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【事件名】研修会テキストの著作物性事件
【年月日】平成22年2月18日
 大阪地裁 平成20年(ワ)第172号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年12月17日)

判決
原告 日本小集団活動協会
原告 X
原告ら訴訟代理人弁護士 山本明人
被告 社会福祉法人大阪府社会福祉協議会
訴訟代理人弁護士 渋谷元宏
同 比嘉廉丈
同 比嘉邦子
同 渋谷麻衣子
同 川上確
同 橋本匡弘
被告 Y
被告 社会福祉法人江能福祉会
上記2名訴訟代理人弁護士 鶴敍


主文
1 原告日本小集団活動協会の訴えを却下する。
2 原告Xの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告Yは、原告日本小集団活動協会(以下「原告協会」という。)に対し、2565万5702円及びこれに対する平成20年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告社会福祉法人大阪府社会福祉協議会(以下「被告府社協」という。)は、原告協会に対し、1483万円及びこれに対する平成20年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告府社協及び被告Yは、原告協会に対し、連帯して131万8794円及びこれに対する被告府社協は平成20年2月6日から、被告Yは平成20年2月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告府社協及び被告Yは、原告Xに対し、連帯して300万円及びこれに対する被告府社協は平成20年2月6日から、被告Yは平成20年2月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、原告Xの作成にかかる「CS−QCリーダー養成3日コース(C)テキストJ.S.A.A 日本小集団活動協会」なる名称のテキスト(以下「本件テキスト」という。)の記述内容、表などの記載内容につき、複製、公表、発行等一切の利用をしてはならない。
6 被告Y及び被告社会福祉法人江能福祉会(以下「被告江能福祉会」という。)は、原告Xに対し、連帯して225万円及びこれに対する平成20年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 原告協会の請求
 原告協会の請求は、原告協会が、@原告協会の事務局員であった被告Yが原告協会の委託に基づきその保管する金員を横領したとして、被告Yに対し、債務不履行又は不法行為若しくは不当利得に基づき、損害賠償金又は利得金として2565万5702円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求第1項)、A被告府社協が原告協会との共催による後記QCサークル活動を中止したことが原告協会に対する債務不履行又は不法行為に該当するとして、被告府社協に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金1483万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求第2項)、B被告府社協が被告Yと共謀して原告協会の被告府社協に対する売上金の5%に相当する金員を不正に取得していたとして、被告府社協に対しては不法行為又は不当利得に基づき、被告Yに対しては不法行為に基づき、連帯して損害賠償金又は利得金として131万8794円及びこれに対する被告府社協は同被告に対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月6日から、被告Yは同被告に対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求第3項)ものである。
(2) 原告Xの請求
 原告Xの請求は、原告Xが、@被告府社協が被告Yと共謀して原告協会との後記QCサークル活動の共催を中止し、原告Xの講師料の収入を絶つなどして原告Xに精神的苦痛を与えたとして、被告府社協及び被告Yに対し、不法行為に基づき、連帯して損害賠償金300万円及びこれに対する被告府社協は同被告に対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月6日から、被告Yは同被告に対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求第4項)、A被告Yが原告X作成に係る本件テキストを無断で使用して被告江能福祉会に後記QCサークル活動の指導を行い、被告江能福祉会が本件テキストを模倣したテキストを使用し、被告府社協が被告Yと共謀して本件テキストを用いて後記QCサークル活動の講義をしようとし、もって原告Xの有する本件テキストの著作権を侵害したとして、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、本件テキストの使用の差止めを求めるとともに(請求第5項、被告Y及び被告江能) 福祉会に対し、著作権侵害の不法行為に基づき、連帯して損害賠償金225万円及び訴状送達の日の翌日である平成20年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求第6項)ものである。
2 前提事実(末尾に証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告協会は、QCサークル活動等を行うことを目的として昭和58年10月に設立された団体である(ただし、原告協会が民訴法29条所定の「法人でない社団で代表者の定めがあるもの」に該当する権利能力なき社団として当事者能力を有するか否かについては後記のとおり争いがある。)。QCとはクオリティ・コントロール(品質管理)の略称であり、原告協会が行っていたQCサークル活動は、あらゆる仕事の改善を目的とする活動である(以下、原告協会が行っていた上記QCサークル活動を単に「QCサークル活動」という。)。(甲55、56、弁論の全趣旨)。
イ 原告Xは、原告協会の専務理事である。
ウ 被告Yは、平成10年ころから、原告協会の事務局員を務めていたものであり、後記株式会社コムテックの代表取締役でもあった。
エ 被告府社協は、社会福祉を目的とする事業の企画及び実施等の事業を行う社会福祉法人である。(弁論の全趣旨)
オ 被告江能福祉会は、特別養護老人ホーム江能の設置経営等の事業を行う社会福祉法人である。(弁論の全趣旨)
カ 株式会社コムテック(以下「コムテック」という。)は、昭和63年6月1日に家庭用電気機器の販売及び修理等を目的として被告Yにより設立された株式会社である。なお、コムテックは、平成18年10月31日、株主総会の決議により解散した。(丙1)
(2) 原告協会とコムテックの関係
 コムテックは、平成10年ころから、原告協会の講師の派遣に関する業務を行い、派遣先から売上金を徴収して講師へ講師料等を支払い、残額を取得していた。
(3) 原告協会と被告府社協とのQCサークル活動の共催
 原告協会は、平成11年ころから、被告府社協及び大阪福祉施設士会との共催により、福祉施設の参加を募って福祉分野に関するQCサークル活動を行うようになり(以下、このQCサークル活動に参加していた施設を単に「参加施設」という。)、原告Xも講師をして報酬を得ていた。(甲42、弁論の全趣旨)
3 原告協会の請求に係る争点
(1) 本案前の争点
ア 原告協会の当事者能力の有無(争点1−1)
イ 原告Xに原告協会の代表者として本件訴訟を追行する権限があるか(争点1−2)
(2) 本案の争点
ア 被告Yに対する金員の横領を理由とする請求について被告Yが原告協会の金員を横領したか否か(争点2)
イ 被告府社協に対するQCサークル活動の共催中止を理由とする請求について
(ア) 被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止したことは原告協会に対する債務不履行又は不法行為となるか(争点3−1)
(イ) 原告協会の損害額(争点3−2)
ウ 被告府社協及び被告Yに対する売上げの5%の不正取得を理由とする請求について
 被告府社協に対する売上げの5%の減額請求が原告協会に対する不法行為又は不当利得となるか(争点4)
4 原告Xの請求に係る争点
(1) 被告らに対する著作権侵害を理由とする請求について
ア 本件テキストの著作物性(争点5−1)
イ 被告らによる著作権侵害及び著作権侵害のおそれの有無(争点5−2)
ウ 原告Xの損害額(争点5−3)
(2) 被告府社協及び被告Yに対する原告協会とのQCサークル活動の共催中止等を理由とする請求
ア 被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止したことなどは原告Xに対する不法行為となるか(争点6−1)
イ 原告Xの損害額(争点6−2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(原告協会の当事者能力の有無)について
【原告協会の主張】
(1) 権利能力なき社団の要件は、@団体としての組織を備え、A多数決の原則が行われ、B構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、C団体としての組織運営方法が確立していることである。
 @原告協会は規約を有し、これに従って構成された組織を有する。A理事会では、多数決決議がなされている。B原告協会を辞めた者もいるが、構成員の変更があっても原告協会自体に変更はない。C規約のとおり、組織・運営方法は確立している。
 よって、原告協会は権利能力なき社団として存在する。
(2) 被告府社協及び被告Yの主張に対する反論
 確かに、原告協会は株式会社に移行する準備をしたが、被告府社協による共催中止、被告Yによる横領等による混乱で、多くの施設がQCサークル活動を断ってきたため、法人登記をしただけで、財産や組織の移転をする前に法人を解散せざるを得なかった。したがって、原告協会は、現在に至るまで一貫して権利能力なき社団として存続している。
【被告府社協及び被告Yの主張】
 原告協会は、かつてはQCサークル活動等を目的とする権利能力なき社団として存在したが、平成18年10月24日に設立された株式会社日本小集団活動協会(原告Xが代表取締役)に吸収され、その後、同株式会社は、平成19年10月8日清算結了し、同月10日に消滅した(丙3)。
 したがって、原告協会は、現時点では団体として存在しないから、原告協会には当事者能力がなく、被告Y及び被告府社協に対する訴えは却下されるべきである。
2 争点1−2(原告Xに原告協会の代表者として本件訴訟を追行する権限があるか)について
【被告Yの主張】
 訴状添付の平成20年1月21日付け「日本小集団活動協会議事録」には、原告協会の理事会において、理事長P1の代行者として専務理事である原告Xを選任する旨の決議をしたことが記載されているが、そのような決議は存在せず、同日開会の理事会は虚偽のものである。
 したがって、原告Xは、原告協会の代表権を有しないから、原告協会の代表者として本件訴訟を追行することはできない。
3 争点2(被告Yが原告協会の金員を横領したか否か)について
【原告協会の主張】
(1) 原告協会と被告Yとの契約関係
 被告Yは、平成10年12月、原告協会との間で準委任契約を締結し、原告協会の事務局員となった。その際、原告協会と被告Yは、原告協会の研修売上げ(研修への講師派遣による講師料収入)の扱いについて、各講師にその40%を支払い、被告Yには事務費用も含めて35%を支払い、残り25%は今後の研修費等のため原告協会に残しておくことを取り決めた。
(2) 被告Yによる金員横領
 ところが、被告Yは、平成14年度から平成17年度までの4年間の原告協会の売上げのうち原告協会に残しておくべき25%分、合計2565万5702円を私消し、これを利得した。被告Yが横領した金額は、平成17年2月18日に被告Yが原告協会に報告した収支計算(甲2の1ないし6)から判明したものであり、その内訳は次のとおりである。
  原告協会の研修売上げ 原告協会に残すべき金員
平成14年度 1678万0634円 419万5159円
平成15年度 2587万1623円 646万7906円
平成16年度 2795万2550円 698万8138円
平成17年度 3201万8000円 800万4500円
合計   2565万5702円
【被告Yの主張】
(1) 原告協会と被告Yとの契約関係について
ア 平成17年3月31日以前
 平成10年に原告協会との間で準委任契約を締結したのは、被告Yではなく、被告Yが代表取締役を務めていたコムテックである。
 コムテックへの委託内容は、原告協会の顧客獲得等の営業活動その他原告協会の事務処理全般であり、原告協会の売上代金の回収、各講師への講師費の支払等は、コムテックが行うこととされた。
 コムテックへの委託料は、原告協会の研修売上げから、研修講師費、研修に関わる旅費、交通費、食費、会場費、教材費等の諸費を差し引いた売上利益全部である。原告協会が主張するような取決め(各講師に40%、被告Yに35%を支払い、残り25%を原告協会に残しておくこと)はなかった。
 コムテックは、上記契約に基づき、平成17年3月31日まで原告協会の事務処理を行ってきた。
イ 平成17年4月1日以降
 コムテックは、設立当初から、一般企業事務所の職員研修に力を入れており、平成10年に原告協会との間で上記準委任契約を締結して以降、次第に福祉施設への研修の仕事が拡大し、平成15年度にはコムテックの全売上げの8割を占めるに至った。
 ところが、その後、原告Xから、コムテックが利益を取りすぎているので原告協会の講師はコムテックを通して仕事をしない旨の要求が出されたため、被告Yは、平成17年4月1日、原告協会との間で新たに業務委託契約を締結した。
 被告Yへの委託内容は、原告協会の事務処理のみであり、原告協会の売上代金の回収、各講師への講師費の支払等は、原告協会自身が行うことになった。被告Yへの委託料は、原告協会の研修売上げの35%とされた。
(2) 被告Yが金員を横領したとの主張について
 被告Yが原告協会に残すべき金員を横領したとの主張は否認する。
ア 平成17年3月31日以前について
 平成17年3月31日までは、原告協会の研修売上げから必要経費を差し引いた残額は全部コムテックへの委託料とされていた。すなわち、平成10年11月から始まった被告府社協の研修から、すべてコムテックが営業活動を展開して研修を受注し、原告協会の講師の肩書を持つ講師に研修の講師を依頼していた(当初は講師としては原告Xのみ)。このようにして、平成17年3月31日までは、研修売上代金はすべてコムテックの銀行口座に振り込まれ、各講師への講師料はコムテックが直接銀行振込によって支払っていた。したがって、原告協会に残るべき金員など存在しない。
イ 平成17年4月1日以降について
 平成17年4月1日以降は、原告協会自身がその売上代金の回収を行うようになり、被告Yへの委託料は原告Xから支払われることになった。研修売上代金は、すべて原告協会の銀行口座に振り込まれるようになったから、原告協会に残るべき金員があるとすれば、すべて原告Xの手元にある。
ウ 甲第2号証について
 原告協会は、2565万5702円という横領額が平成17年2月18日に被告Yが原告協会に報告した収支計算書(甲2の1ないし6)から判明したものであると主張する。
 確かに、甲第2号証は、平成17年2月18日に被告Yが原告協会に提出した資料であるが、同号証に記載された各年度の売上げは、コムテックの売上げの一部であって、原告協会の売上げではない。同号証は、平成17年度(平成17年4月1日から平成18年3月31日まで)の予算検討のために提出したものであり、平成14年度及び平成15年度の数字は各実績であり、平成16年度の数字は予測である。
4 争点3−1(被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止したことは原告協会に対する債務不履行又は不法行為となるか)について
【原告協会の主張】
 原告協会は、長年にわたり、被告府社協との共催により、被告府社協が管轄する37の福祉施設(58グループ)において、福祉活動に関する研修を実施していた。しかし、被告府社協は、被告Yと共謀の上、被告Yに原告X作成の本件テキストを使用させてQCサークル活動をさせることを計画し、その計画に基づいて原告協会との共催を中止することとし、平成18年10月24日付けで、原告協会に対し、共催中止を連絡し、参加施設に対し、共催中止の通知(甲3)を出した。
 @被告府社協による共催中止は原告協会との継続的契約関係の解消の仕方として信義則に反するものであること、A被告府社協は上記共催中止の通知に際し原告協会に内紛がある旨の誹謗中傷をしたこと、B後記6のとおり、被告府社協は被告Yと共謀して原告協会の被告府社協に対する売上げの5%を不正に取得していたところ、上記共催中止の通知は、原告Xがこの件について告訴を検討している旨を被告府社協のP2事務局長に伝えた直後に送付されたものであること、以上の点に照らせば、被告府社協が原告協会との共催を中止したことは合理的な理由を欠くものであり、原告協会に対する債務不履行又は不法行為を構成する。
【被告府社協の主張】
 被告府社協による共催中止が債務不履行又は不法行為を構成するとの原告協会の主張は争う。被告府社協が原告協会との共催を止めたのは、次の事情によるものであり、合理的な理由がある。
 すなわち、原告協会から、平成18年9月10日付けで被告Yについて事務局交代の通知があったにもかかわらず、さらに念押しで、同年10月13日付けで解任の通知があったことから、被告府社協としては、被告Yが原告協会の事務局を退いたことが尋常なことではなく、原告協会内で紛争が生じているものと推測した。折しも、翌年度の活動方針等を決定する時期でもあったため、被告府社協は、平成18年度末をもって原告協会との共催を止めることを決定し、同年10月24日付けで原告協会及び各施設に対し、その旨を通知した。
 もともと、被告府社協と原告協会との共催関係は期間を定めたものでもなく、また、平成18年度末をもって共催を止めるというものであるから、時期という点からも、共催の中止は不当なものではない。
 また、そもそも被告府社協と原告協会との間に、研修等の共催について、期間を明確にした継続的基本契約など締結されておらず、共催中止が債務不履行に当たらないことは明らかである。申入れの時期としても、平成18年度末での終了を目処に、約半年前(平成18年10月24日)に発送しているのであり、信義則に反するものでもない。
 さらに、被告府社協は参加施設に対して原告協会を誹謗中傷するようなことなど告知していない。
5 争点3−2(原告協会の損害額)について
【原告協会の主張】
 被告府社協との研修の共催により原告協会が受け取る年間指導料は、合計1483万円であり、被告府社協の上記不法行為がなければ、原告協会は、少なくとも1年間は研修を継続できたはずである。
 したがって、原告協会は、被告府社協の上記不法行為により、少なくとも1483万円の損害を被った。
【被告府社協の主張】
 争う。
6 争点4(被告府社協に対する売上げの5%の減額請求が原告協会に対する不法行為又は不当利得となるか)について
【原告協会の主張】
(1) 被告Y及び被告府社協の不法行為又は不当利得
 被告Yは、被告府社協と共謀して、原告協会の被告府社協に対する売上代金から5%を減額して請求していた。その額は、平成11年12月請求分から平成18年11月請求分までが合計131万8794円である。
 被告府社協及び被告Yの上記行為は、原告協会に対する不法行為を構成し(被告府社協は、公益社団法人であり、5%の手数料を受け取ること自体が違法である。)、また、被告府社協については不当利得にも当たる。
(2) 原告協会の損害ないし損失
 被告府社協及び被告Yの上記行為により、原告協会は、131万8794円の損害ないし損失を被った。
(3) 被告Yの主張に対する反論
 被告Yは、丙第2号証を根拠に、原告協会は5%の値引きを了解していた旨主張するが、否認する。
 丙第2号証は、被告Yが作成した書類であり、原告協会は関与していない。5%の値引きの件は、平成18年5月に強行監査を行った結果露見したものである。
【被告府社協の主張】
 被告府社協は、原告協会の事務局である被告Yを通して送付されてくる請求書どおりに支払を行っていた。原告協会主張の5%は値引分であり、これは全て原告協会との合意に基づくものである。送金先口座がコムテック名義の口座でなく原告協会名義の口座である分についても、値引きはなされている。
 結果として、原告協会と被告Yとの間で当該値引きに対する認識の違いがあったとしても、それは原告協会と被告Yとの間で解決すべき問題であり、被告府社協が追加で支払をする法的義務はない。
【被告Yの主張】
(1) 平成17年3月31日以前について
 平成17年3月31日以前は、すべてコムテックが営業活動を展開して研修を受注し、原告協会の講師の肩書を持つ講師に研修の講師を依頼していたものである。被告府社協に対する研修代金の請求についても、コムテックがコムテックの計算により行っていたものであるから、そのうち5%を値引きしたとしても、原告協会に対する関係で不法行為を構成するものではない。
(2) 平成17年4月1日以降について
 原告協会の平成18年6月19日付け常務理事会決議事項の「E事務局運営経費比率の見直しについて」(丙2)において、「大阪府社協経由の振込分については、税引振込額の5%を府社協に支払う」と記載されている。このことからすれば、原告協会は、5%の値引を了解していたものというべきである。
 原告協会は、5%の値引の件は平成18年5月の強行監査の結果露見したものであると主張するが、否認する。
 確かに、平成18年5月に会計監査が行われたが、これは、被告Yが平成17年4月から正式に原告協会の事務局を引き受けるに当たり行われた会計監査であって、強行監査でもなければ原告協会主張の露見などでもなかった。もしそのような事実があれば、原告協会に対して監査結果の報告が行われているはずであり、平成18年10月の被告Yの事務局解任に際しその理由として指摘されてしかるべきであるし、原告協会の理事会に対して報告されるべきであるが、そのようなことはなかった。また、原告Xは、被告Yを誹謗中傷する手紙を多数送付しているが、その中にも5%の値引の件は記載されていない。したがって、5%値引の件が平成18年5月の強行監査の結果露見した旨の原告協会の主張は、虚偽である。
7 争点5−1(本件テキストの著作物性)について
【原告Xの主張】
 原告X作成に係る本件テキスト(甲1)は全体として著作物性があるが、本件では、@本件テキストの53頁、B−4頁の「テーマ選定マトリックス」(別紙著作物目録1−1、同目録1−2。以下、両者を併せて「テーマ選定マトリックス」という。)、AB−6頁の「CS−QCサークル活動記録表」(別紙著作物目録2、以下「QCサークル活動記録表1」という。)、BB−8頁の「CS−QCサークル活動記録表」(別紙著作物目録3、以下「QCサークル活動記録表2」という。)及びCB−10頁の「CS−QCサークル活動記録表」(別紙著作物目録4、以下「QCサークル活動記録表3」という。)に限って著作物性を主張する。これらは、いずれも原告Xがその思想に基づいて創作的に表現したものであり、著作権法10条1項1号及び6号所定の著作物に当たる。
【被告府社協の主張】
 原告Xが著作物と主張するものは、いずれも「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえない。
【被告江能福祉会及び被告Yの主張】
 テーマ選定マトリックス(本件テキスト53頁記載のもの)は、「評価項目」として縦に「利用者の満足」、「施設の期待度」、「活動の難易度」、「経済的な効果」、「課題の魅力性」が並べられ、「テーマの候補」として横に「1事務室の3s」、「2利用者への声掛け」、「3家族との連絡」、「4ナースコールへの対応」、「5薬剤配布の効率化」が並べられ、その縦横の交点に点数を付すものであり、「1事務室の3s」=1×3×2×4×3=72となり、その5乗根が2.35となるというものである。このような計算には何ら創作性はない。
 QCサークル活動記録表1は、ほとんどが四角の空欄であり、その空欄の上部に「現状把握@ 縮小して貼付する」とあるのみであり、その他は空欄である。このような表には何ら創作性はない。
 QCサークル活動記録表2も、「現状把握の結果から分かったこと@〜D」、「目標値の設定」とあるだけで、中身は空欄である。このような表には何ら創作性はない。
 QCサークル活動記録表3も、対策立案実施について、「特性要因図の対策要因の番号順に対策要因図を書き挙げる」、「対策要因毎にマトリックスの項目毎の検討をしまとめる。」というものである。そこにあるのは、「対策要因」、「どうする」、「具体的な方法」、「担当者」、「場所」、「何時迄に」といった抽象的な表にすぎない。このような表には何ら創作性はない。
8 争点5−2(被告らによる著作権侵害の有無)について
【原告Xの主張】
 被告Yは、本件テキストを使用して被告江能福祉会のQCサークル活動の指導を行った。その後、被告江能福祉会は、平成19年11月の全国福祉QC発表大会において、甲第9号証のテキスト(以下「被告テキスト」という。)を使用して発表を行った。被告テキストには本件テキストを模倣した4つの箇所が存在する。具体的には、@被告テキストの87頁記載のテーマの選定理由の欄のマトリックスはテーマ選定マトリックスを、A同じく88頁及び89頁の「現状把握」の各シートはQCサークル活動記録表1を、B同じく89頁の「現状把握からわかった事」のシートはQCサークル活動記録表2を、C同じく91頁の「対策の立案」はQCサークル活動記録表3を、それぞれ模倣したものである。このように、被告Yは、被告江能福祉会と共謀して、本件テキストに対する原告Xの著作権を侵害したものというべきである。
 被告府社協は、平成19年2月ころ、被告Yと共謀して、原告協会の仕事を取り上げ、本件テキストを用いてQCサークル活動の講義を行う準備をし、原告Xの著作権を侵害しようとしていた(甲13、甲37・3枚目。いずれも被告府社協のホームページ)。
【被告府社協の主張】
 原告Xは、その主張の根拠として甲第13号証及び甲第37号証を示すが、被告府社協のホームページに「福祉QCサークル活動」という言葉があるだけで、なぜ原告Xの著作権侵害の準備となるのか理解し難い。
【被告Y及び被告江能福祉会の主張】
(1) 被告Yは、被告江能福祉会のQCサークル活動の指導をしたが、本件テキストは使用していない。
(2) 被告江能福祉会は、平成19年11月の全国福祉QC発表大会において被告テキストを使用したが、被告テキストは本件テキストに依拠したものではない。被告テキストは、丙第7号証(全国社会福祉協議会が広島市で開催した第9回福祉QC入門講座の教材)や、丙第6号証(平成17年度全国福祉QC発表大会で室生園が発表したテキスト)のような福祉QC発表大会における発表テキストを参考にして作成されたものである。
9 争点5−3(原告Xの損害額)について
【原告Xの主張】
 原告Xは、被告江能福祉会に対し、3年前から、同被告の中の3グループのQCサークル活動を指導してきた。その年間指導料は、1グループ当たり25万円である。原告Xは、被告江能福祉会及び被告Yによる上記著作権侵害行為により、3年間3グループ分の指導料合計225万円の損害を被った。
【被告Y及び被告江能福祉会の主張】
 争う。
10 争点6−1(被告府社協が原告協会との共催を中止したことなどは原告Xに対する不法行為を構成するか)について
【原告Xの主張】
 被告府社協は、5%の収入を当て込み被告YとQCサークル活動を続けることを共謀し、原告協会との共催を中止した。被告府社協による共催中止が原告協会に対する債務不履行又は不法行為を構成することは、争点3−1【原告協会の主張】のとおりである。そして、原告Xは、共催の中止によりその後の仕事を失い、各施設への対応も余儀なくされたのであるから、被告府社協と被告Yの共謀による共催の中止は原告Xに対する関係でも不法行為を構成する。
【被告府社協及び被告Yの主張】
 否認ないし争う。
11 争点6−2(原告Xの損害の額)
【原告Xの主張】
 被告府社協による共催中止に際し、原告Xは、被告府社協から原告協会の内部紛争などと言われて名誉を毀損され、被告Yには本件テキストを無断で使用されて晩節を汚された上、実際にその後の仕事を失った。原告Xは、本件テキストの著作者であるから、QCサークル活動の講師をした際には、著作物のロイヤリティーを含めて他の講師の約2倍の収入を受け取っていたのであり、共催中止により、労働の対価だけでなく著作権のロイヤリティ収入も消えてしまったのである。また、各施設への電話対応や説明にも多大の時間を要し、多大な精神的損害を被った。これを金銭に見積もれば、300万円を下らない。
【被告府社協及び被告Yの主張】
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−1(原告協会の当事者能力の有無)について
(1) 前記前提事実に加え、証拠(各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告協会の設立
 原告協会は、昭和58年10月、QCサークル活動等を行うことを目的として設立され、P1が理事長に、原告Xが専務理事にそれぞれ就任した。(甲55、56)
イ 原告協会の規約
 原告協会設立時に作成された「日本小集団活動協会規約」(甲56、以下「本件規約」という。)には、次の規定がある。
(ア) 第2章 資産及び会計
 「(資産の構成)
 第5条 本協会の資産は、次の各号をもって構成する。
 1.別紙財産目録(判決注:別紙財産目録は証拠として提出されていない。)に記載された財産
 2.寄附金
 3.資産から生ずる収入
 4.会費から生ずる収入
 5.事業に伴う収入
 6.その他の収入」
 「(資産の種別)
 第6条 この協会の資産を分けて基本財産及び運用財産の二種とする。
 2.基本財産は、次の各号をもって構成し、処分することが出来ない。但し、やむを得ない理由があるときは、理事会において理事の2分の1以上の同意を得ることにより、処分することが出来る。
 (1) 基本財産として、指定して寄附された財産
 (2) 理事会で、基本財産に繰り入れることを議決した財産
 3.運用財産は、基本財産以外の財産とする。」
 「(資産の管理)
 第7条 この協会の資産は、理事長が管理し、その方法は理事会の決議による。」
(イ) 第3章 役員
 「(種別)
 第11条この協会に次の役員を置く。
 理事長 1名
 専務理事 1名
 常務理事 若干名
 理事 若干名(理事長、専務理事、常務理事を含む)
 監事 2名以内
 2.理事及び監事は、常務理事会において選任する。
 3.理事の互選により、理事長、専務理事各1名、常務理事若干名を定める。
 4.理事及び監事は、相互に兼ねることが出来ない。」
 「(職務)
 第12条 理事長は、この協会を代表し、会務を統轄する。
 2.理事は、理事会の決議に基づいて会務を執行する。
 3.専務理事は、理事長を補佐し、理事長の会務処理に支障した場合はその職務を代行する。
 4.常務理事は、常務理事会を結成し、各年度の事業計画、予算計画を立案する。
 5.監事は、民法59条の職務を行う。」
(ウ) 第4章 理事会
 「(構成)
 第17条 理事会は、理事をもって構成する。
 2.理事候補は、現理事2名以上の推薦によって選び、常務理事会の承認を得て選任する。
 3.常務理事会は、常務理事以上をもって構成する。」
 「(機能)
 第18条 理事会は、この規約に規定するものゝほか次の事項を議決する。
 (1) 事業計画の決定
 (2) 事業報告の承認
 (3) 予算を伴わない権利の放棄又は義務の分担
 (4) その他この協会の運営に関する事項」
 「(招集)
 第19条 理事会及び常務理事会は理事長が招集する。
 2.理事又は監事から会議の目的たる事項を示して請求があったときは、理事長は速やかに理事会を招集しなければならない。
 3.理事会及び常務理事会を招集するには、会議の目的たる事項及びその内容、並びに日時、場所を示して、文書をもって理事又は常務理事に通知しなければならない。」
 「(定員数)
 第21条 理事会は、理事の2分の1以上の出席がなければ開会することができない。」
 「(議決)
 第22条 会議の議事は、出席理事の過半数の同意をもって決し、可否同数の時は議長の決するところによる。」
 「(書面決議等)
 第23条 やむを得ない理由のため、会議に出席出来ない理事は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決し、又は他の理事を代理人として表決を委任することが出来る。
 この場合、前条2条の適用については出席したものとみなす。」
 「(議事録)
 第24条 会議の議事については、次の事項を記載した議事録を作成しなければならない。
 (1) 開会の日時及び場所
 (2) 理事の現在数
 (3) 会議に出席した理事の氏名(書面表決者及び表決委任者を含む)
 (4) 議決事項
 (5) 議事の経過
 (6) 議事録署名人の選任に関する事項
 2.議事録には、議長及び出席理事のなかからその会議において選出された議事録署名人が署名しなければならない。」
ウ 原告協会の構成員
 原告協会は、昭和63年10月、発足記念集会を開催したが、その時点では、理事長1名、顧問2名、専務理事1名、常務理事8名、事務局長1名、理事9名、監事1名の合計23名の役員が所属していた。(甲58)その後、原告協会の理事等の構成には変更があったが、原告協会は後記エのとおりの活動を続けてきた。(弁論の全趣旨)
エ 原告協会の活動等
(ア) 原告協会は、設立当初から、公開セミナーや定例研究会を開催して参加者から参加料を徴収したり、原告協会の理事を講師として福祉団体に派遣するなどの活動を行っていた。(甲49、59の1〜7、60〜62)
(イ) 原告協会は、平成17年ころ、「日本小集団活動協会代表X」名義の普通預金口座を開設し、原告協会の講師が行ったQCサークル活動の報酬等を同口座に入金させている。なお、原告協会が提出した同口座に係る預金通帳(甲27)によれば、平成19年2月28日から平成20年7月29日の間、原告協会の講師の報酬等が派遣先から振り込まれていることを確認することができる。(甲27、29)
(ウ) 原告Xは、原告協会を法人化しようと考え、平成18年10月24日、株式会社日本小集団活動協会を設立して代表取締役に就任したが、講師派遣の依頼の減少等により運営に行き詰まり、平成19年7月13日には株主総会決議により同株式会社を解散し、同年10月8日清算結了を原因とする閉鎖登記がされた。(丙3)
(エ) 平成20年以降、原告X以外の原告協会の講師がQCサークル活動の講師をしたことはなく、原告Xも、平成21年1月に脳梗塞を発症してからは講師としての活動をしていない。(証人P3)
オ 原告協会が本件訴訟提起時に提出した議事録
 原告協会は、平成20年1月10日、本件訴訟を提起し、原告Xに原告協会の代表権があることを証する資料として、下記の内容が記載された平成20年1月22日付けの「日本小集団活動協会議事録」なる書面(以下「本件議事録」という)。を作成して当裁判所に提出した。(当裁判所に顕著な事実)
 「平成20年1月21日(月)の理事会において下記決定した。当協会規約第12章(判決注:第12条の誤記と認める。)3項の規定により、次の者を理事長代行として選任する。
 理事長代行 専務理事 X
 事由;理事長高齢化ならびに病弱により会務処理に支障がある為。
 理事会出席者 専務理事 X
        常務理事 P4
        ・・・
        理事 P5
        ・・・
 (判決注:専務理事、常務理事及び理事として合計21名の名前が記載されており、内常務理事1名、理事2名は欠席と記載されている。)
 以上
 平成20年1月21日(文責)P4 印」
カ 原告協会の理事長及び理事による証明書等の提出
 P1は、自己が設立から現在に至るまで原告協会の理事長として執務してきたこと、設立当初から実務的には専務理事の原告Xが代行であり、平成16年4月1日付けで正式に原告Xに理事長代行を委嘱したことなどを記載した平成20年4月19日作成日付けの「日本小集団活動協会現存の証明書」なる書面を作成し、原告協会を通じて当裁判所に提出した。(甲12の2)
 また、P4、P6、P7、P8、P9、P10、P11、P12及びP13は、原告協会が専務理事である原告Xを代表として実際に存続していることを原告協会の理事として証明する内容の平成20年4月作成日付けの「証明書」あるいは「理事長代行承認書」なる書面を作成し、原告協会を通して当裁判所に提出した。(甲12の3〜12の11)
(2) 検討
ア 民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるとして当事者能力を肯定するためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない(最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照)。これらのうち、財産的側面についていえば、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではなく、そのような資産を有していなくても、団体として、内部的に運営され、対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保され、かつ、その収支を管理する体制が備わっているなど、他の諸事情と併せ総合的に観察して、同条にいう「法人でない社団」として当事者能力が認められる場合があるというべきである(最高裁判所平成14年6月7日第二小法廷判決・民集56巻5号899頁参照)。
イ これを本件について見ると、上記(1)で認定のとおり、原告協会は、会員の有無は明らかでないが、役員とされる理事等の構成員を有し、定例会や公開セミナーの開催、福祉団体への講師の派遣等をしてその派遣料を受け取るなどの活動を行っていた団体であり、理事等の構成員の変更にもかかわらず団体そのものは存続していたものである。
 しかしながら、前記認定のとおり、原告協会を法人化させるために設立された株式会社日本小集団活動協会が、講師派遣の依頼の減少等により運営に行き詰まり、平成19年7月13日には株主総会決議により解散していること、平成20年以降は原告X以外に原告協会の講師として活動した者がなく、原告Xも平成21年1月に脳梗塞を発症してからは講師としての活動を停止していること、原告協会が管理する銀行預金口座には平成20年7月29日を最後に講師料の振込みがないことからすれば、現時点において、原告協会が団体としての実質的な活動をしていないことは明らかであり、活動再開の具体的な見込みが立っているとも認められないから、本件訴訟において、原告協会理事長をはじめ多数の理事により原告協会が存続している旨が記載された「証明書」ないし「理事長代行承認書」なる書面が作成されて当裁判所に提出されていることなどの事情を考慮しても、原告協会が現時点で団体として存続していると認めることは躊躇される。
ウ 次に、本件規約によれば、理事長が原告協会を代表し(第12条)、事業計画の決定等の重要事項については、理事の2分の1以上の出席によって開会される理事会において、出席理事の過半数の同意をもって決し(第18条、第21条、第22条)、理事会の決議に従って理事長が原告協会の資産を管理する(第7条、第12条)などとされているから、少なくとも本件規約上は、原告協会においては多数決の原則が採用されており、代表の方法、理事会の運営、財産の管理方法などの団体としての主要な点が定められていることが認められる。
 しかしながら、原告Xの内縁の妻であるP3は、原告協会においては、原告Xが理事に電話をかけて議題を伝え、理事同士が順次電話をして最終的に原告Xのところに電話がかかってくるようになっており、理事会は開会しておらず、本件議事録についても電話会議によって理事の意思を確認して作成した旨証言し、原告Xも、「理事会決定についての協会の対応」と題する書面(甲12の1)の中で「協会のメンバーは地方に分散しており、平素は電話連絡により会議をしている。」と記載している。本件規約には、理事会は理事長が招集し、招集に当たっては会議の目的たる事項及びその内容、日時、場所を示して、文書をもって理事に通知し、理事の2分の1以上の出席がなければ理事会を開会できず、ただし、やむを得ない理由のため会議に出席できない理事は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決し、又は他の理事を代理人として表決を委任することができると定められているところ、P3の証言等により認められる原告協会の理事会の実情は、本件規約の上記定めに従ったものでないことが明らかである。この点、原告Xは、原告協会では1年間に5、6回の頻度で理事会を開会していたと供述するが、本件規約第24条により作成が義務づけられている理事会議事録は本件議事録以外には一切提出されておらず(なお、甲29は常務理事会議事録であり、理事会議事録ではない。)、原告Xの内縁の妻であるP3の上記証言に反することからしても、原告Xの上記供述を採用することはできない。したがって、原告協会において、本件規約に従った理事会が開会されていたとは到底認められない。
 そうすると、原告協会においては、本件規約に従って理事会が開会されておらず、理事会の決議による重要事項の決定、理事会の決議に従った財産の管理など、本件規約の内容が守られていなかったというほかないから、本件規約の存在をもって、団体としての主要な点が確定していたと認めることは到底できず、他に、原告協会の活動に関する確定した慣行等が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
エ 加えて、本件議事録には、理事のP5が理事会に出席した旨の記載があるが、P5は、本件の証人尋問で、本件議事録の内容を把握していない旨証言しており、この点について、P3は、P5は反対しないと思ったので本件議事録に出席者として記載したという趣旨の証言をしていることからすれば、本件議事録に理事会に出席したと記載されている理事について、あらかじめ電話連絡をして意思確認がされたともにわかに認めることはできないというべきである。
 このようなことからすれば、原告協会において、原告Xが電話により原告協会の活動方針等について他の理事の意見を聞くことがあったとしても、理事全ての意思を確認していたとまでは認められないし、理事の間で意見が分かれるなどした場合に、最終的にどのように原告協会としての意思を決定していたのかについても全く不明であるから、原告協会において、多数決の原則が採用されていたとも認められない。
オ 以上によれば、原告協会は、現時点で団体として存続しているとは認めがたい上、多数決の原則が採用されているとも、団体としての主要な点が確定しているとも認められないから、原告協会が民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるということはできない。
(3) まとめ
 よって、原告協会の当事者能力を認めることができないから、原告協会の訴えは不適法であり、却下を免れない。
2 争点5−1(本件テキストの著作物性)について
(1) 原告Xは、テーマ選定マトリックス及びQCサークル活動記録表1ないし3が著作権法上保護される著作物に該当する旨主張する。
(2) 著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めており(2条1項1号)、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作権法によって保護することはできず、これを著作物ということはできない。
 テーマ選定マトリックスは、職場等における問題点をテーマ候補として選び、そのテーマ候補について「利用者の満足」等の評価項目毎に順位付けを行って5から1までの数字を記載し、記載された数字を用いて一定の計算(計算方法については別紙著作物目録1−1に記載のとおり。)を行ってテーマ候補の選定順位を決めるというものであるが、このようなテーマ候補の選定順位の決定方法自体はアイデアであって表現ではない。そして、テーマ選定マトリックスの表は、縦線と横線を交差させて作成した単純な表に「評価項目」や「テーマの候補」などを記入するという極めてありふれたものであり、上記アイデアを表現する表としての表現上の創作性を認めることは到底できない。
 また、QCサークル活動記録表1は、四角で囲まれた空欄の左上に「現状把握@ 縮小して貼付する。」などと記載されているだけのものであり、QCサークル活動記録表2も、「現状把握の結果から分かったこと@〜D」、「目標値の設定」と記載されているだけで他の部分が空欄となっているものであり、QCサークル活動表3も、対策立案実施について、「特性要因図の対策要因の番号順に対策要因図を書き挙げる。」、「対策要因毎にマトリックスの項目毎の検討をしまとめる。」と記載された下に、縦線と横線を交差させて作成した表に「対策要因」、「どうする」、「具体的な方法」、「担当者」、「場所」、「何時迄に」と記載されているだけであって、いずれもQCサークル活動の内容を記録する個所を設けた単純な表であり、このような記録表は、その内容(アイデア)の独創性いかんはともかく、表現としては極めてありふれたものであるから、これらについても表現上の創作性を認めることはできない。
 したがって、テーマ選定マトリックス及びQCサークル活動記録表1ないし3は、いずれも著作権法上保護される著作物とは認められない。
(3) よって、その余の点について判断するまでもなく、著作権に基づく原告Xの請求には理由はない。
3 争点6−1(被告府社協が原告協会との共催を中止したことなどは原告Xに対する不法行為を構成するか)について
(1) 事実関係
 証拠(各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告協会の講師の派遣に関する業務は、平成10年ころからコムテックが行っていたところ、原告Xは、原告協会の同業務に関してコムテックが不正に利益を得ていると考え、被告Yに対し、平成17年度からは原告協会が講師の派遣先に直接派遣料を請求するよう指示した。
 そこで、被告Yは、平成17年4月1日からは、原告協会において直接売上金を回収することとした。(丙13)
イ 被告Yは、平成18年7月、原告Xに対し、原告協会の事務局を辞めたいと申し出た。(甲47、丙13)
ウ 原告協会は、被告府社協に対し、平成18年9月10日ころ、以下の内容が記載された「事務局交代のお知らせ」と題する書面(乙2、以下「乙2書面」という。)を送付した。(乙2)
 「・・・ この度本人事情による事務局退任届を認め、機構の一部を変更致しました。
 以下、お知らせ申上げますと共に、宜しくご配慮の程をお願い申上げます。
 記
 旧事務局・・Y
 ・・・
 新事務局・・・P14
 ・・・
 なお、旧事務局は07年3月末まで残務処理責任があり、新任へ業務引継をしますが事務局の資格と決定権は全くありません。また潟Rムテックと協会は一切無縁なので間違いなき様お願い致します。・・・」
エ 原告協会は、被告Yに対し、平成18年10月13日ころ、以下の内容が記載された「理事・事務局長解任の件」と題する同被告宛ての書面(甲46、以下「甲46通知書」という。)を送付した。(甲46)
 「平成一八年十月十三日付けを以って貴殿を理事・事務局長から解任します。
 上記については関係先全てに文書にて広告しました。
 事由:大阪に常駐不能で事務局の用を成していないこと
    独断専行行為が多発して協会運営に支障のあること
    事務処理に誤りが多く協会活動に支障をきたすこと
    報告連絡相談を意識的に避け活動の妨げになること
    会計処理に間違いが多く業務遂行の妨げになること
    トップの指示に従わず悪口を撒き散らせていること
 本日以降、当協会と貴殿ならび潟Rムテックとは一切関係ない事を通知します。・・・」
オ 原告協会は、平成18年10月13日ころ、被告府社協との共催によるQCサークル活動の参加施設に対し、以下の内容が記載された「事務局長解任のお知らせ」と題する各施設長宛ての書面(乙3、以下「乙3書面」という。)を送付した。(乙3)
 「・・・ さて、今回事務局Yの個人事情により事務局業務が不可能となり、ご連絡申上げました通り事務局をP14が担当する事となりましたが、協会内の諸般の事情によりY理事・事務局長を10月13日付で解任する事と致しました。長年のご厚誼に感謝すると共に謹んでご報告をさせて頂きます。従って10月13日以降はY氏は当協会とは一切関係が御座いませんので念の為申し添え致します。・・・」
カ 被告府社協及び大阪福祉施設士会は、平成19年度(平成19年4月以降)の原告協会とのQCサークル活動の共催事業を中止することとし、原告協会に対し、平成18年10月24日ころ、以下の内容を記載した「大阪府福祉施設士会「福祉QC」活動推進事業への共催の中止について」と題する原告協会宛ての書面(甲3、以下「甲3通知書」という。)を送付した。(甲3)
 「・・・ さて、本会では、福祉施設の業務改善手法としての「福祉QC」活動を推進するため、貴会との共催で研修会、発表大会などを開催してまいりましたが、平成18年度末をもって当事業への共催を中止させていただくこととなりました。
 初回の開催から長年にわたり大変お世話になりまして誠にありがとうございました。
 今後は、貴会で実施される事業につきまして、大阪府社会福祉協議会及び大阪福祉施設士会の名義の使用についてお控えいただきますようお願い申し上げます。」
キ また、被告府社協及び大阪福祉施設士会は、同日ころ、各参加施設に対し、以下の内容を記載した「大阪福祉施設士会「福祉QC」活動推進事業への共催の中止について」と題する各参加施設宛ての書面(乙1、以下「乙1書面」という。)を送付した。(乙1)
 「・・・ さて、本会では、福祉施設の業務改善手法としての「福祉QC」活動を推進するため、日本小集団活動協会との共催で、研修会・発表大会などを開催してまいりましたが、これまでの取り組みを一段落し、平成18年度末をもって当事業への共催を中止させていただくこととなりました。
 なお、平成19年度以降に日本小集団活動協会において実施される「福祉QC」活動への参加を希望される場合には、直接開催事務局へお問い合わせいただきますようお願い申しあげます。」
ク 原告Xは、被告府社協からの共催中止の通知を受け、平成18年10月25日、被告府社協の当時の事務局長P2と協議を行い、同月27日ころ、以下の内容を記載した書面(乙4。以下「乙4書面」という。)をP2事務局長に送付した。(乙4)
 「・・・ 10月25日にはお忙しい中、私共のために貴重な時間を割いていただき厚く御礼を申上げます。
 さて、お話いたしましたとおり翌26日に施設士会P15会長施設を訪問いたしました。
 厳しい言葉の中に福祉QCに対するご期待も述べられ、一応今後のご支援もご理解いただきました。
 ただ、暫く期間をおく事は当然の帰結であり当方もこれを快く受け容れ指導協力を依頼しました。
 福祉施設士会の協賛は当分見送るが、資料送付や施設士会合での説明は差支えないとの事でした。
 元々、全社協福祉施設士会の福祉QCに導入当初から関わり、大阪でもその活動推進に全力投球をして来ましたが、組織の統制に不備が発生した事は誠に残念で慙愧に耐えません。・・・」
(2) 被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止した経緯等
 原告Xは、被告府社協が、被告Yとの間で、被告Yに原告X作成の本件テキストを使用させてQCサークル活動をさせることを計画し、共謀の上、原告協会と行っていたQCサークル活動の共催を中止し、共催中止にあたって原告協会内部に内紛がある旨の誹謗中傷をしたと主張するが、本件全証拠によっても、原告Xの上記主張事実を認めるに足りない。
 かえって、被告府社協の現事務局長(平成17年4月1日から平成19年3月31日までは施設副支部長)であるP16は、その陳述書(乙9)において、次のとおり記載している。平成18年9月、原告協会から事務局長が交代になったという通知が届いたが、同年10月13日ころにも、原告協会の事務局長であった被告Yを解任した旨の通知が被告府社協が支援していた各施設の長のもとに届いたことを知った、事務局長の交代を知らせる通知の後に事務局長を解任するという通知が出されたことから、原告協会内部で何らかの不祥事が起こったものと考えたが、原告協会からは経緯について何ら説明のない不誠実な対応がなされた、そこで、被告府社協においては、平成19年度からは原告協会とのQCサークル活動の共催を中止することとし、その旨記載した甲3通知書を原告協会に宛てて発送し、原告協会との共催によるQCサークル活動への参加施設に対しても乙1書面を送付したが、乙1書面を送っただけでそれ以外の連絡はしていない、平成18年10月25日、被告府社協のP2事務局長が原告Xに共催中止の理由や経緯を説明し、原告Xも納得をして了解した、と。
 P16の陳述書の上記記載内容は、被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止することを決定した経緯について、原告協会が、事務局長が被告YからP14に交代になった旨記載した乙2書面に引き続き、被告Yを事務局長から解任した旨記載した乙3書面を発送していること、原告Xが被告協会との共催の中止を了解したという点についても、原告Xが被告府社協のP2事務局長に送付した乙4書面に「暫く期間をおく事は当然の帰結であり当方もこれを快く受け容れ指導協力を依頼しました。」、「福祉施設士会の協賛は当分見送るが、資料送付や施設士会合での説明は差支えないとの事でした「組織の統制に不。」、 備が発生した事は誠に残念で慙愧に堪えません。」などと記載されていることと符合しており客観的な事実関係に整合するものである上、その内容に特段不自然・不合理な点も見当たらないから、信用できるというべきである。
 したがって、被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止した経緯等については、P16作成の陳述書の上記記載内容のとおりであると認めるのが相当である。
(3) 検討
 上記(1)、(2)に認定のとおり、被告府社協は、平成11年ころから原告協会とQCサークル活動の共催を行ってきたところ、平成18年ころ原告協会内部で事務局長の交代に関する内紛が生じたこと、その際に原告協会が納得のいく対応をしなかったことなどを理由として、平成19年度以降(平成19年4月1日以降)の共催を中止することを決定したものであるが、このような共催を中止した理由が不合理であるとはいえない上、実際に共催を中止する約半年前の平成18年10月24日ころ、原告協会に対し、共催活動を中止することを通知しており、原告協会に共催中止後(平成19年4月以降)の活動準備のために相当の期間を与えていること、共催の中止に当たっては、参加施設に対し、今後のQCサークル活動に関しては直接原告協会に連絡をするよう連絡するなど、原告協会がこれまでの参加施設を対象としてQCサークル活動を継続することができるように配慮していること、平成18年10月25日には共催の中止について原告Xの了解も得ていることに照らせば、被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催を中止したことが、原告協会あるいは原告Xに対する不法行為を構成すると認めることはできない。
 また、原告Xは、被告府社協が共催中止にあたって原告協会内部に内紛がある旨の誹謗中傷をしたと主張するが、同主張を認めることができないことは前記のとおりである。なお、上記認定のとおり、被告Yに対して送付した甲46通知書の内容からしても、当時原告協会と被告Yとの間で紛争が生じていたことは明らかであり、原告X自身、被告府社協のP2事務局長に宛てた乙4書面に「組織の統制に不備が発生した事は誠に残念で慙愧に堪えません」と記載しており、原告協。会内部で何らかのトラブルが生じていたことは認めていたのであるから、原告協会内部に何らかの内紛があったことは事実であると認められる。したがって、仮に、被告府社協が原告協会とのQCサークル活動の共催中止にあたって、原告協会内部に内紛がある旨を参加施設に伝えたとしても、何ら虚偽の事実を告知し、原告協会を誹謗中傷したことにはならず、このことが原告協会あるいは原告Xに対する不法行為に当たるということもできない。
(4) したがって、被告府社協が原告協会との共催を中止したことなどが原告Xに対する不法行為を構成するとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、この点に関する原告Xの請求はいずれも理由がない。
4 結語
 以上によれば、原告協会の訴えは、不適法であるから却下することとし、原告Xの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 北岡裕章
 裁判官 山下隼人
line
 
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