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【事件名】動画共有サイトの著作権侵害事件(TVブレイク)(2)
【年月日】平成22年9月8日
 知財高裁 平成21年(ネ)第10078号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成20年(ワ)第21902号)
 (口頭弁論終結日 平成22年4月28日)

判決
控訴人 ジャストオンライン株式会社
控訴人 X
上記両名訴訟代理人弁護士 内藤篤
同 根本かほり
同 南摩雄己
同 壇俊光
同 今村昭悟
同 木下英
同 迎純嗣
同 岸本佳浩
同 舟木一弘
同 貝塚朋香
同 篠原敏晴
被控訴人 社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 田中豊
同 藤原浩
同 市村直也


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(本判決の略称は、当事者の呼称を含め、審級に応じた読替えをするほか、原判決に従う。)
1 本件は、音楽著作物の著作権等管理事業者である被控訴人が、動画投稿・共有サイトを運営する控訴人会社(旧商号・株式会社パンドラTV)が、運営主体となって提供する本件サービスにおいて、控訴人会社が開設した本件サイトのサーバに、各ユーザが投稿した被控訴人の管理する本件管理著作物の複製物を含む動画ファイルを蔵置し、これを各ユーザに送信していることが、本件管理著作物の著作権(複製権及び公衆送信権(送信可能化を含む。)を侵害し、かつ、不法行為が成立すると主張して、@控訴人会社に対しては、著作権(複製権及び公衆送信権(送信可能化を含む。))に基づいて、本件管理著作物を、本件サーバの記憶媒体に複製し又は公衆送信することの差止めを求めるとともに、A控訴人会社及びその代表者である控訴人Xに対しては、不法行為(著作権侵害)に基づいて、過去の侵害に対する損害賠償金及びこれに対する遅延損害金並びに将来の侵害に対する損害賠償金の連帯支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人会社は、本件サービスを管理支配している主体であるとし、当該サービスによる著作権侵害行為を支配管理できる地位にありながら著作権侵害行為を誘引、招来、拡大させてこれにより利得を得る者であって、侵害行為を直接に行う者と同視できるとして、@の差止請求を認容し、また、控訴人会社と控訴人Xとを共同不法行為者として、Aの損害賠償請求を、原審の口頭弁論終結日までの損害8993万円及び内金5748万円に対する平成20年4月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容したため、控訴人らが、これを不服として控訴に及んだ。なお、原判決は、Aの損害賠償請求のうち、原審の口頭弁論終結日の翌日以降の損害金の支払を求める部分については、訴えを却下しているところ、当該部分に対しては、被控訴人から控訴・附帯控訴の提起がない。
2 前提となる事実
 被控訴人の、本件各請求について判断する前提となる事実は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決3頁1行目から10頁16行目までに摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁14行目の「被告会社は、」から17行目の「開設し、」までを「控訴人会社は、平成18年2月1日、インターネット上にURLを「http://www.pandoratv.jp/」とする「パンドラTV」との名称のサイト(平成19年4月17日からURLを「http://www.tvbreak.jp/」とする「TVブレイク」との名称に変更。以下、総称して「本件サイト」という。)を開設し、」に改める。
(2) 原判決10頁2行目の「平成20年4月25日現在、」の前に「被控訴人の調査によると、」を加える。
(3) 原判決10頁8行目の「平成20年11月から」の前に「同様に、」を加える。
3 本件訴訟の争点
〔差止請求について〕
(1) 侵害行為の主体(主位的主張)
(2) 侵害行為の主体(予備的主張)
〔損害賠償請求について〕
(3) 控訴人会社の損害賠償責任の有無
(4) 控訴人Xについての不法行為の成否
(5) 控訴人Xについての対第三者責任(会社法429条1項)の成否(上記(4)と選択的主張)
(6) 損害の額
第3 当事者の主張
1 原審における主張
 当事者の原審における主張は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決11頁2行目から39頁13行目までに摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決11頁18行目の「本件サービスにおいては」の次に「、いわゆる動画配信サイトと異なり、」を加える。
(2) 原判決12頁22行目の「受けていないないならば」を「受けていないならば」に改める。
(3) 原判決17頁10行目の「真しな気持ちは全くない。」を「真しな努力は全くされなかった。」に改める。
(4) 原判決29頁6行目の「プロバイダ制限責任法」から11行目の「発信者となるのではない。」までを以下のとおり改める。
 「プロバイダ責任制限法が対象とするのは、著作権侵害等の権利侵害における損害賠償請求についてであるところ、損害賠償については、著作権侵害の主体ではなく、幇助としての責任追及が可能な場合もある。
 したがって、差止請求に関しては、著作権侵害の主体として帰責されるべきであったとしても、直ちに当該主体を損害賠償責任についての主体として追及する必要はないのであるから、著作権侵害の主体と認められれば直ちに発信者と解すべきではない。」
2 当審における主張
(1) 争点(1)(侵害行為の主体(主位的主張))について
〔控訴人らの主張〕
ア 被控訴人の権利行使に関する制約
 被控訴人は、我が国の音楽著作物の約99%を管理する圧倒的支配力及び交渉力を有するほか、著作権等管理事業法の適用を受けるなど、公的団体ともいえるから、その権利行使には、平等な取扱いという制約が法律上当然に予定されている。
 被控訴人は、本件サービスと同様のサービス(You Tube 等)を提供している事業者に対しては、適法な事業と認めて許諾契約を締結しながら、控訴人会社に対しては、明らかに不当な条件を提示し、契約を拒んだ。
 被控訴人のこのような不当な行為を前提とすると、被控訴人の本訴請求は、著作権等管理事業法16条又は民法1条2項に反し、許されない。
イ 動画投稿サービスの意義及び役割
 本件サービスは、ユーザから投稿される映像を他のユーザ等に視聴させるいわゆる動画投稿サービスであり、著名な同種サービスが存在する。かかるサービスは、視聴できる動画の多様性から視聴者の大きな支持を受けており、表現者に対してもより多くの表現の場を提供する点で、表現の自由及び著作権の目的である文化の発展に資するものである。
 確かに、投稿される動画の中には、既存メディアに流通している映像や当該映像を利用した映像も多く含まれていることから、著作権侵害の可能性は高い。
 しかしながら、通常の著作権者は、動画投稿サービスにおいて違法なファイルを発見しても、被控訴人のように、「教条的」な権利行使をしないものであり、実際、本件サービスに対し、著作権者から削除要求がされたのは、40件程度にすぎない。企業の中には、動画投稿サービスにおけるプロモーション的価値を利用しようとする動きすら生まれている。
 このように、本件サービスを含め、動画投稿サービスは社会内に受容されており、被控訴人も、事業者と包括許諾契約を締結するなどしている。原判決は、動画投稿サービスの有する当該特色や、社会内に受容されている現実を無視した不当な判決というべきである。
ウ 侵害行為の主体の判断について
(ア) 侵害行為の主体の把握について
 原判決は、@サービスの著作権侵害の蓋然性、Aサービスの支配管理、B著作権侵害の予測可能性、C著作権侵害の現実の認識と侵害回避措置の不存在、D利益の享受、という独自かつ極めて不明瞭な判断基準を用いて、控訴人会社が著作権侵害行為の主体であると認定している。
 しかしながら、上記判断基準の前提となるいわゆるカラオケ法理自体、曖昧なのであるから、侵害行為の主体を把握する際には、慎重な判断が求められるところ、原判決には、そのような配慮はされていない。
(イ) 本件サービスの性質・内容について
 本件サービスは、単に他者が作成した映像を視聴することのみを目的とするものではなく、ユーザが映像という形態で情報を発信し、意見を交換し、感動を分かち合うなどの交流を目的とするサービスである。
 したがって、本件サービスは、P2Pファイル交換サービスのような「作品の公表という要素がなく、もっぱらファイル交換を目的とし、流通しているファイルもそのほとんどが著作物を違法複製したものであり、ファイル著作者の経済的利益を侵害することのみに対して向けられる危険性が高いサービス」とは根本的に異なるものである。本件サービスは、ユーザが適法に利用することが想定可能な点で、電子掲示板に近いもの(投稿物の媒体が、映像であるか、文字であるかの違いにすぎない。)であり、原判決が認定した侵害率も、49.51%にすぎない。控訴人会社は、適法な利用、すなわちユーザによる自己作成映像の投稿を奨励・志向しており、他人の作ったアニメ番組や映画作品の投稿は禁止していた(乙1)。
 したがって、本件サービスにおいて生じた責任はもっぱらユーザの責任である。この点について、原判決は、本件サービスにおいて、コンテンツの選択に関する控訴人会社の自由が限定されているものの、動画配信サイトと同様の機能を有するとしたが、その趣旨は不明である。
 そもそも、動画配信サイトは、その配信主体である管理者が配信内容を決定することから、管理者自身が配信行為の主体となるが、本件サービスのような動画投稿サイトは、個々のユーザ自身が独自の判断で投稿する点で、動画配信サイトとはその本質が大きく異なっており、自己の独自の趣味・嗜好ないし観点から思い思いの動画を投稿するユーザこそが、配信行為の主体といえる。管理者は、動画ファイルの内容を把握することも困難であり、ユーザに対して投稿場所を提供しているにすぎないから、その役割は全く異なる。そのような本質を無視して動画配信サイトと同一に扱い、侵害主体性を肯定することは明らかな誤りである。
 また、原判決は、控訴人会社がカテゴリーを設定したことについて、不自然に重大な意味を持たせ、控訴人会社があたかも著作権侵害ファイルの投稿を推奨していたかのような判断をしたが、ユーザが選択するカテゴリーがあらかじめ設けられていたとしても、いずれにせよユーザが選択した内容の動画が投稿されることに変わりはなく、カテゴリー設定行為自体に重大な意味を持たせることは相当ではない。
(ウ) 著作権侵害の蓋然性について
 原判決は、キーワード検索により、容量・時間ともに制約のないファイルを無料で簡単に視聴できる点、動画投稿が匿名でされ得ることが違法なアップロードを誘発する点、動画ファイル送信時に表示される警告及び会員規約の記載から、著作権を侵害する動画ファイルが送信される可能性が高いことを控訴人会社が認識していた点などを指摘する。
 しかしながら、キーワード検索機能自体は、ほかの適法なサービスにも共通して見られる特徴であるし、仮に、ファイルの容量・時間を制限しても、動画を分割すれば同内容の映像をアップロードできるものである。また、匿名性は、インターネットの特性上本質的に回避できないものであり、本件サービスにおける登録事項と権利侵害との間に因果関係は存在しない。
 さらに、本件サービスと同様の規約や警告表示は、電子掲示板等、不特定多数の者の利用が予定されるサービスでは一般的なものである。利用者を制限しない動画投稿サービスの宿命上、自己作成映像や批評等の自己表現目的の映像のみが投稿されるわけではなく、既存の著作物が丸ごと投稿される事態が生じ得ることは当然予想される。このような行為を積極的に禁止するために、警告文言を発したり、規約で禁止することは、むしろ「侵害回避のための適切な措置」であり、それをもって、著作権侵害の蓋然性が「高い」ことを認識していたと判断することは相当ではない。
 しかも、プロバイダ責任制限法は、著作権侵害の蓋然性が存在する場合でも、通常の不法行為の要件に加重された要件を満たさなければ損害賠償責任を負わないと定めているのであるから、著作権侵害が生ずる蓋然性があることを認識していただけでは控訴人会社が責任を負う根拠とすることもできない。プロバイダがサービスを提供する以上、著作権侵害や名誉毀損を伴う情報が流通する一般的な危険性が存在することはむしろ当然であって、だからこそ、表現の自由を保障するため、適切な対応を行えば当該サービスを提供することが許されるものである。原判決はプロバイダ責任制限法の趣旨を無視したものといわざるを得ない。
(エ) 構成の特徴について
 原判決は、控訴人会社が、「ムービー」、「アニメ」、「音楽」、「ゲーム」など一般ユーザの自主制作動画のみで構成されるとは想定し難い分類や、「タレント」、「韓流スター」など放送物の複製でなければおよそ一般の興味を引くものではない分類が存在することをもって、他者の著作物の利用を誘発している、自主制作した動画が占める割合は少ない、著作権侵害を繰り返すユーザに対し、再発防止手段を有していないなどと指摘する。
 しかしながら、上記各カテゴリーに分類された映像の中には、明示又は黙示の許諾があるもの、積極的に公開を望むフリーの動画等も少なくない。しかも、近年は、自主制作技術が発達し、比較的容易に多数の楽曲やゲームが制作、公表されている。
 したがって、これらのカテゴリーに該当する動画がすべて著作権侵害に該当するかのような原判決の認定は誤りである。
(オ) 黙示に許諾された動画が多数存在することについて
 本件サービスに投稿されている映像の多くは、著作物の劣化的な複製でしかなく、その画質・音質は、複数回の鑑賞に堪えられるものではない。
 しかも、著作物の一部分や創作性がない部分のみが複製されていることもあるから、本件サービスに投稿されている映像の多くは、著作権侵害の態様が弱いか、あるいはそもそも侵害自体が認められないのであって、通常の権利者がそのような映像に対して権利行使をするとは考え難い。また、本件サービスには、自主制作や翻案に基づく映像など、いわゆるMAD作品やマッシュアップ作品も投稿されている。
 かかる作品は、著作物の創作における波及効果も期待し得る等の利点が存在するほか、過度な取締りは、原作品のファン離れを招く原因にもなり、複製の場合とは異なり、権利者によって対応が分かれる。「同人」といわれる活動が権利者により黙認されていることからも明らかなとおり、本件サービスにアップロードされている動画についても権利者による黙示の承諾が期待できるものが相当程度ある。
 以上からすると、本件サービスは、社会的に容認された存在として、権利者の多くが黙示の許諾をしているか、又は積極的に利用を認容している動画が多数存在していると認めることができる。
エ 複製及び公衆送信における管理支配について
(ア) システムの設計及びツールの提供について
 原判決は、ユーザが本件サービスを利用する際、控訴人会社の提供するシステム設定に従うほかなく、ユーザが個別に利用条件や設定を変えることはできないことを、控訴人会社が管理支配性を有する理由の一つとする。
 しかしながら、いわゆる会員サービスにおいて、会員規則に拘束されることは当然であり、動画が控訴人会社の定める形式でアップロードされることも、投稿サービスに付随的な事情であるから、控訴人会社が本件サービスを一定程度管理していることをもって、侵害主体として評価することは相当ではない。
(イ) 動画内容に関する積極的関与について
 原判決は、控訴人会社が、本件サービスにおいて、視聴推奨措置を設けていることをもって、控訴人会社が動画の内容の選定に関与しているとするが、当該措置は、ユーザの交流を円滑にする等の目的によるものにすぎず、控訴人会社を侵害行為の主体であると同視できるような強い管理・支配性を裏付けるものではない。
 また、原判決は、控訴人会社がアダルト動画をチェックしていたことをもって、控訴人会社が本件サイトに投稿された動画全般を日常的に監視しており、その能力も有するとするが、該当性の判断が容易なアダルト動画と、削除すべきか否かの判断に高度な能力を必要とする著作権侵害の場合とを同列に論じることはできない。
オ 控訴人らの受ける利益の状況について
 確かに、控訴人会社は、本件サービスにおいてバナー広告等から収入を得ているが、被控訴人の主張する楽曲使用料である20円又は原判決が認めた楽曲使用料である12円のいずれに基づいて算出する金額と比較しても、著しく安い額(月額平均約40万円以下)を得ているにすぎず、被控訴人が主張する損害額と明らかに対価的均衡を失している。また、ユーザは無料だから見るのであり、有料の場合にはリクエスト数が減少するものと推測されるから、本件サイトにおけるリクエスト数を前提として楽曲利用料を算出することは相当ではない。
カ 侵害態様について
 原判決は、視聴調査により、4076件の本件管理著作物の複製が認められたとして、侵害割合を49.51%と認定しているが、当該割合は、上記著作物のうち、創作性のある部分において複製がされた点についての立証がない数字であるから、実際の侵害割合はこれよりも低い。また、控訴人会社は、限られた人的経済的資源において、可能な限り適切な削除措置を講じており、当時の動画投稿サービスにおいては、特に遅い対応だったとはいえない。さらに、控訴人会社は、権利侵害防止措置に対しても遺漏なく取り組んでおり、侵害主体性を肯定する要素は存在しない。
キ 包括的差止めの可否について
 原判決は、著作物名により差止め対象を特定し、さらに、対象となるファイルの範囲を本件サイト全体にわたるものとして、包括的な差止めを認めた。
 しかしながら、本件サービスにおいては、黙示の許諾のあるファイル、自作のファイルなど、多数の適法なファイルが存在するところ、包括的差止めは、これらのファイルを何ら実体法規に基づかずに実質的に削除させるのと同様の結論を導くことになり、動画投稿サイトが有する表現の自由及び著作権法の目的たる文化の発展にとっては萎縮効果が高いため、認められるべきではない。
〔被控訴人の主張〕
ア 被控訴人の権利行使に関する制約
 被控訴人は、著作権等管理事業法上の指定管理事業者として、公平・公正に権利行使を行っており、差別的取扱いは一切していない。被控訴人は、本件サイトのような動画投稿サイトにおける管理著作物の利用許諾条件をあらかじめ公表した上で、すべての利用者に対し、同一の条件で利用許諾業務を行っている。現に、控訴人ら以外の多くの動画投稿サイトと、同一条件による利用許諾契約を締結している。
 控訴人らは、被控訴人が示した利用許諾条件の受入れを拒絶し、何らの著作権侵害防止対策を採らないまま侵害行為を継続したため、被控訴人はやむを得ず本訴提起を余儀なくされたのである。
 被控訴人は、控訴人会社に対し、他の事業者と同様の条件で包括的利用許諾契約を締結し、適法に本件管理著作物を利用するよう要請したが、控訴人会社は、被控訴人が要求する権利侵害防止対策を実施することは不可能であり、かつ、対策を講じなくても本件サイトは適法である等と主張し、利用許諾契約の締結を拒絶した。
 本件サービスと同種の動画投稿サイトは、控訴人らが不可能であると主張する著作権侵害防止対策を実施することを前提として、被控訴人と利用許諾契約を締結しており、控訴人らにおいても報道によりかかる動向を認識していた。控訴人らは、自らの判断により同契約の締結を拒否したものである。
イ 動画投稿サービスの意義及び役割
(ア) 仮に、動画投稿サービス一般に控訴人ら主張の「社会的な価値」が認められるとしても、本件サービスが著作権を侵害する事実に何らの変わりはない。控訴人らが主張する「You Tube」等における本件管理著作物の利用が著作権侵害とならないのは、これらのサービスが「社会的な価値」を有するからではなく、各事業者が自らのサービスにおいて生じる著作権侵害に関する責任を自覚し、被控訴人の要請に応じて本件管理著作物の利用許諾契約を締結しているからである。
 控訴人らが指摘する他の事業者は、サイトにおける著作権侵害防止対策として、単に侵害ファイルを削除するだけではなく、より積極的にコンテンツホルダーとの間で利用許諾契約を締結して、サイトにおける著作物の利用を適法化する努力を行っていた。その意味で、膨大な著作権侵害の発生を放置し続けている控訴人らの行為の悪質性は極めて高い。
(イ) 控訴人らは、原判決が認定した本件サービスの侵害割合(49.51%)が低いことを強調するが、当該侵害率は、技術と費用の制約の中で行われた被控訴人の調査において、明らかに本件管理著作物が利用されていると判明したファイル数のみを基礎にして算定した極めて控えめな数字である。実際の侵害割合がこれよりも高いものであることは、証拠(甲8の4〜6頁)上も明らかである。また、本件サービスにおける「音楽」のカテゴリーにおける本件管理著作物の侵害率は89.87%と、ファイルローグ事件に匹敵する高率である。
ウ 侵害行為の主体の判断について
(ア) 侵害行為の主体の把握について
 原判決は、本件サービスにおける著作権侵害主体を検討するに当たり、問題とされる行為の内容・性質、侵害の過程における支配管理の程度、当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し、侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として、侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきであるとした上で、本件サービスに関する諸事情を総合考慮して、控訴人会社を著作権侵害の主体と判断したものであって、原判決の規範と当てはめとの間に不一致があるとの控訴人らの非難は当たらない。
(イ) 本件サービスの性質・内容について
 インターネットにおけるサービスの事業者が、当該サービスにおいて生じる著作権侵害を排除する権限と能力を有し、かつ、現にそのサービスにおいて重大な著作権侵害が発生していることを認識しつつ、ことさら放置している場合、当該事業者は、著作権侵害の主体としての責任を負うべきである。上記判断基準を充足する以上、適法に利用される可能性の有無等、当該サービスの内容は考慮すべきではない。
 控訴人らが、本件サービスがP2Pファイル交換サービスよりも電子掲示板に類似すると主張する根拠は、本件サービスにおいて、「自作動画の発信」がされる可能性がある点のみのようである。
 しかしながら、本件サービスにおいて、実際には自作動画が発信される率は極めて小さく、投稿された動画のほとんどはテレビ番組やDVD 等を無断で複製した侵害ファイルによって占められている。本件サービスにおいて、現実に他のユーザから視聴される動画は、他人の著作物や放送等を複製することが当然の前提とされているカテゴリーのものが圧倒的な多数を占めているのであって、「電子掲示板に類似する」とか、「ユーザの相互交流」が本件サービスの目的だとする控訴人らの主張は、およそ実体の伴わないものである。
 なお、控訴人らは、著作権侵害の主体性を認定するに当たり、「内容の決定権」を有することを重視すべきであると主張するが、当該サービスに流通させる情報につき個別の選定行為をしていないという理由で、サービスの提供者が著作物の利用主体としての責任を免れることがないのは、「クラブ・キャッツアイ事件」最高裁判決をはじめとする過去の多くの裁判例によって、すでに明らかである。
(ウ) 著作権侵害の蓋然性について
 原判決が指摘するとおり、本件サービスは、@ファイル変換専用の本件ユーザソフトが準備されていること、A動画ファイルの容量・時間に制限がないこと、Bユーザに既知のキーワードでファイルを検索できるツールが与えられていること等から、利用者に対し、著作権侵害又は著作隣接権侵害に対する強い誘因力を働かせるものであり、著作権又は著作隣接権を侵害する事態を生じさせる蓋然性が極めて高いサービスである。
 また、インターネットにおいても、ユーザの匿名性を前提としないサービスが多数存在しており、サービス提供者が、あえてユーザの匿名性を保障したサービスを提供するのであれば、それにより生じる他人の権利侵害を防止するために、相応の措置を講じる責任を負うべきである。本件サービスにおいて、匿名性が不特定多数のユーザによる違法なアップロードを誘発していることは明らかである。
 そして、本件サービスにファイルをアップロードする際に表示される注意文も、映画、音楽などの著作物の著作権侵害を確信的に行っている者に対しては、ほとんど実効性を期待できないものである。
(エ) 黙示に許諾された動画が多数存在することについて
 控訴人らは、本件サービスにおける著作物等の利用につき権利者の「黙示の許諾」があることを基礎付ける具体的事実について、何ら主張立証していない。控訴人らは、権利者から許諾を受けていないことを「黙示の許諾」と述べているにすぎない。
エ 複製及び公衆送信における管理支配について
(ア) システムの設計及びツールの提供について
 控訴人らは、原判決が、@ユーザが控訴人会社の定めた会員規約に拘束される点、A控訴人会社が定めた形式で動画ファイルがアップロードされる点、B検索ツールを有している点のみから、著作権侵害の主体性を認定したかのような主張をするが、原判決は、上記3点のほか、控訴人会社が物理的ないし電気的な観点において本件サーバを管理支配し、公衆送信行為をしていること、控訴人会社が、ある程度動画内容を認識した上で、一定内容の動画ファイルの視聴を推奨していること、控訴人会社が本件サイトの動画全般を日常的に監視し、その能力を有していること、控訴人X自身、本件管理著作物が複製された動画内容を具体的に認識した上で公衆送信に関与していたこと等の事実を認定した上で、主体性を認めたのである。
(イ) 動画内容に関する積極的関与について
 控訴人らは、原判決が認定した本件サービスにおける視聴推奨措置について、種々の主張をするが、いずれも立証を伴わないものである。また、原判決は、これらの事情のみを理由に控訴人らの侵害主体性を認定したものではない。
 また、アダルト動画を削除する場合、動画内容のチェックが不可欠であるから、これを根拠に控訴人らが本件サービスの動画全般を日常的に監視しており、かつ、その能力を有していることを認定した原判決の判断は相当である。
 さらに、控訴人らは、控訴人Xが、本件サービスにおいて、24件の侵害動画(シェア動画を含む)を自らアップロードしていた点につき、控訴人Xが個人的に行った行為であって、控訴人会社としての行為ではないと主張する。
 しかしながら、控訴人Xのチャンネルは、名称及び内容のいずれからしても、控訴人会社の代表者として、ユーザに対するメッセージを発信するためのチャンネルであることは明らかである。
オ 控訴人らの受ける利益の状況について
 控訴人らが侵害行為により利益を得ており、侵害行為の主体と認定される以上、その利益額が被控訴人の被った損害額に見合ったものであるか否かは無関係である。
カ 侵害態様について
(ア) 本件サービスにアップロードされている動画ファイルに複製された本件管理著作物のほとんどが、楽曲をフルコーラスで利用するものであったことは、被控訴人の調査により明らかである(甲19)。また、先に指摘したとおり、本件サービスにおける本件管理著作物の侵害ファイルの割合は、実際にはこれよりも相当高い。
 さらに、控訴人らの侵害主体性に関して検討されるべき「侵害率」は、本件サービスに存する侵害ファイル全体の割合であるところ、本件サービスには、テレビ番組やDVD 等が全体的にアップロードされた悪質な侵害ファイルが多数存在しており、これらの著作権、著作隣接権を侵害するファイルの数を含めて計算すれば、侵害率は極めて高いものとなる(「アニメ」のカテゴリーなどにおいては、上記の意味における侵害率は、ほぼ100%である。)。
(イ) 控訴人らが本件サービスにおいて実施していた削除措置は、到底著作権侵害の拡大を防止する実効性を有していたものとはいえない。
キ 包括的差止めの可否について
 原判決は、本件管理著作物の複製及び公衆送信の禁止を命じたにすぎず、著作権を侵害しないファイルの削除は命じていない。
 また、被控訴人が求めた差止め請求は、将来生ずる本件管理著作物の利用の差止めを求めるものであって、日々刻々と侵害が生じ、その対象が特定できない本件においては、被侵害著作物を特定することによって差止め対象を特定するほかには著作権侵害の被害発生を防止する有効な手段は存在しない。原判決が差止め請求を認容したことについては、何らの違法もない。
(2) 争点(3)(控訴人会社の損害賠償責任の有無)について
〔控訴人らの主張〕
ア プロバイダ責任制限法の適用について
(ア) 原判決は、控訴人会社につき、プロバイダ責任制限法における「発信者」に該当するとしたが、当該判断は、著作権侵害の主体の問題と同法上の発信者の問題とを混同したものである。そもそも、同法の趣旨からすると、控訴人会社について、カラオケ法理による観念的な侵害主体性が認められたとしても、特段の事情がない限り、発信者には該当しないことは明らかである。プロバイダが当然有する程度の管理・支配能力をもって、著作権侵害を肯定する重要な要素であるとし、さらに、著作権法における侵害主体に該当することをもって、同法の「発信者」に該当するとされると、同法による免責の余地がおよそなくなるという矛盾した状況が生じる。
 特に、本件サービスは、原判決の認定ですら、著作権侵害の割合は50%を下回っており、合法利用の可能性がほぼ半数ある場合ですら、著作権侵害の主体性を認めている。これは、プロバイダである控訴人会社が、表現の自由と権利者からの損害賠償請求のいわば「板挟み状態」にあるにもかかわらず、これを「発信者」としたものであって、プロバイダ責任制限法の趣旨を没却し、適法に利用する者の表現の自由、情報受領者の情報受領権を侵害するものである。
(イ) プロバイダ責任制限法は、インターネットの適正な発展を目指し、プロバイダの板挟み状態を解消するため、民事上の責任を軽減する目的を有するから、その解釈・適用において、国際的な調和が必要であること、同法は、プロバイダに管理能力があること等を前提としており、著作権法とは異なる解釈が必要であること、通信の秘密等の観点からプロバイダは自己のサービスを監視する義務を負わず、侵害の特定は権利者の義務であることなどの点で、他の民事上の責任とは異なる。
 特に、国際的な調和の観点からすると、アメリカの法制においては、プロバイダには監視義務がないことが明記されているし、動画投稿サイトの運営者が勝訴した裁判例もある。
(ウ) プロバイダ責任制限法には、「発信者」について明確な定義規定が設けられている。原判決は、著作権法における侵害主体に該当することを理由に、かかる定義規定に依拠することなく、控訴人会社を「発信者」と認定したものである。
 また、プロバイダが「発信者」と認定された場合、同法4条に基づいて、プロバイダ自身が自らに対して発信者情報の開示を求めるという矛盾が生じるのみならず、同法3条1項の免責規定が実質的に適用されないことになり、プロバイダの責任制限という同法の立法趣旨が没却される事態が生じることになる。
 同法における「発信者」とは、「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう」ものとされている。同法は、自らの意思と能力で情報を流通に置いたものを発信者とすることを予定しており、原判決のように抽象的・規範的に「発信者」の該当性を判断することを予定していない。本件サービスにおいては、控訴人らが知らない間に、ユーザが、サーバに動画の情報を書き加えていくのであるから、「記録」をしたユーザが「発信者」に該当することは明らかである。
 さらに、同法は、情報を流通に置いた者(発信者)以外の者で、情報の流通に関与した者、すなわち、関与者たるプロバイダの責任について定めたものであり、「関与者」と「発信者」とは別であること、他に一義的な責任を負う者が存在する場合は、「発信者」とはならないことがその前提となる。控訴人らが、情報流通の関与者として、非侵害コンテンツを「誘引・招来・拡大」する過程で、結果として侵害コンテンツを「誘引・招来・拡大」するに至ったとしても、同法において織り込み済みのリスクなのであって、これにより単なる「関与者」が「発信者」になるわけではない。
(エ) プロバイダ責任制限法において、プロバイダが侵害情報の送信防止措置を講じることが技術的に不可能な場合には、プロバイダは免責される(同法3条1項)。「技術的に可能か否か」の判断は、「通常の技術力」を有するプロバイダであれば措置を講じることが可能か否かという基準で、客観的に判断されるべきである。
 本件サービスにおいては、ユーザが大量の情報を流通させており、実際に著作権侵害ファイルのみを選別して削除することは困難であったから、控訴人らにとって、侵害情報と非侵害情報とを区別して削除等の措置をとることは不可能であった。また、被控訴人が控訴人らに対し、侵害ファイルの削除を求める通知を発した当時、大手動画投稿サイトにおいても事前防止策は導入されていなかった。
 したがって、控訴人会社には、侵害情報の送信防止措置を講じることが技術的に不可能であったというほかない。
(オ) プロバイダ責任制限法は、プロバイダを免責する要件として、権利侵害の認識可能性がないことを要求する。本件サービスにおいて、控訴人らは、投稿された動画の外形から許諾の有無等について確認することはできないから、権利侵害の認識はなかったものというべきである。
 被控訴人は、平成19年9月ころ、控訴人会社に対し、被控訴人が管理する主要な楽曲を収録したCD-ROM を送付し、本件管理著作物の著作権を侵害する動画の削除を求めるという包括的な通知をした。
 もっとも、著作権管理団体とプロバイダ等が協議して定めた著作権ガイドラインは、権利者がプロバイダに対して権利侵害物の削除を依頼する場合には、「1 申出主体が本人であること、2 申出者が著作権者等であること、3 侵害情報を特定すること、4 著作権等が侵害されていること」の各要件を充足する必要があると定めている。
 もちろん、どの動画が、どの楽曲の著作権を侵害しているかの特定作業は、膨大な作業量を伴うものであるが、これは、被控訴人が管理する著作物が膨大であることの帰結にすぎない。膨大な管理楽曲について著作権侵害を発見し、特定し、著作権使用料を請求することは、まさに被控訴人のような権利管理団体が行うべき業務であり、被控訴人の存在意義そのものである。
 したがって、本件において、被控訴人からの包括的通知によっても、控訴人らに認識可能性が生じることはない。
イ 故意過失について
 仮に、原判決が指摘するとおり、控訴人会社において、著作権侵害という結果発生が当然に予想されたとしても、控訴人会社には具体的にどのファイルが侵害に当たるかについての認識がないため、適切な削除措置を採ることは不可能である。
 また、プロバイダである控訴人会社は、著作権者による明示ないし黙示の許諾の有無が確認できない以上、具体的に特定された削除要求がなければ、適法に投稿されたファイルを守る観点からは、むしろ削除することは許されない。本件サイトには、多くの適法なファイルと一部の違法なファイルが渾然一体となって保存されているのであるから、控訴人会社において、およそ一般的に本件管理著作物を含む動画を削除することを求める被控訴人の要求に対応することは不可能であった。
 したがって、控訴人会社の能力を超えた行為が不可能であったことをもって、過失とは評価できない。
〔被控訴人の主張〕
ア プロバイダ責任制限法の適用について
(ア) 著作権法2条1項9号の5イは、「送信可能化」行為を、自動公衆送信装置に「情報を入力する」ことと定義するのであるから、控訴人らが送信可能化権侵害の主体、すなわち自ら「情報を入力する」方法による著作権侵害を行った主体と解される以上、プロバイダ責任制限法の適用においても「情報を入力した者」(発信者)と解するのが論理的である。
 同法4条は、関係役務提供者自身が発信者となる場合のあることを当然の前提としており、控訴人らが指摘する矛盾が生じるものではない。
(イ) 原判決の差止め命令は、本件管理著作物の著作権を侵害する違法ファイルの差止めを命ずるものにすぎない。また、本件サービスの利用約款(甲7)8条は、本件サービスに関し、ユーザその他の第三者に損害が生じたとしても、理由の如何を問わず控訴人会社は損害賠償から免責される旨規定しているのであるから、控訴人らは何ら「板挟み」の状況にもない。
(ウ) 控訴人らは、プロバイダ責任制限法の解釈においては、国際的な調和の観点をも考慮すべきであると主張するが、控訴人らが引用するアメリカの法制においても、控訴人らのように、侵害行為をコントロールする権利及び能力を有し、侵害行為から直接の経済的利益を得ているときは、免責の対象外とされている。
イ 故意過失について
 被控訴人は、本件サービスにアップロードされる可能性のある主要な管理著作物の権利内容等をすべて収録したCD-Rを控訴人会社に提供した上で、これらの著作物を被控訴人の許諾なく利用すれば著作権侵害になることを再三にわたり警告しているのであるから(甲5(枝番を含む。以下同じ。))、本件管理著作物につき「黙示の許諾」が認められるものではない。
 控訴人らは、本件サービスにおける著作権侵害の主体であるから、被控訴人から明示された本件管理著作物の無断利用につき、「具体的にどのファイルが侵害に当たるかの認識がない」ことを理由に過失責任を免れるものではない。本件サービスの利用約款上、仮に控訴人らが著作権侵害に関する判断を誤り、適法なファイルを削除したとしても、ユーザに対する損害賠償責任を負わないものとされている以上、著作権侵害の有無の判断が困難であることも、免責の理由とはならない。
 控訴人らは、動画投稿サイトには、他人が権利を有するコンテンツを許諾なく使用した動画が少なからずアップロードされることを了解した上で本件サービスの提供を始めたにもかかわらず、著作権者からの警告を無視し、現に自らのサービスに投稿されている膨大な数の侵害動画を放置し続けたのであるから、本件サービスにおける著作権侵害を惹起したことにつき故意又は過失が認められることは明らかである。
(3) 争点(4)(控訴人Xについての不法行為の成否)について
〔控訴人らの主張〕
 控訴人会社と同様、控訴人Xにおいても、故意過失を認めることはできない。
〔被控訴人の主張〕
 控訴人会社は、実質的には控訴人Xの個人会社である上、控訴人Xは自らのチャンネルにおいても著作権侵害行為を行うともに、現実に本件サービスの実務の全部を自ら担当していたのであるから、控訴人会社とともに本件著作権侵害行為の主体であることは明らかである。故意過失についても同様である。
(4) 争点(6)(損害の額)について
〔控訴人らの主張〕
ア 本件サービスは、ストリーミング形式であり、かつ「1曲(1コンテンツ)を利用する都度情報料が課される方式」によるものではないことは、当事者間に争いがない。被控訴人の使用料規程によると、「情報料および広告料等収入」と連動した算定基準(包括的利用許諾契約)が適用されることになるから、原判決が、明確な理由によらず、1視聴回数当たり12円の損害を認定したことは誤りである。
イ 原判決は、前記包括的利用許諾契約は、被控訴人との個別折衝に基づき、過去の侵害分について損害賠償をするなどしたことを前提として合意された将来の許諾に関して適用されるとする。
 しかしながら、本件において、控訴人会社と被控訴人との交渉が合意に至らなかったのは、控訴人会社にのみ責任があるわけではないし、提供するサービスそれ自体の内容は同じなのであるから、過去分の損害賠償算定と将来分の損害賠償算定とにおいては、同一の基準を用いるべきである。
ウ また、原判決は、「包括的利用許諾契約によらない場合」を前提として、
「1曲1リクエスト当たり」の上限金額を20円とするが、同規程において、「1曲1リクエスト」という基準はダウンロード形式における基本的な算定単位であり、「1リクエスト当たり」を単位として課金がされる形式の情報サービスを前提としている。
 したがって、当該規定は、明らかに本件サービスのような動画投稿サービスに適用されるものではない。
エ 被控訴人が差別的取扱いを禁止される立場にある以上、本件における損害賠償額は、他の動画投稿サイトと締結した包括的許諾契約と同率の使用料率(「月間の情報量収入及び広告料収入の1.875%」)を前提に算定されるべきである。控訴人会社が本件サービスによって得た広告収入は月平均40万円以下であるから、本来、損害額は月額7000円程度である。原判決は、サービスの実態は全く同様であるのに、包括的許諾契約を締結していないことを理由に、わずか3年半程度の本件サービスの提供に対し、8000万円以上の損害を認定しており、控訴人会社が得た利益との対比の観点からも、明らかに不当である。
〔被控訴人の主張〕
ア 被控訴人の使用料規程は、「包括的利用許諾契約を結ぶ場合」と「包括的利用許諾契約によらない場合」とがあるが、控訴人らは、被控訴人の再三にわたる要請にもかかわらず、自ら利用許諾契約を締結しないという判断を下して本件管理著作物の無断利用を継続していたのであるから、過去の著作権侵害の損害賠償において、「包括的利用許諾契約を結ぶ場合」の使用料に関する規定が適用される余地はない。
イ 「包括的利用許諾契約によらない場合」の使用料は、「1曲1リクエスト毎に定めるものとし、1曲1リクエスト当たりの情報料の20%または歌詞、楽曲それぞれ20円のいずれか多い額を上限として利用状況等を参酌して決定する。」と規定されており、その適用範囲を「1曲を利用する都度情報料が課される方式」に限定する旨の規定はない。現に、控訴人らが「差別的な扱い」をすべきでないと繰り返し主張する他の事業者との契約締結の際も、これらの事業者が包括的利用許諾契約を締結する以前の管理著作物の利用については、いずれも「包括的利用許諾契約によらない場合」の使用料に基づき算出した使用料を前提に清算している。
 あくまで被控訴人との利用許諾契約の締結を拒んで著作権侵害行為を継続した控訴人らに対し、最初から適法に申込みをし、その結果包括的利用許諾契約を締結した者と同じ料率を適用することはできない。
 また、不法行為により被害者が被った損害額と不法行為者の得た利益額との間の「対価的均衡」を考慮する必要性もない。
第4 当裁判所の判断
1 侵害行為の主体(主位的主張)(争点(1))について
 この点に対する判断は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決39頁16行目から63頁12行目までに説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決41頁8行目の「したがって」から10行目までを以下のとおり改める。
 「したがって、サイト管理者が、配信内容を自ら決定する動画配信サイトと比較すると、コンテンツの選択については、専らユーザーに委ねられていて、控訴人会社が選択する余地は少ないものの、ユーザの投稿により提供されたコンテンツである「動画」を本件サイトを通じて不特定多数の視聴に供するという点では、動画配信サイトと同様の機能を有するということができる。」
(2) 原判決43頁8行目の次に、改行して、以下を加える。
 「特に、控訴人会社は、ユーザが本件サーバに動画を投稿する際に表示される警告文書において、「例:テレビ、放送局やプロダクション制作物に関する動画・映像」を「警告なしに削除」される対象となる著作権侵害の可能性がある動画・映像として例示しているのであるし、会員規則第4条において、ユーザの責任と費用によって行われるとされる権利クリアランスの対象として、「収録された音楽に関する使用許諾」を例示しているのであるから、本件サービスにおいて、収録された音楽に関する使用許諾を得ない動画の投稿が、著作権侵害に当たることは、十分認識していたものということができる。」
(3) 原判決43頁17行目から24行目までを以下のとおり改める。
 「上記カテゴリーの中には、「旅行」、「思い出」、「携帯ムービー」、「暮らし」、「動物」、「鉄道」など、一般に自主制作された動画がアップロードされることが多いと想定される分野が含まれる(もっとも、自主制作された動画においても、本件管理著作物がいわゆるBGM として使用されている可能性は否定できない。実際、後記1(1)イ(ア)b(c)記載のとおり、被控訴人X自身も、旅行映像にBGMとして市販の音源を加えた動画を、自らのチャンネルで公開している。)。他方、「ムービー」、「アニメ」、「音楽」、「ゲーム」など、自主制作が発達している現況を考慮しても、一般のユーザによる自主制作の動画及び楽曲のみで構成されているとは想定し難い分類や、「タレント」、「韓流スター」のように、放送物等の複製や編集を伴わない自主制作物では、一般の興味を引くものとは解し難く、投稿される動画における著作権侵害の蓋然性が高いものと推測される分類も存在する。」
(4) 原判決44頁16行目の次に、改行して、以下を加える。
 「また、テレビ局や映画配給会社、音楽著作権管理団体である被控訴人は、本件サイトに投稿される各動画について、使用許諾を与えていない(甲12、弁論の全趣旨)。」
(5) 原判決45頁18行目の「放送物を複製することを当然の前提とした」を「投稿される動画における著作権侵害の蓋然性が高いものと推測される」と改める。
(6) 原判決45頁22行目「すぎない。」の次に「ユーザの投稿により提供されたコンテンツである「動画」を不特定多数の視聴に供するという点では、動画配信サイトと同様の機能を有するということができる。」を加える。
(7) 原判決46頁8行目の「放送物を複製することを当然の前提としたものと想定し得る」を「投稿される動画における著作権侵害の蓋然性が高いものと推測される」と改める。
(8) 原判決47頁4行目の「短いとはいい難い。」の次に「著作物における創作性を有する部分が感得できる以上、再生時間の長短や、画質の優劣は、著作権侵害であるとの結論を左右するものではない。」を加える。
(9) 原判決47頁20行目の次に、改行して、以下を加える。
 「そもそも、被控訴人が、本件管理著作物について、控訴人らに対し、使用許諾をしていないことは、当事者間に争いがない。また、控訴人会社は、動画の投稿者に対し、権利クリアランスとして、「収録された音楽に関する使用許諾」を求めていることからも明らかなとおり、音楽の利用には権利者の使用許諾が必要であることは当然認識していたものというべきである。そして、我が国における多くの楽曲の著作権が、被控訴人によって管理されていること、被控訴人は、使用許諾を得ない楽曲の利用に対し、訴訟の提起を含めた厳正な対応を行っていることは、音楽の利用を伴う事業を行う業界関係者においては、周知であったといってよい。実際、被控訴人は、平成19年6月27日、控訴人会社に対し、本件管理著作物について、利用許諾契約締結を求める通知を送付している(甲5)のであるから、本件管理著作物について、黙示の許諾が認められないことも、十分認識していたものというべきである。もちろん、控訴人らが指摘するとおり、本件サービスにおいても、著作権者から黙認された動画も相当数存在するかもしれないが、本件管理著作物について、被控訴人の許諾を得ていない以上、それ以外の著作物について黙示の許諾が認められる余地があることをもって、適法とされるものでもない。」
(10) 原判決50頁23行目「行われるのであり、」の次に「自ら動画を選択して投稿する点で、」を加える。
(11) 原判決50頁23ないし24行目の「否定できないとしても、」の次に「ユーザが投稿した動画を公衆送信する手段である」を加える。
(12) 原判決51頁16行目の「放送物を複製することを当然の前提としたものと想定し得る」を「投稿される動画における著作権侵害の蓋然性が高いものと推測される」と改める。
(13) 原判決51頁21行目の次に、改行して、以下を加える。
 「しかも、控訴人らは、動画投稿サービスにおいては、著作権を侵害する動画が投稿されることを前提として、当該サービスの社会的意義を強調しているのであるから、本件サービスにおいても、著作権を侵害する動画が投稿されていることを当然に認識していたものというべきであり、実際、既存の劇場用映画や劇場公開中の映画が丸ごと投稿されていることについて、権利者から警告を受けるなどしていたものである。そうすると、当該動画を投稿したユーザが、コピーガードを外すなどの「意図的な行為」を行う動機の一つとして、本件サービスに対する投稿目的が含まれるものということができる。その意味で、本件サービスが著作権侵害を誘引しているものということが可能である。」
(14) 原判決52頁9行目の末尾に、以下を加える。
 「仮に、新規登録ユーザを順番に紹介しているのであれば、「ピックアップチャンネル」に掲載された日付と各ユーザに対して個別に採番されたチャンネル番号との間に関連性が認められるはずであるが、被控訴人の調査によると、平成21年2月6日に掲載されているチャンネル番号は、いずれも平成19年以前に登録されたチャンネルであったものである(甲19)。
 しかも、控訴人らは、「ISSUE in channel」のコーナーにおいて、ユーザが記載した説明文に加筆した上で、本件管理著作物を含む動画を掲載しているのである(甲19、乙3)。」
(15) 原判決54頁10行目の末尾に11行目を続ける。
(16) 原判決57頁24行目の「同一担当者から」の次に「、同一のメールアドレスを使用して」を加える。
(17) 原判決57頁25ないし26行目の「削除要求が権利者からされているか分からないなどの回答」を「受信したメールには、会社名と担当者名が記載されているだけで、いわゆるフリーメールアドレスが利用されているため、削除要求が権利者からされているか分からない、会社使用のメールアドレスに署名を入れて、再度送信してほしいなどの回答」に改める。
(18) 原判決58頁1行目の「者は、」の次に「今まで当該アドレスで数回にわたり著作権侵害通知を出し、当該動画が削除されたこともあるし、控訴人Xとは直接電話で話したことがあるにもかかわらず、」を加える。
(19) 原判決58頁6行目の末尾に7行目を続ける。
(20) 原判決60頁5行目「ことに対し、」の次に「当初は」を加える。
(21) 原判決60頁7行目の次に、改行して、以下を加える。
 「控訴人らは、原審において、被控訴人との間で和解が成立することを条件に、権利侵害動画の投稿を防止するため、@ハッシュ値を利用した権利侵害動画の判定の導入、A権利者に対する削除ツールの提供、B権利侵害動画の目視チェックを実施することを提案し(乙59)、当審において、同@及びAについては、既に導入済みであると主張する。
 しかしながら、控訴人会社が、同@及びAを導入済みである点について、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、被控訴人も、テレビ局などの権利者から、控訴人会社から削除ツールの提供を受けたとの情報を得ていない(甲19)。」
(22) 原判決61頁10行目の「しかしながら、」の次に「動画ファイルが視聴される都度、本件サーバから当該動画ファイルが公衆送信され、本件管理著作物の著作権侵害が生じるところ、」を加える。
(23) 原判決62頁10行目の「被告会社は」から13行目の「許容されるものではない。」までを「控訴人会社は、当初、何らの具体的な対策を提示しなかったこと、現在においても、具体的かつ実効的な対策を講じたことを認めるに足りる的確な立証はないことは上記のとおりであり、たとえ全件の視聴調査が不可能であるとしても、著作権侵害の蓋然性が高い本件サービスを不特定多数のユーザを対象に提供する以上、有効な対応をほとんど何もしてこなかった控訴人らの対応が許容されるものではない。」と改める。
(24) 原判決62頁14行目の次に、改行して、以下を加える。
 「c 控訴人らの当審における補充主張について
 控訴人らは、我が国に流通する音楽著作物の約99%を管理する圧倒的支配力及び交渉力を有するのみならず、著作権等管理事業法の適用を受ける点で公的側面を有する団体である被控訴人による権利行使には、平等な取扱いという制約が法律上当然に予定されており、本件サービスと同様のサービスを提供している事業者に対しては、適法な事業と認めて許諾契約を締結しながら、控訴人会社に対しては、明らかに不当な条件を提示し、契約を拒んだなどと主張する。
 しかしながら、被控訴人は、他事業者に対しても、包括的利用許諾契約締結前の侵害分に関する損害賠償及び権利侵害防止措置の導入を前提とした上で、契約締結に至っており(甲4、10、16、乙18)、本件管理著作物に係る著作権侵害に関しては、同契約締結によって、むしろ当該動画投稿サービスにおける利用が適法とされるものというべきである。また、被控訴人が、「ニコニコ動画」を運営する事業者に対して送付した利用許諾契約締結を求める平成19年6月27日付け文書(甲16)は、控訴人会社に対して送付された同日付け文書(甲5)と同一内容であり、その後の交渉経過をみても、要求されている権利侵害防止措置は、控訴人会社に対して要請されたものと同様である(甲16)。控訴人らは、控訴人Xしか担当者がいない控訴人会社の乏しい人的、物的資源においては、到底対応不可能な措置を被控訴人から求められたことに対する不満を主張しているようであるが、前記のとおり、著作権侵害の蓋然性の高いサービスを運営している以上、権利者から利用許諾契約締結の前提として、実効性のある著作権侵害防止措置を求められることはむしろ当然であって、控訴人会社が対応不可能であることをもって、権利者の要請が不当と断じることは明らかに相当ではない。
 また、控訴人らは、視聴者の大きな支持を受け、表現の自由及び著作権の目的である文化の発展に資するものであり、社会内にも受容されている動画投稿サービスに対しては、権利者も、プロモーション的価値を利用しようとするなど、権利行使することなく、黙示的に許諾を与えているものと解すべきであって、被控訴人による「教条的」権利行使は不当であるなどと主張する。
 この点について、確かに控訴人らが主張するとおり、権利者がいわゆるMAD 作品を擁護したり、動画投稿サービスと提携することもある(乙22〜26、48〜52)ほか、我が国においては、いわゆる同人活動が活発であり、よほど極端ではない限り、権利者が黙認することもあるようである(乙55)。
 しかしながら、著作権侵害に対し、どのように対応するかは、各権利者の意思に委ねられているものであって、権利者の中に、権利侵害に気付きながら、権利行使しない者が一定割合存在することをもって、控訴人らが、被控訴人の権利行使を不当であると主張することは、明らかに相当ではない。実際、テレビ局などの権利者は、控訴人らが強調する動画投稿サービスにおけるプロモーション効果を利用することなく、削除要請などの措置を講じており(甲12)、だからこそ、他の動画投稿サービスの事業者は、権利者との提携などを開始しているものということができる。
 また、動画投稿サービスは、控訴人ら主張のとおり、自主制作動画を公開する場所を提供し、ユーザ同士の交流の機会を与えるなどの意義を有していることも否定できないが、本件サービスにおける侵害率などからすると、本来であれば無料では視聴できない著作物を、無料で容易に視聴できる側面を有している点にこそ、意義を見出す視聴者も多いものと推測される。そして、劇場公開中の映画を含め、多数の映画やテレビ番組が丸ごと投稿されているような状況においては、本件サービスが適法な利用を前提としているとする控訴人らの主張は、控訴人らの主観的認識ないし期待を述べているにすぎず、客観的には著作権侵害の蓋然性が高いサービスであるというほかない。著作権侵害を理由として責任を追及されている者が、当該侵害行為による文化の発展を理由に、著作権侵害行為の正当性を主張することは、明らかに相当ではない。
 以上からすると、控訴人らの主張はいずれも失当である。」
(25) 原判決62頁16行目から63頁12行目までを以下のとおり改める。
 「以上からすると、本件サービスにおいて、著作権を侵害する動画を本件サーバに投稿する行為を実際に行っているのは、ユーザであって、控訴人らではない。したがって、ユーザが本件サービスに投稿する動画の中に、本件管理著作物が利用されている場合には、ユーザが当該動画を本件サーバに投稿する行為は、ユーザによる本件管理著作物の複製権侵害に該当することはいうまでもないところである。
 しかしながら、先に指摘したとおり、本件サービスは、本来的に著作権を侵害する蓋然性の極めて高いサービスであって、控訴人会社は、このような本件サービスのシステムを開発して維持管理し、運営することにより、同サービスを管理支配している主体であるところ、ユーザの投稿に対し、控訴人会社から対価が支払われるわけではなく、控訴人会社は、無償で動画ファイルを入手する一方で、これを本件サーバに蔵置し、送信可能化することで同サーバにアクセスするユーザに閲覧の機会を提供する本件サービスを運営することにより、広告収入等の利益を得ているものである。
 しかるところ、本件サイトは、本件管理著作物の著作権の侵害の有無に限って、かつ、控え目に侵害率を計算しても、侵害率は49.51%と、約5割に達しているものであり、このような著作権侵害の蓋然性は、動画投稿サイトの実態それ自体や控訴人会社によるアダルト動画の排除を通じて、控訴人会社において、当然に予想することができ、現実に認識しているにもかかわらず、控訴人会社は著作権を侵害する動画ファイルの回避措置及び削除措置についても何ら有効な手段を採っていない。
 そうすると、控訴人会社は、ユーザによる複製行為により、本件サーバに蔵置する動画の中に、本件管理著作物の著作権を侵害するファイルが存在する場合には、これを速やかに削除するなどの措置を講じるべきであるにもかかわらず、先に指摘したとおり、本件サーバには、本件管理著作物の複製権を侵害する動画が極めて多数投稿されることを認識しながら、一部映画など、著作権者からの度重なる削除要請に応じた場合などを除き、削除することなく蔵置し、送信可能化することにより、ユーザによる閲覧の機会を提供し続けていたのである。
 しかも、そのような動画ファイルを蔵置し、これを送信可能化して閲覧の機会を提供するのは、控訴人会社が本件サービスを運営して経済的利益を得るためのものであったこともまた明らかである。
 したがって、控訴人会社が、本件サービスを提供し、それにより経済的利益を得るために、その支配管理する本件サイトにおいて、ユーザの複製行為を誘引し、実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら、侵害防止措置を講じることなくこれを容認し、蔵置する行為は、ユーザによる複製行為を利用して、自ら複製行為を行ったと評価することができるものである。
 よって、控訴人会社は、本件サーバに著作権侵害の動画ファイルを蔵置することによって、当該著作物の複製権を侵害する主体であると認められる。
 また、本件サーバに蔵置した上記動画ファイルを送信可能化して閲覧の機会を提供している以上、公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体と認めるべきことはいうまでもない。
 以上からすると、本件サイトに投稿された本件管理著作物に係る動画ファイルについて、控訴人会社がその複製権及び公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体であるとして、控訴人会社に対してその複製又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止めを求める請求は理由がある。
 なお、控訴人らは、被控訴人が著作権を侵害したと主張した動画ファイルを控訴人会社においてすべて削除したから差止めの対象が存在しない旨を主張するが、本件差止め請求は、将来生ずべき被控訴人の管理著作物の利用の差止めを求めるものであって、現存する侵害ファイルの削除を求めているものではない。日々刻々と侵害が生じその対象の特定できない事情のある本件においては、著作物による差止め対象の特定も許されると解されるし、その対象となるファイルの範囲を本件サイト全体にわたるものとすることも相当というべきであり、控訴人らの上記主張は失当というほかない。
 また、控訴人らは、著作物による差止め対象の特定は、包括的な差止めを認めるものであり、黙示の許諾のあるファイル、自作のファイルなど、多数の適法なファイルを実質的に削除させるのと同様の結論を導くことになり、動画投稿サイトが有する表現の自由及び著作権法の目的たる文化の発展にとっては萎縮効果が高いなどと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、本件管理著作物に対する黙示の許諾はあり得ず、自作のファイルにおいて、本件管理著作物を利用許諾なく利用していなければ、本件管理著作物の著作権侵害とはならないのであるから、差止めの対象は、本件管理著作物を利用許諾なく利用した動画ファイルを対象とするものに限定されるものであって、多数の適法なファイルが実質的に削除を余儀なくされるものでもない。控訴人らの上記主張は採用できない。」
2 控訴人会社の損害賠償責任の有無(争点(3))について
 この点に対する判断は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決63頁14行目から65頁23行目までに説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決64頁12行目から16行目までを以下のとおり改める。
 「しかしながら、控訴人会社の本件サービスへのかかわり方は、前記1に説示したとおりであり、控訴人会社は、ユーザによる著作権を侵害する動画ファイルの複製又は公衆送信を誘引、招来、拡大させ、かつ、これにより利得を得る者であり、ユーザの投稿により提供されたコンテンツである「動画」を不特定多数の視聴に供していることからすると、著作権侵害を生じさせた主体、すなわち当の本人というべき者であるのみならず、発信者性の判断においては、ユーザの投稿により提供された情報(動画)を、「電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記憶媒体又は当該特定電気通信設備の送信装置」に該当する本件サーバに、「記録又は入力した」ものと評価することができるものである。したがって、控訴人会社は、「発信者」に該当するというべきである。」
(2) 原判決65頁1行目の次に、改行して、以下を加える。
 「さらに、控訴人らは、本件サービスは、原判決の認定ですら、著作権侵害の割合は50%を下回っており、プロバイダである控訴人会社が、表現の自由と権利者からの損害賠償請求のいわば「板挟み状態」にあるにもかかわらず、これを「発信者」としたものであって、プロバイダ責任制限法の趣旨を没却し、適法に利用する者の表現の自由、情報受領者の情報受領権を侵害するものであるなどと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、本件サービスにおける本件管理著作物に係る著作権の侵害率は、多数の動画ファイルを完全に調査することが事実上困難であることから、控えめに見積もった数字であり、映画やテレビ番組など、本件管理著作物以外の著作権侵害を含めた場合、さらに高い侵害率になるものと推測される。また、控訴人会社は、会員規約8条及び9条において、本件サービスにより生じた損害の一切は、ユーザが賠償する義務を負い、控訴人会社は免責されるものと定めている(乙1)のであるから、少なくとも同規約上は、控訴人会社は「板挟み状態」にあるものではない。しかも、控訴人会社は、あくまで本件管理著作物の著作権を侵害する動画ファイルについて、「発信者」としての責任を負うものであるところ、本件サービスが著作権侵害の蓋然性が高いサービスである以上、発信者としての責任を負うことになっても、プロバイダ責任制限法の趣旨を没却するものではない。
 また、控訴人らは、本件サービスにおける技術的可能性や権利侵害の認識などについて主張するが、控訴人会社が発信者に該当する以上、権利侵害回避の技術的可能性等について論じるまでもなく、本件管理著作物に係る著作権の侵害について、責任を負うべきことになる。」
(3) 原判決65頁15行目の「管理著作物であり、」の次に「投稿するユーザ
に対し、音楽の利用権取得などの権利クリアランスを要求しているものの、実際問題として、各ユーザが投稿に際し、本件管理著作物について被控訴人から利用許諾を得ることはおよそ期待できないものであるから、」を加える。
3 被控訴人Xについての不法行為の成否(争点(4))について
 この点に対する判断は、原判決65頁25行目から66頁13行目までに説示のとおりであるから、これを引用する。
4 損害の額(争点(6))について
 この点に対する判断は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決66頁15行目から74頁25行目までに説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決67頁19行目の次に、改行して、以下を加える。
 「また、控訴人らは、被控訴人との間で包括利用許諾契約に関する交渉がまとまらなかったのは、控訴人会社にのみ責任があるわけではなく、提供するサービスそれ自体の内容は同じなのであるから、過去分と将来分の損害賠償請求については、同一の基準に依拠すべきである、控訴人会社が本件サービスにより得た利益は、平均して月額40万円以下であるから、控訴人会社が得た利益との対比からしても、多額の損害を認定することは不当であるなどと主張する。
 しかしながら、包括的利用許諾契約締結に関する交渉において、過去分の損害賠償請求について、同契約を締結していない場合を前提とする基準を用い、同契約締結後には、同契約を前提とした低廉な基準を用いることは、むしろ当然であって、被控訴人が、著作権を侵害する者にとってより有利な基準を用いることを強いられるものではない。その上で、個別の交渉において、支払うべき過去分の具体的金額等が決せられるものであるところ、合意に至るか否かに関する判断は、各当事者の裁量に委ねられているものであるから、仮に当事者双方の交渉が合意に至らなかったことの原因が被控訴人にもあるとしても、そのことをもって損害額の算定において考慮することは相当ではない。
 また、著作権侵害により侵害者が得た利益が乏しいからといって、権利者が被った損害が減少するものではないから、本件サービスにより得た利益が乏しいことを前提とする控訴人らの主張は失当である。」
(2) 原判決69頁6行目の次に、改行して、以下を加える。
 「なお、控訴人らは、ユーザは無料であるからこそ見るのであり、有料の場合にはリクエスト数が減少するものと推測されるから、本件サイトにおけるリクエスト数を前提として楽曲使用料を算定することは相当ではないと主張する。
 しかしながら、前記説示の方法による侵害ファイルの視聴回数は、実際の回数よりも控えめな認定であることに加え、そもそも権利者に対価を支払い、有料で視聴すべき著作物を、権利者に無断かつ無料で視聴させたことに関する損害賠償額を算定するのであるから、無料で視聴させた回数を前提とすべきことは当然である。控訴人らの主張は失当である。」
5 小括
 以上からすると、被控訴人の控訴人らに対する損害賠償請求は、@平成18年2月1日から平成20年4月24日までの本件管理著作物の使用料相当損害として4948万円、A同月25日から同年11月4日までの使用料相当損害として2412万円、B同月5日から平成21年9月11日までの使用料相当損害として833万円のほか、C弁護士費用相当損害として800万円、以上合計8993万円及びうち@の使用料相当損害金に対しては最終不法行為の日である平成20年4月24日、Cの弁護士費用相当損害金に対しては不法行為の後の日である同日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
 なお、平成21年9月12日以後の使用料相当損害の支払を求める被控訴人の請求については、原判決中、当該請求に係る訴えを却下した部分に対して被控訴人から控訴ないし附帯控訴の提起がない以上、同部分を控訴人らに不利益に変更する余地がないので、判断の限りでない。
6 結論
 以上の次第であるから、原判決は相当であって、本件控訴は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 本多知成
 裁判官 荒井章光
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日本ユニ著作権センター
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