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【事件名】電光掲示板ソフトの使用許諾事件 【年月日】平成22年3月11日 大阪地裁 平成19年(ワ)第15556号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成21年12月25日) 判決 原告 日米電子株式会社 同訴訟代理人弁護士 木村裕史 同 久米知之 被告 日本メディアコミニュケーションズ株式会社 同訴訟代理人弁護士 甲田通昭 同 沙々木睦 同 福西咲也子 同 藤本裕己久 主文 1 (主位的請求) 原告の著作権に基づく主位的請求を棄却する。 2 (予備的請求) (1) 被告は、被告事務所・倉庫内に設置されたコンピュータの内部記憶装置であるハードディスク、又は同事務所・倉庫内に保管するフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスクもしくはハードディスクに存する別紙プログラム目録記載のプログラムを使用してはならない。 (2) 被告は、前記(1)のプログラムを消去せよ。 (3) 被告は、原告に対し、238万2900円及びこれに対する平成21年5月23日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。 (4) 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、2項(3)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1) 主位的請求 ア 被告は、被告事務所・倉庫内に設置されたコンピュータの内部記憶装置であるハードディスク、又は同事務所・倉庫内に保管するフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスクもしくはハードディスクに存する別紙プログラム目録記載のプログラムを使用してはならない。 イ 被告は、前記アのプログラムを消去せよ。 ウ 被告は、原告に対し、980万円及びこれに対する平成17年9月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (2) 予備的請求 ア 主文2項(1)、(2)と同旨 イ 被告は、原告に対し、980万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は、被告の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被告 (1) 原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は、原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告 原告は、コンピュータ応用機器、自動計測機器及びソフトウェアの開発・製造・販売、通信機器・設備・制御装置の設置工事、通信情報コンサルティング、パソコン用ソフトウェアの開発・販売等を業とする会社である。 イ 被告 被告は、大型表示システムの設計・施工・保守、情報配信サービスの提供、コンテンツ受信ソフトの販売等を業とする会社である。 (2) 短文情報配信事業 インターネット等を利用し、時事通信社や日本気象協会からニュース、天気予報等の情報を、事業者が管理するサーバコンピュータ(入力サーバ)に送信し、入力サーバに送られた情報データを、配信サーバに転送し、配信サーバコンピュータから通信網を介して、市中に設置されたLED 等電光表示器にデータを転送して表示器にニュース等の情報を表示させるサービスがあり(以下、このサービスを「短文情報配信サービス」という。)、ASP と呼ばれる配信サービス事業者が同サービスに係る事業を行っていた(以下、この事業を「短文情報配信事業」という。)。 (3) 原告の開発したソフトウェア 当初、短文情報配信サービスは、NTTドコモのポケットベル(クイックキャスト)の通信網を使用して行われていたが、クイックキャストのサービスが廃止されるに伴い、NTTドコモのパケット通信サービス「DoPa」の通信網を使用する方式へ移行されることとなった。 原告は、DoPa 通信網を使用するシステムをいくつか開発していたが、株式会社ピーアクロス(以下「ピーアクロス」という。)の依頼を受け、DoPa の通信網を利用した短文情報配信サービスのためのシステム(D-NAS V)を開発した。同システムに使用する入力サーバ用のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)は、別紙プログラム目録記載のプログラムによって構成されている。 (4) ピーアクロスによる短文情報配信事業の実施 原告は、ピーアクロスとの間で、本件ソフトウェアの使用に関するライセンス契約を締結し(甲8)、ピーアクロスは、平成14年10月以降、本件ソフトウェアを使用し、短文情報配信事業を行っていたが、平成17年3月ころ、撤退の方針を打ち出した(甲15、22)。 ピーアクロスは、Mテクニカルサービス株式会社(以下「M」という。)の子会社であり、ピーアクロスにおける短文情報配信事業の責任者は、Mの従業員であり、ピーアクロスの取締役として出向していたP1であった。 (5) 被告の短文情報配信事業への参画 被告は、平成17年6月ころ、サーバコンピュータを設置し、本件ソフトウェアをインストールした上、本件ソフトウェアを使用し、短文情報配信事業(以下、被告による短文情報配信事業を「本件事業」という。)を行っている。 P1は、平成17年6月17日、Mを退職し(同年5月末日に遡って退職したこととされた。)、被告の取締役に就任し、被告の本件事業の責任者として活動を始めようとしたが、同年8月22日、取締役を退任し、本件事業から退いた(乙11)。 (6) 原告の短文情報配信事業への参画 原告は、ピーアクロスから依頼を受け、本件ソフトウェアを開発したものの、自ら、短文情報配信事業を行わず、ピーアクロスが同事業を行っていたが、ピーアクロスが、同事業から撤退するに伴い、平成17年11月、「nb@info」(エヌビー・アット・インフォ)の名称で、短文情報配信事業を始めた(甲1)。 2 原告の請求(訴訟物) 原告は、被告に対し、次のとおり求めている。 (1) 主位的請求 ア 被告の本件ソフトウェアの複製・使用行為が、原告のプログラム著作権を侵害する行為であるとして、本件ソフトウェアの使用の差止と、被告のコンピュータ等からの消去 イ 上記行為(不法行為)により、980万円(一部につき著作権法114条)の損害を被ったとして、上記金額の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払 (2) 予備的請求 ア 被告が、本件ソフトウェアの使用中止と、被告のコンピュータ等からの消去を合意したとして、その履行 イ 履行遅滞により980万円の損害を被ったとして、上記金額の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払 3 争点 (1) 主位的請求 ア 本件ソフトウェアの権利の帰属(原告が本件ソフトウェアの権利を有しているか) (争点1) イ 被告による本件ソフトウェアの複製(争点2) ウ 使用許諾契約の有無(原告が被告に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したか) (争点3) エ 使用許諾契約の終了時期(仮に、原告が、被告に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したとして、いつ終了するか) (争点4) オ 損害額(争点5) (2) 予備的請求 本件ソフトウェアの使用中止等合意の成否(争点6) 第3 争点に関する当事者の主張 1 本件ソフトウェアの権利の帰属(原告が本件ソフトウェアの権利を有しているか)(争点1) 【原告の主張】 原告は、本件ソフトウェアの制作を発意・企画し、自社の従業員を使用してこれを制作した。したがって、原告は、著作権法15条により、本件ソフトウェアのプログラム著作権者である。 なお、ピーアクロスに対しては、本件ソフトウェアの使用許諾を与えただけに過ぎない。 【被告の主張】 本件ソフトウェアは、ピーアクロスが、本件配信サービス事業を行うために、自社専用のソフトウェアの開発を原告に発注したものである。したがって、両者の間には、本件ソフトウェアに関するプログラム著作権譲渡条項を含む契約が締結されていたと考えられ、プログラム著作権はピーアクロスに帰属しているはずである。 2 被告による本件ソフトウェアの複製(争点2) 【原告の主張】 被告は、平成17年9月1日以降も、本件ソフトウェアを複製するなどして、これを使用している。 【被告の主張】 被告は、本件ソフトウェアを複製していない。 被告は、本件配信サービス事業に必要なサーバを購入したが、その際、原告もしくは第三者が上記サーバに、本件ソフトウェアを適法にインストール(複製)したものと思われる。被告は、その後、本件ソフトウェアのインストールされたサーバを使用しているに過ぎない。 3 使用許諾契約の有無(原告が被告に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したか)(争点3) 【被告の主張】 ピーアクロスは、本件配信サービス事業を行っていたが、採算の問題から、撤退することとなったが、NTT ドコモとの関係などから、本件事業を終了させることができず、被告に対し、本件事業の引き継ぎを求めた。 被告は、平成17年5月ころ、原告の本社において、株式会社グローバル(以下「グローバル」という。)を含めて原告と協議し、その際、本件配信サービス事業を引き継ぐにあたり、グローバルから本件事業に必要なソフトウェアの組み込まれたサーバ等を購入することとを確認するとともに、原告担当者から、「本件ソフトウェアの代金は0円です。」との説明を受けた。 したがって、原告は、被告に対し、本件ソフトウェアを無償で使用することを許諾した。 なお、その後、取引基本契約書(乙3)が原・被告間で作成されたが、被告の本件配信サービス事業に関する契約であり、本件ソフトウェアの使用許諾を含むものである。 【原告の主張】 原告が、被告に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したことはない。 原告は、P1個人に対し、当面の間、使用を許諾したに過ぎない。したがって、P1が被告の取締役を退任し、被告から離れた以上、被告が、本件ソフトウェアを使用することは許されない。 4 使用許諾契約の終了時期(仮に、原告が、被告に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したとして、いつ終了するか)(争点4) 【原告の主張】 原告は、P1が独立して短文情報配信事業を行う際には、本件ソフトウェアの使用許諾を与える予定であった。そして、P1が自ら会社を設立する予定がなくなり、被告の取締役として、本件事業を継続するということになったので、原告としては、P1が被告の取締役として本件事業にあたることを条件として、本件ソフトウェアの使用を無償貸与した。 仮に、そのことにより、被告が、本件ソフトウェアを使用することができるようになったとしても、P1との個人的な信頼関係によって、無償貸与したものであるから、P1が被告の取締役を退任もしくは解任された時点で、被告は、本件ソフトウェアの使用権限の基礎を失う。 P1は、平成17年8月末日までに、被告の取締役を退任し、本件事業から退いた。 【被告の主張】 本件配信サービス事業は、多数の顧客に対して、継続的なサービスを供給するものであり、被告が本件配信サービス事業を始める以上、利用者の数がゼロになるなど、被告が本件配信サービス事業を廃止することが事実上可能となるまで、本件ソフトウェアの使用許諾がされたと解するべきである。 被告において、P1を取締役に選任したのは、P1の従前の役職を考えたからであって、原告との取引における条件となることはない。 したがって、原告の被告に対する本件ソフトウェアの使用許諾の期限は到来していない。 5 損害額(争点5) 【原告の主張】 (1) ソフトウエア代金相当額400万円 本件ソフトウェアは、数千万円の開発費用を要するものであり、販売価格は400万円以上であり、被告が、平成17年9月以降、本件ソフトウェアを使用することにより、原告には同額の損害が生じている。 なお、上記損害は、著作権法114条3項により算定されるべき損害とは異なる。 (2) 利益相当損害金640万円 本件配信サービスの基本料金は月額3150円である。 被告は、ピーアクロスから少なくとも200件の契約を引き継いでいるので、少なくとも月額60万円の売上、月額20万円の利益が見込まれる。被告は、平成17年9月から平成20年12月までの40か月で、800万円の利益を不当にあげている。 上記200件の契約は、被告が、本件ソフトウェアを使用し、本件事業を続けなければ、原告がそのほぼ全件を引き継いで契約締結を行った。 以上によると、被告が、平成17年9月以降、本件ソフトウェアを使用することにより、原告には、少なくとも640万円の損害が発生している(著作権法114条1項、2項)。 (3) クレーム対応代100万円 被告は、劣悪な通信環境、サーバ環境下において、本件配信サービス事業を行っており、しばしばシステムが不安定になるなどの現象が起こっている。このため、顧客からNTTドコモ等に対し苦情が述べられ、原告は、NTTドコモからの要請を受けて、これらの苦情処理の対応を行わざるを得なかった。 これらのクレーム対応などにより生じた損害は100万円を下らない。 (4) 弁護士費用150万円 本件は、弁護士に委任して訴訟の追行をすることが不可欠であり、その弁護士費用は150万円を下らない。 【被告の主張】 (1) ソフトウェア代金相当額 前記【原告の主張】(1)の代金相当額は著作権法114条3項に基づく請求と考えられるが、原告は、同法114条1項、2項による利益相当損害金を請求をしており(前記【原告の主張】(2))、代金相当額と利益相当損害金を請求するのは二重請求である。 (2) 利益相当損害金 争う。 被告は、著作物の複製物を譲渡したりしておらず、被告の本件配信サービス事業における行為は、著作権法114条1項に該当しない。 また、同法114条2項に基づく請求については、被告は、本件配信サービス事業において、1件あたり448円の損失を出しており、利益はない。 (3) クレーム対応代 原告が、被告に対するクレーム処理を行った事実はない。 本件ソフトウェアには、もともとバグが存在したため、利用者からクレームが出ることはあったが、これらは全て被告において対応している。 (4) 弁護士費用 争う。 6 本件ソフトウェアの使用中止等合意の成否(予備的請求)(争点6) 【原告の主張】 (1) 原告は、平成17年7月以降、P1が一旦被告を退職するとの報告を受け、前記4【原告の主張】で述べた事情から、本件ソフトウェアを被告に貸与することはできないと判断し、平成17年9月20日、被告との間で協議した。 その結果、P1が被告を離れた以降は、被告は、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバから本件ソフトウェアを削除する旨合意した。 P1は、平成17年8月末日までに被告の取締役を退任し、上記合意後、相当期間経過後も、被告に戻ることはなかった。 (2) 被告の平成17年10月1日以降における本件ソフトウェアの使用の継続は、前記(1)の合意に反するものであり、原告は、被告に対し、本件ソフトウェアの使用の中止と、被告コンピュータ等からの削除を求める。 被告の本件ソフトウェア使用継続による損害は、前記5【原告の主張】と同額である。遅延損害金については、商事法定利率年6%の割合で、起算点は平成17年10月1日である。 【被告の主張】 (1) 合意の成立は否認する。 (2) 損害賠償及び遅延損害金については争う。 第4 当裁判所の判断 1 経緯事実 前提事実、証拠(甲21〜23、乙10、証人P2、同P1、被告代表者及び後掲のもの)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。 (1) 本件ソフトウェアの開発 ア 短文情報配信サービス 本件にいう短文情報配信サービスとは、インターネットを通じて、時事通信社や日本気象協会から提供される情報を、短文情報配信事業者の設置する入力サーバにおいて受信し、これを配信サーバへ転送した上、既存の通信網を通じて、小型通信ユニットを装備した顧客端末に送信し、LED表示器などの表示器に送信された情報を表示させるというものである(甲1〜3)。 当初、上記サービスは、NTTドコモのポケットベル(クイックキャスト)の通信網を使用して提供されていたが、クイックキャストのサービス廃止されることに伴い、NTTドコモのパケット通信サービスであるDoPa の通信網が使用されることとなった(甲2)。 さらに、平成23年7月には、DoPa からFOMA へ移行することが決まっている(証人[P2]24頁、被告代表者5頁)。 イ ピーアクロスにおける短文情報配信事業計画 短文情報配信の方式が変更となることを機に、短文情報配信事業者としては、従来のポケットベルの方式を利用している顧客を、新方式へ移行させることが必要となったが(顧客を新方式へ移行させることを「巻き取り」と称していた。なお、その際、新方式に対応した端末機器の調整が必要であった。)、Mでは、短文情報配信サービスを提供すると共に、上記巻き取りと新規顧客の開拓を行うという事業が計画され、平成12年11月、ピーアクロスが上記事業を実施するために設立された(甲22)。 しかし、ピーアクロスは、短文情報配信事業を実施するにあたり、独自に新方式に対応したシステムを開発することができず、後記ウのとおり、原告に同システムの開発を依頼し、グローバルを通じて、原告が開発した新方式に対応したシステムを導入し、平成14年10月から短文情報配信事業を始めた(甲15)。 Mの従業員であったP1は、ピーアクロスの取締役に就任し、上記事業を担当した。 ウ 原告による本件ソフトウェアの開発 原告は、前記イのとおり、ピーアクロスからシステム開発の依頼を受けた。原告としては、NTTドコモとの取引があり、短文情報配信サービスに関するシステムの開発にはメリットがあると考え、また、Mとの取引において、同社の取引担当者で信頼していたP1が、ピーアクロスの取締役として短文情報配信事業を担当するということであったので、数千万円の開発費を投じ、上記システムを開発した。 本件ソフトウェアは、上記システム中、入力サーバにおいて使用されるプログラムによって構成されており、代金400万円でピーアクロスに提供された。 (甲21、証人P2) (2) ピーアクロスの短文情報配信事業からの撤退と新会社設立の計画ア ピーアクロスは、前記(1)のとおり、短文情報配信事業を始めたが、採算等の関係から、クイックキャスト(ポケットベル)からDoPa への移行(巻き取り)の事業に特化し、新規顧客開拓事業を行わないこととなった。 P1と、ピーアクロスの従業員でP1の部下であったP3とP4は、LED表示板設置工事業を営んでいる被告(当時の商号:歩システム株式会社)の代表取締役であるP5に対し、短文情報配信事業の立ち上げを提案し、平成17年4月ころ、伊丹空港において、P1とP4が、グローバルの代表者であるP6と共に、P5に会って依頼した(甲22、乙11、証人[P1]10頁、被告代表者1頁以下)。 その結果、上記事業を引き継ぐ事業主体として新会社を設立することとし、その責任者として、P1がピーアクロスを退職して、新会社における事業の責任者となることが計画された(甲22、証人P1)。 イ 原告への協力依頼 P1は、新会社における短文情報配信事業のため、原告に対し、協力を求めたところ、原告は、これまでの取引を通じて、P1との信頼関係があったことや、原告としても、短文情報配信サービスに関するシステムを開発した後、使用回線を維持し、通信機器(端末)の売上をあげるためにも、新規顧客の開拓は必要であると考え、P1の求めに応じることとした(甲21、22、証人P2、同P1)。 (3) P1に対する使用許諾 P1は、前記(2)のとおり、原告や被告の協力を得て、新たな会社を設立した上、短文情報配信事業を行うこととなった。 このため、P1は、平成17年5月6日、原告の本社を訪れ、次の合意をし、これを記載したメモ(甲16。手帳の大きさの用紙に記載し、P1が署名押印したものである。原告のP2部長宛であるが、原告としては、追認していると解するのが相当である。)を差し入れた。 1. 新会社を設立するにあたり、P1個人が原告から入力サーバソフト(本件ソフトウェア)を借用する。 2. 上記ソフトの使用料は、当初、無償とするが、新会社の収益状況を勘案し、将来は有償とする。有償化については、原告とP1が協議し、時期及び価格を決定する。 3. P1は、個人的に借用した上記ソフトを、新会社が運用するサーバシステムにセットし、使用する。 4. 新会社に不測の事態が発生したとき及びP1が新会社の事業を離れるときは、上記ソフトの運用を速やかに停止し、セットしたサーバから削除する。 (4) 被告による本件事業の開始 ア 新会社設立の取りやめ 前記(2)のとおり、当初、新会社を設立し、短文情報配信事業を行うことが予定されていたが、平成17年4月25日には、P5から、P1に対し、新会社を設立することはせずに、被告の商号を「日本メディアコミニュケーションズ株式会社」と変更し、被告が上記事業を行うこととなり、P1は、ピーアクロスを退職し、被告の取締役として就任することとなった。 イ 本件ソフトウェアのインストール 被告は、短文情報配信事業(本件事業)を開始するにあたり、サーバ等の器材を378万0451円でグローバルを通じて購入することとなった。実際には、代金の入金トラブルがあったため、P1が立て替え、その後、被告から上記立替金を回収したが、上記器材の売買は、形式上、グローバルからP1への売却という形となった(甲22、証人[P1]21、45頁)。 原告は、上記サーバに本件ソフトウェアをインストールした(このとき、もしくは、その後、他の媒体にバックアップがとられている可能性がある。)。本件ソフトウェアのインストールについて対価の請求はなかったが、顧客の端末151台の初期設定費用として合計126万8400円を支払った(甲22、乙11)。 ウ 本件事業の開始 被告は、平成17年6月ころから、本件事業を開始した。 ピーアクロスは、引き継ぎ前、約2000件の顧客を有していたが、クイックキャストからDoPaへの移行の際、契約を解消する顧客がいて、約1000件に減少していた。被告が、そのうち、引き受けた顧客は多くはなかった(被告代表者21頁)。 (5) P1の退任と被告による本件事業の継続 ア Mの申し入れ P1は、Mから、P1が本件事業に関与することは、競業避止義務に違反するとして、本件事業から撤退するよう求められた。 また、被告の内部においても、Mの上記意向が伝えられたことから、P1が、本件事業に関与することが困難となり、P1は、平成17年8月22日、被告の取締役を退任した上、同月末日までに被告を退社した(甲22、乙11)。 イ 関係調整の試み 前記アのとおり、P1が被告において本件事業に関与することが困難になったことが原告やグローバルにも伝わった。 原告としては、P1との信頼関係から、P1個人に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したことから(本件ソフトウェアは有体物ではないので、占有の移転を前提とする「貸与」があったわけではない。)、P1が本件事業から退く以上は、本件事業において本件ソフトウェアを無償で使用されることを放置することができず(甲21)、P1とP5との関係の修復を望んでおり、グローバルの代表者であるP6が、修復を試みたが、関係の修復には至らなかった(甲23)。 そのころ、P1は、ピーアクロスの短文情報配信事業を全て買い取れば、競業避止義務の問題はなくなると考え、ピーアクロスとの間で、短文情報配信事業の譲渡についての交渉もしたが、結局、譲渡された事業の営業主体がP1か被告かという点で、P5との間の調整がつかず、P1の上記計画は進展することはなかった。 ウ 9月20日の会合 前記イのとおり、P1とP5の関係調整が難航していたところ、原告の本社において、P2(原告部長)、P5(被告代表者)、P6(グローバル代表者)、P1らが集まって、協議が行われた。 結局、この協議においても関係の調整はできなかったが、P2は、原告の立場として、P1の関与がない限り、本件事業に本件ソフトウェアを使用することはできないので、P1との関係を修復するよう依頼し、P1が本件事業に関与することができない以上は、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバから削除することを申し入れ、P5は、これを了解した。 エ 被告による本件事業の継続 前記ウの会合によっても、P1は本件事業に復帰することはできず、一方、被告は、本件ソフトウェアを使用して、本件事業を続けた。 (6) 原告による事業の継承 原告は、前記(5)の事情により、自ら、短文情報配信事業を実施せざるを得ないと考え、平成17年11月、nb@info の名称で、短文情報配信事業を始めた(甲1〜3)。 2 本件ソフトウェアの権利の帰属(争点1) 被告は、原告が本件ソフトウェアを開発したのは、ピーアクロスからの発注によるものであり、当然、プログラム著作権はピーアクロスに移転されているはずである旨主張する(原告が上記経緯により、本件ソフトウェアを開発したこと自体争いはない。)。 しかし、ソフトウェアの開発を依頼したからといって、当然に、ソフトウェアに係るプログラム著作権を譲渡するまでの合意をしたとはいえず、むしろ、証拠(甲8、証人P2)によると、原告は、ピーアクロスに対し、本件ソフトウェアの使用許諾をしているが、この事実は、原告が、本件ソフトウェアに係るプログラム著作権を保有していることを前提とするものである。 被告が主張するような、原告からピーアクロスに対するプログラム著作権の譲渡を認めることはできず、現在も、原告が本件ソフトウェアに関するプログラム著作権を有していると認められる。 3 被告による本件ソフトウェアの複製(争点2) 前記1(4)のとおり、被告は、本件事業に使用するサーバを準備し、これに本件ソフトウェアをインストールしたことが認められるが、実際にインストールしたのは原告であり、上記インストールを原告の本件ソフトウェアに係るプログラム著作権を侵害する複製行為ということはできない。 したがって、被告が、その後、本件ソフトウェアの使用を継続しているものの(前記1(5))、著作権法113条2項の適用もなく、被告の本件ソフトウェアの使用の継続のみをもって、本件ソフトウェアに関するプログラム著作権を侵害しているということはできない。 また、被告が、本件ソフトウェアを違法に複製した事実を認める証拠もない。 4 主位的請求のまとめ 前記3のとおり、原告は、本件ソフトウェアの著作権侵害を理由として、本件ソフトウェアの使用の差止、削除を求めることはできず、損害賠償についても同様である。 なお、原告は、本件ソフトウェアの所有者であるから、所有権に基づいて、本件ソフトウェアの使用差止等を請求することができるとも主張するが(原告第2準備書面)、本件ソフトウェアは有体物ではなく、所有権の対象となるものではなく、主張自体失当である。 5 本件ソフトウェアの使用中止等合意の成否(予備的請求)(争点6) (1) 9月20日の会合における合意 ア 原告・被告間における本件ソフトウェアの使用許諾契約の存否 前記1(2)ないし(4)のとおり、原告は、P1に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾したことが認められるが、当時、設立が予定されていた新会社に対し、直接の使用許諾をしたと認めるに足る証拠はない。 もっとも、短文情報配信事業は、会社が事業の主体となることも予定されており、本件ソフトウェアの使用を許諾されたP1が、新会社において、短文情報配信サービスのために、本件ソフトウェアを使用することは当然の前提となっていたと認められる。 イ P1の使用権限の期限 前記1(3)のとおり、原告は、P1に対し、本件ソフトウェアの使用を許諾するにあたり、P1が新会社の事業から離れたときは、本件ソフトウェアを削除することを前提として使用許諾し、P1は、同事業から離れるときには、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバから削除することを合意したことが認められる。 ウ 9月20日の会合における合意 前記1(5)のとおり、平成17年9月20日に開かれた会合において、P1とP5の関係を調整することにより、本件事業を継続できるよう協議されたが、その際、P2やP6は、P5に対し、前記ア、イの事情を踏まえた上で、P1が本件事業から退いた場合には、本件ソフトウェアの使用を中止することになる旨説明し、P5においてこれを了承した。 なお、上記会合における会話の録音結果(甲21、乙10)には、P5が、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバ等から削除すること及びその時期について、明確に言及した部分は見あたらないが、前記1(3)の事実に加え、証拠(証人[P2]17頁、同[P1]24頁)及び弁論の全趣旨によると、原告が本件ソフトウェアの使用を許諾している相手はP1であること、P1が本件事業から退いた場合には、P1は、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバ等から削除する義務を負うところ、P5は、これらの事情を知りながら、P2らとの会合に際し、特に反対の意見を述べることなく、被告においても同様の義務を負うことを認識している趣旨の発言をしたと認めることができる(少なくとも、前記録音結果〔甲21、乙10〕には、被告が、無条件に本件ソフトウェアの使用を継続することを前提とした言及はP5からもなく、会話の内容は、むしろ、上記認定に沿うものということができる。)。 したがって、被告は、上記会合において、P1が復帰することがないことが確定的となることを期限として、これらの義務を履行する旨約したと認めるのが相当である。 (2) P1の本件事業からの撤退 前記1(5)のとおり、P1は、平成17年8月22日、本件短文情報配信事業を引き継いだ被告(前記(1)ア、イの「新会社」に相当する。)の取締役を退任し、同月末日までに被告を退社し、その後、前記(1)ウの会合を開いた後、復帰に向けての動きはなく、現在に至るも、本件事業に復帰することはなかった。 以上によると、P1は、遅くとも平成17年9月末日までには、本件事業から確定的に退いたというべきである。 (3) 被告の債務不履行 以上によると、被告は、原告に対し、平成17年9月末日の時点で、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバから削除する義務を負っているというべきであり、被告が、その後も本件ソフトウェアの使用を継続していることは、上記合意の債務の履行を遅滞しているというべきである(ところで、前記1(3)、(4)によると、P1は、原告から、本件ソフトウェアの使用許諾を受けたが、許諾の期限が経過した場合、P1において、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバ等から削除する義務があると認められる。一方、P1は、被告に対し、本件ソフトウェアを本件事業のために使用することを許諾していたと認められるが、P1への使用許諾が終了した以上、民法613条〔本件のような無償再許諾にも準用を認めるのが相当であると考えられる〕の。趣旨を類推し、被告においても、本件ソフトウェアの使用中止とサーバ等からの削除義務が発生していると解することができる。)。 6 損害(争点6、5) (1) 債務不履行による消極損害(逸失利益) ア 被告が本件ソフトウェアの使用を継続したことによる逸失利益 原告は、被告の債務不履行(前記5(3))による逸失利益として、被告が顧客から得た利益640万円と、本件ソフトウェア代金相当額400万円をあげる。 しかし、本件において、被告の本件ソフトウェアの使用の継続がなければ得られたであろう原告の利益とは、被告が本件ソフトウェアの使用を中止することにより、本件事業の顧客が、被告との利用契約を解消し、原告と利用契約を締結した結果、上記顧客から得ることのできた利益と解するのが相当である。したがって、被告の得た利益全額をもって、当然に、原告の逸失利益ということはできない(前記4の結果、著作権法114条2項を適用して損害額を推定することはできない。)。 また、原告としては、被告が本件ソフトウェアの使用を中止すべき時点の前後を通じて、他に短文情報配信事業を行う業者が本件ソフトウェアの使用を希望した際、これに使用許諾することに何ら支障はなかったわけであり、本件ソフトウェアの代金をもって、原告の逸失利益ということもできない。 そこで、以下、被告が、平成17年9月末日の経過をもって、本件ソフトウェアの使用を中止することにより、原告が得たであろう利益を検討する。 イ 逸失利益算定の期間 主位的請求では、平成17年9月1日から平成20年12月末日までの40か月の逸失利益を請求していたところ、予備的請求では、平成17年10月1日からの逸失利益として同様の計算方法により同額の逸失利益を請求しているので、原告としては、予備的請求により平成17年10月1日から、同じく40か月間(平成21年1月末日まで)の逸失利益を請求しているものと解する。 ところで、原告の逸失利益というときは、原告が短文情報配信事業を行ったことを前提とするべきであるが、前記1(6)のとおり、原告が上記事業を始めたのは、平成17年11月であるから、結局、平成17年11月1日から39か月間の逸失利益を算定することとする。 ウ 上記イの期間の平均顧客数 証拠(乙9)によると、乙9作成当時、被告には合計184件の顧客がいたことが認められるが、平成17年11月以降39か月間の顧客の変動の詳細は不明である。しかも、被告が本件ソフトウェアの使用を中止することによって、これらの顧客が別の短文情報配信事業者と契約するか否かは不明である。また、競合する事業者の具体的内容も不明であり、結局、被告が本件ソフトウェアの使用を中止することによって、原告との間で契約を締結したと認めることのできる顧客は、せいぜい上記期間中、100件程度と認めるのが相当である。 エ 1件あたりの利益 原告は、被告が、平成17年9月から40か月間、200件の顧客から640万円の利益を得たと主張し(1件あたり1か月800円)、証拠(甲19)には、これに沿う記載がある。もっとも、上記800円には、一般販売管理費のうち変動経費の控除がされていない。 一方、証拠(乙9)によると、被告の本件事業における1件あたりの利益(限界利益)は1か月611円である。なお、被告は、家賃500円も経費であるとするが、本件事業のために一定のスペースを確保する必要があったとはいえ、新たに事務所面積を拡張したというような事情は窺えず、変動経費として控除すべき経費とは認められない。また、被告は、初期投資額として合計616万8451円を計上するが、これらは、いずれも、本件事業を実施するために必要な経費ではあるが、その顧客の数に関係なく必要な経費であり(サーバ機器は、他にも転用することができるものである。)、変動経費として控除すべき経費とはいえない。 以上を総合すると、原告の逸失利益を算定するにあたり、1件あたりの得べかりし利益は、被告において得ていたのと同額の1か月611円と認めるのが相当である。 オ まとめ 以上によると、被告が本件ソフトウェアの使用を継続したことによる原告の逸失利益は238万2900円と認めるのが相当である。 〔計算式〕611×100×39 = 2,382,900 (2) 債務不履行による積極損害 ア クレーム対応費 原告は、被告が劣悪な環境下で本件ソフトウェアの使用を継続した結果、苦情処理の対応を行わざるを得なくなったと主張する。 証拠(甲21、証人P2)には、これに添う供述部分もあるが、具体的なクレームの存在を裏付ける証拠はなく、また、このクレームにより、具体的にどのような損害が生じたのかを認めるに足る証拠もない。 イ 弁護士費用 原告は、予備的請求においても、弁護士費用相当額の損害賠償を求めているが、予備的請求は、合意に基づく債務の不履行から生じる損害であることを考えると、弁護士費用を前記5(3)の債務不履行と相当因果関係のある損害ということはできない。 (3) 遅延損害金 前記5(3)の債務不履行による損害が、履行期である平成17年9月末日の経過をもって直ちに全額発生するわけではなく、平成17年10月1日以降40か月が経過するまでの間に、継続的に損害が発生し、前記(1)オの金額にまでなったと認められる。 そして、これらの損害賠償は、請求により履行遅滞となると解するから、請求の趣旨変更の申立書の送達された平成21年5月22日の経過をもって遅滞となり、同月23日から年6%の遅延損害金が発生する。 第5 結論 以上によると、原告の主位的請求は理由がないから、これを棄却し、予備的請求は、本件ソフトウェアの使用の差止とコンピュータの記憶装置からの削除、損害賠償238万2900円及びこれ対する平成21年5月23日から支払済みまで年6%の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認め、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、主文2(3)の仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して(主文2(1)、(2)については、仮執行宣言を付することは相当でないから、これを付さないこととする。)、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 達野ゆき 裁判官 北岡裕章 プログラム目録 ニュースソースから送信されてくるデータを要約し、配信サーバへ送信できる状態に加工するソフトウェア(名称:ASP 表示器用データ入力サーバソフト)を構成するプログラムで、次のファイルに記載されたもの (1) FTPSystem.exe (2) NB_ACAdpter.exe (3) NB_ANTType.exe (4) NB_BoxInfo.exe (5) NB_CNTType.exe (6) NB_Cnv.exe (7) NB_Cnv24.exe (8) NB_CnvOriginal.exe (9) NB_CorpInfo.exe (10) NB_DbDel.exe (11) NB_FtpMail.exe (12) NB_FtpSv.exe (13) NB_Jyanru.exe (14) NB_Keiho.exe (15) NB_Kisyo.exe (16) NB_Kisyo24.exe (17) NB_Kisyu.exe (18) NB_Kokyaku.exe (19) NB_LEDContnts.exe (20) NB_LEDKeiyaku.exe (21) NB_Menu.exe (22) NB_Parameter.exe (23) NB_Port.exe (24) NB_Restart.exe (25) NB_SelSend.exe (26) NB_SetUp.exe (27) NB_SndDt.exe (28) NB_Version.exe (29) NB_Yoho.exe |
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