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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件(3)
【年月日】平成22年4月8日
 最高裁(一小) 平成21年(受)第1049号 発信者情報開示請求事件

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

理由
上告代理人横山経通、同上村哲史の上告受理申立て理由第2部第1について
1 本件は、インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書き込みによって権利を侵害されたとする被上告人らが、その書き込みをした者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のために、本件発信者にインターネット接続サービスを提供した上告人に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、本件発信者の氏名、住所等の情報の開示を求める事案である。
 原審は、上告人が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当すると判断した上、被上告人らの請求を一部認容すべきものとした。
2 所論は、上告人は、上記電子掲示板の不特定の閲覧者が受信する電気通信の送信自体には関与しておらず、上記電子掲示板に係る特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するための、本件発信者と当該特定電気通信設備を管理運営するコンテンツプロバイダとの間の1対1の通信を媒介する、いわゆる経由プロバイダ(以下、単に「経由プロバイダ」という。)にすぎないから、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の始点に位置して送信を行う者を意味する「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)に該当せず、したがって、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当しないというべきであり、このように解さないと、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について規定する法3条や通信の検閲の禁止について規定する電気通信事業法3条等の趣旨にも反することになるというのである。
3 そこで検討するに、法2条は、「特定電気通信役務提供者」とは、特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいい(3号)、「特定電気通信設備」とは、特定電気通信の用に供される電気通信設備をいい(2号)、「特定電気通信」とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいう(1号)旨規定する。上記の各規定の文理に照らすならば、最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通過程の一部を構成する電気通信を電気通信設備を用いて媒介する者は、同条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に含まれると解するのが自然である。
 また、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される。本件のようなインターネットを通じた情報の発信は、経由プロバイダを利用して行われるのが通常であること、経由プロバイダは、課金の都合上、発信者の住所、氏名等を把握していることが多いこと、反面、経由プロバイダ以外はこれを把握していないことが少なくないことは、いずれも公知であるところ、このような事情にかんがみると、電子掲示板への書き込みのように、最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダが法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当せず、したがって法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当しないとすると、法4条の趣旨が没却されることになるというべきである。
 そして、上記のような経由プロバイダが法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当するとの解釈が、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について定めた法3条や通信の検閲の禁止を定めた電気通信事業法3条等の規定の趣旨に反するものでないことは明らかである。
 以上によれば、最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダは、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当すると解するのが相当である。
 これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷
 裁判長裁判官 金築誠志
 裁判官 宮川光治
 裁判官 櫻井龍子
 裁判官 横田尤孝
 裁判官 白木勇
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