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【事件名】商標“NEC”侵害事件(2)
【年月日】平成20年9月30日
 知財高裁 平成20年(ネ)第10047号 商標使用権確認請求控訴事件(原審・東京地裁平成17年(ワ)第17078号)
 (口頭弁論終結日 平成20年7月15日)

判決
控訴人 華禮東方有限公司
訴訟代理人弁護士 鈴木勝利
同 丸山恵一郎
同 佐野知子
同 崔宗樹
同 増渕勇一郎
同 池田千絵
同 渡邉迅
同 沖山延史
被控訴人 日本電気株式会社
補助参加人 NECディスプレイソリューションズ株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 高取芳宏
同 神庭豊久
同 大羽裕子


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 主位的請求
 被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が中華人民共和国(以下「中国」という。)本土、香港及び台湾において「NEC」の商標(中国における登録番号第1533916号、香港における登録番号第200003111AA号〔ただし平成17年11月23日以前は第200103361号〕、台湾における登録番号第691680号〔ただし、正商標番号第00008530号〕。以下「本件商標」という。)を付したスピーカー、CDプレイヤー及びその関連製品並びにコンピューター周辺機器(これらの電気製品をまとめて、以下「本件商品」という。)を製造販売する権利を有することを確認する。
3 予備的請求
 被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が中国本土、香港及び台湾において本件商標及び「D’cube」の商標(香港における登録番号第2003B12399号、台湾における登録番号第01057410号、中国における受理番号ZC5574962SL。以下「「D’cube」の商標」という。)を併記したMP3プレイヤーを製造販売する権利を有することを確認する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、補助参加によって生じた費用を補助参加人の負担とし、その余の費用を被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が、被控訴人(1審被告。以下「被告」という。)に対し、@主位的に、原告が、中国本土、香港及び台湾において、本件商標を付した本件商品を製造販売する権利(以下「本件使用権」という。)を有することの確認を求め、A予備的に、原告が、中国本土、香港及び台湾において、本件商標と「D’cube」の商標とを併記したMP3プレイヤーを製造販売する権利を有することの確認を求めた事案である。
 原告は、原審において、次のとおり主張した。すなわち、
(1) 被告が本件使用権を第三者に許諾する権限(以下「本件許諾権限」という。)を補助参加人に与え、補助参加人が更に株式会社トーマジャパン(以下「トーマジャパン」という。)に本件許諾権限を与え、トーマジャパンが本件使用権を原告に許諾した(以下「本件許諾」という。)、
(2) 仮にそうでないとしても、
ア トーマジャパンは、民法110条の表見代理に基づき、本件許諾権限を取得し、したがって、トーマジャパンから本件許諾を受けた原告は、本件使用権を取得した、
イ トーマジャパンの原告に対する本件許諾が権利外観法理により有効となる、
ウ 被告は、原告が本件商標を付した本件商品を製造販売することを黙認し(少なくともMP3プレイヤーに本件商標と「D’cube」の商標とを併記して製造販売することを黙認し)、もって、直接原告に対して、本件使用権を許諾した、
 と主張した。原判決は、原告の上記主張をすべて排斥し、原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。
 原告は、これを不服として、本件控訴を提起した。
2 争いのない事実等及び争点(争点に関する当事者の主張を含む。)
 以下のとおり訂正付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び第2の2(以上、原判決3頁2行目から8頁8行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 なお、原判決の略語表示は、改めて定義したものを除き、当審においてもそのまま用いる。
(1) 原判決の訂正
ア 原判決3頁4行目から7行目を次のとおり改める。
 「ア 原告は、香港に本店を置き、中国本土、香港及び台湾において、本件商品の製造販売をしている法人である(なお、原告の名称(華禮東方有限公司)の英文表記は、JR ORIENTAL CO.、LTD.である。)(弁論の全趣旨)。」
イ 原判決3頁13行目から20行目を次のとおり改める。
 「ア 被告は、本件商標について、中国、香港及び台湾における商標権を有している。
イ 原告は、「D’cube」の商標について、中国、香港及び台湾における商標権を有すると主張している。」
ウ 原判決3頁22行目から24行目の「中国本土、香港及び台湾において本件商標を付した本件商品を製造販売する権利(通常使用権。以下「本件使用権」という。)を第三者に許諾する権限(以下「本件許諾権限」という。)」を「本件許諾権限」と改める。
エ 原判決3頁26行目の「本件使用権を原告に許諾した(以下「本件許諾」という。)」を「本件許諾をした」と改める。
オ 原判決4頁13行目の「通常使用権を許諾」を「使用を許諾」と改める。
カ 原判決4頁18行目の「本件商品」を「本件商標を付した本件商品」と改める。
キ 原判決4頁20行目の「本件商品」を「本件商標を付した本件商品」と改める。
ク 原判決5頁14行目の「本件商標を用いた本件商品」を「本件商標を付した本件商品」と改める。
ケ 原判決5頁24行目の「使用権を許諾」を「使用を許諾」と改める。
コ 原判決7頁1行目の「平成14年1月以降」の後の「原告が」を削り、同頁2行目の「「D’cube」商標」を「「D’cube」の商標」と改める。
サ 原判決7頁9行目の「製造する」を「製造販売する」と改める。
シ 原判決7頁14行目の「表示された「D’cube」」を「付された「D’cube」の表示」と改める。
ス 原判決7頁22行目から23行目の「本件商標の通常使用権(本件使用権)」を「本件使用権」と改める。
セ 原判決7頁24行目及び26行目の各「許諾を取り消す」を各「許諾を撤回する」と改める。
ソ 原判決8頁6行目の「許諾の取消し」を「許諾の撤回」と改める。
(2) 当審における原告の補足主張
ア 本件商標を付した本件商品の製造の主体について
 本件商品の流通経路は、契約書や注文書などの書類上は(甲30、32〜35、59、78の1〜78の4、乙2、6の1、6の2)、世鼎有限公司(法人としては登記されていない。英文表記は、TOP WORLD CO.、LTD.)(以下「トップワールド」という。)から補助参加人、補助参加人からトーマジャパン、トーマジャパンから原告となっている(以下、これらの流通経路を「書類上の流通経路」という。)。
 しかし、書類上の流通経路は実体を欠くものである。すなわち、親会社である被告から売上高増加を求められていた補助参加人は、本件商品の製造と販売について高いノウハウを有しているトーマジャパンに対し、書面上は売買の形式を採ることとして、実際は、本件許諾権限を付与したのであり、トーマジャパン及び原告は、本件商品の販売主体であったのみならず、開発及び製造の主体でもあった。以上のとおり、本件商標を付した本件商品に関する取引は、補助参加人が、OEM方式により、本件商品を香港、台湾又は韓国の企業に生産をさせ、生産された本件商品を購入した上で、トーマジャパンに販売させていたものではなく、トーマジャパン及び原告が、被告及び補助参加人から、製造、販売等の権限を付与されて(少なくとも黙認されて)、本件商品の開発、製造及び販売を実施していたものである。
(ア) 書類上の流通経路が実体を欠くこと
 以下の事実関係に照らし、書類上の流通経路は実体を欠くものである。
a 補助参加人は、香港、台湾又は韓国のいかなる企業とも、本件商品について、OEM方式による製造委託に関する契約を締結していない。また、トップワールドは、本件商品の製造業者ではない。
b 補助参加人は、トップワールドとも、OEM方式により実際に本件商品を製造させる業者(以下「OEM方式による製造業者」という。)とも、本件商標の使用に関する契約を締結していない。
c 補助参加人は、OEM方式による製造業者に対して、本件商品の製造を発注したことはなく、本件商品の納入を受けたこともない。すなわち、OEM方式による製造業者から補助参加人にあてた梱包明細書、荷送状、インボイス、補助参加人からOEM方式による製造業者にあてた商品受領証など、通常存在すべき本件商品の製造と納入を証明する書類は存在しない。
d 補助参加人は、トーマジャパン又は同社の指定する者に対し、本件商品を納入していない。すなわち、補助参加人は、トーマジャパンに対し、梱包明細書及び荷送状を発行していない。なお、トーマジャパン名義の補助参加人あて商品受領証(なお、補助参加人の所持する同受領証は、ファクシミリ送信されたコピーにすぎず、原本ではない。)の作成者は、トーマジャパンではない。
e 補助参加人は、OEM方式による製造業者又はトップワールドが補助参加人に納入したはずの本件商品の納入場所を具体的に把握しておらず、また、補助参加人がトーマジャパンに納入したはずの同商品の納入場所も具体的に把握していない。
(イ) 本件商品の製造の主体はトーマジャパン及び原告であること
 以下のとおり、トーマジャパン及び原告は、本件商品の販売のみならず、開発及び製造の主体でもあった。
a 東方電子有限公司(英文表記は、TONIC ELECTRONICS LTD.)(以下「トニック」という。)に対し、本件商標を付した本件商品(型番ZE−2001)を発注したのは、トーマジャパンである。このことは、トニックが上記商品の化粧箱の図案に関する問い合わせをしたファクシリミリのあて先が、トーマジャパンであって、補助参加人のFは写しの送付先の一つにすぎないこと(甲22)からも、裏付けられる。なお、証人Fは、上記の点について尋ねられても、合理的な説明をすることができなかった。
b 補助参加人のトーマジャパンに対する委任状(その写しが甲21の1である。)は、真正に成立したものである。すなわち、上記委任状は、トーマジャパンが本件商標を付した本件商品(型番ZE−2001)を輸出した際に、「NECの証明書」が信用状(L/C)の要求書類とされたことから、補助参加人が作成したものであって、上記委任状をトーマジャパンが偽造する理由はない。上記委任状の原本をトーマジャパンが所持していないのは、信用状(L/C)の要求書類として送付したからであり(甲50〜54、64)、英語で作成されているのも、信用状(L/C)の要求書類である以上、当然のことである。なお、上記委任状において、補助参加人の英文の社名表記が定款の記載と異なっていること(「Ltd.」の前に「、」がないこと)や電話番号の表記が日本において通常行われる表記とは異なっていること(市外局番の後の番号が「−」で区切られていないこと)ことは、いずれも書証の成立を否定する根拠とはならない。
c 本件商標と「D’cube」の商標を併記したMP3プレイヤーをOEM方式により韓国のCOWON SYSTEMS INC.(以下「COWON」という。)に製造させたのは、補助参加人ではなく、トーマジャパン及び原告である(なお、トーマジャパンが発注者となったのは、製造代金を保証する目的である。)(甲81〜83、67〜69)。トーマジャパンからCOWONへの発注については、同社の発行に係る請求書や梱包明細書、同社を出荷者とする荷送状が存在する(甲81〜83)にもかかわらず、トーマジャパンから注文を受けたはずの補助参加人や、補助参加人から注文を受けたはずのトップワールドにあてたCOWONの発行に係る請求書や梱包明細書、同社を出荷者とする荷送状は存在しない。トーマジャパンが補助参加人にあてた注文書(乙6の1)は架空のものである。
 また、補助参加人は、トーマジャパンの手配により補助参加人が製造業者より調達する製品について、トーマジャパンが製造物責任及びアフターサービスの一切の責任を負うことを認めているが(甲59、2)、同社がこのような責任を負うのは、本件商品の製造の主体(製造について責任を負う者)であるからにほかならない。
 なお、仮に補助参加人又はトップワールドがCOWONに発注して、本件商品を製造させ、これをトーマジャパンに販売していたとすれば、その時期は平成13年8月1日以降であるはずであるが(甲30、59、乙2)、それからわずか5か月後の同年12月に、OEM方式による製造業者のCOWONが、製造契約書(甲31)まで締結して、トーマジャパン及び原告から偽物の製造を受注し、これを製造していたということは、通常あり得ない。
d 以上のほか、補助参加人は、トーマジャパンに対し、@補助参加人からトップワールドへの送金予定日等を連絡したこと(甲61)、A「JR(判決注、原告を意味する。)他より今まで生産販売したモデルおよび今後販売予定の新モデル」のリストアップを求めたこと(甲66)、B製造業者との取引条件等を問い合わせたこと(甲27)は、いずれも補助参加人が製造の主体であるとすれば説明がつかない。
イ 表見代理、権利外観法理、黙認について
(ア) 表見代理による本件許諾の成立
 @補助参加人は、トーマジャパンから紹介された香港や台湾の製造業者に本件商標を付した本件商品のOEM方式による生産をさせ、それらの製造業者から納入された本件商品をトーマジャパン又は原告を通じて独占販売させていたものであって、本件商品を生産する工場を有していないこと、Aトーマジャパンが被告の商標の信用維持について全責務を負い、原告がトーマジャパンの上記責務を代行することは、補助参加人が承諾していたこと(甲1)、Bトーマジャパンの手配により補助参加人が製造業者より調達する製品について、トーマジャパンが製造物責任及びアフターサービスの一切の責任を負うことを、補助参加人が認めていること(甲59、2)、C原告は、中国本土、香港及び台湾において、本件商標と「D’cube」の商標を併記したMP3プレイヤーを製造販売するようになり、補助参加人は、これについてもトーマジャパンから紹介された香港、台湾、韓国の製造業者にOEM方式による生産をさせて購入し、トーマジャパンとの売買契約に基づいて同社に独占販売させていたことからすれば、補助参加人は、本件商標と「D’cube」の商標を併記したMP3プレイヤーを、第三者が製造することを許諾する権限を有していたことになり、これは基本代理権となり得るものというべきであり、また、補助参加人は、トーマジャパンに対し、本件許諾権限を授与したものというべきである。
 なお、証人Tは、補助参加人がトーマジャパンから本件商標の再使用許諾を要請された際にこれを拒否した旨述べたのではなく、書面に明示して出すことがあり得ない旨述べたにすぎない。
(イ) 権利外観法理による本件許諾の成立
 原審で主張したことに加え、@トーマジャパンの代表者であるTは、同人の要請により、平成13年10月、本件マニュアルが台湾NEC股?有限公司(以下「台湾NEC」という。)経由でトーマジャパンに提供された旨述べていること(甲64)、A被告は、従来から商標の管理を厳重に行っていたと主張しており、他社の商標にも敏感であったはずであるところ、「D’cube」の商標が本件商標と併記されたMP3プレイヤーの外箱や取扱説明書には、原告の名称・所在地が明示されている(甲45、46)から、被告は、「D’cube」の表示が原告の商標であることを認識していたか、少なくともこれを認識すべきであったこと、B乙40の1は、その作成者、作成年月日、入手ルートがいずれも不明であって、証明力がないというべきであり、また、トーマジャパンの代表者であるTは、原告代表者のKとは必要であれば連絡を取る程度の間柄にすぎず、盛業昌有限公司の役員にもなっていないと述べていること(証人T)に照らせば、原告が被告からトーマジャパンに対し本件許諾権限の授与がされているものと信じたことには、正当の理由があったというべきである。
(ウ) 被告の黙認による本件使用権の許諾の成立
 トーマジャパン又は原告が、本件商標を付した本件商品を製造していたことは、以下の経緯から明らかである。すなわち、@補助参加人がトーマジャパンに本件マニュアルを提供したこと、Aトーマジャパンが被告の商標の信用維持について全責務を負い、原告がトーマジャパンの上記責務を代行することを、補助参加人が承諾していたこと(甲1)、B補助参加人は、トーマジャパンの手配により製造業者から調達する製品について、トーマジャパンが製造物責任及びアフターサービスの一切の責任を負うことを認めていること(甲59、2)等の経緯に照らして、明らかである。そして、実際に製造販売された本件商品には、原告が商標権を有する「D’cube」の商標が併記され、その外箱や説明書には、原告の名称が記載されていた。さらに、被告が中国で設立したNEC有限会社知的財産センターの担当者は、消費者に対する電子メールにおいて、被告が原告の下請製造業者に対してMP3プレイヤーを製造する権利を与えた旨を表示している。
 上記事実を総合すれば、被告は、トーマジャパンや原告が本件商標を付した本件商品を製造販売することを、承認していたというべきである。
ウ まとめ
 以上のとおり、原告は本件使用権を授与されたものというべきであり、仮にそうでないとしても、表見代理、権利外観法理又は黙認による権限の授与が認められるというべきである。
(3) 当審における被告の反論
ア 本件商標を付した本件商品の製造の主体について
 原告は、補助参加人が、トーマジャパンに対し、書面上は売買の形式を採ることとして、実際は、本件許諾権限を付与したなどと主張する。
 しかし、以下のとおり、本件商品の製造と流通は明確に区別された別個の法律関係であり、原告の上記主張は失当である。
 補助参加人は、いわゆるOEM方式により、本件商品の製造を日本国外の企業に委託し、これにより製造された本件商品をすべて補助参加人に供給させていたものであり、この取引は売買であって、本件商標の使用許諾ではない(なお、補助参加人は、当初は、TONICに直接委託していたが、その後は、トップワールドを通じてCOWONを含む複数の企業に委託していた。)。そして、補助参加人は、トップワールドから供給された本件商品をトーマジャパンに販売していたのであり、トーマジャパンや原告は本件商品の製造の主体ではない。
 また、トーマジャパンは、補助参加人に対し、売買取引に基づく売掛金債務を負うことを自認し(乙37)、東京地方裁判所平成19年(ワ)第5572号事件(以下「別件訴訟」という。)では、同社が自己の名義で補助参加人あての商品受領証を発行したことを認めており(乙45)、同事件の判決でもそのように認定された(乙46)。
イ 表見代理、権利外観法理、黙認について
 原告主張の事実は、表見代理による本件許諾の成立、権利外観法理による本件許諾の成立、又は、被告の黙認による本件使用権の許諾の成立を根拠付けるものではない。
ウ まとめ
 以上のとおり、原告が本件使用権を有すると認めるべき事情は一切なく、原告の主張はいずれも失当である。
 なお、補助参加人とトーマジャパンとの間の売買取引が終了した平成15年7月31日以前に、「D’cube」の商標が、中国、香港及び台湾において、原告を商標権者として登録された事実はない(甲15〜17)。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、@被告が本件許諾権限を補助参加人に与えた事実や、補助参加人がトーマジャパンに本件許諾権限を与えた事実はなく、A表見代理、権利外観法理についての原告主張はいずれも失当であり、B原告が本件商標を付した本件商品を製造販売したり、MP3プレイヤーに本件商標と「D’cube」の商標とを併記して製造販売したりすることを被告が黙認した事実もないから、原告の本訴請求はこれを棄却すべきものと判断する。
 その理由は、以下のとおり訂正付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第3(原判決8頁10行目から18頁19行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正(当審における原告の補足主張に対する判断を含む。)
(1) 原判決9頁12行目から14行目の「証拠・・・及び弁論の全趣旨」を「証拠(甲1ないし3、10、11、22の1、30、33の1、34の1、35ないし37、59、62、67ないし69の各1、78の1ないし4、81ないし83の各1、乙2、6の1及び2、12、14ないし18、37、46、証人F)及び弁論の全趣旨」と改める。
(2) 原判決10頁21行目の「「D’cube」商標」、「製造販売」をそれぞれ「「D’cube」の商標」、「販売」と改める。
(3) 原判決11頁12行目の「差し入れていること」の後に「、補助参加人がトーマジャパンに対し上記買掛金債務の支払いを求めた別件訴訟において、平成20年3月28日、トーマジャパンに対し、537万9751米ドル23セント及び遅延損害金(年18.25パーセントの割合)の支払いを命じる補助参加人全面勝訴の判決が言い渡されていること(乙46)」を加える。
(4) 原判決12頁10行目の「したものとは認め難い」の後に「(なお、原告も、「甲12については、その成立を立証できないので、これを援用しない。」( 平成2 0 年5 月2 8 日付け控訴理由書8 頁) と述べている。)」を加える。
(5) 原判決12頁11行目から25行目を次のとおり改める。
 「ウ 原告は、補助参加人からトーマジャパンに対する本件許諾権限の授与があったことの証拠として、補助参加人のトーマジャパンに対する委任状の写し(甲21の1)を援用する。
 しかし、上記委任状の写しについて、被告はその成立を争っているところ、上記委任状を実際に受け取ったとするトーマジャパンの代表者Tでさえ、上記委任状の署名が誰のものであるか分からないとしており(甲64、証人T)、署名者はもとより、その肩書きすら不明であること、上記委任状には作成日付けの記載がない上、補助参加人の英文の社名表記が定款の記載と異なっていたり(乙18)、補助参加人の事務所の電話番号の表記が日本において通常行われる表記とは異なっているなど、不自然な点があることからすれば、上記委任状は真正に成立したものとは認め難いというべきであり、その他、本件記録を精査しても、上記委任状が真正に成立したことを認めるに足りる証拠を見出すことはできない。
 原告は、上記委任状は、トーマジャパンが本件商標を付した本件商品を輸出した際に、信用状(L/C)の要求書類とされたと主張する。しかし、仮にそのような事実があったとしても、そのことから直ちに上記委任状が補助参加人の代表者又は代理人の意思に基づいて作出されたものと認めることは困難であり、上記認定を左右するものとはいえない。」
(6) 原判決13頁9行目から19行目を次のとおり改める。
 「オ なお、証拠(甲67ないし69の各1、81ないし83の各1)によれば、トーマジャパン又は原告が、補助参加人が本件商品のOEM方式による生産を委託した香港、台湾の製造業者に対し、補助参加人を経由することなく、直接本件商品を発注しその納入を受けて販売していたことがうかがわれないではない。
 しかし、アで認定した事実に照らせば、仮にそのような取引があったとしても、それは、トーマジャパン又は原告が、補助参加人との合意に反し、本件商標を冒用して上記製造業者に本件商標を付した本件商品の製造を直接発注しその納入を受けて、これを販売することにより、不法に利益を上げようとしたものというべきであって、補助参加人がトーマジャパン又は原告に対して本件許諾又は本件許諾権限の授与をしていたとは到底認められない。
 この点について、原告は、補助参加人を経由する取引は実体を欠く架空のものであり、書面による形式の上では、補助参加人がトーマジャパンに対する売買としているが、実質的には、本件許諾権限を付与したものであって、トーマジャパン及び原告は、本件商品の販売のみならず、開発及び製造の主体でもあったと主張する。
 しかし、原告の主張は採用できない。すなわち、@前記アで認定した事実に照らし、トーマジャパンは、補助参加人との売買基本契約に基づく買掛金債務を負っていること、A補助参加人は、本件商品の発注先であるトップワールドに対し、実際にその代金を送金していたと認められること(甲61、66、弁論の全趣旨)、B上記製造業者が製造した本件商品が、日本に陸揚げされることなく、トーマジャパンあるいは原告の指定に係る納入場所に、直接送られた事実がうかがわれるものの、一般に製造業者が商品を発注者に納入し、発注者がその商品を販売業者に納入するという形態の取引において、運送費用を節約するなどの観点から、当該商品を製造業者から販売業者に直接送付するのは、ごく通常の取引形態であって、何ら不合理な点はないこと等の事実に照らすならば、補助参加人は、トップワールドから供給された本件商品をトーマジャパンに販売していたというべきであり、このような補助参加人を経由する取引が実体を欠く架空のものということはできない。
 なお、原告は、甲59及び甲2において、トーマジャパンが製造物責任及びアフターサービスの一切の責任を負うとされていることを指摘するが、@そもそも、製造物責任やアフターサービスに係るコストをどのように分担するかは、代金その他の条件との関係で、当事者間の合意により自由に定められるべき事項であること、A中国本土、香港、台湾における市場の実情は、補助参加人よりも、トーマジャパンの方が詳しいという事情があったこと、Bトーマジャパンが取引の継続を希望していたのに対して、補助参加人はトーマジャパンとの取引を順次縮小させて、最終的に中止する方針を持っていたこと等の事実経緯を総合すれば、トーマジャパンが製造物責任及びアフターサービスについて責任を負うとされていることをもって、直ちに同社が本件商品の製造主体(製造に関して、自己の計算で、責任及び危険を負担する者)であると認定することはできない。
 原告は、その他、補助参加人を経由する取引は実体を欠く架空のものであるとして、縷々主張するが、いずれも前記認定を覆すほどのものとは認められない。」
(7) 原判決14頁10行目の「電子メール(甲66)に」の後に「、原告が生産販売したモデル及び販売予定のモデルのリストアップを求めるなど、」を加える。
(8) 原判決14頁16行目から17行目の「を指して、両名が本件商品を製造販売してきたものと表現したに止まり、」を「を念頭に、「JR(判決注、「原告」を意味する。)他より今まで生産販売したモデルおよび今後販売予定の新モデルをリストアップし」などという表現がされたに止まり、」と改める。
(9) 原判決15頁7行目から16行目を次のとおり改める。
 「ケ 原告は、@補助参加人の当初の発注先とされるトニックが、本件商標を付した本件商品(型番ZE−2001)の化粧箱の図案に関する問い合わせをしたファクシリミリ(甲22)のあて先がトーマジャパンであったこと、A補助参加人が、トーマジャパンに対し、補助参加人からその発注先とされるトップワールドへの送金予定日等を連絡する電子メール(甲61)を送信したこと、B補助参加人がトーマジャパンにあてたファクシミリ文書(甲27)でトーマジャパンにOEM方式による本件商品の生産の委託先である製造業者に関する詳細情報の提供を求めていることからすれば、製造業者に本件商品の製造を請け負わせていたのは、原告であって補助参加人ではないことが明らかであるとも主張する。
 しかし、以下のとおり、原告の上記主張はいずれも失当である。
 前記認定のとおり、補助参加人は、本件商品のOEM方式による生産の委託先である製造業者をトーマジャパン又は原告から紹介されたのであり、そうだとすると、@トーマジャパンによって補助参加人に紹介されたトニックにとって、補助参加人に直接問い合わせるよりも、トーマジャパンを介して問い合わせる方が便宜であったとしても、何ら不自然ではなく(なお、トニックは、補助参加人を無視したものではなく、同社のFを写し送付先としている。)、Aトップワールドを補助参加人に紹介したトーマジャパンが、補助参加人からトップワールドへの送金がいつ行われるかについて、関心を持ち、また、補助参加人がトップワールドへの送金前に、経理処理に必要な請求書や商品の存在を示す商品受領証が届くよう求めることも、何ら不自然ではなく、B補助参加人にとって、製造業者に直接問い合わせるよりも、紹介者であるトーマジャパンを介して問い合わせる方が便宜であったとしても、何ら不自然ではない。
 原告は、その他、本件商品の製造主体が、補助参加人ではなく、トーマジャパン又は原告であるとして、縷々主張するが、いずれも前記認定を覆すほどのものとは認められない。」
(10) 原判決16頁9行目の「できない。」の後に行を改めて次のとおり加える。
 「原告は、補助参加人が本件商標と「D’cube」の商標を併記したMP3プレイヤーを第三者が製造することを許諾する権限を有しており、これは基本代理権となり得るとも主張する。
 しかし、前記説示のとおり、補助参加人は、第三者に対して本件商標の再使用許諾をすることを明確に禁止されていたものであって、トーマジャパンから紹介された香港や台湾の製造業者に本件商標を付した本件商品のOEM方式による生産をさせ、それらの製造業者から納入された本件商品をトーマジャパン又は原告を通じて独占販売させていたにとどまるのであるから、かかる本件商品に「D’cube」の商標が併記されていたことがあるとしても、これをもって、補助参加人が本件商標と「D’cube」の商標を併記したMP3プレイヤーを第三者が製造することを許諾する権限を有していたということはできない。」
(11) 原判決16頁10行目の「証拠(」の後に「乙34、証人F、」を加える。
(12) 原判決16頁19行目の「「D’cube」商標」を「「D’cube」の商標」と改める。
(13) 原判決17頁2行目の「不明であり」の後に「(なお、T作成の陳述書(甲64)には、平成13年10月、本件マニュアルが台湾NEC経由でトーマジャパンに提供された旨の記載があるが、同陳述書の内容に照らし、にわかに信用することができない。)」を加える。
(14) 原判決17頁3行目の「トーマジャパン」を「原告」と改める。
(15) 原判決17頁10行目の「うかがわれること」の後に「(なお、原告は、証人Tの証言にはかかる事実を否定する部分がある、乙40は証明力に欠けるなどと主張するが、KとTが台湾において同じ会社の役員であることは、乙38及び39からも明らかであり、証人Tの上記証言部分は信用することができないから、上記認定を左右するものではない。)」を加える。
(16) 原判決17頁23行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「なお、本件商品をトーマジャパン又は原告が製造していたとする原告の主張が失当であることは、既に説示したとおりである。」
(17) 原判決18頁2行目の「不明であり」の後に「(前記のとおり、T作成の陳述書(甲64)における本件マニュアルが台湾NEC経由でトーマジャパンに提供された旨の記載は、これを信用することができない。)」を加える。
2 結論
 以上のとおり、補助参加人は、本件商標を付した本件商品について、OEM方式により、香港、台湾又は韓国で生産させ、当該商品を製造業者から買い取るに際して、現地の情報に詳しいトーマジャパン又は原告から必要な情報の提供を受けたり、独占販売させる権利を付与したにすぎないのであって、そのような関係を超えて、補助参加人が、トーマジャパン又は原告に対して、本件商標を付した(又は、本件商標と「D’cube」の商標とを併記した)本件商品について、その開発・製造・販売をする権利を授与したり、黙認したりしたことはない。また、原告の主張に係る表見代理、権利外観法理、黙認による権限授与を基礎づける事実も認められない。その他、原告は、縷々主張するが、いずれも上記認定判断を左右するに足りる事実はない。
 付言するに、原告は、本件使用権の許諾を受けたと主張しているにもかかわらず、その対価その他の具体的な条件について、何ら主張立証していないなど、そもそも、本訴は、健全な取引常識に照らしておよそ成り立つ余地のない請求というべきである。
 以上によれば、原告の請求は理由がないというべきであって、これと同旨の原判決は相当である。よって、原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 齊木教朗
 裁判官 嶋末和秀
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