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【事件名】鉄道DVD無断編集・販売事件
【年月日】平成22年4月21日
 東京地裁 平成20年(ワ)第36380号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年2月1日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 三戸岡耕二
同 吉岡俊治
被告 株式会社大創産業
同訴訟代理人弁護士 山田延廣
同 藤井裕
同 寺本佳代
補助参加人 株式会社オスカ
同訴訟代理人弁護士 桑野雄一郎


主文
1 被告は、原告に対し、金307万5328円及びこれに対する平成20年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その19を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙物件目録記載のDVDを頒布し、輸出し、又は頒布のために展示してはならない。
2 被告は、その保有する別紙物件目録記載のDVDを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金4950万円及びこれに対する平成20年12月30日から支払済みで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、世界各地のSLのビデオ映像を撮影した原告が、原告に無断で当該ビデオ映像を編集して作成されたDVD「SL世界の車窓」を被告が販売等したとして、被告に対し、@当該ビデオ映像についての著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由とする、著作権法112条に基づく当該DVDの頒布等の差止め及び廃棄、A当該ビデオ映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)の侵害を理由とする、主位的に民法709条、予備的に民法709条及び著作権法114条3項に基づく損害賠償金4950万円(財産的損害4000万円、精神的損害500万円及び弁護士費用450万円)並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年12月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者等
ア 原告は、主に鉄道紀行を中心として、紀行文や写真等を各種メディアに発表している紀行作家、写真家である(原告本人、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、いわゆる「百円均一ショップ」の最大手として、日本全国及び近隣諸外国に合計約3000店舗を出店して、物品を廉価に販売している流通業者である。
ウ(ア) 補助参加人(以下、被告と併せて「被告ら」ということがある。)は、テレビ用映画フィルムの配給等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(イ) Bは、補助参加人の前代表取締役であり、補助参加人のほか、映像制作を行うことを業とする会社である株式会社オスカ企画(以下「オスカ企画」という。)を経営している(証人B、弁論の全趣旨)。
(ウ) Cは、補助参加人の専属映像ディレクターである(証人C、弁論の全趣旨)。
(2) 原告の著作権
ア 原告は、世界各地を取材し、平成14年ころから世界の鉄道動画をデジタルビデオテープ(以下「DVテープ」という。)に記録していた(テープ本数15本、撮影時間は約25時間。以下、当該鉄道動画を「本件映像」といい、本件映像が記録されたDVテープを「本件DVテープ」という。)。
イ 原告は、本件映像について、その撮影者として、著作権及び著作者人格権を取得した。
(3) 被告による本件DVDの販売
ア 被告は、平成19年10月ころから、別紙物件目録記載のDVD(以下「本件DVD」という。)を税込み315円で販売した(販売開始時期につき、乙5、6、8)。
イ 本件DVDは、補助参加人が本件映像を利用して編集・作成したものである。ただし、本件DVDに収録された映像中、ハワイの映像部分は、本件映像を利用したものではない(原告本人、証人B、証人C)。
 そして、補助参加人は、株式会社博美堂(以下「博美堂」という。)に対し、前記のとおり本件映像を利用して編集・作成したDVDを複製の上販売・頒布することを許諾し、被告が、博美堂からこれを買い受けて、本件DVDとして販売したものである(乙1、2、証人B、証人C)。
ウ 本件DVDには、撮影者の氏名は、表示されていない(甲1)。
(4) 被告が、原告の著作権又は著作者人格権を侵害するとして、損害賠償請求を受けた場合には、被告は、博美堂に対し、その支払を請求することができ、博美堂は、補助参加人に対し、これを求償することができる(乙1、2、弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 原告から補助参加人に対する本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無
(2) 被告による本件DVDの販売の差止めの要否
(3) 被告の故意又は過失の有無
(4) 過失相殺
(5) 原告の損害の発生及びその額
第3 争点についての当事者の主張
1 争点(1)(本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無)について
(被告らの主張)
(1) 事実経過
ア Bは、知人である原告の父親から、SLフォトマニアであった原告の今後の身の振り方について相談を受けた。その際、Bは、原告が、映像撮影技術を習得することで、嗜好を活かしつつ職業として生計を立てることができるのではないかと考え、補助参加人が保有するDVCAMカメラ(以下「DVカメラ」という。)等を貸与して、撮影技術を指導してもよい旨提案した。
 原告は、この話に興味を持ち、補助参加人事務所を訪問し、Bと面談した結果、Bは、原告に対し、原告が海外旅行に行く際に、補助参加人の所有するDVカメラ、三脚、撮影前のDVテープ等の必要な機材一式を無償で貸与することとした。なお、原告は、本件DVテープの撮影のために海外に渡航するのではなく、原告が海外渡航する際に撮影機材一式を借り受けるということであったため、原告の渡航費等の費用は、基本的に原告が負担していたが、平成16年3月に中国に渡航した際の渡航費等の費用は、補助参加人が負担した(丙3ないし5)。
 このように、DVテープは、補助参加人がその経費で購入して保有していた物であって、これを無償で原告に譲渡する理由はなく、また、原告は、帰国後、これを補助参加人に返却していることから、補助参加人から原告に対し貸与されていたものであるといえる。そして、補助参加人が、原告に対し、本件映像をVHSテープにダビングして提供するという合意もない。
イ 原告は、平成16年3月から5月にかけて中国で撮影を行い、帰国後の同年5月28日、補助参加人に対し、撮影機材等のうち三脚を返却した。その際、B及びCは、原告に対し、本件映像を使った放送番組を制作する企画があることを伝え、その上で、本件映像の説明書(撮影されたSLの名称、撮影場所、地名等の説明。以下同じ。)を作成するよう要望したところ、原告は、これを了解するとともに、補助参加人に対し、本件映像をVHSテープにダビングしてほしいと依頼した。そこで、B及びCは、本件映像をVHSテープにダビングした上で、原告に送付した(丙6、7)。
 しかしながら、原告から説明書が提出されなかった(丙8参照)ため、Cは、平成17年3月から放送番組用の映像作品の制作に取りかかり、一定の編集方針に基づき、必要な映像を取捨選択し、配列し直し、ナレーションや音楽を挿入して放送番組としてまとめて、同年6月末に、30分番組「SL世界の車窓」1(中米グアテマラ、エルサルバドル編)(以下「本件作品1」という。)、同2(コロラド・アラスカとベトナム・中国編)(以下「本件作品2」という。)を制作した。
 そして、本件作品1及び2は、平成17年12月から同19年1月にかけて、地方テレビ局で放送された。
ウ その後、本件DVD作成の企画が浮上したことから、補助参加人において本件作品1及び2を一本のDVDに収録し、これを博美堂を通じて被告に販売したものである。
(2) 法的主張
ア 著作権について
(ア) 前記のとおり、本件映像は、DVテープ及び撮影機材につき、すべて補助参加人から貸与を受けて撮影されたものであるから、本件DVテープの所有権は補助参加人にあり、原告といえども、補助参加人の許可がなければ、これを利用できないものである。
 そして、補助参加人が映像制作を業としていることからすれば、将来、本件映像が何らかの形で映像作品に使用される可能性があることは当然の前提であり、仮に、そうでないとしても、そのことは、当初から合理的に予測された事態であって、放送番組の制作やそれに基づくDVDの作成も、当然その予測の範囲内の利用方法であるが、原告は、使途等について特に何も述べずにいた。
(イ) また、原告は、本件DVテープを返却する際に内容を確認したほかは、これをダビングすることを依頼するなどして内容を視聴・確認することなく、補助参加人が本件DVテープを保管することに同意していた。仮に、原告が主張するとおり、Bに対する信頼が揺らいだというのであれば、本件DVテープの引渡しを求めるのが当然であるにもかかわらず、原告がそれを求めたことはない。
 これらのことからすれば、原告において、本件DVテープに記録された本件映像について、著作者として権利行使をする意思があったとは認められない。
(ウ) 加えて、原告は、B及びCから放送番組を制作する企画の話を聞いても、これに異議を述べず、また、本件映像の説明書を作成するように言われても、これを拒絶しなかった(丙6、8)。
 さらに、補助参加人が編集した本件作品1及び2が地方テレビ局で放送された後も、原告はこれに異議を述べなかった。
(エ) 以上のことからすれば、原告は、本件映像の著作権を放棄し、又は補助参加人に譲渡することを黙示的に合意していたといえ、また、本件映像を編集して放送番組を制作することに異議を述べていないことからすれば、著作権法27条及び28条の権利も、併せて譲渡したといえる。仮に、譲渡の合意がないとしても、前記各事情からすれば、補助参加人による本件DVDの作成は、前記放送番組の制作とともに、原告の包括的な許諾の範囲内で行われたものであり、複製権を侵害するものではない。
イ 著作者人格権について
(ア) 公表権
 原告は、本件映像の著作権を譲渡している以上、本件映像を公衆に提供・提示することも同意したものと推定され(著作権法18条2項1号)、又は放送番組の制作を知りつつ異議を述べなかった以上、公表権について放棄若しくは同意があったことは明らかである。
(イ) 氏名表示権
 本件DVDの商品価値は、撮影されている映像の資料的価値ではなく、編集作業による側面が強いことからすれば、素材となった映像を撮影したにすぎない原告の氏名を表示しなくても、原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないか、又は公正な慣行に反せず、氏名表示権の侵害には当たらない(著作権法19条3項)。
(ウ) 同一性保持権
 原告は、本件DVテープが編集されることを知りつつ、これに異議を述べなかった以上、当該編集につき、原告の許諾があったと認められる。また、少なくとも、本件DVテープが膨大な量であることからすれば、これを編集することは、著作物の利用の目的及び態様に照らしてやむを得ない改変に該当する(著作権法20条2項4号)。
(3) 原告の主張について
ア Bが、原告からの通知書を受けて、本件DVテープを返却したことは認めるが、Bが著作権侵害の事実を認めたことはない。
 なお、前記のとおり、本件DVテープは、補助参加人がその経費で購入し、原告に提供した後返却を受けて、補助参加人において保管していたものであり、保管の主体は、B個人ではない。
イ 原告は、著作権に関する合意を書面で取り交わすべきであると主張するが、映像制作の現場においては、契約書によらない著作権処理は決して珍しくなく、むしろ、著作権の譲渡及び著作者人格権の放棄を伴う契約類型においては、契約書を交わす方が例外的である。
(被告の主張)
 本件DVDは、補助参加人が編集して新たな創作性を有するDVD商品として作成したものであり、補助参加人が編集著作物として著作権を有するものである。
 したがって、本件映像の著作権が補助参加人に帰属することにつき、補助参加人と原告との間で了解されていなかったとしても、本件DVDは、補助参加人が独立した著作権を有する。
(原告の主張)
(1) 被告による本件DVDの販売行為は、本件映像の著作者である原告の複製権、同一性保持権、公表権及び氏名表示権を侵害するものである。
(2) 著作権の譲渡又は使用許諾等の有無について
ア 事実経過について
 原告は、自己の父親の紹介でBと面談したところ、Bから、デジタルビデオでの録画方式を紹介され、補助参加人の機材を無料で使ってよいこと、DVテープは必要な分を持って行ってよく、撮影したDVテープは、自分の会社(補助参加人)で保管するので、原告が利用したいときに会社に来ればよいこと等を言われた。また、原告が録画した映像を必要とするときは、本件DVテープを返却するとのことであったことから、原告は、機材を借りて、取材に使用した。
 機材の貸出しに当たって、録画機材の使用方法の説明は受けたが、取材先や映像等の内容についてのアドバイスや指示はなく、原告が機材を独自かつ自由に取材に利用したものである。そして、Bが取材の飛行機代その他の費用を負担したことはなく、また、取材又は撮影に関する対価の授受もなかった。なお、平成16年3月、中国に取材に行くために補助参加人から機材を借り受ける際に、Bから旅費を出そうとの提案を受け、既に支払っていた領収書(丙3)を渡し、振込口座を記載したことはある。
 中国での取材から帰国して、平成16年5月24日に機材を返却した際、Bから撮影したテープの版権を譲渡しないかと言われたが、原告は、これを即座に断ったところ、それ以上の言及はされなかった。
 また、その数日後、補助参加人に三脚を返却しに行った際、B又はCから本件映像の商品化の提案を受けたことはない。
 そのしばらく後、酔ったBから電話があり、一方的に怒鳴られたことから、Bに対する信頼が揺らぎ、原告とBが直接連絡を取ることはなくなった。
 後日、Cから電話連絡があり、原告が撮影した本件DVテープについて、記憶が薄れていくから早めに説明書を作っておいた方がよいと言われ、同人から本件映像をダビングしたVHSテープが送られてきた。しかしながら、原告は、その必要性を感じなかったので、何も作成しなかった。Cに送った年賀状(丙8)の記載は、当該説明書の件について、Cの配慮に答えつつ、まだ作成していない旨を連絡したものである。仮に、本件映像の商品化の話を承諾していたのであれば、当該説明書の作成はビジネス上の責務であるから、半年以上も放置しておくことはない。また、放送番組制作の企画が告げられていたのであれば、その連絡は、会社の業務であるから、C個人ではなく、補助参加人の住所と名義ですべきものであるところ、C個人名義でされている。
 そして、テレビ放送についても、原告に対しては連絡もなく、原告は、その事実を全く知らなかった。
 したがって、原告が、補助参加人による本件映像の編集、改編、発表及び商品化について、承諾した事実はない。
イ 被告らの法的主張について
(ア) B及び補助参加人は、著作物を商品として放送局等と取引をしているのであるから、仮に、本件映像を商品化する旨の合意をしたのであれば、著作権に関する合意を書面で取り交わすべきものである。そして、そのことは、原告とBとの人的関係から容易であり、それを避ける事情もなかったにもかかわらず、そのような合意を裏付ける書面はない。
(イ) 被告らは、原告が映像制作会社である補助参加人に本件DVテープを預けていたことをもって、本件映像の利用についての原告の承諾があったと主張する。しかしながら、B又は補助参加人は、原告が望めば、いつでも本件DVテープを返還することを約束していた。また、原告と補助参加人は、原告の父親の紹介による情誼関係に基づき行動し、商取引上の関係で行動していないから、本件DVテープを預けていたことをもって、本件映像を商業的映像制作の素材として用いることまで許諾したものと推認することはできない。
 なお、原告には、本件DVテープの寄託保管先が、Bなのか、補助参加人なのかの認識はなかった。このことは、原告が、Bに対し、著作権侵害を通告し、本件DVテープの返還を求めていることからも明らかである。仮に、原告が本件映像を利用させることを認識していたら、通告先を間違うことはあり得ない。
(ウ) 被告らは、原告がB及びCから本件映像を利用した放送番組の企画があることを聞きながら異議を述べなかったと主張する。しかしながら、そもそも、原告が、B及びCから、そのような企画を知らされた事実はなく、その主張の前提を欠く。
 また、Cからの本件映像の説明書作成の勧めも、C個人のアドバイスと受け取られるものであった。仮に、原告がB又はCから放送の企画を告げられて承諾していたのであれば、補助参加人から原告への連絡は、補助参加人の住所と名義ですべきものであって、C個人の名義で、自宅の住所を表示して本件映像をダビングしたVHSテープを送付することはあり得ない。これが補助参加人の業務連絡であったとすれば、あくまでC個人のアドバイスと原告に認識させて、本件映像の説明書を原告に作成させようとしたものである。
(エ) 被告らは、本件作品1及び2がテレビ放送されたにもかかわらず、原告が異議を述べなかったことを指摘する。しかしながら、原告は、当該テレビ放映がされたことは、本件DVDの発売に関するトラブルが生じて初めて知ったものであり、その旨の連絡、報告、対価の支払は一切なかった。
(オ) Bは、平成20年3月21日、本件DVテープを返却した際、反論等を一切せず、また、原告の承諾を受けたことの主張もしていない。これは、原告の著作権を侵害していることをBが認めたからにほかならない。
 また、被告が本件DVDの販売を中止したこと自体、原告の承諾を得ていなかったことを示している。
 したがって、補助参加人が、原告の承諾を得ずに本件DVDを作成したことは、明らかである。
(カ) 被告は、補助参加人が本件DVDにつき編集著作物の著作権を有すると主張する。
 しかしながら、本件DVDは、本件映像に依拠して作成されたものであるから、原告の著作権を侵害していることは明らかである。
2 争点(2)(本件DVDの販売の差止めの要否)について
(原告の主張)
(1) 原告は、被告に対し、平成19年12月22日付け内容証明郵便により、本件DVDの販売中止を通告したが(甲4の1及び2)、被告は、著作権侵害はないとして、その販売を継続した(甲5)。
(2) 被告は、本件DVDの販売を中止し、これを回収したと主張するが、平成20年7月21日付けのブログの記事の中に、本件DVDが販売されている旨の記載があり(甲9)、被告が現在も本件DVDを販売している事実が、強く推認される。
 仮に、被告は、現在は、本件DVDの販売を中止しているとしても、本件DVDが売れ筋商品であることに照らして、その販売を再開するおそれが大きい。
(3) したがって、原告は、同一性保持権を保護するため、著作権法112条第1項に基づき、被告による本件DVDの販売等を差し止める必要がある。
(被告らの主張)
 被告が、原告からの内容証明の受領後、本件DVDの販売を継続したことは認めるが、その後、被告は、その販売を中止している。
 補助参加人は、原告からの通告を受けた被告から、博美堂を通じて事情説明を求められ、本件DVDの著作権は、補助参加人に帰属すると回答した。しかしながら、補助参加人は、その後、早期円満解決の見地から、被告に対し、本件DVDの返品処理を要請し、これを受けて、本件DVDの在庫品は、被告から博美堂、博美堂から補助参加人へと返品されている。
 したがって、被告が本件DVDの販売を再開することは不可能であるから、原告が本件DVDの販売の差止めを求める利益はない。
(被告の主張)
 被告は、原告から通告を受け、博美堂や補助参加人に確認したところ、本件DVDは補助参加人が独自に撮影・編集したものであるとの回答を受けたため、平成20年1月9日付けの回答(甲5)を行った。
 しかしながら、補助参加人から円満解決の意向が示され、被告もこれを了承し、本件DVDの販売を中止することとして、平成20年2月4日付けで、被告の各店舗に対し、本件DVDの販売を中止し、これを回収するよう指示しており、実際に、これを回収している。
3 争点(3)(被告の故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
(1) 本件DVDは、貴重なオリジナル鉄道紀行の映像を記録したものであり、1枚315円の廉価販売では、通常の著作権料を支払うのは困難であるから、被告は、本件DVDの販売に当たって、著作権を侵害することはないか、疑念を持って注意すべき高度の注意義務がある。また、被告は、これまでも知財関係紛争を多数惹起して敗訴しており、自らの販売方法では著作権侵害を生じさせる危険が大きいことを認識し、又は認識すべきであった。
 それにもかかわらず、著作権を調査確認することなく、本件DVDを販売し、原告から通告を受けた後も、本件DVDを持ち込んだ者に問い合わせただけで、著作権侵害がないと軽信し、漫然と販売を継続したものであって、被告に過失があることは明らかである。
(2) さらに、原告による通告後も販売を継続し、一部マスコミが取材に向かったとたん商品を撤去した事情等に照らせば、最初から著作権を侵害しても構わないという未必の故意又は重大な過失があったことが推認される。
(被告らの主張)
(1) 原告は、1枚315円の廉価販売では、通常の著作権料を支払うのは困難であることをもって、被告には高度の注意義務があると主張するが、その論理関係は不明である。本件DVDは、放送番組用に制作された映像を二次利用したものであるから、廉価販売によっても、利益を確保することは、不可能ではない。
(2) 原告は、被告が著作権を調査確認することなく、本件DVDを販売し、原告から通告を受けた後も、その販売を継続したことをもって、被告に過失があると主張する。
 しかしながら、本件DVDに記録された映像が既に放送され、紛争もなかったこと、当該映像を制作した補助参加人の許諾の下に本件DVDが作成されていること、被告は、原告からの通告を受け、博美堂及び補助参加人に問い合わせ、補助参加人が著作権者であるとの回答をしたことから、本件DVDの販売を継続していること等からすれば、被告は、著作権につき適正に権利処理されていると信じており、かつ、被告がそのように信じることには、合理的な理由がある。
(3) 原告は、被告に未必の故意又は重大な過失があると主張するが、原告が主張する事情から、なぜ未必の故意や重大な過失が推認されるのか、その論理関係は不明である。
(被告の主張)
 被告は、本件DVDを博美堂から購入するに当たって、同社に対し、権利侵害の有無を確認したところ、補助参加人が独自に撮影及び編集したものであって侵害は生じないとの確約を得たため、これを購入した。
 また、被告は、原告からの通告を受けて、再度、博美堂や補助参加人に確認したところ、これと同様の回答であったために、平成20年1月9日付け回答書(甲5)を送付した。
4 争点(4)(過失相殺)について
(被告らの主張)
(1) 原告は、映像制作会社である補助参加人に、映像制作のための素材用映像の記録媒体として広く利用されるDVテープの保管を委ねたところ、その際、補助参加人との間で、保管料や本件DVテープの使途等、保管に関する特段の合意はしなかった。
 また、原告は、Cから本件DVテープの映像を利用した放送番組制作の企画があることを聞いた後も、これに異議を述べなかった。
 さらに、原告は、本件DVテープを補助参加人に返却した後、その内容を確認したことも、引渡しを求めたことも、VHSテープ等にダビングすることを求めたこともない。
(2) 以上のように、原告が何ら対応をしなかったことが本件の原因ともなっており、この点において原告に過失があるから、損害額の算定に当たっては、これを考慮すべきである。
(原告の主張)
(1) 被告らは、映像制作会社である補助参加人に、特段の合意をせずに本件DVテープを保管させたことをもって、原告の過失とする。
 しかしながら、映像制作会社は、業務として著作物及び著作権を商品として扱う専門家であるから、取り扱う著作物及び著作権に関し、高度の注意義務がある。加えて、補助参加人代表者であったBは、知人である原告の父親からの紹介で原告と面談し、原告に撮影した映像を預けさせたのである。
 このような状況においては、原告には、補助参加人が、業務上の注意義務に違反し、かつ、原告の父親との信頼関係を裏切ってまで、保管中の本件映像を無断使用することまで注意すべき義務はない。
(2) また、原告は、Bから本件映像の製品化の提案があった際、即座に、これを断っており、放送番組制作の企画を聞きながら、異議を述べなかったということはない。
(3) さらに、原告が本件DVテープの返還を求めなかったのは、専門業者であり、代表者(当時)が父親の知人である補助参加人を信頼していたからであり、これをもって、原告の落ち度とはいえない。
5 争点(5)(原告の損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
(1) 財産的損害額(複製権侵害) 4000万円
 原告の承諾を得ずに行われた本件DVDの販売は、原告の著作権(複製権)を侵害する行為である。
ア 逸失利益(主位的主張)
(ア) 原告は、平成19年4月ころ、株式会社ピーエスジー(以下「ピーエスジー」という。)から、本件映像をDVDとして販売するという事業提案を受け、同社との間で、ヨーロッパ、南米、アジア等の地域ごとに4作品程度に編集し、1枚約4000円、初回各1万枚作成、著作権料25%(1本当たり1000円)として、製品化して販売することに合意していた。
(イ) 原告は、平成19年10月ころ、本件DVDが発売されたことを知って、そのことをピーエスジーに伝えたところ、ピーエスジーから「未発表のオリジナル映像であることに価値があり、既に発表され、かつ、315円で大量に販売されたものでは価値はなく、企画は成り立たない。」として、契約を破棄され、報酬を得る機会を喪失した。
(ウ) 前記(ア)の初回分として原告が受けるべき報酬は4000万円(=1000円×1万枚×4作品)であって、原告は、少なくとも、同額の損害を受けた。
イ 著作権法114条3項(予備的主張)
(ア) 被告の1店舗当たりの本件DVDの販売数は、少なくとも50枚を下らないと推定され、被告の店舗3000店全店での販売数は、15万枚以上に上る。
 被告が主張する本件DVDの販売枚数は、信用することができない。
(イ) 原告が受ける著作権料相当額は、DVD1枚当たり1000円であるから、原告の損害は、1億5000万円(=1000円×15万枚)となり(著作権法114条3項)、原告は、このうち4000万円を請求する。
(2) 精神的損害額 500万円
 本件DVDの販売行為は、原告の本件映像についての著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するものであり、原告は、鉄道紀行家として筆舌に尽くしがたい苦痛を被った。また、本件DVDが不当に廉価で大量に販売され、インターネットで広く話題になったことにより、原告は、回復困難なほど深刻な精神的ダメージを受けた。
 この精神的損害を慰謝するには、慰謝料500万円が相当である。
(3) 弁護士費用 450万円(損害額の10%)
(被告らの主張)
(1) 財産的損害について
ア 原告とピーエスジーとの合意については、知らない。
イ 本件DVテープの所有権者は補助参加人であるから、原告が、補助参加人に無断で、ピーエスジーに対し、本件DVテープを提供することはできない。
 また、平成19年には、原告は、本件映像を編集してテレビ番組を制作することを知っていたから、ピーエスジーとの契約の破棄は、原告がその事実をピーエスジーに秘匿していたからにほかならない。
(2) 精神的損害及び弁護士費用について
 争う。
(被告の主張)
 被告による本件DVDの販売枚数は、6581枚にすぎない。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無)について
(1) 事実経過について
 被告らは、本件における事実経過等に照らして、原告は、本件映像の著作権を放棄し、若しくは補助参加人に譲渡することを黙示的に合意し、又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたなどと主張する。そこで、まず、本件における事実経過について、必要な範囲で検討するところ、前記第2の1の争いのない事実等、証拠(甲1、4ないし7(各枝番を含む。)、乙1、3ないし9(各枝番を含む。)、丙1、3、6ないし12、原告本人、証人B、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア(ア) 補助参加人の前代表取締役であるBは、平成12年ころ、知人である原告の父親から、当時、カメラでSLの写真を撮影していた原告の身の振り方について相談を受け、カメラではなく、動画を撮ることを勧めてみてはどうかとの提案をするとともに、原告に興味があるのであれば、オスカ企画が保有する機材を貸与してもよい旨の話をした。
 この話を聞いた原告は、オスカ企画の制作室を訪れ、Bと相談した結果、原告が海外に出かける際に、オスカ企画から機材を借りて鉄道の映像を撮影し、撮影したDVテープは、機材とともに、オスカ企画に渡すこととした。原告は、機材や撮影したDVテープをオスカ企画に渡す場合に、BやCと一緒に、原告が撮影した映像を見ることもあったが、その際、BやCは、原告に対し、SLが走っている地域の風俗等が伝わる映像も撮った方がよい旨のアドバイスをしたこともあった。
 なお、原告が撮影のために外国に行く際の旅費等は、通常、原告自身が負担していたが、平成16年3月に中国に出かけた際の旅費については、原告が既に旅行会社に支払っていた金額を、オスカ企画が原告に対して支払った。
 このようにして撮影された本件映像は、元々、原告の趣味の一環として撮影されたものであって、オスカ企画又は補助参加人において、本件映像を利用して放送番組等を制作することを予定して撮影されたものではなく、また、当初は、その予定もなかった。
(イ) 原告が平成16年3月から5月までの間に中国に出かけていたころ、オスカ企画において、原告が撮り貯めていた映像を利用して、放送番組を制作するという企画が持ち上がった。
 原告は、中国から帰国した後、オスカ企画に機材を返却するに際し、返却日時の約束を一方的にキャンセルしたり、約束の訪問時間に遅れるなどした。このことに腹を立てたBが、平成16年5月24日にオスカ企画を訪れた原告に対し、これらの行為を強く叱責するなどしたことから、以後、原告とBとが話をすることはなくなった。
 そこで、Cは、平成16年5月28日、原告が借りていた三脚を返却しにオスカ企画の制作室を訪れた際に、原告に対し、本件映像を利用して放送番組を制作する企画を考えていることを伝えるとともに、撮影された映像の国名や列車名、駅名等の情報を書いた説明書の作成を依頼したところ、原告から、映像のコピーが欲しいとの要望があったため、本件映像をDVテープからVHSテープにダビングして、同年6月26日に原告に送付した(丙6、7。なお、後記イ参照)。
 しかしながら、原告がなかなか本件映像の説明書を作成しなかったため、Cは、原告に対し、電話や手紙等で何度か催促をした。原告は、平成17年正月にCに送った年賀状においては、「ご連絡が遅くなりすみません。時間をみつけビデオ資料整理しますのでもう暫くお待ち下さい」と記載した(丙8)ものの、その後も説明書を作成しなかった。
 Cは、原告が本件映像の説明書を作成しなかったため、自分で資料等を調査して情報を収集し、映像のナレーション等を作成するとともに、映像を編集して、本件作品1及び2を制作した。なお、本件作品1及び2中のハワイの映像については、オスカ企画が独自に入手したものを利用した。
 この本件作品1及び2は、平成17年12月29日から平成19年1月2日にかけて、秋田放送、新潟放送等の地方テレビ局において放送された。
(ウ) その後、補助参加人は、博美堂から、被告向けの商品として、本件作品1及び2をDVDとして販売したい旨の要望を受けて、平成19年9月1日付けで、博美堂との間で、本件作品1及び2の原版を提供して、これを商品として複製の上、販売することを合意する契約を締結した(乙1)。
 博美堂は、平成19年9月21日、被告に対し、本件DVDを9984枚納品し、被告は、同年10月ころから、その経営する100円ショップ「ダイソー」において、これを販売した。
 原告は、同年10月ころ、本件DVDが「ダイソー」で販売されていることを知り、弁護士に相談の上、同年12月22日付けで、被告に対し、本件DVDの販売の中止を通告した(甲4の1)。これに対し、被告は、博美堂を通じて、補助参加人に事実関係等を確認した上で、平成20年1月9日付けで、原告に対し、本件DVDに記録された映像の著作権は補助参加人に帰属するとして、本件DVDの販売は中止しない旨の回答をした(甲5)。しかしながら、その後、被告は、補助参加人の申入れにより、同年2月4日付けで、各店舗に対して、本件DVDの販売中止を指示するとともに、同月15日付けで、これを同月23日までに返品するよう指示した。その結果、本件DVDの在庫品3403枚が被告から博美堂に対して返品され、さらに、これが補助参加人へと返品された。
 また、原告は、これと並行して、平成19年12月28日付けで、Bに対し、本件DVテープの引渡し等を求める通告をした(甲6の1)。この通告を受けたBは、本件DVテープの引渡しを了承して、平成20年3月21日、これを原告に引き渡した。なお、前記通告以前には、原告が、B、補助参加人又はオスカ企画に対し、本件DVテープの引渡しを求めたことはなく、その所有権の帰属について、両者の間で話合いが行われたこともなかった。
イ(ア) 原告は、Cから聞いた本件映像の説明書作成の話は、原告個人の備忘のために作成を勧められたものにすぎず、Cの原告に対する個人的な助言であり、本件映像を利用した放送番組の企画があるとは聞かされていないと主張し、原告本人尋問においても、これに沿う内容の供述をする。
 しかしながら、@原告自身、Cから当該説明書の作成の話があったことは認めていること、Aその後、Cから、原告に対し、本件映像をDVテープからVHSテープにダビングしたものが送付されているが、Cから当該説明書の作成の話がされる以前に、補助参加人から原告に対し本件映像をダビングしたVHSテープが渡されたり、原告から補助参加人に対しそのようなVHSテープの交付を要求したことがあったとは認められないこと、BCから原告に当該説明書の作成の話があった後、原告が当該説明書をなかなか作成しないことから、Cから原告にこれを作成するように催促がされ、原告がCに対して送付した年賀状には、当該説明書の作成が遅れていることを謝罪するとともに、その作成のために時間的な猶予を求める文言が記載されていること(丙8)からすれば、本件映像の説明書は、単に、原告が備忘のために自己の手元にとどめるものとしてだけでなく、Cに交付することが予定されたものであったと認められる。
 これらの事実によれば、原告がCから聞いた本件映像の説明書作成の話は、原告が主張するような、原告個人の備忘のために作成を勧められたものにすぎないということはできず、本件映像を利用した放送番組制作の企画のために必要であったことから、Cが原告にその作成を依頼したものと認められ、原告も、当該企画の実現のために必要であることから、Cから本件映像の説明書の作成を求められていることを認識していたと推認するのが相当である。
 したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
(イ) なお、原告は、平成16年5月24日に、Bから本件映像を利用した企画を考えていることを聞いたが、同映像に係る著作権をすべて譲渡しなければならないと言われ、これを断ったと主張し、原告本人尋問においても、これに沿う内容の供述をする。
 しかしながら、後記(ウ)のとおり、本件映像の著作権が補助参加人又はオスカ企画に帰属すると認識していたBが、原告に対し、その譲渡を明示的に求めるとは考え難く、他方、原告が、いったんは、本件映像を利用した企画を明示的に断っていたというのであれば、前記(ア)のとおり、Cに交付することを前提とした本件映像の説明書の作成が遅れていることを謝罪したり、その作成のための時間的な猶予を求めたりするなどの行為を行うことは、明らかに不自然である。
 したがって、原告がBから本件映像を利用した企画の話を聞かされ、これを断ったという原告の主張に係る事実があったと認めることはできず、原告の前記主張は、採用することができない。
 また、原告は、本件映像をダビングしたVHSテープが、補助参加人又はオスカ企画ではなく、C個人の名前で送付されたことをもって、これが会社の業務としてされたものではないとして、放送番組の企画が伝えられたことはないと主張し、原告本人尋問においても、これに沿う内容の供述をする。
 しかしながら、C個人の名前で本件映像をダビングしたVHSテープが送付されたからといって、直ちに補助参加人又はオスカ企画の業務と無関係のものであったということはできず、また、前記のとおり、原告とBが口も聞かないような不仲な関係になっていたことからすれば、Cが、原告を気遣って、Cの個人名義でVHSテープを送付することも、あながち不自然であるとはいえない。したがって、C個人の名前でVHSテープを送付したことをもって、前記認定を覆すには足りない。
(ウ) もっとも、証拠(証人B、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、Bにおいては、本件映像の著作権が補助参加人又はオスカ企画に帰属すると認識しており、Cにおいても、本件映像を利用するために原告の許可が必要であるとの意識がなかったことが認められ、このような両者の認識からすれば、Cが原告に本件映像を利用した放送番組を制作する企画を伝えた際に、当該企画を伝えるだけでなく、当該企画のために本件映像を利用することの許諾まで求めたとは認めることができない(なお、このことは、被告ら自身が、本件映像の著作権について、原告の明示的な譲渡の承諾又は利用の許諾を主張していないことからも、明らかである。)。
 また、証拠(証人B)及び弁論の全趣旨によれば、Cが原告に対し本件映像を利用した放送番組制作の企画を検討していることを伝えた段階では、本件映像を使用して実際に放送番組を制作できるか否かは、まだ判断ができない状態であって、当該企画自体が明確に確定していたわけではなかったと認められ、このことからすれば、原告が、本件映像を利用した放送番組制作の企画があることを伝えられ、そのために必要となる本件映像の説明書の作成を了解していたとしても、そのことをもって、本件映像を利用して放送番組を制作することについてまで承諾していたと認めることはできない。
 そして、他に原告が本件映像を利用して放送番組又は本件作品1及び2並びに本件DVDを作成することを明示的に承諾したと認めるに足る証拠はないことからすれば、原告が、本件映像を利用して本件作品1及び2並びに本件DVDを作成することを、明示的に承諾していたと認めることはできない。
(2) 被告らの法的主張について
 (1)で認定した事実を前提として、被告らの法的主張について、検討する。
ア 著作権について
(ア) 被告らは、本件DVテープの所有権が補助参加人に帰属し、補助参加人の許可がなければ、これを利用できないことや、補助参加人が映像制作を業としていることからすれば、本件映像が映像作品に利用されることは当然の前提であり、仮に、そうでないとしても、予測可能であると主張する。
 しかしながら、仮に、本件DVテープの所有権が補助参加人に帰属するとしても、本件DVテープの所有権の帰属とそれに記録された本件映像の著作権の帰属とは別の問題であり、また、本件DVテープの所有権を有することによって、補助参加人が本件DVテープに記録された本件映像を自由に利用できるものでもない(著作権法45条1項参照)。さらに、前記(1)で認定した、原告が、オスカ企画から機材一式を無償で貸与されるに至った経緯に照らして、オスカ企画が、原告に機材一式を無償で貸与したのは、原告の父親の紹介により、原告に動画の撮影技術を習得させることを目的としたものであると認められ、本件各証拠に照らしても、当初から、原告が撮影した映像をオスカ企画又は補助参加人の業務に利用することを予定していたとは認められないから、本件映像を映像作品に利用することが当然の前提であり、又は、原告において、そのことが当初から予測可能であったということはできない。
 したがって、被告らの前記主張は、採用することができない。
(イ) また、被告らは、原告が本件映像の内容を確認することなく、補助参加人が本件DVテープを保管することに同意し、その返還を求めることもなかったことから、原告には、本件映像の著作者として権利行使をする意思があったとはいえないと主張する。
 しかしながら、原告が、本件映像の内容を確認することなく、補助参加人が本件DVテープを保管することに同意し、その返還を求めることもなかったからといって、そのことにより、原告が、本件映像についての著作者としての権利を放棄するなど本件映像の著作者としての権利行使をする意思がなかったものと認めることはできず、他に、原告が本件映像の著作者としての権利を放棄するなどその権利行使をする意思がなかったと認めるに足る証拠はない。
 したがって、被告らの前記主張は、採用することができない。
(ウ) さらに、被告らは、原告が放送番組制作の企画に異議を述べず、説明書の作成を拒絶しなかったことや、本件作品1及び2が地方テレビ局で放送された後も異議を述べなかったことをもって、原告が、黙示的に、本件映像を利用することを承諾し、又は本件映像の著作権を譲渡することについて承諾していたと認めるべき事情であると主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、原告は、本件映像を利用した放送番組を制作する企画が検討されていることを伝えられ、それを認識した上で、そのために必要となる本件映像の説明書の作成を了承していたにすぎず、このことをもって、補助参加人が本件映像を自由に編集して放送番組を制作することや、まして、これをDVD化して販売することや撮影者として原告の名称を表示しないことまでを了承していたということはできない。
 したがって、原告が放送番組の制作の企画に異議を述べず、本件映像の説明書の作成を拒否しなかったことをもって、原告が本件映像の利用や本件映像の著作権の譲渡を承諾していたと推認することはできず、被告らの前記主張は、採用することができない。
 また、本件作品1及び2の放送がされたのは、いずれも地方テレビ局であるから、東京在住の原告が、当該放送がされたことを認識することは困難であったと認められ、他に原告が当該放送がされたことを認識していたと認めるに足る証拠はない。
 したがって、原告が当該放送がされた後も何らの異議を述べなかったことをもって、原告が、本件映像を利用することを承諾し、又は本件映像の著作権を譲渡することについて承諾していたという被告らの前記主張は、採用することができない。
(エ) 以上のことからすれば、原告は、本件映像の著作権を放棄し、若しくは補助参加人に譲渡することを黙示的に合意し、又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたとは認められない。
(オ) したがって、本件DVDを作成する行為は、原告の著作権(複製権)を侵害すると認められる。そして、本件DVDは、被告の店舗で販売する商品として企画・制作され(乙4)、被告の名義のみが表示されて販売されていること(甲1)からすれば、被告においても、原告の著作権(複製権)を侵害する行為を行ったものと認めることができる。
イ 著作者人格権について
(ア) 公表権
 被告らは、原告が本件映像の著作権を譲渡している以上、本件映像を公衆に提供・提示することも同意したものと推定される(著作権法18条2項1号)と主張するが、前提として、原告が本件映像の著作権を譲渡したと認められないことは、前記アのとおりである。
 また、被告らは、原告が放送番組の制作を知りつつ異議を述べなかった以上、公表権について放棄又は同意があったことは明らかであると主張する。
 しかしながら、前記(1)で認定したとおり、原告が認識していたのは、オスカ企画が本件映像を利用して放送番組を制作する企画を検討していることであって、当該企画自体が明確に確定していたわけではないことからすれば、いかなる内容の放送番組を、いつ公表するかまで原告が認識していたとは認められないのみならず、当該企画が実現するか否かについても、原告が認識していたとは認められない。
 したがって、原告が、オスカ企画において当該企画を検討していることを知りながら異議を述べなかったとしても、本件映像を公表することにつき、原告の同意があったと認めることはできず、被告らの前記主張は、採用することができない。
 よって、本件DVDの発売前に本件作品1及び2がテレビ放送されたことも、原告の同意を得ないで公表されたもの(著作権法18条1項)と認められることから、被告が本件DVDを販売したことは、原告の本件映像についての公表権を侵害すると認められる。
(イ) 氏名表示権について
 被告らは、本件DVDの商品価値は、撮影されている映像の資料的価値ではなく、編集作業による側面が強いことを理由として、素材となった映像を撮影したにすぎない原告の氏名を表示しなくても、原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないか、又は公正な慣行に反せず、氏名表示権の侵害には当たらない(著作権法19条3項)と主張する。
 しかしながら、氏名表示権は、二次的著作物の公衆への提供等に際しての原著作物の著作者名の表示についても認められること(著作権法19条1項)からすれば、仮に、本件DVDの商品価値が補助参加人による編集作業による側面が強いとしても、そのことのみをもって、本件DVDの素材である本件映像を撮影した原告の氏名を表示しないことが、原告が著作者であることを主張する利益を害しないものとは認められず、また、それが公正な慣行に反しないものであるとも認められないから、被告らの前記主張は、採用することができない。
 したがって、被告が本件DVDに撮影者として原告の氏名を表示せずにこれを販売したことは、原告の本件映像についての氏名表示権を侵害すると認められる。
(ウ) 同一性保持権
a 被告らは、原告が本件DVテープが編集されることを知りつつ、これに異議を述べなかった以上、当該編集につき、原告の許諾があったと主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、原告は、オスカ企画が本件映像を利用した放送番組の制作の企画を検討していることを認識していたにすぎず、当該企画自体が明確に確定していたわけではないことからすれば、原告が編集後の放送番組の内容を認識していたと認められないことはもちろん、どのような方針で編集がされるかも認識していなかったと認められることから、原告が、放送番組の企画が検討されていることを知りながら何らの異議を述べなかったとしても、補助参加人又はオスカ企画が本件映像を編集することにつき、原告が承諾していたと認めることはできない。
 したがって、被告らの前記主張は、採用することができない。
b また、被告らは、本件DVテープが膨大な量であることからすれば、これを編集することは、著作物の利用の目的及び態様に照らしてやむを得ない改変に該当する(著作権法20条2項4号)と主張する。
 しかしながら、本件映像は、元々、公表することや放送番組に利用することを予定して撮影されたものではなく、また、本件作品1及び2並びに本件DVDを作成するために、合計約25時間に及ぶ本件映像を取捨選択して、約46分間の映像に編集していることからすれば、このような編集行為が「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない」改変に該当すると認められないことは、明らかであり、被告らの前記主張は、採用することができない。
 したがって、本件映像を編集した本件DVDを作成することは、原告の本件映像についての同一性保持権を侵害すると認められる。そして、前記ア(オ)のとおり、本件DVDは、被告が販売する商品として企画・制作され(乙4)、本件DVDに被告の名義のみが表示されて販売されていること(甲1)からすれば、被告においても、同一性保持権を侵害する行為を行ったものと認めることができる。
ウ このほか、被告は、本件DVDにつき、補助参加人が編集著作物として著作権を有すると主張する。
 しかしながら、仮に、本件DVDが編集著作物として認められるとしても、そのことは、編集物の部分を構成する本件映像の著作者である原告の権利に影響を及ぼすものではないから(著作権法12条2項)、被告の主張は、主張自体、失当である。
(3) よって、被告は、原告の、本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)を侵害したものと認められる。
2 争点(2)(被告による本件DVDの販売の差止めの要否)について
(1) 被告が、現在も本件DVDの販売を継続しているか。
 原告は、平成20(2008)年7月21日付けのブログ(甲9)に、本件DVDが販売されており、これを購入したとの記述が掲載されていたことをもって、被告が、なお本件DVDの販売を継続していると主張する。
 しかしながら、当該ブログの記載内容をみても、当該ブログの作成者が、いつ本件DVDが販売されているのを見たのか、いつこれを購入したのか、更には、本件DVDを被告の店舗で購入したのかなどは、明らかではない。かえって、被告は、各店舗に対し、平成20年2月4日付けで本件DVDの販売中止を指示するとともに、同月15日付けで同月23日までにこれを返品するように指示し、被告の本件DVDの在庫品は、博美堂を経由して補助参加人に返品されたことが認められる(前記1(1)、乙4ないし7)。そして、他に、被告がいまだに本件DVDの販売を継続していると認めるに足る証拠はない。
 したがって、被告が、現在も本件DVDの販売を継続しているとは認められず、原告の前記主張は、採用することができない。
(2) 被告による本件DVDの販売のおそれの有無について
 前記1(1)のとおり、被告は、原告からの本件DVDの販売中止の通告に対し、いったんはこれを拒絶する回答をしたものの、その後、販売中止を決定し、被告の各店舗に対して、本件DVDの在庫品の回収を指示し、その結果、本件DVDの在庫品3403枚が被告から博美堂に対して返品され、さらに、これが補助参加人に対して返品されたことが認められる。そして、他に、被告が現在も本件DVDを所持していることや、本件DVDの販売を継続していることを認めるに足る客観的な証拠もない。
 以上のことからすれば、被告が本件DVDを販売するおそれがあると認めることはできない。
(3) よって、原告の被告に対する本件DVDの販売等の差止め及びその廃棄の請求は、理由がない。
3 争点(3)(被告の故意又は過失の有無)について
(1) 証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば、博美堂から被告に本件DVDが販売されるに当たって、その著作権については、制作会社である補助参加人から直接提供された映像のため、問題はない旨伝えられたことが認められる。
 しかしながら、本件各証拠に照らしても、被告において、それ以上に本件DVDに関する著作権の帰属やその処理について確認した形跡は認められない。したがって、被告は、博美堂や補助参加人の著作権に関する主張を裏付ける資料等を確認することなく、漫然とその主張を信じたものであると認められるから、被告において、原告の本件映像に係る著作権及び著作者人格権を侵害したことについて、過失があったものと認めるのが相当である。
(2) なお、原告は、被告が原告からの通告後も本件DVDの販売を継続し、一部マスコミが取材に向かったとたんこれを撤去した事情等に照らせば、最初から著作権を侵害しても構わないという未必の故意又は重大な過失が推認されると主張する。
 しかしながら、前記1(1)のとおり、被告が、原告からの通告に対し、いったんはそれを拒絶する旨の回答をしたことは認められるものの、一部マスコミが取材に向かったとたん商品を撤去したとの事実を認めるに足る証拠はない。また、仮に、原告が主張するような事実が認められるとしても、その事実に基づいて被告に未必の故意又は重大な過失があると推認する論拠は明らかではなく、前記主張自体、失当である。
 そして、本件各証拠に照らしても、被告において、故意又は重大な過失があったと認めることはできない。
4 争点(4)(過失相殺)について
 被告らは、原告が、本件DVテープを補助参加人に保管させたまま、何ら対応をしなかったことをもって、原告に過失があると主張する。
 確かに、前記1(1)のとおり、原告は、オスカ企画において本件映像を利用した放送番組の制作の企画を検討していることを告げられ、本件映像の説明書の作成を依頼されながら、当該説明書を作成せず、また、本件DVテープの交付を求めることもなく、補助参加人に本件DVテープを保管させたままであったことから、Cにおいて、自ら資料等を調査した上で、本件映像を利用して本件作品1及び2並びに本件DVDを制作するに至ったものである。このような経緯に照らすと、原告は、遅くとも、本件映像の説明書の作成を依頼された段階では、補助参加人又はオスカ企画において本件映像を利用した放送番組を制作することを予想し得たものといえ、それにもかかわらず、放送番組を制作する企画の進行を顧慮することなく、補助参加人に本件DVテープを保管させたまま、補助参加人に対し特段の連絡等もしなかったものであり、この点について過失があると認められるから、過失相殺として、原告の損害額から1割を減ずるのが相当である。
 なお、原告には過失がなかったとする原告の主張は、前記認定事実に照らして、いずれも採用することはできない。
5 争点(5)(原告の損害の発生及びその額)について
(1) 財産的損害について
ア 主位的主張(逸失利益)について
 原告は、ピーエスジーとの間で、本件映像を、ヨーロッパ、南米、アジア等の地域ごとに4作品程度に編集し、1枚約4000円、初回各1万枚作成、著作権料25%(1本当たり1000円)として、製品化して販売することに合意していたと主張し、それに沿う内容のピーエスジーの代表取締役であるDの陳述書(甲10)の記載並びに原告の陳述書(甲7)の記載及び本人尋問における供述がある。
 確かに、証拠(甲7、8、10、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、ピーエスジーとの間で、本件映像を利用したDVD商品の販売に向けた打合せをしており、その過程で、販売するDVD商品の販売価格や著作権料についての話もされていたことは、認められる。
 しかしながら、証拠(原告本人)によれば、@原告とピーエスジーとの間の打合せでは、本件映像を利用して全部で4作品のDVDを作成するといった話はされていたものの、各巻の内容・構成等については、各国別に作るといった話が出ていた程度にすぎず、それ以上に具体的に決まっていなかったこと、A本件映像を利用したDVDの商品化については、その販売価格や著作権料も含めて、契約書はもちろん、企画書も作成されていないこと、B原告は、ピーエスジーと本件映像を利用したDVDの商品化の打合せを開始した後も、撮影機材を貸与し、本件DVテープを保管していたオスカ企画若しくは補助参加人、B又はCに対して、ピーエスジーから本件映像を利用したDVDを販売する予定であることについて、何らの話をしていないだけでなく、Cから平成16年6月に本件映像をVHSテープにダビングしてもらった後、本件DVテープの保管状況を全く把握していなかったにもかかわらず、商品化に当たり必要不可欠である本件DVテープの保管の有無の確認すらしていないことが認められる。
 そして、これらの事実のほか、本件各証拠によっても、ピーエスジーの年商や、ピーエスジーのこれまでのDVD商品の販売実績も具体的に明らかでなく、原告の前記主張を裏付ける証拠がD及び原告の陳述書のほか原告の供述のみであり、他にこれを裏付ける客観的証拠が提出されていないことも併せ考えると、原告の主張するような販売価格や著作権料が原告とピーエスジーとの打合せの過程において挙がっていたとしても、そのことをもって、ピーエスジーから本件映像を利用したDVD商品を販売するに当たっての著作権料の合意が、原告が主張するような内容のものとして、具体的に成立していたと認めることはできない。
 したがって、原告とピーエスジーとの間で、当該DVDを販売するに当たっての著作権料の合意がされていたと認めることはできないから、このような合意の成立を前提とする原告の逸失利益の主張は、採用することができない。
イ 予備的主張(著作権法114条3項)について
(ア) 被告による本件DVDの販売枚数について
 証拠(乙3の1ないし3、4ないし9、丙12、証人B)によれば、被告による本件DVDの販売枚数は、6581枚であると認められる。
 原告は、被告が主張する前記販売枚数は信用することができないと主張する。しかしながら、平成19年9月21日に博美堂が被告に納品した9984枚(前記1(1)ア(ウ))以外に、被告に対して本件DVDが納品されたと認めるに足る証拠はなく、また、被告から、博美堂を介して、補助参加人に対し、本件DVD3403枚が返品されていると認められること(前記1(1)ア(ウ))からすれば、6581枚(=納品数9984枚−返品数3403枚)を超えて、被告が本件DVDを販売したとは認められず、他に、6581枚を超えて被告が本件DVDを販売したと認めるに足る客観的証拠もない。
(イ) 原告が受けるべきDVD1枚当たりの著作権料相当額について
a 原告は、原告が受けるべき著作権料相当額は、DVD1枚当たり1000円と主張するが、何らこれを裏付ける証拠はない。また、仮に、これが原告とピーエスジーとの間の合意を根拠とするものであるとすれば、そのような合意があったとは認められないことは、前記アのとおりである。
b そして、証拠(甲1、12、13、丙11、原告本人、証人B)及び弁論の全趣旨によれば、原告が受けるべきDVD1枚当たりの著作権料相当額を算定するに当たっての基礎とすべきDVD1枚当たりの販売価格としては、本件DVDの映像が世界各地の貴重なSLを収録したものであること、その収録時間(46分)、同種のDVD商品の価格等を考慮すれば、4000円が相当であると認められる。他方で、被告による本件DVDの販売価格である315円(税込み)は、前記の本件DVDの内容や同種のDVD商品の販売価格に照らして、相当程度低廉であって、かつ、被告による販売価格は、原告に無断で放送された本件作品1及び2を利用して本件DVDが作成されたことから可能となったものであること(証人B)からすれば、これを基準に原告の著作権料相当額を算出するのは相当でない。
c また、本件DVDは、本件映像を元に、オスカ企画において、解説のナレーションや音楽等を挿入し、映像の編集作業等を行ったことによって、商品化され得るものとなったものであること、本件DVDに収録された映像のうち、ハワイの映像については、原告が撮影したものではないことを考慮すれば、本件DVDの販売枚数1枚当たりの原告が受けるべき著作権料相当額は、販売価格の8%とみるのが相当である。
(ウ) したがって、本件映像の著作権の行使につき原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、210万5920円(=4000円×8%×6581枚)であると認められる。
(2) 精神的損害について
 本件DVDは、撮影者として原告の氏名を表示せず、かつ、原告に無断で、本件映像に編集を加えた上で、発売されたものであって、本件映像の著作者である原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するものである。
 そして、前記(1)のとおり、原告は、ピーエスジーとの間で本件映像を利用したDVDの販売を検討していた矢先に、被告が運営する100円ショップ「ダイソー」で本件DVDが販売されたということからすれば、原告が受けた精神的苦痛は、相当なものであると認められる。他方で、被告は、原告からの通告後、いったんは本件DVDの販売を継続する姿勢を示した(甲5)ものの、前記1(1)のとおり、平成20年2月4日付けで本件DVDの販売中止を指示しており、補助参加人においても、原告からの通告後、本件DVテープを原告に交付していること、原告においても、本件映像を撮影するためのDVテープや機材を無償で供与を受け、かつ、自らも映像制作会社であるオスカ企画及び補助参加人の意向を何ら考慮することなく、ピーエスジーとの交渉を進めていたこと等も考慮すれば、前記の原告の著作者人格権を侵害したことに対する慰謝料としては、100万円が相当である。
(3) 過失相殺後の額
 (1)及び(2)の合計額は310万5920円であるところ、前記4のとおり、本件においては、過失相殺として、当該額から1割を減ずるのが相当であり、過失相殺後の額は、279万5328円となる。
 (計算式)310万5920円×(1−0.1)=279万5328円
(4) 弁護士費用
 (3)の額及び本件訴訟の経緯等に照らして、本件と相当因果関係があると認められる弁護士費用は、28万円が相当である。
(5) 小括
 以上のとおり、被告による本件DVDの販売と相当因果関係がある原告の損害額は、合計307万5328円であると認められる。
6 よって、原告の請求は、金307万5328円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年12月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、その範囲でこれを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 岩崎慎


(別紙)物件目録
 下記のDVD
  記
 タイトル 「SL世界の車窓 World scenery from Steam Locomotives window」
 (サブタイトル) 「エスエルから見る世界各地の情景」
 収録国(カバージャケットに記載された国) グアテマラ、エルサルバドル、ハワイ、ベトナム、中国、コロラド及びアラスカ
 カラー・白黒の別 カラー
 再生時間 46分
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日本ユニ著作権センター
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