判例全文 line
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【事件名】レストランのピアノ演奏事件B(2)
【年月日】平成20年9月17日
 大阪高裁 平成19年(ネ)第2557号 損害賠償請求控訴事件(原審・和歌山地裁平成17年(ワ)第330号)
 (当審口頭弁論終結日 平成20年4月23日)

判決
控訴人(1審原告) A
同訴訟代理人弁護士 豊田泰史
被控訴人(1審被告) 社団法人日本音楽著作権協会
同代表者理事 B
同 C
同 株式会社リサーチネット
同 代表者代表取締役D
上記3名訴訟代理人弁護士 田中豊
同 北本修二
同 七堂眞紀


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して550万円及びこれに対する平成17年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人社団法人日本音楽著作権協会及び同Cは、控訴人に対し、連帯して1100万円及びこれに対する平成17年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、@被控訴人らは共謀して、著作権侵害行為の調査と称して、控訴人が経営するレストランに調査員を侵入させ、かつ、従業員を欺罔して、実際には無料で開催された演奏会が有料であったかのような領収証1枚を詐取したと主張して、不法行為(民法709条、710条及び719条)に基づき、連帯して550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)の損害賠償を求め、A 被控訴人C(以下「被控訴人C」という。)は、控訴人の顧客が上記レストランにおいてライブを開催しようとしたのに対し、裁判所の決定により上記レストランで被控訴人日本音楽著作権協会(以下「被控訴人協会」という。)が管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の演奏等ができない旨虚偽の説明をして、管理著作物の利用許可を求める申込みをすべて拒否して、控訴人の信用を失墜させ、営業を妨害したと主張して、不法行為(民法709条及び710条)に基づき、被控訴人協会に対しては使用者責任(民法715条)に基づき、連帯して1100万円(慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円)の損害賠償を求めた事案である。なお、附帯請求は、@Aのいずれについても、訴状が各被控訴人に送達された日の翌日である平成17年8月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。
 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人がこれを不服として控訴した。
1 前提事実(争いのない事実並びに甲7、甲45、乙5、6、9、21、25、29、30、32、原審証人E、同F、原審控訴人本人、同被控訴人C本人及び弁論の全趣旨によって認められる事実)
(1) 当事者等
ア 控訴人は、平成13年5月30日、控訴人肩書住所地においてランチ、カフェ、ディナー及びバーの営業を目的とするH(以下「本件店舗」という。)を開店し、現在まで経営している。控訴人は、開店時は航空自衛隊に勤務していたため、本件店舗の日常的な営業をマネージャーに委ね、平成17年9月に航空自衛隊を定年退官後、直接本件店舗の営業に携わるようになった。
 本件店舗内にはステージが設置され、ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、ギター、ベース等の楽器の演奏、歌唱に用いるマイク、アンプ、ミキサー等の音響装置が備え付けられている。
 平成16年時点の本件店舗のホームページには「ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味わう贅沢な空間です。」などと記載されていたが、控訴人は、後記仮処分申立て以後、この記載を削除し、「わが国の音楽文化の発展を阻害しているJASRACと戦っているお店です。」「当面JASRACの管理楽曲は演奏しないという抵抗運動を展開しています。」等と掲載している。
イ 被控訴人協会は、著作権等管理事業法に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者であり、著作権者と管理委託契約を締結して、音楽著作物の著作権の管理事業を行っている。
ウ 被控訴人Cは、平成15年4月から同18年3月まで、被控訴人協会の大阪支部長として、大阪府及び和歌山県の社交場や演奏会で利用される管理著作物の利用許諾契約の締結やその使用料徴収業務等の責任者であった。
エ 被控訴人株式会社リサーチネット(以下「被控訴人リサーチネット」という。)は、企業経営情報の調査等を目的とする会社であり、平成17年5月中旬ごろ、被控訴人協会大阪支部から、同月31日に本件店舗で開催される予定であったジャズ歌手Gのライブにおける管理著作物の使用状況について実態調査を依頼された。なお、実態調査とは、調査員が客として入店し、演奏されている楽曲をMD等の録音物等に収録する等の方法により、営業実態を把握することをいう。
(2) 控訴人と被控訴人協会との交渉経緯等
ア 控訴人は、本件店舗の開店以来、被控訴人協会と音楽著作権の利用許諾契約をしたことはなく、自らその申請をしたこともない。
 被控訴人協会は、遅くとも平成16年5月14日以降、控訴人に、過去の著作権侵害に対する損害金の支払と利用許諾契約の締結を求めたが、控訴人はこれに応じていない。
イ 被控訴人協会は、平成16年10月14日、本件店舗における管理著作物の演奏禁止並びに楽器類及び音響装置の執行官保管を求める仮処分を大阪地方裁判所に申し立て(平成16年(ヨ)第20036号)、同裁判所は、平成17年4月6日、以下のとおり仮処分を発した(以下「本件仮処分決定」という。)。
「1 債務者は、和歌山市「H」において、別添「楽曲リスト」(平成4年8月1日発行及び「楽曲リスト(平成16年10月14日発行)記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。
(1) ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、ギター、ベース等による楽器演奏
(2) 歌唱
2 債務者の別紙物件目録2記載の物件に対する占有を解いて、執行官にその保管を命ずる。
 執行官は、別紙物件目録2記載の物件を債務者が使用できないような適当な措置を講じるとともに、上記物件がその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。
3 債権者のその余の申立てを却下する。
4 申立費用は債権者の負担とする。」
ウ 控訴人は、平成17年4月15日、本件仮処分決定に対する保全異議を大阪地方裁判所に申し立て(平成17年(モ)第59015号)、同裁判所は、平成17年4月25日、本件仮処分決定の一部を変更して、特定の日時におけるピアノ等の使用を許すこととし、それ以外は本件仮処分決定を維持する仮処分変更決定をした。
エ 控訴人は、平成17年4月28日、ウの仮処分変更決定に対し保全抗告を申し立てた(大阪高等裁判所平成17年(ラ)第559号)。同裁判所は、同年9月1日、控訴人は本案訴訟によって紛争が解決するまで本件店舗において被控訴人協会の利用許諾なしに管理著作物の演奏を営利目的でしない意思を有していると認められるから、保全の必要性の疎明がないとして、本件仮処分決定を取り消し、被控訴人協会の上記仮処分命令申立てを却下した。
オ 被控訴人協会は、控訴人に対し、大阪地方裁判所平成17年(ワ)第10324号著作権侵害差止等請求事件を提起し、平成19年1月30日、被控訴人協会一部勝訴(本件店舗における営業目的の管理著作物の演奏禁止、ピアノの撤去、楽器類の持ち込み禁止及び損害賠償等)の判決が言い渡された。控訴人は、同年2月14日、同判決により支払を命じられ、仮執行宣言が付された損害賠償金相当額を被控訴人協会に支払った。
(3) 本件調査
 被控訴人リサーチネットの業務委託調査員I(以下「I」という。)は、同社から上記Gライブにおける管理著作物使用状況を調査するよう指示され、知人のF(以下「F」という。)に調査を依頼した。Fは、平成17年5月31日午後7時ごろ、知人のJ某と2人で本件店舗に入店し(以下「本件入店」という。)同10時ごろまで、本件店舗で開催されたジャズ歌手Gの出演する会(以下、便宜「囲む会」というが、これが当初予定されていた有料のライブコンサートであったかは争いがある。)で管理著作物が演奏されているか等を調査した(以下「本件調査」という。)。Fは、Iの指示により、同年6月2日に本件店舗を訪れ、本件店舗の従業員K(以下「K」という。)に囲む会の料金2人分として4000円を支払い、「但貸切ライブパーティー入場料」と付記された領収書の交付を受けた。
(4) 被控訴人協会の利用許諾方針
 被控訴人協会は、過去の管理著作物を許諾なしに利用した者から利用許諾の申込みがあった場合に、過去の著作権侵害行為に係る使用料相当額を放置したまま利用許諾することは、管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くとして、昭和22年ごろから、過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当額の清算を利用許諾の条件としている。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件入店は控訴人の承諾を欠き、違法か
【控訴人の主張】
 囲む会は、一般客の入店を断り、控訴人の知人や友人だけでプライベートに開催したものであったが、被控訴人リサーチネットは、被控訴人Cから実態調査を依頼されて、当日午後6時から同10時30分ごろまでの間、控訴人の承諾なく、調査員であるFを違法に本件店舗に侵入させた。仮にFに明確な故意がなかったとしても、過失は認められる。
 なお、この会は入場無料のプライベートな会であって「公の演奏」(著作権法22条)に当たらず、同法38条1項の要件を具備するから、これに対する調査は正当な業務行為とはいえない。
【被控訴人らの主張】
 Fは、囲む会に来ていた知人L(以下「L」という。)の紹介による控訴人の事前の承諾又は追認を得て、本件店舗に入店した。Iは、Fへの事前のメールで、「入店できないなら、店の入り口のほうに掲示された張り紙の文面を読み上げてください」と、入店できない可能性があり、その場合は無理に入店しなくてよい旨指示していた。
 また、本件入店は、著作権侵害という犯罪行為(著作権法119条)が敢行されようとしている現場における、著作権侵害行為の実態調査が目的であるから、正当業務行為であり、不法行為に当たらない。
 なお、著作権法38条1項の「営利を目的とせず」とは、間接的にも営利に結びつかない場合を意味し、デパートや喫茶店でBGMとして音楽を流す場合のように営業政策の一環として著作物が使用される場合には、観客や聴衆から入場料金を徴収しなくとも営利目的は認められるから、上記ライブ(囲む会)も営利目的であり、利用許諾が必要である。
(2) 被控訴人らは、Fをして、無料であった囲む会が有料であるかのような領収証を本件店舗従業員から詐取させたか
【控訴人の主張】
 被控訴人らは、囲む会では料金を徴収していなかったにもかかわらず、これが有料のライブであったかのような証拠を捏造するため、共謀の上、6月2日、被控訴人リサーチネットの調査員であるFをして、事情を知らないKに対し、「5月31日にお金を払っていなかったので支払に来ました。」等と言わしめて、Kを欺き、ライブ料金を支払ったかのような領収証1枚の交付を要求し、これを詐取した。
 IがGの所属事務所である株式会社ゼロクリエイト(以下「ゼロクリエイト」という。)に電話して完全予約制の有料ライブと言われたのであれば、当然予約するはずであるし、入店を断られる可能性が高いから、Fが事情を知らない友人のJ某を誘うことは考えられない。
【被控訴人らの主張】
 囲む会は有料(1人2000円)であった。Fは控訴人から請求された代金を支払って領収証を受領した。Fは、本件店舗で入場料を徴収しているところを見ていないだけであり、入場料がいらないと認識したわけではない。
 Iは、事前にゼロクリエイトに電話をかけ、予約者のみの会で、料金が2000円であると聞いていた。このとき、Iは電話予約をしなかったが、これは、控訴人に顔を知られていたため、当日は他の者に入店を依頼する予定であり、電話で氏名や住所等を知らせると不都合があり得ると考えたのであって、不自然ではない。
(3) ライブ開催希望者に対する虚偽説明及び違法な利用許諾拒否
【控訴人の主張】
 被控訴人Cは、控訴人の顧客が本件店舗で下記@ないしCのライブを開催するために被控訴人協会大阪支部に管理著作物の利用許諾を求めたのに対し、「裁判所の決定により、本件店舗においては被控訴人協会の管理楽曲は一切演奏できないことになっている。」等と虚偽の説明をし、正当な理由(著作権等管理事業法16条)がないのに利用許諾を拒否し、本件店舗におけるライブ開催をすべて断念させて、控訴人の営業を妨害するとともにその信用を毀損した。また、下記D、E及びGのライブも、被控訴人協会の正当理由なき利用許諾拒絶により内輪の会への変更ないし中止に至り、Fは曲目の変更等を余儀なくされた。
 第三者が本件店舗を借り切ってライブ等を開く場合、著作物等の利用主体は控訴人ではないから、控訴人に関する事情は正当理由に当たらず、許諾の拒絶は憲法21条に違反する。被控訴人協会は、サントリーホールのようなコンサートホールは、演奏会を主催しない限り利用主体に当たらないとしているのであって、上記の対応はこれと矛盾する。
@ 平成17年5月7日開催予定のライブ(申込者M、申込日4月上旬ごろ)
A 同年5月31日開催予定のライブ(申込者ゼロクリエイト、申込日5月10日ごろ)
B 同年7月29日開催予定のライブ(申込者Hot KumaN(ホットクマ)、申込日7月1日ごろ)
C 同年8月19日開催予定のライブ(申込者O、申込日7月1日ごろ)
D 平成18年6月7日開催予定のSARAH HOMETOWN LIVE
E 平成19年7月6日開催予定のMAYAライブ
F 同年10月14日予定のこどものためのJAZZ LIVE
G Pライブ、Rライブ、Qライブ
【被控訴人らの主張】
 被控訴人協会は、従来から、過去の著作権侵害行為に係る使用料金相当損害金を清算しない限り、将来の管理著作物の利用を許諾しないという方針をとっており、本件店舗でライブを開く予定の第三者から利用許諾があっても、その旨を説明し、本件店舗の営業活動の一環として開かれる場合は第三者に対しても利用許諾できないという対応をしている。コンサートホールが第三者に会場を貸与する場合は、音楽著作物の利用主体に当たらないが、本件店舗でのライブは、第三者主催であっても、単に会場を貸与するのではなく、本件店舗の飲食店営業の中でされているから、控訴人は共同利用主体に当たる。
 控訴人の主張中@ないしC、Fの各ライブについて、被控訴人協会に対して管理著作物の演奏利用申込みがされた事実はなく、GのうちP及びQのライブについては問い合わせすらなかった。また、A、B及びDの各ライブは現に本件店舗で開催されたが、このうちAは管理著作物の演奏がなく、Fは控訴人が利用主体と認められなかった。
(4) 損害額
【控訴人の主張】
ア 違法入店及び領収書詐取に起因する損害(550万円)
(ア) 慰謝料500万円(違法入店について490万円、領収書詐取について10万円)
 控訴人は、上記不法行為により、多大な精神的苦痛を被った。
(イ) 弁護士費用50万円
イ 虚偽説明及び違法な許諾拒否に起因する損害(1100万円)
(ア) 慰謝料1000万円
 控訴人は、上記不法行為により、信用を失墜し、多大な営業損害を被った。
(イ) 弁護士費用100万円
【被控訴人らの主張】
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 囲む会について(争点1、2)
(1) 前提事実に加え、甲1ないし5、17、23、29の1・2、39、乙7、10ないし15、17、21、23、27、28、32、34、35の1・2・5・8、42、原審証人E、同I、同F、原審控訴人、被控訴人C各本人及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア ゼロクリエイトに所属するGは、全国ツアーの一環として、平成17年5月31日に本件店舗において、「Gライブ」を開催する予定であった。Gは、雑誌「スイングジャーナル」(平成13年5月号)で人気投票の第4位となったプロのジャズシンガーであり、共演するブルースエンジェルスはプロのミュージックユニット(アコースティックギター2本、ベース、ドラム)である。
イ ゼロクリエイトのSは、5月2日、被控訴人協会に対し、本件店舗で平成17年5月31日にGライブを開催するので、管理著作物の利用許諾の手続をしたい旨申し入れたが、同協会は、控訴人が過去の管理著作物利用料の清算をしない限り、上記ライブを含めて、本件店舗において管理著作物を利用することはできない旨回答した。
ウ 被控訴人協会の上記回答を受けて、控訴人とゼロクリエイトは、控訴人の知人や親戚等の参加を求め、「Gを囲む会」という名称の会を、予定の日時に本件店舗で開催することにした。
 ただし、この変更が一般に告知・広告されたことはなく、かえって、平成17年5月20日発売の月刊音楽情報誌「スイングジャーナル」(平成17年6月号。乙10)にはGのライブスケジュールとして「5月31日=和歌山デサフィナード」と掲載され、また、同月30日時点のゼロクリエイトのホームページには、同月24日現在のGのライブスケジュールとして「5月31日和歌山『デサフィナード』ブルースエンジェルスツアー」と掲示されていた(乙7)。
 控訴人の高校の後輩で、本件店舗の経理を手伝っていたE(以下「E」という。)は、控訴人から音楽愛好家を連れてきていいと、囲む会の集客を依頼され、同級生や近所の人を誘った。
エ 被控訴人協会大阪支部長であった被控訴人Cは、ウ記載の「スイングジャーナル」誌のライブスケジュールを見て、控訴人による著作権侵害事実の有無を把握するため、被控訴人リサーチネットに、同スケジュール記載のライブにおける音楽著作物の使用の実態調査を依頼した。
 被控訴人リサーチネット大阪支店長Tは、5月26日、同社業務委託調査員のIに、上記ライブの実態調査を依頼した。Iは、ゼロクリエイトに上記ライブについて問い合わせの電話をしたところ、今回は特別な事情により、席を予約した客だけが入場できる完全予約制であり、料金は一人2000円である旨告げられ、予約を勧められた。しかし、Iは、予約すると氏名、住所、電話番号等を告げることになって不都合であると考え、予約がないため入店できなかったらやむを得ないとの判断のもと、予約をしなかった(控訴人は、Iがゼロクリエイトに電話をかけながら予約しなかったのは不自然である旨主張するが、原審証人Iのこの点に関する供述は具体的で不自然なところはない。電話の有無及び内容に関し、控訴人の具体的な反証はない。)。
オ Iは、何度か本件店舗を訪れていたことから、本件調査を、知人であり、これまでに3回の調査に同行してもらったFに依頼した。Fは友人のJを誘って囲む会に行くこととした。
 Iは、Fに、囲む会の料金が一人2000円であること、被控訴人協会が控訴人と係争中であることを伝えていた(甲29の1(Fの陳述書)には、本件調査の依頼に際し、Iから「あまり難しく考えず、MDレコーダーを持って店に入ってきてくれるだけで良いから。」と言われただけで、控訴人と被控訴人協会が数年前から既に争っており、複雑な状況であることは知らされていなかった旨の記載がある。しかし、Fは上記認定のとおりそれまでにIの調査に3回同行しており、F自身Jに「ちゃんと法律に則って著作権に触れてないかっていうそういうチェックをしている仕事」と説明しているから(乙17)、Fは、本件調査が控訴人ないし本件店舗の承諾なしにするもので、その意に反する可能性が高いこと、控訴人と被控訴人協会との間に何らかの対立関係があることは十分理解していたと解される上、IがFに本件調査依頼をしたメール(乙35の1)に、本件店舗には裁判所から演奏禁止の仮処分決定が出ていることが記載されているから、前記Fの陳述部分は採用することができない。)。
カ 囲む会は、平成17年5月31日午後7時30分ごろから午後10時ころまで、本件店舗で開催され、午後7時30分ごろから第1ステージが、途中休憩を挟んで、同9時ごろ第2ステージが行われ、合計19曲が演奏されたが、そのうち不明1曲を除き、他の18曲はすべて被控訴人協会の管理著作物であった。
 この会には約60名が参加し、控訴人の知人や親戚が多かったが、Eが勧誘した29人はいずれも控訴人と面識がなかった。
 本件店舗には軽食やソフトドリンクが無料で用意されていたが、アルコール飲料は有料であった。
キ Fは、囲む会が始まる前にIと落ち合い、その後本件店舗に赴いたところ、控訴人の依頼によって客を迎えるために入口にいたEから、当日の催しは予約した者のみ入場できる旨告げられた。そのとき、本件店舗にはFと顔見知りのLが来ていたので、Fは、Lに、フリーの客は入れないと言われたと言うと、同人は、いったん店内に入った後、「OK」と言った。
 Fはいったん店から離れ、Iに、入店できる旨説明し、Iから入場料として1万円とMDプレーヤを受け取り、Jとともに改めて本件店舗に赴いた。そして、Eも入店を承諾したので、FとJは本件店舗に入店した。その時点で本件店舗はほぼ満員の状況であったが、控訴人が自らFらのために椅子を用意した。
 Fは、第1ステージの演奏終了後、携帯電話でIに連絡を取り、知人がオーナーの承諾を取ってくれたので入場できた旨報告した。
ク 控訴人は、囲む会の冒頭、聴衆に挨拶し、被控訴人協会と係争中であること、当初予定していたGライブは、ゼロクリエイトが被控訴人協会から利用許諾を得られなかったため、急遽、控訴人主催の内輪の会として開催することになった経緯などを説明するとともに、当日が本件店舗の開店4周年記念日である旨述べた。控訴人は、また、第1ステージと第2ステージの幕間に、Fらに「ここで結婚式だとか、パーティーやっても機材全部無料無償で貸してるんです。」「だからもうみんな音楽楽しんで、いろんなことイベントができやすいように、だからここ貸切りパーティーやった時には無償で全部貸しているんです。」などと説明して本件店舗内を案内し、GのマネージャーのSを紹介した。さらに、控訴人は、囲む会の閉会の挨拶として,聴衆に対し、「業務連絡というか、コマーシャルなんですけど、あの7月2日、3日とですね、ガイアシンフォニーをやる予定です。」「たくさんの人が、素晴らしい映画ですので実地上映ということでここを使って7月に『ガイアシンフォニー1』をやりまして、8月に『2』をやり、9月に『3・4・5』と続けて毎月やっていきたいと思います。」「どうぞ良かったら来てください。」と述べ、Fらが退店する際「どうもありがとうございました。」「また来てください。」と言って送り出した。
 また、Gは、第2ステージの最後の曲の前に、聴衆に対し、アンケートへの参加を求めるとともに、今後のライブの案内を通知するため、アンケートには住所を記入して欲しいと述べた。また、Gファンクラブの入会申込書も配布されたほか、Gのサイン付きCDも販売された。
ケ Iは、囲む会が終わるまで本件店舗の近くで待機し、終了後、別のレストランで、1時間程度、Fから様子を聴取した。その際、Fは、誰も2000円を払っている様子もなかったので払わずに来たと言ったので、Iは、後で無銭飲食と言われるとまずいので今から払ってきてもらえないかと言い、Fがその場から本件店舗に電話したところ、応対に出た男性(会話の内容から本件店舗の従業員と認められる。)から、もう片付けが終わっており、翌日は定休日なので、翌々日に来て支払ってほしい旨告げられた。
コ Fは、6月2日午後7時過ぎ、本件店舗前でIと落ち合った後、本件店舗を訪れ、応対したKに、「2日前の分のお金払えてなかったんで、電話してきた者です。」「払ってなかったんで払いに来ました。」と伝え、4000円を差し出した。Kはこれを受領し、Fに「領収証はご入り用ですか。」と尋ねたので、Fはこれを受け取った(乙14。以下「本件領収証」という。)。その際、Fは、摘要欄に「ライブパーティー入場料」と記載するよう求め、Kはそのとおり記載したが、当日は貸切りであったことを思い出して「貸切」と付記した。また、Kは日付を6月2日と記載したが、Fが5月31日に訂正するよう求めたので、Kはこれに従った。
(2) 争点1(本件入店は控訴人の承諾を欠き、違法か)
 控訴人の主張には、甲2、3、17、23、26、29の1、39、原審証人E、原審控訴人本人の供述が沿うが、同主張事実を認めるには十分でない。
 すなわち、前記(1)認定の事実及び原審証人Fの供述によれば、控訴人とゼロクリエイトは、全国ツアーの一環としての「Gライブ」を控訴人の知人や親戚等の参加を求めて「Gを囲む会」という名称の会に変更して開催することにしたものの、この変更が一般に告知・広告されたことはなく、かえって、月刊音楽情報誌「スイングジャーナル」(平成17年6月号。乙10)にはGのライブスケジュールとして「5月31日=和歌山デサフィナード」と掲載され、また、同月30日時点のゼロクリエイトのホームページには、同月24日現在のGのライブスケジュールとして「5月31日和歌山『H』ブルースエンジェルスツアー」と掲示され、席を予約した客だけが入場できる完全予約制、料金一人2000円で開催され、控訴人の高校の後輩で、本件店舗の経理を手伝っていたEも、控訴人から囲む会の集客を依頼されて同級生や近所の人を誘ったのであって、上記以外に、特別の入場資格や、資格制限を定めたりしていなかったのであるから、上記席を予約した客だけが入場できる完全予約制及び料金一人2000円の点を満たすものには入場を許諾する趣旨であったというべきところ、Iから本件調査を依頼されたFは、席を予約した客だけが入場できる完全予約制であり、料金が一人2000円であることを聞かされた上、友人のJを誘って囲む会に行き、たまたま来ていた顔見知りのLに、フリーの客は入れないと言われたと言うと、同人は、いったん店内に入った後、「OK」と言い、Eも入店を承諾したので、FとJは本件店舗に入店し、本件店舗はほぼ満員の状況であったが、控訴人から椅子を用意されて着席し、二日後に二人分の料金4000円を支払ったと認められ、実質的評価の上において、上記席を予約した客だけが入場できる完全予約制及び料金一人2000円の点を満たすものといえるから、入店が不法行為に当たるという控訴人の主張は理由がない。
 控訴人は承諾の事実を否定し(甲2、39、原審控訴人本人)、Fも、控訴人の承諾はもらっておらず、Lには席が空いているか聞いただけであって、オーナーの承諾を取ってもらったわけではなく、LがOKと言ったので同人とつながりのある客の振りをして入店した、Iに連絡した際には、勝手に入ったと言わない方がいいだろうと感じて、控訴人が知っているということにした旨証言する(原審証人F調書1、4、6、7頁)。しかし、Fは、第1ステージ終了後、知人がオーナーに話をしてくれたので入れた旨Iに伝えており(乙17の11頁)、Iに入店方法をごまかして伝えねばならない理由が不自然であること、また、いったんは予約した客しか入店できないと言ったEがFらの入店を許していること、Fらが入店後、控訴人が同人らのために椅子を調達して座席を用意しており(乙17、原審証人F調書23、24頁)、少なくともその時点では同人らの入場を認めていること及びLに席が空いているか尋ねてOKという返事だったというFの上記供述と矛盾することに照らせば、F及び控訴人の上記供述は採用できない。また、甲27(L名義の陳述書)には、上記Fの陳述に沿うかのような記載があり、また、その体裁・内容から、書証とするためのものであることが明らかであるが、原審控訴人本人によれば、同号証は写しであって、原本は「巻き込まれたくない」という理由で作成者の妻が持ち帰ったことが認められ、写しの作成及びそれを書証として裁判所に提出することについて同意があったとは認められない。このような事情に照らすと、同号証はその内容の真否に少なからぬ疑いがあり、採用できない。
 なお、控訴人の主張は、被控訴人協会の依頼を受けた調査員と知っていれば承諾しなかったのであり、このような真意に反する承諾は承諾に当たらないという趣旨にも解し得る。しかし、上記認定のとおり、SからGライブについての管理著作物利用の申入れがあり、被控訴人協会が利用許諾はできないとの説明をしたにもかかわらず、5月20日発売のスイングジャーナル誌及び5月30日時点のゼロクリエイトのホームページに、5月31日にGのライブが本件店舗で開催される旨記載されており、囲む会における管理著作物演奏の可能性は相当程度認められたから(現に囲む会では被控訴人協会の管理著作物18曲が演奏された(前記(1)カ)。)、被控訴人協会が管理著作物の利用実態を調査・把握する必要上、調査員を店舗に客として入店させ、演奏実態を記録する自由を有していることは明らかであって、これを不都合と考える控訴人が調査員の入場を拒否する自由を有することと同様、当然には違法とはいえないところ、上記のとおり、控訴人とゼロクリエイトは、席を予約した客だけが入場できる完全予約制及び料金一人2000円の点を満たすものには入場を許諾する趣旨であり、上記以外に、特別の入場資格や資格制限を定めたりしていなかったのであって、被控訴人協会側は、これを前提に本件調査に至り、Fは、前記態様で本件店舗に入店して調査したのであるから、仮に、控訴人が調査員と知っていれば承諾しなかったとすれば、錯誤があったものとして意思表示の効力に影響があるが、事実行為としての入店、調査の違法をもたらすものではない。控訴人は、囲む会は入場料無料のプライベートな会であるから、「公の上演」(著作権法22条)に当たらず、かつ「非営利目的の上演等」(同法38条1項)に当たり、したがって、これに対する調査は正当な業務行為に当たらないと主張するようであるが、前記(1)認定事実に照らし、採用することができない。なお、被控訴人協会は、控訴人が管理著作物の使用料を支払っていないことを理由に、第三者の利用許諾申込みを拒むことはできないと解されるが(後記(3))、利用許諾を申し込んだのが控訴人ではなくSであったからといって、利用の主体が同人であって控訴人ではないとは必ずしもいえないから、被控訴人が調査をする必要性を否定することはできない。
 よって、本件入店が被控訴人らの不法行為であるとする控訴人の主張は理由がない。
(3) 争点2(被控訴人らは、Fをして、無料であった囲む会が有料であるかのような領収証を本件店舗従業員から詐取させたか)
 囲む会が無料であったと認めるに足りる証拠はない。
 甲2、3、17ないし21、39、原審証人E、同F及び原審控訴人本人の供述には、囲む会が無料であったないし囲む会に関し入場料等を支払わなかった旨の部分がある。
 しかし、上記(1)に認定したとおり、Iが事前にゼロクリエイトに問い合わせた際、囲む会は一人2000円の完全予約制である旨説明を受けたこと、囲む会終了後、Fが本件店舗に電話をかけて料金を支払わなかった旨告げたところ、応対した男性従業員は、囲む会が無料であるとは言わず、かえって、翌々日に来店して支払ってほしい旨Fに告げたこと、Fが6月2日に本件店舗に赴いた際、従業員のKも、囲む会が無料であるとは言わず、4000円の交付を受け、領収証が必要かFに尋ね、Fの求めにより領収書に「ライブパーティー代金」と記載した後、自ら「貸切」と付記して交付したことが認められる(Fが電話をかけたのは演奏会当日の終了から間もない時間であったから、上記男性従業員は囲む会の業務に従事していたと推認され、また、Kは、自ら領収書に「貸切」と付記しており、囲む会がどのような催しであったかを知っていたと推認される。)。これらの事実と対比すると、囲む会が無料であった旨の上記各証拠は採用できない。なお、有料の催しであっても、一部の者を無料で招待することはままあるから、仮に甲18ないし21等の記載が真実であったとしても、そのことから直ちに囲む会が無料で開催されたということはできない。また、Fは、当日本件店舗で入場料が授受された状況を確認していないが、上記認定事実によれば、予約のない入場者、したがって当日券の販売はほとんどなかったと認められ、また、Fらが入店した時点で既に会場は満員に近い状態であり、その後に入場した者はほとんどないと認められる上、控訴人やEによって勧誘された入場者は、料金を予め又は事後に支払うことが考えられるから、入場料の授受が現認されないからといって無料の催しであったと推認することはできない。
 そうすると、Fが、真実は囲む会が無料であったのにこれを有料と偽ってKから領収証の交付を受けたとは認められないから、交付を受けたことが詐取であって被控訴人らの不法行為であるとする控訴人の主張は理由がない。
2 争点3(ライブ開催希望者に対する虚偽説明及び違法な利用許諾拒否)について
(1) 原判決第3の2(1)のとおりの事実が認められるところ、前提事実(第2の1)(2)のとおり、大阪地方裁判所は、平成17年4月6日、本件仮処分決定をし、控訴人に、本件店舗における管理著作物の演奏差止め、店内に設置されたピアノ、ミキサー、アンプ及びマイクの執行官保管を命じた。そして、同決定の主文では、禁じられる音楽著作物の使用は営業目的のものに限られず、また、「第3 当裁判所の判断」では、本件店舗で開かれるライブのうち、本件店舗ではなく演奏者等が主催するものについて、「本形態のライブ演奏についても、本件店舗の経営者である債務者は演奏の主体であると認めるのが相当である。」「以上によれば、本件店舗における演奏は、貸切営業におけるものを除き、債務者が演奏の主体であることから、債務者による演奏権侵害の余地がある。」とした上で(乙5の9、10頁)、「以上より、演奏差止仮処分については、ピアノ演奏及びライブ演奏を差し止める趣旨で、主文1項(1)記載の仮処分をすべきである。」(同14頁)としており、同月25日の異議決定においても同様の判断がされている(乙6の11、14頁)。そうすると、これらの決定は、本件店舗で開かれるライブは、主催者が控訴人であれ第三者であれ、債務者による演奏権侵害たり得ることを前提とするものであり、債務者が第三者をして本件店舗で演奏・歌唱させることも禁じる趣旨と解し得るから、被控訴人Cないし被控訴人協会の他の担当者が、裁判所の決定により、本件店舗においては第三者も被控訴人協会の管理著作物は演奏できないことになっている旨説明したとしても、それが虚偽とはいえず、少なくともそのような内容であると信ずることに相当の理由があって過失がないから、上記争点及び当事者の主張(第2の2)(3)【控訴人の理由】@ないしCに関する虚偽説明の不法行為は成立しない。
(2) 著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない(著作権等管理事業法16条)。同法は、管理事業者の登録制度や委託契約約款及び使用料規程の届出・公示等により、著作権等の管理を委託する者を保護するとともに、著作物等の利用を円滑にし、もって文化の発展に寄与することを目的とする(同法1条参照)。そして、著作権者は利用許諾をするか否かを自由に決定できる(著作権法63条1項参照)ことも考慮すると、上記条項にいう「正当な理由」の有無は、著作権者(著作権の管理委託者)の保護と著作権の円滑な利用という法の趣旨を勘案して、許諾業務が恣意的に運用されることを防ぐという観点から判断すべきである。
 前提事実(上記第2の1)(4)に認定のとおり、被控訴人協会は、過去の管理著作物を許諾なしに利用した者から利用許諾の申込みがあった場合に、過去の著作権侵害行為に係る使用料相当額を放置したまま利用許諾することは、管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くとして、昭和22年ごろから、過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当額の清算を利用許諾の条件としている。このような場合にも利用を許諾しなければならないとすると、許諾を拒んで爾後の使用を違法ならしめることにより、過去の侵害行為に係る使用料相当額の損害填補を事実上促進するという効果が失われることになるから(著作権法119条参照)、著作権者の利益に反すると解され、また、管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くため、著作権の集中管理に対する信頼を損ない、これによる著作権の円滑な利用を害するおそれがあり、このような場合に利用許諾を拒んでも、許諾業務が恣意的に運用されるとはいえない。したがって、被控訴人協会の上記取扱いは、著作権等管理事業法16条の趣旨に反しないというべきである。なお、このような取扱いは正当な財産権の行使であって、表現の自由を考慮に入れるとしても、公序良俗に反し違法とはいえない。
 本件についてこれをみると、前提事実(第2の1)(2)ア記載のとおり、控訴人は、本件店舗の開店以来、被控訴人協会と音楽著作権の利用許諾契約をしたことはなく、自らその申請をしたこともなく、被控訴人協会は、遅くとも平成16年5月14日以降、控訴人に、過去の著作権侵害に対する損害金の支払と利用許諾契約の締結を求めたが、控訴人は、仮執行宣言付判決に基づく支払を別として、これに応じていない。そして、甲45、乙25、乙29、原審控訴人本人及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗では開店以来継続的に管理著作物が演奏されていたと認められる。このような事情によれば、控訴人から利用許諾の申込みがあった場合に、過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当額の清算を利用許諾の条件とすることは、著作権法等管理事業法16条の趣旨に反しないと評価できる。
 これに対し、本件店舗で管理著作物を演奏しようとする第三者が利用許諾の申込みをした場合に、控訴人も利用主体と認められるという理由で利用許諾を拒むことは、当該第三者の管理著作物利用を過度に制約するおそれがあり、また、著作権者の利益という観点からは、控訴人に対し過去の使用料相当額の清算を促すという点では間接的である一方、当該利用許諾をすれば得られたはずの使用料収入が得られないという不利益もあるのであって、第三者が利用許諾の申込みをした場合に、被控訴人協会が、控訴人による清算を利用許諾の条件とすることは、同法16条の趣旨に反し許されないと解される。
 しかし、本件店舗で管理著作物を演奏しようとする第三者からの利用許諾を被控訴人が拒んだことにより、控訴人が被った信用の失墜、営業損害についての具体的事実及び損害を認めるに足りる証拠はない。
3 結論
 よって、原判決は結論において相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 若林諒
 裁判官 小野洋一
 裁判官 久保田浩史
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