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【事件名】商標“ラブコスメ”侵害事件(2) 【年月日】平成20年11月7日 大阪高裁 平成19年(ネ)第3057号 商標権侵害差止等請求控訴事件、平成20年(ネ)第420号 同附帯控訴事件 (原審・大阪地裁平成18年(ワ)第4737号) (当審口頭弁論終結日 平成20年8月22日) 判決 控訴人・附帯被控訴人(1審被告。以下「控訴人」という。) 株式会社ナチュラルプランツ 同代表者代表取締役 A 同訴訟代理人弁護士 石下雅樹 同訴訟代理人弁理士 工藤一郎 代理人工藤一郎補佐人 吉良香 被控訴人・附帯控訴人(1審原告。以下「被控訴人」という。) 株式会社クラブコスメチックス 同代表者代表取締役 B 同訴訟代理人弁護士 三山峻司 同 井上周一 同 金尾基樹 同 木村広行 同訴訟代理人弁理士 深見久郎 同 森田俊雄 同 竹内耕三 同 並川鉄也 主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 同取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 本件附帯控訴(当審において拡張した請求を含む。)を棄却する。 4 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 控訴の趣旨 (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 同取消しに係る被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 2 附帯控訴の趣旨 (1) 原判決主文第5項を次のとおり変更する。 (2) 控訴人は、被控訴人に対し、7399万0438円及びうち1387万8075円に対する平成18年5月20日から、うち2617万6500円に対する同年12月31日から、うち3393万5863円に対する平成20年2月19日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、控訴人が化粧品について使用している標章(9種類。原判決別紙「被告標章目録」記載)が、指定商品を歯みがき、化粧品、香料類とする被控訴人の商標権(4件。原判決別紙「原告商標目録」1ないし4記載)を侵害するとして、被控訴人が、同商標権に基づき、控訴人に対し、@控訴人の上記各標章を化粧品に付する行為の禁止、A控訴人の上記各標章が付された化粧品の譲渡等の差止め、B控訴人の上記各標章を付した広告及びインターネット上の情報提供の差止め、C控訴人の上記各標章を付した化粧品、その包装・容器、カタログ・パンフレット、情報の廃棄ないし削除、D平成17年8月1日から平成18年12月31日までの控訴人の上記各標章を付した商品の販売による控訴人の得た利益相当額ないし商標使用料相当額の損害賠償金(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案である。遅延損害金の起算日は、訴状送達の日(平成18年5月19日)の翌日、率は民法所定の年5分の割合である。 原審は、上記@ないしBの差止請求と、Cの差止請求及びDの損害賠償請求の各一部とを認容し、その余を棄却したので、敗訴部分を不服として控訴人(1審被告)が控訴し、被控訴人(1審原告)が附帯控訴してDの損害賠償請求を拡張した(遅延損害金の起算日は附帯控訴状送達の日(平成20年2月18日)の翌日)。 前提事実、争点及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」中「第3 前提となる事実」「第4 争点」「第5 争点に対する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、以下のとおり付加・補正し、当審における当事者の主張を付加する。 1 付加・補正 (1) 原判決9頁19行目の「引用商標と」から22行目の「おそれがある」までを「「化粧品」を意味する「コスメティック」の文字は化粧品以外の商品に使用するときは商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあること及び原告商標を含む複数の引用商標に類似することを理由」に改める。 (2) 同17頁1行目の「わってない」を「わたっていない」に改める。 (3) 同19頁16行目を「控訴人は「ラブコスメ」という標章を控訴人登録商標2と異なる態様で使用している。」に改める。 (4) 同23頁5行目末尾に「また、平成17年8月から平成18年1月までの控訴人34商品に限定すると、売上げは2億7756万1500円、使用料相当額は1387万8000円である。」を加える。 (5) 同頁7行目から16行目までを次のとおり改める。 「よって、被控訴人の損害は、@平成17年8月から平成18年1月における控訴人36商品の販売に対する、被控訴人商標の使用料相当額(商標法38条3項。売上げの5%)と、平成18年2月から同年12月の期間における、A控訴人2商品の販売に対する@と同様の使用料相当額及びB控訴人34商品の販売により控訴人が得た利益の額(同38条2項)との合計額である。そして、上記(ア)、(イ)のとおり、平成17年8月から平成18年1月の控訴人34商品の使用料相当額(上記@の一部)は1387万8000円であり、上記Bは1億4502万5800円であるから、被控訴人の損害はこの合計額を下回らない。被控訴人は本件でその一部である5400万円を請求する。」 (6) 同30頁17行目の「したがって」から18行目末尾までを「平成18年2月から同年12月までの控訴人10商品の販売による控訴人の利益は、同期間の控訴人34商品の販売による利益の34分の10である4265万4700円である。」に改める。 (7) 同32頁6行目の「化粧水」の次に「(被控訴人の主張する分類。以下同様)」を加える。 (8) 同38頁17行目の「購入しており、」の次に、「被控訴人商品と競合するフェイス用基礎化粧品として購入した者は0.3%にすぎず、控訴人標章における被控訴人商標の寄与率はこの程度であり、また、」を加える。 (9) 同頁18行目の「わずかであった。」を「3%であり、これをもって控訴人商品に対する控訴人標章の寄与率とみるべきである。」に改める。 (10) 同39頁6行目から7行目の「被告標章の使用が被告商品の売上には寄与していない。」を「控訴人標章の使用により被控訴人商標の信用・顧客吸引力が控訴人商品の売上に寄与したことはない。」に改める。 (11) 同頁25行目の「使用料率は、」の次に「いわゆる25%ルールを前提としても、」を加える。 2 当審における当事者の主張 (1) 控訴人 ア 被控訴人商標と控訴人標章との類否について (ア) 要部判断について 類否判断はまず全体的判断によるべきであり、控訴人標章を2語に分解して要部判断をすべきではない。 「Love cosmetic」「ラブコスメティック」から生じる「ラブコスメティック」の称呼は7音しかなく、一体不可分である。控訴人標章1では「cosmetic」が小文字で始まっているから、より一体性が強い。東京高等裁判所平成2年6月11日判決は、「KITCHEN HOUSE」の称呼が促音を加えても7音しかなく、自然に「キッチンハウス」の称呼が生じ、一連の語の全体が自他商品の識別機能を果たしているとしている。また、普通名称と非普通名称とからなる商標であっても、需要者は必ずしも非普通名称部分のみによって認識するわけではない(例として「関西電力」「ファミリーマート」)。 「cosmetic」が化粧品の標章に用いられた場合も、需要者がこれを化粧品を意味するにすぎないと認識するとはいえないし、控訴人商品は女性の性的な悩みの解消、性的な健康促進を目的とするセクシャルケア用品であって本来の化粧品ではないから、「cosmetic」の部分に識別力がないとはいえない。 また、登録商標に「コスメティック」ないし「コスメ」の語を付加した別の商標が登録された例は多数あるから(例「フューチャーズ」と「コスメティックフューチャー」)、これらの語には識別力があるといえる。また、「Love」「ラブ」を含む商標は極めて多く、「Love」のみという被控訴人商標は識別力は極めて弱い。したがって、被控訴人商標の自他商品識別機能・出所識別機能は極めて弱く、控訴人標章には及ばない。 したがって、控訴人標章中「Love」「ラブ」のみを要部とみることはできず、「らぶ」の称呼も「ラブ」「愛」の観念も生じず、全体として「らぶこすめてぃっく」の称呼と「セクシャルケア用品」の観念が生じる。他の控訴人標章についても同様である。 (イ) 取引の実情 控訴人商品と被控訴人商品とは使用用途・需要者層・販売方法が異なり、両者の間に誤認混同のおそれはない。 @ 「ラブ」の語は、特定の語と結びつくことにより、また、文脈によって、性的な意味合いを有する。そして、控訴人商品の特性・用途、宣伝・販売状況を考えると、需要者は、「Love cosmetic」の標章から、通常「セクシャルケア用品」という観念を想起する。「ラブコスメティック」がジャンルないしカテゴリとして一般に定着していないとしても、上記観念を生じないとはいえない。 A 控訴人36商品の需要者と被控訴人商標の指定商品「化粧品」の需要者とは異なる。 美肌等一般の化粧品と同様の用途に用いる需要者があるとしても、二次的用途にすぎない。これらの用途は、控訴人がそのHPに掲載する本来のものとは異なり、保湿効果などは肌に塗布するものである以上当然に付随するものである。控訴人HPへの利用者の書込みに一部二次的用途に関するものがあるとしても、大多数は本来の用途に関するものである。なお、控訴人商品は、性行為の際の快感・感情を高めるためのものとして、「局所用潤滑剤」と同じ第5類(類似群コード01B01)に属する。 (ウ) 商品の類否は、商品が、通常、同一事業主により製造販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるか否かにより判断すべきところ(最高裁昭和36年6月27日判決)、控訴人商品のようなセクシャルケア用品と一般化粧品とが通常同一事業主により製造販売されることはない。 (エ) アンケート結果について 控訴人が調査会社に依頼したアンケート調査の結果はおおむね以下のとおりである。 @ 控訴人標章の要部が「Love」「ラブ」と認識されるか否かを確認するため、控訴人標章を記したシートを3秒間見せてから伏せ、その状態で被験者に書かれていた文字を書かせ、また、6つの選択肢から選ばせた。その結果、需要者が控訴人標章の要部を「Love」「ラブ」と認識しないことが示唆された。 A 控訴人標章と「ラブ」の類似、混同可能性を確認するため、控訴人標章と、「ラブ」の文字がつく他の12のロゴ(いずれも登録商標)を並べて記載し、控訴人標章とイメージが近いと思われるものを選択させた(複数可。対比観察)。その結果、控訴人標章と「LOVE」「ラブ」が似ていると感じた者はわずかであり、混同は極めて稀であることが示唆された。 B 被控訴人商品を購入しようとした需要者が誤って控訴人商品を購入する可能性を確認するため、被控訴人商標を記したシートを3秒間見せて伏せ、無関係な質問をした後、「ラブ」を含む13のロゴ(同商標及び控訴人標章を含む。)を記したシートから先に見た文字(被控訴人商標)を選択させた(離隔観察)。その結果、誤認混同は極めて稀であることがわかった。 C 控訴人の販売サイトと被控訴人のそれとの誤認混同の有無を確認するため、被控訴人の販売サイトのトップページを1分間見せ、無関係な質問をした後、控訴人の販売サイトを見せて異同を回答させた。その結果、誤認混同の可能性は非常に低いと判断された。 D 被控訴人商品をネット上で購入しようとする需要者が販売サイトを誤認する可能性を確認するため、被控訴人商品の商品写真及び説明を記したシートを読ませた後、被控訴人及び控訴人の各販売サイトのトップページを見せて、被控訴人商品がいずれのサイトで販売されているかを選択させた。その結果、上記需要者が控訴人の販売サイトで購入できると思うことはなく、誤認混同は生じないと思われる。 イ 控訴人登録商標2の商標権に基づく権利行使について (ア) 控訴人登録商標2は、被控訴人商標2等を引用した拒絶理由通知及びこれに対する意見書提出を経て、平成19年5月11日に登録されたばかりであるから、被控訴人商標2と非類似であることが明らかである。 (イ) 自己の登録商標を使用する行為は、商標権に基づく差止請求や損害賠償請求と異なり、審判で無効とされるべきものであることを理由に権利濫用とされることはない。商標権者は登録商標を使用する義務さえ負う(商標法50条)。 ウ被控訴人商標権行使の権利濫用性について (ア) 控訴人は、平成17年8月30日、被控訴人商標の不使用取消審判を申し立てたが、平成18年4月11日、平成14年12月25日から27日に被控訴人商標と社会通念上同一と認められる商標が使用されたことを理由として棄却審決がされ、同審決は確定した。しかし、平成19年11月5日に言い渡された大阪地方裁判所平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求事件(以下「別件訴訟」という。)の審理で、被控訴人は、平成14年12月ころには被控訴人商標2を使用していなかった旨自認し、判決も同旨を認定した。控訴人はこれにより確定審決に再審事由があることを知ったので、再審を申し立てた。 また、被控訴人が申し立てた第三者の登録商標の無効審判事件(無効2006-89019)の審決は、被控訴人が平成17年5月12日前にその商標「LOVE」を使用したと認めうる証拠がないとし、その取消訴訟(東京地裁平成18年(ケ)第10529号)の判決も、平成元年9月29日から平成17年12月12日まで「LOVE」商標が使用されていなかったと認定した。 (イ) 上記不使用取消審判の審決は、被控訴人が平成14年12月25日から27日に被控訴人商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたと認定したが、仮に、被控訴人商標を付した化粧品(「初回納入セット」のみ)が上記期間販売店に納品された事実があったとしても、不使用取消審判を免れる目的で商標使用の外観を作っただけであり、これによって取引秩序が形成され、商標に信用が化体したとはいえず(東京高裁平成5年11月30日判決参照)、「販売行為」とも「業として」のものともいえない。 また、同審判で、被控訴人は、平成14年12月にこれら商標を使用していたことの立証として写真等を提出したが、同一店舗と思われる複数の写真が別店舗のものとされたり、夏ころ撮影したと思われる写真が上記時期のものとされるなど、正当性に疑問がある。 エ 損害について (ア) 商標法38条2項について @ 商標権侵害があっても、侵害品と商標権者の商品との間に性能・効用の同一性があるとは限らず、当然に市場における相互補完性があるとはいえないから(この点で特許権等と異なる。)、商標法38条2項適用の可否は、控訴人商品と被控訴人商品との競合の有無のほか、それらの性質、使途、目的、需要者層、販売態様、宣伝広告内容を総合的に検討して判断すべきである。しかし、原判決の損害認定はその根拠が不明である。 控訴人商品と被控訴人商品とは、前者の二次的機能(例えば保湿)において競合することはあっても、その本来的目的・機能・用途(例えばバストアップ、ムダ毛処理)において異なるから、競合するとはいえない。需要者の認識も同様であり、控訴人HPに投稿されたユーザーの意見の一部に上記二次的機能に関するものがあるが、ほとんどは本来的用途等に関するものである。無添加や天然素材というセールスポイントも二次的なものである。 また、控訴人と被控訴人とでは販売態様が異なる。需要者が少しでも重複すれば競合関係が認められるのではないから、被控訴人が一部インターネット販売をしていることを重視することはできない。 さらに、需要者の異同を年齢層のみで判断することはできず、セクシャルヘルスケアへの関心の有無によるべきであるから、この点でも控訴人商品と被控訴人商品とは重複しない。 A 被控訴人商標の顧客吸引力は皆無に近く、控訴人商品売上げに対する被控訴人商標の寄与率は本来零である。なお、商標の価値は商品の出所の営業上の信用等に基づくものだから、「Love」「ラブ」の語自体のイメージ等を考慮すべきではない。 仮に被控訴人商標の寄与を認めるとしても、控訴人の販売形態、控訴人標章の知名度や控訴人の営業努力を考慮すべきであって、原審で主張したとおり、控訴人商品に対する標章の寄与率3%×控訴人標章に対する被控訴人商標の寄与率0.3%=0.009%である。 商標法上、商品とは、事業として取引され、同質のものが多数供給可能なものを指すと解すべきであるが、被控訴人主張の実績はこれに当たらない。すなわち、被控訴人が主張する同商標の使用実績中、昭和30年代のものは現在の顧客吸引力とは無関係であり、平成14年12月から平成17年11月ころまでのホームセンターにおけるネイルポリッシュ等の販売は、販売数等の具体的実績が明らかでなく、かえって、販売店の購買担当者ですら被控訴人の社名を正確に認識できておらず、商品そのものに被控訴人の会社名等が表記されていることの立証もないから、出所が表示されているともいえない。また、平成18年2月の被控訴人商品発売についても、販売数量等は何ら明らかでなく、これに関する報道として東奥日報等の地方紙のウェブサイト以外のものを被控訴人が立証しないことや、被控訴人HPの視聴率の低さは、被控訴人商品がほとんど売れておらず、需要者にも知られていないことを示している。 これに比べれば、控訴人標章の知名度は圧倒的に高い。 (イ) 商標法38条3項について @ 被控訴人商標の顧客吸引力は極めて小さいから、被控訴人に使用料相当額の損害は生じていない。 仮に多数の化粧品販売業者が「Love」「ラブ」の標章を使用することを望んでいるとしても、それはこれらの言葉自体に価値を見いだしているからであって、被控訴人商標に化体した信用に価値を認めているのではない。 A 平成10年改正前の商標法38条2項は、「その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額」を損害額として請求できる旨定めていたが、同改正後の同条3項では「通常」の文言が削除された。これは、事案ごとに訴訟当事者間の具体的事情を考慮して損害額を認定できるようにするためであり、具体的事情により、通常の使用料相当額より高く認定されることも低く認定されることもあり得る。最高裁判所平成9年3月11日判決(民集51巻3号1055頁。いわゆる小僧寿し事件)も、登録商標に顧客吸引力が全く認められず、類似標章を使用することが商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、実施料相当額の損害も生じていないとしている。 被控訴人商標の顧客吸引力は上記のとおり極めて小さいから、使用料相当額は、伝統的な25%ルールを適用しても、0.009%(上記(ア)A)×0.25=0.00225%である。 B 被控訴人商標の使用実績として挙げられる、昭和30年代の乳液、平成14年12月から平成17年11月ころまでのネイルポリッシュ等の販売及び平成18年2月以降の被控訴人商品の販売については上記(ア)Aのとおりであり、被控訴人商標は平成18年2月の時点で「新ブランド」であった。また、被控訴人がその商標を使用許諾したのは、26年前のわずか1件で、相手は被控訴人と代表者のほか多くの役員を共通にする関連会社であり、同社による商標使用の具体的事実も明らかでない。 被控訴人の主張する宣伝広告活動・営業努力は通常の域を出ない。 C 被控訴人主張の「汚染」は争う。控訴人商品は「きわもの」ではないし、控訴人がそのように主張したこともない。 D 控訴人が宣伝広告にテレビ媒体を用いていないことは、控訴人商標の広告的使用が少ないこと及び控訴人商品売上げに対する標章の寄与が小さいことを示す。 (ウ) カード(甲62の枝番2)や商品案内(同枝番3)等の販促物は、指定商品又は指定役務(商標法25条)に当たらないから、これらに控訴人標章を付すことは商標の使用ではない。 (2) 被控訴人 ア 被控訴人商標と控訴人標章との類否について (ア) 結合商標における分離観察(要部観察)の要否は、単語の単複だけでなく、全体の構成、識別力の強弱等によって決められる。「関西電力」のような著名商標や「ファミリーマート」のような特殊な略称例を過大視すべきではない。 なお、控訴人は自ら化粧品を指定商品とする商標出願をしており、被控訴人商品が化粧品でないかのような主張はこれと矛盾する。 (イ) 商標法上の類否判断はある程度定型的な判断であり、注意深いとは限らない一般の需要者の観点から、一般的な出所誤認混同のおそれがあるか否かによるべきである。したがって、外観・称呼・観念による形式判断で類似性が認められるときは、具体的な取引の実情に照らして抽象的な誤認混同のおそれさえ否定される場合にのみ、類似性が否定されると解すべきである。 商標登録における類否判断(商標法4条1項11号)と侵害における類否判断(同法37条)とは異なるから、控訴人が指摘する登録例は控訴人標章中の「cosmetic」の識別力の根拠にならない。また、これら登録例中に、控訴人標章のように「コスメティック」が後置されたものはない。 控訴人が援用する最高裁昭和36年6月27日判決は、異なる商品(焼酎と清酒)を同一営業主が販売した事案であり、同じ指定商品(化粧品)の販売に関する本件とは異なる。 (ウ) 控訴人が援用するアンケート結果(乙39)は、漫然と全体観察をさせたものにすぎず、質問中に不適切な誘導が含まれ、被験者が明らかでないため再現性がないなどの問題があり、証拠として不適切かつ無価値である。 イ 控訴人登録商標2の商標権に基づく権利行使について 控訴人登録商標2は、商標法4条1項11号により登録を受けることができないはずのものであり、同法46条1項1号の無効理由があるから、その使用は違法性を阻却しない。商標権の中核たる専用権(商標法25条本文)は使用権と禁止的効力から成り、控訴人が控訴人商標2の使用を商標権に基づくと主張するのは、前者の使用権によるものと解されるが、不正競争防止法旧6条が削除された経緯にみられるように、使用権の行使も権利の濫用として排斥されることがあり得る。 ウ 被控訴人商標権行使の権利濫用性について 別件訴訟判決には、被控訴人が自己の商品に「LOVE」の商標を使用していたことと矛盾する事実の記載はないし、マリークワント社の商標使用と抵触する商標使用を控えてきたともされていない。 エ 損害について (ア) 商標法38条2項について 控訴人標章の寄与率は20%を下らない。 @ 同項の適用に当たっては、侵害者の得た利益(通常は限界利益)すべてを損害と推定した上で、侵害者の営業努力等商標権侵害以外の要因による部分を減じていくことになり、その認定は、諸般の事情を考慮した概算的なものにならざるを得ない。 A 控訴人による販売上の工夫は、他の化粧品業者と比べ、特段高く評価すべきものではない。 また、商標法38条2項による損害の算定では、売上から販管費を控除した限界利益に寄与率を乗じるから、侵害者の営業努力等を寄与分として損害から控除すると、控除が重複する可能性がある。 B 控訴人は、アンケート等をもとに、ブランドを購入の決め手とする需要者は全体の3%と主張するが、そのデータは10代から60代までの全購買者を母集団としており、控訴人商品の主な購買者である10代では14%、20代では4%である。また、控訴人が控訴人標章に対する被控訴人商標の寄与率とする0.3%も、化粧品以外のグッズを含む控訴人商品全部の顧客を対象としたアンケート結果に基づいており、被控訴人商品と競合する商品の購買者に関する数値ではない。 (イ) 商標法38条3項について 被控訴人商標の使用料率は5%を下らない。 @ 控訴人は原判決後も控訴人標章を使用し続けている。これは、本件で敗訴して2%の損害金を支払っても、なお侵害行為継続による利益があると考えているからである。 また、被控訴人が昭和57年に同商標を同業者(株式会社ラブジャパン)に対して使用許諾した際の使用料率が小売販売価格総額の2%であったから、損害賠償がこれと同率では、事前にライセンスを得ることへのインセンティヴが働かない。平成10年の商標法改正で旧38条2項の「通常」の文言が削除されたのは、侵害の場合に支払うべき使用料相当額が通常のものにとどまるとすれば、事前にライセンスを申し込むインセンティヴが働かないと考えられたからであり、本件における具体的事情(被控訴人・控訴人双方の被控訴人商標又は控訴人標章に対する態度)からみて、使用料相当額を通常より高く認定すべきである。 また、本件は、控訴人が援用する最高裁判所平成9年3月11日判決の事案とは、被控訴人が控訴人より早くから全国的に化粧品を販売していたこと、控訴人標章の使用は平成16年ころから、控訴人の売上が急激に伸びたのは平成18年からであり、控訴人の平成19年度の売上高は被控訴人の半分以下であること、被控訴人がホームページや新聞・雑誌で宣伝広告活動をしていること、控訴人標章ないし「Love」「ラブ」が控訴人にとっても顧客吸引手段の最たるものとして使用されていることなどの点で異なるから、上記判決を当てはめることはできない。 A 控訴人は、自らの商品を「きわもの」(被告平成18年10月5日付け準備書面)と称しており、これに控訴人商標を付して販売することが被控訴人の商標権を汚染していることを認めている。また、控訴人は、ホームページを持つ多数の第三者と提携し、それらのホームページ(アフィリエイトサイト)で控訴人商品を宣伝しているほか、インターネットブログの更新者とも同様に提携している。このような手法は、商標権侵害や商標価値の減損を急速に生じさせる。 よって、被控訴人が控訴人に被控訴人商標の使用を許諾することは本来あり得ないから、使用料率は高く設定されるべきである。 B 「Love」「ラブ」は、女性の購買者一般に好印象を与え、化粧品については特に良好な商品識別力を発揮するから、高い商標価値を持つ。被控訴人は、「ラブ」シリーズ化粧品の良好なイメージを維持するための宣伝広告活動を展開し、新商品も発売している。 C 控訴人の宣伝活動のほとんどはインターネットによっており、費用のかかる新聞・テレビは使わないから、宣伝広告費の割合が高い化粧品販売業界としては利益率が高い。 (ウ) 控訴人は、平成19年1月1日以降も、控訴人標章を使用して被控訴人商標の侵害を継続している。これによる損害は本判決別紙損害額計算書記載のとおりである。 また、控訴人の侵害行為及び本件控訴により、被控訴人は、弁護士費用及び弁理士費用として、それぞれ200万円及び100万円の支出を余儀なくされる。 (エ) よって、被控訴人が平成20年1月31日までに被った損害は総額7399万0438円であり、さらに、うち1387万8075円(上記計算書c)に対する平成18年5月20日から、うち2617万6500円(同a、d)に対する平成18年12月31日から、うち3393万5863円(同b、e、f)に対する附帯控訴状送達の日の翌日(平成20年2月19日)から、それぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 第3 当裁判所の判断 1 被控訴人商標と控訴人標章の類否(争点1)について (1) 被控訴人商標の構成 ア 被控訴人商標1 被控訴人商標1は、アルファベット大文字で横1列に「LOVE」と記載したものであり、「らぶ」の称呼と「愛、愛情、恋愛」等の観念を生ずる。 イ 被控訴人商標2 被控訴人商標2は、片仮名で横1列に「ラブ」と記載したものであり、「らぶ」の称呼と「愛、愛情、恋愛」等の観念を生ずる。 ウ 被控訴人商標3 被控訴人商標3は、上段にアルファベットの筆記体で横1列に「Love」と記載し、下段に上段より若干小さい文字の片仮名で横1列に「ラブ」と記載した2段の文字からなり、「らぶ」の称呼と「愛、愛情、恋愛」等の観念を生ずる。 エ 被控訴人商標4 被控訴人商標4は、上段に片仮名で横1列に「ラブ」と記載し、下段にアルファベットの大文字で横1列に「LOVE」と記載した2段の文字からなり、「らぶ」の称呼と「愛、愛情、恋愛」等の観念を生ずる。 (2) 控訴人標章1 ア 控訴人標章1の外観は、上段に大きく「Love cosmetic」と、下段に上段よりかなり小さく「for two persons who love」と、それぞれアルファベットで横書きし、「Love cosmetic」の下に直線を引き、「cosmetic」の「m」と「e」の文字間の上部に、左に倒したハートないし木の葉様の図形に弧を描く線が付加されたものを配してなるものである。 控訴人標章1上段の「Love cosmetic」は、全体が英語表記であり、その称呼である「らぶこすめてぃっく」ないし「らぶこすめちっく」も8音にすぎないから、需要者はこれを一体として認識し、「らぶこすめてぃっく」ないし「らぶこすめちっく」と称呼し、「愛の化粧品」「愛のための化粧品」を観念すると解される。 イ 被控訴人は、「cosmetic」は「化粧品」を意味する英語(普通名称)であり、商品が化粧品であることを示す語として通常用いられ、自他商品識別力がないから、需要者は控訴人標章1を2語に分けて認識し、その要部は「Love」であると主張するが、以下のとおり、採用できない。 すなわち、「Love」は、我が国においても極めて周知度の高い英語であり、「愛」「恋愛」という観念から、肯定的に受容され、普遍的に好感を持たれる語ということができ、化粧品に限っても、「Love」「ラブ」の語を含む登録商標は多数に上ることが認められ(乙32、弁論の全趣旨)、化粧品以外の商品・役務においても、これらの語を含む商品名やブランド名等が多数存在することは公知である。そして、それゆえに、これらの語は商品等の標章に用いるものとしてはやや陳腐であって、少なくとも「Love」「ラブ」単独では、化粧品に限らず、商品識別・出所表示の機能は弱く、他の語と連結されることによりそれと一体のものとして商品識別機能を果たす場合も多いものと考えられる。 他方、「cosmetic」は、「化粧品」を意味する英語で、比較的周知度が高いとはいえ、日本人にとって必ずしも易しい単語とはいえないから、通常の需要者が、控訴人標章中「cosmetic」の部分を、「化粧品」と同等に、控訴人商品が化粧品であると意味するにすぎないと直ちに理解するとまではいえず、この語に自他商品識別能力がまったくないとはいえない(この点は、「Love cosmetic」ないし「ラブコスメティック」と、これらと観念上はほぼ同一といえる「ラブ化粧品」という表記とを対比すれば明らかである。)。 加えて、「Love」と「cosmetic」がいずれもアルファベット表記であることを考慮すると、「Love」と「cosmetic」とを結合した一体の標章として認識されやすく、称呼としても通常「らぶこすめてぃっく」と一連のものとして称呼されるものと考えられるから、必ずしも「Love」のみが要部であるということはできず、むしろ「Love cosmetic」が一体として要部となるとみるのが相当である。 そうすると、控訴人標章1は、被控訴人商標と、その外観において控訴人標章1が12字のアルファベットから成るのに対し、被控訴人商標が2字の片仮名又は4字のアルファベット若しくは2字の片仮名及び4字のアルファベットから成る点で異なり、その称呼において「らぶこすめてぃっく」と「らぶ」とで語音、語感が明らかに異なり、その観念において「愛の化粧品」「愛のための化粧品」という即物的意味あいで観念されるのに対し、「愛」「恋愛」「愛情」と抽象的意味あいで観念される点で異なるというべきであるし、また、後にみる控訴人商品の実際の宣伝・販売方法等をもしん酌すれば、控訴人標章1は、被控訴人商標のいずれとも類似するものとはいい難い。 (3) その他の控訴人標章 ア 控訴人標章2、4ないし7 控訴人標章2は、片仮名で横1列に均一の大きさの文字で「ラブコスメティック」と表記してなるもの、同標章4は、アルファベット大文字で横1列に均一の大きさの文字で「LOVE COSMETIC」と表記してなるもの、同標章5は、アルファベット大文字と小文字で横1列に均一の大きさの文字で「Love Cosmetic」と表記してなるもの、同標章6は、アルファベットの大文字と小文字で横1列に均一の大きさの文字で「Love cosmetic」と表記してなるもの(同標章5とは「cosmetic」の最初の「c」が小文字か大文字かで異なる。)、同標章7は、アルファベット大文字と小文字で横1列に均一の大きさの文字で「Lovecosmetic」と表記してなるもの( 同標章6 とは「Love」と「cosmetic」との間にスペースがない点で異なる。)である。 これらはいずれも、控訴人標章1と同様の理由(しかも、控訴人標章2の外観は9字の片仮名で、「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースを入れることなく一連表記されている。)で、被控訴人商標と外観・称呼・観念のいずれも類似しない。 イ 控訴人標章3、8、9 控訴人標章3は、片仮名で横1列に均一の大きさの文字で「ラブコスメ」と表記してなるもの、同標章8は、アルファベットの大文字で横1列に均一の大きさの文字で「LOVE COSME」と表記してなるもの( 同標章4 の「COSMETIC」の部分を「COSME」と省略したもの)、同9は、アルファベットの大文字と小文字で横1列に均一の大きさの文字で「Love cosme」と表記してなるもの(同標章6の「cosmetic」の部分を「cosme」と省略したもの)である。 そして、控訴人標章1について判示したと同趣旨において、上記控訴人標章を「ラブ」と「コスメ」ないし「LOVE」と「COSME」又は「Love」と「cosme」との2語に分けて「ラブ」ないし「LOVE」又は「Love」を要部ということはできず、一体として要部となるといえ(むしろ、「コスメ」「COSME」と略称されているだけに一層そのようにいえる。)、上記控訴人標章は、外観が5字の片仮名ないし9字のアルファベットであり、称呼が「らぶこすめ」、観念が「愛の化粧品」「愛のための化粧品」である点で、被控訴人商標と外観・称呼・観念のいずれも類似しない。なお、控訴人標章3は、上記のとおり一連の片仮名表記で「ラブ」と「コスメ」との間に空白がないから、外観上一体性はより明らかである。 (4) 取引の実情について ア 控訴人標章は、被控訴人商標と上記のとおり外観・称呼・観念において類似せず、かつ、以下にみる取引の実情に照らし、出所の誤認混同のおそれがないから、被控訴人商標を侵害しない。 (ア) 控訴人商品は、控訴人HPへのメール、電話又はファクシミリでの申込みによる通信販売のみの取扱いであり、店頭では販売されていない。また、控訴人の宣伝広告は主として控訴人HP及びカタログによっており、テレビ広告はしていない。なお、平成17年1月から平成19年1月までの控訴人HPの視聴率は、DHC、資生堂、ファンケル、カネボウ、@コスメなどのホームページの視聴率と並んで、順位が10位以内に入っており、推定接触者数は約30万人ないし80万人であった。(乙14、21、弁論の全趣旨) (イ) 控訴人HPのトップページには「【ラブコスメティック】は、ちょっと友人や家族には相談しづらいセクシャルな悩みを解決するセクシャル・ヘルス・ケアのショップです。」と、他のページには「ラブコスメティックとは? …セックスなどパートナーにも相談しづらいセクシャルなもの…これら様々な女性特有の悩みを、誰にも気づかれずに自宅で簡単にケア出来たら…そんな女性たちの生の声から生まれたセクシャルヘルスケアのお店それがラブコスメティックです」と記載され、「ラブコスメティック」は、女性の性的な悩みの解消、性的な健康促進に特化したセクシャルヘルスケア商品であり、「性的な用途に使用する化粧品」又はそれを扱う店の意味合いで用いられている。 また、控訴人が取り扱っている商品も、例えば「ナチュラルタイプ:ラブリュイール・ナチュラルは、女性らしさを高めて、贅沢に感じるラブコスメです。」「ホットタイプ:ヤクモソウを配合した、女性が体の芯からじんわりと火照りだすラブコスメ。」「デリケートゾーン専用コスメ、ラブリュイール何度もイッちゃいました!!【ラブコスメ】いつもより感じている姿に彼も大興奮!ラブリュイールでスムーズな快感!」などとあるように、商品について性的用途に用いるためと説明している(甲10の2、乙15の1)。 (ウ) 控訴人が配布しているパンフレットの表紙には、「色々なところのニオイや黒ずみ、肌や体型、体質に対するコンプレックス、生理やセックスなどパートナーにも相談しづらいセクシャルなもの…これら様々な女性特有の悩みを、誰にも気づかれずに自宅で簡単にケア出来たら、なんと素晴らしいことでしょう」「そんな女性たちの生の声から生まれたセクシャルヘルスケアのお店それがラブコスメティックです」と記載され、控訴人HPと同様、「ラブコスメティック」は「性的な用途に使用する化粧品」又はそれを扱う店の意味合いで用いられている。また、このパンフレットには控訴人商品(主として化粧品)の説明、宣伝文句、消費者の使用体験談・感想・座談会、申込み方法(インターネット、携帯サイト、電話、FAX、ハガキ)、控訴人商品開発の経緯などが記載されているが、商品の内容から、控訴人が通常の化粧品メーカーないし販売業者とは異なり、性的用途に用いる化粧品・雑貨を主として取り扱い、これをセールスポイントにしていることが明らかである。(甲10の1) (エ) 控訴人商品の雑誌における紹介 控訴人商品は、「ラブコスメティック」という名称などと共に、平成18年5月29日号「caz」、平成18年8月2日号「TOKYO 1週間」、平成17年10月号「VoCE」、平成17年9月号「クチコミきれい」、平成17年6月号「JELLY」、平成18年2月13日号「OZ magazine」、平成18年1月号「VoCE」、平成16年9月号「ViVi」などにおいて紹介されている。これらの記事においても、「ネットで買える”ちょいアブ”グッズ」等の見出しが付けられ、通常の化粧品という扱いはされていない。(乙12、13) (オ) 被控訴人商品及び被控訴人の取扱商品 被控訴人商品は、いずれも通常の化粧品(化粧水、美容液、クリーム)であって、性的用途はない。また、被控訴人は控訴人商品のような性的用途に用いる化粧品・雑貨等を製造販売していない。(弁論の全趣旨) (カ) 被控訴人商標の使用実績 被控訴人商標は、平成2年ないし平成13年に登録された(原判決「事実及び理由」の「第3 前提となる事実」1)。なお、被控訴人は、被控訴人商標を昭和30年代に乳液等の商品に付して使用していた(甲22)。 甲19、甲21の1ないし4、乙19の1・2及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人商標(「LOVE」ないし「ラブ」)を付したネイルポリッシュ及びネイルリムーバーの「ショカイノウニュウセット」が、平成14年12月25日から27日にかけて、関西地域を中心とする店舗に納入され、また、上記ネイルポリッシュ及びネイルリムーバーが、平成17年11月25日に熊本市内のホームセンター(2か所)で陳列されていたが、これらの商品は平成18年12月の時点では廃番であったことが、また、甲8、甲27の1ないし3、乙1の1ないし3、乙20の1ないし3によれば、被控訴人商品は平成18年2月ころに発売され、同年4月に東奥日報、山陽新聞、四国新聞社のウェブサイトのニュースで報道されたこと、同年2月20日に、化粧品卸業等の会社から、被控訴人商品(化粧水、美容液、クリーム各18セット)の注文を受け、納入したこと、上記「@コスメ」に寄せられたこれら商品に関する投稿は、平成19年2月21日までで合計23件であり、うち2件を除いてはすべてサンプル使用に関するものであったことが認められる。 すなわち、本件で具体的に立証された被控訴人商標の使用実績は、ネイルポリッシュ及びネイルリムーバーが、「ショカイノウニュウセット」として複数の店舗に1回納品され、地方のホームセンターでごく短期間陳列されたこと、被控訴人商品が、3つの地方紙のウェブサイトで報道され、1業者から1回の注文を受けて納品されたこと程度であり、被控訴人が、特段の障害があるとは認められないのに、上記以外に販売数量等の実績を具体的に主張立証しないこと(本件訴訟提起後の宣伝広告は除く。)も考慮すると、被控訴人商標の使用実績は、皆無ではないとしても、微々たるものと解さざるを得ない。 イ 以上の事実によれば、需要者は、控訴人商品を直接店頭で選択・購入する ことはなく、すべて通信販売(インターネット・電話・FAX・ハガキ)によることとなり、商品の選択・特定は、通常、控訴人HPか控訴人のパンフレットによってするものと解される。そして、控訴人HP及び控訴人のパンフレットの上記内容をみれば、控訴人の販売する製品が、通常の化粧品メーカーないし販売業者(被控訴人を含む。)とは異なり、性的用途に用いる化粧品・雑貨等に特化していることが容易に理解でき、また、雑誌でもそのような情報が提供されているから、需要者は、控訴人商品を注文する時点では、上記のような控訴人ないし控訴人商品の特性を当然に認識していると認められる。 なお、甲14、31及び弁論の全趣旨によれば、化粧品のユーザーによる投稿を掲載するウェブサイトである「@コスメ」には、控訴人商品を性的用途ではなく単なるローションとして使用している等の書込みが複数あることが認められるが、投稿の内容に照らし、これらの投稿者にも、性的用途のために又はそれも考慮して購入した者があると認められる上、同サイトの性格上、投稿の内容が化粧品としての効果等に限られ、控訴人商品の使用実態を反映するとはいえないから、これらの書込みがあることをもって、控訴人商品と被控訴人商品との需要者が重複すると認めることはできない。 以上の事情に加え、被控訴人商標の使用実績が微々たるものにとどまることも併せ考えると、通常の化粧品の需要者が、控訴人HPや控訴人カタログ掲載の商品を通常の化粧品と誤認して購入する可能性や、被控訴人商品の需要者が控訴人商品を被控訴人商品と誤認混同し、又は出所を誤認混同するとはいえない。 2 結論 以上のとおり、控訴人標章は被控訴人の商標権を侵害しないから、被控訴人の請求(当審で拡張した部分を含む。)はいずれも理由がない。 よって、これと結論を異にする原判決を取り消し、取消しに係る被控訴人の請求及び控訴人の附帯控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)を棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 若林諒 裁判官 小野洋一 裁判官 久保田浩史 |
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