判例全文 line
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【事件名】“売上高データ”の著作物性事件
【年月日】平成22年1月27日
 東京地裁 平成20年(ワ)第32148号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成21年11月18日)

判決
原告 宏文出版株式会社
同訴訟代理人弁護士 川村武郎
同訴訟復代理人弁護士 藤井眞人
被告 株式会社秀和システム
同訴訟代理人弁護士 行方國雄
同 宮澤昭介
同 吉野史紘


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、ネット販売についての新聞、雑誌、書籍等の刊行を業とする原告が、出版物の販売等を業とする被告において、原告が著作権を有する編集著作物である図表を、被告の販売する書籍に無断で掲載して販売し、原告の編集著作物に対する複製権、貸与権、出版権を侵害したと主張して、不法行為に基づき、損害金500万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成21年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
 原告は、ネット販売についての新聞、雑誌、書籍等の刊行を業とする会社であり、被告は、出版物の販売等を業とする会社である。
(2) 月刊誌「月刊ネット販売」
 原告は、月刊誌「月刊ネット販売」を刊行しており、その2007年9月号には別紙図表目録記載の原告図表1ないし9(以下、各図表を個別に「原告図表1」などといい、原告図表1ないし9を総称して「原告各図表」という。)が掲載されている。
(3) 被告の行為
 被告は、「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」と題する書籍(以下「被告書籍」という。)を販売し、被告書籍には、別紙図表目録記載の被告図表1ないし9(以下、各図表を個別に「被告図表1」などといい、被告図表1ないし9を総称して「被告各図表」という。)が掲載されている。
 被告書籍の著者は、Aである。Aは、平成5年ころに原告と同一系列の会社である株式会社通販新聞社(以下「通販新聞社」という。)に入社後、記者、編集次長を経て、平成18年に通販新聞社の執行役編集長に任命され、また、平成17年2月ころに、原告が刊行している前記「月刊ネット販売」の編集人にも任命された。
2 争点
(1) 原告各図表が編集著作物といえるか。
(2) 著作権侵害の成否
ア 被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が、著作権法32条1項の「引用」に当たるか。
イ 原告は、Aが原告各図表を利用して被告書籍を執筆することを承諾し、被告が同図表を利用することを許諾したか。
(3) 原告の損害の有無及び額
第3 争点についての当事者の主張
1 争点(1)(原告各図表が編集著作物といえるか)について
(原告の主張)
(1) 原告各図表の内容
ア 原告図表1
 原告図表1は、左端から「(PC+携帯売上高)順位、社名、PC+携帯売上高、増減率、携帯売上高、月間アクセス数、累積会員数、決算期、主要商材」欄によって構成された図表であり、各欄には、原告が行った調査によって得られた対象企業からの回答、あるいは、回答が得られなった場合には、原告の推測の数値が記載されている。原告図表1は、全体では150社分のデータが掲載されているが、そのうち上位50社までの掲載部分である。
イ 原告図表2
 原告図表2は、「EC上位150社の商品ジャンル別売上高シェア」と題する円グラフであり、前記アのデータを更に分析し、商品ジャンル別の売上傾向を加工工夫して、読者に提供したものであって、商品ジャンル別の売上高シェアを分かりやすくしたものである。
ウ 原告図表3
 原告図表3は、「05年度と06年度のBtoC−EC市場の比較」と題する棒グラフであり、原告が、経済産業省の公表したデータを創意工夫して、各年度の比較が視覚的に容易に理解されるように棒グラフ化したものである。
エ 原告図表4
 原告図表4は、「06年度のBtoC−EC市場のジャンル別シェア」と題する円グラフであり、原告が、経済産業省の公表したデータを利用工夫して、ジャンル別シェアの比較が視覚的に容易に理解されるように円グラフ化したものである。
オ 原告図表5
 原告図表5は、「主要カタログ通販事業者のモバイル通販売上高」と題する図表であり、原告が、自ら行った調査によって得られた数値を基に、カタログ通販事業者のデータを抽出し、これを加工し配列などに創意工夫を凝らし、必要部分(社名、前期実績、増収率、携帯通販占有率の各項目)を図表化したものである。
カ 原告図表6
 原告図表6は、「主要ネット通販専業者のモバイル通販売上高」と題する図表であり、原告が、自ら行った調査によって得られた数値を基に、ネット通販専業者のデータを抽出し、これを加工し配列などに創意工夫を凝らし、必要部分(社名、前期実績、増収率、携帯通販占有率の各項目)を図表化したものである。
キ 原告図表7
 原告図表7は、「主要モバイル通販専業者のモバイル通販売上高」と題する図表であり、原告が、自ら行った調査によって得られた数値を基に、モバイル通販専業者のデータを抽出し、これを加工し配列などに創意工夫を凝らし、必要部分(社名、前期実績、増収率、次期見込みの各項目)を図表化したものである。
ク 原告図表8
 原告図表8は、「<衣料品・雑貨>ネット通販売上高」と題する図表であり、原告が、自ら行った調査によって得られた数値を基に、衣料品・雑貨関連のネット通販業者に関するデータを抽出し、これを加工し配列などに創意工夫を凝らし、必要部分(社名並びに前期実績として売上高及び増減率の各項目)を図表化したものである。
ケ 原告図表9
 原告図表9は主要総、「合通販のEC売上高」と題する図表であり、原告が、自ら行った調査によって得られた数値を基に、通販商品総合関連のネット通販業者に関するデータを抽出し、これを加工し配列などに創意工夫を凝らし、必要部分(社名、売上高、増収率、うちモバイル売上高の各項目)を図表化したものである。
(2) 原告各図表が編集著作物に該当すること
 素材が単なる事実、データ等であっても、このデータを独自の一定の目的、方針に従って選択、配列を工夫して表現したものであれば、編集著作物として保護の対象となる。
 原告は、原告各図表を作成して読者に提供するに当たり、通信販売、ネット販売業界の会社に調査票を送付してのアンケートなどの調査を実施している。この調査は、原告の長年にわたる業界との密接な関連、構築した信頼関係を基に、経験的に得た、調査の価値のある重要事項と判断される事柄について、原告独自の工夫により調査項目を選別、選定して行う。その調査項目は、概要、@通信販売・通信教育の業績について(売上高、経常利益等)、A前期売上高のうち、インターネット経由の売上高、B業績の増減要因、C前期実績のうち、各項目の数値などである。これらの調査項目は、非上場企業にとっては社外秘の企業秘密にわたるものであり、部外者が容易に調査し得るものではないし、また、上場企業であっても、対象企業から直接回答を得なければ知り得ない事項が多々含まれる。この調査は、対象企業に調査票を送付して返送を求める方法により行うが、返送がない場合であっても、電話あるいは対象企業を訪問して行っている。このような調査を可能にしているのは、原告の長年にわたる業界との密接な関連、構築した信頼関係にほかならない。
 もっとも、回収する調査票の記載だけでは、データとして企業の売上高などの実情が明らかになるだけで、その実情をそのまま記事にするのでは、通販業界の動向や展望、更には調査結果の意味するところを読者に容易に理解してもらえるとは限らないし、そもそも、調査の回答自体をそのまま掲載できるものでもない。そこで、この調査によって把握したデータを分析して、分かりやすいように工夫して図表化したものが原告各図表であり、その代表例が原告図表1である。
 このように、原告各図表は、原告ならではの調査結果を整理、選択し、分かりやすく加工して、最終的に記事として結実させたものであり、原告の調査によって得たデータを、独自の一定の目的、方針に従って選択、配列を工夫して表現したものであるから、編集著作物であることは明らかである。
 そのデータは、原告が築き上げてきた信用と実績を基にして、アンケート回答を対象企業に依頼して得たものであり、その収集は、業界に著名で信用も得ている原告だからこそ可能なのであって、被告が短期間に原告各図表に使用されているデータを収集しようとしても、応じてもらえる可能性は、限りなくゼロに近いものである。原告は、そのようにして得た回答や、回答を得られないものについては根拠のある推計をして、独自に工夫を加えて原告各図表を作成したのである。
 このような意味において、調査及び記事化の過程は、正に原告の「思想又は感情」の蓄積及び蓄積により収集したデータの取捨、選択、配列、分析の工夫そのものの現れであって、科学的な分析を単純にグラフ化したものとは根本的に異なる。すなわち、本件では、データそのものが収集者の独自の工夫と能力により得られたものであり、誰が調査や実験を行っても同様の結果がもたらされるような科学的なデータの場合とは区別して考えられるべきである。
(被告の主張)
(1) 原告各図表が編集著作物といえないこと
 編集著作物においては、選択及び配列の対象となる素材が、創作性が認められる著作物である場合と客観的な事実や事象そのものであり著作物ではない場合があるところ、原告各図表を構成する素材は、いずれも各通販業者の売上高等の各種データであり、客観的な事実や事象そのものであるから、当該データを得るために労力、資金等を費やしたとしても、「思想又は感情」が表現された著作物とはいえない。
 また、原告各図表は、いずれも前記データを売上高に応じて順位を付して並べるなどしたものにすぎず、その素材の選択及び配列は、一般的なものであり、この点に創作性は認められない。
 仮に、原告各図表の中に編集著作物と認められるものがあるとしても、被告書籍における被告各図表の利用は、原告各図表の編集著作物としての創作性を利用しているわけではないから、原告各図表の編集著作物の著作者の権利を侵害することはない。
ア 原告図表1
 原告図表1は、平成18年度のネット通販実施企業のPC+携帯売上高、増減率、携帯売上高、月間アクセス数、累積会員数、決算期及び主要商材を、PC+携帯売上高の順に並べたものにすぎない。
 インターネットによる通信販売の実態を把握するために、「PC+携帯売上高」、その「増減率」、「携帯売上高」、「月間アクセス数」及び「累積会員数」という素材を選択することは、通販業界に限らずよく行われる一般的なことである。また、「決算期」についても、各企業の「売上高」及び「増減率」の計算期間を特定するため、調査対象とすることは珍しくないから、このような素材の選択もありふれたものである。「主要商材」という選択についても、調査対象となっている会社の基本的な情報として一般的に関心のある重要な情報であり、調査の対象となることも多いことから、このような素材の選択も個性のない一般的なものである。
 また、売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することも、業界の実態を把握するために一般的に行われる配列であり、ありふれた配列である。
 したがって、原告図表1における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれたものであり、この点に創作性は認められない。
 仮に、原告図表1が編集著作物に該当するとしても、編集著作物としての創作性が認められる部分は、被告図表1において利用した「PC+携帯売上高「携帯売上高」及び」、 「主要商材」という素材の選択並びに「売上順」という素材の配列以外の部分であり、被告図表1は、原告図表1の創作性の認められる部分を利用しているわけではないから、編集著作物の著作者の権利を侵害することはない。
 なお、原告図表1の売上高等のデータ(素材)は、客観的な事実や事象そのものであり、著作物に該当しないことから、このようなデータ(素材)を使用して被告図表1を作成しても、著作権侵害は成立しない。
イ 原告図表2
 原告図表2は、EC上位150社の商品ジャンル別売上高シェアを、全体の割合に応じて円グラフにしたものにすぎない。
 Eコマースにおける売上高を商品別に分類するに当たり、「総合」、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「食品」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」、「通教」、「家具」という分類(素材)を選択することは、一般的であり、このような素材の選択に、創作性は認められない。
 また、商品ジャンル別売上高シェアを、全体の割合に応じて円グラフにして配列することは、一覧性を出して分かりやすくするために一般的に行われるありふれたものであるから、このような配列にも創作性は認められない。
 したがって、原告図表2における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれた方法であり、この点に創作性は認められない。
ウ 原告図表3
 原告図表3は、経済産業省が公表したデータを基に、単に平成17年度と平成18年度の商品ジャンル別の売上高を、棒グラフ化したものにすぎない。
 原告が原告図表3を作成するに当たり参考にした経済産業省のデータは、平成19年5月11日付「『平成18年度電子商取引に関する市場調査』の結果公表について」と題する文書(乙9、以下「本件調査文書」という。)と考えられる。原告図表3は、本件調査文書の(補足説明)の8頁に記載された「図表7 日本における業種別2006年BtoC−EC市場規模の推移」の「小売」の欄の業種分類、各業種の平成17年及び平成18年におけるEC市場規模といった素材の選択及び配列をそのまま利用して、単に、棒グラフにしたものにすぎない。
 したがって、原告図表3における素材の選択及び配列には、創作性は認められない。
エ 原告図表4
 原告図表4は、本件調査文書を基に、単に、平成18年度のEC市場における商品ジャンル別売上高のシェアを、全体の割合に応じて円グラフ化したものにすぎない。
 原告図表4は、原告図表3の棒グラフを、単に全体の割合に応じて円グラフ化したにすぎないところ、原告図表3における素材の選択及び配列に創作性が認められないことは、前記ウと同様であるから、このような棒グラフを円グラフ化した原告図表4についても、創作性は認められない。
オ 原告図表5
 原告図表5は、平成18年度における主要カタログ通販事業者のモバイル通販売上高、増収率及び携帯通販占有率を、売上順に並べたものにすぎない。
 「売上高」及び「増収率」という素材の選択は、前記アと同様に、創作性は認められない携。「帯通販占有率」についても、Eコマースのうち、携帯電話という媒体を介した通信販売方法による売上高が、業界全体の売上高の中でどのくらいのシェアを占めているのかということを把握することは、業界の実態を把握する上で一般的に調査の対象となることから、このような素材の選択もありふれたものであり、創作性は認められない。
 また、売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することも、前記アと同様に、創作性は認められない。
 したがって、原告図表5における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれたものであり、創作性は認められない。
 仮に、原告図表5が編集著作物に該当するとしても、編集著作物としての創作性が認められる部分は、被告図表5において利用した「売上高」及び「増収率」という素材の選択並びに「売上順」という素材の配列以外の部分であり、被告図表5は、原告図表5の創作性の認められる部分を利用しているわけではないから、編集著作物の著作者の権利を侵害することはない。
 なお、原告図表5の売上高等のデータ(素材)を利用して被告図表5を作成しても、著作権侵害が成立しないことは、前記アと同様である。
カ 原告図表6
 原告図表6は、平成18年度における主要ネット通販専業者のモバイル通販売上高、増収率及び携帯通販占有率を、売上順に並べたものにすぎない。
 「売上高」、「増収率」及び「 携帯通販占有率」という素材を選択し、それを売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することは、前記オと同様に、創作性は認められない。
 したがって、原告図表6における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれたものであり、創作性は認められない。
 仮に、原告図表6が編集著作物に該当するとしても、被告図表6は、原告図表6の創作性の認められる部分を利用しているわけでなく、編集著作物の著作者の権利を侵害することはないこと、原告図表6の売上高等のデータ(素材)を利用して被告図表6を作成しても、著作権侵害が成立しないことは、前記オと同様である。
キ 原告図表7
 原告図表7は、平成18年度における主要モバイル通販専業者のモバイル通販売上高、増収率及び次期見込みを、売上順に並べたものにすぎない。
 「売上高」及び「増収率」という素材を選択することは、前記オと同様に、創作性は認められない。また、売上高の「次期見込み」についても、今後の経済動向を予測するという観点から、従来より行われている一般的な選択であり、創作性は認められない。売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することは、前記オと同様に、創作性は認められない。
 したがって、原告図表7における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれたものであり、創作性は認められない。
 仮に、原告図表7が編集著作物に該当するとしても、被告図表7は、原告図表7の創作性の認められる部分を利用しているわけでなく、編集著作物の著作者の権利を侵害することはないこと、原告図表7の売上高等のデータ(素材)を利用して被告図表7を作成しても、著作権侵害が成立しないことは、前記オと同様である。
ク 原告図表8
 原告図表8は、各社の衣料品・雑貨におけるネット通販売上高及び増減率を、売上順に並べたものにすぎない。
 「売上高」及び「増減率」という素材を選択し、それを売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することは、前記アと同様に、創作性は認められない。
 したがって、原告図表8における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれた方法であり、この点に創作性は認められない。
ケ 原告図表9
 原告図表9は、主要総合通販各社のEC売上高、増収率及びそのうちのモバイル売上高を、売上順に並べたものにすぎない。
 「EC売上高」及び「増収率」という素材を選択することは、前記アと同様に、創作性は認められない。EC売上高の「うちモバイル売上高」についても、前記オの携帯通販占有率と同様に、一般的な選択であり、創作性は認められない。また、売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから配列することも、前記アと同様に、創作性は認められない。
 したがって、原告図表9における素材の選択及び配列は、いずれも極めてありふれた方法であり、創作性は認められない。
(2) 原告の主張に対する反論
 原告は、原告各図表が、原告が長年の実績と経験を基に相当の労力を費やして初めて取得することができるデータを、原告が独自の創意工夫を凝らして編集して作成したものであるから、編集著作物に該当すると主張する。
 しかしながら、原告がデータの収集に相当の労を費やしたとしても、そのことは、原告各図表の編集著作物性を根拠付けるものとはならない。
 また、原告は、収集したデータに独自の創意工夫を凝らして編集して原告各図表を作成したと主張するが、創意工夫の具体的な内容を明らかにしていない。原告各図表と同様の項目を選定し、同様の体裁をとった図表は、従前から多数存在しており、原告各図表に原告独自の創意工夫など存在せず、編集著作物性が認められないことは明白である。
 そもそも、原告各図表が編集著作物に該当するといえるためには、原告は、原告各図表において使用されている素材の選択又は配列に係る創作性の具体的な内容を主張立証すべきなのに、これを全くしていない。そのことは、原告各図表に、原告独自の創意工夫が存在しないことを物語っている。
2 争点(2)ア(被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が、著作権法32条1項の「引用」に当たるか)について
(被告の主張)
(1) 原告各図表を利用した行為が「引用」に該当すること
 原告各図表が編集著作物に該当するとしても、被告書籍においてこれを利用した行為は、著作権法32条1項の「引用」に該当するので、著作権侵害は成立しない。すなわち、同条項の「引用」に該当するためには、「引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ」(明瞭区別性)、かつ、「両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる」(主従関係)場合であることが必要とされるところ、被告書籍における原告各図表の利用行為は、次のとおり、いずれも明瞭区別性及び主従関係が認められることから、「引用」に該当し、著作権侵害は成立しない。
(2) 被告図表1
ア 明瞭区別性
 後記イの「主従関係」において述べるとおり、引用されて利用される側の著作物(原告図表1)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍52頁に掲載されたAの執筆部分であるが、そもそも、引用されて利用される側の著作物(原告図表1)と引用して利用する側の著作物(被告書籍52頁に掲載された執筆部分)は、図形の著作物(10条1項6号)と言語の著作物(同項1号)という全く性質の異なる著作物である。
 したがって、例えば、利用される側の著作物と利用する側の著作物が同種の著作物であり、両者が混然一体となって利用される場合と比較すれば明らかなとおり、本件における「主」と「従」の著作物としての性質の差異に鑑みれば、両者を明確に区別することは極めて容易である。
 また、引用して利用する側の著作物は、被告書籍52頁に、引用されて利用される側の著作物は、被告書籍53頁に、それぞれ別個に掲載されているのであって、被告図表1と被告書籍52頁に掲載された執筆部分が混然一体となり、両者の区別ができなくなるような体裁で利用されているわけではない。
 さらに、被告図表1が掲載された被告書籍53頁においては、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示しており、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中でも、「執筆に際しましては…『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べている。
 以上のとおり、利用された著作物と利用する著作物の性質の差異、両者が掲載されている場所(頁)の別、出典元の表示や被告書籍3頁の執筆内容からすれば、利用する側の著作物(被告書籍52頁)と、利用される側の著作物(被告図表1)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表1)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍52頁に掲載されたAの執筆部分である。
 被告書籍は、「業界の歴史や規模、仕組み、媒体、主力企業のビジネスモデル、関連法、課題など通販業界を基本的な視野から一望」でき、「一般の方でも楽しく興味深く通販業界に触れて」通販業界の動向や仕組み(カラクリ)を理解してもらうことを目的として執筆出版されている(被告書籍3頁)。
 そして、Aは、被告書籍52頁において、通信販売の媒体に関して、「インターネット通販については、紙やテレビなどの媒体を問わずほぼ全ての通販企業が着手しています。2、3年前までは『補完媒体』でしたが、今や自社基幹媒体に迫る『第二の主力媒体』に成長しました。」としてインターネット通販の躍進状況を概説するとともに、「ネットプライスやマガシークなど、ネット専門の通信販売事業者も活躍しています。」、「インターネット専用の通信販売事業者にとどまらず、ゼイヴェルなどモバイルショッピングの専門事業者も次々に登場しています。」として、通販業界におけるネットやモバイル専門の通信販売事業者の成長を解説している。
 Aは、前記のように、通信販売の媒体として、昨今、インターネット通販が重要な役割を担っており、現に、インターネット通販実施企業が多くの売上高を計上していることを読者に視覚的に分かりやすく伝えるための参考資料として、被告図表1を利用したにすぎない。
 すなわち、被告図表1は、「参考資料」という意味で、被告書籍52頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 また、引用部分が原告図表1のすべてではなく、「PC+携帯売上高」、「携帯売上高」及び「主要商材」という3つの項目に限定し、かつ、対象も30社に限定して引用しているにすぎず、被告書籍の内容を分かりやすく視覚的に読者に伝達するという目的のために必要な範囲内でのみ、原告図表1を利用していることを併せ考慮すると、Aの執筆部分(被告書籍52頁)が主、引用部分(被告図表1)が従という関係(主従関係)も認められる。
(3) 被告図表2
ア 明瞭区別性
 前記(2)アと同様に被告、 図表2と被告書籍におけるAの執筆部分(被告書籍70頁)は、著作物としての性質が大きく異なること、被告図表2の掲載頁(被告書籍71頁)とAの執筆部分の掲載頁(被告書籍70頁)が明確に区別されていること、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示していること、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中で「執筆に際しましては…『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べていることからすると、利用する側の著作物(被告書籍70頁)と、利用される側の著作物(被告図表2)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表2)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍70頁に掲載されたAの執筆部分である。
 Aは、被告書籍70頁において、「カタログを基軸とする大手総合通販は…業界のけん引役です。ただここに来て、インターネットを武器に通販市場に参入する新興勢力も目立ち始めました。老舗通販も従来の殻から脱却し、多様な取り組みで対抗する必要に迫られています。」として老舗通販と新興勢力との競争が激化していることを説明した上で、「大手総合カタログ通販の主力商材は女性ファッション衣料ですが…ユニクロやマルイヴォイなど店舗と連動したネット通販を強化する企業も増えており、トレンドや情報提供が優先する女性衣料は競争が激化するでしょう。」、「家電やパソコン系ではメーカー直販や家電量店等のネット通販が急速に活発化。」、「雑貨では、ネットでギャザリング手法を用いて成長してきたネットプライスドットコムが、年商132億を達成。インテリア雑貨のセレクチュアーなどが、トレンドを掴む迅速さや顧客との双方向展開で通販市場に食い込んでいます家具はディノス。」、「や千趣会、ムトウなどが自社総合通販サイトとは別に家具・インテリア専用のサイトを開設し販促を強化」しているとして、商品ジャンル別に具体的に老舗通販と新興勢力との攻防等につき解説している。
 Aは、商品ジャンル別における老舗通販と新興勢力との競争激化を解説する前提として、EC通販市場における商品ジャンル別の売上高シェアを読者に視覚的に分かりやすく示すための参考資料として、被告図表2を利用したにすぎない。
 すなわち、被告図表2は、「参考資料」という意味で、被告書籍70頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 したがって、Aの執筆部分(被告書籍70頁)が主、引用部分(被告図表2)が従という関係(主従関係)も認められる。
(4) 被告図表3及び被告図表4
ア 明瞭区別性
 前記(2)アと同様に、被告図表3及び被告図表4のグラフと被告書籍におけるAの執筆部分(被告書籍86頁)は、著作物としての性質が大きく異なること、被告図表3及び被告図表4の掲載頁(被告書籍87頁)とAの執筆部分の掲載頁(被告書籍86頁)が明確に区別されていること、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示していること、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中で「執筆に際しましては…『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べていることからすると、利用する側の著作物(被告書籍86頁)と、利用される側の著作物(被告図表3及び被告図表4)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表3及び被告図表4)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍86頁に掲載されたAの執筆部分である。
 Aは、被告書籍86頁において、「『月刊ネット販売』が07年秋にまとめた上位150社のネット通販売上高は前年比約10%増の9582億円」として通販業界におけるインターネット通販の成長を説明した上で、「ジャンル別のシェアでは『衣料品』や『雑貨』のシェアが高く…衣料品や雑貨を扱う店舗やメーカーのネット通販本格化も、市場全体を押し上げています。」、「さらに注目すべきは『家電』『パソコン』『書籍』ジャンルの伸長で、トップのアマゾン…をはじめベスト30にはこれら企業が15社ランクイン。この3ジャンルとネット通販の親和性がいかに高いかを見せつけています。」として、インターネット通販における商品ジャンル別のシェア等について解説している。
 Aは、インターネット通販の昨今の著しい成長やインターネット通販における具体的な商品ジャンル別のシェアを読者に視覚的に分かりやすく示すための参考資料として、被告図表3及び被告図表4を利用したにすぎない。
 すなわち、被告図表3及び被告図表4は、「参考資料」という意味で、被告書籍86頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 したがって、Aの執筆部分(被告書籍86頁)が主、引用部分(被告図表3及び被告図表4)が従という関係(主従関係)も認められる。
(5) 被告図表5ないし7
ア 明瞭区別性
 前記(2)アと同様に被告図、 表5ないし7と被告書籍におけるAの執筆部分(被告書籍88頁)は、著作物としての性質が大きく異なること、被告図表5ないし7の掲載頁(被告書籍89頁)とAの執筆部分の掲載頁(被告書籍88頁)が明確に区別されていること、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示していること、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中で「執筆に際しましては、『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べていることからすると、利用する側の著作物(被告書籍88頁)と、利用される側の著作物(被告図表5ないし7)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表5ないし7)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍88頁に掲載されたAの執筆部分である。
 Aは、被告書籍88頁において、「総務省調査では、06年のモバイル(携帯電話)通販ビジネス市場は9285億円と前年に比べ30%以上拡大。今後モバイル通販はさらに拡大していくでしょう。」として、モバイル通販市場の現状と今後の展望につき概説した上で、「これまでのネット通販では、パソコンの10割に対してモバイルは1割の割合で売れればいい、とされていました。けれどもパケット定額制の普及に伴い、07年に入ってからモバイル経由はネット通販全体の3割を超える勢いで成長しています。」、「千趣会やニッセンは既に売上高100億円ラインをクリアし、ムトウやディノス、イマージュなどのカタログ通販も後を追っています。千趣会はオークション事業者のディー・エヌ・エーとともにモバイルファッションサイト『モバコレ』を立ち上げており、今後はこのようなコラボも増えていきそう」であるとして、モバイル通販市場が昨今急速に発展してきていること、モバイル通販を行っている企業の売上高やモバイル通販に関する経営戦略等につき解説している。
 Aは、モバイル通販市場が昨今急速に発展しており、現に、このようなモバイル通販を行っている企業が多くの売上高を計上し、増収率も高いことを読者に視覚的に分かりやすく示すための参考資料として、被告図表5ないし7を利用したにすぎない。
 すなわち被告図表、 5ないし7は、「参考資料」という意味で、被告書籍88頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 また、引用部分が原告図表5ないし7のすべてではなく、「実績」及び「増収率」という2つの項目に限定して引用しているにすぎず、被告書籍の内容を分かりやすく視覚的に読者に伝達するという目的のために必要な範囲内でのみ、原告図表5ないし7を利用していることを併せ考慮すると、Aの執筆部分(被告書籍88頁)が主、引用部分(被告図表5ないし7)が従という関係(主従関係)も認められる。
(6) 被告図表8
ア 明瞭区別性
 前記(2)アと同様に、被告図表8と被告書籍におけるAの執筆部分(被告書籍116頁)は、著作物としての性質が大きく異なること、被告図表8の掲載頁(被告書籍117頁)とAの執筆部分の掲載頁(被告書籍116頁)が明確に区別されていること、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示していること、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中で「執筆に際しましては…『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べていることからすると、利用する側の著作物(被告書籍116頁)と、利用される側の著作物(被告図表8)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表8)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍116頁に掲載されたAの執筆部分である。
 Aは、被告書籍116頁において、「『衣料品・服飾雑貨』は全体の約4分の1を占め、その規模も拡大傾向」として、通販市場における衣料品・服飾雑貨の市場規模を説明した上で、「衣料品については、カタログ・テレビ通販企業をはじめユニクロ(ファーストリテイリング)など店舗展開している企業も、かなりのボリュームをネット経由で売っています。中には丸井の通販子会社であるマルイヴォイのように、軸足を意識的にネットへシフトしている企業もあります。」、「ファッションに最も敏感とされる『F1層』…に『旬な情報と商品』を提供し高い反応を得ているいくつかの企業が、最近は急速に力を付け始めました。それが…スタートトゥデイ、マガシーク、ゼイヴェル…などファッショントレンドに強い中堅ネット企業です。」、「モバイル通販中心のゼイヴェルはファッション全般や芸能関係のエンタメ性で盛り上げ、スタートトゥデイやマガシークはブランドを全面に打ち出しています。スタートトゥデイはブランドのディレクターが参加する会員制くちコミサイトも開設し、サイト自体への帰属意識を強める工夫に熱心です。」として、衣料品・服飾雑貨部門におけるネット通販の躍進、当該部門で最近急速に力を付け始めたネット通販各社の具体的な創意工夫等につき解説している。
 Aは、衣料品・服飾雑貨部門におけるネット通販の躍進状況や「1社の売上高は20〜90億円程度なものの、まとまればかなりの規模となり、通販市場の底上げに貢献している」ことを読者に視覚的に分かりやすく示すための参考資料として、被告図表8を利用したにすぎない。
 すなわち、被告図表8は、「参考資料」という意味で、被告書籍116頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 したがって、Aの執筆部分(被告書籍116頁)が主、引用部分(被告図表8)が従という関係(主従関係)も認められる。
(7) 被告図表9
ア 明瞭区別性
 前記(2)アと同様に、被告図表9と被告書籍におけるAの執筆部分(被告書籍114頁)は、著作物としての性質が大きく異なること、被告図表9の掲載頁(被告書籍115頁)とAの執筆部分の掲載頁(被告書籍114頁)が明確に区別されていること、「出典:月刊ネット販売」と記載して出典元を明示していること、被告書籍3頁の「はじめに」と題する記述の中で「執筆に際しましては…『月刊ネット販売』…の資料を用いた」と明確に述べていることからすると、利用する側の著作物(被告書籍114頁)と、利用される側の著作物(被告図表9)とを明瞭に区別して認識することができる。
イ 主従関係
 利用される側の著作物(被告図表9)に対応する、いわゆる「主」の著作物(引用して利用する側の著作物)は、被告書籍114頁に掲載されたAの執筆部分である。
 Aは、被告書籍114頁において、「アマゾンジャパンの2006年度ネット通販売上高は、前年比45%増の1600億円(『月刊ネット販売』調べ)。同誌のネット販売ランキングでは、2位のデルに約1000億円もの差をつけトップとなりました。生活雑貨や家電など取り扱いジャンルの大幅拡大により『総合通販』として君臨しています。」として、インターネット通販におけるアマゾンジャパンの顕著な伸展を概説した上で、「アマゾンは書籍やCDなどで獲得した膨大な数の顧客に対し、雑貨や家具・家電、化粧品、健康食品などさまざまな商材の販売を開始。ベビー・マタニティ用品の専門コーナーを立ち上げたのをはじめ、昨年10月にはこれまで扱わなかった衣料品販売にも着手したのです。」、「さらにEC業界の注目を集めたのは、昨年4月に参入した仮想モール事業『マーチャント@』でしょう。『マーチャント@』がヤフーや楽天などの先行モールと大きく異なるのは、お金を払えば出店できるという既存形式ではなく、参加はアマゾンによる『招待制』という点。米国や英国、ドイツでも同じ手法で展開しており、優良出店者を集めることでクオリティを高め集客につなげる考えのようです。日本では1年足らずでおよそ120社が参加しています。書籍やCDジャンル限定で中小事業者向け委託販売サービスも手がけており、『マーチャント@』も合わせネット通販のポータル機能拡大を図ります。」として、アマゾンジャパンの総合通販化の加速やネット通販のポータル機能拡大に関する具体的な創意工夫等につき解説している。
 Aは、このように総合通販化を加速し、ネット通販のポータル機能拡大を図るアマゾンジャパンが、現に多くの売上高を計上しており、2位に1000億円もの差をつけトップに君臨していることを読者に視覚的に分かりやすく示すための参考資料として、被告図表9を利用したにすぎない。
 すなわち、被告図表9は、「参考資料」という意味で、被告書籍114頁に掲載されたAの執筆部分に対して付従的な意味を有するにすぎず、当該執筆部分を視覚的に裏付けて補足するものであり、当該執筆部分と内容的に結び付いていることは明らかであり、引用の必要性も認められる。
 したがって、Aの執筆部分(被告書籍114頁)が主、引用部分(被告図表9)が従という関係(主従関係)も認められる。
(原告の主張)
(1) 「引用」に該当しないこと
 被告書籍において、明瞭区別性については、被告各図表には引用元の記載があるから明瞭に区別されているといえるが、主従関係については、被告各図表が従であるということはできない。被告書籍は、著作者自身の論述の根拠として原告各図表を利用している部分はほとんどなく、原告各図表を独自の判読素材として扱っており、次のとおり、形式的な主従関係がないだけでなく、内容的にも主従関係の要件を満たしていない。
(2) 被告図表1
 被告図表1は、本文(被告書籍52頁)の内容との間に何の関連もない。本文のどの部分を検討しても、被告図表1が、体裁のみならず内容においても、本文の趣旨を裏付けるなどの引用の必要性は、全くない。被告図表1が独自の存在価値を有しており、本文と並列的であり、強いて言えば、被告図表1が主である。
(3) 被告図表2
 被告図表2の本文(被告書籍70頁)は、老舗通販と新興勢力の攻防と題する文章で、被告図表2から読み取れる内容と本文とは、全く関係がない。被告図表1と同様に、被告図表2が、体裁のみならず内容においても、本文の趣旨を裏付けるなど引用の必要性は、全くない。被告図表2が独自の存在価値を有しており、本文と並列的であり、強いて言えば、被告図表2が主である。
(4) 被告図表3及び被告図表4
 被告図表3の本文(被告書籍86頁)は、インターネット通販のジャンル別のシェアにみられる特徴の若干の分析とカタログ販売のネット戦略の変化について論じているが、これらの論述と被告図表3及び被告図表4とは、内容的に全く結び付いていない。内容的に関連のない両者が並列的に掲載され、独自にそれぞれが存在意義を発揮している。
 したがって、両者の間に主従関係はなく、一読でインパクトを与えるという意味では、被告図表3及び被告図表4が主である。
(5) 被告図表5ないし7
 被告図表5ないし7の本文(被告書籍88頁)は、最新メディア、モバイル通販の集客の可能性として、利用者の年齢構成、モバイル経由の将来性、よく売れる分野の指摘、異業種のコラボの可能性、印刷物であるカタログとの関連性などについて論じているが、これらの論述と被告図表5ないし7とは、内容的に全く結び付いていない。被告図表5ないし7の意味するところを探っても、本文につながらないし、本文の裏付けを被告図表5ないし7から読み取ろうにも、手がかりすら存在しない。本文にその旨の記載がないし、内容的にも関連していないからである。
 要するに、内容的に関連のない両者が並列的に掲載され、独自にそれぞれが存在意義を発揮しているにすぎないのであって、両者の間に主従関係はない。むしろ、内容の優劣、一読でインパクトを与えるという意味では、被告図表5ないし7が主である。
(6) 被告図表8
 被告図表8の本文(被告書籍116頁)は、「F1層はブランドにこだわらない」という趣旨の文章であって、被告図表8との関連は、ほとんどなく、わずかにあるのは、被告図表8にある企業名が本文中に出てくることぐらいである。しかしながら、だからといって、被告図表8を使用することにより、本文の趣旨をより説得力のあるものにし得るといった関係は一切ない。このような意味で、被告図表8は、被告図表3ないし7と同様に、本文と無関係に掲載されているものにすぎず、被告図表8と本文との間には、主従関係が存在する余地はない。
(7) 被告図表9
 被告図表9の本文(被告書籍114頁)は、総合通販化が加速するガリバー企業のアマゾンという趣旨の文章であって、被告図表9との関連は、ほとんどなく、わずかにあるのは、被告図表9にあるアマゾンという企業名が本文冒頭に出てくることぐらいである。しかしながら、だからといって、被告図表9を使用することにより、本文の趣旨をより説得力のあるものにし得るといった関係は一切ない。このような意味で、被告図表9は、被告図表3ないし8と同様に、本文と無関係に掲載されているものにすぎず、被告図表9と本文との間には、主従関係が存在する余地はない。
3 争点(2)イ原告はAが原告各( 、 図表を利用して被告書籍を執筆することを承諾し、被告が同図表を利用することを許諾したか)について
(被告の主張)
(1) 原告各図表の利用に関する従前の運用方法
 Aは、通販新聞社の執行役編集長及び「月刊ネット販売」の編集人に任命されて以来、通販新聞をはじめ「月刊ネット販売」、「通信販売年鑑」の編集・発行責任者として業務に携わるかたわら、団体や企業が開催する通信販売に関するセミナーや講演会における講演等の媒体販促業務も行っていた。
 そして、Aが、媒体販促業務として、前記セミナーや講演会の講師として講演をしたり、出版社へ執筆記事を寄稿したり、テレビやラジオに出演したりすることについては、すべて口頭により原告代表者Bに報告し、また、媒体販促業務に関して各種ランキング表といった「通販新聞」及び「月刊ネット販売」の資料を使用することについても、すべて口頭によりBに報告して、最終的に出版物が発行された場合には、当該出版物をBに渡して報告していたが、このような運用方法について、AがBから注意を受けたことは、今までに一度もない。
 Aは、このような運用方法に基づいて、原告各図表等を利用して前記セミナーや講演会の講師として講演を行ったことがある。例えば、平成19年9月に沖縄で行われた日本インターネットプロバイダー協会主催の講演会において、「通販市場とEコマースの現状」というテーマについて講演するに当たり、その講演資料として原告図表1の一部及び原告図表2を利用する際も、Aは、Bに対し、前記運用方法に基づいて、当該図表等の利用行為について口頭で報告し、利用に関する承諾を得ており、かかる講演後も何ら異義等を述べられたことはなかった。
(2) 原告各図表の利用につき原告から許諾を得ていたこと
 被告書籍の出版企画を立案していた被告は、平成19年12月初旬ころ、インターネット上でAが執筆した記事を閲覧し、被告書籍の執筆者としてAが適任と判断して、被告の編集担当者が電話で連絡をとり、同月21日に、被告に来社したAに被告書籍の企画趣旨を説明した。
 Aは、担当者から企画趣旨の説明を受け、被告書籍の執筆を依頼されたため、従前と同様に前記の運用方法に基づいて、被告書籍の執筆及び原告各図表の被告書籍への使用に関する承諾を得るため、同月25日ころ、Bの社長室に出向き、Bに対し、「秀和システムというビジネス本の出版社から執筆を依頼された。これまでの寄稿やセミナー資料と同様に会社のランキング表などを使いたい。」と口頭で尋ねた。Bは、「いいんじゃない。宣伝になるし、やれば。」と明確に回答した。
 Aは、Bのこのような回答を受け、正式に被告書籍の執筆活動に着手できることになったため、平成20年1月上旬、被告に対し、被告書籍の執筆を了承する旨の連絡をした。
 その後、被告の編集担当者は、平成20年1月22日、Aとの間で被告書籍に関する出版契約を締結する際、念のため、Aに対して、原告の調査データを活用できるかどうか確認したところ、Aから、従前も雑誌等の執筆の際には原告各図表等のデータを利用してきたし、今回の被告書籍の執筆及び原告各図表の利用についても、Bから口頭で許諾を得ているとの回答を得た。
(3) 被告書籍の記述等について
 現に、Aは、被告書籍3頁において、「執筆に際しましては、筆者が在籍する通販新聞社発行の『通販新聞』と姉妹紙『月刊ネット販売』などの資料を用いた」として、原告から原告各図表の使用許諾を受けたことに関する謝意を表明しており、この記述は、Aが原告から原告各図表を被告書籍に使用することについて許諾を得ていたことを如実に示す記述である。
 そもそも、Aは、被告書籍の執筆当時、「月刊ネット販売」の編集人であり、そのような立場にあるAが原告の許諾を得ることなく、原告各図表等を利用して被告書籍を執筆することは通常考えられず、Aが被告書籍を執筆していること自体が、原告がこのような執筆活動を了承していたことを端的に示している。
(4) 小括
 以上のとおり、原告は、Aが原告各図表を利用して被告書籍を執筆することにつき承諾を与えており、被告が原告各図表を利用することを許諾していた。
(原告の主張)
(1) 被告のいう他の媒体(テレビや大手日刊紙)の依頼による出演や寄稿、あるいは、団体の依頼による講演は、業界専門誌としての社会貢献活動、あるいは、原告の権威を高める行為の一環として行われていたものであり、利益を得るための経済活動と異なることは明白である。Aが依頼に応じて講演したり寄稿した謝礼として、講演料や原稿料が支払われることはあったが、それは、「寸志」という形で提供されるものであった。だからこそ、Bは、該当者との信頼関係に基づいて、講演内容や原稿の事前報告をすべてについて求めたり、講演料や原稿料の受領についてもチェックすることはしなかった。
 ところが、被告書籍は、講演や単なる寄稿文と異なり、215頁に及ぶ単行本であり、その発行は経済行為そのものである。そのため、Aと出版元の被告との間では「著作物印税契約書」が締結され、契約には違約した場合のペナルティまで盛り込まれている。この点に、従前の講演や寄稿との根本的かつ大きな違いがある。
 Aは、このことを認識し、被告から打診のあった段階でBに速やかに報告し、許諾を得るべきであった。しかしながら、Aは、許諾を得ないばかりでなく、この契約書の存在も隠蔽していた。また、原告の集積したデータの根幹を大量に使用しているもので、原告への重大な背信行為というほかない。
 特に、被告書籍の表題は、「通販業界の動向とカラクリ」というもので、通販業界の利益代表の側面もある紙誌の発行者と自認する原告の執行編集長としては、到底請けてはならない執筆契約であった。さらに、Aは、表題に「カラクリ」という用語が使用されることを、執筆の後半になって被告から知らされたというが、それが事実とすれば、知らされた段階で「そういう用語の使用は受け入れられない」として契約を破棄すべきであった。そして、原告が、このような原告の存在意義を否定するような表題の使用を予定した被告書籍への原告各図表の使用を認めるはずもない。
(2) AがBに被告書籍の執筆を知らせたのは、被告書籍が完成してからである。驚愕したBは、被告書籍の表題及び中身を吟味して、その結果、原告及び通販新聞社の資料が相当数無断使用されていることを知った。
(3) 被告の指摘する被告書籍の記述については、そのような謝辞を記載することは業界の慣例であって、この記載に何らかの意味を付するのは無理である。
(4) 以上のとおり、原告がAや被告に原告各図表の利用を許諾したことはない。
4 争点(3)(原告の損害の有無及び額)について
(原告の主張)
 被告は、被告書籍の発行者であるから、被告書籍の書籍化に当たり、原告から原告各図表の使用につき許諾を得る必要があったにもかかわらず、この許諾を得ないまま被告書籍を出版、販売した。
 原告は、現在、通販業界から強い非難を浴び、会社存立の危機に瀕している。すなわち、通販業界各社は、社外秘であるデータを適切に管理し、適切に使用するであろうという原告との信頼関係に基づいて、原告にデータを提供している。それにもかかわらず、そのデータが原告とおよそ関係のない被告の出版物において使用され、さらに、そのデータを使用した被告書籍の表題に通販業界内の負の内幕を暴露していると連想される「カラクリ」という言葉が使用されたことにより、原告が長年にわたり築き上げてきた信用が著しく失墜し、会社存立の危機に瀕しているのである。
 しかも、原告各図表は、30年以上、年2回の継続した調査の積み重ねがあって初めて結集した成果であり、年間500万円を下らない費用を要しているものと推測される。被告は、この成果を無断で使用したのである。
 このように、原告は、編集著作物である原告各図表についての著作権(複製権、貸与権、出版権)を侵害されたことにより、損害を被っており、その損害額は、500万円が相当である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告各図表が編集著作物といえるか)について
(1) 原告図表1
ア 原告図表1の構成、内容
 原告図表1は、インターネットによる通信販売の実施企業について、年間販売実績(平成18年6月から平成19年5月までの間に迎えた本決算期のネット通販の数値)である「PC+携帯売上高(百万円)」、「増減率(%)」、「携帯売上高(百万円)」、「月間アクセス数(PV:万)」、「累積会員数(万人)」のほか、「決算期」及び「主要商材」を素材として選択し、「PC+携帯売上高」の順に、150社分を社名ごとにまとめて配列した図表のうち、1位から50位までの50社の掲載部分である(甲12の17頁)。
イ 原告図表1における素材の選択及び配列についての創作性の有無 証拠(乙3の1ないし8、乙7の1ないし6、乙10ないし29(各枝番を含む。))によれば、通信販売、通信教育、訪問販売の業界に限らず、特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の売上高やその動向などの実態を把握するために、「売上高」、「増減率」、「決算期」、「主要商材」という素材を選択することは、一般的に行われており、ありふれたものと認めることができる。
 また、証拠(前掲証拠のほか、乙4の1及び3、乙6の2)によれば、「PC+携帯売上高」、「携帯売上高」は、インターネットによる通信販売の事業を行っている企業にとって基本的な営業情報であり、インターネットによる通信販売の業界に属する個別企業や業界全体の売上高やその動向などの実態を把握するために、これらの素材を選択することは、一般的に行われており、ありふれたものと認めることができる。
 そして、前記各証拠によれば、前記の選択した各素材について、各社の売上高に応じて順位を付して、売上高の大きいものから順に並べて配列することは、広く一般的に行われている配列であり、ありふれたものと認めることができる。
 したがって、原告図表1における、前記の素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 そして、被告図表1は、原告図表1の「前期実績」のうちの「PC+携帯売上高」及び「携帯売上高」並びに「主要商材」という素材の選択、50社分のうち上位30社分について、これらを「売上高」の大きいものから順に並べるという配列を利用したものであるから(甲13の53頁)、被告図表1における原告図表1の利用は、原告図表1の編集著作物としての創作性を認めることができない部分のみを利用したものと認められる。
 以上によれば、原告図表1についての原告の主張は、理由がない。
(2) 原告図表2
ア 原告図表2の構成、内容
 原告図表2は、EC(電子商取引)上位150社の商品ジャンル別の売上高シェアを、「総合」、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「食品」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」、「通教」、「家具」、「その他」という商品ジャンルに分類するという素材の選択をして、全体の割合に応じて円グラフとして配列したものである(甲12の20頁)。
イ 原告図表2における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 証拠(乙3の1及び2、乙4の1、乙7の1及び2、乙8の1及び2、乙9、乙16の1及び2、乙17〜29)によれば、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」のように、これらの複数の商品を同一の商品ジャンルとして分類することは、一般的に行われており、ありふれたものと認められ、また、電子商取引において販売商品を分類するに当たり、「総合」、「衣料品・雑貨」、「化粧品・健食」、「食品」、「PC・家電製品」、「書籍・CD・DVD」、「通教」、「家具」という商品ジャンルの分類という素材の選択は、広く一般的に行われているものと認めることができる。
 また、証拠(甲12の17ないし19頁)によれば、「上位150社」を素材として選択したことは、原告図表1に記載されたデータを含む甲12の17ないし19頁に掲載された150社分のデータをそのまま利用したものと認められるから、「上位150社」という素材の選択に、原告の個性が発揮されていると認めることはできない。かえって、証拠(乙10、12)によれば、表示すべき対象企業が多数になる場合に特定の企業に対象を限定すること、特定の企業として売上高の上位企業のみを対象とすることは、一般的に行われている素材の選択であるから、原告図表2において「上位150社」を選択したことは、一般的に行われているありふれたものと認めることができる。
 そして、証拠(乙3の6)によれば、商品ジャンル別の売上高シェアを、全体の割合に応じて、円グラフにして配列することは、一覧性をもたせて分かりやすくするために、一般的に行われるありふれたものと認められるから、このような配列に、原告の個性が発揮されていると認めることもできない。
 したがって、原告図表2における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表2についての原告の主張は、理由がない。
(3) 原告図表3
ア 原告図表3の構成、内容
 原告図表3は、平成17年度と平成18年度の「BtoC−EC市場」(消費者向け電子商取引市場)における商品ジャンル別の売上高を、「総合」、「衣料・アクセサリー」、「食料品」、「自動車・パーツ」、「家具・家庭用品」、「電気製品」、「医薬化粧品」、「スポーツ・本・音楽・玩具」という商品ジャンルに分類するという素材の選択をし、各ジャンルごとに、平成17年度と平成18年度の売上高を数値及び棒グラフとして配列したものである(甲12の21頁)。
イ 原告図表3における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 証拠(証人C、乙9)によれば、原告図表3は、経済産業省が公表した本件調査文書の(補足説明)8頁に記載された「図表7 日本における業種別2006年BtoC−EC市場規模の推移」の「小売」の欄に記載された業種分類、各業種ごとの平成17年と平成18年の電子商取引市場規模という素材の選択をそのまま利用したものと認められるから、このような素材の選択に創作性を認めることはできない。
 また、証拠(乙5の1、乙6の1、乙9)によれば、年度ごとの数値を比較しやすいように、棒グラフにして配列することは、一覧性をもたせて分かりやすくするために、一般的に行われるありふれたものであるから、このような配列に、原告の個性が発揮されていると認めることもできない。
 したがって、原告図表3における素材の選択及び配列に編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表3についての原告の主張は、理由がない。
(4) 原告図表4
ア 原告図表4の構成、内容
 原告図表4は、平成18年度の「EC市場」(電子商取引市場)における商品ジャンル別の売上高シェアを、「総合」、「衣料・アクセサリー」、「食料品」、「自動車・パーツ」、「家具・家庭用品」、「電気製品」、「医薬化粧品」、「スポーツ・本・音楽・玩具」という商品ジャンルに分類するという素材の選択をし、全体の割合に応じて円グラフとして配列したものである(甲12の21頁)。
イ 原告図表4における素材の選択及び配列についての創作性の有無 証拠(証人C、乙9)によれば、原告図表4は、経済産業省が公表した本件調査文書の(補足説明)8頁に記載された「図表7 日本における業種別2006年BtoC−EC市場規模の推移」の「小売」の欄に記載された業種分類、各業種ごとの平成18年の電子商取引市場規模という素材をそのまま利用したものと認められ、その素材の選択に創作性が認められないことは、前記(3)イと同様である。また、前記(2)で認定したとおり、商品ジャンル別の売上高シェアを、全体の割合に応じて、円グラフにして配列することは、一覧性をもたせて分かりやすくするために、一般的に行われるありふれたものであると認めることができる。
 したがって、原告図表4における素材の選択及び配列は、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表4についての原告の主張は、理由がない。
(5) 原告図表5
ア 原告図表5の構成、内容
 原告図表5は、平成18年度における主要カタログ通販事業者のモバイル通販売上高(携帯通販売上高)、増収率及び携帯通販占有率を素材として選択し、各社の売上高の順に配列したものである(甲12の43頁)。
イ 原告図表5における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 前記(1)で認定したとおり、モバイル通販売上高(携帯通販売上高)及び増収率(増減率と同義と認められる。以下同じ。)という素材を選択することは、一般的に行われており、ありふれたものと認められ、これらの素材の選択に創作性を認めることはできない。
 そして、通信販売を行っている事業者について、携帯電話という媒体を利用した通信販売の方法による売上高が、全体の売上高あるいは電子商取引の売上高の中でどの程度のシェアを占めているのかを把握することは、通信販売事業者の実態を把握する上で、一般的に調査の対象とされる事柄であるから(乙4の1及び3、乙5の2、乙6の1)、電子商取引のうち携帯電話という媒体を利用した通信販売方法による売上高が全体の売上高の中でどの程度のシェアを占めているのかを把握するために「携帯通販占有率」という素材を選択したことに、創作性を認めることはできない。
 また、証拠(証人C、乙4の1及び3)によれば、一般に通信販売の業態は、ネット通販、携帯ネット通販、カタログ通販等のジャンルに分類されるものと認められるから、カタログ通販事業者(原告図表5)のほか、ネット通販専業者(原告図表6)、モバイル通販専業者(原告図表7)という素材の選択は、一般的に行われているありふれた選択であり、創作性を認めることはできない。
 そして、前記(1)で認定したとおり、売上高の大きいものから順に並べて配列することは、広く一般的に行われている配列であり、ありふれたものと認めることができる。
 したがって、原告図表5における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表5についての原告の主張は、理由がない。
(6) 原告図表6
ア 原告図表6の構成、内容
 原告図表6は、平成18年度における主要ネット通販専業者のモバイル通販売上高(携帯通販売上高)、増収率及び携帯通販占有率を素材として選択し、各社の売上高の順に配列したものである(甲12の43頁)。
イ 原告図表6における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 前記(5)で認定したとおり、モバイル通販売上高(携帯通販売上高)、増収率、携帯通販占有率及びネット通販専業者という素材を選択したこと、それを売上高の大きいものから順に並べて配列することには、創作性を認めることはできない。
 したがって、原告図表6における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表6についての原告の主張は、理由がない。
(7) 原告図表7
ア 原告図表7の構成、内容
 原告図表7は、平成18年度における主要モバイル通販専業者のモバイル通販売上高(携帯通販売上高)、増収率及び次期見込みを素材として選択し、各社の売上高の順に配列したものである(甲12の43頁)。
イ 原告図表7における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 前記(5)で認定したとおり、モバイル通販売上高(携帯通販売上高(百万円))、増収率及びモバイル通販専業者という素材を選択したこと、それを売上高の大きいものから順に並べて配列することには、創作性を認めることはできない。
 また、証拠(乙10ないし29)によれば、売上高の「次期見込み」を素材として選択することは、今後の経済動向を予測するという観点から、従来より一般的に行われているありふれたものであると認めることができる。
 したがって、原告図表7における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表7についての原告の主張は、理由がない。
(8) 原告図表8
ア 原告図表8の構成、内容
 原告図表8は、衣料品・雑貨という商品ジャンルにおけるネット通販売上高及び増減率という素材を選択し、各社の売上高の順に配列したものである(甲12の24頁)。
イ 原告図表8における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 前記(1)で認定したとおり、ネット通販売上高及び増減率という素材を選択することは、一般的に行われており、ありふれたものと認められ、これらの素材の選択に創作性を認めることはできない。
 また、前記(2)で認定したとおり、電子商取引において販売商品を分類するに当たり、「衣料品・雑貨」という商品ジャンルの分類をすることは、一般的に行われていることであり、ありふれたものと認めることができる。
 そして、証拠(乙16の1、乙19の2)によれば、「衣料品・雑貨」のように特定の商品ジャンルの売上高及び増減率という素材を選択し、それを売上高の大きいものから順に並べて配列することは、一般的に行われていることであり、ありふれたものと認めることができる。
 したがって、原告図表8における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表8についての原告の主張は、理由がない。
(9) 原告図表9
ア 原告図表9の構成、内容
 原告図表9は、主要総合通信販売業者のEC(電子商取引)の売上高、増収率及びそのうちのモバイル売上高という素材を選択し、各社の売上高の順に配列したものである(甲12の22頁)。
イ 原告図表9における素材の選択及び配列についての創作性の有無
 前記(1)で認定したとおり、EC(電子商取引)の「売上高」及び「増収率」という素材を選択することは、一般的に行われており、ありふれたものと認められ、これらの素材の選択に創作性を認めることはできない。
 そして、前記(5)で認定したとおり、「うちモバイル売上高」という素材を選択することは、「携帯通販占有率」と同様に、創作性を認めることはできない。
 また、前記(1)で認定したとおり、それらの素材を売上高の大きいものから順に並べて配列することに、創作性を認めることはできない。
 したがって、原告図表9における素材の選択及び配列は、いずれもありふれた一般的なものであり、原告の個性が発揮されていると認めることはできないから、これらに編集著作物としての創作性を認めることはできない。
 以上によれば、原告図表9についての原告の主張は、理由がない。
(10) 原告の主張について
 原告は、原告各図表が、原告が長年の実績と経験を基に相当の労力を費やして初めて取得することができるデータを、原告が独自の創意工夫を凝らして編集して作成したものであるから、編集著作物に該当すると主張する。
 しかしながら、原告は、原告が編集著作物と主張する原告各図表に凝らしたとする「素材の選択又は配列」についての「独自の創意工夫」の具体的な内容について、主張立証するものでなく、前記(1)ないし(9)において認定したとおり、原告各図表と同様の素材を選択し、原告各図表と同様の配列をした図表は、従前から数多く存在していることが認められる。そうすると、当該データの収集に相当の労力を要したり困難性が認められるか否かはさておくとしても、原告各図表自体は、いずれもありふれた一般的な素材を選択し、一般的な配列をしたものにすぎないといわざるを得ず、これらが編集著作物であると認めることはできない。
 したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
 なお、原告は、原告各図表で使用したデータが、収集に相当な労力を伴うものであり、たやすく収集できるものではない旨るる主張するところ、仮に、編集著作物における素材それ自体に価値が認められたり、素材の収集に労力を要するものであったとしても、素材それ自体が著作物として保護されるような場合を除き、それらの素材や労力が著作権法により保護されるものではない。したがって、仮に、原告がデータの収集に相当の労力を費やし、その保有するデータに一定の価値を認め得るものであるとしても、当該データ自体に著作物性が認められるものでない以上、それらの労力やデータが、原告各図表の編集著作物としての著作物性を根拠付けるものとはなり得ず、原告の前記主張は、失当である。
(11) 小括
 以上によれば、原告各図表は、いずれも編集著作物と認めることはできないが、念のため、原告各図表が編集著作物に該当すると仮定した上で、被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が、著作権法32条1項の「引用」に当たるか否かについて、後記2において検討する。
2 争点(2)ア(被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が、著作権法32条1項の「引用」に当たるか)について
(1) 判断基準
 公表された著作物を引用して利用することができるのは、その引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものである必要がある(著作権法32条1項)。
 ここでいう「引用」とは、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物の中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ(明瞭区別性)、かつ、両著作物の間に、前者が主、後者が従の関係(主従関係)がある場合をいうものと解すべきである(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。
 以上の判断基準に基づいて、被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が著作権法32条1、 項の「引用」に該当するか否かについて、以下、検討する。
(2) 明瞭区別性について
 原告は、被告書籍において、被告各図表に、いずれも「出典:月刊ネット販売」と記載され出典元が明示されていることから、被告書籍における原告各図表の利用行為が「明瞭区別性」の要件を満たすことを争わないところ(前記第3の2(原告の主張)(1))、被告書籍(甲13)において、原告各図表は、いずれも見開き2頁のうち、左側の頁(奇数頁)に被告各図表を、右側の頁(偶数頁)にAの執筆部分を、それぞれ掲載するという体裁により利用されており、図表である被告各図表と、記述であるAの執筆部分とは明確に区別して掲載されていると認められるから、被告書籍の表現形式上、利用する側の著作物であるAの執筆部分と、引用されて利用される側の著作物である被告各図表とを明確に区別して認識することができると認められる。
 したがって、被告各図表は、いずれも「引用」における「明瞭区別性」の要件を満たすといえるので、以下においては、「主従関係」の要件を満たすかについて検討する。
(3) 主従関係について
ア 被告書籍52、53頁(被告図表1の掲載部分)
 被告書籍52、53頁には、偶数頁(52頁)にAの執筆部分が、奇数頁(53頁)に被告図表1が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍52頁のAの執筆部分には、「通販の媒体−インターネットの台頭」という見出しが付けられ、「インターネット通販については、紙やテレビなどの媒体を問わずほぼ全ての通販企業が着手しています。二、三年前までは『補完媒体』でしたが、今や自社基幹媒体に迫る『第二の主力媒体』に成長しました。」という導入部分が記載され、通信販売の媒体としてインターネットの成長を概説した上、本文において、「ネットプライスやマガシークなど、ネット専門の通信販売事業者も活躍しています。」、「インターネット専用の通信販売事業者にとどまらず、ゼイヴェルなどモバイルショッピングの専門事業者も次々に登場しています。」など、通販業界におけるインターネット専門やモバイル専門などのインターネット通販事業者を紹介しつつ、インターネット通販の成長を説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍53頁に掲載された被告図表1は、前記1(1)アの構成、内容の原告図表1の「前期実績」のうち、「PC+携帯売上高」、「携帯売上高」及び「主要商材」の3項目について、売上高が上位30社のものを利用した図表である。
 以上の被告書籍52頁の執筆部分の記載内容、被告書籍53頁に掲載された被告図表1の内容からすれば、被告図表1は、執筆部分においてインターネット通販の成長を説明するに当たり、インターネット通販を実施している事業者が多額の売上高を計上していることを視覚的に分かりやすく伝えるために、執筆部分の補足資料として利用されたものと認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表1が従という関係にあると認めることができる。
イ 被告書籍70、71頁(被告図表2の掲載部分)
 被告書籍70、71頁には、偶数頁(70頁)にAの執筆部分が、奇数頁(71頁)に被告図表2が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍70頁のAの執筆部分には、「老舗通販と新興勢力の攻防」という見出しが付けられ、「カタログを基軸とする大手総合通販は一時に比べ成長の勢いは鈍化。しかし一〇〇〇億円規模の年商を維持する企業もあり、業界のけん引役です。ただここに来て、インターネットを武器に通販市場に参入する新興勢力も目立ち始めました。老舗通販も従来の殻から脱却し、多様な取り組みで対抗する必要に迫られています。」という導入部分が記載され、通販業界において老舗大手業者と新興勢力業者との販売競争が発生していることを概説した上で、本文において、「大手総合カタログ通販の主力商材は女性ファッション衣料ですが、顧客年齢層が上がってきたことから、各社とも二〇代から三〇代前半の新規客開拓が急務です。ライバルとなるのがネット通販を中心に勢いを伸ばしているゼイヴェルやスタートトゥデイ、スタイライフなど。」、「ジャパネットたかたも〇七年のネット売上高は二二〇億円と好調ですが、家電やパソコン系ではメーカー直販や家電量店等のネット通販が急速に活発化。」、「雑貨では、ネットでギャザリング手法を用いて成長してきたネットプライスドットコムが、年商一三二億円を達成。インテリア雑貨のセレクチュアーなどが、トレンドを掴む迅速さや顧客との双方向展開で通販市場に食い込んでいます。」、「家具はディノスや千趣会、ムトウなどが自社総合通販サイトとは別に家具・インテリア専用のサイトを開設し販促を強化。」など、具体的な社名や売上額を挙げるなどして、商品ジャンル別に老舗大手業者と新興勢力業者との販売競争の内容を具体的に説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍71頁に掲載された被告図表2は、円グラフを平面化するなど若干の体裁の差異があるものの、前記1(2)アの構成、内容の原告図表2を、ほぼそのまま利用した図表であり、EC(電子商取引)上位150社の商品ジャンル別売上高シェアを円グラフで表記したものである。
 以上の被告書籍70頁の執筆部分の記載内容、被告書籍71頁に掲載された被告図表2の内容からすれば、被告図表2は、執筆部分において、通販市場における老舗大手業者と新興勢力業者との販売競争を商品ジャンル別に具体的に説明するに当たり、電子商取引市場における商品ジャンル別の売上高シェアを、読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものと認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表2が従という関係にあると認めることができる。
ウ 被告書籍86、87頁(被告図表3及び被告図表4の掲載部分)
 被告書籍86、87頁には、偶数頁(86頁)にAの執筆部分が、奇数頁(87頁)に被告図表3及び被告図表4が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍86頁のAの執筆部分には、「勢い増すインターネット通販」という見出しが付けられ、「『月刊ネット販売』が〇七年秋にまとめた上位一五〇社のネット通販売上高は前年比一〇%増の九五八二億円。BtoC(消費者向け)電子商取引市場は〇六年に二兆円を超えました。」という導入部分が記載され、通販業界におけるインターネット通販の成長を概説した上で、本文において、「ジャンル別のシェアでは『衣料品』や『雑貨』のシェアが高く、これらジャンルの新興プレーヤーは…ネット専門企業です。大手カタログ通販企業でもネット通販のシェアが急速に広がっており、千趣会やニッセンでは…全売上高の半分を占めるまで成長しました。さらに衣料品や雑貨を扱う店舗やメーカーのネット通販本格化も、市場全体を押し上げています。」、「さらに注目すべきは『家電』『パソコン』『書籍』ジャンルの伸長で、トップのアマゾン…をはじめベスト三〇にはこれら企業が一五社ランクイン。この三ジャンルとネット通販の親和性がいかに高いかを見せつけています。」など、具体的な社名、売上額や商品ジャンルを挙げるなどして、通販業界におけるインターネット通販の成長を説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍87頁に掲載された被告図表3は、前記1(3)アの構成、内容の原告図表3を、ほぼそのまま利用した図表であり、平成17年度及び平成18年度の電子商取引市場における「総合」、「衣料・アクセサリー」等の商品ジャンルごとの売上高を、数値及び棒グラフで表記したものである。また、被告図表4は、円グラフを平面化するなど若干の体裁の差異があるものの、前記1(4)アの構成、内容の原告図表4を、ほぼそのまま利用した図表であり、平成18年度の電子商取引市場における「総合」、「衣料・アクセサリー」等の商品ジャンル別の売上高のシェアを、円グラフで表記したものである。
 以上の被告書籍86頁の執筆部分の記載内容、被告書籍87頁に掲載された被告図表3及び被告図表4の内容からすれば、被告図表3及び被告図表4は、執筆部分において、通販業界におけるインターネット通販の成長を商品ジャンル別に説明するに当たり、平成17年と平成18年の電子商取引市場の年間売上高の比較、同市場における商品ジャンル別の売上高シェアを、読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものと認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表3及び被告図表4が従という関係にあると認めることができる。
エ 被告書籍88、89頁(被告図表5ないし7の掲載部分)
 被告書籍88、89頁には、偶数頁(88頁)にAの執筆部分が、奇数頁(89頁)に被告図表5ないし7が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍88頁の執筆部分には、「最新メディア、モバイル通販の集客の可能性」という見出しが付けられ、「総務省調査では、〇六年のモバイル(携帯電話)通販ビジネス市場は九二八五億円と前年に比べ三〇%以上拡大。今後モバイル通販はさらに拡大していくでしょう。」という導入部分が記載され、モバイル通販市場の現状と今後の展望につき概説した上で、本文において、「これまでのネット通販では、パソコンの一〇割に対してモバイルは一割の割合で売れればいい、とされていました。けれどもパケット定額制の普及に伴い、〇七年に入ってからモバイル経由はネット通販全体の三割を超える勢いで成長しています。」、「千趣会やニッセンは既に売上高一〇〇億円ラインをクリアし、ムトウやディノス、イマージュなどのカタログ通販も後を追っています。千趣会はオークション事業者のディー・エヌ・エーとともにモバイルファッションサイト『モバコレ』を立ち上げており、今後はこのようなコラボも増えていきそうです。」など、モバイル通販市場の成長について、その要因や経営戦略などを説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍89頁に掲載された被告図表5ないし7は、前記1(5)ないし(7)の各アの構成、内容の原告図表5ないし7の各図表のうち、「前期実績」、「増収率」の二項目を利用した図表であり、それぞれ平成18年の主要カタログ通販事業者、主要ネット通販専業者及び主要モバイル通販専業者の各モバイル通販売上高を表記するものである。
 以上の被告書籍88頁の執筆部分の記載内容、被告書籍89頁に掲載された被告図表5ないし7の内容からすれば、被告図表5ないし7は、執筆部分において、モバイル通販市場の成長について、その要因や経営戦略などを説明するに当たり、モバイル通販を行っている各通販業者のモバイル通販の売上高、増収率を、読者に視覚的に分かりやすく示すための補足資料として利用されたものであると認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表5ないし7が従という関係にあると認めることができる。
オ 被告書籍116、117頁(被告図表8の掲載部分)
 被告書籍116、117頁には、偶数頁(116頁)にAの執筆部分が、奇数頁(117頁)に被告図表8が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍116頁の執筆部分には、「『F1層』ファッションを牽引するネット専業通販の躍進」という見出しが付けられ、「ネット通販専業では家電のストリームや雑貨のネットプライスおよびナチュラム、CD・DVDのツタヤオンライン、ゴルフ用品のゴルフダイジェスト・オンライン、食品のオイシックスなど売上高が数十億〜二〇〇億円の企業が躍進しています。『衣料品・服飾雑貨』は全体の約四分の一を占め、その規模も拡大傾向です。」という導入部分が記載され、ネット通販市場における衣料品・服飾雑貨の市場規模を説明した上で、本文において、「衣料品については、カタログ・テレビ通販企業をはじめユニクロ(ファーストリテイリング)など店舗展開している企業も、かなりのボリュームをネット経由で売っています。中には丸井の通販子会社であるマルイヴォイのように、軸足を意識的にネットへシフトしている企業もあります。」、「ファッションに最も敏感とされる『F1層』…に『旬な情報と商品』を提供し高い反応を得ているいくつかの企業が、最近は急速に力を付け始めました。それが…スタートトゥデイ、マガシーク、ゼイヴェル…などファッショントレンドに強い中堅ネット企業です。」、「モバイル通販中心のゼイヴェルはファッション全般や芸能関係のエンタメ性で盛り上げ、スタートトゥデイやマガシークはブランドを全面に打ち出しています。スタートトゥデイはブランドのディレクターが参加する会員制くちコミサイトも開設し、サイト自体への帰属意識を強める工夫に熱心です。」など、ネット通販市場の衣料品・服飾雑貨部門におけるネット専業通販業者の躍進、当該部門で急速に成長しつつあるネット通販各社を具体的に挙げ、各社における経営戦略などを説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍117頁に掲載された被告図表8は、前記1(8)アの構成、内容の原告図表8を、ほぼそのまま利用した図表であり、平成18年における衣料品・雑貨のネット通販売上高及び増減率を表記するものである。
 以上の被告書籍116頁の執筆部分の記載内容、被告書籍117頁に掲載された被告図表8の内容からすれば、被告図表8は、執筆部分において、ネット通販市場の衣料品・服飾雑貨部門におけるネット専業通販業者の躍進状況を説明するに当たり、販売各社の衣料品・雑貨のネット通販の売上高や増減率を、読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものと認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表8が従という関係にあると認めることができる。
カ 被告書籍114、115頁(被告図表9の掲載部分)
 被告書籍114、115頁には、偶数頁(114頁)にAの執筆部分が、奇数頁(115頁)に被告図表9が、それぞれ掲載されている(甲13)。
 被告書籍114頁の執筆部分には、「総合通販化が加速するガリバー企業のアマゾン」という見出しが付けられ、「アマゾンジャパンの二〇〇六年度ネット通販売上高は、前年比四五%増の一六〇〇億円(『月刊ネット販売』調べ)。同誌のネット販売ランキングでは、二位のデルに約一〇〇〇億円もの差をつけトップとなりました。生活雑貨や家電など取り扱いジャンルの大幅拡大により『総合通販』として君臨しています。」という導入部分が記載され、ネット通販におけるアマゾンジャパンの総合通販業者としての躍進状況を概説した上で、本文において、「アマゾンは書籍やCDなどで獲得した膨大な数の顧客に対し、雑貨や家具・家電、化粧品、健康食品などさまざまな商材の販売を開始。ベビー・マタニティ用品の専門コーナーを立ち上げたのをはじめ、昨年一〇月にはこれまで扱わなかった衣料品販売にも着手したのです。そして、書籍などで培った顧客データをもとに、精度の高いレコメンデーション(推奨システム)を行い、これら商品の『合わせ購入』を誘発しました。」、「さらに、EC業界の注目を集めたのは、昨年四月に参入した仮想モール事業『マーチャント@』でしょう。『マーチャント@』がヤフーや楽天などの先行モールと大きく異なるのは、お金を払えば出店できるという既存形式ではなく、参加はアマゾンによる『招待制』という点。米国や英国、ドイツでも同じ手法で展開しており、優良出店者を集めることでクオリティを高め集客につなげる考えのようです。日本では一年足らずでおよそ一二〇社が参加しています。書籍やCDジャンル限定で中小事業者向け委託販売サービスも手がけており、『マーチャント@』も合わせネット通販のポータル機能拡大を図ります。」など、ネット通販におけるガリバー企業であるアマゾンジャパンが総合通販事業の展開を加速させていることについて、その具体的な経営戦略なども挙げながら説明する記載がされている。
 他方で、被告書籍115頁に掲載された被告図表9は、前記1(9)アの構成、内容の原告図表9を、ほぼそのまま利用した図表であり、「主要総合通販のEC売上高」という表題で、主要な総合通販業者の売上高、増収率及び売上高のうちのモバイル売上高を表記するものである。
 以上の被告書籍114頁の執筆部分の記載内容、被告書籍115頁に掲載された被告図表9の内容からすれば、被告図表9は、執筆部分において、ネット通販におけるガリバー企業であるアマゾンジャパンが総合通販事業の展開を加速させていることを説明するに当たり、電子商取引においてアマゾンジャパンが最も多額の売上高を計上しており、2位の企業と相当の差を付けてトップに君臨していることを、読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものと認めることができるから、Aの前記執筆部分が主、被告図表9が従という関係にあると認めることができる。
(4) まとめ
 以上のとおり、被告各図表は、いずれも、被告書籍の表現形式上、利用する側の著作物であるAの執筆部分と明確に区別して認識することができると認められ、また、偶数頁に掲載されたAの執筆部分の記載内容を、読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものにすぎず、Aの執筆部分が主、被告各図表が従という関係にあると認めることができる(なお、Aは、引用文献として被告各図表のみを利用するものではなく、社団法人日本通信販売協会(JADMA)、株式会社工業市場研究所、通販新聞社等を出典元とする図表を、適宜、引用しているものと認められる(甲13)。)。
 そして、被告書籍における原告各図表の利用行為が上記のようなものであり、また、原告各図表の利用に当たり、「出典:月刊ネット販売」と明記されていることからすれば、被告書籍に被告各図表を掲載した被告の行為は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めることができる。
 したがって、仮に、原告各図表が編集著作物であるとしても、被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は、著作権法32条1項の引用に該当し、適法なものと認めることができる。
3 小括
 以上によれば、原告各図表は、編集著作物とは認められず、また、被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は、著作権法32条1項の引用に該当すると認められるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、理由がない。
第5 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 岩崎慎
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