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【事件名】「サーキットの狼」DVD化事件
【年月日】平成22年7月16日
 東京地裁 平成21年(ワ)第3188号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年5月14日)

判決
原告 株式会社てんこもり
原告 X
原告ら訴訟代理人弁護士 大毅
被告 株式会社アニメディア・ドット・コム
訴訟代理人弁護士 三島駿一郎
同 平間民郎


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告株式会社てんこもりに対し、105万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Xに対し、630万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、漫画「サーキットの狼」を題材にしたテレビ番組の製作業務の下請をした原告株式会社てんこもり(以下「原告会社」という。)及び同テレビ番組でナレーションの実演を行った原告X(以下「原告X」という。)が、同テレビ番組がDVD化されることについての承諾をしていないのに、同テレビ番組製作の発注者である株式会社ジャパンイメージコミュニケーションズ(以下「JIC」という。)から同テレビ番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利(サブライセンス権)の設定(許諾)を受けた被告が、株式会社交通タイムス社(以下「交通タイムス社」という。)に同テレビ番組のDVD化を許諾するライセンス契約を締結し、交通タイムス社を通じて同番組のDVDを製作販売したなどと主張し、被告に対し、原告会社においては同テレビ番組の製作業務に関する追加の請負代金として105万円の支払を、原告Xにおいては同テレビ番組の追加の出演料として315万円及び上記実演に係る実演家の録音権(著作権法91条1項)侵害の不法行為による損害賠償として315万円の合計630万円の支払を求めた事案である。
1 基礎となる事実(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者等
ア 原告会社は、スタジオ運営、映像撮影、CG製作等を業とする株式会社である。
イ 原告Xは、テレビ番組等におけるナレーター業等を営む者である。
ウ 被告は、映像製作等を業とする株式会社である。
 また、被告は、平成17年5月ころから、漫画家池沢早人師(以下「池沢」という。)の委託を受けて、同人の作品である漫画「サーキットの狼」についての著作権の管理を行っている(乙2、被告代表者本人)。
エ JICは、CS放送やケーブルテレビで放映されているテレビチャンネル「MONDO21」を運営する株式会社である。
(2) 「蘇れ!サーキットの狼」の放送
 JICは、平成18年7月から12月にかけて、テレビチャンネル「MONDO21」において、「蘇れ!サーキットの狼」と題する30分枠、全12回のテレビ番組(以下「本件番組」という。)を放送した。
 本件番組は、各回ごとに漫画「サーキットの狼」の中に登場する特定のスーパーカーを取り上げ、そのデザインを再現した実物の車両を紹介したり、ホスト役の池沢と各回のゲストが、スーパーカーにまつわるトークを繰り広げることなどを内容とするものであった(検甲1ないし12)。
 原告Xは、本件番組の中で、ナレーターを務めた。
(3) 本件番組の製作に係る経過
ア JICと株式会社ソニア(以下「ソニア」という。)は、平成18年4月18日、ソニアがJICから、以下の条件によりテレビ番組の制作業務全般(企画、構成、脚本、キャスティング、照明、美術、撮影、録画、録音、編集等)を請け負う旨の契約を締結した(甲3)。
 番組名 蘇れ!サーキットの狼
 製作本数 12本
 形式・種別 30分枠(実尺27分)
 初回放送予定 2006年(平成18年)7月ないし同年12月
 代金 1本当たり70万円(合計840万円)
イ ソニアと株式会社ディハウスボス(以下「ディハウスボス」という。)は、上記アの契約が締結されたころ、ディハウスボスがソニアから、上記アのテレビ番組の制作業務全般を請け負う旨の契約を締結した。
ウ ディハウスボスと原告会社は、上記イの契約が締結されたころ、原告会社がディハウスボスから、上記アのテレビ番組の制作業務全般を請け負う旨の契約を締結した(甲6、9、原告代表者Y、弁論の全趣旨)。
エ 原告会社は、平成18年5月ころから11月ころにかけて、上記アのテレビ番組の制作業務を行い、その成果物は、原告会社からソニアに、更にソニアからJICに納品され、前記(2)のとおり、本件番組として放送に供された。
(4) 本件番組のDVD化に係る経過
ア JICと被告は、平成18年11月1日、JICが本件番組についての著作権を有することを前提として、JICが同著作権に基づいて有する、本件番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利を被告に設定すること、被告のJICに対する著作権使用料は被告が「買い手側(ライセンシー)」から受け取る著作権使用料(消費税別)の50%とすること、JICは被告に対しJICが本件番組の著作権を有することを保証することなどを内容とするライセンス契約(以下「本件ライセンス契約1」という。)を締結した(乙1、2、被告代表者)。
イ 被告と交通タイムス社は、平成18年11月22日、被告が交通タイムス社に対し、JICが製作した著作物である本件番組のDVDを製作し、交通タイムス社が発売する書籍に付録として添付して販売することを許諾すること、交通タイムス社の被告に対する著作権使用料は、本件番組1話当たり各出版部数8000部の使用料及び最低保証料を50万円(消費税別)、その12話分の合計600万円(消費税別)とし、各出版部数8001部を超えた場合の使用料をその超えた数量に本1冊当たり100円(消費税別)を乗じた金員の合計額とすること、被告は交通タイムス社に対し本契約を締結する有効かつ正当な権利及び権限を保有することを保証することなどを内容とするライセンス契約(以下「本件ライセンス契約2」という。)を締結した(甲1、乙2、被告代表者)。
ウ 交通タイムス社は、平成19年3月ころから9月ころにかけて別紙書籍目録記載1ないし12の各書籍(以下「本件各書籍」という。)を順次発行し、これらを販売した。本件各書籍には、それぞれ交通タイムス社が製作したDVD2枚が付録として添付され、そのうちの1枚には、本件番組の1回分がそれぞれ収録されている(検甲1ないし12)。
2 当事者の主張
(1) 原告会社の請求について
ア 原告会社の請求原因
(ア) ソニアと原告会社は、平成18年5月ころ、ディハウスボスを介在させることなく、原告会社が直接ソニアから、前記1(3)ア記載のテレビ番組の制作業務全般を1回分当たり70万円で請け負う旨の契約(以下「本件番組制作請負契約」という。)を締結した。
 本件番組制作請負契約の締結に当たり、ソニアと原告会社の間においては、制作した番組について、テレビ放送用にのみ供するものとされ、そのDVDを製作して販売することは予定されておらず、請負代金もそれを前提に決められた。また、ソニアと原告会社の間においては、仮に将来上記番組のDVDが製作、販売される場合には、請負代金の追加として相当な金額を支払う旨が合意された。
(イ) ところが、その後、被告が原告会社の承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことにより、交通タイムス社によって本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されるに至った。
(ウ) したがって、原告会社は、本件番組制作請負契約に基づく追加の請負代金として相当な金額を請求する権利を有するところ、その金額としては、全12回分で105万円が相当である。また、本件番組のDVDが製作、販売されるに至ったのは、被告が原告会社の承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことによるものであるから、原告会社は、上記追加の請負代金を被告に対して請求することができるというべきである。
(エ) よって、原告会社は、被告に対し、本件番組制作請負契約に基づく追加の請負代金として105万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 原告会社の請求原因に対する被告の認否及び反論
(ア) ア(ア)の事実はいずれも不知。
(イ) ア(イ)の事実のうち、被告が原告会社の承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したこと、交通タイムス社によって本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されたことは認め、その余は争う。
(ウ) ア(ウ)の主張は争う。
 原告会社と被告との間には、何らの契約関係もないから、被告が原告会社に対し、本件番組制作請負契約に基づく追加の請負代金の支払義務を負う理由はない。
 また、被告が交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したのは、本件ライセンス契約1によってJICから被告に設定された本件番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利に基づいて、交通タイムス社が本件番組のDVDを製作し、本件各書籍に付録として添付して販売することを許諾したものにすぎず、これに関して、被告が原告会社から金銭の請求を受けるべき理由はない。
(2) 原告Xの請求について
ア 原告Xの請求原因
(ア) 追加の出演料
a ソニアと原告Xは、平成18年5月ころ、原告Xが前記1(3)ア記載のテレビ番組にナレーターとして出演し、ソニアが原告Xに対し、番組1回分当たり10万円(合計120万円)の出演料を支払う旨の契約(以下「本件番組出演契約」という。)を締結した。
 本件番組出演契約の締結に当たり、ソニアと原告Xの間においては、制作した番組について、テレビ放送用にのみ供するものとされ、そのDVDを製作して販売することは予定されておらず、出演料もそれを前提に決められた。また、ソニアと原告Xの間においては、仮に将来上記番組のDVDが製作、販売される場合には、出演料の追加として相当な金額を支払う旨が合意された。
b ところが、その後、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことにより、交通タイムス社によって本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されるに至った。
c したがって、原告Xは、本件番組出演契約に基づく追加の出演料として相当な金額を請求する権利を有するところ、その金額としては、全12回分で315万円が相当である。また、本件番組のDVDが製作、販売されるに至ったのは、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことによるものであるから、原告Xは、上記追加の出演料を被告に対して請求することができるというべきである。
(イ) 実演家としての録音権侵害による損害
a 原告Xは本件番組においてナレーターを務めているところ、原告Xが本件番組中で行ったナレーション(以下「本件ナレーション」という。)は、著作権法2条1項3号の「実演」に当たるから、原告Xは、本件ナレーションについて、実演家としての録音権(同法91条1項)を有する。
b 被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことにより、交通タイムス社によって本件ナレーションの録音が含まれる本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されるに至った。
c したがって、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結した行為は、原告Xの本件ナレーションについての実演家としての録音権を侵害するものであり、被告は、故意又は過失により当該侵害行為を行ったものであるから、民法709条に基づき、原告Xに対し、原告Xが被った損害を賠償する義務がある。
d 被告の上記録音権侵害の結果、本件ナレーションの録音が含まれる本件番組のDVDが製作、販売されたことにより、原告Xは、同業種間のバッティングを理由に主要自動車メーカーのCMや車関係の番組に起用される機会を失った。これによって、原告Xは営業上の得べかりし利益を失ったものであり、その額は315万円に及ぶ。
(ウ) 小括
 よって、原告Xは、被告に対し、本件番組出演契約に基づく追加の出演料として315万円及び本件ナレーションについての実演家としての録音権侵害による損害賠償として315万円の合計630万円並びにこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 原告Xの請求原因に対する被告の認否及び反論
(ア) 追加の出演料請求について
a ア(ア)aの事実はいずれも不知。
b ア(ア)bの事実のうち、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したこと、交通タイムス社によって本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されたことは認め、その余は争う。
c ア(ア)cの主張は争う。
 原告Xと被告との間には、何らの契約関係もないから、被告が原告Xに対し、本件番組出演契約に基づく追加の出演料の支払義務を負う理由はない。
(イ) 実演家としての録音権侵害による損害賠償請求について
a ア(イ)aの事実はいずれも認める。
b ア(イ)bの事実のうち、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したこと、交通タイムス社によって本件ナレーションの録音が含まれる本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されたことは認め、その余は争う。
c ア(イ)cの主張は争う。
 本件ナレーションは、原告Xの許諾を得て、映画の著作物たる本件番組の放送のための原盤に録音されたものである。したがって、著作権法91条2項により、本件ナレーションの録音が含まれる本件番組のDVDを製作することが原告Xの本件ナレーションについての録音権を侵害することにはならない。
 また、被告が交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したのは、本件ライセンス契約1によってJICから設定された本件番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利に基づいて、交通タイムス社が本件番組のDVDを製作し、本件各書籍に付録として添付して販売することを許諾したものにすぎず、これによって、原告Xの本件ナレーションについての録音権が何ら侵害されるものではない。
d ア(イ)dの事実は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 原告会社の請求について
(1) 原告会社の主張によれば、原告会社の本訴請求は、本件番組制作請負契約に基づく請負代金の一部を請求するものと解されるところ、このような請負契約に基づく請負代金の支払義務を負うのは当該契約を締結した当事者たる発注者であって、それ以外の者が請負代金の支払義務を負うのは、その者が発注者の債務を引き受けるなど、債務負担の原因となり得る特段の事実がある場合に限られるものといえる。
 しかるところ、原告会社は、本件番組制作請負契約について、ソニアと原告会社との間において、ソニアを発注者、原告会社を請負人として締結されたものと主張する一方で、本件番組制作請負契約の当事者ではない被告が原告会社に対し同契約に基づく請負代金の支払義務を負うべき原因となり得る事実を何ら主張していない。原告会社は、交通タイムス社による本件番組のDVDの製作、販売によって、原告会社の本件番組制作請負契約に基づく追加の請負代金請求権が発生したこと、他方、交通タイムス社によって本件番組のDVDが製作、販売されるに至ったのは、被告が原告会社の承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことによるものであることから、原告会社は上記追加の請負代金を被告に対して請求することができる旨主張するが、原告会社が主張する上記各事実によっても、被告が原告会社に対し本件番組制作請負契約に基づく追加の請負代金の支払義務を負うべきことが何ら根拠付けられることにはならない。
 したがって、原告会社の本訴請求に係る上記主張は、その主張自体において失当であることが明らかである。
(2) 以上によれば、原告会社の本訴請求は理由がない。
2 原告Xの請求について
(1) 追加の出演料請求について
 原告Xの主張によれば、原告Xの本訴請求は、本件番組出演契約に基づく出演料の一部を請求するものと解されるところ、このような番組出演契約に基づく出演料の支払義務を負うのは当該契約を締結した当事者たる出演依頼者であって、それ以外の者が出演料の支払義務を負うのは、その者が出演依頼者の債務を引き受けるなど、債務負担の原因となり得る特段の事実がある場合に限られるものといえる。
 しかるところ、原告Xは、本件番組出演契約について、ソニアと原告Xとの間において締結されたものと主張する一方で、本件番組出演契約の当事者ではない被告が原告Xに対し同契約に基づく出演料の支払義務を負うべき原因となり得る事実を何ら主張していない。原告Xは、交通タイムス社による本件番組のDVDの製作、販売によって、原告Xの本件番組出演契約に基づく追加の出演料請求権が発生したこと、他方、本件番組のDVDが製作、販売されるに至ったのは、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことによるものであることから、原告Xは上記追加の出演料を被告に対して請求することができる旨主張するが、原告Xが主張する上記各事実によっても、被告が原告Xに対し本件番組出演契約に基づく追加の出演料の支払義務を負うべきことが何ら根拠付けられることにはならない。
 したがって、原告Xの追加の出演料請求に係る上記主張は、その主張自体において失当であることが明らかである。
(2) 実演家の録音権の侵害による損害賠償請求について
 原告Xは、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結したことにより、交通タイムス社によって本件ナレーションの録音が含まれる本件番組のDVDが本件各書籍の付録として製作され、販売されるに至ったのであるから、被告が原告Xの承諾を得ることなく交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結した行為は、原告Xの本件ナレーションについての実演家としての録音権を侵害する旨主張する。
 しかし、仮に原告Xが本件ナレーションについて実演家としての録音権を有するとしても、本件ナレーションの録音行為は交通タイムス社による本件番組のDVDの製作によって行われたものであり、被告が交通タイムス社との間で本件ライセンス契約2を締結した行為それ自体は本件ナレーションを録音する行為に当たるということはできない。
 また、前記第2の1の事実と証拠(甲1、乙1、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、@被告と交通タイムス社間の本件ライセンス契約2は、JICから本件ライセンス契約1に基づいてJICの著作物である本件番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利(サブライセンス権)の設定(許諾)を受けた被告が、交通タイムス社に対し、本件番組のDVDを製作し、交通タイムス社が発売する書籍に付録として添付して販売することを許諾する内容の契約であり、JICが保有する本件番組の著作権以外の他の権利を対象とするものではないこと、A被告は、本件ライセンス契約2に基づいて、交通タイムス社から、交通タイムス社が発売する書籍の出版部数に応じて本件番組の著作権使用料(最低保証料を含む。)を取得することができるが、交通タイムス社が行う本件番組のDVD(その複製物を含む。)の製作及び販売には、被告が直接関与することはなく、上記書籍の出版部数、ひいては、本件番組のDVDの複製物の製作数量をいくらとするのかなどについても交通タイムス社の独自の判断で行うものとされていたことが認められる。
 上記認定事実に照らすならば、本件番組のDVD(その複製物を含む。)の製作及び販売の主体は、あくまで交通タイムス社であって、被告が交通タイムス社を通じてあるいは交通タイムス社と共同して本件番組のDVDの製作及び販売を行ったものということはできない。
 したがって、原告Xの上記主張は、採用することができない。
 (なお、本件ライセンス契約2の契約書(甲1)の2条には、「AはBに対し、本契約を締結する有効且つ正当な権利及び権限を保有すること、本番組に関し第三者から一切の異議、請求がないこと、及び万一第三者から何らかの異議、請求等があった場合はAの責任においてこれを処理し、Bに一切の迷惑を及ぼさないことを保証する。」(「A」は被告、「B」は交通タイムス社)との規定があるが、上記規定は、被告が、交通タイムス社に対し、本件番組の著作権者であるJICとの関係で、本件ライセンス契約2を締結する有効かつ正当な権利及び権限を保有することを保証する趣旨の条項であって、上記規定から被告が交通タイムス社に対し本件番組に係る著作隣接権の権利処理が行われていることを保証したものとまで認めることはできないし、上記契約書を全体としてみても、そのような保証をしたことをうかがわせる条項は他に存しない。したがって、本件ライセンス契約2の解釈としては、本件番組のDVD化に係る利用行為を行う主体である交通タイムス社が、その責任において、本件番組の利用のために必要とされる著作隣接権者の許諾を得るべきものと解される。また、仮に被告と交通タイムス社との間において本件番組の利用のために必要とされる著作隣接権者の許諾があることについて被告が保証するとの合意があったと解釈する余地があるとしても、その合意の効力は、本件ライセンス契約2の契約当事者である被告と交通タイムス社間の法律関係を規律するにすぎず、原告Xに及ぶものではない。)
(3) 小括
 以上によれば、原告Xの本訴請求はいずれも理由がない。
3 原告らが本件口頭弁論終結後に提出した準備書面について
(1) 本件審理の経過(本件では、原告らが本件口頭弁論終結後に訴訟代理人弁護士を選任した経過がある。)にかんがみ、原告らが本件口頭弁論終結後に提出した平成22年6月30日付け原告第2準備書面記載の主張について、念のため検討する。
ア まず、上記原告第2準備書面中には、被告は、原告Xの許諾を受けることなく交通タイムス社を通じて本件番組のDVDを製作、販売し、これによって、原告Xの本件ナレーションについての実演家としての録音権を侵害し、あるいは、原告Xの人格権を侵害している旨の記載がある。
 しかしながら、前記2(2)のとおり、本件番組のDVDを製作、販売した主体はあくまでも交通タイムス社であり、他方、被告は、JICが本件番組について保有するものとされる著作権に基づいて本件番組をDVD等の表現媒体に二次利用することを他に許諾する権利をJICから設定された上で、当該許諾権に基づいて、交通タイムス社に対し、本件番組のDVDを製作し、本件各書籍に付録として添付して販売することを許諾したものにすぎないのであって、被告自身が主体となって、交通タイムス社を通じて本件番組のDVDの製作、販売を行ったなどと評価し得る事情は認められない。
 したがって、原告Xの上記原告第2準備書面中における主張は、その前提を欠くものであって、理由のないことが明らかである。
イ 次に、上記原告第2準備書面中には、被告は、原告会社に対し、ディハウスボス、ソニア及びJICとともに共同不法行為責任を負う旨の記載がある。
 しかしながら、上記原告第2準備書面の記載をみても、ディハウスボス、ソニア、JIC及び被告のいかなる行為が、原告会社のいかなる権利又は法律上保護される利益を侵害するのかが明らかではないから、原告会社の同準備書面中における主張は失当というほかない。
(2) 以上のとおり、平成22年6月30日付け原告第2準備書面記載の主張は、前記1及び2の認定判断を左右するものではない。
4 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴各請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 大西勝滋
 裁判官 石神有吾


(別紙書籍目録)
1 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.1 サーキットの狼Legend LOTUS
 発行日 平成19年3月1日
2 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.2 サーキットの狼Legend LAMBORGHINI
 発行日 平成19年3月1日
3 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.3 サーキットの狼Legend NISSAN FAIRLADY Z
 発行日 平成19年4月1日
4 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.4 サーキットの狼Legend LANCIA
 発行日 平成19年5月1日
5 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.5 サーキットの狼Legend PORSCHE
 発行日 平成19年5月1日
6 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.6 サーキットの狼Legend FERRARI
 発行日 平成19年6月1日
7 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.7 サーキットの狼Legend DE TOMASO
 発行日 平成19年6月1日
8 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.8 サーキットの狼Legend MAZDA
 発行日 平成19年7月1日
9 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.9 サーキットの狼Legend LAMBORGHINI
 発行日 平成19年7月1日
10 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.10 サーキットの狼Legend FERRARI
 発行日 平成19年8月1日
11 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.11 サーキットの狼Legend TOYOTA 2000GT
 発行日 平成19年8月1日
12 題名 CARTOP MOOK Supercar Collection Vol.12 サーキットの狼Legend BMW
 発行日 平成19年9月1日
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