判例全文 line
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【事件名】証券業務プログラムの著作権譲渡事件(2)
【年月日】平成22年5月25日
 知財高裁 平成21年(行コ)第10001号 法人税更正処分取消等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成19年(行ウ)第621号)
 (口頭弁論終結日 平成21年12月21日)

判決
控訴人 株式会社岡三証券グループ
同訴訟代理人弁護士 飯塚卓也
同 大石篤史
同 上村哲史
同 古谷誠
被控訴人 国
処分行政庁 日本橋税務署長
被控訴人指定代理人 磯村建
同 雨宮恒夫
同 前島啓二
同 西田昭夫
同 冷川慎司
同 高野紀子


主文
1 処分行政庁が控訴人に対し平成17年7月29日付けでした控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分(ただし、平成21年3月31日付け減額更正処分後のもの)のうち、連結所得金額が50億2412万0157円を超える部分及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成21年3月31日付け変更決定処分後のもの)をいずれも取り消す。
2 上記取消しに係る部分につき、原判決を取り消す。
3 訴訟費用は、第1、第2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の申立等(訴訟費用に関する部分を除く。)
1 控訴の趣旨
 主文同旨
2 原審における控訴人の請求と原判決
(1) 原審における控訴人の請求
 処分行政庁が原告(控訴人)に対し平成17年7月29日付けでした原告(控訴人)の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分のうち、連結所得金額が49億4765万6093円を超える部分及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(2) 原判決の主文
 原告(控訴人)の請求をいずれも棄却する。
3 控訴の趣旨等の変動
(1) 控訴人の控訴状における控訴の趣旨
ア 原判決を取り消す。
イ 処分行政庁が控訴人に対し平成17年7月29日付けでした控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分のうち、連結所得金額が50億2508万8056円を超える部分及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
 (上記2(1) の金額に後述する「交際費」等合計7743万1963円を加算したもの。)。
(2) 控訴人の平成21年12月16日付けの訴え変更申立書
ア 原判決を取り消す。
イ 処分行政庁が控訴人に対し平成17年7月29日付けでした控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分のうち、連結所得金額が50億2412万0157円を超える部分及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
 (上記3(1) イの「交際費」等の加算による寄附金の損金不算入額の減少分96万7899円を控除したもの。)。
第2 事案の概要
1 本件は、連結親法人である控訴人が、平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、連結所得金額を49億4765万6093円として法人税の連結確定申告をしたところ、処分行政庁が、控訴人に対し、上記申告に係る連結所得金額について、控訴人が連結子法人である岡三情報システム株式会社(以下「OIS」という。)に支払った29億4324万円は、著作権等の対価ではなく、法人税法81条の6(ただし、平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「寄附金」に該当し、また、控訴人の連結子法人である岡三証券株式会社(以下「新岡三証券」という。)が支払った7743万1963円は、租税特別措置法68条の66第1項(平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「交際費」に該当するから、いずれも損金に算入すべきでなく、これらの合計79億6832万8056円を連結所得金額に加算すべきであるとして、平成17年7月29日付けで、控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたため、控訴人が、本件更正処分のうち、連結所得金額が49億4765万6093円を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
2 法令の定め
(1) 連結納税制度における寄附金の額の損金不算入に関する規定
 法人税法81条の6第2項は、「連結法人が各連結事業年度において支出した寄附金の額‥‥のうち当該連結法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人に対して支出した寄附金の額があるときは、当該寄附金の額は、当該連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と定めている。そして、同条6項が準用する法人税法37条7項は、「‥‥寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与‥‥をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と定めている。
(2) 連結納税制度における交際費等の額の損金不算入に関する規定
 租税特別措置法68条の66第1項は、「連結法人の各連結事業年度‥‥において、その連結親法人及び当該連結親法人による連結完全支配関係にある各連結子法人が当該各連結事業年度において支出する交際費等の額の合計額‥‥は、当該連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と定めている。そして、同条3項は、「第1項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、連結親法人又はその連結子法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と定めている。
3 原審における本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性に関する被控訴人の主張
 別紙のとおりであり、寄附金の損金不算入額及び交際費等の損金不算入額の部分を除いて、その計算の基礎となる金額及び計算方法について争いはない。
4 原審は、控訴人が連結子法人であるOISに支払った29億4324万円は「寄附金」に該当し、また、控訴人が連結子法人である新岡三証券に支払った7726万6146円は「交際費」に該当するから、処分行政庁が行った本件更正処分及び本件賦課決定処分はいずれも適法であるとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
 そこで、控訴人は、原判決のうち、控訴人が連結子法人であるOISに支払った29億4324万円を「寄附金」に該当するとした部分につき、これを不服として本件控訴を提起した。これにより、控訴人が主張する課税連結所得金額は、平成16年7月の確定申告時の49億4765万6093円に交際費部分の認定額7743万1963円(交際費7726万6146円に交際費等に含まれる控除対象外消費税等の額16万5817円を加算した額)を加え、さらに、その交際費分の加算により減少した寄附金の損金不算入額である96万7899円を減じた50億2412万0157円となる。
5 処分行政庁は、原判決後の平成21年3月31日付けで、控訴人に対し、本件更正処分において、誤って1840万8488円を損金不算入額として益金に算入したので、その誤って益金に算入された1840万8488円を本件事業年度の法人税の課税連結所得金額から減額する必要が生じたとして、課税連結所得金額及び納付すべき法人税額を減額する旨の更正処分並びに本件賦課決定処分における納付すべき過少申告加算税額を変更する旨の変更決定処分を行った。その結果、課税連結所得金額が、本件更正処分時の79億6832万8056円から79億4991万9568円に変更された。
 これにより、控訴人が取消しを求める課税連結所得金額は、29億2579万9411円(79億4991万9568円−50億2412万0157円)となる。
6 当事者間に争いのない事実
(1) 当事者等
ア 控訴人は、平成15年9月30日までは岡三証券株式会社の商号で有価証券の売買、取次ぎ等を行う株式会社(以下「旧岡三証券」という。)であったところ、同年10月1日、会社分割によりその営業の全部を岡三証券分割準備株式会社(同日、「岡三証券株式会社」(新岡三証券)に商号変更。)に承継させたことに伴い、岡三ホールディングス株式会社に商号変更し、平成20年10月1日、さらに現在の「株式会社岡三証券グループ」に商号変更した会社である。なお、以上のとおり、控訴人と旧岡三証券は、法律上は同一会社であるが、上記事実に徴し、以下において、平成15年9月30日以前の控訴人を旧岡三証券と称する。
イ OISは、以前、太陽機器株式会社という商号の会社であったが、昭和50年3月5日、その発行済株式の全部を旧岡三証券が取得し、同年8月23日に株式会社岡三インフォーメーションサービスに商号変更し、昭和61年10月1日に現在の「岡三情報システム株式会社」に商号変更した会社である。OISは、控訴人が発行済み全株式を保有する子会社であり、昭和55年7月1日から主として控訴人から委託を受けて控訴人の証券業務に係るデータ処理及びソフトウェアの開発等を行っている。
ウ 控訴人とOIS、控訴人と新岡三証券は、それぞれが、法人税法2条12号の7の5の規定する連結完全支配関係にある。
(2) ソフトウェアの譲渡契約関係
ア 旧岡三証券は、昭和55年7月1日、OISに対し、同日付け「ソフトウエア所有権の売買契約書」(甲3)をもって、旧岡三証券のコンピュータ運用部門が開発し、旧岡三証券の証券業務のために用いていたソフトウェア(以下「本件旧ソフトウェア」という。)を代金5億6000万円で譲渡した(以下「本件旧ソフトウェア売買契約」という。)。
イ 旧岡三証券は、OISとの間で、昭和55年7月1日付け「委託業務に関する基本契約」(甲22。以下「本件委託業務基本契約」という。)を取り交わし、OISに対し、旧岡三証券の証券業務に係るデータ処理のほか、本件旧ソフトウェアに新たな機能を追加しバージョンアップをすることなどを内容とするシステム開発を委託した。
ウ OISは、旧岡三証券の委託に基づき、昭和55年7月から平成15年10月までの間、本件旧ソフトウェアに改変を加えるなどして新たなソフトウェアを開発した(以下「本件ソフトウェア」という。)。なお、OISが開発した本件ソフトウェアの著作権は、著作権法15条が規定する職務著作としてOISに原始的に帰属した。
エ 控訴人とOISは、平成15年10月1日、本件ソフトウェアの著作権を関連説明資料等とともに30億円で譲渡する旨の「ソフトウェア等譲渡契約書」(甲7。以下「本件譲渡契約書」といい、同譲渡契約を「本件譲渡契約」という。)を取り交わした。
オ 控訴人とOISは、同月10日、同日付け「覚書」(甲9)において、本件譲渡契約書による譲渡の対象として、本件ソフトウェアに加え、OISが日本ユニシス株式会社(以下「日本ユニシス」という。)から5676万円で取得したソフトウェア(以下「本件追加ソフトウェア」という。)を追加する旨の合意をした。
カ 控訴人は、同月27日、OISに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等の譲渡を受ける対価であるとして、合計30億円を支払った。
 処分行政庁は、このうち、本件ソフトウェアの著作権の対価分であると解される29億4324万円(控訴人がOISに支払った上記の30億円から、本件追加ソフトウェアの対価分として、OISが日本ユニシスに本件追加ソフトウェアの対価として支払った5676万円を控除した額)について、実際には著作権の譲渡がされておらず、法人税法81条の6第2項により損金の額に算入しないとされている「寄附金」に当たるとして本件更正処分をした。
キ 控訴人と日本ユニシスは、同月、控訴人が、日本ユニシスに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等を35億円で譲渡する旨合意し(以下「本件転売契約」という。)、日本ユニシスは、控訴人に対し、35億円を支払った。
7 争点
 控訴人がOISに対して、本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った29億4324万円は、法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に当たるか否か。
第3 争点に関する当事者の主張
〔被控訴人の主張〕
1 本件ソフトウェアの著作権は、原始的には開発者であるOISに帰属したが、旧岡三証券とOISとの間の黙示の合意によって、その開発の都度、その著作権は旧岡三証券に移転され、遅くとも本件譲渡契約書が取り交わされるまでには、それまでに開発されていた本件ソフトウェア全部の著作権が旧岡三証券に帰属していた。したがって、控訴人が、OISに対し、本件譲渡契約書に基づき、本件ソフトウェアの著作権の譲渡を受けた対価と称して支払った29億4324万円は、OISの債務超過の状態を解消するためにあえて作出された虚偽の外形といわざるを得ず、何ら対価性を有しないと認められるから、法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に該当する。
 その理由は、次のとおりである。
(1) 旧岡三証券による本件ソフトウェアの保有の必要性
 旧岡三証券には、本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性があった。
 すなわち、旧岡三証券は、OISに本件ソフトウェアの開発を依頼するに当たり、単にソフトウェアの使用を指定するだけではなく、積極的にソフトウェアの開発依頼の目的や、ソフトウェアの修正・追加の必要性等について説明及び指示を行い、OISは、当該指示に基づいて本件ソフトウェアを開発していた。また、旧岡三証券は本件ソフトウェアを日常的に利用していた。これらの事実からすると、本件ソフトウェアは、旧岡三証券の証券業務のために必要不可欠のものであり、同社の証券業務の根幹をなすものであったと認められる。そうすると、旧岡三証券の意図しないところで、OISが独自に本件ソフトウェアの改良・譲渡等を行った場合、旧岡三証券の証券業務に多大な悪影響を及ぼすことになるのであるから、これを避けるべく、旧岡三証券において、本件ソフトウェアの著作権を保有する必要があったものである。
 仮にOISが著作権を有するのであれば、旧岡三証券は利用権の設定を受けるはずであるが、旧岡三証券がOISから利用権の設定を受けた事実はない。
(2) OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性の不存在
 これに対し、OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性も経済的意義も存しない。すなわち、OISの本件ソフトウェアによるシステム運行業務は、OISが取り扱う旧岡三証券の証券業務に特化したものにすぎず、証券決済システム改革への対応や、システム又はソフトウェアをパッケージ化して市場で販売することには適していなかった。このように、本件ソフトウェアは、旧岡三証券の証券業務に用いることのみに特化しており、市場で販売することにより利益を生むものではなかったのであるから、OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性は乏しいものであった。
(3) 旧岡三証券による本件ソフトウェアの無形固定資産としての計上
 旧岡三証券は、平成12年3月期まで本件ソフトウェアの開発費用としてOISに支払ったSEサービス料の一部を繰延資産として計上し、平成13年3月期以降については、減価償却資産である無形固定資産(ソフトウェア。法人税法施行令13条8号リ)として計上していた。これに対し、OISは、本件ソフトウェアを資産計上したことはない。したがって、両社は、共通の認識として、旧岡三証券が本件ソフトウェアの著作権を有していると認識していたというべきである。
(4) 旧岡三証券が負担した本件ソフトウェアの開発費用の額
 上記のとおり、旧岡三証券は、OISに本件ソフトウェアの開発費用をSEサービス料として支払っていた。このSEサービス料は、システムエンジニアのランク別の作業時間数に各ランクの単価を乗じて計算されており、各ランクの単価は、システムエンジニアの人件費をベースに不動産費、水道光熱費、その他経費に加えて、さらに、OISの利益相当分をも加えて計算されたものであった。そうすると、OISは、本件ソフトウェアの開発に当たり、旧岡三証券から受領するSEサービス料のみで当該開発にかかるコストを回収できるだけではなく、利益をも確保できるのであり、OISが本件ソフトウェアの著作権を保有した上、当該著作権を利用して事業を行わなくても、旧岡三証券から支払われるSEサービス料だけで十分に利益を確保することができたといえる。
 そして、旧岡三証券が負担した本件ソフトウェアの開発費用は、累計で約32億8000万円にも上り、その額は、日本ユニシスが本件ソフトウェア等を取得するために控訴人に支払った35億円にも匹敵し、本件ソフトウェア等の譲渡対価と評価し得る水準の金額であった。
 そうすると、旧岡三証券とOISは、本件ソフトウェアの完成の都度、開発費用としてSEサービス料を負担した旧岡三証券に本件ソフトウェアの著作権が移転することについての合意があったとみるのが自然である。
(5) 本件ソフトウェアの著作権の帰属に関する内部資料の記載
 旧岡三証券の当時の経営企画部次長であったAが作成した平成15年1月16日付け「基本合意に関するメモ(考え方)(案)」と題する書面(乙9。以下「基本合意メモ案」という。)には、「岡三証券は証券総合オンラインシステムの運行に必要なソフトウェアの使用をユニシスに許諾する」との記載があり、また、当時日本ユニシスのセールスマネージャーであったBが作成した平成15年5月1日付け稟議汎用と題する書面(乙10。以下「稟議汎用」という。)には、「岡三証券の所有する証券業務ソフトウェアを35億円で取得することに関し、ご承認賜りたきこと(方針稟議)」との記載があり、その概要欄には、「岡三証券へのアウトソーシングサービス提供および‥‥岡三証券の所有する証券業務ソフトウェアを35億円で取得することに関する方針稟議を申請します。」と記載されており、さらに、AとBとの間で作成された平成15年7月25日付けの「合意書1」と題する書面(乙12。以下「合意書1」という。)には、「岡三証券は日本ユニシスに証券業務プログラムのソフト資産を譲渡するものとする」と記載され、最後に、Aが作成した平成15年7月30日付けの「会議メモ(アウトソーシングプロジェクト)」と題する書面(乙13)には、譲渡対象のソフトウェアについて、旧岡三証券が著作権を有している旨の表示がある。
 このように、上記各資料は、当初から控訴人が本件ソフトウェアの著作権を有していることを前提とする趣旨の記載しかされておらず、しかも、それらは公表を予定していない内部資料であり真実とは異なる内容をあえて記載する必要は全くなく、高度の信用性が認められるものである。
 以上のような記載内容からすれば、控訴人、OIS及び日本ユニシスは、本件ソフトウェアの著作権が、OISではなく、あくまでも控訴人に帰属しているとの共通認識を有していたことは明らかである。
 また、控訴人、OIS及び日本ユニシスは、会議において、アウトソーシング・サービスの提供後における本件ソフトウェアの改良に係るプログラムの著作権の帰属について議論しているところ、旧岡三証券の従業員であるCが作成した平成15年7月15日付け会議メモ(アウトソーシングプロジェクト)と題する書面(乙70の10)には、「岡三証券に帰属するものとした場合、その成果物を運用するために岡三とユニシスで改めて契約を交わす等の作業が発生する」と記載されており、また、日本ユニシスが作成したアウトソーシング契約スキーム案ご説明資料Uと題する書面(乙70の12)には、日本ユニシスではなく控訴人に改良に係るプログラムの著作権を留保させた場合における問題点が指摘されている。すなわち、控訴人、OIS及び日本ユニシスは、アウトソーシング・サービスの提供後において、控訴人が本件ソフトウェアの改良に係るプログラムの著作権を保有することとした場合の問題点を議論しており、OISが当該著作権を保有することとした場合の問題点については一切検討していないのである。このことからすると、控訴人、OIS及び日本ユニシスは、アウトソーシング・サービスの提供後において、本件ソフトウェアの改良等に係る成果物としてのプログラムの著作権は、あくまでも控訴人に帰属し、OISには帰属しないものとの認識を有していたことは明らかである。
(6) オープン系ソフトウェアの著作権の帰属
 旧岡三証券は、OISに対し、旧岡三証券の証券業務に用いるため、本件ソフトウェアとは別に、市販のオペレーションソフトウェア環境で稼働させることができるソフトウェアの開発を委託し、これを受けたOISは市販のオペレーションソフトウェア環境で稼働させることができるソフトウェアを開発した(以下「本件オープン系ソフトウェア」という。)。控訴人は、日本ユニシスに本件ソフトウェアを譲渡する一方で、新岡三証券との間で、平成15年10月1日付け「ソフトウェア使用契約書」(乙22)を取り交わし、新岡三証券に対し、本件ソフトウェアと同じく旧岡三証券の委託を受けてOISが開発した本件オープン系ソフトウェアの使用許諾をしている。これは控訴人が本件オープン系ソフトウェアの著作権を有すること、すなわち、OISから黙示的に著作権の譲渡を受けたことを示すものである。そして、その開発経緯、権利関係について、本件ソフトウェアと本件オープン系ソフトウェアとの間で異なる扱いをしていた形跡は全くなく、また、そのような別異の取扱いをする合理的理由も見出しがたいことからすると、本件ソフトウェアについても同様に黙示の合意により著作権が旧岡三証券に移転していると推認されるというべきである。
(7) OISの巨額の不動産の含み損による債務超過
 本件譲渡契約書(甲7)が取り交わされた当時のOISは、77億円もの巨額の不動産の含み損を抱えて債務超過の状態にあったところ、控訴人は、減損会計が導入された場合、連結子会社であるOISが債務超過の状態にあると、控訴人の資本力等に問題があるのではないかという評価を受けるおそれがあると判断していた。
 そこで、控訴人は、当初、OISが日本ユニシスに対してOISの営業権を30億円で譲渡し、その譲渡利益により、OISの債務超過の状態を解消することを検討していたものの、その後、日本ユニシス側からの反対を受けて、控訴人が日本ユニシスに対して控訴人の保有する本件ソフトウェアの著作権を譲渡するという取引について検討するに至った。
 しかしながら、控訴人が日本ユニシスに対して控訴人の保有する本件ソフトウェアの著作権を譲渡するという取引では、OISに利益計上することができないため、OISの債務超過の状態を解消することができない。そこで、控訴人は、税負担なく控訴人からOISに資金を移転しOISの債務超過を短期に解消するために、控訴人が本件ソフトウェアの著作権をOISから譲り受けたとの虚偽の外形を作出した。これにより、控訴人は、外形上は、OISに対する寄附金の損金不算入制度により生じる税負担をすることなく、OISの債務超過の状態を解消するという目的を達した。
2 控訴人の反論に対する再反論
(1) OISの分社化の目的に対して
 控訴人は、OISが旧岡三証券から分社した目的の1つが、OISが将来におけるソフトウェア・ハウスとしての発展を狙うことにあるとし、分社の目的を達成するために、OISは、上記分社と同時に、旧岡三証券のコンピュータ部門がそれまでに証券取引のデータ処理業務用に自社開発していた本件旧ソフトウェアの所有権及びソフトウェアに附属する一切の権利を、代金5億6000万円で譲り受けたことを、OISが本件ソフトウェアの著作権を有していた根拠として主張する。
 しかしながら、旧岡三証券は、同時期、OISに対して、本件旧ソフトウェアの譲渡代金と同額の5億6000万円を貸し付けていたのであって、そのことからすると、OISは旧岡三証券からの上記借入れがなければ、本件旧ソフトウェアを取得することすらできなかったのであり、その後も、OISにおいては、平成14年4月から平成15年3月までの営業収入のうち、旧岡三証券からの営業収入が9割近くを占めていた。また、OISは旧岡三証券と連結完全支配関係にある旧岡三証券の子会社であり、旧岡三証券がOISの従業員も一括して採用し、旧岡三証券の役員がOISの役員も兼任している状態にある。そうすると、OISは、事実上、旧岡三証券のIT部門ともいうべき法人にほかならず、旧岡三証券の経営陣がOISの経営方針を含めたグループ全体の戦略的な経営判断を行っていたものと認められ、資金的にも旧岡三証券からの支援がなければ事業を行うことができない状態にあったのであるから、OISが旧岡三証券から独立したソフトウェア・ハウスとしての発展をねらっていたとは到底いえない実情にあったというべきである。また、旧岡三証券が、真にOISが将来ソフトウェア・ハウスとして発展することを企図していたのであれば、そのために必要不可欠であるはずの本件旧ソフトウェアの著作権の帰属を本件委託業務基本契約書(甲22)に記載せず、その後も本件譲渡契約書(甲7)を取り交わす平成15年10月に至るまで何らの明示の合意をしないということは到底考えられないことなどを考慮すると、旧岡三証券が、OISが証券取引データ処理業務に関して開発するソフトウェアの権利をOISに集約して保有させるという意思を持っていたとは到底認めることができないというべきである。
(2) 本件ソフトウェアを構成する技術資料の管理・保管状況に対して
 控訴人は、OISが本件譲渡契約までの間、総量20万ページ以上に及ぶ本件ソフトウェアの設計書、プログラムリストなどのソフトウェア関連のドキュメント類をすべてOIS社内で厳重に保管していたことをもって、OISがこれらドキュメント類を含む本件ソフトウェアの著作権等の帰属主体であったことが明らかであると主張する。しかしながら、OISはそもそも控訴人からデータ処理業務やソフトウェアの開発等を受託していたのであり、その範囲内で本件ソフトウェアやドキュメント類を管理していたにすぎないものであるから、それらの保管・管理状況をもって直ちにOISに著作権が帰属しているということにはならない。
(3) 事務委託料の支払いに対して
 事務委託料の支払いに関し、控訴人は、取引所参加証券会社である丸福証券株式会社(以下「丸福証券」という。)、三晃証券株式会社(以下「三晃証券」という。)及び光証券株式会社(以下「光証券」という。)の3社(以下、同3社を含め旧岡三証券以外のOISの業務委託証券会社を「委託元証券各社」という。)が直接OISと業務委託契約を締結し、OISに対してデータ処理業務を委託し、その事務委託料を支払っていることを理由に、旧岡三証券や委託元証券各社からOISへの事務委託料の流れが存在したと主張する。
 しかしながら、委託元証券各社の1つである愛媛証券株式会社(以下「愛媛証券」という。)は、OISに対して直接事務委託料を支払っていた事実はなく、旧岡三証券との間で、平成11年10月1日付け有価証券の売買その他の取引等に関する契約書(乙87)を取り交わし、旧岡三証券に対して事務委託料を支払っていたのであるから、控訴人の主張は事実に反し、失当である。
(4) 本件譲渡契約に至る交渉の経緯について
 控訴人は、本件譲渡契約に至る経緯について縷々主張し、その過程で作成された平成15年1月16日付けの基本合意メモ案(乙9)について、このメモは、正式に交わされた基本合意というわけではなく、それぞれの社内検討のための叩き台として作成されたものにすぎず、あくまで叩き台であり、その後の協議により内容が変更されることも当然に想定されていたとし、その後の経緯をみても、当初OISと日本ユニシスとの間で交渉が開始されてから、本件譲渡契約及び本件転売契約がされるまでの事実経過はごく自然な内容であり、かかる自然な交渉経緯に照らしても、本件譲渡契約及び本件転売契約が、何ら作為の介在し得ない合理的なものであることは明らかであり、被控訴人が主張するように、本件譲渡契約が税負担なく控訴人からOISに資金を移転し、OISの債務超過を短期に解消するために作出された虚偽の外形であったなどという事実はないと主張する。
 しかしながら、基本合意メモ案(乙9)、合意書1(乙12)の作成経緯及びその内容、さらに、その後に作成された平成15年8月29日付け「合意書2」と題する書面(甲31)の内容など、控訴人、OIS及び日本ユニシスの間で行われた本件ソフトウェアの取引に係る交渉経緯からすると、その交渉の過程で、当初は控訴人が自己の保有する本件ソフトウェアの著作権を日本ユニシスに対して譲渡することとされていたのが、平成15年7月30日から同年8月25日にかけて、何の前触れもなく突然に、OISが所有するソフトウェア資産等を控訴人が取得し、控訴人所有のソフトウェア資産等と併せて、日本ユニシスに譲渡するという内容に変更されているのであるから、控訴人は合意書1(乙12)を作成した後に、OISが本件ソフトウェアの著作権を有していると仮装するスキームに転じたことは明らかである。
(5) 本件ソフトウェアの資産計上に対して
ア 控訴人は、本件ソフトウェアを減価償却資産である無形固定資産として資産計上していた点に関し、旧岡三証券が繰延資産として計上していたSEサービス料を無形固定資産のソフトウェア勘定に変更したのは、専ら会計ルールの変更や他社の動向に従った結果にすぎない旨主張する。
 しかしながら、会計処理の変更により、ソフトウェアを無形固定資産に計上することになったとしても、旧岡三証券は毎年多額のSEサービス料を資産計上しているのであるから、旧岡三証券が本件ソフトウェアの著作権を有していないのであれば、平成12年度の税制改正以降において、税負担の面からSEサービス料を資産計上せずに費用計上することが検討されてしかるべきであるのに、旧岡三証券がそのような検討を行った形跡が全く窺われないのは、不自然である。
イ また、控訴人は、OISが本件ソフトウェアを資産計上していない理由について、OISは、旧岡三証券から受領した開発中のソフトウェア分を含むSEサービス料を一括して売上計上していたため、本件ソフトウェアの開発のための人件費について資産計上を行った場合、収益は前倒しで計上される一方、費用計上については将来に繰り延べられることから、利益が不相当に増加する懸念もあったとか、OISは、平成12年3月期以降に開発のための人件費を支出した本件ソフトウェアが、証券会社の基幹業務に関するものであり、新規性は全く存在しなかったことから、将来の収益獲得や費用削減が確実ではないとの判断も許されると考えたからと主張する。しかしながら、前者の理由については、法人が支出した費用が何らかの資産勘定に計上すべきものであるならば、利益が増加するか否かにかかわらず、当該費用は資産勘定に計上されることになるのであるから、控訴人の主張は根拠がない。また、後者の理由については、本件ソフトウェアは、旧岡三証券からの依頼を受けて開発されたものであって、これを仮にOISが保有していたのであれば、これを旧岡三証券に利用させてその利用料を取得することにより相当の収益獲得が見込まれていたと考えざるを得ないのであって、将来の収益獲得が確実でないと判断したとは考えられない。控訴人の主張は、本件ソフトウェアは将来の収益獲得や費用削減が確実でないとした上で、一方において、OISは企業会計に基づき本件ソフトウェアを資産計上しなかったとし、他方において、旧岡三証券は法人税基本通達に準じ、本件ソフトウェアを資産計上したという相反する主張である。
(6) 黙示の合意による譲渡の合理性について
ア 控訴人は、本件旧ソフトウェアを改変等して開発した本件ソフトウェアについて黙示の合意により譲渡したとすると、OISは、本件旧ソフトウェアの著作権等を高額な対価を支払って購入し保有し続けておきながら、他方で本件旧ソフトウェアを改変等した場合には、当該改変等した部分の著作権等は黙示の合意により旧岡三証券に無償で譲渡し続けたということになるが、本件ソフトウェアは本件旧ソフトウェアを改変等することによって作成されたものであって、両者の関係は極めて密接なものであり、両者の権利を旧岡三証券とOISとで分属させる合理性はなく、不自然な取引がされていたことになり、極めて不合理である旨主張する。
 しかしながら、本件旧ソフトウェアは、旧岡三証券が開発費用を負担して開発し、OISに5億6000万円で譲渡したものであるのに対して、本件旧ソフトウェアを改変等して開発した本件ソフトウェアは、旧岡三証券が発意し、同社の指示に基づきOISが開発したものであり、旧岡三証券は、OISに対して本件ソフトウェアの開発費用をSEサービス料として支払っていたことに加えて、OISの利益相当分を加えて計算していたものである。そうすると、旧岡三証券とOISとの間においては、旧岡三証券がOISに譲渡した本件旧ソフトウェアと旧岡三証券が開発費用を負担して改良した本件ソフトウェアについて、その著作権の帰属がそれぞれ異なっていても、それには合理的な理由があるのであるから、控訴人の主張は失当である。
 すなわち、まず、コンピュータ・プログラムが改変された場合、その改変が、原著作物の本質的な特徴を直接感得し得ないほど大幅なものであった場合には、改変後のコンピュータ・プログラムは二次的著作物とはいえないこととなる、言い換えると、コンピュータ・プログラムの改編が大規模なものであり、原形を残さないような段階にまで至った場合にはこれは別個の著作物と考えられ、元の著作者の権利は及ばないことになるというべきである。そこで、本件ソフトウェアをめぐる権利関係についてみると、本件旧ソフトウェアは、昭和55年7月1日以前に開発されたものであり、その後、平成15年10月1日に本件譲渡契約がされるまでの24年間もの長期間、度重なるシステムの改善・開発が行われており、また、その間、第2次総合オンラインシステム、第3次総合オンラインシステムを経て、ハード及びソフトウェアが一新されている。その結果、本件旧ソフトウェアは、本件譲渡契約及び本件転売契約の時点においては、内容が大幅に陳腐化し、既に旧岡三証券の証券業務のために用いられていなかったものと認められる。このことは、本件旧ソフトウェアの本数がわずか783本であったのに対して、平成15年10月1日時点での本件ソフトウェアの本数が1万2471本であったことからも裏付けられる。以上のとおり、本件転売契約に基づき日本ユニシスに譲渡された本件ソフトウェアは、本件旧ソフトウェアの原形を残さず、本件旧ソフトウェアとは全く別個の著作物に変わったと認めるのが自然であるから、本件ソフトウェアは、本件旧ソフトウェアを原著作物とする二次的著作物ではなく、本件旧ソフトウェアの著作権者であるOISの原著作権者としての権利は及ばないというべきである。
 仮に、本件ソフトウェアが本件旧ソフトウェアの二次的著作物であったとしても、本件ソフトウェアについては、旧岡三証券がOISに十分な利益を確保できるだけの多額の開発費用を負担していたのであるから、本件ソフトウェアについて黙示の譲渡があった時点において、OISは、原著作権者としての権利を放棄していたものと解することができるから、本件旧ソフトウェアについてOISに著作権が帰属することが、本件ソフトウェアについて旧岡三証券に著作権が帰属するとの認定を覆すような事情とはならないというべきである。
イ また、控訴人は、本件ソフトウェアには、OISが委託元証券各社から受託したデータ処理業務を遂行する過程で旧岡三証券以外の委託元証券各社からの機能追加要請を受けて作成したソフトウェアも含まれているのであるから、OISが委託元証券各社から受託したデータ処理業務の過程で開発したソフトウェアの著作権等は、委託元証券各社に帰属していることになってしまい、このような分属譲渡は極めて不合理である旨主張する。
 しかしながら、旧岡三証券は、OISに対し、「システム開発・改善申請書」を直接交付して開発を依頼し、OISは、旧岡三証券に対し、「システム開発・改善申請回答書」を直接交付している。ところが、委託元証券各社は、機能の追加を希望する場合には、旧岡三証券に対し、「システム開発・改善申請書」を交付し、旧岡三証券がOISに当該申請書を交付し、OISは、旧岡三証券に対し、「システム開発・改善申請回答書」を交付して、旧岡三証券が委託元証券各社に当該回答書を交付しているのである。このように、本件ソフトウェアの機能追加要請の方法が旧岡三証券と委託元証券各社とでは全く異なっているのであるから、控訴人の上記主張は、異なる性質の両者を同様に扱って論難するものであって、失当である。
〔控訴人の主張〕
1 控訴人がOISに支払った29億4324万円が被控訴人の主張するような「寄附金」に該当するか否かは、専ら、平成15年10月1日の本件譲渡契約(甲7)より前に本件ソフトウェアの著作権等が旧岡三証券に帰属していたのか、それともOISに帰属していたのかによって決定されるところ、これら著作権等の権利がOISの創作行為によりOISによって原始取得されたこと、及び、少なくとも本件譲渡契約前にはこれら著作権等をOISから旧岡三証券に譲渡することを明示する契約が存在しないことは、当事者間で争いのない事実である。
2 したがって、上記の著作権等の帰属に関する判断は、専ら、本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたのか否かにかかっているところ、次のとおり、本件ソフトウェアの著作権が黙示の合意によって、OISから旧岡三証券に譲渡されたという事実は存しない。
(1) OISの分社化の目的
 OISは、昭和55年7月1日付けで旧岡三証券のコンピュータ部門の営業を譲り受けて分離・独立した会社である。OISが旧岡三証券から分社した目的は、@旧岡三証券のコンピュータ部門のコストの明確化、採算性の浸透によってコスト意識を高揚させること、AOISが将来におけるソフトウェア・ハウスとしての発展を狙うこと、等にあった。
 このような分社化の目的を達成するために、OISは、上記分社と同時に、旧岡三証券との間で同日付けで本件旧ソフトウェア売買契約を締結し、同契約に基づき、旧岡三証券のコンピュータ部門がそれまでに証券取引のデータ処理業務用に自社開発していた本件旧ソフトウェアの所有権及びソフトウェアに附属する一切の権利(なお、昭和55年当時、プログラム著作権は法律上明記されていなかったが、この権利の中に当然に含まれている。)を、代金5億6000万円で譲り受けたものである。このようにOISが高額の対価を支払って旧岡三証券から本件旧ソフトウェアの一切の権利を譲り受けたのは、まさに、OISが本件旧ソフトウェアの権利やノウハウを基礎として証券取引のデータ処理業務に関するソフトウェア資産を蓄積し、ゆくゆくは自立したソフトウェア・ハウスとして発展することを企図していたからにほかならない。
 このことは、平成15年1月17日付け「岡三情報システムの将来構想」と題する書面(甲26)にも現れている。この資料は、OISの取締役社長であるDが、旧岡三証券のEにOISが将来目指すべき方向性を説明するための資料として、当時OISの企画管理部に所属していたFに命じて作成させたものであるが、この資料には「T−V プログラム資産」(2頁)として、OISが、コボルプログラム15183本、アセンブラプログラム4218本の合計19401本のプログラム(これにはOISが平成15年10月に控訴人に対して著作権を譲渡した合計12778本のプログラム(甲7及び甲9の各別表に記載されたプログラム)も含まれている。)を保有していること、「8割くらいの本番稼働率としても、プログラム数で15000本、ステップ数で800万ステップのホストプログラム資産を保有する。」ことが明記されており、OIS自身が、その開発したホストプログラム資産をまさにOIS固有の資産として位置付け、重視している事実が端的に示されているのである。
 以上のようなOISの分社化の目的や分社に伴って旧岡三証券からOISへ本件旧ソフトウェアの権利が譲渡された趣旨にかんがみれば、旧岡三証券及びOISの両社の間では、これ以降にOISが証券取引データ処理業務に関して開発するソフトウェアの権利は、OISに集約するという意思を有していたことは容易に推認されるというべきである。したがって、OISは本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性を有していたのであって、これが、黙示に旧岡三証券へ譲渡される理由はない。
(2) OISにおけるデータ処理システムの構成及び処理方法
 OISが提供しているデータ処理業務の基本的な仕組みは、旧岡三証券や委託元証券各社が端末機から取引関係の情報を入力してOISのホストコンピュータに送信し、その処理を同ホストコンピュータにインストールされた本件ソフトウェアが行い、データ処理後の結果が、同ホストコンピュータから旧岡三証券や委託元証券各社の端末機に向けて返信されるというものである。
 本件ソフトウェアは、旧岡三証券又は委託元証券各社から委託されたデータ処理業務の過程で、OISが本件旧ソフトウェアを改変又は翻案等して開発してきたものであり、本件旧ソフトウェアの基本的な機能が踏襲されている。
 この過程で、旧岡三証券や委託元証券各社が直接本件ソフトウェアを運用・制御することはなかったし、情報入力に用いる端末機等に本件ソフトウェアがダウンロードされたという事実もない。旧岡三証券の端末機に本件ソフトウェアがインストールされたり、予めインストールされていたということも当然ない。単に、OISのホストコンピュータとの間で、情報の授受のみが行われているのであり、OISと旧岡三証券及び委託元証券各社との関係は、それぞれ、いわゆるASP(アプリケーションサービスプロバイダー)とユーザーに類似した関係にある。
 このように、旧岡三証券は、本件ソフトウェアについて、著作権の支分権に該当するような利用行為を一切行っていない。したがって、旧岡三証券は、本件ソフトウェアについて、著作権法63条の定める「利用」行為は行っていない。
 それゆえ、旧岡三証券が本件ソフトウェアによってデータ処理の便益を受けるに当たって利用許諾契約が存在しないことも何ら異常な事態ではない。
(3) 本件ソフトウェアを構成する技術資料の管理・保管状況
 OISは、本件譲渡契約までの間、総量20万ページ以上に及ぶ本件ソフトウェアの設計書、プログラムリストなどのソフトウェア関連のドキュメント類をすべてOIS社内で厳重に保管していた。具体的には、OISは、上記ドキュメント類を、すべて番号鍵で施錠された保管庫の中で、スタックランナーという可動棚により保管しており、OISの委託先等の開発パートナーのごく一部のシステムエンジニアを除き、OISのシステムエンジニア以外の者はたとえ旧岡三証券の社員であってもドキュメント類の出し入れが一切できないようにしていたのである。
 これらのドキュメント類は、本件ソフトウェアの改変や翻案、機能追加の場面で不可欠な技術資料であって、本件譲渡契約の対象となった本件ソフトウェアを構成する重要な資産であるところ、これらのドキュメント類は、まさにOISの排他的な占有支配下にあったのである。
 以上のとおり、本件譲渡契約前における、ドキュメント類の保管・管理状況に照らしても、本件譲渡契約の時点まで、OISがこれらのドキュメント類を自らの重要資産として取り扱っていたのであるから、OISがこれらドキュメント類を含む本件ソフトウェアの著作権等の帰属主体であったことは明らかである。
(4) 事務委託料の支払い
 旧岡三証券は、OISと、本件旧ソフトウェア売買契約と同時に、昭和55年7月1日付けで本件委託業務基本契約を締結すると同時に「委託業務確認書」(甲23)を取り交わし、以後、平成15年10月1日の本件譲渡契約まで20年以上に渡り、継続的に相当額の事務委託料を支払うことにより、前記(2) で述べた仕組みで行われる本件ソフトウェアによるデータ処理業務をOISに委託してきた。なお、旧岡三証券はOISに対し、データ処理の業務を委託する中で、証券取引の多様化及び税制などの制度変更等の都度、新たなデータ処理機能の追加や処理方法の変更をOISに要請してきたのであって、被控訴人が主張するようなソフトウェア開発を委託してきたわけではない。そして、新たなデータ処理機能の追加や処理方法の変更の要請にどのように対処するかは専らOISが判断し、ソフトウェア開発が必要な場合でも、要件定義を含む仕様(設計)の確定作業、プログラミング作業、成果物の検収テストに至るまでのソフトウェア開発の全工程がOIS内部で完結しており、旧岡三証券がOISより成果物の納品を受けたこともない。
 また、委託元証券各社のうち、取引所参加証券会社である丸福証券、三晃証券及び光証券の3社は直接OISと業務委託契約を締結し、OISに対してデータ処理業務を委託し、その事務委託料を支払っている。これらの3社がOISにデータ処理業務の対価として支払った事務委託料は、平成10年10月から平成15年9月までの5年分のみを見ても、1か月当たり平均で約2400万円に上る。
 このように、旧岡三証券や委託元証券各社からOISへの事務委託料の流れが存在したのに対し、OISから旧岡三証券や委託元証券各社に対してこのような金銭が支払われたことはなく、OISが本件ソフトウェアを運用して利用する対価を旧岡三証券や委託元証券各社に支払ったこともない。
(5) OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性
 本件ソフトウェアは、前記(2) のとおり、データ処理業務に実際に用いられていたものであり、また、上記(4) のとおり、旧岡三証券又は委託元証券各社は、OISに対し、本件ソフトウェアを用いたデータ処理業務の対価として、多額の事務委託料を支払ってきたのであって、かかる事務委託料はOISの収益の根幹となっている。このように、本件ソフトウェアは、OISの業務の基幹であり、主要な収益源となっていたのであるから、OISにとって極めて重要な資産である。したがって、このような重要な資産をOISが明示的な合意もなしに旧岡三証券に譲渡するなどということは、常識的に考えてもあり得ない。
(6) 旧岡三証券は本件ソフトウェアの権利を必要とはしていなかったこと
 前記(2) のとおり、旧岡三証券や委託元証券各社に設置された端末機には本件ソフトウェアがインストールされていたわけでも、本件ソフトウェアがダウンロードされていたわけでもなく、本件ソフトウェアは、すべてOISが所有し運用するホストコンピュータにインストールされていた。これに対し、旧岡三証券や委託元証券各社においては、ダウンロードやインストールなどに代表される著作権の支分権に当たるような利用行為を行っていたわけでもないので、旧岡三証券や委託元証券各社は、著作権自体はもちろんのこと、その利用権(例えば複製権や公衆送信権)すら有している必要はなかったものである。
 すなわち、データ処理の業務委託契約において、委託者である旧岡三証券や委託元証券各社は、本件ソフトウェアにより処理された情報(処理済みデータ)のみを必要としており、それさえ得られれば、OISとの業務委託契約の目的を達成する関係にある。そもそも、旧岡三証券や委託元証券各社は、本件ソフトウェアを取り扱うだけの、すなわち本件ソフトウェアの運行のほか本件ソフトウェアがインストールされているホストコンピュータも含めた保守・メンテナンス、さらには本件ソフトウェアへの機能追加や改変、バグフィックスといった著作権者の許諾が必要となる行為を行う人的・物的設備も全く有していなかった。それゆえにこそ、本件ソフトウェアを用いたデータ処理業務をOISという外部者に委託してきたのである。したがって、旧岡三証券が証券業務を行うに際し、本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性がなかったことは明らかである。
(7) 本件譲渡契約に至る交渉の端緒
 日本ユニシスはいわゆるシステムベンダーであり、証券業界に大きな顧客基盤を有していたが、平成13年ころには、証券業界における顧客基盤の再構築と強化という大きな課題を有していた。
 他方、当時、日本ユニシスと長年取引関係にあったOISでは、同社が旧岡三証券や委託元証券各社から受託していた証券取引のデータ処理業務に用いていたホスト用コンピュータの保守期限が平成15年末に到来することなどから、システム再構築に向けた方法や費用について検討を重ねており、この点について、日本ユニシスにも相談していた。
 そのような状況下、日本ユニシスは、上記のような同社の抱える課題に対応するために、旧岡三証券等に対しデータ処理業務を提供しているOISからその業務ノウハウを得ることができないかと考え、平成14年4月ころ、OISに対し、同社が保有するノウハウやシステムを、それらを含めた営業権として譲り受けられないかと提案した。
 これに対し、OISも、本件ソフトウェアの次期システム(以下「ODIN」という。)の開発を平成14年から開始していたので、システムベンダーである日本ユニシスに現行システムに関するOISの事業を任せれば、ホスト系システムの保守等に関連してコストメリット等が得られるとの期待から、日本ユニシスと協議を開始した。
 当初、交渉の当事者は、OISと日本ユニシスであったが、両社の取引のスキームによっては、旧岡三証券がOISに委託していたデータ処理業務のあり方にも関係するので、旧岡三証券も交渉に加わり、3社間で協議を行うこととなった。
 平成14年5月末、日本ユニシスから、OIS及び旧岡三証券と正式に協議をしたいとの申入れがされ、それを受け、同年6月6日付けで、旧岡三証券と日本ユニシスとの間で秘密保持契約書(乙7)が締結され、その後、OIS及び旧岡三証券の各実務担当者と、日本ユニシスの実務担当者との間で事業スキームの方向性についての協議が繰り返し行われた。
 そして、平成14年末から翌平成15年1月ころにかけて、双方の実務担当者間で、OISが旧岡三証券その他の証券会社から受託していた証券事業向けデータ処理業務提供主体としての地位や、関連するノウハウ、システムを含んだ包括的なものを「営業権」と称し、それを日本ユニシスがOISから35億円で譲り受けるという方向で協議が行われた。このとき、実務担当者間で行われた議論をまとめ、それぞれ自社に持ち帰り社内の関係部署や役員に諮るための叩き台として基本合意メモ案(乙9)が作成された。
 したがって、このメモは、正式に交わされた基本合意というわけではなく、それぞれの社内検討のための叩き台として作成されたものにすぎない。あくまで叩き台であり、その後の協議により内容が変更されることも当然に想定されていた。
 事実、この基本合意メモ案(乙9)を踏まえて行われた平成15年2月ころの日本ユニシス内部での検討では、同社の大株主であった米国ユニシスから派遣されていた役員2名が反対し、更に米国ユニシスからも反対意見が表明された。その主な理由は、譲渡対象となる資産が抽象的な「営業権」であるという点と、契約当事者が信用力に乏しいOISであるという点で契約責任の負担能力に問題があるというものであった。
 その後、米国ユニシスの意向を受けた日本ユニシスから、OIS及び旧岡三証券に対し、@譲渡対象資産を「営業権」という曖昧なものではなく、証券事業に関するデータ処理業務に用いるソフトウェアとすること、それに伴い、AOISでは各種の担保責任を負いきれないリスクを考慮し、売買契約の相手方をOISとはせず、上場会社であった旧岡三証券とすること、B譲渡金額の妥当性を確認するために、第三者のデュー・デリジェンスを行うこと、などの提案がされた。
 そして、その後、第三者である監査法人トーマツによる譲渡対象のソフトウェア等の資産価値のデュー・デリジェンスも行われ(鑑定価格は約35億円)、OISから控訴人を経て、OISのノウハウを体現した資産としてのソフトウェアや設計書等の関連資料の著作権や所有権が日本ユニシスに譲渡されるに至った。
 以上のとおり、当初OISと日本ユニシスとの間で交渉が開始されてから、本件譲渡契約及び本件転売契約がされるまでの事実経過はごく自然な内容であり、かかる自然な交渉経緯に照らしても、本件譲渡契約及び本件転売契約が、何ら作為の介在し得ない合理的なものであることは明らかであり、被控訴人が主張するように、本件譲渡契約が税負担なく控訴人からOISに資金を移転し、OISの債務超過を短期に解消するために作出された虚偽の外形であったなどという事実はない。
(8) 本件ソフトウェアの資産計上
ア 旧岡三証券が本件ソフトウェアを無形固定資産として計上していた点について
 旧岡三証券が、本件ソフトウェアの開発費を、「繰延資産」(法人税法施行令14条1項3号)ではなく、あえて「ソフトウェア」(法人税法施行令13条8号リ)という減価償却資産(無形固定資産)として計上していたことは事実である。
 しかしながら、この資産計上は以下に述べる経緯によるものである。
 すなわち、まず、旧岡三証券は、平成元年6月に課税庁からの更正通知を受けるまで、OISへ支出していた事務委託費については、SEサービス料等の支出を含め、支払った年度における損金として処理し、全く資産計上を行っていなかった。
 ところが、昭和62年9月期を対象とした昭和63年の税務調査に基づき、課税庁から平成元年6月30日付で、OISへ支出した事務委託費中のSEサービス料のうち、システム開発・研究に要した部分の費用については当期中の損金とせず、繰延資産に計上すべきことを求められた。
 そこで、旧岡三証券は、それ以来、事務委託費中のSEサービス料として支出した費用のうちシステム開発に要した部分について、会計処理上は「長期前払費用」(税法上は「繰延資産」)として、その費用額について資産計上を始めた。
 上記の経緯から明らかなとおり、旧岡三証券がかかるSEサービス料を資産計上することにしたのは、もっぱら、課税庁からの更正通知を理由としたものである。
 その後、旧岡三証券は、平成11年3月期まで、その会計処理上、OISへの事務委託費のうち、システム開発に関連すると認められるSEサービス料を課税庁の指導に従って長期前払費用(税法上は繰延資産)として計上していたが、平成12年3月期からは、勘定科目を無形固定資産の「ソフトウェア」に変更した。
 これは、平成12年度の税制改正によって、ソフトウェアの開発費については、「ソフトウェア」として資産計上することが求められるようになったことのほか、財務諸表等規則の改正(平成11年5月19日)により無形固定資産の区分表示に「ソフトウェア」の項目が規定されたことに伴う会計ルールの変更や、同業他社の動向を踏まえて行われたものである。
 このように、旧岡三証券がそれまで「長期前払費用」(繰延資産)として計上していたSEサービス料を無形固定資産の「ソフトウェア」勘定に変更したのは、専ら会計ルールの変更や、他社の動向に従った結果にすぎず、本件ソフトウェアの著作権が旧岡三証券にあるなどという判断によって行われたものではない。
イ OISが本件ソフトウェアを資産計上していなかった点について
 OISが本件ソフトウェアを資産計上していなかった理由は、次のとおりであるから、そのことと本件ソフトウェアの著作権の帰属とは何ら関係がない。
 前述した平成12年度の税制改正や会計ルールの変更がされるまでの時期においては、自社開発のソフトウェアについては、開発のための人件費が支出されたとしても、その費用を資産計上するというルールはなく、常に当該支出にかかる事業年度で損金処理されていた。したがって、この期間においてOISが本件ソフトウェアを資産計上していなかったことは当然である。
 そして、平成12年3月期以降は、自社開発ソフトウェアの開発のための人件費の支出について、ソフトウェアとして資産計上すべき場合が生じることとなった。しかし、本件において、OISは、旧岡三証券から受領した開発中のソフトウェア分を含むSEサービス料を一括して売上計上していたため、本件ソフトウェアの開発のための人件費について資産計上を行った場合、収益は前倒しで計上される一方、費用計上については将来に繰り延べられることから、利益が不相当に増加する懸念もあった。そのため、OISは、現実問題として、資産計上を行うことには消極的にならざるを得なかった。また、上記改正後であっても、その効果として将来の収益獲得や費用削減が確実でなければ費用処理することが許されるところ、OISは、平成12年3月期以降に開発のための人件費を支出した本件ソフトウェアが、証券会社の基幹業務に関するものであり、新規性は全く存在しなかったことから、将来の収益獲得や費用削減が確実ではないとの判断も許されると考えたのである。実際に、毎年の会計監査においても、監査法人からかかる処理について特に指摘を受けたことはない。
 OISは、以上の判断に基づき、平成12年以後も本件ソフトウェアの開発費用を資産計上しなかったにすぎず、OISには著作権が帰属していないという判断の下に資産計上の必要性を判断したわけではない。
(9) 本件オープン系ソフトウェアについて
 被控訴人は、本件オープン系ソフトウェアについて、控訴人が新岡三証券に対し、自ら使用許諾している点を指摘して、このソフトウェアについては、控訴人が著作権を保有している証拠であると主張している。
 しかしながら、本件オープン系ソフトウェアに関する「ソフトウェア使用契約書」(乙22)は、同別表1 に掲記されている各項目について控訴人が著作権を有することを前提として控訴人が新岡三証券に許諾した契約書ではない。同契約は著作権とは無関係な契約であり、このことは、同契約書の別表1 には、およそ著作権など発生し得ない一般作業についての費用支出が多数含まれていること、同契約書の別表1には、外部から購入した、第三者を著作権者とするパッケージプログラム等も含まれていること、及び本件ソフトウェアの次期システムとしてOISが開発し、現在もOISが開発を続けている本件ソフトウェアの次期システムであるODINの基礎となった初期プロジェクトの費用も含まれており、このように、OISが著作権を保有しているプログラムの開発にかかわる計上資産も対象に含まれていることからも明らかである。
 また、同使用契約書(乙22)は、単に、税務上の必要性から、控訴人においてソフトウェア勘定に資産計上されていた過去の費用支出によって現在収益を得る関係にある新岡三証券との間での合理的な費用分担を定める契約として締結された契約にすぎない。すなわち、控訴人と新岡三証券との間の分割契約ではソフトウェア勘定を新岡三証券に移転させなかったため、本来新岡三証券が負担すべき費用を控訴人が負担している格好になり一種の不当利得関係になるので、子会社への利益移転といった税務的な問題が生じないよう、この使用契約書(乙22)を取り交わしたにすぎないのである。
 以上のとおり、同使用契約書(乙22)の存在及びその内容を理由として、本件ソフトウェアについての黙示の譲渡合意を認定することは不可能である。
(10) 被控訴人が主張する黙示の譲渡合意の不合理性
ア 被控訴人は、本件旧ソフトウェアについてはOISが旧岡三証券に黙示の合意により譲渡したとは主張していないが、本件旧ソフトウェアを改変等して開発した本件ソフトウェアについては、開発の都度、黙示の合意により譲渡したという主張をしている。しかし、そのような主張を前提とすると、OISは、本件旧ソフトウェアの著作権等を高額な対価を支払って購入し、保有し続けておきながら、他方で本件旧ソフトウェアを改変等した場合には、当該改変等した部分の著作権等は黙示の合意により旧岡三証券に無償で譲渡し続けたということになってしまうが、本件ソフトウェアは本件旧ソフトウェアを改変等することによって作成されたものであって、両者の関係は極めて密接なものであり、両者の権利を旧岡三証券とOISとで分属させる合理性はなく、不自然な取引がされていたことになり、極めて不合理というべきである。
イ また、本件ソフトウェアには、OISが委託元証券各社から受託したデータ処理業務を遂行する過程で旧岡三証券以外の委託元証券各社からの機能追加要請を受けて作成したソフトウェアも含まれているのであるから、被控訴人の論理によれば、OISに著作権が帰属するのであれば、委託元証券各社は、OISとの間で利用許諾契約を締結して利用許諾料を支払っていなければならないことになる。しかしながら、委託元証券各社とOISとの間には、利用許諾契約も利用許諾料の支払いもないから、OISが委託元証券各社から受託したデータ処理業務の過程で開発したソフトウェアの著作権等は、委託元証券各社に帰属していることになってしまう。そうすると、本件ソフトウェアの権利は、旧岡三証券と委託元証券各社に分属していることにもなりかねず、そのような分属状態が極めて不合理であることは明らかである。
ウ さらに、OISは、データ処理業務の遂行のため、本件ソフトウェアを複製し、翻案したりするなど著作権法上の「利用」も行っているところ、仮に被控訴人の主張するように、旧岡三証券に本件ソフトウェアが帰属していたのであれば、OISこそが旧岡三証券と利用許諾契約書を締結し、利用許諾料を支払う必要があるはずであるが、そのような利用許諾契約書は存在していないし、OISから旧岡三証券に対して本件ソフトウェアの著作権の利用料が支払われたという事実もない。
エ 最後に、被控訴人は、OISが、日本ユニシスに外注して開発させ、日本ユニシスから取得した本件追加ソフトウェアについては、自らの無形固定資産として資産計上をしていたのに対し、本件ソフトウェアについては資産計上していないことを理由の1つとして主張する。
 しかしながら、他の者から購入したソフトウェア(法人税法施行令54条1項1号)は、税法上、自社開発ソフトウェア(同項2号)と異なり、従来から資産計上することが求められているのであるから(法人税基本通達7−3−15の3)、取得経緯が異なる両者に計上方法の差異があるのは当然である。
 したがって、本件追加ソフトウェアの資産計上の事実は、資産計上のされなかった本件ソフトウェアの著作権がOISに帰属しないと認定する理由とはなりえない。
第4 当裁判所の判断
1 本件に至る経緯
 前記当事者間に争いのない事実、証拠(甲1ないし8、22ないし28、44ないし51、54ないし58、60、67、75、76、乙8ないし13、16、24、26、27、29、60.61、76、77〔以上、枝番のあるものは枝番を含む。〕、証人B及び同Aの各一部、及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(各段落の末尾に認定の根拠となる主な証拠を掲示した。)。
(1) OISの存置目的と本件旧ソフトウェア売買契約の経緯
ア 旧岡三証券では、昭和54年10月、事務管理部を廃止し、新たにシステム部と電算部を設置し、同時に両部を統括するシステム担当役員を置いた。
 昭和55年7月、旧岡三証券における第2次総合オンラインシステム開発プロジェクト発足の直後に、今後の第2次総合オンラインシステムの開発及びコンピュータ運営を効率的に進めるために、コンピュータ部門を分離し、新会社に業務の一部を移管して合理化を図ることとなり、そのために、OISが存置された。その結果、コンピュータの運用部門を担当する電算部がOISに移され、また、システム部門のうち主としてハード寄りのミドルソフト等を担当するSE部隊がOISに移された。(甲1、2)
イ 旧岡三証券とOISは、昭和55年7月1日、本件旧ソフトウェア売買契約を締結し、同契約に基づき、旧岡三証券はOISに対し、本件旧ソフトウェアを代金5億6000万円で譲渡した。なお、旧岡三証券は、そのころ、OISに対して、本件旧ソフトウェアの譲渡代金と同額の5億6000万円を、長期及び短期貸付金として貸し付けた。(甲3、24)
(2) 本件委託業務基本契約及び委託業務確認書の締結
 旧岡三証券は、OISと、昭和55年7月1日付けで本件委託業務基本契約を締結し、同時に、同基本契約第2条に基づき、旧岡三証券がOISに対して委託する業務を記載した「委託業務確認書」(甲23)を取り交わした。その中で、旧岡三証券は、OISに対し、約定オンライン業務、信用計算業務、保管業務、金銭口座管理業務、累積投資業務等の業務を委託し、OISは電子計算機を運行管理するための要員を派遣してその任に当たらせるなどするとともに、旧岡三証券は、委託した業務について委託料及び要員派遣料を支払う旨約定した。(甲22、23)
(3) 昭和55年7月以降の本件ソフトウェアの管理・運用形態及び開発過程
ア 本件ソフトウェアの管理・運用について
 OISは、昭和55年7月1日の本件旧ソフトウェア売買契約以降、ホストコンピュータを所有して管理し、その稼働に必要なオペレーター業務を行っていた。本件ソフトウェアは、同ホストコンピュータにインストールされて稼働しており、OISの従業員が管理していた。
 旧岡三証券及び委託元証券各社には、一般的なブラウザソフトを用いてOISのホストコンピュータにアクセスすることができる端末機が設置されていた。なお、この端末機には本件ソフトウェアはインストールされておらず、OISのホストコンピュータからダウンロードされることもなかった。
 本件ソフトウェアの運用形態は次のとおりである。
 すなわち、まず、旧岡三証券及び委託元証券各社の担当者は、顧客から電話等で株式売買の注文を受けると、上記端末機から、イントラネット網を通じて、OISに設置されたホストコンピュータにログインし、当該売買注文の情報(顧客コード、銘柄、売買の別、数量等)を入力する。そして、OISのホストコンピュータは、当該売買注文情報を受け付けると、受付完了の連絡を端末機に向けて送信する。一方で、OISのホストコンピュータは、証券取引所のシステムに向けて当該売買注文情報を送信する。証券取引所のシステム上で、当該売買注文に対応する反対の注文との間で「値付処理」(株式の売買)が行われる。そこで、株式の売買が成立すると、同システムは、「出来データ」をOISのホストコンピュータに向けて送信する。OISのホストコンピュータは、証券取引所のシステムから「出来データ」の返信を受けると、営業店から入力された売買注文の情報と「出来データ」の情報に基づき「約定処理」を行う。また、その「約定処理」のデータを「約定データベース」としてホストコンピュータ内に格納する。OISのホストコンピュータは、上記「約定処理」の結果を旧岡三証券又は委託元証券各社の端末機に送信する。そして、本件ソフトウェアは、上記OISのホストコンピュータ内に格納された約定ファイルを用いて、各種報告書や明細書の作成、代金の精算といった、約定から株式の受渡しに至るまでの一連の業務を自動的にバッチ処理(一定期間又は一定量のデータを集め、まとめて一括処理を行う処理)をする。
 以上の方法で、旧岡三証券及び委託元証券各社は、昭和55年7月以降、本件ソフトウェアを自社の証券業務処理のために使用してきた。
 その受諾データ処理業務の作業量については、例えば、本件譲渡契約の直近5年間(平成10年10月から平成15年9月)についてみると、旧岡三証券の営業店等に設置された端末機を利用したオンライン業務におけるデータ入力件数だけでも1日当たり平均で14万8000件に上った。(甲25、57)
イ 本件ソフトウェアの開発過程について
 旧岡三証券の商品開発部、投資信託部及び商品戦略部等は、本件ソフトウェアの開発をOISに委託するに当たって、具体的システム要件ごとに開発委託するシステムの標題、開発の目的・背景、システム化機能等の具体的な申請内容や指示を「システム開発・改善申請書」(乙24)に記載した上、これをOISに交付して、システム開発や改善を依頼していた。これに対し、OISは、上記申請書に従って、ソフトウェアの開発・改善を行い、当該ソフトウェアが完成すると、旧岡三証券の各部署に対して「システム開発・改善申請回答書」(乙25)を送付して、設計・管理等の作業項目別にその開発に係る見積概算の作業日並びに日数当たりの単価及びこれらの項目から算出された開発費用の金額の報告を行っていた。(乙24、25)
ウ 関連書類の管理・保管状況について
 OISは、本件譲渡契約までの間、総量20万ページ以上に及ぶ本件ソフトウェアの設計書、プログラムリストなどのソフトウェア関連のドキュメント類をすべてOIS社内で保管していた。具体的には、OISは、上記ドキュメント類を、すべて番号鍵で施錠された保管庫の中で保管しており、OISの委託先等の開発パートナーのごく一部のシステムエンジニアを除き、OISのシステムエンジニア以外の者はたとえ旧岡三証券の社員であってもドキュメント類の出し入れが一切できないように管理していた。これらの本件ソフトウェアの設計書、プログラムリストなどのソフトウェア関連のドキュメント類は、本件ソフトウェアのメンテナンス、改良及び開発に必要不可欠な書類であった。(甲25)
(4) 旧岡三証券のOISに対する事務委託料の支払いについて
 旧岡三証券は、昭和55年7月以降、上記(3) の方法で本件ソフトウェアを利用し、OISに対し、平成15年10月1日の本件譲渡契約まで、継続的に、システム運行基本料、データ処理料、端末機器管理料等の事務委託料を支払っていた。OISが旧岡三証券から受領した事務委託料は、OISのホストコンピューターの稼働時間を基礎として算出される項目のデータ処理料だけでも1か月当たり平均で4200万円に上った。(甲57、58、乙29)
 その間、旧岡三証券とOISとの間で、事務委託料の金額に関して、昭和61年10月1日に「業務委託料に関する協定書」(乙26)により、事務委託料の算出方法の内訳として「SEサービス料」が追加された。この「SEサービス料」は、SEサービス及びシステム開発に関する委託料として、OISが派遣する要員ごとに定める1か月当たりの単価により算定されるものであった。さらに、平成10年9月1日にそれを改定する「業務委託料に関する協定書」(乙27)が締結されたが、これらの協定書はいずれも事務委託料の金額計算方法に関する変更であり、契約の枠組みや実際にOISが受託するデータ処理業務の作業内容自体に変更はなかった。なお、昭和61年10月から平成15年3月までに支払われたSEサービス料の累計額は約32億8000万円に上った。(乙26、27)
(5) 本件ソフトウェアを利用していた委託元証券各社について
 OISが、旧岡三証券以外に、直接に業務を受託していた取引所参加証券会社は、丸福証券、三晃証券及び光証券の3社であり、また、旧岡三証券を通じて間接的に業務を受託していた非参加証券会社は、二浪証券、相生証券、六二証券、大石証券、香川証券、三京証券、大盛証券(現ばんせい証券)、野畑証券、益茂証券、武甲証券、阿波証券及び愛媛証券の12社であった。(甲25)
 特に、上記委託元請証券各社のうち、丸福証券、三晃証券及び光証券の3社は直接OISと業務委託契約を締結し、OISに対してデータ処理業務を委託し、それぞれ相当額の事務委託料を支払っており、これらの3社がOISにデータ処理業務の対価として支払った事務委託料は、平成10年10月から平成15年9月までの5年分だけでも、1か月当たり平均で約2400万円余りであった。(甲44ないし46、47ないし49、50、51、54ないし56、60、乙77)
(6) 本件譲渡契約及び本件転売契約に至る交渉の経緯について
ア 日本ユニシスは、控訴人にとって30年以上にわたる主要ベンダーであり、平成13年ころには、証券業界における顧客基盤の再構築と強化という大きな課題を有していたことから、平成14年4月ころ、旧岡三証券や他の証券会社から受託していた証券取引のデータ処理を主な業務としていたOIS及びその親会社である旧岡三証券に対し、OISの保有するノウハウやシステムを営業権の譲渡という形で譲り受けられないかと提案した。当初の日本ユニシスの提案は、「新OIS」を設立し、「旧OIS」の借入金や不動産の処理を行うこと、「新OIS」が営業権を35億円で譲渡すること、日本ユニシスは、新OISに対して、資本参画や人材の提供を行い、アウトソーシング業務を再委託するというものであった。(乙76の1)
イ そして、日本ユニシスは、平成15年1月ころ、OISの親会社である旧岡三証券との間で、証券会社等からのシステム運行受託や業務アプリケーションの開発及び販売において共同事業を展開し、証券決済制度改革への対応に不可欠な売り手側の業界動向、制度の詳細情報、実践的業務ノウハウなどの情報を入手すべく、平成15年10月からIT分野における業務提携を開始することで合意した。その骨子は、基本合意メモ案(乙9)によれば、OISは、旧岡三証券外3社から受託している証券総合オンラインシステムの運行業務を、平成15年10月を目標として、日本ユニシスに対し35億円で営業譲渡すること、日本ユニシスは証券総合オンラインシステムの運行環境をOISから引き継ぐこと、旧岡三証券外3社は、日本ユニシスとの間で、契約期間を6年とする証券総合オンラインシステムの運行業務に関するアウトソーシング契約を締結することであった。なお、同メモ案には「岡三証券は証券総合オンラインシステムの運行に必要なソフトウェアの使用をユニシスに許諾する」との記載があった。(乙8、9)
 このように、本件転売契約は、当初は、日本ユニシスとOISとの間で、OISから日本ユニシスへの「営業権」の譲渡取引として検討され、交渉されていたものであった。
ウ ところが、平成15年3月ころ、日本ユニシスの大株主である米国ユニシスが、取引対象の資産的裏づけと契約相手としてのOISの信用力に対する疑問を呈したことから、それを受けた日本ユニシスが、その代替案として、OISの営業権に代わるものとして、本件ソフトウェアを取引対象とし、さらに、OISの資産状況の悪化にかんがみ、財政的負担能力の観点から、契約相手を旧岡三証券とすることを求めたため、旧岡三証券及びOISが改めて検討した結果、本件ソフトウェアを、旧岡三証券を経由して日本ユニシスに譲渡するという内容に変更された。(甲75、76、乙16、証人B、同A)
エ 平成15年5月2日、日本ユニシス内において、稟議汎用(乙10)が作成され、同書面の冒頭には「岡三証券の所有する証券業務ソフトウェアを35億円で取得することに関し、ご承認賜りたきこと(方針稟議)」との記載があり、「岡三証券の所有する証券業務ソフトウェア」を35億円で取得することに関する社内稟議が発議され、同月30日、発議どおり決裁された。
オ 平成15年5月14日、旧岡三証券と日本ユニシスは、証券総合オンラインシステムの運行業務の一部を同年10月1日を目処に一定期間アウトソーシングすることを視野に入れ、旧岡三証券は日本ユニシスを総合データベース構築(フェーズ1)の企画、立案及び推進のパートナーとし、共同事業の展開を目指して、人事交流や共同事業会社設立の検討を行う旨の「基本合意書」(乙11)を取り交わした。
カ 旧岡三証券と日本ユニシスは、平成15年7月25日付け合意書1(乙12)を作成し、その中で、アウトソーシングの実行を、同年10月1日とすること、アウトソーシング契約は、「システム基盤提供サービス」と「運用・業務保守サービス」からなるものとすること、契約当事者は新岡三証券及び日本ユニシスとすることを合意した。なお、同合意書には、「日本ユニシスによるアウトソーシングを円滑に行う為に、岡三証券は日本ユニシスに証券業務プログラムのソフト資産を譲渡するものとする。」との記載がある。
キ Aが作成した平成15年7月30日付けの「会議メモ(アウトソーシングプロジェクト)」と題する書面(乙13)には、権利関係を表す一覧表の中の「譲渡ソフト資産(現状)」との欄に、旧岡三証券が本件ソフトウェアの著作権を有している旨の記載がある。
ク 控訴人とOISは、平成15年10月1日、本件ソフトウェアの著作権を関連説明資料等とともに30億円で譲渡する旨の本件譲渡契約を締結した。(甲7)ケ 控訴人とOISは、同月10日、本件譲渡契約書による譲渡の対象として、本件ソフトウェアに加え、本件追加ソフトウェアを追加する旨の合意をした。(甲9)
コ 控訴人は、同月27日、OISに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等の譲渡を受ける対価であるとして、合計30億円を支払った。
サ 控訴人と日本ユニシスは、同月、控訴人が、日本ユニシスに対し、本件ソフトウェア及び本件追加ソフトウェアの各著作権等を35億円で譲渡する旨の本件転売契約を締結し、日本ユニシスは、控訴人に対し、35億円を支払った。(甲8)
シ 控訴人の事業を承継した新岡三証券は、控訴人が本件ソフトウェアを日本ユニシスに譲渡するのと同時に、日本ユニシスとの間で、平成15年10月1日付けアウトソーシング・サービス契約書(乙60)を取り交わし、日本ユニシスに対し、システム基盤サービス及び運用・業務プログラム保守サービスを委託した。
ス 日本ユニシスは、OISとの間で、アウトソーシング・サービス委託契約書(乙61)を取り交わし、日本ユニシスが新岡三証券より受託した運用・業務プログラム保守サービスをOISに再委託した。
2 以上の事実を前提とすれば、本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実を認めることはできない。その理由は、次のとおりである。
(1) 一般的に、著作権は、不動産の所有者や預金の権利者が権利発生等についての出捐等によって客観的に判断されるのと異なり、著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから(著作権法2条1項2号、同法17条)、ソフトウェアの著作権の帰属は、原則として、それを創作した著作者に帰属するものであって、開発費の負担によって決せられるものではなく、システム開発委託契約に基づき受託会社によって開発されたプログラムの著作権は、原始的には受託会社に帰属するものと解される。
 また、旧岡三証券とOISとの間の本件委託業務基本契約(甲22)に基づくデータ処理業務は、上記認定の内容からすれば、情報処理委託契約であると解されるところ、情報処理委託契約は、委託者が情報の処理を委託し、受託者がこれを受託し、計算センターが行う様々な情報処理に対し、顧客が対価を支払う約定によって成立する契約であって、著作権の利用許諾契約的要素は含まれないと解される。
 本件においては、前記認定のとおり、旧岡三証券とOIS間において、昭和55年7月1日に締結された本件委託業務基本契約にも、著作権の利用許諾要素は全く含まれていないが、それは上記の理由によりいわば当然であり、また、証拠(甲61、62、70ないし73)によれば、そのような場合でも、委託者が、受託者に対し、システム開発料として多額の支出をすることは、一般的にあり得ることと認められるから、単に開発したソフトウェアが主に委託者の業務に使用されるものであるとの理由で、委託者がその開発料を支払っていれば、直ちにその開発料に対応して改変された著作物の著作権が委託者に移転されるということにはならないことは明らかである。著作権はあくまで著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから、例えば、日本ユニシスとOISとの間の平成15年10月1日付「アウトソーシング・サービス委託契約書」(乙61)において、その第9条2項に、日本ユニシスが保有するプログラムをOISが改良した場合の改良後のプログラムの著作権法27条及び28条の権利を含む著作権が日本ユニシスに帰属する旨が合意されているように、その譲渡にはその旨の意思表示を要することは、他の財産権と異なるものではない。
 したがって、本件においても、上記のような明示の特約があるか、又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り、旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても、そのことをもって、直ちに、その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が、その都度、委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである。
 そして、本件全証拠を精査しても、一度原始的にOISに帰属した本件ソフトウェアの著作権が、旧岡三証券がその開発費用を支出した都度、本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示的に譲渡されていたことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 かえって、前記認定のOISの存置目的と本件旧ソフトウェアの売買契約の経緯、本件委託業務基本契約及び委託業務確認書の締結、昭和55年7月以降の本件ソフトウェアの管理・運用形態及び開発過程、旧岡三証券のOISに対する事務委託料の支払いの方法及びその額、本件ソフトウェアを利用していた委託元証券各社の存在、本件譲渡契約及び本件転売契約に至る交渉の経緯に照らせば、本件ソフトウェアについて、旧岡三証券とOISとの間において、旧岡三証券が開発費用を支出する度に、その部分のソフトウェアの著作権がOISから旧岡三証券に譲渡されるとの黙示の合意は存在しなかったと認めざるを得ない。
 仮に、被控訴人が主張するように、本件ソフトウェアの著作権が、OISから旧岡三証券に著作者人格権を除く著作権を移転させる旨の黙示の合意に基づき、開発若しくは改良の都度、旧岡三証券に移転していたとすると、本件旧ソフトウェアの著作権はOISに残ったままで、それを改良若しくは開発した部分の著作権のみが少しずつ移転していたことになる。
 しかしながら、旧岡三証券とOISとの間に、そのように著作権の帰属を分断させてまで、改良した部分のみの著作権を改善若しくは開発の都度、少しずつ控訴人に帰属させるという認識があったことを示す証拠は存在せず、また、コンピュータープログラムの著作物にあって、そのような著作権の分属状態は決して正常なものとはいえず、開発委託者と受託者との間でそのような著作権の分属に関する明示の契約があるのであれば格別(その場合でも分属範囲が明示される必要がある。)、明示の契約がない状態で、当事者間にそのような著作権の分属状態を容認する意思があったと推認することはできない。
(2) この点について、被控訴人は、本件旧ソフトウェアは、昭和55年7月1日以前に開発されたものであり、その後、平成15年10月1日に本件転売契約が締結されるまでの24年間もの長期間、度重なるシステムの改善・開発が行われた結果、本件転売契約に基づき日本ユニシスに譲渡された本件ソフトウェアは、本件旧ソフトウェアの原形を残さず、本件旧ソフトウェアとは全く別個の著作物に変わったと認めるのが自然であるから、本件ソフトウェアは、本件旧ソフトウェアを原著作物とする二次的著作物ではないなどと主張する。しかしながら、本件ソフトウェアは本件旧ソフトウェアと同じ証券総合オンラインシステムのプログラムの著作物であり、本件旧ソフトウェアに長い年月を掛けて、その時代のニーズに応じて徐々に改良されていったものであるから、本件旧ソフトウェアに依拠し表現上の本質的な特徴を維持しつつ改良されたものにすぎないことが容易に推認されるところである。また、被控訴人は、本件旧ソフトウェアの本数がわずか783本であったのに対して、平成15年10月1日時点での本件ソフトウェアの本数が1万2471本であることからも別個の著作物であることが裏付けられるとも主張するが、被控訴人の主張の前提は、あくまで、本件旧ソフトウェアを改良する都度、その改良した部分のみが徐々に黙示の合意に基づき譲渡されたというものであるから、昭和55年7月当時の本件旧ソフトウェアの構成と平成15年10月当時の本件ソフトウェアの構成とを単純に比較することは許されない。被控訴人の主張を前提としても、少なくとも、当初の改良の時点では、改良部分が少ないのであるから、本件ソフトウェアは本件旧ソフトウェアを翻案したものにすぎず二次的著作物であったはずである。しかも、被控訴人の主張は、本件ソフトウェアが昭和61年10月の業務委託料の改定により導入されたSEサービス料の支払いがソフトウェアの開発費用であって、それによって形成されたものであるという事実を前提とするものであるが、本件ソフトウェアは、OISが昭和55年7月に本件旧ソフトウェアを譲り受けた後に日常的にその改良や追加を行った結果として形成されたのであるから、被控訴人の主張を前提とすると、本件旧ソフトウェアばかりでなく、少なくとも、昭和55年以降昭和61年までに改良された部分についても、旧岡三証券に帰属する根拠を欠くことになる。さらにいえば、証拠(甲7)によれば、本件ソフトウェアには、甲7の別表1「本ソフトウェア一覧表」の「No 63 三晃証券における友好証券との母店間の約定について、TC」、「N0 65 三晃証券のTSCから受信したデータ(管理番号300万番」、「No 66 三晃証券TSC約定エラーデータチェックリスト作成」などのように、OISが委託元証券各社から受託したデータ処理業務を遂行する過程で委託元証券各社からの機能追加要請を受けて作成し、委託元証券会社がその費用を支出したソフトウェアも含まれていることが認められるのであって、昭和61年以降に改良された部分のすべてが旧岡三証券の支出によるものではない。
 そうすると、一体いつの時点で本件ソフトウェアのどの部分の著作権が旧岡三証券に帰属することとなり、その結果、本件旧ソフトウェアの二次的著作物でなくなり、原著作物の権利が及ばない別個の著作物になったのか、その特定は極めて困難であり、本件ではそれを特定するに足りる証拠も存しない。このように客観的にみても特定が極めて困難な著作権の分属関係について、当事者がそれを認識しつつ黙示の譲渡を続けてきたと推認することはできない。以上のとおり、この点に関する被控訴人の主張は失当である。
(3) また、被控訴人は、本件ソフトウェアの黙示の譲渡があった時点において、OISは原著作者としての権利を放棄していたと解することもできるとも主張するが、単に開発費用を委託者が負担したからといって、直ちに委託者に著作権が譲渡されるものでないことは前述のとおりであり、また、明示の譲渡契約が存在しない本件において、開発費用を支出した都度、その部分についての著作権が黙示に譲渡されるばかりでなく、高額な代金で取得した原著作物に基づく権利まで黙示に放棄しなければならない合理的理由は存しないというべきであるから、この点に関する被控訴人の主張も失当である。
(4) さらに、被控訴人の主張は、旧岡三証券、OIS及び日本ユニシスとの間で、本件ソフトウェアの著作権は真実は旧岡三証券に存していたものを、三社が通謀して、OISにその著作権があることにし、OISから旧岡三証券に著作権を譲渡し、それを日本ユニシスに譲渡するという虚偽の外形を作出したものであることを前提とするものであるが、本件全証拠を精査しても、上記3社が通謀して虚偽の外形を作出したことを認めるに足りる証拠も存しない。前記認定のとおり、本件転売契約の当初の形態は、日本ユニシスがOISの保有する営業権を35億円で譲り受けるというものであったのであるから、それが著作権であるか単なる営業権であるかはともかくとして、日本ユニシスは、OISの保有するソフトウェア資産につき35億円の価値があると評価していたものであることは明らかである。ところが、もし本件譲渡契約の形態が虚偽の外形であったとすると、この35億円の価値を有する営業権は何ら旧岡三証券には譲渡されていないにもかかわらず、日本ユニシスは旧岡三証券が有しているというソフトウェアの著作権を30億円と評価し、その譲渡を受けたにすぎないから、当初35億円と評価したOISの保有する営業権は未だOISに残ったままということになってしまうのであって、それ自体が本件譲渡契約及び本件転売契約の内容並びに当事者の意思とは全く矛盾した結果となり、上記認定の本件譲渡契約の経過からしても、被控訴人の主張は全く説明が付かない事態を招くといわざるを得ない。以上のとおり、被控訴人の主張は、失当である。
3 その他の被控訴人の主張について
 上記2で判断したとおり、本件ソフトウェアの著作権が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に譲渡されたものとは認められないから、被控訴人の主張はそもそもその前提を欠き失当であるが、念のため、その他の被控訴人の主張を検討する。
(1) 本件ソフトウェアの著作権の帰属の必要性について
ア 被控訴人は、本件ソフトウェアは、旧岡三証券の証券業務の根幹をなすものであったとし、そうすると、旧岡三証券の意図しないところで、OISが独自に本件ソフトウェアの改良・譲渡等を行った場合、旧岡三証券の証券業務に重大な悪影響を及ぼすこととなるから、これを避けるべく、旧岡三証券が著作権を保有する必要があったなどと主張する。しかしながら、そもそも、旧岡三証券としては、旧岡三証券とOISとの間のデータ処理の本件委託業務基本契約によって、受託者であるOISにおいて委託されたデータ処理業務が適時適正に処理されれば委託の目的を達成するはずであって、著作権を保有している必要性はないというべきである。
 仮に、被控訴人の主張のとおりだとするならば、そもそも旧岡三証券は、昭和55年7月1日の時点においても、本件旧ソフトウェアの著作権をOISに譲渡することなどできないはずであるし、本件転売契約において控訴人から日本ユニシスに対して本件ソフトウェアの著作権を譲渡しないはずであるから、この点に関する被控訴人の主張は、失当である。
イ また、被控訴人は、本件ソフトウェアは、旧岡三証券の証券業務に用いることのみに特化しており、市場で販売することにより利益を生むものではなかったのであるから、OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性は乏しいものであったと主張するが、前記認定のとおり、OISは、旧岡三証券のみならず、委託元証券各社からもデータ処理業務の委託を受けており、このうち、少なくとも丸福証券、三晃証券及び光証券の3社は、直接OISと業務委託契約を締結してデータ処理業務を委託し、その事務委託料を直接支払っているのであるから、本件ソフトウェアは他の証券会社の業務にも用いることのできる汎用性のあるものと認められ、本件ソフトウェアが旧岡三証券の証券業務に用いることのみに特化していると認めることはできない。そして、前記認定のとおり、旧岡三証券又は委託元証券各社は、OISに対し、本件ソフトウェアを用いたデータ処理業務の対価として、多額の事務委託料を支払っていたのであって、それらの事務委託料がOISの収益の根幹となっていたものであり、本件ソフトウェアはOISが企業として存続する上で重要な資産であったと認められるから、OISが本件ソフトウェアの著作権を保有する必要性があったことは明らかである。
(2) OISの存置目的について
 この点について、被控訴人は、OISは、事実上、旧岡三証券のIT部門ともいうべき法人にほかならず、旧岡三証券の経営陣がOISの経営方針を含めたグループ全体の戦略的な経営判断を行っていたものと認められ、資金的にも旧岡三証券からの支援がなければ事業を行うことができない状態にあったのであるから、OISが旧岡三証券から独立したソフトウェア・ハウスとしての発展をねらっていたとは到底いえない実情にあったと主張するが、旧岡三証券が、昭和55年7月に、OISに対し、ソフトウェアに関する一切の権利を譲渡し、それと同時に本件委託業務基本契約を締結し、OISはこれに基づきデータ処理業務を行ってきたことは争いのない事実であるから、少なくとも、この時点において、旧岡三証券がソフトウェアに関する権利をすべてOISに集中させることを意図していたことは明らかであるし、ソフトウェア・ハウスとしての発展については、旧岡三証券自身が平成4年12月に作成した「岡三コンピュータリゼーション30年」と題する書面(甲2)にも明記しているのであるから、その後、OISの資産状況が悪化したとしても、それをもって、OISが独立したソフトウェア・ハウスとしての発展をねらっていたことを否定することはできないというべきであり、この点に関する被控訴人の主張は失当である。
(3) 本件ソフトウェアの資産計上について
ア 証拠(甲4ないし6、63、64、67、乙39)によれば、旧岡三証券は、OISへ支出していた事務委託費については、当初、SEサービス料等の支出を含めて支払った年度における損金として処理し、全く資産計上を行っていなかったが、昭和62年9月期を対象とした昭和63年の税務調査に基づき、平成元年6月30日付で課税庁から、OISへ支出した事務委託費中のSEサービス料のうち、システム開発・研究に要したと考えられる部分の費用については当期中の損金とせず、繰延資産に計上するよう求められたため、旧岡三証券としては、同更正通知に従って、それ以降、事務委託費中のSEサービス料として支出した費用のうちシステム開発に要した部分について、会計処理上は「長期前払費用」(税法上は「繰延資産」)として計上し、その後、平成12年3月期からは、勘定科目を無形固定資産の「ソフトウェア」に変更したことが認められる。旧岡三証券が本件ソフトウェアを無形固定資産に計上した経緯が上記のとおりである以上、本件ソフトウェアを無形固定資産に計上したことを、旧岡三証券が本件ソフトウェアの著作権が自社にあるとの認識を有していた理由とすることはできないというべきである。
イ また、OISが本件ソフトウェアを資産計上しなかった点については、平成12年度の税制改正以前においては、自社開発のソフトウェアについて、その費用を資産計上するという明確な取決めが存在しなかったのであるから、OISがこれを資産として計上しなかったとしても、本件ソフトウェアが自己の資産ではないと認めたことにはならない。ソフトウェアを資産として計上することを定めた平成12年の税制改正以降、OISが本件ソフトウェアを資産計上しなかった点についてはいささか疑問が残るが、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(甲65)によれば、自社利用のソフトウェアの資産計上の検討に際しては、そのソフトウェアの利用により、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、費用処理する旨記載されているのであるから、OISがその経営判断に基づき、本件ソフトウェアを資産計上しなかったとしても、直ちに不当な処理であったはいえず、少なくとも、資産計上しなかったことが、OISが本件ソフトウェアを自社の資産と認識していなかった根拠になるものではないというべきである。
(4) 旧岡三証券が負担した本件ソフトウェアの開発費用の額について
 被控訴人は、旧岡三証券が、OISに対し、SEサービス料として合計32億8000万円もの開発費用を支出したことをとらえて、これが本件ソフトウェアを取得するために日本ユニシスが支払った35億円に匹敵する金額であることを黙示の譲渡合意の根拠とする。
 しかしながら、前記認定のとおり、そもそもSEサービス料は、開発費用のみではないばかりか、旧岡三証券は、OISとの間で本件委託業務基本契約を締結し、この契約に基づいて、オンライン業務におけるデータ入力件数だけでも1日当たり平均で14万8000件という頻度で、データ処理業務を委託し、これらの費用は、本件委託業務基本契約に基づく委託業務料として支払われたものであって、著作権譲渡の対価として支出されたものでないことは明らかである。そして、前記認定の旧岡三証券の本件ソフトウェアの使用頻度及び委託元証券各社がOISに支払った事務委託料の額を考慮するならば、その金額が事務委託料としては異常に高額であるということもできない。被控訴人の上記主張は、ソフトウェアの開発費用を出捐した者は、ソフトウェアの創作行為をしていなくても、当然に著作権を保有するべきであるという著作権法に対する不適切な理解を前提とするものであって、失当である。
 また、被控訴人は、旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費用を支出したことに加えて、本件においては、旧岡三証券がOISに本件ソフトウェアの改良等の指示を行い、OISが当該指示に基づいて本件ソフトウェアの改良等を行った事実をことさら強調するが、ソフトウェアの改良等の指示を誰が行ったかということとそのソフトウェアを創作した者が誰であるかは別問題であるから、旧岡三証券が本件ソフトウェアの具体的な改良指示をしていたことは、本件ソフトウェアの著作権の帰属を左右する事実ではない。
(5) 本件ソフトウェアの著作権の帰属に関する内部資料の記載について
ア 平成15年1月16日付け基本合意メモ案(乙9)の「岡三証券は証券総合オンラインシステムの運行に必要なソフトウェアの使用をユニシスに許諾する」との記載については、証拠(甲75、76、証人A)によれば、同メモは、AやBなどの実務担当者間で行われた議論をAがまとめ、それぞれ自社に持ち帰り社内の関係部署や役員に諮るための叩き台として作成されたものにすぎないと認められるから、同記載を控訴人、OIS及び日本ユニシスの認識であったとして重視するのは相当ではない。
イ 稟議汎用(乙10)の「岡三証券の所有する証券業務ソフトウェアを35億円で取得することに関し、ご承認賜りたきこと(方針稟議)」との記載及び合意書1(乙12)の「日本ユニシスによるアウトソーシングを円滑に行う為に、岡三証券は日本ユニシスに証券業務プログラムのソフト資産を譲渡するものとする。」との記載は、その時期からみて、日本ユニシスにとって本件ソフトウェアの譲渡契約の直接の相手方が旧岡三証券であることを記載したものにすぎず、旧岡三証券がOISから譲渡を受ける以前から著作権等を保有していたことを意味するものではないと解すべきである。
ウ 平成15年7月30日付けの「会議メモ(アウトソーシングプロジェクト)」と題する書面(乙13)には、譲渡対象のソフトウェアについて、旧岡三証券が著作権を有している旨の表示があるが、証拠(甲75、76、証人A)によれば、同書面は会議後に旧岡三証券担当者であったAが自分自身の思考の整理のための手控えとして作成したものであって、会議において議論された内容ではないものと認められる。確かに、Aは、この時点まで、本件ソフトウェアの著作権は旧岡三証券にあると認識していた可能性がある(甲76の8頁)。しかし、証拠(甲33、34)によれば、平成15年8月26日の時点で、その認識は修正され、本件ソフトウェアの著作権がOISに帰属することを前提としてメモが作成されているのであるから、「会議メモ」(乙14)に記載されている弁護士とAとのやり取りについても、特に矛盾があるとはいえない。そして、Aが著作権の帰属という法律的な専門知識を有していなかったとしても無理のないことであり、上記書面(乙13)の記載も実務担当者の無理解を示すにとどまり、同記載を重視することは相当ではない。
エ むしろ、当事者の認識、特に、OISの当時の認識としては、OISのDが旧岡三証券のEに対して、OISが将来目指すべき方向性を説明するための資料として、Fに作成させた平成15年1月17日付け「岡三情報システムの将来構想」(甲26)に、「T−V プログラム資産」(2頁)として、OISが、コボルプログラム15183本、アセンブラプログラム4218本の合計19401本のプログラムを保有していること、「8割くらいの本番稼働率としても、プログラム数で15000本、ステップ数で800万ステップのホストプログラム資産を保有する。」と明記されていることが重視されるべきであって、同記載に基づく限り、当時、OISは、開発されたホストプログラム資産をOIS固有の資産として位置付けていたことが明らかである。
 以上のとおり、本件譲渡契約及び本件転売契約の当時の実務担当者であったAやB等には、「ソフトウェア資産」、「ソフトウェアの営業権」及び「ソフトウェアの著作権」という概念について混乱あるいは無理解があったことが認められるが、いずれにしても、それら実務担当者が準備段階で作成したメモにすぎない基本合意メモ案(乙9)及び「会議メモ(アウトソーシングプロジェクト)」と題する書面(乙13)の各記載等を根拠として、旧岡三証券、OIS及び日本ユニシスには、本件ソフトウェアの著作権が旧岡三証券に存在していたという共通認識があったとか、上記3社がOISから旧岡三証券に本件ソフトウェアの著作権が譲渡されたという虚偽の外形を作出したなどと速断することはできないというべきである。
(6) 本件オープン系ソフトウェアの著作権の帰属について
 証拠(甲29、乙22)によれば、そもそも「ソフトウェア使用契約書」(乙22)においては、同別表1 の内容が控訴人のソフトウェア勘定の明細(甲38ないし40)と一致していること、一般作業についての費用支出が多数含まれていること、外部から購入した第三者を著作権者とするパッケージプログラム等も含まれていることが認められる。そうすると、同別表1 の記載はプログラムのような具体的なソフトウェアの著作物を記載したものではなく、旧岡三証券でソフトウェア勘定に資産計上された費用の支出項目にすぎないと認められるから、その著作権の帰属を問題とすること自体意味があるとはいえないが、仮に、それがオープン系ソフトウェアという別個の著作物であり、その著作権が控訴人に帰属していたとしても、同ソフトウェアの著作権の帰属問題と本件ソフトウェアの帰属問題はもともと別個の問題であるから、本件オープン系ソフトウェアの著作権の帰属は本件ソフトウェアがもともと旧岡三証券に帰属していたことの根拠となるものではないというべきである。
(7) OISの巨額の不動産の含み損による債務超過について
 本件ソフトウェアの譲渡取引と土地建物の流動化取引との関係において、被控訴人が指摘する含み損に関する検討を控訴人が行っていたことは、確かに、本件譲渡契約が内容虚偽のものとして作出されたものと認められるとした場合における目的・動機となり得るものであるが、そもそも本件ではその前提として、旧岡三証券とOISとの間で昭和55年7月以降に本件ソフトウェアを開発する都度その著作権を移転する黙示の譲渡合意があったとは認められないのであるから、被控訴人の主張は失当である。
4 以上のとおり、本件ソフトウェアの著作権が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に譲渡されたものとは認められないから、本件譲渡契約があえて作出された虚偽の外形であり、旧岡三証券がOISに支払った本件ソフトウェアの譲渡代金が「寄附金」に当たるとの被控訴人の主張は、理由がない。
 なお、付言するに、 本件ソフトウェアの著作権が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に譲渡されていたとは証拠上認められないとした上記認定は、被控訴人が、旧岡三証券からOISに対する本件旧ソフトウェア売買契約を実体のあるものと想定したことに多分に依存するものであり、被控訴人がこれと異なる想定をしていれば、当裁判所の認定も異なった結論になった可能性はあるが、これについて、当裁判所は、国が一貫して採用した訴訟上の方針に容喙することは不要、不適切と考えた仕儀である。
5 結論
 よって、本件控訴には理由があり、控訴人の請求(当審で請求に変更がある。)を棄却した原判決は失当であるから、これを取り消して、控訴人の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 東海林保
 裁判官 矢口俊哉


(別紙)課税処分の根拠に関する被控訴人の主張
1 本件更正処分について
(1) 課税連結所得金額 79億6832万8056円
ア 連結確定申告書における課税連結所得金額 49億4765万6093円
(ア) 控訴人の所得金額 19億5893万3588円
(イ) 新岡三証券の所得金額 71億5804万3579円
(ウ) OISの所得金額 △41億6932万1074円
イ 課税連結所得金額に加算すべき金額 30億2067万1963円
(ア) 寄附金の損金不算入額 29億4324万円
(イ) 交際費等の損金不算入額 7743万1963円
a 損金の額に算入されている交際費等の額 7726万6146円
b 交際費等に含まれる控除対象外消費税等の額 16万5817円
(2) 課税連結所得金額に対する法人税額 25億4986万4960円
(3) 法人税額から控除される所得税額 8728万2733円
(4) 納付すべき税額 24億6258万2200円
(5) 既に納付の確定した本税額 14億9596万7100円
(6) 差引納付すべき税額 9億6661万5100円
(7) 被控訴人が主張する控訴人の本件事業年度の法人税に係る課税連結所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ79億6832万8056円及び24億6258万2200円であるところ、本件更正処分における課税所得金額及び納付すべき税額は上記の各金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。
2 本件賦課決定処分について
(1) 前記1のとおり本件更正処分は適法であるところ、控訴人が新たに納付すべき法人税額9億6661万5100円について控訴人がその計算の基礎となった事実を計算の基礎としなかったことに国税通則法65条4項の正当な理由があるとは認められないから、本件の過少申告加算税の額は、控訴人が新たに納付すべき法人税額9億6661万円(国税通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に対し100分の10の割合(同法65条1項に規定する割合)を乗じて算出した金額9666万1000円である。
(2) 被控訴人が主張する過少申告加算税の額は9666万1000円であるところ、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額は上記の金額と同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。
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