判例全文 line
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【事件名】ヨン様パブリシティ権侵害事件
【年月日】平成22年10月21日
 東京地裁 平成21年(ワ)第4331号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年8月31日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 黒田健二
同 野本健太郎
被告 株式会社オークラ出版
被告 B
被告 C
被告ら訴訟代理人弁護士 山崎司平
同 星晶広
同 柳楽久司
同 正岡有希子


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、440万円及びこれに対する平成20年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
5 本件につき原告のために控訴の付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
(主位的請求)
 被告らは、原告に対し、連帯して、2695万4000円及びこれに対する平成20年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
 被告らは、原告に対し、連帯して、●(省略)●及びこれに対する平成20年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、著名な韓国人俳優である原告が、後記本件雑誌(『ぺ・ヨンジュン来日特報It's KOREAL 7月号増刊』)の、それぞれ、出版社、編集発行人(出版社の代表取締役)及び編集者である被告らに対し、原告の写真等が多数掲載された本件雑誌を出版、販売した被告らの行為は原告のいわゆる「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
ア 原告は、韓国、日本等のアジア諸国で絶大な人気を誇る韓国籍の俳優である。
 日本においては、平成15年に「冬のソナタ」のテレビ放送が開始されると、特に女性を中心に原告の人気に火がつき、その人気ぶりはいわゆる「ヨン様」ブームとして一種の社会現象と化している。
 原告が主演又は出演したドラマの多くは、テレビ放送、DVD化され、高い視聴率や、莫大な売上げを記録している。また、原告の肖像は、タオル、ハンカチ、Tシャツ、カレンダー、スケジュール帳、写真集等の商品に使用され、写真集を始め多くの商品が莫大な売上げを誇っている。
イ 被告株式会社オークラ出版(以下「被告会社」という。)は、書籍、雑誌の制作販売等を業とする株式会社である。
 被告会社は、平成17年から、原告に代表されるいわゆる韓流スターの芸能活動を紹介する雑誌である「It's KOREAL」を発行している。
ウ 被告Bは、被告会社の代表取締役である。
エ 被告Cは、被告会社の従業員である。
(2) 原告の来日
 原告は、平成20年5月30日、同人の主演するドラマ「太王四神記」(以下「本件ドラマ」という。)のプロモーション活動等を行うため、約2年ぶりに日本を訪れ(以下「本件来日」という。)、同年6月1日に大阪で行われた本件ドラマのファンイベントや、同月4日に東京で行われた本件ドラマの記者会見に出席するなどした(甲1)。原告が来日した際、原告が到着した関西国際空港には、数千人の原告のファンが集まる騒動となった。
(3) 本件雑誌の出版
ア 被告会社は、遅くとも平成20年6月18日に、前記「It's KOREAL」の増刊号である雑誌「ぺ・ヨンジュン来日特報It's KOREAL 7月号増刊」(甲1。以下「本件雑誌」という。)を出版し、これを販売した。
 被告Bは、本件雑誌の編集発行人であり、被告Cは、本件雑誌の編集者である。
イ 本件雑誌は、縦29.7cm×横21cmのA4版で、上質の光沢紙を使用した、カラーグラビア印刷の雑誌であり、その総ページ数は52ページ(ただし、表表紙及び裏表紙をそれぞれ1ページとして数えるものとする。)である。
 本件雑誌の構成は、別紙1「本件雑誌の構成」(以下「別紙構成表」という。)記載のとおりであり、本件来日の際の原告の様子の紹介を中心とし、その内容のすべてを、原告の氏名、写真、その関連記事及び関連広告が占めている。
ウ 本件雑誌には、別紙2「写真目録」(以下「別紙写真目録」という。)記載のとおり、そのほとんどのページに、合計74枚の原告の写真(顔写真、上半身の写真、全身写真等。これらの写真を総称して、以下「原告写真」という。また、個々の原告写真について、別紙写真目録記載の符号に従い、「符号1の写真」などということがある。)が掲載されている。
 本件雑誌の各ページにおける原告写真の掲載態様及び原告写真と各ページの見出しや記事との関係等については、別紙3「原告写真の掲載態様」(以下「別紙掲載態様表」という。)の「掲載態様」欄記載のとおりである。
2 争点
(1) 本件雑誌を出版、販売する行為は、原告のパブリシティ権を侵害するか(争点1)。
(2) 被告らは、本件雑誌に原告写真を掲載するに当たり、原告の許諾を得たか(争点2)。
(3) 原告の損害(争点3)
3 争点に関する主張
(1) 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
[原告の主張]
ア パブリシティ権の意義
 一般に、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名人の氏名、肖像を商品に付した場合に当該商品の販売促進に有益な効果(顧客吸引力)があることは、よく知られている。著名人は、かかる顧客吸引力を経済的利益ないし価値として把握し、これを独占的に享受することのできる法律上の地位、すなわちパブリシティ権を有している。
 著名な芸能人の有するパブリシティ権に対し、他の者が、当該芸能人に無断でその顧客吸引力を表す肖像等を商業的な方法で利用する場合には、当該芸能人に対する不法行為を構成すると解するのが相当である。
イ 本件雑誌の出版、販売による原告のパブリシティ権の侵害
(ア) 本件雑誌は、被告らが原告の顧客吸引力を商業的に利用して利益を得ようとして発行したものであり、本件雑誌全体が原告のパブリシティ権を侵害するものである。
 すなわち、被告らは、別紙構成表及び別紙掲載態様表記載のとおり、本件雑誌が原告のみの特集であることを強調すべく、本件雑誌のタイトル等に原告の氏名を目立つ形で使用した上、本件雑誌の表紙を含む計41ページに、原告の肖像が独立して鑑賞の対象となるような写真を計74枚、カラーグラビアで掲載している。また、その他のページも、35ページ及び36ページを除き、原告関連番組及び原告関連商品等の広告部分で構成されており、本件雑誌のほぼすべてのページは、原告の写真で埋め尽くされている。
 一方、本件雑誌は、全体的に記事部分が少なく、特に、本件写真が無断掲載されたページに占める記事部分が全くないといえるページの割合は、41ページ中17ページにのぼる。また、記事部分のあるページについても、その内容は、安易な紹介記事がほとんどであり、被告らによる独自の綿密な取材活動に基づく記事はない。
 さらに符号21の写、 真には、原告の顔の左横側に吹き出しの形で「最近、記憶力がだんだん乏しくなってきたもので・・・(笑)」という記載がされ、符号2、23ないし28、31ないし36、39ないし42及び67ないし74の写真は、原告が不自然な形で切り抜かれている。これらは、いずれも、読者にコミカルな印象を与え、原告の俳優としてのイメージすなわち顧客吸引力を毀損するものである。
 このように、本件雑誌は、芸能報道記事を掲載した雑誌ではなく、原告の来日に関する報道を装い、原告の生写真等を収録した便乗本又は写真集というべきものである。被告らは、原告の肖像の有する高い顧客吸引力に着目し、本件雑誌の販売による利益を得るために原告の肖像を商業的に利用したものであるから、本件雑誌を出版、販売する行為は原告のパブリシティ権を侵害する。なお、原告写真の一部(符号11〜16)は、日本における原告のマネジメント業務を遂行しているビーオーエフインターナショナル株式会社(以下「ビーオーエフ」という。)が、会見主催者を通じて、希望者に対して記者会見の報道用に配布したものであるが、本件雑誌のような原告の写真を寄せ集めた写真集に準じるような出版物への掲載を予定して配布したものではない。
(イ) 原告写真の掲載態様は、これを個別に検討してみても、原告の芸能活動の正当な批評、紹介の報道に必要な範囲をはるかに超過し、単に原告の肖像を鑑賞させるために掲載されたものであって、原告のパブリシティ権を侵害する不当なものである。その理由については、別紙掲載態様表の「原告の主張(原告写真の個別的検討)」欄記載のとおりである。
ウ 被告らの責任
 被告会社は、本件雑誌の発行及び販売行為により原告のパブリシティ権を侵害したものであり、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う。また、被告会社は、本件雑誌の編集発行人である被告B及び本件雑誌の編集人である被告Cと共同で上記不法行為を行ったものであるから、被告らは、共同不法行為による損害賠償責任を負う(同法719条)。
 さらに、被告会社は、同社の代表取締役である被告Bの職務上の不法行為につき会社法350条所定の損害賠償責任を負い、被告Cの事業の執行に係る不法行為につき使用者責任による損害賠償責任(民法715条1項)を負う。
 また、被告Bは、被告会社の代表取締役であり、その職務につき上記不法行為を行ったものであるから、会社法429条所定の損害賠償責任を負うほか、被告Cとの間で指揮監督関係があったため、被告Cの事業の執行に係る不法行為につき使用者責任による損害賠償責任(民法715条2項)を負う。
[被告らの主張]
ア 原告が本件雑誌の出版当時パブリシティ権を有していたことについては認め、本件雑誌の出版、販売行為が原告のパブリシティ権を侵害するとの主張については争う。
イ 本件雑誌は、被告会社が発行している雑誌「It's KOREAL」の増刊号であり、本誌の延長線上にある「雑誌」であって、いわゆる「写真集」ではない。本件雑誌が増刊号という形になったのは、原告の人気ぶりはいわゆる『ヨン様』ブームとして一種の社会現象と化しており、原告の来日は極めて珍しい事象であったため、韓流スターのいわば象徴的な存在として、本件来日にかかるその芸能活動を詳報する必要があったからである。
 このように、本件雑誌の目的は、社会現象たる原告の来日の様子を詳しく、かつ、明確に一般読者に伝えることにあったものであり、その目的上、シンプルな編集・ページ構成を行っているものの、独自の取材活動に基づく記事を掲載しており、安易な記載に終始するものではない。
 また、表現の自由は、報道の自由を含むものであり、ある事象をニュースとして報道する場合には、必ずしも批評等を伴わず、事実のみを客観的に伝える場合がある。この場合もまた、表現の自由の一環として保護される。さらに、現代は、技術的な点から新聞や雑誌に活字ばかりが掲載された時代とは異なり、写真自体が記事とは独立の表現方法として位置付けられる時代であり、記事がなくても、1枚の写真が多くの事実を伝え、多くの読者をして当該事実を理解させることがある。写真の大小についても、写真が記事の代わりを果たす時代においては、できるだけ大きい方がインパクトが強いことは当然であり、同一の場面であっても、多角的かつインパクトのある複数の写真を使用するのは、報道目的の上から言っても不合理なことではない。
 本件雑誌における原告写真の掲載態様は、別紙掲載態様表の「被告らの主張(原告写真と原告の芸能活動との関係)」欄記載のとおり、いずれも、原告の芸能活動を正当に批評ないし紹介するものであり、表現の自由として許されるものであって、原告のパブリシティ権を侵害するものではない。
 また、符号2、21、23ないし28、31ないし36、39ないし42及び67ないし74の写真は、写真の中身自体に手を入れて、いわばパロディー写真を作成するような細工がされたものではなく、悪質な加工とはいえない。符号21における発言内容の記載も、原告の主張するような「吹き出し」というものではなく、原告が実際にペンを走らせている写真の効果的な説明であって、原告の顧客吸引力を毀損するものではない。
(2) 争点2(原告の許諾の有無)について
[被告らの主張]
ア 被告Cは、平成20年5月1日、ビーオーエフの従業員であるDに対し、本件雑誌の企画書(乙3、4。以下「本件企画書」という。)を送り、同企画についての検討を依頼した。
イ 被告Cは、同月23日、Dに電話し、「本件企画書の件はいかがでしょうか。」と尋ねた。これに対し、Dは、「いいですよ。」と答え、本件雑誌に原告の写真等を掲載することについて、被告らに包括的な許諾(以下「本件許諾」という。)を与えた。
ウ Dは、本件許諾をした当時、ビーオーエフにおいて、原告の肖像権の使用等について許諾を行う権限を有していた、又は、Dは、原告の使者として本件許諾を行った。
エ 仮に、本件許諾をした当時Dが上記ウの権限を有していなかったとしても、Dは、従来、被告らに対し、原告の肖像の使用に関する原告の代理人又は使者として振る舞っていた。また、原告及びビーオーエフは、被告らに対し、Dの権限を疑わしめるような指摘を行ったことはなく、Dの振舞いを放置していた。
 そのため、被告らは、Dが原告の肖像の使用等について許諾を行う権限があるものと過失なく信じたものである。
 したがって、Dによる本件許諾は、表見代理又はこれに準じるものであって、包括的な許諾の効果は、原告に及ぶ。
[原告の主張]
ア 被告らの主張する上記アの事実は認める。
イ 被告らの主張する上記イの事実は否認する。
 Dは、平成20年5月23日に被告Cから電話を受け、被告Cから本件ドラマのプレミアムイベントでの記者会見の案内に関するプレスリリースの送付を求められたのに対し、これを承諾しただけである。その際、被告Cは、本件雑誌への原告の肖像の利用についての申出や承諾について一切言及しておらず、本件企画書の承諾についても言及しなかった。
ウ 被告らの主張する上記ウの事実は否認する。
 Dは、平成20年5月23日当時、ビーオーエフにおいて、広報課に属しており、原告の取材の依頼に対する連絡窓口や、イベントに関する告知手続等の補助業務、原告の肖像が利用された出版物等のチェックという、広報業務を担当していた。
 Dは、原告の肖像をタオル等の商品に利用する場合や、原告の肖像を多数利用する写真集等の出版物について、原告の肖像の利用を許諾する権限を有していたものではなく、原告の使者として本件許諾をしたものでもない。
エ 被告らの主張する上記エの事実ないし主張については、否認ないし争う。
 Dは、自らをして原告の肖像の利用を許諾することのできる原告の使者などと誤解される行為を一切とっていない。また、被告らは、Dを通じて原告と肖像の利用許諾について契約を締結したこともなければ、その申出をしたこともない。したがって、被告らが、Dが原告の肖像の利用の諾否を判断することについて原告の使者として振る舞っていたという認識を有していたはずはない。
(3) 争点3(原告の損害)について
[原告の主張]
ア パブリシティ権侵害による損害額の立証について
 俳優、歌手といった著名人は、その肖像の商業的利用に関してパブリシティ権を有し、他方で、俳優、歌手等が実演を行えば、その実演に関して著作隣接権を有することとなる。また、権利が侵害された際の損害の算定、立証に困難が伴うという点において、パブリシティ権と著作権、著作隣接権は、その状況を同じくする。
 したがって、パブリシティ権侵害による損害額の立証については、著作権法114条2項及び同条3項を類推適用すべきである。
イ 著作権法114条2項の類推適用に基づく請求(主位的請求)
 著作権法114条2項にいう「利益」とは、当該製品の売上高から製造原価を差し引いた粗利益と解すべきである。
 被告会社は、単価580円の本件雑誌を少なくとも5万9000部販売したので、本件雑誌の売上高は、3422万円(580円×5万9000部)を下らない。
 売上高から控除されるべき製造原価としては、せいぜい印刷製本に要する費用や著作権使用料が考えられる程度であり、発行部数が少なくとも約6万部にのぼる本件では、当該費用は、最大限に見積もったとしても、上記売上高の30%である1026万6000円を上回ることはない。
 また、被告会社は、本件雑誌に掲載された広告の広告料として、少なくとも24万円を受領している。
 よって、本件雑誌の販売による粗利益は、2419万4000円(3422万円+24万円−1026万6000円)を下回らない額となる。
 したがって、著作権法114条2項の類推適用に基づき推定される損害は、2419万4000円を下らない。
ウ 著作権法114条3項の類推適用に基づく主張(予備的主張)
 著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」とは、客観的に相当な使用料相当額をいい、原告の肖像を利用するために締結される他の使用許諾契約や業界慣習等を基礎に判断されるべきである。
 一般的に、原告が原告肖像の使用を許諾する場合の使用料許諾率は、イニシャルロイヤリティ等の売上数の多寡にかかわらず支払われる金員が支払われない場合は、少なくとも、●(省略)●である(ただし、原告肖像が安易に利用されることでその価値が希薄化することを避けるため、使用許諾料率を●(省略)●とする場合でも、支払われる使用許諾料が僅少とならないよう、一定数量の最低販売量が定められる。)。また、使用許諾料率を決定する際には、支払われる使用許諾料の総額が重要な判断要素となり、原則として、単価が低い商品の使用許諾料率は、単価の高い商品の使用許諾料率よりも高率となる。
 原告肖像を利用した他の出版物の販売価格と本件雑誌の販売価格を比較すると、例えば、原告の写真集(「像THE IMAGINE VOL.ONE」)の販売価格が1万4700円(税込み)であり、壁掛けカレンダーの販売価格が2625円(税込み)であり、卓上カレンダーの販売価格が1575円(税込み)であるのに対し、本件雑誌の販売価格は580円と、極めて低額である。また、本件雑誌の販売価格は、被告会社が発行する雑誌「It's KOREAL」通常号の販売価格(980円。税込み)や、他社による原告肖像を使用した同種の雑誌「日刊スポーツがみたペ・ヨンジュン08−09」(1500円。税込み)と比較して、非常に低廉である。被告会社は、本来支払うべき使用許諾料を全く負担していないからこそ、このような極めて低廉な販売価格を設定することができ、被告会社が販売してきた通常号の数倍の量を販売し、多額の利益を得ることができたのである。
 したがって、使用許諾料の算定に当たっては、被告会社により廉価に設定された本件雑誌の販売価格を基礎とするのは相当でなく、商品1個当たりの権利者が受領すべき金額を重視して算定すべきである。
 そうすると、本件では、卓上カレンダーに係る原告肖像の使用許諾料率が●(省略)●であることを参考にするにしても、これを本件雑誌の使用許諾料率にそのまま適用するのは相当でない。原告の写真が13枚しか使用されていない卓上カレンダーですら、1部の販売につき●(省略)●の使用許諾料が支払われるのであるから、本件雑誌における原告の写真等の利用が卓上カレンダーにおけるそれよりもはるかに多いことを考慮すれば、原告が本件雑誌に関して受けるべき金額は、少なくとも1部につき●(省略)●(使用許諾料率を算定するとすれば、●(省略)●(小数点以下四捨五入))として算定すべきである。
 したがって、著作権法114条3項の類推適用に基づき推定される損害は、●(省略)●を下らない。
エ 慰謝料
 原告肖像の利用方法は、原告の社会的評価に密接に関連するものであり、いかなる原告肖像をどのような媒体により公表するかは、原告の重大な関心事である。また、パブリシティ権が人格的利益を保護するという側面を有することからしても、原告による原告肖像の利用態様等に係る利益は法的に保護されるべきである。
 このように、原告は、本件雑誌における原告肖像の利用の許諾(前記(1)[原告の主張]イ(ア)のような本件雑誌における原告肖像のコミカルな利用を許諾するか否かも含む。)についての自由を有しており、被告らが本件雑誌を無断で出版、販売したことは、上記自由を侵害するものであるから、原告がかかる行為によって精神的苦痛を受けたことは明白である。
 原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は、100万円を下ることはない。
オ 弁護士費用
 本件は、パブリシティ権侵害による不法行為の成否が問題となる事案であり、専門的法律知識を要する複雑な事件であるため、原告は、訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。
 本件訴訟のための弁護士費用は、200万円を下らない。
カ 結論
 よって、原告は、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、主位的に、連帯して2695万4000円(上記イ、エ及びオの合計である2719万4000円の内金請求)及びこれに対する不法行為の行われた日(本件雑誌の発行された日)である平成20年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、連帯して●(省略)●(上記ウないしオの合計額)及びこれに対する平成20年6月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
[被告らの主張]
ア 著作権法114条2項及び3項の類推適用は認められないこと
 著作権とパブリシティ権とは、その権利の内容において異なるものであり、立証の困難のみを理由として、著作権法114条2項及び3項が類推適用されると解するべきではない。
 著作権の保護が及ぶ「著作物」とは、原則的には「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条。」1項1号)のであり、パブリシティ権の保護の対象となる「肖像」とは性質を異にする。また、著作隣接権の及ぶ「実演」については、著作権法2条1項3号のかっこ書きに「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。」とあるのは、「著作物を演じないものであっても、それ自体が著作物を演ずると同じような芸能的な性質を有するもの、例えば、奇術・曲芸・腹話術・物まねというような典型的な例」(加戸守行著「著作権法逐条講義三訂新版」24頁)を意味する、とされており、単なる「肖像」は、こうした概念に含まれない。
イ 本件雑誌の売上高及びこれによる被告会社の利益
 本件雑誌の販売部数は、4万1275冊であり、被告会社は、本件雑誌に掲載された広告の広告料として、24万円を受領した。
 また、本件雑誌の製造原価は、約500万円(制作費120万0665円、印刷関連費約313万円、委託配本に係る取次の絶対手数料(出版社が出版物を取次に委託する場合に、売れ行きの多寡にかかわらず、必ず支払わなければならない手数料。)71万8993円)である。この他に、被告会社は、本件雑誌の販売に際し、取次店に対し、販売部数に基づく歩合としての取次手数料(本件雑誌の本体価格の35%ないし37%)を支払った(乙14)。
ウ 本件雑誌に係る使用許諾料相当額
 原告は、本件雑誌とカレンダーやマグカップとを比較している。しかしながら、これらは、商品の性質が異なるもので、比較する意味がない。原告は、カレンダーを出版物などと主張するが、仮に出版社が出版していたとしても、カレンダーが思想又は感情を創作的に表現したものなどということは考えられないし、マグカップであれば、なおさらである。そもそも、肖像につきパブリシティ権がストレートに問題となるのは、マグカップやカレンダーといった単純な商品であって、表現の自由、報道の自由によって保護される書籍について、マグカップやカレンダーについての主張をそのまま貫徹しようとすることには無理がある。
 出版業界においては、使用許諾料について印税を基準として考えるのが一般的であり、通常は売上額の10%が上限であると考えられる。また、写真集の場合には、被写体のタレントの使用許諾料だけではなく、著作権者たる写真家に対する印税を支払う必要があるため、利益率から考えても、その使用許諾料は売上額の10%を上回るものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告のパブリシティ権侵害の有無)について
(1) パブリシティ権の意義
 人は、著名人であるか否かにかかわらず、人格権の一部として、その氏名を他人に冒用されたり、みだりにその容ぼう等を撮影されたり、自己の容ぼう等が撮影された写真をみだりに公表されたりしない権利を有する(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、同昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、同平成17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁参照。)。
 また、芸能人やスポーツ選手等の著名人については、その氏名、肖像が商品に付されたり、他の事業者のために広告に使用されたり、出版物に掲載されたりした場合に、大衆が当該著名人に対して抱く関心や好感、憧憬等の感情のゆえに、当該商品や出版物の販売促進に有益な効果、すなわち顧客吸引力を生じることは、一般によく知られているところである。このように、著名人の氏名、肖像は、顧客誘引力を有し、経済的利益、価値を生み出すものであるということができるのであり、著名人は、人格権に由来する権利として、このような経済的利益、価値を排他的に支配する権利(以下「パブリシティ権」という。)を有すると解するのが相当である。
 他方、著名人は、その著名性ゆえに、必然的に、著名人としての活動やそれに関連する事項が、一般人よりも社会の正当な関心事の対象となりやすいものである。そのため、著名人は、その著名人としての活動等が雑誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって批判、論評、紹介等の対象となることや、そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されることについて、言論、出版、報道等の表現の自由の保障という観点から、これを容認しなければならない場合があるといえる。そして、そのような紹介記事等を掲載した雑誌等の販売に当たって当該芸能人等の顧客吸引力が反映される場合があるとしても、上記の観点から、著名人はこれを容認せざるを得ない場合がある。
 以上の点を考慮すると、著名人の氏名、肖像を使用する行為が当該著名人のパブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは、その使用行為の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用行為が当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断するのが相当である。
 なお、上記の基準は、出版等につき顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば、「専ら」に当たらないとしてパブリシティ権侵害とされることがないことを意味するものではなく、顧客吸引力の利用以外の目的があったとしても、そのほとんどの目的が著名人の氏名、肖像による顧客吸引力を利用するものであるような場合においては、上記の事情を総合的に判断した結果、「専ら」顧客吸引力の利用を目的とするものであるとしてパブリシティ権侵害とされることがあり得るというべきである。
 上記解釈を前提として、被告らが本件雑誌を出版、販売した行為が原告のパブリシティ権を侵害するものか否かについて、検討する。
(2) 原告のパブリシティ権
 前記第2の1(1)アのとおり 、原告は、韓国籍の俳優であり、日本においても、女性を中心に、その人気ぶりがいわゆる「ヨン様」ブームとして一種の社会現象と化しているほど、絶大な人気があり、原告の肖像は、タオル、ハンカチ、Tシャツ、カレンダー、スケジュール帳、写真集等の商品に使用され、写真集を始め多くの商品が多大な売上げを誇っていることが認められる。
 このように、原告の氏名、肖像は強い顧客吸引力を有しており、原告は、パブリシティ権を有すると認められる。
(3) 本件雑誌における原告写真の掲載態様
ア 本件雑誌の全体的な構成
 前記第2の1(3)のとおり、本件雑誌は、縦29.7cm×横21cmのサイズのA4版で、上質の光沢紙を使用した、カラーグラビア印刷の雑誌であり、その総ページ数は52ページである。また、本件雑誌の構成は、別紙構成表記載のとおりであり、本件来日の際の原告の活動の紹介を中心とし、その内容のすべてを、原告の氏名、写真、その関連記事及び関連広告が占めており、そのほとんどのページに、合計74枚の原告写真が掲載されている。本件雑誌の各ページにおける原告写真の掲載態様及び原告写真と各ページの見出しや記事との関係等については、別紙掲載態様表の「掲載態様」欄記載のとおりである。
イ 表表紙及び裏表紙
 本件雑誌の表表紙には、原告の顔及び肩上部の写真がほぼ全面にわたって掲載され(符号1)、左下側にも原告の顔写真が掲載されている(符号2)。同ページの上部には、「独占!どこよりも早い!3年ぶりの来日に密着ぺ・ヨンジュン来日特報」と記載され、このうち、特に「ペ・ヨンジュン」の文字が、ピンク色で、縦約3.5cm×横約20.5cmの大きさで記載されている。
 本件雑誌の裏表紙には、原告の上半身を撮影した写真が掲載され(符号66 、符号66の写真を中) 心に、同ページの上部及び下部に、円形の原告の顔写真が計8枚掲載されている(符号67〜74)。
ウ 本文部分
 本件雑誌の本文部分のうち、5ページないし29ページ、46ページ及び47ページは、本件来日の際の原告の活動を記事や写真で紹介するものであり、34ページないし45ページは、原告のこれまでの芸能活動等を記事や写真で紹介するものである。
(ア) 本件雑誌の5ページないし7ページ、46ページ及び47ページは、目次及び巻頭・巻末のグラビア部分であり、本件来日の際の空港や記者会見での原告の姿を撮影した写真(顔写真等)が各ページの全面にわたって掲載されている(符号3〜5、62、63)。この他は、目次や見出しが、ごくわずかに記載されているだけであり、記事部分はない。
(イ) 本件雑誌の8ページないし11ページは、本件来日の際の仁川国際空港及び関西国際空港での原告の出国及び入国の様子を紹介するものである。各ページには、原告の空港での姿(上半身、膝上写真等)を撮影した写真が、1ページの全面又はほぼ全面にわたって掲載されている(符号6〜9)。また、符号9の写真の左上側には、カメラを手にした原告の上半身の写真が掲載されている(符号10)。
 これに対し、記事部分は、8ページにはなく、9ページないし11ページにおいて、各ページの6分の1程度を占めるにとどまる。
(ウ) 本件雑誌の12ページないし17ページは、本件来日の際に大阪で行われた本件ドラマのプレミアムイベントに出演した原告の様子を紹介するものである。12ページ、13ページ及び15ページには、同イベントに出演した際の原告の姿(上半身等)を撮影した写真が、1ページの全面又はほぼ全面にわたって掲載されている(符号11、12、14)。これらのページにおける記事部分は、各ページの6分の1ないし10分の1程度である。14ページ、16ページ及び17ページには、原告の上半身を撮影した写真(符号16)や、原告を他の出演者とともに撮影した写真(符号13、15)のほか、他の出演者の上半身等を個別に撮影した写真(計6枚)が掲載されている。これらのページにおける記事部分は、各ページの2分の1ないし3分の1程度である。
(エ) 本件雑誌の18ページないし25ページは、本件来日の際に東京で行われた記者会見に出席した原告の様子を紹介するものである。
 18ページ及び19ページには、記者会見の際の原告の姿(上半身)を撮影した写真が、見開き2ページの全面にわたって掲載され(符号17 、20ページないし24) ページには、同様の写真が1ページの全面又はほぼ全面にわたって掲載されている(符号18〜22)。また、24ページの符号22の写真の下部には、記者会見の際に撮影された原告の顔写真が計4枚掲載されている(符号23〜26)。これに対し、記事部分は、18ページないし21ページ及び24ページにはなく、22ページの右下に本件ドラマのごく小さな紹介記事があり、23ページの下部(同ページの6分の1程度)に記者会見の紹介記事があるにとどまる。
 25ページには、下部に、記者会見の際に撮影された原告の顔写真が2枚掲載されている(符号27、28)。同ページには、記者会見の紹介記事が掲載されており、記事部分が同ページに占める割合は、5分の4程度である。
(オ) 本件雑誌の26ページ及び27ページは、本件来日の際に横浜で行われたチャリティー・サッカーイベントに参加した原告の様子を紹介するものである。各ページには、上記イベントに参加した際の原告の姿(全身)を撮影した写真が、1ページの全面にわたって掲載されている(符号29、30 。各ページ) における記事部分は、26ページにはなく、27ページでは、同ページの6分の1程度を占めている。
(カ) 本件雑誌の28ページ及び29ページは、本件来日時(平成20年5月30日から6月7日まで)の原告のスケジュールを紹介するものである。各ページの上部(全体の5分の4程度)には、上記記者会見の際に撮影された原告の全身写真が、計10枚掲載されている(符号31〜36、39〜42)。各ページの下部(全体の5分の1程度)には、原告の上記スケジュールを箇条書きにした記事及び原告の姿が小さく写っている写真(符号37、38、43、44)が掲載されている。
(キ) 本件雑誌の34ページないし37ページは、「『太王四神記』の共演者&スタップが語るペ・ヨンジュンは完璧主義者!」の見出しが付され、本件ドラマの監督及び共演者等が、本件ドラマ撮影中の原告の姿等について述べた内容を紹介するものである。各ページには、34ページ及び35ページの上部(符号45)、37ページの上部(符号46)に本件ドラマでの衣装を着た原告の上半身を撮影した写真が掲載されているほか、本件ドラマの監督、共演者等の顔写真等(計11枚)が掲載されている。これらのページにおける記事部分の占める割合は、3分の1ないし4分の1程度である。
(ク) 本件雑誌の38ページ及び39ページは、「数字でみる、ヨン様スゴっ!」の見出しが付され、数字をキーワードに、これまでの原告の芸能活動等を紹介するものである。各ページの右下(符号47)ないし左上(符号48)には、原告の顔写真が掲載されている。記事部分が各ページに占める割合は、2分の1程度である。
(ケ) 本件雑誌の40ページないし45ページは、「ヨンジュンさんの微笑み、永遠なり!」の見出しが付され、平成6年から平成19年までの原告の出演作等を紹介するものである。各ページ(全体の3分の2程度)には、原告の顔写真及び上半身を撮影した写真が、計13枚掲載されている(符号49〜61 。) これらのページにおける記事部分の占める割合は、非常に小さい。
(コ) 本件雑誌の48ページは、被告会社の発行する「It's KOREAL 9月号」の発売を予告するものである。同ページには、原告の上半身を撮影した写真がほぼ全面にわたって掲載されている(符号64)。同ページには、特に記事部分はない。
 本件雑誌の49ページは、本件雑誌の奥付を掲載するものである。同ページ(全体の3分の2程度)には、関西国際空港で右手を振る原告の全身写真が掲載され、その余の部分に、本件雑誌の奥書が掲載されている。
エ 広告部分
 本件雑誌の2ページないし4ページ、30ページないし33ページ、50ページ及び51ページは、原告関連番組及び原告関連商品の広告を掲載したものである。
(4) 以上のとおり、本件雑誌は、その表表紙の見出しの主要部分として原告の氏名が用いられてこれが大書され、表表紙及び裏表紙には、原告の顔写真や上半身、全身の写真が、ほぼ全面にわたって多数掲載され(符号1、2、66〜74。なお、上記写真には、ページの全面又はほぼ全面に掲載された原告の写真の周囲等に掲載された、原告の顔写真等を含む。以下同じ。)、原告の氏名及び肖像写真を利用して、購入者の視覚に訴える構成となっている(前記(3)イ)。
 また、本件雑誌の本文部分も、原告の写真が見開き2ページの全面(符号17)又は1ページの全面(符号3〜6、8、11、14、18〜20、22〜26、29、30、62〜64)若しくはほぼ全面(符号7、9、10、12、21、31〜36、39〜42、49〜61、65)にわたって掲載され、記事部分がない(5〜8、18〜21、24、26、46〜48ページ)、又は、記事部分がページの上部、下部等にわずかしかない(9〜13、15、22、23、27〜29、40〜45、49ページ)ページが大半(計31ページ)を占めている(前記(3)ウ)。そして、証拠(甲1)によれば、これらの原告写真は、原告一人を被写体とし、又は、原告を被写体の中心として、原告の顔や上半身、全身をクローズ・アップで撮影したものであり、原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができるものであると認められる。
 これに加えて、前記のとおり原告の氏名及び肖像は強い顧客吸引力を有すること、本件雑誌が上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることなどを併せ考えると、本件雑誌において、その人気ぶりが一種の社会現象となっている原告の本件来日時の芸能活動を紹介するという一面があったことは否定されないとしても、本件雑誌のように表紙及び本文の大部分において、原告の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様での原告写真の使用は、原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものと認められ、原告のパブリシティ権を侵害するものというべきである(なお、上記の原告写真のうち符号11、12及び14の写真については、ビーオーエフが本件ドラマの記者会見の報道用に配布したものであると認められるが(弁論の全趣旨)、ビーオーエフにおいて、本件雑誌のように原告のパブリシティ権を侵害するような態様で掲載することまで許容した上で上記写真を配布したものと認めるに足りる証拠はない。したがって、上記写真をビーオーエフが配布したという事実は、上記判断を左右するものではない。)。
 一方、本件雑誌中の、原告の写真よりも記事部分の方が多くを占めているページ(14、25、38、39ページ)(前記(3)ウ(ウ)、(エ)、(ク))、原告の写真の他に共演者等の写真が掲載され、記事部分も相当程度を占めているページ(16、17、34、37ページ)(前記3ウ(ウ)、(キ))に原告の写真を掲載したことや、原告の姿がごく小さくしか写っておらず、原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができるものとはいえない写真(符号37、38、43、44)を掲載したことについては、原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものとまでは認め難いから、パブリシティ権を侵害したとは認められない。
(5) 上記のとおり、被告らは、本件雑誌に原告のパブリシティ権を侵害する内容を掲載し、これを発行したことが認められる。
 そして、争いのない事実等によれば、被告Bは本件雑誌の編集発行人として、被告Cは本件雑誌の編集人として、本件雑誌の編集及び発行に関与したものであるから、被告らは、原告のパブリシティ権侵害につき、少なくとも過失があり、原告に対し、共同不法行為責任(民法719条)を負うものと認められる。
2 争点2(原告の許諾の有無)について
(1) 被告Cが平成20年5月1日にDに対して本件企画書を送り、同企画についての検討を依頼したこと、被告Cが同月23日にDに電話したこと(以下「本件電話」という。)については、前記第2の3(2)のとおり当事者間に争いがない。
 被告らは、上記電話の際、被告Cが原告の代理人又は使者であるDから本件雑誌に原告の写真等を掲載することについて包括的な許諾を与えられたと主張し、被告B及び被告Cの陳述書(乙26、27)中には、同主張に沿う部分が存在する。
(2) しかしながら、被告B及び被告Cの上記供述については、これを裏付けるに足りる客観的な証拠が存在しない上、@ Dは、本件電話の後、同日中に被告Cに対して電子メールを送り、本件ドラマのプレミアムイベントでの記者会見の案内に関するプレスリリースを送信しているにもかかわらず、同メールには、本件企画書の件に関する記載は存在せず(乙9)、かかる事実は、むしろ、Dは本件電話の際に上記プレスリリースを送ることを承諾しただけであるという原告の主張に沿うものであること、A 本件企画書には、書籍のタイトル、体裁、予定価格、発売予定日、企画意図、ターゲットとする読者層及び書籍の内容が記載されているものの、書籍の内容については、書籍全体に占める原告関連の記事の割合や、記事のテーマ(「韓国出国の様子」、「日本来日、空港の様子」、「ファンミーティングの様子」等、概要的なもの)が記載されているにとどまり、当該書籍において原告の氏名、肖像等を具体的にどのように使用するかについては記載されていないこと、Bそのため、Dが、このような企画書を見ただけで、原告の肖像等の使用を無償で包括的に許諾するとはにわかに考え難いこと、などを考慮すると、被告Bらの上記供述を信用することはできないというべきである。
(3) 被告らは、Dは従来被告らに対して原告の肖像の使用に関する原告の代理人又は使者として振る舞っていたものであり、被告らはDが原告の肖像の使用等について許諾を行う権限があるものと過失なく信じたものであるから、Dによる本件許諾は、表見代理又はこれに準じるものであって、その効果は原告に及ぶとも主張する。
 しかしながら、Dが被告らに対して原告の肖像の使用等を許諾したと認めることができないことについては、上記(2)で説示したとおりである。被告らの主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。
3 争点3(原告の損害)について
(1) 著作権法114条2項又は同条3項の類推適用の可否について
 原告は、パブリシティ権侵害による損害額の立証については、著作権法114条2項及び同条3項を類推適用すべきであると主張する。
 しかしながら、前記1(1)のとおり、パブリシティ権とは、人格権に由来するものであって、同項の適用される著作財産権とは性質を異にするものである。
 したがって、本件における原告の損害を算定するに当たって、著作権法114条2項及び3項を類推適用することはできないというべきであり、原告の主張を採用することはできない。
 被告らが原告に無断で本件雑誌を出版、販売したことにより原告が被った損害額は、原告が本件雑誌の出版に当たり、原告の氏名及び原告写真の使用を許諾した場合に、原告が通常受領すべき金員に相当する額と解するのが相当である。
(2) 原告の損害
 証拠(乙15の1〜3、乙16の1〜3、乙17の1〜3、乙18の1・2、乙19の1・2、乙20の1・2、乙21)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌の単価は580円(消費税込み。なお、消費税分を除いた本体価格は552円。)であり、その販売部数は4万1275冊であることが認められる。これに対し、原告は、本件雑誌の販売部数は少なくとも5万9000冊であると主張するものの、本件雑誌が被告らの主張する販売部数(4万1275冊)以上に販売されたことを認めるに足りる証拠はない。
 また、証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、原告の韓国におけるマネジメント会社である韓国法人キーイーストは、平成20年7月30日、日本法人であるアイピーフォー株式会社との間で、原告の名称及び肖像写真等を使用したカレンダー商品(壁掛けカレンダー、卓上カレンダー)を日本において生産、販売及び販売促進活動を行うことを非独占的に許諾すること、その許諾料を壁掛けカレンダー1点につき●(省略)●、卓上カレンダー1点につき●(省略)●とする旨を合意したことが認められる。
 上記認定の本件雑誌の単価、販売部数、原告が原告の名称及び肖像写真等を使用したカレンダーを日本において生産、販売等することを許諾した際の許諾料のほか、前記1で認定した原告の氏名、肖像の有する顧客吸引力の強さ、本件雑誌における原告の氏名、肖像の使用態様、本件雑誌中でパブリシティ権を侵害する部分の割合等を総合的に考慮すると、本件雑誌の出版、販売による原告の損害額を400万円と認めるのが相当である。
(3) 原告の慰謝料
 原告は、被告らが本件雑誌を原告に無断で出版・販売したことにより、原告肖像の利用の許諾に係る原告の自由が侵害され、精神的苦痛を受けたと主張する。
 本件雑誌の出版、販売により原告のパブリシティ権が侵害されたと認められることについては、前記1に説示したとおりであり、かかる不法行為により原告に生じた損害については、上記(2)のとおりであると認められる。また、本件雑誌における原告写真の掲載態様は前記1で認定したとおりであり、本件雑誌に原告写真が掲載されたことにより、原告の俳優としての評価等が低下したとは認められず、本件証拠を精査しても、本件雑誌の出版、販売により、原告において、前記財産的損害に対する損害の賠償だけでは償い難いほどの精神的苦痛を被ったと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告の主張は理由がない。
(4) 弁護士費用
 弁護士費用については、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると、上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は40万円と認めるのが相当である。
(5) 小括
 以上のとおり、原告の被告らに対する損害賠償請求は、被告らに対し連帯して440万円及びこれに対する不法行為の日又は不法行為の後である平成20年6月18日(遅くとも本件雑誌が発行された日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4 よって、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 小川卓逸
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