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【事件名】見本版CDの無断販売事件(2)
【年月日】平成22年10月28日
 知財高裁 平成22年(ネ)第10057号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第36373号)
 (平成22年9月16日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 X
被控訴人 有限会社ベストウエーブ


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
 被控訴人は、控訴人に対し、510万円及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、第1、第2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は、原判決別紙物件目録記載のCD(以下、原判決別紙物件目録記載1ないし4のCDを総称して「本件各CD」という。)のレコード製作者であり、本件各CDの複製盤を販売する際のプラスチックケースに入れられるジャケット(表紙)、バック(裏表紙)、サイド(側面紙)及びレーベル(CD盤表面の記載)(以下、これらを総称して「本件ジャケット等」という。)についての著作権者である控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が、被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)が無断で本件各CD及び本件ジャケット等を複製・販売し、本件CDにつき原告の著作隣接権(レコード製作者の複製権及び譲渡権)及び本件ジャケット等につき原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したとして、民法709条に基づき、損害賠償510万円及びこれに対する被告による最後の不法行為の日である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、被告が、平成17年5月16日から平成19年12月18日までの間に、本件各CD及び本件ジャケット等を複製して作成された販売用CD(原判決別紙物件目録記載1ないし4のCDの販売用CDを、それぞれ「本件複製CD@」、「本件複製CDA」、「本件複製CDB」、「本件複製CDC」という。)の出来上がり見本合計7枚(内訳は、本件複製CD@につき2枚、本件複製CDAにつき1枚、本件複製CDBにつき2枚、本件複製CDCにつき2枚)を販売したことが、本件各CDについての原告の著作隣接権(レコード製作者の譲渡権)及び本件ジャケット等についての原告の著作権(譲渡権)を侵害するものであるとし、それにより原告に生じた財産的損害は、被告が販売した本件複製CD1枚当たり、定価の7割である2100円で、合計1万4700円とするのが相当であり、その他の損害は認められないとして、被告に対し、1万4700円及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ、その余の請求は棄却した。
 そこで、原告は、原判決の原告敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。
1 争いのない事実等
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」、「1 争いのない事実等」(原判決2頁5行目ないし3頁9行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」、「2 争点」(原判決3頁11行目ないし13行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 争点に関する当事者の主張
 次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点についての当事者の主張」(原判決3頁15行目ないし8頁3行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決4頁7行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告は、平成20年、原告の妻であり本件各CDの監修者であるYとともに、被告に対し、被告が販売委託先に提供したとするCD以外にサンプル盤(無償サンプル及び予備CD)がないことを確認した。それにもかかわらず、被告がサンプル盤と称してCDを作成していたことは、無断複製に当たり、著作権侵害に該当する。」
2 原判決4頁24行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告が妻とともに被告を訪れたのは平成15年であり、そのときは、出来上がり見本の話はなかった。被告は、販売委託先にCDを提供したことを本訴において初めて主張したものであり、平成20年の段階で、原告が、販売委託先に提供したCDの存在を知るはずはない。」
3 原判決6頁1行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告の設定した原盤使用料は、正当な金額であり、販売店等に迷惑等が及ばない適切な金額である。原告は、原盤使用料の規定を参考にすることによって、作詞、作曲など金額に示しにくい業務をスムーズに遂行してきた。都道府県等の地方公共団体は、ボランティアという名目で無償使用しようとする傾向があるが、原盤使用料として、無断で使用した場合の賠償金額を規定することにより、無断使用が抑制されている。
 音楽CDは、分野によって価値が異なる。本件各CDは、高齢者や介護予防等の健康運動用に、Yの長年にわたる高齢者指導の実践をもとに作成されたものであり、健康運動に適する符割や曲間の繋ぎ方、音楽療法に基づいた音符展開などに特異性があり、大手のレコード会社が参入できない分野のものであるから、原告主張の原盤使用料は適正である。」
4 原判決6頁8行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「被告代表者は、印刷物の著作権についても認識し、CDの制作費用が高額であることを熟知しており、印刷物に無断複製等の禁止が記載されていることを認識していた。」
5 原判決6頁13行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「被告が出来上がり見本を販売した相手は、原告の旧知の者も含まれているから、出来上がり見本の販売は、原告に対する業務の妨害であり、被告に反省の態度がないから、原告は精神的苦痛を被った。」
6 原判決6頁15行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「諸経費等には、被告の行為を裏付けるための調査費用、刑事告訴のための打合せ費用、通信費、交通費、謝礼のための接待費が含まれる。」
7 原判決7頁12行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「被告は、顧客からの購入希望があったため、出来上がり見本を通信販売により販売したものであり、原告に対する業務妨害はしていない。」
8 原判決7頁15行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「刑事告訴をしないで、刑事告訴のための打合せ費用、謝礼のための接待費を請求することはできない。」
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(被告による本件各CDの複製・販売)について
 次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」、「1 争点(1)(被告による本件各CDの複製・販売)について」(原判決8頁6行目ないし9頁23行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決9頁7行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告は、被告がサンプル盤と称してCDを作成していたことは、無断複製に当たり、著作権侵害に該当すると主張する。しかし、本件の全証拠に照らしても、被告が、原告に無断で出来上がり見本以外に本件各CD及び本件ジャケット等を複製したと認めるに足りる証拠はないから、それらの無断複製による著作権侵害は成立しない。」
2 争点(2)(本件各CDの販売についての原告の許諾の有無)について
 原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」、「2 争点(2)(本件各CDの販売についての原告の許諾の有無)について」(原判決9頁25行目ないし10頁22行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点(3)(原告の損害の有無及び額)について
 次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」、「3 争点(3)(原告の損害の有無及び額)について」(原判決10頁24行目ないし14頁12行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決13頁11行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告は、出来上がり見本の販売は、原告に対する業務の妨害であり、被告に反省の態度がないから、原告は精神的苦痛を被ったと主張する。
 しかし、原告は、財産権である著作隣接権、著作権の侵害を請求原因として主張しており、財産的損害の填補によって損害の回復が図られるものと解され、それによって損害を回復できない等の特段の事情はないものと解される上、本件の全証拠に照らしても、被告が殊更に原告の業務を妨害する行動をしたと認めるに足りる証拠はないから、その点からしても、慰謝料請求は理由がない。」
(2) 原判決13頁18行目、20行目、24行目、25行目、14頁2行目の「イースペース」を「イーライセンス」と改める。
4 結論
 以上によれば、原告の請求は、1万4700円及びこれに対する被告による最後の不法行為の日である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、その限度で原告の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
 よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 中平健
 裁判官 知野明
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