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【事件名】「スポーツニッポン」掲載写真事件
【年月日】平成22年9月9日
 大阪地裁 平成20年(ワ)第2813号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年7月5日)

判決
原告 株式会社フォトライブ(以下「原告会社」という。)
原告 P1
原告 P2
原告ら訴訟代理人弁護士 桂充弘
同 壇俊光
同 小林茂美
同訴訟復代理人弁護士 今村昭悟
被告 株式会社スポーツニッポン新聞社
同訴訟代理人弁護士 高木茂太市
同 里井義昇
同 宮武泰暁
同 門林誠
同訴訟復代理人弁護士 室谷光一郎


主文
1 被告は、原告P1に対し、10万0400円及びこれに対する平成20年4月6日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告P2に対し、45万0300円及びこれに対する平成20年4月6日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 原告P1及び原告P2のその余の請求をいずれも棄却する。
4 原告会社の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、被告に生じた費用の100分の1と原告P1及び同P2に生じた費用の各10分の1を被告の負担とし、被告に生じた費用の100分の2と原告P1に生じたその余の費用を原告P1の負担とし、被告に生じた費用の100分の7と原告P2に生じたその余の費用を原告P2の負担とし、被告に生じたその余の費用と原告会社に生じた費用を原告会社の負担とする。
6 この判決は、1項及び2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 原告会社
 被告は、原告会社に対し、5000万円及びこれに対する平成20年4月6日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2) 原告P1
 被告は、原告P1に対し、100万円及びこれに対する平成20年4月6日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(3) 原告P2
 被告は、原告P2に対し、580万円及びこれに対する平成20年4月6日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、被告の負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 被告
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第2 事案の概要
(原告会社関係)
1 原告会社の請求原因
(1) 原告会社は、被告に対し、被告が発行するスポーツ新聞「スポーツニッポン(以下「被告新聞」」という。)への写真掲載後は速やかに返還するとの約束で、別表1「掲載被写体」欄に記載された各被写体の写真について、ネガフィルム、ポジフィルム、プリント(以下「本件フィルム等」という。)を貸し渡した。
(2) 被告は、本件フィルム等を利用して被告新聞に写真を掲載し、その返還期限が到来した。
(3) 被告が本件フィルム等を返還しないことによる原告会社の損害は、次のとおりである。
ア 原告会社の規定に基づく紛失相当損害金(使用料の10倍相当額)
(ア) 主位的主張 42億9660万円
 内訳は、別表1「主位的主張」欄記載のとおりである。
 写真1カットあたりの使用料は、著名人は6万円又は10万円、それ以外は3万円である。
(イ) 予備的主張1 23億5380万円
 内訳は、別表1「予備的主張1」欄記載のとおりである。
 写真1カットあたりの使用料は、著名人は6万円又は10万円、それ以外は3万円である。
(ウ) 予備的主張2 9890万円
 内訳は、別表1「予備的主張2」欄記載のとおりである。
 写真1カットあたりの使用料は、著名人は6万円又は10万円、それ以外は3万円である。
イ 弁護士費用 500万円
(4) よって、原告会社は、被告に対し、使用貸借契約の債務不履行に基づき、損害賠償内金5000万円及びこれに対する平成20年4月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6%の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 原告会社の請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は否認する。
(2) 請求原因(2)のうち、被告新聞への写真掲載の事実は認める。
(3) 請求原因(3)は否認する。
(原告P1及び同P2関係)
1 原告P1の請求原因
(1) 原告P1は、別表2「掲載被写体」欄に記載された各被写体の写真(以下「本件写真」という。)9、14を撮影し、同一の機会に別カットの写真を撮影した。
(2) 被告は、本件写真9、14を被告新聞に掲載した後、原告P1に断ることなく、本件写真9については、別表2「2次使用日」欄記載の日に、インターネット上に掲載し、本件写真14については、別表2「別カット使用日」欄記載の日に、本件写真14と同一の機会に撮影された別カットの写真(前記(1)のもの)を、被告新聞に掲載した。
(3) 本件写真9及び前記(2)の別カット写真は、いずれも著作物性を有し、その著作権は撮影者に帰属する。
(4) 前記(2)の複製権侵害行為による原告P1の損害は次のとおりである。
ア 著作権法114条3項に基づく損害 300万円
 内訳は、別表2記載のとおりである。
 写真1カットあたりの使用料は、著名人は10万円であり、無断使用であるため、その10倍相当額が損害となる。
イ 弁護士費用 30万円
(5) よって、原告P1は、被告に対し、著作権(複製権)侵害の不法行為に基づき、損害賠償内金100万円及びこれに対する不法行為の後である平成20年4月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6%の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 原告P1の請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)のうち、原告P1又は同P2が本件写真9を撮影したことは認めるが、本件写真14の撮影者は知らない。
(2) 請求原因(2)、(3)はいずれも認める。
(3) 請求原因(4)は否認する。
3 原告P2の請求原因
(1) 原告P2は、本件写真1ないし8、10ないし13を撮影し、同一の機会に別カットの写真を撮影した。
(2) 被告は、本件写真1ないし8、10ないし13を被告新聞に掲載した後、原告P2に断ることなく、本件写真1ないし8、10については、別表2「2次使用日」欄記載の日に、再度被告新聞に掲載し、本件写真10ないし13については、別表2「別カット使用日」欄記載の日に、本件写真10ないし13と同一の機会に撮影された別カットの写真(前記(1)のもの)を、被告新聞に掲載した。
(3) 本件写真1ないし8、10及び前記(2)の別カット写真は、いずれも著作物性を有し、その著作権は撮影者に帰属する。
(4) 前記(2)の複製権侵害行為による原告P2の損害は次のとおりである。
ア 著作権法114条3項に基づく損害 580万円
 内訳は、別表2記載のとおりである。
 写真1カットあたりの使用料は、著名人は10万円、それ以外は3万円であり、無断使用であるため、その10倍相当額が損害となる。
イ 弁護士費用58万円
(5) よって、原告P2は、被告に対し、著作権(複製権)侵害の不法行為に基づき、損害賠償内金580万円及びこれに対する不法行為の後である平成20年4月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6%の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 原告P2の請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)のうち、原告P1又は同P2が本件写真1ないし13を撮影したことは認める。
(2) 請求原因(2)、(3)はいずれも認める。
(3) 請求原因(4)は否認する。
5 抗弁
(1) 著作権の譲渡又は2次使用許諾
 原告P1及び同P2(以下「原告P1ら」という。)は、被告に対し、黙示的に、各請求原因(3)の写真について、著作権を譲渡したか、2次使用を許諾していた。
 このことは、次の事実から明らかである。
ア 対価
 原告P1らは、被告から撮影補助作業の依頼を受け、1回の作業につき一律6万円ないし3万円の報酬を受領していた。そして、平成19年になって、これを8万円にするように申し出たものの、それまでの約20年間は、値上げを求めたことがなかった。
イ 撮影時の状況
 原告P1らは、被告の交付した未感光フィルムを使用していた。
 また、撮影企画、諸準備、被写体との交渉、場所の設営、被写体のフォルムの決定等は、全て被告が行い、費用も被告が負担していた。
ウ 撮影後の状況
 感光されたフィルムは、被告によるトリミング(調整)等が行われることになっており、フィルムのまま被告に交付されていた。
 原告P1らは、感光後のフィルムを確認せず、感光済みのカット数、使用に耐えるもの・耐えないものの各カット数や、トリミング前の被写状況も知らなかった。また、トリミングの可否や方法について指示や希望を出したことも、トリミング後の写真に意見やクレームを述べたこともなかった。
エ 権利主張
 原告P1らは、約20年間、被告へ交付したフィルム等に関し、納品書も受領書も作成せず、著作権の帰属について主張せず、返還を求めたこともなかった。
(2) 消滅時効
ア 原告P1らが各請求原因(2)の事実を知ってから、本件訴訟提起までに3年が経過した。
イ 被告は、原告P1らに対し、平成21年3月27日の本件弁論準備手続期日において、前記アの時効を援用するとの意思表示をした。
6 抗弁に対する認否
(1) 著作権の譲渡又は2次使用許諾について
 否認する。
 以下の事情からすれば、各請求原因(3)の写真について、著作権の譲渡も2次使用の許諾もなかったことは明らかである。
ア コンサート撮影の状況
(ア) 撮影前
 数日前ないし当日に、被告から電話で撮影依頼があるが、撮影日時、会場、撮影対象、取材場所、取材の対象が大まかに述べられるだけであり、原告P2が、取材の時間、取材の主な目的、フィルムの引渡し方法等の確認をしなければならないこともあった。
 また、被写体の位置や撮影場所により適正なレンズが異なるため、原告P1らは、会場に連絡して会場の大きさなどを確認し、撮影に用いるカメラ、レンズ、フィルム、三脚、その他の機器を選択して準備し、被写体、構図等の構想を練った取材メモを作成した上で、撮影に赴いていた。
(イ) 撮影時
 被写体の選択、構図、シャッター速度、その他の創作部分は、全て原告P1らが自ら判断しており、被告からの指示はない。
(ウ) 撮影後
 原告P1らは、撮影した写真のフィルムについて、取材の意図を反映したものや構図の良いもの等が、どのロールの、どのあたりにあるか等を記載したメモを同封した上で、被告に引き渡していた。
 被告は、引渡しを受けたフィルムを機械的に現像した後、原告P1らのメモに従って写真を選択し、新聞に掲載していた。
 フィルムは、適宜返還を受けていた。
イ インタビュー取材の状況
(ア) 撮影前
 数日前ないし当日に、被告から電話があり、撮影の日時・場所・対象などが伝えられるのみであり、取材担当の被告記者と事前に打合せをすることはなかった。
 原告P1らは、撮影場所や被写体などを考慮して、カメラ、レンズ、フィルムなどを準備していた。
(イ) 撮影時
 被告記者は、自分の取材に集中しており、撮影について、原告P1らに具体的な指示をすることはなかった。
(ウ) 撮影後
 撮影したフィルムは、被告記者へ預けることが多く、この場合、コンサート撮影の場合と同様の処理(前記ア(ウ))になる。
ウ 企画取材の状況
(ア) 撮影前
 数週間前に被告から電話があり、撮影の日時・場所、取材内容が伝えられ、原告P1らが、企画内容から判断して、カメラ、レンズ、フィルム等を用意する。
(イ) 撮影時
 原告P1らが、自らの判断で撮影をする。
(ウ) 撮影後
 撮影したフィルムは、掲載までに時間的余裕があることから、多くの場合、原告P1らにおいて現像し、プリントを納品していた。
 納品にあたっては、原告P1らが、裏面に写真の撮影意図などを記載していた。
 プリントは、適宜返還を受けていた。
エ 鮎釣り撮影の状況
(ア) 撮影前
 鮎釣り大会の1か月前に、被告から電話で撮影依頼があり、撮影日程、撮影場所が伝えられていた。
 鮎釣りは、常に流動的で、シャッターチャンスが限られているため、原告P1らは、取材スケジュールや、ここ数年の入選者等の掲載可能性が高い人物などを予め調査し、撮影メモを作成していた。
 撮影を依頼されるようになって3年目からは、被告にフィルムを一部用意してもらえるようになったが、担当の被告記者から、「会社にたくさんあるから」という理由で渡されたものであり、足りないときは、自ら持参したフィルムを使用した。
(イ) 撮影時
 被告から具体的な指示を受けることなく、原告P1らが自らの判断で撮影をした。
(ウ) 撮影後
 コンサートと同様に、メモを同封した上で、フィルムを記者に渡していた。
オ 権利主張について
 被告は、当初はフィルムを毎回返還していたし、その後も返還を求めれば対応していた。仮に、原告P1らが長期にわたり返還を求めなかったとしても、カメラマンにとっての著作権の重要性からすれば、写真の著作権を、明示的な合意なく、安価に譲渡することはあり得ない。
 また、スポーツ新聞に掲載する写真の撮影に際しては、納品書・受領書を交付する時間がないのが一般的であるため、これらを作成することはない。
(2) 消滅時効について
 否認する。
 原告P1らが各請求原因(2)の事実を知ったのは、被告従業員であるP3から連絡があった、平成19年5月以降である。
7 消滅時効に対する再抗弁(請求による時効中断)
(1) 平成19年9月19日、原告P1らは、被告に対し、損害賠償の支払を催告した。
(2) 平成20年3月4日、原告P1らは、被告に対し、本件訴えを提起した。
第4 当裁判所の判断
1 本件経緯
 証拠(甲156、157、乙16、17、証人P3、同P4、原告P1本人、同P2本人、後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 当事者
 原告P1は、昭和55年ころから、フリーのカメラマンとして活動していたが、昭和60年12月に、撮影した写真やフィルムの管理を行う原告会社を設立した。
 原告P2は、平成5年1月に、カメラマンとして原告会社に入社した。
 被告は新聞社であり、自社カメラマンが所属する写真部を有していたが、自社カメラマンが多忙で人手不足の時など、外部のカメラマンに撮影を依頼することがあった。
(2) 被告からの撮影依頼
 P3は、原告P1を通じて、原告会社のカメラマンであるP5に、被告新聞用の撮影及びコラムの執筆を依頼するなどしていたところ、平成7年ころ、原告会社のカメラマンとして、原告P2を紹介された。そして、原告P2は、被告新聞用の撮影を依頼するようになった。
 被告が依頼していた撮影は、コンサートなどのイベント、著名人へのインタビュー、企画取材、被告主催の鮎釣り大会などであった。被告からの撮影依頼は電話で行われ、依頼にあたっては、大まかな指示(鮎釣り大会であれば、優勝や上位入賞しそうな選手を撮影して欲しいなど)がされた。原告P1らは、被告からの指示や伝えられた情報をもとに、当該撮影にふさわしいレンズや必要な機材を用意し、取材メモを作成するなどの準備をして、撮影に赴いていた。撮影に使用するフィルムは、被告から交付されることもあったが、原告P1らは、原告会社のフィルムを持参して使用していた。
(3) 掲載までの手順
 撮影現場において、原告P1らは、取材を行う被告記者とは独立して撮影を行っていた。そのため、人物取材などの場合は、同一の取材について、原告P1らが撮影した写真と、被告記者が撮影した写真とが、共に存在することもあった(甲154、乙10、11)。
 撮影後のフィルムは、未現像のまま被告担当者に交付され、被告写真部において自動フィルム現像機で現像され、現像後のフィルムの中からデスク(副部長)が、掲載すべき写真を選別し、選別された写真は、トリミング(不必要な部分のカットや、色彩・濃淡の調整)が行われた後、プリントされ、紙面に掲載されていた。
 被告写真部では、現像したフィルムについて、不必要なカット以外は、掲載しなかったものも含めて保管し、後日の利用に備えており、再掲載にあたっては、撮影者が外部カメラマンである場合は、カメラマンの許諾を得る扱いにしていた。もっとも、他部署から事前に申出があった場合は、写真部で保管を行うことなく、当該部署にフィルムを渡していた(証人P4)。
(4) 対価の支払とフィルムの取扱い
 撮影の報酬は、被告の規定に基づき、仕事の内容に応じて、交通費及びフィルム代を含め、1回あたり数万円で計算され、1か月分がまとめて、原告会社名義の口座や、原告P1らの個人口座に振り込まれていた(甲53〜58、乙1〜6〔枝番含む〕)。
 原告P1らが被告に交付したフィルムの中には、被告新聞への掲載後、原告P1らに渡されたものもあったが(甲48、甲51の1〜4、甲59、60)、そうでないものについて、平成19年4月ころまでは、原告らが、返還を求めることはなかった。
(5) 取引の終了
 原告P1は、被告が報酬の値上げに応じなかったことなどから、平成19年4月ころ、P3に対し、被告からの撮影依頼は受けないと告げた。
 その後、P3は、原告P1から、被告に交付したフィルムを返還するよう要請されたが、同年5月8日ころ、原告P1に対し、フィルム探しを始めたところ、著名人Aのフィルムは見つかったが、震災チャリティー(本件写真14に係る「日本を救え!'95」コンサートを指す。)のフィルムは、著名人Bと著名人Cの結婚報道で使用したためか、今のところ見つからず、探してみるので少し時間が欲しいという趣旨の手紙を発送した(甲36、159)。
(6) 金銭請求と本訴提起
 平成19年6月7日、原告P1は、P3に対し、フィルム紛失について、裁判での計算に基づけば、損害は天文学的な金額になると伝えた上、P3が120万円を支払えば、和解内容を公開しないし、被告やP3の上司に対しても訴訟を提起しないことを内容とする解決案を提示したが(乙8)、この和解はまとまらなかった。
 原告P1らは、被告及びP3に対し、同年9月19日、損害賠償の支払を求めたが(甲37、乙7)、拒絶されたため、平成20年3月4日、本訴を提起した。
2 原告会社の請求について
(1) 本件フィルム等の貸与の有無(請求原因(1))について
ア 交付の事実
(ア) 交付の根拠となるもの
 原告会社は、本件フィルム等を被告に交付したと主張する。本件フィルム等について、納品書や受領書は作成されていないが、原告会社は、交付の根拠として、被告新聞に原告P1ら撮影の写真が掲載されている事実を挙げる。
 紙面から判明する場合(甲21、25、32、35)を除き、掲載写真の撮影者が原告P1らであるか否かについては、客観的な裏付けの有無が問題となるが、この点につき、原告P2は、自分が撮影した写真であるかは新聞記事を見ればわかると供述する。たしかに、プロのカメラマンであれば、本件フィルム等のうち、被告新聞に掲載された写真が、自己の撮影したものであるかを記憶していても不思議とはいえない。したがって、正確な記憶を求めることは無理でも、本件フィルム等の撮影者の多くは原告P1らであり、前記1(3)によると、原告P1らが、本件フィルム等の相当数を被告に交付したという事実を認めることは可能である。
 とはいうものの、著名人Dのコンサートについて、同一の紙面に掲載されていた2枚の写真(甲20、65)のうち、当初は1枚のみを原告P2撮影と主張しながら(別表1の番号4)、後にもう1枚についても原告P2撮影であるとして追加主張するなどしており(別表1の番号33)、これらの事情からすると、客観的な裏付けや、正確な記憶であることの担保のない限り、原告P1らの記憶のみに基づいて、確実に撮影者を識別できるのか疑問が残る。
(イ) P2手帳の記載等
 前記(ア)のとおり、被告新聞へ掲載された写真について、撮影者が原告P1らであるといえるためには、そのことを示す客観的な裏付けが必要というべきであるが、原告会社は、上記写真に対応する原告P2の手帳(甲103〜124〔枝番含む〕。以下「P2手帳」という。)や撮影メモ(甲125〜139)、撮影用の通行証(甲104の3、甲142〜145)、撮影時に入手した物品等(甲140、141、147〜153〔枝番含む〕)を挙げるので、以下、検討する。
 原告P2は、P2手帳は日記帳代わりであり、日々の出来事をその日その日に書いていると供述しており(原告P2本人)、原告P1もしくは同P2が、上記各写真の撮影現場のうち数箇所に赴いたことをP2手帳が裏付けているといえる。
 また、撮影メモや通行証などによっても、原告P1もしくは同P2が、上記各写真の撮影現場のうち数箇所に赴いたことを裏付けることができる。
 以上によると、上記各写真の撮影現場に原告P1らが赴いたことの裏付けのないものは、別表1の番号34、70の2枚となる(原告ら準備書面(11)別紙2・撮影証拠対応一覧表参照)。なお、上記撮影証拠対応一覧表によれば、「親子対決息子に軍配」の写真(甲95)も、原告P2の供述のみが撮影の根拠とされているが、これは、同じ平成14(2002)年8月15日の紙面に掲載され、P2手帳や大会パンフレットが撮影の根拠とされている、第20回スポニチ・アユ名人戦決勝大会の記事(甲7の1)と同一の大会に係るものであるから、原告P2の供述のみが根拠となるものではない。
(ウ) 撮影現場への臨場と掲載写真との結びつき
 その一方で、原告P2は、著名人Eファミリーの舞台挨拶について、平成13年3月27日に、P3と共に実際に撮影に赴いたと供述し、P2手帳にも記載があるが、被告新聞に掲載された写真は、原告P2撮影のものではない(原告P2本人)。したがって、P2手帳に、被告新聞への掲載写真に対応する記載が存在するからといって、当該写真を原告P1らが撮影したことや、当該写真に係るフィルムを被告へ交付したことは、必ずしも裏付けられたとはいえない。
 また、インタビュー取材については、原告P1らとは別に、被告記者において写真撮影を行うこともあったことは、前記認定のとおりである。
 このように、P2手帳等から、原告P1らが現実に撮影現場に赴いたことが裏付けられたとしても、新聞に掲載された写真の撮影者は必ずしも明らかとはならず、被告へのフィルム交付が裏付けられるとはいえない(もっとも、原告P1ら撮影の写真が被告新聞に掲載された場合に、当該写真に係るフィルム等の交付があったといえることはもちろんであるし、仮に掲載されなかったとしても、原告P1らが被告の依頼を受けて現実に撮影現場に赴いたのであれば、撮影を行ったであろうし、また、撮影したフィルムを被告に交付したであろうことは、通常、推測することが可能である。)。
(エ) まとめ
 以上によると、本件フィルム等のうち別表1の番号34、70を除くほかは、原告P1らが撮影現場に赴いたことは推認できるが、別表1の番号5、9、19、27を除くほかは、被告新聞に掲載された写真が、原告P1らの撮影によるものか、さらには、フィルムが交付されたかどうかについては、なお検討を要すべきところ、後記ウで述べる判断を考慮すると、これ以上に、上記撮影現場における、原告P1らによる撮影の有無や、本件フィルム等の交付の事実の有無(交付主体が、原告P1らか、原告会社かについての問題も含む。)について判断する必要はないというべきである。
イ 数量について
(ア) ネガフィルム、ポジフィルム
 別表1「ロール数」欄記載の数量は、これを裏付ける客観的な記録が提出されていない。原告会社は、これらの数量につき、原告P1らの記憶や、平均的なロール数から、推測していると考えられるところ、これらの多くは1990年代後半から2000年代前半にかけて撮影されたものであり、撮影毎に異なる交付数量を、記憶だけで正確に再現できるとは考えがたいから、記録による裏付けなくして、正確な数量を認定することは困難である。
 しかも、原告会社は、同一の機会に撮影され、同一の機会に被告に交付し、被告新聞への掲載枚数に左右されることはないはずの交付本数について、平成14(2002)年8月15日掲載の鮎釣り大会に関しては、当初は24枚撮り11本と主張しながら(別表1の番号25)、後になって、さらに36枚撮り1本を追加主張し(同番号63)、平成13(1995)年8月13日掲載の「日本をすくえ!'95」コンサートに関しては、当初は1本と主張しながら(同番号28)、後になって、さらに2本を追加主張し(同番号30)、著名人Dのコンサートに関しては、当初は5本と主張しながら(同番号4)、後になって、さらに1本を追加主張するなど(同番号33)、掲載枚数の追加に伴って交付本数を追加しており、交付本数や撮影枚数について、明確な根拠がないことが窺われる。
 なお、ポジフィルム(別表1の番号5)については、掲載枚数と交付枚数が一致するので、主張どおりの枚数の交付を認めることが可能である。
(イ) プリント
 プリントは、掲載枚数と交付枚数が一致する場合(別表1の番号19、27、29)は、当該数量を認めることができるが、掲載枚数を超える枚数を交付したとの主張(同番号9、45)については、超過部分の具体的枚数を認定する証拠がないといえる。
 なお、著名人Fの写真(別表1の番号31)及び□□□の写真(同番号32)については、プリントで交付したと主張されているが、フィルムのまま交付するのが通常であったというインタビュー取材ないしコンサートに係るものであり、ロール数で主張していることもあって、フィルムで交付したと考えられる。仮に、プリントで交付したとの主張であるとすれば、フィルムでの交付を前提とする主位的主張や予備的主張1の数量は、根拠がないということになる。
ウ 返還約束について
 原告会社は、本件フィルム等は、被告新聞への写真掲載後は速やかに返還するとの合意があったと主張する。そして、その理由として、原告会社には2次使用による収益や無断使用防止の必要がある一方、被告は2次使用を行わない限り保有の必要がないから、特段の事情がない限り、一度掲載したら返還するというのが、当事者の合理的意思であること、実際にも、当初は返還されており、被告も返還を前提とする行動をとっていたことを挙げる。
 しかしながら、以下のとおり、これらの事情は、返還約束があったとの事実を裏付けるものとはいえない。
(ア) 原告会社における保有の必要性について(返還請求の放置)
 一般に、著名人の写真については、パブリシティ権が問題となり得るところ、本件フィルム等に関しては、当該著名人側が、マスコミ報道による宣伝効果を考慮の上、新聞社である被告に対し、用途を被告新聞への掲載に限定して、特別に撮影を許可し、通行証(甲142〜145)などが発行されたと認められる(証人P3)。また、一般人であっても、新聞掲載にあたってはプライバシー権が問題となり得るから、例えば鮎釣り大会の参加者であれば、大会の主催者が被告であるからこそ、被告新聞への写真掲載や、その前提としての撮影について、承諾を得られたと見るべきである。したがって、当該写真は、本来、被告が、被告新聞へ掲載する場合の使用のみが想定されており、原告会社において、使用収益を期待すべきものではないはずである。
 また、原告会社は、フィルム等の管理を業としており、平成16年7月に死亡した著名人Gの写真により、平成17年4月だけで約252万円、その後平成21年6月までに、さらに約86万円の収入を得るなどの業績を有している(甲160〜165)。だからこそ、原告会社としては、本件フィルム等について2次使用による収益を予定しているというのであれば、財産的価値が高く、あるいは、いつ高くなるかもしれないため、時機を逸することなく、いつでも使用収益できる状態に置いておくべきであり、本件フィルム等について、返還約束が存在するにもかかわらず、返還を受けないままでいるというのは不自然である。被告は、原告会社に対し、頻繁に撮影依頼をしているわけではなく(別表1によれば、年間数回から十数回である。)、撮影報酬も安価であり、原告会社にとって、唯一の取引先というわけでもなく、原告会社は、被告から実際にフィルム等の返還を受けたこともあり、返還を求めることについて支障があったとは考えにくい。しかし、本件フィルム等の交付時期は、被告新聞への掲載日直前と考えられるから、主として1990年代後半から2000年代前半であり、返還を求めなかった期間は、単に取引関係にあったというだけでは説明がつかないほど長期である。
 また、既に管理していたプリントを交付した場合(別表1の番号19、27、29、45)であれば、交付したプリントは、原告会社が、現に事業活動に供している財産であるが、原告会社には貸出規定も存在するのであるから(甲1)、返還約束が存在するにもかかわらず、返還を受けずにいることは、いっそう不自然である。特に、平成16(2004)年6月9日掲載の「■■■&●●●」の写真(甲35)と平成3(1991)年4月25日掲載の「●●●・▲▲▲」の写真(甲61)は、同一の写真であるから、原告会社の主張を前提にすれば、同一のプリントを2度にわたって交付し、そのいずれについても返還を受けていないということになるが、返還約束があったプリントについて、13年以上も返還を受けず、返還を受けないまま再び交付し、再び返還を受けないまま3年近くが経過したというのであれば、むしろ、返還約束がなかったと考えるのが自然である。
(イ) 被告における保有の必要性について
 被告写真部では、写真を紙面掲載したか否かにかかわらず、また、自社カメラマンによる撮影であるか外部カメラマンによる撮影であるかを区別することなく、後日の利用に備えてフィルムを保管している(証人P4)。
 したがって、被告において、被告新聞への写真掲載後はフィルム等を返還するというのが合理的意思であるとはいえない。
 前記1(4)のとおり、原告P1らに対し、返還されたフィルムがあることが認められるが、被告としては、被告新聞への写真掲載後、特段の保有の必要性がないと判断したから返還要請に応じて交付したと認めることができる。しかし、本件のような撮影委託契約(前記1参照)の実態等に照らすと、これら写真映像の著作権や著作者人格権が、撮影者に帰属することはともかく、被告において、フィルムの返還の義務を認識していたとは考えにくい(むしろ、上記同契約に基づき撮影し、提供されたフィルムである限り、著作権、著作者人格権が撮影者に帰属するとしても、これらの権利による制限の及ばない限り、未感光フィルムの所有権の帰属にかかわらず、撮影後、被告にフィルムを交付することにより、その現像、掲載、トリミング、保管の要否などを含め、フィルムの一切を被告に委ねたと認めることができる。)。
(ウ) 返還の事実について
 前記1(3)のとおり、被告写真部においては、通常は保管するフィルムについても、事前に他部署から交付要請があった場合は、保管せず当該部署に交付する扱いにしている。したがって、予め、原告会社と被告との間に返還約束があれば、一律に返還されているはずであるし、実際に返還されたものも存在するのであるから、それにもかかわらず本件フィルム等が長期間返還されていないのであれば、本件フィルム等については、返還約束がなかったことが窺われる。
 また、返還されたフィルムが存在するからといって、直ちに返還約束の存在を認めることもできない。被告新聞は日刊新聞であり、日々の出来事を報道することを主たる目的としているから、掲載写真は1回的な使用となるのが通常である。しかも、前記のとおり、掲載写真は、報道目的で撮影を許可された写真といえるから、他の目的に使用収益することも困難である。したがって、予め返還約束がなかったとしても、当該写真を撮影した外部カメラマンの希望があり、かつ被告において、当該フィルムを保有する必要がないと判断できるものであれば、返還約束がなくても、フィルムを当該カメラマンに任意に交付することは、十分考えられることである(前記(イ)参照)。これは、他部署からの返還要請がある場合は当該部署に返還するという、被告写真部における扱いとも合致する。
 なお、P3は、原告P1からフィルムの返還を求められたため、フィルムを探すことを試みた上、時間的な猶予を求めているが(前記1(5))、上述した事情に照らすと、被告の一従業員であるP3の上記行為をもって、被告の返還意思を推認することはできないというべきである。
(2) 以上のとおりであるから、原告会社が、本件フィルム等を被告に交付した事実については、一部これを認めることができるものの、その具体的な数量や、これらについて返還約束があったとの事実は、いずれについても、これを認めるに足りる証拠がない。
 したがって、その余の請求原因について判断するまでもなく、原告会社の請求には理由がない。
3 原告P1らの請求について
(1) 本件写真の撮影者(各請求原因(1))について
 原告P1らの請求に係る各請求原因(2)、(3)は争いがないところ、損害額についての各請求原因(4)は、抗弁に対する判断の後に検討することとし、まず、各請求原因(1)について検討する。
ア 原告P1の請求原因(1)
(ア) 本件写真9の撮影者
 被告は、本件写真9を、原告P1又は同P2が撮影したことは認めているところ、原告P1の供述によれば、本件写真9の撮影者は、原告P1であると認められる。
(イ) 本件写真14の撮影者
 原告P1は、本件写真14を撮影したと供述する。そして、原告P1の撮影に同行したという原告P2が、本件写真14に係る「日本を救え!'95」コンサートについて写真撮影を行っていること(甲49、甲52の1〜8)、P3が、原告P1から本件写真14に係るフィルムの返還要請を受けて、現実にフィルムを探していること(甲36)などからして、上記供述は信用できるといえる。
 他方、P3は、本件写真14に係るコンサートの撮影は、被告が依頼したものではなく、原告P1らが私的に行ったものである旨証言するが、コンサートでは私的な撮影は許されていないのであるし(証人P3)、上記のとおりP3自身がフィルム探し(フィルムが被告に交付されたことを前提とする行為)を行っていることとも整合せず、同供述は採用できない。
 したがって、本件写真14の撮影者は、原告P1であると認められる。
イ 原告P2の請求原因(1)
 被告は、本件写真1ないし8、10ないし13を、原告P1又は同P2が撮影したことは認めているところ、原告P2の供述によれば、本件写真1ないし8、10ないし13の撮影者は、原告P2であると認められる。
(2) 著作権の帰属
 本件写真の著作権が、同写真の撮影者に帰属することについては、当事者間に争いがない。
(3) 著作権の譲渡又は2次使用許諾の有無(抗弁(1))について
ア 著作権の譲渡
 被告は、著作権の譲渡を裏付ける間接事実として、被告において、未感光フィルムの交付、撮影に係る指示、トリミングを行っていたこと、対価の支払状況、原告P1らによる権利行使の不存在などを挙げる。
 しかしながら、以下のとおり、これらの事実は、著作権の譲渡を裏付けるものとはいえない。
(ア) 未感光フィルムの交付について
 フィルムの所有権とフィルムに感光された写真の著作権とは、本来、別個に存在するものである。したがって、被告が所有する未感光フィルムを交付した後、原告P1らの撮影によって未感光フィルムが感光されても、そのことによって、フィルムに感光された写真の著作権が被告に移転することにはならない。
 また、前記1(2)、(4)のとおり、本件で被告が支払った対価には、原告P1らが撮影に使用するフィルムの代金も含まれており、撮影者側でフィルムを用意することが前提となっていたものである。確かに、被告が未感光フィルムを交付したこともあるが、必要数量のフィルムが、毎回必ず交付されていたとは認められないし、被告において、交付本数や使用本数などを記録ないし管理していた事実も窺われない。したがって、未感光フィルムの交付は単なるサービスであったといえ、著作権の帰属に影響するものではない。
(イ) 撮影時の状況(撮影に係る指示)について
 本件においては、被告あるいは被告記者が、原告P1らの撮影にあたり、具体的な指示を出していたことを認めるに足りる証拠はない。
 写真は、一般に、撮影にあたり何らかの指示が行われた場合であっても、同じものが出来上がるわけではなく、撮影者の個性が表れるものであり、そうであるからこそ、プロカメラマンが存在するものである。仮に何らかの指示があったとしても、それにより著作権が指示した者に移転するものではない。
 また、撮影企画、被写体との交渉、場所の設営等を、被告の発案ないし費用負担で行ったとしても、これらは、被告新聞へ記事を掲載するための準備行為であって、そもそも被告が行うべきものである。したがって、これらを被告が行うことで、被告への著作権の譲渡が裏付けられるわけでもない。
(ウ) 撮影後の状況(トリミング等)について
 被告新聞への掲載にあたっては、原告P1らが撮影した写真に、被告によるトリミングが行われているところ、トリミングの可否や方法等は、被告に任されていたと認められる。
 しかしながら、トリミングは、新聞掲載のために必要な作業であるところ、原告P1らは、新聞掲載の目的で撮影を行っていたため、それに必要な限度において改変を承諾していたに過ぎないといえ、被告の判断でトリミングが行われていることにより、被告への著作権の譲渡が裏付けられるとはいえない。
(エ) 対価の支払形態について
 写真の著作権の譲渡にあたっては、通常は、撮影者や被写体が誰であるか、希少性、芸術性などの要素をもとに、写真毎に対価の算定が行われるものである。
 しかしながら、本件で被告が支払った対価は、1作業あたりで計算され、交付されたフィルムの本数や写真の枚数、被告新聞への掲載枚数などとは無関係に、被告の規定に基づいて決定されている。また、前記のとおり、被告新聞は、日々の出来事を報道することが主たる目的の日刊新聞であるから、同一の写真について、複数回にわたって掲載したり、一定期間継続して掲載することは、通常は予定していない。そのため、依頼した対象物が依頼した意図に沿って撮影されていれば、通常は依頼の目的を達成するのであり、それ以上に、写真の出来栄えや希少価値を考慮して、対価を支払っていたわけではない。
 これらのことからすれば、写真撮影にあたり被告が支払っていた対価は、主として撮影作業に対する報酬であり、当該写真に係る著作権譲渡の対価ではないといえる。
(オ) 権利主張の不存在について
 写真の著作権の帰属主体は、当該写真を保有する主体とは必ずしも一致するものではなく、本件写真について、被告がフィルムを保有したままになっていることは、写真の著作権が被告に移転したことを意味するものではない。
 特に本件では、前記のとおり、原告P1らが、本件写真の著作権を有していても、当該写真は、被告新聞による報道のために撮影されたものであり、原告らが、自由に使用収益の対象とすることができるわけではないから、原告P1らが、本件写真について、フィルムの返還を強く求めることがなかったり、著作権が自己に帰属すると主張しなかったりしても、不自然ではない。
イ 2次使用許諾
(ア) 再掲載の場合
 前記ア(エ)のとおり、被告新聞は、日刊新聞であって、日々の出来事を報道することを主たる目的としており、同一の写真を、複数回にわたって掲載したり、一定期間継続して掲載することは、通常は予定していない。したがって、被告新聞への掲載にあたっての著作権者の使用許諾も、合理的な期間内における1回的なものと見るべきである。これは、再掲載にあたりカメラマンの許諾を得るという、被告写真部における一般的な取扱い(証人P4)とも整合する。
 そして、被告が、再掲載にあたり、原告P1らの個別の許諾を得ていなかったことには争いがないし、著作権の譲渡の間接事実とされた前記アの各事実が、2次使用に係る包括的な許諾を裏付けるものとも認めがたい。
 したがって、本件において2次使用許諾があったとの事実は認められない。
(イ) 別カット写真掲載の場合
 別カット写真の使用は、2次使用とは異なる使用形態であるが、被告は、別カット写真の使用についても、2次使用の場合と同様に、使用許諾の抗弁を主張していると考えられる。
 しかしながら、前記(ア)のような被告新聞の性格や、複数枚の候補写真(フィルム)の中から適切なものが選択されるという掲載の形態からして、被告が受けた使用許諾は、「フィルムに感光された写真を、全て1回ずつ使用することができる」というものではなく、「撮影に係る出来事を記事にする際に、フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」というものと考えられる。
 したがって、記事に使用しなかった写真を、後に別の記事に転用することは、許諾の範囲を超えるものといえるのであって、被告の使用許諾の抗弁は認められない。
(4) 消滅時効の成否(抗弁(2))について
 被告は、原告P1らが、2次使用あるいは別カット写真の使用を、各使用日において知っていたことを前提に、消滅時効を主張している。
 しかしながら、撮影から間がない時期に行われる最初の掲載については、掲載日を予測し、自ら被告新聞を購入して確認することが可能であるものの(原告P1本人、同P2本人)、前記イのとおり、そもそも原告P1らは、被告に2次使用や別カット写真の使用を許諾しておらず、そのようなことが行われるとは予想していないはずであるから、被告が断りなく行った2次使用や別カット写真の使用を、各使用日において知ることができたとは認めがたい。しかも、別表2のとおり、各使用日と初回掲載日との間には、短いものでも半年以上、長いものでは4年近くが経過しているし、インターネット上での掲載が行われるなど、媒体も紙面に限られないのであるから、認識可能性はいっそう乏しいといえる。
 そして、原告P1らは、P3からの手紙(甲36)により、初めて被告の2次使用や別カット写真の使用を知ったと主張し、原告P2はこれに沿う供述をしているところ、同供述の信用性を否定する事情はない。
 したがって、原告P1らが被告の2次使用や別カット写真の使用を知ったのは、上記P3からの手紙が発送された平成19年5月8日以降であると考えられ、被告が時効を援用した平成21年3月27日の本件弁論準備手続期日において、未だ時効は完成していないから、被告の消滅時効の抗弁には理由がない。
(5) 損害額(各請求原因(4))について
ア 使用料相当額
 以上によると、被告が、原告P1らに無断で本件写真を使用もしくは再使用したことにより、原告P1らの著作権(複製権)を侵害したということができる。その損害は、再使用にあたっての許諾料(再使用における使用料相当額)となる。
(ア) 別カット写真使用の場合
 証拠によれば、写真コンテンツを有償使用許諾する複数の業者があり、新聞記事への使用を前提とした、写真1カットあたりの使用料の例は、カラー使用で、2万5000円(甲41)、2万1000円(甲42)、3万円(甲43)、モノクロ使用で、2万円(甲41)、6300円(甲42)、2万1000円(甲43)である。なお、甲44に掲載されているのは、新聞掲載についての料金ではあるものの、新聞記事への使用ではなく新聞広告への使用を前提としたものであり、本件には適切でない。
 原告会社の規定(甲1)では、新聞掲載の場合の使用料は、通常は3万円以上、著名人等は6万円以上となっているが、著名人等の写真について使用料が高額になっているのは、一般には撮影の機会を得ることが困難なためと考えられるところ、本件では被告自身により撮影の機会が提供されているのであるから、著名人等の写真であることを理由として加算を行うことは適切でない。また、本件において被告が支払っていた一般的な撮影報酬は3万円であり、この中には、撮影作業の対価、交通費、フィルム代の他、撮影された写真の使用料も当然含まれていたと考えられるところ、同趣旨の写真を再現することが不可能である等の場合でない限り、既に撮影された写真の使用料が、新たに依頼して撮影された写真を使用する場合より高額になるのは不合理である。
 これらの事情を考慮すれば、本件写真についての使用料相当額は、カラー使用で2万1000円、モノクロ使用で、カラー使用の7割(甲41では8割、甲42では3割であるが、中間値である甲43、44の値を採用)である1万4700円と認める。
(イ) 2次使用の場合
 2次使用料は、当初使用料より割安に設定されている場合もあるが(甲44)、他方で、2次使用に係る料金設定がない場合(甲42)、期間制限がある場合(甲41)、用途制限がある場合(甲43)など、扱いは一定しておらず、2次使用であれば一般的に、通常使用料より減額されるものとまでは認められない。また、本件における2次使用は、写真こそ同一であるものの、当初とは異なる記事において、異なる趣旨で、期間を空けて使用されているから、新たに使用するのと変わらないといえる。したがって、本件においては、同一写真の使用であるという理由により2次使用料を減額するのは相当でなく、前記(ア)と同一の使用料とするのが相当である。
 なお、本件写真9については、新聞紙面ではなくインターネットでの2次使用であるが、当初掲載記事をそのまま自社サイトに転載したものであるし、一般にインターネットでの使用料金は掲載期間で決まるところ(甲41〜44)、本件写真9の掲載期間は不明であるから、新聞記事への使用の場合と同様の価格を採用することとする。
イ 原告P1の損害 10万0400円
 原告P1は、被告の2次使用及び別カット写真の使用について、無断使用であることを理由に、通常使用料の10倍相当額を請求しているが、無断使用であることによって、通常使用料以上の損害が生じているとは認められない。
 したがって、原告P1の損害は、次のとおり合計10万0400円となる。
(ア) 2次使用による使用料相当額 2万1000円
 原告P1は、本件写真9の2次使用により複製権を侵害されたところ、これは1枚をカラー使用したものなので(甲11の2)、使用料相当額は2万1000円となる。
(イ) 別カット写真の使用による使用料相当額 2万9400円
 原告P1は、本件写真14に係る別カット写真の使用により複製権を侵害されたところ、本件写真14に係る別カット写真は、カラー使用であることが明らかでないので、モノクロ使用で計算することとし、使用枚数も不明であるが、2枚と認めるので(甲62参照)、使用料相当額は合計2万9400円となる。
(ウ) 弁護士費用 5万円
 本件における審理の経過、審理の内容及び難易度、その他本件における一切の事情を考慮すれば、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は5万円と認める。
ウ 原告P2の損害 45万0300円
 原告P2も、原告P1と同様に、通常使用料の10倍相当額を請求しているが、前記イのとおり認められない。
 したがって、原告P2の損害は、次のとおり合計45万0300円となる。
(ア) 2次使用による使用料相当額 20万1600円
 原告P2は、本件写真1ないし8、10の2次使用により複製権を侵害されたところ、本件写真1、3の2次使用は各1枚のカラー使用(甲3の2、甲5の2)、本件写真2、4、6、7、10の2次使用は各1枚のモノクロ使用(甲4の2、甲6の2、甲8の2、甲9の2、甲12の2)、本件写真5の2次使用は2枚のモノクロ使用(甲7の2・3)と1枚のカラー使用(甲7の4)、本件写真8の2次使用は1枚のモノクロ使用(甲10の2)と1枚のカラー使用(甲10の3)なので、使用料相当額は合計20万1600円となる。
 計算式:21,000×4+14,700×8=201,600
(イ) 別カット写真の使用による使用料相当額 9万8700円
 原告P2は、本件写真10ないし13に係る別カット写真の使用により複製権を侵害されたところ、本件写真10に係る別カット写真は1枚のモノクロ使用(甲15の2)、本件写真11、13に係る別カット写真は各1枚のカラー使用(甲13の2、甲16の2)、本件写真12に係る別カット写真は2枚のカラー使用(甲14の2・3)なので、使用料相当額は合計9万8700円となる。
 計算式:14,700×1+21,000×4+=98,700
(ウ) 弁護士費用 15万円
 本件における審理の経過、審理の内容及び難易度、その他本件における一切の事情を考慮すれば、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は15万円と認める。
4 結論
 以上のとおりであるから、原告らの請求のうち、原告会社の請求には理由がなく、原告P1らの請求は、主文記載の限度で理由がある(なお、原告P1らは、年6%の割合による遅延損害金を請求しているが、民法所定の年5%によるべきである。)。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 達野ゆき
 裁判官 北岡裕章
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