判例全文 line
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【事件名】北朝鮮映画のニュース報道事件(日本テレビ)(2)
【年月日】平成20年12月24日
 知財高裁 平成20年(ネ)第10012号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成18年(ワ)第5640号)
 (平成20年10月22日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(1審原告) 朝鮮映画輸出入社
控訴人(1審原告) 有限会社カナリオ企画
両名訴訟代理人弁護士 齊藤誠
同 金舜植
同 石川美津子
被控訴人(1審被告) 日本テレビ放送網株式会社
訴訟代理人弁護士 松田政行
同 山元裕子
同 吉羽真一郎
同 上村哲史
同 足立格


主文
1 控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人朝鮮映画輸出入社の当審で拡張した請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
3 控訴人有限会社カナリオ企画の予備的請求に基づき、被控訴人は、控訴人有限会社カナリオ企画に対し、金12万円及びこれに対する平成18年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴人有限会社カナリオ企画のその余の予備的請求を棄却する。
5 控訴費用は、控訴人朝鮮映画輸出入社と被控訴人との間においては、控訴人朝鮮映画輸出入社の負担とし、控訴人有限会社カナリオ企画と被控訴人との間においては、これを10分し、その7を控訴人有限会社カナリオ企画の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙映画目録1ないし3記載の各映画を放送してはならない。
3 被控訴人は、控訴人ら各自(控訴人らの連帯債権)に対し、金35万2000円及びこれに対する平成18年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本判決においても原判決の略語表記を使用する。
1 本件の経過
 控訴人朝鮮映画輸出入社(以下「控訴人輸出入社」という。)は、原審において、別紙映画目録1記載の各映画について我が国の著作権法に基づく著作権を有すると主張して、被控訴人がそのテレビジョン放送において上記各映画を放映し、控訴人輸出入社の著作権(公衆送信権)を侵害するおそれがあるとして、被控訴人に対し、著作権に基づき、上記各映画の放映の差止めを求めるとともに、控訴人らは、被控訴人がそのテレビジョン放送に係るニュース番組中で別紙映画目録1記載の劇映画欄fの映画の映像の一部を放映した行為につき、控訴人輸出入社の著作権及び上記各映画について日本国内における利用等についての独占的な権利を有する控訴人有限会社カナリオ企画(以下「控訴人カナリオ企画」という。)の利用許諾権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、不法行為(著作権ないし著作物の利用許諾権の侵害)に基づき、控訴人ら各自(控訴人らの連帯債権)に損害賠償金550万円及びこれに対する平成18年3月29日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
 原判決は、上記各映画は著作権法6条3号所定の保護を受ける著作物に当たらないとして控訴人らの上記各請求を棄却した。
 そこで、これを不服として控訴を提起した控訴人らは、当審において、控訴人輸出入社は、別紙映画目録2及び3記載の各映画(以下、別紙映画目録1ないし3記載の各映画を「本件各映画著作物」という。)につき、著作権に基づく放映の差止請求を追加するとともに、控訴人らは、仮に本件各映画著作物が著作権法の保護を受ける著作物に当たらないとしても、被控訴人が上記映画の映像の一部を控訴人らの許諾を得ることなく放映した行為は、控訴人らが同映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たると主張して、民法709条に基づく損害賠償請求を予備的に追加した。なお、主位的請求に係る請求額を第1の3のとおり減縮した。
2 争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張
 本件の争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張は、次のとおり、原判決を訂正し、後記3及び4に当審における当事者の主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」、「2 主要な争点」及び「第3 争点に関する当事者の主張」(以上、原判決3頁6行〜14頁13行)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決4頁6行目から同10行目までを次のとおり改める。
 「(4) 被控訴人の行為
 被控訴人は、平成15年6月30日、「ニュースプラス1」と題するテレビジョンニュース番組において、別紙映画目録1記載の劇映画欄fの「密令027」と題する映画(以下「本件映画」という。)の映像の一部を、控訴人らの許諾を受けずに2分11秒間にわたり放映した(以下「本件無許諾放映」という。)。(甲15ないし17)」
3 当審における控訴人らの主張
(1) 多数国間条約に未承認国が加入した場合の国際法上の効力
ア 国際慣習法の不存在
 原判決は、国家として承認されていない国は、国際法上一定の権利を有することは否定されないものの、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないとしたうえで、これを前提として、未承認国は、国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても、同国を国家として承認していない国家との関係では、国際法上の主体である国家間の権利義務関係が認められない以上、原則として、当該条約に基づく権利義務を有しないと判断したが、誤りである。
 すなわち、国際法学の通説によれば、未承認国の多数国間条約への加入は直ちに既加盟国による黙示の国家承認を意味するものではないが、未承認国であることから、当該国を承認しない国との間で当該条約上の権利義務の存在が直ちに否定されるものでもなく、また、多数国間条約上の権利義務が未承認国との間で原則として生じない旨の国際慣習法は存在しない。むしろ、多数国間条約の加盟国は、当該国が承認しない国に対しても条約上の義務を負うという理を一般的に表明する著名な国際法学者も存在する。
 したがって、原判決が、国家として承認されていない国は、国際法上一定の権利を有することは否定されないものの、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないと判断したことは、明らかに国際法の解釈を誤ったものである。
イ ベルヌ条約の解釈
 著作権が国際社会において保護されるべき重要な価値を有していることは明らかであり、ベルヌ条約は、国際的な著作権保護という共通の目的の下に加盟国が同盟を形成し、著作者の権利を保護する多数国間の立法的条約である。
 WTO協定には、主権国家のみならず独立の関税地域も加入することができ、TRIPS協定9条1項が、主権国家のみならず、ベルヌ条約を批准することが不可能な独立の関税地域にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは、世界貿易機関(以下「WTO」という。)が著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていることの表れである。
 このように、著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有しているものとしてベルヌ条約を締結した国家間においては、たとえ特定の既加盟国家が特定の加盟国を国家として承認していないからといって、当該未承認国に対して同条約に基づく義務及び責任を負わないということはできず、同条約のすべての同盟国間において同条約の義務と責任を負うことは明らかである。
ウ 著作権法6条3号の適用
 原判決は、本件各映画著作物が著作権法6条3号にいう「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たるか否かの判断において、同号該当性は、我が国が未承認国である北朝鮮に対してベルヌ条約上の義務を負担するか否かの問題に帰着するとしたが、このような問題設定は、法律の解釈を誤ったものである。
 著作権法6条3号の適用においては、北朝鮮がベルヌ条約の加盟国か否かを認定すれば足り、これが認定できるのであるから、北朝鮮の国民の著作物について著作権法上の保護が認められると判断すべきである。
 そして、未承認国についてはベルヌ条約の加盟国であっても同条約上の保護が及ばないとの被控訴人主張は、著作権法の適用を認めないとの主張であるから、未承認国についてはベルヌ条約の加盟国であってもその保護が及ばないとの事実が認定されてはじめて著作権法の保護が及ばないとの判断がされるべきであるが、この事実の立証はされていない。
 したがって、原判決がベルヌ条約の加盟国である北朝鮮について同条約の効力を否定したのは、明らかに著作権法の解釈を誤るものである。
(2) 法律上保護すべき利益としての映画著作物の侵害(民法709条に基づく予備的損害賠償請求)
ア 本件各映画著作物は、北朝鮮において、控訴人輸出入社が主体となって企画し、製作予算措置を行い、各映画撮影所に発注して製作されたものである。
 また、控訴人カナリオ企画は、本件各映画著作物について著作権を有する控訴人輸出入社との間で、本件映画著作権基本契約を締結し、同契約に基づき、本件各映画著作物について、日本国内における上映、複製、放送及び頒布等についての利用許諾に関する完全独占的な権利を専有している。その結果、控訴人カナリオ企画は、日本国内において本件各映画著作物の利用に係る利益を独占し得る地位を有している。
イ 本件各映画著作物は、それ自体巨額の製作費を投入して製作され、巨額の取引の対象となっているものであるから、ベルヌ条約の問題を除けば、著作権法上保護すべき対象であり、仮に著作権法に基づく保護が与えられないとしても、控訴人らは、同著作物の利用について民法709条の法律上保護される利益を有する。
ウ 本件無許諾放映は、被控訴人が、巨額の放送権料を得るという営利の目的をもって控訴人らに無断で本件映画を使用したというものであり、同映画を不正に利用して利益を得たと評価されるから、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして控訴人らに対する不法行為を構成する。
エ 本件無許諾放映により、控訴人らが本件映画の利用について有する法的な利益が侵害され、これにより、控訴人らは、以下の損害を被った。
(ア) 許諾料相当額
 本件映画の全国放送の許諾料は次のとおりである。
 30秒以内 12万円
 30秒を超えたときの超過料金 1秒ごとに2000円
 本件無許諾放映は、2分11秒(131秒)行われたから、控訴人らの許諾料相当額の損害は、32万2000円となる。
 120,000円(30秒)+2,000円×101秒=322,000円
(イ) 弁護士費用
 控訴人らと本件訴訟の代理人弁護士は、本件訴訟の認容額の10パーセントを報酬とすることに合意しているから、弁護士費用としては、上記(ア)の10パーセントである3万円が相当である。
4 被控訴人の反論
(1) 多数国間条約に未承認国が加入した場合の国際法上の効力
ア 原判決は、多数国間条約上のある条項が個々の国家の便益を超えて国際社会全体に対する義務を定めているという例外的な場合を除き、我が国と未承認国との間では当該条約上の権利義務関係は生じないとの規範を定立し、ベルヌ条約について緻密な解釈を行った上であてはめを行い、ベルヌ条約3条(1)(a)は、国際社会全体に対する義務を定めた上記例外的な場合には該当しないとして、我が国と北朝鮮との間ではベルヌ条約上の権利義務関係が生じないと結論付けている。
 原判決の上記説示は、我が国政府見解並びに国際法及び著作権法の諸権威の各見解を踏まえてされたものであり、かつ、原判決においては、規範定立及びあてはめの全てを通じて論理的かつ緻密な認定がされているから、原判決は全く正当である。
イ 控訴人らは、WTOが加盟国に対してTRIPS協定に基づきWTOに加盟した「独立の関税地域」にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは、WTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていることの表れであると主張する。
 しかしながら、WTO協定が加盟国に対して「国」ではない「独立の関税地域」にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは、同協定12条1項において、「国」のみならず、「独立の関税地域」にも同協定への加入資格を与え、同協定上の権利義務関係を有する主体であることを特別に認めているからにすぎず、著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えたためではないから、控訴人らの上記主張は失当である。
(2) 一般不法行為の不成立
ア 無体物である情報は、伝統的に公共財であると認識され、各種知的財産権法により保護されない情報は、原則として何人も自由に利用できる。著作物についても同様であり、著作物の保護される範囲は、立法府が立法事実を踏まえた利益衡量を行い、著作権法により定めたものである。
 したがって、著作物の利用については、その保護範囲等を明確に規律している著作権法のみにより保護の有無及び範囲を画すべきであり、著作権法とは別個に一般不法行為を認めることは、立法府が許容することとした行為まで禁圧することとなり、法の意図に反し、かつ、情報の自由利用という点からも重大な問題があるというべきである。
 仮に一般不法行為が成立する余地があるとすれば、著作物の単なる利用に止まらず、公序良俗違反といえる程に強い反社会性や違法性を有する場合に限定されるべきである。
イ 控訴人輸出入社は、本件各映画著作物の著作権者ではないから、一般不法行為についても権利主体ではない。そして、控訴人輸出入社が権利主体でない以上、同控訴人から本件各映画著作物の利用許諾について独占的な権利を付与されたと主張する控訴人カナリオ企画もまた本件各映画著作物について何らの権利ないし利益を有するものではない。
ウ 本件無許諾放映は、北朝鮮国内における文化、学術、芸術を紹介することにより広く我が国国民の知る権利に奉仕するという報道目的で、報道番組において放送されたものであること、放送されたのは本件映画の一部であって、放送時間も131秒間に過ぎないこと、本件無許諾放映により、控訴人らが受領する本件映画についての使用料が減じるという関係にないこと、我が国のテレビ局が北朝鮮の映画を放送する場合に、控訴人らに対して使用料を支払うという慣行はないことからすれば、本件無許諾放映は公序良俗に反するといえるほど強い反社会性や違法性を有するものではないから、不法行為に該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 控訴人輸出入社の差止請求及び控訴人らの損害賠償請求(主位的請求)について 当裁判所も、控訴人らの主位的請求(控訴人輸出入社の著作権に基づく差止請求並びに同控訴人の著作権及び控訴人カナリオ企画の独占的利用許諾権の各侵害を理由とする損害賠償請求)は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、訂正付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」(原判決14頁14行〜33頁8行)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の訂正
ア 原判決17頁22行目から18頁9行目までを、次のとおり改める。
 「(1) 控訴人輸出入社の差止請求は、同控訴人が北朝鮮の法人であり、また、北朝鮮の著作物についての著作権に基づく請求であるという点で、渉外的要素を含むものであるから、準拠法を決定する必要がある。
 我が国が加入しているベルヌ条約5条(2)第3文は、「したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているところ、この規定は、著作権の「保護の範囲」及び「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」という単位法律関係について、「保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」という準拠法を定める抵触規則であると解される。そして、著作権に基づく差止請求の問題は、「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」であると性質決定することができるから、ベルヌ条約によって保護される著作物の著作権に基づく差止請求は、同条約5条(2)により、保護が要求される同盟国の法令、すなわち同国の著作権法が準拠法となる。もっとも、本件においては、北朝鮮の著作物が我が国との関係でベルヌ条約3条(1)(a)によって保護される著作物に当たるか否かが争われており、このような場合にベルヌ条約5条(2)の抵触規則を適用して準拠法を決定することができるのかどうかが問題となり得るところである。しかしながら、ベルヌ条約の加盟国数は、平成20年10月現在、全世界163か国にも及んでおり、我が国とこれら多くの加盟国との間においては、著作権に基づく差止請求という法律関係については同条約5条(2)の定める抵触規則が適用されること、この抵触規則は、世界の多くの加盟国において適用される国際私法の規則となっていること、及び著作権の属地的な性質からすれば、保護が要求される国の法令を準拠法とすることに合理性があること等に鑑みれば、ベルヌ条約で保護されない著作物についても、上記抵触規則を適用ないし類推適用して保護が要求される国の法令を準拠法と指定することが相当である。
 したがって、ベルヌ条約によって保護される著作物に当たるかどうかが争われている北朝鮮の著作物に係る著作権に基づく差止請求についても、ベルヌ条約5条(2)の定める抵触規則が適用ないし類推適用されるから、控訴人輸出入社の差止請求については、我が国の著作権法が適用されると解すべきである。
 また、控訴人らが損害賠償請求において主張する被侵害利益は、北朝鮮の著作物に係る著作権ないしその利用許諾権(以上、主位的請求)あるいは北朝鮮の著作物という知的財産の利用により享受し得る要保護性のある法的利益(予備的請求)であるという点で、いずれも渉外的要素を含むものであるから準拠法を決定する必要がある。上記法律関係の性質は不法行為であるから、準拠法については、法例11条1項(法適用通則法附則3条4項により、なお従前の例によるとして、法例の規定が適用される。)によって決すべきである。そして、同条項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」は、控訴人らに対する権利ないし法的利益の侵害という結果が生じたと主張されている我が国であるというべきであるから、本件における損害賠償請求(主位的・予備的とも)については、民法709条が適用される。」
イ 原判決19頁11行目の「甲15ないし18、21、」の次に「33の1ないし4、7、8、10、11、13、14、16ないし24、」を挿入する。
ウ 原判決19頁24行目から20頁2行目までを、次のとおり改める。
 「b 別紙一覧表「放送者名」欄記載の放送者は、同表「放送年月日」欄記載の日に、同表「番組名」欄記載の番組において、控訴人カナリオ企画の許諾を得た上で(但し、事後許諾のものもある。)、同表「作品名」欄記載の題名(空欄のものは、証拠上、題名が不明である。)の北朝鮮映画の映像の一部を放映し、同表「支払年月日」欄記載の日(空欄のものは、証拠上、支払年月日が不明である。)に、控訴人カナリオ企画に対し、上記映画の使用料として同表「使用料」欄記載の金員を支払った。」
エ 原判決27頁13行目から28頁3行目までを、次のとおり改める。
 「もとより、多数国間条約の条項のなかには、ジェノサイド条約(「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」)における集団殺害の防止(1条)や拷問等禁止条約(「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」)における拷問の防止(2条)のように、条約当事国間の単なる便益の相互互換の範疇を超えて、国際社会における普遍的な価値の実現を目的とし、国際社会全体に対する義務を定めたものが存在する。このように、条約上の条項が個々の国家の便益を超えて国際社会全体に対する義務を定めている場合には、その義務の主題である普遍的な価値が国際社会全体にとって重要性を持つものであるため、すべての国家がその保護に法的利益を持つことから、例外的に、未承認国との間でも、その適用が認められると解される。このように、当該条項が、個々の条約当事国の関係を超え、国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定する普遍的な価値を含むものであれば、あらゆる国際法上の主体にその遵守が要求されることになり、その限りでは、国家承認とは無関係に、その普遍的な価値の保護が求められることになる。」
(2) 当審における控訴人らの主張に対する判断
ア 多数国間条約に未承認国が加入した場合の国際法上の効力
(ア) 控訴人らは、@多数国間条約上の権利義務が未承認国との間で原則として生じない旨の国際慣習法は存在しないこと、A国際法学の通説によれば、未承認国が多数国間条約に加入した場合に、未承認国であることから当該国を承認しない国との間で当該条約上の権利義務の存在が直ちに否定されるものでもなく、むしろ、未承認国であっても当該国を承認しない国に対して条約上の義務を負うという理を一般的に表明する著名な国際法学者も存在すること、を理由に、原判決が、国家として承認されていない国は、国際法上一定の権利を有することは否定されないものの、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないと判断したことは、明らかに国際法の解釈を誤ったものであると主張する。
(イ) そこで検討するに、国家承認の性質及びその国際法上の効果については、これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない。そして、証拠(乙3の1ないし4)によれば、我が国は、北朝鮮を国家承認していないが、国家承認の意義については、ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し、また、国際法上の主体とは、一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい、その典型は国家であると理解されていること、我が国政府は、北朝鮮を国家承認していないから、我が国と北朝鮮との間には、国際法上の主体である国家間の関係は存在しないとの見解を採っていることが認められる。当裁判所は、日本国憲法上、外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされている(憲法73条2号、3号)ことに鑑み、国家承認の意義及び我が国と未承認国である北朝鮮との国際法上の権利義務関係について、上記の政府見解を尊重すべきものと思料する。そうすると、未承認国である北朝鮮は、我が国との関係では国際法上の法主体であるとは認められず、国際法上の一般的権利能力を有するものとはいえない。もっとも、未承認国であっても、その政治的存在に基づいて限定した範囲では国際法上の権利能力を有するものと認めることができる。
 以上を前提とすれば、原判決が、未承認国は、国際法上一定の権利を有することは否定されないものの、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないと判断したことは相当であり、この判断が国際法の解釈を誤ったものであるとする控訴人らの主張は採用することができない。
(ウ) なお、控訴人らは、多数国間条約上の権利義務が未承認国との間で原則として生じない旨の国際慣習法は存在しないとも主張する。この主張の趣旨は、未承認国は、原則として、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないことを前提としても、控訴人らの主張する上記国際慣習法が存在しない以上、北朝鮮が多数国間条約であるベルヌ条約に加入したことにより、同条約上の権利義務が我が国と北朝鮮との間に生じるとの主張であると解されるが、これを採用することはできない。その理由は、以下のとおりである。
 すなわち、ベルヌ条約は開放条約(ベルヌ条約29条)であるから、所定の手続を践むことにより北朝鮮がベルヌ条約に加入することは可能であり、我が国は北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であることまで否定できるものではない。しかしながら、北朝鮮がベルヌ条約に加入することと我が国が北朝鮮を国家承認することとは別個の問題である(この点は、控訴人らも、前記のとおり、国際法学の通説として、未承認国の多数国間条約への加入は直ちに既加盟国による黙示の国家承認を意味するものではないと主張するところである。)から、北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であるとしても、我が国との関係では依然として未承認国であることに変わりはない。そうすると、未承認国は、原則として、承認をしない国家との間においては、国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないことを前提とする限り、我が国と北朝鮮との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生ずることはないはずであるが、それにもかかわらず、北朝鮮のベルヌ条約加入により、我が国と北朝鮮との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生ずるというのは、結局、ベルヌ条約への加入をもって我が国の国家承認があったのと同視するのに等しいのであり、このことは、北朝鮮がベルヌ条約に加入することと我が国が北朝鮮を国家承認することとは別個の問題であるとの前提に反するものである。そして、このような結論に至ることは、控訴人らの主張に係る国際慣習法の存否に関わらないことである。
 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。
イ ベルヌ条約における著作権保護の意義
 控訴人らは、TRIPS協定9条1項が、主権国家のみならず、ベルヌ条約を批准することが不可能な独立の関税地域にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは、WTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていることの表れであり、著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有しているものとしてベルヌ条約を締結した国家間においては、国家承認の有無にかかわらず、同条約に基づく義務及び責任を負うと主張する。
 しかしながら、TRIPS協定を含むWTO協定は、ベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定めるTRIPS協定9条1項に限って独立の関税地域がWTO協定の加盟国となることを認めているわけではなく、WTO協定自体について独立の関税地域が加盟国となることを認めているのであるから、WTO協定の一部であるTRIPS協定がベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定め、これが独立の関税地域について適用されるとしても、そのことから直ちにWTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていたと推認することはできない。そして、ベルヌ条約の解釈上、著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有するものであると解することができないことは、引用に係る原判決が説示するとおりである(原判決28頁20行目から29頁20行目まで)。
 したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
ウ 著作権法6条3号の適用
 控訴人らは、著作権法6条3号の適用においては、北朝鮮がベルヌ条約の加盟国か否かを認定し、これが認定できれば、北朝鮮の国民の著作物について著作権法上の保護が認められると判断すべきであると主張する。
 しかしながら、前記アに説示したとおり、ベルヌ条約の加盟国であったとしても、我が国が当該加盟国を国家承認していなければ、当該加盟国と我が国との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生じないのであるから、単に北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であると認定できるというだけでは、北朝鮮の国民を著作者とする著作物が、著作権法6条3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たると判断することはできない。
 したがって、原判決が、北朝鮮の著作物の著作権法6条3号の該当性は、我が国が未承認国である北朝鮮に対してベルヌ条約上の義務を負担するか否かの問題に帰着するとし、その検討の結果、ベルヌ条約により我が国が北朝鮮の著作物を保護する義務を負うとは認められないから、北朝鮮の著作物は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないと判断したことは正当であり、控訴人らの上記主張は採用することができない。
2 控訴人らの損害賠償請求(予備的請求)について
 前記1で説示したとおり、本件各映画著作物は著作権法の保護を受ける著作物には当たらないところ、仮に本件各映画著作物に対して著作権法に基づく保護が与えられないとしても、控訴人らは、同著作物の利用について民法709条の法律上保護される利益を有しており、被控訴人による本件無許諾放映は、控訴人らの有する法的利益を侵害するものとして不法行為を構成すると主張するので、以下、この点について検討する。
(1) 前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし3、15ないし17、27、28、33、35。なお、枝番号の記載は省略した。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
ア 控訴人輸出入社は、北朝鮮文化省傘下の行政機関であり、同省により、同控訴人は「映画輸出及び輸入、映画合作及び注文製作、技術協力」に関する事業権限を有し、北朝鮮映画の著作権及び版権を保有することが確認されている。
イ 控訴人輸出入社と控訴人カナリオ企画は、平成14年9月30日、控訴人輸出入社が著作権を有する北朝鮮映画について、控訴人カナリオ企画に対し、日本国内における上映、複製及び頒布する権利を独占的に許諾することなどを内容とする本件映画著作権基本契約を締結した(甲2)。同契約においては、上記のとおり、控訴人カナリオ企画に許諾された権利は「上映、複製及び頒布」とされていたが、実際には、同控訴人は、上記契約に基づき、控訴人輸出入社から利用許諾を受けた北朝鮮映画について、別紙一覧表のとおり、テレビ局が放送で利用することについても有償で許諾をしており、上記契約により控訴人輸出入社が控訴人カナリオ企画に許諾した権利は「放送」をも含むものであった。
ウ 控訴人輸出入社は、平成18年11月1日、フランスの映画会社との間で北朝鮮映画4作品について、期間、地域等を限定して版権を売買する旨の契約を締結し、そのオリジナルフィルムの複製物を上記映画会社に提供した(甲28)。この契約の対象となった映画作品には、本件映画著作権基本契約の対象でもある1972年に北朝鮮国内で製作された劇映画「花を売る少女」(別紙映画目録1記載の劇映画欄lの映画と同一のものと認められる。)が含まれていた。
エ 本件映画は、1986年に北朝鮮国内で4.25芸術映画撮影所により製作された約1時間17分の劇映画である。控訴人輸出入社は本件映画のオリジナルフィルムを所有し、控訴人カナリオ企画は、本件映画著作権基本契約に基づき、その複製物の提供を受け、日本国内における利用許諾に使用するため、これを管理している。
オ 本件無許諾放映は、被控訴人の「ニュースプラス1」と題する報道番組中で行われたもので、「韓国軍をカンフーで」のタイトルの下、朝鮮戦争勃発の日(1950年6月25日)に近接する6月28日に朝鮮中央テレビで同戦争を題材とした本件映画が放送されたこと及びその内容は北朝鮮の兵士が韓国の兵士よりも強く勇敢であることを強調するものであったということを、本件映画の映像とナレーションによって紹介する約2分20秒間のニュースであり、そのうち約2分強に本件映画の映像が使用されたものである(甲16、17)。
カ 控訴人カナリオ企画は、平成16年2月27日、株式会社日本スカイウェイとの間で、本件各映画著作物に含まれる劇映画2作品について、これをビデオカセット及びDVDに複製した商品を販売することなどを内容とする利用許諾契約を締結したが、被控訴人らが本件無許諾放映をしたため、北朝鮮映画に対する法的保護の有無について疑義が生じ、上記契約に基づくビデオカセット及びDVDの販売ができない状況となっている(甲35の1、2)。
(2) 上記(1)の認定事実によれば、本件映画は上映時間が約1時間17分間の劇映画であり、その内容等(甲15)に照らし、相当の資金、労力、時間をかけて創作されたものといえるから、著作物それ自体として客観的な価値を有するものと認められる。また、北朝鮮文化省は、控訴人輸出入社が北朝鮮映画の著作権を保有するものであるとしていること、控訴人輸出入社は、本件映画のオリジナルフィルムを所有し、その複製物を控訴人カナリオ企画に提供していること、控訴人輸出入社は、本件映画著作権基本契約の対象でもある1972年に製作された劇映画「花を売る少女」について、著作権者としてフランスの映画会社と版権の売買契約を締結し、その複製物を同映画会社に提供していること等の事実を総合すれば、本件映画が製作された1986(昭和61)年当時はともかく、遅くとも本件映画著作権基本契約が締結された平成14年当時には、控訴人輸出入社は北朝鮮国内において本件映画を独占的に管理支配していたものと推認することができる。
 そして、控訴人カナリオ企画は、本件映画著作権基本契約に基づき、控訴人輸出入社から本件映画を含む本件各映画著作物について、日本国内における上映、複製、頒布及び放送についての独占的な許諾権を付与され、本件映画の複製物の提供を受けていたことからすれば、控訴人カナリオ企画は日本国内において本件映画の利用について独占的な管理支配をし得る地位を得ていたものと認めることができ、このことに、本件映画が上記のとおり著作物として客観的な価値を有するものであり、経済的な利用価値があること、控訴人カナリオ企画は、別紙一覧表のとおり放送局に対して本件各映画著作物に属する作品の放送を許諾することにより現実に利益を得ていたことを併せ考慮するならば、控訴人カナリオ企画が上記地位に基づいて本件映画を利用することにより享受する利益は、法律上の保護に値するものと認めるのが相当である。
 これに対し、控訴人輸出入社は、日本国内に営業所等を一切有しておらず、本件各映画著作物の日本国内における利用は専ら控訴人カナリオ企画に委ねられ、同控訴人に対し、自らは利用に関する権利を行使しないことを約している(甲18)ことからすれば、控訴人輸出入社については、本件映画の日本国内における利用について法律上保護に値する利益を有するものとは認められない。
(3) そこで、以上に説示したところを前提とし、さらに進んで、被控訴人による本件無許諾放映が、控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益に対する違法な侵害に当たるかどうかにつき、検討する。
ア 本件映画は、控訴人カナリオ企画が管理支配をしているそれ自体が客観的な価値を有し、経済的な利用価値のある映画であり、その製作に当たっては相当の資金、労力、時間を要したものであること、控訴人カナリオ企画は、北朝鮮がベルヌ条約に加入した後も、控訴人輸出入社から利用許諾を得た本件各映画著作物に含まれる作品について、別紙一覧表のとおり、テレビ番組における放映を許諾し、使用料を得ていたものであり、本件映画についても、同一覧表「放送者名」欄記載の放送者に対しては利用許諾をすることにより使用料収入を得られる作品であると推認できること、控訴人カナリオ企画は、本件無許諾放映により本件各映画著作物に含まれる作品のビデオカセット及びDVDの販売ができない状況になっていること、本件無許諾放映は、報道を目的とするニュース番組の中で行われたものであるが、被控訴人にとってはスポンサー収入の対象となる営利事業であること、本件無許諾放映の時間は約2分10秒間であり、本件映画全体の上映時間からすれば、わずかな一部の利用といえなくもないが、約2分20秒間のテレビ番組中で2分間を超える放映をすることは、それ自体としては相当な時間の利用であるといえること、本件無許諾放映における本件映画の利用態様を見ると、本件映画の映像は「韓国軍をカンフーで」とのニュースにおける構成要素の一部という扱いではなく、同ニュースの大部分が本件映画の映像により構成されており、専ら本件映画の内容を紹介するという映画本来の利用方法による利用であるといえること等の事実に照らすならば、被控訴人ら主張の放映目的を考慮に入れたとしても被控訴人の本件無許諾放映は社会的相当性を欠いた行為であるとの評価を免れず、本件無許諾放映は、控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益を違法に侵害する行為に当たると認めるのが相当である。
イ これに対し、被控訴人は、著作権法により保護されない著作物は原則として自由に利用できるものであり、仮にその利用について一般不法行為が成立する余地があるとすれば、著作物の単なる利用に止まらず、公序良俗違反といえる程に強い反社会性や違法性を有する場合に限定されるべきであると主張する。
 しかしながら、著作物は人の精神的な創作物であり、多種多様なものが含まれるが、中にはその製作に相当の費用、労力、時間を要し、それ自体客観的な価値を有し、経済的な利用により収益を挙げ得るものもあることからすれば、著作権法の保護の対象とならない著作物については、一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(なお、被控訴人は、著作権法により保護されない著作物の利用については不法行為法上の保護が及ばないとするのが立法者意思である旨主張するが、かかる立法事実を認めることはできない。)、利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値、その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して、当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは、不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。
 したがって、不法行為が成立するのは著作物の利用が公序良俗に反する場合に限定されるとの被控訴人主張は採用することができない。
(4) 被控訴人は、平成15年4月15日放送の「ザ!情報ツウ」における北朝鮮制作映画の使用について、控訴人カナリオ企画に使用許可を求め、その対価として7万8750円(税込み)を支払った(甲6)。しかし、北朝鮮がベルヌ条約に加入したことに伴い、文化庁が我が国は北朝鮮に対しベルヌ条約上の保護義務を負わないとの見解を表明したことから、同見解に従い、本件無許諾放映を行ったことが認められる(弁論の全趣旨)。以上の経緯に照らすならば、被控訴人は北朝鮮著作物の有する経済的価値を認めていたものの専らベルヌ条約の解釈のみに依拠して本件無許諾放映に及んだものであるから、少なくとも過失があることを免れることはできないものというべきである。
(5) 以上に検討したとおり、本件無許諾放映は控訴人カナリオ企画に対する不法行為を構成するものと認められるところ、控訴人らは、本件無許諾放映により許諾料相当額の損害を被ったと主張する。
 しかしながら、許諾料相当額の損害は、排他的な利用権である著作権の侵害があった場合に認められるものであり、著作権法による保護が認められない本件映画について、著作権の認められる著作物と同様の損害を認めることは相当ではない。そして、本件における控訴人カナリオ企画の損害は、その性質上その額を立証することが極めて困難なものに当たると認められるから、民事訴訟法248条を適用し、金10万円をもって損害額と認める。
 また、本件事案の性質、難易、認容額その他本件に現われた諸事情を考慮すれば、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、金2万円と認めるのが相当である。
(6) 以上によれば、控訴人カナリオ企画の予備的損害賠償請求は、金12万円及びこれに対する不法行為の後である平成18年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 また、控訴人輸出入社の予備的損害賠償請求は、前記のとおり、被侵害利益の存在が認められないから、その余の点につき検討するまでもなく、理由がない。
3 結論
 以上の次第で、控訴人らの本件各控訴は理由がないから、これを棄却する。また、控訴人輸出入社の当審で拡張した差止請求及び当審で追加した予備的損害賠償請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴人カナリオ企画の予備的損害賠償請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は相当でないから付さない。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 田中信義
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 浅井憲
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