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【事件名】ロックバンド“BRAHMAN”の著作隣接権侵害事件
【年月日】平成20年10月22日
 東京地裁 平成20年(ワ)第9613号 実演家の権利侵害差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年9月3日)

判決
原告 A
原告 B
原告 C
原告 D
上記4名訴訟代理人弁護士 窪田英一郎
同 柿内瑞絵
同 乾裕介
同 今井優仁
同 熊谷大輔
同 野口洋高
同 鎌田真理雄
同 高田伸一
被告 有限会社イレブンサーティエイト
同訴訟代理人弁護士 森伊津子


主文
1 被告は、別紙レコード目録記載の各レコードを製造、販売してはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙レコード目録記載の各レコード(以下、同目録記載1のレコードを「本件レコード1」と、 同目録記載2のレコードを「本件レコード2」といいい、「本件レコード1」と「本件レコード2」を併せて「本件レコード」という。)に固定された演奏を行った原告らが、本件レコードを製造、販売している被告に対して、被告の同行為は、原告らが本件レコードについて有する実演家の権利としての録音権、譲渡権(著作権法91条1項、同法95条の2第1項)を侵害するとして、これらの権利に基づき、本件レコードの製造、販売の差止めを求めている事案である。
1 原告らの主張
(1) 原告らは、「BRAHMAN」の名において音楽活動をしているアーティストであり、被告は、レコードを含む音楽関連商品の販売を主たる業務とする有限会社である。
(2) 本件レコード1は、原告A(以下「原告A」という。)、同C( 以下「原告C」という。)及び同D(以下「原告D」という。)らの演奏を固定したものであり、本件レコード2は、原告ら4名の演奏を固定したものである。
(3) 被告は、本件レコード1を平成9年10月1日に、本件レコード2を平成10年9月1日に、それぞれ発売し、その後も本件レコードの製造、販売を継続している。
(4) 本件レコードの製造、販売は、原告らが本件レコードについて有する実演家の権利としての録音権、譲渡権(著作権法91条1項、同法95条の2第1項)を侵害する。
(5) したがって、原告らは、被告に対して、実演家の権利としての録音権、譲渡権に基づき、本件レコードの製造、販売の差止めを求める。
2 被告の認否、反論
(1) 本件レコード1は、原告A、同C及び同Dらの演奏を固定したものであり、本件レコード2は、原告ら4名の演奏を固定したものであることは認める。
(2) 被告は、本件レコード1を平成9年10月1日に、本件レコード2を平成10年9月1日に、それぞれ発売し、その後も本件レコードの製造、販売を継続していることは認める。
(3) 被告の主張
ア 原告らが演奏するに至る経緯
 原告らは、平成8年5月ころ、原告らが共同で作詞作曲した本件レコードの楽曲(以下「本件楽曲」といい、また、本件レコード1の楽曲を「本件楽曲1」という。)の著作権をヴァージン・ミュージック・ジャパン株式会社(以下「ヴァージン」という。)に譲渡し、その後、被告は、ヴァージンと、本件楽曲について、共同出版契約を締結し、本件楽曲の編曲、演奏、収録、原盤製作について、ヴァージンから授権、承諾を得た。これを前提として、被告は、原告らに本件楽曲1の演奏を依頼し、同依頼に基づき、原告らは、本件楽曲1の演奏をした。
 このように、本件レコードに固定された演奏は、本件楽曲についての著作権を有するヴァージン及びヴァージンから本件楽曲についての原盤製作の授権を得た被告のために行われたのである。
イ 原告らは、以下の理由から、被告に対し、実演家の権利の行使として、本件レコードの製造、販売の差止めを求めることはできない。
(ア) 単なる演奏家は、当該楽曲の著作権者の意向に反して、演奏契約上の顕著な違反又は人格権の侵害がない限り、著作隣接権の行使として、演奏を固定したレコードの製造の差止めを求めることはできない。そして、原告らも、被告に対し、被告の意向に反して行使できる実演家の著作隣接権を有していない。
(イ) 原告らが、被告に対して、実演家の著作隣接権に基づき、本件レコードの製造、販売の差止めを求めることは権利の濫用である。
第3 当裁判所の判断
1 本件レコード1が、原告A、同C及び同Dらの演奏を固定したものであり、本件レコード2が、原告らの演奏を固定したものであること、並びに被告が、本件レコードを製造、販売していることは、いずれも当事者間に争いがない。
 したがって、原告らは、被告に対して、実演家の録音権(著作権法91条1項)及び譲渡権(同法95条の2第1項)を侵害するものとして、同法112条1項により、本件レコードの製造、販売の差止めを求めることができる。
2 これに対して、被告は、原告らの差止請求は認められない旨主張するので、以下、被告の主張について検討する。
(1) 被告は、まず、単なる演奏家は、当該楽曲の著作権者の意向に反して、演奏契約上の顕著な違反又は人格権の侵害がない限り、著作隣接権の行使として、演奏を固定したレコードの製造の差止めを求めることはできず、原告らも、被告に対して、被告の意向に反して行使できる実演家の著作隣接権を有しないと主張する。
 しかしながら、著作隣接権と著作権とは別個独立の権利であり、レコードに固定された演奏についての実演家の著作隣接権の行使が、当該レコードの楽曲についての著作権により制約を受けることはないのであるから、実演家は、当該楽曲の著作権者等から演奏の依頼を受けて演奏をした場合であっても、当該楽曲の著作権等に対して、当該演奏が固定されたレコードの製造、販売等の差止めを求めることができることは明らかであり、被告の上記主張は失当である。
(2) また、被告は、原告らの差止請求は権利の濫用であり、許されない旨主張する。
 しかしながら、被告が、被告の主張ア「原告らが演奏するに至る経緯」で述べた事情に加えて、いかなる事情をもって原告らの差止請求が権利の濫用に当たると主張するのかは明確でないところ、本件全証拠によっても、原告らの権利行使が権利濫用となるべき事情を認めることはできない(上記被告の主張アで述べた事情が認められるとしても、原告らの権利行使が権利の濫用となるものではなく、また、被告は、上記の事情以外に、原告らとの間に何らかの契約関係等が存するなどの主張もしていない。)から、被告の上記主張は理由がない。
3 したがって、原告の本訴請求は理由があり、仮執行宣言については、相当でないから、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 坂本三郎
 裁判官 佐野信
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