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【事件名】商標“Chupa Chups”侵害事件
【年月日】平成22年8月31日
 東京地裁 平成21年(ワ)第33872号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年7月6日)

判決
原告 ペルフェッティ ヴァン メッレ ソシエタ ペル アチオニ
訴訟代理人弁護士 田中伸一郎
同 渡辺光
同 奥村直樹
訴訟代理人弁理士東 谷幸浩
被告 楽天株式会社
訴訟代理人弁護士 北村康央
同 倉品愛美
同 柿田徳宏
同 荒瀬陽子
同 緒方延泰


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙商品目録記載の各商品を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない
2 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成21年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告が運営するインターネットショッピングモールにおいて、被告が主体となって出店者を介し、あるいは出店者と共同で、少なくとも出店者を幇助して、原告の商品を表示するものとして周知又は著名な「チュッパ チャプス」の表示、「Chupa Chups」の表示若しくは原告の後記登録商標に類似する標章を付した商品を展示又は販売(譲渡)し、原告の後記登録商標の商標権を侵害するとともに、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号又は2号)を行った旨主張して、被告に対し、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき上記標章を付した商品の譲渡等の差止めと民法709条及び不正競争防止法4条に基づき弁護士費用相当額の損害賠償を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、イタリア共和国法によって設立された、後記商標権の管理等を行う法人である。
イ 被告は、各種マーケティング・小売業務の遂行及びコンサルティング、通信販売業務等を業とする株式会社である。
(2) 原告の商標権
 原告は、別紙原告商標目録(1)ないし(3)記載の各商標権(以下、同目録(1 )記載の商標権を「本件商標権1」、その登録商標を「本件登録商標1」、同目録(2)記載の商標権を「本件商標権2」、その登録商標を「本件登録商標2」、同目録(3)記載の商標権を「本件商標権3」、その登録商標を「本件登録商標3」といい、本件商標権1ないし3を「本件各商標権」、本件登録商標1ないし3を「本件各登録商標」と総称する。)の商標権者である。
 なお、本件商標権1、2は、エンリケ ベルナート エフェ ソシエダ アノニマが別紙原告商標目録(1)及び(2)記載の「設定登録日」に設定登録を受けた後、原告が平成19年6月21日にトロヌス コンスルタドリア エ マーケティング リミターダを経て特定承継による移転登録を受け(甲1、3、37の1ないし3、38の1ないし3)、本件商標権3は、原告が同目録(3)記載の「設定登録日」に設定登録を受けたものである。
(3) 「Chupa Chups」のブランド名の棒付きキャンディの販売原告の子会社であるCHUPA CHUPS S.A.は、1959年(昭和34年)ころから、スペインにおいて、「Chupa Chups」のブランド名の棒付きキャンディ(以下「チュッパチャプスキャンディ」という。)の販売を開始し、同キャンディには、その販売当初から英文字の「Chupa Chups」の表示が使用され、1969年(昭和44年)ころからは本件各登録商標と同一の標章が使用されるようになった。
 森永製菓株式会社(以下「森永製菓」という。)は、1977年(昭和52年)から現在に至るまで、原告の子会社であるPerfetti Van Melle Export Far Eastを通じて、スペインのCHUPA CHUPS S.A.からチュッパチャプスキャンディを輸入し、これを日本国内において販売している。
(4) 被告によるインターネットショッピングモールの運営
ア 被告は、「X」をトップページとするウェブサイト(以下「被告サイト」という場合がある。)において、「楽天市場」という名称で、複数の出店者から買物ができるインターネットショッピングモール(以下、単に「楽天市場」という。)を運営している。
 楽天市場には、出店者の各々がウェブページ(出店ページ)を公開し、当該出店ページ上の「店舗」(仮想店舗)で商品を展示し、販売している。個々の出店者は、それぞれ特定のジャンルの限られた商品を取り扱っているが、楽天市場全体としてみたときには、膨大な種類の商品(3800万件余)が販売されている。
イ 被告は、楽天市場の出店申込者ないし出店の申込みを承諾した出店者との間で、「楽天市場出店規約」(以下「被告規約」という。甲21)記載の契約関係を有している。
(ア) 被告規約には、次のような規程がある(甲21。各規程における「甲」は「被告」、「乙」は「出店申込者」をいう。)。
 「第2条(出店の申込)
 1.(略)
 2.甲は、前項の申込を承諾した場合、乙に対し、甲が管理するサーバ(以下「サーバ」という)内の乙の出店用のページ(以下「出店ページ」という)、販売等に必要となる甲所定のWebサイトの枠組みおよびデータベースシステム、ならびにモールおよび出店ページを構成するソフトウェアを、乙が本規約および甲乙間で適用される他の規約、ガイドラインその他の合意事項(以下あわせて「本規約等」という)に従って使用することを許諾する。」
 「第6条(コンテンツの表示)
 1.乙は、出店ページ上に、甲の定める規格に従い、販売する商品ないし提供する役務(以下「商品等」という)についての情報等(以下「コンテンツ」という)をアカウント発行日から合理的期間内に制作する。
 2.(略)
 3.甲は、第1項の規程に基づき乙の制作したコンテンツにつき審査を行うものとし、そのコンテンツがモールにふさわしいと認めた場合には、当該コンテンツを利用した出店を許可し、その旨を乙に通知するとともに、当該出店ページをモール上に公開する。乙は当該通知を受領したときから、当該出店ページを利用して販売等を行うことができる。ただし、甲が最初の基本出店料の入金を確認できない場合はこの限りでない。
 4.乙は、出店後、第2項その他本規約等により認められる範囲内で、出店ページ上のコンテンツを改訂し、表示することができる。乙は、コンテンツについては、常に最新の情報をユーザに提供するよう、定期的に更新を行う。
 5.甲は、乙の作成したコンテンツがモールにふさわしくないと判断した場合には、その内容および表示を変更するよう求めることができ、乙はこれに従うものとする。」
 「第18条(禁止事項)
 1.(略)
 2.乙は、法令により販売が禁止されている商品等、第三者の権利を侵害するおそれのある商品等、甲が別途販売禁止として乙に通知した商品等またはモールのイメージに合致しないと甲が判断した商品等の販売をすることができない。」
 「第20条(サービスの一時停止)
 乙は、第2条第2項記載の甲が提供するサービス(以下「サービス」という)について、以下の事由により乙に事前に通知されることなく一定期間停止される場合があることをあらかじめ承諾し、サービス停止による基本出店料等の返還、損害の補償等を甲に請求しないこととする。
 (1)、(2) (略)
 (3) 甲、顧客、他の出店者その他の第三者の利益を保護するため、その他甲がやむを得ないと判断した場合における停止」
 「第21条(出店停止等)
 1.甲は、乙が以下のいずれかの事由に該当する場合には、乙の出店の停止、乙が表示したコンテンツの削除、出店停止理由の公表その他の必要な措置を取ることができる。この場合、乙は速やかに甲の指示に従い、改善措置をとらなくてはならない。なお、本条の定めは第26条に定める甲による本契約の解除・解約を妨げない。
 (1) 第26条第1項に定める事由が生じたとき
 (2)、(3) (略)」
(イ) 出店者が被告に支払うべき具体的金額は、契約内容(プラン)及び売上額等によって異なるが、出店者は、被告に対し、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)を支払う(被告規約12条、13条)。
 別表は、被告規約の定める「スタンダードプラン」(10,000品目まで)における基本出店料及びシステム利用料の一例である(甲21、9頁)。
ウ 楽天市場における商品の購入手続の流れは、次のようなものである。
(ア) 顧客は、楽天市場で商品を購入しようとする場合、被告サイトの検索手段により、全ての楽天市場の出店者の商品について一度に検索し、表示された内容を比較して商品を選択することができる。
 そして、顧客は、購入を希望する商品について出店者の出店ページの「買い物かごに入れる」をクリックし、「買い物かご」に商品を入れる。
 顧客が「買い物かご」に入っている商品の注文手続を行う際には、「Y」から始まるページにおいて顧客が必要な情報を入力し、入力された購入者の氏名、住所、電話番号等、全ての情報は被告から出店者に提供される。
 具体的には、顧客が被告の会員である場合には、被告に保管されている情報が「個人情報保護方針」に従って、被告から出店者に提供される。顧客が被告の会員ではない場合には、顧客は、被告サイトにおいて自身の氏名、住所、電話番号等の情報を入力し、被告に送信し、これを受信した被告が、「個人情報保護方針」に従って出店者に提供する。
 注文手続が完了すると、「【楽天市場】注文内容ご確認(自動配信メール)」と題する電子メールが、被告(「Z」)から顧客に送信される。
 出店者が出店ページ内に被告サイト外にリンクを張ることやURLを記載する行為は禁止され、また、「メール、電話、FAXでも注文を受け付けると表示する」など、システム料金等の課金を回避することを目的とする行為は禁止されている(甲22、58頁「4.禁止行為について」)。
(イ) 顧客が楽天市場において出店者から商品を購入した場合、購入額に応じたポイント(「楽天スーパーポイント」、通常は購入額の1%)が顧客に付与される。顧客は、1ポイントを1円として換算した金額の商品を購入することができる。
 このポイントは、顧客が商品を購入した出店者が付与するのではなく、被告が顧客に付与するものであり、ポイントを利用した商品の購入は、ポイント付与の対象となった取引に係る店舗に限らず、被告に出店している全ての店舗で可能である。ポイントを利用した商品の購入に係る精算金は、被告から出店者に対し、口座振込みの方法で支払われる(甲21の「楽天スーパーポイント利用規約」8条1項、2項)。
エ 被告が楽天市場において提供するシステム等の概要は、次のとおりである。
(ア) 運営システム「RMS」の提供
 被告は、楽天市場で仮想店舗を運営するために、「RMS」(Rakuten Merchant Server)を独自に開発し、出店者に利用させている。
 RMSは、「店舗運営をするうえで必要な集客・販促のしくみはもちろん、多彩な決済・配送サービスによって店舗様をバックアップ」することを目的としており、「店舗をつくる」ための「店舗構築機能」(R-Storefront)、「店舗を運営する」ための「受注管理機能」(R-Backoffice)、「店舗のデータを分析する」ための「売上・アクセス分析機能」(R-Datatool)、「ユーザーをフォローする」ための「メール配信機能」(R-Mail)、「カード自動決済処理機能」(R-Card Plus)等の機能がある。
a 店舗構築機能(R-Storefront)
 店舗構築機能は、「店内レイアウト、商品配置(商品棚)、目玉商品の決定、値札貼り等々の作業をWEB上で行える機能」であり、高度な専門知識を要することなく、ページ編集を可能にする。例えば、出店者は、与えられたID、パスワードを利用してRMSメインメニューにログインし、その中の「商品ページ設定メニュー」から、個別の商品を登録するために必要な所定の事項を入力することにより、即時に楽天市場の当該出店者の出店ページに当該商品が登録される仕組みとなっている(乙1)。
b 受注管理機能(R-Backoffice)
 受注管理機能は、「注文の受付から商品の受け渡し、レシート発行、売上帳票作成等々の作業をWEB上で行」う機能である。具体的には、被告サイト上で受注情報の一覧を表示できるほか、顧客への受注確認、商品発送及びお礼のメールを簡単に送信することができる。
 また、顧客に届ける購入明細書や商品の梱包、発送作業をサポートする受注明細票、入金サポートのための帳票を印刷する機能も備わり、顧客からの注文を丁寧に、効率よく処理することができる。
 さらに、受注管理機能のデータ抽出も可能であり、これにより、「運送業者への伝票や納品書の処理、宛名ラベル印刷、自社の販売管理システムとの連動」も可能となる。
c 売上・アクセス分析機能(R-Datatool)
 売上・アクセス分析機能は、「日々のアクセス(来店)人数、時間帯別の売上げ、商品別の売上げ、顧客属性分析等々の作業をWEB上で行える機能」であり、「自店舗の強み・弱みを分析」することで「さらなる売上アップを目指」すことを可能とする。同機能は、出店者の月別の実績データを被告が出店者に提供するものであり、「売上高、アクセス人数、転換率(購買率)など、店舗運営に必要な基本のデータ」を確認することができる。また、毎日の売上げをグラフで確認することもできる。さらに、店舗へのアクセス数、各種ページ(商品ページや商品棚ページ)毎のアクセス数の確認や、出店者のページにたどり着いた方法(どの検索サイトから来たか、どのようなキーワードが用いられたか)も確認できる。
 この機能により、効率的なメールマガジンの配信や販売企画の開催、顧客層に適した商品の選別等が容易となる。
d メール配信機能
 メール配信機能は、「ユーザーとのコミュニケーションを作り出すDM(ダイレクトメール)の機能」であり、「店舗の紹介、目玉商品紹介等々の作業をWEB上で行うこと」を可能とする。この機能は、さらに、「ターゲットを絞り込んでメール送信ができるセグメント配信機能」を有しており、「ユーザーの特性ごとにメール内容を変えたり、配信するタイミングを変えたりしてアプローチすることが簡単にでき」ることにより、より確度の高いアプローチが可能となる。
e 決済サービス
 カード自動決済処理機能(R-Card Plus)は、「各カード会社との面倒な加盟店契約を、(被告)がまとめて代行」するとともに、「カード会社に個別に問い合わせなくても受注と同時に自動でカード認証(オーソリ処理)が可能」な機能である。これにより、「面倒な作業が一気に簡素化」する。また、「(出店者)がユーザーのクレジットカード番号にふれることなくクレジットカード決済をご利用できるから安全」である。
 さらに、被告は、「楽天会員認証だけでお買い物ができる決済(口座振替)システム」も提供している。
f 梱包、発送、物流に関するサービス
 被告は、「梱包資材サービス」として、「商売繁盛!楽天販促市場」において、「インターネット通販に必要な段ボールや撥水加工の宅配用バッグ、楽天ロゴ入りビニールテープなどを店舗様限定で小ロットから」格安価格で販売している。
 配送に関しても、被告は、配送会社各社による「配送プログラム」を出店者に提供している。
 被告は、物流代行サービス「楽天物流」も提供している。同サービスでは、「eコマースに精通した物流のプロ」が、「楽天市場出店店舗様の事情を熟知した細やかな対応」により、「商品の受け入れ、保管、梱包、発送、お届けまで一貫して代行」する。
(イ) 顧客情報収集に関する機能の提供
 被告は、「アドレス収集に高い効果のあるプレゼントやモニター企画が簡単に開催できて、応募後の処理もスピーディーに行える機能」として、「プレゼント・無料モニター募集企画開催機能」を(甲23)、また、「『その商品に興味を持つお客様』のリスト集めにも最適な機能」として「オークション開催機能」を(甲22、23)、出店者に提供している。
(ウ) ランキング、顧客の情報発信の場の提供
 被告は、「ランキング市場」において、「楽天市場内の売上、販売個数、取扱い店舗数等のデータ、トレンド情報などを参考に、独自に集計したランキングを日ごと、週ごと、月ごとに発表」している。
 「お買い物レビュー」の機能は、実際に購入した顧客の生の声が掲載されることから、「お客様がお客様を呼ぶ! 口コミでお客様の輪が広がる!」という、他の顧客の購入を促進する効果がある。その他、被告は、「友達にメールですすめる」機能、ブログを提供している。
(エ) ノウハウ、トレンド情報の提供
 被告は、「楽天大学」と称して、「楽天市場に蓄積した成功や失敗の事例を分析して体系化し、どの業種にもヒントとなるようにまとめたノウハウの枠組み(フレームワーク)」を、「ネットショップ運営を体系的に学べる」として、出店者に提供している(甲22)。
 また、「ランキング市場」は、顧客に対し情報を発信するだけでなく、「トレンド情報」を出店者に提供するものである。
(オ) アドバイス、コンサルティング
 被告は、被告の「出店コンサルタント」、「ショップアドバイザー」及び「ECコンサルタント」(甲22)等を通じ、「楽天に出店されている、またはこれから出店される企業(店舗様)へ目標(ビジョン)を共有し、目標達成のための戦略をアドバイス」するサービスを提供している。
(カ) 顧客情報の提供
 被告は、「顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、性別、年齢、在学先・勤務先の名称・住所その他の属性に関する情報」(顧客の属性情報)を被告のサーバを介して出店者に提供している。すなわち、楽天市場における全ての売買取引に際し、当該売買取引に係る顧客情報は、顧客の操作に従って自動的に、全件が被告のASPサーバを経由して売買の当事者である出店者に対し提供される。
(5) 楽天市場における別紙標章目録(1)ないし(4)記載の各標章が付された商品の販売等
ア(ア) 有限会社ティキティキカンパニー(以下「ティキティキカンパニー」という。)は、平成21年8月10日当時、楽天市場の出店ページにおいて、別紙標章目録(1)記載の標章(以下「本件標章1」という。)を付した別紙商品目録(1)記載の乳幼児用よだれかけ(以下「本件よだれかけ」という。)及び本件標章1を付した同商品目録(5)記載のマグカップ(以下「本件マグカップ」という。)を販売のために展示し、また、そのころまでに楽天市場で自己が売主として本件よだれかけを販売した(甲7の1、7の2、8、19、弁論の全趣旨)。
(イ) 株式会社SHELBY(以下「SHELBY」という。)は、平成21年8月10日当時、楽天市場の出店ページにおいて、別紙標章目録(2)記載の標章(以下「本件標章2」という。)を付した別紙商品目録(2)記載の帽子(以下「本件帽子」という。)を販売のために展示していた(甲9ないし11)。
(ウ) 有限会社データリンク(以下「データリンク」という。)は、平成21年8月10日当時、楽天市場の出店ページにおいて、別紙標章目録(3)記載の標章(以下「本件標章3」という。)を付した別紙商品目録(3)記載の携帯ストラップ(以下「本件携帯ストラップ」という。)を販売のために展示し、また、そのころまでに楽天市場で自己が売主として本件携帯ストラップを販売した(甲12ないし14、15の1、15の2、16、17、弁論の全趣旨)。
(エ) 株式会社S・Gノンファクトリー(以下「ノンファクトリー」という。)は、平成21年8月10日当時、楽天市場の出店ページにおいて、別紙標章目録(4)記載の標章(以下「本件標章4」という。)を付した別紙商品目録(4)記載のボストンバッグ(以下「本件ボストンバッグ」という。)を販売のために展示していた(甲18)。
(オ) エムズストアことA(以下「エムズストア」という。)は、平成21年8月10日当時、楽天市場の出店ページにおいて、本件標章1を付した別紙商品目録(6)記載のランチセット(以下「本件ランチセット」という。)を販売のために展示していた(甲20)。
イ(ア) 本件よだれかけ及び本件帽子は、本件登録商標1の指定商品と同一又は類似する商品である。
(イ) 本件携帯ストラップは、本件登録商標2の指定商品と同一又は類似する商品である。
(ウ) 本件ボストンバッグ、本件マグカップ及び本件ランチセットは、本件登録商標3の指定商品と同一の商品又は類似する商品である。
(6) 本件訴訟提起に至る経緯等
ア(ア) 原告のIPマネジャーのBは、2009年(平成21年)4月3日付けで、被告に対し、@原告は、Perfetti Van Melle Group(ペルフェッテイ ヴァン メッレ グループ)の親会社で、「CHUPA CHUPS<R>」の商標権である、A原告は、被告のウェブサイトで、有限会社キャニオンクレスト(以下「キャニオンクレスト」という。)及び下北万雑貨店によって製造された「CHUPA CHUPS<R>」のブランドのついた商品について販売の申出がされていることを知った、B被告が直ちにウェブページとリンクを閉鎖し、「CHUPA CHUPS<R>商標」を付したいかなる偽造商品の販売も中止するよう要請する旨の英文の電子メールを送信した(甲33)。
(イ) Bは、2009年(平成21年)4月6日付けで、被告に対し、@被告が、前記(ア)の電子メールのとおりの「CHUPA CHUPS<R>」の偽造商品を被告のウェブサイトを通して広告及び販売の申出をすることを停止するよう要求する警告を真剣に取り合わなかったことを残念に思う、AURLには偽造商品がまだ存在する、B被告の対応を考え、本日、東京の弁護士に被告に対して法的措置を開始するよう指示をした旨の英文の電子メールを送信した(甲33)。
(ウ) Bは、2009年(平成21年)4月7日付けの英文の書簡で、被告に対し、前記(ア)及び(イ)の電子メールをプリントアウトしたものを郵便で送付した(甲34)。
(エ) 原告の代理人弁護士は、平成21年4月20日到達の内容証明郵便で、被告に対し、@楽天市場に出店している下北万雑貨店のウェブページにデイジー柄マークとともに「Chupa Chups」の表示が付された幼児用よだれかけの写真が表示されている、Aこのような下北万雑貨店の行為は、原告の商標権を侵害し、また、原告の周知・著名な商品等表示と類似の商品等表示の使用であって不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争行為に該当するので、下北万雑貨店のウェブページから、上記写真を削除することを要求する旨の通知をした(甲35の1ないし3)。
(オ) 被告は、平成21年4月20日付け書面で、原告の代理人弁護士に対し、@楽天市場においては、各出店ページ及びそこに掲載されている取扱商品並びに広告は、各出店者の販売事業として、出店者の責任において決定されるので、出店者が販売している商品及び広告画像に問題があると思料するのであれば、該当商品の販売を行っている出店者と直接に交渉等を行っていただきたい、Aなお、被告において確認したところ、前記(エ)の通知書で指摘のあった画像は当該店舗の判断により店舗ページ上から削除されていることを申し添える旨の回答をした(甲36)。
 平成21年4月20日の時点では、キャニオンクレスト及び下北万雑貨店によって、それぞれの出店ぺージから原告が削除を要請した商品画像が削除されていた。
イ(ア) 原告は、前記(5)アのとおり、平成21年8月10日の時点でティキティキカンパニー、SHELBY、データリンク、ノンファクトリー及びエムズストア(以下、これらを併せて「本件各出店者」という。)の各出店ページにおいて本件標章1ないし4(以下、これらを併せて「本件各標章」という。)が付された本件よだれかけ、本件帽子、本件ボストンバッグ、本件携帯ストラップ、本件マグカップ及び本件ランチセット(以下、これらを併せて「本件各商品」という。)が掲載されていることが判明した後、同年9月25日、本件訴訟を提起した。
(イ) 被告は、平成21年10月21日に本件訴訟の訴状送達を受けた後、本件各出店者に対し、原告から権利侵害の通告があった事実を通知するとともに、正規品であることが確認できない場合には対象商品を出店ページから削除するよう要請した。
 その後、同月28日までに、本件各出店者によって、それぞれの出店ぺージから本件各商品の商品画像が削除された(乙10、11の1ないし11の16)。
3 争点
 本件の争点は、@本件各商品の展示及び販売について、被告が商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号、2号)の「譲渡のために展示」又は「譲渡」を行ったといえるかどうか(争点1)、A被告による本件各商標権侵害の有無(争点2)、B被告の不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号、2号)の成否(争点3)、C被告の商標権侵害行為及び不正競争行為により被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告の行為主体性)について
(1) 原告の主張
 以下のとおり、楽天市場における本件各商品の展示及び販売について、被告は、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものである。
 被告の上記行為は、商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」及び「譲渡」に該当し、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」及び「譲渡」に該当する。
ア 譲渡」の主体
 楽天市場における顧客への本件各商品の販売についての経理上の売主は本件各出店者である。このことは、被告が、事実として、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、本件各商品の「譲渡」を行っていることと矛盾するものではない。
 「売買」における商品を売却する行為は、権利主体の変更のための意思表示のみをいうのではなく、その法律的効果をもたらすための一連の行為をいうことは当然である。
 すなわち、商品を売却する行為には、申込みの誘引、申込みや承諾の意思表示及びその受領、物の発送(納品)、代金の請求、回収等様々な行為が含まれるのであり、これらは、いずれも移転される権利の権利者、あるいは売買契約の当事者でなければできないものではない。
 他人の権利の売買をすること、あるいは他人が権利を移転するために申込み等を行うことで、売買契約が成立するのであり、更に代金の回収、物の発送も移転される商品の権利を有する者、あるいは売買契約の当事者として名前が記載されている者でなくとも行うことができる。他人が権利を有する商品に関する場合であるとか、他人の名義でされる場合でも、このような者の関与の度合いによっては、同人が実質的には売買の主体、あるいは共同主体の一人又は幇助者であると判断されるのである。
 商標法2条3項2号の規定においても、単に「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為とするだけで、行為者の属性は何ら問題とされていない。
 このように「売買」における商品を売却する行為は、権利主体の変更のための意思表示のみをいうのではなく、その法律的効果をもたらすための一連の行為をいうとの理解は、特定商取引に関する法律(同法2条1項1号の「販売業者」の解説(甲55)参照)でも同じである。
イ 商品の展示及び販売についての被告の関与
(ア) 出店ページの審査、商材の事前審査
 被告は、出店者が制作した出店用のウェブページ(出店ページ)を審査し、当該内容が被告サイトにふさわしいと判断したもののみを公開する権限を有している(被告規約6条3項)。また、被告は、一定の限定の下、出店者へのサービスを事前予告なく停止する権限を有している(被告規約20条3号)。特に、「海外ブランドメーカー品」等の商材については、出店及び出品に際し、事前の被告の審査が行われている(甲22の58頁「3.お取扱い予定商材について」の「事前審査商材」)。
(イ) 商品掲載ページの保存、管理
 出品された全ての商品の商品掲載ページが、被告が管理するサーバに保存されている。これにより被告サイト内の全商品の検索が可能となり、顧客は一つの店舗にいるように買物ができる。
 そして、被告は、出店者に対し、被告サイト以外へのリンクを禁止している。例えば、出店者が被告とは無関係に、外部サーバに独自に商品ページを作成、保管し、被告サイトにある出店者の出店ページから外部サーバのページにリンクを張ることは許されていない。
 これにより、被告は、被告サイトで購入できる全ての商品を把握し、出店者の行為を被告の支配下においている。
(ウ) 個々の商品の展示及び販売
 被告は、@自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し、被告サイトを通じて、購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて、自らが管理運営するサーバに保管し、内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し、表示させる行為、A本件各商品について、顧客から購入の申込みを受け、本件各出店者をして出荷、すなわち譲渡させる行為(これには、本件各商品の購入の申込みの意思表示を顧客から受信し、本件各出店者に送信し、出荷を促す行為、本件各商品の価格、消費税、配送料などに関する情報を顧客に提示する行為、その他決済に必要な情報の授受、配送先の指定(履行地の指定)に関する情報の授受などを含む。)を行っている。
a 被告の上記@の行為は、本件各出店者との契約に基づき、本件各出店者の依頼に基づいて行うものであるが、被告が自己の行為として行うものであり、被告は、単独であるいは少なくとも本件各出店者と共同で本件各商品の販売のための展示等を行っているといえる。
 すなわち、被告は、自己のサーバに全ての商品に関する情報を保管しており(前記(イ))、その内容は被告自身が点検可能であるところ、その中から、顧客の要請した情報を検索し、選択して顧客に送信する。被告から顧客に送信された情報において、必ず「楽天」のロゴが画面に表示され、URL(ウェブアドレス)も被告のものであり、当該情報の発信者が被告であることが顧客に示される。
 このような被告の行為は、自らが本件各商品に関する情報を顧客に送信し、表示させる行為であり、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)が受け取った情報を右から左に流す行為や、郵便事業者が投函された手紙を名宛人に配達する行為とは全く異なるものである。
b 被告の上記Aの行為は、本件各商品の売買契約締結に関する重要な情報や意思表示を、顧客と出店者の間で伝達する行為であり、被告は、本件各出店者が本件各商品を顧客に譲渡するに当たりなくてはならない役割を担うものである。
 具体的には、被告は、本件各商品の販売(譲渡)に関し、少なくとも、商品情報の保管と提供、「買い物かご」の提供、顧客からの購入の申込みの意思表示の受領及び出店者への転送、納品先に関する情報の受領及び出店者への転送、顧客からの決済関連情報の受領及び被告によるカード決済(又は出店者への転送)を行っている。
(エ) 被告の受益
 被告は、出店者から定額の「基本出店料」(被告規約12条)を徴収するとともに、「システム利用料」(被告規約13条)として、出店者の月額販売額に応じた金額を徴収しており、出店者の個々の販売行為が増加すると、被告の収益も増加することとなる。
(オ) 被告と出店者の相互利用関係
 本件各出店者は、被告の信用力、著名性を利用し、本件各商品の譲渡を行っており、被告の行為がなければ本件各商品が販売できなかったものである。
 一方、被告においては、出店者の商品が被告の集客力、収益力の源泉であり、被告は出店者による出店、商品の出品、販売に依存している。被告の収入は、出店者数及びその売上げに強く依存することから、出店者の増加及び売上げの増加のために、積極的な活動を展開している。
 例えば、被告は、「楽天大学」を主催し、出店前から出店後に至るまでの各段階でのコンサルティングを行い、また、被告自身も顧客獲得及び商品開発のためのマーケティングを行い、出店者のサイト構築に積極的に関与している(甲21ないし32)。
 このように被告と本件各出店者との間には、非常に強い相互利用関係があり、相互に依存している。
ウ 被告が「譲渡」の主体又は共同主体であること
 以上のとおり、@被告は、本件各商品の展示及び販売について関与し、利益を上げていること、A被告が楽天市場を創設し、システムを構築した上で、出店者が楽天市場に出店し、商品を展示等するに当たり、店舗運営システム「RMS」の提供、アドバイスないしコンサルタントの提供、更には納品されなかった場合のクレーム対応(「楽天あんしんショッピングサービス」(甲39、40)の提供等)など多くの支援・援助を行い、不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること等にかんがみれば、少なくとも、本件各商品の展示等及び譲渡(販売)は、本件各出店者が関与するとしても、被告による行為といわざるを得ない。
 また、仮に被告による行為が単独のものといえないとしても、被告は、本件各商品の譲渡行為の一部を行い、これによって原告の本件各商標権の侵害を現実のものとし、更に著しく増大させたこと、それが、被告と出店者の相互利用関係の中でされていることからすれば、被告は、本件各出店者と共同で、本件各商品を「販売のために展示」及び「譲渡」を行ったものというべきである。
 したがって、被告は、主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、本件各商品を「販売のために展示」及び「譲渡」を行ったものである。
エ 被告が幇助により「譲渡」を行ったこと
 仮に被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、本件各商品を「販売のために展示」及び「譲渡」を行ったものといえないとしも、本件各出店者における本件各商品の展示及び販売についての被告の関与は幇助に当たり、被告は幇助者である。
 そして、対世的権利である商標権侵害に基づく差止請求権は、所有権に基づく妨害排除請求権等の物権的請求権とその趣旨を同一にすること、妨害排除請求権を含む物権的請求権についての請求の相手方は、自ら物権の妨害状態を生ぜしめた者に限らず、その者の支配に属する事実によって物権の侵害状態を生ぜしめている者をすべて含むと解するのが多数説であること(我妻栄著「物権法(民法講義U)」22頁)からすれば、商標権等を含む知的財産権の侵害行為に加功している幇助者も、「その者の支配に属する事実によって物権的権利である商標権の侵害状態を生ぜしめている者」に該当し得るから、差止請求の相手方に含まれると解すべきである。
 具体的には、@幇助者による幇助行為の内容・性質、A現に行われている商標権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、B幇助者の利益と商標権侵害行為との結びつきを考慮し、「その者の支配に属する事実によって物権的権利である商標権の侵害状態を生ぜしめている者」に当たるのであれば、幇助者は、差止請求の相手方に含まれると解すべきである(大阪地裁平成15年2月13日判決(平成14年(ワ)第9435号)等参照)。
 上記@については、被告は、本件各商品の販売(譲渡)が実現されるに際して、商品情報の保管と提供、「買い物かご」の提供、顧客からの購入の申込みの意思表示の受領及び出店者への転送、納品先に関する情報の受領及び出店者への転送、顧客からの決済関連情報の受領及び被告によるカード決済(又は出店者への転送)及びその他譲渡に関連する行為(店舗運営システム「RMS」の提供、アドバイス、納品されなかった場合のクレーム対応)などを行っている。これら被告の行為がなければ本件被告商品の譲渡は実現されないのであるから、少なくとも実質的・規範的にみて譲渡行為そのものと同視可能な性質を有することは明白である。
 上記Aについては、楽天市場における商品の販売の申出、受注及び実際の引渡しの実現が被告の行為・役割に依存し、顧客への商品の販売には、あらゆる段階において被告の関与が必要である。このように商標権侵害行為に対する被告の管理・支配の程度は極めて強い。
 上記Bについては、被告は、本件各商品を楽天市場に出品する本件各出店者からその売上げ等に応じた利用料を徴収することで莫大な利益を受けており、幇助者である被告の利益と商標権侵害行為との結びつきは非常に強いものである。
 以上によれば、被告は、本件各商品の譲渡に関する行為の全般にわたって有形無形の関与をし、このような被告の行為がなければ本件各出店者が本件各商品を販売することは著しく困難であり、被告は本件各商品の譲渡により直接的利益を得ているのであるから、被告の幇助行為は差止請求の対象に含まれるべきものである。
 したがって、被告の幇助行為は、商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」及び「譲渡」に該当すると解すべきである。
オ 利益衡量の観点からの解釈の妥当性
(ア) 被告は、商品を陳列する出店者は自ら勧誘し選定した者であって、出店場所は自らが運営するインターネットショッピングモールであるから、展示、陳列される商品について確認可能である。
 すなわち、被告は、出店者から商品情報を受け取り、被告サーバにおいて記憶し、顧客の要請に応じて顧客に送信し、顧客の注文、決済情報、商品送付先等を受信し、これを出店者に送信するのであるから、これらの過程において、被告が楽天市場において販売している商品につき認識可能である。被告は、検索機能を用いることで、商標権侵害の疑いのある商品をピックアップし、その上で、出店者に当該商品が「正規品の販売であることを確認し得る仕入れの商流を確認」することが可能であるし、権利者に出店者に対するライセンスの有無等について確認することもできる。
(イ)a 被告は、後記のとおり、各出店者が行う手続のみによって商品は出店されており、被告がある特定の商品が被告のウェブサイト上で出品されないようにすることはシステム上不可能であり、また、各店舗が個別の商品を出品する際に、被告の承認を必要とするシステムに変更することは、楽天市場の膨大な店舗数及び商品数を考えると、現実的にみて不可能である旨主張する。
 しかし、現在の被告の体制は、展示、販売される商品等について十分なチェックができないというだけであっておよそ理由がなく、また、被告のシステムが被告主張のように設計されていること、あるいは、楽天市場の取扱商品が膨大であること等は何ら理由になるものではない。
 被告は、商品の販売を出店者と共に楽天市場で行い、それにより直接的利益を得ているのであるから、その商品の中に商標権侵害あるいは不正競争行為に該当する偽物が含まれることのないようにすべき義務が存することは明白である。被告は、出品の都度に偽物を排除すれば良いのであり、商品が膨大であっても人手を用意するか、それが利益を圧迫するなら新たな排除方法を開発しなくてはならないというべきである。
b また、被告は、後記のとおり、商標権者は、出店ページから出店者の事業所所在地を知ることができるから、商標権を侵害する商品を販売する出店者に対し、警告書を送付することは困難ではなく、訴訟等の法的措置により権利救済を求めることが容易である旨主張する。
 しかし、出店者の住所が知れることだけで、出店者への請求による権利救済が容易となることはそもそもないが、いずれにしろ出店者への権利救済の請求が可能であることが、被告が権利侵害を排除するための方策をとらなくてもよいということにはならない。
 被告の上記主張は、出店者との契約によって得られる被告の利益を、原告その他第三者に対する権利侵害防止策より上位に置くものであり、およそ不当な主張である。
(ウ) 以上のとおり、原告と被告の利益衡量の観点からみても、本件各商品の展示及び販売について、被告を「譲渡」の主体と評価することは妥当である。
カ 小括
 以上によれば、被告は、本件各商品の展示及び販売について、商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号、2号)の「譲渡のために展示」又は「譲渡」を行ったものといえる。
(2) 被告の主張
 以下のとおり、被告が本件各商品の販売のための展示又は販売(譲渡)を行ったとの原告の主張は理由がない。
ア 被告は「譲渡」の主体でないこと
 「譲渡」とは、「権利、財産、法律上の地位等を、他人に移転すること」(有斐閣「法律用語辞典」第3版)である。この「譲渡」の語義からすれば、「譲渡」とは、財産権の売買の売主として物を売却する行為を意味する。
 「譲渡」は売却行為の売主としての行為である以上、当該売主のみに認められるべき行為であって、それ以外の者が「譲渡」の主体であると解することはできない。
 本件各出店者における本件各商品の販売(譲渡)は、売主を本件各出店者、買主を顧客とするものであり、被告は売主ではないから、被告は、本件各商品の「譲渡」(商標法2条3項2号)の主体ではない。
イ 「譲渡」の主体と評価できる関与の欠如
 商標法上の「譲渡」は、上述のとおり一義的に明確でかつ限定的な意義を有する概念であると解されるが、仮にこの「譲渡」概念を規範的に評価するとしても、被告は、被告が主体として楽天市場における本件各商品の販売(譲渡)を行っていると評価できる関与をしていないから、被告が本件各出店者を介して、あるいは共同で上記展示及び譲渡を行ったものということはできない。
(ア) 出店ページにおける商品情報の表示等について
a 商品情報の表示者
 楽天市場における被告の役割は、出店用のページ、販売に必要なウェブサイトの枠組み及びデータベースシステム並びに出店ページを構成するソフトウェアの使用許諾である(被告規約2条2項)。
 楽天市場において販売される個別の商品についての情報は、あくまでも出店者がその責任において作成し、被告が提供するシステムを用いて、楽天市場における当該出店者の出店ページに表示されるのであり、個別の商品が表示されるに際し、事前に被告の承認をその都度得るなど、被告が関与する仕組みにはなっていない(被告規約6条)。
 つまり、個別の商品についての情報を出店ページに表示するのはあくまでも出店者であって、被告は表示するためのシステムを提供しているに過ぎない。被告が顧客向けに表示している「楽天市場でのお買い物上のご注意」(乙5)及び「楽天サイトご利用上のご注意」(乙6)においても、楽天市場における商品の販売主体は被告ではなく、出店者であること、被告は買物に関する責任を負わないこと、買物に関してトラブルが生じた場合は顧客と出店者で直接解決すること、取扱商品について被告が保証するものではないことが明記されている。
 また、被告が出店ページに表示される個別の商品についての情報の選別を行うことは技術的に不可能である。
b 検索機能
 被告の提供するシステムにおける商品検索機能(以下「検索機能」という。)は、ユーザーが打ち込んだキーワードに対して、予め設定された一般的かつ客観的な指標に基づき、機械的・自動的に検索した結果を表示しているものにすぎず、一般に存在する検索エンジンと同等のサービスが提供されているに過ぎない。被告は、商品の内容を把握した上で、商品の選別、推奨等を行っていない。
c ロゴ、URLの表示
 出店ページの商品掲載ページに被告のロゴ、URLが表示されるのは、楽天市場内のサイトであることを示すものにすぎず、展示主体であることを示しているわけではない。商品掲載ページにおいては、店舗名が被告のロゴよりも圧倒的に大きく表示されており(甲7の1ないし甲20)、その配置等にかんがみても、商品掲載ページに記載されている情報の発信者が出店者であり、商品の展示主体が出店者であることは、一見して明らかである。
(イ) 売買契約締結プロセスについて
 楽天市場での商品の販売に関する折衝及び契約の締結は、顧客と出店者との間で直接行われ、顧客が売買契約の申込みをし、出店者が承諾することにより、顧客と出店者との間で売買契約が成立する。これについて、被告は、一切意思的な関与をしておらず、注文に関する情報を伝達するシステムというインフラを提供しているに過ぎない。
 すなわち、顧客が楽天市場において各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに「注文内容確認メール」が自動的に送信されるのと同時に、同内容の「注文内容確認メール」が当該店舗の出店者にも自動的に送信される。これらのメールは、顧客が注文時に入力した情報に基づき、入力内容が確実に送信されたか否かを顧客及び出店者に確認させるために、被告のシステムにおいて自動的に送信されるものである。「注文内容確認メール」は、被告が顧客の注文内容を把握することを目的とするものではなく、現実にこれを把握をした上で配信しているわけでもない。顧客による商品の売買契約の申込みが被告のシステムを介して出店者に対して行われているに過ぎない。
 注文を受けた出店者は、当該注文を受けることができるか否かを判断した上で、受注する場合には、顧客に対して受注のメール(承諾メール)を送信する。この承諾メールが、売買契約の承諾の意思表示となる。
 顧客の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、出店者がその責任において行うものであり、被告は一切関与しない。また、被告は、商品の販売価格その他の販売条件を決定する権限を全く有していない。購入する商品の合計金額、消費税額、配送料等、一方当事者が入力した情報を編集した情報が他方当事者に配信されることもあるが、これも出店者又は顧客が入力した各商品の価格情報、配送地域ごとの配送料といった情報に基づき、被告の提供するソフトウェアにより特定の計算ロジックに従って機械的に算出された金額が表示されるにすぎず、被告がこれらの情報の内容を決定しているものではない。
 このように出店者が入力した商品の販売に関する情報及び顧客が入力した商品の購入に関する情報が、被告のシステムを利用して表示ないし配信されているに過ぎない。
(ウ) 売買契約成立後の手続について
 売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われるものであり、被告は関与していない。被告が出店者に商品を出荷させる立場にはない。
(エ) 出店者に提供する付加的サービスについて
 楽天市場における商品の広告媒体の提供、コンサルティング、物流サービス、決済サービス等の被告の出店者に対する付加的サービスは、出店者が「楽天市場」という「場」において、より多くの顧客と出会うことができ、より円滑に商売をすることができるようにするために、被告が提供しているものであり、その域を出るものではない。また、いずれのサービスも、出店者からの委託に基づき行われ、出店者は、利用を強制されるものではなく、第三者が提供する同種のサービスを利用することもできる。
 したがって、被告が付加的サービスを提供していることをもって商品の譲渡に関与しているといえるものではなく、あくまで商品の譲渡とは別個のサービスとして提供しているに過ぎない。
(オ) 出品された商品の内容の点検が可能でないこと
 楽天市場に出品された商品のデータは被告のサーバ内に保管されているが、商品の出品は出店者が行う手続のみによってされており、被告が各店舗によって出品された商品の内容を確認するには、結局のところ人の目により行うしかない。しかし、楽天市場において販売されている商品の数が膨大であることを前提にすると、被告が出店者によって出品された全ての商品及びその取引を把握することは不可能である。
 また、商標権侵害についてはライセンスの存在、消尽、先使用等の抗弁が成立する可能性があるが、被告は、楽天市場に出品された商品が第三者の商標権を侵害するか否かを判断するに足りる情報を有していない。そのため、被告がある特定の商品が出品されていることを把握した場合であっても、その商品が第三者の商標権を侵害するか否かを判断することは不可能であり、少なくとも権利者から指摘を受け、かつ、上記のような抗弁事由の有無を調査しない限り、侵害の可能性についてすら判別することができない。
 したがって、被告において、出品された商品の内容の点検が可能であるとはいえない。
 以上のとおり、被告においては、楽天市場における個別の商品の販売について自らが当該商品を販売していること自体の認識がなく、その認識可能性もないのであるから、楽天市場における個別の商品が第三者の商標権を侵害する場合であっても、被告は、その侵害状態を除去し得る支配管理をしているとはいえない。
(カ) まとめ
 楽天市場における本件各商品の販売取引に関する被告の関与は、以上のとおりであり、このような被告の関与をもって、被告が主体となって本件各出店者を介して、あるいは共同で上記展示及び譲渡を行ったものと評価することはできない。
ウ 幇助は「譲渡」に当たらないこと
 原告は、仮に被告が本件各出店者を介して、あるいは共同で本件各商品の譲渡を行ったものでないとしても、被告の関与は幇助に当たり、商標権に基づく差止請求権は幇助者に対しても及ぶと解されるから、被告の幇助は「譲渡」(商標法2条3項2号)に当たると解すべきである旨主張する。
 しかし、商標法36条においては、差止請求の対象は、あくまでも「商標権・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に限定されていおり、いわゆる間接侵害等や「幇助的行為」として商標権等侵害とみなされる行為については、商標法37条において限定列挙されている。すなわち、商標法上、商標の「使用」として商標法2条3項各号において定義される行為及び同法37条に限定列挙されている侵害みなし行為以外に対し、差止請求は認められていない。
 したがって、「幇助」であれ「幇助的行為」であれ、これに対して、商標法37条の範囲を超えて同法36条に基づき差止請求が認められるとする法的根拠は皆無であるから、これが差止請求の対象となることを前提とする原告の上記主張は、失当である。
 また、原告の指摘する裁判例は、著作権におけるカラオケ法理に関するものであり、これを法制度の異なる商標権について援用することは適切でない。
エ 楽天市場の仕組みを踏まえた利益衡量の観点からも被告を「譲渡」主体と評価することが不当であること
(ア) 被告において権利侵害を防止する措置を講じることが技術的に不可能であること
 前記イ(オ)のとおり、被告は、楽天市場にどのような商品が出品されているかについて、個別的な「管理」が可能な程度に把握することはそもそも不可能であるし、ある特定の商品が出品されていることを把握した場合でも、その商品が第三者の権利を侵害しているか否かを判断することも不可能である。仮に被告においてある商品が第三者の権利を侵害するものであると知り得たとしても、出店者による出品を事前に制止することは、システム上不可能である。
 もっとも、被告が特定の出店者について、当該出店者の出店ページの被告サイトへの掲載を停止する出店停止の措置をとることは、技術的にみても、被告規約上(被告規約21条)も可能である。
 しかし、出店停止は、対象となる商品のみならず、当該店舗における全ての商品の販売を停止させることを意味し、当該出店者に甚大な損害を与えることになる。被告が合理的な根拠なく出店停止の措置をとった場合には、被告は出店者から損害賠償請求をされるリスクを負うことになる。また、楽天市場に出店している店舗は、その売上げの大部分を楽天市場での販売に依存している店舗もあり、特に中小事業者の場合には、販売停止は当該事業者の死活問題となるので、社会的責任ないしレピュテーションリスクの観点からも、被告は安易に出店停止をすることはできない。
 さらに、被告が、出店者に対し、合理的な理由なく出店停止などの強硬な手段をとった場合は、独占禁止法において禁止される優越的地位の濫用(独占禁止法19条、2条9項5号、一般指定14項3号)に該当する可能性も生じる。
 したがって、出店者が第三者の権利を侵害していることにつき、被告が相応の合理的根拠をもって判断できない限り、出店停止の措置をとることはできない。また、仮に一つの店舗の出店停止の措置をとったとしても、他の店舗による同種の商品の出品は阻止できない。
 さらに、各店舗が個別の商品を出品する際に、被告の承認を必要とするシステムに変更することは、楽天市場の膨大な店舗数及び商品数を考えると、現実的にみて不可能である。
(イ) 原告には商標権侵害者に対する現実的な権利救済手段が十分に与えられている。
 楽天市場の出店者は、事業所在地、代表者名等を自己の出店ページ上に記載しているので(特定商取引に関する法律11条、特定商取引に関する法律施行規則8条)、商標権者は、出店ページから出店者の事業所所在地を知ることができる。したがって、商標権を侵害する商品を販売する出店者に対し、警告書を送付することは困難ではなく、訴訟等の法的措置により権利救済を求めることが容易である。
(ウ) まとめ
 以上のとおり、被告が権利侵害品を排除することは困難であるが、原告にとっては容易であるにもかかわらず、商標法上の「譲渡」概念を拡張してまで、被告に事実上不可能を強いるような義務を負わせることとなる原告の解釈は、利益衡量の観点からみても不当である。
オ 小括
 以上のとおり、文理解釈及び利益衡量のいずれの観点からも、被告が本件各商品の販売のための展示又は販売(譲渡)の主体に当たるということはできない。
2 争点2(被告による本件各商標権侵害の有無)について
(1) 原告の主張
ア 「Chupa Chups」の表示等が周知・著名であること原告の子会社であるCHUPA CHUPS S.A.が1959年(昭和34年)ころからスペインで販売を開始した「Chupa Chups」のブランド名の棒付きキャンディ(チュッパチャプスキャンディ)は、日本を含む全世界において非常な好評を博し、市場において大量に販売されている。チュッパチャプスキャンディには、その販売当初から英文字の「Chupa Chups」の表示が、1969年(昭和44年)ころからは本件各登録商標と同一の標章がそれぞれ外国で使用されるようになった。
 我が国では、森永製菓が1977年(昭和52年)から現在に至るまでチュッパチャプスキャンディを輸入販売しており、同キャンディは、多数のテレビコマーシャル放映や多くの愛好家の存在にも支えられ、キャンディ等としては類をみない位の絶大な人気を誇り、著名人の間にも多くの愛好家が存在する。
 「チュッパ チャプス」の表示、「Chupa Chups」の表示若しくは原告の後記登録商標(以下、これらを併せて「「Chupa Chups」の表示等」という。)は、チュッパチャプスキャンディの国内発売当初から使用されており、同キャンディが長年にわたり市場において好評を博し、販売されていく中、原告らの広告活動も相まって、消費者に広く認識され、かつ著名なものとなっている。
 例えば、日本国内におけるチュッパチャプスキャンディの販売数量は平成13年以降、平成20年に至るまで、毎年1億個を優に超え、年間平均売上額は30億円を超える。その間、原告は毎年平均3億円余の宣伝広告費を投じてきた。
 平成20年5月には、原告ないしその関連会社が、チュッパチャプスキャンディ発売50周年を記念する企画を大々的に行い、「Chupa Chups」の表示等をイメージしたファッションショー「Chupa Chups Collection」を渋谷パルコで開催し、これをインターネット、テレビ、雑誌等を使って消費者に広く告知、紹介した。
 原告は、このほかにも、株式会社サンリオ ファーイーストを介してライセンスビジネスを展開しており、一般消費者向けの製品ないしサービスを提供する様々な会社から、本件各登録商標ないしそのイメージを用いてデザインされた腕時計(カシオ「Baby G」)、携帯音楽プレイヤー(iPod)の背景画面、清涼飲料水(CCレモン)の販促用景品、携帯電話の待ち受け画面、入浴剤、芳香剤、自転車、ゲーム(いわゆるUFOキャッチャー)の景品等が販売ないし提供されている。
 このような原告の活動の結果、遅くとも平成20年には、「Chupa Chups」の表示等が原告の商品を表示するものとして、需要者の間に周知・著名となっていた。
イ 本件各標章と本件各登録商標との類似性
(ア) 本件標章1及び本件標章2と本件登録商標1との類似性
 本件登録商標1は、黄色地の花柄風の輪郭の中に、英文字の「Chupa Chups」を二段に表記してなるものであり、「チュッパチャプス」の称呼が生じ、また、前記アのチュッパチャプスの著名性にかんがみると、本件登録商標1に接した需要者においてチュッパチャプスキャンディの観念が生じるものである。
 他方、本件標章1及び本件標章2は、それぞれ黄色地の花柄風の輪郭の中に、英文字の「Chupa Chups」を二段に表記してなり、<R>記号を付したものであり、その外観は本件商標とほぼ同一である。また、本件標章1及び本件標章2からも、「チュッパチャプス」の称呼が生じ、チュッパチャプスキャンディの観念が生じるものである。
 したがって、本件標章1及び本件標章2は、それぞれ本件登録商標1と類似する。
(イ) 本件標章3と本件登録商標2との類似性
 本件登録商標2は、黄色地の花柄風の輪郭の中に、英文字の「Chupa Chups」を二段に表記してなるものであり、「チュッパチャプス」の称呼が生じ、また、前記アのチュッパチャプスの著名性にかんがみると、本件登録商標2に接した需要者においてチュッパチャプスキャンディの観念が生じるものである。
 他方、本件標章3は、黄色地の花柄風の輪郭の中に、英文字の「Chupa Chups」を二段に表記してなり、<R>記号を付したものであり、その外観は本件商標とほぼ同一である。また、本件標章3からも、「チュッパチャプス」の称呼が生じ、チュッパチャプスキャンディの観念が生じるものである。
 したがって、本件標章3は、本件登録商標2と類似する。
(ウ) 本件標章1及び本件標章4と本件登録商標3との類似性
 まず、本件標章1と本件登録商標3が類似することは、前記(ア)で述べたところと同様である。
 次に、本件標章4は、花柄風の輪郭の中に、英文字の「Chupa Chups」を二段に表記してなり、<R>記号を付したものであり、その外観は本件登録商標3と酷似する。また、本件標章4からも、「チュッパチャプス」の称呼が生じ、チュッパチャプスキャンディの観念が生じるものである。
 したがって、本件標章4は、本件登録商標3と類似する。
ウ 小括
 以上のとおり、本件各標章は本件各登録商標と類似するものであるところ、本件各標章が付された本件各商品は本件各商標権の指定商品と同一又は類似する商品であるから(前記第2の2(5)イ)、被告が楽天市場において本件各商品を販売のために展示し、又は販売した行為は、本件各商標権の指定商品と同一又は類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標の使用として、本件各商標権を侵害するものである(商標法37条1号)。
(2) 被告の主張
 原告の主張のうち、本件各標章と本件各登録商標の外観及び称呼に関する事実は認めるが、その余は争う。
3 争点3(被告の不正競争行為の成否)
(1) 原告の主張
ア 「Chupa Chups」の表示等が、遅くとも平成20年には原告の商品を表示するものとして需要者の間に周知又は著名となっていたことは、前記2(1)アのとおりである。
 「Chupa Chups」の表示等と類似する本件各標章が付された本件各商品が、原告の製造販売ないしライセンスに係る商品であるとの誤認、混同が現に生じており、少なくともそのおそれがある。
イ したがって、被告が楽天市場において本件各商品を販売のために展示し、又は販売した行為は、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に当たる。
(2) 被告の主張
 原告の主張は争う。
4 争点4(原告の損害額)
(1) 原告の主張
ア(ア) 被告が楽天市場において本件各商品を販売のために展示し、又は販売した行為が、原告の本件各商標権を侵害し、不正競争行為に該当することは、前記2(1)及び3(1)のとおりである。
 原告は、被告が運営するウェブサイトである楽天市場に本件各商標権を侵害する商品が展示され、販売されていたことから、前記第2の2(5)のとおり、出店ページのURL(ウェブアドレス)を特定しつつ、直ちにそのページを削除し、販売を中止するよう被告に要求したが、被告は、本件各商標権侵害を構成するページ及び画像を削除せず、更に楽天市場における本件各商標権侵害行為に関して被告が交渉に応じることはしないので、出店者と直接交渉するよう原告に回答した。
 楽天市場において本件各登録商標が付された商品を展示し、販売する出店者は多数に上り、出店者ごとに警告状を送付し、展示及び販売を要求することにはまず費用と時間を要し、更に出店者が原告の要求に応じた展示及び販売を行うまでには更なる交渉が必要であり、そのために更に費用と時間が要求される。
 実際、原告は、被告の上記対応により、商標に化体された信用の毀損を少しでも小さいものとしようと出店者に対応したが、大きな困難があり、これまでに多くの侵害品が被告の楽天市場において販売されている。要するに、被告の上記対応は、本件各商標権を侵害する行為を助長する結果となっている。
 そのため、原告は、やむを得ず本件訴訟を提起せざるを得ず、弁護士費用の支出を余儀なくされ、弁護士費用相当額の損害を被った。その額は少なくとも100万円を下らない。
(イ) 被告には、本件各商品が楽天市場において販売されていることの認識可能性があったから、少なくとも過失がある。
 仮に本件各商品の販売の時点では被告に過失がなかったとしても、被告が原告から具体的な出店ページを特定して商標権侵害の事実の指摘を受けた後は、被告は、商標権侵害につき具体的な認識があったから、それ以降について不法行為責任を免れない。
イ 以上によれば、原告は、被告に対し、民法709条及び不正競争防止法4条に基づく損害賠償として100万円及びこれに対する平成21年10月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張
 原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告の行為主体性)について
(1) 原告は、@被告が、自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し、被告サイトを通じて、購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて、自らが管理運営するサーバに保管し、内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し、表示させる行為、及び本件各商品について顧客から購入の申込みを受け、本件各出店者をして出荷、すなわち譲渡させる行為(本件各商品の購入の申込みの意思表示を顧客から受信し、本件各出店者に送信し、出荷を促す行為、本件各商品の価格、消費税、配送料などに関する情報を顧客に提示する行為、その他決済に必要な情報の授受、配送先の指定(履行地の指定)に関する情報の授受などを含む。)を行い、利益を上げていること、A被告は、出店者が楽天市場に出店し、商品を展示及び販売するに当たり、多くの支援・援助を行い、不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること、B被告と本件各出店者の相互利用関係等にかんがみると、被告の上記行為ないし関与は、楽天市場における本件各商品の販売のための展示及び販売について、被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で、少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものとして、商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当し、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当する旨主張する。
 本件各出店者が、平成21年8月10日当時、楽天市場の各出店ページに本件各標章のいずれかを付した本件各商品を販売のために展示していたこと、本件各出店者のうち、ティキティキカンパニー及びデータリンクが、そのころまでに、楽天市場で本件各商品のうち、本件よだれかけ及び本件携帯ストラップをそれぞれ販売したことは、前記争いのない事実等(前記第2の2(5))のとおりである。
 そこで、本件各出店者における本件各商品の上記展示及び販売について、被告が、商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号及び2号)の「譲渡のために展示」及び「譲渡」を行ったものと認められるかどうかを判断する。
(2) 前提事実
 前記争いのない事実等(前記第2の2)と証拠(甲21ないし32、39、40、乙1ないし4)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 楽天市場の概要
(ア) 被告は、インターネット上の被告サイトにおいてインターネットショッピングモール「楽天市場」を運営している。
 楽天市場においては、被告と契約を締結した出店者が、被告の運営システム「RMS」(Rakuten Merchant Server)を利用して、自ら制作したウェブページ(出店ページ)を公開し、当該出店ページ上の「店舗」(仮想店舗)に商品を掲載し、これを販売している。
 RMSは、「店舗構築機能」(店内レイアウト、商品配置(商品棚)、目玉商品の決定、値札貼り等の作業を被告サイト上で行う機能)、「受注管理機能」(注文の受付から商品の受け渡し、レシート発行、売上帳票作成等の作業を被告サイト上で行う機能)、「売上・アクセス分析機能」(日々のアクセス(来店)人数、時間帯別の売上げ、商品別の売上げ、顧客属性分析等の作業を被告サイト上で行う機能)、「メール配信機能」(店舗の紹介、目玉商品紹介等のいわゆるダイレクレメールの送信を被告サイト上で行う機能)等の機能を有している。
 RMSには、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存され、商品の注文の受付から商品の受け渡し等に係る情報も保存されている。
 楽天市場においては、約3800万余の種類の商品が販売されており、2008年(平成20年)12月当時の出店店舗数は2万6223店(甲22の6頁)に及んでいる。
(イ) 被告は、楽天市場への出店の申込みがあった場合、出店審査を行う。被告は、その際、出店申込書に記載された取扱予定商材の種類が禁止商材(武器・麻薬類、アダルトグッズ、偽ブランド品、模造品・海賊版(違法コピー商品など))に該当しないかどうかについても審査する。
 被告は、取扱予定商材の販売に当たって必要な営業許可・資格、出店申込者の属性等を審査し、問題がなければ、出店の申込みを承諾し、被告規約記載の契約を締結した上で、出店申込者に「RMS」へのアクセスを認める(被告規約2条2項)。
 出店申込者は、RMSを利用して、楽天市場に掲示するウェブページ(販売する商材の情報等が掲載される。)を制作した上で、当該ページ(コンテンツ)を被告に提出し、被告が、これを審査する(被告規約6条3項)。
 被告は、その際、コンテンツをサンプリングした上で、サンプリングした当該ページについて必要な記載事項を満たしているか、禁止商材に該当する商材を掲載していないかという観点から審査し、問題がなければ、当該コンテンツを店舗ページ(出店ページ)上に掲載し、「出店」することを認める。
 被告は、ブランド品を扱う出店申込者(出店者)に対し、出店時に、真正商品を扱うことや商品に関して出店者が責任を持つこと等を誓約させ、かつ、特定の著名ブランドについては、特に正規代理店やブランドメーカーまで辿る伝票等を提示させることで、正規品の販売であることを確認し得る仕入れの商流を確認している。もっとも、被告担当者が実際に商品に触れたり、ある特定の商品の真贋を判断したりすることはない。また、商流が正規のものであることが確認でき、取扱許可となれば、出店者は、被告の事前承認を個別に得ることなく、自己の出店ページ上に商品を掲載することができる。
 出店者は、出店後に、被告の審査を経ることなく、出店ページ上のコンテンツ(商品の情報等)の内容を改訂したり、更新することができる(被告規約6条4項)。
(ウ) 出店者は、契約内容(プラン)等に応じて、被告に対し、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)を支払う(被告規約12条、13条)。別表は、被告規約の定める「スタンダードプラン」(10、000品目まで)における基本出店料及びシステム利用料の一例である。この例によれば、システム利用料は売上高の2ないし4%である。
 出店者が出店ページ内に被告サイト外にリンクを張ることやURLを記載する行為は禁止され、また、「メール、電話、FAXでも注文を受け付けると表示する」などシステム料金等の課金を回避することを目的とする行為は禁止されている。
(エ) 被告は、被告規約等に違反したときは、出店者に対し、出店停止の措置をとることができる(被告規約21条1項1号、26条1項1号)。この「出店停止」の措置は、被告のシステムにおいて、特定の出店者の店舗全体(出店ページ全体)につき楽天市場への掲載を停止するものである。
 一方、被告のシステム上、被告が、出店者の出店ページに表示される個別の商品についての情報(商品画像等)のみを閲覧停止としたり、削除することはできない。
イ 出店ページにおける商品情報の表示
 出店者は、与えられたID、パスワードを利用してRMSメインメニューにログインし、その中の「商品ページ設定メニュー」から、個別の商品を登録するために必要な所定の事項を入力することにより、楽天市場の当該出店者の出店ページに当該商品が登録される仕組み(乙1)となっている。個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われる。出店者は、被告規約上、出店後には、事前に被告の承認を得ることを要せず、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ(被告規約6条4項)、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていない。
 また、登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与していない。
ウ 楽天市場における商品の購入手続
(ア) 顧客は、楽天市場で商品を購入しようとする場合、被告サイトの 検索手段により、全ての楽天市場の出店者の商品について一度に検索し、表示された内容を比較して商品を選択することができる。
 顧客は、購入を希望する商品について、出店者の出店ページの「買い物かごに入れる」をクリックし、「買い物かご」に商品を入れる。
 顧客が「買い物かご」に入っている商品の注文手続を行う際には、被告サイトにおいて顧客が必要な情報(氏名、住所、電話番号等)を入力する。
 顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに「注文内容確認メール」が自動的に送信され、これと同時に、同内容の「注文内容確認メール」が当該店舗の出店者にも自動的に送信される。
 この「注文内容確認メール」には、注文情報が楽天市場のサーバに到達した時点で送信される自動配信メールである旨、ショップ(出店者)からの確認の連絡又は商品の発送をもって売買契約成立となる旨記載されている。
(イ) 前記(ア)により顧客から商品の注文(購入の申込み)を受けた出店者は、当該商品の在庫状況等を確認し、注文に応じることができるか否かを判断した上で、これに応じる場合には、顧客に対し、受注のメール(承諾メール)を送信する。この承諾メールが、当該商品の売買契約の承諾の意思表示となる。
 顧客の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、出店者が行い、被告は一切関与しない。
 出店者からの承諾メールは、被告の提供するシステムを利用して送信することが可能であるが(乙3)、被告のシステムの利用は必須ではなく、出店者が通常使用しているメールソフトやメール配信システムを利用してメールを送信することも可能である(乙4)。被告のシステムを利用して承諾メールが送信される場合においても、承諾メールの内容及び送信の時期は、出店者によって決定される。
 また、商品の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していない。購入する商品の合計金額、消費税額、配送料等、一方当事者が入力した情報を編集した情報が他方当事者に配信されることもある。これも出店者又は顧客が入力した各商品の価格情報、配送地域ごとの配送料といった情報に基づき、被告の提供するソフトウェアにより特定の計算ロジックに従って機械的に算出された金額が表示されるものであり、被告がこれらの情報の内容を決定しているものではない。
(ウ) 売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われる。
 被告は、出店者に対して物流サービス(「梱包資材サービス」、「物流代行サービス」)を提供しているが、出店者からの委託に基づいて提供するものであり、物流サービスの利用は必須のものではない。
 また、被告は、出店者に対して、クレジットカード決済プログラム(「R-Card Plus」)を提供しているが、カード契約上の加盟店は出店者であり、カード認証はカード会社が行っている。被告は、出店者からの委託に基づき、出店者に代わって各種手続を行っている。
(エ) 被告が顧客向けに表示している「楽天市場でのお買い物上のご注意」(乙5)及び「楽天サイトご利用上のご注意」(乙6)においては、楽天市場における商品の販売主体は被告ではなく、出店者であること、被告は買物に関する責任を負わないこと、買物に関してトラブルが生じた場合は顧客と出店者で直接解決すること、取扱商品について被告が保証するものではないことが明記されている。
エ 被告によるポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供 顧客が楽天市場において出店者から商品を購入した場合、購入額に応じたポイント(「楽天スーパーポイント」、通常は購入額の1%)が顧客に付与される。顧客は、1ポイントを1円として換算した金額の商品を購入することができる。
 このポイントは、顧客が商品を購入した出店者が付与するのではなく、被告が顧客に付与するものであり、ポイントを利用した商品の購入は、ポイント付与の対象となった取引に係る店舗に限らず、被告に出店している全ての店舗で可能である。ポイントを利用した商品の購入に係る精算金は、被告から出店者に対し、口座振込みの方法で支払われる(甲21の「楽天スーパーポイント利用規約」8条1項、2項)。
 このほか、被告は、出店者に対するアドバイス、コンサルティングの提供、顧客情報収集に関する機能(「プレゼント・無料モニター募集企画開催機能」、「オークション開催機能」)の提供、商品が納品されなかった場合に顧客に補償金を支払う「楽天あんしんショッピングサービス」(甲39、40)などのオプションサービスの提供等を行っている。
オ 出店者に関する情報の開示
 楽天市場の出店者は、特定商取引に関する法律11条、特定商取引に関する法律施行規則8条に従って、事業所所在地、代表者名等を自己の出店ページ上に記載しているので、出店ページから出店者の事業所所在地等を知ることができる。
(3) 判断
ア 商標法2条3項2号は、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為は、当該標章の使用に当たる旨規定している。
 同号が規定する商品に標章を付したものの「譲渡」とは、当該標章を付した商品の所有権を他人に移転することをいい、これには有償、無償を問わないものと解される。
 そうすると、本件各標章を付した本件各商品の販売(売買)は、有償による「譲渡」に該当し、本件各標章の使用に当たるものと認められる。
 そこで、被告が本件各商品について上記「譲渡」を行ったかどうかについて検討する。
 前記前提事実によれば、@被告が運営する楽天市場においては、出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、A被告は、上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については、当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって、被告は、その「主体」に当たるものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても、その販売に係る「譲渡」の主体は、本件各出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきである。
イ(ア) これに対し原告は、楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば、被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。
 しかしながら、前記前提事実によれば、@被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが、個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われ、出店者は、事前に被告の承認を得ることなく、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていないこと、A出店ページに登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与しておらず、また、商品の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していないこと、B顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、当該商品の出店者が行い、被告は、一切関与しないこと、C売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われること、D被告は、出店者から、販売された商品の代金の分配を受けていないこと、Eもっとも、被告は、出店者から、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)の支払を受けるが、これらは商品の代金の一部ではなく、また、システム利用料は売上高の2ないし4%程度であること(別表参照)に照らすと、商品の販売により、被告が出店者と同等の利益を受けているということもできないこと、F顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに「注文内容確認メール」が自動的に送信され、これと同時に、同内容の「注文内容確認メール」が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが、これらの送信は、機械的に自動的に行われているものであり、被告の意思決定や判断が介在しているものとはいえないこと、G被告の出店者に対するRMSの機能、ポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供等は、出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえないこと、以上の@ないしGに照らすならば、実質的にみても、本件各商品の販売は、本件各出店者が、被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり、本件各商品の販売の過程において、被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと、これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない。
 また、本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから、被告の計算において、本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない。
 さらに、上記@ないしGに照らすならば、本件各商品の販売について、被告が本件各出店者とが同等の立場で関与し、利益を上げているものと認めることもできない。もっとも、本件各出店者と被告との間には、被告は、本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから、本件各出店者における売上げが増加すれば、システム利用料等による被告の収入が増加するという関係があるが、このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない。
 以上によれば、被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また、原告は、「売買」における商品を売却する行為は、権利主体の変更のための意思表示のみをいうのではなく、その法律的効果をもたらすための一連の行為をいい、申込みの誘引、申込みや承諾の意思表示及びその受領、物の発送(納品)、代金の請求、回収等様々な行為が含まれるのであり、これらは、いずれも売買契約の当事者でなければできないものではないところ、被告は、本件各商品の譲渡に関する行為の全般にわたって有形無形の関与をし、このような被告の幇助行為がなければ本件各出店者が本件各商品を販売することは著しく困難であり、被告は本件各商品の譲渡により直接的利益を得ているのであるから、被告の幇助行為は、商標法2条3項2号の「譲渡」に当たる旨主張する。
 しかし、前記アのとおり、商標法2条3項2号の「譲渡」とは、当該標章を付した商品の所有権を他人に移転することをいい、有償、無償を問わないものと解されるが、原告が主張するような売却行為の一連の行為の一部に関与する幇助行為を行ったというだけでは、このような商品の「譲渡」を行ったものと認めることはできない。
 また、被告が被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものといえないことは、前記(ア)のとおりである。
 さらに、楽天市場の出店ページには当該出店者の事業所所在地等が記載されており、出店ページから出店者を特定できること(前記(2)オ)に照らすならば、原告の主張するような解釈を採らなければ、権利者の利益を不当に害するという事情も認められない。
 したがって、原告の主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり、本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品の販売に係る「譲渡」(商標法2条3項2号)の主体は、出店者であって、被告は、その主体に当たらないというべきであり、これと同様に、「譲渡のために展示」する主体は、出店者であって、被告はこれに当たらないというべきである。
 また、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である。
(4) まとめ
 以上によれば、本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は、商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることはできず、同様に、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることもできない。
 そうすると、被告の上記行為が上記「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当することを前提とする原告の本件差止請求及び損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
2 結論
 以上のとおり、原告の請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 上田真史
 裁判官 石神有吾


(別表)
「スタンダード出店」(商品数10,000品目)についての月額基本出店料(税別):50,000円
「通常商品およびオークションにかかるシステム利用料(税別)」:
平均バスケット単価 百万円迄分 2百万円迄分 3百万円迄分 5百万円迄分 1千万円迄分 3千万円迄分 3千万円超分
0〜7千円 4.0% 3.0% 3.0% 2.8% 2.8% 2.6% 2.4%
7千円超〜1.5万円 3.0% 2.8% 2.8% 2.6% 2.4% 2.4%
1.5万円超〜2.5万円 2.8% 2.8% 2.6% 2.4% 2.4% 2.2%
2.5万円超〜3.5万円 2.8% 2.6% 2.4% 2.4% 2.2% 2.2%
3.5万円超〜5万円 2.6% 2.4% 2.4% 2.2% 2.2% 2.0%
5万円超 2.4% 2.4% 2.2% 2.2% 2.0% 2.0%
※平均バスケット単価とは、システム利用料の課金対象となる月間における
  (通常商品売上高+オークション売上高)÷(通常商品販売件数+オークション落札件数)をいう。
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