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【事件名】見本版CDの無断販売事件
【年月日】平成22年6月2日
 東京地裁 平成21年(ワ)第36373号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年4月19日)

判決
原告 A
被告 有限会社ベストウエーブ


主文
1 被告は、原告に対し、1万4700円及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを100分し、その99を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、金510万円及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、別紙物件目録記載のCDのレコード製作者であり、当該CDのジャケット等についての著作権者である原告が、被告が無断で当該CD及びジャケット等を複製・販売し、CDにつき原告の著作隣接権(レコード製作者の複製権及び譲渡権)及びジャケット等につき原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したとして、民法709条に基づき、損害賠償金510万円及びこれに対する被告による最後の不法行為の日である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は、Bの屋号を使用して、音楽制作・販売及びそれらに関する業務等を営んでいる。
イ 被告は、音楽CDの作成等を業務としている。
(2) 原告の著作隣接権及び著作権
 原告は、別紙物件目録記載の各CD(以下、同目録記載1ないし4の各CDを、それぞれ「LEE No.2」、「LEE No.3」、「LEE No.4」及び「LEE No.5」といい、これらを総称して「本件各CD」という。)のレコード製作者である。
 また、原告は、本件各CDの複製盤を販売する際のプラスチックケースに入れられるジャケット(表紙)、バック(裏面紙)、サイド(側面紙)及びレーベル(CD盤表面の記載)(以下、これらを総称して「本件ジャケット等」という。)のそれぞれについて、著作権を有している。
 なお、原告は、このほか、本件各CDに録音された楽曲の実演家であり、本件各CDに録音された楽曲中、LEE No.2及び同No.3中の全楽曲並びに同No.5中の楽曲「島物語」の作詞作曲をした者でもある。
(3) 原告の被告に対する本件各CD複製品の作成依頼
ア 原告は、被告に対し、次のとおり、本件各CD及び本件ジャケット等を複製して販売用CDを作成することを依頼した(以下、原告が作成依頼した販売用CDを総称して「本件各複製CD」といい、そのうち、Lee No.2、Lee No.3等の各音源ごとの販売用CDを、それぞれ「本件複製CD@」、「本件複製CDA」のようにいう。)。
@ 本件複製CD@(LEE No.2) 平成15年3月に500枚
A 本件複製CDA(LEE No.3) 平成15年4月に500枚
B 本件複製CDB(LEE No.4) 平成17年1月に500枚。
 平成18年1月に300枚を追加。
C 本件複製CDC(LEE No.5) 平成18年2月に500枚
イ 被告は、原告から前記アの依頼を受け、CDプレス業者に発注して、本件各複製CDを作成の上(乙3)、前記アの各枚数を原告に納付した。
(4) 本件各複製CDの販売価格は、本件各複製CD@ないしCのそれぞれにつき、1枚3000円(消費税込みで3150円)である。
2 争点
(1) 被告による本件各CDの複製・販売行為の有無
(2) 被告による本件各CDの販売についての原告の許諾の有無
(3) 原告の損害の発生及びその額
第3 争点についての当事者の主張
1 争点(1)(被告による本件各CDの複製・販売行為の有無)について
(原告の主張)
(1) 被告は、原告が被告に本件各複製CDの作成を依頼した際に、原告の許諾がないにもかかわらず、本件各CD及び本件ジャケット等を原告の依頼枚数以上に複製してこれを販売し、原告の本件各CDについてのレコード製作者の著作隣接権(複製権及び譲渡権)及び本件ジャケット等についての著作権(複製権及び譲渡権)を侵害した。
 そして、本件各CDには、著作権の所在や、無断複製等の禁止事項が記載されており、被告もこれを確認しているから、被告は、本件各CDの無断複製・販売の違法性を十分認識していた。
(2) 被告は、本件各複製CDの出来上がり見本を販売したと主張するが、原告は、出来上がり見本の存在を知らず、その販売を許諾したこともない。むしろ、原告は、被告に対し、本件各複製CDの作成を依頼した際に、余分なCDがないか確認しており、被告は、原告に交付したCD以外の複製物は一切ないと回答していた。
 また、仮に出来上がり見本を販売したとしても、原告が作成を依頼した枚数以上のものは、本件各CD及び本件ジャケット等の不正な複製物である。
 原告は、平成19年12月ころ、知人からの連絡で、被告による本件各CDの無断複製・販売の事実を知った。
(被告の主張)
 被告は、原告から依頼された本件各複製CDの作成をCDプレス業者に発注した際、当該CDプレス業者から出来上がり見本(本件複製CD@ないしCのそれぞれにつき、3枚ずつ)の提供を受けた。被告が販売したCDは、この出来上がり見本である。被告は、それ以外には、本件各CD及び本件ジャケット等の複製物を販売していない。なお、出来上がり見本は、被告がCDプレス業者に新作を発注し、これが被告に納入される際に提出されるものであり、追加発注の場合には提出されないから、LEE No.4につき平成18年1月に追加発注した際には、この出来上がり見本は、提出されていない。
 被告が販売した出来上がり見本の枚数は、本件複製CD@(LEE No.2)が2枚、本件複製CDA(LEE No.3)が1枚、本件複製CDB(LEE No.4)が2枚及び本件複製CDC(LEE No.5)が2枚である。なお、被告は、本件複製CDB(LEE No.4)の出来上がり見本につき、その1枚を販売委託先に、CDの盤面に手書きで「サンプル盤」と記載した上で交付したが、これは、店舗販売における販売促進用のサンプルとして提供したものであり、販売(譲渡)したものではないから、著作権侵害には該当しない。
2 争点(2)(本件各CDの販売についての原告の許諾の有無)について
(被告の主張)
 被告は、原告が平成17年1月18日に被告に来社した際、原告から、本件各CD及び本件ジャケット等の複製物を7掛けで卸すので、これを販売してよいとの口頭での許諾を受けている。
 したがって、CDプレス業者から提出された本件各複製CDの出来上がり見本の販売は、原告の許諾に基づくものである。
(原告の主張)
 原告は、被告に対し、被告が、原告のCDを販売したいのであれば、商品を7掛けで卸すと言っていたが、その契約は成立していない。また、被告が、原告から、本件各CD及び本件ジャケット等の複製物を仕入れた事実はなく、原告は、出来上がり見本の存在を知らないのであるから、その販売を許諾するはずがない。
3 争点(3)(原告の損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
(1) 原告の損害の内訳
ア 原盤使用料
 原告は、原告がレコード製作者としての著作隣接権を有する音源を複製する場合の基本使用料を定めており、1楽曲につき複製100回までをこの基本使用料としている。そして、本件各CDに記録された楽曲合計34曲分の基本使用料は、1楽曲につき10万円から15万円であり、その合計は、381万1500円(消費税18万1500円を含む。)である。
 この基本使用料は、複製1回から100回までの金額であって、1回の複製であっても、同額の基本使用料が生じる。そして、その金額は、演奏時間やレコーディング状況等に応じて、権利者が設定できるものである。
 原告が製作しているエクササイズ音楽は、世界で唯一のオリジナル作品であり、社会的な評価も受けている。また、本件各CDは、1枚で、何千人もの運動処方や営業活動等が行えるものであるから、被告が販売した枚数にかかわらず、原告が請求した原盤使用料を支払うべきである。
イ 印刷物の使用料
 原告は、ジャケット、レーベル、バック及びサイドを1セットとして、これを複製する場合の基本使用料を定めており、100セットまでを基本使用料としている。そして、この基本使用料は、各CDごとに20万円であり、本件各CD4作品で、84万円(消費税4万円を含む。)である。
 この基本使用料も、1セットから100セットまでの金額であって、1セットの複製であっても、同額の基本使用料が生じる。
ウ 慰謝料
 被告が本件各CDを無断で複製・販売したことによる慰謝料(責任の所在等を原告の屋号と表示していることに対する慰謝料)は、本件各CD1作品ごとに10万円であり、合計42万円(消費税2万円を含む。)である。
エ 諸経費
 調査費用等の諸経費相当額は、2万8500円である。
オ 以上合計510万円
 被告が安易で利己的に犯した行為は、原告が長年にわたり行ってきた地道な努力を踏みにじるものであり、原告が先行投資してきた財産権までをも侵した行為である。
(2) 遅延損害金の起算日は、本件各複製CDの販売につき、被告が主張する最終の販売日である。
(3) 株式会社イーライセンス(以下「イーライセンス」という。)は、原告から楽曲の管理を信託されている管理会社であるところ、被告が主張するイーライセンスへの支払は、著作権使用料の一部であり、レコード製作者に対する原盤使用料を含むものではない。
(被告の主張)
(1) 前記2の被告の主張のとおり、被告は原告の許諾を受けて本件各複製CDの出来上り見本を販売したものであり、原告に無断複製、販売による損害は発生しない。
(2) 原告の主張する損害の内訳について
ア 原盤使用料について
 否認する。被告は、無断複製をしていない。
 また、原告が定めたと主張する基本使用料は、原告の勝手な算段、願望にすぎず、これに従って契約が締結されていなければ、意味がない。
イ 印刷物の使用料について
 否認する。被告は、無断複製をしていない。
ウ 慰謝料
 否認する。被告は、無断複製をしていない。
エ 諸経費
 否認する。被告は、無断複製をしていない。また、諸経費の内訳が不明である。
オ 原告の請求額によると、原告の主張する本件各CDの複製枚数が400枚であるとした場合、CD1枚当たりの損害額は1万2750円(=510万円÷400枚)ということになるが、これは本件各複製CDの1枚あたりの販売価格を大幅に超えるものであって、不合理である。
(3) 著作権侵害による損害額が、「侵害品の販売がなければ、同じ数量の正規品が売れたはず」との前提に立つならば、原告と被告の間には、原告が、被告に対し、定価の7掛けで本件各CD及び本件ジャケット等の複製物を卸す約束があるから、被告が本件各CD及び本件ジャケット等の複製物を7枚販売することにより失われた原告の得べかりし利益は、1万4700円(=3000円×0.7×7枚)となる。
 そして、被告は、原告が主張する原盤使用料については、イーライセンスに540円を支払っているので、原告の損害額は、前記金額から、支払済みの著作権使用料540円を控除して、1万4160円と算出される。なお、被告は、発送用梱包材、封筒等の経費も負担している。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(被告による本件各CDの複製・販売)について
(1) 被告による本件各CDの無断複製の有無について
ア 前記争いのない事実等、証拠(甲14、15、乙3、11、12、19)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各CDのレコード製作者であり、かつ、本件ジャケット等の著作権者である原告から、平成15年3月から平成18年2月にかけて、本件各複製CD作成の依頼を受け、当該依頼を受けた枚数(本件複製CD@ないしCにつきそれぞれ500枚、本件複製CDBにつき追加発注300枚)の作成をCDプレス業者に発注したこと、被告は、CDプレス業者に発注した本件各複製CDが完成した際(ただし、本件複製CDBの追加発注分が完成した際を除く。)に、CDプレス業者から、本件各複製CD@ないしCにつきそれぞれ3枚ずつ(合計12枚)の出来上がり見本の提供を受けたこと、CDプレス業者は、納品の際の破損に備える「予備」又は注文者が保管するための「無償サンプル」として、注文を受けた数量(500枚ないし1000枚程度)に若干上乗せした数量(5枚程度)を注文者に納品することがあり、500枚程度の注文を受けた際に、CDプレス業者が注文を受けた数量に3枚程度上乗せして、出来上がり見本として発注者に提供することは、本件のようなCD複製品の作成を依頼する取引においては、通常のことであると認められる。
 そうすると、被告がプレス業者から提供を受けた前記出来上がり見本は、被告が原告の依頼に基づき本件各複製CDそれぞれにつき500枚の作製をプレス業者に発注する取引における通常の取引過程において作成・交付されたものであって、原告の依頼と無関係に作成されたものであるとは認められないから、この出来上がり見本が作成されたことをもって、被告が、本件各CDを違法に複製したものと認めることはできない。
イ そして、前記出来上がり見本以外に、被告が、原告の依頼なく本件各CD及び本件ジャケット等を複製したと認めるに足る証拠はないから、被告が、本件各CD及び本件ジャケット等を原告に無断で複製したとの原告の主張は、採用することができない。
(2) 被告による本件各複製CDの販売枚数
 証拠(甲10、乙20)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成17年5月16日から平成19年12月18日までの間に、前記(1)アの本件各複製CDの出来上がり見本12枚のうち、合計7枚(内訳は、本件複製CD@(LEE No.2)の出来上がり見本が2枚、本件複製CDA(LEE No.3)の出来上がり見本が1枚、本件複製CDB(LEE No.4)の出来上がり見本が2枚及び本件複製CDC(LEE No.5)の出来上がり見本が2枚)を販売したことが認められる。
 そして、被告が、この枚数を超えて、本件各複製CDの出来上がり見本その他の本件各複製CDを販売したと認めるに足る証拠はないから、被告が、販売した本件各複製CDの枚数は、7枚であると認められる。
 なお、被告が本件複製CDB(Lee No.4)の出来上がり見本のうちの1枚をサンプル盤として販売委託先に無償で提供したことは、被告の自認するところであるが、原告が本件において被告の違法行為として主張するのは、被告の有償販売行為であるから、サンプル盤提供行為は、原告の主張する被告の違法行為を構成するものではない。
2 争点(2)(本件各CDの販売についての原告の許諾の有無)について
(1) 被告は、原告が平成17年1月18日に被告に来社した際、原告から、口頭で、商品を7掛けで卸すので、これを販売してよいとの許諾を受けていると主張する。
 確かに、弁論の全趣旨によれば、原告と被告は、平成17年から同18年ころにかけて、本件各CDの複製品の卸販売についての契約締結に向けた交渉をし、その中で、原告が、被告に対し、定価の7掛けで本件各CDの複製品を卸すという点については合意していたと認められるものの、他方で、その後、一度も、本件各CDの複製物が原告から被告に販売されたことはなかったことが認められる。そして、本件各証拠に照らしても、定価の7掛けで卸すということ以外は、原告と被告との間で、本件各CDの複製品の販売の条件等についての合意がされていたと認めることはできない。
 これらのことからすれば、原告と被告との間で、被告が本件各CDの複製品を販売することを原告が許諾するとの合意が成立したと認めることはできず、被告による本件各CD及び本件ジャケット等の複製品の販売が原告の許諾に基づくものであるとの被告の主張は、採用することができない。
(2) そして、前記1のとおり、被告は、CDプレス業者から提供された本件各複製CDの出来上がり見本を販売(譲渡)したのであるから、それが本件各CDのレコード製作者及び本件ジャケット等の著作権者である原告から譲渡等がされたものでないことを知って、本件各複製CDの出来上がり見本を販売(譲渡)したものと認められる。
 したがって、被告が本件各複製CDの出来上がり見本を販売した行為は、本件各CDについての原告の著作隣接権(レコード製作者の譲渡権)及び本件ジャケット等についての原告の著作権(譲渡権)を侵害するものと認められる。
3 争点(3)(原告の損害の有無及び額)について
(1) 被告の故意又は過失の有無
 前記2のとおり、被告は、本件各複製CDの出来上がり見本の販売について原告の許諾を受けないまま、これを販売したものであるから、原告の本件各CDについての著作隣接権(レコード製作者の譲渡権)及び本件ジャケット等についての著作権(譲渡権)を侵害したことにつき、少なくとも過失があると認められる。
(2) 損害額について
ア 原盤使用料及び印刷物使用料等について
(ア) 証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、原盤使用料(音源を使用した場合に発生する使用料)等を記載した書面を作成していること、A当該書面には、5分以内のオリジナル作品の基本使用料は、1作から100作までの複製につき10万円であること等のほか、複製使用料や著作権使用料が記載されており、また、印刷物使用料は、作品ごとに原告の指値になること等が記載されていること、B原告は、第三者から複製の許諾の申入れがあった際には、当該書面を提示していたことが認められる。
 しかしながら、原告の主張によれば、第三者からの許諾の申入れに対し、基本使用料、複製使用料等について、当該書面に記載された条件どおりに契約を締結したことはないのであるから、原告が、自己が製作したCDの音源の使用を許諾した際に、当該書面に記載した額の使用料を受領していたと認めることはできない。また、前記1のとおり、被告が行った行為は、CDプレス業者から提供された本件各複製CDの出来上がり見本を販売したことであって、被告が本件各CDの音源を使用してこれを複製したとは認められないから、音源の使用・複製を前提とする同書面に記載された使用料等の許諾の条件は、本件には適用されないと認められる。
 したがって、当該書面に記載された金額・条件に基づく、原告の原盤使用料及び印刷物使用料についての損害額の主張は、採用することができない。
(イ) 以上のとおり、原告の原盤使用料等に基づく損害額の主張は認められないが、他方で、原告は、被告の行為は原告が先行投資してきた財産権を侵す行為であると主張し、これは逸失利益の損害を主張する趣旨を含むものと解されるので、以下、原告の逸失利益について判断する。
 前記2(1)のとおり、最終的な許諾の合意には至らなかったものの、原告と被告との間で、原告が被告に対し本件各CDの複製品の卸販売をすることについての交渉をし、その中で、原告が被告に対し本件各CDの複製品を定価の7割で卸すという点については合意をしていたことが認められる。
 このような経緯のほか、本件各複製CDは、楽曲の演奏を記録した本件各CDと本件ジャケット等の複製品とを併せたものを一個の商品として、定価3000円(消費税税込みで3150円)で販売されていること(前記争いの事実等、甲1、乙21、弁論の全趣旨)に照らすと、被告が原告に無断で本件各複製CDの出来上がり見本7枚を販売し、原告の本件各CDについてのレコード製作者の著作隣接権(譲渡権)及び本件ジャケット等についての著作権(譲渡権)を侵害したことにより原告に生じた財産的損害額は、被告が販売した本件各複製CD1枚当たり、定価3000円の7割である2100円、合計で1万4700円(=2100円×7枚)とするのが相当であり、他に、原告の財産的損害額がこれを超えると認めるに足る証拠はない。
(ウ) したがって、原告の財産的損害額は、1万4700円であると認められる。
イ 慰謝料について
 原告は、本件訴訟において、レコード製作者の著作隣接権及び本件ジャケット等の著作権の侵害を請求原因として主張しているところ、これらは、いずれも財産権であるから、その侵害によって生じるのは、原則として財産的な損害のみであって、そのてん補のみによっては十分に損害を回復することができない等の特段の事情がある場合に限り、慰謝料請求を認めるのが相当である。そして、本件においては、このような特段の事情の存在を認めるに足る証拠はない。
 このほか、原告は、責任の所在等を原告の屋号と表示していることに対する慰謝料であるとも主張するが、責任の所在等を原告の屋号と表示していることが不法行為となり、原告の精神的損害を生じさせる根拠が明らかではなく、原告の主張は採用することができない。
 したがって、本件においては、前記アの財産的損害のほか、慰謝料の支払によって慰謝すべき精神的損害があるとは認められず、原告に慰謝料請求権があるとは認められない。
ウ 諸経費について
 原告は、調査費用等の諸経費相当額として2万8500円を請求するが、その内訳、実際の支出額等について、何ら明らかにしておらず、また、原告が、何らかの諸経費を支出したと認めるに足る証拠もないから、被告が行った著作隣接権及び著作権の侵害行為によって、原告に、諸経費相当額の損害が生じたと認めることはできない。
エ イースペースに対する支払について
 証拠(乙2、6、7)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告から原告の楽曲の著作権の管理について委託を受けたイースペースに対し、LEE No.2及び同No.3に収録された楽曲の著作権の使用料として、540円を支払ったことが認められる。
 被告は、これをもって原告が主張する原盤使用料の支払であると主張するが、証拠(乙6、7)によれば、イースペースから被告に対する請求書には「著作権使用料請求書」とあり、他方で、イースペースに対する支払に、レコード製作者の著作隣接権に関するものが含まれていると認めるに足る証拠はないことから、被告の主張は、採用することができない。
 したがって、前記アの額から、イースペースに対する支払額を控除することはできない。
オ 小括
 以上のとおり、被告が、本件各複製CDを販売して、原告の本件各CDについてのレコード製作者の著作隣接権(譲渡権)及び本件ジャケット等の著作権(譲渡権)を侵害したことによる原告の損害額は、1万4700円と認められる。
カ 遅延損害金の起算日について
 遅延損害金の起算日は、原告が主張するとおり、被告による最終の不法行為の日(被告が、本件各複製CDを最後に販売した日)である平成19年12月18日であると認められる。
4 結論
 よって、原告の請求は、金1万4700円及びこれに対する被告による最後の不法行為の日である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 岩崎慎


(別紙)物件目録
1 LET’S! ENJOY EXERCISE No、2
2 LET’S! ENJOY EXERCISE No、3
3 LET’S! ENJOY EXERCISE No、4 童謡編
4 LET’S! ENJOY EXERCISE No、5 民謡編
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