判例全文 line
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【事件名】“売上高データ”の著作物性事件B
【年月日】平成22年2月25日
 東京地裁 平成20年(ワ)第32147号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成22年1月21日)

判決
原告 株式会社通販新聞社
同訴訟代理人弁護士 川村武郎
被告 株式会社秀和システム
同訴訟代理人弁護士 行方國雄
同 宮澤昭介
同 吉野史紘


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する平成20年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙対照表記載の原告図表1ないし12について著作権を有すると主張する原告が、被告の発行する書籍「最新通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本(以下「被告書」籍」という。)に原告に無断で上記図表の全部又は一部が掲載されており、原告の著作権(複製権)が侵害されていると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、500万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成20年12月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
 原告は、通信販売(以下「通販」という。)業界についての新聞誌書籍等を出版することを業とする株式会社であり、1か月に4回、「週刊通販新聞」と題する新聞(以下「通販新聞」という。)を発行している(甲19)。被告は、出版物の販売等を業とする株式会社であり、平成20年7月5日、被告書籍を発行した。
 Aは、被告書籍の著者である。Aは、原告の元従業員であり、被告書籍を執筆した当時、通販新聞の編集長を務めていた。
(2) 原告図表の通販新聞への掲載
 原告は、平成19年3月1日から平成20年4月24日までの間に発行された通販新聞の紙上に、別紙対照表記載の原告図表1ないし12(以下「原告図表1」などといい、これらを総称して「原告図表」という。)を掲載した。原告図表は、原告従業員が職務上作成したものである。
(3) 被告図表の被告書籍への掲載
 被告書籍には、別紙対照表記載の被告図表1ないし12(以下「被告図表1」などといい、これらを総称して「被告図表」という。)が掲載されている。
 被告書籍は、第1章ないし第10章の本文部分に、「はじめに」及び付録(資料編)を加えた、通販業界に関する解説書であり、総頁数は215頁である(甲18)。
 被告書籍は、原則として、奇数頁(見開きの左頁)に図表等を掲載し、偶数頁(見開きの右頁)にその解説記事を掲載するという体裁をとっている。
(4) 原告図表と被告図表の対比
ア 原告図表と被告図表がほぼ同一であるもの
 別紙対照表記載のとおり、原告図表1は被告図表1と、原告図表2は被告図表2と、原告図表8は被告図表8と、原告図表11は被告図表11と、原告図表12は被告図表12と、それぞれ、ほぼ同一の図表である。なお、原告図表12の中の「1 53%」における「1」とは、「新規客の開拓」を指し、同表中の「2 11%」における「2」とは、「既存顧客の継続化」を指すものである(甲15の2)。
イ 原告図表の一部を抜粋して被告図表が作成されているもの
 別紙対照表記載のとおり、被告図表3ないし7、9及び10は、それぞれ、原告図表3ないし7、9及び10の一部を抜粋して作成されたものである。
 被告図表において原告図表を抜粋して用いている具体的な箇所は、次のとおりである。
(ア) 被告図表3は、原告図表3の中から、上位10社の「前期実績」欄及び「増減率」欄を抜粋して作成されたものである。
(イ) 被告図表4は、原告図表4の中から、上位30社の「06年度実績」欄を抜粋して作成されたものである。
(ウ) 被告図表5は、原告図表5の中から、上位30社の「前期実績(化粧品通販売上高)」欄を抜粋して作成されたものである。
(エ) 被告図表6は、原告図表6の中から、上位30社の「前期売上高(実績)」欄を抜粋して作成されたものである。
(オ) 被告図表7は、原告図表7の中から、上位30社の「実績」欄を抜粋して作成されたものである。
(カ) 被告図表9は、原告図表9に掲載された記事の大半を抜粋して作成されたものである。原告図表9から抜粋されなかった記事は、「ネットプライスが持株会社体制に移行」(2月)、「オーバーチュア、『スポンサードサーチ』の掲載順位決定基準を変更」(7月)、「ドコモとグーグルが08年春から業務提携へ」(12月)など、わずかである。
(キ) 被告図表10は、前期経常利益額の上位80社の順位表である原告図表10に記載された、上記各社の前期経常利益の対売上高比率を基に、対売上高比率の上位20社の順位表を作成したものである。
2 争点
(1) 原告図表は編集著作物であり、被告図表を被告書籍に掲載する行為は、著作権(複製権)侵害に当たるか(争点1)
(2) 被告図表を被告書籍に掲載した行為は、著作権法32条1項所定の「引用」に当たるか(争点2)
(3) 原告は、被告書籍に原告図表を掲載することを許諾したか(争点3)。
(4) 原告の損害(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告図表は編集著作物か)について
[原告の主張]
 原告図表は、著作権法12条1項所定の編集著作物に該当する。
 著作権法12条1項は、素材が単なる事実や事象であったとしても、その収集、分類、選択、配列が編集者の一定の方針又は目的のもとに行われ、そこに独創性を見い出すことができれば、全体を著作物として扱う旨を定めている。原告図表は、以下のとおり、原告が独自に行った調査によって得たデータを、原告において整理、選択し、これを分かりやすく加工して図表にまとめたものであるから、編集著作物に該当する。
 また、被告図表は、前記1(4)のとおり、原告図表1、2、8、11及び12とほぼ同一であるか、原告図表3ないし7、9及び10の一部を抜粋して作成されたものであるから、被告図表を被告書籍に掲載した行為は、原告図表に係る原告の著作権(複製権)を侵害したものである。
ア 原告の行った調査
 原告は、30年以上の長きにわたって、1年に2回、通販業界の主な会社を対象として、各社の業績(売上高、経常利益等)や業績の増減要因等についてアンケート調査(以下「本件調査」という。)を行っている。
 本件調査における調査項目の設定には、その時々の問題点を凝縮した、原告独自の工夫が凝らされている。また、調査項目の中には、調査対象企業の秘密事項にわたるものもあるので、調査対象企業の協力を得るには、これらの企業との間に信頼関係を構築し、これらの企業に、原告のためにデータを提供しようという意思を喚起させることが必要である。
 原告は、通販新聞の創刊以来原告が築き上げてきた信用と実績を基に本件調査を実施し、調査対象企業の大半から回答を得ている(なお、アンケート用紙が返送されなかった企業に対しては、原告従業員が電話で又は当該企業を訪問して説得を重ねるなどして、調査に協力を得ている。)。
 原告図表は、本件調査によって原告が収集したデータ(本件調査に協力が得られなかった企業については、原告において根拠ある推測をしたもの。)に基づくものであるところ、上記のとおり、同データは、原告の独自の工夫と能力によってのみ収集し得るものである。
 したがって、原告図表が編集著作物に当たるか否かを判断するに当たっては、このようなデータ(素材)を収集する過程についても考慮すべきである。
イ 原告図表における創作性
 原告図表について、素材の選択又は配列に創作性が認められる具体的な点は、次のとおりである。
(ア) 原告図表1
 原告図表1は、本件調査により収集したデータに基づき、通販市場における各年度の売上高について、1983年度から2007年度までの25年間分を棒グラフで表し、これに、同期間における各年度の売上高の前年比増減率を折れ線グラフで表したものを組み合わせたものである。
 同図表によって、通販業界の現状、すなわち、日本の通販市場が、一時的な落ち込みはあったものの、この25年間で6.3倍に成長し、4兆円の市場規模が目前にあることを、一目で把握することができる。
(イ) 原告図表2
 原告図表2は、本件調査の対象企業の中からテレマーケティングに分類される会社を抽出し、その売上高に従い上位5社までを順位付けし、各社の売上高の増減率及び決算月のデータを並記したものである。
 売上高の増減率は、各企業の成長の可能性及びこの業態そのものの成長の可能性を探ることのできるものであり、同図表によって、通販業界の周辺産業の重要な一角を担うテレマーケティング業界も順調に成長し、最大手には1000億円規模の売上高を誇る企業も誕生していることや、これを追う有力企業も成長していることを読み取ることができる。
(ウ) 原告図表3
 原告図表3は、本件調査の対象企業の中からテレビ通販関連に分類される会社を抽出し、その売上高に従い上位30社までを順位付けし、各社の売上高の増減率及び決算期のデータを並記したものである。
 同図表によって、販売ツールとしてテレビを用いた通販企業の実力度(売上高)を、その成長力、将来性を含めて容易に読み取ることができる。
(エ) 原告図表4
 原告図表4は、本件調査の対象企業の中から健康食品の通販を扱う企業を抽出し、その売上高に従い上位50社までを順位付けし、翌年度の売上高の見込み、売上高の増減率、本社の所在地、決算月及び主力商材(主力商品)のデータを並記したものである。
 同図表は、健康食品の通販市場における勢力図の俯瞰図ともいうべき内容を有しており、健康食品を扱う通販企業の上位50社の売上規模及び成長要因を、商材との関係で一目で読み取ることができる。
(オ) 原告図表5
 原告図表5は、本件調査の対象企業の中から化粧品の通販を扱う企業を抽出し、その売上高に従って上位40社までを順位付けし、各社の売上高の増減率、決算月及び主力商材/ブランド・商品名のデータを並記したものである。
 同図表により、化粧品を扱う通販企業の上位40社について、その実力度(売上高及びその増減率)をその背景にある主力商材との関連で読み取ることができる。
(カ) 原告図表6
 原告図表6は、本件調査に基づき、通販・通信教育(以下「通教」という)を実施している企。業をその売上高に従って上位40社まで順位付けし、これに、各社の今期の売上高の見込み、売上高の増減率、決算月、本社所在地及び業態/主力媒体/主力商品のデータを並記して、統一的に理解しやすいようにしたものである。
 同図表により、我が国の上位通販企業の概要を一目瞭然に読み取ることができる。
(キ) 原告図表7
 原告図表7は、本件調査の対象企業の中から食品の通販を扱う企業を抽出し、その売上高に従い上位50社までを順位付けし、これに、各社の次年度の売上高の見込み、売上高の増減率、決算期、本社所在地、品目/媒体及び業態(食品通販売上高占有率)のデータを並記して、分かりやすくまとめたものである。
(ク) 原告図表8
 原告図表8は、ネット販売の好調な通販企業として、千趣会及びニッセンをとりあげ、両社の2007年度の売上高を分析し、2008年度の見込みを展望したものである。とりわけ、2008年度の見込みの数値は、原告独自の取材分析によるものである。
 同図表は、読者に注目を浴びることの多い両社についての取材分析結果を分かりやすく提供している。
(ケ) 原告図表9
 原告図表9は、原告が、日常的に業界から入手した膨大な情報の中から、2007年のネット販売の動向として重要であると判断したものを取捨選択し、一覧表にまとめたものである。上記取捨選択及び記事とする際の文言の工夫は、原告ならではのノウハウによっている。
(コ) 原告図表10
 原告図表10は、本件調査に基づき、通販・通教を実施している企業をその経常利益高に従い上位80社まで順位付けし、これに、各社の経常利益の増減率、経常利益の対売上高比率、今期の経常利益(見込み額、増減率、対売上高比率)、主要品目及び決算月のデータを並記したものである。
 同図表により、売上高経常利益率という視点から、効率経営面で成果を上げている企業の実力度を読み取ることができる。
(サ) 原告図表11
 原告図表11は、通販業界における現在の最重要関心事の一つである、「原材料値上げの通販業界への影響」について、原告が主要な通販企業に対して実施したアンケートの結果を、2つの円グラフとしてまとめたものである。
(シ) 原告図表12
 原告図表12は、現時における通販業界の最重要課題に関して原告が実施したアンケートの分析結果を、円グラフとして記載したものである。
[被告の主張]
 原告の主張を争う。
 編集物が著作権法12条1項所定の編集著作物として保護されるためには、その素材の選択又は配列に創作性を有することが必要であるところ、原告図表における素材の選択及び配列は、以下のとおり、いずれも、一般的でありふれたものであり、創作性を有するものではない。
 また、素材それ自体の価値や、素材を収集するために費やした労力などは、著作権法によって保護されるものではないから、編集著作物性の判断に当たってこれらの点を考慮すべきではない。したがって、仮に、原告図表に掲載された情報(通販各社の売上高や経常利益等)を収集するために原告が相当の労力、資金等を費やしたのだとしても、かかる事実は、原告図表が編集著作物であることを基礎付けるものではない。
 仮に、原告図表が編集著作物に当たるとしても、以下のとおり、原告図表3ないし7及び10については、被告書籍において原告図表の一部が掲載されているだけであり、原告図表において「素材の選択又は配列」に創作性が認められる部分を掲載したものではないから、編集著作物の複製権侵害は成立しない。
ア 原告図表1について
 原告図表1は、過去25年間における通販の売上高及びその増減率を、年度順にグラフ化したものである。
 しかしながら、ある特定の業界における経済動向を説明するに際して、当該業界における売上高やその増減率を利用することは、極めて一般的である。したがって、売上高及びその増減率という素材を選択することは、ありふれたものであり、かかる素材の選択に創作性は認められない。
 また、売上高とその増減率を年度順にグラフ化して配列することも、一覧性を出して年次ごとの経済動向を分かりやすくするために一般的に行われる手法であり、ありふれた配列方法である。
イ 原告図表2について
 原告図表2は、2006年度におけるテレマーケティング企業各社の売上高、増減率及び決算月を、上位5社まで売上順に並べたものである。
 しかしながら、上記アのとおり、ある特定の業界における経済動向を説明するに際して、売上高やその増減率という素材を選択することは、ありふれたものである。また、各企業の売上高及びその増減率を計算する期間を特定するために決算月を調査の対象とすることは珍しくないので、決算月という素材を選択した点についても、創作性は認められない。
 また、売上高に応じて順位を付し、売上高の大きいものから順に配列するという方法も、業界の実態を把握するために一般的に行われる配列方法であり、創作性は認められない(この点は、原告図表3ないし7についても、同じである。)。
ウ 原告図表3について
 原告図表3は、2006年度のテレビ通販各社の売上高、増減率及び決算期を売上順に並べたものであるが、このような素材の選択及び配列方法に創作性が認められないことについては、上記イのとおりである。
 また、被告図表3は、原告図表3の全部をそのまま利用しているわけではなく、原告図表3の中から、上位10社の「前期実績」(前期売上高)欄及び「増減率」欄を抜粋して作成されたものである。すなわち、被告図表3は、原告図表3における「素材の選択及び配列」のうち、「前期の売上高」及び「前期売上高を前々期売上高と比較した場合の増減率」という素材の選択方法と、「売上高の多い順に、上位10社を順位を付して縦一列に並べる」という配列方法を利用しているにすぎない。このような素材の選択及び配列に創作性が認められないことについては上記イのとおりであるから、被告図表3を被告書籍に掲載した行為は、原告図表3に係る原告の著作権(複製権)を侵害したものではない。
エ 原告図表4について
 原告図表4は、2006年度の各社の通販健康食品の売上高(実績)、増減率、07年度売上高予想、本社所在地、決算月及び主力商材/主力商品について、売上順に並べたものである。
 しかしながら、ある特定の業界における経済動向を説明するに際し、前期の売上高や、その増減率、決算月という素材を選択することは、上記イのとおり、ありふれたものである。また、「今期売上高(見込み及び増減率)」という素材の選択も、今後の経済動向を予測するという観点から、従来より行われている一般的な選択方法である。「本社所在地」や「主力商材/主力商品」という素材も、調査対象となっている会社の基本的な情報として一般的に関心のある重要な情報であり、調査対象となることも多い。
 したがって、原告図表4における素材の選択に創作性は認められない。また、被告図表4は、原告図表4の全部をそのまま利用しているわけではなく、原告図表4の中から、上位30社の「06年度実績」(前期売上高)欄を抜粋して作成されたものである。すなわち、被告図表4は、原告図表4における「素材の選択及び配列」のうち、「前期の売上高」という素材の選択方法と、「売上高の多い順に、上位30社を順位を付して縦一列に並べる」という配列方法を利用しているにすぎない。このような素材の選択及び配列に創作性が認められないことについては上記イのとおりであるから、被告図表4を被告書籍に掲載した行為は、原告図表4に係る原告の著作権(複製権)を侵害したものではない(この点は、被告図表5ないし7についても同様である)。
オ 原告図表5について
 原告図表5は、2006年度における各社の通販化粧品の売上高、増減率、決算月及び主力商材/ブランド・商品名について、売上順に並べたものである。
 売上高、その増減率、決算月及び主力商材という素材を選択することに創作性が認められないことについては、上記エのとおりである。また、ブランド・商品名という素材も、調査対象となっている会社の基本的な情報として一般的に関心のある情報であることから、同素材を選択することもありふれたものである。
 したがって、原告図表5における素材の選択に創作性は認められない。
カ 原告図表6について
 原告図表6は、各社における通販・通教の前期売上高(実績及び増減率、今期売上高(見込み) 及び増減率)、決算月、本社所在地及び業態/主力媒体/主力商品について、前期の売上順に並べたものである。
 前期売上高(実績及び増減率)、今期売上高(見込み及び増減率)、決算月、本社所在地及び主力商品という素材を選択することに創作性が認められないことについては、上記エのとおりである。また、業態/主力媒体という素材も、調査対象となっている会社の基本的な情報として一般的に関心のある重要な情報であり、調査の対象となることも多いため、かかる素材の選択方法も、個性のない一般的なものである。
 したがって、原告図表6における素材の選択に創作性は認められない。
キ 原告図表7について
 原告図表7は、2006年度における各社の食品通販の売上高、増減率、翌年度の売上高の見込みとその増減率、決算期、本社所在地、品目/媒体及び業態について、売上順に並べたものであるが、このような素材の選択に創作性が認められないことについては、上記カのとおりである。
ク 原告図表8について
 原告図表8は、千趣会及びニッセンにおけるネット売上高、モバイル売上高及びネット会員数について、2007年度実績及び2008年度の実績見込みを表にしたものである。
 ネットによる通販の実態を把握するために、ネット売上高全体、モバイル売上高及びネット会員数という素材を選択することは、通販業界に限らずよく行われる一般的な方法であり、その素材の選択に創作性は認められない。
 また、通販大手2社の数字を配列することも、一般的な配列方法であり、その配列に創作性は認められない。
ケ 原告図表9について
 原告図表9は、2007年のネット通販業界において各月に発生した客観的な事象を、時系列に沿って配列したものである。
 同表に記載された客観的事実は、「PCのネット販売大手、サクセスが倒産」や、「ヤフーと米イーベイが提携、日米でネット競売事業」など、通販業界に比較的大きな影響を与えたといえる事実である。したがって、かかる素材を選択することは、通販業界の動向を把握する上で誰もが考えつく一般的なものであり、その素材の選択に創作性は認められない。
 また、ネット販売の主な動向を時系列に沿って月ごとに配列することも、一般的な配列方法であり、創作性は認められない。
コ 原告図表10について
 原告図表10は、2007年度の通販・通教関連各社の前期経常利益(実績、増減率、対売上高比率)、今期経常利益(見込み、増減率、対売上高比率)、主要品目及び決算月について、前期経常利益の実績に応じて順位を付して並べたものである。
 前期経常利益(実績、増減率、対売上高比率)及び今期経常利益(見込み、増減率、対売上高比率)は、企業の経常的な採算性を表す指標として一般的に関心のある事項であるから、かかる素材を選択することは、ありふれた一般的な方法であって、創作性は認められない。また、主要品目及び決算月という素材の選択についても、上記イ及びエのとおり創作性は認められない。したがって、原告図表10における素材の選択には、創作性は認められない。
 前期経常利益の実績に応じて順位を付し、前期経常利益の大きいものから順に配列するという方法も、売上高の順に配列する場合と同様、従来から行われてきた一般的な方法であって、創作性は認められない。
 また、被告図表10は、原告図表10の全部をそのまま利用しているわけではなく、原告図表10に記載された情報(前期経常利益額及びその対売上高比率)を基に、Aにおいて、前期経常利益の対売上高比率の上位20社の順位表を作成したものである。このように、被告図表10が利用しているのは、原告図表10における「素材の選択及び配列」のうち、「前期経常利益」及び「対売上高比率」という素材の選択だけであるところ、かかる素材の選択に創作性が認められないことについては、上記のとおりである。したがって、被告図表10を被告書籍に掲載した行為は、原告図表10に係る原告の著作権(複製権)を侵害したものではない。
サ 原告図表11について
 原告図表11は、原材料の値上げに伴う主要通販企業における値上げ及び内容量縮小化の現状について、原告の実施したアンケートに対する各社の回答結果を、その割合に応じて円グラフにしたものである。
 上記円グラフに記載された素材は、原告の実施したアンケートに対する各社の回答そのものであり、かかる素材をそのまま選択することは、ありふれた選択方法である。また、アンケート結果を割合に応じて円グラフにすることは、一覧性を出して分かりやすくするために一般的に行われる配列方法である。
 したがって、原告図表11における素材の選択及び配列に創作性は認められない。
シ 原告図表12について
 原告図表12は、通販・通教事業を展開する中での現在の最重要課題や、今後課題となると捉えている点について、通販・通教事業を実施する各企業に対して原告が実施したアンケートに対する各社の回答結果を、その割合に応じて円グラフにしたものである。
 このような素材の選択及び配列に創作性が認められないことについては、上記サのとおりである。
(2) 争点2(引用の当否)について
[被告の主張]
 仮に、原告図表が編集著作物であるとしても、被告書籍における原告図表の使用行為は、いずれも、著作権法32条1項所定の「引用」に該当するため、著作権侵害は成立しない。
 すなわち、上記「引用」に該当するためには、「引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ」(明瞭区別性)、かつ、「両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる」(附従性)場合でなければならないが(最高裁第三小法廷昭和55年3月28日判決・民集34巻3号244頁等)、被告書籍における原告図表の使用行為については、次のとおり、いずれも、明瞭区別性及び附従性が認められる。なお、被告書籍中には、原告図表の一部のみを抜粋して使用している箇所(被告図表3ないし7、9、10)もあるが、他人の著作物の一部のみを使用した場合であっても、上記の明瞭区別性及び附従性の要件を充足する限りは、著作権法32条1項所定の「引用」に該当するというべきである。
ア 明瞭区別性
 本件において、引用されて利用される側の著作物(原告図表)と、引用して利用する側の著作物(被告書籍におけるAの執筆部分)とは、前者が図形の著作物著作権法( 10条1項6号)であり、後者が言語の著作物(同項1号)であって、著作物としての性質が全く異なる。
 被告書籍における掲載場所も、別の頁であって、明確に区別されている。また、被告は、原告図表の全部を利用し又は同表の一部を抜粋して、被告図表として被告書籍に掲載するに当たり、被告図表中に「出典:通販新聞」又は「出典:通販新聞社」と記載して、同図表の出典元を明示している。さらに、被告書籍の3頁の「はじめに」と題する記述の中でも、「執筆に際しましては、筆者が在籍する通販新聞社発行の『通販新聞』・・・の資料を用いた」と明確に述べられている。
 以上のとおり、被告書籍では、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とは、明瞭に区別されている。
イ 附従性
(ア) 原告図表1
 原告図表1(引用されて利用される側の著作物)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍の3頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍は、「業界の歴史や規模、仕組み、媒体、主力企業のビジネスモデル、関連法、課題など通販業界を基本的な視野から一望」でき、「一般の方でも楽しく興味深く通販業界に触れて」通販業界の動向や仕組み(カラクリ)を理解してもらうことを目的として、執筆出版されている。そして、かかる被告書籍の主眼である通販市場は、今日においても発展し続けており、具体的には、「通販新聞の売上高ランキングによれば、この25年間で市場規模は約7倍に成長」しているのであって、かかる事実をより分かりやすく視覚的に読者に伝え、被告書籍の対象となる通販業界についてより一層興味を持ってもらうための参考資料として、原告図表1を利用しているにすぎない。
(イ) 原告図表2
 原告図表2に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の32頁及び34頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「インターネットが増えたとはいえ受注件数が最も多いのはやはり電話で、大手通販では1日に5〜6万件かかることもあります。電話を受けたりかけたりする業務は『テレマーケティング』と呼ばれており、これら業務を行う部門がコールセンターで」あると説明した上で(被告書籍32頁)、テレマーケティング業務(コールセンター)は「通信販売の基本的フロー」であり「顧客との接点」となるだけでなく、「企業の『顔』としての役目も担い・・・クレームも含め、集まった顧客の声を商品開発やサービス向上に活かすためのカギを握る、重要な部門」であるとして、テレマーケティング(コールセンター)の具体的な業務内容やその運営手法、その重要性等につき解説している(被告書籍34頁)。
 被告書籍では、テレマーケティング業務が通販の基本的フローとして重要な意義を有しており、現に、かかるテレマーケティングを業として行っている企業が多くの売上高を計上していることを読者に視覚的に分かりやすくするための参考資料として、原告図表2を利用しているにすぎない。
(ウ) 原告図表3
 原告図表3に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の78頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「テレビ通販は専門チャンネルをはじめキー局や地方局、ケーブルテレビ、CS・BS放送と幅広いステージで展開されて」おり「通販新、 聞の調査によると主要30社の2006年度売上高は前年比23%増の3600億円」とされているため、「テレビ通販市場はゆうに4000億円を超えます。ランキングベスト3はジュピターショップチャンネル(JSC)、QVCジャパン、ジャパネットたかたで、他社に大きく差をつけています。中でもCS放送(スカイパーフェクトTV)に自社専門チャンネルを持つJSCとQVCの強さは揺るがず、両社を合わせた売上高は30社合計の約4割を占めている」として、現在のテレビ通販の市場規模やテレビ通販各社のシェアを解説し、その上で、デジタル化による放送と通信の融合等、テレビ通販の今後の展望を述べている。
 このように、被告書籍では、テレビ通販の市場規模やテレビ通販各社のシェア及び通販売上増減率を読者に視覚的に分かりやすく伝えるための参考資料として、原告図表3を利用しているにすぎない。また、被告書籍における引用部分は、原告図表3のすべてではなく、「テレビ通販売上高」の「前期実績」及び「増減率」という二つの項目に限定し、かつ、対象も10社に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(エ) 原告図表4
 原告図表4に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の62頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「やずややエバーライフ、アサヒ緑健・・・などの各社が青汁、酢、蜂蜜、ブルーベリーなどで市場を牽引。さらに、サントリーを筆頭にカゴメ・・・などの飲料系や・・・森下仁丹のような医薬品系など、メーカー各社がさまざまな商品を開発して通販展開してきました。ファンケルとディーエイチシーという二大化粧品通販企業も健康食品を手がけ、市場は急速に広がった」として、健康食品通販の市場動向を説明しつつ、「通販新聞の売上高調査によると06年における規模は主要50社で約3200億円。前年に比べて1.3%減と、成長ペースが鈍化してきました」として、健康食品ジャンルの現在の市場状況を解説している。
 このように、被告書籍は、健康食品市場で商品展開する通販各社の売上高を分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表4を掲載しているにすぎない。また、引用部分は、原告図表4のすべてではなく、「06年度実績」という一つの項目に限定し、かつ、上位30社に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(オ) 原告図表5
 原告図表5に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の64頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「化粧品も通販商材として確固たる地位を築いており、中でもファンケルとディーエイチシー2社の牙城は揺るぎません。ただ2社の後を追うオルビスも含め、最近は自社店舗やスーパー・コンビニへの卸など、店舗による売り上げが伸びてきました。カタログ総合通販企業も、化粧品ジャンルへの参入が加速しています。」として、化粧品通販市場において大きな売上げを計上する企業を説明するとともに、「化粧品はここ数年、通販商材として大きく成長しました。2006年の通販化粧品市場規模(通販新聞調査)は、上位40社で前年比25.6%増の2700億円となりました。」として、通販化粧品市場の成長を説明して、通販化粧品の特徴を解析し、「最近は千趣会、イマージュ・・・などのカタログ総合通販企業による化粧品ジャンルへの参入が目立ってきました。」というように、通販化粧品市場の近時の動向を解説している。
 このように、被告書籍は、通販化粧品の市場規模や売上上位企業、通販化粧品各社の具体的な売上高を分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表5を掲載しているにすぎない。また、引用部分は、原告図表5のすべてではなく、「前期実績(化粧品通販売上高)」という一つの項目に限定し、かつ、上位30社に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(カ) 原告図表6
 原告図表6に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の60頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「(社)日本通信販売協会の調査によると、2006年度の通信販売市場規模は前年比9.5%増の3兆6800億円。通販新聞社が2008年年頭に発表した『2007年売上高ランキング』では、上位250社の市場規模が3兆6278億円と伸長。前年に対する伸び率も10%増近い結果となっています。」として、通販市場全体の規模の成長について説明するとともに、「左表では、上位10社で全売上高の約37%を占めるなど、上位企業の規模が大きいことが分かります。前年に比べてジュピターショップチャンネルの伸び率が31.0%増、QVCジャパンが26.1%増、ジャパネットたかたが19.1%増と、テレビ通販の躍進が目立ちます。また、上位には千趣会、ニッセン、ベルーナなど1000億円以上のカタログ通販企業が位置し、老舗の総合カタログ通販企業が依然として業界のけん引役であることを示しています。」として、通販市場における通販各社の昨今の動向を解説している。
 このように、被告書籍は、通販市場全体の規模や通販各社の動向を分かりやすく視覚的に読者に伝えるための参考資料として、原告図表6を掲載しているにすぎない。また、引用部分は、原告図表6のすべてではなく「前期売上高(実績、 )」という一つの項目に限定し、かつ、対象も上位30社に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(キ) 原告図表7
 原告図表7に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の108頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「食品通販は産地直送品からグルメ、おせちまで幅広いのが特徴。・・・市場全体は伸びているものの、食品単独で売上高が100億円を超える事業者は10社にも満たず、上位30社でも20〜数十億円と小規模です。」と食品通販市場の概況を説明した上、「売上高200億円規模のらでぃっしゅぼーやは会員への宅配ですが、配送スタッフの対面販促などを通じ信頼性確保につなげています。」などと、食品通販の売上高において上位を占める企業の経営状況について解説している。
 このように、被告書籍は、食品通販市場の規模や概況、食品通販各社の具体的な売上高を分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表7を掲載しているにすぎない。また、引用部分は、原告図表7のすべてではなく、「実績」という一つの項目に限定し、かつ、上位30社に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(ク) 原告図表8
 原告図表8に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の112頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「手専業通販企業ではここ2〜3年はインターネットが強力な媒体として浮上。・・・カタログ大手の千趣会とニッセンは、自社サイトの仕掛けや外部からの導線整備に力を入れており、『純ネット』が全ネット売上高の半分超まで躍進しました。」と昨今の純ネット売上高の成長について概説した上、「2007年のネット売上高は、千趣会が全社総売上高の44%に当たる662億円、ニッセンが同じく31%の478億円となりました。」として両社のネット売上高の成長を具体的な数字を示して説明するとともに、その主要な原因は「純ネット売上高」の伸びであると解説している。さらに、被告書籍では、「ネットをツールとした外部客の開拓は現在通販企業の命題」であるとした上で、「ネットやモバイル専業の企業とコラボしたりM&A展開するなどの動きが加速して」いることを指摘し、その具体例を解説している。
 以上のとおり、被告書籍は、千趣会及びニッセンのネット売上高の躍進状況や幅広い事業展開としてのモバイル売上高について、これを分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表8を掲載しているにすぎない。
(ケ) 原告図表9
 原告図表9に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の120頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「アマゾンが『マーチャント@』でモール事業に参入した」、「昨年末にネット通販業界で大きな話題となったのは、ヤフーとネットオークション最大手の米国イーベイとの業務提携です。」、「『楽天市場』を運営する楽天も、今年春にも台湾でショッピングモール事業を開始」、「経済産業省は大手EC企業トップを集めた『電子流通研究会』を立ち上げ、海外での決済・物流基盤構築をテーマに話し合いを進めています。」というように、2007年にネット通販業界において社会的に注目を集めた出来事をいくつか例示して、ネット通販業界の躍進を解説している。
 このように、被告書籍は、上記各事項を含む2007年のネット通販業界で起きた主な出来事を示すことで、ネット通販業界の躍進状況を視覚的に一般読者に分かりやすく伝えるための参考資料として、原告図表9を掲載したにすぎない。また、引用部分は、原告図表9のすべてではなく、同表に記載された出来事の中の一部に限定しており、上記目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(コ) 原告図表10
 原告図表10に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の128頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「2007年度の『経常利益ランキング』(通販新聞社調査)をみると、健康食品や通信教育を手がける企業は売上高に対して十数%〜20%台の高利益を得ていますが、アパレル中心の大手カタログ通販は軒並み5%以下という厳しい数字」として、通販企業の経常利益率に関する状況を説明した上で、具体的なコスト削減策について解説している。
 このように、被告書籍は、上記解説の前提として、上位通販企業の経常利益率を分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表10を掲載しているにすぎない。また、引用部分は、原告図表10のすべてではなく、前期経常利益の「実績」及び「対売上高比率」という二つの項目に限定し、かつ、対象を20社に限定しており、上記解説を分かりやすく読者に伝達するという目的のために必要な範囲内でのみ同表を利用している。
(サ) 原告図表11
 原告図表11に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の132頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「紙の値上げについては、2007年7月に製紙メーカー各社が一斉に1トン当たり10円の値上げを実施・・・今回の値上げでカタログ発行量が多い大手通販企業では年間6〜7億円のコスト増を招いてしまいます。対応策として『配布先絞り込みによるカタログ部数の削減』『代理店を通さない自社買い付けへの移行』『二シーズン分の一括発注』『粘り強い交渉』などを掲げています」として、原材料値上げに対する通販企業の対応策を具体的に解説するとともに、「原材料値上げで・・・既に商品値上げや容量の縮小化に踏み切った企業もあり、対応を迫られる企業が増えてくる」として、原材料値上げによる通販企業への具体的影響を解説している。
 このように、被告書籍では、原材料の値上げに対する対応として商品の値上げや内容量の縮小化をした通販企業の数について分かりやすく視覚的に一般読者に伝えるための参考資料として、原告図表11を掲載しているにすぎない。
(シ) 原告図表12
 原告図表12に対応する、いわゆる「主」の著作物は、被告書籍の136頁に掲載された、Aの執筆部分である。
 すなわち、被告書籍では、「80〜90年代のコア顧客層は現在高年齢化が進み、各社とも増収路線を歩むのは難しいという時期に来ています。」として、通販業界において新規客の開拓が重要な課題であると説明した上で、昨今の通販業界における新規客の獲得方法を具体的に解説している。
 このように、被告書籍は、新規客の獲得方法を解説する前提として、現在の通販業界において新規客の獲得がいかに重要な課題であるかを分かりやすく視覚的に読者に伝えるための参考資料として、原告図表12を掲載しているにすぎない。
[原告の主張]
 被告の主張を否認ないし争う。
 被告書籍では、見開きの左頁(奇数頁)に図表等を掲載し、見開きの右頁(偶数頁)にその解説記事(以下「本文」という。)を掲載するという体裁をとっているものの、以下のとおり、本文の根拠として原告図表を利用している部分はほとんどなく、むしろ、原告図表の掲載は、それ自体が意味を持ち、本文とは別の何かを訴える独立性を有するものであって、本文に附従するものではない。
 また、著作権法32条1項所定の「引用」に当たるためには、他人の著作物を省略ないし要約するのではなく、そのまま利用することが必要である。被告図表は、原告図表の一部のみを使用しているものがほとんどであるから、被告書籍における原告図表の使用は、上記「引用」に該当しない。
ア 原告図表1
 被告書籍では、その冒頭(4頁及び5頁)に、何の注釈もなく、巻頭を飾るグラフとして原告図表1を掲載している。わずかに、その前頁(3頁)の「はじめに」の記載中に、「通販新聞の『売上高ランキング』によれば」とあり、そのランキングとして原告図表1を引用した可能性はあるものの、これは、自己の文章の裏付けを意味するものではなく、本文との間に関連性もない。量的にも、附従性の要件を満たすものではない。
イ 原告図表2
 原告図表2に対応する被告書籍の本文(34頁)は、コールセンターに関連する文章であり、欄外の注記を含めて、原告図表2と内容的に全く関連がない。
ウ 原告図表3
 被告図表3は、原告図表3の一部を抜粋して作成されたものである。これに対応する被告書籍の本文(78頁)は、被告図表3の解説文にすぎない。被告書籍の本文は、大きく3つの部分(テレビ通販市場が4000億円を超え、上位2社の売上高が上位30社合計の売上高の4割を占めており、寡占が進行していると分析する部分、今後もテレビ通販市場は成長が見込めそうであると分析する部分、デジタル化によって放送と通信が融合するとする展望部分)に分けられるが、いずれの部分も被告図表3とは何ら関係がない。
エ 原告図表4
 被告図表4は、原告図表4の一部を抜粋して作成されたものである。これに対応する被告書籍の本文(62頁)は、大きく3つの部分(健康食品通販のジャンル別の区分けを記載した部分、健康食品業界50社の成長ペースが鈍化したとする分析部分、鈍化した理由についての解説部分)に分けられるが、いずれの部分も被告図表4とは何ら関係がない。
オ 原告図表5
 被告図表5は、原告図表5の一部を抜粋して作成されたものである。これに対応する被告書籍の本文(64頁)は、大きく3つの部分(化粧品通販について上位40社の前年比が伸びているとする部分、通販コスメの特徴を述べた部分、近年カタログ総合通販企業による化粧品ジャンルへの参入が目立ってきたこと及びその理由を述べた部分)に分けられるが、いずれの部分も被告図表5とは何ら関係がない。
カ 原告図表6
 被告図表6は、原告図表6の一部を抜粋して作成されたものである。これに対応する被告書籍の本文(60頁)は、被告図表6の単なる解説文にすぎない。本文自体に存在意義があり、その意義を高めるため又は裏付けとして同図表を利用しているものではない。また、分量においても、同図表が従でないことは明らかである。
キ 原告図表7
 被告図表7は、原告図表7の一部を抜粋して作成されたものである。これに対応する被告書籍の本文(108頁)には、食品の通販が伸びていること、何が売れるか・最近のヒット用品は何か、インターネットによる販売の特徴などについての分析・展望等が記載されているが、これらの記載内容と被告図表7とは全く関係がない。
ク 原告図表8
 原告図表8に対応する被告書籍の本文(112頁)には、カタログの通販が伸びており、殊に注目すべきが純ネット販売であり、特定の2社のネット販売の販売額がカタログ経由を追い抜いたとする解説が記載されているが、これは、同表の解説にすぎず、本文と同表との間に主従関係は認められない。
ケ 原告図表9
 被告図表9は、原告図表9の一部を抜粋して作成されたものであるが、これに対応する被告書籍の本文(120頁)は、被告図表9に付随した単なる解説にすぎない。
コ 原告図表10
 被告図表10は、原告図表10の一部を抜粋して作成されたものであるが、これに対応する被告書籍の本文(128頁)は、わずかに本文冒頭の見出し部分で被告図表10を引用しているだけで、被告図表10との間に何ら関係を有していない。量的にも、同図表が従であると評価することはできない。
サ 原告図表11
 原告図表11に対応する被告書籍の本文(132頁)は、同図表と内容的に関連はなく、本文の裏付けとして同表を用いたものでも、本文の記載内容の資料とするものでもない。
シ 原告図表12
 原告図表12に対応する被告書籍の本文(136頁)は、同表と内容的に関連はなく、本文の裏付けとして図表を用いたものでも、本文の記載内容の資料とするものでもない。
(3) 争点3(原告の許諾の有無)について
[被告の主張]
 Aは、平成19年12月25日ころ、原告の代表取締役であるBから、Aが被告の依頼を受けて被告書籍を執筆すること及び被告書籍に原告図表を掲載することについて、許諾を得た。
[原告の主張]
 被告の主張を否認する。
(4) 争点4(原告の損害)について
[原告の主張]
 原告図表は、原告が30年以上にわたり年2回の継続した調査を積み重ねたことにより、初めて成果として結集したものであり、年間500万円を下らない調査費用を要している。被告は、かかる成果を原告に無断で使用したものであり、盗用の分量においても、到底看過し得ない域に達しており、被告書籍の実質的な価値の大部分を占めている。
 さらに、業界各社は、各社が原告に提供したデータが原告によって適切に管理、使用されるであろうという信頼関係に基づいて、原告に対し、本来社外秘であるデータを提供したにもかかわらず、これらのデータが、原告とおよそ関係のない被告の刊行する書籍(被告書籍)において使用された上、同書籍の表題に、業界内の負の内幕を暴露していると通常連想される、「からくり」という言葉が使用されていることについて、原告を非難している。
 このような被告の行為によって、原告は、長年にわたって同社が築き上げてきた信用を著しく失墜し、存亡の危機に瀕している。
 以上の事実によれば、著作権侵害による原告の損害額は500万円が相当である。
[被告の主張]
 原告の主張については、不知、否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告図表は編集著作物か)について
(1) 原告は、原告図表は編集著1 作物であると主張する。著作権法12条1項は、編集著作物について、「編集物・・・でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と規定している。
 そこで、原告図表が素材の選択又は配列によって創作性を有すると認められるか否かについて、以下検討する。
ア 原告図表1について
 原告図表1は、通販市場について、その過去25年間(1983年度から2007年度まで)における各年度の売上高及びその前年比増減率という素材を選択し、各年度の売上高については棒グラフで、各年度の売上高の増減率については折れ線グラフで、それぞれ表し、両グラフを組み合わせて配列したものである。
 原告は、同図表によって、日本の通販業界の現状、すなわち、日本の通販市場が、一時的な落ち込みはあったものの、この25年間で6.3倍に成長し、4兆円の市場規模が目前にあることを一目で把握することができるので、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、証拠(乙5の1、6の1、27)によれば、通販・通教業界における年次ごとの経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するために、一定の期間を定めて、同業界における年度ごとの売上高や、その増減率を集計して、これを一覧表にしたり(乙5の1の同表B2、乙6の1の図表2−1)、売上高の推移を棒グラフで表したり(乙5の1の図表B1、乙6の1の図表2 )、売上高の増減率の推移を折れ線グラフで表し、同期間における売上高の推移を表すグラフと組み合わせたりすること(乙27の表3)などは、原告図表1が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことであり、ありふれたものであったことが認められる。
 したがって、原告図表1が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
イ 原告図表2について
 原告図表2は、テレマーケティング業界に属する企業について、2006年度の売上高の上位1位から5位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」、「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し、売上高に従い上記5社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、売上高の増減率は、各企業の成長の可能性及びこの業態そのものの成長の可能性を探ることのできるものであり、同図表によって、通販業界の周辺産業の重要な一角を担うテレマーケティング業界も順調に成長し、最大手には1000億円規模の売上高を誇る企業も誕生していることや、これを追う有力企業も成長していることを読み取ることができるので、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、証拠(乙10、11の2、12の2、13、14の2、15ないし18の各1・2、19、21ないし27)によれば、通販・通教業界に限らず、特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の特定の年度における経済動向を、一覧性を持たせて分かりやすく説明するために、当該年度における当該業界に属する各企業の「売上高」、「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し、売上高に応じて各企業に順位を付し、売上高の大きいものから順に上位数十社ないし百数十社を縦一列に並べ、各社の売上高欄の右横に、「売上高の前年比増減率」欄及び「決算月」欄を順次並べて配列するという方法は、平成10年から平成19年まで日本流通産業新聞に毎年同様の図表が掲載されるなど、原告図表2が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことであり、ありふれたものであったと認められる。
 また、証拠(甲18の32頁)及び弁論の全趣旨によれば、通販業界では、商品の受注、勧誘、消費者からの問合せ及び苦情対応等に電話が用いられることが多く、通販・通教会社の中には、これらの業務(テレマーケティング)を別会社に委託している企業も少なくないのであって、テレマーケティング業界は、通販業界の周辺産業の一角を担う重要な産業であることが認められる。そうすると、ある特定の年度における特定の業界の経済動向を分析するための対象として、このように重要な産業であるテレマーケティング業界という素材を選択したことも、ありふれたものであったと認められる。
 よって、原告図表2が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
ウ 原告図表3について
 原告図表3は、テレビ通販(テレビを媒体に用いた通販)を行っている企業について、2006年度の売上高の上位1位から30位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」、「売上高の前年比増減率」及び「決算期」という素材を選択し、売上高に従い上記30社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表によって、販売ツールとしてテレビを用いた通販企業の実力度(売上高)を、その成長力、将来性を含めて容易に読み取ることができ、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、特定の業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して、当該年度における当該業界に属する各企業の「売上高」、「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し、売上高に応じて各企業に順位を付し、売上高の大きいものから順に配列するという方法が、原告図表3が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたものであることについては、上記イのとおりである。
 また、証拠(前掲イの証拠のほか、乙14の1、17の2)によれば、テレビは、カタログやインターネットなどと並ぶ、通販の主要な媒体であり、通販業を営んでいる会社を、その用いている媒体によって分類するに当たり、テレビ通販(テレビショッピング)という部門を設けることは、原告図表3が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであることが認められるから、ありふれたものであったということができる。
 したがって、原告図表3が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
エ 原告図表4について
 原告図表4は、健康食品の通販を行っている企業について、2006年度の売上高の上位1位から50位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」、「売上高の前年比増減率」、「翌年度の売上高の予想額」、「売上高予想額の本年比増減率」、「本社の所在地」、「決算月」及び「主力商材(主力商品)」という素材を選択し、売上高に従い上記50社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表は、健康食品の通販市場における勢力図の俯瞰図ともいうべき内容を有しており、健康食品を扱う通販企業の上位50社の売上規模及び成長要因を、商材との関係で一目で読み取ることができ、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、前記イのとおり、特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の特定年度における経済動向を分かりやすく説明するために、各企業の「売上高「売上高の」、 前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し、売上高に応じて各企業に順位を付し、売上高の大きいものから順に配列するという方法は、原告図表4が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことである。
 また、前掲イの証拠によれば、上記順位表を作成するに際して、「売上高の前年比増減率」及び「決算月」というデータに加えて、企業の今後の経済動向を予測する際の指標の一つである「翌年度の売上高の予想額(見込額)」及び「同予想額の本年比増減率」というデータや、通販会社の基本的な情報として一般的に関心のある「本社所在地」、「主力商材(主力商品)」及び「主力業態(媒体)」というデータを並記するという方法も、同様の表が日本流通産業新聞に毎年掲載されるなど、原告図表4が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであると認められる。
 さらに、証拠(前掲イの証拠のほか、乙4の2、14の1)によれば、健康食品は、化粧品などと並ぶ、通販事業における主要な商品であり、通販各社をその販売商品によって分類するに当たって、健康食品という部門を設けることは、原告図表4が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであると認められる。
 したがって、原告図表4が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない(なお、被告図表4において使用されたのは、原告図表4のうち、売上高上位30社の順位、社名及び売上高を記載した部分にすぎず、同部分に創作性を認めることができないことは、上に述べたとおりである。)。
オ 原告図表5について
 原告図表5は、化粧品の通販を行っている企業について、2006年度の売上高の上位1位から40位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」、「売上高の前年比増減率」、「決算月」及び「主力商材/ブランド・商品名」という素材を選択し、売上高に従い上記40社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表により、化粧品を扱う通販企業の上位40社について、その実力度(売上高及びその増減率)をその背景にある主力商材との関連で読み取ることができるので、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、被告図表5において使用されたのは、原告図表5のうち、売上高上位30社の順位、社名、及び売上高を記載した部分である。前記イのとおり、特定の業界に属する企業について、売上高によって上位数十社を選択し、これを売上高に従って順位を付けて縦一列に並べ、その右横に「売上高」を並記して一覧表にするということは、原告図表5が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことである。
 また、証拠(前掲イの証拠のほか、乙14の1、17の2)によれば、化粧品は、健康食品などと並ぶ、通販事業における主要な商品であり、通販各社をその販売商品によって分類するに当たって、化粧品という部門を設けることは、原告図表5が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであると認められる。
 よって、原告図表5のうち、被告図表5において用いられた社名、売上高及び順位を記載した部分が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
カ 原告図表6について
 原告図表6は、通販・通教を実施している企業について、2006年10月期ないし2007年9月期の売上高の上位1位から40位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同期における「売上高」、「昨年の売上高に基づく順位」、「売上高の前年比増減率」、「今期の売上高の見込み」、「同見込額の本年比増減率」、「決算月」、「本社所在地」及び「業態/主力媒体/主力商品」という素材を選択し、売上高に従い上記40社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「昨年の売上高に基づく順位」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表により我が国の上位通販企業の概要を一目瞭然に読み取ることができるので、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、通販・通教業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して、当該年度における売上高の上位数十社を売上高に従い順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に、各社の「売上高の前年比増減率」、「今期の売上高の見込み」、「同見込額の本年比増減率」、「決算月」、「本社所在地」及び「業態/主力媒体/主力商品」などのデータを並記して一覧表とすることは、前記エのとおり、原告図表6が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことである。
 また、前掲イの証拠によれば、売上高に基づく順位表を作成するに当たって、本年における順位の右横に昨年の順位を並記するという配列方法も、同様に一般的に行われていたものであると認められる。
 したがって、原告図表6が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない(なお、被告図表6において使用されたのは、原告図表6のうち、売上高上位30社の順位、社名及び売上高を記載した部分にすぎず、同部分に創作性を認めることができないことは、上に述べたとおりである。)。
キ 原告図表7について
 原告図表7は、食品の通販を行っている企業について、2006年度の売上高の上位1位から50位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」、「売上高の前年比増減率」、「今期の売上高の見込み」、「同見込額の本年比増減率」、「決算期」、「本社所在地」、「品目・媒体」及び「業態(食品通販売上高占有率)」という素材を選択し、売上高に従い上記50社に順位を付して縦一列に並べ、売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表は、食品通販を扱う企業に関する売上高等の情報を分かりやすくまとめたものであり、創作性を有すると主張する。
 しかしながら、被告図表7において使用されたのは、原告図表7のうち、売上高上位30社の順位、社名及び売上高を記載した部分である。通販・通教業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して、当該年度における売上高の上位数十社を売上高に従い順位を付して縦一列に並べ、その右横に「売上高」を並記して一覧表とすることは、前記イのとおり、原告図表7が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことである。
 また、証拠(前掲イの証拠のほか、乙17の2)によれば、食品は、化粧品などと並ぶ、通販事業における主要な商品であり、通販各社をその販売商品によって分類するに当たって、食品という部門を設けることも、原告図表7が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであると認められる。
 よって、原告図表7のうち、被告図表7において用いられた社名、売上高及び順位を記載した部分が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない。
ク 原告図表8について
 原告図表8は、通販を業とする企業である千趣会及びニッセンについて、両社の「ネット売上高」、「モバイル売上高」及び「ネット会員数」に関する、「2007年実績」、「前年比増減率」及び「2008年見込み」という素材を選択し、千趣会における上記数値の右横に同項目におけるニッセンの数値を並べる形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表は、ネット販売の好調な通販企業として千趣会及びニッセンを取り上げ、両社の2007年度の売上高を分析し、2008年度の見込みを原告独自の取材分析によって展望したものであり、読者に注目を浴びることの多い両社についての取材分析結果を分かりやすく提供しているものであって、創作性を有すると主張する。
 しかしながら、「売上高」、「売上高の前年比増減率」及び「今後の売上げ見込み」のデータを並列して記載することはありふれたものにすぎないことは、既に述べたところから明らかである。
 また、証拠(前掲イの証拠のほか、乙4の1、4の3)によれば、千趣会及びニッセンは、いずれも、通販業界における老舗の企業で、売上高では常に同業界の上位にランクされ、その動向が業界内で注目されていること、両社は、カタログによる通販を主要な業態としていたが、近年は、ネット販売に力を入れており、ネット通販及びモバイルネット通販の売上高でも上位にランクされていることが認められることに照らすと、通販業界におけるネット販売が好調であることを示すために、主要な2社として千趣会及びニッセンを選択することは、ありふれたことであるということができる。
 さらに、証拠(乙4の1、4の3、5の2)によれば、@ インターネット(ネット)は、通販の主要な媒体であり、ネットを媒体として用いる通販は、近年、大きく売上高を伸ばしていること、A モバイル(携帯電話)は、パソコンなどと並ぶ、ネット通販の有力なツールであり、モバイルを用いるネット通販の売上高も、近年、大きく増加していること、Bそのため、通販各社の売上高をその媒体によって分類するに当たって、ネット売上高(ネット通販売上高)及びモバイル売上高(携帯ネット通販売上高)という項目を取り上げること(乙4の1の上段の表、4の3)は、原告図表8が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことを認めることができるから、これらの項目を取り上げたこともありふれたものであるというべきである。また、ネット販売が好調であることを示すために「ネット会員数」と、 いう項目を取り上げ、会員数と前年比の増加数、及び今後の増加見込み人数の数値を並べて記載することも、ありふれたものである。
 このように、原告図表8において、上記の素材の選択及び配列に原告の個性が表れていると認めることはできない。
 したがって、原告図表8が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
ケ 原告図表9について
 原告図表9は、ネット通販業界において2007年1月から12月までの間に発生した主な事件、事象という素材を選択し、これを時系列に沿って配列したものであり、ある特定の業界における特定の年度の主要なニュースについて、時系列に沿って月ごとに配列したというだけでは、作成者の個性を認めることはできず、ありふれたものであるといわざるを得ない。原告は、同図表は、原告が、日常的に業界から入手した膨大な情報の中から、2007年のネット販売の動向として重要であると判断したものを取捨選択し、一覧表にまとめたものであり、かかる取捨選択及び記事とする際の文言の工夫は原告ならではのノウハウによっているものであるから、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、本件において、原告は、原告図表9記載の事件ないし事象の選択において、いかなる点に原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が認められるかについて、具体的に主張しておらず、単に、原告において重要であると判断したものを取捨選択したと主張するにとどまっている上、記事の文言も、単に事件、事象を述べているにすぎず、誰が述べても同様の表現にならざるを得ないありふれたものである。
 したがって、原告図表9が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない。
コ 原告図表10について
 原告図表10は、通販・通教を実施している企業について、2006年度の上位1位から80位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「経常利益」、「経常利益の前年比増減率」、「経常利益の対売上高比率」、「今期の経常利益(見込み額、前期比増減率、対売上高比率)」、「主要品目」及び「決算月」という素材を選択し、経常利益額に従い上記80社に順位を付して縦一列に並べ、その右横に、各社の「2005年度の経常利益額による順位」及び上記「経常利益」等のデータを並記する形で配列して、一覧表としたものである。
 原告は、同図表により売上高経常利益率という視点から効率経営面で成果を上げている企業の実力度を読み取ることができることができるので、同図表は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、証拠(乙11の1、12の1、13、14の1、15の2、16の2、17の2、18の1、20、23、甲18の128頁)によれば、@ 経常利益及びその対売上高比率(経常利益額を売上高で割った比率)は、企業の収益力を示す重要な指標として位置付けられており、経常利益額の多寡ないし対売上高比率の高低によって、企業の収益力が評価されることが一般的であること、A そのため、通販・通教業界に限らず、ある企業ないし当該企業の属する業界における特定の年度の経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するために、当該年度における当該業界に属する企業のうち経常利益額の上位数十社の企業名並びにこれらの会社の「経常利益(実績、増減率、対売上高比率)」及び「今期経常利益(見込み、増減率、対売上高比率)」という素材を選択し、上記数十社に順位を付して縦一列に並べ、その右横に、上記「経常利益」等のデータを順次並べて配列するという方法は、日本流通産業新聞にこれと同様の図表(乙11の1、13、14の1、15の2)が掲載されるなど、原告図表10が通販新聞に掲載される以前から、一般的に行われていたことであると認められる。
 また、前掲イの証拠によれば、「主要品目」及び「決算月」というデータは、当該年度における個別企業ないし当該企業の属する業界全体の経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するためにしばしば用いられるものであると認められる。したがって、経常利益額に基づく順位表を作成するに当たって、上記「経常利益」等のデータに加えて、各社の「主要品目」及び「決算月」というデータを並記するという配列方法に、作成者の個性が発揮されていると認めることはできない。
 よって、原告図表10が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
サ 原告図表11について
 原告図表11は、原告が主要な通販企業に対して実施した、「主要通販企業の値上げの現状」及び「主要通販企業の内容量縮小化の現状」に関するアンケート(いずれのアンケートも、アンケート対象企業が、(値上げないし内容量縮小化を)「した」、「しない」、「これから実施」、「検討」という4つの選択肢の中から一つを選択する方式のもの)の結果について、上記選択肢ごとの回答数及び回答しなかった企業の数を素材として選択し、この回答数等を、回答数等全体に占める割合に応じて円グラフとして配列したものである。
 しかしながら、上記円グラフに記載された素材は、原告の実施したアンケートに対する選択肢ごとの回答数そのものにすぎず、かかる素材をそのまま選択することは、ありふれた選択方法である。
 また、証拠(乙10)によれば、複数の選択肢を用いる形式のアンケートについて、その結果を一覧性を持たせて分かりやすくするために、選択肢ごとの回答数が全回答数に占める割合に応じて円グラフにすることは、一般的に行われる方法であり、ありふれたものであると認められる。
 したがって、原告図表11が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
シ 原告図表12について
 原告図表12は、原告が通販業界に属する企業に対して実施した、「現在における最重要課題」についてのアンケート(アンケート対象企業が、「新規客の開拓」、「既存顧客の継続化」などの選択肢の中から、重視する順に上位3つを選んで回答する方式のもの(甲15の2))の結果について、各社が最重要の課題として選択した選択肢に関し、当該選択肢を選んだ企業の合計数を素材として選択し、この選択肢ごとの合計数が選択肢全体の合計数に占める割合に応じて、円グラフとして配列したものである。
 しかしながら、複数の選択肢を用いる形式のアンケートについて、その結果を一覧性を持たせて分かりやすくするために、選択肢ごとの回答数が全回答数に占める割合に応じて円グラフにすることが、一般的に行われる方法であることについては、上記サのとおりである。
 したがって、原告図表12が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
(2) 原告は、原告図表は本件調査によって収集したデータないし原告が根拠ある推測をしたデータに基づき作成されたものであり、同データは原告独自の工夫と能力によってのみ収集し得るものであるから、編集著作物性の判断に当たっては、このような素材の収集に要した労力等も考慮すべきであると主張する。
 しかしながら、著作権法により編集著作物として保護されるのは、著作権法12条1項に規定するとおり、編集物に具現された素材の選択又は配列における創作性であって、素材それ自体の価値や素材を収集するために費やした労力は、それ自体が著作権法によって保護されるものではない。
 したがって、仮に、原告が本件調査のために相当の労力を費やし、本件調査によって得られた情報ないし原告において算定した各種の推測値に高い価値を認め得るとしても、そのことをもって原告図表の創作性の根拠とすることはできず、原告の上記主張を採用することはできない。
2 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 舟橋伸行
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