判例全文 line
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【事件名】「ウルトラマン」商品化事件
【年月日】平成22年9月30日
 東京地裁 平成21年(ワ)第6194号 譲受債権請求承継参加申立事件
 (被参加事件 平成18年(ワ)第10273号 損害賠償請求事件)
 (口頭弁論終結日 平成22年6月24日)

判決
脱退原告承継参加人(以下「参加人」という。) ユーエム株式会社
同訴訟代理人弁護士 山崎順一
同 今村憲
同 小林陽子
同 酒迎明洋
被告 株式会社円谷プロダクション
同訴訟代理人弁護士 遠山友寛
同 水戸重之
同 千葉尚路
同 柴野相雄
同 鈴木優
同 坂井はるか
脱退原告 A


主文
1 被告は、参加人に対し、1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 参加人のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告の負担とし、その余を参加人の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、参加人に対し、1億円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 被告は、別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者である。参加人は、@ 脱退原告は、後記1(2)の契約に基づき、被告から、本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(以下「本件独占的利用権」という。)の許諾を受けた、A 被告は、日本以外の国において、第三者に対し、本件著作物や、同著作物の制作後に被告が制作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している、B 上記Aの被告の行為は、上記@の許諾契約に違反するものであり、被告は、脱退原告に対し、上記契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う、C 参加人は、脱退原告から、上記Bの損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた、と主張する。
 本件は、参加人が、被告に対し、上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求として、1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は、民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。なお、本件は、脱退原告が被告に対して提起した当庁平成18年(ワ)第10273号損害賠償請求事件に参加人が独立当事者参加した訴訟であり、脱退原告は、本件訴訟から脱退した。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は、当事者間に争いがない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者等
 参加人は、舞台・映像関係、キャラクター等の企画デザイン等を目的とする株式会社として設立登記のされた日本法人である。
 被告は、劇場用映画及びテレビ用映画の制作供給等を業とする日本法人である。被告は、本件著作物について著作権を有している。
 脱退原告は、タイ王国人である。脱退原告は、被告から本件著作物につき本件独占的利用権の許諾を受けたと主張している。
 訴外Bは、タイ王国人であり、脱退原告の子である。
(2) 本件独占的利用権の有無に関する脱退原告・被告間の争い
 脱退原告は、別紙第一目録添付の契約書(以下「本件契約書」といい、同契約書に記載された内容の契約を「本件契約」という。)を所持している。
 本件契約書には、円谷プロド・アンド・エンタープライズ・カンパニー・リミテッド(Tsuburaya prod.and Enterprise Co.,Ltd)がチャイヨ・フィルム・カンパニー・リミテッド(Chaiyo Film Co.,Ltd)の社長である脱退原告に対し、昭和51年3月4日付けで、日本を除くすべての国において、期間の定めなく、独占的に、本件著作物について以下の権利等を許諾する旨の記載がある。
@ 配給権(Distributing Right)(第3条3.1)
A 制作権(Production Right)(第3条3.2)
B 複製権(Reproduction Right)(第3条3.3)
C 著作権(Copyright)(第3条3.4)
D 商標(Trademark)(第3条3.5)
E ラジオ・テレビなどのあらゆるマスメディアを介した放送及び全ての新聞による広告権( Broadcasting through any mass media such as Radio,Television,etc.and the right to advertise in any newspaper.)(第3条3.6)
F 本件著作物の制作において使用されたオリジナルのモデル及びキャラクターについて、商業上の目的のためにする複製(Reproduction of all models and characters used in the production of the films.mentioned in article 1 under the original character by any material and in any form for commercial purposes.)(第3条3.7)
G 上記権利の第三者への譲渡(Transfer the rights mentioned above to the third person.)(第3条3.8)
 また、本件契約書の末尾には、アルファベットで「C」と署名がされ(以下「本件署名」という。)、その右横に、株式会社円谷エンタープライズ(以下「円谷エンタープライズ」という。)代表取締役Cの記名印及び円谷エンタープライズの代表取締役印が押捺されている(上記代表取締役の印影を、以下「本件印影」という。)(甲2)。
 脱退原告は、本件署名は、昭和51年3月4日に、当時被告及び円谷エンタープライズの代表取締役を務めていたCが、東京において脱退原告の面前で署名したものであり、本件印影は、当時円谷エンタープライズが使用していた代表取締役印によるものであって、本件契約書は被告によって真正に作成されたものであると主張する。
 これに対し、被告は、脱退原告と被告との間で本件契約が締結された事実はなく、本件署名は脱退原告により偽造されたものであると主張する。
(3) 日本の裁判所における本件独占的利用権の有無についての判断
ア 被告は、平成9年7月、脱退原告を被告として、東京地方裁判所に対し、脱退原告が日本以外の国において本件著作物についての著作権及び利用権を有しないことの確認等を求める訴えを提起した(以下「東京訴訟」という。)。
 東京訴訟では、本件契約の成否(本件契約書は真正に成立したものか)及び本件契約の内容が主たる争点となり、被告及び脱退原告は、それぞれ、上記(2)と同様の主張をした。
 東京地方裁判所は、平成15年2月28日、本件契約書は真正に成立したものと認められるが、同契約書は、全体としては、本件著作物についての独占的な利用権につきライセンスを付与するものであると認められ、著作権の譲渡契約であるとは解されないことなどを理由に、被告の請求のうち、脱退原告が本件著作物についての著作権を有しないことの確認を求める部分は認容したものの、脱退原告が本件著作物についての利用権を有しないことの確認を求める部分等については、これを棄却する旨の判決(以下「東京地裁判決」という。)を言い渡した(甲4)。
 また、東京訴訟において、脱退原告は、本件契約により、被告から脱退原告に対し、本件著作物についての著作権だけでなく、ウルトラマンシリーズの将来の作品の著作権ないし独占的利用権についても与えられたものであると主張したが、東京地裁判決は、本件契約書は第1条によりライセンスの対象となる映画を本件著作物に特定していることなどから、上記脱退原告の主張は認められないとした。
イ 東京地裁判決に対し、被告及び脱退原告は、いずれも東京高等裁判所に控訴した。控訴審において、脱退原告は、主位的反訴請求として、脱退原告が日本以外の国において本件著作物の著作権を有することの確認を求め、予備的反訴請求として、脱退原告が本件独占的利用権を有することの確認を求めた。
 東京高等裁判所は、平成15年12月10日、東京地裁判決とほぼ同様の理由により、被告及び脱退原告の控訴並びに脱退原告の主位的反訴請求をいずれも棄却し、脱退原告の予備的反訴請求を認容する旨の判決(以下「東京高裁判決」という。)を言い渡した(甲5)。
ウ 被告は、東京高裁判決に対して上告及び上告受理の申立てをした。最高裁判所は、平成16年4月27日、同上告を棄却し、本件を上告審として受理しない旨の決定をした。これにより、東京高裁判決は、確定した。
(4) タイ王国の裁判所における本件独占的利用権の有無についての判断
ア 被告は、平成9年12月、タイ王国の国際貿易・知的財産中央裁判所に対し、脱退原告及びBほか2名を相手方として、脱退原告は本件著作物についてタイ王国における著作権を有しておらず、被告から利用の許諾も得ていない、本件契約書は脱退原告が偽造したものであるなどと主張して、本件著作物についてのタイ王国における脱退原告ほか3名の著作権侵害行為の差止め及び損害賠償等を求める訴えを提起した(以下「タイ訴訟」という。)。
 国際貿易・知的財産中央裁判所は、平成12年4月4日、刑事及び民事両事件についての被告の告訴及び請求を却下する旨の判決をした。
イ 被告は、上記判決を不服とし、タイ王国の最高裁判所に上告した。タイ王国最高裁判所の国際貿易・知的財産部は、平成20年2月5日、本件契約書は偽造されたものと認められるとして、脱退原告に対し、本件契約に基づく権利主張及び本件契約の使用の禁止並びに被告の本件著作物に関する著作権の侵害等を理由とする損害賠償金の支払等を命じ、脱退原告の反訴請求(脱退原告が日本以外の国において本件著作物についての著作権を有することの確認等を求めたもの)を棄却する旨の判決(以下「タイ最高裁判決」という。)を言い渡した。
(5) 中華人民共和国(以下「中国」という。)の裁判所における本件独占的利用権の有無についての判断
 脱退原告、チャイヨプロダクション有限公司(以下「チャイヨ社」という。)及び広州市鋭視文化伝播有限公司(以下「広州鋭視」という。)は、平成17年9月30日、中国の広東省広州市中級人民法院に対し、被告、上海円谷企画有限公司(以下「上海円谷」という。)、上海音像出版社(以下「上海音像」という)及び広州購。書中心有限公司(以下「広州購書」という。)を被告とする訴えを提起した(以下「中国訴訟」という。)。
 中国訴訟において、脱退原告らは、脱退原告は本件契約に基づき本件著作物について日本以外の国における著作権を有しており、チャイヨ社は脱退原告から本件著作物について中国における使用権の許諾を受け、広州鋭視はチャイヨ社から上記使用権の許諾を受けていることを主張し、被告及び上海円谷が上海音像及び広州購書に対してウルトラマン作品の利用を権限なく許諾し、上海音像及び広州購書が、権限のない許諾によるものであることを知りながらウルトラマン作品の製造販売を行ったことは、脱退原告らの上記著作権ないし使用権を侵害するものであるとして、被告らに対し、ウルトラマン作品のVCD盤の製造・販売及び許諾行為の差止め、謝罪広告並びに賠償金100万人民元の支払を求めた。
 広東省広州市中級人民法院は、平成21年9月16日付けで、本件契約書が真正に成立したとは認められず、脱退原告は本件著作物について著作権を有するものとは認められないことを理由に、脱退原告及びチャイヨ社の請求を棄却する旨の判決をした(乙30)。
 脱退原告及びチャイヨ社は、同判決を不服とし、広東省高等裁判所に対して上告した。
(6) 参加人の設立
 参加人は、平成20年11月18日、設立の登記がされた株式会社である。参加人の取締役は、脱退原告の知人であるD及びBらであり、Dが同社の代表取締役である。
2 争点
(1) 本件訴訟の国際裁判管轄(争点1)
(2) 本件の準拠法(争点2)
(3) 本件契約の成否及び内容(争点3)
ア 本件契約の成否、効力及び存否(争点3−1)
イ 本件契約に基づく被告の債務の内容(争点3−2)
(4) 被告の債務不履行及び不当利得の有無(争点4)
(5) 脱退原告は参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したか(争点5)
(6) 商事消滅時効の成否(争点6)
3 争点に関する主張
(1) 争点1(本件訴訟の国際裁判管轄)について
[被告の主張]
ア 条理により我が国の国際裁判管轄が否定されること
 我が国の国際裁判管轄の有無を判断するについては、当事者間の公平や、裁判の適正・迅速の理念により、条理に従って決定するのが相当である。
被告の住所地等が日本国内にあっても、我が国で裁判を行うことが上記理念に反する特段の事情があるときは、我が国の国際裁判管轄を否定すべきである。
 本件では、次のとおり上記特段の事情が存在するので、我が国の国際裁判管轄は否定される。
(ア) 国際訴訟競合
 前記1(5)のとおり、脱退原告は、被参加事件の訴え提起に先立ち、中国において中国訴訟を提起し、被告が上海音像及び広州購書に対して本件著作物等の複製、販売を許諾したことが本件契約の債務不履行に当たると主張し、被告ほか3名に対し、損害賠償を請求している。
 また、後記(5)のとおり、脱退原告及び参加人は、本件訴訟及び被参加事件において、被告による本件契約の債務不履行行為の一つとして、被告が上海音像及び広州購書に対して本件著作物等の複製、販売を許諾したことを挙げ、債務不履行に基づく損害賠償を請求している。
 したがって、本件訴訟と中国訴訟とは国際訴訟競合の状況にある。中国訴訟は被参加事件より前に提起されたものであり、審理も相当程度進んでいるから、日本で本件訴訟の審理を行うことは、被告に対して再度の応訴を強制するものであり、極めて不当である。
(イ) 本件に関する証拠は日本以外の国に存在すること
 本件訴訟において参加人が主張する被告の債務不履行行為は、もっぱら、タイ王国及び中国等のアジア諸国において行われたものであり、これに関する証拠や証人も、国外にのみ集中している。仮に、本件訴訟について我が国の国際裁判管轄を認めれば、被告は、国外から上記証拠の取寄せ及び証人の呼出しを行ったり、証拠収集等の便宜のために、日本の訴訟代理人とは別の代理人を国外で新たに選任するか、少なくとも、翻訳や通訳等が必要不可欠となるなど、不必要な労力と膨大な費用、多大な時間を要することになる。
(ウ) 本件の準拠法が日本法ではないこと
 本件訴訟において、日本以外の国での被告の行為が問題とされるのであれば、そのような案件は、通常、日本の著作権法等が適用されるものではないため、上記行為が行われた国々の法律に準拠して、実体法の解釈、適用を行う必要が生ずる。また、両当事者が外国法の適用関係について主張、立証をし合う場合、通常の何倍もの時間、費用及び労力が発生する。
イ 民事訴訟法(以下「民訴法」という。)142条を適用又は趣旨を類推適用して本件訴えを却下すべきであること
 前記ア(ア)のとおり、本件訴訟は、同訴訟の提起に先立ち訴えの提起された、同一当事者間の同一請求の訴訟(中国訴訟)と一部重複するものである。
 したがって、民訴法142条の趣旨を類推して、本件訴えを却下すべきである。仮に、本件訴え全部を却下することができないとしても、少なくとも、中国訴訟に係る請求と同一の請求をする部分については、民訴法142条を適用又は類推適用して、訴えを却下すべきである。
[参加人の主張]
ア 条理により我が国の国際裁判管轄が認められること
 被告は、日本法人であり、その本店所在地は日本である。したがって、被告を相手方として提起された本件訴訟の国際裁判管轄が我が国に認められることは明らかである。被告の主張は、次のとおり、理由がない。
(ア) 国際訴訟競合について
 我が国で提起された訴訟は、外国で既に係属する訴訟と請求の趣旨及び原因において重なる部分がある場合であっても、一律に禁止されているものではない。国内訴訟であれば民訴法の規定により管轄が認められる場合において、なお、我が国裁判所の国際裁判管轄を認めるか否かを条理に基づき判断する場合の一要素として考慮されるにとどまる。
 そして、我が国の訴訟において被告が訴訟の二重性を判断要素の一つとして主張し得るためには、当該外国裁判所の確定判決の効力が民訴法118条により認められ、民事執行法24条により我が国で執行できることを要する。中国の現裁判実務が民訴法118条4号に定める相互の保証の要件を充たさないことは、我が国裁判所の確定判決の中国における執行可能性を包括的に否定した、1994年中国最高人民法院による司法解釈(甲22)の存在により、明らかである。
 また、被告は、平成16年に東京高裁判決が確定し、脱退原告が本件独占的利用権を有することが確認されたにもかかわらず、同判決の確定以降に、中国において脱退原告から本件独占的利用権に基づく再許諾を受けた業者ないしその取引先に対し、連続して5件の訴訟を提起した。そのため、中国の主たる利用権被許諾者である広州鋭視の主動により中国訴訟が提起されたものであり、中国訴訟の主たる目的は、被告らに対する差止め及び謝罪広告を得ることにある。中国訴訟における損害賠償請求額は、100万人民元(約1500万円)にすぎず、被参加事件及び本件訴訟における請求額よりはるかに少額であり、中国訴訟において主張されている被告の債務不履行行為も、本件訴訟において主張されている債務不履行行為より地域的範囲が狭い。以上の事情からすれば、中国訴訟における請求に賠償金請求が含まれている事実をもって、脱退原告が賠償請求の唯一の機会として中国訴訟における請求を選択したものとして、我が国での損害賠償請求を許さないこととするのは、衡平を欠く。
(イ) 本件に関する証拠が被告の手元又は管理下に存在すること
 被告による本件契約の債務不履行及び参加人の主張する損害額算定の証拠となる、契約書や実施料報告書等の書証のほぼすべては、被告の手元に存在するか、又は、被告の管理下に存在する。本件訴訟を我が国の裁判所で審理したとしても、被告に格別の証拠提出上の負担は生じない。
(ウ) 本件の準拠法が日本法であること
 後記(2)のとおり、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及び本件不当利得返還請求の準拠法は、日本法である。また、準拠法のいかんは、我が国の国際裁判管轄権を左右する要素ではない。
イ 民訴法142条の適用ないし類推適用は認められないこと
 国外訴訟は、我が国の裁判権のらち外にある。したがって、国外訴訟とその後に我が国で提起された訴訟との間で請求の趣旨及び原因に重複する部分があっても、国内の後訴について民訴法142条が適用されることはない。
(2) 争点2(本件の準拠法)について
[参加人の主張]
ア 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 本件契約は、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)の施行日である平成19年1月1日以前に締結されたものである。したがって、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求に関する準拠法は、通則法附則3条3項により、法例に従って定められる。
 本件契約書には契約準拠法についての明文の規定がなく、かつ、本件契約の対象は日本以外の全世界における本件著作物の独占的利用権であるから、準拠法に関する当事者の意思が直ちに分明であるとはいえない。また、脱退原告と被告が、中国訴訟において、本件契約の準拠法を中国法とする旨を合意した事実はない。
 したがって、法例7条2項に従い、本件契約の成立及び効力の準拠法は、行為地法となる。本件契約は、当時被告の代表取締役であったCが、日本において、脱退原告の面前で、作成、署名及び交付したものであるから、同契約における行為地は日本であり、本件契約の準拠法は日本法である。
イ 不当利得返還請求について
 本件訴訟における不当利得返還請求は、後記(5)のとおり、平成19年1月1日以前に被告の得た利益ないし脱退原告が被った損失に基づくものである。したがって、上記不当利得返還請求の準拠法は、通則法附則3条4項により、法例11条1項に従って定められ、「其原因タル事実ノ発生シタル地」、すなわち、利得の発生した地の法となる。被告は、日本、中国及びタイ王国に所在する各ライセンシーに対してライセンス付与行為を行い、当該ライセンシーからライセンス料を被告に送金させているものであるから、利得発生地は日本であり、準拠法は日本法である。
[被告の主張]
ア 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 脱退原告と被告は、中国訴訟において本件契約の準拠法を中国法とすることを合意したものであり、本件契約の準拠法は中国法である。中国の民事訴訟制度では、当事者が相手方の主張に対して異議を申し立てない場合、相手の主張に同意したものとみなされる。被告が中国訴訟において本件契約の準拠法を中国法とすべきことを主張したのに対し、脱退原告は何ら異議を述べなかったから、脱退原告は、被告の主張に同意したものである。
イ 不当利得返還請求について
 本件訴訟における不当利得返還請求の準拠法は、タイ法ないし中国法である。
 参加人の主張は、被告がタイ法人及び中国法人との間で本件著作物等に係るライセンス契約を締結し、不当にライセンス料を得ることによって、脱退原告がタイ王国ないし中国内で利益を得る機会を奪われたというものであると解されるが、そうであるとすれば、「其原因タル事実ノ発生シタル地」(法例11条1項)は、タイ王国ないし中国である。
(3) 争点3−1(本件契約の成否、効力及び存否)について
[被告の主張]
ア 本件契約の不成立及び無効
 被告が脱退原告との間で本件契約を締結した事実はなく、本件契約書は、脱退原告が偽造したものであり、真正に成立したものではない。
 本件契約書が偽造されたものであり、本件契約が成立した事実がないことについては、@ 本件署名はCの筆跡ではない旨の筆跡鑑定結果が存在すること(乙2〜4)、A 本件契約書には、本件著作物について何らの権限も有しない円谷エンタープライズの記名押印がされているだけで、本件著作物の著作権者である被告の住所や商号は記載されていないこと(なお、本件契約書には、「Tsuburaya prod.and Enterprise Co.,Ltd」という会社名が記載されているが、かかる会社は実在しない。)、B 本件契約書には、本件著作物の作品名や制作本数等について多数の誤記が存在しており、ウルトラマン映画の作品名や制作本数を熟知していたCが真に本件契約書を作成したのであれば、このような間違いを犯すことはあり得ないこと、C 本件契約が締結されたとされる昭和51年当時、被告は、既に株式会社東京放送等に対して日本国外における本件著作物の独占的利用権を許諾していたものであり(乙5〜15)、本件契約の内容はこれに矛盾すること、D 被告は、昭和51年以後も日本国外において第三者に対して本件著作物の利用を許諾しており、脱退原告もこれを知っていたが、脱退原告は、Cの生前は被告に対して本件契約違反の事実を指摘しなかったこと、E 脱退原告が、本件契約の存在を公表し、被告に対して同契約に基づく権利行使をしたのは、Cの死後であり、同契約の締結から約20年後である平成8年になってからであること、などの事実から明らかである。
 また、本件著作物は被告の重要な財産であり、本件契約は脱退原告に対してその日本国外における無期限の独占的利用権を許諾するというものであるから、本件契約を締結するに際しては、「重要な財産の処分」(会社法362条第4項第1号)に該当するものとして被告の取締役会の決議が必要であったにもかかわらず、かかる決議は存在しない。したがって、本件契約は、上記規定に違反し無効である。
 なお、東京高裁判決は、前記1(3)のとおり、その理由中において本件契約の成否及び効力について判断しているが、確定判決の既判力は理由中の判断には及ばないので、被告は、本件訴訟において本件契約の成否及び効力を争うことができる。
イ 本件契約は終了していること
 仮に、本件契約が有効に成立していたとしても、同契約は、当時Cないし被告が脱退原告に対して負っていた総額11万米ドルの支払債務の返済を担保するためにされたものであり、同債務が完済されるまでの間、脱退原告が本件契約による許諾を受けた本件著作物の利用権を行使して、それによって得られた収益を上記債務の弁済に充当するためのものである。
 そうすると、脱退原告は、本件契約後に同人が行った本件著作物に関するライセンス事業により上記総額11万米ドルの債権を回収しているものであるから、本件契約は、既に終了している。
[参加人の主張]
ア 本件契約は有効に成立していること
 脱退原告と被告は、昭和51年3月4日に本件契約を締結し、脱退原告は、同契約に基づき本件独占的利用権を取得した。本件契約書は、当時被告の代表取締役であったCが作成し、本件署名をしたものである。
 本件契約書が真正に成立したものであり、本件契約が有効に成立したものであることについては、東京地裁判決及び東京高裁判決の理由中でも認定されており、東京高裁判決は確定している。
 被告が本件訴訟において本件契約の成立及び有効性について争うことは、上記確定判決の既判力に反する。また、たとえ理由中の判断であっても、後訴において同判断と矛盾する主張をし、前訴における紛争をむし返すことは、信義則に反することが明らかであり、許されない。
イ 本件契約は存続していること
 本件契約は、債権を担保するためにされたものではなく、Cが、同人の脱退原告に対する債務の支払に代えて、脱退原告に本件独占的利用権を譲渡したものである。本件契約が脱退原告のCないし被告に対する債権を担保するためのものであることについては、本件契約書にも一切記載がない。
 また、東京高裁判決は、本件独占的利用権の譲渡が一種の代物弁済としてされたものであることを認定している上、被告は、東京訴訟において、上記[被告の主張]イの主張をし得たにもかかわらず、これをしなかったものである。したがって、被告の主張は、東京高裁判決の既判力に違反するものであり、許されない。
(4) 争点3−2(本件契約に基づく被告の債務の内容)について
[参加人の主張]
ア 本件著作物及び同著作物に登場するウルトラマンキャラクターについて
 東京高裁判決は、脱退原告が本件独占的利用権を有することを確認しており、同判決は、その独占的利用権について一切の限定を付していない。したがって、同判決は、脱退原告が本件著作物につき日本以外の国においてその国の著作権法により認められるすべての支分権に属する行為を行う独占的権利を有することを確認したものであり、この範囲に関しては、本件著作物の著作権者である被告の行為も排除を受ける。
 被告は、本件契約に基づき、日本以外の国における本件著作物の放映や複製、販売を第三者に許諾してはならないという債務を負う(本件契約書第3条3.1、3.3)ほか、本件著作物に映画画像として登場する別紙ウルトラマンキャラクター一覧表(以下「別紙一覧表」という。)記載(1)の各キャラクター(以下「旧ウルトラマンキャラクター」という。)を素材とするキャラクター商品の複製、販売その他の利用行為を第三者に許諾してはならないという債務を負う(同条3.7)。
イ 本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び同映画に登場するウルトラマンキャラクターについて
 本件契約に基づき脱退原告に付与された本件独占的利用権は、本件著作物を翻案・変形した著作物(二次的著作物)を制作し、利用する独占的権利を含む(本件契約書第3条3.2、3.3)。仮に、かかる権利が本件独占的利用権に含まれないとしても、脱退原告が本件著作物ないし旧ウルトラマンキャラクターについて独占的利用権を有する以上、被告が同キャラクターに類似するキャラクターの利用を第三者に許諾してはならないことは、当然である。また、二次的著作物は、原著作物の表現を利用するものであるから、二次的著作物の利用行為は、必然的に原著作物の利用を伴うものである。したがって、被告は、本件契約に基づき、本件著作物の二次的著作物の日本以外の国における利用を第三者に許諾してはならないという債務を負う。
 被告は、本件著作物を制作した後も、いわゆるウルトラマン映画作品を制作しこれらの映画に、 は、別紙一覧表記載(2)のキャラクター(以下「新ウルトラマンキャラクター」といい、「旧ウルトラマンキャラクター」と併せて「ウルトラマンキャラクター」と総称する。また、ウルトラマンキャラクターの登場する映画を総称して、以下「ウルトラマン映画」という。)が登場する。これらの新ウルトラマンキャラクターないし同キャラクターの登場するウルトラマン映画作品は、本件著作物の二次的著作物といえる。
 したがって、被告が上記キャラクターないし映画作品の日本以外の国における利用を第三者に許諾する行為は、本件契約に違反する。
[被告の主張]
ア 本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターについて
 本件契約は、脱退原告に対し、マスター・ライセンシーの立場でライセンス契約を締結する権限を付与したものであり、本件契約書の第2条における「独占的権利」(Exclusive rights)とは、「脱退原告と同じ立場のマスター・ライセンシーを新たに設定することを禁止する」という意味である。なお、マスター・ライセンシーとは、ライセンサーが、ライセンシーに対し、特定の商品及びサービスに限定しない広範囲のカテゴリーの権利の使用を許諾し、当該ライセンシーが他の第三者を選定し、特定の商品及びサービスごとに、個別に許諾地域内でサブライセンス(再許諾)をすることを可能とする権利を付与する場合における、当該ライセンシーのことをいう。
 このように、本件契約は、被告が自ら本件著作物を利用したり、被告が、別途マスター・ライセンシーを設定するのではなく、個別に第三者にライセンスを付与することまで禁じているものではない。
 本件契約の内容が上記のとおりであり、参加人の主張するような強大な権利を脱退原告に付与するものではないことについては、@ 脱退原告は、本件契約の締結当時から現在まで、自らウルトラマン商品の製造・販売等を行うのではなく、本件著作物の利用権につきサブライセンスを付与する事業を行っているにすぎないこと、A 被告は、昭和51年当時、既に、脱退原告以外の会社に対して日本国外における本件著作物の独占的利用権を許諾していたものであり、脱退原告もこれを認識していたこと、B 脱退原告の説明によれば、本件契約は、Cが脱退原告に返済すべき20万米ドル近くの金員の返済を免除する代わりに締結されたとのことであり、仮にそのことが事実であったとしても、本件著作物は、その価値が計り知れないものであり、被告にとって最も重要な財産であることから、かかる重要性を認識していたCが、上記程度の金額の債務の支払に代えて、ロイヤリティの最低保証等の基本的な定めも置かずに、ライセンサー自らの本件著作物の利用やライセンス契約の締結までも無期限に禁止するような本件契約を締結することはあり得ないこと、などの事情から明らかである。
イ 本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び新ウルトラマンキャラクターについて
 参加人は、本件契約書の第3条3.3に記載された「Reproduction Right」(複製権)が新ウルトラマンキャラクターに対しても及ぶと主張する。しかしながら、本件契約書には、上記「Reproduction」の対象が、「all models and characters used in the production of the films mentioned in article 1」、すなわち「第1 条において言及されているフィルムの制作において用いられたモデルやキャラクター」であることが明確に定められている。さらに、同条には、「under the original character」、すなわち、「元来のキャラクターに基づく」旨が記載されていることから、元来のキャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)以外のウルトラマンキャラクターまでもが上記複製権の対象に含まれると解釈することは、不可能である。
 参加人は、本件契約書の第3条3.2に記載された「Production Right」(制作権)とは、二次的著作物の制作権を意味するとも主張する。しかしながら、「制作権」という用語自体、著作権法における用語ではなく、その意味は不明である。いわゆる翻案権は、英語では「adaptation」と表現されるものであり、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」での翻案権の表記も「adaptations」(同条約第2条、同第12条)とされていることからしても、「Production Right」の記載が翻案権を示すものではないことは明らかである。まして、被告が創造した二次的著作物までも脱退原告が利用することができ、かつ、その利用が独占的なものであるという権利であるというところまで「Production Right」なる文字から読み取ることは、不可能である。
 被告は、すべてのウルトラマン関係キャラクターの著作権者であるから、本件契約以降にどのようなキャラクターを創造し、ビジネス上利用するのも自由であって、特段の合意がなければ、脱退原告により新ウルトラマンキャラクターの利用を制限されるいわれはない。
(5) 争点4(被告の債務不履行及び不当利得の有無)について
[参加人の主張]
 被告は、次のとおり、日本以外の国において第三者に対して、ウルトラマン映画ないしウルトラマンキャラクター商品の複製・販売のライセンスを付与することにより、本件契約に違反した。脱退原告は、かかる被告の債務不履行により、上記第三者に対してウルトラマン映画等の利用を許諾してライセンス料を得る機会を失い、被告が上記ライセンシーから得たライセンス料相当額の損害を被った。なお、上記ライセンス契約が締結された当時、脱退原告は、チャイヨ社を通じて、タイ王国及び中国においてライセンス事業を展開していたものであり、かかるライセンス契約を締結する実績及び能力を十分に有していた。
 また、被告は、上記行為により、法律上の原因なくライセンス収入を利得し、脱退原告は、同額の損失を被った。被告は、自ら本件契約を締結しながら、本件著作物に関する日本以外の国における利用許諾をしたのであるから、法律上の原因のないことについて悪意であることは明らかである。
 被告の平成13年度及び平成14年度の事業収入における年間平均ライセンス収入及び放送収入(合計12億5000万円)のうち、国外収入が占める割合は10分の1を下らないので、その10年分(被参加事件の訴え提起の日である平成18年5月18日からさかのぼって10年間)のライセンス収入及び放送収入は、12億5000万円を下らない。参加人は、本件訴訟において上記損害ないし損失のうち1億円の支払を求める(以下、上記損害賠償請求権を「本件損害賠償請求権」といい、上記不当利得返還請求権を「本件不当利得返還請求権」という。)。その内訳は、次のとおりである。
ア 株式会社バンダイとの取引
 被告は、平成8年9月1日、日本法人である株式会社バンダイ(以下「バンダイ」という。)に対し、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンエース」、「ウルトラマンタロウ」、「ウルトラマンレオ」、「ザ・ウルトラマン」、「ウルトラマン80」、「ULTRAMAN TOWARDS THE FUTURE」、「ウルトラマン:THE ULTIMATE HERO」及び「ウルトラマンティガ」の全キャラクターの名前、ロゴ、シンボル、商標、著作権、類似品、描写及び写真について、ライセンス期間を1年4か月として、韓国、香港、マカオ、台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ王国及びインドネシアにおける利用権につき、ライセンスを付与した(甲7の1、2。以下「本件ライセンス契約@」という。)。
 バンダイは、一貫して、ウルトラマンキャラクター商品の国内・国外を通じた主要なライセンシーであり、上記ライセンス期間は現在に至るまで更新されている。また、ライセンス対象地域、同対象物等は、後記イないしトの各ライセンシーに対するそれと比較し、極めて広範である。
 したがって、バンダイに対するライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害は、上記1億円から後記イないしトのライセンシーに対するライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害(合計5696万5898円)を控除した金額(4303万4102円)と推定する。
イ ルンシィーローワニット社との取引
 被告は、平成9年3月17日、タイ法人であるルンシィーローワニット社に対し「ウルトラマンテ、 ィガ」のテレビシリーズについて、タイ王国におけるテレビ放送権につき、ライセンスを付与した(甲15。以下「本件ライセンス契約A」という。)。
 本件ライセンス契約Aのライセンス料は6万2400米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、761万2800円(1ドル=122円で換算。以下同じ)を下らない。
ウ メェーンポォーン社との取引
 被告は、平成13年6月12日、タイ法人であるメェーンポォーン社に対し、「ウルトラマンティガ」のテレビシリーズについて、タイ王国におけるビデオの複製・販売につき、ライセンスを付与した(甲16。以下「本件ライセンス契約B」という。)。
 本件ライセンス契約Bのライセンス料は5万2000米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、634万4000円を下らない。
エ VNKトレーディング社との取引
 被告は、平成14年6月10日、タイ法人であるVNKトレーディング社に対し「ウルトラマンテ、 ィガ」のテレビシリーズについて、タイ王国におけるビデオの複製・販売につき、ライセンスを付与した(甲17。以下「本件ライセンス契約C」という。)。
 本件ライセンス契約Cのライセンス料は6万7294.24米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、820万9897円(1ドル=122円で換算。1円未満は切捨て。以下同じ。)を下らない。
オ ビ.ブウーンインターナショナル社との取引
 被告は、平成14年9月17日、タイ法人であるビ.ブウーンインターナショナル社に対し、「ウルトラマンティガ」、「ウルトラマンダイナ」、「ウルトラマンガイア」及び「ウルトラマンコスモス」のテレビシリーズに登場するキャラクターの名前、ロゴ、シンボル、商標、著作権、類似品、描写及び写真のタイ王国における利用につき、ライセンスを付与した(甲18。以下「本件ライセンス契約D」という。)。
 本件ライセンス契約Dのライセンス料は2万1334.37米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、260万2793円を下らない。
カ タイベディング社との取引
 被告は、平成14年9月19日、タイ法人であるタイベディング社に対し、「ウルトラマンティガ」、「ウルトラマンダイナ」、「ウルトラマンガイア」及び「ウルトラマンコスモス」のテレビシリーズに登場するキャラクターの名前、ロゴ、シンボル、商標、著作権、類似品、描写及び写真のタイ王国における利用につき、ライセンスを付与した(甲19。以下「本件ライセンス契約E」という。)。
 本件ライセンス契約Eのライセンス料は1万2983.63米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、158万4002円を下らない。
キ ローズビデオ社との取引
 被告は、平成14年11月25日、タイ法人であるローズビデオ社に対し「ウルトラマンゼアス1、 」及び「同2」について、タイ王国における複製・販売のライセンスを付与した(甲20。以下「本件ライセンス契約F」という。)。
 本件ライセンス契約Fのライセンス料は9200米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、112万2400円を下らない。
ク ネスレ社との取引
 被告は、平成15年4月11日、タイ法人であるネスレ社に対し、「ウルトラマンティガ」、「ウルトラマンダイナ」及び「ウルトラマンガイア」について、キャラクターの名前、ロゴ、シンボル、商標、著作権、類似品、描写及び写真のタイ王国における利用につき、ライセンスを付与した(甲21。以下「本件ライセンス契約G」という。)。
 本件ライセンス契約Gのライセンス料は、6491.84米ドルであるから、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、79万2004円を下らない。
ケ ルナインターナショナル社との取引
 被告は、香港法人であるルナインターナショナル社に対し、タイ王国においてウルトラマンキャラクター商品を開発、使用及びサブライセンスをする権利につき、ライセンスを付与した(甲25。以下「本件ライセンス契約H」という。)。
 本件ライセンス契約Hのライセンス料については明らかでないが、同契約におけるライセンス対象物はキャラクター商品であり、本件ライセンス契約D、E及びGにおけるライセンス対象物と類似するので、上記3社とのライセンス契約において定められたライセンス料の合計額(4万0809.84米ドル)を各ライセンス期間の合計(3年間)で除して算出された金額(1万3603.28米ドル=165万9600円)を年間平均ライセンス料と推定する。なお、被告は、他のライセンシーとの間においては少なくとも1年間のライセンス期間を定めていることから(甲7〜21 、本件ライセンス契約H) についても、少なくとも1年間のライセンス期間が定められていたものと推定する。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、165万9600円を下らない。
コ プラコプロダクト社との取引
 被告は、タイ法人であるプラコプロダクト社に対し、タイ王国においてウルトラマンキャラクター商品を開発、使用及びサブライセンスをする権利につき、ライセンスを付与した(甲25。以下「本件ライセンス契約I」という。)。
 上記ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、本件ライセンス契約Hと同様に、165万9600円を下らない。
サ ドルダインダストリアル社との取引
 被告は、米国法人であるドルダインダストリアル社に対し、タイ王国においてウルトラマンキャラクター商品を開発、使用及びサブライセンスをする権利につき、ライセンスを付与した(甲25、26。以下「本件ライセンス契約J」という。)。
 また、同社に対しては、被告が少なくとも3年間のライセンスを付与していたことが明らかなので(甲25、26)、ライセンス期間は3年間を下らないものと推定する。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、同契約とライセンス対象物が類似する本件ライセンス契約D、E及びGの年間平均ライセンス料(165万9600円)の3倍である497万8800円を下らない。
シ ユニコーンテレビ販売社との取引
 被告は、タイ法人であるユニコーンテレビ販売社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25。以下「本件ライセンス契約K」という。)。
 本件ライセンス契約Kのライセンス料については明らかでないが、同契約におけるライセンス対象物はテレビ番組及びホームビデオであり、本件ライセンス契約AないしCにおけるライセンス対象物と類似するので、上記3社とのライセンス契約において定められたライセンス料の合計額(18万1694.24米ドル)を各ライセンス期間の合計(15年間)で除して算出された金額(1万2112.94米ドル=147万7778円)を年間平均ライセンス料と推定する。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、147万7778円を下らない。
ス サザンスターインターナショナル社との取引
 被告は、タイ法人であるサザンスターインターナショナル社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25。以下「本件ライセンス契約L」という。)。
 上記ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、本件ライセンス契約Kと同様に147万7778円を下らない。
セ メディアリンクインターナショナル社との取引
 被告は、タイ法人であるメディアリンクインターナショナル社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25。以下「本件ライセンス契約M」という。)。
 上記ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、本件ライセンス契約Kと同様に147万7778円を下らない。
ソ ビデオスクウェア社との取引
 被告は、タイ法人であるビデオスクウェア社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25、26。以下「本件ライセンス契約N」という。)。また、同社に対するライセンス期間は、3年間を下らないものと推定する(甲25、26)。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、同契約とライセンス対象物が類似する本件契約AないしCの年間平均ライセンス料(147万7778円)の3倍である443万3334円を下らない。
タ ライトピクチャー社との取引
 被告は、タイ法人であるライトピクチャー社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25、26。以下「本件ライセンス契約O」という。)。
 同社についても、ライセンス期間は3年間を下らないものと推定する(甲25、26)。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、本件ライセンス契約Nと同様に443万3334円を下らない。
チ ライトインターナショナル社との取引 被告は、タイ法人であるライトインターナショナル社に対し、タイ王国においてウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につき、ライセンスを付与した(甲25、26。以下「本件ライセンス契約P」という。)。
 同社についても、ライセンス期間は3年間を下らないものと推定する(甲25、26)。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失も、本件ライセンス契約Nと同様に443万3334円を下らない。
ツ 上海音像出版社(上海音像)との取引
 被告は、同社の100%子会社である中国法人の上海円谷に対してウルトラマン作品の使用許諾権を付与し(甲27)、上海円谷をして、中国法人である上海音像に対し、中国において少なくとも4種類のウルトラマン映画(ウルトラマン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンエース、ウルトラマン・レオ)ないしウルトラマンキャラクター商品の複製・販売を行うことを許諾させた(甲8、甲28〜32。以下「本件ライセンス契約Q」という。)。
 このうち、ライセンス料が明らかであるのは1契約(「帰ってきたウルトラマン」に関するもの)のみであるが(甲28、31。ライセンス料(延長期間を含む。)合計50万人民元)、ライセンス対象物が類似しているため、他のウルトラマン映画についても同額のライセンス料が定められていたものと推定する。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、3200万円(800万円(1人民元=16円として換算。以下同じ)×4契約)を下らない。なお、被告は、上海円谷に対して被告がライセンスした15作品のうちウルトラマン映画は1作品(ウルトラマン)のみであると主張する(乙31)。参加人は、被告の主張を認めるものではないが、被告も15作品の一つがウルトラマン映画であることは自認しているので、本件訴訟では、上記金額の15分の1に相当する213万3333円を請求する。
テ 広州購書中心有限公司(広州購書)との取引
 被告は、上海円谷をして、中国法人である広州購書に対し、中国においてウルトラマン映画ないしウルトラマンキャラクター商品の複製・販売を行うことを許諾させた(甲8。以下「本件ライセンス契約R」という。)。
 当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、本件ライセンス契約Qによる損害ないし損失と同様であり、213万3333円を下らない。
ト 海豚出版社との取引
 被告は、上海円谷をして、中国法人である海豚出版社に対し、中国におけるウルトラマンの冊子の販売につき、ライセンスを付与した(甲9。以下「本件ライセンス契約S」という。)。
 上記契約に基づくライセンス料の額は明らかでないが、当該ライセンスの対象物は書籍であり、中国内における類似商品を対象とする他のライセンス契約が存在しないため、本件ライセンス契約Qと同額のライセンス料が定められていたものと推定する。
 したがって、当該ライセンス付与行為に基づき脱退原告に生じた損害ないし損失は、800万円を下らない。参加人は、上記ツと同様の理由により、本件訴訟では、上記金額の15分の1に相当する53万3333円を請求する。
[被告の主張]
 参加人の主張を否認ないし争う。
 本件契約における被告の債務の内容は、前記(4)[被告の主張]のとおりである。これを前提とすると、後記アないしキのとおり、被告に債務不履行及び不当利得はない。仮に、被告に利得があるとしても、同利得は被告が第三者との間でライセンス契約を締結した結果として得られたものであり、法律上の原因がある。
 参加人は、被告の債務不履行により脱退原告は日本国外におけるウルトラマン映画等につき、ライセンスを付与する機会を失い、被告の取得したライセンス収入相当額の損害を被ったと主張するが、同主張は、被告のライセンシーが日本国外においてウルトラマンキャラクターを利用したビジネスを行うためには、脱退原告又は同人からライセンスを受けたチャイヨ社とライセンス契約を締結するほかないことを前提とする。しかしながら、脱退原告が契約締結の機会を喪失したと主張するタイ王国及び中国においては、前記1(4)及び(5)のとおり10年以上 の長きにわたり本件契約の有効性が争われており、その間、脱退原告及びチャイヨ社は本件契約上の権利者であるか否かが確定しない状況にあったものであるから、脱退原告ないしチャイヨ社が、本件ライセンス契約@ないしSの相手方との間でライセンス契約を締結し利益を得る蓋然性があったとはいえない。さらに、タイ最高裁判決及び中国訴訟における一審判決により、タイ王国及び中国において脱退原告が本件契約に基づくウルトラマン映画及びウルトラマンキャラクターの利用権を有しないことが確認され、タイ最高裁判決では本件契約に基づくいかなる権利主張も禁じられたため、これらの国において、脱退原告は、過去及び将来のいかなる時点においても、ウルトラマン映画等について第三者にライセンスを付与して利益を得る機会はなかったというべきである。
 また、前記(3)[被告の主張]のとおり、本件契約は、Cないし被告が脱退原告に対して負っていた総額11万米ドルの支払債務の返済を担保するためにされたものであり、脱退原告は、本件契約後に同人が行った本件著作物に関するライセンス事業により、上記総額11万米ドルの債権を回収していることが認められる。かかる事情に鑑みると、脱退原告ないし参加人が被告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償及び不当利得の返還を請求することは、権利の濫用に該当する。
ア 本件ライセンス契約@について
 被告がバンダイとの間で甲第7号証の1記載の契約を締結したことは認める。同契約は、バンダイをマスター・ライセンシーに指定するものではないから、本件契約に違反するものではない。また、上記契約がライセンスの対象とするウルトラマンキャラクターの大部分は、新ウルトラマンキャラクターである。
イ 本件ライセンス契約AないしGについて
 被告が本件ライセンス契約AないしGを締結したことは認める。これらの契約は、いずれも新ウルトラマンキャラクターの利用を許諾するものであるから、被告に債務不履行はない。
ウ 本件ライセンス契約H、I、K、M及びNについて
 被告がルナインターナショナル社、プラコプロダクト社、ユニコーンテレビ販売社、メディアリンクインターナショナル社及びビデオスクウェア社に対して本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターについてライセンスを付与していることは認める。しかしながら、これらの契約の大部分は、新ウルトラマンキャラクターを対象とするものである。
エ 本件ライセンス契約Jについて
 本件ライセンス契約Jの存在については、否認する。
 ウルトラコムという米国法人が過去にドルダインダストリアル社に対してライセンスを付与したことがあるが、ウルトラコムは、Cが被告と無関係に個人で設立した会社であり、被告との間に資本関係はなく、被告は、上記ライセンス契約に関与していない。
オ 本件ライセンス契約L及びOについて
 本件ライセンス契約L及びOの存在については、否認する。
カ 本件ライセンス契約Pについて
 被告は、ライトインターナショナル社に対し、本件契約以後に被告が制作した「ウルトラマン」のアニメ映画作品『ULTRAMAN SuperFighter』(和名「ウルトラマン超闘士激伝」)について、ライセンス契約を締結したことがあるが、本件著作物に関するライセンス契約を締結したことはない。
キ 本件ライセンス契約QないしSについて
 被告は、上海円谷に対してウルトラマンキャラクター等の使用を許諾したが、キャラクターの使用を許諾した15作品のうち、ウルトラマンキャラクターは、「ウルトラマン」だけである(甲27、乙31)。また、被告が上海円谷をして上海音像、広州購書及び海豚出版社に対してライセンスを付与させた事実はない。
 上海円谷は被告とは別個の法人であるから、上海円谷が上記会社にライセンスを許諾する行為が本件契約の債務不履行となるものではない。そして、中国法人である上海円谷が上海音像等の中国法人に対してライセンスを付与する行為の適否については、中国法の適用があり、中国訴訟の一審判決により本件契約が成立していないことが確認されたため、上記ライセンス行為が中国法上合法であることが明らかとなった。したがって、上記行為を本件契約の債務不履行と解する余地はない。
 また、被告は、上海円谷とライセンス契約を締結するに当たり、上海円谷からライセンス料を受け取っていないから、被告に不当利得はない。
(6) 争点5(脱退原告は参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したか)について
[参加人の主張]
 脱退原告とBは、平成19年3月4日、脱退原告がBに対し、本件独占的利用権の行使及び処分の一切について、脱退原告に代わって決定をなす権限(以下「本権限」という。)を授権することを合意した(乙25)。本権限は、脱退原告が被告に対して有する本件契約の債務不履行に基づく既発生及び未発生の損害賠償請求権等を含む、本件契約に関する又はこれに起因する一切の権利に及ぶものである。
 Bは、平成20年12月24日、本権限に基づき、参加人との間において、本件独占的利用権を脱退原告から参加人に譲渡することにより、参加人の事業として本件独占的利用権に基づく事業を展開することを合意した。その後、Bと参加人は、本件損害賠償請求権及び本件不当利得返還請求権を含む本件独占的利用権に係る現在及び将来の被告に対する一切の請求権(以下「本件損害賠償債権等」という。)を参加人に対する事業譲渡の範囲に加えることを合意し、平成21年2月9日を以って本件損害賠償債権等を譲渡した(以下「本件債権譲渡」という。)(丙6)。脱退原告は、これに異議なく、被告に対する債権譲渡通知を行い、同通知は、平成21年2月10日、被告に到達した(丙1の1、2)。
 なお、本件債権譲渡の対価については、本件独占的利用権の譲渡及び本件債権譲渡のいずれの時点においても、本件独占的利用権に基づく事業全体の収益性ないし将来性は不明であり、参加人にとって損失を被ることに終わるリスクも否定できなかったため、対価を合理的に算定することは困難であった。そこで、脱退原告、B及び参加人は、本件独占的利用権の譲渡の際、参加人の事業が収益をあげることができた暁には、参加人の事業収益から関係者間の永年にわたる個人的信頼関係に基づく協議により定まる合理的割合の金額をBに支払う旨を合意し、本件債権譲渡の際に、上記収益の分配算定の根拠として、本件損害賠償債権等の回収額を当然に含む旨を合意した。
 なお、上記のとおり、本件債権譲渡の対象には本件不当利得返還請求権も含まれるものであるが、脱退原告は、念のため、参加人に対して本件不当利得返還請求権を改めて譲渡し、平成21年6月22日付け本件訴え変更申立書をもって、脱退原告の代理人により上記譲渡を被告に通知した。
[被告の主張]
ア 債権譲渡の不存在
 参加人の主張のうち、脱退原告が参加人に対して12億5000万円の損害賠償請求権を譲渡した旨の通知が平成21年2月10日に被告に到達したことは認め、その余については、不知、否認ないし争う。
 Dは、雑誌「映画秘宝」の2009年4月号に掲載された記事の取材において、脱退原告は本件契約上のすべての権利を平成19年3月にBに譲渡したと回答している(乙22)。同回答が事実だとすれば、上記譲渡後に脱退原告と参加人との間で本件債権譲渡があったとしても、参加人は、無権利者である脱退原告から本件契約上の権利を譲り受けることはできない。
 また、上記債権譲渡通知書には、譲渡の対象債権は損害賠償請求権であると記載されているので、上記債権譲渡の対象に本件不当利得返還請求権は含まれない。
イ 債権譲渡の無効
 仮に、脱退原告から参加人に対して本件債権譲渡がされたとしても、著作権者である被告の承諾がない以上、参加人は、本件債権譲渡をもって被告に対抗することはできない。
 また、以下のとおり、本件債権譲渡は、通謀虚偽表示、公序良俗違反、信託法10条違反及び弁護士法73条違反により、無効である。
(ア) 通謀虚偽表示
 本件債権譲渡は、タイ最高裁判決により脱退原告が本件契約に基づく権利を主張すること及び本件契約を使用することが禁じられ、同判決を前提にすれば、脱退原告がウルトラマンキャラクターを用いて利益を得たときは、被告に対して同利益の吐出しなどの賠償をしなければならなくなったことを受け、脱退原告と参加人が、タイ最高裁判決上の義務を潜脱する意図で行ったものである。このことは、@ 本件債権譲渡において、契約書は作成されておらず、何らの対価の合意もされていないが、脱退原告は、従前、本件著作物の利用権に基づきキャラクタービジネスを展開し、収入を得ていたはずであり、契約書も作成せずに本件損害賠償請求権を無償で参加人に譲渡することは、不自然極まりなく、経済合理性の観点からもあり得ないこと、A 参加人は、平成20年2月にタイ最高裁判決が出された後、同年11月に、突然日本で設立されたものであり、その設立直後に本件債権譲渡がされていること、B 参加人は、本件訴訟活動以外に特段の事業を行っておらず、その取締役4名のうち2名は、脱退原告の息子であるB及びタイ王国人であるEであり、両名はチャイヨ社の取締役であること、などから明らかである。また、脱退原告は、日本国内に住所を持たないタイ王国人であることから、被告の申立てに基づき、平成18年6月13日付けで1200万円の担保提供命令を受け(乙36)、同額を供託していたところ、本件訴訟を脱退した後、平成22年2月24日付けで訴訟費用負担決定を申し立てている。このことは、本件債権譲渡の目的には、参加人に訴訟行為をさせることにより、供託済みの担保金を取り戻すこともあったことがうかがえる。
 上記事情から、本件債権譲渡は通謀虚偽表示であると推認される。
(イ) 公序良俗違反
 本件契約書が偽造書類であることは、タイ最高裁判決によって確定している。したがって、本件契約書上の権利である本件損害賠償請求権等を譲渡する行為(本件債権譲渡)は、タイ王国法上、第三者又は公衆に対して損害をもたらす態様で文書偽造罪という犯罪により生じた文書を利用又は引用する罪(タイ王国刑法268条)を構成するとともに、国際的な犯罪行為を防止する目的で制定された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(乙24。以下「本件条約」という。)に規定する国際的な組織犯罪を構成する。
 したがって、本件債権譲渡の有効性を認めることは、結果的に、日本の国家機関がタイ王国刑法の定める違法な犯罪行為を追認、助長する結果となり、本件条約に違反するとともに、今後も、かかる違法行為を積極的に作出する事態を招来するおそれがある。このような結果は、国家間の国際秩序を規律する日本国憲法上の国際協調主義の理念に違背する。また、本件債権譲渡により、日本法人である参加人も、タイ王国刑法上の処罰の対象となり得る。
 このように、本件債権譲渡の効力を肯定することは日本国内における「公の秩序」の混乱を招来するものであるから、本件債権譲渡は、公序良俗に反し無効である。
(ウ) 信託法10条違反
 本件債権譲渡に至る経緯は、上記アのとおりである。本件債権譲渡は、脱退原告が、タイ王国での刑事罰の適用を潜脱し、本件訴訟で得た利益の取り戻しを困難ならしめるという、社会的に不当な利益を追求するために、参加人を設立し、本件訴訟の遂行を参加人に信託的に承継させ、参加人名義で本件訴訟を行わせるという形で、裁判制度を利用するためにされたことは明白である。本件債権譲渡について脱退原告と参加人の間に譲渡対価の定めがなく、その一方で本件訴訟において参加人が勝訴して得た訴訟上の利益を分配する旨の約定が存在することからすれば、本件債権譲渡は、脱退原告を委託者とし、参加人を受託者兼受益者及びBを受益者とする信託であり、訴訟信託の典型例であるといえ、信託法10条に違反し、無効である。
(エ) 弁護士法73条違反
 本件債権譲渡に至る経緯は、上記アのとおりである。このように、参加人は、脱退原告から本件損害賠償請求権及び本件不当利得返還請求権を譲り受け、本件訴訟を遂行しているものであり、また、参加人の主張を前提とすれば、参加人は、本件独占的利用権に基づく事業展開の一環として本件損害賠償請求権等を譲り受け、参加人自身の事業として本件訴訟を遂行するということであるから、今後も、反復継続して、脱退原告から被告その他の第三者に対する損害賠償請求権等を譲り受け、これを実行する意思を有するものである。
したがって、参加人の行為は、「他人の権利を譲り受けて、訴訟・・・によつて、その権利の実行をすることを業とする」(弁護士法73条)ものであり、弁護士法73条に違反し無効である。
[被告の主張に対する参加人の反論]
ア 本件債権譲渡は通謀虚偽表示によるものではないこと
 本件債権譲渡がされた経緯については、前記[参加人の主張]のとおりである。本件債権譲渡は、通謀虚偽表示によるものではない。
イ 本件債権譲渡は公序良俗に反するものではないこと
 日本においては、東京高裁判決により脱退原告が本件独占的利用権を有することが確認されており、タイ最高裁判決こそ、我が国の公序に反する違法なものである。また、本件条約は、「締約国は、国の主権平等及び領土保全の原則並びに国内問題への不干渉の原則に反しない方法で、この条約に基づく義務を履行する。」(同条約4条)と規定しており、東京高裁判決に従えば何ら犯罪とならない本件債権譲渡について、本件条約を持ち出す余地はない。
ウ 本件債権譲渡は信託法に違反するものではないこと
 本件損害賠償請求権等は、確定的に参加人に移転し、その資産に帰属している。参加人は、本件損害賠償請求権等を分割管理などしていないし、その義務も負っていない。
 参加人による本件損害賠償請求権及び本件不当利得返還請求権の回収は、脱退原告から譲り受けた本件独占的利用権に基づく事業活動の一部として行うものであり、自己の利益のためにする行為である。
 このように、参加人には、信託の法形式に名を借りて他人間の法的紛争に介入し、司法機関を利用しつつ不当な利益を追求する目的など認められず、弁護士代理の原則及び訴訟信託の禁止を潜脱するものでもない。
エ 本件債権譲渡は弁護士法に違反するものではないこと
 弁護士法73条は、業務上の権利譲受け及び実行行為を全面的、一般的に禁止するものではなく、自己の本来の事業とは無関係に、権利譲受け及び実行行為それ自体を継続反復する意思を持って行うことを「業とする」ことを、禁止するものと解すべきである。
 参加人は、本件契約に基づき脱退原告が取得、保有していた権利を包括的に譲り受け、脱退原告による著作物利用事業を承継したのであって、本件損害賠償請求権及び本件不当利得返還請求権は、脱退原告が上記事業に関して被った損害の賠償請求権であることに基づき、参加人が譲り受けたものである。
 このように、参加人は、あくまで、脱退原告から譲り受けて自己のものとなった事業に属する権利の実現のために本件訴訟を追行しているのであって、自己の事業と離れて、譲り受けた権利を実行するための訴訟行為等を継続反復して行う意思はなく、権利の譲受け及びその実行をすることを「業とする」ものではない。
(7) 争点6(商事消滅時効の成否)について
[被告の主張]
ア 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権は、商行為によって生じた債務に基づく請求権であるから、商法522条の商事消滅時効の規定が適用される。被告は、平成21年6月26日の本件第25回弁論準備手続期日において、本訴が提起された平成18年5月18日から5年をさかのぼった平成13年5月17日以前に生じた損害賠償請求権について、上記時効を援用するとの意思表示をした。
イ 不当利得返還請求について
 不当利得返還請求権についても、それが商行為によって生じたものである以上、商法522条の商事消滅時効の規定が適用される。
 本件不当利得返還請求権は、企業の商事契約の不履行によって生じた権利関係を清算するものであり、企業の取引活動に関連して生じた債権であって、企業取引活動の迅速な解決の要請が妥当するものであるから、商事消滅時効の適用を認めるのが相当である。
 被告は、平成22年4月20日の本件第31回弁論準備手続期日において、上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。
[参加人の主張]
ア 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 本件損害賠償請求権は、被告による第三者に対する著作物利用許諾行為による脱退原告の独占的利用権侵害によるものであり、その行為自体は商行為であるが、脱退原告と被告との間においてされた商行為によって生じた債務不履行ではない。したがって、本件損害賠償請求権に商事消滅時効の規定は適用されない。
 仮に、消滅時効が成立するとしても、被告の債務不履行の態様は、社会的に許される範囲を著しく逸脱するものであるから、企業取引における法律関係の迅速な結了を趣旨とする商事消滅時効を被告が援用することは、信義則に反し、権利濫用に該当する。
イ 不当利得返還請求について
 不当利得返還請求権は、法律の規定によって発生する債権であり、商行為によって生じた債権に準ずるものと解することもできない。したがって、本件不当利得返還請求権に商事消滅時効の規定が適用されることはなく、被告の主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件訴訟の国際裁判管轄)について
ア 本件訴訟は、外国人である脱退原告が日本法人である被告に対して本件契約の債務不履行に基づく損害賠償等を求めた訴訟(被参加事件)について、参加人が独立当事者参加したものである。また、本件契約は、著作物の日本国外における利用権に関するものであり、参加人は、被告が日本国外において外国法人等にライセンスを付与した行為が債務不履行に当たると主張している。よって、本件訴訟について我が国が国際裁判管轄を有するか否かが問題となる。
 我が国の国際裁判管轄をいかなる場合に肯定すべきかについては、国際的に承認された一般的な準則が存在せず、国際的慣習法の成熟も十分ではないため、当事者間の公平や、裁判の適正・迅速の理念により、条理に従って決定するのが相当である(最高裁判所昭和56年10月16日第2小法廷判決・民集35巻7号1224頁、最高裁判所平成8年6月24日第2小法廷判決・民集50巻7号1451頁参照。)。そして、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、我が国で裁判を行うことが上記理念に反する特段の事情があると認められる場合を除き、原則として、我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判権に服させるのが相当である(最高裁判所平成9年11月11日第3小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。
 これを本件についてみると、被告は、日本に本店を有する日本法人であり、我が国で裁判を行うことについて上記特段の事情が存在すると認めるに足りる証拠もないので、我が国の国際裁判管轄を認めるのが相当である。
 これに対し、被告は、脱退原告が被参加事件の訴え提起に先立って提起した中国訴訟と本件訴訟は、請求の一部が重複しており、国際訴訟競合の状況にあること、本件に関する証拠は日本国外にのみ集中していること、本件の準拠法は日本法でないことなどを挙げ、本件について我が国で裁判を行うことが上記理念に反する特段の事情があると主張する。
 しかしながら、本件訴訟において被告の債務不履行行為として挙げられているのは、日本法人、タイ法人、中国法人等、合計20社に対してウルトラマン映画等の利用を許諾した行為であり、中国訴訟における請求と重複しているのは上記20社のうち2社に対するものにすぎず、請求額も、本件訴訟の請求額は中国訴訟の請求額を大きく上回っている。
 また、本件の証拠を精査しても、本件訴訟に関する証拠が日本国外にのみ集中していると認めるに足りる証拠はなく、本件の準拠法も、後記(2)のとおり日本法であると認められる。
 したがって、本件について、我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があると認めることはできず、被告の主張は理由がない。
イ 被告は、本件訴訟は中国訴訟と一部重複するものであるから、民訴法142条を適用又は類推適用して本件訴えを却下すべきであるとも主張する。しかしながら、民訴法142条にいう「裁判所」とは、日本の裁判所を意味し、外国の裁判所を含まないものというべきである。したがって、この点に関する被告の主張も理由がない。
2 争点2(本件の準拠法)について
(1) 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 本件は、外国人である脱退原告が契約当事者となっている本件契約の効力や外国における被告の行為を問題とするものであり、渉外的要素を含むものであるから、準拠法を決定する必要がある。
 参加人の主張によれば、本件契約は、通則法の施行日以前である昭和51年に、我が国において、被告と脱退原告との間で締結されたものである。
 したがって、本件契約の成立及び効力については、通則法附則3条3項、法例7条により、当事者による準拠法の選択がある場合は当該選択地の法により、当事者による準拠法の選択がない場合は行為地法(同条2項)によるべきものである。
 本件契約書には、準拠法についての規定がなく、契約当事者である被告及び脱退原告において準拠法の選択について合意していたことを認めるに足りる証拠もないので、本件契約の成立及び効力の準拠法は、本件契約の行為地である我が国の法によることになる。
 これに対し、被告は、中国訴訟において被告が本件契約の準拠法を中国法とすべきことを主張したのに対し、脱退原告は何ら異議を述べなかったものであり、中国の民事訴訟制度における取扱いに従うと脱退原告は被告の主張に同意したものとみなされると主張する。また、中国訴訟における被告訴訟代理人の作成した証明書(乙40)中には、上記主張に沿う部分が存在する。
 しかしながら、本件契約は、本件著作物の日本以外のすべての国における独占的利用権を脱退原告に許諾するというものであり、本件契約の成立及び効力が問題となるのは、必ずしも中国における被告のライセンス行為に限られるものではない。また、前記第1の2(5)のとおり、脱退原告は、平成17年9月30日に中国訴訟を提起した後、平成18年5月18日には被参加事件の訴えを提起しており、被参加事件の審理においては、一貫して、本件契約の準拠法は日本法であると主張している(弁論の全趣旨)。
 上記事実に鑑みると、仮に、中国訴訟における脱退原告及び被告の行為並びに中国の民事訴訟制度における取扱いについて、被告の主張するとおりの事実が存在したとしても、かかる事実は、せいぜい、中国訴訟における請求の対象となっているものについて、本件契約の準拠法を中国法とすることに脱退原告が積極的に反対しなかったことを意味するにすぎず、それを超えて、脱退原告と被告との間で、中国訴訟を含むあらゆる場面についての本件契約の成立及び効力に関する準拠法を中国法とする旨の合意があったとまで認めることはできないというべきである。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(2) 不当利得返還請求について
 参加人は、前記第2の3(5)のとおり、本件不当利得返還請求権は、通則法の施行日である平成19年1月1日より前である平成18年以前に発生したものであると主張する。
 したがって、本件不当利得返還請求権の準拠法は、通則法附則3条4項、法例11条により、原因事実発生地、すなわち被告が利益を取得した地の法となる。参加人は、被告は日本、中国及びタイ王国に所在する各ライセンサーに対してライセンスを付与し、各ライセンシーからのライセンス料を日本に送金させていると主張するものであるから、被告が利益を取得した地である日本法が準拠法となる。
3 争点3−1(本件契約の成否、効力及び存否)について
ア 本件契約の成否及び効力について
 脱退原告及び参加人と被告との間には、本件契約書が被告により真正に作成されたものであるか(本件契約の成否)及び本件契約の効力について争いがあり、被告は、本件契約書は偽造されたものであるから本件契約は成立しておらず、また、本件契約を締結するに際して被告の取締役会の決議がされていないから本件契約は無効であると主張する。
 しかしながら、前記争いのない事実等に加え、証拠(甲4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、@ 被告は、被参加事件の訴えに先立ち、脱退原告に対して東京訴訟を提起したこと、A 同訴訟においても、本件契約の成否及び効力が主たる争点となり、被告は、本件契約書は偽造されたものであるから本件契約は成立しておらず、本件契約に際して被告の取締役会の決議はされていないから本件契約は無効であると主張したこと(なお、契約無効の主張は、控訴審において追加されたものである。)、B これに対し、東京地裁判決及び東京高裁判決は、判決主文において脱退原告が本件独占的利用権を有することを確認し、その理由中において、脱退原告の供述(乙16)等の証拠から、本件契約書は真正に成立したものであって、本件契約は成立しており、本件契約の有効性についても、代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な財産を処分した場合でも契約自体は原則として有効であることから、本件契約は有効である旨の判断を示したこと、C 東京高裁判決は、最高裁判所により被告の上告が棄却され、上告不受理の決定がされたことにより、確定したこと、が認められる。また、本件訴訟において、被告は、本件契約書が偽造されたものであることの裏付けとして、本件契約書がCの筆跡ではない旨の筆跡鑑定結果や、本件契約書における誤記等の記載内容、被告と第三者との間で本件契約当時既に本件著作物の独占的利用権許諾契約が成立していた事実、脱退原告は本件契約成立後約20年間も被告に対して同契約に基づく権利行使をしなかった事実などを挙げるが、前掲各証拠によれば、被告はこれらと同様の主張及び証拠の提出を東京訴訟においても行っていたことが認められる。
 上記事実によれば、本件訴訟における被告の主張中本件契約の成立及び効力を争う部分は、東京訴訟における主張の実質上のむし返しというべきことが明らかである。そして、このように後訴における主張が前訴のそれのむし返しにすぎない場合には、後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和51年9月30日第1小法廷判決・民集30巻8号799頁、最高裁判所昭和52年3月24日第1小法廷判決・裁判集民事120号299頁参照。)。
 したがって、本件訴訟においても、証拠(甲2、甲4ないし6、乙16)及び弁論の全趣旨に基づき、本件契約は有効に成立したものと認めるのが相当であり、これに反する被告の主張は理由がないというべきである。
イ 本件契約の存否について
 被告は、仮に、本件契約が有効に成立していたとしても、同契約は、当時Cないし被告が脱退原告に対して負っていた総額11万米ドルの支払債務の返済を担保するためにされたものであるから、脱退原告が本件契約後に行った本件著作物に関するライセンス事業により上記債権を回収したことによって、本件契約は終了したと主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、被告は本件契約を締結するに当たって本件契約書を作成したものであるから、本件契約の内容については本件契約書の記載に従って定められたものと解するのが相当であるところ、本件契約書には、被告の上記主張に沿う記載は何ら存在しない。かえって、本件契約書には「私、Cは、第1条記、 載の全ての動画及び映画のライセンス付与について、既に全額を受領済みであることを本契約により宣言し、ここに株式会社円谷プロド・アンド・エンタープライズを代表し、その社印を押印し、署名する。」との記載が存在することからすると、本件契約は、被告ないしCが、同人らの脱退原告に対する債務の支払に代えて、脱退原告に対して本件独占的利用権を許諾したものと考えるのが自然である。
 したがって、被告の主張は理由がない。
4 争点3−2(本件契約に基づく被告の債務の内容)について
ア 本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターについて
 脱退原告が本件著作物について日本以外の国における独占的利用権を有することについては、東京高裁判決により確認されている。上記利用権は、本件契約に基づいて脱退原告に付与されたものであるから、同利用権の内容については、本件契約の内容によって定まるものである。
 そこで検討するに、本件契約書は、「ライセンス付与契約書」という表題の下に、前文において、「株式会社円谷プロド・アンド・エンタープライズは、脱退原告に対し、以下の契約条項及び契約条件でライセンスを付与するものとする」と述べた上、第。1条において、本件著作物ほか3作の映画を特定し、第2条において、「契約地域及び契約期間」として、「ネガプリントを初めに制作した日から、日本を除くすべての国における、不特定期間の独占権」と記載し、第3条において、「ライセンスの範囲」として、「本ライセンス付与契約により生ずる全ての権利は、以下のものを含み、かつ、それらに限定される」とし、「配給権」(3.1)、「複製権」(3.3)、「第1条記載のフィルムの制作において使用された全てのモデル及びキャラクターについて、全ての素材及びあらゆる形態による、オリジナルのキャラクターに基づく商業上の目的のためにする複製」(3.7)等を列挙していることが認められる(甲2)。
 上記記載に鑑みると、本件契約書は、第1条で特定した映画についての独占的な利用権を脱退原告にライセンス(許諾)するものであり、利用権の内容には、旧ウルトラマンキャラクターを素材とするキャラクター商品を複製、販売等する権利も含まれ、本件契約に基づき、被告が日本以外の国において第三者に対して本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターの利用を許諾することも禁じているものと認められる。
 これに対し、被告は、本件契約は、脱退原告に対してマスター・ライセンシーの立場でライセンス契約を締結する権限を付与したものであり、被告が、別途マスター・ライセンシーを設定するのではなく、個別に第三者にライセンスすることまで禁ずるものではないと主張する。しかしながら、本件契約書には被告の上記主張に沿う記載は何ら存在せず、他に同主張を裏付ける証拠はないから、被告の主張は理由がない。
イ 本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び新ウルトラマンキャラクターについて
 参加人は、本件契約に基づき脱退原告に付与された本件独占的利用権は、本件著作物を翻案・変形した著作物(二次的著作物)を制作し、利用する独占的権利を含む(本件契約書第3条3.2、3.3)ものであり、かかる権利が本件独占的利用権に含まれないとしても、脱退原告が本件著作物ないし旧ウルトラマンキャラクターについて独占的利用権を有する以上、被告が同キャラクターに類似するキャラクターの利用を第三者に許諾してはならない義務を負うことは当然であると主張する。
 しかしながら、上記解釈は、@ 「Production Right」(制作権)という用語は、著作権法における用語ではなく、いわゆる翻案権は、英語では通常「adaptation」と表記されること、A 本件契約書の第3条の3.7は、ウルトラマンキャラクターの利用について、「第1条記載のフィルムの制作において使用されたオリジナルのモデル及びキャラクターについて」と、許諾の対象となるキャラクターを特定して記載しており、本件著作物の二次的著作物に登場するウルトラマンキャラクターについては、許諾の対象として想定していないことがうかがえること、などの事実と相いれないものであるから、これを採用することはできない。また、本件独占的利用権の内容に本件著作物の翻案権が含まれない以上、脱退原告が本件著作物の独占的利用権を有するからといって、これにより当然に、被告が本件著作物の二次的著作物を制作したり、被告が制作した二次的著作物を利用したりすることを制限することができるものではないことは、当然である。したがって、参加人の上記主張は理由がない。
5 争点4(被告の債務不履行及び不当利得の有無)について
 本件契約に基づく被告の債務の内容については、上記4で判示したとおりである。上記解釈を前提として、被告の債務不履行及び不当利得の有無について検討する。
(1) 本件ライセンス契約@について
ア 被告の債務不履行
 証拠(甲7の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成8年9月1日、バンダイに対し、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンエース」、「ウルトラマンタロウ」、「ウルトラマンレオ」、「ザ・ウルトラマン」、「ウルトラマン80」、「ULTRAMAN TOWARDS THE FUTURE」、「ウルトラマン:THE ULTIMATE HERO」及び「ウルトラマンティガ」の全キャラクターの名前、ロゴ、シンボル、商標、著作権、類似品、描写及び写真について、ライセンス期間を同日から平成9年12月31日までとして、韓国、香港、マカオ、台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ王国及びインドネシアにおける利用権をライセンスしたこと(本件ライセンス契約@)、上記ライセンス期間は現在に至るまで更新されていること、が認められる。
 本件ライセンス契約@における対象物のうち、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンエース」及び「ウルトラマンタロウ」は、旧ウルトラマンキャラクターであり、同契約は韓国等の外国における上記キャラクターの利用を許諾するものであるから、被告が本件ライセンス契約@を締結し、上記ライセンス期間を更新したことは、本件契約の債務不履行に当たると認められる。
イ 脱退原告の損害
 本件契約は、本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターの日本以外の国における利用について、脱退原告に独占的利用権を許諾したものであり、被告が、脱退原告の許諾なくして、日本国外において上記本件著作物等の利用を許諾することについても、禁ずるものである。したがって、日本以外の国において本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターを利用することを希望する者は、脱退原告との間で本件著作物等の利用許諾契約を締結する以外に方法はなかったものと認められる。また、証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば、脱退原告は、本件ライセンス契約@が締結及び更新された当時、チャイヨ社を通じて、タイ王国及び中国において、ウルトラマン映画及びウルトラマンキャラクター等に関するライセンス事業を展開していたことが認められる。
 よって、被告が本件ライセンス契約@を締結し、上記ライセンス期間を更新したことにより、脱退原告は、本件ライセンス契約@の相手方であるバンダイとの間でこれと同様の内容のライセンス契約を締結し、本件ライセンス契約@所定のライセンス料を得る機会を失ったものと認められる。
 本件ライセンス契約@のライセンス料については、全正味販売額のうち卸売価格の7.0%(ライセンシーがライセンサーに対して日本国内市場の小売価格に対しロイヤリティを支払済みである製品については、卸売価格の5.5%)と定められている(第2条(a))ほか、上記ライセンス期間(平成8年9月1日から平成9年12月31日まで)に適用される最低ロイヤリティ保証金を450万円とする旨が定められている(第2条(d))(甲7の1、2)。
 一方、本件における証拠を精査しても、上記の正味販売額の具体的金額を認めるに足りる証拠はないので、本件では、上記最低保証金をもって、本件ライセンス契約@により被告の得たライセンス料、すなわち脱退原告の逸失利益と認めるのが相当である。そして、上記のとおり本件ライセンス契約@はその後も更新されていると認められ、同契約におけるライセンス期間は16か月間(平成8年9月1日から平成9年12月31日まで)であるため、平成18年5月18日までの間に、7回の更新(平成10年1月1日、同11年5月1日、同12年9月1日、同14年1月1日、同15年5月1日、同16年9月1日、同18年1月1日をそれぞれ始期とするもの。)がされたものと認められ、これらの契約に基づく最低ロイヤリティ保証金の合計額は3600万円(450万円×8)となる。また、本件ライセンス契約@の対象となるウルトラマンキャラクター11個のうち、旧ウルトラマンキャラクターは、上記のとおり5個であることが認められる。
 そこで、上記3600万円に11分の5を乗じた金額(36,000,000×5/11=16,363,636(円)。ただし、1円未満切捨て。)をもって、本件契約の債務不履行に基づく脱退原告の損害と認めるのが相当である。
ウ 被告の不当利得
 本件独占的利用権は、民法703条にいう「財産」に該当し、無断実施者がこれによって「利益」を得、独占的利用権者たる他人に損失を及ぼしたときは、不当利得として同利益を返還すべき義務を負うといえる。本件では、本件契約に違反して本件ライセンス契約@を締結しライセンス料を得た被告の行為により、本件独占的利用権を有する脱退原告に損失が生じ、他方、被告に利得が生じていることは、明らかである。また、被告は、本件契約を締結しながら、同契約に違反する内容の本件ライセンス契約@を締結し、これを更新したものであるから、上記利得に法律上の原因がないことについて、悪意であったと認められる。
 よって、脱退原告は、被告に対し、上記イの損害額と同額の不当利得返還請求権を取得したものと認められる。
 これに対し、被告は、上記利得は被告が第三者との間でライセンス契約を締結した結果として得られたものであり、法律上の原因があると主張する。しかしながら、参加人が主張する利得とは、被告がライセンス料相当額の支払を免れたことであり、被告が本件独占的利用権の対象となる旧ウルトラマンキャラクターの利用を許諾した以上、脱退原告に対してライセンス料相当額の支払を免れる法律上の原因はないので、被告に利得がないとはいえず、被告の主張は理由がない。
(2) 本件ライセンス契約AないしGについて
 被告が本件ライセンス契約AないしGを締結していることについては、当事者間に争いがない。
 しかしながら、これらの契約においてライセンスの対象とされたウルトラマンキャラクター(ウルトラマンティガ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンガイア、ウルトラマンコスモス、ウルトラマンゼアス1、同2)は、いずれも新ウルトラマンキャラクターである。
 したがって、被告が上記契約を締結したことは、本件契約の債務不履行とは認められず、これにより被告が法律上の原因なく利益を得たとも認められない。
(3) 本件ライセンス契約HないしPについて
 参加人は、被告が、タイ法人等外国法人との間で、タイ王国においてウルトラマンキャラクター商品を開発、使用及びサブライセンスする権利につきライセンスを付与したり(本件ライセンス契約HないしJ)、ウルトラマン映画のテレビ番組及びホームビデオを開発、使用及びサブライセンスする権利につきライセンスを付与したりした(本件ライセンス契約KないしP)と主張し、ライセンス期間は、1年間(本件ライセンス契約H、I、KないしM)又は3年間(同J、NないしP)であると主張する。また、証拠(甲25、26)によれば、タイ王国で発行された1997年(平成9年)9月30日付けの新聞及び2000年(平成12年)7月20日付けの新聞に、次のような内容の、被告による広告(タイ王国の企業に対する告知)が掲載されたことが認められる。
 「被告にライセンスを付与された以下の企業のみが、タイ王国においてウルトラマンキャラクターを開発、使用、サブライセンスする確実な権利を有していることを通知する。
 キャラクター商品:バンダイ、ルナインターナショナル社、プラコプロダクト社、ドルダインダストリアル社(なお、平成12年の広告には、バンダイ及びドルダインダストリアル社のみが記載されている。)
 テレビ番組及びホームビデオ:ビデオスクウェア社、ルンシィーローワニット社、ユニコーンテレビ販売社、サザンスターインターナショナル社及びメディアリンクインターナショナル社(なお、平成12年の広告には、ビデオスクウェア社及びルンシィーローワニット社のみが記載されている。)
 被告からライセンスされたテレビ番組及びホームビデオ:ライトピクチャー社及びライトインターナショナル社」
 しかしながら、ウルトラマンキャラクターには、旧ウルトラマンキャラクターのほかに新ウルトラマンキャラクターも含まれるものであり、上記広告が掲載された平成9年及び平成12年当時においても、既に相当多数の新ウルトラマンキャラクターが登場済みであることが認められる(別紙一覧表記載(2)参照。)。そうすると、上記広告の記載だけでは、上記広告に掲載された会社に対して被告が利用を許諾したものが、本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターなのか、本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画又は新ウルトラマンキャラクターなのか、明確でないといわざるを得ない。また、上記広告には、被告が上記会社との間で締結したライセンス契約の具体的内容(ライセンス期間、ライセンス料等)については何ら記載されておらず、他に上記契約内容を認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、本件では、被告がライセンス契約の存在を否定するもの(本件ライセンス契約J、L、O、P)についてはもちろん、被告がライセンス契約の締結及びライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれることを認めているもの(本件ライセンス契約H、I、K、M、N)についても、これらの契約を締結することにより、脱退原告がいかなる損害ないし損失を被ったのかを認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。
 よって、本件ライセンス契約HないしPに係る参加人の主張は、理由がない。
(4) 本件ライセンス契約QないしSについて
 参加人は、被告が同社の子会社である上海円谷に対してウルトラマン作品の使用許諾権を付与し、上海円谷をして上海音像、広州購書及び海豚出版社に対してウルトラマンキャラクター商品の複製、販売を行うことなどを許諾させることにより、脱退原告は本件ライセンス契約QないしSのライセンス料相当額の損害及び損失を被ったと主張する。また、証拠(甲8、9、28ないし32)及び弁論の全趣旨によれば、上海円谷から上海音像に対して、平成10年4月17日付けで「帰ってきたウルトラマン」の、同年10月8日付けで「ウルトラマンエース」の、平成11年7月28日付けで「ウルトラマン」の、それぞれ中国におけるVCD及びビデオ・カセットを生産、発行及び販売する権利につきライセンスが付与されたこと、並びに、上海円谷から海豚出版社に対して、中国における「ウルトラマン」冊子を販売する権利につきライセンスが付与されたこと、が認められる。
 しかしながら、上海円谷は、被告の子会社であるとはいえ、被告とは別個の法人であるから、上海円谷が上海音像等との間で本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターの利用についてライセンス契約を締結し、ライセンス料を得たとしても、かかる行為をもって当然に被告による本件契約の債務不履行又は被告による不当利得と認めることはできない。
 仮に、上記ライセンス契約が上海円谷の親会社である被告の意向により締結されたものであるとしても、本件では、上海円谷と広州購書及び海豚出版社との間で締結されたライセンス契約の締結時期、ライセンス期間、ライセンス料等の具体的内容について、これを認めるに足りる的確な証拠はない。また、上海円谷と上海音像との間でライセンス契約が締結されたのは上記のとおり平成10年又は平成11年であるところ、後記7のとおり、平成13年5月18日以前に発生した本件損害賠償請求権については、商事消滅時効の成立が認められる。
 よって、本件ライセンス契約QないしSに係る参加人の主張は、理由がない。
(5) タイ最高裁判決との関係について
 以上のとおり、被告は、本件ライセンス契約@を締結してこれを更新し、バンダイからライセンス料を得ることによって、本件契約に違反し、脱退原告に対して1636万3636円の損害及び損失を与えたものと認められる。
 これに対し、被告は、タイ最高裁判決により、タイ王国において脱退原告が本件契約に基づくウルトラマン映画及びウルトラマンキャラクターの利用権を有しないことが確認され、本件契約に基づく脱退原告のいかなる権利主張も禁じられたものであるから、脱退原告は、タイ王国において過去及び将来のいかなる時点においても、ウルトラマン映画等について第三者にライセンスを付与して利益を得る機会はなかったと主張する(なお、前記(1)アのとおり、本件ライセンス契約@の対象地域にはタイ王国が含まれている。)。
 しかしながら、上記タイ最高裁判決は、本件契約書が偽造されたものであり、本件契約の成立は認められないとの判断を前提とするものであり、かかる判断は、我が国における確定判決である東京高裁判決及び本件訴訟における当裁判所の前記認定と全く相反するものである。そして、本件契約の成否及び本件契約の内容に関する当裁判所の前記認定に従えば、本件独占的利用権を有する脱退原告が、タイ王国において本件著作物ないし旧ウルトラマンキャラクターのライセンス事業を行うことは、何ら違法なものではなく、そうである以上、被告による本件ライセンス契約@の締結等により、脱退原告は上記ライセンス機会を失ったものと認めるのが相当であり、被告の上記主張は理由がない。
(6) 権利濫用の抗弁について
 被告は、本件契約はCないし被告が脱退原告に対して負っていた債務の返済を担保するためにされたものであり、同債務が返済済みであることや、上記内容のタイ最高裁判決の存在等の事情に鑑みると、本件損害賠償請求及び本件不当利得返還請求は権利の濫用に当たるとも主張する。
 しかしながら、本件契約がCらの債務の返済を担保するためにされたものとは認められないことについては、前記3イで認定したとおりである。また、タイ最高裁判決の存在が本件損害賠償請求及び本件不当利得返還請求が権利濫用であることを基礎付けるに足りる事実とならないことは、上記(5)に判示したところから明らかであり、被告の上記主張は理由がない。
6 争点5(脱退原告は参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したか)について
(1) 債権譲渡の有無について
 証拠(丙1の1、2、丙2の1、2、丙5、6、13)及び弁論の全趣旨によれば、@ 脱退原告は、参加人に対し、平成20年12月24日、本件独占的利用権を譲渡し、参加人の事業として本件独占的利用権に基づく事業を展開することを合意したこと、A 脱退原告は、参加人に対し、平成21年2月9日、前記5(1)アの損害賠償請求権を含む、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を譲渡し、被告に対して債権譲渡通知をしたこと、B 脱退原告は、参加人に対し、遅くとも平成21年6月22日(訴え変更申立書の作成日)までに、前記5(1)ウの不当利得返還請求権を含む、本件契約の債務不履行に起因する不当利得返還請求権を譲渡し、被告に対して債権譲渡通知をしたこと、が認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
 これに対し、被告は、脱退原告は本件契約上のすべての権利を平成19年3月にBに譲渡したものであり、上記譲渡後に脱退原告と参加人との間で本件債権譲渡があったとしても、参加人は無権利者である脱退原告から本件契約上の権利を譲り受けることはできない、と主張する。
 しかしながら、仮に、上記@ないしBの債権譲渡に先立ち、これらの権利が脱退原告からBに譲渡されていたとしても、本件では、脱退原告から被告に対してその旨の債権譲渡通知はされていないことから、脱退原告がこれらの権利を参加人に対して二重に譲渡したとしても、同譲渡が当然に無効となるものではなく、被告の主張は理由がない。
(2) 債権譲渡の効力について
 被告は、本件債権譲渡は脱退原告と参加人がタイ最高裁判決上の義務を潜脱する意図で行ったものであり、このような債権譲渡の目的や、参加人が設立され本件債権譲渡が行われた時期、本件債権譲渡において対価の合意がされておらず、参加人の役員に脱退原告の子が加わっていること、本件債権譲渡はタイ王国刑法に違反し国際的な組織犯罪を構成するものであることなどの事実を考慮すると、本件債権譲渡は、通謀虚偽表示に基づく無効なものであると推定され、かつ、我が国の公序に反する無効なものであると主張する。
 また、被告は、本件債権譲渡は参加人に訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託行為であるから信託法10条に違反し、かつ、参加人は他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によってその権利の実行をすることを業として上記債権を譲り受けたものであるから弁護士法73条に違反し、無効であるとも主張する。
 確かに、本件債権譲渡がされるまでの経緯、すなわち、タイ最高裁判決が出されて数か月後に日本において参加人が設立され、同判決により脱退原告による権利主張等が禁止された本件独占的利用権や本件契約に基づく損害賠償請求権等が脱退原告から参加人に譲渡され、譲渡後直ちに参加人が被参加事件に独立当事者参加していることなどからすると、本件債権譲渡が行われた背景に、タイ最高裁判決による不利益をできるだけ避けようとする脱退原告の意図が存在することがうかがえる。
 しかしながら、タイ最高裁判決における本件契約の成否に関する判断が我が国における確定判決及び当裁判所の認定と相反するものであることについては、前記5( )のとおりであ5 り、当裁判所における認定に従えば、脱退原告が被告に対して本件損害賠償請求権及び本件不当利得返還請求権を行使することは、何ら違法となるものではないから、かかる権利を脱退原告が参加人に譲渡することが、我が国の公序に反するものとは認め難い。
 また、前掲(1)の証拠によれば、本件債権譲渡の際に参加人から脱退原告に対して特段の対価は支払われていないと認められるものの、この点について、脱退原告及び参加人は、本件債権譲渡の対価については、本件独占的利用権に基づく事業全体の収益性ないし将来性が不明であることなどを考慮して、参加人の事業が収益をあげることができたときに、事業収益から合理的割合の金額を支払う旨を合意したと述べている。そして、前記認定のとおり、本件契約の成否をめぐって、脱退原告と被告との間に長年にわたる紛争が存在し、タイ王国及び中国においては東京高裁判決と異なる判断が出されるなど、上記紛争は相当複雑かつ激しいものとなっており、現時点では、紛争解決の確たる見通しを立てることは困難な状況にあること、などの事情を鑑みると、本件独占的利用権を脱退原告から参加人に譲渡することにより、参加人の事業として本件独占的利用権に基づく事業を展開することとし、本件債権譲渡の対価について上記のような合意をした旨の、脱退原告らの上記供述は、特段不自然なものとは認められない。
 上記事実を考慮すると、本件債権譲渡は、脱退原告が参加人と通じてした虚偽の意思表示によるものとは認められず、また、公序良俗に違反するものとも認められないというべきである。
 また、上記認定事実に照らすと、本件債権譲渡が、参加人に訴訟行為を行わせることを主たる目的としてされたものとは認められず、参加人が、他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によってその権利の実行をすることを業とする者であるとも認められないから、本件債権譲渡は、信託法10条及び弁護士法73条に違反するものでもない。
 以上のとおり、本件債権譲渡が無効であるとする被告の主張は、いずれも理由がない。
7 争点6(商事消滅時効の成否)について
(1) 債務不履行に基づく損害賠償請求について
 被告は、平成21年6月26日の本件第25回弁論準備手続期日において、被参加事件の訴えが提起された平成18年5月18日から5年をさかのぼった平成13年5月17日以前に生じた本件損害賠償請求権について、商事消滅時効を援用するとの意思表示をした。
 契約上の債務の不履行を原因とする損害賠償債務は、契約上の債務がその態様を変じたにすぎないものであるから、当該契約が商行為たる性格を有するのであれば、上記損害賠償債務も、その性格を同じくし、商行為によって生じた債務(商法514条)に当たるといえる(最高裁判所昭和47年5月25日第1小法廷判決・裁判集民事106号153頁参照。)。
 したがって、本件損害賠償請求権は商行為から生じたものといえるから、本件損害賠償請求権のうち、平成8年5月17日から平成13年5月17日までに生じたもの(本件ライセンス契約@の締結及び平成13年5月17日までに同契約を更新した行為を理由とする損害賠償請求権)については、商事消滅時効が成立する。
 これに対し、参加人は、被告の債務不履行の態様は社会的に許される範囲を著しく逸脱するものであるから、被告が商事消滅時効を援用することは信義則に反し権利濫用に該当すると主張する。
 しかしながら、被告が本件ライセンス契約@を締結及び更新した行為は、本件契約の債務不履行に該当することは格別、これを超えて、かかる債務不履行の態様が、社会的に許される範囲を逸脱し、被告において商事消滅時効を援用することが、信義則に反し、権利濫用に該当するとは到底認めることができない。参加人の上記主張は理由がない。
(2) 不当利得返還請求について
 被告は、平成22年4月20日の本件第31回弁論準備手続期日において、本件不当利得返還請求権について商事消滅時効を援用するとの意思表示をした。
 しかしながら、商事消滅時効について規定する商法522条が適用又は類推適用されるべき債権は、商行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならない。本件不当利得返還請求権は、商行為たる本件ライセンス契約@に基づき被告が取得したライセンス料の返還に係るものではあっても、被告が法律上の原因なく本件独占的利用権者である脱退原告に対するライセンス料相当額の支払を免れたために、法律の規定によって発生する債権であり、商事取引関係の迅速な解決という要請を考慮すべき合理的理由に乏しいから、商行為から生じた債権に準ずるものということはできない。
 したがって、本件不当利得返還請求権の消滅時効期間は、民事上の一般債権として、民法167条1項により10年と解するのが相当であり(最高裁判所昭和55年1月24日第1小法廷判決・民集34巻1号61頁参照。)、これに反する被告の主張は理由がない。
(3) 本件損害賠償請求と本件不当利得返還請求の関係
 参加人は、本件訴訟において、本件損害賠償請求と本件不当利得返還請求を選択的に請求しているところ、上記(1)のとおり平成13年5月17日までに生じた本件損害賠償請求権については商事消滅時効が成立するため、本件不当利得返還請求権に基づく認容額の方が、本件損害賠償請求権に基づく請求より高額であると認められるから、不当利得返還請求権に基づく請求が認容されるべきである。
8 以上によれば、参加人の請求は、被告に対して不当利得返還請求権に基づき1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由がある。
 よって、参加人の請求は、主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 柵木澄子
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