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【事件名】ラーメン店「我聞」パブリシティ権事件B
【年月日】平成22年4月28日
 東京地裁 平成21年(ワ)第12902号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年2月24日)

判決
原告 株式会社365
被告 株式会社KNOS
被告 有限会社RPJ
被告 Y
被告ら訴訟代理人弁護士 笹山尚人
同 中川勝之


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、各自2303万8974円及びこれに対する平成19年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、俳優、タレントであるAに係る専属実演家契約上のマネジメント業務権を有すると主張する原告(芸能プロダクション会社)が、被告らが原告に無断でAの芸名や肖像等を使用してラーメン店(タレントショップ)を経営したことによってAに係るパブリシティ権を侵害されたとして、被告らに対し、共同不法行為による損害賠償請求として2303万8974円及びこれに対する不法行為の後である平成19年3月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、演劇、音楽のタレント養成及びマネージメント等を目的として平成18年12月5日に設立された株式会社(芸能プロダクション)である。(甲2)
イ 被告株式会社KNOS(以下「被告KNOS」という。)は、飲食店の経営や飲食店の経営に関するコンサルティング業務等を目的として平成17年3月2日に設立された株式会社である。(甲3の1)
ウ 被告有限会社RPJ(以下「被告RPJ」という。)は、飲食店の経営や飲食店の経営に関するコンサルティング業務等を目的として平成16年8月20日に設立された有限会社である。(甲3の2)
エ 被告Yは、被告KNOS及び被告RPJの代表者である。
 また、被告Yは、飲食店の経営及び飲食店に対する経営コンサルティング業務等を目的とする有限会社G. O. K(以下「G. O. K」という。)の代表者も務めている。(甲19)
(2) 株式会社アップ・デイト(以下「アップ・デイト」という。なお、その代表者は、原告代表者と同一である。)は、平成5年8月28日、俳優、タレントであるAとの間で、次の内容(抜粋)の専属実演家契約(以下「本件専属実演家契約」という。)を締結した。(甲1の1の1)
 第1条(契約の目的)
  アップ・デイト及びAは、互いに対等独立の当事者として、相互の協力と業務の提携により、Aの実演家としての才能、資質及び技能の向上並びに業績、名声の増大を図り、ひいてはアップ・デイトの業績の増大を実現し、もって相互の利益の増進と発展に寄与するものとします。
 第2条(専属的出演)
  Aは、本契約期間中、アップ・デイトの専属実演家として、専らアップ・デイトのためにのみ第4条に定める業務を行うものとします。
第3条(独占的許諾)
 (1) Aは、第4条によりAが行う歌唱、演奏、演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音、録画、放送、有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については、アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また、アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。
 (2) アップ・デイト及びAは、Aの氏名(芸名、通称等を含む。)、写真、肖像、筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし、その処分や使用については、すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。
 第4条(Aの業務)
  Aは、第1条の目的を達するため、本契約期間中、下記の各号に定める業務をアップ・デイトの指示に従って行うものとします。
 記
 @ アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画、制作あるいは販売する「CD、MD、ミュージック・テープ、レコード」等への実演
 A アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画、制作あるいは主催する「コンサート、イベント、催事、舞台」等への出演
 B アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画、制作する「テレビ、ラジオ、衛星放送、有線放送、CATV」等放送への出演
 C アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画、制作する「映画、ビデオ、レーザー・ディスク」等への出演
 D アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画、制作する「コマーシャル」への出演(Aの音声等の使用のみを目的とした出演、契約を含む。)
 E アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画編集する新聞、雑誌、書籍等出版物への掲載を目的とした「取材・撮影、会見」等への出演
 F アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う「作詞・作曲、編曲、プロデュース」等の業務
 G アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う執筆等の業務
 H アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が制作、販売するAの実演あるいはAの氏名(芸名、通称等を含む。)、写真、肖像、ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務
 I その他前各号の業務に付随する一切の業務
 第5条(アップ・デイトの業務)
  アップ・デイトは、第1条の目的を達するため、本契約期間中、以下の業務をアップ・デイトの判断するところに従って行うものとします。
 (1) Aに対し、前条各号の業務を提供するとともに、それらの業務の企画制作、企画調整、スケジュール調整、交渉、営業、プロモーション、出演契約管理等及びその他一切のマネジメント業務を行うこと
 (2) 前条各号の業務を目的とした契約を第三者との間で締結するとともに、その対価を請求し、これを受領すること
 第6条(権利の帰属)
  本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物、商品その他のものに関する著作権、商標権、意匠権、パブリシティ権、所有権その他一切の権利は、本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き、すべてアップ・デイトに帰属するものとします。
 第7条(対価の帰属)
  第3条に基づく許諾、処分及び使用並びに第4条と第5条に基づく出演、契約等により第三者から受領すべき対価(出演料、契約料、使用料、印税その他一切の対価)は、すべてアップ・デイトに帰属するものとします。
 第8条(Aの肖像等の宣伝利用)
  アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者は、Aのプロモーションのために、Aの氏名(芸名、通称、愛称、親称等を含む。)、肖像、写真、ロゴ、筆跡及び経歴等を自由に、かつ、無償で利用することができ、Aは、これら業務に積極的に協力するものとします。
 第10条(契約の期間)
 (1) 本契約の有効期間は、平成5年9月1日から平成7年8月31日までの満2か年間とします。
 (2) アップ・デイト又はAが、前項の期間の満了する3か月前までに契約を更新しない旨の書面による通知をしないときは、本契約は自動的に期間満了の翌日から前項の期間と同一期間更新されるものとします。
(3) 本件専属実演家契約は、その後、更新されていたが、アップ・デイトは、平成15年3月1日以降、同契約に基づくAのマネジメント業務に係るすべての権利(判決注:同契約上の地位をいうものと解される。)を有限会社エターナル・ヨーク(以下「エターナル・ヨーク」という。なお、エターナル・ヨークの代表者は、原告代表者の当時の妻である。)に譲渡した。(甲1の1の3の同意書のうち、アップ・デイト及びエターナル・ヨーク作成部分。なお、この同意書のうち、A作成部分については、成立に争いがある。)
(4) エターナル・ヨークは、平成18年12月18日、Aの実演家活動全般に関するマネジメント業務権(本件専属実演家契約によりアップ・デイトが取得した契約上の地位で、上記(3)のとおり、エターナル・ヨークがアップ・デイトから譲渡を受けたもの)のすべてを原告に移譲した。(甲15。なお、この移譲について、A名義の同意書〈甲1の1の4〉が原告に差し入れられているが、その成立に争いがある。)
 また、アップ・デイト、エターナル・ヨーク及び原告は、平成21年7月13日、アップ・デイト及びエターナル・ヨークがAとの専属実演家契約期間中に取得した、Aに係るパブリシティ権を含む独占的権利等を侵害されたことに基づく一切の債権(未確定のものを含む。)について、原告がこれを譲り受けることを合意した。(甲26)
(5) 平成17年4月ころ、東京都立川市の商業施設内にAの名を付したラーメン店「我聞」(立川店)がオープンし、その後、高松市(高松店)、兵庫県明石市(明石店)、千葉市(長沼店)、千葉県四街道市(四街道店)、東京都豊島区(パウ北池袋店)、名古屋市(名古屋店)においても、同名のラーメン店が開店した。(甲4の1、3〜6、甲9、40、乙1)
 上記各ラーメン店(合計7店舗)は、被告YがAとともにプロデュースしたもので(ただし、その経営主体については争いがある。)、その宣伝、広告にAの写真(肖像)等を使用するなどして営業していたが、いずれも平成19年3月25日までに閉店した。(乙1、弁論の全趣旨)
3 争点
(1) 被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否
(2) 被告らの故意、過失
(3) 原告の損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否)について
ア 原告
(ア) 本件専属実演家契約上、ラーメン店「我聞」のようなタレントショップを経営する場合には、エターナル・ヨーク又は原告と契約(あるいはAを加えた三者契約)を締結し、事業詳細、対価基準及び許諾期間を決定する必要があるにもかかわらず、被告らは、エターナル・ヨーク又は原告に対する事前の提案も事業説明も一切なく、エターナル・ヨーク又は原告に無許可で、平成17年4月から平成19年3月25日まで、Aの芸名、肖像等を最大限に利用したラーメン店「我聞」を全国的に経営展開した。
 被告らの上記行為は、エターナル・ヨーク又は原告が本件専属実演家契約上有するAに係るパブリシティ権(同契約6条)を侵害するものである。
(イ) 後記の被告らの主張は、いずれも否認ないし争う。
 本件専属実演家契約について、アップ・デイトからエターナル・ヨークへの譲渡に対するAの同意書(甲1の1の3のA作成部分)は、Aが自署したものであり、また、エターナル・ヨークから原告への譲渡に対するAの同意書(甲1の1の4)は、Aがその妻に代署させたもので、いずれも真正に成立している。
 また、エターナル・ヨークは、被告らに対し、ラーメン店にAの氏名、肖像等を使用することを許諾していない。エターナル・ヨーク作成の平成16年12月1日付けの承諾書(甲6)は、Aが個人的に裏方のプロデューサーとして何らかの企画を行うこと(例えば、ラーメン商品単体にAの氏名、肖像を一部使用する程度のこと)を前提としたもので、ラーメン店「我聞」のようにAのパブリシティ権を前面に押し出したような事業の展開は想定していない。なお、肖像等使用許諾書(甲8の1)は、被告KNOS及びAに対し、一部条件を付し、期間を限定した上で、Aの氏名、肖像の使用を許諾したものであるが、被告らがこの条件に著しく違反する態様でAの氏名、肖像を使用したため、エターナル・ヨークの地位を承継した原告は、被告KNOSに対し、その許諾を白紙解消する旨の意思表示をしている(甲8の2)。
イ 被告ら
(ア) ラーメン店「我聞」の経営主体は、立川店がG.O.Kであり、その余の店舗はいずれも被告KNOSである。
 被告RPJは派遣会社であり、ラーメン店「我聞」の経営主体ではない。また、被告Yは、G.O.K及び被告KNOSの代表者であるが、個人としてラーメン店「我聞」の経営をしているものではなく、何ら加害行為をしていない。
(イ) 本件においては、以下の理由から、Aに係るパブリシティ権の侵害は認められない。
a パブリシティ権について規定する法令はなく、このような権利が存在するとすれば、その権利内容等が契約上明確に規定されていなければならないにもかかわらず、本件専属実演家契約上、その権利の内容や帰属等が不明確であるから、不法行為の被侵害利益とはなり得ない。
 そもそもパブリシティ権は、芸能人が修練や労苦を積み重ねた結果勝ち得るものであり、当該芸能人が独占的に享受する権利ないし地位を有しているから、本件においてパブリシティ権侵害を主張し得るのは、Aのみである。しかるところ、原告が本件においてパブリシティ権の侵害として問題としているのは、A本人が自ら名前を出して参加した行為であり、Aが独占的に享受し得るパブリシティ権の侵害が成立しないことは明らかである。
b 本件専属実演家契約は、アップ・デイトとAとの間で締結されたものであるところ、同契約に基づくAに係るパブリシティ権は、原告に適法に譲渡されていない。すなわち、本件専属実演家契約について、アップ・デイトからエターナル・ヨークへの譲渡、エターナル・ヨークから原告への譲渡に対するAの同意書(甲1の1の3のA作成部分、甲1の1の4)は、いずれもA本人の自署、印章によるものではなく、真正に成立したものではないから、Aの同意があるとはいえない。また、アップ・デイト、エターナル・ヨーク及び原告が作成した上記2(4)の合意書(甲26)による債権譲渡は、本訴提起後に作成されたもので、訴訟行為をさせることを主たる目的とするものであるから、信託法10条の規定にかんがみ、公序良俗に反するものとして無効である(民法90条)。
c 被告らがラーメン店「我聞」にAの氏名、肖像等を使用することについて、エターナル・ヨークは平成16年12月1日付けの承諾書(甲6)により事前に許諾し、又は、その許諾権を付与されたAが被告らに許諾している。
 また、エターナル・ヨークは、被告らに対し、平成18年5月25日付けの「肖像等使用許諾書」(甲8の1)により、ラーメン店「我聞」にAの氏名、肖像等を使用することについて追認している。
 上記許諾及び追認の効果は、エターナル・ヨークから本件専属実演家契約上のマネジメント業務権の移転を受けている原告にも及んでいる。
(2) 争点(2)(被告らの故意、過失)について
ア 原告
 被告らは、原告又はエターナル・ヨークがAに係るパブリシティ権を有していることを知りながら、Aを唆してプロデューサーに祭り上げ、原告に介入させないようにして、計画的にラーメン店「我聞」の経営を行ったものである。
イ 被告ら
 Aは、ラーメン店の出店について平成16年に被告Yと話し合いをした際、被告Yに対し、「(Aの氏名、肖像の使用については)全部僕(A)に任されている。」、「大丈夫」などと説明していた。
 これに加え、Aの氏名、肖像の使用について、エターナル・ヨーク名義の承諾書(甲6)及び肖像等使用許諾書(甲8の1)が作成されていたことも考慮すれば、仮に被告らによるパブリシティ権侵害行為が存在したとしても、被告らに故意はもちろん過失もなかったことは明らかである。
(3) 争点(3)(原告の損害)について
ア 原告
(ア) ラーメン店「我聞」(合計7店舗)の売上げは次のとおりであり、その合計は3億8398万2914円である。
a パウ北池袋店の売上
(a) 平成17年9月から平成18年8月まで 3448万7861円
(b) 平成18年9月から平成19年3月まで 2011万7919円
b 立川店の売上
(a) 平成17年4月から平成17年7月まで 2000万0000円
(b) 平成17年8月から平成18年3月まで 7651万0104円
(c) 平成18年4月から平成19年3月まで 8828万0892円
c パウ北池袋店、立川店以外の5店舗の売上
(a) 平成17年4月から平成17年8月まで 1248万7861円
(b) 平成17年9月から平成18年8月まで 9550万4729円
(c) 平成18年9月から平成19年3月まで 3659万3548円
(イ) ラーメン店は、高級レストランのように内装費や多額の食材費ロスを要するものではなく、飲食業の中でも利益効率が最も高い(損益分岐点が低い)業種であることから、原告が被告らから受け取るべきロイヤリティの額は、上記(ア)の売上げの6%(2303万8974円)とするのが相当である。
(ウ) よって、原告は、被告らに対し、共同不法行為(民法719条1項)による損害(上記ロイヤリティ相当額)賠償請求として、2303万8974円及びこれに対する不法行為の後である平成19年3月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告ら
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否)について
(1) パブリシティ権について
 人は、その氏名、肖像等を自己の意思に反してみだりに使用されない人格的権利を有しており(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)、自己の氏名、肖像等を無断で商業目的の広告等に使用されないことについて、法的に保護されるべき人格的利益を排他的に有しているということができる。そして、芸能人やスポーツ選手等の著名人については、その氏名・肖像を、商品の広告に使用し、商品に付し、更に肖像自体を商品化するなどした場合には、著名人が社会的に著名な存在であって、また、あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから、当該商品の売上げに結び付くなど、経済的利益・価値を生み出すことになるところ、このような経済的利益・価値もまた、人格権に由来する権利として、当該著名人が排他的に支配する権利(いわゆるパブリシティ権。以下「パブリシティ権」という。)であると解される。
(2) 原告の地位について
ア 本件専属実演家契約(甲1の1の1)は、「第3条(独占的許諾)」として「(1) Aは、第4条によりAが行う歌唱、演奏、演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音、録画、放送、有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については、アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また、アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。(2) アップ・デイト及びAは、Aの氏名(芸名、通称等を含む。)、写真、肖像、筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし、その処分や使用については、すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。」と規定しているが、上記(1)項の趣旨は、Aが実演家として行う実演に係る権利について、アップ・デイトに独占的に許諾したものであると解される。そうすると、続く(2)項において、氏名、写真、肖像等の「処分や使用については、すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行う」とあるのは、(1)項の実演に関係する氏名、写真、肖像等の「処分や使用」について定めたものと解するのが相当である。また、「第6条(権利の帰属)」として、「本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物、商品その他のものに関する著作権、商標権、意匠権、パブリシティ権、所有権その他一切の権利は、本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き、すべてアップ・デイトに帰属するものとします。」と規定しているが、上記「前2条」のうち「第4条(Aの業務)」としては、実演(@〜D)のほか、「『取材・撮影、会見』等への出演」(E)、「『作詞・作曲、編曲、プロデュース』等の業務」(F)、「執筆等の業務」(G)、「Aの実演…氏名…、写真、肖像、ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務」(H)及び「その他前各号の業務(判決注:上記@〜Hの業務を指すものと解される。)に付随する一切の業務」(I)が規定され、「第5条(アップ・デイトの業務)」として、マネジメント業務等が規定されている。
 したがって、本件専属実演家契約の上記規定内容からすれば、Aがアップ・デイトに独占的に許諾した対象は、Aの実演に係る権利に関係するものであり、第6条によりアップ・デイトに帰属することとされる権利も、上記実演(@〜D)及び実演家であるAの活動に関係する上記E〜Iの業務に関するものをいう趣旨と解するのが相当というべきであり、実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ぶものと解することはできない。
イ 証拠(甲1の1の3、4、甲15。なお、甲1の1の3のA作成部分及び甲1の1の4については、甲44及び弁論の全趣旨により、いずれも真正に成立したものと認められる。)によれば、アップ・デイトは、平成15年3月1日以降、本件専属実演家契約に基づくAのマネジメント業務に係る契約上の地位をエターナル・ヨークに譲渡し、エターナル・ヨークは、平成18年12月18日、Aの実演家活動全般に関するマネジメント業務権(本件専属実演家契約によりアップ・デイトが取得した上記契約上の地位)を原告に移譲し、Aもこれに同意したことが認められる。
 しかしながら、上記経緯により原告が取得したのは、本件専属実演家契約上のアップ・デイトの地位であるから、その内容は、上記アに説示したものにとどまり、原告が、Aのパブリシティ権の帰属主体になったものということはできない。そして、原告の取得した地位が上記のものにとどまる以上、本件専属実演家契約は、実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまでは及ばないから、被告らがAの芸名や肖像等を使用してラーメン店を経営したことが、原告の上記契約上の地位ないし権利を侵害するものということはできない。
(3) Aの許諾について
 また、証拠(甲3の1、甲4の1、2、甲11、43、44、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件において、Aは、ラーメン店の経営に興味を持ったことから、ラーメン、餃子等を扱う飲食店を全国に展開させた経験を有する被告Yと共同してラーメン店「我聞」を立ち上げ、自らを「店長」と称し、被告KNOSの取締役(平成17年12月14日から平成19年4月4日までは代表取締役)にも就任するなど、同店の経営に自ら関与してきたものであり、同店の宣伝、広告のためにAの氏名、肖像等を利用することについては、A自身がこれを許諾していたことが認められる。
 ところで、原告は、上記(2)に説示したとおり、Aのパブリシティ権の主体ではなく、本件専属実演家契約上の地位を譲り受けたにすぎないから、仮に同契約の効力がラーメン店の経営に及ぶとしても、同契約の効力は第三者である被告らには及ばない。そうすると、被告らがAの許諾を得て、Aの芸名や肖像等を使用してラーメン店「我聞」を経営することは、自由競争の範囲内の行為というべきであるから、これが不法行為を構成するというためには、被告らの行為が自由競争の秩序を逸脱したような場合に限られるというべきである。
 しかるところ、本件全証拠によるも、被告らに自由競争の秩序を逸脱した行為があったものと認めることはできない。
 したがって、上記の点からも、被告らによるラーメン店「我聞」におけるAの氏名、肖像等の使用が、原告又はエターナル・ヨークに対する不法行為を構成するということはできない。
2 以上検討したところによれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 鈴木和典
 裁判官 坂本康博
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