判例全文 line
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【事件名】商標“十二単の招福巻”侵害事件
【年月日】平成20年10月2日
 大阪地裁 平成19年(ワ)第7660号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成20年7月14日)

判決
原告 株式会社小鯛雀鮨鮨萬
訴訟代理人弁護士 白波瀬文夫
訴訟代理人弁理士 濱田俊明
被告 イオン株式会社
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 仲井晃
訴訟復代理人弁護士 鈴木勝博


主文
1 被告は、「十二単の招福巻」との標章をすしの包装に付してはならない。
2 被告は、「十二単の招福巻」との標章を包装に付したすしを販売又は販売のために展示してはならない。
3 被告は、すしに関する宣伝用のポスター、チラシ、パンフレット、ホームページに、「十二単の招福巻」との標章を付して、展示又は頒布してはならない。
4 被告は、原告に対し、51万4825円及びこれに対する平成19年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の金員請求を棄却する。
6 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
7 この判決の第1項ないし第4項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1ないし第3項と同旨
2 被告は、原告に対し、2300万円及びこれに対する平成19年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、後記商標権を有する原告が、その包装に「十二単の招福巻」との標章を付し、同標章を付した巻きずしの販売等をする被告の行為は原告の上記商標権を侵害するものであるとして、被告に対し、商標法36条に基づき上記標章を商品の包装に付するなどその使用の差止めを求めるとともに、商標権侵害の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として2300万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成19年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
 原告は、大阪市に本店を置き、すしを主とする日本料理の提供等を業とする株式会社である。
 被告は、千葉市に本店を置き、全国にスーパーマーケット「ジャスコ」を展開する株式会社である。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
 登録番号 第2033007号
 出願日 昭和59年1月31日
 登録日 昭和63年3月30日
 更新登録日 平成10年6月2日
 指定商品 第32類加工食料品、その他本類に属する商品
 登録商標 別紙商標目録記載のとおり
(3) 被告の行為
 被告は、平成18年1月から同年2月にかけて及び平成19年1月から同年2月にかけて、全国のスーパーマーケット「ジャスコ」において、節分用の巻きずしに「十二単の招福巻」との標章(以下「被告標章」という。)を付し、被告標章を付したポスター及びチラシを貼付又は頒布するなどして宣伝し、包装に被告標章を付した節分用の巻きずし(以下「被告商品」という。)を販売した。
 被告の上記行為は、本件商標の指定商品につき、商標法2条3項1号、2号及び8号の態様で被告標章を使用する行為である。
2 争点
(1) 被告標章は本件商標に類似するか
(2) 本件商標権の効力は被告標章に及ばないか(商標法26条1項2号、4号)
(3) 本件商標の登録は商標登録無効審判により無効にされるべきものであって、本件商標権に基づく権利行使が許されないものであるか(商標法39条、特許法104条の3第1項)
(4) 原告の損害
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告標章は本件商標に類似するか)について
【原告の主張】
 被告標章は、本件商標「招福巻」の前に「十二単の」という修飾語を付加しただけのものであり、「招福巻」の部分は全く共通であるから、被告標章は本件商標に類似する。
 被告は、「招福巻」は節分用巻きずしの普通名称、効能を示す名称又は慣用商標にすぎず、被告標章の自他識別力を有する部分は「十二単の招福巻」の全体であるから、本件商標と被告標章は類似しないと主張するが、「招福巻」は、普通名称、効能の示す名称又は慣用商標のいずれにも当たらない(後記(2)【原告の主張】参照)。
【被告の主張】
 被告標章は、いずれも「十二単の」という文字が「招福巻」の文字前に置かれており、また、「十二単の」という文字と「招福巻」という文字は1列又は1行で繋がって記載されており、大多数において、「十二単の」という文字と「招福巻」という文字のフォント数は同じですべての文字が等間隔に配列されている。よって、被告標章は、「十二単の」の部分と「招福巻」の部分とに分離して捉えるべきではなく、「十二単の招福巻」という一体のものとして捉えるべきである。
 また、節分用の巻きずしとして「招福巻」という用語自体は、節分用巻きずしの普通名称、効能を示す名称又は慣用商標にすぎない(後記(2)【被告の主張】参照)。したがって、被告標章の自他識別力を有する部分は、「十二単の招福巻」の全体である。そうすると、本件商標と被告標章は、その称呼、外観及び観念のいずれもが相違している。
 また、全国多数のスーパーマーケット、すし店、神社等で、節分用の巻きずしとして、「招福巻」という名称が使用されているという取引の実情に鑑みても、被告標章に接した需要者が、これを原告の出所を示すものであるとして誤認混同することは考えられない。
 よって、被告標章は本件商標に類似しない。
(2) 争点(2)(本件商標権の効力は被告標章に及ばないか)について
【被告の主張】
 被告標章の一部である「招福巻」という表示(商標法26条1項本文括弧書き)は、節分用の巻きずしの普通名称にすぎないか、又は福を招く効能をもたらすという効能を示すものとして普通に用いられる方法で表示したものにすぎず(同条1項2号)、若しくは節分用の巻きずしについて慣用されているものにすぎない(同条1項4号)。したがって、同条1項により本件商標権の効力は被告標章には及ばない。以下詳述する。
ア 「招福巻」が「普通名称」に該当すること
 「節分」の行事は、飛鳥時代まで起源を遡る「福を招く」、すなわち「招福」の行事である。そして、諸説あるものの、古来より節分には「福を巻き込む」縁起ものとして巻きずしが食されてきた。その巻きずしの名称として、「福を招く」という意味の「招福」という一般用語と、巻きずしの一般的用語法である「○○巻」という用語とを組み合わせ、「招福巻」という名称を用いることは、「古来より『福を招く』ための行事とされてきた節分の行事として、『福を招く』ために巻きずしを食べること」を示すものとして最も直接的な表現である。このように、「招福巻」という名称は、節分に『福を招く』ために食べる巻きずしを示すものとして最も直接的であるからこそ、全国のスーパーマーケットやすし店で、節分用の巻きずしを示す名称として使用され、それらが新聞の折込広告等のチラシとして、全国のほとんどの家庭といっても差し支えないであろう程度の広がりで配布され、また、全国のスーパーマーケット、すし店の店頭のほか、神社などで販売されてきたのである〔乙2、3、16〜25(枝番を含む。)〕。
 したがって、被告標章「十二単の招福巻」の一部である「招福巻」という名称(商標法26条1項本文)は、節分用の巻きずしの普通名称である(同項2号)。
イ 「招福巻」が「招福」という効能を図る「巻」きずしの表示にすぎないこと
 もともと「招福巻」という用語は、それを食することにより「福を招く」「福を巻き込む」という効能・ご利益を図るものとして、一般名称化したものであるから、名称の起源自体が効能を示している。
 したがって、「招福巻」は、「招福」という効能を図る「巻」きずしの表示にすぎず、ひいては「招福巻」という名称自体が「効能」を示すものであるといえる(商標法26条1項2号)。
ウ 被告標章の一部である「招福巻」が普通に用いられる方法で表示されてきたこと
 被告標章の一部である「招福巻」は、いずれも普通のフォントで表示されており、いずれも普通に用いられる方法で表示されたものといえる(甲4の各枝番)。
エ 「招福巻」が節分用の巻きずしとして慣用商標であること
 上記アと同様の理由により、「招福巻」は、節分用の巻きずしについて慣用されている商標であるといえる(商標法26条1項4号)。
【原告の主張】
 被告の主張は争う。
 我が国において最もポピュラーな辞書である広辞苑・第5版(平成10年刊行)においても「招福」という言葉は収録されておらず、「招福」という言葉は普通名称になっていない。まして、「招福巻」という言葉が普通名称になっているということはできない。「招福」という言葉に被告が主張するような意味があるとしても、これと「巻」が結合した「招福巻」が普通名称になるというものではない。
 節分に巻ずしを丸かぶりする風習がいつころから始まったのかは定かではないが、大阪鮨商組合の資料(甲16)によれば、昭和7年には大阪で節分に恵方を向いて巻ずしを丸かぶりする風習が行われていたようである。その際その巻ずしは「幸運巻寿司」と呼ばれており、「招福巻」という名称は使用されていなかった。被告が挙げる「招福巻」の使用例は、そのほとんどが2年前(平成17年)以降の最近の使用例である。
 原告は、平成19年の節分時期に至り、「招福巻」の商標が被告をはじめ複数の会社により無断で使用されていることを発見するや、速やかに弁理士に相談して各社に警告を行い、その中で本件商標権を争う被告に対しては本訴を提起して、自己の商標権を守るべく努めている。この警告に応じて「招福巻」を使用しないことを言明している会社も相当数ある。招福巻が市場に登場するのは年に一度の節分の日のみであり、本件商標が容易に普通名称や慣用商標になるものではない。
 以上によれば、「招福巻」の言葉が普通名称や慣用商標になったということはできない。その他の被告の主張は、いずれも被告の独自の見解にすぎず、採用できない。
(3) 争点(3)(本件商標の登録は商標登録無効審判により無効にされるべきものであって、本件商標権に基づく権利行使が許されないものであるか)について
【被告の主張】
 本件商標は本来商標登録されるべきものではない登録無効の商標であり、本件商標権に基づく権利行使は許されない。
ア 節分用の巻きずしとして「招福巻」という用語自体は、普通名称、効能を示す名称又は慣用商標にすぎないから、本件商標は、商標法3条1項1号、2号及び3号に該当する登録無効の商標である。
イ 本件商標は、字体にさほどの特徴がない上、全国多数のスーパーマーケット、すし店、神社等で、節分用の巻きずしとして「招福巻」という名称が使用されていること、節分に巻きずしを食すると縁起がよいとされる風習は相当古くから始まっており、原告が起源となったものでもないことからすると、「招福巻」といえば「小鯛雀鮨鮨萬」というように、本件商標が原告の商品ないし営業力を表示するものとして、需要者に認識されているようなことはあり得ない。よって、本件商標は、商標法3条1項6号に該当する登録無効の商標である。
【原告の主張】
 争う。
(4) 争点(4)(原告の損害)について
【原告の主張】
ア 売上金額
 被告は、被告商品を、全国304店舗に及ぶスーパーマーケット「ジャスコ」において販売した。その販売数量は、平成17年以降の3年間に限定しても、1年に少なくとも20万本、合計60万本を下らない。また、被告は、被告商品を1本1380円又は980円で販売した。したがって、上記3年間の被告商品の売上金額は、5億8800万円を下らない。
イ 使用料相当額(商標法38条3項)
 本件商標の使用料率としては、売上金額の10%が相当である。したがって、本件商標の使用料相当額は、5880万円を下らない。原告は、このうち2000万円の支払を求める。
ウ 代理人費用
 原告は、本件紛争を円満に解決することを意図して、弁理士を代理人として被告と交渉したが、被告はあくまで販売数量を開示しない態度であり、やむなく弁理士のほか弁護士を代理人に依頼して本件訴訟を提起することを余儀なくされた。商標権侵害訴訟の専門性に鑑み、両代理人に対する費用のうち合計300万円は、被告の商標権侵害行為と相当因果関係ある損害として被告が賠償すべきである。
【被告の主張】
ア 売上金額
 被告が被告商品を販売したのは、平成18年1月から2月にかけて及び平成19年1月から2月にかけてのみである。被告は、この間、被告商品を、スーパーマーケット「ジャスコ」において、通常価格を、平成18年度は1本980円(消費税込み)で、平成19年度は1本1380円(消費税込み)で販売した。その売上げは、平成18年度が3514本、327万2000円(消費税抜き)で、平成19年度が2527本、272万4673円(消費税抜き)である。
イ 使用料相当額
 否認ないし争う。
ウ 代理人費用
 原告代理人弁理士が被告(代理人弁護士ら)と交渉したが不調に終わったこと、被告が販売数量を開示しなかったこと、原告が弁護士・弁理士に依頼して本件訴訟を提起したことは認めるが、代理人費用を被告が賠償すべきであるとの主張は争う。
エ 損害不発生の抗弁
 「十二単の招福巻」という商品名で販売することが被告の売上げに全く寄与していないことは明らかであり、原告に損害は発生していない。
 すなわち、「十二単の招福巻」という商品名を付す以前の時期(平成17年度)と「十二単の招福巻」という商品名を別の商品名に変更した後の時期(平成20年度)における、同一価格帯の予約販売品の売上げを見ると、平成18年度及び平成19年度の売上げとほとんど変わらない。これは、「十二単の招福巻」という標章を付そうが付すまいが、売上高・本数には何ら影響がないことを示している。
第3 争点に対する判断
 事案の性質に鑑み、争点(2)、争点(3)、争点(1)、争点(4)の順に判断する。
1 争点(2)(本件商標権の効力は被告標章に及ばないか)について
(1) 節分用巻きずしの由来
 証拠(甲16、乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 「節分」とは季節の分かれ目のことで、立春、立夏、立秋、立冬のそれぞれの前日を指すが、現在行事として残っているのは、立春の前日の節分(2月3日ころ)である。古く飛鳥時代に疫病を鬼に見立てて追い払う「追儺(ついな)」(鬼やらい)の儀式が行われたという記録があり、平安時代になって追儺の儀式が年中行事になり、さらに室町時代には鬼神が都に乱入しようとしたのを、炒り豆を投げつけて追い払ったということで、節分に豆まきの風習が行われるようになった。このように、「節分」は本来的に「鬼を追い払う」儀式であるが、これとともに「福を呼び込む」儀式としての性格も帯びるようになり、豆まきに際し「鬼は外」とともに「福は内」と呼ぶようになった。そして、起源は定かではないものの、節分の日に「その年の恵方に向いて無言で壱本の巻寿司を丸かぶりすれば其年は幸運に恵まれる」(甲16)と言い伝えられ、遅くとも昭和7年ころには大阪の一部地域(大阪船場が発祥の地とも伝えられる。)において、節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりする風習が行われるようになった。大阪鮓商組合後援会は、当時既に、節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりすることを勧める宣伝ビラ(甲16)を発行しており、その中でこの巻きずしを「幸福巻寿司」と呼んでいた。昭和15年ころには、大阪鮓商組合後援会がこれと同様の宣伝ビラを発行していた。その後、時を経て昭和52年ころ、大阪海苔問屋協同組合が「幸運巻すし」と銘打って節分に巻きずしを丸かぶりすることを勧める宣伝活動を始め、また、関西厚焼工業組合も同じころから広範囲で同様の宣伝活動を行うようになり、昭和62年ころには、関西地方のみならず、岐阜、浜松、金沢、新潟等の各都市や九州地方にまで上記同様の宣伝ビラを送付していた。その後、スーパーマーケットなどでも宣伝を行うようになり、節分に恵方を向いて巻きずしを食する風習が関西地方を中心に次第に広い地域に広がっていった。
イ この節分用の巻きずしの名称については、大阪鮓商組合後援会が昭和7年に発行した「巻寿司と福の神節分の日に丸かぶり」と題するビラに「幸運巻寿司」の記載があり(甲16)、大阪鮓商組合後援会が昭和15年に発行したビラに「幸運巻寿司」の記載があり(乙5・239頁)、大阪海苔問屋協同組合が昭和52年ころから始めた宣伝活動において「幸運巻すし」の名称を用いており、同組合が平成2年に発行したビラにも「幸運巻すし」の記載があり(乙5・231頁)、大阪府鮓商環境衛生同業組合が平成2年に発行したビラに「幸運巻すし」の記載がある(乙5・228頁)。
(2) 「招福巻」の使用例
 上記認定事実によれば、節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりする風習は遅くとも昭和7年当時には少なくとも大阪の一部地域で行われていたものであり、大阪の巻きずし関連業界の宣伝活動によって次第に広がり、昭和の終わりころには、大阪以外の関西地方、さらには関西地方以外の地域にも広がり、近年はさらに広範囲に広がりつつあるところ、この節分用の巻きずしの名称としては、昭和7年ころから平成2年ころまでの間に限れば、専ら「幸運巻寿司」あるいは「幸運巻すし」の名称が用いられ、その名称によって宣伝広告等がされていたことが認められ、「招福巻」の名称が使用された例は本件証拠上見当たらない。
 これに対し、被告は、節分用の巻きずしの名称として、全国のスーパーマーケットやすし店等で「招福巻」という名称が使用されている〔乙2、3、16〜25(枝番を含む。)〕と主張する。そこで、被告主張の「招福巻」の使用例について検討するに、証拠〔乙2、3、16〜25(枝番を含む。)〕及び弁論の全趣旨によれば、全国のスーパーマーケットやすし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」を含む商品名が用いられている例として、次のものがあることが認められる。
ア ダイエー
(ア) ダイエーは、株式会社ダイエーの経営に係るスーパーマーケットであり、平成19年1月時点で全国に209店舗ある。
(イ) ダイエーの平成16年の「本日節分」との記載のあるチラシ(乙2の1の2)には、「丸かぶり」「節分の日に今年の恵方『東北東』を向いて、無言で太巻寿司を丸かぶりすると一年が健康で幸せに暮らせると言われています」との記載の下に、「招福巻1本398円」の記載があり、これと並んで「極太恵方巻1本980円」等の記載がある。
 また、平成17年の「本日2/3木は節分」との記載のあるチラシ(乙2の1の1)には、「丸かぶり寿司」「今年の恵方は西南西」「節分の日に太巻寿司を恵方に向かって無言で丸かぶりすると一年間健康で幸せに暮らせると言われています」との記載の下に、大きく「恵方巻1本398円」と記載され、その横に比較的小さく「節分丸かぶり中巻セット5本1パック598円」「招福巻1本398円」との記載がされている。
(ウ) 上記記載からすると、平成16年のチラシ(乙2の1の2)では、節分用の巻きずしの商品名として「招福巻」を用いているから、「招福巻」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いていると見る余地がないではない。しかし、同チラシでは、「招福巻」と並んで「極太恵方巻」も用いており、この「極太恵方巻」の「恵方」は、節分に恵方を向いて巻きずしを丸かぶりするという風習と関連のある言葉であるから、「極太恵方巻」に含まれる「恵方巻」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いていると見る余地もある。
 これに対し、平成17年のチラシ(乙2の1の1)では、「丸かぶり寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」は、「恵方巻」とともに、「丸かぶり寿司」の中の一商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
イ 阪急オアシス
(ア) 阪急オアシスは、株式会社阪急オアシスの経営に係るスーパーマーケットであり、平成19年10月時点で京阪神に23店舗ある。
(イ) 阪急オアシスの平成17年の「2月3日は節分」との記載のあるチラシ(乙2の2の1)には、「丸かぶり寿司に…」「今年の恵方は西南西です。」との記載の下に、「招福巻1本580円」等の記載があり、これと同じ欄に「巻寿司1本294円」、「特選巻1本399円」、「田舎風野菜たっぷり巻1本399円」等が併記されている。
(ウ) 上記記載からすると、阪急オアシスの平成17年のチラシ(乙2の2の1)では、「丸かぶり寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」は、これと併記されている「巻寿司」等とともに、「丸かぶり寿司」の中の一商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
ウ KOHYO(コーヨー)
(ア) KOHYOは、株式会社光洋の経営に係るスーパーマーケットであり、平成18年10月時点で大阪府・兵庫県内に27店舗ある。
(イ) KOHYOの平成17年の「節分2/3木限り」との記載のあるチラシ(乙2の3の1)には、「招福巻1本660円」との記載があり、これと同じ欄に並んで「焼穴子入具沢山太巻1本598円」、「国産うなぎ太巻1本980円」等の記載がある。
(ウ) 「焼穴子入具沢山太巻」や「国産うなぎ太巻」は、節分とは直接関係のない巻き寿司の種類を示すものであるから、KOHYOの上記チラシでは、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
エ 小僧寿し
(ア) 小僧寿しは、株式会社小僧寿し本部の経営に係るすし等の販売店であり、同社の直営店を含む小僧寿しフランチャイズチェーンに属する店舗は、平成18年12月時点で1034店舗ある。
(イ) 小僧寿しの平成19年の「節分の日」との記載のある2種のチラシ(乙2の4の1・2)には、「2月3日(土)はまるかぶりフェア」「今年の恵方は北北西」との記載の下に、「招福巻1本580円」の記載があり、これと並んで「縁起巻1本380円」の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、小僧寿しの平成19年のチラシ(乙2の4の1・2)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
オ サンシャイン
(ア) サンシャインは、株式会社サンシャインチェーン本部の経営に係るスーパーマーケットであり、平成18年12月時点で四国内にチェーン加盟店31店舗及び直営店11店舗がある。
(イ) サンシャインでは、平成19年2月ころ、「招福巻」あるいは「招福巻き」の名称の巻きずし(乙2の5の1)を販売していた。
(ウ) 上記事実からすると、サンシャインでは、平成19年2月当時、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」あるいは「招福巻き」を用いていたと見る余地がある。
カ さとう
(ア) さとうは、株式会社さとうの経営に係るスーパーマーケットであり、北近畿内に46店舗(ただし、同社経営の他の業態の店舗を含む。)ある。
(イ) さとうの平成18年の「2月3日(金)は節分。」との記載のあるチラシ(乙2の6の1)には、「節分巻寿司ご予約承り中」との記載の下、予約の対象となっている複数の巻きずしの中の一つとして「招福巻1本580円」の記載があり、これと並んで「幸運巻1本380円」、「恵方巻1本480円」、「丸かぶり寿司1本280円2本550円」の記載がある。
 また、平成19年の「2月3日(土)は節分」との記載のあるチラシ(乙2の6の2)にも、「節分巻寿司ご予約承り中」との記載の下、予約の対象となっている複数の巻きずしの中の一つとして「招福巻寿司1本580円」の記載があり、これと並んで「開運十色巻1本580円」、「幸運巻1本380円2本750円」の記載がある。
 さらに、平成20年の「2月3日(日)は節分」との記載のあるチラシ(乙16)にも、「節分巻寿司ご予約承り中」との記載の下、予約の対象となっている複数の巻きずしの中の一つとして「招福巻寿司1本580円」の記載があり、これと並んで「開運七福巻寿司1本680円」、「幸運巻1本380円2本750円」の記載がある。
(ウ)  記記載からすると、さとうの平成18年、平成19年及び平成20年チラシ(乙2の6の1・2、16)では、「節分巻寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」あるいは「招福巻寿司」は、「幸運巻」、「恵方巻」、「丸かぶり寿司」等とともに、「節分巻寿司」の中の一商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
キ 大丸ピーコック
(ア) 大丸ピーコックは、株式会社大丸ピーコックの経営に係るスーパーマーケットであり、関東に42店舗、関西に27店舗がある。
(イ) 大丸ピーコックでは、平成18年2月ころ、「招福巻」の名称の巻きずし(乙2の7の1)を販売していた。
(ウ) 上記事実からすると、大丸ピーコックでは、平成18年2月当時、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていたと見る余地がある。
ク サボイ
(ア) サボイは、株式会社サボイの経営に係るスーパーマーケットであり、大阪府内に19店舗ある。
(イ) サボイでは、平成18年2月ころ、「招福巻」の名称の巻きずし(乙2の8の2)を販売していた。
 また、サボイの平成19年の「春を招き、福を呼ぶ『節分』」との記載のあるチラシ(乙2の8の1)には、「関西の福福々!!招福巻」との記載の下、「招福巻寿司1本698円」の記載があり、これと並んで「恵方巻寿司1本398円」の記載がある。
(ウ) 節分時に「招福巻」の名称の巻きずしを販売していたという事実からすると、サボイでは、平成18年2月当時、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていたと見る余地がある。
 また、上記チラシの記載では、「招福巻」を、「招福巻寿司」と「恵方巻寿司」を総称する言葉として用いる一方、「招福巻寿司」を「恵方巻寿司」と並ぶ商品名として用いていることからすると、平成19年のチラシ(乙2の8の1)でも、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
ケ ニッショー
(ア) ニッショーは、株式会社阪急ニッショーストアの経営に係るスーパーマーケットであり、京阪神地区に22店舗ある。
(イ) ニッショーの平成15年の「節分特集」との記載のあるチラシ(乙3の5)には、「特選巻寿司揃い!」として紹介されている複数の巻きずしの中の一つとして、「太巻き招福巻2本860円」の記載がある。
 また、平成18年の「2/3は節分」との記載のあるチラシ(乙2の9の1)には、「今年の恵方は南南東」「まるかぶり寿司は、恵方巻(えほうまき)とも言って関西が発祥と言われています。」との記載のある部分に、「招福巻1本450円」との記載があり、これと並んで「恵方巻1本350円」等の記載もある。
 さらに、平成18年の「2月3日(金)は節分」との記載のあるチラシ(乙2の9の2)には、「まるかぶり寿司ご予約承ります。」との記載の下、予約の対象となっている複数のすしの中の一つとして「招福巻」の記載がある(他には、「ニッショー名物特上巻」「ニッショー名物特上かに風味」「上巻寿司」「鉄火巻」「イカネギトロ巻」「豚カツ巻」「海老フライ巻」が掲載されている。)。上記チラシには、「今年の恵方は南南東」「まるかぶり寿司は、恵方巻(えほうまき)とも言って関西が発祥と言われています。」との記載もあり、また、同チラシの下部には、「まるかぶり寿司申込書」、「まるかぶり寿司引換書」との記載もある。
(ウ) 上記記載からすると、平成15年のチラシ(乙3の5)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がなくはないが、平成18年のチラシ(乙2の9の1・2)では、いずれも「まるかぶり寿司は、恵方巻(えほうまき)とも言って関西が発祥と言われています」と「まるかぶり。、 寿司」ないし「恵方巻」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」は、この中の一商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
コ 平和堂
(ア) 平和堂は、株式会社平和堂の経営に係るスーパーマーケットであり、滋賀県・福井県・石川県・富山県・京都府・大阪府・兵庫県内に合計101店舗ある。
(イ) 平和堂の平成18年の「本日3日(金)は節分」の記載のあるチラシ(乙2の10の1)には、「恵方巻今年の恵方は『南南東』」との記載のある部分に紹介されている複数の巻きずしの一つとして「招福巻1本398円」の記載があり、これと並んで「幸福巻1本498円」の記載もある。
(ウ) 上記記載からすると、平和堂の平成18年のチラシ(乙2の10の1)では、「恵方巻」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」は、「幸福巻」とともに、「恵方巻」の中の一商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
サ 広越
(ア) 広越は、広越株式会社の経営に係る飲食店等であり、広島市に30店舗、福岡県に1店舗ある。
(イ) 広越の平成19年のウェブサイト(乙2の11の1)の「広越Reserve招福巻」のタイトルのある画面には、「Q 招福巻はなぜ切っていないの?」、「A 恵方に向かって大きな口を開けて招福巻をかぶりつくとその様を鬼が見て(口を大きく開けた様に驚き)退散すると信じられていました。この事から節分の日はわざわざ切らずにそのまま招福巻を食する習慣が定着しました。」との記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、広越の平成19年のウェブサイト(乙2の11の1)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
シ 柿の葉すし本舗たなか
(ア) 柿の葉すし本舗たなかは、株式会社柿の葉すし本舗たなかの経営に係るすしの販売店であり、関西を中心に直営店舗が27店舗ある。
(イ) 柿の葉すし本舗たなかの平成19年のウェブサイト(乙2の12の1・2)及び平成20年のウェブサイト(乙18)の「季節の味だより」のタイトルのある画面には、「節分招福巻494円」の記載があり、その下に、「ほおばる口に福宿る、丸かぶりすし」との記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、柿の葉すし本舗たなかの平成19年及び平成20年のウェブサイト(乙2の12の1・2、18)では、「丸かぶりすし」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「招福巻」は、「丸かぶりすし」の商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同ウェブサイトに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる(同ウェブサイトの別の商品紹介として、「秋日和893円」の記載があり、その下に、「秋の味覚をたっぷりと、秋の定番ちらしすし」との記載があるところ、これは、「ちらしすし」(一般的名称)に「秋日和」という商品名を付して販売していることを示すものであることが明らかであり、「招福巻」もこれと同様の商品名であると解される。)。
ス 鶴羽根神社・二葉
(ア) 鶴羽根神社・二葉は、広島市所在の飲食店、割烹料理店、結婚式場、神社、日本料理店、料亭である。
(イ) 鶴羽根神社・二葉の平成19年のウェブサイト(乙2の13の1)には、「その他期間限定として…」として、「おせち料理」、「春の花見弁当」、「土用の丑の鰻弁当」等と並んで、「節分の招福巻」の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、鶴羽根神社・二葉の平成19年のウェブサイトでは、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
セ すし割烹井津茂
(ア) すし割烹井津茂は、島根の郷土料理店である。
(イ) すし割烹井津茂の平成20年のウェブサイト(乙17)には、「今年一年間の幸せを願って恵方を向いて丸かぶりしてください」との記載とともに「招福巻」の記載があり、この下に、その「品種・品名」として、「節分丸かぶり」の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、すし割烹井津茂の平成20年のウェブサイト(乙17)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
ソ なだ万
(ア) なだ万は、株式会社なだ万の経営に係るレストラン等であり、レストランが33店舗、ショップが31店舗ある。
(イ) 東武百貨店の平成20年のウェブサイト(乙19の1)の「船橋店お薦め情報」の画面には、「2月3日は節分「恵方寿司」販売会」「名店から趣向を凝らした品々が登場。今年の恵方は南南東です」の記載の下、なだ万厨房の「招福巻寿司“口福”(数の子・蟹棒肉・穴子等10種/1本)2625円」の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、なだ万では、平成20年2月時点で、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用い、その商品名を「口福」としていたと見る余地がある。
タ くら寿司
(ア) くら寿司は、株式会社くらコーポレーションの経営に係るすし店であり、平成19年11月時点で、関東、中京、関西の各エリアに合計187店舗ある。
(イ) くら寿司の平成20年の「節分の日今年の恵方南南東ご予約承り中」の記載のあるチラシ(乙20の1)には、太字で「招福太巻」の記載があり、その下に予約対象として「エビマヨ巻」及び「上福巻」が各写真とともに記載されている。
(ウ) 上記記載からすると、くら寿司の平成20年のチラシ(乙20の1)では、平成20年2月時点で、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福太巻」を用いていると見る余地がある。
チ がってん寿司
(ア) がってん寿司は、株式会社アールディーシーの経営に係るすし店であり、関東地方を中心に合計109店舗ある。
(イ) がってん寿司の平成20年の「予約限定販売お渡し日2月1日〜3日の3日間」の記載のあるチラシ(乙21の1)には、予約対象として「海鮮招福巻1本1380円」、「がってん海鮮恵方巻1本480円」の各記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、がってん寿司の平成20年のチラシ(乙21の1)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がないではない。
ツ ウジエスーパー
(ア) ウジエスーパーは、株式会社ウジエスーパーの経営に係るスーパーマーケットであり、宮城県内に31店舗ある。
(イ) ウジエスーパーの平成20年の「2月3日は節分」の記載のあるチラシ(乙22の1)には、「恵方巻予約承ります」との記載の下、予約対象として、「極上海鮮招福巻き880円」、「海鮮サラダ招福巻き610円」、「極太鉄火招福巻き530円」、「海鮮えび・かに三昧招福巻き530円」、「大漁招福巻き440円」、「納豆彩色招福巻き440円」が列挙されている。
(ウ) 上記記載からすると、ウジエスーパーの平成20年のチラシ(乙22の1)では、「恵方巻」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「極上海鮮招福巻き」等は、いずれも「恵方巻」の商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
テ フードオアシスあつみ
(ア) フードオアシスあつみは、株式会社渥美フーズの経営に係るスーパーマーケットであり、愛知県内に4店舗ある。
(イ) フードオアシスあつみの平成20年の「節分まるかぶり寿司ご予約承り中」の記載のあるチラシ(乙23の1)には、予約の対象となっている複数の巻きずしの一つとして「魚屋の海鮮招福巻780円」の記載があり、これと並んで「幸運巻き1280円」、「七福恵方巻680円」、「海鮮恵方巻980円」、「魚屋の開運恵方巻1580円」等の記載がある。
(ウ) フードオアシスあつみの平成20年のチラシ(乙23の1)では、「まるかぶり寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、「魚屋の海鮮招福巻」は、「幸運巻き」等とともに、「まるかぶり寿司」の商品名として用いられているものと見るのが自然であり、同チラシに接した需要者も同様の認識を持つものと認められる。
ト 回転寿司・廻鮮漁港
(ア) 回転寿司・廻鮮漁港は、株式会社関西フーズの経営に係る回転寿司のチェーン店であり、兵庫県姫路市を中心に8店舗ある。
(イ) 回転寿司・廻鮮漁港の平成20年のウェブサイト(乙24の1)には、「2月3日(日)ご予約承り中」の記載の下、太字で「節分招福巻寿司」の記載があり、予約対象として、「海鮮恵方巻」、「サラダ縁起巻」、「牛肉招福巻」等の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、回転寿司・廻鮮漁港では、平成20年2月時点で、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていたと見る余地がある。
ナ マツヤスーパー
(ア) マツヤスーパーは、株式会社マツヤスーパー経営のスーパーマーケットであり、京都府・滋賀県に6店舗ある。
(イ) マツヤスーパーの平成19年のチラシ(乙3の4の1)には、「今日は節分」の記載の下で紹介されている複数の巻きずしの一つとして「開運招福巻698円」の記載があり、これと並んで「福寿巻498円」、「まるかぶり上巻398円」等の記載がある。
 また、平成20年のチラシ(乙25)にも、「今日は節分」の記載の下で紹介されている複数の巻きずしの一つとして「開運招福巻1本698円」の記載がその説明としての「こだわりの京風の招福巻!」の記載とともにあり、これと並んで「厄除福寿巻1本500円」等の記載もある。
(ウ) 上記記載からすると、少なくとも平成20年のチラシ(乙25)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
ニ イズミヤ
(ア) イズミヤは、イズミヤ株式会社の経営に係るスーパーマーケットであり、全国に88店舗ある。
(イ) イズミヤの平成11年の「2月3日は節分」との記載のあるチラシ(乙3の1の1)には、「今年の恵方は『東北東』」との記載の下で紹介されている巻きずしとして「節分招福巻1本380円2本750円」、「特上太巻1本480円2本950円」の各記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、イズミヤの平成11年のチラシ(乙3の1の1)では、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地がある。
ヌ 阪急百貨店
(ア) 阪急百貨店は、株式会社阪急百貨店の経営に係る百貨店であり、関西を中心に全国に11店舗ある。
(イ) 阪急百貨店の平成18年又は平成19年の「元祖節分巻きずし図鑑」との記載のあるチラシ(乙3の2の1)には、「『大善』穴子招福巻1本840円」、「『錦味』錦の招福巻1本840円」の記載がある。
(ウ) 上記記載からすると、料亭等の店舗「大善」及び「錦味」では、平成18年又は平成19年当時、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていたと見る余地がある。
ネ ひさご寿司
(ア) ひさご寿司は、京都市所在の寿司店である。
(イ) ひさご寿司は、平成18年当時、「招福巻ずし」の名称の巻きずしを販売していた(乙3の6)。
(ウ) 上記事実からすると、ひさご寿司は、平成18年時点で、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていたと見る余地がある。
(3) 「招福巻」は普通名称か
ア 上記(2)の認定事実によれば、全国のスーパーマーケットやすし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」という文字を含む商品名が用いられている例は少なからずあること、その中には、宣伝用チラシ等において、節分用の巻きずしを指す一般的な名称として「招福巻」を用いていると見る余地のあるものもあることが認められる。すなわち、上記(2)の使用例でいえば、ダイエーの平成16年のチラシ(ア)、KOHYO(コーヨー)の平成17年のチラシ(ウ)、小僧寿しの平成19年のチラシ(エ)、サンシャインの平成19年2月当時の販売商品(オ)、大丸ピーコックの平成18年2月当時の販売商品(キ)、サボイの平成18年2月当時の販売商品及び平成19年のチラシ(ク)、ニッショーの平成15年のチラシ(ケ)、広越の平成19年のウェブサイト(サ)、鶴羽根神社・二葉の平成19年のウェブサイト(ス)、すし割烹井津茂の平成20年のウェブサイト(セ)、なだ万の平成20年2月当時の販売商品(ソ)、くら寿司の平成20年のチラシ(タ)、がってん寿司の平成20年のチラシ(チ)、回転寿司・廻鮮漁港の平成20年のウェブサイト(ト)、マツヤスーパーの平成20年のチラシ(ナ)、イズミヤの平成11年のチラシ(ニ)、「大善」及び「錦味」の平成18年又は平成19年当時の販売商品(ヌ)、ひさご寿司の平成18年当時の販売商品(ネ)がこれに当たる。
 しかし、上記の使用例は、その大半が平成17年以降のものであって、それ以前の使用例は、ダイエーの平成16年のチラシ(乙2の1の2)、ニッショーの平成15年のチラシ(乙3の5)及びイズミヤの平成11年のチラシ(乙3の1の1)の3例のみである。
 そして、このうちダイエーについては、その後の平成17年のチラシ(乙2の1の1)では、「丸かぶり寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いており、また、ニッショーについても、その後の平成18年のチラシ(乙2の9の1・2)では、「まるかぶり寿司」をもって節分用の巻きずしを指す一般的な名称として用いている。また、イズミヤについては、平成11年の後も継続して同様のチラシが発行されているかどうかは明らかでない。
イ 以上に対し、上記(2)の認定事実によれば、宣伝用チラシ等において、節分用の巻きずしを指す名称として「招福巻」以外の名称を用いている例も少なくないことが認められる。すなわち、上記(2)の使用例でいえば、ダイエーの平成17年のチラシの「丸かぶり寿司」(ア)、阪急オアシスの平成17年のチラシの「丸かぶり寿司」(イ)、さとうの平成18年、19年及び平成20年のチラシの「節分巻寿司」(カ)、ニッショーの平成18年のチラシの「まるかぶり寿司」ないし「恵方巻」(ケ)、平和堂の平成18年のチラシの「恵方巻」(コ)、柿の葉すし本舗たなかの平成19年及び平成20年のウェブサイトの「丸かぶりすし」(シ)、ウジエスーパーの平成20年のチラシ「恵方巻」(ツ)があり、これらの使用例からすると、平成19年2月時点においては、「まるかぶりずし」との称呼をもって表記されるもの、「恵方巻」と表記されるもの、さらには「節分巻寿司」のように単なる記述的名称をもって表記されるものが相当数に上っていたことがうかがえる。
 加えて、平成10年11月11日発行の広辞苑第5版(甲17)には「招福」及び「招福巻」のいずれの語も収録されておらず、また、「招福巻」は、同第5版のみならず、平成20年1月11日発行の同第6版にも収録されていないのに対し、「恵方巻」は、同第5版には収録されていなかったが、同第6版では、「節分の日に、その年の恵方を向いて食う巻きずし」との意義で登載されている(広辞苑第6版の登載内容は当裁判所に顕著な事実)。
ウ 以上の事実に加え、原告が平成19年2月に、被告をはじめ、株式会社サボイ、広越株式会社、株式会社柿の葉すし本舗たなか等、節分用巻きずしに「招福巻」を使用する業者に対して警告を行い、これらの会社から今後「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得ている(甲21ないし22の各1・2)など、本件商標権を守るために一定の対応をしていることも併せ考慮すると、全国のスーパーマーケットやすし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」を含む商品名が用いられている例が多数あるからといって、このことから直ちに、「招福巻」が、節分用の巻きずしの普通名称(商標法26条1項2号)になったものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 「招福巻」は慣用商標か
 以上によれば「招福巻」が節、 分用の巻きずしについて慣用されている商標(同項4号)ということもできない。
(5) 「招福巻」は「招福」という効能を普通に用いられる方法で表示するものか 「招福巻」との名称は、その字義からして「福を招く巻きずし」と読むことができ、節分の日に「その年の恵方に向いて無言で壱本の巻寿司を丸かぶりすれば其年は幸運に恵まれる」という前記風習と結びつけて命名されたことがうかがえる。しかし、前記風習により節分の日に恵方を向いて無言で巻きずしを丸かぶりすると「其年は幸運に恵まれる」ひいては「福を招く」と関西地方を中心とした日本の一部地域において信じられていたとしても、そのような主観的な一種の「信仰」の内容をもって商品である巻きずしの「効能」ということはできず、「招福巻」との表示が、その「効能」を普通に用いられる方法で表示したものということもできない。
(6) 小括
 以上によれば、被告標章のうち「招福巻」の部分は節分用の巻きずしの普通名称、効能を普通に用いられる方法で表示する名称又は慣用商標のいずれにも当たらない。したがって、これらに当たることを前提に、商標法26条1項により本件商標権の効力が被告標章に及ばないと主張する被告の抗弁は、理由がない。
2 争点(3)(本件商標の登録は商標登録無効審判により無効にされるべきものであって、本件商標権に基づく権利行使が許されないものであるか)について
(1) 前記のとおり、「招福巻」は節分用の巻きずしとしての普通名称、効能を示す名称又は慣用商標のいずれにも当たらないから、これらに当たることを前提に本件商標登録が商標法3条1項1号、2号及び3号に該当し無効であるとの被告の主張は、理由がない。
(2) 前記のとおり、近時全国のスーパーマーケットやすし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」を含む商品名が用いられている例が少なからず見られるとはいうものの、いまだ、「招福巻」が節分用の巻きずしの普通名称又は慣用商標になったということはできず、また、商品の効能を普通に用いられる方法で表示する名称であるともいえないから、「招福巻」が自他識別力を喪失したということはできない。また、「招福巻」に独占適法性がないということもできない。したがって、本件商標登録が商標法3条1項6号に該当し無効であるとの被告の主張も、理由がない。
(3) よって、被告の権利行使制限の抗弁は理由がない。
3 争点(1)(被告標章は本件商標に類似するか)について
(1) 被告標章の要部
 「招福巻」は、それ自体として自他識別性に欠けることはない。また、被告標章は、本件商標「招福巻」の前に「十二単の」という修飾語を付加したものであるところ、そこでいう「十二単の」というのは、巻きずしに12種類の具材が入っていることを示しているにすぎず(甲3参照)、その使用態様からしても「十二単」の部分に自他識別力があるものとは認められない。したがって、被告標章の要部、すなわち被告標章において自他識別力があるのは、「招福巻」の部分であって、「十二単の招福巻」の全体ではないというべきである。
(2) 被告標章と本件商標との類否
 そうすると、被告標章の要部である「招福巻」と本件商標である「招福巻」は、称呼及び観念が同一であるから、被告標章は本件商標に類似する。
4 争点(4)(原告の損害)について
(1) 損害不発生の抗弁について
 以上によれば、被告による被告標章の使用は本件商標権を侵害するものであるから、被告は原告に対し、これによって原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うところ、被告は、節分用の巻きずしの販売に当たりその包装に「十二単の招福巻」という商品名を付したことはその売上げに全く寄与していないことが明らかであるとして、原告にこれによる損害は発生していないと主張する。
 そこで検討するに、確かに、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、上記商品に「十二単の招福巻」という商品名を付する以前の時期である平成17年度において、被告は、被告商品と同一価格帯の予約販売品として「十二単の至福巻」という名称の商品(1本1280円)と「子宝巻」という名称の商品(1本980円)を販売しており、その売上げは、前者が204万1600円、後者が123万1860円であったこと、また、「十二単の招福巻」という商品名を別の商品名に変更した後の時期である平成20年度において、被告は、被告商品と同一価格帯の予約販売品として「13品目の開運恵方巻」という名称の商品(1本980円)を販売しており、その売上げは、337万9000円であったことが認められるところ、これによれば、被告が被告商品を販売していた平成18年度及び平成19年度の売上げ(後記(2)ア参照)は、被告商品とは異なる商品名の商品を販売していた平成17年度及び平成20年度における売上げと大差がないことが認められる。
 しかし、このような異なる年度の売上げの比較に基づき被告標章を使用することによる被告商品の売上げへの寄与がないというためには、被告標章の使用の有無以外の他の条件がすべて同じであることが前提となるところ、本件全証拠によっても、他の条件がすべて同じであるか否かは明らかではない。また、前記認定のとおり、近時全国の多数のスーパーマーケットやすし店等において、「招福巻」が節分用巻きずしの商品名として使用されるようになっていたことからすると、これらの業者は、「招福巻」の顧客吸引力を無視できないものと認識していたものというべきである。
 したがって、被告標章を使用して被告商品を販売することが被告の売上げに全く寄与していないことが明らかであるとは認められないから、被告の損害不発生の抗弁は理由がない。
(2) 損害額
ア 売上金額
 証拠(乙26〜29)及び弁論の全趣旨によれば、被告が被告商品を販売したのは、平成18年1月から2月にかけて及び平成19年1月から2月にかけてのみであり、被告は、この間、被告商品をスーパーマーケット「ジャスコ」において、通常価格を、平成18年度は1本980円(消費税込み)で、平成19年度は1本1380円(消費税込み)で販売したこと、その売上げは、平成18年度が3514本、327万2000円(消費税抜き)であり、平成19年度が2527本、272万4673円(消費税抜き)であること、以上の事実が認められる。
 上記売上数量及び売上金額は、いずれも被告の開示によるものであるところ、原告は、被告の開示売上数量は被告の企業規模に比して少なすぎる等信用できない旨主張する。しかし、証拠(乙26、28、32)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品の販売方法は、平成18年度はすべて予約販売であり、平成19年度も主として予約販売であったところ、被告が節分の日に販売するすし商品全体の売上げの圧倒的部分は店頭販売に係る売上げが占めており、予約販売に係る売上げはごくわずかであったことが認められる。そうすると、被告商品に関する被告の開示売上数量及び売上金額も首肯し得るところであり、企業規模との対比等から一概に実際の売上数量及び売上金額より少ないということはできない。他に、被告商品について上記認定額を超える売上げがあったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、平成18年度及び平成19年度における被告商品の売上金額(消費税込み)は、327万2000円×1.05+272万4673円×1.05=343万5600円+286万0907円=629万6507円(小数点以下四捨五入)となる。
イ 使用料相当額
 原告は、対価を得て本件商標の使用を他に許諾する意思のないことを明らかにしていること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件商標の使用料相当額は、売上金額(消費税込み)の5%相当額と認めるのが相当である。そうすると、商標法38条3項所定の使用料相当額は、629万6507円×0.05=31万4825円(小数点以下四捨五入)となる。
ウ 代理人費用
 原告代理人弁理士が被告代理人弁護士らと本件提訴前に交渉をしたが不調に終わったこと、被告が販売数量を開示しなかったこと、原告が弁護士・弁理士を訴訟代理人として本件訴訟を提起したことは、当事者間に争いがない。以上の事実に加え、本件訴訟の難易、本判決の結論等、本件に顕れた一切の事情を考慮し、被告による本件商標権侵害の不法行為と相当因果関係のある代理人費用としては、20万円をもって相当と認める。
エ 合計
 31万4825円+20万円=51万4825円
5 結論
 以上によれば、原告の本件請求は、被告標章をすしの包装に付し、又は被告標章を包装に付したすしを販売又は販売のために展示することなどの使用の差止め及び商標権侵害の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として51万4825円及びこれに対する平成19年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 西理香
 裁判官 北岡裕章
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