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【事件名】FX取引ソフトの著作権侵害事件(2)
【年月日】平成22年4月27日
 知財高裁 平成21年(ネ)第10070号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成19年(ワ)第16747号)
 (口頭弁論終結日 平成22年3月11日)

判決
控訴人 X
訴訟代理人弁護士 田中健太郎
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
被控訴人 Y3


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、金2500万円及びこれに対する平成20年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 原審の経緯等
 控訴人(1審原告。以下「原告」という。)は、被控訴人ら(1審被告ら。以下、被控訴人Y1を「被告Y1」のようにいう。)に対し、被告Y2が原告作成のプログラム「おじゃるデブシステム」(以下「本件プログラム1」という。)及び「スイングおじゃる原告版」(以下「本件プログラム2」という。)を無断で改変したプログラム(以下「被告プログラム」という。)を作成したことにより、原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害し、被告Y1及び同Y3においては著作権侵害の事情を知りながら無断改変に係る被告プログラムを頒布し、又は頒布目的で所持したことにより原告の著作権を侵害し、著作権法113条1項2号に当たる行為をした旨主張し、民法709条、719条の不法行為損害賠償請求権に基づき、損害金1億7010万円の内金2500万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成20年1月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
 原判決は、(1)原告の被告Y1及び同Y3に対する請求については、被告プログラムが第三者に頒布された事実又は同被告らが被告プログラムを頒布目的で所持していた事実を認めることができないから、原告の被告Y1及び同Y3に対する著作権法113条2項に基づく請求は理由がない、(2)原告の被告Y2に対する請求については、@被告プログラムは、適切なパラメータ設定を探るという研究、分析の途上で被告Y2が作成したものであって、販売用のものではないと認められること、A原告が著作権を有する本件プログラム1及び2のうち、本件プログラム2は、原告作成の本件プログラム1に被告Y2が作成した「スイングおじゃるY2版」のプログラム(アイデア)を移植する形で作成されたものであり、原告作成の本件プログラム1及び2のソースコードを被告Y2に対して開示していたと考えられること、B被告Y2は被告Y1の指示の下で被告プログラムを作成したにすぎないこと、C被告プログラムは第三者に対して開示も頒布もされておらず、他方で第三者に対して頒布されたと認められる乙5のプログラム及び乙50のプログラムは、原告が著作権を有する本件プログラム1及び2とは異なるものであると認められることなどを総合すれば、被告Y2において、原告が著作権を有する本件プログラム1及び2を複製又は翻案したことがあったとしても、このような行為を理由として原告が被告Y2に対して著作権侵害を主張し、損害賠償請求をすることは権利濫用(民法1条3項)に当たり許されない、と判示し、原告の請求をいずれも棄却した。
 これに対して原告は、原判決を不服として本件控訴を提起した。
2 当事者間に争いがない事実、争点及びこれに関する当事者の主張
 次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に係る当事者の主張」(原判決2頁5行目から17頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 訂正
 原判決4頁11行目の「あると」を「あること」に訂正する。
(2) 当審における控訴人の主張
ア 以下の経緯によれば、被告プログラムは頒布されていたと認められる。
 被告らは、Kのパソコンには、甲14プログラムが存在しないと主張し、その証拠として、乙55、乙56のスクリーンショットを提出している。
 しかし、原告は、平成20年7月22日、Kに会い、Kが被告らから提供されたパソコンにおいて甲14プログラムを確認している(甲19、7頁、甲20、21頁)。すなわち、原告が、平成21年10月31日に、改めてKと面談したところ、Kは、被告らから提供されたパソコンは、平成20年7月22日に原告がデータの確認をした後に友人に譲渡しており、被告らには見せていない旨供述した(甲21)。つまり、被告らが提出した乙55、乙56は、Kが甲17のリース契約に基づいて被告らから提供されたパソコンのスクリーンショットではない。
 原告が提出したKの陳述書(甲18)は信用性が高く、甲14プログラムは、ヒカリ社がKに頒布したものである。
 また、甲14プログラムはKに対して頒布されたものであるから、それが研究途中の試作品であるということはできない。
イ 被告プログラムを作成した被告Y2の行為は、以下のとおり、違法性が強い。
 すなわち、原告は、平成19年5月18日に、被告Y1らから執拗に求められたため、ソースコードを開示した(甲19、2頁、甲20、20頁)。したがって、被告Y2が、被告プログラムを複製及び翻案した行為は、違法性が強い。
(3) 当審における被告Y1及び同Y2の認否
 控訴審において原告がした主張は否認する。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、@被告らが被告プログラムを頒布した事実、被告Y1及び同Y3が頒布目的で被告プログラムを所持していた事実、原告に損害が発生した事実について、いずれも認定することができない、Aしたがって、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり当審における原告の主張に対する判断、損害に係る判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1、2、3(1)及び(2)(原判決17頁3行目から23頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、略語は、すべて原判決と同様の表記とする。
1 原告の主張に対する判断
 原告は、本件プログラム1及び2を改変した甲14プログラムをヒカリ社がKに対して販売していることからすれば、甲14プログラムへバージョンアップする前の被告プログラムも販売目的で作成されたことが推認されると主張する。この点、当審において、原告が提出した甲21は、原告とKとが面談した内容を文書化した書面であるが、その書面で、あたかも、Kが被告らにパソコンを見せたことはない旨発言したかのような内容が記載されている。しかし、乙55ないし57によれば、Kは、「Kが購入したパソコンからスクリーンショットを撮影、印刷し、署名捺印してY1に交付したものである」旨供述し、甲21の書面の内容を明確に否定していることに照らすならば、原告の前記主張は採用の限りでない。
2 損害に係る判断
 当裁判所は、本件においては、被告プログラムの作成により、原告に損害が生じたことを認めることができないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。@本件プログラム1及び2は、外国為替取引業者であるCapital Market Services,LLCが提供する外国為替証拠金取引のためのトレーディングソフトウェア「VT Trader」という「フリーソフト」上で動作するトレーディングストラテジーを自動実行させるためのプログラムであること、A原告は、自己の体調不良もあって本件プログラム1のバージョンアップに対応することができなかったこと、B原告は、共同で設立した株式会社おじゃるの役員の被告Y1らの求めに応じて、プログラマーである被告Y2に対し、原告に代わってバージョンアップする目的で本件プログラム1のソースコードを開示したこと、C本件プログラム2は、原告が、本件プログラム1に、被告Y2が作成したスィングおじゃるY2版(乙6)を取り入れることにより作成したものであること、D被告プログラムは、各トレードごとの成績を個別に検証し、適切なパラメータを設定することによって、より多くの利益を獲得できるプログラムにする目的で作成したものであって、販売目的で作成されたものではなかったことが認められる。これらの事情を総合考慮すると、被告プログラムが本件プログラム1及び2の複製物、翻案物であると評価されたとしても、原告に財産的又は非財産的損害が発生したものということは到底できない。よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告Y2に対する著作権侵害による損害賠償請求は理由がない。
3 結論
 以上によれば、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がなく、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 齊木教朗
 裁判官 大須賀滋は、転補につき、署名押印することができない。

裁判長裁判官 飯村敏明
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