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【事件名】焼結機設計図の複製事件
【年月日】平成22年2月12日
 東京地裁 平成21年(ワ)第33458号 損害賠償請求事件、平成21年(ワ)第37278号 損害賠償請求反訴事件
 (口頭弁論終結日 平成21年12月11日)

判決
本訴原告(反訴被告) 株式会社イー・ピー・ルーム(以下「原告」という。)
本訴被告(反訴原告) 住石マテリアルズ株式会社(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 冨永敏文
同 尾原央典


主文
1 原告の本訴請求に係る訴えを却下する。
2 原告は、被告に対し、21万円及びこれに対する平成21年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する平成21年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 主文第2項と同旨
第2 事案の概要
1 本訴は、被告との間で放電焼結機及びワークローダーを製造納入する旨の契約を締結した原告が、放電焼結機の設計図等の原図を被告に送付したところ、被告が原図を複製し、第三者に頒布して放電焼結機を製造させ、被告名で販売した行為が上記契約に違反するとして、被告に対し、契約違反(債務不履行)による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴は、被告が、原告が提起した本訴に係る訴えは原被告間の関連訴訟の確定判決において認められなかった請求と実質的に同一の請求を行うものであり、原告による本訴の提起及び維持は被告に対する不法行為に当たるとして、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金21万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成21年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠等は各項に掲記)
(1) 原告が有していた特許権
 原告は、以下の特許(以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者であった。(甲1の1、10の別紙1、乙1〜3、弁論の全趣旨)
 記
 特許番号 第2640694号
 発明の名称 放電焼結装置
 出願日 平成2年9月18日
 優先日 平成2年2月2日
 公開日 平成4年1月14日
 公開番号 特開平4−9405号
 登録日 平成9年5月2日
(2) 本件特許取消の経緯(甲 10の別紙20、乙1〜3、弁論の全趣旨)ア 被告(旧商号「住友石炭鉱業株式会社」)は、平成10年2月13日、本件特許について、特許異議の申立てをし(平成10年異議第70682号。以下「本件特許異議申立て」という。)、特許庁は、平成13年7月4日、本件特許を取り消す決定をした(以下「本件取消決定」という。)。
 本件取消決定の理由は、平成7年3月14日付けの手続補正は明細書又は図面の要旨を変更するものであり、本件特許の出願日は平成7年3月14日とみなされるから、本件特許に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物(特開平4−9405号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項に違反してされたものである、というものである。
イ 原告は、本件取消決定の取消しを求めて、東京高等裁判所に取消訴訟を提起した。同裁判所は、平成15年4月9日、原告の請求を棄却する判決をした。
ウ 本件取消決定は、平成15年10月9日、上告不受理決定等により確定した。
(3) 原被告間の関連訴訟
ア 東京地方裁判所平成18年(ワ)第4428号、同第6631号事件(以下「前訴事件@」という。)(乙1、弁論の全趣旨)
(ア) 前訴事件@は、原告が、被告に対し、@本件特許異議申立ては、実公昭46−5289号が存在するにもかかわらずされたものであり、不法行為に当たるとして、損害の一部請求として10万円の支払、A本件取消決定の取消理由が無効であることの確認等を求めた事案である。
(イ) 東京地方裁判所は、平成18年6月30日、上記無効確認請求を却下し、損害賠償請求を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件@に関する判決は確定している。
イ 東京地方裁判所平成18年(ワ)第11210号事件(以下「前訴事件A」という。)(乙2、弁論の全趣旨)
(ア) 前訴事件Aは、原告が、被告に対し、本件特許異議申立ては権利の濫用であり不法行為に当たるとして(すなわち、本件特許の出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正に係る事項は、実公昭46−5289号により公知であり、上記補正は要旨変更には該当せず、本件取消決定における取消理由は理由がないから、本件特許異議申立ては権利の濫用であり許されないとして)、15億円の損害の一部請求として10万円の支払を求めた事案である。
(イ) 東京地方裁判所は、平成18年8月31日、上記不法行為に基づく損害賠償請求を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Aに関する判決は確定している。
ウ 東京地方裁判所平成18年(ワ)第17644号事件(以下「前訴事件B」という。)(乙3)
(ア) 前訴事件Bは、原告が、被告に対し、主位的に、本件特許異議申立ては権利の濫用であり不法行為に当たるとして(すなわち、本件特許の出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものであり、また、実公昭46−5289号により公知であり、上記補正は要旨変更には該当せず、本件取消決定における取消理由は理由がないから、本件特許異議申立ては権利の濫用であり許されないとして)、15億円の損害の一部請求として10万円の支払を求め、予備的に、被告は、原告の放電プラズマ焼結機の設計図のうち原告の署名を被告の署名に貼り替えて、設計図を複製し、これに基づいて、放電焼結機を株式会社南雲電装(以下「南雲電装」という。)に製造販売させて、1億円の利益を得、原告は同額の損害を被ったとして、上記設計図の著作権侵害に基づき、1億円の損害の一部請求として10万円の支払を求めた事案である。
(イ) 東京地方裁判所は、平成18年10月24日、要旨次のとおり判示して、上記主位的請求及び予備的請求に係る訴えをいずれも却下する判決をした。
a 主位的請求について
 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない。
 前訴事件Bにおける主位的請求は、前訴事件@及び前訴事件Aにおける損害賠償請求と同一の理由に基づく損害賠償請求の残部を請求するものであり、実質的には上記各前訴事件で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものと評価せざるを得ない。前訴事件Bの主位的請求は、上記各前訴事件の確定判決により当該損害賠償請求権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。原告が上記各前訴事件において訴訟活動を充分になし得なかった事由は存しないから、原告の前訴事件Bの主位的請求を認めないと当事者間の公平を害するような特段の事情もない。
 前訴事件@及び前訴事件Aで敗訴した原告が、前訴事件Bにおいて本件特許異議申立てが不法行為に当たることを理由とする損害賠償請求をすることは、信義則に反し許されないというべきである。
b 予備的請求について
 予備的請求に係る訴えは、併合の要件を欠くものであって、許されないというべきである。
エ 知的財産高等裁判所平成18年(ネ)第10086号事件(以下「前訴事件B控訴事件」という。)(乙4、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Bの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。なお、原告は、控訴審において、予備的請求に係る訴えを取り下げた。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成19年3月28日、1審判決と同様の理由により、前訴事件Bの訴えは、信義則に反し、訴権の濫用に当たり許されないものであるとして、訴えを却下する判決をした。
(ウ) 前訴事件Bに関する判決は確定している。
オ 東京地方裁判所平成18年(ワ)第22355号事件、同第26612号反訴事件(以下「前訴事件C」という。)(乙5)
(ア) 前訴事件Cの本訴は、原告が、以下のように主張して、被告に対し、損害賠償金の支払を求めた事案である。
@ 本件特許の出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正に係る事項は、実公昭46−5289号公報等により本件特許の出願時において周知、慣用であったから要旨変更に当たらないこと等5つの理由により本件取消決定は無効とされるべきものであり、被告による本件特許異議申立ては権利の濫用として不法行為に当たり、原告は、被告に対し、15億円の損害の一部請求として上記5つの理由ごとに各5万円(5請求、総額25万円)の支払を求める。
A 原告と被告とは、取引基本契約を締結し、その上で、原告作成の設計図による製品を、原告が有限会社北栄興業において製造させて被告に納入する旨の合意をしたにもかかわらず、原告作成の設計図による放電焼結装置については上記合意が履行されず、被告は、原告が作成した図面一式を詐欺に当たる手段で取得し、南雲電装に交付して放電焼結装置を製造させた。
 被告の上記行為は、原被告間の上記製造納入合意に反する債務不履行に当たり、原告は、被告に対し、1億円の損害の一部請求として5万円の支払を求める。
B 被告は、原告作成の設計図の原告代表者署名部分を切り取り、被告の名称欄を貼り付けて、設計図を作成し、これを複写して南雲電装に交付した。
 被告の上記行為は、原告作成の設計図に係る原告の著作権(複製権)を侵害する不法行為に当たり、原告は、被告に対し、15億円の損害の一部請求として5万円の支払を求める。
C 被告は、被告の方式で図面番号を付したいから、原告作成の設計図及び部品図を貸してくれと言って占有し、原告に損害を被らせた。
 被告の上記行為は詐欺に当たる不法行為であり、原告は、被告に対し、15億円の損害の一部請求として5万円の支払を求める。
D 被告は、被告が占有する原告作成の設計図により放電焼結装置を製造販売し、原告に損害を被らせた。
 被告の上記行為は横領に当たる不法行為であり、原告は、被告に対し、15億円の損害の一部請求として5万円の支払を求める。
E 被告は、原告作成の設計図の原告代表者署名部分を切り取り、被告の名称欄を切り貼りして、被告の設計図を作成した。
 被告の上記行為は、不法行為(私文書偽造)に当たり、原告は、被告に対し、15億円の損害の一部請求として5万円の支払を求める。
(イ) 東京地方裁判所は、平成19年1月31日、前訴事件Cの本訴につき、上記@に係る訴えをいずれも却下し、上記AからEの請求をいずれも棄却する判決をした。
 各請求に対する判示は、要旨次のとおりである。
a 上記@の各請求について
 上記@の各請求は、前訴事件@及び前訴事件Aにおける請求と同一の不法行為による損害賠償請求権に基づく請求であり、前訴事件@及び前訴事件Aにおいて数量的一部請求であったことから、その残部請求をしているものであって、実質的に、前訴事件@及び前訴事件Aで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであるといわざるを得ず、前訴事件@及び前訴事件Aの確定判決によって同請求権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものということができる。
 そうすると、前訴事件@及び前訴事件Aにおいて敗訴した原告が、本件特許異議申立てが不法行為を構成すると主張して損害賠償請求の訴えを提起することは、信義則に反して許されないというべきである。
b 上記Aの請求について
 原告主張に係る事実を裏付ける証拠は何ら提出されておらず、これらを認めることはできないから、上記Aの請求に係る主張は認められない。
c 上記Bの請求について
 原告主張に係る事実を認めるに足りる証拠はなく、これを認めることはできない。また、原告作成の設計図と被告の設計図とは、細部において異なるものであり、被告の設計図が原告作成の設計図を複写して作成された複製物であるということもできないから、上記Bの請求に係る主張は認められない。
d 上記Cの請求について
 原告の主張に係る事実を裏付ける証拠はない上、その他、詐欺の不法行為の成立を基礎付ける具体的な主張もないから、上記Cの請求に係る主張は認められない。
e 上記Dの請求について
 原告の主張に係る事実を裏付ける証拠は提出されておらず、原告の主張する不法行為の成立を認めることはできないから、上記Dの請求に係る主張は認められない。
f 上記Eの請求について
 原告の主張に係る事実を裏付ける証拠は提出されておらず、原告の主張する不法行為の成立を認めることはできない。また、被告において作成したと原告が主張する設計図の右下隅には、図面の番号や型式番号等が記載されるとともに、被告の名称が大きく英語表記で記載されており、これによって、上記設計図は被告作成名義のものであると解され、被告が被告作成名義のものを作成したとすれば、偽造の問題が生じる余地はないから、上記Eの請求に係る主張は認められない。
カ 知的財産高等裁判所平成19年(ネ)第10015号事件(以下「前訴事件C控訴事件」という。)(乙6、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Cの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。原告は、控訴審において、上記@に係る訴え(5請求)を取り下げて、新たに、下記Fの請求(5請求)を択一的に請求した。
F 本件特許の出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正に係る事項は、実公昭46−5289号公報等により本件特許の出願時において周知、慣用であったから要旨変更に当たらないこと等5つの理由により本件取消決定は無効とされるべきものであり、被告による本件特許異議申立ては権利の濫用として5個の不法行為を構成し、被告は、小型SPS(放電プラズマ焼結機 DR.SINTER・LAB,SPS-510L)を製造販売して一台当たり少なくとも50万円以上の利益を得た。
 原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、上記小型SPSの製造販売に係る損害金各5万円(5請求、総額25万円)の支払を択一的に求める。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成19年8月28日、前訴事件Cの本訴につき、上記AからEの請求に係る控訴をいずれも棄却し、控訴審において追加された上記Fに係る訴えをいずれも却下する判決をした。
 上記AからFの各請求に対する判示は、要旨次のとおりである。
a 上記Aの請求について
 取引基本契約のほかに、原告が主張する製造納入合意のような具体的な合意が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、原告が主張する製造納入合意があったことを認めることはできない。上記製造納入合意が認められない以上、被告が原告から図面を詐欺に当たる手段で取得したとの主張はその前提を欠くことになる上、被告が図面一式を原告から詐欺に当たる手段で取得したと認めるに足りる証拠もない。
b 上記Bの請求について
 原告作成に係る設計図には、表現上の創作性が認められず、原告の著作権侵害の主張は、前提を欠き失当というほかない。
c 上記Cの請求について
 被告が原告に対し具体的な放電焼結装置の製造の発注を行ったことを認めることはできず、被告が原告の主張する製造納入合意をしたと認めることはできない。また、原告も記名押印した取引基本契約の第19条には、原告が作成した図面等の所有権は被告に帰属する旨の規定が存在するから、原告が作成した図面等の所有権は被告に帰属することを原告も同意していたものであり、原告が平成6年10月14日に被告から図面コピー一式の送付を受けた際やその後においても、図面原紙を返してもらっていない旨直ちに異議を申し出た形跡もない。
 以上に照らせば、被告の詐欺行為を認めることはできないから、上記Cの請求は理由がない。
d 上記Dの請求について
 上記cの説示に照らせば、被告が図面原紙を騙し取って占有しているから横領による不法行為が成立する旨の原告の主張は採用することができず、上記Dの請求は理由がない。
e 上記Eの請求について
 本件全証拠によっても、原告主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。認定に係る事実経過等に照らせば、当時、被告が原告の図面に対し修正、加筆等を行うことは当事者間の当然の了解事項であったとみることができるから、結局、被告が、原告の署名を切り取り、設計図に貼り付けて原告の署名とするという行動をとる動機自体も認めることができない。
 以上によれば、上記Eの請求は理由がない。
f 上記Fの各請求について
 上記@の各請求及び上記Fの各請求を子細に検討すると、いずれも、結局は被告が本件特許異議申立てをしたことが権利濫用として許されないから不法行為に該当する、というものであるところ、上記@に係る訴えを提起することが、前訴事件@及び前訴事件Aとの関係で信義則に反して許されないとした1審判決の理由及び判断は正当である。
 そして、上記Fの各請求も、上記信義則の適用との関係では上記@の各請求と実質的な差異はないと解されるから、原告が上記Fに係る訴えを提起することも、前訴事件@及び前訴事件Aとの関係で信義則に反し、不適法である。
(ウ) 前訴事件Cに関する判決は確定している。
キ 東京地方裁判所平成19年(ワ)第17959号事件(以下「前訴事件D」という。)(乙7、弁論の全趣旨)
(ア) 前訴事件Dは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、不法行為(著作権侵害)に基づき、損害賠償金10万円の支払を求めた事案である。
 原告は、平成6年9月、原告が設計したSPS−S502放電プラズマ焼結機を発注するか否かの検討のため、被告に対し、原告が作成した図面の写しを交付した。その後、被告から、図面の修正、加筆等が必要であるとして、図面の原紙の交付を要請されたため、原告は、図面の原紙は原告に返却されるものと信じて、図面の原紙を被告に交付した。しかしながら、被告は、図面の原紙を毀棄した。
 原告が被告に交付した図面は著作物であり、原告は同図面に係る著作権を有し、被告の上記図面の毀棄行為は、原告の著作権を侵害するものであり、不法行為に当たる。
(イ) 東京地方裁判所は、平成19年12月12日、仮に、原告が被告に交付した図面に著作物性が認められたとしても、著作物が固定された有形物である上記図面の毀棄行為は、その著作物についての著作権を侵害することにはならないから、原告の主張は失当であるとして、原告の請求を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Dに関する判決は確定している。
ク 東京地方裁判所平成19年(ワ)第22834号事件(以下「前訴事件E」という。)(乙8、弁論の全趣旨)
(ア) 前訴事件Eは、原告が、原被告間の訴訟である知的財産高等裁判所平成19年(ネ)第10015号事件(前訴事件C控訴事件)において、被告が、虚偽の主張又は錯誤により誤った主張をしたため、裁判所を錯誤に陥らせ、原告の請求を棄却する旨の誤った判断をさせたものであり、被告の上記行為は不法行為を構成するとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金10万円の支払を求めた事案である。
(イ) 東京地方裁判所は、平成19年12月12日、前訴事件C控訴事件における被告の主張が虚偽又は錯誤により誤ったものであること、上記事件における裁判所の判断が、被告が提出した証拠を誤って採用したためにされたものであることを窺わせる証拠はないとして、原告の請求を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Eに関する判決は確定している。
ケ 東京地方裁判所平成19年(ワ)第23459号事件(以下「前訴事件F」という。)(乙9)
(ア) 前訴事件Fは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金の一部として10万円の支払を求めた事案である。
a 原告は、「SPS−S502放電プラズマ燒結機」の設計図を作成した。この設計図は著作物であり、その著作権は原告に帰属する。
b 被告は、平成6年10月7日、原告に対し、上記設計図を修正・加筆等するので図面原紙を送付するように要請して、これを被告に送付させ、その後、上記図面から著作者である原告の署名欄を切除して著作者名の表示を被告の名称に改変した上、改変後の設計図の複製物を南雲電装等に頒布して、設計図に係る放電プラズマ焼結機を製造させ、被告名義で販売した。
 被告が、上記設計図の著作者名表示を改変し、その複製物を頒布した行為は著作権法121条に該当する。
c 被告が上記設計図に係る放電プラズマ焼結機を南雲電装に製造させたことにより、原告は約150万円の得べかりし利益を失った。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年3月11日、原告の上記主張を、氏名表示権(著作権法19条)若しくは複製権(同法21条)の侵害行為又は著作権等の侵害とみなす行為(同法113条1項2号)があったことを選択的に、又は併合して不法行為として主張しているものと理解することができるとした上で、被告の主張する抗弁(消滅時効)について判断し、仮に、原告の主張する被告の行為が何らかの不法行為に該当するとしても、それに基づく原告の損害賠償請求権は、時効によって消滅したものであるとして、原告の請求を棄却する判決をした。
コ 知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10040号事件(以下「前訴事件F控訴事件」という。)(乙10、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Fの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。なお、原告は、控訴審において、1審における被告が著作権を侵害したとする民法709条に基づく請求を、被告の被用者が著作権を侵害したとする民法715条1項本文に基づく請求に、交換的に変更した。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成20年7月23日、被告の主張する抗弁(消滅時効)について判断し、原告の主張に係る損害賠償請求権は時効によって消滅したものであるとして、原告が控訴審において交換的に変更した訴えに係る請求を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Fに関する判決は確定している。
サ 東京地方裁判所平成19年(ワ)第23460号事件(以下「前訴事件G」という。)(乙11)
(ア) 前訴事件Gは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金10万円の支払を求めた事案である。
a 原告は、平成6年9月ころ、被告に対し、被告が原告の設計したSPS−S502放電プラズマ焼結機を発注するか否かを検討するため、同放電プラズマ焼結機の設計図の写しを交付した。
 原告は、同年10月7日、被告から、図面の修正、加筆等が必要であるとして、上記設計図の原紙を交付するように要請されたため、上記設計図に自ら修正、加筆をした設計図を作成し、その原紙を被告に送付した。また、原告は、被告の要請に応じて、上記放電プラズマ焼結機の部品図50枚を作成し、被告に送付した。
b 被告は、50枚の上記部品図の中から無作為に1枚を選び、その部品図の中の原告の署名部分を切除し、これを原告作成に係る上記設計図に貼り付けて、設計図を作成した。この設計図の右下の四角く縁取りされた部分の中の「DRAWN BY」と題する欄には、原告の署名が記載されている。
 被告の上記行為は私文書偽造に該当し、不法行為が成立する。
c 原告は、被告が上記偽造に係る設計図と原告作成に係る上記部品図50枚を用いて、SPS−510L住石放電プラズマ焼結機を製造、販売して10万円以上の利益を得たことにより、同額の得べかりし利益を失った。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年2月22日、原告の前訴事件Gに係る訴えは、前訴事件C及び前訴事件C控訴事件における損害賠償請求と同一の不法行為に基づく損害賠償請求の残部を請求するものであり、前訴事件C及び前訴事件C控訴事件で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものにほかならず、上記前訴の確定判決によって紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に更なる応訴の負担を強いるものであり、信義則に照らして許されないとして、原告の訴えを却下する判決をした。
シ 知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10034号事件(以下「前訴事件G控訴事件」という。)(乙12、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Gの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。原告は、控訴審において、次のとおり主張を付加した。
 被告は、原告が被告に送付した原告部品図50枚のうちの1枚の原告の署名を冒用し、原告設計図の「SPS−S502 放電プラズマ焼結機S=1/2 94、9、19 甲」を「DRAWING NO NK−1526」、「DRAWN BY 甲」、「Sumitomo Coal Mining Company Ltd.」等との文詞に改変して、設計図を作成したから、有印私文書偽造罪が成立し、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償をする義務がある。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成20年7月16日、1審判決と同様の理由により、前訴事件Gに係る訴えは、信義則に照らして許されないものとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Gに関する判決は確定している。
ス 東京地方裁判所平成19年(ワ)第23951号事件(以下「前訴事件H」という。)(乙13)
(ア) 前訴事件Hは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、債務不履行による損害賠償金の一部として10万円の支払を求めた事案である。
 原告は、平成3年5月27日、被告との間で、原告代表者の設計に係る放電焼結機を原告が製造し、被告に納入する旨の契約を締結した。
 被告は、平成6年10月7日、原告に対し、図面に加筆修正を要するとして、上記放電焼結機の設計図の原紙を交付するように求めた。原告は、設計図の原紙は返却されるものと信じて、これを被告に送付した。
 被告は、原告から取得した設計図の制作者名称欄を原告から被告に改変した上、これを南雲電装等に頒布し、南雲電装に放電焼結機を製造納品させた。
 被告の上記行為は、原被告間の上記契約の債務不履行に当たり、原告は、被告に製造納入することにより得られた150万円の利益を失った。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年4月24日、前訴事件Hに係る訴えは、前訴事件C控訴事件、前訴事件D、前訴事件F及び前訴事件G等において認められなかった請求及び主張を蒸し返すもの、あるいは、これら先行訴訟(確定したものを除く。)と重複するものであり、信義則ないし二重起訴の禁止規定に抵触するもので不適法であるとして、これを却下する判決をした。
セ 東京高等裁判所平成20年(ネ)第2912号事件(以下「前訴事件H控訴事件」という。)(乙14、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Hの上記1審判決を不服として、東京高等裁判所に控訴した。
(イ) 東京高等裁判所は、平成20年8月26日、前訴事件Hに係る訴えは、信義則に反して許されないというべきであり、また、原告は、10年以上前の被告との間の放電焼結機の製造等についての契約関係に係る紛争を蒸し返し、一部請求とするなど形式的に訴訟物が異なるものとして、勝訴の見込みのない訴訟を繰り返して提起しているものであり、前訴事件Hに係る訴えも、その一環として提起されたものと認められ、訴権を濫用するものとしても不適法であるとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Hに関する判決は確定している。
ソ 東京地方裁判所平成20年(ワ)第4号事件(以下「前訴事件I」という。)(乙15)
(ア) 前訴事件Iは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金40万円の支払を求めた事案である。
 原告は、平成6年9月ころ、被告において原告の設計したSPS−S502放電プラズマ焼結機の製造を原告に発注するか否かを検討するため、被告に対し、上記放電プラズマ焼結機の設計図及び部品図の写しを交付した。
 原告は、同年10月7日、被告から、図面の修正、加筆等が必要であるとして、上記設計図及び部品図の原紙を交付するように要請されたため、上記設計図及び部品図にそれぞれ自ら修正、加筆をした設計図及び部品図50枚を作成し、これらの原紙を被告に送付した。原告は、被告に対し、上記図面の返却を求めたものの、被告は、これを返却せず、図面を毀棄した。
 被告の上記行為は、原告の所有権に対する侵害に当たり、不法行為が成立する。
 原告は、被告が上記図面を毀棄したことにより、放電プラズマ焼結機の受注活動を阻止され、40万円以上の得べかりし利益を失った。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年5月23日、原被告間において平成6年1月14日に締結された取引基本契約には、注文品又は請負の実施に付帯して作成された原告の図面、技術資料等の所有権は被告に帰属する旨の規定があり、上記図面は、請負の実施に付帯して作成された原告の図面に該当するから、その所有権は被告に帰属すると認められるとして、原告の請求を棄却する判決をした。
タ 知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10053号事件(以下「前訴事件I控訴事件」という。)(乙16、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Iの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成20年10月20日、前訴事件Iに係る請求は理由がなく、これと結論を同じくする1審判決は相当であるとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Iに関する判決は確定している。
チ 東京地方裁判所平成20年(ワ)第7416号事件、同第11277号反訴事件(以下「前訴事件J」という。)(乙17)
(ア) 前訴事件Jの本訴は、原告が、同人の有していた本件特許に対して被告がした本件特許異議申立ては権利の濫用であり不法行為に当たるとして(すなわち、本件特許の出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正に係る事項は、実公昭46−5289号により公知であり、上記補正は要旨変更には該当せず、本件取消決定における取消理由は理由がないから、本件特許異議申立ては権利の濫用であり許されないとして)、被告に対し、不法行為に基づき、885万円の損害の一部請求として10万円の支払を求めた事案である。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年9月30日、前訴事件Jの本訴請求に係る訴えは、実質的には、前訴事件@、前訴事件Aで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、上記各前訴事件の確定判決によって紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものであって、信義則に反して許されないとして、これを却下する判決をした。
ツ 知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10079号事件(以下「前訴事件J控訴事件」という。)(乙18、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Jの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成21年1月29日、前訴事件Jの本訴請求に係る訴えは、信義則に反する不適法なものとして却下すべきであり、これと結論を同じくする1審判決は相当であるとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Jに関する判決は確定している。
テ 東京地方裁判所平成20年(ワ)第8836号事件(以下「前訴事件K」という。)(乙19)
(ア) 前訴事件Kは、原告が、次のとおり主張して、不法行為に基づき、損害賠償金の一部として10万円の支払を求めた事案である。
a 原告は、被告から放電プラズマ焼結機の発注を得るため、原告が設計した放電プラズマ焼結機の設計図の写しを、被告に対して交付した。
 被告は、原告に対し、平成6年10月7日付けファックスで、「図面修正、加筆等ありますので図面原紙宅急便で送って下さい。」と要求した。そこで、原告は、上記設計図に加筆修正を加え、被告に対し、訂正後の図面の原紙を送付した。また、原告は、被告に対し、「NK−1526 SPS−S502放電プラズマ燒結機」と題する書面に名称等が掲記された部品図面合計50枚の原紙を送付した。
 上記訂正図面及び部品図面(各原紙)の所有権は原告に帰属する。
 しかしながら、被告は、原告に対し、上記訂正図面及び部品図面(各原紙)を返却しなかった。
 被告は、原告に無断で、原告に対して図面代を支払わないで占有していた原告の所有物である上記訂正図面及び部品図面を複製した上、南雲電装等に頒布し、放電プラズマ焼結機を製造させた上、これを販売した。
b 被告による上記行為は、上記訂正図面及び部品図面の横領(刑法252条1項)に該当する不法行為である。
 原告は、放電プラズマ焼結機を被告へ卸売りすることにより1台当たり150万円の利益を得ることを見込んでいたが、被告の上記行為により、原告は、放電プラズマ焼結機1台当たり150万円の得べかりし利益を失った。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年8月28日、前訴事件Kに係る訴えは、実質的に、前訴事件C及び前訴事件C控訴事件で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、上記控訴事件の確定判決によって紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものであって、信義則に反し許されないとして、これを却下する判決をした。
ト 知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10067号事件(以下「前訴事件K控訴事件」という。)(乙20、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Kの上記1審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴した。
(イ) 知的財産高等裁判所は、平成20年11月26日、前訴事件Kに係る訴えは、信義則に反する不適法なものとして却下すべきであり、これと結論を同じくする1審判決は相当であるとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Kに関する判決は確定している。
ナ 東京地方裁判所平成20年(ワ)第26722号事件(以下「前訴事件L」という。)(乙21)
(ア) 前訴事件Lは、原告が、次のとおり主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金の一部として10万円の支払を求めた事案である。
a 被告は、平成6年10月7日、原告に対し、放電焼結機の設計図に加筆修正等の必要があるとして、設計図原紙の送付を求めた。原告は、被告が修正、加筆後に設計図原紙を返却する旨約したので、被告に対し、設計図原紙を送付した。
 しかしながら、被告は、原告の作成に係る放電プラズマ焼結機の部品図から原告の代表者名である「甲」の署名部分を切除し、これを原告が作成した設計図に貼り付けた上、これに基づき南雲電装に放電プラズマ焼結機を製造させ、原告から交付を受けた設計図原紙を毀棄した。
b 被告は、原被告間の東京地方裁判所平成18年(ワ)第17644号事件(前訴事件B)において、上記設計図には、「『DRAWN BY 甲』と記載されており、何ら原告の著作権(著作者人格権)を侵害するものではない。」旨主張した。
c 被告の上記bの行為は、原告の名称を冒用するものであるから、私文書偽造に当たる。この被告の不法行為により、原告には、被告が原告代表者の設計に係る放電プラズマ焼結機を販売するたびに損害が継続して発生したが、そのうちの1台につき10万円を請求する。
(イ) 東京地方裁判所は、平成20年12月25日、前訴事件Lに係る訴えは、原告が被告との間で解決済みの紛争を蒸し返そうとして提起されたものであり、確定判決によって原告との間の紛争が解決されたとの被告の合理的な期待に反し、被告に再度の応訴の負担を強いるものというべきであって、信義則に反して許されないとして、これを却下する判決をした。
ニ 東京高等裁判所平成21年(ネ)第585号事件(以下「前訴事件L控訴事件」という。)(乙22、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、前訴事件Lの上記1審判決を不服として、東京高等裁判所に控訴した。
(イ) 東京高等裁判所は、平成21年3月19日、前訴事件Lに係る訴えは、不適法なものであって却下すべきであるとして、控訴を棄却する判決をした。
(ウ) 前訴事件Lに関する判決は確定している。
3 本訴についての当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 請求原因
 原告は、平成3年5月27日、被告との間で、原告代表者設計に係る放電焼結機及び放電焼結機にワークを出し入れするワークローダーを原告が被告に製造納入する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 被告は、平成6年10月7日、放電焼結機の図面の修正、加筆の必要があるとして、原告に対し、放電焼結機の設計図と部品図50枚の原紙の交付を求めた。原告は、図面の修正、加筆は原告がすると言ったが、原告が被告に製造納入する放電焼結機、ワークローダーの設計図等の図面を被告が修正、加筆することは了解事項であったため、原告において既に修正、加筆した設計図及び部品図50枚の原紙を被告に送付した。ところが、被告は、修正、加筆することなく、放電焼結機の設計図及び部品図50枚の原紙を複製し、南雲電装に頒布して放電焼結機を製造させ、これを被告名で販売した。
 被告の上記行為は本件契約に違反するものであり、この契約違反は被告の故意又は過失によってされたものである。原告は、被告の契約違反(債務不履行)によって、10万円(放電プラズマ焼結機1台を製造販売することにより得られた利益額)の損害を受けた。
イ 被告の本案前の主張に対する反論
(ア) 被告は本案前の答弁をするのみで本案の答弁及び請求原因に対する認否をしないため、被告は原告の主張を自白したものとみなされる(民訴法159条1項)。
(イ) 被告が従前の訴訟として指摘する各判決は、本訴の請求原因に基づく請求についての判決ではないから、既判力に抵触せず、本訴を却下する理由にならない。
 また、被告が従前の訴訟として指摘する各判決の多くには再審事由があり、再審事件等において係争中であるため、本訴を却下する理由にならない。
(2) 被告の主張
 原告は、被告に対し、第2の2の「前提となる事実」(3)記載の各損害賠償請求訴訟を提起(控訴提起を含む。)したが、これらの事件は、いずれも請求棄却、訴え却下、控訴棄却により原告の敗訴が確定している。また、原告は再審事件も提起している。
 これらの訴訟は、原告が有していた本件特許に関して、被告が本件特許異議申立てをしたことが不法行為に該当するとして損害賠償を請求した訴訟であるか、あるいは、原告が作成した設計図に関して、被告が、名称欄を改変した(私文書偽造に該当する行為をした)とか、設計図を詐取、横領、毀棄したとか、設計図に係る放電焼結装置を製造販売した等主張して、これらの行為が不法行為又は債務不履行に該当するとして損害賠償を請求した訴訟であり、本訴は、後者の類型に該当するものである。
 しかしながら、上記一連の訴訟において原告の主張は排斥されているのであり、本訴に係る訴えは、これらの訴訟における原告の主張を蒸し返すものであるから、信義則に反するものとして却下されるべきである。
4 反訴についての当事者の主張
(1) 被告の主張
 原告は、被告に対し、第2の2の「前提となる事実」(3)記載の各損害賠償請求訴訟を提起(控訴提起を含む。)した。
 本訴に係る訴えは、原告の敗訴判決が確定している前訴事件Cないし前訴事件L(これらの控訴事件を含む。)に係る訴えと実質的に同一であり、原告が本訴を提起しこれを維持したことは、被告に対する不法行為に該当する。
 被告は、本訴の応訴のために、弁護士費用として21万円の出費を余儀なくされ損害を被った。
(2) 原告の主張
ア 被告の主張は否認ないし争う。
イ 被告が従前の訴訟として指摘する各判決の請求原因は、本訴の請求原因と関係がなく、また、再審事由があって係争中であるから、反訴請求に理由はない。
 本訴の請求額を超える弁護士費用の請求は、反訴を提起するための訴訟代理人と依頼者である被告との馴れ合いによるもので違法である。
第3 当裁判所の判断
1 本訴について
(1) 本訴における原告の請求は、要するに、原告が、平成6年10月7日、被告から、図面の修正、加筆の必要があるとして放電焼結機の設計図と部品図50枚の原紙の交付を求められたため、被告に対し、原告において既に修正、加筆した設計図及び部品図の原紙を送付したものの、被告が、これらを修正、加筆することなく、設計図及び部品図の原紙を複製し、南雲電装に頒布して放電焼結機を製造させ、これを被告名で販売したという主張事実を前提に、被告の行為が放電焼結機等の製造納入に関する本件契約に違反するとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、放電焼結機1台を製造販売することにより得られた利益額10万円の損害賠償を求めるものである。
(2) この点、第2の2「前提となる事実」(3)記載のとおり、原告は被告に対し本件特許に関連する多くの訴訟を提起しているが、以下のとおり、本訴と同様の主張事実を前提とするいずれの訴訟についても原告の敗訴が確定している。
ア 原告は、前訴事件Cにおいて、上記(1)の主張事実を前提に、被告の行為が詐欺又は横領に当たる不法行為を構成すると主張して、損害賠償請求をしたものの、請求棄却の判決がされ、前訴事件C控訴事件においても、控訴棄却の判決がされた。
イ 原告は、前訴事件Kにおいて、上記(1)の主張事実を前提に、被告の行為が横領に当たり不法行為を構成すると主張して、損害賠償請求をしたものの、前訴事件Kに係る訴えは、実質的に前訴事件C及び前訴事件C控訴事件で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであって、信義則に反して許されないとして、却下判決がされ、前訴事件K控訴事件においても、控訴棄却の判決がされた。
ウ 原告は、前訴事件Bの予備的請求、前訴事件C及び前訴事件Fにおいて、上記(1)の主張事実を前提に、被告が設計図の原告の署名を被告の署名に貼り替えた(改変した)旨主張して、被告の行為が著作権侵害に当たり不法行為を構成するとして、損害賠償請求をしたものの、前訴事件Bにおいては併合の要件を欠き許されないとして却下判決がされ、前訴事件C及び前訴事件Fにおいては請求棄却の判決がされ、前訴事件C控訴事件及び前訴事件F控訴事件においても、控訴棄却の判決、請求棄却の判決がされた。
エ 原告は、前訴事件Gにおいて、上記(1)の主張事実を前提に、被告が部品図の中の原告の署名部分を切除しこれを設計図に貼り付けた旨主張し、被告の行為が私文書偽造に当たり不法行為を構成するとして、損害賠償請求をしたものの、前訴事件C及び前訴事件C控訴事件で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであって、信義則に反して許されないとして却下判決がされ、前訴事件G控訴事件においても、控訴棄却の判決がされた。
 また、原告は、前訴事件Hにおいても、上記(1)の主張事実を前提に、被告が設計図の原告の署名を被告の署名に改変した旨主張し、被告の行為が債務不履行に当たるとして、損害賠償請求をしたものの、前訴事件C控訴事件、前訴事件D、前訴事件F及び前訴事件G等で認められなかった請求及び主張を蒸し返すもの、あるいは先行訴訟と重複するものであって、信義則ないし二重起訴の禁止規定に抵触するもので不適法であるとして却下判決がされ、前訴事件H控訴事件においても、控訴棄却の判決がされた。
オ 原告は、前訴事件Dにおいて、上記(1)の主張事実を前提に、被告が交付を受けた図面の原紙を毀棄した旨主張し、被告の行為が著作権侵害に当たり不法行為を構成するとして、損害賠償請求をしたものの、請求棄却の判決がされた。
 また、原告は、前訴事件Iにおいても、上記(1)の主張事実を前提に、被告が交付を受けた図面の原紙を毀棄した旨主張し、被告の行為が所有権侵害に当たり不法行為を構成するとして、損害賠償請求をしたものの、請求棄却の判決がされ、前訴事件I控訴事件においても控訴棄却の判決がされた。
(3) このような上記各前訴事件の請求内容からすると、原告は、同一の主張事実を前提とする実質的に同一の紛争を蒸し返して、一部請求にしたり、あえて法律構成を変えるなどしたりすることによって形式的に訴訟物を異なるものにして、勝訴の見込みのない訴訟を繰り返し提起しているというべきであり、本訴に係る訴えも、上記の一環として提起されたものであると認められる。
 そうすると、本訴に係る訴えは、既に請求棄却又は訴え却下の判決が確定して解決済みの事件について、あえて上記各前訴事件と実質的に同一の請求及び主張を蒸し返すものであり、各前訴事件の確定判決によって紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に重ねて応訴の負担を強いるものであるといえるから、原告が本訴に係る訴えを提起することは訴権の濫用に当たり、許されないというべきである。
(4) 以上のとおり、本訴に係る訴えは、不適法な訴えであるから、却下されるべきものである。
2 反訴について
(1) 民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときは、当該訴えの提起自体が相手方に対する不法行為を構成するものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。そして、この理は、当該敗訴の確定判決に係る訴えの提起自体についての不法行為の該当性を判断する場合だけでなく、当該敗訴の確定判決後の、これと実質的に同一の訴訟の提起・維持に係る不法行為の該当性を判断する場合についても妥当するものというべきである。
(2) 上記1で述べたとおり、原告 が本訴に係る訴えを提起することは訴権の濫用に当たり許されないものというべきであるから、本訴請求は法律的根拠を欠くものである。
 そして、原告は、同一の主張事実を前提とする実質的に同一の紛争を蒸し返して、一部請求にしたり、あえて法律構成を変えるなどしたりすることによって形式的に訴訟物を異なるものにして、勝訴の見込みのない訴訟を繰り返し提起しているといえ、本訴に係る訴えも、この一環として提起されたものと認められることは、上記1(3)で説示したとおりであるから、本訴は、原告において、その主張する権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであることを知りながらあえて提起し、これを維持したものと認められる。
(3) 以上によれば、原告による本訴の提起及び維持は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものというべきであるから、被告に対する不法行為を構成すると認められる。
(4) 損害
 証拠(乙25の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告が本訴を提起したことにより応訴を余儀なくされ、そのために被告訴訟代理人弁護士に訴訟の追行を委任し、弁護士費用として21万円を支払ったことが認められる。
 上記弁護士費用相当額は、被告が自己の権利擁護のために応訴を余儀なくされ、訴訟追行を被告訴訟代理人弁護士に委任したことにより負担した弁護士費用であり、本件事案の内容、請求額、その他本件に表れた一切の事情を斟酌すると、21万円全額が原告による不法行為と相当因果関係のある損害であると認めることができる。
(5) 以上によれば、被告の原告に対する、不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金21万円及びこれに対する不法行為(本訴の訴えの提起及び反訴提起時までの訴訟の維持)の後の日である平成21年10月23日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める反訴請求は理由がある。
3 結論
 以上によれば、原告の本訴請求に係る訴えは不適法であるから却下することとし、被告の反訴請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 中村恭
 裁判官 坂本康博
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