判例全文 line
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【事件名】「読むサプリ」出版事件
【年月日】平成22年9月30日
 東京地裁 平成21年(ワ)第16620号 著作権使用料等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年7月13日)

判決
原告 株式会社ヒポクラテス
訴訟代理人弁護士 玉木賢明
同 桑原弘明
同 杉本憲昭
被告 株式会社環健出版社
被告 A
被告ら訴訟代理人弁護士 高畑拓
同 横山雅


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して590万3641円及びこれに対する平成21年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、別紙書籍目録記載の書籍(第2刷のもの)の原稿を引き渡せ。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを20分し、その17を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して695万1480円及びこれに対する平成21年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、連帯して別紙書籍目録記載の各書籍の原稿(その複製物を含む。)を引き渡せ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告株式会社環健出版社(以下「被告会社」という。)との間で別紙書籍目録(1)記載の著作物「読むサプリシリーズ」(全24種。以下「本件著作物」という。)について原告が印刷した書籍の在庫本等の被告会社への売買及びその書籍を増刷する出版権の設定を内容とする覚書を締結し、その際、被告A(以下「被告A」という。)が被告会社の原告に対する上記覚書に係る債務を連帯保証した旨主張して、被告らに対し、上記覚書に係る売買代金及び著作権使用料の残金の連帯支払及び上記書籍の原稿の引渡しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は、医療用具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告会社は、出版物の企画、発行及び販売等を目的とする株式会社である。なお、被告会社は、平成18年7月28日に有限会社環健出版社から現商号に商号変更し、有限会社から株式会社へ移行した。
ウ 被告Aは、被告会社の代表取締役である。
(2) 覚書の締結
ア(ア) 原告は、平成18年1月30日、被告会社との間で、@原告が著作権を有する本件著作物(別紙書籍目録(1)記載の「読むサプリシリーズ」(全24種))について原告が既に印刷していた書籍(以下「原告書籍」という。)の在庫本を各6000冊を目安に代金1冊当たり34円で被告会社に売却すること、A被告会社が上記在庫本を被告会社の書籍として販売するために、原告が上記在庫本の奥書等に貼付する被告会社の名称等を入れた修正シールのデータを作成し、これを被告会社に売却すること、B原告が上記書籍の書店での販売の際に必要となるラックを制作し、これを被告会社に売却することを内容とする合意をした。
(イ)a 仮に原告と被告会社間の前記(ア)の合意の事実が認められないとしても、原告は、平成18年1月30日、被告会社との間で、本件著作物に関し、次の内容の出版権設定契約(甲1)を締結した。
(a) 原告は、本件著作物の出版権を被告会社に設定し、被告会社は、原告に対し、本件著作物の著作権使用料として印刷部数1部ごとに14円を支払う。ただし、その支払時期については、契約締結後、原告及び被告会社間で検討することとする。
(b) 原告は、被告会社に対し、本件著作物の原稿を平成18年2月3日までに引き渡す。
(c) 契約の有効期間は、被告会社の初版発行後3年とする。ただし、期間満了の3か月前までに原告又は被告会社のいずれかから文書による終了の通知がない場合、自動的に1年ずつ更新する。
b その後、原告は、被告会社に対し、原告書籍の在庫本を売却した。また、原告は、被告会社から依頼を受けて、被告会社が上記在庫本を被告会社の書籍として販売するための上記在庫本の奥書等に貼付する被告会社の名称等を入れた修正シールのデータの作成及び上記書籍の書店での販売の際に必要となるラックを制作し、これらを被告会社に引き渡した。
 被告会社は、平成18年3月ころ、原告書籍の在庫本に上記修正シールを貼付した書籍を、本件著作物に係る被告会社の書籍の第1刷として発行した。
イ 原告は、平成18年7月25日、被告会社との間で、次の内容の覚書(甲2。以下、甲2の覚書を「本件覚書1」という。)を締結した。
(ア) 原告は、原告が既に印刷していた本件著作物の書籍(原告書籍)の在庫本を被告会社に対し1冊当たり20円(別途消費税)で売却し、被告会社はこれを購入する。
(イ) 被告は、原告に対し、前記(ア)の売買代金に1冊当たり14円(別途消費税)の印税を加算した金額を支払う。
(ウ) 被告会社は、原告に対し、前記(ア)及び(イ)、原告書籍の在庫本の奥書等に貼付する被告会社の名称等を入れた修正シールのデータの作成代等の未清算金608万5060円の支払義務があることを認める。
(エ) 被告会社が前記(ウ)の未清算金を支払ったときは、原告は、被告会社に対し、本件著作物の原稿(データ)を引き渡す。
ウ 原告は、平成18年8月5日、被告会社及び被告Aとの間で、次の内容の覚書(甲3。以下、甲3の覚書を「本件覚書2」という。)を締結した。
(ア)a 被告会社は、原告に対し、本件覚書1の未清算608万5060円の支払義務があることを認め、これを平成18年9月から平成20年5月までの21回に分割して毎月5日に30万円ずつ(最終回のみ8万5060円)支払う(1条)。
b 原告は、原告が本件著作物の原稿の校正・修正が完了した段階で被告会社にその「完全な原稿」を引き渡す(2条)。
c 被告会社は、原告に対し、本件著作物の書籍を被告会社の書籍の第2刷として増刷することの著作権使用料として201万6000円の支払義務があることを認める(3条)。
d 被告会社が前記aの分割金を期限に支払わないときは、原告からの何らの通知催告を要することなく、期限の利益を喪失し、未清算金の残金全額を即時に原告に支払い、かつ、被告会社が原告から引渡しを受けた本件著作物の「完全な原稿(被告会社が複製した物を含む。)」のすべてを原告に引き渡さなければならない(5条)。
(イ) 被告Aは、原告に対し、前記ア(イ)aの出版権設定契約、本件覚書1及び本件覚書2に基づく被告会社の原告に対する債務一切につき連帯保証する(6条)。
エ 原告は、平成18年8月8日、被告ら及びB(以下「B」という。)との間で、次の内容の覚書(甲4。以下、甲4の覚書を「本件覚書3」という。)を締結した。
(ア) 被告らは、原告に対し、本件覚書2の未清算金608万5060円及び原告が納品した原稿(データ)から新たに印刷する本件著作物の著作権使用料201万6000円の合計810万1060円の支払義務があることを認め、これを平成18年8月から平成20年10月までの27回に分割して毎月5日に30万円ずつ(最終回のみ30万1060円)を原告の指定する口座に振り込んで支払う(1条、2条)。
(イ) 原告会社は、Bに対し、本件著作物の書籍の制作費について1165万円の未清算金の支払義務があることを認める(1条)。
(3) 原稿の引渡し
 本件覚書2の2条所定の「完全な原稿」(前記(2)ウ(ア)b)とは、本件著作物に係る被告会社の書籍の第2刷の印刷が可能な最終データを意味するというべきである。
 原告は、平成18年8月中旬から同年9月上旬までの間に、本件著作物の原稿を修正した上で、被告会社に、上記修正後の編集可能な表紙等のデザインデータと本文のPDFデータを引き渡した。
 そして、被告会社は、上記各データを基に、被告会社の書籍の第2刷を発行しているから、上記各データは、本件覚書2の2条所定の「完全な原稿」に該当するというべきである。
(4) まとめ
ア(ア) 原告は、平成18年10月6日から平成19年3月6日までの間に、被告会社から、次のとおり、合計114万9580円の支払を受けたから、本件覚書3に基づく未清算金(売買代金)及び著作権使用料の残金合計は695万1480円となった。
 なお、上記114万9580円は、原告が指定したBの預金口座に振り込まれ、Bが原告のため代理受領したものである。
 平成18年10月6日 10万円
 平成18年12月6日 20万円
 平成19年1月10日 29万9580円
 平成19年2月8日 15万円
 平成19年3月5日 30万円
 平成19年4月9日 10万円
  (以上、合計114万9580円)
(イ) 被告会社は、前記(ア)の未清算金の分割金の支払を怠り、期限の利益を喪失したから、本件覚書2の5条に基づいて、被告会社が原告から引渡しを受けた本件著作物の「完全な原稿(被告会社が複製した物を含む。)」のすべてを原告に引き渡す義務を負う。
イ よって、原告は、本件覚書2、3に係る合意に基づき、被告らに対し、未清算金(売買代金)及び著作権使用料の残金合計695万1480円及びこれに対する平成21年6月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払及び別紙書籍目録記載の各書籍の原稿(その複製物を含む。)の引渡しを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2)ア(ア) 請求原因(2)ア(ア)の事実は否認する。
(イ)a 同(イ)aの事実については、(a)の支払時期の点を除き、認める。支払時期は、「初回、6000部までは資金回収の状況を検討して、互いに支払時期を検討する。また、必要な場合は支払時期を検討する。」(甲1の16条)という内容であった。
b 同(イ)bの事実については、被告会社が、原告に対し、被告会社が原告書籍の在庫本を被告会社の書籍として販売するための上記在庫本の奥書等に貼付する被告会社の名称等を入れた修正シールのデータの作成及び上記書籍の書店での販売の際に必要となるラックの制作を依頼し、これらの引渡しを受けたこと、被告会社が、原告書籍の在庫本に上記修正シールを貼付した書籍を、本件著作物に係る被告会社の書籍の第1刷として発行したことは認めるが、原告が被告会社に上記在庫本を売却したとの事実は否認する。
イ 同(2)イのうち、原告と被告会社が本件覚書1を取り交わしたこと、本件覚書1に同イ(ア)及び(イ)の記載並びに被告会社が原告に対し未清算金608万5060円の支払義務があることを認める旨の記載があることは認めるが、その余の事実は否認する。
ウ 同(2)ウのうち、原告と被告らが本件覚書2を取り交わしたこと、本件覚書2に同ウ(ア)a、b及び(イ)の記載があることは認めるが、その余の事実は否認する。
エ 同(2)エのうち、原告と被告らが本件覚書3を取り交わしたこと、本件覚書3に同エ(ア)の記載があることは認める。
(3) 請求原因(3)のうち、被告会社が本件著作物に係る被告会社の書籍の第2刷を発行したことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 被告らの主張
(1) 原稿の引渡債務の未履行
 本件覚書2の2条所定「完全な原稿」とは、本件著作物の原稿(原図、原画、写真などを含む。)の「編集可能なオリジナルデータ」を意味するものである。
 しかし、被告会社は、原告から、本件著作物の原稿のPDFデータしか受け取っておらず、このPDFデータは、編集できないから、「編集可能なオリジナルデータ」に該当しない。
 以上のとおり、被告会社は、本件覚書2の2条所定の「完全な原稿」の引渡しを受けていないから、その引渡しがあるまで、原告主張の残金の支払を拒絶する。
(2) 弁済
ア 被告会社は、原告主張の114万9580円(請求原因(4)ア(ア))のほかに、平成18年4月27日から同年8月7日までの間に、原告に対し、次のとおり、合計251万5240円を支払った。
(ア)  平成18年4月27日  10万円
(イ)  平成18年5月10日  10万5240円
(ウ)  平成18年5月19日  36万円
(エ)  平成18年7月5日  70万円
(オ)  平成18年7月11日   5万円
(カ)  平成18年7月24日  25万円
(キ)  平成18年7月26日  15万円
(ク)  平成18年8月7日  80万円
(以上、合計251万5240円)
イ したがって、被告会社の本件覚書3に基づく未清算金及び著作権使用料の残債務は、原告主張の695万1480円から前記アの251万5240円を控除した443万6240円となる。
4 被告らの主張に対する認否
(1) 原稿の引渡債務の未履行の主張に対し被告らの主張は争う。
(2) 弁済の主張に対し
 被告らの主張のうち、原告が被告会社から平成18年4月27日から同年8月7日までの間に合計251万5240円の支払を受けたことは認めるが、その余は争う。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)の事実は当事者間に争いがない。
 そこで、原告主張の本件覚書2、3に係る合意(請求原因(2))の事実について判断する。
(1) 上記争いのない事実と証拠(甲1ないし6、8ないし13、乙1ないし5、8ないし10(以上、枝番のあるものは枝番を含む。)、証人B、原告代表者、被告会社代表者兼被告A)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア(ア) 原告は、平成16年ころ、原告の株主である株式会社DHC(以下「DHC」という。)へ納品することを目的として、日常生活の健康問題について専門医が簡潔に分かりやすくまとめた本件著作物(別紙書籍目録(1)記載の著作物)を作成し、書籍として発行することを企画した。
 原告は、同年6月ころ、Bに対し、上記書籍のデザインデータの作成を依頼し、Bは、平成17年1月ころ、完成した上記デザインデータをアウトライン化(文字データを線画に変換)したデータを原告に納品した。なお、Bは、原告から、上記デザインデータの作成報酬全額の支払を受けなかったため、そのオリジナルデータ(アウトライン化する前の編集可能なデータ)については、原告に引き渡さずに、自ら保管することとした。
(イ) その後、原告は、平成17年4月1日、本件著作物の書籍(全24種)の第1刷(原告書籍)(甲6、乙4の1、2はその一部)を発行した。原告書籍は、メディカルインフォマティクス株式会社等が監修を行い、原告の当時の取締役のC(以下「C」という。)が編集を行った。
 原告は、当初原告書籍をすべてDHCに納品する予定であったことから、原告書籍について各書店で販売する際に必要となる「日本図書コード」(ISBN)(以下「出版コード」という。)を取得しなかったが、DHCから、原告書籍の印刷後に当初の納品予定数を大幅に下回る発注しか受けられなかったため、大量の在庫を抱えることとなった。
 そこで、原告は、同年4月ころから、原告書籍の在庫本について、書店以外(東急ハンズ等)での販売を開始した。
イ(ア) 原告は、平成17年11月ころ、「補完代替医療学会」主催のイベントで、原告書籍の宣伝を行っていた際に、被告会社の代表取締役の被告Aがたまたま訪れ、原告書籍に関心を示した。
(イ) その後、原告の当時の取締役のC及び従業員のDと被告Aが交渉を重ねた結果、原告と被告会社は、本件著作物に関し、平成18年1月30日付け出版契約書(甲1。以下「原契約書」という。)に調印した。
 原契約書には、次のような条項がある(各条項における「甲」は「原告」、「乙」は「被告会社」をいう。)。
 「第1条(出版権の設定)甲は、表記の著作物(以下「本著作物」という)の出版権を乙に対して設定する。
 2.乙は、本著作物を出版物(以下「本出版物」という)として複製し、頒布する権利を専有する。
 3.(略)」
 「第4条(排他的使用)甲は、この契約の有効期間中に、本著作物の全部もしくは一部を転載ないし出版せず、あるいは他人をして転載ないし出版させない。ただし、乙の業務における使用はこの限りではない。
 2.(略)」
 「第6条(原稿引渡しと発行の期日)甲は、H18年2月3日までに本著作物の完全な原稿(原図・原画・写真などを含む)を乙に引渡す。
 2.乙は、完全な原稿の引渡しを受けた後1カ月以内に本著作物を発行する。
 3.やむを得ない事情があるときは、甲乙協議のうえ、前2項の期日を変更することができる。」
 「第16条(著作権使用料および支払方法・時期)乙は、甲に対して、次のとおり本著作物の著作権使用料を支払う。
  著作権使用料 定価の5%、印刷部数1部ごとに14円
  支払方法・時期 印刷時に支払う
  例
  3,000部×24種
  280円/1冊×5%(印税14円@1冊)×72,000冊=1,008,000円
 特記
 初回、6,000部までは資金回収の状況を検討して、互いに支払い時期を検討する。また、必要な場合は支払い時期を検討する。」
ウ(ア) 被告会社は、平成18年3月ころ、原告書籍の在庫本の表紙及び奥書等に、被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シール(「発行:環健出版社」、「発行者:A 発行所:環健出版社」等)を貼付し(乙5の1、2)、これを被告会社の書籍として販売を開始した。被告会社は、上記販売に先立ち、上記書籍について出版コードを取得した。
 原告書籍の上記在庫本は、原告が賃借倉庫に保管していた在庫本を被告に引き渡したものであり、また、上記修正シールは、原告が制作したものであった。
 このほか、原告は、上記書籍の書店販売用のラックの制作等を行い、これを被告会社に引き渡した。
(イ) その後、被告会社は、原告に対し、次のとおりの支払をした。
a  平成18年4月27日  10万円
b  平成18年5月10日  10万5240円
c  平成18年5月19日  36万円
d  平成18年7月5日  70万円
e  平成18年7月11日   5万円
f  平成18年7月24日  25万円
(以上、合計156万5240円)
エ(ア) 原告と被告会社は、平成18年7月25日、本件覚書1(甲2)に調印した。
 本件覚書1の前文には、原告と被告会社は、原契約書(甲1)に付帯して覚書を締結する旨の記載があり、また、本件覚書1には、次のような条項がある(各条項における「原契約」は「原契約書」、「甲」は「原告」、「乙」は「被告会社」をいう。)。
 「第1条(原契約第4条の修正)
 原契約第4条の誤記が訂正されないまま締結されたことに鑑み、原契約第4条第1項を下記のとおりに変更し、また同条第2項を削除する。(以下略)」
 「第2条(原契約第6条の修正)
 原契約第6条を下記のとおりに変更する。
 記
 第6条(甲出版物の買取りと原稿引渡し)
 1.甲は、甲が既に印刷した本著作物を乙に対し1冊あたり20円(別途消費税)で売却し、乙はこれを購入する。
 2.乙は、甲に対し前項の売買代金に1冊あたり14円(別途消費税)の印税を加算した金額を支払う。
 3.甲は、第1項の印刷済み本著作物をすべて売却し、乙が前項の代金を支払った場合、乙に対し本著作物の完全な原稿(原図・原画・写真などを含む。)を引き渡す。乙は、原稿受領後、1ヶ月以内に本著作物を発行する。」
 「第3条(支払義務の確認)
 乙は、甲に対し、原契約にかかわる乙の甲に対する未精算金6,085,060円(内訳は、本覚書添付の別紙「売掛金表」記載のとおり。)の支払義務があることを認め、契約第16条の特記事項(表中)の支払時期に関する検討及び甲との協議を行う。」
(イ) 原告が本件覚書1の3条の「本覚書添付の別紙「売掛金表」」であると主張する書面(甲9)には、下記のような記載がある。
 記
 「未払い残高
請求日 内容 金額(円) 入金予定日 備考
3/31 什器製作 550,930 5/30  
3/31 書籍代 3,427,200 5/30  
3/31 発送費 205,240 3/31 入金済み
4/20 什器製作 444,111 6/30  
4/28 書籍代 1,336,608 6/30  
4/30 発送費 261,891 4/30  
5/22 書籍代 29,988 7/30  
5/25 修正シール製作 107,940 7/30  
5/31 什器製作 152,870 7/30  
6/5 発送費 65,115 6/30  
6/25 什器製作・通関料 970,568 6/30 半金入金済
未払い合計 6,987,221    
 支払履歴
2006年7月5日  金 700,000円(済)
2006年7月12日  金 50,000円(済)
2006年7月24日  金 250,000円(済)
残金  金 6,085,060円」
(ウ) 被告会社は、平成18年7月26日、原告に対し、15万円を支払った。
オ(ア) 原告、被告会社及び被告Aは、平成18年8月5日、本件覚書2(甲3)に調印した。
 本件覚書2の前文には、原告と被告会社は、原契約書(甲1)及び本件覚書1(甲2)に付帯して、原告及び被告会社間の未清算金(未精算金)の処理について覚書を締結する旨の記載があり、また、本件覚書2には、次のような条項がある(各条項における「原契約」は「原契約書」、「原覚書」は「本件覚書1」、「甲」は「原告」、「乙」は「被告会社」、「A」は「被告A」をいう。)。
 「第1条(未清算金の支払)
 原契約第16条に基づき、甲乙間で未清算金の存否及び支払時期について話し合いがもたれ、乙は甲に対し未精算金6,085,060円の支払義務があることを認め、乙は甲に対し下記の通りこれを分割して支払うことを合意した。
 記
 乙は、甲に対し未清算金6,085,060円を2006年9月から2008年5月までの21回、毎月5日(銀行が休業の場合、前営業日)に金300,000円(最終回のみ85,060円)の月賦で甲の指定する口座へ支払う。(略)」
 「第2条(読むサプリのデータについて)
 甲は原契約第6条3項にもかかわらず、甲乙間で本覚書が成立し校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿を乙に引き渡す。」
 「第3条(読むサプリ増刷の著作権使用料)
 乙は、第2条が履行され次第、読むサプリ24種を各6,000部を第2刷として増刷する。その際、乙は甲に増刷を申請した段階で甲に対する著作権使用料2,016,000円(24種×6,000部×14円)を支払う義務があることを認め、これを甲に対し支払う。」
 「第4条(著作権使用料の支払)
 甲は乙が第3条の著作権使用料2,016,000円の内金800,000円を本覚書の成立した3営業日以内に甲の指定する口座に支払った場合に限り、前条の増刷を許可し、また残金1,216,000円の支払につき、第1条の未清算金に加算し、第1条の支払計画を下記の通り修正することに同意する。
 記
 乙は、甲に対し未清算金7,301,060円を2006年9月から2008年9月までの25回、毎月5日(銀行が休業の場合、前営業日)に金300,000円(最終回のみ101,060円)の月賦で甲の指定する口座へ支払う。(略)」
 「第5条(原契約及び本覚書の破棄)
 乙は以下の各号のいずれか該当した場合、甲より何等の通知催告を要することなく本覚書に基づく期限の利益を喪失し、未清算金の残金全額を即時に甲に対して支払い、また本著作物の完全な原稿(乙の業務中に複製した物を含む)のすべてを返還しなければならない。
 1.月賦金を期限に支払わないとき
 (略)」
 「第6条(保証)
 A(略)は、甲に対し、原契約、原覚書及び本覚書(略)に基づく乙の甲に対する債務一切を乙と連帯して保証する。」
 「第8条その他)
 本覚書に記載のない事項は原契約及び原覚書に従う。」
(イ) 被告会社は、平成18年8月7日、原告に対し、80万円を支払った。
カ(ア) 原告は、本件覚書2に基づいて原告書籍の校正・修正をするため、原告書籍のデザインデータのオリジナルデータを引き渡すようにBに要請した。これに対しBは、当初は上記デザインデータの作成報酬全額の支払を受けるまでは、引渡しに応じられない旨答えていたが、原告とBが話し合った結果、Bが上記オリジナルデータの引渡しに応じる一方で、原告が被告会社から支払を受ける分割金をBが代理受領することをもって上記デザインデータの作成報酬の支払に充てる旨を合意した。
(イ) 原告、被告会社及びBは、平成18年8月8日、本件覚書3(甲4)に調印した。
 本件覚書3には、次のような条項がある(各条項における「甲」は「原告」、「乙」は「被告会社」、「丙」は「B」をいう。)。
 「第1条 支払義務の確認
 乙は、甲に対し、「読むサプリ」印税・販売経費について未清算の金6,085,060円、甲から納品したデータから新たに印刷する24種×6,000部の印税2,016,000円、合計8,101,060円の支払義務がある。
 甲は、丙に対し、「読むサプリ」制作費について未清算の金11,650,000円を支払う義務がある。
 これら、3社の未清算を速やかに解消するため、以下の計画にて支払うものとする。」
 「第2条 支払い方法
 乙は、甲が指定する口座に平成18年8月から平成20年10月まで毎月5日に金300,000円(最終回のみ金301,060円)を計27回の月賦で支払う。(略)」
 「第4条 支払の終了
 乙の丙への支払が終了した時点で、乙の甲に対する未清算金はなくなり、甲の丙に対する未清算金から金8,101,060円が減額されるものとする。」
キ Bは、平成18年8月10日ころ、原告に対し、原告書籍の表紙等のデザインデータのオリジナルデータを引き渡した。
 その後、原告は、被告会社の増刷用に上記オリジナルデータを一部修正した。
 原告の従業員のDは、同月21日ころ、上記修正後の表紙等のデザインデータ(ファイル形式が「イラストレーター」(ソフト名)のデータで、編集可能なもの)のCD−ROM(乙8)及び原告書籍の本文のPDFデータのDVD−ROM(乙9)を被告Aに引き渡した。
 被告Aは、その際、上記DVD−ROMのデータがPDFデータであることを認識したが、原告には本文のデータはPDFデータしかないと聞いていたので、原告に対し、異議を述べたり、抗議することはなかった。
ク(ア) 被告会社は、平成18年9月20日、本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第2刷(甲8はその一部)を発行した。
(イ) 被告会社は、本件覚書3に基づく原告の指定口座であるBの預金口座に、次のとおり振込送金した。
a  平成18年10月6日  10万円
b  平成18年12月6日  20万円
c  平成19年1月10日  29万9580円
d  平成19年2月8日  15万円
e  平成19年3月5日  30万円
f  平成19年4月9日  10万円
(以上、合計114万9580円)
(ウ) 被告会社は、平成20年1月10日、本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第3刷(甲12はその一部)を発行した。
(エ) 原告は、平成21年5月20日、本件訴訟を提起した。
(2) 前記(1)の認定事実を総合すれば、@原告と被告会社は、平成18年1月30日、本件著作物に関し、原契約書(甲1)の記載内容(前記(1)イ(イ))のとおりの合意をしたこと、Aその後、原告と被告会社は、被告会社が本件著作物に係る原告書籍の在庫本を1冊当たり34円で買い取り、被告会社が上記在庫本の表紙及び奥書等に被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シールを貼付し、これを被告会社の書籍として販売する旨の合意をし、原告は、上記在庫本、上記修正シール、被告会社の書籍の書店販売用のラック等を被告会社に売却したこと、B被告会社は、平成18年3月ころ、原告書籍の在庫本に上記修正シールを貼付し、これを本件著作物に係る被告会社の書籍(第1刷)として販売を開始したこと、C原告と被告会社は、平成18年7月25日、本件覚書1(甲2)の記載内容(前記(1)エ(ア))のとおりの合意をし、これによって被告会社は、原告に対し、同日現在で、上記Aの売却代金等の未清算金として合計608万5060円(その内訳は、甲9のとおり)の支払義務があることを認めたこと、D原告、被告会社及び被告Aは、平成18年8月5日、本件覚書2(甲3)の記載内容(前記(1)オ(ア))のとおりの合意をし、これによって被告会社においては、原告に対し、上記Cの未清算金608万5060円を平成18年9月から平成20年5月まで21回に分割して支払う旨、原告書籍を校正・修正した原稿のデータを用いて上記Bの被告会社の書籍の第2刷を増刷することについて著作権使用料として合計201万6000円(24種×6,000部×14円)を支払う旨約し、被告Aにおいては被告会社の原告に対する原契約書及び本件覚書1、2に基づく一切の債務を連帯保証する旨約したこと、E原告、被告会社及びBは、平成18年8月8日、本件覚書3(甲4)の記載内容(前記(1)カ(イ))のとおりの合意をし、これによって被告会社は、原告に対し、上記Dの未清算金608万5060円及び著作権使用料201万6000円の合計810万1060円を平成18年8月から平成20年10月まで毎月5日に30万円(最終回のみ30万1060円)ずつに分割(27回)して、原告の指定する預金口座に振り込んで支払う旨約したことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
 上記認定事実によれば、原告会社と被告らが平成18年8月5日に本件覚書2に係る合意をしたこと、原告会社と被告会社が同月8日に本件覚書3に係る合意をしたことが認められ、これらの合意に基づいて、被告会社は、原告に対し、上記未清算金及び著作権使用料の支払債務を含む本件覚書2、3の各条項記載の債務を負い、被告Aは、被告会社の上記支払債務を含む本件覚書2の各条項記載の債務について、原告に対して連帯保証したことが認められる。
2 次に、原告の被告会社に対する原稿の引渡し(請求原因(3))の事実について判断する。
(1) 本件覚書2の2条は、「甲は原契約第6条3項にもかかわらず、甲乙間で本覚書が成立し校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿を乙に引き渡す。」と規定し(前記1(1)オ(ア))、原告会社は、「校正・修正が完了した段階で本著作物の完全な原稿」を被告会社に引き渡す旨定めている。
 ところで、本件覚書2の3条は、「乙は、第2条が履行され次第、読むサプリ24種を各6000部を第2刷として増刷する。」と規定していること(前記1(1)オ(ア))、被告会社は、平成18年3月ころ、原告書籍の在庫本の表紙及び奥書等に被告会社が発行する出版物であることを表示する修正シールを貼付し、これを本件著作物に係る被告会社の書籍(第1刷)として販売を開始したこと(前記1(2)A、B)に照らすならば、本件覚書2の2条の趣旨は、被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷に用いるために、原告が「校正・修正」をした原告書籍の在庫本の原稿データを引き渡すことにあるというべきである。このような本件覚書2の2条の趣旨にかんがみると、同条所定の「本著作物の完全な原稿」とは、被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷用に修正した原告書籍の原稿データであって、その増刷(印刷)が可能なデータを意味するものと解するのが相当である。
 そして、@原告会社は、Bから引渡しのあった原告書籍の表紙等のデザインデータのオリジナルデータを被告会社の書籍の増刷用に一部修正したデータ(ファイル形式が「イラストレーター」(ソフト名)のデータで、編集可能なもの)のCD−ROM(乙8)を作成し、原告会社の従業員のDが、平成18年8月21日ころ、上記CD−ROM(乙8)及び原告書籍の本文のPDFデータのDVD−ROM(乙9)を被告Aに引き渡したこと(前記1(1)キ)、A被告会社は、平成18年9月20日、本件著作物に係る被告会社の書籍(24種)の第2刷を発行したこと(前記1(1)ク(ア))を総合すれば、被告会社は、上記CD−ROM及びDVD−ROMの各データを基に、上記第2刷を増刷(印刷)して発行したものと認められるから、原告会社は、上記CD−ROM及びDVD−ROMを被告Aに引き渡すことによって、本件覚書2の2条所定の「本著作物の完全な原稿」の引渡しを行ったものと認められる。
(2)ア これに対し被告Aの本人尋問における供述及び陳述書(乙10)中には、本件覚書2の2条の「完全な原稿」とは、本件著作物に係る原告書籍の本文の内容についても編集が可能なオリジナルデータであり、原告から引渡しのあったDVD−ROMはPDFデータであって、本文の内容を直せないデータであるから、「完全な原稿」とはいえない旨の供述部分がある。
 しかし、被告Aの上記供述部分にいう原告書籍の本文の内容についても編集が可能なオリジナルデータは、本件著作物の改変が可能なデータであって、このようなデータを被告会社に引き渡すことは、被告会社の書籍(第1刷)の第2刷を増刷するために必ずしも必要があるとはいえないものであり、前記(1)認定の本件覚書2の2条の趣旨を超えるものである。
 加えて、被告Aは、原告の従業員のDから上記DVD−ROMの引渡しを受けた際、上記DVD−ROMのデータが本文のPDFデータであることを認識したが、原告に対し、異議を述べたり、抗議することはなかったこと(前記1(1)キ)からすると、被告A自身が、本文のPDFデータであっても被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷は可能であり、その増刷のために本文の内容についても編集が可能なデータが必要でないことを認識していたことがうかがえる。
 以上によれば、被告Aの上記供述部分は採用することができない。
イ また、被告Aは、その本人尋問で、原告から引渡しのあったDVD−ROMの本文のPDFデータには、データが欠けている部分や画像と画像が重なっている部分など、44箇所くらいの不備があったため、その不備を修正した印刷業者(凸版印刷)に対し、その修正費用として約50万円を支払った旨供述している。
 しかし、被告会社が、そのような修正費用を支出したことを客観的に裏付ける証拠は提出されておらず、そもそも不備があったとする箇所の具体的な特定もされていないこと、被告会社は、被告会社の書籍の第2刷発行後の平成18年10月6日から平成19年4月9日までの間、6回にわたり、本件覚書3に基づく原告の指定口座であるBの預金口座に合計114万9580円を振込送金しているが(前記1(1)ク(イ))、その間にPDFデータの修正に費用を支出したことについて原告に苦情を述べた形跡はうかがわれないことに照らすならば、上記供述は措信することができない。もっとも、仮に被告Aが供述するように上記PDFデータに不備があり、被告会社がその修正費用を支出したとしても、被告会社は、原告から引渡しのあった上記PDFデータ(DVD−ROM)及び表紙等のデザインデータ(CD−ROM)を基に被告会社の書籍の第2刷を既に発行しているのであるから(前記(1))、第2刷の発行のために改めて原告から原稿データの引渡しを受ける必要性はなく、上記修正費用については被告会社と原告との間で別途清算すべき事柄であると解される。
 他に原告が本件覚書2の2条所定の「完全な原稿」の引渡しを行ったとの前記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。
3 次に、本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務の額(請求原因(4)ア(ア))について検討する。
(1)ア 被告会社が、平成18年8月8日付け本件覚書3に基づいて、原告に対し、原告書籍の在庫本の売却代金等の未清算金608万5060円及び著作権使用料201万6000円の合計810万1060円を平成18年8月から平成20年10月まで毎月5日に30万円(最終回のみ30万1060円)ずつに分割(27回)して、原告の指定する預金口座に振り込んで支払う旨約したことは、前記1(2)Eのとおりである。
 証拠(甲2、9、被告A)及び弁論の全趣旨によれば、上記未清算金608万5060円の内訳は、平成18年7月25日付け本件覚書1(甲2)の3条の別紙「売掛金表」のとおりであること、同「売掛金表」の内容は、甲9の書面の記載(前記1(1)エ(イ))のとおりであることが認められる。
 しかるに、甲9の書面記載の請求日「3/31」から「6/25」までの請求額(甲9の「金額」欄記載の各金額)を合算すると、合計755万2461円となる。
 そして、被告会社は、原告に対し、平成18年4月27日に10万円、同年5月10日に10万5240円、同月19日に36万円、同年7月5日に70万円、同月11日に5万円、同月24日に25万円の合計156万5240円を支払ったことは、前記1(1)ウ(イ)認定のとおりである。
 上記支払額合計156万5240円を上記請求額合計755万2461円に充当すると、残額は598万7221円となる。
 そうすると、甲9記載の「残金金6,085,060円」は誤りであり、被告会社が平成18年7月25日時点で負担していた未清算金は598万7221円であったことが認められる(なお、この誤りは、甲9の「未払い合計」欄記載の「6,987,221」から「支払履歴」欄記載の合計額100万円を控除した残金は598万7221円となるのに、これを「残金金6,085,060円」と記載したことによるものと認められる。)。
 さらに、被告会社は平成18年7月26日に15万円を、同年8月7日に80万円を原告に支払っており(前記1(1)エ(ウ)、オ(イ))、これらを上記未清算金に充当すると、本件覚書3に係る合意がされた同月8日時点での未清算金は503万7221円となる。
イ 以上によれば、被告会社が本件覚書3に基づいて負担すべき債務は、未清算金503万7221円及び著作権使用料201万6000円の合計705万3221円となる。
 そして、被告は、本件覚書3に基づく原告の指定口座であるBの預金口座に、平成18年10月6日に10万円、同年12月6日に20万円、平成19年1月10日に29万9580円、同年2月8日に15万円、同年3月5日に30万円、同年4月9日に10万円の合計114万9580円を振込送金しており(前記1(1)ク(イ))、これを上記705万3221円に充当すると、残金は590万3461円となる。
 被告会社が本件覚書3に基づいて負担すべき上記債務の分割金の最終弁済日である平成20年10月5日は既に経過しているから、590万3461円の残金全額についての履行期が到来している。
(2) これに対し被告らは、平成18年4月27日から同年8月7日までの間に、原告に対し、合計251万5240円を支払ったから、これを控除すべきである旨主張する。
 しかし、被告ら主張の251万5240円(平成18年7月24日時点での支払額156万5240円、同月26日の支払額15万円、同年8月7日の支払額80万円の合計額)は、前記(1)アのとおり、既に控除ずみであるから、被告の上記主張は理由がない。
(3) 以上によれば、原告は、本件覚書2、3に係る合意に基づき、被告らに対し、未清算金及び著作権使用料の残金合計590万3461円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成21年6月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
4 本件覚書2の5条は、被告会社が未清算金の分割金を期限に支払わないときは、原告から何らの通知催告を要することなく、期限の利益を喪失し、未清算金の残金全額を即時に原告に対して支払い、「本著作物の完全な原稿(被告会社の業務中に複製した物を含む)」のすべてを返還しなければならない旨定めている(前記1(1)オ(ア))。
 しかるに、前記3(1)の認定事実によれば、被告会社は、上記未清算金の分割金の支払を怠り、残金全額についての履行期が到来していることが認められるから、被告会社は、本件覚書2の5条に基づいて、「本著作物の完全な原稿(被告会社の業務中に複製した物を含む)」のすべてを返還すべき義務を負うというべきである。
 そして、本件覚書2の5条の「完全な原稿」とは、2条の「完全な原稿」(前記2(1))と同義であると解されるから、被告会社は、本件覚書2の5条に基づいて、原告から引渡しのあった被告会社の書籍の増刷用(第2刷用)に一部修正された表紙等のデザインデータのCD−ROM(乙8)及び本文のPDFデータのDVD−ROM(乙9)を原告に返還すべき義務を負うものと認められる。
 一方で、本件全証拠によっても、被告会社が上記CD−ROM及びDVD−ROMを複製し、その複製物を所持していることを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、被告らが本件覚書2、3に係る合意に基づいて原告に引き渡べき「完全な原稿」は、上記CD−ROM及びDVD−ROMである別紙書籍目録記載の書籍(第2刷のもの)の原稿(データ)であるものと認められる。
第5 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、590万3641円及びこれに対する平成21年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払並びに別紙書籍目録記載の書籍(第2刷のもの)の原稿(乙8、9)の引渡しを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 上田真史
 裁判官 石神有吾


(別紙) 書籍目録
(1) 題号「読むサプリシリーズ」(全24種)
 「01 免疫力をつける。ホントなのウソなの」
 「02 血圧をさげる。ホントなのウソなの」
 「03 熟睡をクセにする。ホントなのウソなの」
 「04 胃をなおす。ホントなのウソなの」
 「05 骨を強くする。ホントなのウソなの」
 「06 歯で美顔になる。ホントなのウソなの」
 「07 セックス・トラブル。ホントなのウソなの」
 「08 妊娠と生理。ホントなのウソなの」
 「09 冷え性・むくみ。ホントなのウソなの」
 「10 頭痛・肩コリ。ホントなのウソなの」
 「11 貧血・低血圧。ホントなのウソなの」
 「12 うんちと便秘。ホントなのウソなの」
 「13 若さを取り戻す。ホントなのウソなの」
 「14 ボケを防ぐ。ホントなのウソなの」
 「15 ダイエットの真実を知る。ホントなのウソなの」
 「16 糖尿病を退治する。ホントなのウソなの」
 「17 血液をサラサラにする。ホントなのウソなの」
 「18 関節の痛みをとる。ホントなのウソなの」
 「19 美肌はつくれる。ホントなのウソなの」
 「20 体臭をなくす。ホントなのウソなの」
 「21 アトピーが消える。ホントなのウソなの」
 「22 ストレスを和らげる。ホントなのウソなの」
 「23 眼を強くする。ホントなのウソなの」
 「24 アレルギーはなくせる。ホントなのウソなの」
(2) 発行者 A
(3) 発行所 株式会社環健出版社
 2006年3月1日第1刷発行 (発売所 星雲社)
 2006年9月20日第2刷発行 (発売所 星雲社)
 2008年1月10日ころ第3刷発行 (発売所 三冬社)
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日本ユニ著作権センター
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