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【事件名】“猫のぬいぐるみ”複製翻案事件
【年月日】平成22年2月25日
 大阪地裁 平成21年(ワ)第6411号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年12月22日)

判決
原告A
訴訟代理人弁護士 小原望
同 若山満教
同 古川智祥
被告 有限会社マリーメゾンドミュー
訴訟代理人弁護士 福本富男


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、別紙被告製品目録記載の被告製品1ないし9を作成し、又は頒布してはならない。
2 被告は、前項記載の被告製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1437万8000円及びこれに対する平成21年5月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、後記原告各作品(猫のぬいぐるみ)につき著作権を有する原告が、被告が販売している後記被告各製品は原告各作品を複製又は翻案したものであり、その製造・販売は原告各作品の原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張して、被告に対し、被告各製品の作成・頒布の差止め・廃棄及び著作権侵害による不当利得返還請求をする事案である。
1 当事者間に争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、猫等の動物を素材にした立体作品を手作りし、その作品を販売することを業として行っている個人である。
イ 被告は、玩具、文房具、装身用アクセサリー、袋物、子供服の製造販売等を主たる業とする法人である。
(2) 原告の作品
ア 原告は、別紙原告作品目録記載の原告作品1ないし7の猫のぬいぐるみ(以下、各原告作品を同目録記載の番号を付して「原告作品1」などといい、これらを併せて「原告各作品」ともいう。)を制作し、店舗やインターネットを通して販売している(甲1)。
 原告各作品の形態は、同目録掲載の写真のとおりである。
イ 原告各作品は、原告の思想や感情を創作的に表現したものであり、美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する。
(3) 被告の製品
 被告は、別紙被告製品目録記載の被告製品1ないし9の猫のぬいぐるみ(以下、上記各被告製品を同目録記載の番号を付して「被告製品1」などといい、これらを併せて「被告各製品」ともいう。)を販売している。
 被告各製品の形態は、同目録掲載の写真のとおりである。
2 争点
(1) 被告各製品と原告各作品との類似性…(争点1)
(2) 被告各製品は原告各作品に依拠して作成されたものか…(争点2)
(3) 不当利得の額…(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告各製品と原告各作品との類似性)について
【原告の主張】
(1) 原告各作品の本質的特徴
ア 原告作品1ないし5の本質的特徴
 原告作品1ないし5は、以下の本質的特徴を備える。
@ 胴体を弓状に丸めており、背中の湾曲角度(背中の一番盛り上がっている点と頭部の付け根、尻を結んだ直線で形成される角度をいう。以下同じ。)は、約115度から128度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。
B 一般的な猫(日本において一般的に見られるイエネコをいう。以下同じ。)と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目(目の瞳孔部分が円弧を2つ重ねた時にできる縦長の楕円に近い形をしている目をいう。以下同じ。)ではなく丸目(目の瞳孔部分が円形をしている目をいう。以下同じ。)である。
F 口が省略されている。
G 表面はもこもことした有毛の生地で覆われている。
イ 原告作品6及び7の本質的特徴
 原告作品6及び7は、以下の本質的特徴を備える。
@ 胴体を弓状に丸めており、背中の湾曲角度は約122度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 表面は非常に細い柔らかい毛による生地で覆われている。
ウ 原告各作品の上記各特徴及びそれらの組合せは、少なくとも原告が原告各作品を制作するまでは、猫を題材とした立体作品、玩具、ぬいぐるみ等では一般的に見られなかったものであり、原告各作品の本質的特徴である。
 原告は、夕日をバックに痩せた子猫が犬に対して背を丸めて威嚇している姿を目撃し、それを立体作品として表現しようと思い、原告各作品を制作したものである。原告は、上記のような特徴を備えた原告各作品の制作を通して、健気に精一杯生きようとする生あるものの強さを表現したのであり、ただ激しく威嚇している様子を表現するだけでなく、全体的に人の心を惹きつける柔らかさも表現するために、目を丸目にし、表面の生地も柔らかい印象が出るものを選んでいる。
(2) 被告各製品との対比
ア 被告製品1及び2について
 被告製品1及び2は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約113度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約7pであり、顔の付け根付近の横幅は約4pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約8pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G シープボア生地のもこもことした有毛の生地でできている
 したがって、被告製品1及び2は原告作品1、3及び5に共通の本質的特徴を全て具備している。
イ 被告製品3及び4について
 被告製品3及び4は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約128度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約6pから7pであり、顔の付け根付近の横幅は約4pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約8pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 有毛の合成繊維生地でできている。この生地は表面に細くやや長い柔らかい質の毛が生えているが、毛の向いている方向は区々である。そのため、全体的に表面はもこもことした印象を与えるものとなっている。
 したがって、被告製品3及び4は、原告作品2の本質的特徴を全て具備している。
ウ 被告製品5について
 被告製品5は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約122度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約7pであり、顔の付け根付近の横幅は約4pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約8pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 有毛の合成繊維生地でできている。この生地は表面に細くやや長い柔らかい質の毛が生えているが、毛の向いている方向は区々である。そのため、全体的に表面はもこもことした印象を与えるものとなっている。
 したがって、被告製品5は原告作品1、3及び5に共通の本質的特徴を全て具備している。
エ 被告製品6について
 被告製品6は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約127度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約7pであり、顔の付け根付近の横幅は約5pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約8pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 有毛の合成繊維生地でできている。この生地は表面に細く短い柔らかい質の毛が生えているが、毛の向いている方向は区々である。そのため、全体的に表面はもこもことした印象を与えるものとなっている。
 したがって、被告製品6は原告作品1、3、4及び5に共通の本質的特徴を全て具備している。
オ 被告製品7について
 被告製品7は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約133度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約4pであり、顔の付け根付近の横幅は約4pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約6pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 有毛の合成繊維生地でできている。この生地は表面に細くやや長い柔らかい質の毛が生えているが、毛の向いている方向は区々である。そのため、全体的に表面はもこもことした印象を与えるものとなっている。
 したがって、被告製品7は、原告作品3及び5に共通の本質的特徴を全て具備している。
カ 被告製品8及び9について
 被告製品8及び9は、以下の特徴を備えている。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は約129度から133度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。すなわち、胴体の横幅は最も長いところで約3pであり、顔の付け根付近の横幅は約3pである。これに対し、顔の横幅の最も長いところで約4pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
G 有毛のウール生地でできている。この生地は、表面が非常に細い糸により覆われている。
 したがって、被告製品8及び9は、原告作品6及び7に共通の本質的特徴を全て具備している。
(3) 被告の主張について
ア 顔について
 被告は、被告各製品の顔の輪郭形状が逆三角形だと主張するが、これは耳の部分も含めて観察しているためであり、耳の部分を取り除いて考えるのであれば、被告製品1及び2の顔の輪郭も、横に長い楕円である。
 また、被告各製品の顔の横幅と胴体が同等の幅であると主張するが、これは被告各製品の胴体の最も太い部分の幅と顔の横幅を比べたものであり、顔に近い首や胸の付近の幅と比較すると、顔の横幅は胴体の幅よりも長いという印象を受ける。
イ 目と鼻について
 原告各作品と被告各製品の目の位置に顕著な差はなく、真ん中よりやや上についているか下についているかの違いしかない。そのため、原告各作品の方が若干上を向いた感じであるのに対し、被告各製品は若干下を向いた感じという違いしかない。なお、目の大きさの違いもごくわずかである。
ウ 耳について
 耳の形状について、原告各作品も被告各製品も、正面から見ると頂角が鋭角の二等辺三角形をなしており、いずれも一般的な猫に比べてその大きさが強調されている。耳のボリュームの違いも、原告各作品と被告各製品の印象を大きく違えるものではない。
エ 胴体について
 胴体の太さについて、被告製品1の側面上下の幅が原告作品1よりも太いことは被告主張のとおりであるが、一般的な猫との対比で考えれば、両者はいずれも「細い猫」という同質の印象を抱かせるものである。
 前脚の付け根と胴体中央部の角度について、被告製品3では約60度程度の傾斜になっており、被告が主張するように、前脚の地面に対する角度をあまり変えないで胴体に連続しているとはいえない。前脚の角度と胴体の傾斜の程度の対比は、原告各作品と被告各製品で大差はなく、大きな印象の違いを生むものではない。
 湾曲の頂点の位置についても、原告各作品と被告各製品では、頂点が胴体のほぼ中央かやや後ろ寄りにあるという点において同じであり、印象を大きく違えるものではない。
 なお、原告各作品には芯にワイヤーが入っており、ある程度のポーズの変化も可能で、弓なりの胴体をまっすぐ伸ばすことも不可能ではないが、原告各作品は胴体が弓なりの形状が基本であり、その形状を維持している状態で一般人の目に入る。したがって、それ以外の形状に変化し得ることを考慮した上で、原告各作品と被告各製品とを比較すべきではない。
オ 脚の特徴の相違について
 被告は、被告各製品の脚部が細いという印象はないと主張するが、一般的な猫と比較した場合、被告各製品も原告各作品も、膝関節がなく一直線に形成された脚であって、本来太くなるべきところが太くなっていないから、細い脚の猫という印象が生じる。
カ 尻尾の特徴の相違について
 尻尾の先端の高さの違いは程度の問題であり、尻尾の太さについても、見る者に対してそれほど深い印象を残さない。他方で、被告各製品も原告各作品も、尻尾を勢いよくピンと立てているという点では共通しており、見る者に対して、元気のいい猫という印象を植え付けるものである。
(4) 以上より、被告各製品は原告各作品を複製又は翻案したものといえるほど類似している。
【被告の主張】
(1) 被告製品1及び2と原告作品1、3及び5について
ア 全体的な相違
 両者は顔の特徴が全く相違するのに加えて、被告製品1及び2は、原告作品1、3及び5と比べて、ずんぐりしている。
イ 顔の特徴の相違
 顔の輪郭形状について、原告作品1、3及び5はやや横に長い楕円の丸顔であり、胴体よりも横に長いのに対し、被告製品1及び2は逆三角形であり、胴体と同等の幅である。
 目について、原告作品1、3及び5は、顔に対する目の位置が水平方向中心よりやや上にあるのに対して、被告製品1及び2は水平方向中心より下にある。また、目の大きさは原告作品1、3及び5の方が被告製品1及び2よりやや小さい。
 鼻について、原告作品1、3及び5の鼻の位置は正面中央よりやや上にあり、目と同じ高さ、若しくはそれよりやや下の位置であるのに対して、被告製品1及び2では逆三角形の顔の下の頂点近くにある。また、原告作品1、3及び5の鼻の形状は、目よりやや小さい黒丸ボタン状であるのに対して、被告製品1及び2では目より遥かに小さい逆三角形である。
 耳について、原告作品1、3及び5では正面から見ると先端が尖った三角形であり、側面から見ると厚みのない、いわゆる「ペラペラ」の状態であるのに対し、被告製品1及び2では、耳の部分の内部に詰め物が入っており、見る者にボリューム感を与える。
ウ 胴体の特徴の相違
 被告製品1と原告作品1の胴体部を比較すると、被告製品1の側面上下の幅が原告作品1よりも太い。したがって、被告製品1は一般的な猫より細いという印象を与えない。
 また、被告製品1及び2は前脚が短く、その前脚の地面に対する角度をあまり変えないで胴体に連続し、長い後脚の少し手前で頂点を描く湾曲を形成し、周囲に対して威嚇している印象を与えるのに対して、原告作品1、3及び5は、胴体の中央部がわずかに盛り上がった湾曲を形成している。なお、原告作品1、3及び5には芯にワイヤーが入っており、弓なりに湾曲させることも伸ばすことも自在であるから、「弓なりの形状」を強調することには意味がない。
エ 脚の特徴の相違
 被告製品1及び2の脚部は、正面から見ても側面から見ても、付け根から足先まで同じ太さであり、細いという印象は与えないのに対して、原告作品1は、付け根から足先の少し上まで、一般的な猫に比べて細く形成され、見る者に細いという印象を与えており、かかる印象は、足の先端部が太くなっていることから、より一層倍化される。
オ 尻尾の特徴の相違
 原告作品1及び5の尻尾の先端の高さは、体高の倍近くもあり、見る者に細く長いという印象を与える。これに対して、被告製品1及び2の尻尾の先端の高さは体高の1.5倍弱の高さであり、原告作品1及び5に比して遥かに太い印象を与える。
 尻尾の形状についても、原告作品1は付け根から先端部の近くまで細く、先端部分のみが太い団子状になっており、弓なりに大きく湾曲しているのに対し、被告製品1及び2では付け根部分が若干細いという程度であり、前方への湾曲もわずかである。
カ 印象の相違
 原告作品1、3及び5は、全体として痩せてガリガリの体と四肢、尻尾を有するにもかかわらず、頭部は丸くふくよかで、体の細さに比較して大きいというアンバランスさが強調されており、顔の表現は上目遣いで、丸目で、両目の間隔が離れ、また目鼻が顔面の上半分に配置されて口元周辺からあごと想定される部分が「しもぶくれ」ないしは「のらくろ型」に膨張した印象となることにより、「のんき」「まぬけ」「ほのぼの」「いやし系」の顔が表現されているのであって、全体として年齢不詳の「のんきなノラ猫」という印象を与える。
 これに対して、被告製品1及び2は、子猫らしいスリムな体ではあるが、胴体、脚、尻尾はそれなりにしっかりした太さを表現しており、決して痩せている印象はなく、後脚が前脚より長く尻を上げた形状であることにより、行動に移る前の緊張した姿勢が感得される。特に、頭部の特徴として、あごが細くなった逆三角形の形状であって、あご先から頭頂までの高さ方向において顔面中心水平線よりも下部に目が配置されることで、子猫を想起させる。こうして栄養状態の悪くない「元気な子猫」が、対象を見下ろし、背を弓なりにし、尻尾を立て尻を上げる形状をとることにより、「威嚇」の印象が表現されているのであって、やんちゃ、元気な子猫の印象を与えている。
(2) 被告製品3と原告作品2
 原告作品2は原告作品1の色違いであり、また、被告製品3は被告製品1の色違いである。したがって、全体の特徴の相違、各部の特徴の相違については、上記(1)の相違点があてはまる。
(3) 被告製品7と原告作品3及び5
 被告製品7と原告作品3及び5は、顔の特徴が全く相違し、尻尾の長さが、被告製品7の方が原告作品3及び5に比して遥かに短い。特に上記顔の特徴の相違は全体的な印象の相違に決定的な影響を持っている。
(4) 被告製品8及び9と原告作品6及び7
 被告製品8及び9と原告作品6及び7は、顔の特徴が全く相違し、胴体の特徴も全く相違する。尻尾の長さも、被告製品7の方が原告作品3及び5に比して遥かに短い。特に上記顔の特徴の相違は全体的な印象の相違に決定的な影響を持っている。
(5) その他
 原告は、被告製品4が原告作品2に、被告製品5が原告作品1、3及び5に、被告製品6が原告作品1、3、4及び5と類似する旨主張するが、上記被告製品1及び2と原告作品1、3及び5との相違と同様に、顔の特徴(目、鼻の形状と位置)、胴体の特徴、脚の特徴、尻尾の特徴において両者は決定的な相違点があり、それが故に全体の印象も相違する。
(6) よって、被告各製品は原告各作品とは類似しない。
2 争点2(被告各製品は原告各作品に依拠して作成されたものか)について
【原告の主張】
(1) 原告各作品の販売
 原告は、平成8年後半に猫をモチーフとした最初の立体作品を完成させ、平成9年には原告各作品が撮影されたポストカードを全国で販売した。また、同年末からは神戸にある雑貨店で原告各作品の販売を開始し、さらに自身の運営するインターネットサイト「ピクニックフロッグスマーケット」にて全国に向けて販売を開始した。原告の作品は、手作りのため、制作数こそ少ないものの口コミでその良さが広まり、全国に原告の作品のファンが増えていった。
 なお、原告は、当初、サイズの異なる3種類(Sサイズ、Mサイズ、クリアーボックス入りのSSサイズ)の作品を作成していた。
(2) 被告各製品の販売
 被告は、平成14年ころから被告各製品の販売を開始したが、被告各製品のバリエーション展開は、原告各作品と同じ3種類(Sサイズ、Mサイズ、クリアーボックス入りのSSサイズ)であった。また、被告は、被告各製品の販売に当たり、原告各作品を撮影したポストカードと酷似した図柄のタグを使用している。
(3) 依拠性
 上記より、被告は、被告各製品の製造・販売開始前に原告各作品にアクセスし、原告の原告各作品の種類展開や原告各作品が掲載されたポストカードを参考にして、被告各製品の製造・販売を開始したものである。
 よって、被告は、原告各作品に依拠して被告各製品を生産したものである。
【被告の主張】
(1) 原告各作品の販売について
 不知。
(2) 被告各製品の販売について
 被告各製品は、被告が法人化する前の「マリーメゾンドミューSHOP」であった平成8年8月に最初の試作品が制作され、同年12月には神戸市内において販売が開始された。その後、平成9年7月に被告が有限会社として法人化し、全国的に被告各製品を販売するに至った。
 被告各製品のバリエーション展開は、原告が主張するような3種類ではなく、大きさで分ければ7ないし8ランクに分かれる。
 被告各製品に付されたタグは、猫のぬいぐるみを正面から撮影しているという点において原告のタグと共通するが、ありふれた構図であり、原告のタグを参考にしたものではない。
(3) よって、被告は独自に被告各製品を製作したものであり、原告各作品やポストカードにアクセスした事実はない。
3 争点3(不当利得の額)について
【原告の主張】
(1) 販売数量
 被告は、平成14年から現在に至るまで、約7年間にわたって被告各製品の販売を続けている。被告は、自らインターネット上で販売を行うとともに、平成17年初めころからは、アフタヌーンティー・リビングやロフトといった全国展開の雑貨小売店に対しても被告各製品を販売しており、これら店舗では、少なくとも1店舗当たり1日1体は販売されていたとみられる。
 そうすると、現在のアフタヌーンティー・リビングの店舗は全国で93店あるから、被告各製品の同店舗における販売数量は、全国で1日当たり93体で、年間3万3945体になる。したがって、被告はアフタヌーン・リビングに対して、平成17年から現在までの4年間に、被告各製品を少なくとも13万5780体(33,945×365×4)は販売した。
 また、現在のロフトの店舗は全国で51店あるから、被告各製品の同店舗における販売数量は、全国で1日当たり51体で、年間1万8615体になる。したがって、被告はロフトに対して、平成17年から現在までの4年間に、被告各製品を少なくとも7万4460体(18,615×365×4)は販売した。
 このように、被告は、アフタヌーンティー・リビングとロフトに対してだけでも、4年間に21万0240体の被告各製品を販売していたのであり、他の店舗への販売等をも考慮すると、被告は平成17年から現在までの4年間に、少なくとも20万体の被告各製品を販売していたといえる。
(2) 売上高
 被告各製品の小売価格は、被告製品3及び4が2600円(税抜価格。以下同じ。)、被告製品5が2400円、被告製品6が1800円、被告製品1及び2が1500円、被告製品7が1300円、被告製品8及び9が850円であり、その平均小売価格は1711円となる。また、被告は小売店に対し、小売価格の6割程度の額で卸売りをしていると考えられるから、被告各製品の平均卸価格は1027円となる。
 そうすると、平成17年から現在までの被告各製品の売上高は2億0540万円(\1,027×200,000)となる。
(3) 不当利得の額
 被告は、原告各作品の著作権を侵害する被告各製品を販売するに当たっては、本来、原告から許諾を得て、相当な実施料を原告に対して支払わなければならなかったにもかかわらず、被告は、原告から許諾を得ていない。そこで、被告は実施料相当額の支払を免れた一方、原告は本来受け取るはずの実施料相当額を失ったことになり、その額は上記売上額の7%は下らない。
 そうすると、被告が現在までに不当に利得している実施料相当額は1437万8000円を下らない。
【被告の主張】
(1) 販売数量について
 否認する。
(2) 売上高について
 被告各製品の小売販売価格は認めるが、卸売価格については否認する。
(3) 不当利得の額について
 実施料相当額が売上の7%を下回らないとの主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品と原告各作品の類似性)について
(1) はじめに
 著作物の複製(著作権法21条)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)、著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作することをいう(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 本件において、原告は、被告各製品が原告各作品を複製又は翻案したものであるとして著作権侵害を主張しているところ、少なくとも被告各製品が原告各作品を翻案したと認められる程度に類似したものでなければ、複製権侵害が生じる余地もないのであるから、以下では、まず翻案権侵害の成否について検討することとする。
(2) 原告各作品の本質的特徴について
ア 原告各作品の分類
 前記(第3の1(1)ア・イ)のとおり、原告は、原告各作品の本質的特徴について、原告作品1ないし5と原告作品6及び7に分けた上で、それぞれ同前記各@ないしGの特徴点を掲げる。しかし、同各AないしFは原告各作品において共通しているし、同各@についても湾曲角度が異なるのみである上、原告作品6及び7の湾曲角度(約122度)は原告作品@ないしDの湾曲角度(約115度〜128度)に包摂される。そうすると、原告が主張する原告作品1ないし5と原告作品6及び7の違いは、「表面がもこもことした有毛の生地で覆われている」(原告作品1ないし5の特徴G)か、「表面が非常に細い柔らかい毛による生地で覆われている」(原告作品6及び7の特徴G)かという生地の違いに帰着する。しかしながら、いずれの生地も、ぬいぐるみとして格別なものとは認め難く、この点について表現上の工夫があったとは認め難いので、生地の違いをもって両者を分類することは的確ではない。
 むしろ、原告作品1ないし3及び6(以下、これらを「原告作品T群」という)と原告作品4、5。及び7(以下、これらを「原告作品U群」という。)とでは、顔の輪郭形状や目鼻の位置関係が一見して異なっており、これらから受ける印象も相当に異なるから、以下では、必要に応じて原告各作品をT群とU群に分けて本質的特徴を検討することとする。
イ 原告各作品の本質的特徴
(ア) 証拠(甲7の1、19の2〜8、20の2〜6)及び弁論の全趣旨によれば、原告各作品には、原告が原告各作品の本質的特徴として主張する形態のうち、以下の形態を備えることが認められる(ただし、以下の@の「湾曲角度」について、原告各作品にはぬいぐるみの内部にワイヤーが入っており、湾曲角度は可変であるから、その角度を厳密に特定することに大きな意義はない。)。
@ 胴体を弓状に丸めており、背中の湾曲角度は約115度から128度の鈍角である。
A 細い幅の胴体に比して広い横幅の顔を有する。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
(イ) 原告各作品の著作者たる原告は、その陳述書(甲29)において、原告各作品を制作するに当たり、「猫のリアルさを出し過ぎないとともに、大人のプライベート空間にインテリアアクセントとして置いても違和感が出ないように、かわいさを残しつつも子供らしいかわいさが出過ぎないように留意し」た旨、原告各作品の「特徴的に曲がった背中、細く長く伸びた四肢、テディベアのぬいぐるみに付いているような丸目は、当時の世間の猫のぬいぐるみや置物には全くなかった表現」である旨陳述する。
(ウ) しかしながら、著作物のどの点に本質的特徴があるかは、当該著作物の著作者の創作的意図をも踏まえながらも、それのみならず、創作の対象となったモデル自体との対比や、同一のモデルを対象とした他の著作物との対比等も参考にしながら、法的保護に値する創作的な特徴を客観的な観点から認定するのが相当である。
 そこで検討するに、原告各作品は、いずれも猫をモチーフとしたものであるところ、猫は威嚇をする際などに背中を弓状に丸める体勢を取ることが広く知られている。そして、このような体勢をぬいぐるみで表現しようとするに当たり、原告各作品は猫が威嚇をする際などに取る上記の体勢に似せて単に胴体を緩やかに湾曲させているのみであり、そこに特段の創作があったとは認め難い。しかも、弁論の全趣旨によれば、原告各作品が制作される前に、ドイツのシュタイフ社がトムキャットという猫のぬいぐるみ(以下、単に「トムキャット」という。)を製造販売していたことが認められ、証拠(甲6、7の3)によれば、トムキャットの背中は大きく湾曲していることが認められる。
 そうすると、原告各作品の背中が弓状に丸まっていること(上記@)や、それに伴って前脚の付け根から後脚の付け根までの腹部が半円の形状をしていること(上記D)をもって、原告各作品の本質的特徴と認めることはできない。
 また、原告は、原告各作品が一般的な猫に比して胴体が細いこと(上記C)や、四肢が長いこと(上記B)を本質的特徴として主張する。たしかに、原告各作品のぬいぐるみの胴体は一般的な猫に比して細身ではあるものの、極端なものではなく、通常の表現の幅の範囲内といえる。四肢の長さについても、少なくとも原告作品1、2、6及び7については、全体のバランスからして、四肢が長く表現されているとはいえるが(これに対し、原告作品3ないし5については四肢が長いとは認め難い、やはり。) 通常の表現の幅の範囲内というべきである。
 したがって、これらの点を原告各作品の本質的特徴と認めることもできない。
(エ) 他方、ぬいぐるみを観賞して愛でるにしろ、触れて遊ぶにしろ、その顔の表情はぬいぐるみの印象を決定づける重要な要素の1つであるところ、原告作品T群では、胴体に比べて頭部が横方向にはみ出しており、正面視の顔の輪郭形状は水平方向に扁平な楕円形である(なお、トムキャットでは、正面から見た場合の頭部の横幅は胴体と同じである。)。また、原告作品T群では、両目の間隔が離れており、鼻が両目を結んだ直線上にあって、目鼻が頭部のやや上部に位置することに加え、前脚と後脚の長さがほぼ同じで、前傾姿勢を取っていないことからすると、原告作品T群をそれぞれ全体としてみれば、見る者に優しく、ほのぼのとした印象を与えるものということができる。したがって、これらの形態は原告作品T群の印象を決定付ける本質的特徴というべきである。なお、原告作品T群の耳は、頂角が鋭角をなす二等辺三角形に近く、頭部から大きく突き出ており、この点も、原告作品T群を特徴づける要素といえる。
 次に、原告作品U群については、頭部が胴体よりも全体的に大きく、正面視の輪郭形状がほぼ真円に近い。また、原告作品U群の鼻は円の中心近くにあり、両目の間隔はやや離れ、顔の上部に位置する。これら形態によって、原告作品U群は、やや上目遣いで、のんきな印象を与えるものということができる。したがって、これらの形態は原告作品U群の印象を決定づける本質的特徴というべきである。なお、原告作品U群の耳については特段大きいものではないので、特徴点とは認められない。
(3) 被告各製品との対比について
ア 被告製品1ないし6について
 原告は、被告製品1ないし6を、「被告製品1及び2」、「被告製品3及び4」、「被告製品5」並びに「被告製品6」の4つに分けた上、原告作品1ないし5と対比しているところ、被告製品1ないし6は、その形態が主要な点で共通しており、原告の主張によっても、その違いは表面生地と湾曲角度(約113度〜128度)のみであり、前記(2)のとおり表面生地や湾曲角度は原告各作品の本質的特徴とは認め難いから、以下では被告製品1ないし6をまとめて対比することとする。
(ア) 証拠(甲7の2、乙25の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1ないし6は、原告が主張する同各製品の形態のうち、以下の形態を備えることが認められる。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は、約113度ないし128度の鈍角である。
A 胴体の横幅は最も長いところで約7p、顔の付け根付近の横幅は約4p、顔の横幅の最も長いところは約8pである。
B 一般的な猫と比較して四肢が長く表現されている。
D 側面から観察すると、前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部はほぼ半円を形成している。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
(イ) この点、原告は、被告製品1ないし6の胴体が一般的な猫と比較して細く表現されており、これに比して顔の横幅が広いと主張するが、同各製品では胴体の上下の幅が比較的広いので、必ずしも一般的な猫と比べて細いとは認め難い。また、正面から見ても、耳の部分の横幅は胴体より広いが、顔の部分の横幅が胴体より広いとは認められない。
 前記認定のとおり、原告(ウ) 各作品の本質的特徴は頭部や顔の部分にあるところ、原告の主張に係る上記各形態のみでは、その点が明らかではないので、他の特徴点についても検討する。
 前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1ないし6の頭部は耳と一体として形成され(耳の部分にも詰め物が詰められている。)、頭部全体の形状は三日月を横倒しにしたようなお椀型をしていること、両目は正面視やや下方にあり、鼻は両目を結んだ線よりもさらに下にあること、前脚が後脚より短く、頭部を低くした前傾姿勢を取っていることが認められる。
イ 被告製品7について
(ア) 証拠(甲7の2)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品7は、原告が主張する被告製品7の形態のうち、以下の形態を備えることが認められる。
@ 胴体を弓状に丸めている。背中の湾曲角度は、約133度の鈍角である。
A 胴体の横幅は最も長いところで約4p、顔の付け根付近の横幅は約4p、顔の横幅の最も長いところで約6pである。
C 一般的な猫と比較して胴体が細く表現されている。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
(イ) この点、原告は、被告製品7の胴体が一般的な猫と比較して細く表現されており、これに比して顔の横幅が広いと主張するが、同製品は被告製品1ないし6よりも全体として相当小さく、全体のバランスからして、必ずしも一般的な猫と比べて胴体が細いとは認められないし、正面から見ても、耳の部分の横幅は胴体より広いが、顔の部分の横幅が胴体より広いとは認められない。
 また、被告製品7では、被告製品1ないし6とは異なり、一般的な猫と比較した場合に四肢が長いとは認められないし(むしろ、短いと評価することもできる。)、側面から観察した場合に前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部が半円になっているとも認められない。
(ウ) さらに、被告製品7の他の特徴点について検討するに、前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告製品7は、被告製品1ないし6と同様に、その頭部が耳と一体として形成されており、その頭部全体の形状は三日月を横倒しにしたようなお椀型をしていること、両目は正面視やや下方にあり、鼻は両目を結んだ線よりもさらに下にあること、前脚が後脚より短く、頭部を低くした前傾姿勢を取っていることが認められる。
ウ 被告製品8及び9について
(ア) 証拠(甲7の2)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品8及び9は、原告が主張する同各製品の形態のうち、以下の形態を備えることが認められる。
A 胴体の横幅は最も長いところで約3p、顔の付け根付近の横幅は約3p、顔の横幅の最も長いところで約4pである。
E 目は猫目ではなく丸目である。
F 口が省略されている。
(イ) この点、原告は、被告製品8及び9の胴体が弓状に丸まっていると主張するが、同各製品の胴体はほぼまっすぐであり、丸まっているという印象は受けない。また、原告は、同各被告製品の胴体が一般的な猫と比較して細く表現されており、これに比して顔の横幅が広いとも主張するが、同各被告製品は、被告製品7よりもさらに小さく、全体のバランスからして、一般的な猫と比べて胴体が細いとは認められないし、正面から見ても、耳の部分の横幅は胴体より広いが、顔の部分の横幅が胴体より広いとは認められない。
 また、被告製品8及び9は、被告製品7と同様に、一般的な猫と比較した場合に四肢が長いとはいえないし、側面から観察した場合に前脚の付け根から後脚の付け根に至るまでの腹部が半円になっているとも認められない。
 次に、被告製品8及び9(ウ) の他の特徴点についても検討するに、前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告製品8及び9は、被告製品1ないし6と同様に、その頭部が耳と一体として形成されており、その頭部全体の形状は三日月を横倒しにしたようなお椀型をしていること、両目は正面視やや下方にあり、鼻は両目を結んだ線よりもさらに下にあること、前脚が後脚より短く、頭部を低くした前傾姿勢を取っていることが認められる。
(4) 原告各作品との対比
 前記(2)で認定したとおり、原告作品T群の本質的特徴は、顔の輪郭形状が横方向に扁平な楕円形であること、両目がやや離れており両目と鼻が水平方向ほぼ同一線上にあること及び両目と鼻が顔のやや上に位置することにあり、原告作品U群の本質的特徴は、顔の輪郭形状が真円に近いこと及び鼻が顔の中央にあり目が上部に付いていることにある。これに対し、被告各製品は、それぞれ異なる部分もあるものの、前記(3)アないしウの各(ウ)で認定したように、頭部全体の形状が三日月を横倒しにしたようなお椀型であること、目鼻が顔の下方に付いていることにおいて共通している。そうすると、被告各製品は、原告各作品の本質的特徴を備えているとは認められず、また、前脚を短くした前傾姿勢を取ることによって、原告各作品とは異なり、今にも飛びかかってきそうな子猫の無邪気な印象を与えるものであり、原告作品T群の見る者に優しくほのぼのとした印象や、原告作品U群の上目遣いでのんきな印象とも大きく異なるといえる。
 そうすると、被告各製品からは、原告作品T群及びU群の本質的特徴を直接感得することはできないというべきであり、被告各製品は、原告各作品を翻案したと認められるほどに類似しているとは認められない。
 また、上記したところによれば、被告各製品が原告各作品を複製したものに当たらないことも明らかである。
(5) よって、争点2(依拠性)について判断するまでもなく、被告各製品の製造販売は、原告の著作権(複製権及び翻案権)を侵害する行為とは認められない。
第5 結論
 以上により、原告の本件各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 北岡裕章
 裁判官 山下隼人
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