり、被告には著作権侵害の故意があったといえる。
オ 以上によれば、被告は、被告製品の製造、販売によって、原告オプスヴィック社が有する本件デザインの著作権(複製権及び翻案権)を侵害するとともに、これらの権利について原告ストッケ社が有する独占的利用権を侵害する。
(被告の主張)
ア 本件デザインがもともと自分の子供のために創作されたものであったとしても、いすのデザインとして創作されたものであるから、純粋美術に該当しないことは明らかである。
イ 応用美術は、原則として意匠法等の保護に委ねるのが著作権法の趣旨であり、著作権法の保護の対象となるのは原則として純粋美術に限られる。応用美術は、実用品の面を離れて美の表現において実質的制約を受けることなく専ら美の表現を追求して制作されたものと認められる場合や、鑑賞の対象として絵画・彫刻等の純粋美術と同視しうる場合に、はじめて、美術の著作物として保護されると解すべきである。
 この点、本件デザインは、いすのデザインであって座るための実用品であり、純粋美術と同視し得るものでないことは明らかであるから、著作権法による保護は受けられない。
ウ 著作権法の目的は、文化の発展に寄与することである。原告らが主張するような産業の発達は著作権法の目的ではなく、意匠法の目的である。
エ ベルヌ条約は、応用美術については、その保護の範囲及び保護条件を定める際の準拠法を各同盟国の国内法と定めているから(同条約5条1項、2項、2条1項、7項、ベ) ルギー等諸外国における立法や裁判所の判断は本件の判断に影響するものではない。
オ 以上のとおり、本件デザインが著作物といえないことは明らかであるから、原告らの著作権法に基づく請求は、いずれも失当である。
(2) 被告が被告製品を製造、販売する行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか(争点2)
ア 原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当するか(争点2−1)
(原告らの主張)
(ア) 不競法2条1項1号の「商品等表示」には商品の形態も含まれ、特定の形態上の特徴を備えた商品が原告らの商品であるということが取引者や消費者に広く知られているのであれば、当該形態をもって商品等表示に当たるとされている。
 この点、原告製品は、下記(イ)のとおり同種の商品と比較して特異な形態をとっており、また、下記(ウ)のとおり取引者や消費者の間でその形態は原告らの商品であることを示すものとして周知なものとなっているから、商品等表示に該当する。
(イ) 原告製品の形態の特徴について
 原告製品の形態の特徴は、下記a、bのとおりである。
 なお、下記の特徴を有する原告製品の全体的な形態が商品等表示として認められるか否か、が判断されるべきであり、各要素に分断して判断すべきではない。
a 形態1(ベビーガード非装着時の形態)
@ 木製のいすであり、斜めになった「L」字状の形態を有する板(以下「L字板」という。)2枚、座板(これにはストラップを通すための穴が開けられている。)1枚、足のせ板1枚、背板2枚、横木1枚、金属の棒2本及びこれらを結合するボルト等の部品から成る。
A L字板の2辺の角度は66度である。
B 2枚のL字板が地面と垂直にかつ2枚が平行に並べられ、その間に挟み込まれるように、上部に2枚の曲線の背板、中央部及び下部に金属の棒2本、下部やや後方に横木1枚が地面と平行に配置されている。
C L字板には、座板及び足のせ板が挿入可能なように地面に平行に彫られた多数の溝がある。
D 座板及び足のせ板が前記の溝に着脱自由に挿入されることによりL字板の間に装着されている。これらの木製板の後方縁部分は波状に加工されている。
b 形態2(ベビーガード装着時の形態)
 上記a@からDの形態に加え、次のEの形態を有する。
E 幼児がいすから転落することを防ぐための着脱可能な保護用のベビーガードとして、曲線の板1枚が、L字板に挟み込まれるように地面と平行に取り付けられている。当該ベビーガードには中央部に革製のストラップが存在し、その上部はベビーガードに固定され、下部は座板に開けられた穴に通して固定される。
c 原告製品の形態の特徴に係る被告の主張に対する反論
(a) 原告製品の類似品の存在について
 原告製品の類似品は、すべて原告製品が有名となった後に模倣され、製造、販売されたものである。原告らは、このような模倣品の販売を行っている会社に対して警告書を送付し、販売中止を要請している。
 市場に流通する原告製品の類似品の数は、原告製品の数に比較すれば非常に少なく、かかる類似品の存在をもって原告製品の形態の商品識別性が失われるものではない。
(b) 機能上の形態であるとの主張について
 機能上の形態であるとして商品等表示と認められないのは、その機能を果たすために必然的・不可避的に採用せざるを得ない形態である場合に限定される。
 斜めのL字型の側面板というデザインは、技術・機能に由来するものではなく、必然的・不可避的に採用せざるを得ないものでもない。また、利用者の体の大きさに合わせていすの高さを調節するためには、原告製品の形態のように溝で支える方法のほか、ねじ等で固定する方法も考えられる。
 したがって、原告製品の具体的形態は技術的機能に由来するものではなく、子供用のいすとして必然的・不可避的に採用せざるを得ない形態ではない。
(c) 他人による意匠登録について
 「意匠」と「不競法における商品等表示」とは全く異なる概念であり、他人による意匠登録の事実が商品等表示性に影響を及ぼすことはない。不競法の商品等表示性は、具体的な販売事実に基づき、ある表示が特定の者の商品であることを需要者が認識するに至った状態により認定されるものであるから、当該商品の販売の事実を要件としない意匠登録により、かかる認定が影響を受けるものではない。
(d) 被告が主張するような、極めて特殊かつ独自な商品形態のみが自他識別力、出所表示力を備えるとは限らず、商品形態が他の同種商品と比較して特異な形状であるとまではいえなくとも、当該商品の製造販売、広告宣伝等の程度によっては、出所表示機能を取得することができる。下記(ウ)で述べるように、原告製品の製造販売、広告宣伝等の程度が出所表示機能を取得するに十分であることは明らかである。
(ウ) 原告製品の形態の周知性について
 原告製品の形態は、次のa、bの事情によれば、遅くとも被告製品の販売開始時点までには、原告らの商品等表示として周知なものとなっていた。
a 原告製品の宣伝活動は、30年以上の長期間にわたり、広範に行われている。その際、特徴的な形態を中心に据えて宣伝活動は行われ、雑誌等でもその形態を中心に紹介されてきた。これらの雑誌等には、原告製品の形態の写真と共に、その形態の特徴が、説明文的な文章や広告コピーによって述べられており、その形態が強く印象づけられている。したがって、需要者は、その特徴的な形態そのものを原告製品であると認識している。
b 原告製品は、昭和49年から、株式会社松屋(以下「松屋」という。)によって日本に輸入され、販売されている。その後、平成2年には、松屋と原告ストッケ社の合弁会社である株式会社スキャンデックス(以下「スキャンデックス」という。)によって販売されるようになった。原告らが、確実な数字として把握している原告製品の販売数量は、平成2年以降のものであり、同年以降の販売数量、売上高及び宣伝広告費の年度別の詳細は、別紙「原告製品の販売数量、売上高及び宣伝広告費」のとおりである。なお、平成2年度以前においても、平成3年度と同程度の販売数量、売上高があったと考えるのが相当である。
 また、原告ストッケ社が平成11年から平成21年までに日本に対して出荷した原告製品の数量を年度ごとにまとめると別紙「原告製品の日本に対する出荷数量」のとおりとなる。
 以上のとおり、原告製品の販売数量、売上高、宣伝広告費の大きさからしても、原告製品の形態が周知なものであることは明らかである。
(被告の主張)
(ア) 商品の形態が商品等表示と認められるためには、商品形態が極めて特殊かつ独自なものであるか否か、また、その形態が特定の商品形態として永年継続的かつ独占的に使用されてきたか否か、あるいは形態自体が強力に宣伝されたか否か等の諸要素を慎重に総合判断して決するのが相当である。
 次のaないしcの事情によれば、原告製品の形態は、商品等表示とは認められない。
a 日本国内において、原告製品と形態が類似するいすを販売している会社が多数存在する。
b(a) 原告製品の形態は、いすであることゆえに必要な技術や機能に由来しており、このような形態自体に自他識別力・出所表示力を認めるのは相当でない。原告らは、原告製品の形態は、技術的機能に由来する必然的・不可避的な形態でないと主張するが、絶対的な意味で必要不可欠とはいえなくとも公知公用の技術に基づく形態は格別特殊とはいえず、自他識別力・出所表示力を有しない。
(b) 原告製品の形態のうち、特に次の各点は技術・機能に由来する。
@ 脚板と側面板との角度が66度であることは、下方への重力、転倒防止機能、空間の効率的な活用、背もたれの角度などの制約の下では極めて合理的な選択である。
A 側面板に地面と平行に彫られた多数の溝は、「成長するいす」として座板と足のせ板の両方を容易に挿入することができ、かつ外すことができるアイデアを実現するために付けられたものである。座板と足のせ板の高さを調整するというアイデアを実現するために溝で支えるという手法は誰もが最初に思い付くような安易な形態である。また、ねじで留める方法に比べ、溝に座板や足のせ板を挿入する方法によると、これらと側面板とが接する面積が増加し過重が分散するため、より安全性の高い製品となる。
c 原告製品の形態と類似する登録意匠は、既に昭和60年ころには公知、公用であった。乙第21ないし第24号証の公知意匠によれば、側面板が脚板に対し斜めにL字型類似の形状として配置された形態については、遅くとも昭和60年の時点で既に公知の形態となっている。また、地面に平行に彫られた溝がある側面板を有する点、座板1枚、足のせ板1枚を有する形態や、横木1枚、背板2枚を有する形態についても多数の登録意匠が示すように、特異性のない、ありふれた形態である。
 実際に、原告製品の形態の特徴を備えた類似商品は、平成17年11月以前から多数存在し、市場に出回っていた。したがって、原告製品の形態は、公知のありふれた形態であり、商品等表示性は認められない。
(イ) 原告らが原告製品の形態の特徴として前記(原告らの主張)(イ)a、bで主張する@ないしEの点についての反論は次のとおりである。
a @について
 木製のいすであることや、L字板などの数々の部品が存在すること自体に特異性はない。幼児用のいすを想定し、高さが変えられる機能を達成しようとすると、このような部品で構成するのが合理的な選択である。
b Aについて
 背板を支える側面板の角度は66度であり、この程度の角度で地面に対して側面板が設置されるのはいすの形態としてありきたりのものである。
c Bについて
 2枚のL字板が地面と垂直に、2枚の板が平行に並べられるのはいすの構造上自然であり、曲線状になっている背板が2枚あることもありふれており、金属の棒や横木の配置も補強の方法及び箇所として普通のものである。
d C及びDについて
 これらは溝を利用して座板と足のせ板を固定しようという方法を具現化したものにすぎず、座板及び足のせ板の後方縁部分が波状に加工されている形態も何ら特徴的ではない。
e Eについて
 ベビーガードが曲線であり、ストラップが付いていることは、普通
のことである。
f 原告らが主張する@ないしEの形態を概ね備えた製品は多数存在しており、原告製品の形態は全体としてありふれたもので、格別、特異性、顕著性は認められないから、これを商品等表示と認めることはできない。
(ウ) 原告製品の形態に周知性がないこと
a 原告製品の形態が周知性を獲得するためには、その形態自体が周知でなければならない。この点、原告らは、「トリップ・トラップ」という商品名または商標により原告製品が有名であることを主張しているにすぎない。前記のとおり、原告製品の形態が特殊なものではないこと、類似する形態のいすが多数存在することなどの事情からしても、原告製品の形態自体に周知性がないことは明らかである。
b 雑誌等に原告製品の写真が掲載されたことをもって形態の特徴が強調されているとはいえないし、中には原告製品以外の類似商品も一緒に紹介されている雑誌もある。むしろ、原告らが指摘する雑誌等は、「成長するいす」というコピーや「北欧からの輸入品」である点を中心とする原告製品のコンセプトを強調して宣伝しているとみられる。
c 原告らの主張によれば、販売数量や売上高が伸びてきているのはここ数年の現象にすぎず、むしろ平成2年以前はほとんど売上げがなかったものと推察される。
 また、宣伝広告費についても、スキャンデックスは北欧家具一般を販売してきたのであり、原告製品に限らず他の製品も幅広く取り扱っていることや、宣伝広告費は原告製品に関するものに限られないことからすれば、原告製品に関する宣伝広告がされたことの立証はない。仮にその点をおくとしても、当該宣伝広告費自体、日本全国において原告製品の形態を周知にするに足りるほどに高額とはいえない。さらに、子供の成長に合わせて長く使用することができるという原告製品の性質からすれば、年代を問わず、あらゆる世代がマーケットとなるはずであり、日本の総人口と比較した場合、原告製品の販売数量は周知と評価できるほどのものではない。加えて、原告らの主張する売上高には、原告製品の売上高のみならず、原告製品に関連する付属品(ガードレール、ベビーセット及びクッション)の売上高も含まれており、これは原告製品の周知性とは関係がない。
イ 原告製品の形態と被告製品の形態が類似するか(争点2−2)
(原告らの主張)
(ア) 被告製品は、細部に至るまで原告製品とほぼ同じ外観を有し、体の成長に合わせていすの高さを変えられるというコンセプトやいすの高さを変える方法も同一であるから、両製品の細部に差異があるとしても、需要者が両者を類似のものと受け取るおそれがある。
 原告製品と被告製品の形態を詳細に比較すると、別紙「原告製品形態及び被告製品形態の詳細比較表(原告ら)」のとおりである。詳細に比較しても、各部位の長さについては誤差程度の差異しかなく、両者の全体の印象からは、非常に類似したものとなっている。
(イ) 被告が下記(被告の主張)(イ)で主張する各点は、次のとおり、原告製品と被告製品の類似性を否定する根拠にはならない。
a 被告製品の側面板と脚板とが回転できる設計となっているとしても、いすとして使用される時の形態である斜めになったL字型という主要な外観上の印象に大きな相違はない。
b 被告製品の脚板の前方先端部が丸みを帯びたデザインとなっていることは非常にささいな相違点にすぎない。
c 原告製品と被告製品は、大きさや重量が類似し、また、被告製品においてもテーブルを取り外して使用される期間の方が長く、テーブルが常に被告製品の形態の一部になっているとはいえない。
d 被告製品は、座板の後方部分に補強材を配置せず、座板の高さを調整する器具にねじやナット等を用いず、溝を掘ったものとしており、これらの点については原告製品との間に差異がない。また、被告製品の座板や足のせ板が丸みを帯びたデザインを採用しているのに対し、原告製品においても波状にデザインされた丸みを帯びたデザインとなっている。さらに、被告製品の側面板の溝は、後方に1度傾斜のある設計となっているものの、1度の角度の違いは目に見えるようなものではなく、全体の類似に何ら影響を与えるものではない。
(ウ) 意匠法上の類似性の判断に当たっては、需要者に対して異なる美感を起こさせるか否かで判断されるのに対し、不競法の類似性の判断に当たっては、取引の実情の下で総合的に商品主体や営業主体の混同を生ずるおそれがあるかどうかが判断されるから、その判断基準は異なる。
 また、被告製品は原告製品とその形態が非常に類似し、混同のおそれがあるため、被告製品の意匠は、出願時に「公然知られた意匠」に類似し(意匠法3条1項1号、3号)、「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」(同法5条2号)であるから、無効理由があることが明らかなものであり、これを基礎とする被告の主張は権利の濫用に当たり許されない。
(エ) 一般的な需要者が原告製品と被告製品との間に被告が主張するようなイメージの違いを持つかは疑わしく、仮に持ったとしても、原告製品と被告製品の外観的印象、体の成長に合わせて高さを変えられるコンセプト、高さを変える方法の同一性など全体として与える印象の類似からすると、両者の類似性は否定されない。
(被告の主張)
(ア) 原告製品と被告製品とを対比した場合、類似している部分はあるものの、双方ともいすである以上、その機能上必然的にいすとしての一般的な形態を備えざるを得ず、また、座板・足のせ板の高さを自由に変えられるというアイデアを具現するためには、必然的に形態は類似してくる。したがって、形態の類比の判断をする場合には、これらの形態部分は除外して検討すべきである。そうすると、原告製品と被告製品の形態には多くの相違点があり、類似するとはいえない。
(イ) 特に、被告製品は、下記aないしdの点について工夫・配慮をしており、その結果、原告製品と形態上類似しない。
a 被告製品は、日本の住宅事情を考慮し、折り畳むことが可能なように設計され、側面板と脚板が直接連結されておらず、回転することができる構造になっている。
b 被告製品は、床を傷つけることがないように、床と接する脚板前方先端部に丸みを帯びたデザインを採用している。これに対して、原告製品の脚板前方部は鋭角になっている。
c 被告製品において、食事をとるためのテーブルは、製品に不可欠な一部として設計され、テーブルの高さは親の目線の高さと合わせるため、一般的な食卓の高さである800oに近づけるように設計されている。この高さでテーブルを設計することにより、被告製品全体の寸法も決まり、テーブルより200oほど低い600oの高さのところに一番高い座板が挿入できるように設計されている。
 これに対して、原告製品には、テーブルが付属しておらず、また、被告製品と異なり、ベビーガードも別売りである。
 さらに、被告製品では、いすの高さの違いを反映して、より安定性が高まるように脚板の後部に補強板を付けている。
d 被告製品は、極力安全な商品にすることを意識し、座板の後方部分には補強材を配置せず、座板の高さを調整する器具としてねじやナットを用いず、溝を掘ったものとしている。また、座板や足のせ板には丸みを帯びたデザインを採用している。これに対して、原告製品の足のせ板、座板の後方縁部分は、波状にデザインされている。加えて、被告製品は、幼児が前のめりになって落下することを防止するために、座板の後方を傾斜させることとし、側面板の溝は、後方に1度傾斜のある設計となっている。
(ウ) 原告製品の形態と被告製品の形態とを詳細に比較すると、別紙「原告製品形態及び被告製品形態の詳細比較表(被告)」のとおりである。
(エ) 被告製品は、意匠登録されており、その際の参考文献として原告製品が挙げられていて、意匠登録の審査において被告製品と原告製品とは類似しないものと判断されている。仮に、原告製品と被告製品の形態の類似性を肯定すると、被告製品が意匠法により保護されたことと矛盾する。
(オ) 原告製品は、北欧家具を特集した雑誌に掲載されており、北欧からの輸入品である点が需要者に対する重要なアピールポイントとなっている。また、自社製の高品質のヨーロピアンビーチ材を使用し、一見して肌目が緻密であり、加工による仕上がりも美しい。加えて、原告製品は、全体的にシャープで洗練された印象を与える構成態様となっており、北欧からの輸入品であるという印象を与える。
 これに対し、被告製品については、日本の住宅事情に配慮した機能面を強調した広告が行われてきており、また、リーズナブルな価格で購入可能なラバーウッドが使用されている。加えて、被告製品は、全体的に重たい印象を与える構成態様となっており、機能面で優れた日本製品であるとの印象を与える。
 このように、原告製品と被告製品は、それぞれが与える印象からしても大きく異なる。
ウ 混同のおそれの有無(争点2−3)
(原告らの主張)
(ア) 原告製品と被告製品は共にいすであり、被告製品は、前記イ(原告らの主張)(ア)のとおり、原告製品の形態の特徴を備えている。
 また、原告製品の希望小売価格は2万8350円であり、被告製品の希望小売価格は2万6040円であるから、価格帯も同一である。
 さらに、原告製品の購買層は子供を持つ親を想定しており、被告製品も同じ購買層を想定しているから、「成長に合わせて調節可能、大人まで使える」というコンセプトも全く同じである。
 以上によれば、被告製品は、一般消費者をして、原告らの製品又は原告らと関係がある製品ではないか、あるいは、原告らと被告との間に密接な営業上の関係があるのではないかとの誤認、混同を生じさせるものであるといえる。
(イ) 不競法2条1項1号の混同を生じさせる行為は、現実に混同の結果が生じていなくても、混同のおそれをもたらせば足りると解されている。
 仮に、販売店においてメーカー名を明示して販売している等の事情があったとしても、混同のおそれを否定する理由にはならない。原告製品と被告製品のデザインが酷似していることからすれば、たとえ販売社名が異なったとしても、需要者は、両製品及びこれらを販売している会社の間に何らかのつながりがあるものと誤信するおそれがある。
(被告の主張)
(ア) 原告製品と同種の商品の市場には多数の同業者が存在しており、この種のいすを購入しようとする需要者は、様々な条件を十分吟味して商品を選択し、購入する。特に、原告製品は、他の同種商品に比べ高額であること、幼児の安全面に配慮し販売メーカー名等を確認すること、幼児一人に付き一台しか購入せず、成長に合わせて使い続けることが予定されるものであるから、購入に際しては慎重な配慮がされること、他方、被告は、被告製品に被告商標を明示し、販売店においても被告製の商品であることを明示して販売するようにしていることを併せ考えると、需要者が原告製品と被告製品とを混同することはありえない。
(イ) 原告製品と被告製品のデザインは、多くの点で異なっており、仮に一部共通する部分があったとしても、そのことをもって需要者が原告らと被告との間に何らかのつながりがあるものと誤信するおそれはない。
(3) 被告が被告製品を製造、販売する行為が原告らの営業上の利益を侵害する一般不法行為に該当するか(争点3)
(原告らの主張)
 公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害する行為は、不法行為を構成する場合がある。
 原告製品と誤認、混同される被告製品を製造、販売することは、原告製品のブランド、原告らの信用やイメージを著しく侵害することになると同時に、原告らが築き上げてきた原告製品のブランド、これに対するグッドウィル、識別力の希釈化をもたらし、その結果、原告製品の売上げにも多大な影響が生じる。かかる被告の行為は、原告らが多大な努力を通じて獲得した原告製品の商品形態の著名表示としての価値、グッドウィル及び顧客吸引力にただ乗りする行為であって、著しく不公正な手段である。
 したがって、被告が被告製品を製造、販売する行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告らの営業活動上の利益を侵害するため、原告らに対する不法行為を構成する。
(被告の主張)
 争う。
(4) 被告は、旧アップリカ社が平成20年3月31日以前に被告製品を製造、販売したことについて責任を負うか(争点4)
(原告らの主張)
ア 被告は、旧アップリカ社から事業譲渡を受けているから、法形式上も実質的にも、旧アップリカ社の営業を継続しているといえる。
イ 旧アップリカ社の商号も被告の商号も、商号の要部は「アップリカ」であるから、旧アップリカ社と被告との間には商号の続用があり、会社法22条1項の適用があるというべきである。
ウ 被告は、旧アップリカ社を名義上別法人にしただけで、次の@ないしFのとおり、実質的には旧アップリカ社と全く同一の法人としての内実を備え、対外的にも同一の会社であるかのように振る舞っており、このような被告の行動は、債務を譲渡人の下に残す対外的表示と全く矛盾するものである。
@ 旧アップリカ社の代表取締役であった葛西康仁、葛西得男は、そのまま被告の取締役に就任している。
A 旧アップリカ社と被告の本店所在地は同一である。
B 被告は、旧アップリカ社のドメイン名である「(ドメイン名は省略)」を引き継いで使用しており、ウェブサイトの内容についてもそのまま使用している。
C 被告のウェブサイトにおいて、旧アップリカ社の歴史があたかも被告の歴史であるかのような記載をしている。
D 被告は、旧アップリカ社が行っていた多くの製品のリコール及びサービスキャンペーンについて被告のウェブサイトに掲示し、これらをそのまま継続して行っている。
E 被告は、平成20年7月8日及び同月26日、旧アップリカ社が製造、販売した14点のベビーカーのリコールの告知を行っており、旧アップリカ社の製品に関する債務をそのまま被告の債務として引き継いでいる。
F 被告は、旧アップリカ社が使用していた被告製品の品番、品名をそのまま続用している。
エ 被告は、事業譲渡によって、旧アップリカ社のブランド、顧客、事業ノウハウ等をそのまま引き継ぎ、旧アップリカ社製品のリコールやサービスサポートを継続し、顧客にブランドの同一性を示す一方、旧アップリカ社については事業譲渡後清算し、事実上責任追求を不可能にし、その結果、利益のみを受けている。
 また、被告は、上記ウのD、Eのとおり一般需要者に対する「アップリカ」製品の債務、責任の承継は認める一方、「アップリカ」製品に係る原告らに対する債務の承継については、免責登記を持ち出し、承継を否認している。
オ 上記の事情を総合すれば、被告が免責登記を理由に会社法22条1項の適用を排して旧アップリカ社の債務の承継を否認することは著しく信義則に反する。
 よって、被告が、平成20年3月31日以前の被告製品の製造販売行為についても責任を負うことは明らかである。
(被告の主張)
ア 被告は、平成20年4月1日に、旧アップリカ社から事業譲渡を受けたのであるから、同年3月31日以前の旧アップリカ社による被告製品の製造販売行為については責任を負わない。
イ 上記事業譲渡は、旧アップリカ社とニューウェルラバーメイド社という完全に独立した当事者間での交渉の後、合意に至り実行されたのであり、濫用的なものではなく、法形式上はもとより、実質的にも同一主体による営業の継続とはいえない。
ウ 被告の商号と旧アップリカ社の商号とでは「アップリカ」の五文字以外には何ら共通性がなく、商号の続用はないから、会社法22条1項は適用されない。
エ 仮に、商号の同一性が肯定されたとしても、被告は、事業譲渡人である旧アップリカ社の事業によって生じた債務につき免責登記をしているから、会社法22条1項の責任を負うことはない(同条2項)。
オ 被告が免責登記を理由に旧アップリカ社の債務の承継を否認することが信義則に反することの根拠として原告らが主張する各事情は、いずれもその理由にならない。そもそも、原告らと被告との間に取引関係はなく、被告は、原告らに対し、知的財産権の侵害が存在することを前提とした行動をとったことはないから、被告に禁反言的な所為と評価されなければならない事情は一切ない。
(5) 原告らの損害ないし損失(争点5)
(原告らの主張)
ア 原告オプスヴィック社の損害
(ア) 原告オプスヴィック社は、被告の前記著作権侵害行為により、その著作権の行使により通常受けるべき使用料に相当する額の損害を被ったというべきであり(著作権法114条3項)、被告製品の製造販売につき、その販売価格の4%に当たる額をもって上記使用料の額とするのが相当である。
 また、原告オプスヴィック社は、被告による前記営業上の利益の侵害行為により、当該侵害に係る商品等表示の使用により通常受けるべき使用料に相当する額の損害を被ったものというべきであり(不競法5条3項1号)、これについても同様に4%に当たる額をもって上記使用料の額とするのが相当である。
(イ) 被告製品の販売台数は年間1万台程度と推測され、また、販売価格は2万6040円である。被告が平成17年11月に被告製品の販売を開始したと仮定すると、訴状送達時までの販売台数は3万台となるから、3124万8000円が著作権使用料相当額又は商品等表示使用料相当額となり、これが原告オプスヴィック社の損害額となる。
(2万6040円×3万台×0.04=3124万8000円)
(ウ) 原告オプスヴィック社に係る本件の弁護士費用としては、312万4800円が相当である。
(エ) よって、原告オプスヴィック社は、被告に対し、前記著作権侵害行為、不正競争行為又は一般不法行為に基づく損害賠償として、3437万2800円及びこれに対する上記行為の後である平成21年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 原告ストッケ社の損害
(ア) 被告が、平成17年11月に被告製品の製造を開始したと仮定すると、訴状送達時までに少なくとも1台2万6040円で3万台ほど販売しているから、合計して7億8120万円余りの売上げがあり、少なくともこの金額の30%に相当する2億3436万円の利益を上げていることとなる。この利益の額が原告ストッケ社が被告の行為によって被った損害の額として推定される(著作権法114条2項、不競法5条2項)。
 そして、このうち、本来原告オプスヴィック社に支払われるべき上記ア(イ)の著作権使用料3124万8000円を差し引いた残額である2億0311万2000円が原告ストッケ社の損害の額である。
(イ) 原告ストッケ社に係る本件の弁護士費用としては、2031万1200円が相当である。
(ウ) よって、原告ストッケ社は、被告に対し、前記著作権の独占的利用権侵害行為、不正競争行為又は一般不法行為に基づく損害賠償として、2億2342万3200円及びこれに対する上記行為の後である平成21年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
ウ 被告による被告製品の製造、販売が、原告らに対する不正競争行為や不法行為に該当することは前記のとおりである。
 原告オプスヴィック社は、被告による前記著作権侵害行為、不正競争行為又は一般不法行為により、著作権の行使や商品等表示の使用により通常受け得る使用料が受けられなかったという損失を被っている反面、被告は通常支払うべき使用料を支払わずに済んだという利得を得ている。
 また、原告ストッケ社は、被告による前記著作権の独占的利用権侵害行為、不正競争行為又は一般不法行為により、本来販売できたはずの原告製品の販売機会を逸し、得べかりし利益を得られないという損失を被っている反面、被告は被告製品の販売による利得を得ている。
 上記の損失、利得の額は、上記ア、イの損害額と同額である。
 よって、原告オプスヴィック社は、被告に対し、民法703条に基づき、3437万2800円及びこれに対する平成21年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告ストッケ社は、被告に対し、民法703条に基づき、2億2342万3200円及びこれに対する平成21年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
 否認する。
第3 争点に対する判断
1 争点1(被告が被告製品を製造、販売する行為が、原告製品に係るデザインの著作権や著作権の独占的利用権の侵害に当たるか)について
 原告らは本件デザインが著作物であり、著作権法による保護の対象となると主張する。
 著作権法2条1項1号は、著作物を、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定し、同条2項において、「この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。」と規定する。これらの規定は、意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により美術の著作物として保護されるのは、純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されているもの(いわゆる応用美術)は、それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り、著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。
 本件デザインは、いすのデザインであって、実用品のデザインであることは明らかであり、その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできないから、著作権法による保護の対象とはならないというべきである(なお、原告らは、ベルヌ条約加盟国では応用美術が保護されるから、本件デザインは我が国においても著作権法による保護の対象となる旨主張する。しかしながら、同条約は、応用美術の著作物に関する法令の適用範囲及び保護の条件について各国の法令の定めるところによるとしており(同条約2条7項、我が) 国の著作権法における応用美術の保護の範囲の解釈は上記のとおりであるから、我が国以外のベルヌ条約加盟国中に応用美術を保護の対象とする国があったとしても、本件デザインは我が国の著作権法による保護の対象とはならないというべきである。)。
 よって、原告らの著作権ないし著作権の独占的利用権に基づく請求はいずれも理由がない(なお、被告製品を製造、販売する行為につき、原告らに対する一般不法行為が成立することを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。)。
2 争点2(被告が被告製品を製造、販売する行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか)について
(1) 認定事実
 前提事実、証拠(甲1、3、5、7ないし9、14ないし16、18ないし23、25ないし27、29ないし41、51、69、70ないし72、乙28ないし30、35、36)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告製品の形態
 原告製品は、子供用の木製のいすであり、大きさは、高さ78.5p、幅45.7p、奥行き49.2pである。原告製品の全体の形態は別紙「各製品の全体の形態」1のとおりであり、その形態の特徴は次のとおりである。
@ 原告製品の側面部分は、側面板と脚板とから構成されており、脚板は地面に平行に配置され、側面から見た場合、脚板の先端と側面板の下端が同一平面で接続されることによって、側面板と脚板とで略L字型の形状を形成しており、脚板の前方先端部は鋭角となっている。側面板と脚板との角度は約66度である。側面板と脚板とから構成される側面部分は二組あり、いずれも地面に対して垂直に配置され、また、二組の上記側面部分は平行に配置されている。
A 側面板には地面と平行に14本の溝が形成されている。1枚ずつある座板と足のせ板は、この溝に挿入され、配置されている。
B 側面板の下部及び中央部に1本ずつ金属の棒が配置されている。
C 側面板の上部に2枚の曲線状の背板が配置されている。
D 脚板の中央部に横木が1枚配置されている。
イ 被告製品の形態
 被告製品は、子供用の木製のいすであり、大きさは、高さ82.8p、幅51.0p、奥行き59.5pである。被告製品の全体の形態は別紙「各製品の全体の形態」2のとおりであり、その形態の特徴は次のとおりである。
@ 被告製品の側面部分は、側面板と脚板とから構成されており、脚板は地面に平行に配置され、脚板の先端と側面板の下端が立体的に重ねられ、ジョイントによって接続されている。側面から見た場合、側面板と脚板とで略L字型の形状を形成しており、脚板の前方先端部は丸みを帯びた形状となっている。側面板と脚板との角度は約65度である。側面板と脚板とから構成される側面部分は二組あり、いずれも地面に対して垂直に配置され、また、二組の上記側面部分は平行に配置されている。
A 側面板には地面とほぼ平行に(後方に1度傾いている。)13本の溝が形成されている。1枚ずつある座板と足のせ板は、この溝に挿入され、配置されている。
B 側面板の下部及び中央部に1本ずつ金属の棒が配置されている。
C 側面板の上部に2枚の曲線状の背板が配置されている。
D 脚板の後部に横木が1枚配置されている。
ウ 原告製品は、遅くとも、昭和52年から、松屋によって日本に輸入され、販売されるようになった。その後、松屋と原告ストッケ社が、平成2年に、両者の合弁会社であるスキャンデックスを設立し、スキャンデックスが原告製品の輸入、販売を扱うようになった。
 スキャンデックスが原告製品の輸入、販売を扱うようになってから以降の、原告製品の販売数量、売上高及び宣伝広告費の詳細は、別紙「原告製品の販売数量、売上高及び宣伝広告費」のとおりである。(ただし、平成20年度の販売数量は4万4091脚が正しい(甲69)。)
 また、原告ストッケ社が、平成11年から平成21年までに日本に出荷した原告製品の数量は、別紙「原告製品の日本に対する出荷数量」のとおりである。
エ 昭和54年2月22日の日本経済新聞の夕刊に松屋による原告製品の広告が掲載された。
 その後の、原告製品の雑誌等への掲載状況については、別紙「原告製品の雑誌等への掲載状況」のとおりである。
 そして、昭和62年ころには、原告ストッケ社の表示を付した原告製品のパンフレット(甲19)が作成され、また、スキャンデックスは、平成15年ころ、原告ストッケ社の表示を付した原告製品の宣伝用パンフレット(甲31)を作成していた。
オ 旧アップリカ社は、平成17年10月31日から被告製品2の販売を開始し、平成19年10月25日から被告製品1の販売を開始した。
 被告は、旧アップリカ社から事業譲渡を受け、平成20年4月1日から被告製品を販売している。
(2) 争点2−1(原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当するか)について
ア 原告製品の形態の周知性について
 原告製品の形態は、上記(1)アのとおりであり、4本の脚から構成される一般的な子供用のいす(甲12、27参照)と比べると、特徴的な形態を有するといえる。
 そして、上記(1)ウのとおり、原告製品は、遅くとも昭和52年から日本で販売されるようになり、その販売数量は、年々増加し、平成4年度には年間販売数量が1万脚を突破し、平成8年度以降は年間2万脚以上、平成13年度以降は年間3万脚以上販売され、平成17年度には年間約4万脚販売された。
 そして、上記(1)エのとおり、原告製品についての広告は、遅くとも昭和54年2月には新聞に掲載され、平成元年以降は、ほぼ毎年、様々な種類の雑誌に、原告製品の紹介記事や、原告製品の宣伝広告記事等が掲載された。平成元年4月発行の雑誌には原告ストッケ社のいすとして原告製品が紹介され、平成2年5月発行の雑誌に掲載された原告製品の宣伝広告記事には原告ストッケ社の表示がある(甲21)。平成13年7月発行の雑誌に掲載された原告製品を紹介する宣伝広告記事にも原告ストッケ社の表示がされており(甲29)、平成15年発行の雑誌では原告ストッケ社を紹介する記事の中で原告製品が紹介され、さらに、平成16年以降発行の雑誌に掲載された原告製品を紹介する宣伝広告記事には、原告ストッケ社の表示がされている(甲32、38、39、41)。また、昭和62年ころ松屋が作成した原告製品のパンフレットには、原告ストッケ社の表示があり、スキャンデックスが平成15年ころに作成した原告製品のパンフレットにも原告ストッケ社の表示がある。
イ 上記アの事実を総合すれば、原告製品の形態は、遅くとも、旧アップリカ社が被告製品2の販売を開始した平成17年10月31日までには、原告ストッケ社の商品等表示として周知なものになっていたということができる。
 なお、原告らは、原告製品の形態が原告ら、すなわち、原告オプスヴィック社及び原告ストッケ社の商品等表示であると主張する。しかしながら、原告製品が原告オプスヴィック社の商品であると紹介している雑誌の記事や広告が存在したことや、原告製品のパンフレットに原告オプスヴィック社の表示があったことを示す証拠はなく、原告製品が原告オプスヴィック社の商品として製造、販売されていたとも、需要者が原告製品を原告オプスヴィック社の商品であると認識していたとも認めることはできないから、原告製品の形態を原告オプスヴィック社の商品等表示であるということはできない。
ウ 被告の反論について
(ア) 被告は、原告製品と形態が類似するいすを販売している会社が多数存在していること、また、原告製品の形態と類似する登録意匠が昭和60年ころから存在していたことから、原告製品の形態はありふれた形態である旨主張する。
 確かに、証拠(乙7ないし16)によれば、原告製品の形態と類似点を有する商品が販売されていた事実が認められる。また、証拠(乙21ないし24)によれば、昭和62年、平成9年ないし平成11年に原告製品の形態と類似点を有するいすの意匠が登録されたことが認められる。しかし、上記類似点を有する各商品や、上記各意匠に対応したいすが、いつの時点からどれぐらいの数量販売されていたのかは証拠上明らかではなく、これらの商品や登録意匠が存在することから直ちに原告製品の形態がありふれたものであると認めることはできない。
(イ) 被告は、原告製品の形態のうち、特に、脚板と側面板との角度が約66度であることと、側面板に彫られた多数の溝があることは、技術・機能に由来するものであるから、これらの形態に自他識別力や出所表示力を認めるのは相当でないと主張する。
 しかし、そもそも、原告製品が側面部分について側面板と脚板とから成る形態を採用していること自体は、何ら技術・機能に由来するものではなく、子供用のいすの側面部分の構成としては様々な形態が採用可能であるから(甲12、27参照)、原告製品のような形態を採用した結果として、側面板と脚板とが形成する角度を70度前後に設計することが適切となる(乙18)としても、そのことによって、上記形態自体が技術・機能に由来するものとなるわけではない。
 また、座板や足のせ板の位置を調節する方法としては、ねじ等の留め具で留めたり、バネで調節したりするなど様々な方法が考えられるのであるから、側面板に多数の溝を設けることが技術・機能に由来するものであるとはいえない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被告の反論はいずれも失当である。
(3) 争点2−2(原告製品の形態と被告製品の形態が類似するか)についてア 原告製品の形態は、前記(1)アのとおりであり、被告製品の形態は、前記(1)イのとおりである。
 両製品の形態は、@ 側面部分が側面板と脚板とから構成されており、脚板は地面と並行に配置され、脚板の先端と側面板の下端が接続されて、側面から見た場合、側面板と脚板とで略L字型の形状を形成しており、側面板と脚板との角度は約66度(原告製品)ないし約65度(被告製品)であり、側面板と脚板とから構成される側面部分は二組あり、いずれも地面に対して垂直に配置され、また、二組の上記側面部分は平行に配置されている点、A 側面板には地面と平行(原告製品)ないしほぼ平行(被告製品)に14本(原告製品)ないし13本(被告製品)の溝が形成されており、1枚ずつある座板と足のせ板は、この溝に挿入され配置されている点、B 側面板の下部及び中央部に1本ずつ金属の棒が配置されている点、C 側面板の上部に2枚の曲線状の背板が配置されている点において、ほぼ共通しており、これらの共通点を総合すると、両製品の形態は類似するというべきである。
 両製品は、脚板の先端と側面板の下端とが、原告製品においては同一平面で接続され、脚板の前方先端部は鋭角となっているのに対し、被告製品においては脚板の先端と側面板の下端とがジョイントによって立体的に接続され、脚板の前方先端部が丸みを帯びた形状となっている点や、脚板に配置された1枚の横木の位置が、原告製品においては脚板の中央部であるのに対し、被告製品においては脚板の後部である点において差異を有するものの、上記差異点は、上記共通点を凌駕するものとはいえず、両製品の形態が類似するとの上記判断を左右するものとはいえない(被告は、このほかにも、両製品の形状や寸法の差異を指摘するものの、いずれも、ささいな差異にとどまり、上記類似の判断を左右するものではない。)。
イ 被告の反論について
(ア) 被告は、被告製品は折り畳むことが可能となっており、原告製品とは類似しない旨主張する。
 しかし、商品形態の類似は、商品として使用される状態において比較、検討されるべきであって、被告製品においても、いすとして使用される時の形態で原告製品と比較、検討されるべきである。そうである以上、被告製品が折り畳めることは、形態の差異とはいえない。
(イ) 被告は、被告製品において、テーブルは製品に不可欠な構成であると主張し、この点からも原告製品と類似しないと主張する。
 しかしながら、被告製品において、テーブルは取り外し可能な部品であり、子供がある程度成長してからは取り外して使用されることが予定されていること(甲62)からすれば、両製品の形態の比較においては、テーブルを取り外した被告製品の形態が原告製品の形態と比較されるべきである。
(ウ) 被告は、被告製品の形状は意匠登録されており、その審査において被告製品と原告製品とは類似しないと判断されたと主張する。しかしながら、被告製品の形状が意匠登録されたからといって、直ちに不競法2条1項1号の類似性が否定されるべきことになるわけではないことは明らかである。
(エ) 以上のとおりであるから、被告の主張する点は、両製品の形態が類似するとの判断を左右するものとはいえない。
(4) 争点2−3(混同のおそれの有無)について
ア 上記(3)のとおり、原告製品の形態と被告製品の形態は類似している。また、原告製品も被告製品も子供用のいすであり、両製品の主な需要者はいずれも小さな子供を持つ親たちであって共通している。さらに、原告製品の定価は、2万8350円(消費税込み。甲1)であり、他方、被告製品の定価は、2万6040円(消費税込み。甲51)であって、両製品の価格帯もほぼ同じである。
 以上の事実によれば、被告製品に接した需要者において、被告製品が、原告ストッケ社の商品である、あるいは、原告ストッケ社の関係する会社の商品であると誤信するおそれがあるということができる。
イ 被告は、被告製品に被告商標を明示しており、需要者が原告製品と被告製品を混同することはない旨主張する。
 しかしながら、被告製品の左の側面板の上部に「Aprica」のロゴが存在することは認められるものの(弁論の全趣旨)、同表示は被告製品全体の大きさに比べ小さなもので、需要者の目に留まらないこともあり得ることであり、仮に需要者が同表示を認識することがあったとしても、上記アのとおり、少なくとも、需要者において、被告製品が原告ストッケ社の関係する会社の商品であると誤信するおそれはあるといえるから、上記被告の主張には理由がない。
(5) まとめ
 以上によれば、原告ストッケ社の周知な商品等表示である原告製品の形態と類似する形態を有する被告製品を被告が製造、販売する行為は、出所の混同を生じさせるおそれがある行為であり、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
 これに対し、前記(2)イのとおり、原告製品の形態は、原告オプスヴィック社の商品等表示とは認められないから、原告オプスヴィック社の不競法に基づく請求は、理由がない(原告オプスヴィック社につき、一般不法行為に基づく請求も認められないことは前記1で説示したとおりである。)。
3 争点4(被告は、旧アップリカ社が平成20年3月31日以前に被告製品を製造、販売したことについて責任を負うか)について
(1) 前記第2の1(3)のとおり、被告は、平成20年4月1日に旧アップリカ社から事業譲渡を受けたものであるが、仮に旧アップリカ社と被告との間に商号の続用(会社法22条1項)が認められるとしても、被告は、旧アップリカ社の債務について責任を負わない旨の登記をしているから、被告は、旧アップリカ社の債務について責任を負わない(同条2項)。
(2) 原告らは、被告が免責登記を理由に旧アップリカ社の債務について責任を負わない旨主張することは信義則に反すると主張する。
 証拠(甲54ないし56、57の1ないし7、58の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、@ 旧アップリカ社の代表取締役であった葛西康仁、葛西得男が被告の取締役に就任していること、A 旧アップリカ社と被告の本店所在地が同一であること、B 被告が、旧アップリカ社のドメイン名である「(ドメイン名は省略)」を使用していること、C 被告のウェブサイトにおいて、旧アップリカ社の歴史が記載されていること、D 被告が、旧アップリカ社が行っていた製品のリコール及びサービスキャンペーンについて被告のウェブサイトに掲示していること、E 被告が、旧アップリカ社が製造、販売した製品のリコールの告知を行っていること、F 被告が、旧アップリカ社が使用していた被告製品の品番、品名を続用していることが認められる。
 しかしながら、上記@の事実があるとしても、被告の代表者は旧アップリカ社と関係がない人物であること(甲59の1・2、弁論の全趣旨)、上記AないしFの事実は、被告が、旧アップリカ社から事業譲渡を受け、継続して事業を行っている以上、何ら不自然なことではないこと(上記D、Eの事実は、被告が旧アップリカ社から事業譲渡を受けている以上、「アップリカ」ブランドの価値を維持するためにあえて行っているものであると認められる。)に照らすと、上記@ないしFの事実があるからといって、被告が会社法22条2項に基づき旧アップリカ社の債務について責任を負わない旨主張することが信義則に反するということはできないから、原告らの主張は失当である。
4 争点5(原告らの損害ないし損失)について
(1) 不正競争行為による損害
 前記2のとおり、原告ストッケ社の周知な商品等表示と認められる原告製品の形態と類似する形態を有する被告製品を被告が製造、販売する行為は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するので、以下、この不正競争行為による原告ストッケ社の損害(不競法5条2項)について検討する。
 前記3で説示したところによれば、被告は、平成20年4月1日以降の被告製品の製造、販売行為について責任を負う。
 証拠(乙28、29、35)によれば、被告が平成20年4月1日から平成21年2月20日までに販売した被告製品1の販売台数は272脚で、売上高の合計は411万2741円である。また、前掲各証拠によれば、被告は、上記期間中に被告製品2も販売していたものの、被告製品2については返品が多く、全体で4脚返品数の方が上回っていることが認められる。よって、上記期間の被告製品2の販売については、被告が利益を受けているとはいえないから、損害の額の算定に当たっては考慮しない。
 証拠(乙31、35)によれば、被告製品1の仕入原価は6500円であると認められるから、上記期間に販売された272脚の被告製品1に係る仕入原価は、176万8000円であると認められる。
 また、証拠(乙32ないし35)によれば、被告製品1台当たりの運送費用は439円と認めるのが相当であるから、上記期間に販売された272脚の被告製品1に係る運送費用の合計は、11万9408円であると認められる。
 以上によれば、上記期間における被告製品1の販売による被告の利益額は、222万5333円と認められ、不競法5条2項により、この額が原告ストッケ社の損害の額と推定される。
(計算式:411万2741円−176万8000円−11万9408円=222万5333円)
(2) 弁護士費用
 本件事案の内容等にかんがみれば、被告の上記不正競争行為と相当因果関係を有する原告ストッケ社に係る弁護士費用は、22万円と認めるのが相当である。
5 差止請求について
 被告は、前記第2の1(2)のとおり、現在においても被告製品1を製造、販売しており、原告ストッケ社の営業上の利益を侵害しているといえるから、同行為を差し止める必要があり、また、上記侵害行為を組成している被告製品1の廃棄の必要性も認められる(なお、原告ストッケ社は、被告製品2については本件訴訟において差止め等を請求していない。)。
6 まとめ
 以上によれば、原告ストッケ社は、被告に対し、不競法3条1、2項に基づき、被告製品1の製造及び販売の差止め並びに同製品の廃棄を求めることができ、また、被告には前記不正競争行為について少なくとも過失が認められるから、不競法4条に基づき244万5333円及びこれに対する不正競争行為の後である平成21年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
 原告らは、被告に対し、不競法14条に基づき謝罪広告の掲載を求めているものの、原告オプスヴィック社の不競法に基づく請求に理由がないことは前記2のとおりであり、また、被告製品の製造、販売によって原告ストッケ社において上記損害の賠償によっては回復し難い営業上の信用の低下があったことを認めるに足りる証拠はないから、被告に原告ストッケ社に対し謝罪広告の掲載を命ずる必要性はない。
第4 結論
 以上によれば、原告ストッケ社の請求は、主文第1項ないし第3項記載の限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、原告オプスヴィック社の請求は、いずれも理由がないから棄却し、主文第1項及び第2項については仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 小川卓逸


被告製品目録1
 製品名 木製チェア マミーズカドルBR
 品番 66030
 製品名 木製チェア マミーズカドルRD
 品番 66031
 製品名 木製チェア マミーズカドルBL
 品番 66032
 製品名 木製チェア マミーズカドルWH
 品番 66036

被告製品目録2
 製品名 木製ハイローチェアマミーズカドルBR
 品番 66010
 製品名 木製ハイローチェアマミーズカドルRD
 品番 66011
 製品名 木製ハイローチェアマミーズカドルBL
 品番 66012
 製品名 木製ハイローチェアマミーズカドルWH
 品番 66016

謝罪広告目録
1 掲載の内容
 謝罪広告
 弊社は、貴社の製品「トリップトラップ」(TRIPP TRAPP)に類似した製品を製造・販売し、貴社に対し多大のご迷惑をおかけしてきました。弊社の行為は、著作権法違反、不正競争防止法違反及び民法上の不法行為に該当する行為であり、弊社はただちに弊社製品の製造及び販売を中止し、今後貴社に上記のようなご迷惑をかけないことを誓約し、陳謝の意を表します。
  平成 年 月 日
  大阪市中央区<以下略>
  アップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社
  代表取締役 B
  ノルウェー王国<以下略>
  ピーター オプスヴィック エイエス
  代表者 A殿
  ノルウェー王国<以下略>
  ストッケ エイエス
  代表者 C殿
2 掲載の要領
(1) 広告の大きさ 縦2段、幅20センチメートル
(2) 使用活字
 表題 18級(12ポ)ゴシック体活字
 名義人・名宛人 16級(11ポ)ゴシック体活字
 本文 13級(9ポ) 明朝体活字
 日付・住所 12級(8ポ) 明朝体活字
 なお、広告中空欄となっている年月日については新聞掲載日を表示する。
3 掲載の新聞及び掲載回数
 名称 日本経済新聞夕刊の広告欄
 掲載回数 1回

原告製品目録
 製品名 TRIPP TRAPP(トリップ・トラップ)
 カラー ナチュラル、ホワイト、ホワイトウォッシュ、チェリー、クルミ、ブラック、レッド、ターコイズ、ピンク、グレー、イエロー、グリーン
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/