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【事件名】カラオケ「冬のソナタ」事件
【年月日】平成22年2月10日
 東京地裁 平成16年(ワ)第18443号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年10月21日)

判決
原告 株式会社アジア著作協会
同訴訟代理人弁護士 水戸重之
同 三谷英弘
同 鈴木真紀
同 野中信孝
同 古西桜子
被告 株式会社第一興商
同訴訟代理人弁護士 原秋彦
同 野宮拓
同 水野信次


主文
1 別紙裁判所楽曲目録−作詞(却下)、−作曲(却下)各記載の楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求に係る原告の訴えを却下する。
2 被告は、原告に対し、2300万5495円及びこれに対する平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを50分し、その49を原告の、その余を被告の各負担とする。
5 この判決は、2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求及び答弁
1 請求
(1) 被告は、原告に対し、9億7578万6000円及びこれに対する平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 仮執行宣言
 (なお、1項の請求に関して、原告は、平成20年5月16日の本件第28回弁論準備手続期日で陳述された同日付け準備書面(5)、平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日で陳述された同日付け原告準備書面(13)、同年10月21日の本件第5回口頭弁論期日で陳述された同月13日付け原告準備書面(14)において、損害額の主張を整理、訂正し、いずれの準備書面においても損害額は9億1080万1232円である旨主張している。)
2 答弁
(1) 本案前の答弁
 原告の訴えを却下する。
(2) 請求の趣旨に対する答弁
 原告の請求を棄却する。
 仮執行宣言が付される場合には、担保を条件とする仮執行免脱宣言
第2 事案の概要
1 本件は、著作権等管理事業者であり、韓国の楽曲について著作権の信託譲渡を受けたと主張する原告が、いわゆる通信カラオケ事業者である被告に対し、著作権(複製権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求(民法709条、著作権法114条3項)又は不当利得返還請求(民法703条)として、9億7578万6000円(ただし、第1、1のとおり、請求を整理した後の損害額の主張は、9億1080万1232円である。)及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成16年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 争いのない事実等(争いのない事実以外は、証拠を項目の末尾に記載する。)
(1) 当事者等(甲1、乙7の1)
ア 原告は、平成14年4月15日に設立され、音楽著作物の著作権に関する著作権使用料の徴収及び管理等を目的とする株式会社であり、著作権等管理事業法に基づき、同年6月28日付けで文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者である。なお、原告は、登録時は、商号が「株式会社韓日著作協会」であったが、平成15年4月15日付けで現商号に変更した。
イ 被告は、音響機器のリース及び販売等を目的とする株式会社であり、カラオケ用楽曲データ(歌詞データを含む。以下「楽曲データ」という。)を、著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得て作成し、自らの製造に係る業務用通信カラオケ装置(以下「カラオケ端末機」という。)のハードディスクに搭載する等した上、通信カラオケリース業者に対してカラオケ端末機の販売等を行ういわゆる通信カラオケ業者である。
ウ 訴外株式会社M(以下「TMA」という。)は、平成13年3月26日に韓国法に基づき設立された、韓国ソウル市を本店所在地とし、著作権信託管理等を目的とする株式会社である。TMAは、本件訴訟係属後である平成18年10月4日、臨時株主総会決議において解散の決議がされ、平成19年3月28日、清算結了による閉鎖登記がされた。
(2) 請求対象楽曲・不知楽曲
ア 原告作成の別紙7作詞・作曲管理リスト、同8作詞管理リスト及び同9作曲管理リスト(以下「原告楽曲リスト」といい、各リストは、その番号により、「原告楽曲リスト7」などと表記する。)各記載の楽曲は、原告が、各リストの「(請求対象期間中の)管理期間」(なお、「請求対象期間」とは、平成14年6月28日から平成16年7月末日までの期間をい4う。)欄各記載の期間において、原告にその著作権が帰属していたと主張する楽曲(以下「請求対象楽曲」という。)である。
イ 請求対象楽曲のうち、被告作成の別紙楽曲目録11(不知楽曲)(以下、被告作成の別紙楽曲目録1〜3、5〜8、13及び14とともに「被告楽曲目録」といい、各目録は、その番号により「被告楽曲目録1」などと表記する。)記載の楽曲は、被告が、原告への著作権の帰属について「不知」と認否する楽曲であり、別紙裁判所楽曲目録−作詞、同−作曲(以下「裁判所楽曲目録」という。)記載の各楽曲のうち、「権利者管理番号」欄を緑色で示す楽曲がこれに対応している(なお、被告は、弁論準備手続終結後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日で陳述された同日付け被告準備書面(12)において、同目録11の各楽曲は、原告が証拠を提出しなかったから、原告の著作権管理権限は認められない旨を主張するが、被告は、従前の弁論準備手続においては「不知」と認否して、特に争う理由を明らかにしてこなかったものであり、また、原告は、原告楽曲リスト7〜9及び上記裁判所楽曲目録各記載のとおり、被告楽曲目録11記載の各楽曲について、対応する契約書等の書証を提出したり、書証の成立の真正について当事者間に争いがないものとして整理する等して、立証活動を行っており、被告もこの点に関して特段の反論をしていなかったものであるから、被告の上記主張を採用することはできない。)。
(3) 作詞家・作曲家等の著作権の信託等
ア 原告は、請求対象楽曲に対する韓国の作詞家、作曲家、音楽出版社等の著作者(以下「原権利者」という。)の著作権について、(ア)原権利者とTMA間の著作権譲渡契約(以下「原権利者・TMA契約」という。)により、TMAに対して、又は、(イ)原権利者と原告間の著作権信託譲渡契約(以下「直接契約」という。)により、原告に対して、いずれも上記著作権を譲渡ないし信託譲渡したと主張する。
イ 原告は、上記各契約に対応する書証を整理し、原告楽曲リスト7〜9の「契約書」欄及び「確認書」欄各記載の契約書及び確認書A〜Cを提出する。このうち、同欄に「*」が記載された請求対象楽曲は、当該書証の成立について当事者間に争いがないものである。また、被告は、別紙被告確認書目録A〜C記載のとおり、各確認書の成立について認否するとともに、否認する理由を整理している。
ウ 確認書A〜Cの記載内容は、概ね次のとおりである(なお、提出されている確認書には、成立に争いがあるものがある。)。
(ア) 確認書A(甲79の1〜131)は、原権利者が、原権利者・TMA契約の対象となる楽曲を明確にする目的で作成されたものであり、原権利者が、添付された楽曲リストの楽曲について、TMAに著作権を譲渡していたことを確認している。
(イ) 確認書B(甲75、甲80の1〜44、甲86の1〜44)は、原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が、TMAに対して、自己の楽曲の著作権を譲渡していること、TMAの解散後は、既に発生し徴収分配が未了の著作権使用料は、原告から直接分配を受けることを希望すること(なお、甲80の9は、原権利者作家1が、TMAとの契約を解約し、原告と直接契約を締結したこと)、原告が、信託受託者として、徴収分配等の管理を行うために訴訟を提起し、訴訟当事者として訴訟を続行する権限を有することを、それぞれ確認している。
(ウ) 確認書Cは、原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が、TMAに対して、自己の楽曲の著作権を包括的に信託譲渡していること(甲81の1〜11)、又は、直接契約を締結している原権利者が、原告に対して、著作権を信託譲渡していること(甲81の41〜45)を、それぞれ確認している。
(4) TMAと原告間の著作権信託契約(甲67、68、乙24)
ア TMAと原告は、平成14年10月17日及び平成15年9月18日、TMAが、原告に対し、現に所有する著作権及び将来取得する著作権を信託財産として譲渡し、原告は、これを管理する旨の著作権信託契約(以下「TMA・原告契約」という。)を締結した。
イ 平成15年9月18日付けTMA・原告契約(乙24)は、TMAからの契約の解除について、「TMAは、信託期間内においても書面をもって原告に通知することにより本契約を解除することができる。この場合、本契約は、通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する。」(19条1項)と定めている。
(5) TMA・原告契約の解除(乙7の2、乙24)
ア TMAは、原告に対し、平成18年7月14日付け書面により、平成15年9月18日付けTMA・原告契約(乙24)19条に基づき、同契約を解除する旨の意思表示をした(ただし、解除の効力については争いがある。)。
イ 平成19年3月31日が経過した。
(6) TMAの解散(乙7の1)
 前記(1)ウのとおり、TMAは、本件訴訟係属後である平成18年10月4日、臨時株主総会決議において解散の決議がされ、平成19年3月28日、清算結了による閉鎖登記がされた。
(7) 被告の行為
ア 被告は、カラオケ施設又は社交飲食店等の事業所(以下「通信カラオケ事業所」といい、その事業所を営む者を「通信カラオケ事業者」という。)において、当該事業所の客に、通信カラオケとして楽曲を歌唱させることを可能にするために、楽曲データを記録するためのハードディスク内蔵のカラオケ端末機に、楽曲データを大量に記録し、当該カラオケ端末機をカラオケリース業者に販売し、又はリースする等している。
イ 被告は、通信カラオケ事業所の客が新たに発売された楽曲(新譜)を歌唱することを可能にするために、新譜に関する楽曲データを被告の管理するセンターサーバに記録し、同サーバから各事業所に設置されているカラオケ端末機においてダウンロード可能な状態にした上、実際、カラオケ端末機にダウンロードさせている。
ウ 被告は、前記ア及びイにより、楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに記録することにより楽曲を複製し、かつ、新譜の楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに蓄積させるために、楽曲を公衆送信する行為(送信可能にする行為を含む。)を行っている。
(8) 使用料規程の内容等(甲69、乙40)
ア 原告の使用料規程
 原告の定める業務用通信カラオケに関する使用料規程(以下「原告規程」という。)は、次のとおりである。
(ア) 業務用通信カラオケに著作物を利用する場合の使用料は、次の(イ)と(ウ)の合計額に消費税額を加算した額とする。
(イ) 基本使用料
 基本使用料は、著作物の数によって1か月ごとに定めるものとし、次のとおりとする。
 著作物の数1000曲まで、月額基本使用料10万円
 著作物の数2000曲まで、月額基本使用料20万円
 (以下略)
(ウ) 利用単位使用料
 利用単位使用料は、端末機器1台につき1か月ごとに定めるものとし、次のとおりとする。
 端末機器の数1台〜5000台、1台当たり月間使用料500円
 (略)
 端末機器の数14万1台〜15万台、1台当たり月間使用料210円
 端末機器の数15万1台以上、1台当たり月間使用料200円
イ 社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)の使用料規程
 JASRACの定める業務用通信カラオケに関する使用料規程(以下「JASRAC規程」という。)は、次のとおりである。
(ア) 業務用通信カラオケに著作物を利用する場合の使用料は、次の(イ)と(ウ)の合計額に消費税を加算した額とする。
(イ) 基本使用料
@ 基本使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合
 業務用通信カラオケ事業者が設定しているアクセスコード数によって1か月ごとに定めるものとし、月額使用料は、次のとおりとする。なお、アクセスコード数とは、業務用通信カラオケにおいてそのリクエストのために1楽曲データごとに付与されている楽曲コードの総数をいい、使用料の算出に当たっては、当該コード数に97/100を乗じた数とする。
 アクセスコード数500コードまで、月額使用料5万円
 (略)
 アクセスコード数2万コードまで、月額使用料260万円
 アクセスコード数2万コードを超える場合、2000コードまでを増すごとに加算する額20万円
A @によらない場合
 通信カラオケ事業者が利用できる状態に置かれている著作物の数によって1か月ごとに定めるものとし、月額使用料は、再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき200円とする。
(ウ) 利用単位使用料
@ 利用単位使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合
 サーバー、端末機械等(以下「受信装置」という。)1台につき1か月ごとに定めるものとし、月額使用料は、情報料を課すべき受信装置1台当たりの月間の情報料の10/100の額又は950円のいずれか多い額とする。ただし、情報料の14/100の額が950円を下回る場合は、その額又は650円のいずれか多い額とする。なお、「情報料」とは、業務用通信カラオケを利用するに当たり、受信先において通常支払うことが必要とされる、受信等に伴う対価(消費税を含まない。)をいう。情報料が不明の場合は、業務用通信カラオケ事業者が得る受信装置1台当たりの情報料収入に170/100を乗じた額を情報料とすることができる。
A @によらない場合
 業務用通信カラオケ事業者が、通信カラオケ事業所に設置された受信装置へのアクセスコードの入力に応じ、演奏に供する著作物を1曲1回提供する(公衆送信であるか複製物によるかを問わない。)ごとに定めるものとし、その使用料は、再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき40円とする。
(エ) 備考
@ (イ)@及び(ウ)@の規程を適用する場合において、月間の利用単位使用料の総額の25/100の額が月額基本使用料を下回る場合の月額基本使用料は、アクセスコード数にかかわらず、その利用単位使用料の総額の25/100の額とする。月額基本使用料と月間の利用単位使用料の総額の合算額が5万円を下回るときは、5万円を当該月の使用料とする。
A (イ)A又は(ウ)Aの規程を適用する場合において、次のいずれかに該当するときは、それぞれ次のとおりとする。
a 再生されるべき時間が5分を超える場合は、5分までを超えるごとに5分までの使用料に(イ)Aの規程の場合は200円を、(ウ)Aの規程の場合は40円を、それぞれ加算する。
b 歌曲において、楽曲に著作権がない場合又は著作権が本協会の管理外の場合は、1曲の使用料の6/12とする。歌曲において、歌詞の著作権が本協会の管理外の場合は、1曲の使用料の6/12とする。
B 著作物の利用形態など特別の事情により本料率により難い場合の使用料は、本料率の範囲内で、利用者と協議の上定めることができる。
(9) 原告と社団法人音楽電子事業協会(以下「AMEI」という。)との交渉の経緯(甲8、32、33、69、113、乙3、32、34、37(枝番を含む。)、証人丙、同丁)
ア 前記(1)アのとおり、原告は、平成14年4月15日設立され、同年6月28日付けで、著作権管理事業法に基づく著作権等管理事業者として、文化庁長官の登録を受けた。
イ 原告は、平成14年7月ころ、文化庁から、原告規程について、利用者又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受けた。
ウ 原告の事務局長丙(以下「丙」という。)は、平成14年8月1日、利用者団体であるAMEIを訪問し、原告規程等を交付した上、質問及び意見があれば、1週間を目途に連絡をもらいたい旨要請した。
エ AMEIの著作権・ソフト委員会カラオケ部会長丁(以下「丁」という。)は、原告に対し、平成14年8月8日付け書面(乙3)により、期間をおいた上で、団体としての意見を述べたい旨等を伝えた。
オ 原告は、平成14年8月9日、文化庁長官に対し、著作権等管理事業法13条1項に基づき、原告規程(甲69)の届出をした。
カ 原告は、平成15年5月28日ころ以降、AMEIの会員に対して書面を送付し、使用料等の打合せをするよう申し入れた。
キ 原告とAMEIは、平成15年7月9日、AMEIにおいて、1回目の協議をした。
ク 原告とAMEIは、平成15年11月28日、原告において、2回目の協議をした。
ケ 原告は、AMEIに対し、平成16年1月15日付けメール(甲32)により、今後のAMEIとの協議を取り止める旨を通知した。
コ 原告は、被告に対し、平成16年5月20日付け書面(甲33)により、これまでの著作物の使用に関し、使用料相当額を支払うこと、今後、原告との間で著作物の使用に関する契約を締結すること等を請求した。
サ 原告は、当裁判所に対し、平成16年8月31日、本件訴訟を提起した。
(10) 本件訴訟提起後の経緯(証人作家2)
ア TMAは、原権利者・TMA契約を締結した当初は、原権利者に連絡することもあったが、年月の経過とともに、連絡する機会は減少した。
イ 前記(5)のとおり、TMAは、平成18年7月、原告に対して、TMA・原告契約19条に基づき、同契約を解除する旨の意思表示をし、平成19年3月31日が経過した。また、前記(6)のとおり、TMAは、平成18年10月に解散の決議をし、平成19年3月28日に清算結了の登記をした。
ウ TMAの元従業員の作家2によると、平成21年7月時点において、原権利者のうち、約半数の者については、TMAとして連絡を取ることが容易でない状況にある。
3 争点
(1) 本案前の主張
(2) 著作権の帰属
(2)−1 請求対象楽曲の著作権
(2)−2 被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲
(2)−3 被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲
(2)−4 被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲
(2)−5 被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲
(2)−6 被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求対象楽曲
(2)−7 被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の請求対象楽曲
(2)−8 被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象楽曲
(2)−9 被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請求対象楽曲
(2)−10 被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲
(3) 故意・過失
(4) 損害論
(4)−1 損害
(4)−2 過失相殺
(5) その他の主張(権利濫用・禁反言)
(6) 不当利得返還請求(予備的請求)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 本案前の答弁
(被告)
 原告は、請求対象楽曲の著作権を有していないから、著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟の原告適格を欠く。
(原告)
 被告の主張は争う。原告は、請求対象楽曲の著作権を有している。
(2) 著作権の帰属
(2)−1 請求対象楽曲の著作権
(原告)
ア 原告は、請求対象期間中の原告楽曲リスト7〜9記載の各管理期間において、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約、又は、直接契約により、請求対象楽曲に対する原権利者の著作権の信託譲渡を受けている。
イ 原権利者・TMA契約の法的性質については、契約書の表題(著作権譲渡契約書)及び約定の記載(音楽著作権を乙に独占的に譲渡する。3条)、並びに、韓国では、許可を受けた管理事業者は韓国音楽著作権協会(以下「KOMCA」という。)のみであり、それ以外の団体は、業として楽曲著作権の「信託譲渡」を受けることができないため、音楽出版社は、原権利者から楽曲の著作権を権利譲渡の形式で譲り受けた上で、管理事業者に信託譲渡する形式を一般的に採用していることからすると、(期限付き)著作権譲渡と解される。
(被告)
ア 原告の主張する事実は、後記(2)−2以下の請求対象楽曲の範囲において、否認ないし争う。
イ 原権利者・TMA契約の法的性質については、対象作品に係る著作権の譲渡(契約書3条)の目的が、対象作品の利用促進、完全なる権利・救済及び管理のためとされ(同1条)、契約期間も定められている(同5条)ことからすると、権利の管理運用目的で、期間を定めた上でされた譲渡であり、信託譲渡と解される。
(2)−2 被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録1の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) JASRAC管理楽曲
 被告楽曲目録1の各楽曲については、JASRACが原権利者から「業務用通信カラオケの支分権」について信託の受託をしていることを基礎付ける根拠がない。
@ JASRAC作成の「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)は、管理楽曲の支分権について言及がなく、いずれの支分権の管理を行っているのか不明である。
A 同書面は、作成時である平成19年7月6日時点でJASRACが何らかの権利を管理していることを表明した資料にすぎない。
B JASRAC作成の書面(乙54の2)では、音楽出版社から甲114のうちの9曲の信託を受けて管理していたとされるが、原権利者が管理に供したことの根拠とはならない。
C JASRACのJ−WID表示において、業務用通信カラオケの支分権管理状況に関する欄に「#」記号(当該支分権・利用形態については、管理を委託していないことを意味する。)が記載されている楽曲は、JASRACの管理下にはない。
D 平成19年4月17日付けで被告が受領したJ−WIDデータには、全楽曲に「出展PO」、「出版PJ」の表示(サブ出版社又は出版社がその旨の届出を行ったことを示す。)があるから、原権利者本人が管理に供したことの根拠とはならない。
E 被告は、原権利者に対する使用料分配を基礎付ける証拠を提出していない。
(イ) 対抗要件欠缺
@ 準拠法
 直接契約は、準拠法が日本法であるが、原権利者・TMA契約は、準拠法を韓国法と定めている(19条、乙15の1、2)。
A 正当な利益
 被告楽曲目録1の楽曲について、JASRACは無権利者であるから、JASRACからその使用許諾を受けているとする被告も無権利者であり、「登録が存在しないことを主張するについて正当な利益を有する第三者」(大審院昭和7年5月27日判決・民集11巻11号1069頁参照)には該当しない。JASRACの管理委託権限を証明するためには、JASRACと出版社及び出版社と原権利者間の契約関係を立証する必要がある。
B 登録制度
 著作権の登録制度は、現実の利用者が少なく、制度として機能していないから、被告の対抗要件欠缺の主張は、条理に反する。
ウ 乙64〜66
 乙64〜66(いずれも分配明細書)の証拠申出は、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)として却下されるべきである。
(ア) 被告は、弁論準備手続終結後、かつ、証拠調べ終了後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において、上記証拠を提出しようとしており、提出時期からして時機に後れた攻撃防御方法である。
(イ) 上記証拠は、原権利者3名がJASRACから使用料の支払を受けたか否かに関する証拠であり、これが提出されると、新たな主張立証が必要となるから、訴訟の完結を遅延させるものである。
(ウ) 上記証拠は、内容が不明確な上、被告の立証趣旨との関連性も乏しいから、本来的に証拠価値を欠いており、その提出は、訴訟の混乱と不当な引き延ばしの意図に基づくものである。したがって、被告には、故意又は少なくとも重過失が認められる。
(被告)
ア 原告の主張は、否認する。
イ JASRAC管理楽曲
 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録1の各楽曲は、JASRACの管理楽曲である。原権利者は、JASRACを介して本件著作物の使用料の分配を受けており、原告に対して、重ねて著作権を信託譲渡等する理由はない。
(ア) JASRAC作成の「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)は、被告の確認依頼(乙25)に基づき、平成19年7月6日付けでJASRACが業務用通信カラオケの支分権を管理する楽曲を証明したものである。元々、JASRACは唯一の仲介人であり、著作権等管理事業法施行後も、当初は、著作権等管理事業者は他に原告しか存在せず、楽曲を他からJASRAC管理に切り替えることは想定できなかったから、特段の事情のない限り、以前からJASRAC管理であったと推認できる。
(イ) 原告請求対象期間後の原告の具体的な請求時に近接する時点において、請求対象楽曲がJASRAC管理楽曲に含まれているのであれば、既往の使用料を請求する信託受託者としての原告の権限は、消滅している。
(ウ) JASRACの書面(乙54の2)によると、JASRACは、甲114の楽曲のうち、作家51(甲114の15)を除き、通信カラオケに関する支分権を音楽出版社から信託を受託している。
(エ) J−WIDの「#」表示は、原権利者との直接的管理委託契約の有無を示すにすぎず、JASRACが著作権を管理しないことを意味しない。
(オ) J−WIDの「出典PJ」、「出典PO」と表示された楽曲は、JASRACが委託者に対し、当該著作物について、他人の著作権を侵害していないことの保証義務を課し、必要に応じて資料を提出させ確認すること等により、管理権限を担保している。
(カ) JASRACが使用料を分配していないことについては、その立証がない。また、分配がないとしても、そのことと、JASRACの管理権限の有無とは関連性がない。
ウ 対抗要件欠缺
 仮に、請求対象楽曲の著作権が二重譲渡されているとしても、被告は、原告が当該著作権の移転について対抗要件を備えない限りは、原告の著作権を認めない(なお、請求対象期間後における原告の具体的な請求時に近接する時点で、請求対象楽曲がJASRAC管理楽曲に含まれているから、請求対象期間中に二重譲渡が生じていたことが十分にうかがわれる。)、
(ア) 準拠法
 一般に、物権及び知的財産権の内容、効力、得喪の要件等は、当該物権又は知的財産権の所在地の法令を準拠法とすべきものとされている。法の適用に関する通則法13条は、物権に関して、その趣旨に基づくものであるが、その理由は、物権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という)の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について、所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の権利の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解される。
 なお、準拠法を韓国法とする原権利者・TMA契約19条は、譲渡の原因関係である契約等の債権行為に適用があるにすぎない。
(イ) 正当な利益
 著作権法は、著作権の移転は登録しなければ第三者に対抗できないとし(77条1号)、第三者とは、登録が存在しないことを主張するについて正当な利益を有する第三者に限られるが、二重譲渡だけでなく、著作物の利用許諾を受けた者も含まれる。
 被告楽曲目録1の請求対象楽曲は、JASRACの管理楽曲であるところ、被告は、当該楽曲について、JASRACと業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する合意書(乙26)を締結し、その使用許諾を受けているから、被告は、当該楽曲の著作権の原告への移転に関する登録の有無について、法律上の利害関係を有する第三者である。
(ウ) 対抗要件の欠如
 原告が被告に使用料を請求するためには、請求対象楽曲について、原権利者から原告への著作権の移転に関する登録(著作権法77条1号)を必要とするから、被告は、原告が当該著作権譲渡について対抗要件を備えない限りは、原告の著作権管理権限を認めない。
エ 債権の準占有者に対する弁済
 被告は、著作権等管理事業法施行後も、JASRACと音楽著作物利用許諾契約を締結して使用料を支払さえすれば、ほとんどすべての楽曲を利用することができるというJASRACの音楽著作権管理の実績に係る信頼に基づき、被告楽曲目録1の請求対象楽曲についても、JASRACとの契約に基づき、正当に利用許諾を得たと信じて使用料を支払い続けたのであるから、何らの過失はない。したがって、民法478条又は同条の類推適用により、有効な支払として認められるべきである。
オ 乙64〜66
 原告の主張は争う。
(ア) 上記証拠は、証人の証言に対する弾劾証拠であり、時機に後れて提出したとはいえない。
(イ) 上記証拠は、被告がJASRACに調査を依頼し、平成21年7月上旬に入手したものであり、弾劾証拠として準備したこと等からしても、被告には故意重過失はない。
(ウ) 原告は、更なる反証は予定していないから、上記証拠が提出されても、訴訟の完結を遅延しない。
(2)−3 被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録2の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) 1つの楽曲の作詞と作曲は、それぞれ独立の著作物であるため、単に作詞と作曲の一方についてのみ原告が管理している共作楽曲の場合であっても、被告の指摘する問題に該当しない。
(イ) 作詞又は作曲が複数人による共作である場合には、当該共作に係る部分が共有著作物となるが、韓国の楽曲の共有者同士は、共有者の持分の運用については別個独立に意思決定することが一般的であり、相互に意思決定を阻害する意図を持つことはない。
 よって、原告が作詞・作曲の一部のみを管理する楽曲であっても、当該楽曲の著作権譲渡に関する他の共有者の包括的な同意は得られている。
(ウ) 原告規程(甲5、甲69)は、包括料金制を採用しており、ある1曲のうち、作詞家又は作曲家の一部につき原権利者から原告が管理委託を受けていれば、当該楽曲は原告の管理楽曲とみなした上で、利用者の「著作物数量」(利用楽曲数)を考慮して、基本使用料金を算定している(JASRACの包括使用料規程においても、同様である。)。
 したがって、原告の請求対象楽曲には、作詞家と作曲家全員から原告が管理委託を受けている楽曲のみならず、そのいずれか一方から管理委託を受けているもの、及び2名以上が共同で作詞又は作曲を行った楽曲で1名以上の原権利者から管理委託を受けているものを含んでいる。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録2の各楽曲については、原告への著作権の帰属及びそれに基づく権利行使について十分な立証がないから、原告には著作権が帰属していない。
イ 請求対象楽曲のうち、原告が作詞・作曲の一部のみを管理している共作楽曲については、他の共有者が信託譲渡について同意していないため、当該著作権の信託譲渡は無効であり(著作権法65条1項)、原告は、何ら権利を有していない。
(2)−4 被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録3の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 直接契約には、自動更新規定が明記されている。
ウ 仮に、被告楽曲目録3の楽曲につき、契約期間が満了しているとしても、平成18年法律109号による改正前の信託法(以下「旧信託法」という。)63条は、信託が終了した場合であっても、信託受託者が帰属権利者に対して残存する信託財産を移転するまでは、信託は存続するものと擬制される(法定信託)と解されているから、本件においても、本件楽曲使用料の徴収・分配が終了するまで、信託が存続し、原告は受託者としての業務を継続できるものと解される(後記(2)−6参照)。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録3の各楽曲については、平成21年9月16日時点で、原権利者・TMA契約又は直接契約の契約期間が満了しているから、原告には著作権が帰属していない。なお、直接契約には、更新条項(6条)があるが、@著作物使用料等の分配実績が別に定める信託契約の期間に関する取扱基準に規定する額に満たない場合、及びA著作権の侵害行為を行うなど本契約の継続を困難とさせる事由があった場合のいずれにも該当しないことが条件となっており、原告は、各直接契約について、当該条件が充足されていることを主張立証していないから、各直接契約が更新されたとみることはできない。
イ 期間満了の場合、直接契約については、信託終了後の法定信託の成否の問題となり、原権利者・TMA契約については、その法的性質が期限付き著作権譲渡契約であったとしても、期間満了により当該著作権は原権利者に復帰する結果、TMAは著作権を有しないことになるから、TMA・原告契約における著作権の信託は、権利の連鎖を欠くこととなる。
ウ 契約書の契約期間の満了
 被告楽曲目録3では、「確認書A」又は「確認書C」が提出された楽曲を除外しているが、上記各確認書を考慮することなく、契約書に定める契約期間自体が満了している契約を抽出すると、原権利者・TMA契約及び直接契約のすべてが期間満了の対象となる結果、請求対象楽曲のすべてが、契約期間が満了していることになる。
(2)−5 被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録5の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
 被告楽曲目録5所定のTMA契約に基づく楽曲は、そのすべてがTMA契約の契約対象として特定されている。
(ア) 被告楽曲目録5の楽曲のうち、相当数は、確認書A(甲79の1〜131)により、対象楽曲リストが添付、追完されている。
(イ) 確認書Aのない楽曲も、原権利者の作成した「自己の創作した楽曲の著作権をTMAに譲渡したことを認める」旨の確認書B(甲80の1〜44)を提出しており、原権利者が、原権利者・TMA契約を締結した際に、請求対象楽曲の著作権を譲渡したことが明らかである。
(ウ) 確認書A又は確認書Bのない原権利者についても、原権利者・TMA契約を締結した際に、全曲の著作権を譲渡する意思を有していたことは自明である。原権利者・TMA契約の締結によって、TMAに自己の楽曲を管理委託する意思を表明している原権利者が、たまたま楽曲リストが添付されていなかったからといって、「1曲も管理委託する意思がなかった」と解釈するのは、原権利者の合理的意思に著しく反する。当該原権利者は、楽曲を限定せずに自己の楽曲全部について広く管理委託に供する意思を有していたと解するのが自然な合理的意思解釈である。
(エ) 原権利者作成の「契約書」、「確認書A」ないし「確認書C」については、いずれも原権利者本人の意思に基づき作成されたことが明らかである。
@ 原権利者・TMA契約の契約書(以下「原権利者・TMA契約書」という。)の作成時には、原権利者本人が必ず署名した。原権利者の押印のなかった書面は、後に、原権利者にメールや電話、訪問等で連絡を取り、説明した上で、代理で押印することの承認を得ており、事前の確認なく押印したことはなかった。
A 確認書A(甲79の1〜131)の署名・押印については、当時のTMA代表者の作家3が直接原権利者と面会して原権利者本人から自筆の署名をもらったものと、電話又はメールによって原権利者本人の意思を確認した上で、TMAにおいて担当者が記名し、原権利者から預かり保管していた印鑑を押印して作成したものが存在する。しかしながら、原権利者に連絡せずに、TMAが独自の判断で代筆や捺印したケースはなく、原権利者の多くが、自己の楽曲に関する著作権をTMAに期限付き譲渡をするに際して、TMAが原権利者に代わって当該楽曲の管理手続を行う目的で原権利者の印鑑を用いることを許諾していた。したがって、確認書Aに関しては、少なくとも「TMAに対して楽曲の著作権を期限付きで譲渡し、管理委託に供する」という原権利者の意思に欠けるところはない。なお、原権利者は、TMAに対して預託している印鑑を取り戻すことはなかったから、確認書Aの作成について、原権利者の事後的な追認も認められる。
B 確認書B(甲80の1〜44)は、本訴訟係属中の平成19年4月ないし5月ころ、原告が原権利者の自宅に直接郵送で送付し、原権利者本人が、当該書面の内容をよく理解した上で署名押印して作成し、原告に返送されたものであり、原権利者本人の自筆によるものである。
C 確認書C(甲81の1〜11)のうち、被告が契約書と「署名の筆跡が異なる」と主張するもので、別紙原告確認書目録Cの「確認書C自筆/代筆」欄に「自筆」と記載されている各確認書Cになされた署名の筆跡を見ると、いずれも確認書Bの返信用封筒に記載された署名と明らかに同一の筆跡であったり、署名に用いているペンの違いや、ハングルの書体の違い程度の差異しか認められないものばかりである。
D 確認書A及び確認書Cにおいて言及されている「原契約」の日付と「原契約」自体の日付との間に不一致が認められるものが存在するが、その多くは、TMAが、確認書上において記載すべき原契約の締結日として、その「初期合意」が成立した日付を誤って記載したにすぎないものである。
E その他の個々の楽曲における日付の不一致に関する事情は、原告確認書目録A及び同目録Cの「原告の反論」欄に記載するとおりである。
F 確認書Aの内容に記載の違いがあるのは、確認書Aの中には、aTMA契約に係る原権利者が作成したもの(甲79の1〜131)、bTMA以外の韓国の会社であるNS企画との間で契約を締結していた原権利者から取得した確認書(甲79の132〜153)、及びc原告と直接契約を締結した原権利者から取得した確認書(甲79の154)が含まれているからである。
G 確認書Cの内容に記載の違いがあるのは、確認書Cの中には、aTMA契約に係る原権利者が作成した確認書(甲81の1〜11)、b原告との間で直接契約を締結した、NS企画契約に係る原権利者から取得した確認書(甲81の13〜37)、及びc原告と直接契約を締結している原権利者から取得した確認書(甲81の41及び甲81の45)が含まれているからである。
H 作家4(芸名作家5、権利者管理番号115)、作家49(権利者管理番号117)及び作家6(芸名作家7、権利者管理番号118)の各確認書Cの記載が各人の契約内容と合致していないことについて、これら3人の確認書C(甲81の7〜9)は、作家8が代理(甲82の1〜3)して作成しているところ、作家8自身は、原告との直接契約に基づく管理作家(権利者管理番号2060)であるため、本来TMA契約に基づく作家であるはずの当該3人の確認書Cについても、誤って、自己と同一の契約関係を前提とする確認書C(原告と直接契約を締結している内容)に署名して提出してしまったものと推測される。作家9(権利者管理番号40)は、同人の死亡により作家10が著作権を承継している(甲87)。
I TMA契約につき、契約書に添付された楽曲リストの作成日付が契約書の締結日よりも後になっている例があるのは、契約締結後に当該原権利者が新たな楽曲を創作したような場合に、適宜楽曲リストを更新したという経緯によるものである。すなわち、TMAは、原権利者の創作した楽曲が更新されるたびに新たに楽曲を追加したリストを作成して差し替え、原権利者に対して、更新後の楽曲リストを交付していた。原告は、TMAから原権利者捺印後の契約書の写しを受領する際、差替後の楽曲リストを受領したものである。このことは、日付の先後のある契約書と楽曲リストとの間に割印がなされていないことからも、明らかである(甲83の21等)。
J 確認書B(甲80の1〜44)4項における「原告が日本での著作権使用料及び関連する一切の費用等について原告が著作権の信託受託者として徴収及び分配等の管理を行うために、訴訟を提議し、訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限の有することを確認する」という記載からも明らかなように、同確認書の4項は、原告が「信託受託者たる地位」に基づいて訴訟を追行する権限を有することを「確認」するものにすぎず、訴訟行為を「委任」する内容ではない。原権利者がTMAを通じて原告に楽曲の音楽著作権を信託した目的は、原告をして日本国内における楽曲使用料を徴収せしめ、その分配を受けることであって、訴訟行為を「主タル目的」とする旧信託法11条の訴訟信託に該当しない。
K TMAは、原権利者本人の意思に反して印鑑を用いるような「日常的な冒用」行為を一切行っていない。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録5の各楽曲については、原権利者・TMA契約の「契約書」に添付されるべき対象楽曲リストが添付されておらず、契約の対象楽曲が特定されていないから、原告には著作権が帰属していない。
イ 原告は、追完・追認の資料として「確認書A」及び「確認書B」を提出するが、「確認書B」は、原契約書によりTMAに譲渡された楽曲の著作権を特定していないから、追認を認めることはできない。また、成立を否認する「確認書A」及び「確認書B」は、偽造されているから、追完を認めることはできない。これらの「確認書」の提出のない契約についても、すべての楽曲が対象となるという商慣習は立証されていない。
ウ 確認書A〜Cについて、被告が成立を否認する確認書及び否認の理由は、被告確認書目録A〜C記載のとおりである。
(2)−6 被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録6の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
被告が主張するような契約上の地位の譲渡は存在せず、また、原権利者とTMAの間の契約関係が終了し信託が終了しても、信託の清算が結了するまでは、信託関係は存続するとみなされるから、依然として既往の使用料を徴収分配する権限は、原告に帰属する。
(ア) 被告楽曲目録6の楽曲のうち、乙5に基づいて解約されたと主張される契約については、その原権利者の多くが、原契約期間内に発生した著作権使用料及び関連する一切の費用等について、原告が著作権の信託受託者として訴訟を提起し、訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限を有することを確認する旨の確認書Bを提出しているから、上記原権利者は、「将来的な契約関係の解消」のみを意図したにすぎず、請求対象期間中の使用料徴収、分配の信託を解消する意思を有していないものである。なお、確認書Bは、いずれも原権利者本人の意思に基づいて作成されている。
(イ) 被告が「契約上の地位譲渡」により権利連鎖が切断されたと主張する楽曲のうち、作家11及び作家12各作成の契約上の地位譲渡契約書(乙6)は、当該原権利者の意思に基づかずに無断で作成されたものである。作家3(甲76)も、契約書が間違って作成されたという点について一貫して供述しており、変遷はない。
(ウ) IONエンターテイメントへの譲渡の主張を含めて、契約上の地位を譲渡するにせよ、契約を解除するにせよ、それらが請求対象期間後になされた限り、既に発生した請求対象期間における権利関係に基づく原告の請求に対しては、何ら影響を及ぼさない。たとえ信託の終了事由が生じても、原告の使用料徴収・分配の権限が消失するわけではない。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録6の各楽曲については、原権利者による原権利者・TMA契約の解除、又は、同契約におけるTMAの契約上の地位の譲渡により、TMAが著作権を有しない結果、原告への著作権の帰属も認められない。
 すなわち、原権利者が原権利者・TMA契約を解除し(乙5の1ないし11)、又は、同契約におけるTMAの地位を株式会社シールミュージックに譲渡する内容の契約上の地位の譲渡契約(乙6の1ないし4)が締結され、あるいは、TMAが、その管理する楽曲に関する権利義務を、平成18年9月30日ころにIONエンターテイメント株式会社に譲渡したこと(甲76)により、TMAは、信託財産である著作権を失ったことになるから、原告は、TMA管理のすべての楽曲について、その著作権を有していない。
イ(ア) 請求対象期間後の原告の具体的な請求時に近接する時点において、原告への著作権の帰属を基礎付ける原権利者との契約関係が、契約解除や契約上の地位の譲渡等により消滅している以上、原告には、既往の使用料を請求できる権限は帰属していない。
(イ) 原権利者は、解約時の書面では、「確認書B」のように将来的な契約関係の解消のみを意図した等とは明確化していないから、解約時にそのような意図であったと解することはできない。
(ウ) 「確認書B」によると、原権利者は、原権利者・TMA契約を解約している。原権利者は、確認書Bにおいて、原告に「訴訟を提起し、訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限」があることを確認しているが、著作権等管理事業者は、届出した管理委託契約約款によらなければ、管理委託契約を締結してはならないこと(著作権等管理事業法11条3項)や、信託は、訴訟行為を主たる目的とすることができないこと(旧信託法11条)等からすると、上記確認書Bの作成時点において、原権利者と原告間に新たな信託関係の設定を合意する趣旨のものとは解されず、原告が「訴訟を提起し、訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限」があるか否かは、信託契約の解約と受託者の権限に関する法律関係に係る法の趣旨に委ねられる。
(2)−7 被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録7の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) 清算結了の登記
 TMAが解散し、清算結了の登記を了していることについて、韓国の判例は「株式会社の場合、清算結了の登記が行われたとしても、依然権利義務関係が残っていれば会社の法人格はまだ消滅しなかったものとみなされる」(韓国大法院1994年5月27日宣告94ダ7607判決。以下「大法院判決」という。甲78)とし、韓国の通説も「清算結了の登記は清算結了の事実を公示するものにすぎず、法人格を消滅させる創設的な効力はない。それ故、清算結了の登記がなされたとしても、事実上清算が結了していないときは、会社は依然として存続するものであり、事実上清算が結了しない場合になされた清算結了の登記は無効であり、抹消されなければならない」とする。
 本件では、原告は、TMAに対し、多額の貸金債権を有するとともに(甲77)、TMA・原告契約に基づき楽曲の管理手数料を請求する権利を有し(15条1項)、他方で、TMAに対して、著作権管理によって得た著作権使用料等を分配する義務を負っており(1条)、また、TMAは、原権利者・TMA契約に基づき各原権利者に対する使用料分配債務を負っている(9条)から、上記大法院判決が、対世効の有無や権利帰属に係る物的関係を射程にするか否かを論じるまでもなく、原告・TMA間、原権利者・TMA間には多数の債権債務関係が残存しており、TMAの法人格が消滅しないことは明らかである。したがって、TMAが債権債務等の残余財産を清算して「事実上清算が結了」しない限り、清算結了登記がされても、当該登記は無効になる。
(イ) TMA・原告契約の解約
 TMAから原告に対する一方的な解約は有効でない。TMA・原告契約19条(解除)は、旧信託法57条を明文化したものと解されるが、「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としているときは、一方的な解約が認められない」(大審院大正9年4月24日判決・民録26巻562頁、以下「大正9年大判」という。)とされている。上記判例は、債権者が、債務者に対し、第三者に対する債権者の債権の取立てを委任し、その取立金額の1割を手数料として債務者に与え、その金額を債務者の債権者への債務の弁済に当てるという事案におけるものであるところ、TMA・原告契約は、原告が第三者から著作権使用料を回収した場合に、手数料を一部控除して、TMAの原告への債務の弁済に当てるという内容である(同契約15条)点で、上記判例の事案と同様に解すべきである。したがって、TMA・原告契約は、委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としている契約に当たり、TMAには一方的な解約が認められない。
(ウ) 法定信託
 仮に、TMAによって、TMA・原告契約が解約された場合であっても、解約は信託契約の終了原因の一つにすぎず、信託が終了した場合において、信託受託者が帰属権利者に対して残存する信託財産を移転するまでは、信託は存続するものと擬制される(法定信託。旧信託法63条)。法定信託は、「原信託の延長」となるから、他の終了原因の場合と同様、受託者たる原告は、継続して残務の処理を行うことができ、本件では、楽曲使用料の徴収・分配が終了するまで、信託が存続し、原告は受託者としての業務を継続できると解される。そのように解することは、TMAの合理的意思及び原権利者の利益保護にも適うものである。
@ 旧信託法63条が規定する信託終了時の法定信託の性質(復帰信託又は原信託の延長)については、「原信託の延長」に該当するのは、「信託行為二定メタル信託財産ノ帰属権利者」が存在する場合とされ、このような「…帰属権利者」には、信託行為において信託終了時の財産帰属権利者として定められた者のみならず、「給付を受ける権利がまだ残っている収益受益者」(残存信託財産の中に未収財産のある原信託の受益者)を含むと解されている。したがって、信託契約である直接契約の受益者(原権利者)及びTMA・原告契約の受益者(TMA)は、著作権使用料の分配をいまだ受けていない以上、いずれも著作権使用料の「給付を受ける権利がまだ残っている収益受益者」に該当するため、本件は上記「…帰属権利者」が存在する場合に当たり、法定信託の性質は「原信託の延長」に該当する。
A 「原信託の延長」と考えられる場合、受託者の職務権限は、「残務の処理、信託財産の受益者への移転、対抗要件の具備、それらの完了するまで信託財産を保存し、適当に収益を上げること(ただし、直ちに回収し得ないような条件で投資してはならないとされる。)」まで認められるところ、本件の受託者たる原告は、信託期間中に既に発生した著作権使用料を回収するという残務の処理又は信託財産を保存し、適当に収益を上げることを行うにすぎず、新たな投資を伴う行為を行うものではないから、信託終了後、受託者たる原告が著作権使用料回収を行うことは、受託者の職務権限として当然に認められる業務に該当する。
B 旧信託法の改正が検討された法制審議会信託法部会においても、法定信託の性質が審議され、その結果、旧信託法63条を引き継いで法定信託を規定する現信託法176条が、「原信託の延長」であることを明確化している。
C 解除
 原権利者・TMA契約が解除により終了した場合、以下の理由から、原告は残務処理として、本件楽曲使用料の徴収・分配を継続して行えると解すべきである。
a TMAの合理的意思
@ TMAは、解除通知では、TMA・原告契約解約後の信託の残務処理等について何ら意思表明をしていないが、本件において、仮に、原告が「残務処理」(未回収楽曲使用料の徴収・分配)を行わない場合、多額の未回収使用料債権・債務がTMAに帰属することになり、結果的に当該使用料の徴収・分配の債務不履行責任を負わされるという不都合が生じる。したがって、解約時にTMAとしては、少なくとも既発生の債権債務については、原告が残務処理として回収し、それをTMA又は原権利者に分配することを期待していたはずであって、これをTMAの合理的意思と解すべきである。
A 被告は、原告とTMA間の著作権信託契約(甲68)の19条は「残務処理」を行うためのリード・タイムを設けた規定であるとするが、継続的契約において、解約通知後、解約の効果が発生するまでに一定の猶予期間を設けることは一般的に見られることであって、原告・TMA契約だけの特殊な内容とはいえない。
B 本件では、作家3が、解除時において、「解除後も原告をして請求対象楽曲に係る既発生の使用料の徴収・分配を継続して行わせる意思」を有していたことを明言しており、受託者である原告もこれを行う意思を有しており、双方の意思が合致している。したがって、解除時の契約両当事者が、「解除の効果を既発生分の使用料の徴収・回収には及ぼさない」という意思を有している点で意思が合致しており、当該解除の効果を契約締結時の意思のみから推測しようとする被告の主張は、不合理である。
b 原権利者の利益保護
 原告が「残務処理」を行わない場合、解約後に、個々の原権利者に未履行の使用料債権が帰属したとしても、自らの権利を実現することは実質的に不可能であるから、原権利者は、結局、既発生の使用料債権の回収を断念しなければならなくなる。原権利者の多くは、いずれも原権利者本人の意思に基づき作成されたことが明らかな確認書B(甲75)を提出し、TMAの解散後も、原告を通じた使用料の徴収・分配を望んでおり、原権利者の利益・意思を無視することはできない。
c TMAが原権利者に対して解約を申し入れたという被告の推測を裏付ける根拠資料は、何ら存在しない。
D 被告の主張に対する反論
a 本件において、被告のように「受益者は、受託者が現実に徴収し、又は受領した著作物使用料等の分配を受ける権利しか有していない」と解すると、受益者は徴収されていない著作権使用料や損害賠償金を請求する権利を有さないことになり、著作権使用料を適切に徴収し、分配するという信託の目的を達せられず、個々の原権利者の保護にも反し、確認書Bにおいて、未徴収の使用料を分配するよう現実に求めている各原権利者の意思にも反する。したがって、各契約の受益者は、受託者が現実に徴収し、又は受領した著作物使用料等の分配を受ける権利だけでなく、受託者に対し、未徴収の著作権使用料や損害賠償金を請求する権利をも有すると解すべきであり、それらが存在する本件は、「残存信託財産の中に未収財産がある場合」に該当する。
b 「指定帰属権利者」の範囲について、委託者兼受益者のように、原信託が終了しても、原信託存続中に享受すべき信託の利益を喪失してしまうという不合理が生じない原信託の受益者は、指定帰属権利者には含まれないとする被告の主張は、独自の解釈である。
c 被告が引用する「信託契約終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じる」とする裁判例(大阪高裁平成13年11月6日判決)は、a特定金外信託の場合であって、b信託法36条1項、37条等に該当する事情がなく、かつ、c帰属権利者(受益者)である著作権者に移転すべき信託財産が特定していて、d対象著作権の権利移転に特段の障害もない場合には、信託契約の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると解しても、信託法63条の趣旨に反するものではない等として、例外的に、契約終了時に、帰属権利者への権利帰属が、即時に生じることを許容している。
 しかしながら、本件では、本件各契約の信託設定時の信託財産は金銭ではないので、特定金外信託に当たらず、各契約の受益者は信託財産から費用報酬等を受けるから、旧信託法36条1項、同37条に該当する事情がある等、上記要件を充足しない。また、本件は、被告が引用する上記裁判例のような「利殖目的の信託」ではなく、受託者の運用の結果、委託者に何らかの損失を生じさせる危険を内包するものでもない。したがって、本件における信託契約の終了時期について、上記裁判例の射程は及ばない。
d 解除の場合は、解除と同時に残余信託財産が帰属権利者に物権的に帰属するから、復帰信託又は原信託の延長のいずれについても法定信託が成立する余地はないとする被告の主張は、根拠がない。本件では、原権利者・TMA契約の両当事者が、「契約を解消しても、既発生の債権債務について、原告に使用料の徴収・分配を委ねる」点において意思が合致しており、被告の主張は失当である。
e 本件では、請求対象楽曲を使用した被告が当該楽曲に係る著作権使用料を支払わないがために、原告がその使用料を徴収してこれを原権利者に分配する業務に約5年もの長時間を要するという異常事態が生じているから、被告の主張する「特段の事情」がある場合にほかならない。また、原告は、残務たる楽曲使用料の徴収・分配が終了するまで原信託の延長が生じると主張しているだけであって、「永久に継続する」などとは一切述べていない。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の各楽曲は、TMA・原告契約及び原権利者・TMA契約が、TMAの平成19年3月28日の清算結了により「信託契約の目的不達成」により終了していること、また、少なくともTMA・原告契約が、TMAによる解約通知により平成19年3月31日をもって有効に終了していることから、原告にはそれらの楽曲に係る著作権が帰属していない。
イ 清算結了の登記
 原告が主張する清算結了の登記に関する韓国の判例は、清算法人とその債権者という二当事者間の債権関係について判示したものにすぎず、当該債権者以外の第三者との関係での対世効や権利帰属に係る物権的関係についてまで、その射程に置くものではない
ウ TMA・原告契約の解除
(ア) TMA・原告契約19条は、解除の要件について、書面による通知が必要であるとし、解除の効果についても、通知の到達した日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって発生するとして、旧信託法57条と異なる条件を定めているから、同法59条の「第五十七条…ニ拘ラス…別段ノ定アルトキ」に該当し、同法57条は適用されない。
(イ) 原告が援用する「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としているときは、一方的な解約が認められない」との判例(大正9年大判)の事案は、債権者たる委任者が債務者たる受任者に有償委任を行い、それにより受任者が委任者に負っている債務の返済原資を創出せしめていたというものであり、本件と事案を異にする。単に報酬の特約があるだけでは、受任者の利益を目的とした委任とはいえないと解されており、TMAによる解約の効力を制限することはない。
(ウ) 法定信託
 TMA・原告契約の解除等により信託が終了した場合、法定信託(旧信託法63条)の目的及び趣旨からすると、信託財産の帰属権利者への移転に何ら障害がない場合には、信託の残余財産は、信託の終了と同時に、即時に帰属権利者に移転すると解されるから、信託の清算も既に結了しており、楽曲の著作権の原告への帰属は認められない。
@ 旧信託法63条が規定する信託終了時の法定信託の性質(復帰信託又は原信託の延長)については、「原信託の延長」に該当するのは、「信託行為二定メタル信託財産ノ帰属権利者」が存在する場合とされ、この「…帰属権利者」には、信託行為において信託終了時の財産帰属権利者として定められた者のみならず、「給付を受ける権利がまだ残っている収益受益者」(残存信託財産の中に未収財産のある原信託の受益者)を含むと解されている。しかしながら、原権利者・TMA契約及び直接契約における原権利者は、契約上「原信託存続中においても、受託者が現実に徴収し、又は受領した著作物使用料等の分配を受ける権利」しか有しておらず、受託者であるTMA又は原告に対して、「未徴収の著作権使用料や損害賠償金を請求する権利」は有していないから、「残存信託財産の中に未収財産のある」場合に該当しない。また、上記の解釈は、原信託存続中の受益者が、原信託の終了という一事をもって原信託存続中に享受すべき信託の利益を喪失してしまうとするのは不合理であるという価値判断に基づいているところ、このような不合理が生ずるのは、「残存信託財産の中に未収財産のある原信託の受益者」が、委託者と異なる場合であるから、委託者兼受益者のように、このような不合理が生じない原信託の受益者は、指定帰属権利者には含まれないと解される。本件では、原権利者・TMA契約及び直接契約の委託者兼受益者である原権利者は、その楽曲の著作権が復帰すれば、自ら又は他の著作権等管理事業者をして、将来においてだけでなく、既往の分についても、当該楽曲の使用者から使用料を徴収し、かつ、不法使用者に対して損害賠償を請求することができるから、原信託の延長を擬制しなくても不都合はない。むしろ、原信託の延長を認めると、権利の分離帰属が生じて法律関係が複雑になり、楽曲の使用者が二重に徴収を受けるなど不合理な事態を招来することになる。
A 法定信託(旧信託法63条)は、「復帰信託」であれ「原信託の延長」であれ、信託財産が帰属権利者に移転するまでの間のみ成立するにすぎない。そして、信託の終了原因が発生しても、信託財産は帰属権利者に物権的に帰属するわけではないと解するのが通説ではあるが、他方で、法定信託の趣旨は、「信託が終了しても、信託財産がその帰属権利者に完全に移転するまでは、信託はなお存続するものとみなして、帰属権利者の財産を保全し、信託事務の残務整理を完全なものにしようと」することにあるから、信託財産の帰属権利者への復帰移転に何ら障害がない場合には、信託の残余財産は、信託の終了と同時に、即時に帰属権利者に移転すると解すべきである。法定信託の目的を達成したと評価できる状況にあるにもかかわらず、法定信託を存続させる理由はない。
 本件では、信託財産が楽曲の著作権という無体財産権であって引渡しを観念し得ず、また、信託について著作権登録もされていないため、信託終了の際に、著作権登録の抹消あるいは移転等の手続も不要であるから、信託財産の移転に特段の障害もない場合であり、信託の終了と同時に、信託財産は、帰属権利者に即時に移転すると解すべきである。
B 仮に、法定信託が原信託の延長だとしても、受託者の第1の責務は残余の信託財産を帰属権利者に移すことであり、受託者はそれが完了するまでの間、信託財産を保存し、適当に収益を上げることができるにすぎないから、「残務が終了するまで」原信託の延長が生じると解するのは受託者の任務違背であるし、そのような解釈は、信託の終了事由が発生しているにもかかわらず、受託者が信託財産を移転する旨の別途の意思表示をしないことにより、いつまでも法定信託が存続することとなり、受託者が恣意的に信託の終了時期をコントロールすることができることになる。
 本件において、KOMCAの会員である韓国作家らは、平成18年1月1日の「相互管理契約」発効後は、全世界の著作権をKOMCAに信託している結果、KOMCA経由で日本の通信カラオケの使用料を受領できるはずであるが、それにもかかわらず、原告が信託受託者として「請求対象楽曲」の著作権を有していると解釈することは不合理である。
C 改正後の信託法においては、信託の終了後も清算が結了するまでは原信託が存続することが明文化されたが(176条)、法制審議会信託法部会においては、旧信託法の解釈について、「いわゆる原信託が存続する見解と、新たにいわば復帰が生ずるという見解に分かれております」と紹介されているから、改正による「原信託の延長」との位置付けをもって、旧信託法の法定信託の性質の解釈の根拠とすることはできない。
D 裁判例(大阪高裁平成13年11月16日判決)においても、旧信託法63条が「一種の法定信託の成立を認めたのは、例えば信託財産が不動産であるような場合、信託終了後の残存財産を権利者に帰属させるに当たって、登記手続等で、なお相当日数を要することが少なくない実情にかんがみ、そのような場合の帰属権利者の保護を図る趣旨であると解される」とした上で、「本件信託のような特定金外信託の場合であって、信託法36条1項、37条等に該当する事情がなく、かつ、帰属権利者(受益者)である被控訴人に移転すべき信託財産が特定していて、権利移転に特段の障害が存しない場合には、信託契約の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると解しても、信託法63条の趣旨に反するものではない」として、被告の見解が是認されている。そして、権利移転に特段の障害がない本件のような場合には、信託契約の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると広く解すべきである。
E 解除については、旧信託法57条は、委託者が単独受益者を兼ねる場合、委託者はいつでも信託を解除できるとし、同58条は、単独受益者が、信託財産を用いなければその債務を完済することができない場合には、受益者又は利害関係人の請求により、裁判所は、信託の解除を命ずることができるとする。そして、同61条は、両規定により信託が解除された場合には、残存する信託財産は受益者に「帰属す」とするが、この「帰属す」とは、帰属権利者であることを確認的に示すとともに、物権的な帰属をも意味すると解されるから、解除の場合は、法定信託が成立せず、残余財産は、信託終了と同時に、帰属権利者に物権的に移転すべきであると解される。
 したがって、信託行為で定めた解除条項に基づいて解除したとしても、上記法の規定を前提とすると、同様に解される。
F 信託財産の帰属権利者への帰属を物権的帰属と解さない理由は、特別の意思表示がないのに物権変動を生ずると、その時期が不明確になるおそれがあることであるが、TMA・原告契約19条による解約は、解約の意思表示と解約の効力発生時期の間に最低6か月のリードタイムを設け、その間に受託者たる原告において信託の終了の準備を行い、解約の効力発生日において残余の信託財産を委託者たるTMAに物権的に帰属させる旨の「特別の意思表示」であるから、物権変動の時期を明確化していると解される。
 したがって、本件では、平成19年3月31日に信託財産の帰属権利者への移転が完了したと評価できるから、結局、法定信託は終了している。
G 法定信託の趣旨と、TMA・原告契約19条の趣旨からすると、次のとおり、本件では、TMA・原告契約は平成19年3月31日をもって有効に終了し、そのすべての信託財産も同日にTMAに移転していると解されるから、法定信託の成立の余地はなく、法定信託が観念的には一瞬成立したと仮定したとしても、平成19年3月31日に信託財産の帰属権利者への移転が完了したものと評価できるから、結局、法定信託は終了したというべきである。
 なお、原権利者の利益保護の観点等を考えるにしても、次のとおり、TMA・原告契約の解約に関し、信託終了後の法定信託の成立や信託財産の管理権限が、委託者兼受益者(TMA)の現状の財産管理能力や、信託関係人ではない原権利者の利益、意思に依拠することは、妥当ではない。原権利者の保護は、原権利者・TMA契約における損害賠償等の問題として規律されるべきである。
a TMAの合理的意思
@ TMAの合理的意思については、解約通知(乙7の2)には、何らTMAが原告に残務処理を期待するような記載はなく、むしろ「最近貴社との委託関係をこれ以上維持し難い事情が発生し…やむを得ず…解約」とされていること、解約申入れから契約終了まで6か月以上のリードタイムが設けられていること、TMAは、一刻も早く清算手続を結了させることに重きを置いていたはずであることからすると、TMAが、原告に残務処理を期待していたとは考えられない。
A TMA・原告契約19条からすると、残務処理を行うための期間として6か月以上の猶予を受託者に与え、他方、期間満了までは、委託者は、楽曲著作権を第三者に信託できないとされているから、解除通知をしたTMAとしては、原告に対して付与した残務処理のための猶予期間は、解除通知の到達後6か月を経過した後に最初に到来する3月31日である平成19年3月31日までであり、それ以降は、自ら権利行使するか、原告とは別の第三者に著作権を信託譲渡して、使用料の徴収を図る意思であったというべきである。
B 契約の解釈において契約締結後の事情を斟酌するのは、相当でない。なお、TMAの解約通知(乙7の2)において、「委託関係をこれ以上維持しがたい事情が発生した」としており、契約解除後も原告が既発生の使用料を徴収分配することを望む意思はなかったことが明らかである。
b 原権利者の利益保護
 原権利者の保護の観点については、解約及び清算により、著作権は原権利者に復帰するから、原権利者が日本での著作権使用料の回収を望むのであれば、直接原告に信託譲渡するか、OP・SPを通じてJASRACに信託譲渡する等、他にも手段はあるのであって、清算手続に入っているTMAが原告との信託関係を維持する必要性はない。また、TMA・原告契約の解釈について、契約当事者ではない原権利者の意思が影響することはあり得ないが、原権利者の意思としても、平成18年1月1日に「相互管理契約」が発効し、KOMCA経由で日本の通信カラオケに関する使用料を容易に受領できるのであるから、著作権を原告に信託したままにすることは想定し難い。そもそも、KOMCAは、原権利者の楽曲に係る全世界の著作権を信託受託しているから、少なくとも「相互管理契約」の発効以降については、KOMCAとの権利関係を無視して一方的な意思解釈をすることはできない。
(2)−8 被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
 TMAのような音楽出版社が、多数の原権利者から楽曲の著作権譲渡を受けた上で、当該著作権を著作権等管理事業者であるJASRACやKOMCAに信託譲渡するという法的構成で事業を行うことは、一般的に行われている。業法上の許可の有無をもって、当然に私法上の委任契約が影響を受けるかのような被告の主張は、両者の関係を混同したものであり、同許可の有無にかかわらず、私人間において楽曲の著作権管理を委託することは、通常の市民の観念からしても、何ら不自然なものではない。
 したがって、被告楽曲目録8に関する上記被告の主張は、失当である。
(被告)
 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の各楽曲は、次のとおり、韓国の業法に違反して締結された原権利者・TMA契約に基づくから、著作権はTMAに帰属しておらず、原告の管理権限も否認される。すなわち、TMAは、韓国の文化観光部に申告届出された代理仲介業者(申告番号271)にすぎず、別途の事業許可を必要とする「著作権信託管理」行為を行うことができないところ、原権利者・TMA契約を締結することは、同行為に該当し、違法と考えられるからである。
(2)−9 被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) 原権利者作家14の契約書(乙58、甲80の60)について乙58及び甲83の60は、いずれも原権利者作家14が任意に署名した同一の契約書の写しであって、署名は異ならない。すなわち、原告は、当初、TMAから上記原権利者の平成14年10月15日付け「音楽著作権譲渡契約書」の写し(以下「契約書写し1」という。)を受領したが、当該契約書には、割印も押印もなかったため、補完を指示したところ、既に署名された契約書の4枚目の契約当事者記名押印欄に捺印がされ、1頁目ないし3頁目の各頁に割印がされて、その後、原告が、捺印後の契約書の写し(以下「契約書写し2」という。乙58)を受領したものである。そして、原告は、当初、被告に契約書写し2(乙58)を提示していたが、甲83の60を提出する際、両契約書が混同し、契約書写し2の1頁目ないし3頁目及び契約書写し1の4頁目が甲83の60とされたものである。
 したがって、原告が、契約書を作為的にすり替えた事実はなく、同原権利者に係る楽曲を管理する権限を有する(乙58)。なお、契約書の捺印の補完作業においては、原権利者に事前に事情を説明した上で、原権利者に押印について承諾してもらってから、TMAが契約書に押印するという作業がされた。
(イ) 甲83の184(作家15の契約書)について
 仮に、TMAが、原権利者・TMA契約締結時において、作家15とTMA以外の音楽出版社との間で海外著作権契約が成立していることを知っていたとしても、背信的悪意性が何ら裏付けられるものではない。同契約20条は、作家15に係る契約書1通のみに記載されているにすぎず、当該条項をもって、TMAが、同人以外の原権利者と原権利者・TMA契約を締結することも著作権の二重譲渡となることを認識していたとの主張は、被告の一方的な推測の域を出ず、ましてや原権利者・TMA契約に基づく原告のすべての請求は背信的悪意者による権利濫用であるとする被告の主張は、暴論である。なお、現在に至るまで、作家15に係る楽曲に関して、他の出版社等から原告に対する権利主張等は一切なされていない。
(被告)
 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の各楽曲は、次のとおり、書証のすり替えが行われたり、著作権の二重譲渡を前提とした条項を含む契約を根拠としているから、原告には著作権が帰属していない。
ア 原告は、従前提出した捺印済みの契約書(乙58)とは異なる署名による捺印のない契約書(甲83の60)を提出し、作為的な書証のすり替えをしており、偽造が疑われる。
イ 契約書(甲83の184)の20条は、TMAが、原権利者・TMA契約を締結する際、著作権の二重譲渡であることを認識しており、当初の著作権譲渡との兼ね合いで紛争が生じたときには、原権利者に不利益が生じないように調整する義務を負うべきものである旨定めているから、TMAは、二重譲渡にリスクを感じる原権利者を積極的に勧誘して、原権利者・TMA契約の締結に至ったというべきであり、結局、原告は、TMAを利用して、「著作物…の利用を円滑にし、もって文化の発展に寄与する」との著作権等管理事業法1条所定の目的に反するような著作権の帰属に疑義を生じさせる行為を積極的に行っていることがうかがわれるから、上記書証に基づく著作権の帰属は認められない。
(2)−10 被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲
(原告)
ア 原告は、被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲について、著作権を有している。
イ 被告の主張に対する反論
 被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の各楽曲に係る証拠は、いずれも原告が、裁判所の指示に従って提出し、裁判所において原本確認が行われて証拠調べが実施されたものである。よって、原告は、従前の主張を維持する。
(ア) 甲83の199(作家16の契約書)は、偽造されたものではない。
(イ) 甲85の7(作家17の契約書)について
 元々、原告は、作家17との間で、平成14年11月10日付けの音楽著作物譲渡契約書(甲129)を直接締結していたが、その後、株式会社コピーライトバンク(以下「C社」という。)を通じた間接的な契約形式、すなわち、作家17がC社に著作権を譲渡し、C社が原告に当該著作権を信託譲渡するという契約形式に変更することとし、平成15年12月23日、作家17とC社間で音楽著作権譲渡契約書(甲130)を、原告とC社間で著作権信託契約書(甲121)をそれぞれ締結し、契約を切り替えたものである。ただし、作家17とC社間の契約は、上記切替えのために作成されたことに照らし、作家17と原告間の契約の日付を参照して、同契約の日付を記載したものである(甲130・3条ただし書)。なお、作家17は、原告に対して自己の楽曲の著作権を信託譲渡していることを確認している(甲79の154)。
 したがって、原告は、同人に係る請求対象楽曲に対して、管理権限を有している。
(ウ) 作家18の契約書は、従前、原告が提出した契約書の写しが最終頁のみであったため、作家18の意思を確認し、不備のない契約書(甲123)を提出した。
 したがって、原告は、同人に係る請求対象楽曲に対して管理権限を有している。
(被告)
ア 請求対象楽曲のうち、被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の各楽曲は、原告と被告が、平成18年2月1日の本件第10回弁論準備手続期日(以下「確認基準日」という。)において合意した証拠提出方法に関する「確認条項」、すなわち、請求原因を基礎付ける証拠は原告提出済書類がすべてであり、それ以外には、請求原因を基礎付ける証拠となり得る書類は一切存在しない旨の条項に違反し、同日以後、提出した契約書等に係るものであるから、このような契約書等に証拠能力は認められず、原告には著作権が帰属していない。
イ 仮に、契約書等に証拠能力が認められるとしても、それらが「確認基準日」に存在したのであれば、同時点で提出可能であったにもかかわらず、原告提出済書類には含まれていなかったから、同日以降に偽造された疑いがある。
(3) 故意・過失
(原告)
ア 被告は、被告が著作権等管理事業者としての登録を受けた平成14年6月28日以降、平成16年7月末までの請求対象期間について、原告が有する本件の著作権を侵害することを知り、又は、知り得たにもかかわらず過失によりこれを知らないで、原告の許諾なく請求対象楽曲を複製又は公衆送信するという著作権侵害行為を行っている。
イ 著作物を利用する者は、当該著作物の著作権者から承諾を得るべきことが大原則であり、利用者は自らが利用しようとする著作物について、自らの責任と負担において、あらかじめ著作権者が誰であるかを調査し、著作物ごとに真の著作権者の承諾を得ることが当然に要求される。他人の音楽著作物を用いて通信カラオケ事業を行う被告の場合、自らが利用しようとする個々の音楽著作物について、利用に先立って著作権者の承諾を得ているかを確認すべき立場にあり、著作権等管理事業法の施行に伴ってJASRAC以外の著作権等管理事業者が存在するようになったのであれば、なおさらである。また、平成14年ないし平成15年当時は、韓国の唯一の著作権等管理事業者のKOMCAとJASRACとの間で相互管理契約が締結されていなかったから、被告を含むカラオケ事業者は、個別のサブパブリッシャーを経由して信託がされない限り、JASRACが韓国楽曲を信託管理することはないことを明確に認識していた。しかしながら、被告は、自らが利用する韓国楽曲について、必要最小限の権利調査さえ行うことなく無断利用を継続し、原告からの請求後も、支払に一切応じず、無断利用を継続した。「原告の管理権限の疑義」があることをもって楽曲の無断使用につき過失がないとする被告の主張は、詭弁にほかならない。
(被告)
ア 原告の主張は争う。
イ 原告は、AMEIとの接触開始から1年近く後の平成15年6月まで、被告に対して楽曲リスト(乙63)を交付せず、被告は、どの楽曲について著作権の管理権限を関係者に確認すればいいのか対応できなかった。交付された楽曲リストも、JASRACと重複するものが多く、日本人の創作にかかる楽曲が含まれる等したため、AMEIは、権利関係の説明と管理権限の根拠書類の提出を求めたが、原告は、これに応じることができず、協議を一方的に打ち切り、一応の根拠書類が被告に提出されたのは、本件訴訟提起後の平成18年2月1日であった。そして、原告が、韓国では楽曲の著作権を二重、三重に譲渡することが当たり前と認めていたことや、原告のビジネスに関する当初の説明が虚偽であったこと、JASRACへの楽曲登録がカラオケ使用よりも遅れても、JASRACが遡及的にカラオケ使用料の分配を行い、事後的に適法な権利処理をすることが当時の実務であったこと等を併せ考慮すれば、AMEI又は被告が、原告の著作権管理権限を証する書類の提出を要求することは必然であった。
 したがって、仮に、被告に著作権侵害が認められるとしても、被告には、「請求対象期間」全部について、又は、少なくとも楽曲リストの交付前の平成14年6月28日から平成15年5月までの期間について、当該侵害について過失はない。
(4) 損害論
(4)−1 損害
(原告)
ア 原告は、被告が著作権を侵害したことにより、次のとおり、原告規程(争いのない事実等(8)ア)により算定される使用料相当額の損害(著作権法114条3項)を被った。
(ア) 基本使用料
 被告は、平成14年6月28日から同年9月までの間は、1000曲以下の楽曲を使用しているから、その間の月額基本使用料は10万円であり、同年10月から平成16年7月末日までの間は、1001曲以上2000曲以下の楽曲を使用しているから、その間の月額基本使用料は20万円である。
 したがって、上記期間の基本使用料は、10万円×(3日/30日(日割り計算)+3か月)+20万円×22か月=471万円となる。
(イ) 利用単位使用料
 被告が管理するカラオケ端末機台数(甲92)を前提とすると、平成14年6月の3日間(日割り計算)及び同年7月は、1台当たり月額210円、同年8月から平成16年7月までの間は、1台当たり月額200円となるため、総額は、別紙「著作物使用料月別計算書」記載のとおり、8億6271万9745円となる。
(ウ) 損害額
 (ア)と(イ)の合計額は8億6742万9745円であり、消費税を加算すると、損害額は、合計9億1080万1232円となる。
イ 著作権法114条3項は、著作権侵害がなされた場合の損害額の最低保証として、「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」、すなわち使用料相当額を用いる旨を規定しているところ、著作権者が既に第三者に対する利用許諾の条件を明示している場合には、当該条件をもって、同条項に定める「相当する額」とみなすべきであり、本件では、原告規程がその算定基準となるべきものである。無断使用によって生じた損害額が、正規の利用者の支払額より少ないことは、公平の見地並びに著作権等管理事業法及び著作権法114条3項の趣旨から認められない。
ウ 原告規程について
(ア) 原告規程は、有効な規程である。
@ 著作権等管理事業法では、指定著作権等管理事業者以外の著作権等管理事業者(以下「一般管理事業者」という。)は、使用料規程の策定・変更について、利用者又はその団体からの意見聴収の努力義務が訓示的に課されており(13条2項)、仮に、意見聴取が十分でなかったとしても、当該使用料規程が無効となることはない。上記意見聴取は、当該使用料規程に関する意見を求めるものであって、管理する著作物リストの提出やその他の情報の提供を行うことを義務付けていない。さらに、文化庁長官は、使用料規程の届出を受理した日から起算して30日を経過するまでの間、上記使用料規程の内容が利用者の利益を害しないか等について判断し、不合理な点があれば、内容の変更等の業務改善命令(20条)等を行使することができるが、当該使用料規程自体は、届出によって有効となる。よって、同法に基づいて使用料規程が有効に成立している以上、利用者がその無効を主張して支払を拒絶することは認められない。
A 原告は、文化庁の指示に基づき、原告規程を各利用者及び利用者団体に交付するとともに、各両者及び利用者団体の意見を十分聴取した。すなわち、原告は、平成14年6月28日に事業者登録を行ったが、同庁担当者に原告規程の案を交付して、必要な指導を受けた際、「原告規程案を提示し、関係する利用者団体から意見聴取するように。」との指示と、利用者団体一覧表の交付を受けたため、各利用者の意見を聴取した。その後、各利用者の対応及び意見を取りまとめて同庁に提出し(甲43)、同年8月9日に原告規程を登録した。その後、同庁から、原告規程の内容について、業務改善命令等を行使されたこともない。
(イ) 原告規程の内容は、合理的である。
@ 原告規程が、利用楽曲数と受信装置台数を基準とした包括的な使用料規程を設定したのは、1曲ごとの録音・演奏について逐一報告させて課金すると、事務処理手続が極めて煩雑になってしまうことから、利用者である通信カラオケ事業者及び著作権等管理事業者両者の便宜に配慮したことによる。内容的にも、原告は、JASRAC規程と比べて、通信カラオケ事業者の事情により配慮した規程を採用している。
A 通信カラオケ事業に関して、包括的に著作権使用料を算定する際には、利用対象の著作物の一部を著作権等管理団体が管理していなくても、著作権使用料の算定に管理割合を勘案しない運用が一般的である。
B JASRACに対する使用料の支払や、AMEIとJASRAC間の著作権等管理事業法施行以前の協定を理由として、新規事業者である原告に対する支払を拒絶等する行為は、著作権等管理事業者間の自由競争を妨げ、新規参入者を排除する行為として許されない。
C カラオケメーカー他社と原告との間で著作物使用規程が締結されていない原因は、最大手かつAMEIの主要メンバーである被告が原告との間で本件訴訟で争っている状況によるものであり、各メーカーが原告規程の相当性を否定したことによるものではない。また、一般管理事業者が設定した使用料規程には、原則的に相当性が認められるのであって、契約締結の実績といった利用者側の任意に依存する事情を基準とすべきではない。
 著作権法114条3項の趣旨は、著作権侵害における損害額立証の手間を省かせて権利者を保護する点にあるところ、著作権の侵害者と権利者の間に従前から契約関係が存在することは「まれ」なことから、契約関係にない当事者間において著作権侵害が行われた場合であっても、契約が締結されていた場合を仮定して損害賠償請求額を算定させるというものにほかならない。「原告規程に基づいて損害金を算定できるのは、契約が成立している場合に限られる」との被告の主張は、著作権法114条3項にも反する。
D 基本使用料の算定根拠としての「品揃え」の主張は、被告の私見にすぎない。JASRAC規程は、その管理楽曲数735万曲を前提に策定されたものではなく、被告の実際の使用料の支払実績も、上記JASRACの「品揃え」に相当する基本使用料とは一致していない(なお、顧客は、利用可能な楽曲の種類等の要素を総合考慮して判断するため、韓国の人気楽曲を網羅している原告の管理楽曲は、「品揃え」の対価たる価値を十分に有している。)。また、音楽著作物については、管理楽曲数の多寡にかかわらず、JASRAC規程に準じた使用料規程に従って使用料を徴収することが実務上一般的であり、JASRAC規程からかけ離れた低廉な使用料を設定することは、むしろ原権利者の権利保護の見地から望ましくないとされている。
E 利用単位使用料の根拠を楽曲の増加量であるとする主張は、被告の私見にすぎない。利用単位使用料が受信端末の台数に応じて定められている趣旨は、楽曲の使用料を個別徴収(1曲が1回使用されるごとに徴収する方法)ではなく包括的に徴収する場合に、多数の受信端末を保有している利用者ほど楽曲を多数回使用しているのが通常であることに着目して、その保有する受信端末の台数に応じて公平な徴収を行うことにあると解される。楽曲の増加数と利用単位使用料とは、無関係である。
エ 被告の主張する算定方法は、いずれも不当である。
(ア) カラオケビジネス上の問題点については、カラオケ設置店舗がJASRACに異議を唱えるべき内容にすぎず、損害額の算定基準に関係する事情には当たらない。
(イ) JASRAC規程をベースに管理楽曲数により按分比例する方式を採用することは、妥当でない。著作権侵害に基づく損害賠償額の算定において、「経済合理性のある金額を算定すべき」との見解は、何らの根拠がなく、「JASRACの使用料を支払の上限とする」との見解も、著作権等管理事業者間の自由競争を妨げ、新規参入を阻害することとなる。廃止された著作権に関する仲介業務に関する法律(以下「旧仲介業法」という。)において独占的に事業を営むことができたJASRACの管理楽曲数等を原告の管理楽曲数と比較し、使用料相当額を按分比例的に算出することは、著作権等管理事業者として新規に参入する原告のような団体の運営に困難を強いることになり、また、使用料規程に即した使用料が徴収できない場合には、管理を委託した権利者が当該著作権等管理事業者との契約を解消するおそれが高く、著作権等管理事業者のビジネスの根底を覆しかねない。そもそも代替性のない著作物については、「按分比例」という算定方式によって損害額を計算することが本来的になじまないのであり、音楽楽曲の場合は、当該楽曲を管理する各団体の提示する使用料規程に基づいて算定すべきである。
(ウ) 演奏ログ数(アクセス回数)に応じて損害額を按分比例の方式で算定する方法も、妥当ではない。上記のとおり、按分比例により損害額を計算することは妥当ではないし、本件で問題とされているのは、複製権の侵害であって、演奏ログ数に関連する演奏権の侵害は一切問題とされていないから、複製権の侵害における損害の算定において、演奏権の回数を基準として採用することは、複製権(著作権法2条1項15号、同21条)と演奏権(同法22条)の違いを無視することになる。なお、被告の主張する演奏ログ数(アクセス回数)は、請求対象期間において、被告がこれを正確に把握していた可能性は、極めて低い。
(エ) JASRAC規程のインタラクティブ配信規程が適用される利用形態は、個人が楽しむために配信することを前提とするものであり、業務用通信カラオケという利用形態とは、営利目的の有無という大きな違いがあるから、営利目的で著作物を無断使用した場合の使用料相当額の算定においては、何ら参考とならない。
(オ) 個々の作家の受領金額は、損害額の算定根拠とならない。業務用通信カラオケ事業者から著作権等管理事業者である原告が使用料を「徴収」する段階での損害相当額の問題と、原告と権利者との間の「分配」に関する事情とは、何ら関係がない。また、各著作権者が受け取るべき使用料の総額は、「請求対象期間」中において、個々の著作権者が日本における業務用通信カラオケの使用の対価として受領した金額を基準とすべきである。原告の管理手数料率とKOMCAの管理手数料率とがほぼ同額であろうという仮定にも、何らの裏付けはない。被告の主張するアクセス数の算定そのものには不合理な点が認められるし、算定の基準となるべき数額は、請求対象期間当時のものを用いるべきである。
オ 算定例
(ア) 原告規程による場合
 前記アのとおり、損害額は、(ア)基本使用料と(イ)利用単位使用料の合計額8億6742万9745円に消費税を加算した合計9億1080万1232円である。
(イ) 個別課金方式による場合(1曲当たりの損害)
@ JASRAC規程による場合
a 基本使用料
 通信カラオケ事業者が利用できる状態におかれている「著作物の数」を基準とし、1か月ごとに再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき200円を月額基本使用料と定める。
b 利用単位使用料
 業務用通信カラオケ事業者が、通信カラオケ事業所に設置された受信装置へのアクセスコードの入力に応じ、演奏に供する著作物を1曲1回提供するごとに、使用料は、再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき40円と定める。
c 減額措置
 原告規程は、自己が権利を有する管理割合を勘案して使用料を減額する措置を採用しており、1つの楽曲において作詞若しくは作曲のいずれかに著作権がない場合、又は、作詞若しくは作曲のいずれかがJASRACの管理外の場合には、1曲の使用料を6/12の額(半額)に減額する旨を規定する。ただし、包括的利用許諾契約については、その適用対象から除外している。
d その他
 CDグラフィックス等1枚当たり5分未満の著作物の使用料については、著作物1曲につき600円をCDグラフィックス等の複製枚数で除して得た額又は11円のいずれか多い額に、消費税相当額を加算した金額を、著作物の利用使用料と定める。また、カラオケ用ICメモリーカードに著作物を利用する場合の使用料については、著作物1曲につき600円をカラオケ用ICメモリーカードの複製枚数で除して得た額又は11円のいずれか多い額に、消費税相当額を加算した金額を、著作物の利用の使用料と定める。
A 原告規程による場合
 原告は、カラオケ用ICメモリーカードに著作物を利用する場合の使用料については、著作物1曲につき8円(歌詞楽曲それぞれ4円)に月間の出荷枚数を乗じて得た額に、消費税相当額を加算した金額を、著作物の利用の月額使用料と定め、実際に徴収している。原告規程には具体的な規程はないが、「第1章から第12章の規程の適用することができない利用方法により著作物を利用する場合は、著作物の利用の目的及び態様その他の事情に応じて利用者と協議の上、その使用料又は額を定めることができる」旨の規定に基づき徴収している。
(被告)
ア 原告の主張は争う。
イ 原告規程は、適用されない。
(ア)  AMEIが原告規程の適用に同意した事実はなく、原告担当者も原告管理楽曲の使用料については後日話合いで決めるという認識であったから、本件訴訟の損害賠償の算定に当たって、原告規程が当然に適用されることはない。
(イ) 原告規程は、次のとおり、策定の際、利用者又は利用者団体から意見聴取をしておらず、その努力もしていないから、著作権等管理事業法13条2項違反の重大な手続違反等があり、無効である。
@ 原告は、著作権等管理事業者として登録した平成14年6月28日当時、従業員数は7名であり、このような原告が、利用者団体(38団体)から適切な意見聴取をしたとはいえない。
A 原告は、平成14年8月1日にAMEI等を訪れた際、会社資料(乙1)、新聞記事(乙2)及び原告規程を交付した。しかしながら、お盆休日前の慌ただしい時期に十分な意見聴取を行うことは不可能であり、AMEIの丁も、同月8日、個人の立場で、原告規程について、1週間程度で会員の意見を集約して伝えることは困難であること、検討する前提として、楽曲リストの交付を受ける必要があることを述べたが(乙3)、原告は、同月9日には、原告規程を文化庁に届出しており、その際、AMEIの意見を「管理楽曲リストの提出を希望」とする事実に反する記載をした資料(甲43)を添付した。原告自身も、平成15年5月28日時点で、業務用通信カラオケの使用料についての協議を経ていないという認識だった(乙34)。
B 原告規定に関する意見聴取の前提として交付された会社資料には、原告の著作権等管理事業者としての信頼性を著しく損なう、ビジネススキームについての重大な虚偽の説明があった。
(ウ) 原告規程は、およそ合理性が認められない。
@ 旧仲介業法の趣旨は、「著作物使用料規程の内容が合理的且つ公正であることを保障するとともに、著作物の利用を簡易且つ円滑化し、以て著作物利用者を保護することにある」(大阪高裁昭和45年4月30日判決)と考えられるのに対し、著作権等管理事業法は、使用料規程の合理性と公正さについて慎重な担保手続を定めておらず、同様には評価できないところ、原告規程は、利用者団体との協議を経ていないどころか、その意見を聴取しているとはいえず、一方的に届け出られたものであるから、そのような原告による「指値」に被告が拘束される理由はない。
A JASRAC規程との対比
a JASRAC規程では、原則として、包括的利用許諾契約の締結を前提として、基本使用料と利用単位使用料の合計額に消費税相当額を加算した額とされている(争いのない事実等(8))。なお、利用単位使用料は、端末機の総台数と各端末機について支払われる情報利用料を基に計算されるため、JASRAC管理楽曲の総数や被告の収載利用楽曲の総数が増加しても、影響を受けない。
(a) 膨大な管理楽曲数に基づく使用料規程
 基本使用料については、本来、各楽曲データについての通信カラオケ事業者のサーバーにおける送信可能化行為は、1楽曲について1回限り行われており、通信カラオケ事業所における各端末受信装置における各楽曲データのダウンロード複製も、装置の導入据付時に際しての一括複製又はその後の公衆送信を通じての追加的複製という1回限りの行為である。しかしながら、各楽曲データについて、JASRACが継続的に毎月、基本使用料を徴収しているのは、膨大な数の利用可能な楽曲を前提に、事業者がサーバーに大量に蓄積して通信カラオケ事業所による利用に供するという「品揃え」行為の対価であると説明されるからである。
 また、利用単位使用料は、通信カラオケ事業者が、通信カラオケ事業所における端末受信装置に向けて、毎月公衆送信を通じてダウンロード複製のために提供する追加的な楽曲データの提供の対価として徴収する「情報利用料」を、使用料課金の基本とする。追加的複製行為について毎月の使用料を継続的に課すことは、JASRAC管理楽曲の毎月の膨大な増加量、端末受信装置に毎月追加的にダウンロード複製される大量の楽曲数(月当たり約1000曲)のうち、圧倒的大部分を占めるJASRAC管理楽曲の数を前提にすれば、合理性がある。
(b) 通信カラオケ事業者の意見に基づく使用料規程
 JASRAC規程は、策定の際、国内のほとんどの通信カラオケ事業者が加盟するAMEIとの間で4年以上にわたって協議されており、通信カラオケ事業者の意見が反映されている。
b 原告規程
(a) 原告規程の基本使用料は、月額10万円又は20万円であるが、JASRACの管理楽曲数が735万曲であるのに対し、原告の管理楽曲数は不明、請求対象楽曲は1261曲であるから、利用客に対する歌唱可能楽曲の「品揃え」料としての合理性を伴っているとはいえない。原告の場合、1回限りの著作物利用行為について、毎月継続的に基本使用料を課することには、合理的な根拠はない。
(b) 原告規程の利用単位使用料は、通信カラオケ事業者が楽曲データの配信の対象としている端末機各1台につき月ごとに定められるが(月額500円ないし200円)、JASRAC規程では「情報利用料」の金額をベースにした「情報利用料」の10%相当額(現状で1500円)という一定額であるのに対し、原告規程は何をベースにしたのか、根拠が示されていない。
 被告のDAMの場合、収載楽曲総数約10万0300曲のうち、JASRAC管理楽曲が約9万7000曲であるのに対し、原告の請求対象楽曲は最大時でも1215曲(又は44曲)にすぎない。この収載楽曲数における、JASRACの管理楽曲に対する原告の管理楽曲の相対的比率(約1.25%又は0.05%)を考慮すると、JASRACの利用単位使用料(月額約1500円)に対比した原告の利用単位使用料(月額200円ないし500円)は、相対的比率でいえば、最大比率1/3(33.33%)、最小比率2/15(13.34%)であり、過大な金額である。JASRACの「利用単位使用料」(月額約1500円)をベースに原告の収載楽曲占有率(1.25%又は0.05%)を乗じた金額を計算すれば、18.8円又は0.8円でしかない。なお、JASRACの潜在的利用可能楽曲数約735万曲(仮に、すべてDAMに収載しても、利用単位使用料は増大しない。)と原告の「請求対象楽曲」数1215曲(又は44曲)を対比した場合には、相対的比率は約0.017%(又は0.0006%)にすぎない。
 原告に関しては、毎月追加的安定的に提供されて利用に供される楽曲があるわけでない。各楽曲は、1回限りの各端末受信装置における複製行為しかされないにもかかわらず、実際の複製利用楽曲数とは全く無関係に、毎月継続的に各端末受信装置について徴収されることになり、合理的な根拠はない。
ウ 経済合理性のある使用料の料率
 業務用通信カラオケの使用料に関して唯一適用された実績があるのは、JASRAC規程第10節1(1)及び2(1)に基づく包括許諾方式であり、特に、利用単位使用料は、JASRACとAMEIが長期の交渉の末に合意に至り、内容も、通信カラオケ業界のビジネスモデルを踏まえた合理的なものであるから、これに基づき、被告が「請求対象期間」にJASRACに現に支払った金額を基に、損害額が算出されるべきである。なお、上記包括許諾方式は、JASRACの管理楽曲数が膨大であることを前提としているから、以下のような方法に基づいて、何らかの按分を行うのが妥当である。
(ア) 管理楽曲数按分方法
 被告が「請求対象期間」についてJASRACに対して現に支払った業務用通信カラオケについての使用料額を、JASRAC管理楽曲数及び原告管理楽曲数の相対的比率に応じて按分する方法である。
 包括許諾方式に基づき被告が追加の利用単位使用料の支払なしに使用し得るJASRACの管理楽曲の総数と原告の管理楽曲の総数との相対的比率に応じて按分する方法であり、JASRAC管理楽曲数735万曲と原告管理楽曲数(最大で1200曲程度)の相対的比率で按分するのが妥当である。
(イ) 演奏ログ数按分方法
 被告が「請求対象期間」についてJASRACに対して現に支払った業務用通信カラオケについての使用料額を、「請求対象期間」において被告が管理するカラオケ端末機に収載されたすべての楽曲の総アクセス回数と著作権侵害が認定された請求対象楽曲の総アクセス回数の相対的比率に応じて按分する方法である。
 インタラクティブ配信のストリーム型について利用者団体と各著作権等管理事業者の間において暫定合意されている方法を、インタラクティブ配信と著作物の利用形態が同一である業務用通信カラオケにも準用する考え方であり、各著作権等管理事業者は、一定の情報料又は広告料等収入の一定割合を使用料率とする包括的利用許諾契約方式を定めているが、著作権等管理事業者が増えるにつれて、利用配信業者はコスト増となるので、利用配信業者が各著作権等管理事業者に支払うべき使用料の合計額が一定レベルとなるように、各著作権等管理事業者の定める使用料をそのまま適用するのではなく、配信業者のストリームサイトにおけるアクセス回数の総数と当該著作権等管理事業者が管理する楽曲へのアクセス回数の相対的比率により按分して、使用料を算出するものである。
(ウ) 韓国の作家が受領する業務用通信カラオケについての対価からのアプローチ@ 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)が、著作権等管理事業者に管理を委ねている各作家が受け取るべき使用料の総額に、著作権等管理事業者の管理手数料を加算したものと同額であることに着目し、より単純に、個々の作家が現に日本における業務用通信カラオケの使用の対価としてどの程度の金額を受領するのか算定した上で、それに著作権等管理事業者の管理手数料を加算することにより算出する手法である。
A この手法は、JASRACとKOMCAが、2007年12月10日付け相互管理契約(2008年1月1日発効)を締結し、それぞれが管理する著作物の相手国における使用について使用料を相互に授受することとなり、韓国の作家は、KOMCAの会員になってさえいれば、JASRAC及びKOMCAを通じて、自己の楽曲著作物の日本における使用について使用料の分配を受けることができるようになったことから、ある作家の楽曲の業務用通信カラオケに関する使用料の金額は、著作権を行使する著作権等管理事業者に変動があったとしても、基本的に同等であるべきであるという考え方に基づいている。
B そして、「請求対象期間」である2002年6月28日から2004年7月31日までの間の「請求対象楽曲」の業務用通信カラオケによる使用の対価の額は、2008年1月1日以降に韓国の作家が日本における業務用通信カラオケによる使用について得ている対価の額と、基本的に同等であるべきである。なぜなら、当該楽曲の通信カラオケシステムにおける使用の態様やそれに対する「情報利用料」という対価の支払の実態は、「請求対象期間」と「相互管理契約」発効日たる2008年1月1日以降とで、何ら異なるところはないからである。
C 業務用通信カラオケの使用料の分配方式は、次のとおりである。全体の99.5%を分配対象使用料として著作者への分配に回し、0.5%は分配保証資金として支払を留保する(最終的には著作者への分配に回す。)。分配対象使用料のうち80%が送信分配資金として扱われ、うち90%がアクセス回数に応じての分配(利用回数分配基金)に回され、うち10%が全登録楽曲に対する分配に回されるので、結局、72%がアクセス回数に応じて配分され、28%が全登録楽曲に配分される。
D したがって、一定期間分の使用料としてJASRACがKOMCAに対して分配した金額のうち、@アクセス回数に応じて分配されるべき72%相当額を当該分配対象期間のアクセス回数で除すれば、1アクセス当たりの分配額が算出され、A全登録楽曲に分配されるべき28%相当額を当該分配対象期間の全登録楽曲数で除すれば、全登録楽曲1曲当たりの分配額が算出されこととなる。
 また、分配対象期間については、アクセス回数についてサンプリング調査ではなく全数調査を開始した2008年4月〜6月の四半期を選んでいるところ、この分配対象期間について上記@及びAを計算すれば、1アクセス当たりの分配額は、1.169円(小数点第四位四捨五入)、1か月についての1楽曲当たりの分配額は、91.51円(小数点第三位四捨五入)となる。
 したがって、この手法によれば、著作権侵害が認められた「請求対象楽曲」の「請求対象期間」における演奏ログ数×1.169円+91.51円×25.1ヶ月(「請求対象期間」を月数に引きなおしたもの)×著作権侵害が認められた「請求対象楽曲」数が、損害賠償金額となる。
(エ) なお、各方法においては、被告による侵害が認められる楽曲数に基づいて損害賠償額が算出されるべきである。
(4)−2 過失相殺
(被告)
 請求対象楽曲に係る著作権の全部又は一部に関する被告の権利侵害が成立するとしても、原告が自己の著作権管理権限について、時宜に適った方法で、被告又はAMEIに対して合理的な説明を行い、その根拠を示さなかった結果であるから、原告には過失がある。したがって、損害賠償額の算定においては、民法722条2項に基づき、原告の当該過失の割合に応じて過失相殺がされるべきである。
(原告)
ア 被告の主張は争う。
イ 原告は、原告の管理権限について、時宜に適った方法で、被告又はAMEIに対して合理的な説明を行っている。また、仮に、平成14年当初の原告の説明内容に不備があったとしても、被告が、自ら利用する著作物に関する権利関係を何ら調査せずに、継続的に利用し続けた故意又は過失を減殺するものではなく、原告には過失はない。
(5) その他の主張(権利濫用・禁反言)
(被告)
 原告は、平成14年の韓日著作協会時代は準備期間中であったことを前提に、平成15年6月に再び被告やAMEIに連絡を取ってきているから(甲16)、同月より以前の期間について著作権侵害を主張し損害賠償を求めることは、禁反言の法理に反し、また、権利濫用である。
(6) 不当利得返還請求(予備的請求)
(原告)
 仮に、被告について過失が認められないとしても、被告は、法律上の原因なく原告の管理する著作権を無断で利用することによって、利益を受け、そのために原告に著作権使用料相当額の損失を及ぼした。
 よって、不当利得(703条)に基づき、著作権使用料相当額の返還を予備的に主張する。
(被告)
ア 原告の主張は争う。
イ 被告に不当な利得は存しないので、原告の主張自体失当である。
第3 当裁判所の判断
1 被告楽曲目録11(不知楽曲)の請求対象楽曲について
 争いのない事実等(2)のとおり、被告楽曲目録11(不知楽曲)の請求対象楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、「権利者管理番号」欄に緑色で示す楽曲がこれに対応している。)については、被告は、不知と認否し、本件における弁論準備手続の終結までに、特に争う理由を明らかにしていないから、裁判所楽曲目録−作詞、同目録−作曲の当該各楽曲の欄に記載する証拠及び弁論の全趣旨に照らして、これらの楽曲(作詞18楽曲、作曲28楽曲)については、原告に著作権の帰属を認めるのが相当である。
2 次に、事案の性質上、原告が、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に基づき著作権の信託譲渡を受けたと主張する請求対象楽曲について検討する。上記楽曲には、被告が争点(2)−7被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)において主張する請求対象楽曲(裁判所楽曲目録の各楽曲のうち、黄色で示す楽曲)のほか、後記のとおり、裁判所楽曲目録の各楽曲のうち、薄い黄色で示す楽曲については、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲と解されるから、併せて検討する。
(1) 争いのない事実等(4)及び(5)のとおり、TMAと原告は、平成14年10月17日及び平成15年9月18日、TMAが現に有する著作権及び将来取得する著作権を、原告に信託譲渡し、原告がこれを管理する旨の著作権信託契約(TMA・原告契約)を締結したこと、このうち、平成15年9月18日付けTMA・原告契約(乙24)には、TMAからの契約の解除について、「甲(TMA)は、信託期間内においても書面をもって乙(原告)に通知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は、通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する。」(19条1項)との定めがあったところ、TMAは、原告に対し、平成18年7月14日付け書面により、上記契約条項に基づき、同契約を解除する旨の意思表示をし、平成19年3月31日が経過したことが、それぞれ認められる。
 そして、外国法人であるTMAと原告との間で締結されたTMA・原告契約における解除の効力については、債権的法律行為の効力等について定める法の適用に関する通則法7条により、当事者の選択した地の法が準拠法となると解される。本件においては、TMA・原告契約は、準拠法を日本国法と定めているから(32条、乙24)、我が国の法律が準拠法となる。
 そうすると、TMAによる上記契約条項に基づく解除は、「信託ノ解除ニ関シ信託行為ニ別段ノ定アルトキ」(旧信託法59条。なお、TMA・原告契約には、信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条により、旧信託法が適用される。)に該当するから、これにより、同契約は、平成19年3月31日の経過をもって、解除により終了したと認めるのが相当である。
 原告は、委託者であるTMAによる一方的な解除は効力を有さないと主張し、委任契約に関する「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としているときは、一方的な解約が認められない」との判例(大正9年大判)を引用した上、TMA・原告契約は、原告が、第三者から著作権使用料を回収した場合に、手数料を一部控除して、TMAの原告への債務の弁済に当てるという内容である(同契約15条)から、上記判例と同様、一方的な解除は認められないと主張する。
 しかしながら、仮に、信託契約であるTMA・原告契約について、上記判例と同様の考え方が当てはまるとしても、上記契約(乙24)15条は、原告が、信託著作権の管理によって得た著作物使用料の中から管理手数料を控除することや、業務遂行に要する支出について定めるに止まり、単なる手数料の控除や報酬の特約以上に、受託者である原告についての何らかの経済的利益(例えば、受託者の委託者に対する債務の弁済等)について定めるものとはいえない。そうすると、TMA・原告契約は、有償委任契約ではあるが、当該委任が、委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としていると認めることはできず、上記判例とは事案を異にするから、委任契約を一方的に解約できない場合には該当しないというべきである。
 したがって、TMAによるTMA・原告契約の解約も有効と認められるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 次に、争いのない事実等(6)のとおり、TMAは、平成18年10月4日、臨時株主総会決議において解散の決議をしたことが認められる。そして、争いのない事実等(1)ウのとおり、TMAは、韓国法に基づき設立された、本店所在地を韓国ソウル市とする法人であり、TMAの属人法である韓国法においては、我が国と同様に、会社は、解散すると、以後は、清算の目的の範囲内において、会社の現務を結了し、債権を取り立て、債権者に債務を弁済し、残余財産を分配する等の清算事務を行うことができるにとどまるから、TMAにおいても、解散後は、清算の目的の範囲を超える行為を行うことはできず、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれに関しても、清算事務としての行為を行うことができるにすぎないものと解される。
 そして、このような平成18年10月から平成19年3月までのTMAの解散等の事情が、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に定める信託関係に及ぼす影響については、債権的法律行為の効力等について定める法の適用に関する通則法7条、又は、法例7条1項により、当事者の選択した地の法が準拠法となると解される。本件においては、原権利者・TMA契約は、準拠法を韓国法と定め(19条、乙15の1、2)、TMA・原告契約は、準拠法を日本国法と定めているから(32条、乙24)、上記各契約においては、当事者がそれぞれ選択した上記の各国の法律が準拠法となる。
 そうすると、TMAの解散後、TMAの下においては、上記各契約における本来の信託の目的を達することはできなくなるというべきであるから、原権利者・TMA契約については、韓国信託法55条により、また、TMA・原告契約については、旧信託法56条により、いずれも信託の目的が不達成に至ったというべきであり、信託の終了事由が発生したと認めるのが相当である。
 なお、上記信託の終了事由に関し、原告は、原権利者・TMA契約(甲83の1・14・80、乙15)の法的性質について、「音楽著作権譲渡契約書」という契約書の表題や「音楽著作権を…譲渡する」との約定(3条)等から、期限付き著作権譲渡契約であると主張するが(第2、4(2)−1(原告)イ参照)、同契約では、対象となる作品の利用促進や権利の管理等を目的として、原権利者からTMAに対して著作権の譲渡がされていること(1条、3条、13条)等からすると、原権利者・TMA契約は、著作権の管理等を目的として、著作権が譲渡されているから、信託譲渡と解するのが相当である。
 また、原告は、平成19年3月にTMAの清算結了による閉鎖登記が無効である等と主張する。しかしながら、原告も、TMAの解散等の経緯について争うものではなく、上記認定の経緯に照らして、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれにおいても、信託について終了事由が生じていることは明らかといえるから、本件においては、上記登記の効力について論ずるまでもなく、信託の終了事由が生じたことを前提に、著作権の帰属等について検討するのが相当と解される。
(3) そこで、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれにおいても、信託の終了原因が生じたことを前提に、原告に当該楽曲の著作権が帰属しているか否かを検討する。
ア 信託が終了した場合、残存する信託財産が帰属する主体については、信託行為において、残存信託財産の帰属権利者を定めているときは、その指定された者が帰属権利者となるとされる(旧信託法62条。韓国信託法60条。なお、残存信託財産中に、未収財産のある原信託の受益者も、特に制限する事由のない限り、 指定された帰属権利者に該当すると解される。)。また、信託が終了した場合、上記の帰属権利者の利益を保護し、信託事務の残務処理を完全なものにするため、信託関係は、信託財産がその帰属権利者に移転するまでは、なお存続するとみなされるが(旧信託法63条、韓国信託法61条)、このいわゆる法定信託については、帰属権利者が、上記の指定された帰属権利者である場合には、受託者が既存の信託における清算段階の事務を行うことになるから、原信託の延長として、従前の信託関係が存続するものと解するのが相当である。そして、この場合、受託者の職務権限は、基本的には従前と変わらないものの、法定信託の目的が、帰属権利者に対して残余財産を移転することであるから、その範囲内における残務の処理、信託財産の帰属権利者(受益者)への移転、対抗要件の具備、それらが完了するまで信託財産を保存し、適切に収益を上げること(ただし、直ちに回収し得ないような条件で投資してはならないとされる。)に限定されると解される。
イ 本件において、信託契約である原権利者・TMA契約では原権利者が、また、TMA・原告契約ではTMAが、それぞれ各契約の受益者に該当するところ、本件訴訟において請求されている、請求対象期間における請求対象楽曲の著作権に対する侵害に基づく損害賠償請求権は、残存信託財産中に存する未収財産であり、これは、上記各契約における各受益者に対して、順次移転されるべき財産であるから、上記各受益者は、「残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者」であり、信託行為中に指定された帰属権利者に該当するというべきである。
 したがって、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約における信託の終了については、残存信託財産が帰属権利者に移転するまで、原信託の延長としての法定信託が存続すると解するのが相当である。
 なお、被告は、上記「未収財産」とは、現実に回収し、受領した金銭等のみが該当するところ、本件では、このような財産は存在しないから、信託行為により指定された帰属権利者がある場合には該当しない旨主張するようであるが、上記「未収財産」について、いまだ回収がなされていない財産一般ではなく、現実に回収し受領した金銭等に限定的に解釈する合理的理由は認められないから、被告の上記主張は採用できない。
ウ 次に、本件の原信託の延長としての法定信託において、受託者が行うべき具体的な信託の清算事務の内容等について検討する。
本件においては、原権利者・TMA契約における受託者はTMAであり、TMA・原告契約における受託者は原告であるところ、両契約に基づく信託の終了時点において、TMAは、原権利者の請求対象楽曲の著作権を原告に信託譲渡し、原告は、信託財産である請求対象楽曲の著作権に基づいて、本件訴訟を提起し、既に発生している請求対象期間における請求対象楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求を行っていたものであるから、受託者の清算事務としては、いずれもこのような信託財産の返還や損害賠償請求の処理、管理手数料等の精算等の事務を行う必要があると解される。そして、このうち、信託財産である請求対象楽曲の著作権の返還については、引渡しを観念することはできず、また、上記著作権は、いずれも信託について著作権登録がされたものではないから、返還のために特段の手続を取ることを必要とせず、著作権は帰属権利者に返還され、返還事務としては既に完了した状態にあると解するのが相当である。他方、上記の損害賠償請求の処理については、従前、TMA・原告契約の受託者である原告において、本件訴訟を提起し、訴訟追行をしてきており、いまだに損害金の現実の回収・分配が完了したものではないから、原則的には、現実の回収及び分配が完了するまで清算事務が継続すると解するのが相当である。
しかしながら、本来、法定信託においては、既に終了事由の発生した信託において、帰属権利者に対して残余の信託財産を確実に移転することを目的としていることからすると、法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じており、帰属権利者において、早期に信託財産の返還を受け、その管理利用の在り方について改めて検討できる機会を付与されることが、帰属権利者の利益の観点から相当な場合には、帰属権利者に対して残余の信託財産(損害賠償請求権)を移転すれば足り、それにより清算事務は完了すると解するのが相当である。
本件において、争いのない事実等(6)、(10)のとおり、TMAは、平成18年10月に解散し、平成19年3月には清算結了の登記を了しており、平成21年7月時点においては、原権利者の半数程度とは容易に連絡が取れない状況となっていること等からすると、仮に、原告が、使用料相当額の損害金を回収したとしても、帰属権利者がその回収等を信託の清算事務として原告に委ねる旨の特段の意思を明確に表明していない限りは、その後の、原告とTMA間、TMAと原権利者間の各清算事務が円滑に遂行されることは到底期待できない。また、上記のとおり、信託財産のうち、著作権そのものについては、既に返還事務が完了した状態となっており、既発生の使用料相当額の損害賠償請求権についても、その回収方法を著作権の管理と併せて検討する機会を与えることが、帰属権利者の利益保護の観点から相当であること等からすると、帰属権利者において、既発生の上記損害金について、上記の意思を表明しない限り、法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じているというべきであるから、受託者としては、帰属権利者に上記損害賠償請求権を移転すれば足り、それにより清算事務は完了すると解するのが相当である。
したがって、本件では、帰属権利者が、原告に対し、信託の清算事務として、本件訴訟における使用料相当額の損害賠償請求権を行使すること、及び、訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合(本件においては、確認書Bにおいて、原権利者のこのような意思が表明されている。)に限り、原告に上記の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が帰属し、かつ、これを行使することができるというべきである。
この点、原告は、TMAの意思及び原権利者の保護の観点から、すべての請求対象楽曲について、原告に上記請求権が帰属すると主張するようであり、当時のTMA代表者作家3の陳述書(甲76)においても、原告による訴訟の追行を要望する旨述べているが、TMAは、TMA・原告契約における受益者(帰属権利者)であるとともに、原権利者・TMA契約における受託者であり、当該信託の清算事務の範囲内において、信託財産である請求対象楽曲の著作権の帰属権利者である原権利者の意向に基づく行為のみをなし得るというべきであるから、作家3が上記のような供述をしたとしても、原権利者において訴訟追行等の意思を表明しない限り、作家3又はTMAの意向が法的意味を有するものではない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲
以下、被告楽曲目録7記載に係る原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、黄色で示す楽曲がこれに対応している。)について、@原権利者・TMA契約書の成否、A確認書B(争いのない事実等(3)のとおり、「TMAの解散後においても、原告が、使用料の回収分配のために、訴訟の提起追行することを要望する」旨の記載がある。)の存否及び成否に応じて、具体的な類型ごとに判断する。
なお、被告楽曲目録7には記載されていないが、原権利者作家19及び同作家16の各楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、薄い黄色で示す楽曲がこれに対応している。)については、各原権利者について、原権利者・TMA契約を締結した旨を記載する確認書B(甲80の42(B−42)、甲80の43(B−43))が提出され、原権利者作家16については、原権利者・TMA契約書(甲83の199)も提出されており、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲と解されるから、併せて判断する。
ア 原権利者・TMA契約書の成立に争いがない楽曲
(ア) 原権利者・TMA契約書の成立に争いがない楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、「契約書」欄に、「*」が記載され、同欄が薄い青色で示されている楽曲がこれに対応している。)は、同契約書の成立に争いがないことから、原権利者・TMA契約の締結が認められる。そして、このうち、原権利者作家20(作詞)及び作家21(作曲)の各楽曲(上記目録の「契約書」欄に斜線を施した楽曲)を除き、他の原権利者の各楽曲については、確認書Bが存在し、各確認書Bの成立に争いがないから(上記目録の「確認書B」欄に「*」が記載され、同欄が薄い青色で示されている楽曲がこれに対応している。)、当該楽曲については、信託の終了後においても、信託の清算事務として、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
(イ) なお、(ア)の楽曲には、作詞又は作曲が共作であり(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、「管理番号」欄以外が橙色又はピンク色で示されている楽曲がこれに対応している。また、被告楽曲目録2−2参照)、その一部の原権利者についてのみ、原権利者・TMA契約書及び確認書Bの成立に争いがない楽曲がある。そして、共作の楽曲において、一部の共有者による持分の信託譲渡が認められるか否かは、当該信託譲渡の原因関係である契約の効力等によるから、法例7条1項により、当事者が選択した国の法律が準拠法となると解される。本件においては、上記一部の原権利者の持分の信託譲渡を約した原権利者・TMA契約は、準拠法を韓国法と定めているから(19条、乙15の1、2)、当事者が選択した韓国法が準拠法となる。そして、同法によると、共作の楽曲において、一部の共有者が自らの持分を信託譲渡することについて、他の共有者の同意を得なければ、当該著作権の信託譲渡は認められない(韓国著作権法45条1項)ところ、上記各楽曲については、他の共有者が同意していることを認めるに足りる証拠はないから、信託譲渡は許されず、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
 原告は、他の共有者の包括的な同意は得られており、韓国の楽曲の共有者は、相互に意思決定を阻害する意図を持つことはない等と主張するが、これを認めるに足りる証拠もない。
 なお、共作楽曲のうち、原権利者作家22(確認書Bは甲80の44(B−44))の楽曲については、裁判所楽曲目録−作詞では、確認書B欄に「*」が記載され、成立に争いがない旨表示されているが、被告作成の確認書B目録記載のとおり、原権利者・TMA契約書と確認書Bの筆跡が異なるとして、確認書Bの成立を否認しており、上記原権利者の証人尋問等においてもこの点が立証されていないから、真正に成立したものと認めることはできず、いずれにしても、当該楽曲については、原告に権利の帰属を認めることはできない。
イ 原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲
(ア) 原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応している。)のうち、確認書Bが存在しない楽曲(上記目録のうち、「確認書B」欄に何らの記載がない楽曲がこれに対応している。)は、仮に、原権利者・TMA契約の締結を立証することができても、原権利者は、信託の終了後の清算事務については、特に何らかの意思を表明しているとは認められないから、原告に、本件訴訟における著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることはできない。
 なお、原権利者作家23については、原告は、当初、同原権利者の確認書Bとして甲80の21(B−21)を提出したが、後に、同原権利者の確認書Bは存在しない旨確認しているから、確認書Bが存在しない楽曲として整理する。
(イ) 原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応している。)のうち、確認書Bが提出されている楽曲(上記目録の「確認書B」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応している。)について
@ 原権利者作家24、作家25、作家1の各楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、上記原権利者名が薄い青色で示されている楽曲がこれに対応している。)については、原権利者・TMA契約書及び確認書Bの各成立について、上記各原権利者の証人尋問により立証がされているから、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
A 原権利者作家26(確認書Bは甲80の1(B−1))、同作家27(同甲80の3(B−3))、同作家28(同甲80の5(B−5))、同作家29(同甲80の7(B−7))、同作家30(同甲80の10(B−10))、同作家31(同甲80の13(B−13))、同作家32(同甲80の14(B−14))、同作家33(同甲80の15(B−15))、同作家34(同甲80の17(B−17))、同作家35(同甲80の19(B−19))、同作家36(同甲80の20(B−20))、同作家37(同甲80の27(B−27))、同作家38(同甲80の29(B−29))、同作家39(同甲80の30(B−30))、同作家40(同甲80の31(B−31))、同作家41(同甲80の32(B−32))、同作家42(同甲80の36(B−36))、同作家43(同甲80の39(B−39))の各楽曲(上記目録の「確認書B」欄に斜線を施した楽曲)について、被告は、被告作成の確認書B目録記載のとおり、原権利者・TMA契約書、確認書A、確認書Bの筆跡が異なるとして、各書証の成立を否認し、また、原権利者作家44(確認書Bは甲80の2(B−2))の楽曲については、被告作成の確認書B目録記載のとおり、原権利者・TMA契約書と確認書Bのサインが異なるとして、書証の成立を否認している。そして、これらの書証の成立については、上記各原権利者の証人尋問等による立証はされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
 原告は、上記のうち、一部の確認書B(甲80の1、3、5、7、10、13〜15、17、19、20、27、29、31、36)について、原権利者・TMA契約書及び当該確認書Bの筆跡は、原権利者の自筆であり、確認書Aの筆跡は、原権利者の自筆とは異なるが、TMAが、メールや電話で原権利者の意思を確認の上、代筆したので、いずれも真正に成立している旨を主張し、当該主張に沿う証拠(甲111(枝番を含む。)、証人作家2)もある。
 しかしながら、上記各証拠は、いずれも原権利者の意思が直接表れたものではないから、書証の成立の立証としては不十分であり、また、原告が自筆であると主張する原権利者・TMA契約書及び確認書Bについても、書証の成立が積極的に否認されている以上、その立証を要すると解されるが、そのような立証はされていないから、その成立を認めることもできないというべきである。
 原告は、一部の確認書B(甲80の2、30、32)については、原権利者の自筆であると主張するが、上記と同様に、書証の成立について立証はされていないから、その成立の真正を認めることはできない。
B 原権利者作家45(原権利者・TMA契約書は甲83の57、確認書Aは甲79の41(A−41)、確認書Bは甲80の8(B−8))の楽曲について、被告は、被告作成の確認書A、B目録各記載のとおり、原権利者・TMA契約書と確認書Aの筆跡が異なり、確認書Aと確認書Bの筆跡が異なるとして、各書証の成立を否認している。そして、上記原権利者の証人尋問等による立証もされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
 原告は、原権利者・TMA契約書と当該確認書Bの筆跡は、原権利者の自筆であり、確認書Aの筆跡は、原権利者の自筆とは異なるが、TMAが、メールや電話で原権利者の意思を確認の上、代筆したので、いずれも真正に成立している旨を主張するが、上記のとおり、その成立の真正を認めることはできない。
C 原権利者作家46(原権利者・TMA契約書は甲83の77、確認書Aは甲79の56(A−56)、確認書Bは甲80の12(B−12))の楽曲について、被告は、被告作成の確認書A、B目録各記載のとおり、原権利者・TMA契約書と確認書Aの成立については、筆跡が異なるとして、書証の成立を否認し、確認書Bの成立については、その成立を否認せず、単に、日付の記載がない点を指摘するに止まる。したがって、確認書B(甲80の12)については、真正に成立したものと認めることができるが、同確認書Bにより指示された当該原権利者とTMA間の音楽著作権譲渡契約(1条)がいかなる契約を指すのか不明であり、また、原権利者・TMA契約書及び確認書Aの成立については、上記原権利者の証人尋問等による立証もされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
D 原権利者作家47(原権利者・TMA契約書は甲83の87、確認書Aは甲79の63(A−63)、確認書Bは甲80の16(B−16))及び原権利者作家48(原権利者・TMA契約書は甲132、確認書Aは甲79−91(A−91)、確認書Bは甲80の28(B−28))の各楽曲について、被告は、被告作成の確認書A、B目録各記載のとおり、書証の成立を否認するものの、否認の理由としては、各書面に記載された「期間」の齟齬について指摘するにとどまるから、書証の成立を積極的に争うものではなく、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
E 原権利者作家5(原権利者・TMA契約書は甲83の115、確認書Bは甲80の23(B−23))、原権利者作家49(原権利者・TMA契約は甲83の117、確認書Bは甲80の24(B−24))及び原権利者作家7(原権利者・TMA契約書は甲83の118、確認書Bは甲80の25(B−25))の各楽曲について、被告は、被告作成の確認書B目録記載のとおり、各書証の成立を否認する。そして、否認の理由として、原権利者・TMA契約書と確認書Bは作家8名義であるが、同人に対し、上記原権利者が、著作権を管理委託している旨の記載がないことを主張する。しかしながら、原告は、上記原権利者の作成に係る、各原権利者が作家8に著作権を管理委託する内容の委任状(甲82の1〜3)を別途提出し、被告においても、特にその成立について争っていないものであり、また、被告は、原権利者・TMA契約書及び確認書Bについて、作成名義人による作成自体について争うものとは認められないから、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
F 原権利者作家19(確認書Bは甲80の42(B−42))については、原権利者・TMA契約書の提出がなく、確認書B(甲80の12)の成立が認められるとしても、同確認書Bにより指示された当該原権利者とTMA間の音楽著作権譲渡契約(1条)がいかなる契約を指すのか不明であるから、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることはできない。
G 原権利者作家16(確認書Bは甲80−43(B−43))の楽曲については、被告は、原権利者・TMA契約書(甲83の199)が偽造された疑いがあると主張し(第2、4(2)−10(原告)ア参照)、その成立を否認するところ、この点については、上記原権利者の証人尋問等による立証もされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
ウ なお、原権利者作家13の楽曲については、被告楽曲目録7に記載され、他方で、原告は直接契約の契約書を提出する等しており、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約による楽曲なのか、直接契約による楽曲なのか明らかではないが、いずれの楽曲も、確認書A〜Cのすべてについて、その成立につき当事者間に争いがないから、いずれの契約関係によるものであれ、原告に対する著作権の信託譲渡がなされ、かつ、確認書Bも真正に成立していると認められるから、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
(5) 以上によると、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲のうち、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができる楽曲は、次のとおりであり、裁判所楽曲目録−作詞、−作曲及び裁判所楽曲目録−作詞(認容)、−作曲(認容)の黄色で示した楽曲のうち、各確認書B欄を薄い青色で記載した楽曲がこれに対応する。
ア 作詞256楽曲
イ 作曲191楽曲
(6) また、その余の楽曲については、原告には、本件訴訟において請求する著作権に基づく損害賠償請求権が帰属していないから、原告は原告適格を欠くというべきである。
3 直接契約に関する請求対象楽曲について
(1) 次に、請求対象楽曲のうち、原告が、直接契約により著作権の信託譲渡を受けたと主張する請求対象楽曲について検討する(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲のうち、楽曲名等に塗りつぶしのない楽曲がこれに対応する。)。
(2) 直接契約の契約書の成立に争いがない楽曲
ア 直接契約の契約書の成立に争いがない楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲のうち、「契約書」欄に「*」が記載されている楽曲がこれに対応する。)は、直接契約の締結が認められるから、原告に、本件訴訟において請求する著作権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができる。
イ なお、裁判所楽曲目録−作詞の作家50(権利者管理番号0201)の楽曲について、原告は、契約書及び確認書の成立に争いがないと整理するが、被告は、被告楽曲目録2において根拠が不明であるとして当初より争っており、原告によりこの点に関する主張立証がなされていないから、同楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
ウ 他方、裁判所楽曲目録−作曲の作家18(権利者管理番号2023)の楽曲について、被告は、被告楽曲目録14において同楽曲を挙げ、その契約書(甲123)は、平成18年2月1日の本件第10回弁論準備手続期日に確認した証拠提出時期に関する合意に反して提出されたから、証拠能力は認められない、仮に、証拠能力が認められるとしても、書証の成立を否認すると主張する。
 しかしながら、原告は、従前、被告に示した契約書の写しが最終頁のみであったことから、後に不備のない契約書(甲123)を提出したとするものであり、不十分ながら、契約書を被告に示していたことがうかがわれること、原告は、従前、裁判所楽曲目録−作曲のとおり、同楽曲については、契約書及び確認書の成立に争いがないものとして整理しており、仮に、契約書の成立に争いがあるとしても、確認書の成立について当事者間に争いはないから、直接契約が締結されたことが推認され、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
(3) 直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲
ア 直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲のうち、「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応する。)は、契約書の成立に争いがあるが、このうち、確認書A〜Cのいずれかが存在し、その成立について当事者間に争いがない楽曲(裁判所楽曲目録の「確認書」欄に「*」の記載がある楽曲がこれに対応する。)については、直接契約が締結されたことが推認されるから、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができる。
イ 直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞、−作曲のうち、「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応する。)のうち、確認書A〜Cが提出されていても、その成立について当事者間に争いがあり、他に成立に争いのない確認書が存在しない楽曲(裁判所楽曲目録の「確認書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応する。)については、直接契約及び確認書のいずれについても、上記原権利者の証人尋問等による立証がされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
ウ なお、原権利者作家17の楽曲については、直接契約の契約書のほか、契約関係に変遷があったとして、他の契約書及び確認書Aが提出されているが、その成立について当事者間に争いがあり、契約書及び確認書のいずれについても、上記原権利者の証人尋問等による立証がされていないから、真正に成立したものと認めることはできず、当該楽曲については、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
(4) 以上によると、直接契約に関する楽曲のうち、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができる楽曲は、次のとおりであり、裁判所楽曲目録−作詞、−作曲及び裁判所楽曲目録−作詞(認容)、−作曲(認容)の楽曲名等に塗りつぶしのない楽曲のうち、各確認書A〜C欄を薄い青色で記載した楽曲がこれに対応する。
ア 作詞15楽曲
イ 作曲56楽曲
(5) また、その余の楽曲については、原告には、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく損害賠償請求権が帰属していないから、原告は原告適格を欠くというべきである。
4 原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲について、被告のその余の否認理由について、検討する。
(1) 争点(2)−2被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲について
ア 被告は、被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の楽曲は、JASRACの管理楽曲であるから、原告にはその著作権が帰属していないと主張する。
 しかしながら、JASRACが、その作成する「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)により、当該請求対象楽曲が管理楽曲であることを確認しているのは、請求対象期間後の平成19年7月6日時点であるから、請求対象期間における原告への当該楽曲著作権の信託を否定するものとはならない。また、仮に、請求対象期間後における原告の具体的な請求時に近接する時点において、JASRACが当該楽曲を管理しているとしても、そのこと自体によって、必然的に原告に対する当該楽曲の信託が終了していると認めることはできない。
 したがって、被告の主張を採用することはできない。
イ 被告は、仮に、原告とJASRACに対し、著作権を二重譲渡した状態であるとしても、原告は、対抗要件である文化庁における登録を具備していないから、法律上の利益を有する被告に対して、その著作権を対抗し得ないと主張する。
 しかしながら、上記のとおり、JASRAC作成の「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)は、請求対象楽曲期間後の平成19年7月6日時点で、当該楽曲がJASRACの管理楽曲であることを確認するにすぎないから、請求対象期間において、上記二重譲渡がされていたことを認めるには足りず、その他上記事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の主張を採用することはできない。
ウ 被告は、過失なくJASRACに請求対象楽曲に関する使用料を支払っていたから、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)となる等と主張する。
 しかしながら、このような主張は、本件弁論準備手続終了後であり、かつ、証拠調べ終了後の平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において陳述された被告準備書面(12)において、初めて主張されたものであり、被告において、従前主張することのできなかった特段の理由はなく、また、このような主張を審理すると、訴訟の完結を遅延させることとなるから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当する。
 したがって、上記被告の主張は、職権により、却下する。
エ なお、原告は、被告の提出する乙64〜66号証が、上記本件第4回口頭弁論期日に提出されたものであり、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)であるとして、却下を申し立てる。
 しかしながら、上記書証は、請求対象楽曲がJASRACの管理楽曲であり、原告に著作権が帰属しないこと、仮に、原告とJASRACに二重譲渡された状態であるとしても、原告は対抗要件を具備していないこと等の被告の上記主張に関する書証であり、その立証趣旨も、証人尋問された原権利者ら(作家24、作家25、作家1)が、JASRACを通じて著作権使用料の支払を受けたか否かに関して行った証言について、弾劾証拠として提出するものであるから、必ずしも時機に後れているとはいえない。
 したがって、原告の上記申立てを採用することはできない。
(2) 争点(2)−3被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲について
ア 被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲のうち、同2−1−作詞の楽曲については、契約書及び確認書が提出されていないから、原告への権限の帰属を認めることはできない。また、同2−1−作曲の楽曲についても、一部の確認書の提出はあるが、契約書の提出はないから、原告への権限の帰属を認めることはできない。
イ 被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲のうち、同2−2−作詞、−作曲記載の各楽曲は、作詞又は作曲が共作であり、原告が作詞又は作曲の一部のみを管理し、他の共有者が信託譲渡について同意していないと被告が主張するものである。そして、上記各楽曲については、他の共有者が同意していることを認めるに足りる証拠はないから、前記3(4)ア(イ)と同様に、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
(3) 争点(2)−4被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲について
 被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲について、被告は、契約期間の満了により、原告には著作権が帰属していないと主張する。
 しかしながら、仮に、契約期間が終了し、信託関係が終了したとしても、上記のとおり、信託終了の場合には、信託財産を帰属権利者に移転するまでは、法定信託が存続し、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲のうち、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲(前記第3、2)については、法定信託が存続することを前提に、上記権利が帰属すると認められているものであるから、被告の上記主張を採用することはできない。
 また、直接契約に関する楽曲のうち、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲(前記第3、3)について検討すると、本件において、直接契約には、契約の更新に関する条項(6条、甲46等)が定められ、一定の事由が生じない限り、従前と同一条件で更新される旨定められているところ、原告は、「自動更新規定」(同条項)による更新を含めて、直接契約に基づき原権利者から著作権の信託譲渡を受けたことを主張していると解されることや(前記第2、4(2)−4(原告)イ参照)、当事者間において、上記一定の事由の有無について争われていないことから、直接契約について、更新が否定されるような事由が生じ、契約期間が満了したと認めることはできず、被告の上記主張を採用することはできない。
 なお、被告は、直接契約の更新は、上記一定の事由である、@著作物使用料等の分配実績が別に定める信託契約の期間に関する取扱基準に規定する額に満たない場合、及び、A著作権の侵害行為を行うなど本契約の継続を困難とさせる事由があった場合等のいずれにも該当しないことが条件となっており、原告は、上記条件を主張立証していないから、契約が更新されたとみることはできないと主張する。
 しかしながら、上記のとおり、原告は、直接契約における「自動更新規定」(契約6条)により、同契約が更新されたことを前提に著作権の帰属を主張していると解され、特段、原告の主張に不足な点は見受けられない。また、仮に、被告の上記主張を、直接契約の更新が否定される一定の事由の有無について主張したものと解するとしても、被告の上記主張は、本件弁論準備手続終了後であり、かつ、証拠調べ終了後の平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において陳述された被告準備書面(12)において、初めて主張されたものであり、被告において、従前主張することのできなかった特段の理由はなく、また、このような主張を審理すると、訴訟の完結を遅延させることとなるから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当する。
 したがって、被告の上記主張は、職権により、却下する。
(4) 争点(2)−5被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲につて
 被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の楽曲について、被告は、原権利者・TMA契約の「契約書」に対象楽曲リストが添付されておらず、契約の対象楽曲が特定されていないから、原権利者には著作権が帰属していないと主張する。
 しかしながら、上記のとおり、原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲のうち、原告に、本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲については、いずれも確認書Bの成立について当事者間に争いがないか、その成立の真正が認められるものであり、原権利者は、同確認書において、自己の創作した楽曲の著作権をTMAに譲渡したことを認めているのであるから、上記楽曲については、原権利者が、原権利者・TMA契約において、TMAに著作権管理を委ねる意思を有していたと認めるのが相当であり、このことは、契約書に対象楽曲リストが添付されていなかったことにより左右されるものではない。
 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(5) 争点(2)−6被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求対象楽曲について
 被告楽曲目録6の各楽曲について、被告は、原権利者による原権利者・TMA契約の解除、又は、同契約におけるTMAの契約上の地位の譲渡により、TMAが著作権を有しない結果、原告への著作権の帰属も認められない等と主張する。
 しかしながら、同楽曲目録6の楽曲のうち、前記第3、2により、原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲については、仮に、原権利者による原権利者・TMA契約の解除がされ、契約関係が終了したとしても、法定信託が存続することを前提に、上記権利が帰属すると認められているものであるから、被告の上記主張を採用することはできない。
 また、前記第3、2により、原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲の原権利者のうち、作家12(権利者管理番号0200)については、契約上の地位譲渡契約書(乙6の4)が提出されているが、原告は、同契約書の成立を争っており、この点についての立証がされていないから、契約上の地位が譲渡されたことを前提とする被告の上記主張を採用することはできない。
(6) 争点(2)−8被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象楽曲について
 被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の楽曲について、被告は、TMAは、韓国の業法に違反し、著作権信託管理の事業許可を得ずに、著作権管理業を行っているから、TMAの締結した原権利者・TMA契約等は違法であり、原告には著作権管理権限がないと主張する。
 しかしながら、業法上の許可を得ていないことが、直ちに私法上の契約の効力に影響し、契約が無効となるということはできず、他に私法上の契約を無効とすべき違法な事情を認めるに足りる証拠はないから、被告の主張を採用することはできない。
(7) 争点(2)−9被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請求対象楽曲について
 被告楽曲目録13の楽曲については、原告にその著作権の帰属が認められた楽曲は含まれていないから、同被告楽曲目録の楽曲に関する被告の主張を検討するまでもない。
(8) 争点(2)−10被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲について
 被告楽曲目録14の楽曲のうち、前記第3、2及び3により原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲については、前記第3、3(2)ウに判断したとおりである。
5 争点(3)故意過失について
 争いのない事実等(1)イのとおり、被告は、楽曲データを、著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得て作成し、自らの製造に係るカラオケ端末機のハードディスクに搭載する等した上、通信カラオケリース業者に対してカラオケ端末機の販売等を行う株式会社であるところ、このような業務用通信カラオケ事業者であれば、他人の著作物を利用する際には、その著作権を侵害することのないよう、当該著作権の帰属を調査し、事前に著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得るべく万全の注意を尽くす義務がある。特に、本件においては、平成13年10月1日の著作権等管理事業法の施行後は、JASRAC以外の著作権等管理事業者が存在する可能性があり、争いのない事実等(9)のとおり、現に、平成14年6月28日に原告が著作権等管理事業者として登録し、同年8月以降、被告の加入するAMEIを訪問する等して、断続的ながら交渉していたものであり、また、請求対象期間である平成14年6月28日から平成16年7月末日までの間は、韓国の唯一の著作権管理事業者のKOMCAとJASRACとの間の相互管理契約の締結による著作権の管理も行われておらず、そのことは周知の事実であったのであるから、被告においては、利用しようとする楽曲に関し、事前に著作権の所在等について調査検討し、著作権者から許諾を得る等して、著作権侵害の結果を防止すべき注意義務があった。
 しかしながら、被告は、これを怠り、漫然と請求対象楽曲の利用を継続してきたのであるから、被告には、過失があったというべきである。
 被告は、原告から楽曲のリスト(乙63)の交付を受けるまでは対象となる楽曲が分からず、その後も、被告が求めても原告は説明・資料を提出せず、平成18年2月1日に根拠資料を提出するに至ったから、請求対象期間すべて、又は、少なくとも平成15年5月までの間は、過失はない等と主張する。
 しかしながら、上記のとおり、他人の著作物を利用しようとする場合には、自ら、著作権者の許諾を得るべく、事前に著作権の所在等について調査し、検討すべきところ、被告は、何ら積極的に権利関係について調査検討した様子はないから、原告の対応が上記のとおりであったとしても、被告が注意義務を果たしたということはできない。
 したがって、被告の主張を採用することはできない。
6 争点(4)損害論、(4)−1損害について
(1) 被告は、上記侵害が認められる楽曲について、争いのない事実等(7)のとおり、楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに記録することにより楽曲を複製し、また、新譜の楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに蓄積させるために、楽曲を公衆送信する行為(送信可能にする行為を含む。)をしているから、これにより、原告に生じた損害を賠償すべきである。
(2) 損害の算定
ア 弁論の全趣旨により、音楽著作物の著作権の大多数は、JASRACに対する信託により管理されており、業務用通信カラオケの分野においても、利用される楽曲の大半はJASRACが管理する楽曲であること、上記著作権の管理において、実務上適用されているのは、JASRAC規程(乙40)であり、同規程は、利用者団体であるAMEIとの協議を経て合意され、文化庁に届け出られたものであって、利用者の意見が一定程度反映されたものであることが認められるところ、上記JASRAC規程に基づき算定される使用料は、上記著作権の利用の対価額の事実上の基準として機能するものであり、著作権法114条3項に基づく使用料相当損害金を定めるに当たり、これを一応の基準とすることには合理性があると解される。
 そして、原告が原権利者からの委託を受けて管理する楽曲の総数が明確ではなく、JASRACの管理する楽曲の総数(700万曲以上)より桁違いに少ないものと推認されることからすると、前記の損害金は、JASRAC規程(乙40)の包括的利用許諾契約方式(争いのない事実等(8)イ(イ)@、(ウ)@)により算定するのは相当ではなく、同規程の個別課金方式(争いのない事実等(8)イ(イ)A、(ウ)A)により、原告が管理する楽曲ごとに、個別に算定するのが相当である。
イ 原告は、原告規程を基準に使用料相当損害金を算定すべきであると主張するので、検討する。
 争いのない事実等に加え、証拠(甲8〜10、16〜33、43、69、113、乙3、32〜35、37(枝番を含む。)、証人丙、同丁)及び弁論の全趣旨によると、原告とAMEIとの交渉の経緯について、次の各事実が認められる。
(ア) 争いのない事実等(1)アのとおり、原告は、平成14年4月15日に設立され、同年6月28日付けで、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として、文化庁長官の登録を受けた。
(イ) 原告は、平成14年7月ころ、文化庁から、原告規程について、利用者又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受け、その後、約2週間をかけて、利用者団体約100社を、順次訪問し、原告規程等について説明した。
(ウ) 原告の事務局長丙は、平成14年8月1日、一利用団体としてAMEIを訪問し、原告の会社説明資料、管理委託契約約款及び原告規程を交付した上、質問及び意見があれば、1週間を目途に連絡をもらいたい旨要請した。
(エ) AMEIの著作権・ソフト委員会カラオケ部会長丁は、原告に対し、平成14年8月8日付け書面(乙3)により、1週間の期間で会員各社の意見を取りまとめて回答することは時間的に不可能であること、著作権信託譲渡の根拠や管理楽曲のリストが示されていない中で、包括的な定めのある原告規程を検討し、意見を述べたり、協議をすることは難しいこと、原告の資料提出の後、改めて十分な期間をおいた上で、団体としての意見を述べたいこと等を伝えた。
(オ) 原告は、平成14年8月9日、文化庁長官に対し、著作権等管理事業法13条1項に基づき、原告規程(甲69)の届出をした。なお、原告が訪問した利用者団体のうち、AMEI以外は、いずれからも特に意見の提出はなかった。
(カ) 原告は、AMEIに対し、平成14年8月15日、原告規程及び管理委託契約約款の差替版を送付したが、その後、しばらくの間、AMEIに連絡したり、資料を送付することはなかった。
(キ) 原告は、管理する楽曲をある程度整理できたとの認識から、使用料を徴収したいと考え、平成15年5月28日ころ以降、AMEIの会員に対して書面を送付し(甲8)、原告が管理する楽曲の使用料を徴収するため、使用料等の打合せをするよう申し入れた。
(ク) AMEIの丁は、原告に対し、平成15年6月25日付け書面(甲9)により、原告の主張の根拠となるもの及び資料等の提出を受けた上で、十分な検討期間を設け、その後、原告規程について協議を行う必要がある旨を回答した。原告は、平成15年6月26日付け書面(甲10)により、上記回答内容に理解を示した上、早期に協議を開始したい旨を伝えた。
(ケ) 原告とAMEIは、平成15年7月9日、AMEIにおいて、1回目の協議をした。AMEIは、原告に対し、原告の事業スキームの変更について説明すること、原権利者とTMA間及びTMAと原告間の各契約の内容を開示し説明すること、原告が管理していると主張する楽曲全曲の情報を開示すること、原告規程については、上記の点等が明確になった後に協議することを等を求めた。
(コ) AMEIは、平成15年7月中旬ころ、韓国の音楽出版社から、原告が、AMEIとの協議が整ったのでカラオケメーカーから使用料を徴収できる旨話しているとの情報の提供を受けた。AMEIが原告にこのことを確認したところ、原告は、同月23日付け電子メール(乙35)により回答し、原告としては、AMEIとの話合いの場があっただけで、使用料徴収に関しての合意という状態でないことを承知しており、そのような事実は、韓国の著作者達に通達していない旨を述べた。
(サ) 原告は、AMEIに対し、平成15年8月、契約曲リスト、著作権信託契約雛形等の資料及び回答書を送付したが、AMEIは、更に説明と追加資料の提出を求め、その後も相互に電子メールのやりとりをする等した。
(シ) 原告とAMEIは、平成15年11月28日、原告において、2回目の協議をしたが、AMEIとしては、原告の説明や資料が十分ではないとの認識であった。AMEIの丁は、原告に対し、平成15年12月26日付け再要望書(甲31)により、更に説明と資料を求めた。
(ス) AMEIとしては、原告規程が包括的な定めであるため、その妥当性、経済的合理性を検証するためには、まず、原告が、何曲について適法に著作権を保有管理しているのかを確認する必要があり、その確認を経た後でなければ、原告規程について協議することはできないとの認識であった。これに対し、原告は、結局、交渉中、AMEIに対し、原権利者、TMA及び原告の信託譲渡契約等に関する署名押印済みの契約書を開示したり、原告のホームページに管理楽曲のリストを公表したりすることはなかった。
(セ) 原告は、AMEIに対し、平成16年1月15日付けメール(甲32)により、今後のAMEIとの協議を取り止める旨を通知した。
(ソ) 原告は、被告に対し、平成16年5月20日付け書面(甲33)により、これまでの著作物の使用に関し、使用料相当額を支払うこと、また、今後、原告との間で著作物の使用に関する契約を締結すること等を請求した。
(タ) 原告は、当裁判所に対し、平成16年8月31日、本件訴訟を提起した。
 以上の認定事実によると、原告規程については、利用者団体であるAMEIにおいて、包括的利用許諾方式を定める原告規程の内容を検討する前提として、原告が管理する楽曲の根拠の説明及び資料の提出を求め、原告も一応これに応じていたが、なお不十分な点が多く、結局のところ、AMEIが原告規程の内容について検討の上、意見を述べる状況には至らなかったのであるから、原告により、利用者団体の意見聴取義務が十分に履行されたとはいえない。
 そうすると、原告規程が既に文化庁に届け出られており、AMEI以外の利用者団体からは、特に意見の提出はなかったことを考慮しても、前記の交渉過程により、原告規程の内容の合理性が基礎付けられたと認めることはできない。
 また、内容においても、原告規程の利用単位使用料は、カラオケ端末機に楽曲を複製することに対する対価と解されるが、管理楽曲数が700万曲を超えるJASRACのJASRAC規程における利用単位使用料の最低額が650円であるのに対し、管理楽曲数が桁違いに少なく、これを正確に算定することが困難な原告の原告規程における利用単位使用料の最低額が200円であり、いずれも毎月徴収することを予定していること等からすると、原告規程が必ずしも合理的な内容と認めることはできず、これを使用料相当損害金の算定の基準として採用することはできないというべきである。
 原告は、一般管理事業者の意見聴取は、努力義務が訓示的に課されているにすぎないし、管理する著作物等の情報提供は義務付けられておらず、原告は業務改善命令を受けたことがないことなどを理由に、原告規程を適用すべきであると主張する。
 しかしながら、原告の主張する事情が認められるとしても、上記に認定した経緯のとおり、原告規程は、文化庁に届出られたものの、利用者団体の意見聴取が十分行われないまま推移し、実際にも適用されることがなかった合理性を欠くものであるから、音楽著作物の著作権の使用料相当損害金算定の基準としては不適当なものであり、これを採用することはできないといわざるを得ない。
 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 被告は、使用料は、請求対象期間に被告がJASRACに現に支払った金額に基づき、JASRACと原告の各管理楽曲数が異なることを考慮して、何らかの按分を行い算定すべきであると主張するが、被告が現実に支払った使用料の金額を、被告が損害賠償として著作権管理業者に支払うべき使用料の上限とすることや、これを原告とJASRACで按分することについて、合理的な根拠を見出すことはできないから、被告の上記主張を採用することはできない。
(3) 以上を前提に、具体的な損害額を算定する。
 上記のとおり、本件において、使用料相当損害金は、JASRAC規程(乙40)の個別課金方式(争いのない事実等(8)イ(イ)A、(ウ)A)により、原告が管理する楽曲ごとに個別に算定するのが相当であるから、1楽曲当たり、作詞、作曲のそれぞれにつき、基本使用料は1か月各100円、利用単位使用料は各20円とするのが相当である。
 そして、上記のとおり、本件において、原告が管理していると認められる楽曲数は、作詞が289曲、作曲が275曲であるところ、これらの各楽曲に対するアクセス回数は明らかではない。そこで、原告が当初請求していた請求対象楽曲1297曲に対する請求対象期間における総アクセス回数253万9241回(被告準備書面(8)21頁)に、請求対象楽曲数における原告が管理していると認められる楽曲数の占める割合を乗じた数をもって、原告が管理していると認められる楽曲に対するアクセス数と認めるのが相当である。
 さらに、各楽曲の管理期間も考慮すれば、上記損害金は、次のとおり算定するのが相当である(なお、原告の管理する楽曲のうち、再生されるべき時間が5分を超える楽曲があることを認めるに足りる証拠はない。)。
ア 基本使用料相当損害金
(ア) 作詞49万9300円
(イ) 作曲42万2435円
 なお、各楽曲の管理期間について、1か月当たり100円を乗じて算定した金額(1か月に満たない部分は、日割計算する。)を合計した金額である。
イ 利用単位使用料相当損害金
(ア) 作詞
 253万9241回×289/1297曲×20円=1131万5969円
(イ) 作曲
 253万9241回×275/1297曲×20円=1076万7791円
ウ 合計2300万5495円
7 争点(4)−2過失相殺
 被告は、被告による著作権侵害が成立するとしても、原告が、その権限について時宜に適った方法で被告又はAMEIに合理的な説明を行わず、また、根拠を示さなかった結果であるとして、過失相殺(民法722条2項)を主張する。
 しかしながら、被告による著作権侵害は、被告が、利用しようとする音楽著作物について、自らすべき著作権の帰属に関する事前の調査をせず、当該著作物を利用し続けたことにより成立したものであるから、仮に、原告が上記の対応をしていたとしても、過失相殺の根拠とはならないというべきである。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
8 争点(5)その他の主張(権利濫用、禁反言)
 その他、被告は、原告の、AMEI又は被告との連絡の経緯から、禁反言又は権利濫用の主張をするが、このような主張は、本件弁論準備手続終了後であり、かつ、証拠調べ終了後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において陳述された被告準備書面(12)において、初めて主張されたものであり、被告において、従前主張することのできなかった特段の理由はなく、また、このような主張を審理すると、訴訟の完結を遅延させることとなるから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当する。
 したがって、被告の上記主張は、職権により、却下する。
9 争点(6)不当利得返還請求(予備的請求)
 原告は、予備的請求として不当利得返還を請求するが、上記のとおり、被告による侵害が認められる楽曲以外の請求対象楽曲については、原告に著作権の帰属を認めることはできないから、原告は、これらに関する訴えについての原告適格を欠くというべきである。
第4 結論
 以上によれば、本件訴えのうち、裁判所楽曲目録−作詞、−作曲記載の各楽曲のうち、別紙裁判所楽曲目録−作詞(却下)、−作曲(却下)記載の楽曲に関する部分については、原告は原告適格を欠いているから、これを却下することとし、原告が原告適格を有する別紙裁判所楽曲目録−作詞(認容)、−作曲(認容)記載の楽曲については、原告の請求は、2300万5495円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからその限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 菊池絵理
 裁判官 坂本三郎
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