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【事件名】レストランのピアノ演奏事件(2)
【年月日】平成20年9月17日
 大阪高裁 平成19年(ネ)第735号 著作権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地裁平成17年(ワ)第10324号)
 (当審口頭弁論終結日 平成20年4月23日)

判決
控訴人・被控訴人(1審原告) 社団法人日本音楽著作権協会(以下「1審原告」という。)
同代表者理事 A
同訴訟代理人弁護士 田中豊
同 北本修二
同 七堂眞紀
被控訴人・控訴人(1審被告) B(以下「1審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 豊田泰史


主文
1 1審被告の控訴に基づき、原判決主文第1ないし第4項を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は、和歌山市所在のCにおいて、原判決別添楽曲リスト2冊(平成4年8月1日発行及び平成17年10月20日発行)記載の音楽著作物を、「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏及び1審被告主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏で、次の方法により営業のため使用してはならない。
ア 楽器奏者にピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等の楽器演奏をさせる方法
イ 歌手をして歌唱させる方法
(2) 1審被告は、前項のCから、ピアノを撤去せよ。
(3) 1審被告は、(1)のCに、「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM における」演奏及び1審被告主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏で、ピアノその他の楽器類を搬入してはならない。
(4) 1審被告は、1審原告に対し、190万7425円及び本判決別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各年月日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 1審被告のその余の控訴を棄却する。
3 1審原告の控訴は、下記仮執行に係る部分を除き、棄却する。
4 1審原告の控訴状貼用印紙の費用は同原告の負担とし、その余の訴訟費用は第1、2審を通じてこれを5分し、その1を1審原告の、その余を1審被告の各負担とする。
5 この判決は、第1項(1)(4)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 1審原告
(控訴の趣旨)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告は、和歌山市所在のC(以下「本件店舗」という。)において、原判決別添楽曲リスト2冊(平成4年8月1日発行及び平成17年10月20日発行)記載の音楽著作物を、次の方法により営業のため使用してはならない(「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏、披露宴・その二次会・ピアノ発表会・各種パーティ等の「貸切営業」における客による演奏のいずれをも含む。)。
ア ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等による楽器演奏
イ 歌唱
(3) 1審被告は、前項のCから、原判決別紙物件目録記載の物件を撤去せよ。
(4) 1審被告は、第1項のCにピアノその他の楽器類及びマイク等の音響装置を搬入してはならない。
(5) 1審被告は、1審原告に対し、256万2308円及び原判決別紙遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各年月日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(7) 仮執行宣言
(1審被告の控訴に対する答弁)
(1) 1審被告の控訴を棄却する。
(2) 同控訴費用は1審被告の負担とする。
2 1審被告
(控訴の趣旨)
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 同取消に係る1審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも1審原告の負担とする。
(1審原告の控訴に対する答弁)
(1) 1審原告の控訴を棄却する。
(2) 同控訴費用は1審原告の負担とする。
第2 事案の概要
 1審原告は、原判決別添楽曲リスト(平成4年8月1日発行のもの1冊及び平成17年10月20日発行のもの1冊)記載の音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の著作権を管理しているが、1審被告が、その経営する本件店舗において、歌手、楽器奏者及び客をして、歌唱と楽器演奏により管理著作物を演奏させ、これを来店した不特定多数の客に聴かせて、1審原告の管理著作物の著作権(演奏権)を侵害したと主張して、1審被告に対し、著作権(演奏権)に基づき、本件店舗における管理著作物の使用(演奏)の差止め、その演奏に利用される原判決別紙物件目録記載の楽器及び音響装置の本件店舗からの撤去と、本件店舗への楽器及び音響装置の搬入の禁止を求めるとともに、主位的に著作権(演奏権)侵害による不法行為に基づいて管理著作物の使用料相当額及び弁護士費用の損害賠償(不法行為の後の日である原判決別紙遅延損害金目録記載の各起算日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を、予備的に管理著作物の使用料相当額の不当利得の返還(不当利得の後の日である原判決別紙遅延損害金目録記載の各起算日以降の悪意の受益者に対する利息支払請求を含む。)を求めた。
 原判決は、演奏の差止め、楽器・音響機器の撤去・搬入禁止及び不法行為に基づく損害賠償・不当利得返還請求のいずれも、その一部を認容したので、当事者双方が控訴した。
 なお、1審被告は、請求の趣旨第1項の請求が特定を欠く不適法なものであるとして訴え却下の判決を求めていたが、当審では、上記のとおり、原判決敗訴部分取消し・請求棄却の判決を求めている。
 前提となる事実及び争点は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実」及び「2 争点」(原判決3頁23行目から7頁16行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。ただし、以下のとおり付加・補正し、当審における当事者の主張を付加する。
1 付加・補正
(1) 原判決4頁22行目の「本人」の次に「、弁論の全趣旨」を加える。
(2) 同5頁10行目の「あるいは」から12行目の「行わせている」までを「また、結婚披露宴の二次会やパーティーのための貸切営業では、来店した客が、歌唱や備え付けの楽器又は楽器奏者が持ち込む楽器によって演奏することがある」に改める。
2 当審における当事者の主張
(1) 1審原告
ア 請求の特定
 本件の差止め請求は、差止めを受忍すべき主体、差止めの目的物(楽曲の範囲)、行為の場所(本件店舗)、目的(営業)、態様等を明確にしており、特定は十分である。
イ 本件店舗における演奏の態様等
(ア)  乙1のホームページは、1審原告の仮処分申請及び本件訴訟に対応する目的で作成されたものであるのに対し、甲14の1ないし9は、訴訟等を前提とせず、本件店舗の営業方針を顧客等に明らかにする目的で作成されたものであるから、後者に基づいて判断すべきである。
(イ) 平成14年1月から平成15年6月までのピアノBGMにおける演奏曲数は、同年7月から9月と同じく、1日15曲である。「アガサス」2003年6月号には本件店舗での「BGMピアノ生演奏」が1日1ステージ(午後8時)であるかのような記載があるが、1審被告作成のスケジュール表によれば、平成15年1月、2月とも、午後8時、午後9時及び午後10時から各20分計3ステージであったと認められ、平成14年1月から平成15年6月までも、同年1、2月と同様とするのが合理的である。
ウ 管理著作物の利用主体
 飲食店営業の中での音楽著作物の利用主体は、音楽著作物の利用行為に対する飲食店経営者の管理の有無及び同利用行為による飲食店経営者への営業上の利益の帰属の有無を総合的に評価して判断すべきである。(最高裁昭和63年3月15日判決・民集42巻3号199頁)。
(ア) 貸切営業
 本件では、@本件店舗の基本的経営方針は飲食とともに音楽の生演奏を提供するところにある、A1審被告は、ホームページやパンフレット等で、顧客が本件店舗で備付けの楽器等を用いて音楽を演奏することを推奨している、B1審被告は、本件店舗でのピアノ発表会等の際に通常営業とすることもできる旨勧誘している、C本件店舗を結婚披露宴等で使用する場合は演奏家を斡旋する旨勧誘している、D本件店舗内に演奏ステージを設置し、楽器、音響設備、ステージ照明装置、VTR用の機器を備え置き、これらを利用して顧客が音楽の生演奏をできるよう物理的な環境を整えている、E貸切営業に当たり、予約を受け付け、あらかじめ定められた場所(本件店舗1階又は2階の客室)・時間において、Dの設備等を顧客の利用に供して音楽の生演奏を許している、FDの設備等を操作できる従業員等を配置し、必要に応じてその操作に当たらせている、などの事情が認められる。
 上記@ないしCは、飲食店経営者による演奏の勧誘に、D及びFの事実は、飲食店経営者による音楽演奏の道具の備え置き及び管理による音楽演奏の実行の勧誘と支援に、Eは飲食店経営者による音楽演奏の時間的・空間的制約に当たるから、本件店舗の貸切営業における演奏は、1審被告と無関係ではない。
 原判決が指摘する、演奏するか、どの楽曲を演奏するか、備付けの楽器を使用するか、音響装置等を使用するか等が顧客の自由に委ねられ、演奏態様が一様でないことも、1審被告による演奏の管理を否定する理由にならない。すなわち、貸切営業における顧客の演奏は、本件店舗の基本的経営方針のゆえにされている。また、利用する著作物を誰が選択するかによって利用主体が決せられるわけではない(上記最高裁判決等)。顧客が楽器を持ち込む場合も、1審被告が本件店舗に上記設備等をあらかじめ備え、音楽を演奏できることを謳い文句に集客し、楽器持ち込みを許すから可能なのである。
 1審被告は、顧客自身が本件店舗の設備等を利用して生演奏をし、音楽を楽しむことができる飲食店としての雰囲気を醸成し、このような雰囲気を好む顧客の来集を図っているのであり、このような貸切営業では、レストラン・カフェ営業の一環として、顧客から飲食代金を収受している。なお、貸切営業の顧客(結婚披露宴の二次会の招待客等)は、本件店舗を訪れる不特定の顧客であり、同営業は多数の者の参加する会に当たる。
(イ) 第三者主催のライブ
 音楽業界における「主催者」と著作権法の規律の観点から判断される「利用主体」とは別のものであり、前者に当たらなくとも、レストラン営業の一環としてライブ主催者に著作権侵害行為をする場を提供することは、ライブ主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権を侵害することになる。したがって、Dライブ、万葉ジャズフェスタ前夜祭、アフタヌーンライブ、F HOMETOWN LIVE[のいずれにおいても、1審被告は著作物の利用主体である。このうち、F HOMETOWN LIVEは、予定どおり1ドリンク付3000円で、20数名の聴衆を集めて実施され、出演料が支払われている。平成17年5月7日開催予定のEのライブは、結局開催されなかったが、2ドリンク付前売券3000円・当日券3500円で、1審被告が共同利用主体となるはずのものであった。また、1審原告は、別件訴訟で、上記各ライブでの管理著作物の利用主体であることを自認した。
 なお、管理著作物の著作権を現に侵害し又は過去に侵害したことのない者が管理著作物の利用許諾を申し込んだ場合に、当該申込みに係る利用主体が過去の又は現在まで継続する著作権侵害行為の主体と考えられるときは、申し込んだ者もともに利用主体であっても、過去の著作権侵害行為に係る使用料相当損害金を清算しない限り、当該申込みに対する許諾はしない。
 1審原告は、1審被告主張の「ハッピーチャリティーコンサート」に許諾を与えたが、これは、主催者が、1審被告及びその従業員が関与せず、1審被告から飲食の提供を受けないなどと説明したので、1審被告を利用主体とみることはできないと判断されたためである。
エ 著作権法38条1項該当性
 著作権法38条1項は、零細・僅少な使用につき著作権の制限を定める規定であって表現の自由を制約するものではない。同項は、営利を目的としないことに加え、聴衆又は観衆から料金を徴収しないこと及び実演家に対し報酬が支払われないことのすべてを充たすことを著作権制限の要件とする。また、営利を目的としないとは、間接的にも営利につながらないことをいう。したがって、同項の適用要件を金銭の授受を伴う有償行為に限定する1審被告の主張は失当である。音楽を楽しめる店として宣伝し集客を図っている本件店舗における営業中のピアノ演奏は、料金の徴収・演奏料の支払を伴わないものであっても、同項の要件を充たさないことが明らかである。
オ 差止めの必要性
 1審被告は、本件仮処分事件及び本件訴訟で、本案訴訟による解決がされるまでの間、本件店舗では管理著作物以外の楽曲を演奏すると主張し、差止め判決がされなければ、管理著作物を演奏する意思を示しているから、著作権法112条1項にいう「著作権を侵害するおそれがある者」に当たる。1審被告は、現にDライブ等において著作権侵害を継続している。また、1審被告は管理著作物該当性を判断する意思も能力もないから、第三者主催のライブ等で侵害行為を防止することは考えられない。
 なお、1審被告は、本件仮処分事件係属中に、本件店舗にインターネット監視システムなるものを設置したとするが、システムの信頼性を1審原告とともに検証したわけではなく、画像音声とも不安定であり、また、その設置後も侵害行為が継続しており、著作権侵害の防止に役立たないことが実証されている。
カ 損害又は損失
(ア) 1審原告は、管理著作物の適用利用を促進させるため、無許諾利用者に対しても、交渉の一定段階までは、包括的利用許諾契約を結んだ場合の規定によって算出した使用料による清算に応じ、任意の説得に応じず侵害を継続する者に対しては1曲1回の使用料規定による額を請求している。後者は使用料規程に基づく本来の利用料であるから、懲罰的損害賠償の性格はない。そして、このような方法は、誠実な利用者との公平の見地から当然である。なお、1審被告が指摘する和歌山市内のライブハウスは、許諾契約申込みに際し、音楽著作物の利用が不定期で、仮著作物の利用が著しく少ない旨の説明及び資料の提供を受けたため、同店とは、使用料規程2章1節6の備考Rにより、年間使用料を1万2000円として契約した。
(イ) 著作権法114条3項は、著作権者に最低限の損害賠償額を確保させるために著作権侵害による賠償額の最低限を法定したものであり、使用料規程による額がこれに当たる。また、著作権者は民法709条又は703条もしくは704条により、同項所定の額を超える額を請求することもできる。不法行為による損害賠償請求権と不当利得返還請求権とはその成立要件を異にし消滅時効の要件も当然異なるし、これらは請求権競合の関係に立つから、一方のみが成立するわけではない。
 1審原告は著作者又は著作者から譲渡を受けた音楽出版社等から著作権の信託譲渡を受けた著作権者であるから、著作権侵害者に対し、著作権者として被った損害・損失を請求できる。
(ウ) 1審被告は、本件店舗でのライブやピアノ演奏が無許諾の利用であることを十分認識しており、ただ、著作権法38条1項の適用があると誤信していたにすぎないから、法律上の原因を欠くことを知っており、民法704条の悪意の受益者に当たる。
(エ) 本件店舗の客席数は40を超えていた。これは、1審原告による複数回の実態調査のほか、平成13年6月1日付け和歌山新報及び1審被告のホームページから明らかである。なお、1審原告は、平成15年6月13日付け文書で、客席数40までの場合の月額使用料を通知したが、これは、当時取得し得た情報の限りでの試算にすぎず、上記実態調査によるべきである。また、本件店舗2階にも客席があることは、ホームページの記載のほか、Dライブの際、1審被告が調査員に2階を見学させ、本件店舗が音楽の生演奏に適していることを説明したことからも明らかである。
(オ) 使用料規程2章1節5のうち「社交場における演奏等の備考」DEは、歌曲の歌詞と楽曲のいずれかに著作権がない場合又は1審原告の管理外の場合は、使用料を1曲のそれの半額(6/12)とし、歌曲が歌唱なしで演奏される場合は、楽曲のみの音楽著作物(いわゆる器楽曲)と同額で許諾することとしている。後者の場合、使用料は歌詞と楽曲の双方の著作権信託者に分配される。
 これは、音楽著作物利用の使用料は、音楽著作物の利用を経済的にどう評価するかという観点から定められるという現実の経済社会における価格決定のメカニズムを前提としたもので、器楽曲か歌曲かによって演奏による音楽著作物利用の効果に大きな相違があるとはいえないという経済的評価の実際に基づく。なお、使用料規程は、著作権に関する仲介業務に関する法律の下では利用者団体との協議を経て文化庁の認可を受け、著作権等管理事業法の下では文化庁長官に届け出たものであり、実務は長年これに基づいている。
キ 独占禁止法21条は、著作権法による権利の行使には独占禁止法の適用がないと規定しているし、1審原告は、平成15年6月13日付け及び平成16年5月14日付け各督促文書で、通知した期限までは包括使用料による清算に応じ、それ以後は1曲1回の使用料による請求をする旨告知しているから、不公正な取引には当たらない。
 1審原告は、1審被告の著作権侵害行為を放置・黙認したことはない。平成13年6月5日に本件店舗に電話をかけて許諾契約締結の必要性を説明し、同月6日に手続書類一式を送付したが、1審被告は何の連絡もしなかった。その後も、1審原告は、平成15年5月13日に本件店舗に職員を派遣し、同年7月25日に本件店舗に電話をかけて従業員に説明し、同月29日に本件店舗に職員を派遣したが、1審被告からの応答がなかったため、平成16年5月14日に督促文書を送付したところ、1審被告は、自分は本件店舗の経営者ではない旨の書面を送付し、許諾契約締結の意思がないことを明らかにした。1審原告はその後も電話等により契約締結の必要性を説明したが、1審被告は応じなかったので、1審原告は、平成16年9月8日、警告書を送付した。
(2) 1審被告
ア 請求の特定
 本件差止請求の趣旨はあいまいであり、第三者の演奏活動の自由を不当に侵害するおそれがある。
イ 本件店舗における演奏の態様等
(ア) 不法行為に当たる事実の立証責任は1審原告にあり、アガサス誌の記事等個別の証拠がない場合に安易な推認に頼るべきではない。
(イ) 1審原告が書証とした1審被告のホームページ(甲14の1ないし9)は、本件訴訟提起の相当前から乙1のとおり変更されている。
(ウ) 1審原告が援用する調査報告は、成立自体疑わしく、また、内容も信用できない。1審原告は、平成17年5月31日開催の「Dを囲む会」が著作権法38条1項に該当するのに、これを営利性のあるライブであるというために、調査報告(甲11)をねつ造している。
ウ 管理著作物の利用主体
(ア) 1審原告が援用する昭和63年最高裁判例は、カラオケスナックに関するもので、本件店舗には当てはまらない。
(イ) 貸切営業では、音楽を演奏するか、管理楽曲を演奏するか、備え付けの楽器を使うか、音響・照明装置の操作等が招待客等の自由に委ねられているから、1審被告は利用主体ではない。なお、1審原告は、多目的ホール等の施設や貸しスタジオ経営者は、そこでの演奏による著作権料支払義務がないという見解に立っており、本件での対応と矛盾する。甲14のホームページは上記のとおり既に存在しないが、その記載をもってしても、演奏の勧奨や演奏家を斡旋しての勧奨とはいえない。
(ウ) 第三者主催のライブでは、演奏主体はその第三者であって1審被告ではない。サントリーホールで催されるホール主催以外の公演ではホールが演奏主体とされないが(このことは1審原告の元評議員も認めている。)、本件店舗も同様である。1審原告は、DライブやFコンサート等でも、1審被告を共同利用主体として交渉していない。また、平成18年12月17日に本件店舗で開催された第三者主催の有料コンサート(ハッピーチャリティーコンサート)も本件店舗の営業そのものであり、飲食の提供もあったのに、1審原告は利用許諾を与えており、一貫していない。
エ 著作権法38条1項該当性
 著作権法38条1項は、非営利行為を著作権侵害に当たらないとするものであり、営利行為とは金銭の授受を伴う有償行為をいう。本件店舗でのピアノリクエストも、アマチュアに演奏場所を提供していた程度のものであり、非営利である。このような行為にも使用料が必要とするのは、音楽表現の自由を過度に制限する。
オ 差止めの必要性
 1審被告は、ピアノ弾き語り等を非管理楽曲に限定し、あるいは中止し、主催するライブで演奏される曲も非管理楽曲に限定し、第三者主催のライブでは事前に文書で1審原告の許諾を得るよう求めてきた。また、1審原告は、本件店舗に設置されたカメラから、インターネット経由で、その状況を24時間監視できる状況にある。このように、1審被告は1審原告の管理著作権を侵害しておらず、将来も同様であるから、差止めの必要がない。
 なお、本件仮処分決定は1審被告に対するものであり、第三者主催のライブには及ばない。
カ 損害又は損失
(ア) 損害又は損失の立証責任は1審原告にあるから、安易に推定によるべきではない。
(イ) 1審原告は、1審被告に対する通知(甲68)で、過去の使用料を支払えば、将来の使用料は包括契約を締結せずともその基準による旨述べており、本件では包括契約の基準によるべきである。1審原告請求額とこれとの差は懲罰的損害賠償といわざるを得ない。
 なお、和歌山市内のライブハウスで、使用料規程に従えば期間使用料が月額1万7000円となるべきところ、平成19年10月1日から平成21年6月30日までわずか1万2000円で契約したところもあり、1審原告の使用料徴収は場当たり的である。
(ウ) 著作権法114条3項は、著作権侵害に対する請求の根拠として不法行為による損害賠償を定めており、不当利得返還請求を認めることはその趣旨に反するし、1審原告は、使用者に対し、使用料相当損害金を請求できるのだから、損失は発生しない。また、同項所定の額を超える請求は認められない上、同項によれば、損害額は、1審原告が徴収した使用料から著作権者に支払う著作権料の割合によって計算されるべきであり、使用料金規程表所定の額が直ちに損害になるわけではない。さらに、1審被告は当該損害金を著作権者に支払っていないから、損失はない。
(エ) 1審被告は、少なくとも原判決までは、演奏場所の無償提供は非営利行為であって著作権法38条1項により著作権侵害に当たらないと考えていたのであり、これは社会一般でも同様であるから、1審原告の請求によって1審被告が悪意(民法704条)になったとはいえない。
(オ) 本件店舗におけるピアノBGMは歌唱を伴わないから、1審原告の使用料規程によっても、歌唱を伴う場合の半額(1曲1回70円)として算定すべきである。1審原告が指摘する使用料規程の定めは、1審原告が楽曲又は歌詞のいずれかの著作権者に著作権料を支払わない場合に使用料が半額になるという趣旨に解される。
(カ) 本件店舗の座席数は40席未満である。
キ 独占禁止法との関係
 1審原告は、本件店舗等、対象とする店舗の演奏等を長期間放置・黙認した後に高額な損害賠償請求を突きつけて包括契約を締結するという営業方法をとっており、これは独占禁止法19条の不公正な取引にあたる。
第3 当裁判所の判断
(以下、原判決からの主な変更部分をゴチック体で表示する。)
1 争点1(請求の特定の有無)について
 1審被告は、請求の趣旨第1項が請求の特定を欠く旨主張するが、同請求の趣旨には、具体的な演奏態様が例示的に列挙されるとともに、本件店舗におけるあらゆる演奏態様による管理著作物の使用を営業時間の内外を問わず差し止めることを求める趣旨であることは明らかであるから請求の趣旨としての特定に欠けるところはないというべきである。本件の差止め請求は,「営業のため」の演奏を対象としており、営業時間の内外を問題にしていないことは明らかである。1審被告は、1審被告の営業形態には「貸切営業」という形態があるがその区別さえなされていないなどと主張するが、本件店舗におけるいかなる形態の演奏態様をもって1審被告を利用主体とする管理著作物の利用に当たるかなどということは、請求の当否に関する本案の問題であって、使用態様による限定がされていないからといって、上記請求の趣旨が特定を欠くものということはできない。なお、「営業のため使用する」とは、1審被告が自らが演奏・歌唱する場合のみならず、第三者が演奏・歌唱する場合であっても、それを1審被告が管理し、それによる営業上の利益が1審被告に帰属する場合を含む趣旨と解されるから(最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参照)、特定に欠けるとはいえない。したがって、1審被告の上記主張は採用できない。
2 争点2(本件店舗における演奏の態様、状況)について
(1) 本件店舗における演奏態様等について
 前記前提となる事実、証拠(甲5ないし11〔甲7を除き各枝番も含む。〕、12、13、14の1ないし9、15、16の3、23、29ないし36、41ないし60、乙7、8、30、1審被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件店舗は、その名称をCといい、自己のウェブサイト(平成16年時点のもの)に「ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味う贅沢な空間です。」とし、「Cのコンセプト」を「音楽を愛するすべての人に心から楽しんでいただく素敵な空間です」と明示して、ランチ、カフェ、ディナー及びバーの営業をしている。なお、本件店舗の店名の主要部分である「C」は、「ポルトガル語で『音痴』『調子はずれ』」を意味し、「ブラジル音楽ボサノバの名曲」であるとの説明が上記ウェブサイトに掲載されている。
 本件店舗は2フロアーから成り、1階には玄関、バーカウンター、客席フロアーのほか演奏ステージが設けられ、2階には客席フロアーが設けられている。1階の演奏ステージには、ピアノ、ドラムセット、ウッドベース、エレキギター、エレキベースが置かれている。そのほか、本件店舗内にはミキサー、アンプ、マイク等の音響装置と照明装置が設けられている。
 本件店舗の定休日は水曜日であり、営業時間は午前11時から午後11時までである。
 本件店舗の経営者は1審被告である。1審被告は平成13年5月30日に本件店舗を開店した後、平成17年9月5日に自衛隊を定年退官するまでは本件店舗の日常的な営業をマネージャーに委ねていたが、定年退官後は1審被告自身が本件店舗の営業に直接携わるようになった。
イ 本件店舗において行われていた楽曲の演奏の概要は、次のとおりである。
(ア) ピアノ演奏
a ピアノリクエスト
 毎週火曜日と木曜日の午後1時から午後3時の間(ただし、時間は異なる時期もある。)、髭白が、客からリクエストを受けて、リクエスト曲をその場でピアノ演奏をするというものである。
b ピアノBGM・ピアノ弾き語り等
 ライブ及び貸切営業の時を除き、営業日の午後7時から3ステージにわたり、G、H、IらによるピアノBGM演奏、Jによるピアノ弾き語り等が定期的に行われている。
c ピアノ演奏の演奏態様
 これらの演奏の間、本件店舗では通常のレストラン営業が行われており、客は、ランチやディナーをとりながら、上記a、bのピアノ演奏を聴くことになる。
 また、これらの演奏を行う者は、他のライブハウス、レストラン、パーティ、イベント等での演奏活動を行っており、中には自分のオリジナルアルバムを発表している者もある。
 本件店舗のウェブサイトでは、これらの演奏者は「スタッフ」として紹介され、また「毎、 火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです。」とされている。
 これらのピアノ演奏について、本件店舗が客からチャージを別途徴収することはなく、また本件店舗が演奏者に演奏料を支払うこともない。
 これらのピアノ演奏の本件店舗での演奏予定は、本件店舗が作成するちらしに掲載されるほか、アガサス誌にも掲載される。
(イ) ライブ演奏
 本件店舗では、プロのバンドによるライブ演奏が行われている。
a 演奏者等が主催するライブ
 プロの演奏者又はその後援会等から、本件店舗でのライブ開催の申込みがされた場合に行われる。
 この形態のライブでは、通常、客からライブチャージを徴収し、この徴収事務は本件店舗の従業員が行うが、徴収されたライブチャージは全額が演奏者等に交付される。本件店舗は演奏者等に対して演奏料を支払わず、演奏者等も本件店舗に対して設備等の使用料等を支払わない。
 曲目の選定は演奏者等が行い、本件店舗は関与しない。
 ライブのチケットは、演奏者等が作り、本件店舗や他の店舗に置いてもらい、前売り販売を行う。もっとも、演奏者側にスタッフがいない場合は、本件店舗の従業員が予約を受け付けることがあり、この場合はチケットは作らない。
 ライブの広告は、演奏者等がちらし等を作成して本件店舗や他の店舗に置いてもらうほか、本件店舗が作成したちらしに予定を掲載し、アガサス誌にも本件店舗における予定として掲載される。
 本件店舗で行われるライブのほとんどはこの形態のものである。
b 本件店舗が主催するライブ
 1審被告からプロの演奏者にライブ開催を依頼し、又は演奏家等から本件店舗でのライブ開催の申込みがされた場合に行われる。
 この形態のライブでも客からライブチャージを徴収するが、徴収したライブチャージは本件店舗が取得し、それとは別に本件店舗が演奏者等に演奏料を支払う。
c これらのライブの際には、本件店舗は通常のレストラン営業と異なり、軽食とドリンク類のみを提供している。
 また、本件店舗に備え置かれた楽器は、求めがあれば演奏者に使用を許している。
(ウ) 貸切営業
 本件店舗では、結婚披露宴の二次会、ピアノ発表会、パーティ、各種スクール公開練習等のための貸切営業を行っている。1審被告は、貸切営業において楽曲演奏が行われる場合には、必要に応じて本件店舗に備え置いてある楽器、音響装置、照明装置等を提供している。また、1審被告は、必要に応じて音響装置、照明装置等の操作を従業員に当たらせている。
 本件店舗のウェブサイトには、貸切営業に関し、「また、通常営業とさせていただきますので、一般のお客様も演奏を楽しめます。」あるいは「お客様もプロ顔負けのステージ練習を楽しむ事ができますよ!」との記載があり、貸切営業の場合であっても不特定の顧客が演奏を鑑賞することができることを宣伝している。
 1審被告は、ピアノ発表会の場合には、会場使用料を請求しており、さらに客からの注文に応じて飲食物を提供したときは飲食代金を請求している。他方、バンド発表会などにおいては、会場使用料は請求しておらず、客からの注文に応じて飲食物を提供したときは飲食代金を請求している。
(2) 本件店舗における演奏日数等
ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日、同月2日、同年11月30日、同年12月8日及び同月22日
 証拠(甲23、24)によれば、@本件店舗が開店した平成13年5月30日から4夜連続で、Kによるピアノ弾き語りと、L及び女性ピアニストによるコンサートが午後8時と午後10時の1日当たり2回、1回当たり30分間行われたこと、A平成13年11月30日に「シャンソンライブ」、同年12月8日に「JAZZ」ライブ、同月22日に「Love Bradde」ライブがそれぞれ1回ずつ行われたことが認められる。
イ 平成14年1月
(ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM
 証拠(甲17の1、乙6)によれば、1審被告は、1審原告から送付を受けた損害金計算書添付の平成16年9月8日付け警告書に、平成14年1月から平成15年9月までのピアノリクエストの回数が月21回である旨の記載があることに対する反論を記載した平成16年12月7日付け陳述書において、平成14年1月にはピアノリクエスト及びピアノ弾き語りは実施されていないと明言しながら、自ら「平成14年1月にはピアノ演奏は月間6回前後であったと思われます。」と記載していることが認められる。したがって、平成14年1月には少なくとも月間6回のピアノBGMがあったと認めるのが相当である。なお、ピアノBGM、ピアノ弾き語り及びピアノリクエストは、ライブと異なり、本件店舗と継続的な関係のある演奏者によるものであり、定期的に行われるものであるから、「アガサス」誌等によって直接立証されない期間についても、前後と同様に行われたと推認するのが相当である。
(イ) ライブ
 証拠(甲29)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において、平成14年1月26日に「JAZZ NIGHT」ライブが1回開催されたことが認められる。
ウ 平成14年2月から平成14年10月まで
(ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM
 証拠(甲28)によれば、1審被告は、平成16年6月7日に1審原告大阪支部が受け付けた書簡において、平成14年から徐々に週に3〜4回の頻度でピアノを弾く地元のミュージシャンにピアノを開放するようになってきた旨回答し、1審被告本人の供述にも、この時期からピアノを開放するようになった旨の供述があるが、甲29ないし31、41ないし50によれば、平成14年1月から9月までの情報誌「アガサス」には、本件店舗で催されるライブの情報は掲載されているが、ピアノ弾き語りやピアノBGMに関する記事はなく、同誌平成15年5月ないし9月号にはピアノリクエストないしピアノBGMの記事はあるがピアノ弾き語りの記事はないことが認められる。そうすると、平成14年中は、ピアノBGMはある程度定期的に行われるようにはなっていたものの、後のような頻度(週に3、4回)では行われていなかったと解する余地があり、上記期間ピアノBGMが実施されたのは、イ(ア)と同様、月6回と認めるのが相当である。
(イ) ライブ
 証拠(甲6の1、8の1、9の1、10の1、30、31ないし36、41ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、ライブの開催日数は、平成14年2月が1日同、 年3月が1日、同年5月が2日、同年6月が2日、同年7月が3日、同年8月が2日、同年9月が2日であったことが認められる。これに対し、同年4月及び10月に本件店舗でライブが開催されたことを認めるに足りる証拠(1審原告ないしその委託を受けた者の調査報告や、上記「アガサス」誌ないしこれに類する証拠)は提出されていない。本件店舗が開業当初から「ライブハウス&レストランカフェ」「本格的な舞台と音響装置を備えたライブハウス」と紹介され(甲23)、上記認定のとおりライブが開催されたことにかんがみれば、直接の証拠がない時期にも、月1回程度のライブが開催されていたのではないかとも考えられる。しかし、本件店舗のホームページで毎月1回以上のライブを開く旨具体的に告知されていたとは認められず、その他同様の宣伝広告がされたことの立証もない。また、弁論の全趣旨によれば、本件店舗で催されるライブにおける演奏者の多くは外部のアーティストと認められるから、1審被告が毎月のライブに出演者を確保できるかは疑問の余地がある。他方、1審原告の業務内容にかんがみると、上記「アガサス」誌のような情報誌による情報収集は重要であると思われ、現に本件でも「アガサス」誌の複数号が甲号証として提出されていることにかんがみると、1審原告は同誌を継続して収集していると推認されるから、同誌に本件店舗でのライブ予告の記事が掲載されていれば、それを提出することは1審原告にとって容易であると解される。そうすると、同誌その他の直接的証拠がない同年4月及び10月にもライブが開催されたと推認することは相当ではなく、ほかにこのことを認めるに足りる証拠はない。しかし、1審原告は、平成14年2月から10月の間本件店舗で開かれたライブの回数を月1回、計9回と主張しているので、この限度で認定することとする。
エ 平成14年11月から平成15年9月まで
(ア) ピアノBGM
 上記ウ(ア)及び証拠(甲31、47ないし50)によれば、上記期間においては毎週3回、1か月12回の割合でピアノBGMが行われていたことが認められる。
(イ) ピアノリクエスト
 証拠(甲31、47ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも平成15年5月から9月にかけて、ピアノリクエストが毎週火曜日と木曜日の2回行われていたことが認められる。
 1審被告は、ピアノリクエストを開始したのは平成15年4月末ころからであり、定期的に毎週火曜日と木曜日の午後に演奏するという形態になったのは、同年10月以降のことであると主張する。
 しかしながら、証拠(甲17の1、乙6)によれば、1審被告は、平成14年1月から平成15年9月までの使用料相当額をピアノリクエストについては演奏日数を1か月当たり8日、1日当たりの演奏曲数を20曲として計算した1審原告の平成16年9月8日付けの警告書に対する反論を記述した平成16年12月7日付けの陳述書において、「ピアノリクエストに関しては平成14年10月14以前は全く実施していない」、あるいは「平成14年10月以前はピアノリクエストは実施されていません。」と記載していることが認められる。そして、同陳述書には、前記イ(ア)のとおり、ピアノBGMが月間6回前後行われていたと回数を挙げて指摘しているほか、Jによるピアノ弾き語りについて、(後記認定のとおり、実際には平成15年10月から実施されていたのであるが)「平成15年10月以前はピアノ弾き語りは実施されていません。」と、1審被告の認識が明確に記載されており、内容の正確性につき疑いを生じさせるような事情も見当たらないこと及び一般にこのような書面に記載する場合、損害額を減少させるために控えめに演奏開始時期を記載するのが通常であって、損害額を過大に計算されるようなことを記載するとは考えられないことによれば、上記のピアノリクエストの開始時期に関する記述も、当時の1審被告のほぼ正確な認識を示したものと推認できる。また、演奏日数についても、ピアノ演奏に関して上記のように回数を指摘していたことによれば、1審原告の上記警告書にピアノリクエストの1か月の演奏日数が8日と記載されていたにもかかわらず何も反論していないのは、平成14年11月の時点において、ピアノリクエストが週2日、1か月当たり8日行われていたと1審被告自身が認識していたからであると推認することができる。
 したがって、ピアノリクエストは平成14年11月以降、毎週2回、1か月8回の割合で行われていたと認めるのが相当である。
(ウ) ライブ
 証拠(甲5の1・2、47ないし50)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年5月30日に「2周年謝恩イベント」が開催され、午後9時過ぎから午後10時15分にかけて、ジャズの生演奏が行われ、さらに、同年6月から8月にかけて毎月1日、同年9月は2日、ライブが開催されたことが認められる。
 なお、ウ(イ)の説示のとおり、「アガサス」誌等によって開催されたことが直接立証されない時期にもライブが開催されたと推認することは相当でなく、ほかの証拠もないから、平成14年11月から平成15年4月までの間、本件店舗でライブが開催されたとは認められない。よって、平成14年11月から平成15年9月までの間に開かれたライブは計6回と認められる。
オ 平成15年10月から平成17年1月まで
(ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM
a 証拠(甲32)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年10月には、Jによるピアノ弾き語りが毎週2日と第1・第3日曜日に1日につき3回ずつ行われ、その他にBGMピアノ生演奏が毎週3日、3回ずつ行われる予定であり、ライブ開催日数は1日であったことが認められる。
 したがって、平成15年10月にはピアノ弾き語りが10日(30回〔2日×4+2日。〕×3=30)、BGMピアノ生演奏が12日(36回。3×4×3=36)、併せて少なくとも21日は演奏されたと認めることができる。
b 証拠(甲6の1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年4月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが月に18日、それぞれ3回行われたことが認められる。
c 証拠(甲8の1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年7月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが月に22日(ただし、うち1日はサックス演奏との共演)、それぞれ3回行われる予定であり、少なくとも21日は演奏されたことが認められる。
 もっとも、本件店舗においてピアノ弾き語り・ピアノBGMが行われる日数は、ライブの開催日数や貸切営業の日数にも左右されるものであって、必ずしも一定しているものではない。しかし、少なく見積もっても、平成15年10月及び平成16年7月には、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが1か月当たり21日行われ、その他の月には1か月当たり18日行われたものと認めるのが相当である。
(イ) ピアノリクエスト
 証拠(甲7、32)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗においてピアノリクエストは毎週火曜日と木曜日に行われていたと認められるから、ピアノリクエストの演奏日数は、1か月当たり8日であったと認められる。
(ウ) ライブ
 証拠(甲6、9、52の各1)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年4月に2回、同年5月に1回及び同年7月に3回、ライブが行われたことが認められるが、平成15年10月から平成17年2月までのその余の月にライブが行われたと認めるに足りる証拠はない。前後の月にライブが行われたこと等からの推認が適当でないことは、ウ(イ)に説示のとおりである。したがって、平成15年10月から平成17年1月までに本件店舗で開かれたライブは6回と認められる。
カ 平成17年2月
(ア) ピアノ弾き語り、ピアノBGM
 証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ピアノ弾き語りなどが21日(1日当たり3回)行われたことが認められる。
(イ) ピアノリクエスト
 証拠(甲33、34)及び弁論の全趣旨によれば、ピアノリクエストは毎週2日行われる予定であったが、平成17年2月23日以降は実施していないものと認められるから、上記期間、本件店舗においてピアノリクエストが7日行われたことが認められる。
(ウ) ライブ
 証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ライブが2日行われたことが認められる。
キ 平成17年3月
(ア) ピアノ弾き語りなど
 証拠(甲35)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、少なくとも20日はピアノ弾き語り及びピアノBGMが行われたものと認められる。
(イ) ライブ
 証拠(甲35)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、少なくとも3日はライブが行われたことが認められる。
ク 平成17年4月1日から同月14日まで
(ア) ピアノ弾き語りなど
 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ピアノ弾き語りなどが7日行われたことが認められる。
(イ) ライブ
 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間、本件店舗において、ライブが1日行われたことが認められる。
ケ 平成17年5月31日
 証拠(甲11の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、同日は「Dライブ」が行われ、管理著作物が18曲演奏されたことが認められる。
コ 平成17年7月31日
 証拠(甲12、60)及び弁論の全趣旨によれば、同日は、本件店舗において、「万葉ジャズフェスタ前夜祭」が開催され、管理著作物が10曲分利用されたことが認められる。
 なお、1審被告は、「万葉ジャズフェスタ前夜祭」は主催者である「和歌之浦ルネサンス実行委員会万葉ジャズフェスタプロジェクトチーム」が1審原告から管理著作物の演奏許諾を得て行われたと主張し、1審被告もM(和歌山市文化振興課勤務)が1審原告から利用許諾を得たことを確認した旨供述する。また、上記Mの陳述書(乙43)には、1審原告の担当者が、平成17年7月中旬ころに、1審被告(本件店舗)主催ではないライブは本件仮処分決定に基づいては開催を止めることはできないと述べた旨記載されている。しかし、甲20によれば、本件仮処分決定は、本件店舗における演奏は、貸切営業におけるものを除き、債務者が演奏の主体であることから、演奏差止め仮処分については、ピアノ演奏及びライブ演奏を差し止める趣旨で、主文1項記載の仮処分が認められるとしたものと認められる(原判決「事実及び理由」第2、1(5)ア、イ)から、1審原告の担当者が、上記のような説明を上記Mに対して行うとは考えがたく、上記各証拠(乙43、1審被告本人供述)は採用できない。むしろ、甲第12号証によれば、「万葉ジャズフェスタ前夜祭」の主催者が1審原告から管理著作物の利用許諾を得たことはないと認めるのが相当である。
サ 平成17年9月19日
 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、同日は、本件店舗において、Nが主催者となって「アフタヌーンライブ」が行われ、管理著作物が11曲演奏されたことが認められる。
 なお、同ライブについて、1審被告は、1審被告本人尋問において平成17年9月19日に開催されたN主催のライブは内輪のパーティーを行ったのであって、公の演奏(著作権法22条)ではなかったとの供述をする。
 しかしながら、同ライブが内輪のパーティであることは、1審被告本人尋問まで1審被告から一切主張されていない。甲第13号証によれば、同ライブは、ランチ代金込みで3500円のチケットを予約して購入することとされており、出演者への報酬も支払われることとされていたところ、Nは、同月9日に1審原告大阪支部職員から本件店舗における管理著作物の利用につき1審被告と係争中であり、同ライブでの管理著作物の利用を許諾することはできないので、演奏曲を管理著作物以外の音楽著作物に差し替えて欲しい、との説明を受けながら、管理著作物の演奏を敢行したことが認められる。そして、その間、ライブを取りやめ、「公の演奏」(著作権法22条)に当たらないような内輪の会に変更したことをうかがわせる事実は認められないから、同ライブにおける演奏が著作権法22条にいう公の演奏に当たらないとはいえない。ちなみに、1審被告は、従前は管理著作物の演奏はしていなかったとの主張をしていたにもかかわらず、甲第13号証が提出されるや、主張内容を変遷させたものであると考えられ、1審被告の上記供述は信用できない。
シ 平成18年4月29日
 証拠(甲53)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において結婚披露宴の二次会が開催され、管理著作物が2曲演奏されたことが認められる。
ス 平成18年6月17日
 証拠(甲54)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において「F HOMETOWN LIVE [」が行われ、管理著作物が22曲演奏されたことが認められる。
セ 平成18年6月18日
 証拠(甲56)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において「サッカーワールドカップ第2回観戦会」が行われ、管理著作物が1曲演奏されたことが認められる。
ソ 平成18年6月23日
 証拠(甲57)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗においてバンド発表会が行われ、管理著作物が18曲演奏されたことが認められる。
タ 平成18年7月1日
 証拠(甲58)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗においてピアノ教室発表会が行われ、管理著作物が8曲演奏されたことが認められる。
チ 平成18年7月16日
 証拠(甲59)及び弁論の全趣旨によれば、同日、本件店舗において結婚披露宴の二次会が行われ、管理著作物が6曲演奏されたことが認められる。
(3) 各演奏態様における演奏日数1日当たりの演奏曲数
 後掲の各証拠によれば、各演奏態様における1日当たりの演奏曲数については、以下のとおりであったことが認められる。
ア ピアノ弾き語り・ピアノBGMにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数
(ア) 証拠(甲8及び10の各1・2、31、47、48、52の1・2、73)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a 平成16年3月12日午後7時から午後9時45分までの間に行われたGのピアノBGMでは、3ステージで24曲演奏され、そのうち曲目不明の曲が5曲、管理著作物でない楽曲が4曲、管理著作物が15曲であった。
b 平成16年7月10日午後6時45分から午後9時36分までの間に行われたHのピアノBGMでは、3ステージで22曲演奏され、そのうち17曲が管理著作物であった。
c 平成16年7月26日午後6時30分から午後9時40分までの間に行われたJによるピアノ弾き語りでは、3ステージで26曲演奏され、そのうち22曲が管理著作物であった。
d 本件店舗におけるピアノBGMなどは、当初は演奏日数1日当たり少なくとも1ステージであったが、遅くとも平成15年1月からは演奏日数1日当たり3ステージ演奏されるようになった。しかし、平成14年12月以前から1日当たり3ステージであったと認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ) 上記認定事実によれば、ピアノ弾き語り・ピアノBGMが1日当たり3ステージ行われるようになった平成15年1月以降は、1日当たり15曲の管理著作物が演奏され、平成14年1月から平成14年12月までの間は、1日当たり5曲の管理著作物が演奏されていたことが認められる。
(ウ) 他方、証拠(甲20、乙24ないし27、31)及び弁論の全趣旨によれば、1審被告は、本件仮処分事件の平成17年2月23日の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗では1審原告の管理著作物を一切演奏しないこととする方針を表明するに至り、そのために1審被告は、@店内に、管理著作物の演奏をしない旨を掲示し、Aその趣旨をマネージャーにも指示し、Bインターネットを検索して、管理著作物以外の楽曲(ガーシュウィン、クラシック、国内外の民謡、文部省唱歌)を抽出したリストを作成し、これをピアノ演奏者に交付してこの範囲内で選曲をするよう求め、C平成17年3月1日以降は、ピアノ演奏者から、毎日、その日の演奏曲目の一覧を提出させ、Dライブにおいても、事前にマネージャーが演奏曲目を確認する措置をとった旨、同事件の審理において主張したこと、実際に1審被告は、同年3月1日から本件仮処分決定に基づくピアノ等の執行官保管の仮処分が執行されるまでの間、本件店舗において演奏された楽曲をノートに記録したことが認められ、ノートに記載されている限りでは、管理著作物の演奏はされなかったことが認められる。
 もっとも、甲第35号証によれば、同月17日及び同月18日はピアノ弾き語りなどが予定されている営業日であったが、同ノートにはその旨の記帳がない。とはいえ、上記両日のピアノ弾き語り・ピアノBGMについては具体的な演奏態様が不明であるから、上記両日に管理著作物が演奏されたと認めることはできない。
 したがって、本件店舗におけるピアノ弾き語り・ピアノBGMについて、平成17年3月1日以降に管理著作物が演奏されたと認めることはできない。
(エ) なお、1審被告は、GやOが演奏していたのはクラシック曲、Jが演奏していたのはオリジナル曲であって、管理著作物ではないと主張する。しかし、上記認定のとおり、Gが演奏した24曲中、不明曲5曲を除いた19曲中15曲が管理著作物であり、著作権の保護期間が満了しているクラシック曲ではなかった。また、Oの演奏ジャンルは、ジャズ、ボサノバ、ポピュラーであると1審被告のウェブサイトに紹介されている(甲14の7)。1審原告が実施した実態調査では、平成16年7月26日にJが本件店舗において演奏した26曲中、不明曲を除いた24曲のうち22曲は管理著作物であり、オリジナル曲はほとんど含まれていなかった(甲10の1・2)。
 よって、この点に関する1審被告の主張は採用できない。
イ ピアノリクエストにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数証拠(甲6の1・2、7)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において平成16年4月15日に行われたピアノリクエストでは、午後1時から午後3時までの2時間の演奏時間のうち、午後1時40分からの1時間20分の間に18曲が演奏され、そのうち16曲が管理著作物であったことが認められる。そして、ピアノリクエストの演奏時間が本来2時間であること及びリクエストの性格上、オリジナル曲が演奏されることはほとんど考えられず、また、ジャズ・ボサノバ等を中心にするという本件店舗の音楽的傾向によれば、いわゆるクラシック等管理外楽曲がリクエストされることは比較的少ないと考えられるのであって、ピアノリクエストにおいては、1日当たり少なくとも20曲の管理著作物が演奏されたと認めるのが相当である。
ウ ライブにおける演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数
(ア) 証拠(甲5、9、11の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において開催されたライブについて以下の事実が認められる。
a 平成15年5月30日に開催されたライブでは、2ステージ中の1ステージ(演奏時間約1時間)において演奏された9曲すべてが管理著作物であった。
b  平成16年7月17日に開催されたライブでは、午後7時10分過ぎから午後9時20分にかけて2ステージで12曲演奏され、そのうち管理著作物は10曲であった。
c 平成17年5月31日に開催された「Dライブ」では、2ステージで19曲が演奏され、そのうち管理著作物は18曲であり、残り1曲は演奏曲目が不明であるため管理著作物であるか否かが不明であった。
(イ) 1審被告は、甲第9号証の1及び2の平成16年7月17日に行われたライブは、2ステージ(1ステージ45分)で管理著作物が10曲演奏されたのであるから、これよりも演奏時間が短いライブの1日当たりの演奏曲数は10曲とはならないと主張する。
 しかしながら、甲第51号証によれば、同ライブで演奏された10曲中7曲が5分を超え10分までの演奏時間であったから、使用時間が5分までの場合と比べて2倍の使用料となる(後記7(1)ア)。したがって、同ライブにおいては、演奏時間5分までの管理著作物に換算して17曲分の使用料が必要であったことになる。
 このように、1曲当たりの演奏時間が5分を超え10分までとなる場合に2曲分の使用料が必要であることによれば、30分程度の演奏時間においても、演奏時間5分までの曲に換算して少なくとも6曲演奏が可能であったことになる。
 そこで、上記(ア)に認定の各ライブで演奏された楽曲中に占める管理著作物の割合を算定する。平成16年7月17日のライブ((ア)b)で演奏された12曲中、9曲は5分を超え10分までで、うち2曲が管理外であった。また、「Dライブ」((ア)c)では、1曲が管理著作物か否か不明であり、その演奏時間が不明であるので、これを5分を超えて10分まで(使用料規程上、5分までの曲2曲分の扱いになる。後記7(1)ア)と仮定し、その余の楽曲(いずれも管理著作物)を5分までと仮定する。
 そうすると、上記各ライブで演奏された全楽曲は、9曲分((ア)a)+21曲分(2×9+3。(ア)b)+20曲分(2×1+18。(ア)c)の計50曲分である。そして、このうち管理著作物に当たるのは、9+17+18=44曲分であるから、上記3ライブにおける管理著作物の割合は88%となる。

 したがって、上記のとおり、30分程度の演奏時間において少なくとも6曲は演奏が可能であるとすると、少なくともそのうち5曲は管理著作物が演奏されたものと認めるのが相当である。
 以上によれば、演奏時間が1日1時間程度であった平成13年5月30日から同年6月2日までの本件店舗開店時のライブも含めて、すべてのライブにおいて1日当たり10曲の管理著作物が演奏されたと認めるのが相当である。
(4) 控訴審における当事者の主張について
ア 1審被告は、本件店舗のホームページは甲14の1ないし9から乙1に変更されている旨主張するが、甲14の1ないし4のホームページが本件店舗の実情を反映しない虚偽のものであると認めるに足りる証拠はなく、1審被告も、原審における尋問で、甲14の7がその時点の実態に合っているか否かについてあいまいな供述をするにとどまる(1審被告本人尋問調書34頁)。また、乙1では、甲14の1ないし9の内容が一部削除されていると認められるものの、そのことが直ちに甲14の1ないし9で示されていた本件店舗のコンセプト等を否定する趣旨とは解されない。したがって、甲14の1ないし9から乙1に変更後も、本件店舗のコンセプト、営業方針等は特段の変更がないと解すべきである。
イ 1審被告は、1審原告が援用する調査報告は信用できず、特にDライブに関するものはねつ造である旨主張するが、甲5、甲6の各2、甲8ないし甲11の各2、甲18、甲62、乙54ないし乙56によれば、上記調査報告(甲5の1等)は、1審被告から委託を受けた調査会社の調査員ないしその補助者が、本件店舗に臨んで、MDによって状況を録音しながら、本件店舗の状況や演奏曲目等を調査したものであり、調査項目はあらかじめ指示されるが調査の理由は知らされないと認められるから、報告内容があらかじめ誘導される等の危険は小さく、また、演奏曲目や会話の状況についてはMD録音によって裏打ちされていて信用性は高いと解されるから、その信用性を否定する1審被告の主張は採用できない。なお、甲11の1、乙53ないし56によれば、平成17年5月31日のライブについて調査担当者名義及び調査会社名義の2通の報告書が作成されたこと、調査担当者名義の報告書は、実際に調査に当たった調査担当者の話を聞いて調査会社の調査員が書面化したことが認められるが、上記各証拠によれば、2通の報告書のうち調査員名義のものを作成するに当たっては、実際の調査担当者からの話をもとに作成された案を同人にメール送信して内容を確認していること、調査会社名義のものは、調査担当者名義のものをもとに後に作成されたもので、特記事項がないが、それ以外の内容に特段改変はないこと、調査会社名義の報告書は、本件保全抗告事件において管理著作物演奏の事実を立証するために作成したもので、爾後の調査の支障とならないよう調査員名義としなかったことが認められ、このような事情からは、ねつ造などと評価すべきものとは解されない。したがって、1審被告の上記主張は採用できない。

3 争点3(1審被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。)について
 最高裁判所昭和63年3月15日第三小法廷判決(民集42巻3号199頁)は、スナックにおける客のカラオケ伴奏による歌唱について、客は経営者と無関係に歌唱しているわけではなく、従業員による歌唱の勧誘、経営者の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、経営者の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、経営者の管理の下に歌唱しているものと解され、他方、経営者は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、客の歌唱も、著作権法上の規律の観点からは経営者による歌唱と同視しうる旨判示した。本件は、いわゆるカラオケスナックに関する事案ではなく、上記判示をそのまま当てはめることはできないが、同判決は、著作物の利用(演奏ないし歌唱)の主体は著作権法上の規律の観点から規範的に判断すべきものであって、現実の演奏者・歌唱者だけでなく、演奏・歌唱を管理し、それによって営業上の利益を受ける者も含まれうることを明らかにした点で、本件においても参酌すべきである。
(1) ピアノ演奏について
 前記2(1)イ(ア)において認定したとおり、本件において損害賠償請求又は不当利得返還の対象となっているピアノ演奏は、通常のレストラン営業の傍らで定期的に行われるものであって、1審被告が本件店舗に設置したピアノを用いて行われ、スタッフと呼ばれている複数の演奏者が定期的に演奏を行っていたものであり、ウェブサイトにおいても「毎火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです。」と宣伝していることからして、ピアノ演奏は、本件店舗の経営者である1審被告が企画し、本件店舗で食事をする客に聴かせることを目的としており、かつ本件店舗の「音楽を楽しめるレストラン」としての雰囲気作りの一環として行われているものと認められる。そうすると、ピアノ演奏は、1審被告が管理し、かつこれにより利益を上げることを意図し、現にこれによる利益を享受しているものということができるのであって、上記認定のとおり、特定の演奏者が定期的に出演していること、出演の日時が特定されてホームページなどで対外的に公表され、したがって出演者はこれに拘束されると解されることなどからみて、1審被告の主張するように、これをレストラン営業とは無関係にアマチュアの練習に場所を提供しただけであると見ることはできない。
 1審被告は、客から演奏鑑賞料を徴収していないし、演奏者に演奏料を支払ってもいないとも主張するが、そうであるとしても、1審被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り、現にそれによる利益を得ているものと評価できるから、1審被告の主観的意図がいかなるものであれ、客観的にみれば、1審被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し、かつ、その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである。
 以上によれば、本件店舗でのピアノ演奏の主体は、本件店舗の経営者である1審被告であるというべきである。
(2) ライブ演奏について
ア 本件店舗が主催するライブについては、前記2(1)イ(イ)bのとおり、本件店舗が最終的に企画し、客からライブチャージを徴収した上で、演奏者等に演奏料を支払うのであるから、その演奏は本件店舗の管理の下に行われるものと評価でき、またそれによる損益は本件店舗に帰属するものであったといえる。したがって、この形態のライブ演奏の主体は、本件店舗の経営者である1審被告であることが明らかである。
イ 第三者が主催するライブについて
 この形態のライブは、プロの演奏者又は後援会からライブ開催の申込みにより行われ、演奏者が自ら曲目の選定を行い、ちらし等を作り、雑誌に掲載して広告し、チケットを作って販売し、ライブチャージを取得するのであって、本件店舗は、従業員が客からのライブチャージ徴収事務を担当し、例外的に予約を受け付けることがある以外、何らの関与もせず、演奏者等から店舗の使用料等を受領せず、演奏者に演奏料も支払われないのであるから、本件店舗は、ライブを管理・支配せず、基本的に、ライブ開催による直接の利益を得ていない。他方、本件店舗のコンセプトに照らすと、本件店舗は、このようなライブを店の営業政策の一環として取り入れ、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していた可能性も否定できないが、ライブ開催と来店者及び収益の増加との関係は必ずしも明らかではなく(ライブ開催時の飲食物提供は通常より簡素であると認められる。2(1)イ(イ)c)、仮に一定程度の利益が生じるとしても、管理著作物の利用主体を肯定することにはならない。そうすると、このような形態のライブで、本件店舗(1審被告)が、演奏を支配・管理し、演奏による営業上の利益の帰属主体であるとまではいうことができず、管理楽曲の演奏権を侵害したとは認められない。
 そして、上記認定のライブのうち、本件店舗開店時のライブ(平成13年5月30日から同年6月2日)及び2周年謝恩イベントのライブ(平成15年5月30日)は、その性格上、1審被告の主催によると認めるべきであるが、それ以外のものは、1審被告の主催と認めるだけの事由があるとはいえず、これを認めるに足りる証拠がない。当審証人Pによれば、F HOMETOWN LIVE(平成18年6月17日)では、本件店舗に対し3万円程度の使用料が支払われたことが認められるが、この使用料にはドリンク代が含まれていることが同証言により認められるから、上記認定を覆すに足りない。

(3) 貸切営業における演奏について
 前記2(1)イ(ウ)において認定したとおり、貸切営業において、1審被告は、場所及び楽器、音響装置及び照明装置を提供しており、本件店舗における演奏を勧誘しているのであるが、結婚披露宴や結婚披露宴の二次会、各種パーティー等において、招待客や参加者が本件店舗内において管理著作物をピアノで演奏したり歌唱したとしても、そもそも演奏するか否か、さらにいかなる楽曲を演奏するか、備付けの楽器を使用するか否か、音響装置及び照明装置の操作等について上記招待客等の自由に委ねられているものであり、その演奏形態は一様ではないといえる。
 また、前記認定事実のとおり、本件店舗のウェブサイトには、貸切営業の際に通常営業も行うこともできるとの記載があるが、本件において提出された証拠によっては、貸切営業が実際にいかなる場合に通常営業と並行して行われているのかは明らかではなく、むしろ多くの場合、貸切営業においては本件店舗を訪れる不特定多数の客ではなく、専ら当該結婚披露宴の二次会などの招待客に聴かせることを目的とするものであることが認められる。これらの事情にかんがみれば、貸切営業における招待客や参加者が行う演奏行為は、1審被告によって管理されていると認めることはできず、むしろ1審被告とは無関係に行われる場合が多いと認められ、また、1審被告がその演奏自体を不特定多数の客が来訪する店の雰囲気作りに利用するなどして、これによる収益を得ているとは認められない。
 したがって、貸切営業における演奏については、管理著作物の利用主体は本件店舗の経営者たる1審被告であると認めることはできない。
 証拠(甲53、56ないし59、1審被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗において、平成18年4月29日に行われた結婚披露宴の二次会、同年6月18日に行われた「サッカーワールドカップ第2回観戦会」、同月23日に行われたバンド発表会、同年7月1日に行われたピアノ教室発表会、同月16日に行われた結婚披露宴の二次会は、いずれも貸切営業であると認められ、上記のとおり、貸切営業における管理著作物の利用主体は1審被告とは認められないから、これらの営業における管理著作物の演奏は、1審被告による管理著作物の著作権侵害行為には該当しない。
(4) 小括
 以上によれば、本件店舗におけるピアノ演奏及び本件店舗主催のライブ演奏については、1審被告による演奏権侵害の余地があるが、第三者主催のライブ演奏及び貸切営業では演奏権侵害が認められない。
(5) 控訴審における当事者の主張について
 1審原告は、貸切営業における顧客の演奏は、1審被告による演奏の勧誘、楽器等の備え置き・管理による演奏の勧誘と支援、演奏の時間的空間的制約の下に行われるから、その管理の下にあり、また、1審被告は、顧客の演奏により、雰囲気の醸成及びこれを好む顧客の来集を図っている等と主張する。
 しかし、本件店舗の貸切営業における演奏の勧誘は、1審原告の主張によっても、ホームページやパンフレット等及び楽器等の備え置き等による一般的・抽象的なものにすぎず、来店した顧客に対する積極的な働きかけを認めるに足りる証拠はないし、演奏の時間的空間的制約も、1審被告の管理を根拠付けるものとはいえない。また、本件店舗を結婚披露宴等で利用する顧客が、1審原告の主張する勧誘をどの程度重視しているかも明らかでなく、上記認定のとおり、貸切営業では、演奏するか否か、いかなる曲を演奏するか等が完全に顧客の自由に委ねられていて、音楽が全く演奏されない場合もあり得る上、このような会では、参加者は音楽演奏の有無にかかわらず参集するものと解されるから、顧客による音楽演奏が、1審原告の主張するような雰囲気の醸成及びこれを好む顧客の来集に資するかは疑問の余地が大きい。

 よって、1審原告の上記主張は採用できない。
4 争点4(本件店舗における演奏に著作権法38条1項が適用されるか否か。)について
(1) 管理著作物であっても、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に演奏することができるが、実演家に対し報酬が支払われる場合はこの限りではない(著作権法38条1項)。しかし、本件店舗におけるピアノ演奏については、前記3(1)において説示したとおり、1審被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図っているものと評価できるから、営利を目的としないとはいえない。なお、1審原告が主張する平成17年5月31日の「Dライブ」、平成18年6月17日のライブ及び貸切営業(原判決「事実及び理由」中第3の2【1審原告の主張】(1)のケ、シ、ス、ソ、タ、チ)における演奏及び「サッカーワールドカップ第2回観戦会」における演奏(同セ)は、前記3(2)(3)のとおり、1審被告が演奏主体となって管理著作物を使用しているものとは認められないから、これを前提とする同条項の適用の有無は検討するまでもない。
 よって、本件店舗における管理著作物の上記演奏が著作権法38条1項に該当するとの1審被告の主張は理由がない。
 そして、原判決「事実及び理由」中第2、1(4)ウに認定のとおり、1審被告は、本件店舗における管理著作物の利用について1審原告の許諾を受けていなかったから、本件店舗におけるピアノ演奏及び本件店舗主催のライブ演奏で管理著作物を利用することは、1審原告の管理著作物の著作権を侵害するものであることが明らかである。
(2) 控訴審における当事者の主張について
 1審被告は、著作権法38条1項は、非営利行為を著作権侵害に当たらないとするものであり、営利行為とは金銭の授受を伴う有償行為をいうと主張する。
 しかし、同項は、同法22条が著作権の支分権として上演権・演奏権を規定することを前提に、「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名目をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」と定めるから、演奏に営利目的があれば、聴衆から料金を受けず、又は実演家に報酬が支払われない場合でも、同項の対象外であることは文言上明らかである。そうすると、「営利を目的」とするとは、演奏が直接的に対価(金銭の授受等)を伴わず、間接的に営利を目指している場合をも含むと解するほかない。よって、1審被告の上記主張は失当である。

5 争点5(差止めの必要性)について
(1) 前記前提となる事実、証拠(甲18、20ないし22、28、69、70、1審被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件仮処分事件申立てまでに至る経緯
 1審原告大阪支部職員は、平成13年6月5日に、本件店舗にいた従業員に対して、音楽著作物利用許諾契約の締結を申し入れ、同月6日に音楽著作物利用許諾契約の申込書等の書類を送付した。
 その後、平成15年7月に、1審原告大阪支部職員は、本件店舗に電話連絡をし、対応した従業員に、本件店舗内における生演奏について1審原告の許諾を得るように説明をし、1審被告は同従業員を通じて1審原告の説明内容を聞いた。
 平成16年5月14日、1審原告は、本件店舗宛てに督促文書を送付し、1審被告は、同月20日、書面を郵送した。1審被告は、同書面において、本件店舗のオーナーであるが経営者ではない、無償でステージを提供しているにすぎないのに著作権侵害になるのか、と記載していた。
 その後、1審原告大阪支部職員は、1審被告に対して電話で利用許諾契約を締結するよう申し入れるなどしていたが、1審被告は、1審原告に宛てた同年6月3日付けの書面においても、利用許諾契約の締結を拒絶した。1審原告の同年9月8日付けの警告書が送付されたのを受けて、1審被告は、同月17日付けの書面で管理著作物の使用料を支払う義務があるのは1審被告が招聘したライブの場合で奏者が同使用料を支払っていない場合に限られると理解しているとの書面を送付し、現時点では包括的利用許諾契約を締結する意向はないとの趣旨の書面を送付した。
 1審原告は、平成16年10月14日、大阪地方裁判所に本件仮処分事件を申し立てた。
イ 本件仮処分申立て後の1審被告の対応
 1審被告は、本件仮処分事件においても、本件店舗における生演奏の利用主体性について争ったほか、著作権法38条1項の適用を主張し、さらに演奏されていた楽曲は管理著作物ではないと主張していた。また、平成17年2月23日の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗においては管理著作物以外の楽曲のみを演奏すると主張した。
 平成17年4月6日に、本件仮処分決定が発令され、同月15日、同仮処分が執行された。
 1審被告は、保全異議を申し立て、同月25日、本件仮処分決定を一部変更する仮処分異議決定がなされると、同月30日、大阪高等裁判所に対して保全抗告を申し立てた。
 また、1審被告は、平成17年5月20日ころ、本件店舗内にインターネット対応の音声付き監視カメラを設置し、その上で、1審原告に対してそのユーザー名及びパスワード等を開示し、1審原告が本件店舗内でのステージ演奏の様子を見ることができるようにした。
 1審被告は、本件仮処分事件の平成17年2月23日の審尋期日に、本件店舗における演奏に管理著作物を使用しないと述べていたが、その後、ライブの出演者等が1審原告から管理著作物の利用許諾を得たことを書面で確認するなどの措置は執っておらず、演奏された楽曲が管理著作物であるか否かも十分に調査してはいなかった。
 1審被告は、平成17年2月23日以降、ピアノリクエストを中止し、その後、ピアノ弾き語り、ピアノBGMも中止した。1審被告は、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗において管理著作物は演奏しないという意思を表明し、本件仮処分事件以降の各手続を通じてそれを根拠に保全の必要性がないと主張してきたが、前記認定のとおり、プロ歌手によるライブは引き続き開催され、その際には管理著作物の演奏もなされている。
(2) 請求の趣旨第1項の差止請求に関する差止めの必要性について
 上記認定事実及び前記2(1)のとおり、本件店舗は、そのウェブサイトに「ジャズやボサノバを中心にここちよい音楽を楽しみながら、お食事やお酒を味う贅沢な空間です。」とし、「Cのコンセプト」を「音楽を愛するすべての人に心から楽しんでいただく素敵な空間です。」と明示して営業しているレストランカフェであり、1審原告が行った実態調査によれば、演奏されていた楽曲のほとんどが管理著作物であった。1審被告は、平成17年2月23日の本件仮処分事件の審尋期日において、本案訴訟による解決がなされるまでの間、本件店舗では管理著作物を演奏しないことを表明したが、これも本件の終局判決が言い渡されるまでの間の措置として管理著作物を演奏しない旨を表明しているにすぎないものであることが、その主張の趣旨に照らし明らかであり、その後の対応については態度を明らかにしていない。
 これらの状況に加えて、1審原告の管理著作物である日本国内外の楽曲は、1審原告によれば460万曲以上にも及ぶこと(甲18)からすると、1審被告は、将来においてなお本件店舗において管理著作物を演奏するおそれがあるというべきである。
 したがって、請求の趣旨第1項については、本件店舗における「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、本件店舗主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏について、ピアノ、ウッドベース、ドラムセット、パーカッション、ギター、ベース等の楽器演奏及び歌唱による管理著作物の使用差止めの請求は、理由があるが、第三者主催のライブ演奏・貸切営業については、上記3(2)(3)に認定説示のとおりであるから、差止めの対象とならない。
(3) 請求の趣旨第2項の差止請求に関する差止めの必要性について
 証拠(甲6、8、10の各1・2)によれば、本件店舗におけるピアノ演奏で演奏された楽曲のほとんどは管理著作物であったことが認められるから、本件店舗に備え置かれたピアノは、主として1審原告の演奏権を侵害する管理著作物の無断演奏に使用されていたと認められる。もちろん、ピアノは、本来、管理著作物以外の楽曲の演奏の用にも供し得るものではあるが、現実の使用態様が主として管理著作物の無断演奏に供されるもので、その状態が今後も継続するおそれがある場合に、1審原告がその撤去を求めることは、本件店舗における1審被告による演奏権の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当する(著作権法112条2項)。
 前記(1)のとおり、たとえ1審被告が現時点においてはピアノリクエスト、ピアノ弾き語り及びピアノBGMを中止していたとしても、今後、これらの演奏が再開されれば管理著作物が無断で演奏されるおそれがあることは否定できない。よって、ピアノについては、請求の趣旨第2項の差止請求を認める必要がある。
 他方、1審原告が撤去を求めるその他の楽器、すなわちウッドベース、ドラムセット、ギター、パーカッション、ベースについては、ライブ奏者であれば自ら使用する楽器を持参し、本件店舗備え付けの楽器は使わない場合も多いと推認され、また、これらの楽器が貸切営業においても使用される可能性が否定できず、専ら著作権侵害の行為に供された機械又は器具であるとまでは認めることができない。
 ミキサー、アンプ、マイクなどの音響装置については、ピアノ演奏、本件店舗主催のライブ、貸切営業のいずれの演奏態様においても用いることがあるものである。そして、貸切営業の営業日数は、月によっては1か月に7日ある場合もあり(甲36)、営業日数全体に占める割合がわずかであるとまでいうことはできない。また、上記のとおりピアノの撤去請求が認められ、かつ、後記のとおりピアノを含むその他の楽器の搬入禁止請求が認められる(ただし、第三者主催のライブ及び貸切営業を除く。)ことによれば、ライブの出演者がこれらの楽器を持ち込むことも禁止されるのであるから、1審被告による著作権の侵害行為の予防の観点からも、1審被告による管理著作物の利用行為に当たらない貸切営業にも使用され得る音響装置の撤去まで命じる必要はないというべきである。
 よって、請求の趣旨第2項のうち、本件店舗にピアノの撤去を求める部分は理由がある。
(4) 請求の趣旨第3項の差止請求に関する差止めの必要性について
 前記(1)のとおり、1審被告は、1審原告が再三にわたって音楽著作物利用許諾契約の締結を促しても、これに応じなかったばかりか、自ら本件店舗においては管理著作物は演奏しないという方針を明らかにした後も、管理著作物の演奏を継続してきたものである。このような経緯に照らせば、1審被告が判決により管理著作物の使用を差し止められても、これに従わず、また、ピアノを撤去されても、ピアノその他の楽器を搬入して、管理著作物の使用を継続するおそれが高いものといわざるを得ない。
 ただし、マイク等の音響装置の搬入禁止を求める部分は、上記(3)のとおりマイク等の音響装置の撤去を禁じていない以上、搬入禁止を命じる必要はないというべきである。
 よって、請求の趣旨第3項のうち、本件店舗に「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、本件店舗主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏においてピアノその他の楽器の搬入禁止を求める部分は理由があるが、第三者主催のライブ、貸切営業については理由がない。
(5) 控訴審における当事者の主張について
 1審被告は、ピアノ弾き語り等による演奏曲目を非管理楽曲に限定し、あるいはこれを中止し、主催するライブで演奏される曲も非管理楽曲に限定してきた旨主張する。
 しかし、1審原告の管理著作物が460万曲に及ぶこと及び上記認定に係る本件店舗のコンセプト、音楽的傾向にかんがみると、店内のピアノ演奏や主催ライブでの演目を将来にわたって非管理楽曲に限定することは現実的とは解されず、現に、上記認定のとおり、1審被告が平成17年2月13日に上記と同旨を表明した後も、本件店舗で管理著作物が演奏されたことが認められる。

6 争点7(消滅時効の成否)について
 事案の内容にかんがみ、争点6に先立ち、争点7について判断する。
(1) 甲第69号証によれば、1審被告は本件店舗のオーナーとして週末には本件店舗にも立ち寄っていたことが認められ、同事実によれば、1審被告は、遅くとも平成13年6月末日までには、本件店舗における管理著作物の使用が著作権の侵害に当たることを認識していたものと認めるのが相当である。
 したがって、1審被告は、本件店舗における管理著作物の著作権侵害につき、故意又は過失があったから、1審原告に対して、使用料相当額の損害賠償義務を負うものである。
 他方、証拠(甲18、23)及び弁論の全趣旨によれば、平成13年5月18日及び同年6月1日に発行された「わかやま新報」に、本件店舗を紹介する記事が掲載され、1審原告は、これにより1審被告が本件店舗を開店したことや、本件店舗において生演奏が行われること等の事実を確認し、同月5日に1審原告大阪支部職員が本件店舗に電話連絡をして、応対に出た男性従業員に対し、本件店舗内で行われる生演奏について1審原告の許諾を得て適法に音楽を利用するため音楽著作物利用許諾契約の締結が必要であることを説明し、同月6日には同契約の締結のために必要な申込書等手続書類一式を送付したことが認められる。したがって、1審原告は、本件店舗の開店当初から、損害賠償請求が事実上可能な程度に1審被告による管理著作物の著作権侵害行為を知っていたものと認められる。
 そして、証拠(甲25、26)によれば、1審原告は、1審被告に対する平成13年5月30日から平成17年4月14日までの間の本件店舗において管理著作物の著作権を侵害したことによる損害賠償請求権を被保全権利として、1審被告が持分10分の9の割合で所有する不動産に対して大阪地方裁判所に仮差押申立てをしたところ、同裁判所は、平成17年7月11日、110万円の担保を1審原告に立てさせて仮差押決定を発令し、さいたま地方法務局北埼出張所平成17年7月13日受付第8327号により仮差押えの登記が完了したことが認められる。上記被保全権利は本件訴訟における請求中、上記期間における損害賠償請求に係る請求権と同一であるから、その消滅時効は、平成17年7月13日をもって中断し、その効力は現在も継続している(最高裁平成10年11月24日第三小法廷判決・民集52巻8号1737頁)。そうすると、上記被保全権利中、平成14年7月12日以前に生じた損害賠償請求権は上記時効中断前に時効期間が経過することにより時効消滅したが、同月13日以降に生じた損害賠償請求権はいまだ時効により消滅していないことになる。

 以上のとおり、1審被告は、1審原告に対し、平成14年7月13日から平成18年6月17日までの間の本件店舗における著作権侵害行為に関しては、不法行為に基づく使用料相当額の損害賠償義務を負うものである(著作権法114条3項)。
(2) 平成13年5月30日から 平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為については、消滅時効が成立したことにより、不法行為に基づく損害賠償請求は認容されないから、その範囲で、予備的請求である1審被告に対する不当利得返還請求の可否について判断するに、1審被告は、上記期間中、1審原告の許諾その他何らの法律上の原因なく、管理著作物を本件店舗の営業に利用して使用料相当額の利益を受け、1審原告に同額の損失を及ぼしたものである。したがって、1審被告は、1審原告に対し、同額の不当利得返還義務を負うものというべきである。
7 争点6(損害額又は不当利得額)について
(1) 管理著作物1曲当たりの使用料
ア 証拠(甲3、4、60)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 使用料相当の損害額の請求始期である平成13年5月30日時点では、1審原告が文化庁長官から平成12年12月18日に認可を受けた「著作物使用料規程」が適用される。本件店舗は、同使用料規程の「第2章 著作物の使用料率に関する事項」、「第2節 演奏等」、「5 社交場における演奏等」の「(2) 使用料の適用区分」のうち「業種4 レストラン、グリルなど料理の提供を主たる目的とするもの」に該当し、標準単位料金(社交場をその営業の目的に従って利用する場合に客1人当たりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額をいい、著作物使用料規程取扱細則に基準が定められている。)は5000円までに該当するから、生演奏又はカラオケ伴奏による歌唱での管理著作物1曲1回5分までの使用料は、同使用料規程の別表16の1により、座席数が40席であれば90円、80席であれば140円に消費税相当額を加算した額であると認められる。なお、同使用料規程の「5 社交場における演奏等」には「(生演奏等)H 1曲1回の使用時間が5分を超え10分までの場合の使用料は、使用時間が5分までの場合の使用料の2倍の額とする。」旨が規定されている。
 なお、平成13年10月2日、著作権等管理事業法の施行に伴い、1審原告が同法に基づいて定め、文化庁長官に届け出た「使用料規程」においても、本件店舗は、同使用料規程の「第2章 著作物の使用料」、「第1節 演奏等」、「5 社交場における演奏等」の「(2) 使用料の適用区分」のうち「業種4 レストラン、グリルなど料理の提供を主たる目的とするもの」に該当し、標準単位料金5000円までに該当するから、同使用料規程の別表16の1により、生演奏又はカラオケ伴奏による歌唱での管理著作物1曲1回5分までの使用料は、座席数が40席であれば90円、80席であれば140円に消費税額を加算した額であると認められる。同使用料規程の「5 社交場における演奏等」には、「(生演奏等)H 1曲1回の利用時間が5分を超え10分までの場合の使用料は、利用時間が5分までの場合の使用料の2倍の額とする。」旨が規定されている。また、「(歌曲)D 歌曲において楽曲に著作権がない場合又は本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」、「E 歌曲において歌詞が本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」とも規定されている。なお、1審原告においては、歌詞において著作権がない場合にも、上記「E」と同様の取扱いをしている。
イ 平成13年10月2日届出の使用料規程の「5 社交場における演奏等」の「(座席数及び面積)」には、「@ 座席数とは、社交場に設備されている客席の総数をいう。」と定められているところ、1審被告は、本件店舗の座席数は、平成16年3月末ころまでは1階に23席、2階を合わせても35席しかなく、かつ、2階は客席ではなく、1審被告とスタッフらの控え室であったと主張し、同時期までの間の使用料相当額は、座席数が40席未満の場合であることを前提として算定すべきであると主張する。
 確かに、本件店舗を紹介するウェブサイトの店内の透視図には、1階に4人座れる角テーブルが4個、2人座れる丸テーブルが2個、2階に角テーブルが3個描かれており(甲14の3ないし7)、このテーブル数を単純に基礎とすれば、座席数は32個ということになる。しかし、証拠(甲5、6、8、9、10、52の各1)及び弁論の全趣旨によれば、1審原告が行った実態調査の結果、@平成15年5月30日の実態調査では、43席(1階31席、2階12席)、A平成16年3月12日の実態調査では、45席(1階33席、2階12席)、B平成16年4月15日の実態調査では45席(1階33席、2階12席)、C平成16年7月10日の実態調査では、1階だけで39席あることが確認され、2階には10名程度の団体客が着席していた、D平成16年7月17日の実態調査では、1階だけで36席あることが確認された上、2階には1審被告とその親族らが着席していたこと、E平成16年7月26日の実態調査報告書には、「席数」として42席と記載され、店内見取図には44席(1階34席、2階10席)ある旨記載されていることがそれぞれ認められ、これらによれば、いずれも40席を超えていることになる。また、本件店舗開店当時の「わかやま新報」には、「六十人が座れる収容力も魅力。」と記載されていること(甲23)によれば、本件店舗の座席数は、開店当時からほぼ現在と同数であったと認められる。
 1審被告は、1審被告本人尋問において、平成17年8月に角テーブルを追加購入したと供述するが、平成16年4月に座席数が増えたという主張と整合しない供述であるほか、平成15年5月30日の実態調査においてすら角テーブルは1階と2階合わせて8個ある旨記載されており(甲5の1)、その後の実態調査においても角テーブルが8個を超える数だけ設置してあるとの調査報告がなされたことはあっても(甲11、52の各1)、7個に減ったとの調査報告がなされたとは認められない。また、座席数は、使用料相当額を決定する要素であるからこそ、調査報告書にも座席数を書くための欄が設けてあるのであり、複数の調査報告書において40席を超える座席数が記載されていることによれば、その信用性を肯定すべきであり、1審被告の主張は採用できない。
 1審被告は、1審原告が1審被告に送付した平成15年6月13日付け送付文書(甲68)に本件店舗の座席数が「40席まで」と記載されていたことも、本件店舗の座席数が40席以下であったことの根拠として主張しているが、当時はまだ実態調査が十分なされていない時期であり、このような状況下で計算根拠等を控え目にして請求することは十分あり得ることであるから、同文書の記載をもって、本件店舗の座席数が40席以下であったと認めることはできない。
 なお、1審被告は、2階は客席ではなかったとも主張するが、1審被告のウェブサイトにおいても2階が客席として利用できる旨記載されており(甲14の3・6 、客に対) して2階は使用できないとの表示がされていたこともないこと(1審被告本人供述)によれば、1審被告の主張は採用できない。
ウ また、1審被告は、上記使用料規程に記載されている使用料金は、現実に通用している使用料金ではないから、実際に1審原告が徴収しているレストランにおける生演奏の包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を上限とすべきであると主張する。
 1審被告の上記主張は、雑誌(週刊ダイヤモンド2005年9月17日号)に掲載された1審原告に批判的な記事(乙2)に基づくものであると解され、なるほど同記事には「だが、実際の使用料は必ずしも規定どおりではない。月に2万円払っている店もあれば、2200円の店もある。なぜか1年間で8000円という格安契約を結んでいる店もある。いったいどういう基準で使用料が決められているのか。店主やオーナーに対する明確な説明はない。」との記載がある。しかし、同記事では取材対象や取材方法が明らかにされておらず、具体的な裏付けを有するかどうかが明らかではないから、同記事内容を容易に信用することはできない。また、仮にそのような事例があったとしても、そのような使用料規程に基づかない使用料とされた具体的事情も上記記事からは一切明らかではないから、これをもって直ちに上記使用料規程が一般的、現実に通用している使用料金ではないと断定できるものではない。したがって、本件において1審被告が管理著作物を使用したことによる使用料相当額を上記使用料規程に基づいて算定することが相当でないとはいえない。
エ さらに、1審被告は、1審原告が平成15年6月13日付け送付文書(甲68)において、1曲1回利用時間5分ごとの使用料ではなく、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を請求したことを根拠に、少なくとも当該請求の対象となった期間については、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料を前提に、使用料相当額を算定すべきであると主張する。
 しかし、1審被告は1審原告と包括的利用許諾契約を締結していないから、1審原告が1曲1回利用時間5分ごとの使用料相当額と包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料相当額との差額について債権放棄をしない限り、その支払を免れるものではないところ、1審被告の主張事実のみをもって、1審原告が1審被告に対し上記債権放棄をしたとは認められず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。そうである以上、損害金のうち一部を請求するか、全部を請求するかは債権者である1審原告の自由であって、損害金のうち一部を請求したことがあったからといって、損害金全部の請求ができなくなるとする根拠はない。また、包括的利用許諾契約を締結した場合には、1曲1回の使用料を算定する場合に比べて低額になることは、使用料徴収の便宜を考慮すれば合理性があるというべきであり、同契約を締結していない1審被告による管理著作物の利用行為について、包括的利用許諾契約を締結した場合の使用料相当額を適用する理由はない。したがって、1審被告の上記主張は理由がない。
オ なお、1審被告は、消費税相当の損害金は認めるべきでないとも主張する。前記使用料規程には、消費税相当額を加算した額を使用料とする旨規程していることは前記のとおりであるところ、消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等を課税の対象とするものであり(消費税法4条)、ここにいう「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう(同法2条1項8号)のであり、著作権侵害による使用料相当損害金は、その実質は著作物の(無断)使用料に相当するものであるから、資産の譲渡等の対価に相当するというべきである(消費税基本通達5−2−5(損害賠償金)参照)。したがって、1審原告の被った使用料相当損害金に消費税相当額も含めるのが相当であり、これに反する1審被告の主張は採用できない。
(2) 使用料相当損害金又は不当利得金の額
 各演奏態様における演奏日数1日当たりの管理著作物の演奏曲数は、前記2(3)認定のとおり、@ピアノ弾き語り・ピアノBGMについては、平成14年1月ないし平成14年12月までは1日当たり5曲、平成15年1月から平成17年2月までは1日当たり15曲、Aピアノリクエストについては、1日当たり少なくとも20曲、Bライブについては、1日当たり10曲の管理著作物が演奏されたと認められる。
ア 平成13年5月30日、同月31日、同年6月1日及び同月2日の使用料相当額
 上記営業日に本件店舗においてライブが開催されたので、下記計算式により使用料相当損害額は5880円である。
 140円×10曲×4×1.05(消費税率)=5880円

イ 平成14年1月の使用料相当額
 平成14年1月の使用料相当損害額は下記計算式により4410円である。
 140円×5曲×6日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕×1.05=4410円

ウ 平成14年2月から平成14年10月までの使用料相当額
 上記期間の使用料相当損害額は下記計算式により3万9690円である。
 140円×5曲×6日〔ピアノBGM演奏日数〕×1.05×9か月=3万9690円

エ 平成14年11月から平成15年9月までの使用料相当額
 上記期間の使用料相当額は下記計算式により51万5970円である。
(ア) ピアノBGM
 140円×5曲×12日〔演奏日数〕×1.05×2か月=1万7640円
 140円×15曲×12日〔演奏日数〕×1.05×9か月=23万8140円
(イ) ピアノリクエスト
 140円×20曲×8日〔演奏日数〕×1.05×11か月=25万8720円
(ウ) ライブ
 140円×10曲×1.05=1470円

オ 平成15年10月から平成17年1月までの使用料相当額
 上記期間の使用料相当額は下記計算式により102万4590円である。
(ア) ピアノ弾き語り及びピアノBGM
 140円×15曲×21日〔演奏日数〕×1.05×2か月=9万2610円
 140円×15曲×18日〔演奏日数〕×1.05×14か月=55万5660円
(イ) ピアノリクエスト
 140円×20曲×8日〔演奏日数〕×1.05×16か月=37万6320円

カ 平成17年2月の使用料相当額
 平成17年2月の使用料相当損害額は下記計算式により6万6885円である。
 (140円×15曲×21日〔ピアノ弾き語り及びピアノBGM演奏日数〕+140円×20曲×7日〔ピアノリクエスト演奏日数〕)×1.05=6万6885円

キ 合計額
 上記アないしカの合計額は、165万7425円である。
(3) 弁護士費用
 弁論の全趣旨によれば、1審原告は、弁護士に仮処分手続及び本件訴訟の追行を委任せざるを得なかったものと認められ、前記5(1)イの仮処分手続等の経緯、本件訴訟の事案の性質、審理の経過等にかんがみると、1審被告による著作権侵害と相当因果関係のある損害としての弁護士費用相当額は、25万円をもって相当と認める。
(4) また、不法行為に基づく損害賠償請求に対する附帯請求(債務不履行に基づく遅延損害金)は、すべて演奏日の存する月の翌月の1日(不法行為の後の日)を起算日とするものであるから、いずれも理由がある。
 また、前記認定事実及び1審被告が本件店舗のオーナーとして週末には本件店舗に立ち寄っていたこと(甲69)によれば、1審被告は平成13年6月末日までには、本件店舗における管理著作物の演奏等に1審原告の許諾が必要であることを認識していたものと認められるから、遅くとも同年7月1日以降の本件店舗における管理著作物の演奏による同使用料相当額の不当利得については、悪意の受益者(民法704条)に当たると認められる。それ以前のライブ演奏に関する管理著作物使用料相当額に関する不当利得返還債務についても、同日以降は、返還すべきことについて悪意となったと認められるから、平成13年6月末日までの演奏に関する著作物使用料相当額の不当利得返還債務についての利息(民法704条)は、同年7月1日に発生したものである。
 よって、平成13年5月30日及び同月31日のライブ演奏に関する利息請求は、同年7月1日を起算日とする限度で理由がある。1審原告のその他の利息請求は、すべて演奏日の存する月の翌月の1日(不当利得の後の日)を起算日とするものであるから、いずれも理由がある。
(5) 控訴審における当事者の主張について
ア 1審被告は、1審原告が、1審被告に対する通知で、過去の使用料を支払えば将来の使用料は包括契約を締結せずともその基準による旨述べたと主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。甲68は、過去の使用料相当額を支払わないと、包括的許諾契約を締結することができず、したがって優遇使用料の適用を受けられないという趣旨であることが文面上明らかである。なお、乙72によれば、1審原告が、和歌山市内の「Q」という名称の店舗(座席数20席、標準単位料金3000円、月間演奏時間10時間まで)と、期間使用料1万2000円(契約期間平成19年10月1日から平成21年6月30日まで)で包括的利用許諾契約をしたことが認められるが、甲83、甲84によれば、この契約は、使用料規程に定める少量利用店舗に関する規定に基づくものであることが認められるから、これをもって本件店舗の事例と比較するのは相当でないし、仮に上記契約が不当ないし本件店舗と対比して不均衡があるとしても、この一例をもって本件店舗に関する取扱いの適否を論ずることはできない。
イ 1審被告は、著作権法114条3項は著作権侵害に関し不当利得返還請求を排除するものである旨、使用料相当損害金債権があるから不当利得はない旨、同項は損害額の上限を定めたものである旨、1審原告が請求できるのは同項所定の損害額から著作権者(信託者)に支払う金額を控除した額である旨、それぞれ主張するようである。
 しかし、同項は、著作権侵害に対する損害賠償を請求する者の立証の困難を緩和するための規定であって、権利者が、民法709条に基づき損害額を別途立証して請求することを妨げる趣旨ではないし、民法709条ないし著作権法114条3項に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求とはいわゆる請求権競合の関係に立ち、いずれかが他方を排斥することはない。また、1審原告は、著作者等から著作権の信託譲渡を受けた者であり、著作権者そのものとして権利を行使できるから、信託者に対して支払うべき額を含めた損害額全部を侵害者に請求することができ、信託者に対する支払の有無もこれを左右しない。よって、1審被告の上記主張はいずれも失当である。
ウ 1審被告は、従前、演奏場所の無償提供は非営利行為だから著作権法38条1項により著作権侵害に当たらないと考えており、したがって悪意ではなかった旨主張する。しかし、1審被告の行為に同項の適用が認められない場合、1審被告は、同項の適用があるとの認識を有し、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら著作物を利用した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される(最高裁平成19年7月13日第二小法廷判決・判例時報1984号26頁参照)。そして、本件で上記特段の事情に当たる事実の主張立証はないから、1審被告は悪意の受益者として同条所定の利息の支払義務を負う。
エ 1審被告は、使用料規程は歌唱を伴わずに歌曲を演奏した場合、歌唱を伴う場合の半額として算定すべき旨主張する。しかし、使用料規程第2章第2節5のうち(社交場における演奏等の備考)Dは「歌曲において楽曲に著作権がない場合又は本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」と、同Eは「歌曲において歌詞が本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の6/12の額とする。」とそれぞれ定め、歌曲の歌詞・楽曲とも1審原告が管理する場合を定めた規定はないから(甲3、甲4)、このような場合は本来の1曲の使用料を徴収する趣旨と解される。したがって、1審被告の上記主張は失当である。
オ なお、1審被告は、1審原告が、著作権侵害行為を長期間放置・黙認した後に高額な損害賠償請求を突きつけて包括契約を締結するという営業方法をとっており、これは独占禁止法19条の不公正な取引に当たると主張する。
 しかし、上記5(1)で認定した経緯によれば、1審原告は、1審被告に使用料の支払や許諾契約の締結を求め、同人がこれに応じなかったために仮処分及び本件訴訟に至ったと認められるのであり、不公正な取引と評価すべき事情は認められない。よって、1審被告の上記主張は失当である。

8 結論
(1) 1審被告は、本件店舗におけるピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMにおける演奏、1審被告主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、管理著作物を使用して著作権侵害行為を継続しており、将来においても著作権侵害行為がなされるおそれがあるから、その使用を差し止める必要があるというべきである。ただし、第三者主催のライブ及び貸切営業における演奏については1審被告を利用主体とする著作権侵害行為ということができず、また、その他の演奏態様があることについては1審原告は何ら主張・立証をしない。したがって、1審原告は、著作権法112条1項に基づき、1審被告に対し、本件店舗におけるピアノリクエスト、ピアノ弾き語りピ、 アノBGMにおける演奏、1審被告主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏による管理著作物の使用差止めを求めることができる。
(2) 前記5(3)のとおり、別紙物件目録記載の物件のうち、ピアノは、専ら管理著作物の演奏に使用されるものであるから、その撤去を求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当するというべきである。したがって、著作権法112条2項に基づき、1審被告に対し、本件店舗からのピアノの物件の撤去を求めることができる。
(3) 前記5(4)のとおり、本件店舗内にピアノその他の楽器類を搬入することの差止めを求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当するというべきである。ただし、第三者主催のライブ及び貸切営業においては、1審被告を利用主体とする著作権侵害行為がなされるものとは認められないから、1審原告は、著作権法112条2項に基づき、1審被告に対し、ピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMにおける演奏、1審被告主催の入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、それらの楽器の搬入の差止めを求めることができる。
(4) 前記6において判示したとおり、1審被告は、1審原告に対し、平成14年7月13日から、平成18年6月17日までの間の本件店舗における著作権侵害行為に関しては、不法行為に基づく使用料相当額の損害賠償義務を負い、平成13年5月30日から平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為については、不当利得返還義務を負うものである。
 したがって、1審原告の1審被告に対する、平成13年5月30日から平成14年7月12日までの間の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当額(本判決別紙利息・遅延損害金目録1ないし11の元本欄参照)の不当利得返還請求及び各月の使用料相当額(本判決別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員)に対する不当利得の後の日である各翌月1日(本判決別紙利息・遅延損害金目録の起算日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による利息請求は理由がある。なお、平成13年5月30日及び同月31日の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当合計額の不当利得返還請求に対する利息請求は、平成13年7月1日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による利息を請求する限度で理由がある。
 1審原告の1審被告に対する、平成14年7月13日から平成18年6月17日までの間の著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、同期間の本件店舗における著作権侵害行為についての使用料相当額(本判決別紙利息・遅延損害金目録11ないし42の元本欄参照)及び各月の使用料相当額(本判決別紙利息・遅延損害金目録の元本欄記載の各金員)に対する不法行為の後である各月翌月1日(本判決別紙利息・遅延損害金目録の起算日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 また、弁護士費用相当損害金については、25万円及びこれに対する平成17年10月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(5) よって、1審原告の請求は、本判決主文第1項記載の限度で理由があり、その余は棄却すべきであるから、原判決主文第1ないし第4項を本判決主文第1項記載のとおり変更し、主文第1項(1)(4)については仮執行宣言を付するのが相当であるからこれを付し、同(2)(3)については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 若林諒
 裁判官 小野洋一
 裁判官 久保田浩史
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