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【事件名】類似「黒烏龍茶」事件
【年月日】平成20年12月26日
 東京地裁 平成19年(ワ)第11899号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年10月17日)

判決
原告 サントリー株式会社
同訴訟代理人弁護士 佐藤恒雄
同訴訟復代理人弁護士 津田義裕
同訴訟代理人弁護士 池原元宏
同 川崎菜穂子
同 大橋卓生
被告 株式会社オールライフサービス
被告 日本ヘルス株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 野田信彦
同 淺野高宏
同補佐人 弁理士小谷武
同 木村吉宏
同 奥村陽子


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して金487万6256円及びこれに対する平成19年6月13日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社オールライフサービスは、原告に対し、金110万円及びこれに対する平成19年6月13日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告と被告株式会社オールライフサービスとの間においては、原告に生じた費用の25分の24と被告株式会社オールライフサービスに生じた費用の25分の24を原告の負担とし、その余は被告株式会社オールライフサービスの負担とし、原告と被告日本ヘルス株式会社との間においては、原告に生じた費用の16分の15と被告日本ヘルス株式会社に生じた費用の16分の15を原告の負担とし、その余は被告日本ヘルス株式会社の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙被告商品表示目録1若しくは同目録2記載の標章又は「黒烏龍茶」の標章を使用した食品を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸出若しくは輸入してはならない。
2 被告らは、その製造又は譲渡に係る食品の広告に、別紙被告商品表示目録1若しくは2記載の標章又は「黒烏龍茶」の標章を付して展示若しくは頒布し、又は同広告を内容とする情報に同標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
3 被告らは、別紙被告商品表示目録1又は2記載の包装、同包装を印刷する原版、同包装を使用した食品及び同包装を付した広告を廃棄せよ。
4 被告株式会社オールライフサービスは、インターネット上において開設するウェブサイトから、別紙被告商品表示目録2記載の標章を抹消せよ。
5 被告株式会社オールライフサービスは、別紙被告商品表示目録記載の広告又は表示及び「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍サントリーなんかまだうすい!」との文言を付した広告又は表示をしてはならない。
6 被告株式会社オールライフサービスは、インターネット上において開設するウェブサイトから、別紙広告表示目録記載の表示及び「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍サントリーなんかまだうすい!」との表示を抹消せよ。
7 被告株式会社オールライフサービスは、「サントリー」(登録番号第4553625号)若しくは「SUNTORY」(登録番号第4539080号)の登録商標を使用し、食品に関する広告に同登録商標を付して展示若しくは頒布し、又は同広告を内容とする情報に同登録商標を付して電磁的方法により提供してはならない。
8 被告株式会社オールライフサービスは、インターネット上において開設するウェブサイトから、「サントリー」(登録番号第4553625号)又は「SUNTORY」(登録番号第4539080号)の登録商標の表示を抹消せよ。
9 被告株式会社オールライフサービスは、別紙原告商品表示目録記載の原告商品の画像を使用し、食品に関する広告に同原告商品の画像を付して展示若しくは頒布し、又は同広告を内容とする情報に同原告商品の画像を付して電磁的方法により提供してはならない。
10 被告株式会社オールライフサービスは、インターネット上において開設するウェブサイトから、別紙原告商品表示目録記載の原告商品の画像を抹消せよ。
11 被告らは、原告に対し、連帯して金3919万2900円並びに内金2433万2628円について平成19年6月13日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員及び内金1486万0272円について平成20年2月14日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
12 被告株式会社オールライフサービスは、原告に対し、金952万7784円及びこれに対する平成19年6月13日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
13 被告株式会社オールライフサービスは、日本経済新聞の全国版の朝刊に別紙謝罪文目録1記載の要領で謝罪文を1回掲載せよ。
14 被告日本ヘルス株式会社は、日本経済新聞の全国版の朝刊に別紙謝罪文目録2記載の要領で謝罪文を1回掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、@被告ら両名において、原告の周知又は著名な商品表示と類似する2種類の商品表示を付した各商品を製造及び販売したとして、被告ら両名に対し、不正競争防止法2条1項1号又は2号(これらの各号に基づく請求の関係は、選択的である。以下同じ。)、3条1項、2項の規定による被告の各商品の製造等の差止め及び包装等の廃棄並びに同法2条1項1号又は2号、4条の規定による損害賠償金合計3919万2900円及びこれに対する民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、A被告株式会社オールライフサービス(以下「被告オールライフサービス」という。)において、そのウェブサイト上で、被告の商品の品質等を誤認させ、虚偽の事実によって原告の商品を中傷する広告を掲載し、かつ、同広告により原告の商標権及び著作権を侵害したとして、被告オールライフサービスに対し、同法2条1項13号又は14号(同項14号に関する請求が主位的であり、同項13号に関する請求が予備的である。以下同じ。)、3条の規定による誤認惹起行為及び虚偽事実流布行為の差止め、商標法36条1項の規定による商標権侵害行為の差止め、著作権法112条1項の規定による複製権侵害行為の差止め並びに不正競争防止法2条1項13号又は14号、4条、民法709条の規定による損害賠償金合計952万7784円及びこれに対する前記同様の遅延損害金の支払を求めるとともに、B被告オールライフサービスに対し、上記@及びAの行為に基づき、不正競争防止法2条1項1号又は2号、13号又は14号、14条の規定による信用回復措置、商標法39条、特許法106条の規定による信用回復措置及び民法709条、723条の規定による名誉回復措置を求め、C被告日本ヘルス株式会社(以下「被告日本ヘルス」という。)に対し、上記@の行為に基づき、不正競争防止法2条1項1号又は2号及び14条の規定による信用回復措置を求めた事案である。
1 前提となる事実(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は、食品及び酒類の製造・販売等を行っている株式会社である。
イ 被告オールライフサービスは、食料品及びお茶の製造販売を主たる業務とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
ウ 被告日本ヘルスは、健康食品の受託製造加工及び販売を主たる業務とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告が製造及び販売する商品
ア 原告は、「サントリー黒烏龍茶OTPP」という名称の飲料商品(以下「原告商品」という。)を製造及び販売している。
イ 原告商品の容器の正面の状況は、別紙原告商品表示目録の写真のとおりである。
ウ 原告商品は、コンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストアなど消費者が容易に購入し得る場所において、販売されている。
(3) 原告の商標権
 原告は、次の各商標権(以下、それらを併せて「本件各商標権」といい、それらの登録商標を「本件各登録商標」という。)を有している。
ア 登録番号 第4553625号
 登録商標 サントリー(標準文字商標)
 登録日 平成14年(2002年)3月22日
 出願日 平成12年(2000年)10月4日
 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 1ないし29 省略
  30 コーヒー及びココア、コーヒー豆、茶、調味料、香辛料、食品香料(精油のものを除く。)、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物の加工品、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、菓子及びパン、即席菓子のもと、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、アーモンドペースト、イーストパウダー、こうじ、酵母、ベーキングパウダー、氷、アイスクリーム用凝固剤、家庭用食肉軟化剤、ホイップクリーム用安定剤、酒かす
  31 省略
  32 ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料、ビール製造用ホップエキス
  33及び34 省略
イ 登録番号 第4539080号
 登録商標 Suntory(標準文字商標)
 登録日 平成14年(2002年)1月25日
 出願日 平成12年(2000年)10月4日
 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 1ないし29 省略
  30 コーヒー及びココア、コーヒー豆、茶、調味料、香辛料、食品香料(精油のものを除く。)、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物の加工品、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、菓子及びパン、即席菓子のもと、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、アーモンドペースト、イーストパウダー、こうじ、酵母、ベーキングパウダー、氷、アイスクリーム用凝固剤、家庭用食肉軟化剤、ホイップクリーム用安定剤、酒かす
  31 省略
  32 ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料、ビール製造用ホップエキス
  33及び34 省略
(4) 被告らの行為
ア 被告らは、被告オールライフサービスにおいて、別紙被告商品表示目録1記載の商品表示(以下「被告ら商品表示A」という。)を付した商品(以下「被告ら商品A」という。)を製造して被告日本ライフに納入し、被告日本ライフにおいて、それを小売店を通じて一般消費者に販売する形で、平成18年7月下旬ころから、被告ら商品Aを販売し始めた。
イ 原告は、被告オールライフサービスに対し、平成18年10月20日、不正競争防止法に違反する旨の警告を行ったところ、被告らは、同年11月下旬ころから、別紙被告商品表示目録2記載の商品表示(以下、「被告ら商品表示B」といい、被告ら商品表示Aと被告ら商品表示Bを併せて「被告ら各商品表示」という。)を付した商品(以下、「被告ら商品B」といい、被告ら商品Aと被告ら商品Bを併せて「被告ら各商品」という。)の製造及び販売を始めた(弁論の全趣旨)。
ウ 被告オールライフサービスは、被告ら商品Bの一部を、自ら運営するウェブサイトにおいて、直接、通信販売していた。
(5) 被告オールライフサービスによるインターネット上の表示
 被告オールライフサービスは、インターネット上に開設されたウェブサイトにおいて、別紙広告表示目録記載のとおり原告商品の画像5本半分(2リットル相当)と被告ら商品Bの1包の画像との間に「>」の記号を付し、その下に「1包のティーバッグで2リットルのペットボトル1本を作る事ができます!」と表示し(以下、この表示を「本件比較広告1」という。)、さらに、「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍サントリーなんかまだうすい!」と表示した(以下、この表示を「本件比較広告2」といい、これと本件比較広告1とを併せて、「本件比較各広告」という。)。
2 争点
(1) 原告が原告商品に付した表示(以下「原告商品表示」という。)の周知性又は著名性の有無
(2) 原告商品表示と被告ら各商品表示との類似性の有無
(3) 被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるものといえるか
(4) 被告オールライフサービスが、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は、被告ら商品Bの品質及び内容を誤認させるような表示をしているか
(5) 被告オールライフサービスが、虚偽事実告知又は品質等誤認表示について故意又は過失を有していたか
(6) 被告オールライフサービスが、本件各登録商標を商標として使用しているか
(7) 別紙原告商品表示目録の写真に示されているパッケージデザイン(以下「本件デザイン」という。)の著作物性の有無
(8) 損害発生の有無及びその額
(9) 信用回復措置の要否
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(原告商品表示の周知性又は著名性の有無)について
(原告の主張)
ア 原告が、原告商品の容器包装に自己の製造及び販売する商品であることを示すために付した原告商品表示は、別紙原告商品表示目録の原告商品の正面写真のうち、ペットボトル本体のパッケージ部分正面に表示されているすべての文字、図形及び色彩を結合したものであり、ペットボトルの立体的形状や別紙原告商品表示目録の写真に現れていないペットボトルの両側面及び背面に記載された文字等を含まない。
イ 原告商品表示の著名性
(ア) 著名性の意義
 不正競争防止法2条1項2号の趣旨は、多大の労力と資金を投下して高い信用、名声及び評判を得た著名表示を、その顧客吸引力にフリーライドする、当該著名表示が形成するイメージを拡散する(ダイリューション)、あるいは、そのイメージを汚染する(ポリューション)など、著名表示の価値を減じさせる不正競争行為たる侵害行為を防止することにある。
 このような趣旨から、同号にいう著名性とは、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度に、その表示が知られていることを意味すると解されている。
(イ) 原告商品表示が著名性を有すること
a 原告は、原告商品について、平成18年7月中旬までに200万ケース(1ケースは24本入りである。)を売り上げ、同年5月13日から同年7月下旬ころまでにテレビ、新聞、雑誌、ラジオ、交通広告、屋外広告及びインターネットによる宣伝を集中的に行った。また、原告商品は、その発売前から同年7月下旬ころにかけて、テレビで取り上げられたり、新聞及び雑誌に特集記事が掲載されたりするとともに、平成18年度のヒット商品に対する表彰を受けるなどした(甲1ないし12)。
b 原告商品は、発売当初より、日本全国のコンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストアなど、全国津々浦々で販売されている。コンビニエンスストアでは、発売当初より現在まで99パーセントを超える配荷率を維持し、スーパーマーケットの配荷率は90パーセントを超えており、ドラッグストアの配荷率も80パーセントを超えている(甲45)。これら配荷率の高さからも、原告商品は、日本全国、老若男女や年齢を問わず、日常多くの需要者の目に触れるように販売されてきたことが明らかである。
c 実際、原告商品の知名度に関する過去の調査結果は、原告商品の知名度が極めて高いことを示し、原告商品の著名性を裏付けている。すなわち、平成18年6月中旬ころに実施した知名率調査によれば、原告商品の知名率は73.3パーセントであった(甲46)。平成18年5月16日の発売開始からわずか1か月後の調査であるにもかかわらず、高い知名率が得られたのは、原告による上記a及びbの全国レベルでの原告商品の販売、宣伝広告、広報活動、販売促進活動等の結果である。
d 以上から、遅くとも平成18年7月下旬ころまでに、原告商品表示が全国的に著名となり、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度に、その表示が知られるに至ったといえる。
 なお、その後の平成18年12月中旬ころに実施した知名率調査によれば、原告商品の知名率は81.9パーセントに上昇した。さらに、平成19年7月下旬に実施した知名率調査によれば、原告商品の知名率は88.9パーセントにまで上昇している。このように、現在も継続して行っている原告商品の販売活動や宣伝広告等によって、原告商品の需要者に対する知名度は、その後も着実に伸びている(甲45ないし49)。
ウ 原告商品表示の周知性
 原告商品表示は、上記イのとおり、平成18年7月下旬ころまでには著名性を取得しているのであるから、遅くとも同時期までに、全国の消費者の間において、原告商品を示す表示として広く周知され、周知性を獲得したものといえる。
(被告らの主張)
 原告は、原告商品を平成18年5月16日から日本全国のコンビニエンスストア、ドラッグストアなどで発売したとのことであるが、原告商品発売開始から原告が著名性を獲得したと主張する平成18年7月下旬ころまでは、わずか2か月程度であり、期間があまりに短い。
 そうすると、原告が主張する原告商品の販売数量や宣伝広告、その他、配荷率や知名度調査の内容等を考慮しても、原告商品表示が著名性及び周知性を獲得していたとは到底いえないし、現在でも、原告商品表示が著名及び周知であるとはいえない。
(2) 争点(2)(原告商品表示と被告ら各商品表示との類似性の有無)について
(原告の主張)
ア 類似性の判断基準
 類似性の判断は、取引の実情の下において、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準とし(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁)、その判断は、対比的観察ではなく、離隔的観察によってなされる。
 また、不正競争防止法2条1項2号における表示の類似性は、出所混同のおそれを基準として判断されるものではなく、同号の趣旨がフリーライドやダイリューション、ポリューションなどの著名表示の価値に対する侵害行為を防止するところにあるから、容易に著名表示が想起、連想される表示であれば類似すると解されている。このように、同号の類似性判断においては、出所混同のおそれを基準とする同項1号の場合よりも、広く類似性が認められる。
イ 「黒烏龍茶」は原告商品表示の要部であること
 原告商品表示の要部は、商品名として漢字で表記された「黒烏龍茶」の部分である。一般に、商品名は、商品表示において、需要者の注意を惹きやすいように最も目立つ位置に配置され、大きな文字で表記される。それは原告商品表示においても同じであり、商品名の漢字表記「黒烏龍茶」は、その配置、文字の大きさ、色等において最も目立つように工夫されている。すなわち、「黒烏龍茶」という漢字表記は、原告商品表示のほぼ中央に短冊に囲まれた状態で配置され、両側に配置されている他の縦書きの文字(原告の会社名や「ウーロン茶重合ポリフェノール70mg」など)と比較してもはるかに大きな文字で記載され、かつ、色彩上、背景色が黒で、短冊の色がこげ茶を基調としているのに対して、アイボリー抜きで目立つように配色されている。このように、需要者が通常最も注目する商品名であり、実際の表示においても最も目立つように工夫された「黒烏龍茶」が、原告商品表示の要部となるのは当然である。
ウ 要部である「黒烏龍茶」以外の原告商品表示の7点の特徴
(ア) 上記イの要部のほか、原告商品表示の外観に含まれる次の7点の特徴も、需要者の印象、記憶に強く残ると考えられる。
@ 包装パッケージ全体に黒色の背景を使用する点
A 商品正面中心部に短冊を配置し、その短冊内に、ほぼ全体を占めるように大きく縦書きで、「黒烏龍茶」と漢字で明記する点
B 「黒烏龍茶」の字体に明朝体を使用している点
C 短冊の中の背景色を茶色にしている点
D 短冊の囲みを二重線にしている点
E 包装パッケージの縁取りを金色の唐草模様としている点
F 短冊の右側に金色の文字で「ウーロン茶重合ポリフェノール70mg」と記載している点
 すなわち、不正競争防止法2条1項2号の類似性との関係でみれば、「黒烏龍茶」と類似する表示のみならず、これらの特徴をも備える商品表示を目にした需要者は、原告商品表示をより容易に想起、連想することになる。また、これらの特徴は、同項1号の類似性、すなわち、出所混同のおそれが生じるか否かの判断においても重要な判断要素となる。
(イ) 被告らの主張に対する反論
a 被告らは、「サントリー」及び「Suntory」という商標部分、特定保健用食品であることを示す文字や図形並びに「脂肪の吸収を抑える」及び「OTPP」という文字部分を、類似性判断において考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、類似性の判断は、上記のとおり、離隔的観察によってなされるところ、このような方法においては、需要者の印象及び記憶に強く残る特徴が考慮されるべき要素となる。そして、本件においては、要部である「黒烏龍茶」の表示及び上記7点の特徴がこれに当たり、被告らの主張に係る各部分は、文字の大きさや商品表示全体における配置からして、需要者の印象、記憶に強く残るものではなく、離隔的観察による類似性判断において考慮すべき特徴ではない。
b 被告らは、「サントリー」及び「Suntory」という商標部分が原告商品の識別に欠くべからざるものである旨主張する。
 しかしながら、需要者は、常に、商品名とともに付されているメーカーないし販売元の表示を注意深く観察するわけではなく、むしろ、原告商品のような飲料商品については、最も目立つ商品名やパッケージの全体のイメージ等から商品を判別している。
 そもそも、商品表示の中にメーカー名を表す商標を付すことは通常行われていることであるから、表示の形状及び態様にかかわらず、常にメーカーないし販売元の表示が「原告商品の識別に欠くべからざるもの」になるとすれば、著名な自社商標を付している商品表示は常に保護されないという極めて不合理な結果を招来する。
c 被告らが主張する次の@ないしCの各表示は、需要者の注意を惹くものではなく原告商品、 表示と被告ら各商品の表示の外観において、そのような差異があったとしても、類似性の判断には何ら影響しない。
@ 「サントリー」及び「Suntory」の各表示について
 これらの表示は、商品名の「黒烏龍茶」の表示と比べて、かなり小さい文字で記載されており、また、これらの表示が商品名である「黒烏龍茶」の認識に支障がないように配置されているから、殊更に目立つものではない。また、宣伝や記事等で「サントリー黒烏龍茶」と表記されているが、殊更に「サントリー」及び「Suntory」を強調するような宣伝をしておらず、「黒烏龍茶」が目立つように宣伝等を行っているのであるから、需要者は、「サントリー」及び「Suntory」の各表示を意識するものではない。
 そもそも、「サントリー」及び「Suntory」は、原告の商号の略称であり、原告の商品には必ず表示しているものであって、このような表示があるというだけで、個別商品を識別できるものではない。
 また、商品表示の中にメーカーを示す商標を付すことは、原告に限らず、一般的に行われていることであり、被告らの提出した証拠からも明らかである(乙45、48ないし52)。
A 特定保健用食品であることを示す文字や図形について
 特定保健用食品であることを示す「厚生労働省許可(特定保健用食品)」との表示は、当該商品が一定の性質を有することを意味するにすぎず、特定保健用食品の許可を得た場合、必ず表示されるものであり、原告商品に特有のものでなく、一般に広く使用されている用語である。また、この表示は商品名の「黒烏龍茶」に比べて、小さな文字で記載され、漢字が多く、文字数も多いことから、需要者の記憶に残るようなものではない。
 特定保健用食品であることを示す図形も同様に、特定保健用食品であれば、必ず付されている図形であり、原告商品に特有のものではない。
B 「OTPP」の表示について
 「OTPP」とは「Oolong Tea Polymerized Polyphenols」の各単語の頭文字から原告が作った造語であるが、積極的に宣伝広告等で使用してもおらず、需要者の注意を惹くものではない。
C 「脂肪の吸収を抑える」の表示について
 この表示は、原告商品の機能を説明するものであり、類似性の判断には影響しない。
エ 原告商品表示と被告ら各商品表示とが類似していること
(ア) 原告商品表示と被告ら商品表示Aとの類似性
a 不正競争防止法2条1項2号の類似性について
 被告ら商品表示Aの要部は、文字の大きさや配置から需要者の注意を惹く「黒烏龍茶」という漢字表記である。したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Aとは、その要部である漢字表記「黒烏龍茶」という外観において一致し、「黒烏龍茶」という漢字表記から生じる称呼「クロウーロンチャ」及び観念においても一致する。
 それだけでなく、被告ら商品表示Aは、原告商品表示の上記7つの特徴をいずれも満たしている。これに原告商品表示の著名性をも考え併せれば、需要者は、被告ら商品表示Aに接した場合、上述の原告商品表示との共通性により、原告商品表示を容易に想起・連想する。
 よって、原告商品表示と被告ら商品表示Aとは類似している。
b 不正競争防止法2条1項1号の類似性
 被告ら商品表示Aは、上記aのとおり、原告商品表示中の「黒烏龍茶」及び需要者の印象及び記憶に残る7点の特徴がことごとく共通する。
 そして、原告商品表示の周知性をも考え併せれば、需要者がこのような被告ら商品表示Aに接した場合、上記原告商品表示との共通性により、被告ら商品Aは、原告の商品ラインナップの1つであるとか、原告と被告らとの間の提携関係により発売されているものと混同されるおそれがある。
 したがって、被告ら商品表示Aは、原告商品表示に類似している。
(イ) 原告商品表示と被告ら商品表示Bとの類似性
a 不正競争防止法2条1項2号の類似性について
 被告ら商品表示Bにおいては、「黒濃」と漢字で縦書きし、それに続けて「烏龍茶」と漢字で横書きされている。
 しかしながら、「烏龍茶」の文字はあえて「黒」と「濃」との中間あたりを軸に配置され、パッケージの形状は横長となっている。このような文字の配置及びパッケージの形状により、普段、著名な表示として原告商品表示を目にしている需要者は、被告ら商品表示Bに接したとき、「黒濃」の「黒」と「烏龍茶」とがまず目に入り、左から右に両者を併せて「黒烏龍茶」と読んでしまう。
 不正競争防止法2条1項2号の類似性は、混同するか否かではなく、あくまでも著名表示を容易に想起、連想するか否かによって判断される。「黒烏龍茶」と需要者に読ませるような文字の配置及びパッケージの形状に加え、包装パッケージ全体に黒色の背景を使用する点、金色の文字で烏龍茶ポリフェノールが含まれていることを強調する点などの両表示の共通性並びに原告商品表示が著名であることに鑑みれば、被告ら商品表示Bの外観に接した需要者が、上述のように「黒濃」の「黒」と「烏龍茶」を併せて「黒烏龍茶」と読み、そこから原告商品表示を容易に想起・連想することは明らかである。
 したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Bとは類似している。
 なお、原告商品や被告ら商品のような飲料商品は、日常的に、小売店で実物が陳列販売され、需要者は、その外観で商品を瞬時に識別する。しかも、飲料商品は、大量に日々消費され、値段も低廉であることから、需要者は、商品表示に厳密な注意を払わずに購入することが通常である。被告ら商品Bの「黒濃」及び「烏龍茶」の表記とそれらの不自然な文字の配置は、このような需要者の習慣、心理を巧みに利用したものである。商品表示に厳密な注意を払わずに被告ら商品Bを一見した需要者は、目に入りやすい「黒」と「烏龍茶」を、左から右に両者を併せて「黒烏龍茶」と読んでしまい、そのように読んだ需要者は、原告商品表示を容易に想起、連想することになる。
b 不正競争防止法2条1項1号の類似性について
 原告商品表示と被告ら商品表示Bとは、原告商品表示中の「黒烏龍茶」と被告ら商品表示Bにおける「黒濃」の「黒」及び「烏龍茶」を合わせた「黒烏龍茶」との外観の共通性、それらから生じる称呼及び観念の共通性に加え、包装パッケージ全体に黒色の背景を使用する点、金色の文字で烏龍茶ポリフェノールが含まれていることを強調する点において共通性を有する。
 しかも、飲料商品は、上記aのとおり、商品表示に厳密な注意を払わずに購入されるものであり、被告ら商品Bの「黒濃」及び「烏龍茶」の表記とそれらの不自然な文字の配置により、需要者が「黒烏龍茶」と読むおそれが十分にあること、原告商品表示が高い周知性を有することを考え併せれば、上記原告商品表示との共通性により、被告ら商品Bは、原告の商品ラインナップの1つであるとか、原告と被告らとの間の提携関係により発売されているものと混同されるおそれがある。
 したがって、被告ら商品表示Bは、原告商品表示に類似している。
(ウ) 被告ら各商品の製造及び販売が一連の不正競争行為として評価されるべきものであること
 被告ら商品A及びBの製造及び販売は、原告の著名な商品表示にフリーライドすることを意図した同一業者による密接に関連した一連の行為である。したがって、被告ら商品Bの製造及び販売行為については、あからさまな模倣行為である被告ら商品Aの製造及び販売と切り離して評価すべきではない。
 そして、原告が被告ら商品Aに対して不正競争防止法に違反すると警告したところ、被告ら商品表示Aを被告ら商品表示Bに変更して被告ら商品Bを販売したという一連の経緯を踏まえつつ、被告ら商品表示Bを評価すれば、被告ら商品Bの製造及び販売も、被告ら商品Aの製造及び販売と同様、原告商品表示の著名性にフリーライドする目的の下になされたものであり、不正競争防止法によって禁止されるべき不正競争行為に該当することは明らかである。
オ 「黒烏龍茶」に識別力がないという被告の一連の主張に対する反論
(ア) 「黒烏龍茶」は自他識別力を有すること
 原告商品表示に商品名として漢字で表記された「黒烏龍茶」は、原告が考案した造語であり(甲50)、それ自体自他識別力を有する。
 まず、「黒烏龍茶」は普通名称ではない。普通名称とは、典型的には指定商品と同一の名称の場合であり、当該商品の一般的名称として国民の間に広く認識されているものをいうが、原告商品が発売されるまでの間、商品名として「黒烏龍茶」を使用した烏龍茶は、わが国において発売されていない。「黒烏龍茶」という名称の茶葉も存在せず、わが国において特定の飲料ないし茶葉が「黒烏龍茶」という名称で呼ばれていたという慣習等も存在しない(甲26ないし35)。このように「黒烏龍茶」は、特定の商品の一般名称として国民の間に認識されておらず、普通名称ではない。
 確かに、「烏龍茶」自体は普通名称であると考えられるが、「烏龍茶」に「黒」を付加する理由はなく、「黒」と「烏龍茶」を結び付けることに必然性はない。また、原告商品(内容物)の色は、通常の「烏龍茶」よりも濃い茶色であるが、黒ではない。よって、原告商品の内容、品質等から、「烏龍茶」に「黒」を付けて称呼するという発想は出てこない。さらに、中国茶の分類から考えても、青茶である烏龍茶と黒色とは結び付かない(甲26ないし35)。なお、「黒」と「烏龍茶」を結び付けることに必然性がないことは、原告商品が販売されるまで、商品名として漢字表記「黒烏龍茶」を使用した烏龍茶はわが国において発売されていない事実からも裏付けられる(甲50)。
 それだけでなく、「黒烏龍茶」の本来有する上記識別力に加えて、原告による全国レベルでの原告商品の販売、宣伝広告、広報活動、販売促進活動等により(甲1ないし12、47ないし49)、「黒烏龍茶」の漢字表記は、平成18年7月下旬ころまでに、原告商品の商品名として更に強固な識別力を備えていたものである。
(イ) 被告らの個々の主張に対する反論
a 原告ウェブページの表現について
 原告は、そのウェブページで、原告商品を紹介するに当たって、「中国の濃いウーロン茶」や「黒い」という表現を用いているが、昔から中国に「黒烏龍茶」が存在したという表現は用いていない。中国において、濃いウーロン茶は、「功夫茶」、「工夫茶」や「?茶」などと呼ばれている(甲26の34頁、27の56頁、50、乙1)。
b 性質に由来する機能的な表現ではないことについて
 「黒烏龍茶」が、単に原告商品の性質に由来する機能的な表現でないことは、被告らが認めるとおり、原告商品(内容物)の色が黒でないことからも明らかである。原告は、ウーロン茶重合ポリフェノールの作用とその機序を解明し、原告独自の製法によりカフェインを増やさず、ウーロン茶重合ポリフェノールを豊富に含ませることによって、脂肪の吸収を抑え、血中中性脂肪の上昇を抑制する商品を開発し、特定保健用食品の許可を得た。このような機能の象徴として健康感を感じさせる「黒」を用いたのである(甲1、50)。これは原告独自の発想によるものであり、液色等の外観上の性質に由来する機能的な表現ではない。
c アサヒビール株式会社(以下「アサヒビール」という。)の商標「黒ウーロン茶」の存在について
 原告は、原告商品が発売される以前に、アサヒビールの「黒ウーロン茶」が商標登録されていた事実は争わないが、単に商標登録されているという事実だけで、「黒ウーロン茶」、ましてや、漢字表記の「黒烏龍茶」が普通名称化するはずがない。
d 「黒」と「茶」との結び付き
 被告らは、「黒」と「茶」という文字が使われた登録商標や商標出願を挙げているが、これらの登録や出願の事実によって、「黒烏龍茶」が普通名称であるということにはならない。被告らがいくら烏龍茶以外の「茶」と「黒」の結びついた例を取り上げたところで、原告商品が発売されるまで、わが国において「黒烏龍茶」という商品は発売されていなかったという事実を覆すことはできない。
 なお、被告らが「黒烏龍」という表現が商品の普通名称として捉えられている根拠として挙げる、「醗酵極黒烏龍茶」(乙20)、「黒烏龍」(乙21)及び「TAKARA/黒烏龍」(乙22)は、いずれも原告商品が発売されて、ヒット商品となり、かつ、原告商品表示が著名性を有してから出願されたものである。
e 伊藤園のウェブページについて
 被告らは、株式会社伊藤園(以下「伊藤園」という。)の「ウーロン茶」に関して、平成18年2月付けの同社ウェブページのニュースリリース(乙4号証)の記載(「ウーロン茶(通称:ブラックウーロン)」)を根拠に、同社が「ブラックウーロン」ないし「黒烏龍茶」のネーミングを原告商品よりも以前から使用していた旨主張する。
 しかしながら、伊藤園が「通称」をいかなる意味で使っているのかは不明であるものの、少なくとも、同社商品の「ウーロン茶」の販売名として使っていないことは、同社のウェブページの「ウーロン茶」の商品紹介ページを見れば明らかである(甲36)。また、伊藤園が上記「通称:ブラックウーロン」を同社の「ウーロン茶」の販売活動において使用していたことを示す根拠は何もなく、実際、同「通称」は、一般的にも全く認知されていない。そして、伊藤園の「ウーロン茶」を扱う業者のウェブページにおいても、同商品の「通称」として「ブラックウーロン」と記載しているものは見当たらない(甲37)。
 そもそも、インターネットの歴史からすれば、伊藤園のウェブページが開設されたのはそれほど昔のことではないから、被告らの指摘する記載からは、その時期はもちろんのこと、伊藤園が「ブラックウーロン」を通称として実際に用いてきたのかも不明である。
 更にいえば、伊藤園が「ブラックウーロン」を自社商品の通称として用いていたか否かということは、「黒烏龍茶」が普通名称であるか、あるいは、機能的な表現であるかという議論とは何の関係もない。
f 消費者の理解について
 被告らは、「烏龍茶」の漢字表記が商品に付された例を挙げ、原告の商品である「烏龍茶」に慣れ親しんだ消費者が、原告商品表示の「黒烏龍茶」の表記を目にしたとき、これを商品の普通名称を表示していると認識する旨主張する。
 しかしながら、「烏龍茶」という表示を目にした消費者がこれを普通名称であると理解するとしても、「烏龍茶」に「黒」を付す必然性がない以上、それをもって、「黒烏龍茶」を見た消費者がこれを普通名称と認識するという根拠にはならない。また、原告の「烏龍茶」とパッケージデザインが似ているかということと、一般消費者が「黒烏龍茶」を普通名称と認識するかということとの間には何ら論理的な必然性がない。
g 「黒烏龍茶」を用いた商標及び商品について
 被告らが指摘している「黒烏龍」の表現が用いられて出願されている商標(乙20ないし22、41ないし52、65ないし67、124)は、いずれも原告商品が発売され、原告商品表示が著名になった後に出願されたものであり、従来から「黒烏龍茶」が普通名称として使用されてきたことを示すものではない。
 また、原告商品表示の特徴を有している商品として被告らが指摘する商品(乙27ないし38、)は、原告が調査した限り、いずれも原告商品が発売され、ヒットした後に販売されるようになったものである。
 したがって、いずれも原告商品表示の特徴を否定する根拠とはなり得ない。
(被告らの主張)
ア 原告が指摘していない原告商品表示の要素について
(ア) 原告は、ペットボトルの立体的形状は原告商品の著名性又は周知性を構成する要素ではないと主張するが、上述のように、原告商品はすべてペットボトルで販売され、そして、ペットボトル全体が宣伝広告において商品表示として掲載されているのであるから、原告の主張にかかわらず、需要者らの認識においては、ペットボトルは欠くことのできない要素である。
(イ) 原告は、「サントリー」及び「Suntory」という商標部分や、特定保健用食品であることを示す文字や図形などが、需要者の印象及び記憶に残るものではなく、需要者は常に商品名とともに付されているメーカーないし販売元の表示を注意深く観察するわけではない旨主張する。
 しかしながら、原告がこれまで販売してきた数多くの食品の販売において、「サントリー」のブランド力及びブランド価値が需要者の商品選択において重視されていることは、明らかであり、需要者は、「サントリー」の製品であるからこそ、その長年培われたブランド価値を信頼して原告商品を購入しているのである。また、その購入の動機も、食事の際の脂肪の吸収を抑えるという現代人が喜ぶ機能がうたわれており、それが特定保健用食品マークよって保証されているからこそである。
 したがって、原告商品において「サントリー」及び「Suntory」という商標部分と特定保健用食品であることを示す文字や図形は、欠くことのできない要素であり、類似性の判断もこれらの不可欠な要素に着眼した上で対比する必要がある。そうすると、原告商品と被告らの商品が外観、観念及び称呼において全く異なることは明らかであり、類似性が肯定されることはあり得ない。
(ウ) 原告は、需要者が商品購入の際にメーカー名や販売社名に無関心である旨主張する。
 しかしながら、需要者は、商品、特に食品の原材料とその産地、製法、製造時期、賞味期限、メーカー及び販売者について敏感になっているといえ、商品購入の際には、必ずJAS法などで定められている「食品表示」を確認した上で、商品を購入していると考えられる。したがって、需要者は、被告商品を購入する場合においても、常に裏面や側面の食品表示を確認し、原告商品ではないことを知った上で購入している。
(エ) 原告は、「サントリー」及び「Suntory」の表示が需要者の注意を惹くものではない理由として、それらが小さいことを挙げているが、商品名である「黒烏龍茶」が大きく、「サントリー」等の表示が小さいことは、ラベリングの手法として当然のことであり、原告商品表示においては、「サントリー」という商標部分が「黒烏龍茶」の枠内に一部入り込んで一体感を出している以上、「黒烏龍茶」の商品名が、原告の「サントリー」という商標部分と一体的に需要者に認識される。
 実際にも、原告商品の宣伝広告物においては、原告商品がペットボトルに入った状態で表示された上、「サントリー」の文字と「黒烏龍茶」の文字とが常に一体として表示されており、テレビコマーシャルにおいても、「サントリー黒烏龍茶」と呼ばれ、「サントリー」と「黒烏龍茶」とが一連一体のものとされてきた。
 加えて、「黒烏龍茶」という表現が、「黒いラベルのウーロン茶」、「色が濃いウーロン茶」などのように認識され、識別性を欠くか、それが極めて弱い名称であることから、需要者らは、原告商品を、「サントリーの黒烏龍茶」と認識しているというべきである。
(オ) 原告は、特定保健用食品であることを示す文字や図形についても、商品の一定の性質を意味するにすぎず、特定保健用食品には必ず表示される用語であるので、需要者の記憶に残るものではないと反論するが、原告商品が特定保健用食品であることが、肥満等の悩みを解消したいという、需要者の原告商品購入の動機になっていることは間違いない。
 原告商品の宣伝広告物(甲4以下)でも、「中性脂肪に告ぐ」などと題し、また、「特保」の文字も多用して、原告商品が脂肪の吸収を抑える特定保健用食品であることを最大の売り物としている。
(カ) 原告は、「OTPP」の表示についても、需要者の注意を惹くものではないとするが、造語である以上、需要者の記憶に全く残らないという性質の文字ではなく、商品識別のための機能を有している。
 実際にも、原告は、「OTPP」の文字を商標登録しており(乙57、58)、かつ、太文字のゴシック体で記載して強調し、積極的に宣伝広告を行っている(甲11)。
(キ) 原告は、「脂肪の吸収を抑える」という表示についても、機能を説明するものであり、類似性の判断に影響しない旨反論するが、これこそ原告商品の最大の機能なのであるから、需要者がそのフレーズを覚えてしまう程度に商標的な機能を果たしているのである。
イ 取引の実情について
 被告ら商品Aにおける、中央に配置された商品の普通名称が長方形によって囲まれているという表示方法、黒色のラベル、唐草模様状の縁取り、「烏龍茶ポリフェノール含有」の文字などは、すべて茶飲料業界において普通に使用されている表示方法なのであり、それらの部分が類似しているからといって、原告商品表示が慣用的な表示方法の組合せにすぎない以上、不正競争防止法上は何ら非難されるべきものではないのである。
ウ 黒烏龍茶」が原告商品表示の要部である旨の原告主張について
(ア) 原告は「黒烏龍茶」が原告商品表示の要部であると主張するが、証拠上被告らが知り得る範囲では、「黒烏龍茶」の漢字が単独で商品に表示されたり、あるいは、宣伝広告されたことはない。
(イ) 原告は、「黒烏龍茶」 の文字が要部であることの理由として、「黒烏龍茶」の文字が需要者の注意を惹きやすいように最も目立つ位置に配置され、大きな文字で表記されていることを挙げている。
 しかしながら、商品の普通名称を商品ラベルの中央に大きく表示することは、どの商品においても当然に行われている表示方法であり、そのことだけをもって、商品表示の要部、つまり、自他商品識別機能を発揮できる部分となるものではない。
 さらに、原告の従前の商品である「烏龍茶」(乙24)においても、「烏龍茶」の文字は、商品の中央に大きく表示されているが、「烏龍茶」の名称だけで他社のウーロン茶との識別ができるはずはないので、中央に大きく書かれているからといって要部になるとは限らない。
 加えて、他社の「烏龍茶」の表示例や、豆茶の表示例(乙51、52)でも、「烏龍茶」や「黒豆茶」、「黒豆黒茶」などの商品の普通名称が商品の中央に大きく表示されているものの、これらの表示がすべて各社商品の要部であるとすることができないことは当然であり、原告の主張は、業界の慣習を無視した非常識な主張といわざるを得ない。
エ 「黒烏龍茶」自体の識別性について
(ア) 原告は、「黒烏龍茶」の語は原告が考案した造語である旨主張する。
 しかしながら、アサヒビールの商標「黒ウーロン茶」(乙2)が、原告商品が発売される前から商標登録され、既に平成2年に出願公告されていた以上、原告の「黒烏龍茶」を新規性のある造語であるということはできない。
 仮に、「黒烏龍茶」という語を使用した商品が発売されていなかったとしても、「黒」と「烏龍茶」との結合は極めて安易なもので、特許でいうところの進歩性は低いといわざるを得ない。
(イ) 茶の種類には、「黒茶」が昔から存在していたのであるし、「黒いウーロン茶」についても、伊藤園の商品が既に発売されていた。
 また、「黒茶」の語を含む商標も、原告商品の発売前に商標登録されていたし(乙12、13、15)、「黒」と「茶」の語を含む商標も、既に商標登録されていた(乙14、16)。
 そして、黒ラベルの商品というのも、酒類を始めとして新規な色彩ではない。
 このような状況に加え、原告商品が宣伝広告において常に「サントリーの黒烏龍茶」として紹介され、需要者において「サントリーの烏龍茶」という従前のヒット商品を知っているのであるから、需要者は、「黒烏龍茶」という商品名に初めて出会った場合、それを「烏龍茶」に代わる商品の普通名称であると理解するのが自然なのである。
(ウ) 原告は、「黒烏龍茶」の「黒」が性質に由来する機能的な表現ではない、原告商品(内容物)の色が黒でないと主張する一方、ウーロン茶重合ポリフェノールがウーロン茶の色を作っている色素成分であって、これを豊富に含むことによって通常のウーロン茶よりも濃い色をして黒色に見えるのであり、色の濃さ及び効能の強さを強調するため、原告商品の色にちなんで全体が真っ黒のパッケージを採用したとも主張し、原告のウェブページ(乙1)においても、「黒い理由」を詳細に説明している。
 このような原告の主張は不可解といわざるを得ず、ウーロン茶重合ポリフェノール(OTPP)が黒色であれば、「黒烏龍茶」の「黒」は機能的な表現であるということになり、黒色でなければ、原告のウェブページの説明は虚偽であることになる。
(エ) 「黒烏龍茶」という表現又は単語がまとまった新規の造語でないことは、原告商品の開発履歴(甲52)にも表れており、「黒」と「烏龍茶」とが分離され、「黒」に代えて「特濃」や「黒黒」が表示されているものも存在した。また、アサヒビールの登録商標と同じ「黒ウーロン茶」という表示や、単に「黒」の文字だけをラベルの中央に強調したものも存在した。
 これらの一連の商品開発履歴からは、原告が、「烏龍茶」の語に商品の売り物とすべき「黒」の語をいかにして組み合わせるかに腐心してきたかが分かるのであり、結局のところ、誰でも考えられるような「黒」という形容詞を商品の普通名称「烏龍茶」に普通に結合しただけのものになったのである。
 また、原告のテレビコマーシャルも、「黒い」という形容詞がついた「烏龍茶」という商品の普通名称にすぎないとして需要者らに受け取られるような内容となっている。
(オ) 「黒」と「茶」との結び付きを示す商標例(乙20、21、22)や、他社商品例(乙27ないし37)について、原告商品がヒットした後の事実であるとして原告は一蹴するが、本件は不正競争防止法違反事件であり、その判断時期は、少なくとも差止請求との関係では事実審の口頭弁論終結時であるので、現時点において「黒烏龍茶」や「黒」と「茶」との結び付きを示す事実が多数あるということは、「黒烏龍茶」という表示が既に普通名称化しており、需要者、取引者等には自他商品識別力のある商標としては認識されていないことを示しているのである。
オ 原告商品表示と被告ら各商品表示の非類似性について
(ア) 原告商品表示においては、「サントリー」及び「SUNTORY」の著名商標部分、特定保健用食品であることを示す文字部分及び図形部分並びに「脂肪の吸収を抑える」、「OTPP」及び「ウーロン茶重合ポリフェノール」の文字部分こそ、その特徴というべきである。
 他方、被告ら各商品表示は、いずれも、上記の原告商品表示の特徴というべき文字部分や図形部分を含んでおらず、原告商品表示との類似性はない。
(イ) 被告ら商品表示Aでは、その短冊内の「黒鳥龍茶」の大きさが短冊のほぼ全体を占めているといえるのに対し、原告商品表示では、短冊の二重線の外側の線が、「黒烏龍茶」という縦書きの漢字表記及び「OTPP」という横書きのアルファベツト表記を配置した短冊と「サントリー」という縦書きの片仮名表記を配置した短冊(「黒烏龍茶」という漢字表記を配置した短冊の右側に寄り添う形で配置されている短冊)を取り囲んでいる。したがって、原告商品表示は、被告ら商品表示Aとは異なり、「黒烏龍茶」という漢字表記が短冊内全体を占めるように大きく文字が配置されているとはいい難い。
 また、上記短冊内の背景色の「茶色」の色彩の濃淡については、被告ら商品表示Aが、「茶色」の中でも赤茶色と表現すべき色合いであるのに対し、原告商品表示は、いわば焦げ茶色と表現すべき色合いであり、両者の色彩が広い意味で「茶色」に分類されるという点については積極的に争わないとしても、色彩の濃淡において大きく異なるといえる。
 同様に、原告商品表示と被告ら商品表示Aの包装パッケージの縁取りの金色についても、広く金色に分類される色を使用していることは積極的に争わないが、その色彩の濃淡は異なっている。
(ウ) 被告ら商品表示Bでは、包装パッケージの色が単なる黒ではなく、黒色にグレーのストライプが等間隔で入った模様となっており、パッケージ全体の背景の色彩としては灰色に近い印象を与えること、パッケージの色について「このパッケージの色は当社の烏龍茶の色をイメージしております。」との説明書を横書きで付していること、黒濃(こくのうタイプ)という縦書きの漢字表記と烏龍茶という横書きの漢字表記とを分けて記載していること、同縦書きの漢字表記の右側に白抜き文字で「こくのうタイプ」と読み仮名を振っていることといった顕著な違いが存在し、原告商品表示と類似していないことは明らかである。
(3) 争点(3)(被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるものといえるか)について
(原告の主張)
ア 混同を生じさせる事情
(ア) 原告商品は、上記(1)(原告の主張)イ(イ)のとおり、発売当初から、日本全国のコンビニエンスストア、スーパーマーケット及びドラッグストアに流通しており、全国レベルでの販売、宣伝広告、広報活動、販売促進活動等により、遅くとも平成18年7月下旬ころまでに、需要者の間で広く認識されるに至っていた。
(イ) 被告ら商品Aは、実際に、小売店舗において、原告商品と並べて陳列され、販売されている(甲16)。
(ウ) 原告商品や被告ら各商品のような飲料商品については、日常的に、実物が小売店で陳列販売され、需要者は、その外観で商品を瞬時に識別する。しかも、飲料商品は、日々大量に消費され、値段も低廉であることから、需要者において商品表示に厳密な注意を払わず購入することが、通常である。
(エ) 原告は、実際に、被告ら商品Aを原告が発売している商品であると誤認混同した需要者から、クレームを受けた(甲15)。
(オ) 以上の事情からすれば、需要者において、被告ら各商品について、原告の商品ラインナップの1つである、原告と被告らとの間の提携関係により発売されているものであるなどと、混同するおそれがあるといえる。
イ 被告らの主張に対する反論
 被告らは、被告ら各商品と原告商品とで誤認混同が生じないとする自らの主張を正当化するため、商品としての違い、商品コンセプトの違い及び消費者層の違いを挙げるが、次のとおり、いずれも合理的な根拠になり得ない。
(ア) 「商品としての違い」について
 被告らは、食品衛生法の分類から、原告商品は清涼飲料水に分類されるものであり、いわば合成物の工業製品といえるのに対し、被告ら各商品は、加工食品に分類され、しかも、天然のお茶の葉の特性を活かした古来からの飲料食品であるから、カテゴリーとして全く異なる旨主張する。
 しかしながら、食品衛生法上の分類にかかわらず、同じ事業者がこれらを共に販売することは普通にあり得ることであるから、このような分類を持ち出すこと自体、全く意味をなさない。
 また、一般消費者が、被告らのような分類を行い、それによって両製品が全く無関係であると考えることもない。一般消費者にとって、いずれの商品も、「お茶」あるいは「烏龍茶」なのである。
(イ) 「商品コンセプトの違い」について
 被告らは、原告商品のコンセプトを、コンビニエンスストアを中心に冷やした状態で販売されており、喉が渇いたときに手軽にどこでも冷たい状態で飲めるという点に特徴があり、利便性を嗜好する比較的若い世代の消費者を対象としたウーロン茶風の清涼飲料と何の根拠もなく決め付けているが、全く事実に反する。
 原告商品は、コンビニエンスストアだけを中心に販売されているわけではなく、スーパーマーケットや薬局などでも広く販売されている。また、原告商品が中性脂肪の吸収を抑制することを特徴としていることから、中性脂肪を気にする中高年層こそをメインのターゲットとしているのであり(甲1、3、10の19、51など)、原告商品と被告ら各商品とは、ターゲットにおいて共通している。
(ウ) 価格の違いについて
 被告らは、原告商品1本当たりの価格と被告ら商品1箱当たりの価格を単純に比較し、その値段が違うとして、消費者層が違うと主張するが、ここで、ペットボトル350ミリリットルの商品とティーバッグ20包入りの1箱の値段を単純に比較することに何の意味もない。
(被告らの主張)
ア 原告商品と被告ら各商品との商品としての違い
 原告は、原告商品と被告ら商品はいずれも飲料商品であると主張するが、この点に根本的な誤りがある。
 すなわち、食品衛生法に基づく表示という観点から見ると、原告商品は、清涼飲料水であり、いわばジュースの類である。実際に、原告商品には「品名:ウーロン茶飲料」と記載されており、「茶」とは記載されていない。
 これに対して、被告ら商品は、煮出して飲む「茶」そのものであり、食品衛生法上は、その他の加工食品に分類される。
 まず、茶は、茶葉の状態で販売され、需要者が購入後、自分で煮出して飲用するものである。商品である茶葉は、葉という性質上、そのまま商品管理して販売するだけであるから、倉庫にしても、店舗にしても、さほど広いスペースを要することなく営業を行うことができ、大規模な製造工場なども必要ではない。
 これに対して、ペットボトルや缶で大量に製造され、販売される商品である清涼飲料には、大量の原材料の保管管理から、充填設備、そして、工場から卸、小売店までの商品流通のための人的及び動的設備など、多大の資本を必要とするのである。
 そして、このような事実は、需要者においても十分に承知されているのである。
イ 原告商品と被告ら各商品との商品のコンセプトにおける違い
 原告商品は、コンビニエンスストアを中心に冷やした状態で販売されており、喉が渇いたときに手軽にどこでも冷たい状態で飲めるという点に特徴があり、利便性を嗜好する比較的若い世代の消費者を対象としたウーロン茶風の清涼飲料といえる。
 これに対し、被告ら各商品は、家庭において湯を沸かしてからティーバッグを10分ほど煮出してお茶を入れるという方法をとるため、飲める場所が限定され、対象とする消費者も、健康のため手間暇を惜しまず良質の商品を嗜好する中高年層が中心となる。
 この点、原告は、原告商品が中高年層をメインとターゲットとしている旨主張するが、原告商品を毎日1本ずつ購入して飲んだり、あるいは、まとめ買いして家庭に保管して毎日1本ずつ飲んだりする中高年層と、数ある種類の茶葉の中から自分が好む茶葉を選定して必要量を購入し、家庭において、煮出して保管し、欲する時に1日何回でも飲むという中高年層とでは、異なる需要者層であるといえる。
 また、原告商品が売られているコンビニエンスストアの利用者は、中高年層とは異なる世代の方が圧倒的に多く、そして、若い世代であっても、中性脂肪の吸収を抑える特保商品であるという原告商品の特性を信頼して、原告商品を購入しているものと考えられる。
ウ 原告商品と被告ら各商品との価格における違い
 原告商品は、168円程度と、清涼飲料としては高価ではあるが、被告ら商品の定価3500円とは大きな隔たりがあり、それが需要者層の違いともなっており、この点だけでも混同を生ずるおそれはない。
 この点、原告は、原告商品1本当たりの価格と被告ら各商品1箱当たりの価格を比較することには意味がないと反論する。
 しかしながら、主にコンビニエンスストアで気軽に買える原告商品の需要者層と、わざわざ家庭に持ち帰って煮出して飲用する被告ら各商品の需要者層とは、異なるのであり、それらの各需要者層にとって、1商品当たり約168円と定価3500円との価格の相違は、誤認混同を生ずることなく商品を購入する最大の要因になるといえる。
エ 以上のように、原告商品と被告ら各商品とは、諸点において異なるのであるから、被告ら各商品は、原告商品との混同を生じさせるものではない。
 この点、原告は、実際に消費者の間で原告商品と被告ら各商品との誤認混同が生じていたと主張し、その証拠(甲15、16)を提出しているが、いずれの証拠も、原告に都合のよい部分のみを抜粋してきたのではないかと思わせるものである。しかも、それらは、内容的にみて、被告ら商品Aとの関係について誤認混同が生じた可能性があることをうかがわせるのみであり、被告ら商品Bについては一切触れられていない。
(4) 争点(4)(被告オールライフサービスが、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は、被告ら商品Bの品質及び内容を誤認させるような表示をしているか)について
(原告の主張)
ア 被告オールライフサービスによる虚偽事実告知(不正競争防止法2条1項14号)
 被告オールライフサービスは、原告が把握している限りでも平成18年12月ころから現在に至るまで、継続的に、インターネット上に開設するウェブサイトにおいて、本件各比較広告を掲載していた。
 そして、上記ウェブサイトのページにおいては、本件各比較広告と併せて、「烏龍茶ポリフェノール含有で中性脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇が抑制」できると表示されているところ、これは、原告において、原告商品が関与成分として含有するウーロン茶重合ポリフェノールの作用及び機序を科学的に明らかにし、厚生労働省の表示許可を受けた表示内容そのものであって、原告による宣伝広告活動や原告商品の記録的な売上げにより、そのことは需要者にも広く認知され、原告商品のイメージを形成する重要な一要素となっている。
 このような状況下において、上記内容の本件各比較広告を目にした需要者は、同広告においては、原告商品の成分であって上記の機能を有するウーロン茶重合ポリフェノールの量が比較されているものと認識するのが通常である。
 しかしながら、本件各比較広告は、需要者に対し、客観的に虚偽の事実を伝えるものである。すなわち、原告が、その健康科学研究所で、被告ら商品B1包当たりのウーロン茶重合ポリフェノールの含有量を分析したところ、被告ら商品B1包から抽出されるウーロン茶重合ポリフェノールの量は2リットル当たり272ミリグラム、350ミリリットル当たり47.6ミリグラムにすぎないことが判明した(甲18、51)。よって、被告ら商品B1包で、原告商品と同じ品質の350ミリリットルペットボトル飲料を約5本半作ることはできない。さらに、被告ら商品Bよりも原告商品の方がウーロン茶重合ポリフェノールの含有量が少ないということはなく、「サントリーなんかまだうすい!」という表現も虚偽である。
 以上のとおり、被告オールライフサービスは、客観的に虚偽の事実に基づく比較広告を行うことによって、被告ら商品Bの品質が原告商品よりも優れていること(裏を返せば原告商品の品質が被告ら商品Bの品質よりも劣っていること)を、インターネットを利用して宣伝し、原告の営業上の信用を毀損しているものである。
 このような被告オールライフサービスの行為は、不正競争防止法2条1項14号に該当する。
イ 被告オールライフサービスによる品質等誤認表示(不正競争防止法2条1項13号)
 被告オールライフサービスは、上記アのとおり、被告ら商品B1包で、原告商品と同じ品質の350ミリリットルペットボトル飲料を約5本半作ることはできず、被告ら商品B1包にはウーロン茶重合ポリフェノールが「2070mg」も含まれていないにもかかわらず、欺瞞的な表現を用いて、被告ら商品Bと原告商品との不当な比較を行い、被告ら商品Bの品質が原告商品よりも優れていることをインターネットを利用して宣伝することによって、被告ら商品Bの品質を誤認させている。
 このような被告オールライフサービスの行為は、不正競争防止法2条1項13号に該当するものである。
ウ 被告オールライフサービスの主張に対する反論
(ア) 被告オールライフサービスは、本件各比較広告の内容(甲17)を分離して、それぞれの部分ごとに弁明している。
 しかしながら、不正競争防止法2条1項14号との関係においては、広告の内容について需、 要者の観点に立ち、あくまでも表示自体から客観的に理解される内容を前提とすべきである。
 したがって、被告オールライフサービスの主張する弁明内容が本件各比較広告上に明記されていない以上、そのような弁明は無意味であり、むしろ、本件各比較広告の内容を見た消費者にとっては、被告ら商品Bの1包で、原告商品と同内容の烏龍茶が、原告商品の約5本半分作れるものと受け取るのが通常であるといえる。
(イ) 被告オールライフサービスは、総ポリフェノールの分析(乙5、6)において、被告ら商品Bの1包を「2Lで10分間沸騰させて30分放置」するという抽出方法を用いている。
 しかしながら、被告オールライフサービスのウェブページ及び被告ら商品Bのパッケージには、被告ら商品Bの「飲み方」として「2リットルのお湯にティーバッグ1包を入れて、2〜3分煮出した後火を止めて5〜10分そのまま入れて出来上がります」とあり(甲17)、10分間も煮出したうえ30分、 も放置するという方法は、被告らが消費者に「飲み方」として説明しているものとは大きくかけ離れている。少しでも高い分析値を得ようと、このような作為が施されたことは明らかであり、上記被告の分析結果には信憑性がない。
(ウ) 被告オールライフサービスは、「約70倍サントリーなんかまだうすい!」とした根拠について、原告商品と被告ら商品Bとの価格1円当たりのポリフェノール含有量を比較したものである旨主張するが、何の説明も受けずに、被告らの行っているような計算を行い、価格1円当たりのポリフェノール含有量を比較したと理解することは不可能である。
 むしろ、「約70倍サントリーなんかまだうすい!」という表示が「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg」という表示のすぐ下に付されていることからすれば、1ミリリットル、100ミリリットルなどの単位容量又は1ミリグラム、100ミリグラムなどの単位重量当たりの「ポリフェノール」の含有量(濃度)を比較したものであると理解するのが自然である。
(エ) 被告オールライフサービスは、本件各比較広告を既に削除している旨主張する。
 しかしながら、本件訴訟に至るまでの被告オールライフサービスの対応は、到底誠実であるとはいえない。そして、本件訴訟に至っても、本件各比較広告の責任を従業員に押し付けて責任逃れをしようとする態度をとっていることも併せて考慮すれば、被告オールライフサービスが同様の比較広告を繰り返すおそれがあるといえる。
(被告オールライフサービスの主張)
ア 過去に本件各比較広告が存在したことは認めるが、被告オールライフサービスは、既に本件各比較広告を削除している。
イ 本件各比較広告がなされた根拠及び経緯は、次のとおりである。
(ア) 「1包のティーバッグで2リットルのペットボトル1本を作る事が出来ます!」と表示した部分については、被告ら商品Bのティーバッグ1包で2リットルのウーロン茶を作ることができるので、これを原告商品の350ミリリットル入りペットボトル1本で単純に割っただけであり、2000ミリリットル÷350ミリリットル=5.714本となるため、これを図式で表わしたにすぎない。
 また、両商品の総ポリフェノール量を比較した場合においても、被告オールライフサービスが行った検査の結果(乙5、6)によると、被告ら商品Bの総ポリフェノール量は、15グラムのティーバッグを2リットルの水で10分間沸騰させて30分間放置した状態では、100ミリリットル当たり132.6ミリグラムであった。したがって、これを2リットルに換算すると、2652ミリグラムとなる。
 これに対し、原告商品の総ポリフェノール量は、100ミリリットル当たり95.6ミリグラムであったので、これを350ミリリットルのペットボトル1本に換算すると、334.6ミリグラムとなる。
 そうすると、2652ミリグラム÷334.6ミリグラム=7.92となり、ティーバッグ15グラムで、原告商品ペットボトル350ミリリットル1本分の約7.9倍の総ポリフェノール量を含んでいることになり、被告ら商品Bの総ポリフェノール量の方が多いことが分かる。
(イ) 「70倍サントリーなんかまだうすい」と表示した点については、次のような考え方に基づいて表示したものである。
 まず、20包入り1箱の実売価格が1480円であるとして、被告ら商品Bの1包当たりの金額を出すと、1480円÷20包=74円となり、同商品1包当たりのポリフェノール含有量が2070ミリグラムであるから、同商品1円当たりのポリフェノール含有量は、2070ミリグラム÷74円=28.0ミリグラムとなる。
 他方、1本168円の原告商品350ミリリットルペットボトルのウーロン茶重合ポリフェノール含有量が70ミリグラムであるから、同商品1円当たり重合ポリフェノール含有量は、70ミリグラム÷168円=0.4ミリグラムとなる。
 そうすると、1円当たりのポリフェノールの比率は、28.0÷0.4=70となる。
ウ 原告の主張に対する反論
(ア) 原告は、被告オールライフサービスが行った被告ら商品Bのポリフェノール量の検査について、作為的であると非難する。
 しかしながら、商品に記載された「飲み方」というのは、被告ら商品Bに限らず、おいしく飲むために最低限必要な煮出し時間と冷まし時間を説明しているにすぎないことは当然であり、需要者の好みによって更に長時間煮出すことも、長時間をかけて冷ますことも何ら問題ではない。
 一方、検査において2ないし3分間煮出して、5ないし10分間冷ました程度では、おいしく飲めるウーロン茶を作ることはできても、適正な総ポリフェノール含有値を分析測定することはできないのである。
 そして、10分間程度の煮出し時間も、日常的にみて過剰に長いものではないし、実際にも、他社の商品である「黒杜仲烏龍茶」(乙34)や「黒烏龍杜仲茶」(乙32)では、それらのパッケージに10分程度煮出すようにと記載されている。
 また、日常生活としても、一般家庭において、煮出し後30分程度放置して他の用事を済ませ、その間に茶を冷ますことも普通に行われていることである。
(イ) 被告オールライフサービスは、ウーロン茶重合ポリフェノールという表現を用いて比較を行っていない。また、次のとおり、原告の調査結果によるとウーロン茶重、 合ポリフェノール自体は被告ら商品Bにも含まれているとのことであり、そうだとすれば、脂肪の抑制を抑える効果自体が被告ら商品Bにあることは間違いないといえる。
 すなわち、原告は、被告ら商品Bを検査した結果、同商品からもウーロン茶重合ポリフェノールが抽出された旨述べ、その量が350ミリリットル当たり47.6ミリグラムであった旨主張する。
 原告の主張を前提とすると、原告商品350ミリリットルペットボトルには70ミリグラムのウーロン茶重合ポリフェノールが含まれているが、被告ら商品Bにおけるウーロン茶重合ポリフェノール含有量は、原告商品の68パーセント、約7割にも相当するということになる。
 このように、被告ら商品Bのウーロン茶重合ポリフェノール含有量は原告商品の約3分2以上に及ぶのであるから、被告ら商品Bにもウーロン茶重合ポリフェノールの効用をそれなりに期待できるといえよう。
 そして、被告ら商品Bは、家庭で煮出して飲むものであり、煮出す時間は需要者の好みによるので、長時間煮出せば、ウーロン茶重合ポリフェノールの含有量も更に増えると考えられる。
(5) 争点(5)(被告オールライフサービスが、虚偽事実告知又は品質等誤認表示について故意又は過失を有していたか)について
(原告の主張)
ア 被告オールライフサービスが故意を有していたこと
 被告オールライフサービスは、原告から平成18年10月20日に被告ら商品Aに関する警告を受けた後で、本件各比較広告を行ったものであるから、それによる虚偽事実告知及び品質等誤認表示について、明らかに故意があったものである。
 また、被告オールライフサービスは、上記(4)(原告の主張)のとおり、被告ら商品Bが原告商品よりも優れており、原告商品の品質が劣っているという自らに都合のよい比較結果を作出するために、合理的根拠のない数値を捻出し、虚偽の内容の本件各比較広告を行ったものであるから、原告商品の信用及び人気に不当に便乗する目的の下に、意図的に消費者を欺き、かつ、原告商品を中傷しようとしたものといえる。
イ 被告オールライフサービスの調査懈怠
 被告オールライフサービスは、「『ウーロン茶重合ポリフェノール』とは、具体的な内容が不明」であるなどと述べているが、原告商品との比較広告を行うにもかかわらず、「ウーロン茶重合ポリフェノール」の成分について知識を欠くことは、ウーロン茶の製造販売に関わる業者としての被告らの調査の懈怠によるものにほかならない。
 原告は、「ウーロン茶重合ポリフェノール」の成分を秘密にしたことはなく、むしろ、積極的に「ウーロン茶重合ポリフェノール」に関する情報を提供し、公開してきた。そして、原告が公開してきた情報は、現在においても、インターネット上で公開されており、誰でも容易に検索し、閲覧できる。
 したがって、被告オールライフサービスが「ウーロン茶重合ポリフェノール」に関する情報を一切知らないという事実は、比較広告を行うに当たって、原告商品の調査を懈怠したことを如実に示すものである。
(被告オールライフサービスの主張)
ア 被告オールライフサービスが不当な意図を有していなかったこと
 本件各比較広告がされた当時、被告オールライフサービスで同広告の業務を担当したのは、入社して8か月程度の従業員であり、原告商品のウーロン茶重合ポリフェノールに関する特別な知識のないまま、原告の黒烏龍茶に含まれるウーロン茶重合ポリフェノールを被告オールライフサービスのポリフェノール類と同種のものと思い、原告商品に表示されている数値70ミリグラムと被告ら商品Bの検査結果2070ミリグラムとを単純に比較して計算して70倍という数値を導き出し、それを表示したというのが実態であった。したがって、原告よりこの点を指摘された時点で、直ちに、本件各比較広告を削除したものである。
 このように、被告オールライフサービスは、結果として比較広告とみられる宣伝広告を行ってしまったが、それは、意図的なものではなく、また、消費者を欺き、原告商品を中傷し、不当な利益を得ようなどとの意図もなかった。
イ 被告オールライフサービスに調査懈怠が認められないこと
 被告オールライフサービスのような中小企業に対し、原告が求めるような調査義務を法的な義務として課すのは、現実の問題として行き過ぎである。
(6) 争点(6)(被告オールライフサービスが、本件各登録商標を商標として使用しているか)について
(原告の主張)
ア 被告オールライフサービスによる商標権侵害
 被告オールライフサービスは、その運営するウェブページにおいて、本件各登録商標の指定商品である「茶」に該当する被告ら商品Bを通信販売するに当たり、本件各比較広告において、別紙広告表示目録の写真のとおり、本件各登録商標を含む原告商品の画像5本半分(2リットル相当)を掲示して「1包のティーバッグで2リットルのペットボトル1本を作る事ができます!」、「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍サントリーなんかまだうすい!」などと表示している。
 このような本件各登録商標の使用は、被告ら商品Bの宣伝広告を内容とする情報に本件各登録商標を付して電磁的方法により提供する行為であり、商標的使用といえる(商標法2条3項8号、同条1項1号)。
 したがって、被告オールライフサービスによる上記態様での本件登録商標の使用は、原告の本件各商標権を侵害する。
イ 被告オールライフサービスの主張に対する反論
 過去の裁判例においては、商標権侵害の要件として、問題とされる標章の使用につき、単に形式的に商品等に表されているだけでは足りず、商品の出所を表示し、自他商品の識別機能を果たす態様で使用されることが求められているところ、被告オールライフサービスは、本件各比較広告において、原告商品と他の商品とを識別するために本件各登録商標を使用しているのであるから、同要件を満たす。
(被告オールライフサービスの主張)
 商標を「使用」しているというためには、自己の商品の出所を表示し、自己の商品と他人の商品とを識別するために、自己の商品について使用する商標的使用態様であることが必要である。
 これを本件各比較広告についてみると、同広告に掲載した商品は、原告商品であり、同商品に表示されているのは、原告の本件各登録商標であって、それは、原告によって、出所が原告であることを表示するために、表示されているのである。逆にいえば、被告オールライフサービスは、被告ら商品Bの出所を示すために本件各登録商標を使用しているのではない。
 仮に、本件各比較広告において、被告ら商品Bに原告の本件各登録商標を使用したら、どちらの商品とどちらの商品とを比較しているのか混乱してしまうであろう。その意味で、そもそも、比較広告においては、相手方商品ないし相手方商標をそのままの引用することが必要とされるのであり、そのような引用が商標的な使用態様ではないからこそ、必要な引用が許されるのである。
 したがって、被告オールライフサービスによる本件各登録商標の使用は、自己の商品の出所を表示して自他商品の識別のために使用する、商標的使用に該当しないのであるから、原告の本件各商標権を侵害するものではない。
(7) 争点(7)(本件デザインの著作物性の有無)について
(原告の主張)
ア 被告オールライフサービスによる著作権侵害
 本件デザインは、原告の発意に基づいて、平成17年9月、原告のデザイン部に属する従業員である甲及び乙が職務上作成し、原告が自己の名義で公表した著作物であり、原告がその著作権を有している。
 ところが、被告オールライフサービスは、その運営するウェブサイトにおいて、本件デザインを含む原告商品の画像を電磁的方法により複製して、本件各比較広告を掲載している。その結果、虚偽の事実に基づいて、原告商品を中傷し、原告の名声を傷付け、その社会的評価を低下させた。
 したがって、被告オールライフサービスによる原告商品の画像の利用は、原告の本件デザインの著作権を侵害するとともに、原告の名誉及び信用を毀損するものである。
イ 本件デザインが著作物として保護されるものであること
(ア) 著作物としての創作性について
 本件デザインを制作した創作者ら(以下「創作者ら」という。)は、原告商品の「機能感」、「おいしそうに見せること」及び原告のブランド品としての「信頼感」を視覚的に伝えようと考えた(甲52)。
 このための表現方法として、創作者らは、パッケージデザインの背景の色として6色、短冊の色として4色、帯の色として7色を検討した。色以外の要素として、商品名を5通り、商品名の色を7通り、商品名の字体を2通り、帯の形状を5通り、「OTPP」の表示位置を3通り、特定保健用食品マークの形状を2通り、その位置を3通り、成分名である「ウーロン茶重合ポリフェノール70mg」の形状を2通り、そして、その位置を3通り、その色を6通り検討した(甲52)。
 そして、創作者らは、上記の数ある表現方法(3810万2400通り)の中から、原告商品表示のとおりの表現を選択し、その表現に当たって特に原告商品の、 、 コンセプトに合致するよう、機能感を伝える工夫、おいしさを表現する工夫及び信頼感を出す工夫を行った。
 以上のとおり、本件デザインは、その背景色、短冊の形とその色、唐草模様の帯とその色、商品名の字体とその色、「OTPP」の表示、特定保健用食品マーク、成分名の表示とその色などのパーツを、1つのパッケージデザインの中に釣り合いよく配置し、機能感、おいしさ及び信頼感を視覚的に表現したものであり、これらの点に創作性が認められる著作物である。
(イ)  応用美術の問題について
 著作権法上、美術工芸品以外の応用美術の保護については明確にされておらず(同法2条2号、10条1項4号)、そもそも応用美術の定義も存在しない。
 この点、現行著作権法の基になったといわれる著作権制度審議会答申(以下「答申」という。)の説明書では、応用美術とは、実用に供され、あるいは、産業上利用される美的な創作物等であり、概ね、美術工芸品、装身具等実用品自体であるもの、家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの、文鎮のひな型等量産される日用品のひな型として用いられることを目的としているもの、そして、染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものをいうとされている。
 これによれば、本件デザインのようなパッケージデザインは、そもそも、現行著作権法が想定していた応用美術の範囲に属さないものである。
 さらに、現行著作権法が採用したとされる答申における応用美術の保護に関する第2次案では、次のように述べられている。
@ 美術工芸品を保護することを明らかにする。
A 図案その他量産品のひな型又は実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、著作権法においては特段の措置は講ぜず、原則として意匠法等工業所有権制度による保護に委ねるものとする。ただし、それが純粋美術としての性質を有するものであるときは、美術の著作物として取り扱われるものとする。
B ポスター等として作成され、又はポスター等に利用された絵画、写真等については、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。
 そして、答申が上記Aの考え方を示し、その後の裁判例が、答申の考えを参考に、応用美術について純粋美術と同視できるか否かで著作物性の有無を判断しているのは、「図案その他量産品のひな型又は実用品の模様」といった応用美術は、意匠法によって保護されるべきであるという理解が前提にあるからである。
 しかしながら、本件デザインは、上記(ア)記載のとおり創作性を有し、文字の集団を中心としつつ、その配置や背景色等の色彩の選択により、余白も含めた全体によってデザイナーの思想及び感情が表現されているグラフィック・デザインであり、「図案その他量産品のひな型又は実用品の模様」ではなく、むしろ、答申の上記Bにおけるポスター等に近いものである。
 したがって、本件では、答申の上記Aではなく上記Bの考え方が参考にされるべきであり、過去の裁判例にも、広告ポスターやブックカバーに利用されたグラフィック・デザインに関し、純粋美術と同視し得るかという基準を用いることなく、著作物性を認めているものが存在する。
 逆に、本件デザインのような文字の集団を中心としたパッケージデザインが著作物として保護されないと考えた場合、意匠に関する過去の裁判例が、文字を模様化して言語の伝達手段として文字本来の機能を失っている程度に至らなければ、意匠を構成しないとしていることから、本件デザインのような文字の集団を中心としたパッケージデザインについては著作権法でも保護、 されず、意匠法でも保護されないという極めて不合理な事態が生じることになる。
(被告オールライフサービスの主張)
 本件デザインのようなパッケージデザインを始めとする工業デザインー般については、著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情の表現」に該当せず、しかも、「文芸、学術、美術又は音楽」のいずれの範疇にも属さないため、著作物に該当しないことは、既に定説となっている。
 原告は、原告商品の開発履歴(甲52)を示すことで、本件デザインの創作性を立証しようとしているが、これらの開発履歴は、正に、原告商品のラベルが工業製品のデザインであることの証左である。
 また、上記開発履歴は、本件デザインを構成する要素が、ウーロン茶を始めとする中国茶飲料業界において慣用されてきた要素の寄せ集めであり、何ら新規な創作性もなく、著作権法が保護する思想又は感情の表現といえるものではないことも、示している。
 したがって、本件デザインについては、著作物性が認められず、被告オールライフサービスの行為は、原告の著作権を侵害するものではない。
(8) 争点(8)(損害発生の有無及びその額)について
(原告の主張)
ア 被告らによる不正競争防止法2条1項1号又は同項2号違反に基づく損害賠償額
(ア) 被告オールライフサービスの不正競争行為による損害について
a  逸失利益
 被告オールライフサービスは、被告ら各商品の販売により、次の利益を得た(1円未満四捨五入)。
@ 平成18年7月1日から同年12月20日まで(甲19ないし22)
 被告ら商品Aに係る利益額 1439万8648円
 被告ら商品Bに係る利益額 52万1479円
A 平成18年12月21日から平成19年12月31日まで
 被告ら商品Bによる利益額 980万3797円
 以上の利益は、被告オールライフサービスの不正競争行為によって原告が被った損害(逸失利益)と推定される(不正競争防止法5条2項)。
b 弁護士費用
@ 上記a@の損害賠償請求について300万円
A 上記aAの損害賠償請求について100万円
(イ) 被告日本ヘルスの不正競争行為による損害について
a  逸失利益
 告日本ヘルスは、被告ら各商品の販売により、次の利益を得た(1円未満四捨五入)。
@ 平成18年7月1日から同年12月20日まで(甲19ないし22)
 被告ら商品Aに係る利益額 522万3327円
 被告ら商品Bに係る利益額 18万9174円
A 平成18年12月21日から平成19年12月31日まで
 被告ら商品Bに係る利益額 355万6475円
 以上の利益は、被告日本ヘルスの不正競争行為によって原告が被った損害(逸失利益)と推定される(不正競争防止法5条2項)。
b 弁護士費用
@ 上記a@の損害賠償請求について 100万円
A 上記aAの損害賠償請求について 50万円
(ウ) 共同不法行為
 被告ら商品Aは、当初、被告日本ヘルスが、被告オールライフサービスに対し原料を提供し、 て同商品の制作を依頼し、被告オールライフサービスが、これを制作したものである(甲53)。このように、原料を提供して商品の制作を依頼するなど被告日本ヘルスが被告ら商品Aの販売開始前の企画段階から関与していること、また、後述のような一手販売の形態を採ることにより、商品のマーケティングや市場への販売は被告日本ヘルスが担当することが当初より意図されていたことからすれば、被告ら商品表示Aについても、同被告が関与していたと考えるのが自然である。
 その後の実際の被告ら商品Aの製造及び販売においても、被告オールライフサービスは、被告日本ヘルスからの発注に基づき、同被告から発注された数量だけ製造し、これらの製品は、すべて同被告に販売され、他の業者には販売されていないという一手販売の形態が採られている(甲44、53)。また、物流をみても、被告日本ヘルスが自らの販売先に関して被告オールライフサービスに指示を出し、指示を受けた被告オールライフサービスは、被告日本ヘルスの販売先に対して直接、商品を送っている(甲56)。
 そして、被告ら商品Bについても、被告オールライフサービスが自らのホームページでその一部を販売していることを除いては、上述の被告ら商品Aにおける製造・販売体制からの変更はなく、同様の関係が継続していた。
 以上の事実から明らかなように、被告らの関係は、被告日本ヘルスがたまたま、被告オールライフサービスが製造及び販売する被告ら各商品を購入し、これを第三者に販売したというものではなく、販売前の段階から商品を共同して企画し、かつ、販売開始後は、被告オールライフサービスが製造を担当し被、 告日本ヘルスが自らの有する流通網を利用した商品のマーケティング、販売を担当するという役割分担を前提として、共に不当な利益を得るために相互に協力、補完する関係であったことが認められる。このようにして被告らが行った各不法行為には、客観的共同関係が存在することが明らかである。
 したがって、被告らによる被告ら各商品の製造及び販売は、共同不法行為に該当し、被告らは、共同不法行為者として、連帯して上記(ア)及び(イ)の合計3919万2900円の損害賠償責任を負う。
イ 被告オールライフサービスによる不正競争防止法2条1項13号又は14号違反、商標権侵害及び著作権侵害に基づく損害賠償額について
(ア) 不正競争防止法2条1項13号又は14号違反について
a 無形の信用損害
 被告オールライフサービスの本件各比較広告による信用毀損行為が、インターネットという媒体を通じて広くなされていること、その期間も、平成18年12月ころから現在に至るまで継続しており、長期に及んでいること、原告が著名な企業であり、原告の商品が広く消費者に親しまれ、高い信用を得ていること、原告商品が特定保健用食品の許可を取得した商品であること等に鑑みれば、被告オールライフサービスの行為によって原告の信用は、相当大きく毀損されたと認められ、これによって原告が被った無形の信用損害は、500万円をくだらない。
b 弁護士費用
 上記aの損害賠償請求のための弁護士費用としては、100万円が相当である。
(イ) 商標権侵害について
a 使用料相当額の損害 本件登録商標が、著名なブランドであって、原告が本件登録商標を
付して高品質の商品を提供し続けており、多くの消費者の信頼を得ていることから、高い顧客吸引力を有していることは、顕著な事実である。被告オールライフサービスが、このような本件登録商標を、遅くとも平成18年12月ころから現在に至るまで、インターネット上で、使用していることに鑑みれば、その使用料は、少なくとも同被告の被告ら各商品の売上額である1951万8560円の10パーセントとするのが相当である。そうすると、本件登録商標の使用に対して受けるべき使用料に相当する額は、195万1856円(=1951万8560円×0.1)となる(商標法38条3項)。
b 弁護士費用
 上記aの損害賠償請求のための弁護士費用としては、40万円が相当である。
(ウ) 著作権侵害による損害
a 使用料相当額の損害
 本件デザインが著名なものであること、被告オールライフサービスが、遅くとも平成18年12月ころから現在に至るまで、本件デザインをインターネット上で使用していることに鑑みれば、本件デザインの著作権使用料は、少なくとも同被告の被告ら各商品の売上額である1951万8560円の5パーセントが相当である。そうすると、本件デザインの使用に対して受けるべき使用料に相当する額は、97万5928円(=1951万8560円×0.05)である(著作権法114条3項)。
b 弁護士費用
 上記aの損害賠償請求のための弁護士費用としては、20万円が相当である。
(被告らの主張)
ア 不正競争防止法2条1項1号又は2号違反に係る損害について
(ア) 被告ら商品Aに関する損害の不存在
 原告は、不正競争防止法5条2項の推定規定の適用を主張するが、そもそも被告ら商品Aの製、 造及び販売により原告商品の売上げが減少したという関係がなく、仮に、被告ら商品Aの製造及び販売による同法2条1項1号又は2号違反が成立するとしても、損害の発生自体が認められない。
(イ) 被告オールライフサービスが被告ら商品Aを製造及び販売したことによる原告の損害額
a 被告オールライフサービスが被告ら商品Aについて得た利益
 仮に、損害の発生が認められるとしても、被告オールライフサービスの利益の額を算定するに当たっては、被告ら商品Aの売上高から次の経費等が差し引かれるべきである。
(a) 被告ら商品Aの売上げ
 平成18年7月 55万5640円
 同年8月 105万5660円
 同年9月 775万4040円
 同年10月 602万4600円
 同年11月以降 0円
 合計 1538万9940円
(b) 被告ら商品Aに関する経費等
@ 研究費 50万円
A 社内作業費 94万7280円
B 外注管理費 10万円
C 運送費 38万4955円
 (乙71、79、80、89ないし91、103ないし105)
D  注加工費 142万6994円
 (乙81、92、93、106、107)
E 加工費 104万3226円
 (乙72、82、94、108)
F 検査費用 13万0600円
 (乙73、74)
G 原料費 588万1266円
 (乙83、84、95ないし97、109、110、117)
H 資材費用 396万7040円
 (乙75ないし77、85ないし87、98ないし101、111ないし114。枝番号を含む。)
I 製品廃棄処理費用 117万8000円
 (乙115)
J  派遣会社に対して支払った派遣料 179万9685円
 (乙78、88、102、116)
b 利益への寄与度(寄与率)
 被告ら商品Aの売上げ及び利益が、被告オールライフサービスの独自の営業努力及び信用並びに商品自体の質の高さに由来していることは明らかであるから、同被告による被告ら商品Aの製造及び販売によって原告に生じた現実的損害は皆無に等しく、同商品の製造及び販売による利益を原告の損害と推定する場合には、相当程度寄与要因を考慮すべきである。
(ウ) 被告日本ヘルスが被告ら商品Aを販売したことによる原告の損害の不存在
 不正競争防止法5条2項により原告が受けた損害として推定を受けるのは原告と同じメーカー、 の立場として市場において競合する可能性のある被告オールライフサービスが、卸売業者に対して、被告ら商品Aを譲渡して得た利益にすぎない。すなわち、原告は、自らが卸売によって全く利益を得ていないにもかかわらず、原告側の卸売業者の損害に相当する被告日本ヘルスの利益分までも、自己の損害として主張するのである。
 したがって、被告日本ヘルスが被告ら商品Aを販売したことによる原告の損害の発生は認められない。
(エ) 共同不法行為の不成立
 被告日本ヘルスは、茶の製造についてのノウハウを有しておらず、被告らの間には、被告オールライフサービスが企画して製造した商品を被告日本ヘルスが仕入れて販売するという関係があったにすぎず、共同不法行為は成立しない。
 なお、原告は、本件訴訟前の証拠保全に係る検証調書(甲44)において、被告オールライフサービスが「当社は日本ヘルス株式会社(以下「日本ヘルス」という。)からの受託生産で注文された分しか生産していないし、販売しているのも日本ヘルスだけです。」と述べた旨記載されていることなどをその主張の根拠としていると思われるが、その記載の意味するところは、上記の被告らの関係についての説明と同義である。
イ 不正競争防止法2条1項13号又は14号違反に係る損害について
 仮に、被告オールライフサービスの行った本件各比較広告の掲載が信用毀損行為に該当するとしても、これにより原告ないし原告商品の社会的、経済的信用が失われたとは考え難い。すなわち、原告の企業規模に比して考えれば、被告オールライフサービスは、一零細企業体にすぎず、本件各比較広告の内容及び表現、当該表現がインターネット上に掲載された期間、実際の原告商品及び被告ら商品Aに含まれている「ポリフェノール」量等に照らせば本件各比較広告の社会、 的影響は、大きいとはいえず、原告商品の売上げの具体的な阻害要因になっていたとも考えられない。
 そうすると、被告オールライフサービスが法的にみて損害賠償請求の対象となるような違法行為に及んだといえるのか疑問であり、これを違法行為と評価したとしても、原告に具体的な損害が生じているとは認められない。
ウ その他の損害について
 争う。
 なお、上記ア及びイ以外の侵害については、成立する余地がないので、それらに関する損害論については、論じるまでもない。
(9) 争点(9)(信用回復措置の要否)について
(原告の主張)
 被告らによる不正競争防止法2条1項1号又は2号違反並びに被告オールライフサービスによる同項13号又は14号違反、商標権侵害及び著作権侵害により毀損された原告の信用及び名誉を回復させるため、被告らに対し、それぞれ、別紙謝罪文目録記載1、2の謝罪広告を掲載させるのが相当である。
(被告らの主張)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告商品表示の周知性又は著名性の有無)について
(1) 証拠(甲1ないし12、45ないし49。枝番号が付された証拠を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告商品の販売態様について
 原告商品は、発売当初から、現在に至るまで、原告商品表示を正面に付した350ミリリットル用ペットボトル容器に入れられて販売されている。
イ 原告商品の販売量について
(ア) 原告は、原告商品につき、日本全国のコンビニエンスストア、ドラッグストア等において、平成18年5月16日から販売を開始し、同年6月上旬ころまでに計100万ケース(1ケース24本入り。2400万本)を販売し、同年7月中旬ころまでに計200万ケース(4800万本)を販売した。
(イ) 原告は、その後も、原告商品の販売量を増やし続け、平成19年9月末日までに計1396万ケースを販売した。なお、同年2月以降は、1リットル用ペットボトル容器に入れた原告商品も販売しており、同ペットボトルは、1ケース12本入りである。
ウ 原告商品の配荷率について
 原告商品は、発売日である平成18年5月16日から平成19年10月中旬ころまでの間、コンビニエンスストアにおいて99パーセントを超える配荷率(当該商品が店頭に並べられている店舗の割合)を維持し、また、スーパーマーケットにおいては配荷率が90パーセントを超え、ドラッグストアにおいても配荷率が80パーセントを超えていた。
エ 原告商品の宣伝広告について
 原告は、次のとおり、各メディアにおいて、原告商品の宣伝広告を行った。
(ア) テレビ広告
a 原告は、平成18年5月から同年7月にかけて、「報道ステーション」、「めざましテレビ」等の毎週月曜日から金曜日まで放送されているテレビ番組を中心として、その各番組の合間に、関東、関西及び名古屋圏だけでも1849本のテレビ広告を放送した。
 ただし、その広告において、原告商品表示が示されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
b 原告は、その後も、現在に至るまで、上記aと同様の内容の広告を行っており平成18年、 5月から平成19年9月末までの間に、8191本の広告を放送した。
(イ) 新聞広告
a 原告は、平成18年5月から同年7月にかけて、全国紙(日本経済新聞、読売新聞及び毎日新聞)において計57回、スポーツ紙(スポーツ報知、スポーツニッポン、東京中日スポーツ、日刊スポーツ等)において計18回及び夕刊紙(夕刊フジ及び日刊ゲンダイ)において計11回、原告商品表示の写真を含む原告商品の新聞広告を掲載した。
b 原告は、その後も、現在に至るまで、上記aと同様の内容の新聞広告を行っており、平成18年5月から平成19年9月末までの間に、全国紙において計66回、スポーツ紙において計28回及び夕刊紙において計15回の広告を掲載した。
(ウ) 雑誌広告
a 原告は、平成18年6月から同年7月にかけて、月刊誌である「DANCYU」、「食楽」、「サライ」、「おとなの週末」及び「大人のウォーカー」(東京版、関西版、東海版及び九州版)並びに週刊誌である「週刊新潮」において、原告商品表示の写真を含む原告商品の広告を、計15回掲載した。
b 原告は、その後も、現在に至るまで、上記aと同様の雑誌等において同様の内容の広告を行っており、平成18年6月から平成19年9月末までの間に、計77回の広告を掲載した。
(エ) 交通広告
a 原告は、平成18年5月から同年7月に至るまで、ジェイアール東日本、ジェイアール西日本、小田急、京王、阪急、阪神等の各路線の電車内及び駅構内において、原告商品表示の写真を含む原告商品の広告を、延べ266ないし267日間にわたって掲載した。
b 原告は、その後も、現在に至るまで、上記aと同様の内容の広告を行っており平成18年、 5月から平成19年9月末までの間に、延べ1295ないし1296日間にわたって掲載した。
(オ) 屋外広告
 原告は、平成18年9月に19か所、平成19年1月に44か所、そして、同年3月に104か所において、原告商品表示の写真を含む原告商品の広告を、屋外の看板に掲載した。
(カ) インターネット広告
 原告は、インターネット上で健康やグルメに関する情報等を提供する「All About」及び「healthクリニック」の各サイトにおいて、原告商品につき、原告商品表示の写真を含むタイアップ広告を行った。
オ 原告商品に関する報道について
 原告商品に関しては、発売前から平成18年7月下旬ころにかけて、次のとおり、各メディアにおける報道がされた。
(ア) テレビ
 平成18年5月から同年6月にかけて、全国各地の民放テレビ局121局123番組において、計7755秒間、原告商品に関する報道が行われた。
 ただし、その報道において、原告商品表示が示されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ) 新聞
平 成18年4月から同年7月下旬にかけて、全国紙、地方紙及びスポーツ紙において、少なくとも計87回、原告商品の特集記事が掲載され、その大部分において、原告商品表示の写真が付されていた。
(ウ) 雑誌
 平成18年5月から同年7月にかけて、同期間に発売された雑誌「宝島東」、「京ウォーカー」、「DIME」、「女性自身」、「女性セブン」、「Tarzan」等において、少なくとも計21回、原告商品表示の写真が付された原告商品の特集記事が掲載された。
カ 原告商品が受けた賞について
 原告商品は、平成18年度の「日経新聞優秀商品・サービス賞:日経新聞最優秀賞」、「小学館DIMEトレンド大賞:健康・生活部門賞」、「日本食糧新聞食品ヒット賞:ヒット大賞/新技術食品開発賞」及び「ドラッグマガジン社・ヒット商品優秀賞」を受け、それらの受賞に関する紹介記事等において、原告商品表示の写真が示されたものも存在した。
(2) 原告商品表示の周知性について
 上記(1)の認定事実によれば、原告は、平成18年5月から同年7月までの間において、原告商品表示を付した原告商品を、多くの一般の顧客が容易に購入することができ、かつ、容易に目にすることができると考えられる、コンビニエンスストア、ドラッグストア、スーパーマーケット等において、大量に販売していた。それと併せて、新聞、雑誌及びインターネットといった各種のマスメディア並びに利用者が多いと考えられる路線の電車内及び駅構内において、原告商品表示を付した広告を頻繁に行っており、また、テレビ広告においても、そのような他のマスメディアの状況からすれば、それらと同様に、原告商品表示の写真が放送されていたものと推認される。その他、原告商品は、テレビ、新聞及び雑誌において紹介され、その多くで原告商品表示の写真が付されており(テレビにおいても原告商品表示の写真が紹介されていたと推認されることは、上記広告の場合と同様である。)、さらに、平成18年度の人気商品として各種の賞も受け、その報道においても、一部、原告商品表示が紹介されていたものである。
 このような状況に照らせば、原告商品表示は、現時点においてはもちろん、被告ら商品Aの販売が開始された平成18年7月下旬ころ(上記前提となる事実(4)ア)の時点においても、原告商品を表すものとして全国の消費者に広く認識され、相当程度強い識別力を獲得していたといえ、周知性を有していたものと認めることができる。
 この点、被告らは、原告商品の販売や宣伝広告が行われた期間の短さを根拠として、平成18年7月下旬ころの時点では、原告商品表示の周知性及び著名性が認められない旨主張するが、上記(1)の認定事実のとおり、原告が、原告商品発売時である同年5月から同年7月までの間に、相当集中的な販売及び宣伝活動を行っていることに照らせば、その期間が2か月間であっても、周知性を獲得したと認めるのが相当であり、被告らの主張するところは、抽象的な推測の域を出るものではないから、これを採用することができない。
(3) 原告商品表示の著名性について
 原告は、上記(1)で認定された原告商品の販売及び宣伝活動の状況を根拠として、原告商品表示が、平成18年7月下旬ころの時点において、周知性を超えて著名性まで獲得していた旨主張する。
 しかしながら、ある商品の表示が取引者又は需要者の間に浸透し、混同の要件(不正競争防止法2条1項1号)を充足することなくして法的保護を受け得る、著名の程度に到達するためには、特段の事情が存する場合を除き、一定程度の時間の経過を要すると解すべきである。そして、原告商品については、上記の平成18年7月下旬の時点において、いまだ発売後2か月半程度しか経過しておらず、かつ、原告商品表示がそのような短期間で著名性を獲得し得る特段の事情を認めるに足りる証拠もないのであるから、原告商品表示は、同時点において、著名性を有していたものと認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
2 争点(2)(原告商品表示と被告ら各商品表示との類似性の有無)について
(1) 不正競争防止法2条1項1号における類似性について
ア 類似性の判断基準について
(ア) ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似しているか否かについては、取引の実情の下において、需要者又は取引者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準とし、需要者又は取引者が、時と所を異にして両者を観察した場合にどのように認識するかという観察方法(離隔的観察)によって、判断されるべきである。
(イ) 原告は、原告商品表示のうち、「黒烏龍茶」という文字部分が要部であって、それ自体で識別力を有する旨主張し、その根拠として、同文字部分について、その配置、文字の大きさ、色等において最も目立つように工夫されていること、普通名称ではなく、原告が考案した造語であること(甲50)などを挙げる。
 この点について、証拠(甲10の59及び124、甲11の7、22ないし24、29、34及び42、甲12の3及び4、甲15、甲40、甲50)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品について、新聞社から取材を受けた原告の担当者自身が、「黒烏龍茶」という名称の由来について、茶の色が濃く黒いからである旨述べていること、原告商品を紹介した雑誌の記事が、「濃い色の烏龍茶」、「『黒』の色は、”ウーロン茶重合ポリフェノール”の色素沈着」、「ネーミングは・・・高濃度のウーロン茶重合ポリフェノール成分の色をそのまま強調し」などと紹介しており、その一部は、原告担当者自身のコメントを掲載したものであると窺われること、平成18年度のヒット商品として表彰を受けたことに関する受賞記事においても、濃い色から「黒烏龍茶」と名付けられたとの記載が存在すること、消費者と原告の「お客様センター」の担当者との電話でのやりとりにおいて同、 担当者自身が、「・・・お色の方も通常のより濃い茶色を示して、茶色になっておりますので、これで黒というふうにネーミング付けさせていただいております。」と話していること、原告のウエブサイト上における原告商品の紹介で、効能成分である”ウーロン茶重合ポリフェノール”を豊富に含むことにより、通常の「ウーロン茶」よりも濃い色をしていることから「黒烏龍茶」と名付けました。」とされていること、「黒烏龍茶」のネーミングに関与したという原告の健康飲料部長が、「『黒烏龍茶』は、通常のウーロン茶に比べて色が濃いこと、及びこの商品特性を表現するために「黒」を使って「黒烏龍茶」というネーミングに決定したものです。」などと述べていることが認められる。
 これらの事実及び「烏龍茶」が著名な茶の種類を意味する普通名詞であることに照らせば、「黒烏龍茶」自体は、原告自身の認識及びその名称の考案過程においても、茶の種類を意味する普通名詞である「烏龍茶」に、「濃くて黒っぽい」という茶の色を意味する形容詞である「黒」を付加したものであり、製品の種類及び性状を表す2つの単純な言葉を組み合わせたにすぎないから、特殊な造語として、単独で高い識別力を持つとまではいえず、それのみが原告商品表示の要部であるともいえない。
 したがって、原告の上記主張は採用できない。
(ウ) また、原告は、原告商品表示のうち、「サントリー」及び「Suntory」という登録商標の文字部分や、特定保健用食品であることを示す文字部分や図形部分、そして、「脂肪の吸収を抑える」及び「OTPP」という文字部分については、文字の大きさや原告商品表示全体における配置、その意味内容等からして、需要者の印象、記憶に強く残るものではなく、類似性判断において考慮すべき特徴ではない旨主張する。
 しかしながら、複数の商品表示における類似性を判断するに当たってはそれらの表示に含ま、 れる各部分を総合考慮し、共通点から生じる印象の強さと相違点から生じる印象の強さを比較衡量して、需要者又は取引者において両表示が類似するものと受け取られるおそれがあるか否かを検討すべきであり、前提において特定の部分を除外して判断すべきものではない。
 したがって、原告の上記主張も採用できない。
イ 被告ら商品表示Aについて
(ア) 原告商品表示と被告ら商品表示Aの外観について
 原告商品表示と被告ら商品表示Aとは、包装パッケージ全体の背景が黒色であり、その縁取りが金色の唐草模様である点、同背景の正面中心部に短冊が配置されている点、同短冊内に、大きく、縦書きで、明朝体の漢字により、「黒烏龍茶」と記載されている点、同短冊の背景色が茶色で、その囲みが二重線である点、同短冊の右側に縦書きの金色の文字で含有成分が記載されており、その記載に「ポリフェノール」というゴシック体の片仮名の文字部分が含まれている点で、外観が共通している。
 方、原告商品表示においては、「サントリー」及び「Suntory」という文字、特定保健用食品であることを示す文字及び図形、そして、「脂肪の吸収を抑える」及び「OTPP」という文字といった被告ら商品表示Aにない記載があるのに対し、被告ら商品表示Aにおいては、内容量の記載がある点、原告商品表示がペットボトル用の包装パッケージに付されたものであるのに対し、被告ら商品表示Aが箱用の包装パッケージである点、商品名の読み仮名として、原告商品表示では「クロウーロン」との記載があるのに対し、被告ら商品表示Aでは「ブラックウーロン」との記載がある点、含有成分を示す記載も、原告商品表示が「ウーロン茶重合ポリフェノール70mg」とされているのに対し、被告ら商品表示Aでは「烏龍茶ポリフェノール含有」とされている点において、外観が相違する。
 これらの共通点及び相違点を総合すれば、表示全体及び各構成部分の模様色及び配置、 、「黒烏龍茶」という商品名及び「ポリフェノール」という含有成分名及びそれらの文字部分の字体、色及び配置といった上記の各共通点は、各部分の内容、大きさ、配色、配置等からして、そこから受ける印象が、上記の各相違点から受ける印象よりも、需要者又は取引者の記憶に強く残るものと評価することができ、離隔的観察の下では、原告商品表示の外観と被告ら商品表示Aの外観とは、極めて類似しているものといえる。
(イ) 原告商品表示と被告ら商品表示Aの称呼について
 原告商品と被告ら商品を飲料用商品として称呼する場合、原告商品表示からは、「くろうーろんちゃ」、「さんとりーくろうーろんちゃ」又は「さんとりーくろうーろんちゃおーてぃーぴーぴー」の称呼を生じ、被告ら商品表示Aからは、「くろうーろんちゃ」又は「ぶらっくうーろん」の称呼を生じる(なお、被告ら商品表示Aにおける「黒烏龍茶」の文字部分右横の「ブラックウーロン」という読み仮名については、その各文字部分の大きさの比率に照らせば、需要者又は取引者において、必ずしもその読み仮名どおりに読むとは限らないというべきである。)ものと認められる。
 そして、原告商品表示と被告ら商品表示Aとで共通する称呼である「くろうーろんちゃ」は、商品表示の中央に大きく縦書きされた「黒烏龍茶」の文字に由来し、商品名を示すものであって、通常、需要者又は取引者が当該商品を認識及び記憶するに際して重要なものであるから、原告商品表示において「さんとりー」という著名な称呼が生じる場合があることを考慮しても、原告商品表示と被告ら商品表示Aの称呼については、全体として相当程度の類似性を認めることができる。
(ウ) 原告商品表示と被告ら商品表示Aの観念について
 原告商品表示においては、中央に表示された「サントリー」「黒烏龍茶」の文字部分及び「ウーロン茶重合ポリフェノール70mg」の含有成分の記載から、「黒色のウーロン茶」、「サントリーの製造販売に係る黒色のウーロン茶」、「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」などの観念が生じるものと認められる。これに対し、被告ら商品表示Aにおいては、同じく中央に表示された「黒烏龍茶」の文字部分及び「烏龍茶ポリフェノール含有」の含有成分の記載から、「黒色のウーロン茶」、「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」などの観念が生じるものと認められる。
 そうすると、原告商品表示と被告ら商品表示Aとからは、「黒色のウーロン茶」及び「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」という共通する観念が生じるものといえる。
(エ) 以上の認定事実と上記1で判示した原告商品表示の周知性を併せ考慮すれば、原告表示と被告ら商品表示Aは、全体的、離隔的に対比して観察した場合には、その共通点から生じる印象の強さが相違点から生じる印象の強さを上回り、需要者又は取引者において、両表示が類似するものと受け取られるおそれがあるというべきである。
 これに対し、被告らは、茶飲料業界の取引の実情として、上記共通点に係る表示方法は、すべて同業界において普通に使用されている表示方法であるから、そのような点が類似していたとしても、不正競争法上何ら非難されるべきものではないと主張し、その証拠として、他の茶飲料の表示を挙げるが(乙26ないし38、41ないし52、65ないし67、124)、それらの表示が被告ら商品Aの製造、販売開始時である平成18年7月下旬当時に既に存在していたことを認めるに足りる証拠はないから、少なくともその時点における類似性判断を左右するものではない(なお、被告らは、差止請求との関係では現在の取引の実情が問題とされるべきである旨主張するところ、差止請求の可否の点については、後に検討する。)。
 むしろ、原告従業員が原告商品又は被告ら商品の顧客からの電話による意見をとりまとめた報告書(甲15、以下「原告報告書」という。)及び弁論の全趣旨によれば、複数の顧客が被告ら商品Aを原告商品と誤認して購入したという事実が認められるのであるから、原告商品表示と被告ら商品表示Aとでは、需要者又は取引者において、被告ら商品Aを原告商品と混同し、又は、被告ら商品Aが原告商品の関連商品であると誤認するおそれがある程度に紛らわしく、類型的な混同のおそれがあるというべきである。
 したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Aとの間においては、不正競争防止法2条1項1号の類似性が認められる。
ウ 被告ら商品表示Bについて
(ア) 原告商品表示と被告ら商品表示Bの外観について
a 原告商品表示と被告ら商品表示Bとは、その外観において、包装パッケージの背景色が黒味を帯びた濃い色である点、明朝体の漢字の「黒」という文字部分が存在する点、「烏龍茶」という文字部分が存在する点及び含有成分が記載されており、その記載に「ポリフェノール」という片仮名のゴシック体の文字部分を含まれている点で共通しているのみであって、その余の点は、いずれも相違している。
 しかも、上記共通点のうち、包装パッケージの背景色は、原告商品表示が黒色の無地であるのに対し、被告ら商品表示Bは、黒色地に灰色の横縞模様が入ったものである点において、相違している。また、「黒」及び「烏龍茶」の文字部分は、原告商品表示では、一体として「黒烏龍茶」と縦書きで表記されているのに対し、被告ら商品表示Bでは、「黒濃」の文字が縦書きで表記され、その横に、これとは独立して烏龍茶と横書きで、「」表記されている点及び両者の文字の色が異なっており、さらに、「烏龍茶」の文字については、両者の書体も、相違している。そして、「ポリフェノール」という文字部分も、両者の文字の色及び縦書きか横書きかという点で相違している。
 以上の事実に照らせば、離隔的観察の下でも、全体的に見て両者の外観が類似しているということはできない。
b これに対し、原告は、被告ら商品表示Bにおいて、「烏龍茶」の文字があえて「黒」と「濃」との中間あたりを軸に配置され、包装パッケージの形状が横長となっていることから、普段、著名な表示として原告商品表示を目にしている需要者又は取引者が被告ら商品表示Bに接したとき、「黒濃」の「黒」と「烏龍茶」とがまず目に入り、左から右に両者を併せて「黒烏龍茶」と読んでしまう旨主張する。
 しかしながら、需要者又は取引者が、「濃」の字を考慮することなく原告の主張するような認識に至るという推認を基礎付けるための具体的な事実は、何ら主張、立証されておらず、そもそも、被告ら商品表示Bの外観に照らして、そのような推認自体、不自然であるといわざるを得ず、原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告商品表示と被告ら商品表示Bの称呼について
 原告商品と被告ら商品を飲料用商品として称呼する場合、原告商品表示からは、「くろうーろんちゃ」「さんとりーくろうーろんちゃ」の称呼を生じ、被告ら商品表示Bからは、「こくのううーろんちゃ」の称呼を生じる(なお、上記(ア)のとおり、「くろうーろんちゃ」との称呼は生じない。)ものと認められる。
 そうすると、原告商品表示と被告ら商品表示Bとは、全体の称呼が相違するものであり、また、各称呼のうち共通する「うーろんちゃ」は、前記のとおり著名な茶の種類を意味する普通名詞にすぎないから、その部分のみを分離して称呼を検討するのは相当でない。したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Bの称呼において、類似性を見出すことはできないというべきである。
(ウ) 原告商品表示と被告ら商品表示Bの観念について
 原告商品表示からは、上記イ(ウ)のとおり、「黒色のウーロン茶」、「サントリーの製造販売に係る黒色のウーロン茶」、「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」の観念が生じ、被告ら商品表示Bからは、「黒濃烏龍茶」の文字部分及び「ポリフェノール含有」の含有成分の記載に応じて、「黒色の濃いウーロン茶」、「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」の観念が生じるものと認められる。
 そうすると、原告商品表示と被告ら商品表示Bとは、複数生じ得る観念のうち、「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」という観念でのみ共通するものといえる。
(エ) 以上の認定事実によれば、原告表示と被告ら商品表示Bは、全体的、離隔的な観察の下で、それらの相違点から生じる印象が非常に強いといわざるを得ず、観念において一部共通する点があることを考慮しても、需要者又は取引者において両表示が類似するものと受け取るおそれを認めることはできない。
 これに対し、原告は、飲料商品が商品表示に厳密な注意を払わずに購入されるものであるから、需要者又は取引者において、被告ら商品Bが、原告商品のラインナップの1つであるか、あるいは、原告と被告らとの間の提携関係により発売されているものであるなどと考え、両者を混同するおそれがある旨主張する。
 しかしながら、原告の主張する飲料商品の購入状況については、これを認めるに足りる証拠がなく、被告ら商品Aの場合のように実際に消費者が誤認した事例も認められない上、原告商品表示と被告ら商品表示Bとが上記のとおり大きく相違していることからすれば、原告商品表示が周知であると認められることのほか、原告が縷々主張する事情をすべて考慮したとしても、両者において、類似性判断の基礎となり得る、需要者又は取引者に混同を生じさせる類型的なおそれを認めることはできず、原告の上記主張は理由がない。
 したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間においては、不正競争防止法2条1項1号の類似性を認めることができない。
(2) 不正競争防止法2条1項2号における類似性について
 上記1のとおり、原告商品表示については、著名性を認めることができないが、本件事案の性質に鑑み、仮に、原告商品表示が著名であるとした場合、原告商品と被告ら商品Bとの間に不正競争防止法2条1項2号における類似性を認めることができるのか否かについて検討を加える。
ア 類似性の判断基準について
 不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も、同項1号におけるそれと基本的には同様であるが、両規定の趣旨に鑑み、同項1号においては、混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し、同項2号にあっては、著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し、稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か、すなわち、容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。
 この点、原告は、同項2号の類似性判断においては、同項1号の場合よりも、広く類似性が認められる旨主張するが、上記のとおり、両者の類否判断は、その趣旨に対応した基準で行われるにすぎず、同項2号の場合において、常に広く類似性が肯定されるわけではないから、原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告商品表示と被告ら商品表示Bの類似性について
 上記(1)ウで検討した諸事情、すなわち、原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間に、外観及び称呼の点で、大きな相違があると認められることに照らせば、需要者又は取引者において、被告ら商品表示Bを認識したとしても、(仮定的に)著名な原告商品表示自体を容易に想起するとまではいえない。
 したがって、原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間においては、不正競争防止法2条1項1号の場合と同様に、同項2号の類似性を認めることはできないというべきである。
(3) 以上によれば、被告ら商品表示Aについては、不正競争防止法2条1項1号の類似性が認められ、他方、被告ら商品表示Bについては、同項1号及び同項2号の類似性がいずれも認められないこととなる。
3 争点(3)(被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるものといえるか)について
(1) 被告ら商品Aについて
ア 上記2(1)イで検討したとおり、被告ら商品表示Aは、需要者又は取引者において、原告商品表示と類似するものと受け取られるおそれを有していると認められる上、原告報告書(甲15)によれば、実際に複数の顧客が被告ら商品Aを原告商品と誤認して購入したという事実も認められる。
 さらに、原告従業員が小売店の店頭を調査した結果を記載した報告書(甲16、以下「原告第2報告書」という。)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品と被告ら商品Aとが同一の小売店の店頭で並んで売られているという事例も存したものと認められる。
 これらの諸事情に照らせば、需要者又は取引者において、被告ら商品Aを原告商品と同一のものであると混同し、又は、被告ら商品Aが原告商品の関連商品ないしシリーズ商品であると誤認し得るものと認めることができる。
イ これに対し被告らは原、 、 告商品と被告ら各商品との商品自体の相違(食品衛生法上、原告商品が清涼飲料水であるのに対し、被告ら商品は加工食品である「茶葉」であること等)、商品コンセプトの相違(原告商品は、コンビニエンスストアを中心に冷やした状態で販売され、利便性を嗜好する比較的若い世代の消費者を対象とするのに対し、被告ら各商品は、家庭において煮出すという方法をとるため、健康のため手間暇を惜しまず良質の商品を嗜好する中高年層を対象とすること)及び商品価格の差(原告商品が1本168円程度であるのに対し、被告ら商品が1箱3500円であること)などを理由に、両者を混同するおそれはない旨主張する。
 しかしながら、被告ら主張の商品コンセプトの相違については、これを認めるに足る証拠がない上、仮に、これらの相違点等が認められるとしても、それらの相違点等が存することにより、具体的に原告商品と被告ら商品Aとの混同を防止し得たこと又は混同の可能性を減殺し得たということについては、何らの立証もされておらず、被告らが信用性を争うとする原告報告書及び同第2報告書(甲15、16)についても、その信用性を疑うに足りる証拠はない。
 よって、原告商品表示と被告ら商品表示Aとの強度の類似性や実際の混同事例等を基礎とする上記判断を覆すに足る証拠はないから、被告らの同主張は、採用することができない。
ウ したがって、被告らによる被告ら商品Aの製造、販売は、被告ら商品Aと原告商品との混同を生じさせる行為に該当するというべきである。
(2) 不正競争防止法2条1項1号及び2号違反についての小括
ア 被告ら商品Aについて
(ア) 以上検討したところによれば、被告らによる被告ら商品Aの製造、販売は、不正競争防止法2条1項1号に違反するものであると認められ、それについては、原告商品表示の周知性に照らし、被告らにおいて少なくとも過失があったものと認められるのであるから、原告は、被告らに対し、これまでに被った損害について賠償請求をすることができる。
(イ) しかしながら、本件全証拠によっても、被告らにおいて、現在、被告ら商品Aを製造、販売しているという事実を認めることはできず、また、今後、同商品を製造、販売を反復するおそれがあるという事実も認めることはできない。
 したがって原告の被告、 らに対する被告ら商品Aに関する差止請求(上記第1の1ないし3のうち、被告ら商品Aに係る部分)は、いずれも理由がない。
イ 被告ら商品Bについて
 上記2(1)ウ及び(2)ウのとおり、被告らによる被告ら商品Bの製造、販売は、不正競争防止法2条1項1号又は2号のいずれにも違反しないと認められるから、これに基づく原告の請求のうち被告ら商品Bに係る部分(上記第1の1ないし3のうち被告ら商品Bに係る部分並びに11、13及び14のうち被告ら商品Bの製造、販売に基づく部分)は、いずれも理由がない。
ウ なお、原告は、被告ら商品A及びBの製造及び販売が、原告の著名な商品表示にフリーライドすることを意図した同一業者による密接に関連した一連の行為であって、被告ら商品Bの製造及び販売に至るまでの一連の経緯を踏まえつつ、被告ら商品表示Bを評価すれば、被告ら商品Bの製造及び販売も、被告ら商品Aの製造及び販売と同様、不正競争防止法に違反すると評価できる旨主張する。
 しかしながら、上記前提となる事実、上記2の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告オールライフサービスに対し、被告ら商品Aの製造、販売が不正競争防止法に違反する旨の警告を行った後、被告らは、同商品の製造を中止し、包装パッケージを不正競争防止法2条1項1号及び2号に違反しない被告ら商品表示Bを付したものに変更した上で、被告ら商品Bを製造、販売するに至ったものであると認められる。
 このような被告らの行為について、一連のものであることを理由として、被告ら商品Bの製造、販売まで不正競争防止法違反となると評価することはできないというべきであり、他にそのような評価を根拠付ける事実を認めるに足りる証拠はないのであるから、原告の上記主張は理由がない。
4 争点(4)(被告オールライフサービスが、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は被告ら商品Bの品質及び内容を誤認させるような表示をしているか)について
(1) 虚偽事実告知(不正競争防止法2条1項14号)について
ア 上記前提となる事実、証拠(甲1、17、18、23ないし25、51、乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) ウーロン茶重合ポリフェノール(Oolong Tea Polymerized Polyphenols:OTPP)とは、ウーロン茶を製造する際の、緑茶葉を半醗酵させる過程で、カテキン類が重合して生じるウーロン茶特有のポリフェノールであり、その成分として「ウーロンホモビスフラバンB」を含んでいる。
(イ) 原告の健康科学研究所(以下「原告研究所」という。)において、ウーロン茶重合ポリフェノールの効能を解析した結果、同ポリフェノールは、消化酵素であるリパーゼの働きを阻害し、脂肪のリンパ管への吸収を抑制すること、緑茶葉に含まれ、脂肪吸収抑制の作用を有する茶カテキンとして一般に知られている、「エピガロカテキンガレート」とは異なるものであり、それよりも強力な脂肪吸収抑制効果を有することなどが判明した。
(ウ) 原告は、平成18年2月21日、厚生労働省から、原告商品について特定保健用食品と、 して、「本品は、脂肪の吸収を抑えるウーロン茶重合ポリフェノールの働きにより、食後の血中中性脂肪の上昇を抑えるので、脂肪の多い食事を摂りがちな方、血中中性脂肪が高めの方の食生活改善に役立ちます。」との表示をすることを許可された。
(エ) 被告オールライフサービスは、平成18年12月ころ、インターネット上において開設されたウェブサイトにおいて、本件各比較広告の掲載を開始し、遅くとも本件訴訟の答弁書が作成された平成19年7月9日より以前の時点で、これを削除した(ただし、その正確な時期については不明である。)。
(オ) 本件各比較広告が掲載されたのと同じウェブサイト上には、被告ら商品Bについて、「烏龍茶ポリフェノール含有で中性脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇が抑制」できるとの記載及びその「飲み方」として「2リットルのお湯にティーバッグ1包を入れて、2〜3分煮出した後火を止め5〜10分そのまま入れて出来上がります。※煮出す時間により、味の濃さを調節することができます。」との記載が存在した。
(カ) 被告ら商品Bの包装パッケージには、「お召し上がり方」として、「2リットルのお湯にティーバッグ1包を入れて、弱火で2分〜3分煮出した後、火を止めて5分〜10分そのまま蒸らせば出来上がります。※煮出す時間により、味の濃さを調節することができます。」との記載が存在した。
(キ) 原告は、原告研究所において、被告ら商品Bから上記(カ)の記載に示された方法に則って抽出した液をサンプルとし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、厚生労働省の許可に当たり関与成分の分析方法として公に示された方法により、サンプルに含まれるウーロン茶重合ポリフェノールの含有量を調査したところ、2リットル当たり272ミリグラムで、350ミリリットル当たり47.6ミリグラムとの結果を得た他方原。、 告商品は、ウーロン茶重合ポリフェノールを、2リットル当たり400ミリグラム、350ミリリットル当たり70ミリグラム含有する。
(ク) 被告オールライフサービスは、株式会社エコプロ・リサーチに依頼し、被告ら商品B及び原告商品について、いずれもフォーリンデニス(Folin−denis)法という測定方法を用いた検査を行った(株式会社エコプロ・リサーチによる試料受付日及び同社が発行した検査証明書の日付は、それぞれ、被告ら商品Bにつき平成18年12月13日及び同月15日、原告商品につき平成19年6月13日及び同月22日である。)ところ、被告ら商品Bについては、「茶葉15gを2Lで10分間沸騰させ30分放置後分析する」という方法により、「総ポリフェノール類(+カテキンとして)」が100ミリリットル当たり132.6ミリグラム含まれており、原告商品については、「ポリフェノール類」が100ミリリットル当たり95.6ミリグラム含まれているという結果を得た。
イ 不正競争防止法上2条1項14号にいう「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」とは、他人の社会的評価、すなわち、一般需要者の視点から見た評価を低下させ、又は低下させるおそれがあるような事実であり、かつ、それを告知又は流布する者の主観的認識とは関係なく、客観的真実に反する事実をいうものと解すべきである。
 そして、本件各比較広告を一般需要者の視点から検討すると、近接して表示された上記ア(オ)の説明内容及び原告商品の画像と相まって、被告ら商品Bに含まれるウーロン茶重合ポリフェノールの量や効能等について原告商品と比較しながら宣伝するものであり、本件比較広告1では、被告ら商品Bのティーバッグ1包で350ミリリットル入りペットボトル5本半分の原告商品が含有する量よりも多くのウーロン茶重合ポリフェノールを含むウーロン茶を作れることを、本件比較広告2では、被告ら商品Bの単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量が原告商品のそれの約70倍であり、原告商品のウーロン茶重合ポリフェノールの濃度が被告ら商品Bのそれに比して相当薄いことを、それぞれ示しているものと解釈することができる。
 ところが、上記ア(カ)、(キ)のとおり、一般需要者が、本件各比較広告が掲載されたウェブサイト又は被告ら商品Bの包装パッケージの各記載に基づき、通常認識するはずの方法によって作られた被告ら商品Bのウーロン茶重合ポリフェノールの含有量は、350ミリリットル当たり47.6ミリグラムであり、他方、原告商品のそれは、350ミリリットル当たり70ミリグラムであるから、両者の単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量を比較すると、原告商品の方が多く、よって、その濃度は原告商品の方が濃いといえる。
 そうすると、上記のように解釈される本件比較広告1及び本件比較広告2は、いずれも、客観的真実に反する虚偽の事実であり、かつ、一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる。
ウ これに対し、被告オールライフサービスは、@本件比較広告1に関して、上記ア(ク)の検査結果によれば、被告ら商品Bのティーバッグ1包で、原告商品の350ミリリットル入りペットボトル1本分の約7.9倍の総ポリフェノール量を含んでいることになり、被告ら商品Bの総ポリフェノール量の方が多い旨を、A本件比較広告2に関して、原告商品と被告ら商品Bとの価格1円当たりのポリフェノール含有量を比較したものである旨を、それぞれ主張する。
 しかしながら、@については、上記ア(ク)の検査における試料の抽出方法が、被告オールライフサービスが一般需要者に対して示しているものよりも長時間にわたって沸騰及び放置された方法を用いているのみならず、そこで測定された対象が、被告ら商品Bにおいては、「総ポリフェノール類(+カテキンとして)」とされ、他方、原告商品においては、「ポリフェノール類」とされており、それらの厳密な特定や同一性について疑問が残ることから、同検査に基づいて、本件比較広告1の真偽を検討するのは、相当でないといわざるを得ない。したがって、被告オールライフサービスの上記@の主張は、採用することができない。
 また、Aについては、本件各比較広告及びそれに近接した他の表示には、本件比較広告2が1円当たりのポリフェノール含有量を比較したことを示す記載はなく、他にそのような事実を認めるに足りる証拠もない。したがって、被告オールライフサービスの上記Aの主張も、採用することができない。
エ そうすると、被告オールライフサービスによる本件各比較広告のウェブサイトへの掲載は、同じウーロン茶の販売を行っており、競争関係にあると認められる原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布する行為であると認められる。
(2) 小括
 以上によれば、被告オールライフサービスによる本件各比較広告のウェブサイト上への掲載は、主位的請求に係る不正競争防止法2条1項14号に該当するものといえる。
 ただし、本件各比較広告は、既にウェブサイト上から削除されている上、その削除が、被告オールライフサービス自身によって、本件口頭弁論終結時点よりも15か月以上前になされていることなどの本件訴訟に表れた諸事情に照らせば、今後、本件各比較広告が再び掲載されるおそれがあるとは認められないから(原告は、被告オールライフサービスの態度が誠実でないなどとして、今後も本件各比較広告の掲載を繰り返すおそれがある旨主張するがそのようなおそれが具体的、 かつ現実的であることを根拠付ける事実についての主張、立証はされておらず、原告の同主張を採用することはできない。)、原告の被告オールライフサービスに対する本件各比較広告の差止請求(上記第1の5及び6の請求)は、理由がない。
5 争点(5)(被告オールライフサービスが、虚偽事実告知又は品質等誤認表示について故意又は過失を有していたか)について
 比較広告を掲載する者は、比較広告を掲載するに当たり、内容が虚偽の事実に基づかないようにその真実性を十分調査すべき義務があることは当然であって、被告オールライフサービスにおいても、原告の商品と自己の商品を比較する内容の本件各比較広告をインターネット上に掲載するに当たり、虚偽の事実によって原告の営業上の信用を害することがないよう、上記広告の内容の真実性を十分調査してから掲載すべき注意義務を負っていたものと認められる。それにもかかわらず、上記注意義務に反して、上記4のとおり、不正競争防止法2条1項14号に該当する本件各比較広告を掲載したのであるから、少なくとも、被告オールライフサービスは、同号違反についての過失を有するものと認めることができる。
 なお、原告は、被告オールライフサービスが、原告から被告ら商品Aに関する警告を受けた後に本件各比較広告を行ったこと、本件各比較広告において、自己に都合のよい結果となるように数値を捻出したことなどの事情によれば、明らかに故意が認められる旨主張するが、その根拠とする事情から直ちに被告オールライフサービスの故意を推認することはできず、他に故意の存在を根拠付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の同主張は理由がない。
 これに対し、被告オールライフサービスは、本件比較広告の業務を担当したのが入社して8か月程度の従業員であったことや、被告オールライフサービスが中小企業であることなどを根拠として、上記のような調査義務を課され、その義務違反の責任を問われるのが不当である旨を縷々主張するところ、仮にこれらの事実が認められるとしても、被告オールライフサービスが自ら積極的に本件各比較広告を行ったものである以上、それらがいずれも上記義務及び責任を免れる正当な法的理由とならないことは、明らかといえる。
6 争点(6) 被告オールライフサ( ービスが、本件各登録商標を商標として使用しているか)について
(1) 商標としての使用の有無
 上記4で認定したところによれば、被告オールライフサービスは、本件各比較広告において、被告ら商品Bの含有成分の量と原告商品のそれとを比較し、前者の方が優れていることを示すことで、被告ら商品Bの宣伝を行うために、原告商品に付された本件各登録商標を使用したものと認められ、これに接した一般需要者も、そのように認識するのが通常であるといえる。
 したがって、被告オールライフサービスによる本件各登録商標の使用は、比較の対象である原告商品を示し、その宣伝内容を説明するための記述的表示であって、自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないというべきであり、商標として使用されたものとは認められない。
(2) 小括
 以上により、原告の本件各登録商標に係る商標権に基づく請求(第1の7、8並び12及び13のうち商標権の侵害に基づく部分)は、いずれも理由がない。
7 争点(7)(本件デザインの著作物性の有無)について
(1) 著作物性の有無
ア 著作権法2条1項1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定し、さらに、同条2項は、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。
 これらの規定は、意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により著作物として保護されるのは、純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって、実用に供され、あるいは、産業上利用されることが予定されている図案やひな型など、いわゆる応用美術の領域に属するものは、鑑賞の対象として絵画、彫刻等の純粋美術と同視し得る場合を除いて、これに含まれないことを示していると解される。
イ 証拠(甲42、43、52)及び弁論の全趣旨によれば、本件デザインは、当初から、原告商品のペットボトル容器のパッケージデザインとして、同商品のコンセプトを示し、特定保健用食品の許可を受けた商品としての機能感、おいしさ、原告のブランドの信頼感等を原告商品の一般需要者に伝えることを目的として、作成されたものであると認められる。
 そして、完成した本件デザイン自体も、別紙原告商品目録の写真のとおり、商品名、発売元、含有成分、特定保健用食品であること、機能等を文字で表現したものが中心で、黒、白及び金の三色が使われていたり、短冊の形状や大きさ、唐草模様の縁取り、文字の配置などに一定の工夫が認められるものの、それらを勘案しても、社会通念上、鑑賞の対象とされるものとまでは認められない。
 したがって、本件デザインは、いわゆる応用美術の領域に属するものであって、かつ、純粋美術と同視し得るとまでは認められないから、その点において、著作物性を認めることができない。
(2) 小括
 以上により、原告の本件デザインの著作権に基づく請求(第1の9、10並びに12及び13のうち著作権の侵害に基づく部分)は、いずれも理由がない。
8 争点(8)(損害発生の有無及びその額)について
(1) 被告らに対する不正競争防止法2条1項1号、4条に基づく損害賠償請求について
ア 共同不法行為の成否
(ア) 証拠(甲44、53、56)及び弁論の全趣旨によれば、被告ら商品Aの製造及び販売については、被告オールライフサービスが、被告日本ヘルスからの発注に基づき、同被告から発注された数量だけ製造し、製造された被告ら商品Aは、すべて、被告日本ヘルスに販売され、他の業者には販売されていなかったことが認められ、同商品の物流についても、被告日本ヘルスが、被告オールライフサービスに対し、被告日本ヘルスの販売先に関する指示を出し、その指示を受けた被告オールライフサービスが、被告日本ヘルスの販売先に対し、直接、被告ら商品Aを送付していたことが認められる。
(イ) 上記(ア)の認定事実によれば、被告らの間には、被告ら商品Aに関し、被告オールライフサービスのみが商品を製造し、被告日本ヘルスのみが商品の販売を行うという、一対一の関係での緊密な役割分担の下、被告ら商品Aの製造、販売及び配送のために相互に利用、補充する関係にあったと評価することができ、民法719条1項前段の関連共同性を認めることができる。
 したがって、被告らによる被告ら商品Aの製造及び販売については、共同不法行為が成立し、被告らは、同行為によって原告が被った損害全額につき、連帯して、賠償責任を負う。
イ 損害額
(ア) 不正競争防止法5条2項によって推定される損害額
a 算定の基礎となるべき利益
 不正競争防止法5条2項の「侵害行為により得た利益」の算定においては、当該不正競争行為と相当な因果関係を有する費用、すなわち、当該不正競争行為に直接必要な費用を売上額からの控除の対象として、いわゆる限界利益を算定すべきであり、当該不正競争行為が行われなくとも発生する一般的費用は控除の対象とすべきではない。
b 売上額
 上記ア(ア)のとおり、被告ら商品Aは、被告オールライフサービスが製造したもののすべてが被告日本ヘルスに販売され、他の業者には販売されていなかったことからすれば、各被告の売上額を個別に算出したとしても、その利益額の算出に当たっては、結局、被告日本ヘルスの売上額から被告オールライフサービスの売上額が仕入額として控除されることになること、上記ア(イ)のとおり、被告らは、連帯して損害賠償責任を負う以上、各被告の利益額を個別に算出する必要はないことからすれば、被告ら商品Aの売上額は、被告日本ヘルスの売上額と同額であるとした上で、控除すべき費用として、被告日本ヘルスの被告ら商品Aの仕入額を考慮しないこととするのが相当である。
 したがって、被告らによる被告ら商品Aの各月の売上額は、次のとおりである(被告日本ヘルスの売上額として、当事者間に争いがない)。
@ 平成18年7月分 87万5874円
A 平成18年8月分 154万9425円
B 平成18年9月分 1086万1956円
C 平成18年10月分 810万8340円
D 平成18年11月分 453万6540円
E 平成18年12月分 51万3000円
 以上より、被告らの被告ら商品Aの売上合計額は、2644万5135円であると認められる。
 なお、被告日本ヘルスが受けた返品に関する被告らの主張については、本件全証拠によっても、その事実を認めることができない。
c 控除されるべき費用の項目及び額
 被告ら商品Aに関する被告らの売上額から控除されるべき費用の項目及び額は次のとおり、 であると認められる(争いがない事実以外は証拠等を項目の末尾に記載する。)。
@ 運送費(乙71、80、91、105、127、131、135、138、144、弁論の全趣旨)
 合計12万9440円
A 外注加工費
 合計142万6994円
B 加工費
 合計104万3226円
C 原料費(乙69、83、84、95、97、109、110、117、127、弁論の全趣旨)
 合計570万1056円
D 資材費(乙75ないし77、85ないし87、98ないし101、111ないし114)
 合計339万0230円
 以上より、控除されるべき費用の合計額は、1169万0946円であると認められる。
 なお、被告らは、これらの費用以外にも控除されるべき費用(下記@ないしB)があると主張するが、@研究費、社内作業費及び外注費については、これを認めるに足る証拠がないこと、A検査費用及び製品廃棄費用については、不正競争行為を行うために直接必要な費用とは認められないこと、B派遣会社に支払った派遣料並びに運送費、原料費及び資材費のうち上記認定額を超える部分については、被告ら商品Aの製造、販売のために要した費用と認めるに足る証拠はないことから、被告らの主張は、すべて採用することができない。
 また、以上は、被告オールライフサービスが支出した費用であり、被告日本ヘルスが支出した費用(上記のとおり、被告ら商品Aの仕入額を除くについて。) は、具体的な主張がなく、これを認めるに足りる証拠もない。
d 小括
 以上より、被告らが被告ら商品Aに関して得た利益の額は、1475万4189円(=2644万5135円−1169万0946円)であると認められる。
 そして、原告商品表示が周知であること、被告ら商品表示Aが原告商品表示と相当程度類似していること、原告商品及び被告ら商品Aの各販売形態、被告ら商品Aが品質や成分の重視されるいわゆる健康食品であること、原告商品がペットボトル入りの飲料であるのに対し、被告ら商品Aがティーバッグ入りの茶葉であること等の本件訴訟に表れた諸事情を総合考慮すれば、被告ら商品表示Aの被告らによる上記利益獲得に対する寄与度について、30パーセントと評価するのが相当である。
 したがって、不正競争防止法5条2項により原告の損害額と推定されるのは、442万6256円(=1475万4189円×0.3、1円未満切捨て)であると認められる。
(イ) 弁護士費用の額
 被告らの不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、45万円であると認められる。
(2) 被告オールライフサービスに対する不正競争防止法2条1項14号、4条に基づく損害賠償請求について
ア 無形的損害の額
 本件各比較広告は、その内容が客観的真実に反するものではあるが、被告ら商品Bの方が原告商品よりも品質が良いとするものにすぎず、原告商品の品質等を直接的に攻撃するものではないこと、インターネットという多くの一般需要者が容易に認識し得る媒体に掲載されたものではあるが、その掲載期間が、最も長く見ても7か月余りと、さほど長期間ではないといえること、上記5で検討したとおり、不正競争防止法2条1項14号違反の行為についての故意までは証拠上認められないこと、上記(1)の事実等から、原告の企業規模に比して被告オールライフサービスのそれが相当小さいものであると推認し得ること、被告オールライフサービスが原告からの警告を受けた後で本件各比較広告に及んだという経緯を十分考慮しても、そのこと自体が原告の信用毀損に直接結び付くとまではいえないこと等、諸般の事情に照らせば、被告オールライフサービスによる本件各比較広告掲載によって原告が被った損害額は、100万円であると認めるのが相当である。
イ 弁護士費用の額
 被告オールライフサービスの不正競争防止法2条1項14号違反の行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、10万円であると認められる。
(3) 小括
 以上によれば、被告らは、連帯して、合計487万6256円の損害賠償義務を負い、被告オールライフサービスは、合計110万円の損害賠償義務を負うこととなる。
9 争点(9)(信用回復措置の要否)について
 原告が求める信用回復措置については、認容された損害賠償の額や認定された事実に照らして、その必要性を認めるに至らないから、同措置に係る請求は、いずれも理由がない。
第4 結論
 以上の次第で、原告の被告らに対する不正競争防止法2条1項1号、4条に基づく損害額487万6256円及びこれに対する遅延損害金の請求並びに被告オールライフサービスに対する同法2条1項14号、4条に基づく損害額110万円及びこれに対する遅延損害金の請求は理由があるから、これらを認容することとし、その余の請求はいずれも理由がないから(なお、被告オールライフサービスに対する不正競争防止法2条1項13号に係る請求については、同項14号に係る請求との関係で予備的であるため、判断していない。)、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 國分隆文
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