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【事件名】商標“喜多方ラーメン”審決取消事件(2)
【年月日】平成22年11月15日
 知財高裁 平成21年(行ケ)第10433号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年10月18日)

判決
原告 協同組合蔵のまち喜多方老麺会
訴訟代理人弁理士 古関宏
被告 特許庁長官
指定代理人 小林由美子
同 田村正明
同 豊田純一


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告が求めた判決
 特許庁が不服2008−11461号事件について平成21年11月12日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件訴訟は、地域団体商標としての下記本願商標の登録出願の拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決の取消訴訟である。
 争点は、本願商標がその指定役務に使用された結果、出願人である原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているか否かである。
 【本願商標】 「喜多方ラーメン」(標準文字)
 (指定役務) 第43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成18年4月1日、指定商品及び指定役務を第30類「福島県喜多方市産のラーメンのめん、福島県喜多方市産の即席ラーメン」及び第43類「福島県喜多方市における又は福島県喜多方市を発祥地とするラーメンの提供」とし、商標法7条の2の地域団体商標として、本願商標の登録出願をし、その後、平成19年5月25日までに複数回の手続補正を行って、その指定商品を削除し、指定役務を第43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」に減縮したが、平成20年3月31日、本願商標は、商標法7条の2第1項の要件を具備しないとの理由で、拒絶査定を受けた。
 そこで、原告は、平成20年5月7日、特許庁に対し、拒絶査定につき不服審判請求をしたところ、特許庁はこれを不服2008−11461号事件として審理した上で、平成21年11月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。以下において条文のみを掲げるときは、商標法を指すものとする。
2 審決の理由の要点
 「本願商標は、これが使用をされた結果原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、例えば、福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているものということはできない。」「したがって、本願商標は、7条の2第1項の要件を具備しないものであるから、これを理由に本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。」
第3 原告主張の審決取消事由
1 7条の2第1項の解釈の誤り(取消事由1)
(1) 審決は、7条の2の地域団体商標制度の導入の趣旨、登録要件及びその該当性の判断手法につき、次のとおり説示する。
 「平成17年法律第56号により改正された商標法は、地域ブランドを適切に保護することにより、事業者の信用の維持を図り、産業競争力の強化と地域経済の活性化を支援することを目的として、地域の名称及び商品の普通名称のみからなる商標等について、地域団体商標として商標登録を受けることを可能とする地域団体商標制度を導入し、新たに、商標法7条の2を規定した。
 そして、商標法7条の2第1項における地域団体商標の商標登録が認められるための要件として、出願された商標が使用をされた結果、自己(出願人)又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている(例えば、隣接都道府県に及ぶ程度)ことが必要であると解される。
 また、出願された商標がその要件を具備しているか否かについては、例えば、実際に使用している商標及び役務、使用開始時期、使用期間、使用地域、当該営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)、広告宣伝の方法及び回数、一般紙、雑誌等の掲載回数並びに他人の使用の有無等の事実を総合的に勘案し判断すべきである。」
(2)ア しかしながら、特許庁編「工業所有権法(産業財産法)逐条解説第17版」(以下、「逐条解説」という。)には、地域団体商標制度が、通常の商標登録出願に対する登録要件を基礎として、その登録要件を緩和する方法により導入された旨の記載がある。また、平成18年8月4日発行「商標審査基準改訂第8版」(甲137)や「平成17年度地域団体商標審査基準説明会」の「説明会テキスト」(甲138)には、前記(1)のような記載は一切ない。
 すなわち、逐条解説では、7条の2の地域団体商標の登録要件につき、「@出願人が法人格を有する事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合又はこれらに相当する外国の法人(以下「組合等」)であり、設立準拠法において構成員たる資格を有する者の加入を不当に制限してはならない旨(加入の自由)が規定されていること(主体要件)、A出願された商標が構成員に使用をさせる商標であること、B出願された商標が地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる文字商標であること(対象とする商標の要件)、C出願された商標中の地域の名称が出願前から当該商標の使用をしている商品(役務)と密接な関連性を有していること(地域の名称と商品又は役務の密接関連性の要件)、D出願された商標が周知となっていること(周知性の要件)である。」とし、上記周知性の要件に関し、「地域団体商標の登録を受けるには、商標が使用された結果、出願人である団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること、すなわち、商標が周知となっていることが必要である。」とするのみで、ことさらに「出願人又はその構成員」という特定の者の業務に係るものであることを認識する程度に周知であることを要求していなかった。
 また、逐条解説は、「地域団体商標制度は、地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標について、3条2項よりも緩やかな要件で商標登録による独占を認めるものであるが、登録を認めるためには、少なくとも第三者による自由な使用を制限してまでも地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標を保護すべきであるといえる程度に当該商標に信用が蓄積されていることが必要である。また、地域団体商標制度の目的の一つが、第三者による商標に化体した信用への便乗を排除しうるように措置することにある以上、保護対象とする商標は、第三者による便乗使用のおそれが生じうる程度に信用の蓄積がされているものに限定すべきである。」として、実質的に第三者による便乗使用のおそれが生じうる程度に信用が蓄積されているものを保護することが目的であることを明記し、ことさらに「出願人又はその構成員」という特定の者の業務に係るものであることを認識する程度に周知であることを要求していなかった。
イ ところが、特許庁は、平成18年11月ころに至ると、突然、7条の2第1項にいう「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことを証明するためには、「出願人又はその構成員が出願された商標を自己の商品(役務)に使用していること」、「当該使用により一定程度周知になっていること、例えば、隣接都道府県に及ぶ程度の需要者に認識されていること」、「出願人又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして認識されていること」が必要であるとの説明をするようになり(平成18年度地域団体商標制度説明会の説明会テキスト13頁、平成19年度地域団体商標制度説明会の説明会テキスト13頁、甲135、136)、また、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)による商標法の改正に対応して改訂した商標審査基準(改訂第9版、審査基準の書籍の発行は平成19年11月20日)で、突然、上記「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことに該当するためには、「@出願に係る商標が出願人又はその構成員によって使用されていること」、「A出願に係る商標が需要者の間に広く認識されていること」、「B出願人又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして認識されていること」をすべて満たすことが必要であるとの解釈をとるようになった。
ウ ここで、3条2項は、「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」と規定しているところ、特許庁の逐条解説でも、「商標のもつべき本質的機能としては自他商品又は自他役務を区別し、それが一定の出所から流出したものであることを一般的に認識させることができれば十分なのである。」と説明されており(甲139)、登録要件としての識別力については、特定の者の出所に係るものであることは要求されず、何人かの出所に係るものであることが認識できれば足りると解されている。また、3条2項にいう使用による顕著性発生の要件としては、需要者が現実に特定の者の業務に係るものであることを認識する必要はなく、何人かの一定の業務に係る商品であることが判明しさえすれば、その氏名・名称等を認識する必要はないと解するのが通説である(甲140)。このように、3条2項の周知性の要件としては、何人かの一定の出所に係るものであることを認識できれば足り、特定の者の出所に係るものであることを認識することまで要求されていない。
 地域団体商標制度は、3条2項の周知性の登録要件を緩和した制度であるから、少なくとも3条2項の適用を受けて登録されたものよりは、地域的な広がりをもって周知されていなくとも登録が認められるべきものである。上記のとおり、3条2項の商標の審査においては、それぞれの商標権者という特定の出所に係るものであることは何ら要求されることなく登録されており、一般需要者にとっては、これらが誰の出所に係るものであるかは分からないものが多い。
 需要者にとって、一定の者の出所に係るものであることを認識できる周知性を獲得していれば、第三者による自由な使用を制限してまでも保護すべきであるといえる程度に信用が蓄積されているし、第三者による便乗を排除し得るように措置する必要があるから、被告が主張するこれらの必要性は、7条の2第1項の地域団体商標にいう周知性を、需要者において「特定」の者の出所に係るものであることが認識できることまで必要であることと解すべき根拠となり得るものではない。
 そうすると、前記(1)の審決の解釈は、3条2項の周知性の要件に「特定の者の業務に係るもの」として周知であることを加重するものであるから、7条の2第1項が予定するところではなく、誤りである。一定の者の出所に係る商品又は役務であることを需要者が認識でき、地域ないし産地としての識別ができれば、7条の2第1項の周知性を獲得しているものといってよい。
 なお、地域団体商標制度の導入に関する平成17年商標法改正に携わった江幡奈歩弁護士も、「商標が表示する出所と出願人たる組合等あるいはその構成員が一致していればよく、具体的に組合名や構成員名までを需要者が想起する必要はない」、「他に同じ商標を使用している者がいないこと、すなわち出願人たる団体及び構成員が商標の使用を独占していることを厳密に要求するものではない」等としているし、地域団体商標制度の創設の立案事務に携わった小川宗一教授も、「個々の事業者を識別することはできずとも、当該地域名が表す地域の事業者とそれ以外の地域の事業者とを識別すること」ができればよい等としているし、産業構造審議会商標制度小委員会委員長の土肥一史教授も、「特定の事業者として具体的に誰であるかを認識せしめる必要はない」としている。
エ また、11条2、3項は、7条の2の地域団体商標の登録出願と通常の商標又は団体商標の登録出願との間で、相互に登録出願の方式を変更することを許容しているが、これは、当該地域団体商標が全国的に周知であった場合に、地域団体商標の登録出願から通常の商標又は団体商標の登録出願に改めて登録を受けることができることを意味するものであって、周知性の判断基準が変更されることはない。
オ 地域団体商標と団体商標とは並立する別個の制度であり、前者が後者の一部であるというものではないから、前記(1)の周知性の判断基準のうち、団体商標に適用され得る「商標が使用により識別力を有するに至ったかどうかについては、出願人以外の者(団体商標の商標登録出願の場合は『出願人又はその構成員以外』とする。)による使用の有無及びその使用の状況を確認の上、判断するものとする。」との基準を地域団体商標に適用するのは誤りである。
 あるいは、仮に上記基準を地域団体商標の周知性の判断基準として適用し得るとしても、上記の他人による使用事実は、あくまでも当該地域団体商標が一定の者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして広く知られているか否かを判断するために勘案されるべきであって、特定の者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして広く知られているか否かを判断するために勘案されるべきではない。
 さらに、他人による使用事実は、単に出願人又はその構成員が使用したか否かで判断されるべきではなく、その商標が有する出所識別機能が同一であるか否かという観点から判断されるべきである。
 なお、江幡奈歩弁護士も、「地域団体商標は、出願人適格を有する団体(組合)を当該団体の設立準拠法において加入の自由が保証されているものに限定し(7条の2)、また先使用権の規定(32条の2)を設けており、出願人たる組合と商標を実際に使用している者とが完全には一致しない場合もあることを前提としているから、3条2項についての審査実務のように、他に同じ商標を使用している者がいないこと、すなわち出願人たる団体及びその構成員が商標の使用を独占していることを厳密に要求するものではない」と述べている。
カ 結局、審決の地域団体商標制度(7条の2)の導入の趣旨及びその登録要件の解釈並びに登録要件該当性の判断手法は誤りである。
2 7条の2第1項該当性の判断の誤り(取消事由2)
(1) 審決は、本願商標が地域団体商標(7条の2第1項)の登録要件該当性につき、次のとおり判断する。
 「『喜多方ラーメン』は、喜多方市で提供されるラーメンとして、昭和60年代前半から現在に至るまで全国的に広く知られていることが認められる。
 そして、この『喜多方ラーメン』が全国的に知られるようになったのは、喜多方市の努力によるところが大きいものであり、また、原告又はその構成員が昭和62年から、・・・『喜多方ラーメン』の文字を使用し、喜多方市においてラーメンの提供を行うとともに、『喜多方市におけるラーメンの提供』に関する広告宣伝活動を積極的に行っていたことも認められる。
 しかし、喜多方市内のラーメン店のうち、原告の構成員の比率は、50%弱であり、その構成員以外の者(店)の中には、『喜多方ラーメン』の文字を店名の一部又はメニューに使用して営業し、雑誌・新聞などにおいて紹介されている者(店)が少なくなく、また、原告の構成員の売上高などの営業規模も不明確である。さらに、日本全国においても、『喜多方ラーメン』の文字を店名の一部又はメニューに使用して営業している者(店)があり、これらの者(店)の中には、『喜多方ラーメン』の文字を含む登録商標を有する者(店)も存在する。
 そうすると、『喜多方ラーメン』の文字に接する需要者は、これを、原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして認識するとは限らず、構成員以外の者(店)の業務に係る役務を表示するものとして認識する場合や『喜多方市で提供されるラーメン』の意味合いを表したものと認識する場合も少なくないものといわざるを得ない。
 したがって、本願商標は、これが使用をされた結果原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、例えば、福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているものということはできない。」
(2)ア しかしながら、3条2項を適用して団体商標として登録された商標のうちには構成員が当該同業者の総数の半数に満たない団体のものがあり、同一地域における同業者の総数に対する出願人の構成員数の割合は、さほど大きなマイナス要因となるものではない。
 地域団体商標の登録出願をするためには、加入の自由が定められていれば足り、当該商標を使用する者の大多数が加入していることまで要求されているわけではないから、喜多方市内のラーメン店等の大多数が原告に加入していないことをもって、本願商標の登録を拒絶することはできない。
 他方、喜多方市内のラーメン店は合計85店であるところ、原告の構成員たるラーメン店は44店舗(審決がされた時点では43店舗)であって、過半数を超えているし、喜多方市内のラーメン店のうちには「喜多方ラーメン」の表示を使用していない店舗が23店舗あるから、「喜多方ラーメン」の表示を使用している喜多方市内のラーメン店に占める原告の構成員の割合は7割を超える。また、原告の構成員のラーメンの販売数量は、喜多方市におけるラーメン店のラーメンの販売数量の7割以上を占める。
イ 喜多方市の商工観光課が仲介役となって、喜多方市内のラーメン店と製麺業者が、「喜多方ラーメン」の独特の味を守り、技術の向上を目指すことを目的として発足した任意団体「老麺会」、その後再発足した任意団体「喜多方老麺会」を前身として原告が成立したものであるところ、原告は、商標「喜多方ラーメン」に多大に化体した業務上の信用を守り、その質を維持・向上させるために結成され、喜多方市において一定のラーメンを提供するラーメン店を代表して、「喜多方ラーメン」が有する業務上の信用を維持し、保護するため、本願商標を地域団体商標として出願している。喜多方市における非構成員のラーメン店のすべてが、原告が本願商標を商標登録することについて賛同し、喜多方市としても、地域団体商標の制度目的の一つである地域の活性化のために、「喜多方ラーメン」を、同市の共有財産たる地域ブランドとして尊重し、応援している。
 したがって、本願商標は、原告及びその構成員、並びに、喜多方市において本願商標の下で一定のラーメンを提供する者の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されている。
 地域団体商標を登録して保護する目的は、地域の活性化にあるから、地域団体商標は、その地域全体の財産として位置付けるべきである。すなわち、地域団体商標の登録によって利益を受ける者(受益者)は、出願人たる団体ではなく、当該地域の事業者全体、ひいては当該地域である。出願人たる団体も、加入自由の原則によって、非構成員がいつでも加入する自由が担保されており、将来加入することのある事業者に対する利益も地域団体商標の登録において考慮されるべきである。なお、役務は、その提供を受けるために提供場所に赴く必要があるので、観光と密接に関係し、当該地域全体の活性化に繋がり、波及的効果は大きい。したがって、役務商標の地域団体商標としての登録は、商品商標のそれよりも、地域の活性化に繋がりやすい。
 そうすると、喜多方市内に原告に加入しないラーメン店等が存在するとしても、本願商標の登録を拒絶する理由になるものではない。
(3) また、本願商標は、「喜多方市」という一定の出所から流出した、一定のラーメン(太く、縮れた麺及びさっぱりした味に特徴があるラーメン)を提供する役務であることを表示しており、喜多方市において上記の一定のラーメンを提供する者の業務に係る役務を表示するものとして福島県及びその隣接県はおろか、あまねく日本全国津々浦々に至るまで広く知られているものであって、審決が判断するように、単に「喜多方市内で提供されるラーメン」を表示するのに止まるものではない。
(4) 喜多方市外で「喜多方ラーメン」の文字を店名の一部又はメニューとして使用して営業している者(店)において、その役務の用に供する物を「喜多方市で提供されるラーメン」と認識するはずがないから、喜多方市外で本願商標に接した需要者が「喜多方市で提供されるラーメン」の意味合いを表したものと認識することはあり得ず、もし認識されるとすれば、「喜多方市で提供される一定のラーメン」と同質のラーメンであると認識する程度である。
 また、喜多方市外で原告の構成員の姉妹店のような表示をすれば、原告の構成員又はその使用許諾者の業務に係る役務を表示するものとして認識されるから、喜多方市外において、原告の構成員との業務提携の下で「喜多方ラーメン」を使用した場合、需要者は、原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして認識するのであって、非構成員の業務に係る役務を表示するものとして認識することはない。
 喜多方市外において、原告の構成員でもその使用許諾を受けた者でもない者が本願商標を使用した場合、単なる役務の提供の用に供する物、すなわち、ラーメンの種類を表すものとして使用するにすぎないから、26条1項3号にいう、指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものに当たり、商標的機能を有するものではないし、仮にそれが商標的機能を有する場合でも、32条の2の先使用権(継続的使用権)に当たるのであって、いずれにしても本願商標の周知性の認定に何ら影響を及ぼすものではない。
 したがって、喜多方市外で使用される本願商標に接した需要者が、原告の構成員以外の者(店)の業務に係る役務を表示したものとして認識することも、「喜多方市で提供されるラーメン」の意味合いを表わしたものと認識することもない。
(5) 地域団体商標制度の導入当初から、地域団体商標と同一又は類似の文字が識別力のある図形又は文字との組み合わせで登録された商標が存在することは、十分認識されており、この場合、「原則として、先願の登録商標はその図形等の部分が要部であり、地域団体商標とは類似しないと判断されることから、後願である地域団体商標の商標登録出願は拒絶され」ない、「例外として、先願に係る登録商標が文字部分だけで周知となっており、権利者の出所を表示するものと認められる場合には、後願の地域団体商標と類似するとして、地域団体商標の商標登録出願が拒絶される場合もあ」るとされている。
 審決は「喜多方ラーメン」の文字を含む商標登録がされていることを認定する。しかし、審決が引用する登録商標の構成のうちの「喜多方ラーメン」の部分が当該商標権者の出所を表示するものとして周知であれば、本願商標に対して、4条1項11号に基づく登録拒絶理由が通知されたはずであるが、かかる拒絶理由が通知されていない以上、上記登録商標が原告の構成員以外の者(店)の業務に係る役務を表示するものとして認識されていたものではなかった。
 そして、審決が引用する登録第3331065号の商標等の商標権者は、既にチェーン展開を終了しているか、原告の構成員と業務提携関係にある者であり、上記商標の構成中の「喜多方ラーメン」の部分が出所表示力を有するとすれば、その出所表示力は、当該原告若しくはその構成員又は喜多方市において一定のラーメンを提供する者に帰属する。
 したがって、原告の構成員以外の者が「喜多方ラーメン」の文字を含む商標の登録を受けているとしても、本願商標が原告の構成員以外の者の業務に係る役務を表示するものとして需要者に認識されることはない。
 よって、上記登録商標の存在のために、本願商標の周知性の認定が左右されることはない。
(6) 結局、審決の本願商標の7条の2第1項の登録要件該当性の判断には誤りがある。
第4 取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1(7条の2第1項の解釈の誤り)に対し
(1) 地域団体商標制度は、地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として、いわゆる「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品(役務)の名称等のみからなる文字商標について、従来に比べてより早い段階で商標登録を受けることができるように登録要件を緩和したものである。
 平成17年の法改正前においては、地域の名称と商品(役務)の名称等のみからなる文字商標については、事業者が広く使用を欲する商標であり一事業者による独占に馴染まない、一般的に使用をされるものであり自他商品(自他役務)の識別力を認めることができないといった理由から、3条1項各号に該当するとして登録が認められず、登録を受けるためには使用により識別力を獲得して同条2項の要件を満たす必要があった。同条2項は、実務上、全国的な範囲の需要者に高い浸透度をもって認識されていることが必要とされており、このため、事業者の商標が全国的に相当程度知られるようになるまでの間は他人の便乗使用を排除できず、また、他人により使用されることによって事業者の商標としての識別力の獲得がますます困難になり、第三者の広範な使用によって当該商標が一般名称化することもあるという問題があった。
 こうしたことから、地域団体商標制度においては、地域の名称と商品(役務)の名称等のみからなる文字商標について、3条2項よりも登録要件を緩和し、同項の適用にあたり実務上要求される商標の認識範囲及び程度よりも範囲が狭く、また程度が低い場合であっても商標登録を受けられるようにしている。
 7条の2第1項及び第2項では、地域団体商標に固有の登録要件が定められており、@出願人が法人格を有する組合等であり、設立根拠法において構成員たる資格を有する者の加入を不当に制限してはならない旨(加入の自由)が規定されていること(主体要件)、A出願された商標が構成員に使用をさせる商標であること、B出願された商標が地域の名称及び商品(役務)の名称等のみからなる文字商標であること(対象とする商標の要件)、C出願された商標中の地域の名称が出願前から当該商標の使用をしている商品(役務)と密接な関連性を有していること(地域の名称と商品又は役務の密接関連性の要件)、D出願された商標が周知となっていること(周知性の要件)が必要である。
 地域団体商標の主体要件に関しては、組合等の設立根拠法に構成員の加入の自由が定められていることが要求されているが、これは、地域団体商標の対象となる商標は、元々地域における商品の生産者や役務の提供者等が広く使用を欲するものであり、一事業者による独占に適さないため登録が認められなかったものであることから(3条1項)、当該商標の使用を欲する事業者が団体の構成員となって使用をする途が可能な限り妨げられないようにしたことによるものである。
(2) 地域団体商標の登録を受けるには、商標が使用された結果、出願人である団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること、すなわち、商標が周知となっていることが必要である。
 なぜなら、地域団体商標制度は、地域の名称及び商品(役務)の名称等のみからなる商標について、3条2項よりも緩やかな要件で商標登録による独占を認めるものであるから、登録を認めるためには、少なくとも第三者による自由な使用を制限してまでも地域の名称及び商品(役務)の名称等のみからなる商標を保護すべきであるといえる程度に当該商標に信用が蓄積されていることが必要であるし、また、地域団体商標制度の目的の一つが、第三者による商標に化体した信用への便乗を排除し得るように措置することにある以上、保護対象とする商標は、第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に信用の蓄積がされているものに限定すべきであるからである。
 もっとも、ここで要求される周知性の程度は、需要者の広がり及びその認知度において、3条2項に基づき登録を受ける場合に実務上要求されるものよりも狭く、また低いもので足りる。
(3) 前記のとおり、7条の2第1項柱書には、地域団体商標の登録要件として、「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」と明定しており、原告が指摘する審決の同項の法解釈に誤りがあるということはできないし、審決の解釈は法体系や地域団体商標の制度趣旨にも反しない。
 「商標審査基準改訂第9版」(甲134)及び「平成19年度地域団体商標制度説明会説明会テキスト」(甲135)中の記載は、まさに上記登録要件を商標審査基準等にも明記したにすぎないものであって、法律の解釈や審査の運用を変更するものではない。
 なお、当該商標が付された商品や役務に接した需要者においてその出所として認識する者が「特定の者」であろうが「一定の者」であろうが、需要者において、当該商標が出願人又はその構成員の出所を表示するものとして知られているか否かという点がその判断基準となるといえるものである。本件でいえば、全国に及ぶ需要者が商標「喜多方ラーメン」といえば、唯一、原告又はその構成員の出所を表示するものと認識するか否かという点において判断することで足りる。
(4) したがって、審決の7条の2第1項の解釈に誤りはない。
2 取消事由2(7条の2第1項該当性の判断の誤り)について
(1)ア 地域団体商標(7条の2第1項)の対象となる商標は、元々地域における商品の生産者や役務の提供者等が広く使用を欲するものであり一事業者による独占に適さない等の理由から、従前3条1項に該当するとして登録が認められなかったものである。そこで、商標法は、当該商標の使用を欲する事業者が団体の構成員となって使用をする途が可能な限り妨げられないように措置して、地域団体商標の制度を設けたものであるから、地域団体商標の商標登録を受けようとする者は、当該商標の使用を欲する事業者(当該商標を現在使用している者又は将来使用を欲する者)が、団体の構成員となって使用をする途が可能な限り妨げられないよう、特段の制限なくその団体に自由に加入しうるようにする必要がある。
 また、地域団体商標の制度趣旨が、地域振興にあることからすると、地域全体として、当該商標を保護していくという条件をも満たす団体である必要性があり、当該団体には、当該商標の使用者(ないし将来使用を欲する者)の大多数が加入していることが本来求められるべきである。
 ところが、当該団体の構成員が、当該商標を使用する者の一部にすぎないような場合には、需要者が当該団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務であることを期待して購入した商品や提供を受けた役務が、当該団体の構成員以外の者の取扱いに係る商品又は役務である場合があることから、商取引における混乱を生じさせるおそれがある。
 そうすると、需要者保護の観点からも、当該商標の登録を受けようとする者が、当該商標の使用を欲する事業の大多数が加入している団体であることが要求される。
イ そして、前記要請を満たす団体であって、当該団体又はその構成員が当該商標を使用した結果、当該団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、当該商標について地域団体商標として登録を受けることができる。
(2)ア 「協同組合蔵のまち喜多方老麺会会員名簿」(甲86)によれば、平成19年1月1日当時に原告に加入していた喜多方市内のラーメン店は46店であり、「喜多方市内のラーメン店」(甲91)によれば、喜多方市内のラーメン店(通し番号で合計124店)で閉店等していない店舗のうち、原告に加入しているものは47店、原告に加入しているか明らかでないものは48店であり、原告の会員名簿(甲98)によれば、原告に加入している喜多方市内のラーメン店は43店であり、「喜多方市内のラーメン店」(甲100)によれば、喜多方市内のラーメン店(通し番号で合計125店)で閉店等していない店舗のうち、原告に加入しているものは44店、原告に加入しているか明らかでないものは48店である。
 そうすると、審決がされた時点において、喜多方市内でラーメンを提供する店のうち原告の構成員であるものは、半数に満たない。
 しかも、雑誌等で紹介されたり、インターネットの人気店ランキングで上位を占める喜多方市内のラーメン店や、喜多方市内で提供されるラーメンの普及や上記ラーメンの知名度の向上に貢献したラーメン店や、喜多方市外でも知名度の高い喜多方市内のラーメン店には、原告の構成員でない店舗が含まれている。
 そうすると、このような加入実績しか有しない原告に本願商標の使用を独占させるときは、事業者相互間でも、需要者との間でも、混乱を生じるおそれがあるから、本願商標の登録は適切でない。
 なお、原告が提出する回答書(甲206等)には、原告の構成員となるメリットがない旨の原告への加入に関して消極的な記載があるし、また、原告の「地域団体商標登録に関する活動の趣旨に理解する」と回答しながらも、原告の構成員となる又はその予定がある旨の回答をした事業者はわずか3店舗にすぎないのであって、今後も原告への加入率が上がるとは考え難い。原告への加入率が決して高いものではない要因は、原告が定款等において加入の自由を保障していないこと及び地域振興が主たる目的とした団体でないことにあると推測される。また、原告が提出する回答書(甲215等)の記載に照らすと、原告において、本願商標の使用を欲する事業者に対し、積極的に原告への加入を働きかけたとは考え難い。
イ 喜多方市におけるラーメンの麺の販売数量の比率の如何によって、喜多方市内のラーメン店等に占める原告の構成員の比率が半数に満たないとの事実を覆すことも、本願商標が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることの裏付けとすることもできない。のみならず、原告が提出する麺の販売数量に係る上申書中の数量は、予測数量がそこに含まれているなど、信憑性に乏しいものである。
ウ なお、登録第5071747号商標「富山のくすり」及び登録第4546706号商標「宇都宮餃子」は、いずれも3条2項を適用して登録されたもので、本願商標とは適用される条文が異なるし、指定商品や指定役務が異なる。したがって、上記各商標が登録されたからといって、本願商標が当然に登録されるべきであるということにはならない。
エ 本願商標が地域団体商標として登録されるためには、唯一、原告又はその構成員の業務に係る役務(「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが必要なのであって、仮に、原告の構成員以外の者の賛同があるとしても、その者が原告の構成員ではないこと、すなわち他人であることに変わりはなく、その賛同によって上記要件が満たされることになるものではない。
 そうすると、上記賛同があるとしても、登録要件を満たしていないことに変わりはないから、7条の2第1項により地域団体商標として登録すべきか否かの結論に影響を及ぼすものではない。
オ なお、当該商標につき既に使用実績のある第三者が実際に先使用権を有していることを立証するのは容易なものとは限らず、また、仮に、先使用権を立証できたとしても、その後、商標権者から出所混同防止のための表示を付す負担を強いられるおそれもある。出願人が責めを負うべき事由により、団体構成員となれず、かつ、地域団体商標の登録によって、先使用権を立証する以外には当該商標の使用の途を閉ざされる者が多数存在するような場合には、商標権者と先使用者との利益の権衡を失する。そうすると、先使用権による救済措置があるからといって、安易に地域団体商標の商標登録は認めるべきではない。
(3) 喜多方市内に多数存在する蔵の見学を目当てにした観光客が徐々に増え始めてきた時期の後の昭和57年ころから、喜多方市が中心となって積極的に喜多方市におけるラーメンの提供を宣伝・紹介したことにより、昭和60年代前半には、蔵の観光とともにラーメンを食べるために喜多方市を訪れる観光客が大幅に増加し、喜多方市は、「蔵のまち」、「ラーメンのまち」として、また、「喜多方ラーメン」は、「喜多方市で提供されるラーメン」として全国的に広く知られるようになった。
 原告やその構成員も、昭和62年ころから、「ラーメンマップ」の配布やイベントへの参加などを通じて、「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」に関する広告宣伝活動を行っていた。
 しかし、前記のとおり、喜多方市内のラーメン店のうちには原告に加入していないものも多く、また原告に加入していない、知名度の高い喜多方市内のラーメン店が存するから、「喜多方ラーメン」は、昭和60年代前半から現在に至るまで、「福島県喜多方市で提供されるラーメン」として全国的に広く知られているものといえるが、「喜多方ラーメン」の文字に接する需要者が、これを原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとしてのみ認識するとはいい難い。
(4) 原告の定款(甲164)では、「本組合の地区は、喜多方市の区域とする。」とされ(3条)、また、組合員の資格として、「組合の地域内に事業場を有すること」を要求しており(8条2項)、喜多方市外に事業場を置く者は、原告の構成員になることはできない。
 ところで、32条の2の先使用権(継続的使用権)の範囲は限られたものであり、先使用権者は、登録された地域団体商標の出願時の事業規模の範囲内においてのみ、その商標を使用することができるにとどまり、店舗の増設等の事業拡張を行うことはできない。
 他方、本願商標の指定役務は「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」であるところ、商標権の効力は、当該商標が周知である地域に限定されることなく全国に及びものであり、商標権の存続期間については更新可能である。そこで、本願商標の登録にあたっては、喜多方市外における他人の使用についても十分に考慮すべきである。
 しかるに、審決が認定するとおり、日本全国には、原告の構成員ではない、「喜多方ラーメン蔵」等の「喜多方ラーメン」の文字を店名の一部やメニュー名、看板等に使用する店が多数存在し、その中には「喜多方ラーメン」の文字を記載したチラシを頒布して宣伝広告を行っている店や、喜多方市で提供されるラーメンが新聞・雑誌等で紹介され、「喜多方ラーメン」がブームになる以前に開店し、喜多方市外で「喜多方ラーメン」を広め、「喜多方ラーメン」の知名度の向上に貢献した店もある。上記のとおり喜多方市外で「喜多方ラーメン」の文字を店名の一部等に使用して営業している者が多数存在する事実に照らすと、本願商標「喜多方ラーメン」が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものとはいい難い。
 なお、原告の構成員が喜多方市外のラーメン店等と業務提携しているとしても、原告の構成員ではない他人が喜多方市外で「喜多方ラーメン」の表示を使用して業務を行っていることに変わりはないから、本願商標の周知性に係る上記結論に影響を与えるものではない。
(5) 審決が摘示した「喜多方ラーメン」商標の登録例は、原告の構成員以外の者が「喜多方ラーメン」の文字をラーメンの提供に関して使用している例があることを示し、本願商標が7条の2第1項の登録要件を満たさないことの根拠とするためのものであって、上記先行商標との関係で他の登録拒絶理由があることを示すためのものではない。被告が本願商標につき、4条1項11号の登録拒絶理由を原告に通知したことがなかったからといって、本願商標「喜多方ラーメン」が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることになるわけではない。
 なお、原告の構成員が喜多方市外のラーメン店等と業務提携しているとしても、原告の構成員ではない他人が商標登録を受けたことに変わりはないし、需要者において通常かかる業務提携ないし商標登録に対する許諾を知り得るものではないから、本願商標の周知性に係る上記結論に影響を与えるものではない。
(6) 結局、本願商標は、前記各事情に照らすと、原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものではないから、この旨をいう審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(7条の2第1項の解釈の誤り)について
(1) 原告は、前記のとおり、被告における7条の2第1項の解釈及び同項の登録要件の判断基準には誤りがあると主張するが、その要点は、地域団体商標(7条の2)の制度は地域振興等を目的として創設されたもので、3条2項の登録要件を緩和したものであるから、7条の2第1項にいう「使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された」は、需要者において、当該商標が使用された商品ないし役務が、誰の業務に係るものか全く判然としないものではないという意味で、一定の団体又はその構成員の業務に係るものであることが広く認識されていれば足り、当該商標から生産・提供される地域(産地)の識別ができる程度であれば十分であって、特定の者である出願人又はその構成員の業務に係る商品ないし役務に係るものであることまで広く認識されている必要はない、というものである。
(2) 7条の2が定める地域団体商標の制度が設けられたのは、その立法経緯にかんがみると、地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として、いわゆる「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品ないし役務の名称等からなる文字商標について、登録要件を緩和する趣旨に出たものである。すなわち、上記のとおり地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標については、従前、3条1項各号に該当するとして、使用による識別力を獲得し、3条2項の要件を満たさない限り登録が認められず、全国的に相当程度知られるようになるまでは他人の便乗使用を排除できず、また図形入りの商標の登録を受けるのみでは他人による文字部分の便乗使用を有効に排除できないという不都合等があったのを、これらの不都合を解消して上記のとおりの地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標の登録を許容して、地域の産品等についての事業者の信用の維持等を実現する趣旨のものである。
 そして、1項柱書で、当該「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことが要求されているのは、上記のとおり地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標である地域団体商標の登録をすると、構成員でない第三者による自由な商標(表示、名称)の使用が制限されることになるので、かかる制限をしてまでも保護に値する程度にまで、出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであり、あるいは構成員でない第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に、出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであると解することができる。
 この点、1項柱書にいう、「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」こととの要件につき、原告は、前記(1)のとおり主張する。
 なるほど、3条2項で同条1項各号で登録できないとされている商標が、使用により登録が認められるとしても、「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件、すなわち識別力を発揮できるまでの程度の要件を充たさなければならないのに対し、7条の2第1項柱書では、使用により「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」との要件を充たすことを要件としており、前記の地域団体商標の立法経緯を踏まえてみると、後者の要件は前者の要件を緩やかにしたものと解するのが相当ということになる。
 しかし、この要件緩和は、識別力の程度(需要者の広がりないし範囲と、質的なものすなわち認知度)についてのものであり、当然のことながら、構成員の業務との結び付きでも足りるとした点において3条2項よりも登録が認められる範囲が広くなったのは別としても、後者の登録要件について、需要者(及び取引者)からの当該商標と特定の団体又はその構成員の業務に係る商品ないし役務との結び付きの認識の要件まで緩和したものではない。
 この登録要件は法律の解釈上導かれるものであり、立法経過や立法趣旨にも反するものではない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり、審決の7条の2第1項の解釈に誤りはなく、「使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された」との要件の充足の有無を判断するに際して、審決が説示したとおり、実際に使用している商標及び役務、使用開始時期、使用期間、使用地域、当該営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)、広告宣伝の方法及び回数、一般紙、雑誌等の掲載回数並びに他人の使用の有無等の事実を総合的に勘案するのが相当である。
 したがって、原告が主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(7条の2第1項該当性の判断の誤り)について
(1) 審決は、次のアないしオの各事情を総合勘案して、原告又はその構成員が「喜多方ラーメン」の文字を使用し、喜多方市内においてラーメンの提供を行うとともに、指定役務「喜多方市におけるラーメンの提供」に関する広告宣伝活動を積極的に行っていたものであるが、「喜多方ラーメン」の文字に接する需要者が、原告又は構成員の業務に係る役務を表示するものとして認識するとは限らず、これが使用をされた結果原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、例えば、福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているものということはできないと判断した。
ア 喜多方市では、市内に多数存在する蔵の見学を目当てにした観光客が増え始めた最中の昭和57年ころから、喜多方市役所の商工観光課が中心となって、積極的に喜多方市内におけるラーメンの提供を紹介するようになり、テレビ番組で放映されたり、雑誌に掲載されたりした結果、昭和60年代前半には、多数の観光客が喜多方市を訪れて、市内の蔵を観光するとともに、ラーメンを食べるようになった。これにより、喜多方市は「蔵のまち」とともに「ラーメンのまち」として全国的に広く知られるようになり、この状況はその後も続いている。
イ 原告は、昭和62年に喜多方市役所の商工観光課が仲介役となって市内のラーメン店46店及び製麺業者が設立した「老麺会」、その後に市内のラーメン店75店及び製麺業者9社によって再発足した「喜多方老麺会」をその前身として、平成17年に設立された協同組合である。上記「老麺会」は昭和62年ころから市内のラーメン店が記載された地図である「ラーメンマップ」を作成して観光客などに配布し、原告も平成17年ころから同趣旨の地図である「老麺会まっぷ」を作成して観光客などに配布しているが、後者の地図には「喜多方ラーメン」の文字が記載されている。また、原告は、平成17年以降、自らイベント「喜多方ラーメン食べ歩き大会」を開催したり、「蔵のまち喜多方冬まつり」に参加したり、各種の「ラーメンの提供」に関する広告宣伝活動を行ったりした。原告のこれらの活動は、新聞や雑誌に多数記載されたり、テレビ番組で取り上げられたりしている。
ウ 原告には、平成19年1月時点で、喜多方市内のラーメン店等46店が加入しており(甲91では47店)、原告が提出する上申書では、平成18年において、原告に加入するラーメン店に対する製麺業者からのラーメンの麺の供給量が全体の78.1%(177.3万食)に上るとされている(ただし、審決は、この供給量から、原告の構成員と構成員以外の者の営業の規模を判断することはできないとしている。)。
 しかし、「喜多方市内のラーメン店」(甲91)では、喜多方市内のラーメン店(通し番号で124店)中、原告の会員とされているのは47店であり、「喜多方市内のラーメン店」(甲100)でも、喜多方市内のラーメン店(通し番号で125店)中、原告の会員とされているのは44店である。
 そうすると、喜多方市内でラーメンを提供する店のうち、原告に加入しているものは半数に満たない。
エ 喜多方市外で業務を行う事業者である「喜多方ラーメン蔵」等は「喜多方ラーメン」の文字を店舗の看板、メニューに使用して、ラーメンの提供を行っている。
 他方、喜多方市内でラーメンの提供を行っているが、原告に加入していない「食堂はせ川」等は、新聞や雑誌等にその紹介記事が掲載される等している。
オ 喜多方市外でラーメンの提供を行う株式会社アールシーフードシステムは、「会津喜多方ラーメン\蔵太鼓」の構成を有する商標の登録を受け、これを業務に使用してチェーン店「喜多方ラーメン蔵太鼓」を運営しており、このほかにも同様に「喜多方ラーメン」の文字を含む商標の登録を受けている喜多方市外の事業者が複数存在する。
(2)ア 原告は、上記各事実のうち、ウの喜多方市内のラーメン店に占める原告の構成員の割合を争うので、かかる割合につき判断するに、甲第91、100号証に記載された前記事実に加えて、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。
(ア) 昭和63年1月1日発行の旅行雑誌「旅の手帖」(弘済出版社)、平成2年5月26日発行の週刊誌「微笑」(祥伝社)、平成6年5月17日発行の情報誌「オレンジページ」、平成11年11月9日発行の情報誌「TokyoWalker」、平成17年発行の観光情報誌「まっぷる福島会津・郡山・いわき2005」(昭文社)、平成17年発行の観光情報誌「まっぷる東北’05−’06」(昭文社)、平成20年発行の観光情報誌「マップルマガジン会津・磐梯2008」には、喜多方ラーメンに関する記事が掲載されているが、これらの記事中では、原告の構成員のラーメン店と並んで原告の構成員でない(ただし、審決当時。以下同じ。)ラーメン店である、A食堂、B、Cのいずれか1店あるいはその複数店が紹介されている(甲53、54、58、121、123、124ないし126)。
 また、平成17年発行の旅行雑誌「関西じゃらん2005年No.11」(リクルート)の東北旅行に関する記事でも、原告の構成員でないA食堂が喜多方ラーメンの代表的店舗として紹介されている(甲56)。
(イ) 平成5年ないし6年ころに発行された観光情報誌「エンジョイるるぶ磐梯・猪苗代」中には、原告の前身である「老麺会」に加入している喜多方市内のラーメン店が74店ある旨の記載(103頁)がある(甲49)。
(ウ) 平成10年6月に発行された喜多方市の歴史書である「喜多方市史」中には、喜多方市内のラーメン店が平成7年には140店に達した旨の記載(89頁)がある(甲2)。
(エ) 平成13年5月25日のスポーツ報知には、喜多方市のラーメン店に関する記事が掲載されているが、その中に、喜多方市観光協会の担当者の話として、当時、喜多方市内のラーメン店が120店に上る旨の記載があり、またそのうち原告の前身である「蔵のまち喜多方老麺会」に加入している店舗が61店に上る旨の記載がある(甲5)。
(オ) 平成14年12月22日の河北新報には、「喜多方ラーメンの祖 潘欽星」と題する喜多方ラーメンの興隆に関する特集記事が掲載されているが、その中に、喜多方市内にラーメン店が約130店ある旨の記載がある(甲11)。
(カ) 平成17年3月31日の朝日新聞には、喜多方ラーメンに関する記事が掲載されているが、その中に、喜多方市内のラーメン店は約120店に上り、原告の前身である「蔵のまち喜多方老麺会」に加入している店舗が56店に上る旨の記載がある(甲8)。また、同年7月4、5日、9月6、26日の福島民報等には、喜多方ラーメン食べ歩き大会に関する記事が掲載されているが、その中に、原告の前身である「蔵のまち喜多方老麺会」に加入している店舗が54店に上る旨の記載がある(甲23、25、30、32、33)。
 なお、同年6月5日の福島民友会津版の喜多方ラーメン大会に関する記事及び同年8月18日の毎日新聞の喜多方市に関する記事でも、喜多方市内にラーメン店が120店程度ある旨が記載されている(甲9、20)。
(キ) 原告ないしその前身である「蔵のまち喜多方老麺会」は、喜多方市内のラーメン店を記載した地図である「喜多方ラーメンマップ」を作成したが、この地図には原告の構成員であるラーメン店が22店記載され、原告の構成員でないA食堂等のラーメン店が13店記載されている(合計35店、甲89)。
 また、原告の前身である「蔵のまち喜多方老麺会」が平成17年ころに作成した同種の地図でも、記載されたラーメン店60店のうちに、原告の構成員でないA食堂やCが含まれている(甲2の2)。
(ク) 平成14年12月に北日本印刷株式会社が発行した「喜多方ラーメン味巡り」と題するパンフレットや、平成18年8月1日に発行された雑誌「食彩浪漫」(日本放送協会)に掲載された喜多方ラーメンに関する記事では、原告の構成員である「ラーメンSHOP D軒」等が紹介されている(甲67、68、122)。
(ケ) 平成19年1月1日現在の原告の会員名簿には、喜多方市内のラーメン店等であるほまれ食堂等46名が会員として記載されている(甲86)。
(コ) 甲第91号証は、平成19年11月当時に喜多方市役所商工観光課が作成した喜多方市内のラーメン店に関する資料であるが、喜多方市内の124店のラーメン店のうち23店が閉店した等が記載されており、その余のラーメン店のうち原告の会員である旨の記載があるものは47店である。
 なお、平成19年4月当時において、喜多方市内の6社の製麺業者が原告に加入する喜多方市内のラーメン店に販売したラーメンの麺及び原告に加入するラーメン店が自ら製麺したラーメンの麺が、喜多方市内のラーメン店が販売するラーメンの麺に占める割合は、7割程度に上っていた(甲149)。
(サ) 平成20年12月現在の原告の会員名簿には、喜多方市内のラーメン店等45名が会員として記載されている(甲98)。
(シ) 甲第100号証は、平成20年12月当時に喜多方市役所商工観光課が作成した喜多方市内のラーメン店に関する資料であるが、喜多方市内の125店のラーメン店のうち33店が閉店等した旨、営業は継続しているが看板にもメニューにも「喜多方ラーメン」の表示を使用していないラーメン店が19店ある旨が記載されており、その余のラーメン店のうち原告の会員である旨の記載があるものは44店である。
 なお、審決時点までに、原告の会員は1名(店)減少して43店になった(弁論の全趣旨)。
(ス) 喜多方市内のラーメン店で、原告に加入していない「A食堂」は、店舗ののれんに「中華そば」と表示し、メニューにも「中華そば」と表示しており、「喜多方ラーメン」とは表示していない。
 他方、「A食堂」と同様に、原告に加入していない「B」は、店舗の看板、メニューに「喜多方ラーメン」の表示を使用しており、かつては原告の前身たる団体に加入していたことがあった(甲97)。なお、「B」は、審決がされた後に、原告に再び加入した(甲185、弁論の全趣旨)。
 「A食堂」と同様に、原告に加入していない「C」は、平成19年以前に、ラーメン店を閉店した(甲91)。
イ 上記のとおり、審決時点の平成21年11月12日当時、喜多方市内のラーメン店(通常の食堂や、スナック等でラーメンの提供を行う事業者を含む。)のうち営業を継続している店舗は92店あったところ、原告に加入しているラーメン店は43店であるから、後者が前者に占める割合は47%程度であり、前者のうち「喜多方ラーメン」の表示を使用しているラーメン店(73店)に限っても、原告の構成員のラーメン店が占める割合は59%程度であった。
 そうすると、喜多方市内のラーメン店の数に対して原告の構成員のラーメン店が半数に満たないとの審決の認定は誤りとはいえないし、仮に「喜多方ラーメン」の表示を使用しているラーメン店だけに限定して原告の構成員のラーメン店の割合を考えたとしても、59%程度(6割弱)にとどまっていたものである。そして、喜多方市内のラーメン店の軒数は平成10年以降のみをみても減少傾向にあり、原告ないしその前身である「蔵のまち喜多方老麺会」に加入する喜多方市内のラーメン店の軒数も平成13年5月当時の61店から上記の43店に減少している。
 他方、営業を継続している喜多方市内のラーメン店であるA食堂、Bは審決当時、原告に加入していないが(なお、前記のとおり、Bは審決後に原告に加入した。)、前記アのとおり、繰り返し観光情報誌や旅行雑誌等で、喜多方ラーメンを提供するラーメン店として紹介されている。
 そうすると、原告の構成員であるラーメン店が喜多方市内のラーメン店に占める割合は半数弱であり、統計上の視点を変えてもせいぜい6割弱にとどまるのであり、しかも、全国的に知られる有力な喜多方市内のラーメン店が原告に加入していないことになる。
(3) ところで、前記(1)エ、オのとおり、喜多方市外のラーメン店チェーンである「会津喜多方ラーメン蔵」は、昭和63年以降、東京都内の新橋、赤羽などに16店を展開し、株式会社アールシーフードシステムは「会津喜多方ラーメン\蔵太鼓」の商標登録(登録第3331065号、平成9年7月11日登録)を受けて、ラーメン店チェーンである「会津喜多方ラーメン蔵太鼓」を新宿などで12店を展開し、株式会社麺食は、「会津・喜多方ラーメン\坂内\ばんない」(登録第3010657号、平成6年11月30日登録)、「会津・喜多方ラーメン\KOBOSHI\小坊師」(登録3280878号、平成9年4月18日登録)、「会津・喜多方ラーメン\喜多方坂内食堂姉妹店\こぼし\小坊師」(登録4861996号、平成17年5月13日登録)、「喜多方ラーメン坂内」(登録4861997号、平成17年5月13日登録)の各商標登録を受けて、ラーメン店チェーンである「喜多方ラーメン坂内」を東京都内などで19店(昭和63年以降)、ラーメン店チェーンである「喜多方ラーメン坂内・小法師」を東京都内や岩手県内などで37店展開し、かつ千葉県蘇我市内で「喜多方ラーメン坂内・喜多方食堂」を運営しているし、株式会社高蔵は、愛知県半田市内などで「喜多方ラーメン高蔵」、「喜多方ラーメン麺街道」、「喜多方ラーメン麺龍」の名称でラーメン店6店を運営しており、これらのほかにも喜多方市外で「喜多方ラーメン」の表示を使用してラーメンの提供を業とする事業者が存在する(甲84、108、112、114ないし119、128ないし132、乙4)。
 そして、上記のラーメン店チェーン「喜多方ラーメン蔵」などが、審決時までに相当長期間にわたり、「喜多方ラーメン」の文字を含む表示ないし商標を使用して、ラーメン店の営業を継続してきたことは明らかである。
 そうすると、少なくとも喜多方市外、とりわけ喜多方市から遠隔する東京都内などの需要者及び取引者においては、「喜多方ラーメン」の表示ないし名称と、本願商標の指定役務たる「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」との結び付きは相当程度希薄化しているということになる。
(4) 前記(1)の各事情及び前記(2)、(3)を総合勘案すると、審決が判断するとおり、原告(その前身たる団体を含む。)又はその構成員が「喜多方ラーメン」の表示ないし名称を使用し、喜多方市内においてラーメンの提供を行うとともに、指定役務「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」に関する広告宣伝活動を積極的に行っていたとしても、喜多方市内のラーメン店の原告への加入状況や、原告の構成員でない者が喜多方市外で相当長期間にわたって「喜多方ラーメン」の表示ないし名称を含むラーメン店やラーメン店チェーンを展開・運営し、かつ「喜多方ラーメン」の文字を含む商標の登録を受けてこれを使用している点にもかんがみると、例えば福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間において、本願商標が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されているとまでいうことはできないというべきである。なお、喜多方市内の製麺業者によるラーメンの麺の販売実績等を考慮しても、この結論が左右されるものではない。
 したがって、この旨をいう審決の判断に誤りがあるとはいえない。
(5)ア この点、原告は、3条2項を適用して団体商標として登録された商標のうちには構成員が当該同業者の総数の半数に満たない団体のものがあり、同一地域における同業者の総数に対する出願人の構成員数の割合は、さほど大きなマイナス要因となるものではない等と主張する。
 しかしながら、本願商標の登録の可否の判断は7条の2第1項柱書の登録要件の充足の有無に従ってされるものであって、3条2項の登録要件の充足の有無とは次元を異にして判断されるものであるから、3条2項を適用して団体商標として登録された団体の加入状況をもって、地域団体商標(7条の2)の登録の可否が決せられるものではない。地域団体商標の登録出願をした団体の加入状況が低調であったり、当該地域内の有力な事業者が加入していなかったりし、あるいは当該地域内に当該団体と同種の活動をする競合団体が存在したりすれば、当該地域団体商標に接する需要者及び取引者において、商品ないし役務の出所を当該団体(出願人)と認識する蓋然性が小さくなり、したがって7条の2第1項柱書にいう「使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」との要件を充足しないことがあることは明らかであるから、出願人たる団体において加入の自由が保障されてさえいれば、当該地域内の指定商品ないし指定役務に係る事業者の加入の多寡は問題にならないということはできない。
イ また、原告は、本願商標に化体した業務上の信用を守り、ラーメンの質を維持・向上させるために原告が設立され、喜多方市において一定のラーメンを提供するラーメン店を代表して原告が本願商標を出願したものであって、喜多方市における非構成員のラーメン店のすべてが原告による上記出願に賛同しているし、喜多方市も地域の活性化のために原告を応援しているなどと主張する。
 確かに、地域団体商標(7条の2)制度の創設の趣旨の1つは地域産品の振興、地域の活性化にあり、甲第88、92、97、228号証によれば、原告に加入していない喜多方市内のラーメン店である食堂ひまわり等は、原告による本願商標の出願に賛同し、地方自治体である喜多方市の市長や市役所商工観光課なども、原告による本願商標の出願を後押ししていることが認められる。
 しかし、上記食堂ひまわり等が原告の出願に賛同しているとはいっても、原告の構成員ではないし、登録後に商標権を取得するのは出願人たる当該団体であって、非構成員が地域団体商標の登録によってどの程度の利益を享受し得るのかの疑問がある。のみならず、喜多方市内のラーメン店のうちには、「蔵のまち喜多方老麺会」の法人化すなわち原告の設立に反対であるという理由や、加入してもメリットがない程度の理由で原告に加入していないものが存するのであって、原告による「喜多方ラーメン」の管理の趣旨や本願商標の出願、登録の趣旨・効果が上記の非構成員にも正しく理解されているのか、疑問がないわけではない(甲186、189ないし196、198ないし200、203、204、208ないし210、213ないし216、219ないし223、225)。
 地域の活性化の一事をもって、地域団体商標の登録要件を軽視ないし無視することはできず、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ また、原告は、本願商標は、「喜多方市」という一定の出所から流出した、一定のラーメン(太く、縮れた麺及びさっぱりした味に特徴があるラーメン)を提供する役務であることを表示しており、喜多方市において上記の一定のラーメンを提供する者の業務に係る役務を表示するものとして福島県及びその隣接県はおろか、あまねく日本全国津々浦々に至るまで広く知られているなどと主張する。
 確かに、スポーツ報知などの新聞や観光情報誌など(甲5等)には、喜多方市内で提供されるラーメンの特徴が、水分を多く添加した麺(多加水麺)である太く縮れた麺を使用し、醤油によるさっぱりした味のスープを合わせる点にある旨の記載が多くされているが、原告の構成員である喜多方市内のラーメン店のうちにも、細麺やタンメン、味噌仕立ての濃厚なスープを看板メニューにする店舗があるなど(甲2、57、68、126)、喜多方市内のラーメン店で提供されるラーメンにもある程度バリエーションがある。
 また、喜多方市外の事業者である「会津喜多方ラーメン蔵」は平打ちの中華麺とさっぱりとした醤油味のスープによる「喜多方ラーメン」を、「ふぶき亭喜多方らーめん本舗」も多加水平打ち縮れ麺とすっきりした醤油味のスープによる「醤油ラーメン」を「喜多方ラーメン」の原点として、「会津喜多方ラーメン館めん屋河京」も多加水麺とすっきりした醤油味のスープによる「醤油ラーメン」を、喜多方市外でそれぞれ提供している(甲112、113、118)。
 そうすると、原告が指摘する「喜多方ラーメン」の特徴から、需要者及び取引者において、喜多方市内の特定の事業者あるいは原告を想起する蓋然性は必ずしも大きくないというべきであって、少なくとも本願商標ないし「喜多方ラーメン」の名称(表示)が、喜多方市内において上記の太く、縮れた麺及びさっぱりした味に特徴があるラーメンを提供する、原告の構成員ないしそれを束ねる原告の業務に係る役務を表示するものとして、福島県内等で広く知られているとまでは認めることができず、原告の上記主張によっても、前記(4)の結論が左右されるものではない。
エ また、原告は、喜多方市外で「喜多方ラーメン」の文字を店名の一部又はメニューとして使用して営業している者(店)において、その役務の用に供する物を「福島県喜多方市で提供されるラーメン」と認識するはずがないから、本願商標の周知性の認定に何ら影響を及ぼすものではないなどと主張する。
 しかしながら、喜多方市外で「喜多方ラーメン」との表示ないし名称が使用されたラーメンに接した需要者が、これを「福島県喜多方市で提供されるラーメン」と認識することがないとしても、本願商標に接した需要者がこれを原告又はその構成員の業務に係る商品ないし役務を示すものとして認識するかどうかは別の問題である。
 また、喜多方市外の事業者が、喜多方市外で原告の構成員の姉妹店であるかのような表示や、原告の構成員と業務提携をしている旨の表示や、当該店舗ないし取扱商品のルーツが原告の構成員にある旨の表示を使用して、ラーメンの提供をしたとしても、ラーメンの提供を受けた需要者が、本願商標ないし「喜多方ラーメン」の表示、名称を、原告の構成員の業務に係る商品ないし役務を示すものとして認識するか否かは、当該表示の態様如何に依拠する。株式会社麺食が原告の構成員である坂内食堂の関係者の協力を得てラーメン店チェーン「喜多方ラーメン坂内」、「喜多方ラーメン坂内・小法師」を展開している例があるものの(甲97(15頁)、108(10頁))、株式会社麺食が坂内食堂から使用許諾を受けている趣旨は、「坂内」との表示ないし名称を使用するためのものであることを容易に推認できるし(乙2参照)、少なくとも株式会社麺食の他のラーメン店チェーンや他の喜多方市外の事業者において、「喜多方ラーメン」そのものの表示ないし名称の使用につき原告の構成員の許諾を受けている事実を認めるに足りる証拠は存しない。したがって、少なくともラーメン店チェーン「喜多方ラーメン坂内」、「喜多方ラーメン坂内・小法師」以外の喜多方市外の事業者に関してみれば、喜多方市外でラーメンの提供を受けた需要者が、本願商標ないし「喜多方ラーメン」の表示、名称を、原告の構成員から使用許諾を受けた当該店舗の運営者の業務に係る商品ないし役務を示すものとして認識するのかは不明であるといわざるを得ないし、喜多方市外のラーメン店チェーン「喜多方ラーメン坂内」、「喜多方ラーメン坂内・小法師」でラーメンの提供を受けた需要者においても、株式会社麺食やそのフランチャイジーの業務に係る商品ないし役務との認識を超えて、原告の構成員である坂内食堂の業務に係る商品ないし役務を示すものとして認識されるか否かは、証拠上判然としないといわざるを得ない。
(6) 他に前記(4)の判断を左右すべき事実関係は認められず、7条の2第1項の登録要件の該当性についての審決の判断に誤りがあるとはいえないのであって、原告が主張する取消事由2は理由がない。
第6 結論
 以上によれば、原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 塩月秀平
 裁判官 真辺朋子
 裁判官 田邉実
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